(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/66 20060101AFI20220119BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20220119BHJP
H01F 10/30 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G11B5/66
G11B5/02 R
H01F10/30
(21)【出願番号】P 2018008830
(22)【出願日】2018-01-23
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017042585
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
(72)【発明者】
【氏名】神邊 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄二
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寿人
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中島 悟
(72)【発明者】
【氏名】山口 健洋
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087510(WO,A1)
【文献】特開2011-154746(JP,A)
【文献】特開2011-258256(JP,A)
【文献】特開2010-129163(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087665(WO,A1)
【文献】特開2016-157493(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0148632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/02
H01F 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、下地層と、L1
0型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とをこの順で有するアシスト磁気記録媒体であって、前記アシスト磁気記録媒体は、前記磁性層に接したピニング層を有し、前記ピニング層はCo又はCoを主成分とする合金を含
み、前記ピニング層を構成する磁性材料のキュリー温度(P
Tc
)と、前記磁性層を構成する磁性材料のキュリー温度(M
Tc
)との差(P
Tc
-M
Tc
)が、500K以上であることを特徴とするアシスト磁気記録媒体。
【請求項2】
前記ピニング層は前記磁性層に磁気情報を書き込んだ際の磁性粒子の磁化方向をピン止めする機能を有することを特徴とする請求項1に記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項3】
前記ピニング層は、Co又はCoを主成分とする合金と、SiO
2、Cr
2O
3、TiO
2、B
2O
3、GeO
2、MgO、Ta
2O
5、CoO、Co
3O
4、FeO、Fe
2O
3、及びFe
3O
4からなる群から選択される少なくとも1種類の酸化物を含むグラニュラー構造を有することを特徴とする請求項1
又は2のいずれ
かに記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項4】
前記ピニング層の層厚が0.5nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項5】
前記ピニング層を、前記磁性層の前記基板とは反対の側に有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体と、前記アシスト磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、前記アシスト磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系とを含む磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシスト磁気記録媒体、及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置に対する大容量化の要求は、益々強くなっている。
【0003】
しかしながら、現行の記録方式では、ハードディスク装置の記録密度の向上が難しくなってきている。
【0004】
アシスト磁気記録方式は、次世代の記録方式として盛んに研究され、注目されている技術の1つである。アシスト磁気記録方式は、磁気ヘッドから磁気記録媒体に近接場光又はマイクロ波を照射し、照射領域の保磁力を局所的に低下させて磁気情報を書き込む記録方式である。磁気記録媒体に近接場光を照射するタイプを熱アシスト磁気記録媒体、マイクロ波を照射するタイプをマイクロ波アシスト磁気記録媒体と呼ぶ。
