(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルム、及び液晶ポリマーフィルムから成る積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/06 20060101AFI20220121BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20220121BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220121BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220121BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
C08G63/06
B32B15/09 Z
B32B7/023
C08J5/18 CFD
H05K1/03 630H
H05K1/03 610M
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020210267
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2021-07-28
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】杜安邦
(72)【発明者】
【氏名】呉佳鴻
(72)【発明者】
【氏名】陳建鈞
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-090570(JP,A)
【文献】特開2003-340918(JP,A)
【文献】特開2007-217579(JP,A)
【文献】特開平06-240019(JP,A)
【文献】特開2019-043980(JP,A)
【文献】特開2004-323663(JP,A)
【文献】特開2012-167224(JP,A)
【文献】特開2012-186453(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0060309(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0135469(US,A1)
【文献】米国特許第05746949(US,A)
【文献】米国特許第05998804(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0352456(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08G 63/00 - 64/42
H05K 1/00 - 1/02
H05K 1/03
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーフィルムであって、前記液晶ポリマーフィルムの材料は式(1)、
‐L
1‐Ar‐L
2‐ (1)
で表す構造単位から成る液晶ポリマー樹脂であり、
式中、‐L
1‐及び‐L
2‐はそれぞれ‐O‐又は‐CO‐であり、‐Ar‐はアリーレン基であり、
式(1)は、以下の構造単位、
【化1】
及び
【化2】
から成り、
式(1)で表す前記構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表す前記構造単位のモル数は15mol%~40mol%の範囲であり、
式(I)及び(II)で表す前記構造単位の合計モル数は80mol%~100mol%の範囲であり、
前記液晶ポリマーフィルムは、μmの単位で表す厚さ及び透過率(TT%)を有し、
前記厚さ及び前記透過率の値を式(III)
:Log(1/TT%)/(厚さ)
0.5
に代入すると、0.055より大きく0.090より小さい値が得られ
、
前記透過率は標準法ASTM D1003に従って定義することを特徴とする、
液晶ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記液晶ポリマーフィルムの厚さは10μm~200μmの範囲である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項3】
前記液晶ポリマーフィルムの透過率は8%以上60%未満である、請求項1又は2に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項4】
前記液晶ポリマーフィルムは互いに相対する第1表面及び第2表面から成り、前記第1表面の尖度(Sku)は1以上300以下であ
り、前記Skuは標準法ISO25178‐2:2012に従って定義する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項5】
前記第1表面のSkuは10以上300以下である、請求項4に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項6】
前記第1表面のSkuは15以上300以下である、請求項4に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項7】
前記液晶ポリマーフィルムは互いに相対する前記第1表面及び前記第2表面から成り、前記第1表面の表面相加平均高さ(Sa)は0.29μm以下であ
り、前記Saは標準法ISO25178‐2:2012に従って定義する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項8】
前記第1表面のSaは0.02μm以上0.29μm以下である、請求項7に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項9】
