(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】ボールジョイント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20220121BHJP
B60G 7/02 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
F16C11/06 N
F16C11/06 A
B60G7/02
(21)【出願番号】P 2017200291
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】横井 良紘
(72)【発明者】
【氏名】清川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雅之
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5641235(US,A)
【文献】国際公開第2016/175417(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2857234(EP,A1)
【文献】特公昭50-30778(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
B60G 1/00-99/00
B29C 45/14
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、
この連結部材の孔部に配置された筒状のシート部材と、
このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、
前記シート部材は、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成され
、
前記孔部は、少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されている
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、
この連結部材の孔部に配置された筒状のシート部材と、
このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、
前記シート部材は、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成され、
前記連結部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出し、
前記受け側部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部を覆っている
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、
この連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置された筒状のシート部材と、
このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し
、
前記孔部は、少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されている
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項4】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、
この連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置された筒状のシート部材と、
このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、
前記連結部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出し、
前記受け側部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部を覆っている
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項5】
シート部材は、受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成されている
ことを特徴とする請求項
3または4記載のボールジョイント
。
【請求項6】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し
、前記孔部が少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているボールジョイントの製造方法であって、
前記ボール部を回動可能に保持した、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂製の前記シート部材を、前記連結部材の孔部に配置し、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形する
ことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項7】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記連結部材の前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出するボールジョイントの製造方法であって、
前記ボール部を回動可能に保持した、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂製の前記シート部材を、前記連結部材の孔部に配置し、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側にて前記孔部の前記スタッド部側の縁部を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形する
ことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項8】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し
、前記孔部が少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているボールジョイントの製造方法であって、
