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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】半導体固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 49/00 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
H01L49/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018558077
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2017046002
(87)【国際公開番号】W WO2018117235
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2016247739
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
(72)【発明者】
【氏名】片岡 好則
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀一
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014128(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046325(WO,A1)
【文献】特開2015-195335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0224596(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02626909(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0270329(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02924798(EP,A1)
【文献】国際公開第2013/179471(WO,A1)
【文献】特開2017-182969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型半導体とP型半導体との間に第一の絶縁層を設けた、前記第一の絶縁層は膜厚が3nm以上30μm以下、かつ比誘電率が10以下であり、前記第一の絶縁層は金属酸化物、金属窒化物、絶縁性樹脂から選ばれる1種または2種以上であり、前記N型半導体または前記P型半導体は10 17 cm -3 ~10 22 cm -3 の範囲内の電子または正孔の捕獲準位を導入している半導体固体電池。
【請求項2】
前記第一の絶縁層は膜密度が真密度の60%以上である請求項に記載の半導体固体電池。
【請求項3】
前記N型半導体および前記P型半導体の少なくとも一方は、金属シリサイド、金属酸化物、アモルファスシリコン、結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンからなる群より選ばれる1種からなる請求項1又は2に記載の半導体固体電池。
【請求項4】
前記N型半導体は、前記N型半導体におけるバンドギャップを100としたとき、50以上90以下の範囲に前記電子の捕獲準位が導入されている請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の半導体固体電池。
【請求項5】
前記P型半導体は、前記P型半導体におけるバンドギャップを100としたとき、10以上50以下の範囲に前記正孔の捕獲準位が導入されている請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の半導体固体電池。
【請求項6】
前記N型半導体および前記P型半導体にそれぞれ電極が設けられている請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の半導体固体電池。
【請求項7】
前記N型半導体と前記電極との間に第二の絶縁層が設けられている、または前記P型半導体と前記電極との間に第三の絶縁層が設けられている、または前記N型半導体と前記電極との間に前記第二の絶縁層が設けられていると共に前記P型半導体と前記電極との間に前記第三の絶縁層設けられている請求項記載の半導体固体電池。
【請求項8】
前記第二の絶縁層および前記第三の絶縁層の少なくとも一方は膜厚が30nm以下、かつ比誘電率が50以下である請求項に記載の半導体固体電池。
【請求項9】
前記第二の絶縁層および前記第三の絶縁層の少なくとも一方の比誘電率が10以下である請求項に記載の半導体固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、半導体固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の普及、省エネの観点から電気を効率的に活用することが求められている。これに伴い、電気を充放電できる二次電池の開発が進められている。二次電池としては、Liイオン二次電池、鉛蓄電池、ニッケル水素蓄電池など様々なものが開発されている。例えば、特開2001-338649(特許文献1)にはLi複合酸化物を正極活物質に使ったLiイオン二次電池が開示されている。Liイオン二次電池は、小型化も可能であることから電気機器の電池として活用されている。
【0003】
一方、Liイオン二次電池は、電解液を介してLiイオンを出し入れする構造である。そのため、電解液を必須とした電池である。鉛蓄電池やニッケル水素蓄電池も同様に電解液を必須とした電池である。電解液が漏れると火災や爆発の原因となる。このため、Liイオン二次電池では、液漏れを起こさないように密閉構造をとっている。しかしながら、長期使用による劣化、電気機器の使い方、使用環境によって液漏れが発生してしまうといった問題が生じていた。
【0004】
このような液漏れによる不具合を無くすために半導体固体電池の開発が進められている。半導体固体電池はエネルギー準位に電子を捕獲し充電を行うものである。全固体の二次電池とすることができるため、電解液を使う必要がない。
【0005】
半導体固体電池としては、特開2014-154223(特許文献2)が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-338649号公報
【文献】特開2014-154223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の半導体固体電池は、充電層としての金属酸化物半導体と絶縁材料とを混合した薄膜を形成し、複数の電極の対を設けた構造となっている。特許文献2では、この構造により、出力電圧や放電容量の設計自由度の改善を図っている。
【0008】
しかしながら、更なる改善の要望があった。実施形態はこのような問題を解決するためのものであり、出力電圧や放電容量を改善した半導体固体電池を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態にかかる半導体固体電池は、N型半導体とP型半導体の間に第一の絶縁層を設けたことを特徴とするものである。第一の絶縁層は膜厚が3nm以上30μm以下、かつ比誘電率が10以下である。また、第一の絶縁層は金属酸化物、金属窒化物、絶縁性樹脂から選ばれる1種または2種以上である。N型半導体またはP型半導体は10 17 cm -3 ~10 22 cm -3 の範囲内の電子または正孔の捕獲準位を導入している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態にかかる半導体固体電池の模式図である。
図2図2は、実施形態にかかる他の半導体固体電池の模式図である。
図3図3は、実施形態にかかる一例の半導体固体電池の電子と正孔の移動を示す模式図である。
図4図4は、N型半導体層の準位位置を表す概念図である。
図5図5は、P型半導体層の準位位置を表す概念図である。
図6図6は、実施形態にかかる他の例の半導体固体電池の電子と正孔の移動を示す模式図である。
図7図7は、実施形態にかかるさらに他の例の半導体固体電池の電子と正孔の移動を示す模式図である。
図8図8は、実施例49の半導体固体電池の放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態にかかる半導体固体電池は、N型半導体とP型半導体の間に第一の絶縁層を設けたことを特徴とするものである。図1に実施形態にかかる半導体固体電池の模式図を示した。図中、1は半導体固体電池、2は第一の絶縁層、3はN型半導体、4はP型半導体、5は電極(N型側電極)、6は電極(P型側電極)、である。
【0012】
まず、N型半導体3とP型半導体4の間に第一の絶縁層2を設けている。第一の絶縁層2を設けることにより、N型半導体3およびP型半導体4にある電子と正孔が再結合することを抑制することができる。電子と正孔の再結合を抑制することにより自己放電が抑制される。これにより、蓄電容量を大きくすることができる。
【0013】