前記第1表面のSaは0.03μm以上0.20μm以下である、請求項7に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項10】
式(1)で表す前記構造単位の前記総モル数に基づいて、式(I)で表す前記構造単位のモル数は22mol%~27mol%の範囲であり、式(I)及び(II)で表す前記構造単位の合計モル数は100mol%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項11】
第1金属箔、及び請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルムから成る積層体であって、
前記液晶ポリマーフィルムは互いに相対する第1表面及び第2表面から成り、
前記第1金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第1表面上に配置することを特徴とする、
積層体。
【請求項12】
前記積層体は第2金属箔から成り、前記第2金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第2表面上に配置する、請求項11に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、積層体用ポリマーフィルム、より具体的には液晶ポリマー(LCP)フィルム、及び液晶ポリマーフィルムから成る積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光電子技術、航空宇宙工学、国防、高周波移動通信の分野が活発に発展している。特に電気通信産業では、第4世代移動体通信網(4G)のデータ転送速度、応答時間、システム容量等の性能を向上するため、5Gという略称の第5世代移動体通信網の開発が活発に行われている。従来、原料としてセラミクスが使用されていたが、セラミクスには加工が困難で価格が高いといった欠点があった。そのため、セラミクスに代わる、安価で加工が容易な有機材料が望まれている。
LCPフィルムは、吸湿性が低く、耐薬品性に優れ、ガスバリア性が高く、誘電率/誘電正接(Dk/Df)が低いことが知られており、よってLCPフィルムは更なる開発の主原料となってきた。従って、産業界ではLCPフィルムの誘電特性を改善するための解決策が切望されている。
【0003】
特許文献1には、全芳香族液晶性ポリエステルフィルム及びその作製方法が開示されている。当該全芳香族液晶性ポリエステルは式(a)~(d)で表す構造単位、及びそれらの対応する内容物から成ることを特徴とする。
【0004】
【0005】
5G通信技術では、信号伝送用に高周波帯域を使用しており、信号周波数が高くなるほど挿入損失が大きくなる。特定の構造を有する材料を用いた上述のLCPフィルムでは、高周波帯域を使用する信号伝送を達成するために、低挿入損失の要望が満たされていなかった。そのため、従来のLCPフィルムの挿入損失も低減し、より5G製品に適した積層体の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点に鑑み、本出願の目的は、LCPフィルムの誘電特性を向上させ、それにより信号伝送用積層体に塗布したLCPフィルムが挿入損失を低減できるようにすることである。
【0008】
上述の目的を達成するために、本出願の1態様はLCPフィルムを提供する。LCPフィルムの材料は液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)である。LCP樹脂は式(1)、
【0009】
【化2】
で表す構造単位から成り、
式中、‐L
1‐及び‐L
2‐はそれぞれ‐O‐又は‐CO‐であり、‐Ar‐はアリーレン基である。
【0010】
式(1)は、以下の構造単位、
【0011】
【化3】
から成り、式(1)で表す構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表す構造単位のモル数は15mol%~40mol%の範囲であり、式(I)及び(II)で表す構造単位の合計モル数は80mol%~100mol%の範囲である。
【0012】
また、LCPフィルムはマイクロメートル(μm)の単位で表す厚さ、及び透過率(TT%)を有する。厚さ及び透過率の値を式(III)に代入すると、0.055より大きく0.090より小さい値が得られる。
Log(1/TT%)/(厚さ)0.5 (III)
【0013】
LCPフィルムを作成する特定の含有量範囲でそれぞれナフタレン含有構造単位とベンゼン含有構造単位を有するサーモトロピック液晶樹脂を用い、LCPフィルムの厚さ及びと透過率の値を協調制御することで、式(III)から求めた値を特定の範囲内に制御することが可能になり、このようなLCPフィルムの誘電特性が向上し、高周波でのLCPフィルムの挿入損失が減少する。
【0014】
本出願によれば、LCPフィルムの厚さ及び透過率の値により式(III)から求めた値を特定の範囲内に制御できる限り、LCPフィルムの厚さは特に制限しない。好ましくは、LCPフィルムの厚さは10μm~300μmの範囲である。より好ましくは、LCPフィルムの厚さは10μm~200μmの範囲である。更に好ましくは、LCPフィルムの厚さは15μm~150μmの範囲である。更に好ましくは、LCPフィルムの厚さは15μm~100μmの範囲である。
【0015】
本出願によれば、LCPフィルムの透過率及び厚さの値により式(III)から求めた値を特定の範囲内に制御できる限り、LCPフィルムの透過率は特に制限しない。好ましくは、LCPフィルムの透過率は8%以上60%未満である。より好ましくは、LCPフィルムの透過率は12%以上60%未満である。更に好ましくは、LCPフィルムの透過率は15%以上55%以下である。
