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特許7016313電気泳動チップ、電気泳動装置、及び電気泳動システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】電気泳動チップ、電気泳動装置、及び電気泳動システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220128BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N27/447 315D
【請求項の数】 51
(21)【出願番号】P 2018505320
(86)(22)【出願日】2017-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2017003454
(87)【国際公開番号】W WO2017159084
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2016054896
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502338292
【氏名又は名称】ユニバーサル・バイオ・リサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田島 秀二
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-121413(JP,A)
【文献】特開2000-346828(JP,A)
【文献】国際公開第2014/189085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動用のゲル及びバッファーを収容する電気泳動管と、前記電気泳動管の下側にプラスまたはマイナスの一方の電位を加える第1の電極と、前記電気泳動管の上側にプラスまたはマイナスの他方の電位を加える第2の電極と、を備える、電気泳動具であって、
前記電気泳動管、前記第1の電極、及び第2の電極を一体的に保持するホルダを備え、
前記第1の電極は、前記電気泳動管の前記上側から前記下側まで、前記電気泳動管の外側を前記電気泳動管にそって延びる、電気泳動具。
【請求項2】
請求項1に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記電気泳動管、前記第1の電極、及び前記第2の電極を固定する、電気泳動具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記電気泳動管の上部を保持する、電気泳動具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記第1の電極を収容する第1の電極収容部と、前記第2の電極を収容する第2の電極収容部とを備える、電気泳動具。
【請求項5】
請求項4に記載の電気泳動具において、
前記第1の電極収容部及び前記第2の電極収容部を接続するヒンジ部を備える、電気泳動具。
【請求項6】
請求項4に記載の電気泳動具において、
前記第1の電極収容部及び前記第2の電極収容部は、分離可能である、電気泳動具。
【請求項7】
請求項6に記載の電気泳動具において、
前記第1の電極収容部は、前記第2の電極収容部を挿入可能な開口を有する、電気泳動具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電気泳動具において、
前記第1の電極は、前記電気泳動管の前記下側で、前記電気泳動管と平行に延びる、電気泳動具。
【請求項9】
請求項8に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記第1の電極にそって前記電気泳動管の前記下側まで延びる延長部を備える、電気泳動具。
【請求項10】
請求項9に記載の電気泳動具において、
前記延長部は、前記電気泳動管を挟持する挟持部を備える、電気泳動具。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記第1の電極を収容する収容溝を備える、電気泳動具。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の電気泳動具において、
前記第2の電極の下端は、前記電気泳動管の内部に挿入される、電気泳動具。
【請求項13】
請求項1に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記第1の電極と嵌合するように、前記電気泳動管と一体成形された、第1の嵌合体を含む、電気泳動具。
【請求項14】
請求項13に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記第2の電極と嵌合するように、前記電気泳動管と一体成形された、第2の嵌合体を含む、電気泳動具。
【請求項15】
請求項13または14に記載の電気泳動具において、
前記ホルダは、前記電気泳動管の上部に設けられる、電気泳動具。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の電気泳動具において、
前記電気泳動管は、バッファーを収容するバッファー収容管と、前記ゲルを収容するゲル収容管とを備える、電気泳動具。
【請求項17】
請求項16に記載の電気泳動具において、
前記第1の電極の下端は、前記バッファー収容管内に配置される、電気泳動具。
【請求項18】
電気泳動装置であって、
電気泳動を制御する制御部と、
請求項1~17のいずれか一項に記載の電気泳動具と、
前記電気泳動具の前記第1の電極に給電する第1の給電部と、
前記電気泳動具の前記第2の電極に給電する第2の給電部と、
分注器と、
前記電気泳動具の前記第2の電極及び前記電気泳動管の下端が挿入されるウェルと、
前記電気泳動具及び/または前記分注器を3次元的に移動可能な移動ユニットとを備える、電気泳動装置。
【請求項19】
請求項18に記載の電気泳動装置において、
パルスフィールドゲル電気泳動を行うために、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に加わる電場を周期的に変化させる電源部を備える、電気泳動装置。
【請求項20】
請求項19に記載の電気泳動装置において、