第一の絶縁層2の厚さは3nm以上30μm以下であることが好ましい。第一の絶縁層2の膜厚が3nm未満では絶縁層が薄すぎるため電子・正孔の再結合抑制効果が不十分である。一方、30μmを越えて厚いと、体積や重量が増大し、エネルギー密度(容量)や出力密度の低下につながる。このため、第一の絶縁層2の厚さは3nm以上30μm以下、さらには10nm以上1μm以下が好ましい。
【0014】
また、第一の絶縁層2の比誘電率は、50以下が好ましく、30以下、さらには10以下が好ましい。比誘電率は、物質の誘電率を真空の誘電率で割った値を示す。比誘電率ε=物質の誘電率ε/真空の誘電率εで表される。比誘電率が50を超えると電圧による分極が大きすぎ、大量の電子・正孔が絶縁層表面に吸着することで、瞬時に充電が完了してしまうため、電池容量が低下してしまう。このため第一の絶縁層の比誘電率は50以下が好ましく、30以下がより好ましい。比誘電率は、10以下がさらに好ましく、それよりもさらには5以下が好ましい。なお、比誘電率の下限は2以上が好ましい。比誘電率が2未満では分極が小さいため、充電時に電子・正孔を引き寄せる力が弱くなり過ぎ、電子・正孔の半導体層への注入量が不十分となる恐れがある。
【0015】
比誘電率は、材料により固有の値である。しかしながら、膜密度などといった材料の状態で比誘電率は変化する。膜密度が低下するほど誘電損失が大きくなり、比誘電率は低下する傾向にある。したがって、膜密度を向上させることで、比誘電率を理論値に近づけることができる。理論的には、膜密度が真密度に到達すれば、その材料の理論値の比誘電率が得られる。ここでいう真密度とは、物質の真実の状態の密度を意味する。詳細には、ある物体の真密度は、その物体の表面や内部に含まれている気孔や空隙などを除いた体積、即ち物体そのものの体積によって、その物体の質量を割った値に等しい。
【0016】
膜密度を向上させ、真密度に近づけるためには、成膜中の基板加熱や、膜形成後の熱処理により結晶化を促進する方法が有効である。例えば、Si3N4膜をスパッタ法で成膜する場合は、成膜中に基板を200℃~400℃で加熱することが好ましい。
【0017】
電子・正孔の再結合抑制効果を十分得るには絶縁層の厚さと比誘電率を制御することが好ましい。また、これにより電池のコンデンサー化を防ぐことができる。コンデンサー化が進むとエネルギー密度が低くなる恐れがある。
【0018】
このため第一の絶縁層2は、厚さ3nm以上30μm以下かつ比誘電率50以下が好ましく、30以下、さらには10以下がより好ましい。第一の絶縁層2は、さらには厚さ10nm以上1μm以下かつ比誘電率30以下が好ましく、5以下がより好ましい。この範囲にすることにより、半導体層への蓄電容量を高めることができるため、半導体固体電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0019】
また、第一の絶縁層の膜厚は断面の拡大写真で測定することができる。拡大写真としてはSEM写真またはTEM写真が挙げられる。5000倍以上に拡大することが好ましい。
【0020】
また、比誘電率の測定は共振器法が挙げられる。共振器法は、空洞共振器などの共振器を用い、微小な被測定対象による共振の変化を基にして測定する方法である。共振器法は多層膜のまま測定できる方法である。
【0021】
また、多層膜の膜厚が100nm以上の場合は、摂動方式の空洞共振器法が有効である。また、試験環境の温度は常温(25±2℃)で行うものとする。また、100nm未満の多層膜の場合は容量-電圧測定(C-V測定)が有効である。
【0022】
また、第一の絶縁層は、金属酸化物、金属窒化物、絶縁性樹脂から選ばれる1種または2種以上が好ましい。金属酸化物は、珪素、アルミニウム、タンタル、ニッケル、銅、鉄から選ばれる1種または2種以上の酸化物(複合酸化物含む)が好ましい。また、金属窒化物は、珪素、アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の窒化物(複合窒化物含む)が好ましい。また、金属酸窒化物であってもよい。また、絶縁性樹脂であってもよい。
【0023】
また、金属酸化物膜または金属窒化物膜は、CVD法、スパッタ法、溶射法など様々な成膜方法を適用することができる。また、成膜雰囲気を酸素含有雰囲気にして酸化物膜にすることも有効である。同様に、成膜雰囲気を窒素含有雰囲気にして窒化物膜にしてもよい。また、必要に応じ、熱処理を加えても良いものとする。
【0024】
また、第一の絶縁層は膜密度がバルク体の60%以上であることが好ましい。膜密度は、絶縁層を構成する物質の充填率であり、空孔の割合を示すものである。膜密度が大きいほど空孔が少ないことになる。膜密度が60%以上であると、第一の絶縁層による電子・正孔の再結合抑制効果を得易くなる。膜密度が高いほど、その効果を得易くなる。そのため、膜密度はバルク体の60%以上、さらには80%以上100%以下が好ましい。また、膜密度が低いと電流リークが発生し易くなる恐れがある。
【0025】
ここでいう膜密度とは、上述した真密度に対する膜密度の比と同義である。つまり、第一の絶縁層は膜密度が真密度の60%以上であることが好ましい。例えば、膜密度がバルク体の100%である絶縁層は、真密度の状態にある。このような絶縁層には、空孔などが含まれていない。
【0026】
以下に、真密度の具体的な値を例示する。真密度は、SiOの場合、三方晶系のα-石英であれば2.65g/cm、六方晶系のβ-石英であれば2.53g/cmである。Alの場合、真密度は、菱面体系のα-Alであれば4.0g/cm、六方晶系のβ-Alであれば3.3g/cm、立方晶系のγ-Alであれば3.6g/cmである。SiONの場合、真密度は、斜方晶であれば2.8g/cm、正方晶であれば3.9g/cm、単斜晶であれば4.1g/cmである。また、真密度は、六方晶系のSiであれば3.44g/cm、六方晶系のAlNであれば3.2g/cm、立方晶系のAlNであれば4.1g/cm、単斜晶のHfOであれば9.68g/cmである。
【0027】
また、真密度の60%以上であれば、比誘電率はおおむね以下の値となる。
SiOの場合3.0~5.0、Alの場合7.0~10.0、SiONの場合5.0~9.0、Siの場合6.5~9.0、AlNの場合7.5~10.5、HfOの場合22.0~26.0、シリコーン樹脂の場合2.0~4.0。
【0028】
なお、第一の絶縁層の膜密度の測定方法は、任意の断面を拡大写真にとり、画像解析により膜を構成する材料と空孔を見分けるものとする。
【0029】
また、X線反射率法(XRR)により膜密度や膜厚を測定する方法も有効である。試料の表面粗さRaが数nm以下の平坦である場合、XRRが好ましい。反射率強度を測定すると、X線の干渉により、散乱角(2θ)に対して反射率強度が振動する。測定データを各層の膜厚、膜密度、表面・界面粗さをパラメータとし、フィッティングを行う。フィッティングの理論式としては、Parrattの多層膜モデルにNevot-Croceのラフネスの式を組み合わせたものを用いるものとする。TEM、SEMにより予め膜厚等の値を調べることにより、それをフィッティングパラメータとして用いることで膜密度などをより正確に測定することができる。
【0030】
また、N型半導体およびP型半導体は、少なくとも一方が金属シリサイド、金属酸化物、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、結晶シリコン、単結晶シリコンからなる群より選ばれる1種からなることが好ましい。
【0031】
N型半導体およびP型半導体の両方がこれらの材料から選択される1種から、単独で形成されていることがより好ましい。N型半導体およびP型半導体の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。上記の材料の中でも、N型半導体の材料およびP型半導体の材料を金属シリサイド及び金属酸化物の何れかとすることがより好ましい。
【0032】
N型半導体3は電子をキャリアとする。また、P型半導体4は正孔をキャリアとする。N型半導体3、第一の絶縁層2、P型半導体4の積層構造をとることにより、蓄電後の電子・正孔の再結合を抑制することができる。電子・正孔の再結合を抑制すると、自己放電を抑制できるので半導体固体電池の高容量化を成し得ることができる。
【0033】
また、高容量化のためには、半導体層の電子また正孔の量を適正化する必要がある。金属シリサイド、金属酸化物、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、結晶シリコン、単結晶シリコンは、キャリアとなる電子また正孔の量を制御し易い。また、N型半導体3とP型半導体4は不純物ドープや欠損導入によりキャリアの量を制御可能である。
【0034】
また、金属シリサイドは、バリウムシリサイド(BaSi)、鉄シリサイド(FeSi)、マグネシウムシリサイド(MgSi)、マンガンシリサイド(MnSi1.7)、ゲルマニウムシリサイド(SiGe)、ニッケルシリサイド(NiSi)から選ばれる1種が好ましい。また、金属酸化物は、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO、MoO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化アルミニウム(Al)から選ばれる1種が好ましい。
【0035】