【0016】
LCPフィルムは互いに相対する第1表面及び第2表面から成る。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面の尖度(Sku)は1以上300以下、例えば、1、5、9、10、11、12、13、15、16、20、25、50、55、60、75、100、125、150、175、200、225、250、275、又は300であってもよい。好ましくは、第1表面のSkuは10以上300以下であってもよい。より好ましくは、第1表面のSkuは15以上300以下であってもよい。厚さが同じ複数のLCPフィルムの場合、LCPフィルムの第1表面のSkuを制御することにより、LCPフィルムと金属箔との剥離強度の促進が可能になる。
【0017】
好ましくは、本出願の1実施形態では、LCPフィルムの第1表面の他に、本出願のLCPフィルムの第2表面のSkuは1以上300以下であってもよい。より好ましくは、第2表面のSkuは10以上300以下であってもよい。更に好ましくは、第2表面のSkuは15以上300以下であってもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSku及び第2表面のSkuは同じであっても異なっていてもよい。他の1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSku及び第2表面のSkuは共に前述の範囲のいずれかに該当してもよい。従って、本出願のLCPフィルムを積層体に塗布すると、LCPフィルムが少なくとも1つの金属箔に積層されることが第1表面及び第2表面のいずれか一方か又は両方を介しているかに関係なく、LCPフィルムは、積層体が低挿入損失という利点を維持する条件下で、少なくとも1つの金属箔に対して密着性が優れる。よって、LCPフィルムと少なくとも1つの金属箔との剥離強度が向上し、後の工程で、積層体からの金属線の分離等の問題を回避できる。
【0018】
1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面の表面相加平均高さ(Sa)は0.29μm以下であってもよい。別の1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.02μm以上0.29μm以下、例えば、0.02μm、0.03μm、0.04μm、0.05μm、0.10μm、0.11μm、0.12μm、0.13μm、0.14μm、0.15μm、0.16μm、0.17μm、0.20μm、0.21μm、0.22μm、0.23μm、0.25μm、0.26μm、0.27μm、0.28μm、又は0.29μmであってもよい。好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のSaは0.03μm以上0.20μm以下であってもよい。厚さが同じ複数のLCPフィルムの場合、LCPフィルムの第1表面のSaを制御することにより、LCPフィルムと金属箔との剥離強度の促進が可能になる。従って、本出願のLCPフィルムから成る積層体が低挿入損失という利点を維持する条件下で、LCPフィルムは更に、少なくとも1つの金属箔との剥離強度が高くなり、よって積層体は最高仕様の5G製品に対して更に適したものとなる。
【0019】
本出願の別の1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第2表面のSaは0.29μm以下であってもよい。好ましくは、本出願のLCPフィルムの第2表面のSaは0.02μm以上0.29μm以下であってもよい。より好ましくは、本出願のLCPフィルムの第2表面のSaは0.03μm以上0.20μm以下であってもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSa及び第2表面のSaは共に上述の範囲のいずれかに該当してもよい。本出願のLCPフィルムの第1表面のSa及び第2表面のSaは必要に応じて同じであっても異なっていてもよい。1実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のSa及び第2表面のSaは共に0.02μm以上0.29μm以下であってもよい。
【0020】
本出願によれば、LCP樹脂は市販されているものであってもよいし、従来の原料から製造してもよい。本出願では、LCP樹脂の原料は、その原料から得られる構造単位が式(1)で表す構造単位に一致し、かつ式(I)及び(II)でそれぞれ表す構造単位を好適な含有量範囲で含むのであれば、特に制限しない。
【0021】
式(1)で表す構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表す構造単位のモル数は、15mol%~40mol%の範囲であり、好ましくは22mol%~27mol%の範囲である。具体的には、式(I)で表す構造単位は以下の原料、2,6‐ナフタレンジオールや6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸等のエステル誘導体に由来していてもよい。
【0022】
具体的には、式(1)で表す構造単位の総モル数に基づいて、式(II)で表す構造単位のモル数は45mol%~85mol%の範囲であってもよく、好ましくは、式(II)で表す構造単位のモル数は55mol%~85mol%の範囲であってもよい。式(II)で表す構造単位は以下の原料、ハイドロキノンや4‐ヒドロキシ安息香酸等のエステル誘導体に由来していてもよい。
【0023】
