(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】生体物質の検出方法、それに用いる化学発光指示薬
(51)【国際特許分類】
G01N 21/76 20060101AFI20220125BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220125BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220125BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20220125BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
G01N21/76
G01N21/78 C ZNA
G01N21/64 Z
G01N33/542 Z
G01N33/53 S
(21)【出願番号】P 2018564671
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2018002587
(87)【国際公開番号】W WO2018139614
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017013463
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム「マルチモーダル発光イメージングシステムの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】永井 健治
(72)【発明者】
【氏名】新井 由之
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500263(JP,A)
【文献】国際公開第2016/001437(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/133158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/76
G01N 21/78
G01N 21/64
G01N 33/542
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の生体物質の検出方法であって、
前記試料に、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)、及び、前記化学発光タンパク質(B)の基質を混合すること、並びに、
前記試料からの発光シグナルを観察することを含み、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A1)の蛍光を励起できるものである、検出方法。
【請求項2】
前記タンパク質(A1)が、ビリルビンを結合した状態で蛍光を発しうるUnaGタンパク質又はその改変体であり、
検出対象の生体物質が、ビリルビンである、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記タンパク質(A1)が、ビリベルジンを結合した状態で蛍光を発しうる、IFP、iRFP、smURFP、及びこれらの改変体からなる群から選択されるタンパク質であり、
検出対象の生体物質が、ビリベルジンである、請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を含む化学発光指示薬であって、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光を励起できるものである、化学発光指示薬。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の検出方法に使用するための、請求項
4に記載の化学発光指示薬。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかで規定された融合タンパク質(C)を発現可能なベクター又は形質転換体。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載の検出方法で得られた発光シグナルデータに基づき試料中の生体物質の濃度を判別することを含む、試料中の生体物質の濃度判別方法。
【請求項8】
試料中の生体物質の検出方法であって、
前記試料に、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)、及び、前記化学発光タンパク質(B)の基質を混合すること、並びに、
前記試料からの発光シグナルを観察することを含み、
前記検出する生体物質は、自家蛍光分子であり、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A2)の自家蛍光を励起できるものである、検出方法。
【請求項9】
前記タンパク質(A2)が、フラビンモノヌクレオチドを結合可能な、FbFP、iLOVタンパク質、mini-SOGタンパク質、及びこれらの改変体からなる群から選択されるタンパク質であり、
検出対象の生体物質が、フラビンモノヌクレオチドである、請求項
8に記載の検出方法。
【請求項10】
生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を含む化学発光指示薬であって、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A2)の自家蛍光を励起できるものである、化学発光指示薬。