【0005】
アシスト磁気記録方式では、磁性層を構成する材料として、L10型結晶構造を有するFePt(Ku~7×107erg/cm3)、同じくL10型結晶構造を有するCoPt(Ku~5×107erg/cm3)のような高Ku材料が用いられている。
【0006】
磁性層を構成する材料として、高Ku材料を用いると、KuV/kTが大きくなる。ここで、Kuは、磁性粒子の磁気異方性定数であり、Vは、磁性粒子の体積であり、kは、ボルツマン定数であり、Tは、温度である。このため、熱ゆらぎによる減磁を抑制しつつ、磁性粒子の体積を小さくすることができる。このとき、磁性粒子を微細化することにより、熱アシスト磁気記録方式では、遷移幅を狭くすることができるので、ノイズを低減することができ、シグナルノイズ比(SNR)を改善することができる。
【0007】
特許文献1には、MgOを主成分とする下地層の上にFePt合金からなるL10形規則合金層を設けた熱アシスト情報記録媒体が記載されている。
【0008】
特許文献2には、FePt合金からなるL10構造磁性層の上に、この磁性層を構成する磁性粒子間に交換結合を導入する目的で、Co系合金からなるHCP構造磁性層を設けた熱アシスト情報記録媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-353648号公報
【文献】特開2015-005326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アシスト磁気記録媒体では、磁気ヘッドから照射するレーザー光又はマイクロ波を用いて磁気記録媒体の保磁力を局所的に低下させて磁性層に磁気情報の書き込みを行う。発明者の検討によると、磁性層での書き込み直後における保磁力回復時において、書き込みビットの周辺部、ビットを構成する多数の磁性粒子の一部などで磁化反転が生じ、この磁化反転部が磁気記録媒体の読み込み時のノイズとなっていることがわかった。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決し、磁気記録媒体への情報書き込み時に起因するノイズを低減しつつ、シグナルのレベルを高めることにより、読み込み時のシグナルノイズ比に優れた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の項目(1)~(7)の実施形態を含む。
(1)
基板と、下地層と、L10型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とをこの順で有するアシスト磁気記録媒体であって、前記アシスト磁気記録媒体は、前記磁性層に接したピニング層を有し、前記ピニング層はCo又はCoを主成分とする合金を含むことを特徴とするアシスト磁気記録媒体。
(2)
前記ピニング層は前記磁性層に磁気情報を書き込んだ際の磁性粒子の磁化方向をピン止めする機能を有することを特徴とする(1)に記載のアシスト磁気記録媒体。
(3)
前記ピニング層を構成する磁性材料のキュリー温度(PTc)と、前記磁性層を構成する磁性材料のキュリー温度(MTc)との差(PTc-MTc)が、200K以上であることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載のアシスト磁気記録媒体。
(4)
前記ピニング層は、Co又はCoを主成分とする合金と、SiO2、Cr2O3、TiO2、B2O3、GeO2、MgO、Ta2O5、CoO、Co3O4、FeO、Fe2O3、及びFe3O4からなる群から選択される少なくとも1種類の酸化物を含むグラニュラー構造を有することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のアシスト磁気記録媒体。
(5)
前記ピニング層の層厚が0.5nm以上5nm以下であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のアシスト磁気記録媒体。
(6)
前記ピニング層を、前記磁性層の前記基板とは反対の側に有することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のアシスト磁気記録媒体。
(7)
(1)~(6)のいずれかに記載のアシスト磁気記録媒体と、前記アシスト磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、前記アシスト磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系とを含む磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気記録媒体への情報書き込み時に起因するノイズが低減されてシグナルのレベルを高めることができる。そのため、読み込み時のSNRが高い、高記録密度の磁気記憶装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態のアシスト磁気記録媒体を示す模式図である。