また、N型半導体またはP型半導体は、電子または正孔の捕獲準位を多数導入していることが好ましい。捕獲準位とは、電子または正孔を捕獲するエネルギー準位のことであり、トラップ準位とも呼ぶ。また、捕獲準位は1017cm-3~1022cm-3の範囲内であることが好ましく、1018cm-3~1022cm-3の範囲内であることがより好ましい。捕獲準位としては、不純物準位、欠陥準位がある。不純物準位は不純物のドープにより元素を置換することにより得られる準位である。不純物のドープ量を調整することにより制御できる。また、欠陥準位は元素の欠損により生じる準位である。金属酸化物であれば酸素欠損や金属欠損を設けることにより得られる準位である。
【0036】
金属シリサイドであれば不純物ドープや組成ずれを設けることにより、欠陥準位を得られる。また、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、結晶シリコン、単結晶シリコンは、粒界にキャリアをトラップすることができる。これにより、トラップ準位(捕獲準位)を導入することができる。
【0037】
上記のように、不純物ドープ、欠損(欠陥)、粒界による電子・正孔の捕獲準位を導入することができる。また、これらは1種であってもよいし、2種以上を組合せてもよい。
【0038】
なお、N型半導体におけるキャリアは電子であるため、N型半導体に導入される捕獲準位は、電子の捕獲準位である。同様に、P型半導体におけるキャリアは正孔であるため、P型半導体に導入される捕獲準位は、正孔の捕獲準位である。N型半導体およびP型半導体の何れか一方に捕獲準位が導入されていてもよい。或いは、N型半導体とP型半導体の両方に捕獲準位が導入されていてもよい。
【0039】
また、半導体の伝導機構としては、ホッピング伝導とバンド伝導がある。ホッピング伝導は、半導体において、電子がほとんど局在的状態にあり、それらの間を次々に飛躍(ホッピング)することによって電気伝導が担われている状態を示す。ホッピング伝導では、電子の平均自由工程は原子間距離(不純物伝導では不純物原子間距離)の程度により、電気伝導率は自由電子的な場合よりもはるかに小さく、長い平均自由工程を有する自由電子と対照的な挙動を示す。飛躍(ホッピング)過程は原子の熱振動によって助けられる。また、「電子がほとんど局在的状態にある」とは、伝導帯(コンダクションバンド)に存在する電子が伝導帯のエネルギー極小点の付近に存在する状態を示す。
【0040】
一方、バンド伝導は、半導体において、電子(または正孔)が比較的広い範囲(幅広いバンド領域)で電気伝導が担われている状態を示す。電子(または正孔)は、半導体が化学量論組成からずれることによって生じるものである。
【0041】
金属シリサイドまたは金属酸化物からなる半導体は、不純物ドープや欠陥導入により、準位量(位置)や伝導機構を制御することができる。
【0042】
例えば、金属シリサイドでは不純物ドープにより、不純物準位を導入できる。不純物準位導入により、ホッピング伝導が支配的になり、トラップ準位にキャリアを溜めやすくなる。
【0043】
また、金属酸化物は酸素欠損を設けることにより、欠陥準位を導入できる。欠陥準位導入により、欠陥を介したホッピング伝導が支配的になり、トラップ準位にキャリアを溜めやすくなる。
【0044】
上記のように金属シリサイドまたは金属酸化物からなる半導体は、不純物準位または欠陥準位を導入することによりホッピング伝導が支配的になる。言い換えれば、ホッピング伝導特性を示すものは、トラップ準位にキャリアを溜めやすい状態となっているといえる。
【0045】
また、金属シリサイドまたは金属酸化物からなる半導体はホッピング伝導特性が支配的になると抵抗率の温度依存性が低下する。縦軸に抵抗率、横軸に1000/T、Tは温度(K:ケルビン)を取ったとき、ホッピング伝導特性が支配的になると、グラフの傾斜が緩やかになる。一方、バンド伝導が支配的になると、グラフの傾斜は大きくなる。言い換えると、抵抗率と1000/Tのグラフを作成したときのグラフの傾斜角度で、ホッピング伝導とバンド伝導のどちらが支配的かを判断することが出来る。特に、1000/Tが2.8~4.0の範囲のグラフの傾斜を比較するものとする。
【0046】
また、金属シリサイドは、縦軸に抵抗率、横軸に1/Tをとったときに、ホッピング伝導特性を示すとほぼ直線状またはほぼ放物線状の挙動を示す。ここでTはケルビン温度である。
【0047】
前述のようにWOなどの金属酸化物は酸素欠損によりホッピング伝導を示す。また、BaSiなどの金属シリサイドは不純物ドープによりホッピング伝導を示す。ホッピング伝導特性を示すことにより、捕獲準位(トラップ準位)にキャリアを溜めやすい状態に出来る。
【0048】
ホッピング伝導には、主にNNH(Nearest Neighbor Hopping:最近接ホッピング伝導)、Mott-type VRH(Mott-type Variable-Range Hopping:モット型可変領域ホッピング伝導)、Shklovskii-type VRH(Shklovskii-type Variable-Range Hopping:シクロフスキー型可変領域ホッピング伝導)が挙げられる。例えば、WO3は酸素欠損により、NNH伝導特性を示す。一方、BaSiでは特定の不純物(例えば、Ga, Al, Ag, Cuなど)をドープすることでVRH伝導を示す。VRH伝導を示すと、その特徴であるlnρ∝T1/2や、Shklovskii型VRH伝導の特徴であるlnρ∝T1/4の関係式(ここでρ(Ω・cm)は抵抗率、Tは抵抗測定時の温度を示す)を満たすようになる。
【0049】
ここで金属シリサイドまたは金属酸化物からなる半導体はホッピング伝導特性が支配的になると、不純物ドープがない(アンドープ)金属シリサイドや、酸素欠損がない金属酸化物に比べて、抵抗率が大幅に低下する。ホッピング伝導特性を支配的にすることにより、抵抗率を大幅に低下させることができる。
【0050】
また、酸化タングステン粉末(WO)の常温での抵抗率は10Ω・cm以上である。ホッピング伝導特性を支配的にすることにより、抵抗率を大幅に低下させることができる。半導体の抵抗率が下がることにより内部抵抗を低下させることができる。内部抵抗を低下させることにより、出力密度を増加させることができる。これにより電池の急速充放電性が向上する。
【0051】
N型半導体層において、バンドギャップを100としたとき50以上90以下の範囲に準位が形成されていることが好ましい。一例として、図4にN型酸化物半導体層の準位位置の概念図を示した。図4中、Ecは伝導帯の底(伝導帯と禁止帯の境目)、Evは価電子帯の頂上(禁止帯と価電子帯の境目)である。EcとEvの幅(Ec―Ev)がバンドギャップとなる。バンドギャップにおける準位の位置は、Ecを100としてカウントし、Evを0としてカウントする。図4では、バンドギャップの幅をG100と表し、このバンドギャップG100を100としたときに50に該当する準位位置をE50、90に該当する準位位置をE90と表す。
【0052】
バンドギャップの幅を100としたとき、準位の位置は50以上90以下の範囲にあることが好ましい。つまり、図示する準位位置E50と準位位置E90との間に準位があることが好ましい。準位が準位位置E90より高い範囲にあると、N型酸化物半導体層(または金属シリサイド半導体層)の伝導帯近くに準位があることになる。伝導帯近くに準位があると電子が第1の絶縁層近傍に直ぐに集まってしまうため、界面キャリア集中が生じてしまう。準位を50以上90以下の範囲にするということは、準位をやや深いところに設けていることになる。これにより、直ぐに界面キャリア集中が発生するのを防ぐことができる。これにより、容量低下を抑制できる。また、準位の位置が準位位置E50より低いと準位が深すぎて電子の取出しが困難となる恐れがある。電子の取出しが困難となると、電池容量が低下する。
【0053】
また、一例として、図5にP型酸化物半導体層の準位位置の概念図を示した。図5中、Ecは伝導帯の底(伝導帯と禁止帯の境目)、Evは価電子帯の頂上(禁止帯と価電子帯の境目)である。EcとEvの幅(Ec―Ev)がバンドギャップとなる。P型半導体層において、バンドギャップを100としたとき10以上50以下の範囲に準位が形成されていることが好ましい。バンドギャップにおける準位の位置は、Ecを100としてカウントし、Evを0としてカウントする。図5では、バンドギャップの幅をG100と表し、このバンドギャップG100が100としたときに10に該当する準位位置をE10、50に該当する準位位置をE50と表す。
【0054】
バンドギャップの幅を100としたとき、準位の位置は10以上50以下であることが好ましい。つまり、図示する準位位置E10と準位位置E50との間に準位があることが好ましい。準位位置E10未満の価電子帯近くの位置に準位があると、正孔(ホール)が第1の絶縁層近傍に直ぐに集まってしまうため、界面キャリア集中が生じてしまう。準位を10以上50以下にするということは、準位をやや深いところに設けていることになる。これにより、直ぐに界面キャリア集中が発生するのを防ぐことができる。これにより、容量低下を抑制できる。また、準位の位置が準位位置E50より高いと準位が深すぎて正孔の取出しが困難となる恐れがある。正孔の取出しが困難となると、電池容量が低下する。
【0055】