好ましくは、式(I)及び(III)で表す構造単位の合計モル数は85mol%より大きく100mol%以下である。より好ましくは、式(I)及び(II)で表す構造単位の合計モル数は86mol%より大きく100mol%以下である。
【0024】
具体的には、上述の化合物の他に、式(1)で表す構造単位は以下の原料、レゾルシン、レゾルシンのエステル誘導体、テレフタル酸(PTA)、2‐クロロテレフタル酸、イソフタル酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、3‐ヒドロキシ安息香酸、6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸、4’‐ヒドロキシ‐4‐ビフェニルカルボン酸に由来してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0025】
更に、LCP樹脂を調製するための原料として、他の芳香族化合物又は脂肪族化合物も使用してよい。例えば、芳香族化合物はp‐フェニレンジアミン、4,4’‐ジアミノビフェニル、ナフタレン‐2,6‐ジアミン、4‐アミノフェノール、4‐アミノ‐3‐メチルフェノール、又は4‐アミノ安息香酸等であってもよい。脂肪族化合物はエタンジオール、1,4‐ブタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール又はアジピン酸等であってもよい。
【0026】
LCP樹脂を製造するために使用する原料は式(1)で表す構造単位が得られる芳香族化合物であってもよく、又は、当該原料は更に式(1)で表す構造単位が得られない芳香族化合物を含んでもよく、又は、当該原料は式(1)で表す構造単位が得られない脂肪族化合物であってもよいことは理解できるものとする。
【0027】
上述の原料からLCP樹脂を製造し、次にこれを用いて本出願のLCPフィルムを調製する。本出願の1実施形態では、6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、及び無水アセチル(無水酢酸とも称する)を選択してLCP樹脂を得てもよく、当該LCP樹脂を用いて本出願のLCPフィルムを調製できる。1実施形態では、LCP樹脂の融点は約250℃~360℃であってもよい。
【0028】
1実施形態では、様々なニーズに基づいて、当業者により、本出願のLCPフィルムの調製中に潤滑剤、酸化防止剤、電気絶縁剤や充填剤などの添加剤を添加してもよいが、これらに限定されるものではない。例えば、適用可能な添加剤は、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、又はポリエーテルエーテルケトンであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0029】
上述の目的を達成するために、本出願の別の態様は第1金属箔及び前記LCPフィルムから成る積層体を提供する。第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に配置する。即ち、本出願の積層体中の第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に積層する。
【0030】
1実施形態では、本出願の積層体は更に第2金属箔を含んでもよく、当該第2金属箔はLCPフィルムの第2表面上に配置する。即ち、本出願のLCPフィルムは第1金属箔と第2金属箔との間に挟む。即ち、本出願の積層体中の第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に積層し、前記積層体中の第2金属箔はLCPフィルムの第2表面上に積層する。本実施形態では、LCPフィルムの第1表面及び第2表面の両方のSkuやSaなどの表面特性を同時に制御すると、第1金属箔に積層したLCPフィルムの密着性及び第2金属箔に積層したLCPフィルムの密着性の両方が向上するため、LCPフィルムと第1金属箔との剥離強度、及びLCPフィルムと第2金属箔との剥離強度の両方が向上する。
【0031】
本出願によれば、「積層」は直接的接触法での積層に限定されず、更に、間接的接触法での積層も含む。例えば、本出願の1実施形態では、積層体中の第1金属箔は直接的接触法でLCPフィルム上に積層し、即ち、積層体中の第1金属箔はLCPフィルムの第1表面上に配置し、積層体中の第1金属箔はLCPフィルムの第1表面に直接接触する。本出願の別の実施形態では、積層体中の第1金属箔は間接的接触法でLCPフィルム上に積層する。例えば、様々なニーズに基づいて第1金属箔とLCPフィルムとの間に接続層を配置してもよく、そうすることで第1金属箔は接続層を介してLCPフィルムの第1表面に接触する。
【0032】
接続層の材料は、様々なニーズに応じて調整して様々な機能を提供してもよい。例えば接続層の材料は、耐熱性、耐薬品性、又は電気抵抗性などの機能を提供するために、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、又はこれらの合金を含んでもよい。同様に、積層体中の第2金属箔は、直接又は間接的接触法でLCPフィルムの第2表面に積層してもよい。本出願の1実施形態では、LCPフィルムと第1金属箔の積層法はLCPフィルムと第2金属箔との積層法と同じであってもよい。更に別の実施形態では、LCPフィルムと第1金属箔との積層法はLCPフィルムと第2金属箔との積層方法と異なっていてもよい。