【請求項11】
前記発光シグナルの観察は、前記発光シグナルをカラー検出器で検出することを含む、請求項1から3、
8及び
9のいずれかに記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体物質の検出方法、及びそれに用いる化学発光指示薬に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の生体物質を検出する方法として、蛍光タンパク質を用いた方法が挙げられる。例えば、特許文献1は、生体物質である非抱合型ビリルビンを結合して蛍光特性を発揮するUnaGタンパク質又はその改変体を用いて非抱合型ビリルビンを検出することを提案する。
【0003】
ビリルビンはヘモグロビンの構成物であるヘムの分解産物をいう。ビリルビンには脂溶性の非抱合型ビリルビン(間接ビリルビンともいう)と水溶性の抱合型ビリルビン(直接ビリルビンともいう)がある。非抱合型ビリルビンは、肝機能の低下とともに血液中や尿中に排出される。高濃度の間接ビリルビンは、核黄疸(ビリルビン脳症)を引き起こす。
【0004】
従来、ビリルビンの測定はジアゾ法に代表される比色定量法が主である。血液検査の際には、間接ビリルビンは、通常、総ビリルビン(直接ビリルビンと間接ビリルビンの合計)と直接ビリルビンとを測定し、その差分として算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UnaGのような生体物質を結合する蛍光タンパク質を使用して該生体物質の検出・定量をする場合、観測のための励起光源が必要となる。また、一波長励起一波長測光であるため、定量的な測定が難しい場合がある。
【0007】
そこで、本開示は、一態様において、定量的な測定が容易となりうる生体物質の検出方法及び化学発光指示薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一又は複数の実施形態において、試料中の生体物質の検出方法であって、
前記試料に、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)、及び、前記化学発光タンパク質(B)の基質を混合すること、並びに、
前記試料からの発光シグナルを観察することを含み、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである検出方法(以下、本開示に係る検出方法ともいう。)に関する。
【0009】
本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を含む化学発光指示薬であって、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである化学発光指示薬に関する。
【0010】
本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、融合タンパク質(C)を発現可能なベクター又は形質転換体に関する。
【0011】
本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、本開示に係る検出方法で得られた発光シグナルデータに基づき試料中の生体物質濃度を判別することを含む方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、一態様において、定量的な測定が容易となりうる生体物質の検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、C末/N末欠損変異した様々なUnaGとNLucとの融合タンパク質の化学発光スペクトルを示す。UnaG(CΔ0)+NLuc(NΔ1)が最も大きなFRET効率を示した。
【
図2】
図2は、リンカー配列に様々な変異を挿入した際の化学発光スペクトルを示す。野生型化学発光ビリルビン指示薬の配列(GT)に比べ、DD配列に置換された変異体が最も大きなFRET効率変化を示した。
【
図3】
図3は、野生型化学発光ビリルビン指示薬の滴定曲線を示す。3回の独立した計測の平均値をプロットし、ヒルの式によりフィッティングを行った。K
d値は3.05nMであった。
【
図4】
図4は、室温で保存された凍結乾燥試料の、ビリルビンに対するアフィニティー(乖離定数、K
d値)の変化を示す。
【
図5】
図5は、スマートフォンで撮影した、野生型化学発光ビリルビン指示薬とさまざまな濃度のビリルビン溶液の、96ウェルプレート上での化学発光像を示す。
【
図6】
図6は、実施例2におけるUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質によるビリルビン測定の結果の一例を示し、
図6Aは化学発光スペクトルを示し、
図6BはUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質溶液(検出試薬)の希釈率と発光強度から得られたピークのレシオ値(530nm/460nm)との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1におけるUnaGタンパク質によるビリルビン測定の結果の一例を示し、
図7Aは蛍光スペクトルを示し、
図7BはUnaGタンパク質溶液(検出試薬)の濃度とピーク(530nm)の蛍光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、生体物質を検出するにあたり、当該生体物質と結合して蛍光を発するタンパク質に、共鳴エネルギー移動が起りうるように化学発光タンパク質を融合させることで、観測のための励起光源を使用とせず、また、2波長の測定光を使用できるようになり、該生体物質の定量を容易化できる、という知見に基づく。