N型半導体層が酸化物半導体または金属シリサイド半導体であり、且つ該半導体におけるバンドギャップの幅を100としたとき50以上90以下の範囲に準位が形成されていることがさらに好ましい。同様に、P型半導体層が酸化物半導体または金属シリサイド半導体であり、且つ該半導体におけるバンドギャップの幅を100としたとき10以上50以下の範囲に準位が形成されていることがさらに好ましい。
【0056】
また、酸化物半導体の準位位置を制御する方法としては、酸素や金属の欠損を設けることが好ましい。酸素や金属の欠損は、例えば、成膜中の条件を制御することによって設けることができる。また、成膜後の熱処理でも欠損導入は可能である。他に、電子線や紫外線の照射により欠損を形成させることも可能である。欠損を導入する方法の詳細は、後述する。
【0057】
また、金属シリサイド半導体の準位位置を制御する方法としては、元素比やドープ元素を制御する方法が挙げられる。元素比の制御は、金属シリサイドを構成する金属とシリコンの原子比によるものである。金属シリサイドをMSiで表し、ここでMは金属、nは価数で表すと、BaSiはM=Ba、n=2となる。バリウムシリサイドは、BaSiが安定となる。
【0058】
バリウムシリサイド層は、全体または部分的に組成ずれを有するように形成することが好ましい。BaSiではn=2が安定である。これをn=1.5以上2.5以下の範囲でn=2とならない部分を形成することが有効である。また、金属シリサイド層の組成ずれは、成膜工程の成膜レート(nm/sec)を変えることにより形成することができる。
【0059】
酸化物半導体または金属シリサイドの準位の位置の測定は、単膜から、準位の深さを求める測定手法とバンドギャップを求める測定手法を組み合わせることが有効である。ここで、準位深さとは、N型半導体であれば伝導帯下端と準位位置のエネルギー差を意味する。また、P型半導体であれば、準位深さとは、価電子帯上端から準位位置までのエネルギー差を意味する。
【0060】
準位深さを求める測定手法には、例えば、抵抗率の温度依存性から活性化エネルギーを求める方法、及び深い準位過渡分光法(DLTS)を用いる方法が挙げられる。
【0061】
抵抗率の温度依存性から活性化エネルギーを求める方法では、測定温度T(ケルビン)における抵抗値を測定する。単膜にオーミック電極を成膜し、抵抗率を測定する。横軸を1/T、縦軸を抵抗値とし、グラフの傾きから活性化エネルギーを求める。ここで例えばN型半導体の場合、下記式をフィッティングすることで、準位の深さに相当する活性化エネルギーEaを求めることができる。P型半導体でも同様の方法で、準位深さを求めることができる。
【0062】
【数1】
ρ(T) :薄膜の抵抗率
Nd :伝導帯のキャリア密度、No :最近接ホッピング伝導帯のキャリア密度
μb :伝導帯のキャリア移動度、 μh :最近接ホッピング伝導帯のキャリア移動度
Ea :準位と伝導帯下端のエネルギー差、q:電気素量、
ε :準位での近接キャリアトラップ間の電子の平均活性化エネルギー。
【0063】
また、深い準位の場合は、深い準位過渡分光法(DLTS)を用いることができる。この手法では、単膜にショットキー接合の金属電極を成膜し、ショットキーダイオードを作る必要がある。このダイオードに逆方向の電圧を印加して空乏層を広げ、印加した電圧を変化させた際の静電容量の応答をシグナルとして得ることで、準位深さを測定することができる。
【0064】
バンドギャップ中の準位位置を特定するためには、上記の方法で準位深さを求める他に、バンドギャップ自体の測定を行う必要がある。バンドギャップの測定方法としては、分光光度計での吸光度の測定が挙げられる。単膜の透過スペクトルを測定し、横軸の波長をeVに、縦軸の透過率を√αhv(α:吸収係数、h:プランク定数、v:光速度)に変換する。変換後のスペクトルにおいて、吸収が立ち上がる部分に直線をフィッティングする。この直線がベースラインと交わるところのeV値がバンドギャップに相当する。また他の手法としてはPAS(光音響測定法)を用いる方法もある。
【0065】
以上により求めたバンドギャップと準位深さを組合せて、準位位置を特定することができる。
【0066】
前述のバリウムシリサイド、鉄シリサイド、ニッケルシリサイド、酸化タングステン、酸化モリブデンは欠陥準位導入により、トラップ準位にキャリアを溜めやすい半導体である。また、金属シリサイドはP型半導体に適している。また、金属酸化物はN型半導体に適している。
【0067】
また、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、結晶シリコン、単結晶シリコンは、粒界にキャリアをトラップすることができる。これにより、トラップ準位(捕獲準位)を導入することができる。
【0068】
上記のように、不純物ドープ、欠損、粒界による電子・正孔の捕獲準位を導入することができる。また、これらは1種であってもよいし、2種以上を組合せてもよい。
【0069】
また、金属シリサイドへの不純物ドープ量は、1017cm-3~1022cm-3の範囲内が好ましく、1018cm-3~1022cm-3の範囲内がより好ましい。また、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、結晶シリコン、単結晶シリコンへの不純物ドープ量は、1017cm-3~1022cm-3の範囲内が好ましく、1018cm-3~1022cm-3の範囲内がより好ましい。また、ドープする不純物は、Ag、Al、Cu、Ga、In、Sbなど様々なものが挙げられる。また、Ag、Al、Cu、Gaから選ばれる1種または2種以上の不純物は金属シリサイドに捕獲準位を導入するために好適な元素である。InまたはSbは表面準位までしか導入できない恐れがある。
【0070】
なお、不純物ドープ量の測定はSIMS(二次イオン質量分析法)により分析することができる。また、不純物ドープ量を変えた標準試料を複数作製し、検量線を作成する方法も有効である。また、事前にXPS(X線光電分光法)などにより、不純物元素を特定してから、SIMSを行うことも有効である。
【0071】
また、酸素欠損は1017cm-3~1022cm-3の範囲内が好ましく、1018cm-3~1022cm-3の範囲内がより好ましい。
【0072】
ここで酸素欠損とは、半導体を構成する材料の結晶格子において、結晶格子を構成する酸素原子の一部が存在しない状態を示す。キャリア密度とは、キャリアとなる電子またはホール(正孔)の存在量を示すものである。P型半導体ではキャリアはホール、N型半導体ではキャリアは電子となる。キャリア密度は、状態密度とフェルミディラック分布関数の積で求められる。
【0073】
酸素欠損は結晶格子の酸素原子の欠落量を示す一方、キャリア密度は電子(またはホール)の存在量を示している。酸素欠陥とキャリア密度は、それぞれ異なるパラメータである。ホッピング伝導を示すと、酸素欠陥に伴う格子ひずみと伝導電子とでポーラロンを形成する。ポーラロンにより伝導機構を生じさせている。そのため、ホッピング伝導特性を示すことにより、酸素欠損量とキャリア密度とをほぼ同じ値にすることができる。
【0074】
このため、ホッピング伝導が支配的となる半導体の場合、キャリア密度を測定すれば欠損量を求めることが出来る。また、キャリア密度はSMMまたはSCMにて測定することができる。SMMは、走査型マイクロ波顕微鏡法(Scanning Microwave Microscopy)のことである。また、SCMは、走査型静電容量顕微鏡法(Scanning Capacitance Microscopy)のことである。
【0075】
また、不純物ドープ量の測定は、所定の不純物量をドープした標準試料を用いて変調信号(dC/dV)やマイクロ波反射率の強度を比較する方法がよい。このとき、予めドープ量を変えた標準試料を複数作製し、検量線を作成しておくことが有効である。また、不純物ドープ材を事前にXPSなどで特定しておくことも有効である。また、SMMまたはSCMで測定する場合は、試料表面を鏡面研磨(表面粗さRa0.1μm以下)にしてから行うものとする。
【0076】
また、深い準位の場合は、深い準位過渡分光法(DLTS)を用いることで直接準位量を測定することができる。ショットキーダイオードに逆方向の電圧を印加して空乏層を広げ、印加した電圧を変化させた際の静電容量の応答をシグナルとして得る。例えば、TiOやNiOは化学量論比(TiOではO/Ti比が2、NiOではO/Ni比が1)では絶縁性が高い。一方で、抵抗率が減少している場合、TiOでは酸素欠損が、NiOではNi欠損が導入されていると判断できる。こうして、準位量を測定することができる。
【0077】
また、粒界の量は結晶サイズを調整することで制御できる。平均結晶粒径は、50nm以上1000nm以下の範囲であることが好ましい。平均結晶粒径が50nm未満では、粒界が多くなりすぎて、電子・正孔が移動時に妨害され、電気抵抗が非常に大きくなる。電気抵抗が高いと放電時の電圧ドロップが大きくなり、電池容量や動作電圧が低下する。また、電子・正孔が移動時にトラップされすぎて、移動度は低下すると考えられる。移動度の低下は出力密度の低下につながる。また、平均結晶粒径が1000nm(1μm)を超えると、粒界トラップ効果が小さいため電池容量(エネルギー密度)の向上効果が小さい。エネルギー密度と出力密度を両立し、さらに動作電圧を増大させるためには平均結晶粒径を50nm以上1000nm以下の範囲にすることが好ましい。
【0078】