前記電源部は、前記電場の向きを周期的に反転させる、電気泳動装置。
【請求項21】
請求項19または20に記載の電気泳動装置において、
前記電源部は、前記電場の強さを周期的に変化させる、電気泳動装置。
【請求項22】
請求項18~21のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記移動ユニットは、前記電気泳動具及び/または前記分注器を縦方向へ略直線的に移動する縦移動ユニットと、前記電気泳動具及び/または前記分注器を横方向へ略直線的に移動する横移動ユニットとから構成される、電気泳動装置。
【請求項23】
請求項22に記載の電気泳動装置において、
前記横移動ユニットは、前記縦移動ユニットを搭載し、前記縦移動ユニットを横方向に移動する、電気泳動装置。
【請求項24】
請求項18~23に記載の電気泳動装置において、
前記ウェルが複数のウェルであり、
前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動することにより、前記電気泳動管の前記ゲルをサンプルが流れる際に生じる複数のバンドを前記複数のウェルに分取する、電気泳動装置。
【請求項25】
請求項24に記載の電気泳動装置において、
前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動する際、前記制御部は、前記電気泳動具を前記移動ユニットにより前記ウェルの上方に移動する、電気泳動装置。
【請求項26】
請求項24または25に記載の電気泳動装置において、
前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動する際、
前記制御部は、前記第1の給電部及び前記第2の給電部から前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を停止する、電気泳動装置。
【請求項27】
請求項18~26のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記ウェルは、環状に配置された複数の容器を備える、電気泳動装置。
【請求項28】
請求項27に記載の電気泳動装置において、
前記ウェルは、前記複数の容器に取り囲まれるバッファー容器を備える、電気泳動装置。
【請求項29】
請求項27または28に記載の電気泳動装置において、
前記ウェルを回転するウェル回転機構を備える、電気泳動装置。
【請求項30】
請求項29に記載の電気泳動装置において、
前記ウェルが、複数の分取容器を備え、
前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転することにより前記複数の分取容器を切り替える、電気泳動装置。
【請求項31】
請求項30に記載の電気泳動装置において、
前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転する際、前記電気泳動具は前記移動ユニットにより前記ウェルから離れて上方に移動する、電気泳動装置。
【請求項32】
請求項29~31のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転する際、
前記制御部は、前記第1の給電部及び前記第2の給電部から前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を停止する、電気泳動装置。
【請求項33】
請求項22または23に記載の電気泳動装置において、
前記分注器は、前記縦移動ユニットに接続される、電気泳動装置。
【請求項34】
請求項22、23、33のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記縦移動ユニットは、前記第1の給電部及び前記第2の給電部を一体的に移動する、電気泳動装置。
【請求項35】
請求項18~34のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記電気泳動管の前記ゲルをサンプルが流れる際に生じるバンドまたはラダーを検出する検出装置を備える、電気泳動装置。
【請求項36】
請求項35に記載の電気泳動装置において、
前記検出装置は、前記電気泳動具の前記電気泳動管に対向する検出端部と、前記検出端部を3次元的に移動する検出端部移動ユニットとを備える、電気泳動装置。
【請求項37】
請求項36に記載の電気泳動装置において、
前記検出端部移動ユニットは、前記電気泳動管の長手方向にそって前記検出端部を移動する、電気泳動装置。
【請求項38】
請求項36または37に記載の電気泳動装置において、
前記検出端部移動ユニットは、前記電気泳動管または前記ウェルの側面に対向した状態に前記検出端部を移動する、電気泳動装置。
【請求項39】
請求項36~38のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記検出端部移動ユニットは、前記検出端部が前記電気泳動管又は前記ウェルに対向した状態で、前記電気泳動管又は前記ウェルの側面に対して近付く方向又は遠ざかる方向に前記検出端部を移動する、電気泳動装置。
【請求項40】
請求項36~37のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記検出端部は、励起光用光ファイバーの照射端及び蛍光受光用光ファイバーの受光端を保持する、電気泳動装置。
【請求項41】
請求項36~40のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記検出端部は、前記ウェルの側面の輪郭にそった湾曲面を備える、電気泳動装置。
【請求項42】
請求項36~41のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
前記検出装置が電気泳動中のサンプルから分離した複数のバンドの位置を検出する、電気泳動装置。
【請求項43】
請求項18~42のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
磁性粒子を用いた核酸の抽出機構を備える、電気泳動装置。
【請求項44】
請求項18~43のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、