【0015】
本開示に係る検出方法は、一又は複数の実施形態において、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を化学発光指示薬として使用して、試料中の生体物質を検出することを含む。
【0016】
[生体物質及び試料]
本開示に係る検出方法の検出対象としては、生体試料における生体物質が挙げられる。生体試料としては、生物に由来する該生体物質を含む試料であって、液体状であることが好ましい。そのような生体試料としては、特に制限されないが、例えば、全血、血清、血漿、及び尿などの体液試料があげられる。また、本発明における生体試料は、必要に応じて希釈及び/又は前処理などをされたものであってもよい。本開示に係る検出方法は、当然ながら、上記「生体試料」以外の試料を測定対象とすることができる。例えば、検出対象の生体物質の標準試料、すなわち、測定するためのコントロール試料が挙げられる。 生体物質としては、後述するタンパク質(A)に結合するものであって、例えば、生体内の低分子化合物、分解代謝物、核酸、糖、ペプチド、タンパク質、細胞、又は微生物等が挙げられる。
【0017】
[生体物質を結合可能なタンパク質(A)]
本開示に係る「生体物質を結合可能なタンパク質(A)」としては、一又は複数の実施形態において、生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、及び、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)が挙げられる。
【0018】
生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)としては、一又は複数の実施形態において、アポ体では無蛍光性であり、リガンドである生体物質が結合してホロ体となり蛍光性となるタンパク質が挙げられる。前記タンパク質(A1)の一又は複数の実施形態としては、UnaGタンパク質が挙げられる。また、前記タンパク質(A1)のその他の一又は複数の実施形態としては、smURFP、IFP、及びiRFPが挙げられる。
【0019】
UnaGタンパク質は、間接ビリルビンと特異的に結合し、シアン色の励起光により緑色に光る性質を有する(Kumagai et al., Cell 2013, 153, 1602-1611)。UnaGは間接ビリルビンと極めて高い結合能力(解離定数=98pM)を有する。UnaGの配列情報は、UniProtKB/Swiss-Prot: P0DM59.1、又は、GenBank: AB763906.1を参照できる(2016年8月時点)。前記タンパク質(A1)としてUnaGタンパク質を用いれば、例えば、間接ビリルビンの検出ができる。
【0020】
smURFPは、small ultra red fluorescent proteinの略称であり、ヘモグロビンの代謝物であるビリベルジンと結合して赤色の蛍光性を示すタンパク質である(Rodriguez et al., Nature Methods, 2016, 13, 763-769)。
IFPは、infrared-fluorescent proteinの略称であり、ビリベルジンと結合して赤色の蛍光性を示すタンパク質である(Shu X, et al., Science 2009, 324(5928), 804-8-7)。
iRFPは、near-infrared fluorescent proteinの略称であり、ビリベルジンと結合して赤色の蛍光性を示すタンパク質である(Filonov GS, et al., Nat Biotech 2011, 29(8), 757-761)。
前記タンパク質(A1)としてこれらのsmURFP、IFP、又はiRFPを用いれば、例えば、ビリベルジンの検出ができる。
【0021】
前記タンパク質(A1)としては、UnaGタンパク質又はsmURFP、IFP、若しくはiRFPの改変体であってもよい。UnaGタンパク質又はsmURFP、IFP、若しくはiRFPの改変体としては、リガンドであるビリルビン又はビリベルジンが結合してホロ体となり蛍光性となる特性を維持できる範囲で、欠失、付加、置換等の変異がされていてもよい。変異のアミノ酸の数としては、特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、1~4、1~3、1~2、又は1個が挙げられ、あるいは、少なくとも90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上の同一性を示すアミノ酸配列の範囲が挙げられる。変異の限定されない例として、融合タンパク質(C)におけるタンパク質(B)との融合部分(C末又はN末)の欠失が挙げられる。
【0022】
自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)は、該自家蛍光分子を結合することで蛍光性となるタンパク質をいう。前記自家蛍光分子としては、フラビンモノヌクレオチド(FMN)が挙げられる。自家蛍光分子(FMN)を結合可能なタンパク質(A2)としては、一又は複数の実施形態において、FbFP、iLOVタンパク質、及びmini-SOGタンパク質が挙げられる。
【0023】