【0033】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔は銅箔、金箔、銀箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔等であってもよいが、これらに限定されるものではない。1実施形態では、第1金属箔及び第2金属箔は異なる材料から製造する。好ましくは、第1金属箔及び/又は第2金属箔は銅箔であってもよく、そうすることで銅箔とLCPフィルムとを積層して銅張積層板(CCL)が形成される。また、第1金属箔及び/又は第2金属箔の調製方法は当該方法が本出願の目的に反しない限り、特に制限しない。例えば、金属箔はロールツーロール法又は電着法により製造してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔の厚さは特に制限せず、様々なニーズに基づいて当業者により調整可能である。例えば、1実施形態では、第1金属箔及び/又は第2金属箔の厚さは独立して、1μm~200μmの範囲、好ましくは1μm~40μmの範囲、より好ましくは1μm~20μmの範囲、更に好ましくは、3μm~20μmの範囲であってもよい。
【0035】
本出願によれば、本出願の第1金属箔及び/又は第2金属箔は、様々なニーズに基づいて当業者により表面処理に供することが可能である。例えば表面処理は、粗面化処理、酸‐塩基処理、熱処理、脱脂処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り処理等から選択してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本出願によれば、第1金属箔及び/又は第2金属箔の粗度は特に制限せず、当業者により様々なニーズに応じて調整可能である。1実施形態では、第1金属箔のRz及び/又は第2金属箔のRzは独立して、0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは、0.1μm以上1.5μm以下であってもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは共に、上述の範囲のいずれかに該当してもよい。第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは必要に応じて同じであってもよいし、異なっていてもよい。1実施形態では、第1金属箔のRz及び第2金属箔のRzは共に上述の範囲のいずれかに該当する。
【0037】
1実施形態では、様々なニーズに基づいて当業者により第3金属箔を追加してもよい。第3金属箔は、LCPフィルム上に配置してもよい。第3金属箔は、必要に応じて第1金属箔及び/又は第2金属箔と同じであってもよいし、異なっていてもよい。1実施形態では、第3金属箔のRzは第1金属箔のRz及び/又は第2金属箔のRzの上述した範囲のいずれかに該当してもよい。
【0038】
1実施形態では、積層体は複数のLCPフィルムから成っていてもよい。本出願の精神に反しないという前提に基づいて、複数のLCPフィルム及び複数の金属箔を有する積層体の製造を行う様々なニーズに応じて、当業者により、本出願の複数のLCPフィルムと、前述の第1金属箔、第2金属箔、及び/又は第3金属箔などの複数の金属箔とを積層してもよい。
【0039】
本明細書では、LCPフィルムの厚さは厚さ計により直接測定する。LCPフィルムの透過率は、標準法ASTM D1003に従って定義する。用語「尖度(Sku)」及び「表面相加平均高さ(Sa)」は標準法ISO25178‐2:2012に従って定義する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本出願のLCPフィルムの製造に使用する原料を説明するために、複数の調製例を示す。更に、本出願のLCPフィルム及び積層体の実装を説明するために複数の実施例を示しつつ、比較として複数の比較例を示す。当業者であれば、以下の実施例及び比較例から、本出願の利点及び効果を容易に実現できる。
本明細書で提案した記述は、単に説明目的のための好ましい実施形態にすぎず、本出願の範囲を限定することを意図したものではない。本出願の精神及び範囲から逸脱することなく、本出願を実践又は応用するために様々な改変及び変更が可能である。
【0041】
<LCP樹脂>
調製例1:LCP樹脂
6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸(700g、3.72mol)、4‐ヒドロキシ安息香酸(954g、6.91mol)、テレフタル酸(285g、1.71mol)、無水アセチル(1085g)及び亜リン酸ナトリウム(1.3g)の混合物を3リットルのオートクレーブに入れ、アセチル化するために、常圧窒素雰囲気下、160℃で約2時間撹拌した。次いで、混合物を毎時30℃の加熱速度で320℃まで加熱した。この温度条件下で、760トルから3トル以下へと徐々に減圧し、320℃から340℃へと昇温した。その後、撹拌力及び圧力を増加し、ポリマーを吐出する工程、ストランドを引き抜く工程、及びストランドをペレットへと切断する工程を行い、融点が約265℃、粘度が300℃で約20Pa・sのLCP樹脂を得た。ここで、式(1)で表せるLCP樹脂中の構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表すLCP樹脂中の構造単位のモル数は約30mol%であり、式(I)及び式(II)で表すLCP樹脂中の構造単位の合計モル数は86mol%であった。
【0042】
調製例2:LCP樹脂