前記ボール部を回動可能に保持した前記シート部材を前記連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形する
ことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項9】
長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記連結部材の前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出するボールジョイントの製造方法であって、
前記ボール部を回動可能に保持した前記シート部材を前記連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、
前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形する
ことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の受け側部材を備えたボールジョイント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車などの車両は、軽量化が要求されており、部品の樹脂化が進められている。例えば、車体を構成するナックルやシャシーなどの構成品への接続部品となるボールジョイントにおいて、ボールスタッドは強度の問題から樹脂化が困難であるため、ハウジングの樹脂化が検討されている。
【0003】
しかしながら、ボールジョイントのハウジング、あるはハウジングを一体成形したリンクを合成樹脂のみで構成する場合、衝撃などの入力負荷(荷重)が高い車両によっては静的強度や疲労強度(動的強度)が不足する場合があり、使用が限定され一般化に至っていない。
【0004】
そこで、リンクを金属などの強度が高い材料により構成し、その端部に形成されるハウジングを合成樹脂とする構成が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5923154号公報(第5-12頁、
図3)
【文献】特開2017-141906号公報(第8-16頁、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のボールジョイントの場合、リンクの強度は確保できるものの、ハウジング、すなわちボール部及びベアリングシートの周辺の強度は、リンクまで全てを合成樹脂で構成した従来の場合と変わらず、性能、特にボールスタッドの耐久性などの重要な性能が不足することが懸念される。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のボールジョイントは、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、この連結部材の孔部に配置された筒状のシート部材と、このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、前記シート部材は、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成され、前記孔部は、少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているものである。
【0009】
請求項2記載のボールジョイントは、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、この連結部材の孔部に配置された筒状のシート部材と、このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、前記シート部材は、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成され、前記連結部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出し、前記受け側部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部を覆っているものである。
【0010】
請求項3記載のボールジョイントは、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、この連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置された筒状のシート部材と、このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、前記孔部は、少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているものである。
【0011】
請求項4記載のボールジョイントは、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、この連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置された筒状のシート部材と、このシート部材に回動可能に保持されたボール部、及び、このボール部から前記シート部材の外方に突出し被接続部に対して接続されるスタッド部を備えたボール側部材と、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って成形された樹脂製の受け側部材とを具備し、前記連結部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出し、前記受け側部材は、前記孔部の前記スタッド部側の縁部を覆っているものである。
【0012】
請求項5記載のボールジョイントは、請求項3または4記載のボールジョイントにおいて、シート部材は、受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成されているものである。
【0013】
請求項6記載のボールジョイントの製造方法は、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記孔部が少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているボールジョイントの製造方法であって、前記ボール部を回動可能に保持した、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂製の前記シート部材を、前記連結部材の孔部に配置し、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形するものである。