FbFPは、Flavin mononucleotide (FMN)-based fluorescent proteinの略称であり、バクテリアの青色受容体由来の蛍光タンパク質である(Drepper T., et al., Nat Biotech. 2007, 25(4) 443-445)。
iLOVタンパク質は、植物青色受容体フォトトロピンのlight, oxygen or voltage-sensing (LOV)ドメイン由来の蛍光タンパク質を改変して蛍光特性がインプルーブしたタンパク質である(Chapman S., et al., PNAS 2008, 105(50) 20038-43)。
mini-SOGタンパク質は、mini Singlet Oxygen Generatorの略称であり、Arabidopsisのフォトトロピン2由来の蛍光タンパク質である(Shu X., et al., PLoS Biol. 2011, 9(4) )。
【0024】
前記タンパク質(A2)は、前記自家蛍光分子を結合しうる範囲で、欠失、付加、又は置換等の変異がされた改変体であってもよい。変異のアミノ酸の数としては、上述の範囲が挙げられる。
【0025】
[化学発光タンパク質(B)]
化学発光タンパク質(B)は、その発光エネルギーによりタンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである。このような化学発光タンパク質(B)が融合した融合タンパク質(C)を検出試薬として使用することから、本開示に係る検出方法によれば、観察のための励起光源を使用することなく、生体物質の定量的な測定を行うことができる。化学発光タンパク質(B)としては、共鳴エネルギー移動により前記タンパク質(A)の蛍光を励起できる共鳴エネルギー移動のドナーとなりえる発光タンパク質(ルシフェラーゼ)が挙げられる。発光色によって検出を判定できる点からは、前記タンパク質(A)の発光色と、前記タンパク質(B)の発光色とは異なることが好ましい。
【0026】
前記共鳴エネルギー移動は、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)あるいは生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)として知られている。該タンパク質(B)は、前記タンパク質(A1)の吸収波長、又は、前記タンパク質(A2)に結合する自家蛍光分子の吸収波長に応じて選択できる。該タンパク質(B)としては、公知の発光タンパク質、例えば、ホタルルシフェラーゼ、イクオリン、バクテリアルシフェラーゼ、及びこれらの改変体が挙げられる。
【0027】
前記タンパク質(A)がUnaGの場合、前記タンパク質(B)としては、一又は複数の実施形態において、セレンテラジン化合物を発光基質とするルシフェラーゼが挙げられる。該ルシフェラーゼの一又は複数の実施形態として、NLucが挙げられる。
【0028】
前記タンパク質(B)は、公知のルシフェラーゼの改変体であってもよい。ルシフェラーゼの改変体としては、ルシフェリンが結合して発光する特性を維持できる範囲で、欠失、付加、又は置換等の変異がされていてもよい。変異のアミノ酸の数としては、特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、1~4、1~3、1~2、又は1個が挙げられ、あるいは、少なくとも90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上の同一性を示すアミノ酸配列の範囲が挙げられる。変異の限定されない例として、融合タンパク質(C)におけるタンパク質(A)との融合部分(C末又はN末)の欠失が挙げられる。
【0029】
[リンカー]
前記融合タンパク質(C)において、前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、リンカーで結合されていてもよい。該リンカーは前記タンパク質(B)から前記タンパク質(A)への共鳴エネルギー移動の効率が高くなるように選択されうる。該リンカーの長さとしては、一又は複数の実施形態において、1~10、1~5、2~4又は2~3アミノ酸残基が挙げられる。
【0030】
前記タンパク質(A)がUnaGの場合、リンカーとしては、一又は複数の実施形態において、GT、DD、GTG、又はGTGG等が挙げられ、これらの中でも発光効率の点から、DD、GTG、又はGTGGが好ましく、GTGがより好ましい。
【0031】
前記融合タンパク質(C)における前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)との融合の順番は特に限定されず、N末側が前記タンパク質(A)であってもよく、前記タンパク質(B)であってもよい。前記融合タンパク質(C)は、一又は複数の実施形態において、N末又はC末にタグタンパク質が融合されてもよい。
【0032】
前記融合タンパク質(C)は上述した構成を備えるため、前記タンパク質(A)の基質である生体物質と前記タンパク質(B)の基質であるルシフェリンが共に存在する場合には前記タンパク質(A)の発光色の傾向を示し、前記タンパク質(A)の基質である生体物質の量が少なくなるほど前記タンパク質(B)の発光色の傾向が強くなる。よって、前記融合タンパク質(C)を用いれば、前記生体物質の検出/測定が可能となる。
【0033】
[検出方法]
したがって、本開示に係る検出方法は、試料中の生体物質の検出方法であって、
前記試料に、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)、及び、前記化学発光タンパク質(B)の基質を混合すること、並びに、