【
図2】一実施形態の磁気記憶装置を示す模式図である。
【
図3】
図2の磁気記憶装置の磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0016】
【0017】
図1に示す実施形態のアシスト磁気記録媒体100は、基板1の上に、シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4、L1
0型結晶構造を有する合金が(001)配向している磁性層5、ピニング層6、炭素保護層7、潤滑膜8を、この順で形成した構造を有する。
【0018】
ピニング層6は、Co又はCoを主成分とする合金を含む磁性材料の層であり、磁性層5に接して設けられる。ピニング層6は、磁性層5に磁気情報を書き込んだ際の、磁性粒子の磁化方向をピン止めする機能を有する。
【0019】
アシスト磁気記録媒体では、磁気ヘッドから照射するレーザー光又はマイクロ波を用いて磁気記録媒体の保磁力を局所的に低下させて磁性層に磁気情報の書き込みを行う。前述のように、発明者は、書き込み直後の保磁力回復時において、書き込みビットの周辺部、ビットを構成する多数の磁性粒子の一部などで磁化反転が生じ、この磁化反転部が磁気記録媒体の読み込み時のノイズとなっていることを解明した。この現象は、L10型結晶構造を有する磁性粒子の中に含まれる特に粒径の小さな粒子において、保磁力回復時に磁化方向の揺らぎ(熱アシスト媒体では熱揺らぎ)が生じ、これにより一部の磁性粒子では磁化方向の再反転が起こることに起因しているものと考えられる。
【0020】
発明者は、磁性層に接してピニング層を設け、このピニング層をキュリー温度の高いCo又はCoを主成分とする磁性材料で形成することにより、このような磁性粒子の磁化反転をピニング層でピン止めすることで防止できることを見出した。このことによりノイズ特性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0021】
一実施形態では、ピニング層を構成する磁性材料のキュリー温度(PTc)と、磁性層を構成する磁性材料のキュリー温度(MTc)との差(PTc-MTc)を、200K以上とするのが好ましく、300K以上とするのがより好ましく、500K以上とするのが特に好ましい。(PTc-MTc)の最適値は、ピニング層の構成材料及び層厚、磁性層の構成材料及び層厚、並びに磁性層を構成する磁性粒子の粒度分布に依存する。(PTc-MTc)を200K以上とすることで、ピニング層が磁性粒子の磁化反転をより効果的にピン止めすることができる。
【0022】
代表的な磁性材料のキュリー温度として、Coが1388K、Feが1044K、Niが624K、FePtがおおよそ750K、SmCo5がおおよそ1000K、CoCrPt系磁性合金がおおよそ400K~600Kであることが知られている。これらの値から、ピニング層の合金組成、及びキュリー温度を決定することができる。実用的な磁性材料の中で最もキュリー温度が高いのはCoであることから、PTc及び(PTc-MTc)が最大となるのは、純Co(Co単体)を用いた場合である。本発明では、(PTc-MTc)が大きいほどピニング層が磁性粒子の磁化反転をピン止めする効果を保証できるため、ピニング層は純Coを磁性材料として含むことが好ましい。
【0023】
一実施形態では、ピニング層としてキュリー温度の高いCo又はCoを主成分とする磁性合金を適宜選択することにより、(PTc-MTc)を好適な範囲とすることができる。ピニング層に好適に使用できる磁性材料としては、純Co、CoPt、CoB、CoSi、CoC、CoNi、CoFe、CoPtB、CoPtSi、CoPtC、CoGe、CoBN(非グラニュラー構造)、CoSi3N4(非グラニュラー構造)等が例示できる。これら以外でも、ピニング層に接する磁性層に含まれている元素、又は磁性層に拡散しても影響の少ない元素を添加した材料が挙げられる。
【0024】
Co以外の合金元素、例えばPt、B、Si、C、Ni、Fe、Ge、Nなどの含有量は、Coを含む全合金元素の合計を基準として15at%以下であることが好ましく、10at%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、主成分であるCoの飽和磁化及び/又はキュリー温度を大きく低下させずにピニング効果を発揮させることができる。
【0025】
ピニング層は、前述のように磁性層を構成する磁性粒子の磁化反転をピン止めすることを目的としているので、ピニング層を構成する磁性粒子は非グラニュラー構造である方が有利であるとも考えられる。しかしながら、発明者の検討によると、磁性層の上に非グラニュラー構造のピニング層を設けると、ピニング層の成膜条件によっては、ピニング層を介して磁性層を構成する磁性粒子同士が交換結合を起こし、ノイズが生成する場合がある。
【0026】