また、粒界の存在比率は、半導体の結晶サイズによって決まる。半導体の結晶サイズは、SEMまたはTEMによる拡大写真によって確認することができる。粒界によるトラップ準位の導入は結晶質の半導体に有効である。そのため、金属シリサイド、金属酸化物、アモルファスシリコン、結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンの中で結晶質の半導体に適用できる。
【0079】
また、N型半導体3とP型半導体4の厚さは特に限定されるものではないが0.1μm以上200μm以下が好ましい。
【0080】
半導体の厚みが0.1μm(100nm)未満と薄いとキャリアの発生量が少ないためエネルギー密度、即ち重量や面積あたりの電気容量を高くすることが困難となる恐れがある。また、200μmを超えて厚いと、キャリアの移動距離が長くなるため内部抵抗が増大し、放電時の電圧ドロップが大きくなる可能性がある。また、急速充放電特性が低下する恐れがある。なお、電気容量に関してはエネルギー密度(Wh/kg)で示される。また、急速充放電特性は、出力密度(W/kg)で示されることがある。
【0081】
また、N型半導体3には電極5が設けられている。電極5はN型側電極と呼ぶ。また、P型半導体4には電極6が設けられている。電極6はP型側電極と呼ぶ。図1ではN型半導体3およびP型半導体4の端面にそれぞれ電極を設けている。電極の形成位置は端面に限られるものではなく、側面部であっても良い。また、電極5は一つであってもよいし、複数個設けても良い。同様に、電極6も一つであってもよいし、複数個設けても良い。
【0082】
また、電極5および電極6は、銅、アルミニウムなどの導電性のよい金属材料が好ましい。また、ITO(Indium-doped Tin Oxide)などの透明電極であってもよい。
【0083】
また、N型半導体と電極の間に第二の絶縁層またはP型半導体と電極の間に第三の絶縁層のいずれか一方または両方を設けた構造が好ましい。図2に第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けた構造を示した。図中、1は半導体固体電池、2は第一の絶縁層、3はN型半導体、4はP型半導体、5は電極(N型側電極)、6は電極(P型側電極)、7は第二の絶縁層、8は第三の絶縁層、である。
【0084】
図2では、第二の絶縁層7と第三の絶縁層8の両方を設けた構造を例示したが、どちらか一方であってもよい。つまり、図示する構造のようにN型半導体3と電極5との間に第二の絶縁層7を設けると共に、P型半導体4と電極6との間に第三の絶縁層8を設けてもよい。一方で、N型半導体3と電極5との間に第二の絶縁層7を設け、第三の絶縁層8を省略してもよい。あるいは、P型半導体4と電極6との間に第三の絶縁層8を設け、第二の絶縁層7を省略してもよい。
【0085】
第二の絶縁層7および第三の絶縁層8を設けると、それぞれトンネル効果を得ることが出来る。トンネル効果を得ることにより、高容量化を得ることができる。第二の絶縁層7がないと、N型半導体3に蓄電されたキャリアが電極5に流れ易くなり電気が溜まり難い。同様に、第三の絶縁層8がないと、P型半導体4に蓄電されたキャリアが電極6に流れ易くなり電気が溜まり難い。
【0086】
また、第二の絶縁層7または第三の絶縁層8は、少なくとも一方が膜厚30nm以下、比誘電率50以下であることが好ましい。比誘電率が30以下、さらには10以下であることがより好ましい。膜厚が30nmを超えて厚いと抵抗体となってしまい電気が取り出し難くなる。同様に、比誘電率が50を超えて大きいとこれらの絶縁層にキャリアが多く集中してしまい、半導体層にキャリアを多く蓄積できなくなる恐れがある。
【0087】
このため、第二の絶縁層7または第三の絶縁層8は膜厚30nm以下、さらには10nm以下が好ましい。また、膜厚の下限値は特に限定されるものではないが3nm以上であることが好ましい。膜厚が3nm未満と薄いとトンネル効果が不十分となり、キャリアが消失し易くなる。また、比誘電率は、50以下が好ましく、30以下がさらに好ましい。より好ましくは、比誘電率は10以下、さらには5以下が好ましい。また、比誘電率の下限値は特に限定されるものではないが2以上が好ましい。比誘電率が2未満ではトンネル効果が不十分となる恐れがある。
【0088】
また、第二の絶縁層7または第三の絶縁層8の材質は、少なくとも一方が金属酸化物、金属窒化物、絶縁性樹脂から選ばれる1種または2種以上が好ましい。金属酸化物は、珪素、アルミニウム、タンタル、ニッケル、銅、鉄から選ばれる1種または2種以上の酸化物(複合酸化物含む)が好ましい。また、金属窒化物は、珪素、アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の窒化物(複合窒化物含む)が好ましい。また、金属酸窒化物であってもよい。また、絶縁性樹脂であってもよい。
【0089】
次に動作の説明をする。図3にキャリア(電子または正孔)の動きの概略を示した。図3中、1は半導体固体電池、2は第一の絶縁層、3はN型半導体、4はP型半導体、5は電極(N型側電極)、6は電極(P型側電極)、7は第二の絶縁層、8は第三の絶縁層、9は電子、10は正孔、11は電源、である。また、図3は、半導体固体電池のバンドの概念図であり、縦方向はエネルギー準位、横方向は距離を示す。
【0090】
電源11から電気が流れると、N型半導体3には電子9、P型半導体4には正孔10が発生する。キャリアとなる電子9および正孔10が溜まる。キャリアを溜めることにより蓄電状態となる。第一の絶縁層2を設けることにより、蓄電後の電子・正孔の再結合が抑制される。再結合を抑制することにより、自己放電を抑制できるので高容量化することができる。
【0091】
図3において、半導体層(N型半導体3およびP型半導体4)の実線の上側は伝導帯下端、実線の下側は価電子帯上端を示す。また、電子9または正孔10が直線状に並んだ箇所(点線で表示)はフェルミ準位を示す。
【0092】
充電時は、伝導帯を動く電子が捕獲準位にトラップ、価電子帯を動く正孔が捕獲準位にトラップされるようになる。また、前述のように半導体にホッピング伝導を導入することにより、捕獲準位(不純物準位、欠陥準位)を介してキャリア(電子、正孔)が伝導できる。このため、伝導帯や価電子帯に電子や正孔を再励起させる必要がなく、内部抵抗を小さくできる。このため出力密度が向上する。これにより、急速充放電特性を得ることができる。
【0093】
また、他の半導体電池に見られる絶縁被覆した半導体微粒子を塗布した膜では絶縁被膜により放電時のキャリアの移動が阻害され、内部抵抗が非常に高くなる。これに対し、実施形態にかかる半導体固体電池では、半導体単層を用いることや、各々の半導体単層に深い捕獲準位を導入することにより、キャリアを多く蓄積できる。そのため、放電時のキャリア移動の阻害が少なくなり、内部抵抗を低減させることができる。内部抵抗を低減することで、電圧ドロップを0.5Vさらには0.3V以下に抑制することができる。これは電池の動作電圧増大に繋がる。
【0094】
捕獲準位が浅い位置にある例の概略を図6に示す。ここでは、半導体のバンドギャップを100としたとき、N型半導体3では91以上100以下、P型半導体4では0以上9以下の範囲の位置に準位がある例を示す。図6に示すように、浅い準位が形成されていることで、中央絶縁体(第一の絶縁層2)へキャリア(電子または正孔)が集中する。
【0095】
捕獲準位が深い位置にある、より好ましい例の概略を図7に示す。ここでは、半導体のバンドギャップを100としたとき、N型半導体3では50以上90以下、P型半導体4では10以上50以下の範囲の位置に準位がある例を示す。図7に示すように、深い準位が形成されていることで、中央絶縁体へのキャリア集中が抑制される。N型とP型の半導体層単層にキャリアを多く蓄積できるようになり、高容量化することができる。以上により高容量化することで、例えば、エネルギー密度を2μWh/cm以上、さらには3μWh/cm以上とすることができる。
【0096】
以上のような半導体固体電池であれば、高いエネルギー密度と高い動作電圧を有する半導体固体二次電池を提供することができる。また、従来のLiイオン二次電池のように電解液を使用しないで済むので液漏れの不具合が発生しない。
【0097】
次に製造方法について説明する。実施形態にかかる半導体固体電池は上記構成を有していれば、その製造方法については限定されるものではないが、効率的に得るための方法として次のものが挙げられる。
【0098】
基板上に、電極を成膜する。次に、必要に応じ、第二の絶縁層(または第三の絶縁層)を成膜する。
【0099】
次に、N型半導体(またはP型半導体)を成膜する。その次に、第一の絶縁層、P型半導体(またはN型半導体)、第三の絶縁層(または第二の絶縁層)、電極を成膜していく。なお、N型半導体とP型半導体は、どちらを先に成膜しても良い。
【0100】
また、成膜方法は、化学気相成長法(Chemical Layer Deposition;CVD法)、スパッタ法、溶媒に分散させた微粒子の塗布など様々な成膜方法を適用することができる。また、成膜工程では、必要に応じ、基板を加熱してもよいものとする。また、Ar雰囲気、真空雰囲気など適宜調整するものとする。
【0101】
また、酸化膜または窒化膜を形成する場合は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition;ALD法)、熱酸化法(酸化雰囲気中での熱処理)、熱窒化法(窒化雰囲気中での熱処理)などを用いても良い。