前記試料からの発光シグナルを観察することを含み、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである。
【0034】
対象の試料に、融合タンパク質(C)とタンパク質(B)の基質とを添加すると、試料が発光する。その発光シグナルを指標にタンパク質(A)に結合した生体物質の有無が判別できる。基本的には、該生体物質が存在すれば発光色はタンパク質(A)のものとなり、存在しなければタンパク質(B)のものとなる。
【0035】
本開示に係る検出方法は、一又は複数の実施形態において、室温又は環境温度で行うことができる。前記融合タンパク質(C)と前記タンパク質(B)の基質とを混合してから観察するまでの時間としては、一又は複数の実施形態において、数秒から数分程度、又は、数秒から1分程度が挙げられる。本開示に係る検出方法における前記融合タンパク質(C)としては、上述のものを使用できる。
【0036】
また、本開示に係る検出方法は、一又は複数の実施形態において、試料の発光色が、該生体物質の濃度依存的に変化する。該生体物質の濃度が上がるほど、試料の発光色は、タンパク質(B)の発光色からタンパク質(A)の発光色へと変化する。すなわち、発光シグナルにおけるタンパク質(A)とタンパク質(B)との発光強度比と生体物質の濃度とを関連付けすることができる。
【0037】
したがって、本開示に係る検出方法によれば、試料量に関わらず、発光シグナルから定量的な該生体物質の濃度測定が可能となる。定量的測定を可能とする点からは、試料に添加する融合タンパク質(C)のモル濃度は、Kd程度の濃度域にあることが好ましい。
本開示に係る検出方法は、一又は複数の実施形態において、試料の発光シグナルから生体物質の濃度を定量的に算出する工程を含んでもよい。
【0038】
[指示薬]
本開示は、その他の態様において、融合タンパク質(C)に関する。
また、融合タンパク質(C)は、前記生体物質の化学発光指示薬として使用できる。したがって、本開示は、その他の態様において、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を含む化学発光指示薬であって、前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである化学発光指示薬に関する。
また、前記化学発光指示薬は、本開示に係る検出方法に使用できるから、本開示は、その他の態様において、本開示に係る検出方法に使用するための前記化学発光指示薬、及びその使用に関する。
【0039】
前記融合タンパク質(C)は、一又は複数の実施形態において、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質であってもよいし、化学合成により合成したタンパク質であってもよい。遺伝子組み換え技術による組み換えタンパク質の作製としては、一又は複数の実施形態において、融合タンパク質(C)をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した宿主を用いて作製する方法、或いは、無細胞系で作製する方法が挙げられる。該融合タンパク質(C)は、タグタンパク質を利用するなどして精製してもよい。
【0040】
[核酸]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合タンパク質(C)をコードする核酸に関する。本開示において、核酸は、合成DNA、cDNA、ゲノムDNA及びプラスミドDNAから選択される一本鎖又は二本鎖DNA、並びにこれらのDNAの転写生成物が挙げられる。
【0041】
[発現カセット]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合タンパク質(C)をコードする核酸を含む発現カセットに関する。該発現カセットにおいて、前記核酸は、導入する宿主細胞に応じた発現調節配列が作動的に連結されている。発現調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター等が挙げられ、その他には、開始コドン、イントロンのスプライシングシグナル、及び停止コドンなどが挙げられる。
【0042】
[ベクター]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合タンパク質(C)を発現可能なベクターに関する。本開示は、その他の態様において、本開示に係るベクターは、一又は複数の実施形態において、本開示に係る核酸又は発現カセットを有する発現ベクターである。本開示に係るベクターは、発現させたい細胞(宿主)に応じた発現ベクター系を適宜選択して使用できる。本開示に係るベクターに利用できるベクターとしては、限定されない一又は複数の実施形態として、プラスミド、コスミド、YACS、ウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、エピソームEBVなど)ベクター及びファージベクターが挙げられる。
【0043】
[形質転換体]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合タンパク質(C)を発現する形質転換体に関する。本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示に係る核酸又はベクターを有する形質転換体に関する。本開示の形質転換体は、一又は複数の実施形態において、本開示の核酸、発現カセット又はベクターを宿主に導入することによって作成することができる。宿主としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、及び微生物等が挙げられる。