【0014】
請求項7記載のボールジョイントの製造方法は、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記連結部材の前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出するボールジョイントの製造方法であって、前記ボール部を回動可能に保持した、前記受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂製の前記シート部材を、前記連結部材の孔部に配置し、前記シート部材及び前記連結部材の端部側にて前記孔部の前記スタッド部側の縁部を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形するものである。
【0015】
請求項8記載のボールジョイントの製造方法は、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記孔部が少なくとも前記スタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているボールジョイントの製造方法であって、前記ボール部を回動可能に保持した前記シート部材を前記連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形するものである。
【0016】
請求項9記載のボールジョイントの製造方法は、長尺に形成され、長手方向と交差する方向に沿う孔部を端部側に備えた金属製の連結部材と、筒状のシート部材と、ボール部、及び、このボール部から突出するスタッド部を備えたボール側部材と、樹脂製の受け側部材とを具備し、前記連結部材の前記孔部の前記スタッド部側の縁部が前記シート部材の隣接位置と同等またはこのスタッド部側に突出するボールジョイントの製造方法であって、前記ボール部を回動可能に保持した前記シート部材を前記連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、前記シート部材及び前記連結部材の端部側を一体的に覆って前記受け側部材を射出成形するものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載のボールジョイントによれば、連結部材の端部側に設けた孔部に受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成されたシート部材及びこのシート部材によりボール部が回動可能に保持されたボール側部材が配置され、これらシート部材及び連結部材の端部側を一体的に覆って樹脂製の受け側部材が成形されるので、受け側部材を成形する際の熱に起因するシート部材の軟化に伴う変形や荷重入力時の変形を抑制できるとともに、シート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持でき、かつ、孔部が少なくともスタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているので、ボール側部材の引き抜き方向に対するシート部材やボール側部材の抗力を増加させることができ、性能を確保しつつ、軽量化可能になる。
【0018】
請求項2記載のボールジョイントによれば、連結部材の端部側に設けた孔部に受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成されたシート部材及びこのシート部材によりボール部が回動可能に保持されたボール側部材が配置され、連結部材の孔部のスタッド部側の縁部をシート部材の隣接位置と同等またはこのシート部材よりもスタッド部側に突出させ、これらシート部材及び連結部材の端部側にて穴部のスタッド部側の縁部を一体的に覆って樹脂製の受け側部材が成形されるので、受け側部材を成形する際の熱に起因するシート部材の軟化に伴う変形や荷重入力時の変形を抑制できるとともに、受け側部材が孔部のスタッド部側の縁部を抱え込んでシート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持でき、性能を確保しつつ、軽量化可能になる。
【0019】
請求項3記載のボールジョイントによれば、連結部材の端部側に設けた孔部に、シート部材の少なくとも一部が径方向に接触して配置されるとともにこのシート部材によりボール部が回動可能に保持されたボール側部材が配置され、これらシート部材及び連結部材の端部側を一体的に覆って樹脂製の受け側部材が成形されるので、シート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持でき、かつ、孔部が少なくともスタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されているので、ボール側部材の引き抜き方向に対するシート部材やボール側部材の抗力を増加させることができ、性能を確保しつつ、軽量化可能になる。
【0020】
請求項4記載のボールジョイントによれば、連結部材の端部側に設けた孔部に、シート部材の少なくとも一部が径方向に接触して配置されるとともにこのシート部材によりボール部が回動可能に保持されたボール側部材が配置され、連結部材の孔部のスタッド部側の縁部をシート部材の隣接位置と同等またはこのシート部材よりもスタッド部側に突出させ、これらシート部材及び連結部材の端部側にて穴部のスタッド部側の縁部を一体的に覆って樹脂製の受け側部材が成形されるので、受け側部材が孔部のスタッド部側の縁部を抱え込んでシート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持でき、性能を確保しつつ、軽量化可能になる。
【0021】
請求項5記載のボールジョイントによれば、請求項3または4記載のボールジョイントの効果に加えて、受け側部材を成形する際の熱に起因するシート部材の軟化に伴う変形や荷重入力時の変形を抑制できる。
【0022】