【0102】
アモルファスシリコンを用いる場合は、スパッタリング法、真空蒸着法、化学気相成長法(CVD法)などの成膜方法を用いることができる。多結晶シリコン、結晶シリコンについては、上記手法に加え、成膜中の基板加熱、成膜後の熱処理などの手法によりアモルファスシリコンを結晶化させる必要がある。例えば、アモルファスシリコン薄膜を成膜した後、窒素等の不活性雰囲気で、かつ600℃以上の温度で一定時間熱処理を行うと、多結晶シリコン、結晶シリコンを得ることができる。結晶粒径は、熱処理温度や熱処理時間によって制御可能である。
【0103】
また、半導体層の成膜工程にて、不純物ドープを行うときは、不純物元素を同時蒸着する方法が有効である。同時蒸着の割合を調整することにより、不純物ドープ量、つまりは不純物準位量を制御することができる。
【0104】
また、不純物のドープは、成膜中のガス導入、異なる蒸着源を用いた同時成膜によって不純物をドープできる。例えば、CVD法の場合は、N型層の成膜にはモノシランにリンの水素化合物であるフォスフィン(PH)をガスとして混合することが好ましい。P型層の成膜には硼素(ボロン)の水素化合物であるジボラン(B)などをガスとして混合することが好ましい。
【0105】
金属シリサイドからなる半導体層とする場合は、先に説明したとおり元素比やドープ元素を制御することで準位位置を制御できる。また、成膜工程の成膜レートを変えることにより、金属シリサイドの組成ずれを形成することができる。
【0106】
酸素や金属の欠損を設ける方法には、例えば、真空成膜などの成膜中の酸素分圧制御、成膜後の膜の熱処理(大気雰囲気でのアニール、酸化雰囲気ガスによるアニールなど)、電子線・紫外線照射などが挙げられる。
【0107】
ここで成膜中の酸素制御では、成膜装置への導入ガスを不活性ガスと酸素の混合ガスにし、酸素分圧を制御することが好ましい。例えば、成膜中の酸素分圧制御では、出力0.3kW以上のRFスパッタ時に、基板加熱温度を150℃以上280℃以下、OとArのガス流量比O/Arを0.05以上とすることが好ましい。出力は0.5kW以上1.0kW以下の範囲内が好ましい。また、基板加熱温度は180℃以上240℃以下の範囲内が好ましい。また、ガス流量比O/Arは0.09以上0.20以下の範囲内が好ましい。
【0108】
また、Oガス流量は8sccm以上が好ましい。また、Arガス流量は100sccm以上が好ましい。例えば、NiO層の場合は、スパッタ中の酸素ガスが過剰となることでNi金属が欠損し、Ni1-xOの金属欠損膜が得られる。また、RFスパッタの出力や基板加熱温度が上記範囲であれば、金属と酸素の反応を促進することができる。
【0109】
具体例として、スパッタリング法でのTiO成膜(DCスパッタリング、基板加熱200℃、出力1.0kW)やNiO成膜(RFスパッタリング、基板加熱200℃、出力0.6kW)の場合、OとArのガス流量比O/Arを0/120以上20/120以下の範囲内で変化させると、抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下の間で変化する。TiOやNiOは化学量論比(TiOではO/Ti比が2、NiOではO/Ni比が1)では絶縁性が高いが、抵抗率が減少する場合、TiOでは酸素欠損が、NiOではNi欠損が導入されていることを示している。このように酸素量(酸素分圧)により、膜内の欠損を導入することが可能である。
【0110】
成膜後の熱処理による欠損導入には、例えば、次の方法がある。例えば、成膜後の薄膜に対して、還元ガス雰囲気、または酸化ガス雰囲気や真空雰囲気で熱処理を実施すると、酸素不足により酸素欠損が導入され、または酸素過剰により金属欠損が導入される。例えば、バンドギャップ約3.2eVのTiO薄膜に対して、超高真空で加熱処理をすると、伝導帯下端から0.8eVから1.0eV下の位置に酸素欠損による欠損準位を形成することができる。他の例として、酸素と窒素の混合ガス中で600℃以上の温度で熱処理することで、金属欠損を設ける方法も挙げられる。
【0111】
また、酸素欠損を設ける場合は、半導体層形成後に還元雰囲気中で熱処理する方法が効果的である。また、金属酸化物半導体層の場合は、水素と窒素の混合ガス中で600℃以上の温度で熱処理することが好ましい。また、金属酸化物半導体層の場合は、必要に応じ成膜後にネッキング焼成を行うものとする。また、ネッキング焼成を還元雰囲気で行い、ネッキングと酸素欠損を設ける工程を一つにしてもよい。
【0112】
電子線照射などの電子線・紫外線照射による欠損形成は、膜表層から数nmから数100nm程度という膜表面近傍に欠損を多く作るという特徴をもつ。例えば、TiOに電子線を照射すると膜表面付近の内核正孔が励起し、O元素が正に帯電する。その結果Ti元素と反発し、O元素が抜け出し酸素欠損が生じる。このようなTiOへの電子線照射では、バンドギャップ約3.2eVのTiO薄膜に対して、伝導帯下端から1.2eVから1.4eV下の位置に欠損準位を形成することができる。
【0113】
また、酸素欠損を設ける場合は、金属酸化物粉を還元雰囲気中で熱処理した後、蒸着工程を行っても良い。
【0114】
また、粒界の量を調整するには、成膜時の加熱、成膜レート、後工程の熱処理などを制御することが好ましい。これらを制御することにより、平均結晶粒径を制御することが出来る。
【0115】
(実施例)
(実施例1~7)
P型半導体として、P型BaSi層を用意した。また、N型半導体としてN型WO層を用意した。また、第一の絶縁層としてSiO層を用意した。
【0116】
また、P型BaSi層には、不純物ドープ量や粒界量を変えたものを用意した。また、P型BaSi層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。また、N型WO層は酸素欠損量や粒界量を変えたものを用意した。また、N型WO層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。これにより、捕獲準位の導入を調整した。
【0117】
また、第一の絶縁層は、SiOのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、SiO膜の膜密度は95%、比誘電率は3.8に統一した。ここでいう膜密度は、真密度に対する膜密度である。つまり、実施例1~7では、第一の絶縁層の膜密度をSiOの真密度の95%に統一した。
【0118】
半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。捕獲準位の位置については、バンドギャップの幅(Ec-Ev)を100としたとき、より詳細には、伝導帯の底Ecを100とし価電子帯の頂点Evを0としたときの位置が、P型半導体では1~3に統一、N型半導体では97~99に統一されるようにした。ここに示す準位の位置は、先に説明した方法により同じものを3回測定したときに得られる最小値~最大値の範囲として表記したものである。
【0119】
また、電極としてAl電極を設けた。これにより表1に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0120】
【表1】
【0121】
(実施例8~実施例15)
実施例2~実施例5にかかる半導体固体電池に対し、表2に示す第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けた。第二の絶縁層および第三の絶縁層は、SiO層とし、膜密度95%、比誘電率3.8に統一した。また、電極層はAl層で統一した。
【0122】
これにより、実施例8~15にかかる半導体固体電池を作製した。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例1~15にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。
【0125】
エネルギー密度を測定するため、充放電装置を用いて一定電流で電圧2.0Vまで充電を行い、連続して一定電流で0Vまでの放電を実施した。放電時の電気容量から半導体固体電池の容量(mAh)を求めた。
【0126】
半導体固体電池について得られた容量と平均放電電圧(V)との積を算出し、さらに蓄電部の重量で除すことでWh/kgで表されるエネルギー密度を求めた。ここで、蓄電部の重量とは、基板(半導体層の成膜時に用いた基板)および電極層を除く半導体層と絶縁層の合計重量を表す。
【0127】
また半導体固体電池の容量(mAh)と平均放電電圧(V)の積を算出し、さらに蓄電部の面積4cmで除すことでμWh/cm2で表されるエネルギー密度を求めた。ここで、蓄電部の面積とは、基板および電極層を除く半導体層と絶縁層の平均面積を表す。
【0128】
電圧ドロップの測定は、次のように実施した。先ず、電圧源で1.5 Vの定電圧を50秒間電池に印加することで充電を行った。その直後、回路上のスイッチ切替え等により、電圧源との接続を切断し、代わりに定負荷抵抗0.9 MΩを電池に直列に接続した。電圧計により電池電圧をモニタして、定負荷抵抗0.9 MΩ接続直後の電圧ドロップ(V)を測定した。
【0129】
その結果を表3に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