核酸を増幅する増幅機構を備える、電気泳動装置。
【請求項45】
請求項18~44のいずれか一項に記載の電気泳動装置を複数備える、電気泳動システム。
【請求項46】
請求項45に記載の電気泳動システムにおいて、
前記制御部は、複数の電気泳動具のぞれぞれに対して、検出装置を用いてサンプルから分離したバンドの位置をそれぞれ検出するとともに、前記バンドの検出位置に基づき、前記複数の電気泳動具のそれぞれの前記第2の電極及び前記第1の電極への給電を制御することにより、各電気泳動具における前記バンドの移動を制御する、電気泳動システム。
【請求項47】
請求項46に記載の電気泳動システムにおいて、
前記制御部は、前記複数の電気泳動具のぞれぞれにおける、前記バンドの位置を揃えるように、前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を制御する、電気泳動システム。
【請求項48】
請求項18~44のいずれか一項に記載の電気泳動装置を用いて、サンプルの電気泳動を実行する、電気泳動方法。
【請求項49】
請求項45~47のいずれか一項に記載の電気泳動システムを用いて、複数のサンプルの電気泳動の並列処理を実行する、電気泳動方法。
【請求項50】
請求項48または49に記載の電気泳動方法において、
前記サンプルは生体関連物質である、方法。
【請求項51】
請求項50に記載の電気泳動方法において、
前記生体関連物質は、DNA、RNA、またはタンパク質である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質等の有機物質を電気泳動により分取または解析する電気泳動チップ、電気泳動装置、及び電気泳動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代シーケンサーがイルミナ社やロシュ社により実用化されている。さらに、1分子リアルタイム・シーケンシング等を用いて、DNA等の塩基配列決定量が飛躍的に高まっている。このように次世代シーケンサー技術は飛躍的に進歩したものの、シーケンス解析に用いるDNA等のサンプルの調整(前処理工程)は、手作業で複雑な工程が必要となっていた。
【0003】
DNA等のサンプルの前処理工程は、非特許文献1に記載されるように、(a)サンプルからのDNAの抽出、(b)DNAの断片化、(c)DNAのサイズセレクション(サイジング)、(d)DNA末端の平滑化処理、(e)DNA末端へのアダプター配列の付加、(f)DNAの精製、(g)DNAの増幅、を必要とする。DNAサイズセレクションには、電気泳動を用いた手法が知られている。次世代シーケンサーのためのDNAサイズセレクションは、所定範囲のサイズに揃えられたDNA断片、例えば10kbp~25kbpにサイジングされたDNA断片が必要とされている。
【0004】
上記(C)サイジングにおける電気泳動としては、例えばアガロースゲル電気泳動が用いられている。アガロースゲル電気泳動は、平板状に配置したアガロースゲルに電圧をかけることにより、マイナスに荷電したDNAサンプルがアガロースゲル中をプラス極側に移動する。この移動中に、長いDNA断片は網目構造のゲル中をゆっくり移動するのに対し、短いDNA断片は網目構造のゲル中を早く移動する。このような移動速度の差異を利用して、DNA断片がサイズ毎のバンドとして分離される。そして、必要なサイズのバンドの部分をアガロースゲルから手作業で切り取って上記(d)以降の処理が行われる。なお、DNA断片の電気泳動に関して、特許文献1に示すようなキャピラリーゲル電気泳動を用いた分離分取装置が神原らにより提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】田崎裕人 企画編集、「製品中に含まれる(超)微量成分・不純物の同定・定量ノウハウ」、株式会社技術情報協会、2014年3月11日、p.816-822
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-48766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電気泳動は、一度に比較的大量のDNA等のサンプルを処理することが困難であった。特許文献1に記載の装置は、比較的大量のサンプルを同時に処理することが困難であった。そこで本発明は、効率よくサンプルのサイジングを可能とする新規な電気泳動具、電気泳動装置、及び電気泳動システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の通り構成される。

(態様1)電気泳動用のゲル及びバッファーを収容する電気泳動管と、前記電気泳動管の下側にプラスまたはマイナスの一方の電位を加える第1の電極と、前記電気泳動管の上側にプラスまたはマイナスの他方の電位を加える第2の電極と、を備える、電気泳動具であって、前記電気泳動管、及び前記第1の電極を一体的に保持するホルダを備える、電気泳動具。(態様2)態様1に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記電気泳動管、前記第1の電極、及び前記第2の電極を一体的に保持する、電気泳動具。(態様3)態様1または2に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記電気泳動管の上部を保持する、電気泳動具。(態様4)態様1~3のいずれか一項に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記第1の電極を収容する第1の電極収容部と、前記第2の電極を収容する第2の電極収容部とを備える、電気泳動具。
【0009】
(態様5)態様4に記載の電気泳動具において、前記第1の電極収容部及び前記第2の電極収容部を接続するヒンジ部を備える、電気泳動具。(態様6)態様4に記載の電気泳動具において、前記第1の電極収容部及び前記第2の電極収容部は、分離可能である、電気泳動具。(態様7)態様6に記載の電気泳動具において、前記第1の電極収容部は、前記第2の電極収容部を挿入可能な開口を有する、電気泳動具。(態様8)態様1~7のいずれか一項に記載の電気泳動具において、前記第2の電極は、前記電気泳動管の前記上側から前記下側まで、前記電気泳動管にそって延びる、電気泳動具。(態様9)態様8に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記第2の電極にそって前記電気泳動管の前記下側まで延びる延長部を備える、電気泳動具。(態様10)態様9に記載の電気泳動具において、前記延長部は、前記電気泳動管を挟持する挟持部を備える、電気泳動具。