請求項6記載のボールジョイントの製造方法によれば、ボール部を回動可能に保持したシート部材を受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成して連結部材の端部側に少なくともスタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成した孔部に配置し、シート部材及び連結部材の端部側を一体的に覆って受け側部材を樹脂により射出成形することで、受け側部材を射出成形する際の熱に起因するシート部材の軟化に伴う変形や荷重入力時の変形を抑制でき、かつ、ボール側部材の引き抜き方向に対するシート部材やボール側部材の抗力を増加させることができ、性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイントを容易に製造できる。
【0023】
請求項7記載のボールジョイントの製造方法によれば、ボール部を回動可能に保持したシート部材を受け側部材の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成して連結部材の孔部に配置し、シート部材及び連結部材の端部側にてシート部材の隣接位置と同等またはこのシート部材よりもスタッド部側に突出する孔部のスタッド部側の縁部を一体的に覆って受け側部材を樹脂により射出成形することで、受け側部材を射出成形する際の熱に起因するシート部材の軟化に伴う変形や荷重入力時の変形を抑制でき、かつ、受け側部材が孔部のスタッド部側の縁部を抱え込んでシート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持して性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイントを容易に製造できる。
【0024】
請求項8記載のボールジョイントの製造方法によれば、ボール部を回動可能に保持したシート部材を、連結部材の端部側に少なくともスタッド部側とは反対側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成した孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、シート部材及び連結部材の端部側を一体的に覆って受け側部材を樹脂により射出成形することで、ボール側部材の引き抜き方向に対するシート部材やボール側部材の抗力を増加させることができ、性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイントを容易に製造できる。
【0025】
請求項9記載のボールジョイントの製造方法によれば、ボール部を回動可能に保持したシート部材を連結部材の孔部に少なくとも一部を径方向に接触させて配置し、シート部材及び連結部材の端部側にてシート部材の隣接位置と同等またはこのシート部材よりもスタッド部側に突出する孔部のスタッド部側の縁部を一体的に覆って受け側部材を樹脂により射出成形することで、受け側部材によって孔部のスタッド部側の縁部を抱え込み、シート部材及びボール側部材を受け側部材によって強固に保持して性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイントを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施の形態のボールジョイントを示す断面図である。
【
図2】同上ボールジョイントの連結部材を示す断面図である。
【
図3】同上ボールジョイントの製造方法を(a)ないし(d)の順に模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態のボールジョイントの連結部材を示す断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態のボールジョイントの連結部材の孔部近傍を拡大して示す断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施の形態のボールジョイントの連結部材の孔部近傍を拡大して示す断面図である。
【
図7】本発明の第5の実施の形態のボールジョイントの連結部材の孔部近傍を拡大して示す断面図である。
【
図8】本発明の第6の実施の形態のボールジョイントの連結部材の孔部近傍を拡大して示す断面図である。
【
図9】本発明の第7の実施の形態のボールジョイントの連結部材の孔部近傍を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を、図面を参照して説明する。
【0028】
図1において、10はボールジョイントである。このボールジョイント10は、自動車などの車両のスタビライザ装置に用いられるスタビライザリンク(スタビリンク)の一部をなしている。スタビライザ装置は、例えば左右の車輪に対して用いられる懸架装置の一部をなすもので、コーナリング中などの車両の旋回時のロールを抑制する。なお、ロールとは、車両の走行前後方向に沿う軸を中心とする車両の回動をいう。そして、スタビライザリンクは、車輪を弾性的に支持する被接続部としての車輪支持部材であるサスペンションアームとスタビライザバーとを相対的に可動するように連結するものである。
【0029】
ボールジョイント10は、連結部材としてのリンク部15を備えている。また、このボールジョイント10は、シート部材(ベアリングシート)としてのボールシート16を備えている。さらに、このボールジョイント10は、ボール側部材としてのボールスタッド17を備えている。また、このボールジョイント10は、受け側部材としてのハウジング18を備えている。さらに、このボールジョイント10は、図示しないが、閉塞部材としてのダストカバーを備えている。なお、以下、上下方向は各図中の上下方向を言うものとする。また、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での長手方向(すなわち
図1及び
図2中の上下方向)を軸方向といい、この軸方向に対して直交する方向を軸直方向というものとする。したがって、ボールジョイント10の中心軸とは、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での中心軸と一致(略一致も含む)するものとする。
【0030】
図1及び
図2に示すリンク部15は、例えば金属により長尺に形成されている。このリンク部15は、本実施の形態において、例えば棒材や角材などの中実材Sにより形成されている。このリンク部15は、一端部側に孔部21を有している。また、このリンク部15は、孔部21の周縁部が、この周縁部と隣接するボールシート16の端部と同等すなわち略面一(面一も含む)、または、ボールシート16に対して僅かに突出する厚肉部22となっている。なお、このリンク部15の他端部側には、図示しないが、一端部側と同様のボールジョイント10が形成されていてもよい。