6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸(540g、2.87mol)、4‐ヒドロキシ安息香酸(1071g、7.75mol)、無水アセチル(1086g)、亜リン酸ナトリウム(1.3g)、及び1‐メチルイミダゾール(0.3g)の混合物を3リットルのオートクレーブに入れ、アセチル化するために、常圧窒素雰囲気下、160℃で約2時間撹拌した。次いで、混合物を毎時30℃の加熱速度で320℃まで加熱した。この温度条件下で、760トルから3トル以下へと徐々に減圧し、320℃から340℃へと昇温した。その後、撹拌力及び圧力を増加し、ポリマーを吐出する工程、ストランドを引き抜く工程、及びストランドをペレットへと切断する工程を行い、融点が約278℃、粘度が300℃で約45Pa・sのLCP樹脂を得た。ここで、式(1)で表せるLCP樹脂中の構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表すLCP樹脂中の構造単位は約27mol%であり、式(I)及び式(II)で表すLCP樹脂中の構造単位の合計モル数は100mol%であった。
【0043】
調製例3:LCP樹脂
6‐ヒドロキシ‐2‐ナフタレンカルボン酸(440g、2.34mol)、4‐ヒドロキシ安息香酸(1145g、8.29mol)、無水アセチル(1085g)、及び亜リン酸ナトリウム(1.3g)の混合物を3リットルのオートクレーブに入れ、アセチル化するために、常圧窒素雰囲気下、160℃で約2時間撹拌した。次いで、混合物を毎時30℃の加熱速度で320℃まで加熱した。この温度条件下で、760トルから3トル以下へと徐々に減圧し、320℃から340℃へと昇温した。その後、撹拌力及び圧力を増加し、ポリマーを吐出する工程、ストランドを引き抜く工程、及びストランドをペレットへと切断する工程を行い、融点が約305℃、粘度が320℃で約40Pa・sのLCP樹脂を得た。ここで、式(1)で表せるLCP樹脂中の構造単位の総モル数に基づいて、式(I)で表すLCP樹脂中の構造単位は約22mol%であり、式(I)及び式(II)で表すLCP樹脂中の構造単位の合計モル数は100mol%であった。
【0044】
<LCPフィルム>
実施例1~15及び比較例1~4:LCPフィルム
調製例1~3で得たLCP樹脂(PE1~PE3で表す)を原料として使用し、後述する方法により、実施例1~15のLCPフィルム(E1~E15で表す)及び比較例1~4のLCPフィルム(C1~C4で表す)を調製した。
【0045】
初めに、上記LCP樹脂のうち1つを、スクリュー径27ミリメートル(mm)の押出機(メーカー:Leistritz社、型式:ZSE27)に投入し、285℃~320℃の範囲の温度まで加熱した後、毎時5.5キログラム(kg/hr)~8.5kg/hrの送り速度で、幅500mmのTダイから押し出した。次いで、Tダイから約1mm~50mmの間隔をとって、各々が約250℃~320℃の温度であり、約35センチメートル(cm)~45cmの直径を有する2つの鋳造ホイール間の空間にLCP樹脂を送り、約20キロニュートン(kN)~約60kNの力で押し出し、その後、室温の冷却用の冷却ホイールに移し、15μm~100μmの厚さのLCPフィルムを得た。
【0046】
実施例1~15と比較例1~4との工程の違いとしては:LCP樹脂の種類、Tダイから鋳造ホイール表面までの距離、送り速度、及び押出温度が挙げられる。実施例1~15及び比較例1~4の製造パラメータをそれぞれ以下の表1に収載する。
【0047】
表1:実施例1~15及び比較例1~4のLCPフィルムを調製するための製造パラメータ
【0048】
【0049】
上述したLCPフィルムの調製方法は本出願の実施を例示するために使用しているにすぎない。当業者であれば、ラミネート延伸法や膨張法などの従来の方法を採用してLCPフィルムを作製できる。
【0050】
1実施形態では、TダイからLCP樹脂を押し出した後、LCP樹脂及び2枚の耐高温性フィルムを共に2つの鋳造ホイール間の空間に送り、当業者の必要に応じて3層の積層体を形成した。室温まで冷却した後、2枚の耐高温性フィルムをLCP樹脂から分離し、本出願のLCPフィルムを得た。耐高温性フィルムは、ポリ(テトラフルオロエテン)(PTFE)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、及びポリ(エーテルスルホン)(PES)フィルムから選択してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0051】
比較例5:LCPフィルム
流動温度323℃の全芳香族液晶性ポリエステルを4‐ヒドロキシ安息香酸、4,4’‐ビフェノール、テレフタル酸、及びフタル酸の混合物から調製した。4‐ヒドロキシ安息香酸:4,4’‐ビフェノール:テレフタル酸:フタル酸のモル比は60:20:15:5であった。その後、全芳香族液晶性ポリエステル(10mg)とテトラフルオロフェノール(10g)とを混合して混合溶液を形成し、次いでこの混合溶液を60℃で撹拌して均質かつ透明な溶液とした。その後、この透明溶液を水平なガラス板上に流し込み、フィルムを形成した後、フィルムを100℃で3時間加熱し、そうすることで加熱工程中にフィルム中の溶媒が徐々に蒸発し、LCPフィルムが得られた。このLCPフィルムの厚さは15μmであった。
【0052】
また、得られたLCPフィルムに対する後処理は、様々なニーズに基づいて当業者により行うことが可能である。後処理としては、研磨処理、紫外線照射、プラズマ処理等が挙げられるが、これに限定されるものではない。プラズマ処理としては、様々なニーズに基づいて減圧又は常圧で、窒素雰囲気下、酸素雰囲気下、又は空気雰囲気下、1キロワット(kW)の電力で作動するプラズマを印加してもよいが、これに限定されるものではない。
【0053】
試験例1:LCPフィルムの厚さの分析
本試験例では、デジタル厚さマイクロメータ(メーカー:NIKON社、型式:MF‐501)により、E1~E15及びC1~C5の各LCPフィルムの厚さを分析した。E1~E15及びC1~C5の厚さをそれぞれ以下の表2に収載した。
【0054】
試験例2:LCPフィルムの透明度の分析