【0010】
(態様11)態様1~10のいずれか一項に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記第2の電極を収容する収容溝を備える、電気泳動具。(態様12)態様1~11のいずれか一項に記載の電気泳動具において、前記第1の電極の下端は、前記電気泳動管の内部に挿入される、電気泳動具。(態様13)態様1に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記第1の電極と嵌合するように、前記電気泳動管と一体成形された、第1の嵌合体を含む、電気泳動具。(態様14)態様15に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記第2の電極と嵌合するように、前記電気泳動管と一体成形された、第2の嵌合体を含む、電気泳動具。(態様15)態様13または14に記載の電気泳動具において、前記ホルダは、前記電気泳動管の上部に設けられる、電気泳動具。
【0011】
(態様16)態様1~14のいずれか一項に記載の電気泳動知具において、前記電気泳動管は、バッファーを収容するバッファー収容管と、前記ゲルを収容するゲル収容管とを備える、電気泳動具。(態様17)態様16に記載の電気泳動具において、前記第1の電極の下端は、前記バッファー収容管内に配置される、電気泳動具。(態様18)電気泳動装置であって、電気泳動を制御する制御部と、態様1~17のいずれか一項に記載の電気泳動具と、前記電気泳動具の前記第1の電極に給電する第1の給電部と、前記電気泳動具の前記第2の電極に給電する第2の給電部と、分注器と、前記電気泳動具の前記第2の電極及び前記電気泳動管の下端が挿入されるウェルと、前記電気泳動具及び/または前記分注器を3次元的に移動可能な移動ユニットとを備える、電気泳動装置。(態様19)態様18に記載の電気泳動装置において、パルスフィールドゲル電気泳動を行うために、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に加わる電場を周期的に変化させる電源部を備える、電気泳動装置。(態様20)態様19に記載の電気泳動装置において、前記電源部は、前記電場の向きを周期的に反転させる、電気泳動装置。
【0012】
(態様21)態様18または19に記載の電気泳動装置において、前記電源部は、前記電場の強さを周期的に変化させる、電気泳動装置。(態様22)態様18~21のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記移動ユニットは、前記電気泳動具及び/または前記分注器を縦方向へ略直線的に移動する縦移動ユニットと、前記電気泳動具及び/または前記分注器を横方向へ略直線的に移動する横移動ユニットとから構成される、電気泳動装置。(態様23)態様22に記載の電気泳動装置において、前記横移動ユニットは、前記縦移動ユニットを搭載し、前記縦移動ユニットを横方向に移動する、電気泳動装置。(態様24)態様18~23に記載の電気泳動装置において、前記ウェルが複数のウェルであり、前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動することにより、前記複数のバンドを前記複数のウェルに分取する、電気泳動装置。(態様25)態様24に記載の電気泳動装置において、前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動する際、前記制御部は、前記電気泳動具を前記移動ユニットにより前記ウェルの上方に移動する、電気泳動装置。
【0013】
(態様26)態様24または25に記載の電気泳動装置において、前記移動ユニットが前記電気泳動具を移動する際、前記制御部は、前記第1の給電部及び前記第2の給電部から前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を停止する、電気泳動装置。(態様27)態様18~26のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記ウェルは、環状に配置された複数の容器を備える、電気泳動装置。(態様28)態様27に記載の電気泳動装置において、前記ウェルは、前記複数の容器に取り囲まれるバッファー容器を備える、電気泳動装置。(態様29)態様27または28に記載の電気泳動装置において、前記ウェルを回転するウェル回転機構を備える、電気泳動装置。(態様30)態様29に記載の電気泳動装置において、前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転することにより前記複数の分取部を切り替える、電気泳動装置。
【0014】
(態様31)態様30に記載の電気泳動装置において、前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転する際、前記電気泳動具は前記移動ユニットにより前記ウェルから離れて上方に移動する、電気泳動装置。(態様32)態様29~31のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記ウェル回転機構が前記ウェルを回転する際、前記制御部は、前記第1の給電部及び前記第2の給電部から前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を停止する、電気泳動装置。(態様33)態様22または23に記載の電気泳動装置において、前記分注器は、前記縦移動ユニットに接続される、電気泳動装置。(態様34)態様22、23、33のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記縦移動ユニットは、前記第1の給電部及び前記第2の給電部を一体的に移動する、電気泳動装置。(態様35)態様18~34のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記電気泳動管の前記ゲルをサンプルが流れる際に生じるバンドまたはラダーを検出する検出装置を備える、電気泳動装置。