上記の問題が生じる場合、ピニング層をグラニュラー構造とすることが好ましく、磁性層を構成する磁性粒子と、ピニング層を構成する磁性粒子とが、それぞれの結晶粒子が厚み方向に連続した柱状晶であることが特に好ましい。これらの実施形態では、ピニング層を構成する磁性粒子間の交換結合を遮断することができ、ピニング層を介した磁性層を構成する磁性粒子同士の交換結合も遮断することができる。そのため、情報書き込み時のノイズの発生を効果的に抑制することができる。
【0027】
ピニング層は、Co又はCoを主成分とする合金と、酸化物、窒化物、炭化物、及び炭素(C)からなる群より選択される少なくとも1種の第2成分とを含むグラニュラー構造を有することが好ましく、ここで、酸化物は、SiO2、Cr2O3、TiO2、B2O3、GeO2、MgO、Ta2O5、CoO、Co3O4、FeO、Fe2O3、及びFe3O4からなる群から選択される少なくとも1種であり、窒化物は、BN、Si3N4、SiOxNy(x>0及びy>0)、TiN、ZrN、AlN、TaN、Ta2N、CrN、Cr2N、GaN、及びMg3N2からなる群から選択される少なくとも1種であり、炭化物は、TiC、SiC、ZrC、B4C、WC、VC、Al4C3、HfC、Mo2C、NbC、及びTaCからなる群から選択される少なくとも1種である。ピニング層は、Co又はCoを主成分とする合金と、SiO2、Cr2O3、TiO2、B2O3、GeO2、MgO、Ta2O5、CoO、Co3O4、FeO、Fe2O3、及びFe3O4からなる群から選択される少なくとも1種類の酸化物を含むグラニュラー構造を有することがより好ましい。これらの酸化物の中で、CoO、Co3O4、FeO、Fe2O3、及びFe3O4からなる群から選択される少なくとも1種類の酸化物を用いるのが特に好ましい。アシスト媒体の製造工程においてピニング層形成時に基板が高温である場合でも、これらの酸化物は熱分解しにくく、磁性粒子内又は他層への拡散も起きにくい。仮に酸化物が磁性粒子内又は他層に拡散した場合でも、磁性層及びピニング層の磁気特性への影響が少ない。
【0028】
酸化物の含有量は、Co又はCoを主成分とする合金と酸化物の合計を基準として10vol%~50vol%であることが好ましく、15vol%~45vol%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、グラニュラー構造を形成させながら、ピニング効果を十分に得ることができる。
【0029】
ピニング層の層厚は0.5nm以上5nm以下であることが好ましい。ピニング層の好適な層厚は、(PTc-MTc)の値、ピニング層の構成材料、磁性層の構成材料及び層厚、磁性層を構成する磁性粒子の粒度分布などに依存する。ピニング層の層厚が0.5nm以上であればより高いピニング効果を得ることができ、5nm以下であればピニング層からのノイズを抑制することができる。ピニング層の層厚の好ましい上限値はピニング層の構成材料に依存し、純Coであれば上限値を3nmとするのが特に好ましく、Co合金であれば上限値は5nmとするのが特に好ましい。
【0030】
ピニング層を、磁性層の基板とは反対の側に設けるのが好ましい。前述のように、Co又はCoを主成分とする合金で形成されるピニング層は、hcp構造等の、L10構造以外の結晶構造を取りうる。そのため、ピニング層を、磁性層の基板とは反対の側に設けることにより、磁性層の(001)配向したL10型結晶構造の乱れの発生を防止又は抑制することができる。
【0031】
図1に示す実施形態のアシスト磁気記録媒体100は、単層のシード層と、2層構造の下地層とを有し、基板1の側から、シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4が、この順で設けられている。これらの3層は、その上に形成されるL1
0型結晶構造を有する磁性層5と格子整合するのが好ましい。このようにシード層及び下地層を含む多層構造とすることで、磁性層5に含まれるL1
0型結晶構造を有する合金の(001)配向性をさらに高めることができる。
【0032】
シード層及び下地層としては、例えば、(100)配向したCr、W、MgOなどが例示される。
【0033】
シード層及び下地層の各層の間における格子ミスフィットは10%以下とするのが好ましい。格子ミスフィットを10%以下とすることができるシード層及び下地層としては、例えば、前述の(100)配向したCr、W、MgOなどを多層構造としたものが挙げられる。これらの下地層を確実に(100)配向とするため、シード層又は下地層の下に、Cr若しくはCrを主成分としたbcc構造の合金、又はB2構造を有する合金を用いてもよい。Crを主成分としたbcc構造の合金としては、CrMn、CrMo、CrW、CrV、CrTi、CrRu等が挙げられる。B2構造を有する合金としては、例えば、RuAl、NiAl等が挙げられる。
【0034】
磁性層5との格子整合性を高めるため、シード層及び下地層の少なくとも1つに酸化物を添加してもよい。
【0035】