表から分かる通り、実施例にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。また、捕獲準位量や結晶子サイズを制御することにより、エネルギー密度が1.91Wh/kg、1.25μWh/cm2に到達し、電圧ドロップを0.47Vとすることができた。また、第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けることにより、エネルギー密度が2.39Wh/kg、1.63μWh/cm2にまでなった。
【0132】
(実施例16~22)
P型半導体として、P型BaSi層を用意した。また、N型半導体としてN型BaSi層を用意した。また、第一の絶縁層としてSi層を用意した。
【0133】
また、P型BaSi層およびN型BaSi層は、不純物ドープ量や粒界量を変えたものを用意した。また、P型BaSi層およびN型BaSi層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。これにより、捕獲準位の導入を調整した。
【0134】
また、第一の絶縁層は、Siのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、Si膜の膜密度は93%、比誘電率は7.5に統一した。
【0135】
半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。準位位置については、P型半導体は1~3、N型半導体は97~99に統一した。
【0136】
また、電極としてAl電極を設けた。これにより表4に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0137】
【表4】
【0138】
(実施例23~実施例30)
実施例17~実施例20にかかる半導体固体電池に対し、表5に示す第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けた。第二の絶縁層および第三の絶縁層は、Si層とし、膜密度93%、比誘電率7.5に統一した。また、電極層はAl層で統一した。
【0139】
これにより、実施例23~30にかかる半導体固体電池を作製した。
【0140】
【表5】
【0141】
実施例16~30にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表6に示した。
【0142】
【表6】
【0143】
表から分かる通り、実施例にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。また、捕獲準位量や結晶子サイズを制御することにより、エネルギー密度が3.07Wh/kg、1.04μWh/cm2にまで到達し、電圧ドロップを0.46V以下とすることができた。また、第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けることにより、エネルギー密度が3.78Wh/kg、1.30μWh/cm2にまでなった。
【0144】
(実施例31~37)
P型半導体として、Poly-Si(多結晶シリコン)を用意した。また、N型半導体としてN型BaSi層を用意した。また、第一の絶縁層としてSiO層を用意した。
【0145】
また、P型Poly-Si層およびN型BaSi層は、不純物ドープ量や粒界量を変えたものを用意した。また、P型Poly-Si層およびN型BaSi層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。これにより、捕獲準位の導入を調整した。
【0146】
また、第一の絶縁層は、SiOのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、SiO膜の膜密度は95%、比誘電率は3.8に統一した。
【0147】
半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。準位位置については、P型半導体は1~3、N型半導体は97~99に統一した。
【0148】
また、電極としてAl電極を設けた。これにより表7に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0149】
【表7】
【0150】
(実施例38~実施例45)
実施例32~実施例35にかかる半導体固体電池に対し、表8に示す第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けた。第二の絶縁層および第三の絶縁層は、SiO層とし、膜密度95%、比誘電率3.8に統一した。また、電極層はAl層で統一した。
【0151】
これにより、実施例38~45にかかる半導体固体電池を作製した。
【0152】
【表8】
【0153】
実施例31~45にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表9に示した。
【0154】
【表9】
【0155】
表から分かる通り、実施例にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。また、捕獲準位量や結晶子サイズを制御することにより、エネルギー密度が4.71Wh/kg、1.46μWh/cm2に達し、電圧ドロップを0.50Vとすることができた。また、第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けることにより、エネルギー密度が6.17Wh/kg、1.76μWh/cm2にまでなった。
【0156】
また、N型半導体およびP型半導体の材質を変更した場合でも、捕獲準位を導入することにより、特性が向上した。
【0157】
(実施例46~52)
P型半導体として、Ni欠損を導入したP型NiO層を用意した。また、N型半導体としてO欠損を導入したN型TiO層を用意した。また、第一の絶縁層としてSiON層を用意した。
【0158】
また、P型NiO層には、Ni欠損量、準位位置、粒界量を変えたものを用意した。Ni欠損量および準位位置については、一部のP型NiO層の成膜中の酸素分圧を制御することにより、Ni欠陥による準位を設けた。また、P型NiO層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。また、N型TiO層はO欠損量、準位位置、粒界量を変えたものを用意した。O欠損および準位位置については、一部のN型TiO層の成膜中の酸素分圧を制御することにより、O欠陥による準位を設けた。また、N型TiO層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。
【0159】
また、第一の絶縁層は、SiONのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、SiON膜の膜密度は90%、比誘電率は7.3に統一した。
【0160】
また、TiO層側の負電極としてAu/Tiを用い、NiO層側の正電極としてITOを用いた。半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。準位位置については、表10に示す範囲となるようにした。表10に示す準位の位置は、同じものを3回測定したときに得られる最小値~最大値の範囲として表記したものである。これにより表10に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0161】
【表10】
【0162】
(実施例53~実施例60)
実施例46~実施例52にかかる半導体固体電池に対し、表11に示す第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けた。第二の絶縁層および第三の絶縁層は、SiON層とし、膜密度90%、比誘電率7.3に統一した。また、電極層はTiO層側の負電極としてAu/Ti、NiO層側の正電極としてITOで統一した。
【0163】
これにより、実施例53~60にかかる半導体固体電池を作製した。
【0164】
【表11】
【0165】
(比較例1)
次のようにして、金属酸化物半導体材料と絶縁材料を混合した薄膜を用いて、半導体固体電池を作製した。脂肪酸チタンとシリコーンオイルを溶媒に混合して撹拌し作製した塗布液をスピンコートし、充電層(1μm)を形成した。乾燥した後に350℃で30分加熱し、TiOとシリコーンの混合膜を得た。さらに、波長254nm、強度20mW/cm2の紫外線照射を約40分間行い、捕獲準位を導入した。充電層の上部にブロック層NiO(150nm)を成膜した。正負電極共にITOを使用し、充電層やブロック層の面積は4cm2とした。こうして、比較例1としての半導体固体電池を作製した。
【0166】
実施例46~60と比較例1にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表12に示した。
【0167】
【表12】
【0168】
表から分かる通り、実施例47~51、53~60にかかる半導体固体電池は比較例1と比べてエネルギー密度が向上し、電圧ドロップを抑制できた。また、深い捕獲準位を導入することにより、エネルギー密度が3.12Wh/kg以上、2.4μWh/cm2にまで到達し、電圧ドロップを0.35Vにまで抑えることができた。実施例1~45と比べても、蓄電部の面積を4cmで統一させて求めたμWh/kgのエネルギー密度を向上させることができた。Wh/kg単位のエネルギー密度については、実施例1~45と比べると最大性能値が劣るものもある。これは、用いた半導体材料、絶縁層材料の違いから膜密度に差が生じたためと考えられる。