【0015】
(態様36)態様35に記載の電気泳動装置において、前記検出装置は、前記電気泳動具の前記電気泳動管に対向する検出端部と、前記検出端部を3次元的に移動する検出端部移動ユニットとを備える、電気泳動装置。(態様37)態様36に記載の電気泳動装置において、前記検出端部移動ユニットは、前記電気泳動管の長手方向にそって前記検出端部を移動する、電気泳動装置。(態様38)態様36または37に記載の電気泳動装置において、前記検出端部移動ユニットは、前記電気泳動管または前記ウェルの側面に対向した状態に前記検出端部を移動する、電気泳動装置。(態様39)態様36~38のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記検出端部移動ユニットは、前記検出端部が前記電気泳動管又は前記ウェルに対向した状態で、前記電気泳動管又は前記ウェルの側面に対して近付く方向又は遠ざかる方向に前記検出端部を移動する、電気泳動装置。(態様40)態様36~37のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記検出端部は、励起光用光ファイバーの照射端及び蛍光受光用光ファイバーの受光端を保持する、電気泳動装置。
【0016】
(態様41)態様36~40のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記検出端部は、前記ウェルの側面の輪郭にそった湾曲面を備える、電気泳動装置。(態様42)態様36~41のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、前記検出装置が電気泳動中のサンプルから分離した複数のバンドの位置を検出する、電気泳動装置。(態様43)態様18~42のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、磁性粒子を用いた核酸の抽出機構を備える、電気泳動装置。(態様44)態様18~43のいずれか一項に記載の電気泳動装置において、核酸を増幅する増幅機構を備える、電気泳動装置。
【0017】
(態様45)態様18~44のいずれか一項に記載の電気泳動装置を複数備える、電気泳動システム。(態様46)態様45に記載の電気泳動システムにおいて、前記制御部は、前記複数の電気泳動具のぞれぞれに対して、前記検出装置を用いてサンプルから分離したバンドの位置をそれぞれ検出するとともに、前記バンドの検出位置に基づき、前記複数の電気泳動具のそれぞれの前記第2の電極及び前記第1の電極への給電を制御することにより、各電気泳動具における前記バンドの移動を制御する、電気泳動システム。(態様47)態様46に記載の電気泳動システムにおいて、前記制御部は、前記複数の電気泳動具のぞれぞれにおける、前記バンドの位置を揃えるように、前記第1の電極及び前記第2の電極への給電を制御する、電気泳動システム。(態様48)態様18~44のいずれか一項に記載の電気泳動装置を用いて、サンプルの電気泳動を実行する、電気泳動方法。(態様49)態様44~47のいずれか一項に記載の電気泳動システムを用いて、複数のサンプルの電気泳動の並列処理を実行する、電気泳動方法。(態様50)態様48または49に記載の電気泳動方法において、前記サンプルは生体関連物質である、方法。(態様51)態様48~50のいずれか一項に記載の電気泳動方法において、前記生体関連物質は、DNA、RNA、またはタンパク質である、方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気泳動具、電気泳動装置、及び電気泳動システムによれば、効率よくサンプルをサイジングし、分取又はミルキング、分析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気泳動チップの斜視図である。
図2図1の電気泳動チップの側面図である。
図3図1の電気泳動管の斜視図である。
図4図3の電気泳動管の長手方向における断面図である。
図5図1の電気泳動管用のホルダの展開斜視図である。
図6図5のホルダの上面図である。
図7図5のホルダの展開側面図である。
図8図5のホルダに電気泳動管を装着する途中の拡大側面図である。
図9図8のホルダに電気泳動管を装着した状態の側面図である。
図10図6のホルダに電気泳動管の装着後、ホルダ閉鎖中の拡大斜視図である。
図11図2の電気泳動チップの上面図である。
図12】本発明の第1の実施形態に係る電気泳動装置の側面図である。
図13図1の電気泳動チップへ分注器を用いた分注状態を示す側面図である。
図14図12の電気泳動装置を用いた電気泳動を示す側断面図である。
図15】本発明の第1の実施形態に係る電気泳動システムの上面図である。
図16図15の電気泳動システムによる電気泳動を示す断面図である。
図17】本発明の第2の実施形態に係る電気泳動チップの(a)側面図及び(b)正面図である。
図18図17のプラス電極収容部の(a)側面図及び(b)正面図である。
図19図18のプラス電極収容部に電気泳動チップを装着した状態の(a)側面図及び(b)正面図である。
図20図19(a)のプラス電極収容部をマイナス電極収容部に装着する直前の側面図である。
図21図19の状態の斜視図である。
図22図17の電気泳動チップの上面図である。
図23】本発明の第2の実施形態に係る電気泳動システムの斜視図である。
図24図23の電気泳動システムの正面図である。
図25図23の電気泳動システムの側面図である。
図26図23の電気泳動システムのステージに関する(a)4レーン配置の平面図、(b)8レーン配置の平面図である。
図27図23の電気泳動システムに用いる回転分取ウェルの斜視図である。
図28図27の回転分取ウェルの使用状態の側面図である。
図29図27の回転分取ウェルの回転機構の斜視図である。
図30図23の電気泳動システムの電気泳動状態の要部斜視図である。
図31図30の検出端部移動ユニットの要部斜視図である。
図32図31の検出端部移動ユニットの移動状態の要部斜視図である。
図33】本発明の実施例に用いる各種容器の側面図である。
図34】本発明の実施例おける電気泳動方法を示す図である。
図35】本発明の実施例おける電気泳動パターンを示す図である。
図36】本発明の第3の実施形態に係る電気泳動チップの、(a)正面図、(b)側面図である。
図37図36の電気泳動チップの上部の断面図である。