【0044】
[判別方法]
本開示は、その他の態様において、本開示に係る検出方法で得られた発光シグナルデータに基づき試料中の生体物質の濃度を判別することを含む、試料中の生体物質の濃度判別方法に関する。
上述のように、本開示に係る検出方法で得られる発光シグナルにおけるタンパク質(A)と(B)との発光強度比は、試料中の生体物質の濃度に依存させることができる。よって、検出に使用した融合タンパク質(C)の情報と発光シグナルとから生体物質の濃度を判別することができる。
前記発光シグナルデータは、モバイル端末(スマートフォンなど)のカラーカメラなどのカラー検出器で簡便に取り込み、送受信することが可能であるから、簡便に生体物質の濃度を把握することができる。
【0045】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 試料中の生体物質の検出方法であって、
前記試料に、生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)、及び、前記化学発光タンパク質(B)の基質を混合すること、並びに、
前記試料からの発光シグナルを観察することを含み、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである、検出方法。
〔2〕 前記タンパク質(A1)が、ビリルビンを結合した状態で蛍光を発しうるUnaGタンパク質又はその改変体であり、検出対象の生体物質が、ビリルビンである、〔1〕に記載の検出方法。
〔3〕 前記タンパク質(A1)が、ビリベルジンを結合した状態で蛍光を発しうる、IFP、iRFP、smURFP、及びこれらの改変体であり、検出対象の生体物質がビリベルジンである、〔1〕に記載の検出方法。
〔4〕 前記タンパク質(A2)が、フラビンモノヌクレオチドを結合可能な、FbFP、iLOVタンパク質、mini-SOGタンパク質、及びこれらの改変体からなる群から選択されるタンパク質であり、検出対象の生体物質がフラビンモノヌクレオチドである、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の検出方法。
〔5〕 生体物質を結合可能なタンパク質(A)と化学発光タンパク質(B)とが融合した融合タンパク質(C)を含む化学発光指示薬であって、
前記タンパク質(A)と前記タンパク質(B)とは、共鳴エネルギー移動が可能なように連結されており、
前記タンパク質(A)は、前記生体物質を結合した状態で蛍光を発しうるタンパク質(A1)、又は、自家蛍光分子である生体物質を結合可能なタンパク質(A2)であり、
前記タンパク質(B)は、その発光エネルギーにより前記タンパク質(A)の蛍光又は自家蛍光を励起できるものである、化学発光指示薬。
〔6〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の検出方法に使用するための、〔5〕に記載の化学発光指示薬。
〔7〕 〔1〕から〔4〕のいずれかで規定された融合タンパク質(C)を発現可能なベクター又は形質転換体。
〔8〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の検出方法で得られた発光シグナルデータに基づき試料中の生体物質の濃度を判別することを含む、試料中の生体物質の濃度判別方法。
【0046】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
1.融合タンパク質(化学発光指示薬)の遺伝子構築
野生型UnaGのC末欠損変異体を、N末にBamHI制限酵素部位、C末にKpnI制限酵素部位を付加した以下のプライマーを用いて増幅した。
Forward primer: CGCGGATCCGGGTGGTTCTGGTATGG 配列番号1
Reverse primer0: (CΔ0) GCTGGTACCTTCCGTCGCCCTCCG 配列番号2
Reverse primer1: (CΔ1) GCTGGTACCCGTCGCCCTCCGGTA 配列番号3
Reverse primer2: (CΔ2) GCTGGTACCCGCCCTCCGGTAGCT 配列番号4
Reverse primer3: (CΔ3) GCTGGTACCCCTCCGGTAGCTGCG 配列番号5
Reverse primer4: (CΔ4) GCTGGTACCCCGGTAGCTGCGCAC 配列番号6
【0048】
野生型NLucのN末欠損変異体を、N末にKpnI制限酵素部位、C末にEcoRI制限酵素部位を付加した以下のプライマーを用いて増幅した。
Forward primer 1: (NΔ1) GCCGGTACCGTCTTCACACTCGAAGATTTCG 配列番号7
Forward primer 2: (NΔ4) GCCGGTACCCTCGAAGATTTCGTTGGGGAC 配列番号8
Forward primer 3: (NΔ5) GCCGGTACCGAAGATTTCGTTGGGGACTGGC 配列番号9
Reverse primer: ATGAATTCTTACGCCAGAATGCGTTCGCACAG 配列番号10