【0169】
また、図8に実施例49における電圧ドロップを測定した際の放電曲線を示した。放電曲線を示す図8のグラフでは、横軸が時間を示し、縦軸が電池電圧を示す。横軸に示す時間では、放電開始時、つまり電池の接続を電圧源(1.5 Vの定電圧)との接続から定負荷抵抗(0.9 MΩ)との接続へ切替えた時点をゼロとした。図8が示すとおり、放電開始時(時間:0 sec)に電池電圧が1.5 Vから1.01 Vに急速に低下する。電圧の低下量を電圧ドロップDと表す。
【0170】
図8から分かる通り、電圧ドロップDが抑制されると、放電開始直後からの動作電圧を高くすることができる。これは電池容量を高くすることにも繋がる。また、実施例53~60が示すとおり、第二の絶縁層および第三の絶縁層を設けることにより、エネルギー密度が3.99Wh/kg、3.12μWh/cm2にまで達した。
【0171】
(実施例61~67)
P型半導体として、Fe/Siの組成比を制御したP型β-FeSi2層を用意した。また、N型半導体としてN型TiO層を用意した。また、第一の絶縁層としてHfO層を用意した。
【0172】
P型β-FeSi2層には、FeターゲットとSiターゲットを用いた共蒸着により形成した。また、共蒸着はFe : Si = 1 : 2、またはFe : Si = 1 : 2.25と蒸着レートを調整し、フォーミングガス中で、800℃、5分間の熱処理を行った。これによりFe/Si組成比、準位位置、粒界量を変えたものを用意した。また、P型β-FeSi2層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。
【0173】
N型TiO層はO欠損量、準位位置、粒界量を変えたものを用意した。N型TiO層は一部、真空雰囲気中で熱処理することにより、O欠陥による準位を設けた。また、N型TiO層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。
【0174】
また、第一の絶縁層は、HfOのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、HfO膜の膜密度は95%、比誘電率は25.0に統一した。
【0175】
また、TiO層側の負電極としてAu/Tiを用い、β-FeSi2層側の正電極としてITOを用いた。半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。準位位置については、表13に示す範囲となるようにした。これにより表13に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0176】
【表13】
【0177】
実施例61~67にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表14に示した。
【0178】
【表14】
【0179】
表から分かる通り、実施例62~66にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。また、捕獲準位を深い準位に導入することにより、エネルギー密度が2.09Wh/kg、2.04μWh/cm2にまで到達し、電圧ドロップを0.33Vにまで抑えることができた。
【0180】
(実施例68~74)
P型半導体として、P型a-Si:Hを用意した。また、N型半導体としてN型TiO層を用意した。また、第一の絶縁層としてHfO層を用意した。
【0181】
また、P型a-Si:H層はジボラン(B)ガスを用いたプラズマCVD法により成膜し、不純物ドープ量、準位位置、粒界量を変えたものを用意した。また、P型a-Si:H層およびN型TiO層の厚さは0.5μm(500nm)に統一した。
【0182】
N型TiO層は、次のようにしてTiO半導体にO欠陥による準位を設けた。実施例68及び69では、成膜後のアニールにより酸素欠損を設けた。実施例70~74では、N型TiO層の表面をレーザ処理することにより、表層付近にのみO欠陥による準位を設けた。
【0183】
また、第一の絶縁層は、SiOのスパッタ条件を変えることにより、膜厚を変えたものを用意した。なお、HfO膜の膜密度は95%、比誘電率は25に統一した。
【0184】
また、TiO層側の負電極としてAu/Tiを用い、a-Si:H層側の正電極としてITOを用いた。半導体層、絶縁層の面積は全て4cm2に統一した。準位位置については、表15及び表16に示す範囲となるようにした。これにより表15、16に示した構造を有する半導体固体電池を作製した。
【0185】
【表15】
【0186】
【表16】
【0187】
実施例68~74にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表17に示した。
【0188】
【表17】
【0189】
表から分かる通り、実施例69~73にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。また、捕獲準位を深い準位に導入することにより、エネルギー密度が5.74Wh/kg、2.88μWh/cm2に達し、電圧ドロップを0.37Vまで抑えることができた。
【0190】
(実施例75及び76)
実施例4のN型半導体層を実施例49のN型半導体層に置き換えた半導体固体電池を実施例75として作製した。また、実施例4のP型半導体層を実施例49のP型半導体層に置き換えた半導体固体電池を実施例76として作製した。
【0191】
実施例75及び76にかかる半導体固体電池に対して、エネルギー密度と電圧ドロップを測定した。測定方法は実施例1と同じ方法とした。その結果を表18に示した。
【0192】
【表18】
【0193】
表から分かる通り、実施例75及び76にかかる半導体固体電池はエネルギー密度が向上し、電圧ドロップが抑制された。N型半導体層およびP型半導体層のいずれかの一層のみ捕獲準位位置を深くすることでもエネルギー密度向上、電圧ドロップ抑制を確認することができた。
【0194】
また、第一の絶縁層、第二の絶縁層、第三の絶縁層を制御することによって特性が向上した。また、N型半導体およびP型半導体の材質を変えたとしても捕獲準位を導入することにより、特性が向上した。
【0195】
以上に説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、N型半導体とP型半導体と第一の絶縁層とを含み、第一の絶縁層がN型半導体とP型半導体との間に設けられている半導体固体電池が提供される。この半導体固体電池は、高いエネルギー密度を有しており、且つ電圧ドロップが少ない。
【0196】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
以下に本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] N型半導体とP型半導体との間に第一の絶縁層を設けた半導体固体電池。
[2] 前記第一の絶縁層は膜厚が3nm以上30μm以下、かつ比誘電率が50以下である[1]記載の半導体固体電池。
[3] 前記第一の絶縁層の比誘電率が10以下である[2]に記載の半導体固体電池。
[4] 前記第一の絶縁層は膜密度が真密度の60%以上である[1]ないし[3]のいずれか1つに記載の半導体固体電池。
[5] 前記N型半導体および前記P型半導体の少なくとも一方は、金属シリサイド、金属酸化物、アモルファスシリコン、結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンからなる群より選ばれる1種からなる[1]ないし[4]のいずれか1つに記載の半導体固体電池。
[6] 前記N型半導体または前記P型半導体は、電子または正孔の捕獲準位を導入している[1]ないし[5]のいずれか1つに記載の半導体固体電池。
[7] 前記N型半導体は、前記N型半導体におけるバンドギャップを100としたとき、50以上90以下の範囲に前記電子の捕獲準位が導入されている[6]に記載の半導体固体電池。
[8] 前記P型半導体は、前記P型半導体におけるバンドギャップを100としたとき、10以上50以下の範囲に前記正孔の捕獲準位が導入されている[6]又は[7]に記載の半導体固体電池。
[9] 前記N型半導体および前記P型半導体にそれぞれ電極が設けられている[1]ないし[8]のいずれか1つに記載の半導体固体電池。
[10] 前記N型半導体と前記電極との間に第二の絶縁層が設けられている、または前記P型半導体と前記電極との間に第三の絶縁層が設けられている、または前記N型半導体と前記電極との間に前記第二の絶縁層が設けられていると共に前記P型半導体と前記電極との間に前記第三の絶縁層とのが設けられている[9]記載の半導体固体電池。
[11] 前記第二の絶縁層および前記第三の絶縁層の少なくとも一方は膜厚が30nm以下、かつ比誘電率が50以下である[10]に記載の半導体固体電池。
[12] 前記第二の絶縁層および前記第三の絶縁層の少なくとも一方の比誘電率が10以下である[11]に記載の半導体固体電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8