図38図36の電気泳動チップの第1の組立工程を示す側面図である。
図39図36の電気泳動チップの第2の組立工程を示す側面図である。
図40図36の電気泳動チップの第3の組立工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電気泳動チップ(電気泳動具)、電気泳動装置、及び電気泳動システムの各実施形態を説明する。本実施形態の電気泳動チップは、好ましくは電気泳動管、プラス電極、マイナス電極を一体化したものである。本実施形態の電気泳動装置は、電気泳動チップを移動ユニットに取り付けることにより、電気泳動チップを3次元的に移動可能とする。本実施形態の電気泳動システムは、電気泳動装置の処理レーン(処理ライン)を複数含み、複数のサンプルを平行して同時に処理するものである、各実施形態において、同一部分には同一の符号を付し、同一部分の説明は適宜省略する。
【0021】
〔第1の実施形態〕
(電気泳動チップ)
本発明の第1の実施形態に係る電気泳動チップ(Tip)1を、図1及び図2を用いて説明する。電気泳動チップ1は、電気泳動用のゲルを収容する電気泳動管100と、電気泳動管100の上部を保持するホルダ200と、電気泳動管100の下方からゲルにプラス電位(第1の電位)を加えるプラス電極(第1の電極)300と、電気泳動管100の上方からゲルにマイナス電位(第2の電位)を加えるマイナス電極(第2の電極)400とから構成される。ホルダ200は、電気泳動管100、プラス電極300、及びマイナス電極400をそれぞれ固定して一体化する。なお、ホルダ200によりプラス電極400を一体化せず、プラス電極400を図14の分取ウェル511~513(カートリッジ)側に移動可能に設けることもできる。
【0022】
図3及び図4には、使用開始前(ホルダ200に固定前)の電気泳動管100の状態を示している。電気泳動管100は、ホルダ200により保持される上端108と、バッファーを収容するバッファー収容管110と、バッファー収容管110よりも細く形成されたゲル収容管112と、ゲル収容管112に充填されるゲル140とを備える。電気泳動管1は、ストロー状であり、ゲル収容管112の内径は、好ましくは3mm~4mmとすることができる。電気泳動管100は、好ましくは電気泳動管100の上端開口を閉鎖する可撓性の上部キャップ120と、下端開口を閉鎖する可撓性の下部キャップ130とを備える。電気泳動管100が両キャップ120及び130を備えることにより、電気泳動管100をホルダ200に取り付ける前に、ゲルの乾燥及びゲルへのコンタミネーションを防止することができる。上部キャップ120及び下部キャップ130は、電気泳動を行う前に取り外される。
【0023】
上部キャップ120に替えて、電気泳動管100の内部でゲル140の上部を閉鎖する上部キャップ121を設けてもよい。上部キャップ121は棒状であり、電気泳動管100の上端開口の外側まで延びるつまみ123を備える。使用時につまみ123を引っ張ることにより上部キャップ121を容易に取り外すことができる。さらに、つまみ123の末端にリングを取り付けて、キャップ123の引き出しを容易にしてよい。電気泳動管1は、紫外線及び可視光が透過可能な透明材料から形成される。バッファーは、電気泳動を行う前に、図13に示すように分注器610を用いて分注される。ゲル140は、好ましくはアガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲルを用いることができるがこれらに限定されない。
【0024】
図5及び図6の展開図に示すように、ホルダ200は、プラス電極300を収容するプラス電極収容部(第1の電極収容部)210と、マイナス電極400を収容するマイナス電極収容部(第2の電極収容部)220と、両電極収容部210及び220を接続するヒンジ部230とから構成される。各電極収容部210、220は、さらに電気泳動管100の上部を取り囲み収容するように湾曲した形状(筒を長手方向に切断した形状)を有する。ヒンジ部230を中心としてマイナス電極収容部220をプラス電極収容部210に対して回転させると、両電極収容部210及び220が筒状のホルダ200を形成する。図示していないが、ホルダ200は、好ましくは、筒状のホルダ200を形成した状態で、両電極収容部210及び220を互いに固定する係止構造を備える。係止構造は、例えば、一方の電極収容部に設けられた弾性変形可能な爪と、他方の電極収容部に設けられ前記爪が引っ掛かる窪みとから構成される。
【0025】
プラス電極収容部210には、プラス電極300を収容する電極収容溝211と、プラス電極300の下端近傍まで延びる延長部213とを備える。電極収容溝211は、プラス電極収容部210の上端から延長部213の下端まで延びる。延長部213には、好ましくは電極収容溝211上に突出する複数の突出部を設けることにより、電極の脱落を防止することができる。さらに、延長部213には、図1に示したように、電気泳動管100のゲル収容管112を挟持する1つまたは複数の挟持部215、及び/または、プラス電極300の下端320側を保持する電極保持部217を設けることもできる。マイナス電極収容部220は、マイナス電極400を着脱自在に保持するC字状突起部221を備える。
【0026】
図5及び図6のホルダ200にプラス電極300及びマイナス電極400を取り付けた状態を、図7を用いて説明する。プラス電極300は、図12のプラス給電部(第1の給電部)621に接続される上端310と、図14の分取ウェル511~513等に満たされたバッファーに浸けられる下端320と、上端310及び下端320を接続する電線部330とから構成される。電線部330が電極収容溝211に収容される。
【0027】
マイナス電極400は、図12のマイナス給電部(第2の給電部)623に接続される上端410と、電気泳動管100に満たされたバッファーに浸けられる下端420と、上端410及び下端420を接続する電線部430とから構成される。マイナス電極400は、マイナス電極収容部220に設けられたC字状突起部221に着脱自在に保持される。
【0028】