本試験例では、E1~E15及びC1~C5の各LCPフィルムをサイズ10cm×10cmの試料へと切断した。各試料の透過率を透過率計(メーカー:日本電色社、型式:NDH5000)により、標準法ASTM D1003に準じて測定し、結果を表2に収載した。
【0055】
更に、E1~E15及びC1~C5の各LCPフィルムについて、試験例1で得られた厚さの値及び試験例2で測定した透過率の対応する値を式(III)に代入し、E1~E15及びC1~C5のLCPフィルムの得られた値をそれぞれ表2に収載した。
式(III):Log(1/TT%)/(厚さ)0.5
【0056】
実施例1を例に取ると、実施例1におけるLCPフィルムの厚さは15μm、透過率は55%(即ち0.55)であったため、関連する式(III)に代入するとLog(1/0.55)/(15)0.5=0.0670となった。
【0057】
表2:実施例1~15及び比較例1~5におけるLCPフィルムの厚さ、透過率、及び式(III)から求めた値
【0058】
【0059】
表2に示した計算結果から、E10、E14、及びE15の、式(III)から求めた値は類似していた。明らかに、厚さの異なる複数のLCPフィルムを同じLCP樹脂を用いて同様の製造パラメータで調整した場合、LCPフィルムの厚さの違いにより、式(III)から求めた値に明らかなばらつきが生じることはない。このことから、LCPフィルムの厚さと透過率との関係は式(III)で表せることが分かった。これは、式(III)がLCPフィルムの厚さと透過率の関係を表すことができることを示している。
【0060】
試験例3:LCPフィルムの表面特性の分析
レーザー走査型共焦点顕微鏡を用いて、E1~E13及びC1~C4のLCPフィルムの表面形状画像を撮影した。次いで、各LCPフィルムの表面のSku及びSaをそれぞれ標準法ISO25178‐2:2012に準拠して分析した。E1~E13及びC1~C4のSkuの結果をそれぞれ表4に収載した。E1~E13のSaの結果をそれぞれ表5に収載した。関連の機器及び試験条件を以下に記録した。
1.機器
(1)レーザー走査型共焦点顕微鏡:メーカー:オリンパス社、型式:LEXT OLS5000‐SAF
(2)対物レンズ:MPLAPON‐100xLEXT
2.試験条件
(1)分析環境:温度24±3℃、相対湿度63±3%
(2)光源:405nmの波長
(3)対物レンズ倍率:100倍
(4)光学ズーム:1.0倍
(5)画像領域:129μm×129μm
(6)解像度:1024ピクセル×1024ピクセル
(7)条件設定:自動傾き補正
(8)フィルタ設定:フィルタなし
【0061】
実施例1A~13A及び比較例1A~5A:積層体
実施例1A~13A(E1A~E13Aと表記)及び比較例1A~5A(C1A~C5Aと表記)の積層板をそれぞれ、市販の銅箔に積層した実施例1~13及び比較例1~5のLCPフィルムから作製した。当該市販銅箔は、福田金属箔粉工業社製(型式:CF‐H9A‐HD2)であり、Rzは約1.0μmであった。
【0062】
E1~E13及びC1~C5のLCPフィルム、並びに厚さ約12μmの市販銅箔を用意した。初めに、LCPフィルム及び市販銅箔をそれぞれ20cm×20cmのサイズへと切断した。次いで、E1~E13及びC1~C5の各LCPフィルムを2枚の市販銅箔で挟み、積層構造体を形成した。
この積層構造体を、1平方センチメートル当たり5キログラム(kg/cm2)の圧力での積層工程に180℃で60秒間供し、その後、20kg/cm2の圧力での更なる積層工程に300℃で25分間(min)供した後、室温まで冷却し、積層体を得た。実施例1A~13A及び比較例1A~5Aの各積層体に使用したLCPフィルムの種類を表3に収載した。
【0063】
本明細書では、積層体の積層方法は特に限定しない。当業者であれば、ワイヤ積層や表面積層などの従来技術を用いて積層工程を実施し得る。本出願に適用可能なラミネータは間欠ホットプレス機、ロールツーロールホイール機、ダブルベルトプレス機等であってもよいが、これらに限定されるものではない。様々なニーズに応じて、当業者であればLCPフィルムを銅箔と並べて積層構造体を形成し、次いで、この積層構造体を加熱工程及びプレス工程に供し、表面積層を完了することが可能である。
【0064】
別の1実施形態では、様々なニーズに基づいて当業者により、LCPフィルム上の銅箔などの金属箔は、スパッタリング、電気めっき処理、化学めっき処理、蒸着等を経て形成してもよい。あるいは、様々なニーズに基づいて当業者により、接着剤層、ニッケル層、コバルト層、クロム層、又はこれらの合金層などの接続層をLCPフィルムと金属箔との間に形成してもよい。
【0065】
試験例4:積層体の挿入損失の分析
本試験例では、E1A~E13A及びC1A~C5Aの積層体をそれぞれ、長さ約100mm、幅約100μm~250μm、抵抗値約50オーム(Ω)を有するストリップライン試験片へと切断した。E1A~E13A及びC1A~C5Aのストリップライン試験片の挿入損失をそれぞれ、プローブ(メーカー:Cascade Microtech社、型式:ACP40‐250)を備えるマイクロ波ネットワーク解析機(メーカー:Agilent Technologies社、型式:8722ES)により、10GHzの周波数下で測定した。
【0066】
厚さ15μmのLCPフィルムを備える積層体の種類については、積層体の挿入損失が-3.9dB/10cm以下である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「O」で表し、それ以外では、積層体の挿入損失が-4.0dB/10cm以上である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「X」で表した。