【0049】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅したDNA断片をフェノール・クロロホルム法により抽出した。UnaGのDNA断片はBamHI及びKpnIにより制限酵素処理した。NLucのDNA断片は、KpnI及びEcoRIで制限酵素処理した。アガロースゲル電気泳動後、ゲルからバンドを切り出したのち精製した(QIAEX2, QIAGEN)。精製した各断片と、BamHI, EcoRIにより制限酵素処理されたpRSETBベクターをライゲーションし、JM109(DE3)株に形質転換後、10cmディッシュに作成したLBアガー寒天培地上で37℃一晩培養した。
【0050】
2.スクリーニング
コロニーの生えた寒天培地を室温に置き、室温近くまで冷ました1%低融点アガロースゲルに最終濃度10μMのBilirubinを加えた溶液4mLを加えて、寒天培地上に注ぎ、室温で固めた。次に、ゲルの上から10μM Coelenterazine-h溶液を加え、すぐに暗箱に設置した一眼レフカメラ(Sony α7)により撮影し、コロニーのカラー画像を取得した。RGB画像の緑チャンネル(UnaGの発光)と青チャンネル(NLucの発光)画像からレシオ画像を作成し、レシオ値が高いコロニーをピックアップした。次に、ピックアップしたコロニーを、96ウェルプレートで、LB培地+10μM Bilirubin+100μg/mL Ampicillinで23℃、60時間培養した。培養液に10μM coelenterazineを加え、蛍光分光光度計(FV7000)あるいはプレートリーダーにより化学発光スペクトルを計測した。波長450nmで規格化し、波長525nmの相対値(レシオ値)をもとにスクリーニングを行った。
【0051】
C末欠損変異体UnaGとN末欠損変異体NLucをKpnIサイトで融合させたタンパク質をスクリーニングしたところ、UnaG(CΔ0)とNLuc(NΔ1)との組み合わせ(以下、"UnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質"という。)が、最も大きなフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)効率を示した(
図1)。このUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質の塩基配列は配列番号11であり、アミノ酸配列は配列番号12である。
【0052】
3.融合タンパク質のリンカー配列の最適化
UnaGとNLucのつなぎ目の配列である2残基(GT)を、インバースPCR法によってランダムな配列に置換した。次のプライマーを使用した。
Forward primer: NNKNNKGTCTTCACACTCGAAGATTTC 配列番号13
Reverse primer: TTCCGTCGCCCTCCGGTAGCTG 配列番号14
ベクター配列を含む全長を増幅後、制限酵素DpnIで処理することでテンプレートプラスミドを処理し、Ligation後、JM109(DE3)株に形質転換し、10cmディッシュに作成したLBアガー寒天培地上で、37℃で一晩培養した。発現したコロニーを、上記2で記述した方法でスクリーニングした。
【0053】
4.融合タンパク質へのリンカー配列の挿入
UnaGとNLucのつなぎの配列(GT)の後ろに、リンカー配列をインバースPCR法により挿入した。以下のプライマーを使用した。
Forward primer (G): GGCGTCTTCACACTCGAAGATTTC 配列番号15
Forward primer (GG): GGCGGCGTCTTCACACTCGAAGATTTC 配列番号16
Forward primer (GGS): GGCGGCAGCGTCTTCACACTCGAAGATTTC 配列番号17
Reverse primer: GGTACCTTCCGTCGCCCTC 配列番号18
ベクター配列を含む全長をPCRにて増幅後、制限酵素DpnIで処理することでテンプレートプラスミドを処理し、Ligation後、JM109(DE3)株に形質転換し、10cmディッシュに作成したLBアガー寒天培地上で、37℃で一晩培養した。発現したコロニーを、上記2で記述した方法でスクリーニングした。
【0054】
ランダム変異挿入によるリンカー配列最適化により、野生型のリンカー配列(GT)に比べ、(DD)配列が大きなFRET効率の変化を示した(
図2)。さらに、フレキシブルリンカーを追加した化学発光ビリルビン指示薬のFRET効率を調べたところ、(GTG)配列が最も大きなFRET効率を示した。
【0055】
5.タンパク質の精製
JM109(DE3)株に形質転換したUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質を、200mLのLB培地+100μg/mL Carvenisillin溶液で、23℃で60時間培養した。集菌後、フレンチプレス法により大腸菌を破砕し、Ni-NTAカラム(QIAGEN)を用いたアフィニティークロマトグラフィー法により精製した。さらに、過剰なimidazoleを取り除くために、ゲルろ過カラム(PD-10, GE HealthCare)を用いた。タンパク質濃度はブラッドフォード法により計測した。
【0056】
6.凍結乾燥試料の作成
精製したUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質500μLを15mLファルコンチューブに入れ、液体窒素により凍らせた。その後、凍結乾燥装置により、タンパク質溶液の粉末を得た。粉末は室温で保存した。
【0057】
7.滴定曲線の計測