酸化物としては、Cr、Mo、Nb、Ta、V、及びWからなる群から選択される1種以上の元素の酸化物が好ましい。特に好ましい酸化物として、CrO、Cr2O3、CrO3、MoO2、MoO3、Nb2O5、Ta2O5、V2O3、VO2、WO2、WO3、WO6などが挙げられる。
【0036】
酸化物の含有量は、2mol%~30mol%の範囲内であることが好ましく、10mol%~25mol%の範囲内であることが特に好ましい。酸化物の含有量が30mol%以下であれば、下地層の(100)配向性を所望の程度に維持することができ、2mol%以上であれば、磁性層5の(001)配向性を高める効果を十分に得ることができる。
【0037】
L10型結晶構造を有する合金が(001)配向している磁性層5は、磁気異方性定数Kuが高い合金で構成される。このような合金としては、例えば、FePt合金、CoPt合金等が挙げられる。
【0038】
磁性層5は、その成膜時に、L10型結晶構造を有する合金の規則化を促進するために、加熱処理することが好ましい。この場合、加熱温度(規則化温度)を低減するために、L10型結晶構造を有する合金に、Ag、Au、Cu、Ni等を添加してもよい。
【0039】
磁性層5に含まれるL10型結晶構造を有する合金の結晶粒子は、磁気的に孤立していることが好ましい。このため、磁性層5は、SiO2、TiO2、Cr2O3、Al2O3、Ta2O5、ZrO2、Y2O3、CeO2、GeO2、MnO、TiO、ZnO、B2O3、C、B、及びBNからなる群から選択される1種以上の添加物質をさらに含有していることが好ましい。これにより、結晶粒子間の交換結合をより確実に分断し、アシスト磁気記録媒体100のSNRをより高めることができる。
【0040】
磁性層5に含まれる磁性粒子の平均粒径は特に限定されない。記録密度増大の観点から磁性粒子の平均粒径は10nm以下など小さい方が好ましいが、磁性粒子体積が小さくなると書き込み直後の熱ゆらぎの影響を受けやすくなる。しかし、本発明のピニング層を磁性層に接して設けることで磁化方向をピン止めでき、平均粒径が小さな磁性粒子からなる磁気記録媒体でも書き込み直後の再反転に由来するノイズを低減し、再生時のSNRを高めることができる。磁性粒子の平均粒径は、平面TEM観察画像を用いて決定することができる。例えば、TEMの観察画像から、200個の粒子について粒径(円相当径)を測定し、積算値50%での粒径を平均粒径とすることができる。平均粒界幅は0.3nm以上2.0nm以下であることが好ましい。
【0041】
磁性層5は多層構造としてもよい。一実施形態では、磁性層5は、SiO2、TiO2、Cr2O3、Al2O3、Ta2O5、ZrO2、Y2O3、CeO2、GeO2、MnO、TiO、ZnO、B2O3、C、B、及びBNからなる群から選択される1種以上の添加物質がそれぞれの層で異なる、2層以上の多層構造を有する。
【0042】
磁性層の層厚は特に限定されないが、1nm以上20nm以下であることが好ましく、3nm以上15nm以下であることがより好ましい。磁性層の層厚が1nm以上であることにより十分な再生出力を得ることができ、20nm以下であることにより結晶粒子の肥大化を抑制することができる。磁性層が多層構造を有する場合、磁性層の層厚は全ての層の合計厚さを指す。
【0043】
一実施形態における磁気記録媒体100では、ピニング層6の上に、炭素保護層7を形成する。
【0044】
炭素保護層7の形成方法は特に限定されるものではない。炭素保護層7は、例えば炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して膜を形成するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して膜を形成するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに固体Cターゲットを用いて膜を形成するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等により形成できる。
【0045】
炭素保護層7の層厚についても特に限定されるものではないが、例えば、1nm以上、6nm以下の範囲内とすることが好ましい。層厚を1nm以上とすることで磁気ヘッドの浮上特性の劣化を抑制することができ、層厚を6nm以下とすることで磁気スペーシングロスの増大を抑制して、磁気記録媒体のSNRの低下を抑制又は防止することができる。
【0046】
炭素保護層7の上には、さらにパーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂を含む潤滑膜組成物を用いて潤滑膜8を形成することができる。
【0047】
(磁気記憶装置)
磁気記憶装置の構成例について説明する。
【0048】
一実施形態の磁気記憶装置は、一実施形態のアシスト磁気記録媒体を含む。
【0049】