図7の状態のホルダ200に電気泳動管100を装着する手順を説明する。初めに、図3の状態の電気泳動管100からキャップ120及び130を取り外す。次に、図8に示すように、マイナス電極収容部220の下方から上方に向けて電気泳動管100を移動して、電気泳動管100内にマイナス電極400の下端420を導き入れる。さらに、図9に示すように、下端420がバッファー収容管110内に延びるまで、電気泳動管100を移動する。図9から図10を経て、電極収容部210及び220を閉じることにより、ホルダ200が電気泳動管100の上部を取り囲んで固定した状態となる。この状態を図1及び図2に示す。図11は、図1及び図2の状態の電気泳動チップ1を上側から見た図である。
【0029】
(電気泳動装置)
本発明の第1の実施形態に係る電気泳動装置2を説明する。電気泳動装置2は、電気泳動チップ1を備える。図12に示すように、電気泳動装置2は、縦方向(略鉛直方向)に直線的に移動可能な縦移動ユニット600と、略直線状(ライン状)に配置された複数のウェルを備える処理ライン(カートリッジ)500とをさらに備える。図12は、電気泳動チップ1の図示を省略している。縦移動ユニット600には、分注チップ611を着脱自在に装着する分注器610と、分注器610を着脱自在に装着する分注器装着部(吸引ノズル)613と、電気泳動チップ1を着脱自在に装着する電気泳動チップ装着部620とを備える。電気泳動装置2は、縦移動ユニット600を横方向(略水平方向)に略直線的に移動可能とする横移動ユニット(例えば、図23の横移動ユニット900)と、前記横移動ユニット600及び縦移動ユニット900を制御する制御部(不図示)とを備える。電気泳動装置2が縦移動ユニット600及び横移動ユニット900を備えることにより、電気泳動チップ1を処理ライン600上で3次元的に移動することができる。電気泳動チップ1は、図15に示す電気泳動チップ収容ラック520に収容されている。分注器610は、図13に示すように、バッファーやサンプルを電気泳動チップ1の上端開口からその内部に分注することができる。さらに、分注器610は、各ウェルに溶液、サンプル、及び試薬を分注(吐出)したり、各ウェルからこれらを吸引して移動することもできる。
【0030】
第1の実施形態の電気泳動装置2を用いて電気泳動を行う状態を図14に示す。電気泳動装置2は、DNA等のサンプルの電気泳動によりゲル140中に生じるバンドを検出する検出装置(蛍光スキャナー)700を備える。検出装置700は、励起光の光源705と、励起光用光ファイバー710と、蛍光受光用光ファイバー720と、励起光用光ファイバー710の照射端及び蛍光受光用光ファイバー720の受光端を保持する検出端部730と、蛍光受光用光ファイバー720からの光を検出する光電子増倍管(PMT)等の光検出素子740と、検出端部730を3次元的に移動する検出端部移動ユニット(例えば、図31及び32の検出端部移動ユニット750)とを備える。検出端部730は、検出端部移動機構によって、励起光用光ファイバー710の照射端及び蛍光受光用光ファイバー720の受光端を、電気泳動管100のゲル収容管112の側面及び/またはウェル510の側面と対向させた状態で、ゲル収容管112及び/またはウェル510の長手方向にそって縦方向(略垂直方向)に移動可能である。さらに、検出端部730は、検出端部移動ユニットによって、ゲル収容管112の側面及び/またはウェル510の側面に対して近付いたり離れたりする横方向(略水平方向)に移動可能である。なお、分取ウェル511~513は、紫外線及び可視光が透過可能な透明材料から形成される。
【0031】
第1の実施形態の並列処理式の電気泳動システム3は、図15に示すように、同一構成を有する複数の電気泳動装置2~2Gを備える。図15のステージ800の上面図に示すように、各電気泳動装置2~2Gは、電気泳動チップ1~1Aと、処理ライン(処理レーン)500~500Gと、縦移動ユニット600~600Gと、検出装置700~700G(図示省略)と、横移動ユニット900とから構成される。各縦移動ユニット600~600Gは、対応する各処理ライン500~500G上方でこれらの長手方向にそって移動可能である。さらに、各処理ライン500~500Gに対して検出装置の検出端部730が設けられる。各検出端部730は、縦移動ユニット600に装着された各電気泳動チップ1の横移動方向に配置することが好ましい。これによって、図15に示すように、複数の電気泳動装置を備えた場合にも、一の検出端部730の水平移動が他の検出端部730の移動に干渉せず、全体としてコンパクトに配置することができる。検出端部730の水平及び垂直移動の邪魔にならないように、分取ウェル511、512、513は、他のウェルの分取時に移動することができる。図15において、各縦移動ユニットに個別の横移動ユニット600~600Gを設けることにより、各処理レーン500~500G上で独立して3次元的に移動可能としたが、各縦移動ユニットを一体的に移動する縦移動ユニット(図23の縦移動ユニット600)、及び/または横移動ユニット(図23の横移動ユニット900)を設けてもよい。
【0032】
(電気泳動による分取)
電気泳動装置2を用いた電気泳動による断片化DNA(サンプル)の分取工程を、図14を参照して説明する。公知の手法を用いてサンプルからDNAを抽出し、これを断片化する。得られた断片化DNAに、複数の標識化DNA(分子量マーカー)を加える。複数の標識化DNAは、既知の分子量(サイズ)をそれぞれ有し、蛍光により検出装置700を用いて検出可能である。例えば、10kbpの分子量を有する標識化DNAと、25kbpの分子量を有する標識化DNAとの2種類を加えることができる。このように複数の標識化DNAを加えて電気泳動を行うと、複数の標識化DNAのバンド、各標識化DNAのバンドの間に位置する断片化DNAのバンドに分離する。そして、標識化DNAのバンドの位置を検出装置700により検出することにより、必要な分子量の断片化DNAを分取(ミルキング)することができる。
【0033】
電気泳動装置2による分取(ミルキング)の具体的な処理手順は、次の通りである。図1及び図2の状態に組み立てた電気泳動チップ1を、電気泳動装置2のチップ収容ラック520(図15)にセットする。チップ収容ラック520に収容した状態で、電気泳動チップ1は縦移動ユニット600には装着されていない。この状態で、図13に示すように、制御部が、分注器610を用いて、電気泳動チップ1の上端開口からバッファー、断片化DNAのサンプル、既知分子量の複数の標識化DNAを電気泳動チップ1内に分注する。次に縦移動ユニット600の電気泳動チップ装着部620に、電気泳動チップ1の上部を装着する。この装着と同時に、プラス電極300の上端310を縦移動ユニット600のプラス給電部621に、且つマイナス電極400の上端410を縦移動ユニット600のマイナス給電部623に、それぞれ挿入して電気的に接続する。これによってゲル140(図4)に電圧が印加可能となる。なお、電気泳動チップ装着部620には、電気泳動チップ1の移動の際、確実に固定するために、電気泳動チップ1の上部を挟んで押える押え機構を設けることもできる。