最終濃度5nMのUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質に対し、0.01nM,0.05nM,0.1nM,0.5nM,1nM,2.5nM,5nM,又は10nMのビリルビン(BR)溶液及び最終濃度5μM Coelenterazine-hを混合し、発光スペクトルをマルチチャンネル分光器(PMA-12,浜松ホトニクス製)あるいはプレートリーダーにより計測した。その結果の一例を
図3に示す。3回の独立した計測の平均値をプロットし、ヒルの式によりフィッティングを行った。K
d値は3.05nMであった。
【0058】
また、凍結乾燥試料作成後、どの程度の期間活性を保つか調べるために、数日ごとに凍結乾燥試料を水に融解したものを室温で保存し、上記7に記述した方法によりビリルビンによるアフィニティーを計測した。その結果、ややアフィニティーは落ちるものの、活性を保つ事が明らかとなった(
図4)。
【0059】
8.スマートフォンによる測定
96マルチウェルプレートに、最終濃度50nMの融合タンパク質に最終濃度10nM,20nM,30nM,40nM,50nM,100nM,又は250nMのビリルビン溶液及び最終濃度5μM Coelenterazine-hを混合し、iPhone(登録商標)6に搭載したアプリ(Manual - Custom exposure camera)を用い、ISO1500,露光時間0.5秒により計測した。
【0060】
マルチウェルプレート上に作成した融合タンパク質及び様々な濃度のビリルビン溶液をカラー撮影したところ、ビリルビン濃度依存的に溶液が青色から緑色に変化していく様子を計測することに成功した(
図5)。
図5に示すように、ビリルビンが0nMのときは化学発光タンパク質の発光色(シアン)である。ビリルビン濃度が増すにつれてUnaGの発光色(緑)に変化した。RGBを使って色の変化の様子の一例を説明すると、発光色は、0nM(56,133,204)、10nM(79,157,215)、20nM(96,169,209)、30nM(101,164,194)、40nM(119,179,189)、50nM(123,169.156)、100nM(154,187,111)、250nM(158,191,107)であった。
図5のような相関があれば、発光データ(発光色)からビリルビン濃度が算出できる。
【0061】
[実施例2]
一定濃度のビリルビン・発光基質(Coelenterazine-h)溶液に対し、原液、2倍希釈、4倍希釈又は8倍希釈のUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質溶液を混合し、発光スペクトルをマルチチャンネル分光器(PMA-12,浜松ホトニクス製)により計測し、得られた発光強度からUnaGの発光波長(530nm)の発光強度とNLucの発光波長(460nm)の発光強度とのレシオ値(530nm/460nm)を算出した。その結果の一例を
図6に示す。
図6において、
図6Aが化学発光スペクトルを示し、
図6BがUnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質溶液(検出試薬)の希釈率とレシオ値(530nm/460nm)との関係を示すグラフである。
【0062】
[比較例1]
96ウェルプレート(黒色)にUnaGタンパク質溶液(8.25nM,16.5nM,31.5nM,62.5nM,125nM又は250nM)を50μLずつ加え、ついで400nMビリルビン溶液を50μLずつ加えた。マイクロプレートリーダー(SH-9000,corona社製)を用いて450nmの波長の励起光を照射後、蛍光スペクトルを取得した。その結果の一例を
図7に示す。
図7において、
図7Aが蛍光スペクトルを示し、
図7BがUnaGタンパク質溶液(検出試薬)の濃度とUnaGの発光波長(530nm)の蛍光強度との関係を示すグラフである。
【0063】
比較例1では、
図7A及びBに示すように、検出対象であるビリルビンの濃度が同じであるにも関わらず、検出試薬の濃度によって蛍光強度が変化した。つまり、比較例1(UnaGタンパク質を用いた方法)では、定量的な計測はできないといえる。
これに対し、UnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質を用いて計測した実施例2では、検出試薬の濃度によって発光強度は異なるものの、スペクトルの波形が一定であり(
図6A)、
図6Bに示す通り、検出試薬の濃度にかかわらず同一のビリルビン濃度に対するピークレシオ値(530nm/460nm)は略同じであった。このため、UnaG(CΔ0)-NLuc(NΔ1)融合タンパク質を使用することにより、検出試薬の濃度に関わらない測定、つまり定量的な計測が可能であるといえる。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号 1:フォワードプライマー
配列番号 2:リバースプライマー
配列番号 3:リバースプライマー
配列番号 4:リバースプライマー
配列番号 5:リバースプライマー
配列番号 6:リバースプライマー
配列番号 7:フォワードプライマー
配列番号 8:フォワードプライマー
配列番号 9:フォワードプライマー
配列番号10:リバースプライマー
配列番号11:UnaG(C 0)-NLuc(N 1)融合タンパク質の塩基配列
配列番号12:UnaG(C 0)-NLuc(N 1)融合タンパク質のアミノ酸配列
配列番号13:フォワードプライマー
配列番号14:リバースプライマー
配列番号15:フォワードプライマー
配列番号16:フォワードプライマー
配列番号17:フォワードプライマー
配列番号18:リバースプライマー
【配列表】