【0031】
孔部21は、円形状であり、リンク部15の長手方向に対して交差(直交)する方向である上下方向に沿って形成されている。また、この孔部21は、下側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されている。
【0032】
厚肉部22は、孔部21の上下の開口縁の周縁部に形成されている。この厚肉部22は、例えば孔部21に向かって徐々に盛り上がるように突出している。
【0033】
ボールシート16は、例えば耐摩耗性に優れる合成樹脂製などにより筒状(円筒状)に形成されている。例えば、このボールシート16は、ハウジング18の成形温度(射出温度)よりも融点が高い合成樹脂により形成されている。本実施の形態において、このボールシート16は、有底円筒状に形成されている。このボールシート16は、リンク部15の孔部21内に配置されており、ハウジング18により覆われている。すなわち、このボールシート16は、上下方向に沿って軸方向を有するように形成されている。このボールシート16は、少なくとも上端側に開口25を有している。また、このボールシート16の内周面は、開口25に連続する円筒面状の摺接面26となっている。さらに、このボールシート16の外縁部の上下両端部は、リンク部15の厚肉部22と隣接している。なお、このボールシート16の外周面は、孔部21の内周面に対して当接していてもよい。さらには、このボールシート16の外周側には、孔部21の内周面に対して接触する凸部が設けられていてもよい。
【0034】
ボールスタッド17は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部28と、このボール部28に連結された軸状のスタッド部29とを一体に備えている。
【0035】
ボール部28は、外周面の一部がボールシート16に潤滑剤(グリース)を介して摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部28は、ボールシート16とともに孔部21の内部に収容されている。本実施の形態において、ボール部28の中心部は、リンク部15の厚み方向(長手方向に対して直交する方向)である上下方向の中心部と略一致している。換言すれば、ボール部28の中心部は、リンク部15の厚み方向の中心線上に位置している。
【0036】
スタッド部29は、サスペンションアーム、あるいはスタビライザバーと接続されて荷重が加わる部分であり、リンク部15及びハウジング18から外方(
図1中の上方)へと突出している。このスタッド部29は、開口25からボールシート16の外部へと露出し、孔部21に対して上方へと延出されている。このスタッド部29の先端側、すなわちボール部28と反対側には、接続部としての雄ねじ部31が形成されている。また、このスタッド部29には、本実施の形態において、例えば接続安定部としての鍔部32が形成されている。
【0037】
雄ねじ部31は、例えばサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側に形成された図示しない挿通穴などに挿通されてナットなどが螺合されることで、ボールスタッド17(スタッド部29)をサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側と接続する部分である。
【0038】
鍔部32は、スタッド部29からフランジ状に突設されている。この鍔部32は、サスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側と面接触することで、ボールジョイント10側とサスペンションアーム、あるいはスタビライザバー側との接触面積を確保して、雄ねじ部31による接続状態を安定させるものである。
【0039】
ハウジング18は、ソケットなどとも呼ばれるもので、例えば合成樹脂により射出成形されている。このハウジング18は、ボールシート16とともにリンク部15の端部側を一体的に覆って形成されている。すなわち、このハウジング18は、ボール部28を内包したボールシート16をリンク部15の端部側とともに内部に保持している。そして、このハウジング18は、リンク部15の端部側を覆う連結部材被覆部としてのリンク部被覆部35と、孔部21を含んでボールシート16を覆って保持するシート部材被覆部としてのボールシート被覆部36とを一体に備えている。また、このハウジング18は、ボールスタッド17のスタッド部29が突出する受け側部材開口部であるハウジング開口部37を上部に備えている。さらに、このハウジング18は、ダストカバーを取り付けるためのカバー取付部38を上部に備えている。
【0040】
リンク部被覆部35は、リンク部15の上下面から側面に亘る部分を例えば略一定厚みで覆うように形成されている。
【0041】
ボールシート被覆部36は、リンク部被覆部35から連続してリンク部15の上側の厚肉部22を越えてボールシート16の上端部の上部に亘る部分までを覆っている。すなわち、このボールシート被覆部36は、リンク部15の上側の厚肉部22の上部を包み込んでボールシート16の外縁部を上方から押さえる押さえ部41を備えている。また、このボールシート被覆部36は、リンク部被覆部35から連続してリンク部15の下側の厚肉部22を越えてボールシート16の底部を覆っている。すなわち、このボールシート被覆部36は、ボールシート16の底部を保持する保持部42を備えている。
【0042】
ハウジング開口部37は、ボールシート16の開口25と連通して形成され、上方に向かって徐々に拡開されている。
【0043】
カバー取付部38は、ボールシート被覆部36の押さえ部41の上部に連続して上方に突設されている。このカバー取付部38は、リンク部被覆部35よりも上方に突出しており、ハウジング開口部37の周縁に立ち上げられている。そして、このカバー取付部38は、全周に亘り連続する溝状に形成されている。
【0044】
ダストカバーは、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれ、ボールスタッド17の揺動に拘らずハウジング18のハウジング開口部37を覆い、ハウジング18あるいはボールシート16の内部への水分及び塵埃などの侵入を阻止するものである。このダストカバーは、例えば合成樹脂により略円筒状に形成され、下端側がボールスタッド17のスタッド部29の外周面(鍔部32の下側の位置)に固定され、上端側がハウジング18のカバー取付部38に嵌着され、この上端側の外周面に取り付けられた図示しないリング状の固定部材により締め付け固定されている。