【0067】
厚さ25μmのLCPフィルムを備える積層体の種類については、積層体の挿入損失が-3.6dB/10cm以下である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「O」で表し、それ以外では、積層体の挿入損失が-3.7dB/10cm以上である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「X」で表した。
【0068】
厚さ50μmのLCPフィルムを備える積層体の種類については、積層体の挿入損失が-2.9dB/10cm以下である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「O」で表し、それ以外では、積層体の挿入損失が-3.0dB/10cm以上である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「X」で表した。
【0069】
厚さ100μmのLCPフィルムを備える積層体の種類については、積層体の挿入損失が-2.2dB/10cm以下である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「O」で表し、それ以外では、積層体の挿入損失が-2.3dB/10cm以上である場合、積層体の挿入損失の評価結果を「X」で表した。
E1A~E13A及びC1A~C5Aの積層体の挿入損失の評価結果を表3に示した。
【0070】
表3:E1~E13及びC1~C5のLCPフィルムの厚さ、透過率、及び式(III)から求めた値、並びにE1A~E13A及びC1A~C5Aの積層体の挿入損失の評価結果
【0071】
【0072】
試験例5:積層体の剥離強度の分析
本試験例では、積層体の剥離強度は試験法IPC‐TM‐650の2.4.9号に準拠して測定した。E1A~E13A及びC1A~C4Aの積層体をそれぞれ、長さ約228.6mm及び幅約3.2mmのエッチングした試験片へと切断した。各エッチング試験片を温度23±2℃及び相対湿度50±5%で24時間静置し、安定化させた。次いで、両面接着テープを用いて、各エッチング試験片を、試験機(メーカー:Hung Ta Instrument社、型式:HT‐9102)のクランプに接着した。その後、各エッチング試験片を剥離速度50.8mm/minの力でクランプから剥離し、剥離工程時の力の値を連続的に記録した。
ここで、当該力は試験機が耐えられる力の15%~85%の範囲内に制御し、クランプからの剥離距離は少なくとも57.2mmを超すべきであり、初期距離6.4mmでの力は無視し、記録しなかった。結果を表4及び表5に収載した。
【0073】
表4:E1~E13及びC1~C4のLCPフィルムのSku、並びにE1A~E13A及びC1A~C4Aの積層体の剥離強度
【0074】
【0075】
表5:E1~E13のLCPフィルムのSa、及びE1A~E13Aの積層体の剥離強度
【0076】
【0077】
試験結果の考察
E1~E13のLCPフィルムの調製に用いたLCP樹脂はいずれも、式(I)に一致する構造単位、及び式(II)に一致する構造単位を有していた。前記各LCP樹脂では、式(I)で表す構造単位のモル数は15mol%~40mol%の範囲であり、式(I)及び(II)で表す構造単位の合計モル数は85mol%より大きく、100mol%以下の範囲であった。更に、E1~E13のLCPフィルムの厚さ及び透過率を同時に制御し、E1~E13のLCPフィルムの厚さ及び透過率の値を式(III)に代入すると、式(III)から求めた値は0.055より大きく、0.090より小さい特定の範囲内であった。従って、このようなLCPフィルム及び市販銅箔(即ちE1A~E13A)から作製した積層体は低粗度であり、いずれの積層体も10GHzといった高周波での挿入損失が低いという利点を示した。
【0078】
表4に示した剥離強度の結果として、LCPフィルムの表面のSkuが10~300であると、銅箔とのLCPフィルムの剥離強度は良好であった。LCPフィルムの表面のSkuを15~300の値になるように更に制御すると、LCPフィルムと銅箔との剥離強度は1kg/cmを超えることが可能となった。即ち、LCPフィルムの表面のSkuを制御することで、積層体の剥離強度は更に向上する。
【0079】
表5に示した剥離強度の結果として、LCPフィルムの表面のSaが0.02μm~0.29μmであると、銅箔とのLCPフィルムの剥離強度は良好であった。LCPフィルムの表面のSaを0.03μm~0.20μmの値になるように更に制御すると、LCPフィルムと銅箔との剥離強度は1kg/cmを超えることが可能となった。即ち、LCPフィルムの表面のSaを制御することで、積層体の剥離強度は更に向上する。
【0080】
まとめると、LCPフィルムを調製するために用いるLCP樹脂の構造単位及びその含有量を制御し、LCPフィルムの厚さ及び透過率を制御することにより、式(III)から求めた値を特定の範囲内に制御できる。従って、LCPフィルムを含む積層体は具体的に挿入損失を低減することが可能である。
積層体の挿入損失を低減するための上記技術的手段に加えて、LCPフィルムの少なくとも一方の表面のSku及び/又はSa等の表面特性を制御する技術的手段を更に組み合わせることにより、積層体中のLCPフィルムと金属箔との剥離強度を向上できる。従って、本出願の積層体は、最高仕様の5G製品に非常に適している。
【0081】
本出願の多数の特徴及び利点を本出願の構造及び特性の詳細と共に上述の説明において記載してきたが、本開示は例示にすぎない。特に部品の形状、サイズ、及び配置の事項については、本出願の原理の範囲内で、添付の特許請求の範囲を表現する用語の広範な一般的意味が示す最大範囲まで、詳細に変更を加えることが可能である。