磁気記憶装置は、例えば、アシスト磁気記録媒体を回転させるためのアシスト磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッドとを有する構成とすることができる。磁気記憶装置は、アシスト磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、レーザー発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系をさらに有することができる。
【0050】
図2に、一実施形態の磁気記憶装置を示す。
図2に示す磁気記憶装置は、アシスト磁気記録媒体100と、アシスト磁気記録媒体100を回転させるためのアシスト磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104を含む。
【0051】
図3に、熱アシスト磁気記録媒体用の磁気ヘッド102の一例を示す。磁気ヘッド102は、記録ヘッド208と、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザー発生部となるレーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211は、シールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0052】
マイクロ波アシスト磁気記録媒体用の磁気ヘッドは、熱アシスト磁気記録媒体用の磁気ヘッド102のレーザー発生部となるレーザーダイオード(LD)204等をマイクロ波発生部等に置き換えたものであるので、その説明を省略する。
【0053】
図2に示す磁気記憶装置は、アシスト磁気記録媒体100を用いているため、磁気記録媒体への情報書き込み時に起因するノイズを低減し、読み込み時のSNRを高めることが可能となる。それにより高記録密度の磁気記憶装置を提供することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
アシスト磁気記録媒体100(
図1参照)を作製した。以下に、アシスト磁気記録媒体100の製造工程を説明する。
【0056】
外径2.5インチガラス基板1上に、膜厚50nmの50at%Cr-50at%Tiを成膜し、350℃になるように基板加熱を行った後、シード層2として、膜厚15nmのCrを形成し、その上に第1の下地層3として、膜厚30nmのWを成膜し、更に第2の下地層4として、膜厚3nmからなるMgOを成膜した。その後、基板温度を650℃まで加熱し、磁性層5として、膜厚2nmの(50at%Fe-50at%Pt)-40mol%Cと、膜厚4.5nmの(50at%Fe-50at%Pt)-15mol%SiO2を順次成膜した。この磁性層5の上に、ピニング層6として、表1に示される、膜厚1.2nmのCo-9.5mol%SiO2を成膜した。その後、膜厚4nmの炭素保護層7を形成し、その上に潤滑膜8を膜厚1.5nmで塗布して、磁気記録媒体100を製造した。
【0057】
(評価)
磁気ヘッド102(
図3参照)を用いて、線記録密度1500kFCIのオールワンパターン信号をアシスト磁気記録媒体に記録し、ノイズとSNRを測定した。ここで、レーザーダイオードに投入するパワーは、トラックプロファイルの半値幅と定義したトラック幅MWWが60nmとなるように調整した。(P
Tc-M
Tc)の値からピニング効果をA、B、Cで評価した。Aは特に好ましいピニング効果が得られる場合、Bは実用レベルのピニング効果が得られる場合、Cは十分なピニング効果が得られない場合を示す。評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2~24、比較例1~9)
表1のように製造条件を変更した以外は実施例1と同様にアシスト磁気記録媒体を製造した。ピニング層において合金を構成する元素の前に付いた数値はat%であり、酸化物の前に付いた数値はmol%である。評価結果を表1に示す。
【0059】
比較例1は、磁性層の上にピニング層も交換結合層もないため、見かけ上のノイズは低減しているものの、シグナルも低下してSNRは大きく低下している。比較例2及び3のピニング層は、磁性材料としてキュリー温度が1000K近くある純Feを含み、(PTc-MTc)の値は300Kと比較的大きい。しかし、Feの磁気異方性定数(Ku)はCoの磁気異方性定数よりも小さいため、高温での飽和磁化(Ms)もCoと比較して小さくなる。その結果、ピニング効果が小さくなりノイズが高い。
【0060】
【0061】
【0062】
【符号の説明】
【0063】
1 基板
2 シード層
3 第1の下地層
4 第2の下地層
5 磁性層
6 ピニング層
7 炭素保護層
8 潤滑膜
100 アシスト磁気記録媒体
101 アシスト磁気記録媒体駆動部
102 磁気ヘッド
103 磁気ヘッド駆動部
104 記録再生信号処理系
201 主磁極
202 補助磁極
203 コイル
204 レーザーダイオード
205 レーザー光
206 近接場光発生素子
207 導波路
208 記録ヘッド
209 シールド
210 再生素子
211 再生ヘッド
212 熱アシスト磁気記録媒体