【0045】
次に、上記第1の実施の形態の製造方法を、
図3も参照しながら説明する。
【0046】
まず、中実材などを加工して孔部21を備えるリンク部15を予め形成する(
図3(a))。
【0047】
また、別途成形されたボールシート16の摺接面26にボールスタッド17のボール部28を回動可能に保持した状態で、このボールシート16及びボール部28をリンク部15の孔部21に配置した第1中間体M1を形成する(
図3(b))。なお、ボールスタッド17のスタッド部29は、ボール部28と予め一体に形成されていてもよいし、後工程でボール部28に対して溶接などにより接続されてもよい。
【0048】
そして、上記第1中間体M1を成形型(金型)DのキャビティCにセットし(
図3(c))、リンク部15の孔部21を含む端部側及びこの孔部21に配置されたボールシート16を覆ってキャビティCに合成樹脂を射出し、ハウジング18を成形する(
図3(d))。この結果、ボールスタッド17のボール部28を回動可能に保持するボールシート16がハウジング18の内部に収容保持された第2中間体M2を形成する。
【0049】
この後、成形型Dを開いてこの第2中間体M2を成形型Dから取り外し、ダストカバーを嵌着するなど、所定の仕上げ加工を施してボールジョイント10(スタビライザリンク)を製造する。
【0050】
上述したように、上記第1の実施の形態によれば、リンク部15の端部側に設けた孔部21にボールシート16及びこのボールシート16によりボール部28が回動可能に保持されたボールスタッド17が配置され、これらボールシート16及びリンク部15の端部側を一体的に覆って樹脂製のハウジング18が成形されるので、例えば合成樹脂製のハウジングのみでボールシート16及びボールスタッド17を保持する場合と比較してボールシート16及びボールスタッド17をハウジング18によって強固に保持でき、性能、特にボールスタッド17の耐久性を確保しつつ、軽量化可能になる。
【0051】
さらに、リンク部15の孔部21のスタッド部29側すなわち上側の縁部(厚肉部22)をボールシート16の隣接位置(外縁部の上端部)に対して同等もしくはスタッド部29側に突出させ、この縁部(厚肉部22)をハウジング18により覆うことで、ハウジング18が孔部21のスタッド部29側である上側の縁部(厚肉部22)を抱え込み、ボールシート16及びボールスタッド17をハウジング18によって強固に保持できるとともに、荷重入力時のシート変形を抑制できる。
【0052】
そして、ボールシート16をハウジング18の成形温度よりも融点が高い樹脂により形成することで、ハウジング18を成形する際の熱に起因するボールシート16の軟化に伴う変形を抑制できる。
【0053】
また、孔部21の内周面とボールシート16の外周面(凸部)とを当接させる場合には、孔部21とボールシート16との間の微小隙間を確実に排除した状態で合成樹脂により包み込むようにハウジング18を成形できるので、ボールジョイント11の特性及び耐久性を向上できる。
【0054】
そして、ボールジョイント10を製造する際には、ボール部28を回動可能に保持したボールシート16をリンク部15の孔部21に配置し、ボールシート16及びリンク部15の端部側を一体的に覆ってハウジング18を射出成形することで、ボールシート16及びボールスタッド17をハウジング18によって強固に保持して性能を確保しつつ、軽量化可能なボールジョイント10を容易に製造できる。
【0055】
なお、上記第1の実施の形態において、
図4に示す第2の実施の形態のように、リンク部15は、板状材Pに穴を配置して孔部21とすることもできる。また、リンク部15は、中空材(パイプ材など)の端部を塑性変形させて板状としたものとすることもできる。
【0056】
さらに、リンク部15は、孔部21を含む端部とその他の部分とを別体とすることもできる。
【0057】
これらの構成により、使用状況(用途)や要求される性能に合わせてリンク部15を選択でき、設計の自由度を向上できる。
【0058】
また、上記各実施の形態において、孔部21は、少なくともスタッド部29側とは反対側である下側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有して形成されていてもよい。例えば、
図5に示す第3の実施の形態のように、孔部21が、下側の開口縁から上方に向かって徐々に縮径する(開口面積が狭くなる)縮径面21aと、この縮径面21aの上端部に連続し略一定の径寸法を有する(開口面積が略一定の)非縮径面21bとを有していてもよい。縮径面21aは、例えば截頭円錐面状(テーパ状)に形成されており、孔部21の上下方向の下部(下側の開口縁)から中央部に亘って形成されていてもよい。この場合には、ボールスタッド17の引き抜き方向(スタッド部29側である上方向)に対するボールシート16やボールスタッド17の抗力を増加させることができ、ボールスタッド17の耐久性を確保できる。
【0059】
同様に、例えば
図6に示す第4の実施の形態のように、縮径面21aの上端部に連続し上方に向かって徐々に拡径する(開口面積が大きくなる)拡径面21cを孔部21の上側の開口縁まで連続的に有する構成としてもよいし、
図7に示す第5の実施の形態のように、縮径面21aの上端部に非縮径面21bが連続し、この非縮径面21bの上端部に拡径面21cが連続する構成としてもよいし、
図8に示す第6の実施の形態のように、孔部21の下側の開口縁から上側の開口縁まで連続的に徐々に縮径する構成でもよい。さらに、
図9に示す第7の実施の形態のように、孔部21の内部に、段差状に突出する段差部21dを形成することで孔部21の下側の開口縁よりも開口面積が小さい部分を有する構成としてもよい。なお、これら
図5ないし
図9においては、説明をより明確にするために、縮径面21a、拡径面21c、段差部21dを誇張して図示している。
【0060】
そして、上記各実施の形態において、ボールジョイント10は、車両用に限らず、その他の任意の用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、例えば自動車などの車両のスタビライザ装置用のスタビライザリンクとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 ボールジョイント
15 連結部材としてのリンク部
16 シート部材としてのボールシート
17 ボール側部材としてのボールスタッド
18 受け側部材としてのハウジング
21 孔部
28 ボール部
29 スタッド部