【0034】
そしてゲル140に電圧を印加すると、DNAはマイナスに帯電しているため、プラス電極の下端320側に向かって移動する。この移動の際に、DNAはそのサイズ(分子量)が大きいほどゲル中の移動速度が遅くなるため、図14に示すようにバンドA、B、Cに分離する。本実施形態では、バンドAは25kbpの標識化DNA、バンドBは分取が必要な断片化DNA、バンドCは10kbpの標識化DNAである。
【0035】
検出装置700の検出端部730を、ゲル収容管112に対向させた状態で、ゲル収容管112の長手方向に移動しつつ、ゲル収容管112に励起光を照射しゲル収容管112からの蛍光を測定することができる。これによって、ゲル収容管112の長手方向における断片化DNAの分離状態をリアルタイムで確認することができる。検出端部730は、ゲル収容管112の上端と下端との間で、縦方向及び横方向に移動可能である。
【0036】
検出端部730が電気泳動管100の下端の側面及び分取ウェル511の側壁に対向した状態で、バンドC(標識化DNA)が分取ウェル511内に落下していることを、検出装置700で確認することができる。バンドCの分取が完了したことを検出装置700からの信号で制御部が確認した後、制御部は、給電部621及び623から電極300及び400への電圧付与を停止して他のバンドA及びB(断片化DNA)がゲル中を移動することを停止する。電圧付与を停止した状態で、縦移動ユニット600を用いて、電気泳動チップ1の下端をウェル512内に移動する。電気泳動チップ1及びプラス電極300の下端がウェル512のバッファーに浸けられると、制御部は、給電部621及び623から電極300及び400への電圧付与を再開する。電圧付与の再開により、バンドBが下方に移動を開始する。なお、好ましくは、異なるウェルへの移動前に、電気泳動チップ1及び電極300の下端を洗浄することができる。
【0037】
第1の実施形態の電気泳動装置2または電気泳動システム3の制御部が、バンドBの断片化DNAがウェル512に落下して分取できたことを検出装置700からの信号により確認した後、制御部は、給電部621及び623から電極300及び400への電圧付与を再び停止してバンドAがゲル中を移動することを停止する。このようにして複数のバンドに含まれる断片化DNA、標識化DNAを、電気泳動チップ1を移動しつつ分取(ミルキング)することができる。
【0038】
図15の並列処理式の電気泳動システム3のように、複数の電気泳動チップ1~1Gを備えて、同時に同じサンプルの電気泳動を行う場合を説明する。各電気泳動チップ1~1Gに収容されたゲルに対して、同じサンプルを供給し同時に電気泳動を行ったとしても、各サンプルを完全に同じバンドの位置で分離することはできない。例えば、図16に示すようにバンドA~Cの位置が、電気泳動チップ1~1Bで異なっている。これは、ゲルの状態を完全に均一にすることはできないことによる。通常の電気泳動ではこのようなずれを調整することは困難である。
【0039】
電気泳動システム3においては、各電気泳動チップ1~1Bが備える検出端部730によって、各バンドの位置を測定し制御部が電圧供給を調整することにより、各バンドの下降を制御して各バンドの位置(高さ)を揃えることができる。これにより、分取が必要なバンドを各分取ウェル511に同じタイミングで分取することができる。例えば、必要なバンド位置が下方にある電気泳動チップ1に対しては制御部は電圧供給を停止する一方、必要なバンド位置が上方にある電気泳動チップ1に対しては制御部は電圧供給を続けることにより、各バンドの位置を同じ高さに調整することができる。
【0040】
電気泳動システム3の検出装置700に好適な蛍光スキャナーは、本願出願人により特願2015-94426号として特許出願(発明の名称「多重反応平行測定装置及びその方法」)されている。当該特許出願に記載の蛍光スキャナーを本発明に適用した場合を説明する。各電気泳動チップに設けられた各光照射検出部730は水平方向に延びる共通の上下方向移動枠に取り付けられる。各光照射検出部730の各蛍光受光用光ファイバー720からの蛍光の出光端は、同心円状に配置され、この配置に対して、回転するロータリファイバー回転ユニット750(図23及び図25)を設ける。この回転体に設けた一本の光ファイバーに順次、蛍光が入射するようにする。これによって、複数の電気泳動チップの蛍光を一つの光ファイバーに導き、一つの光ファイバーに接続された光検出素子によって、時分割で複数の電気泳動チップの蛍光を検出処理することができる。
【0041】
〔第2の実施形態〕
(電気泳動チップ)
本発明の第2の実施形態に係る電気泳動チップ1’を説明する。電気泳動チップ1’(図17)は、ホルダ1200の構造が電気泳動チップ1とは相違する。ホルダ1200は、プラス電極300を収容するプラス電極収容部1210(図18)と、マイナス電極400を収容するマイナス電極収容部1220(図20)とから構成される。プラス電極収容部1210とマイナス電極収容部1220とは分離可能な部材である。
【0042】
図18に示すように、プラス電極収容部1210は、電気泳動管100の上部を取り囲み収容するように湾曲した形状(筒を長手方向に切断した形状)を有する。プラス電極収容部1210には、第1の実施形態と同様の延長部213を備える。プラス電極収容部1210に電気泳動管100を装着すると、図19の状態となる。マイナス電極収容部1220は、図18及び図19に示すように概略筒状であり、下端に設けられたフランジ部1223と、フランジ部1223から下方に突出する位置決めリブ1225とを備える。位置決めリブ1225が挿入可能なスリットを、ステージ800の収容開口部または縦移動ユニット600の電気泳動チップ装着部620に設けることにより、電気泳動チップ1’を適切な向きで保持することができる。
【0043】
電気泳動管100を装着したプラス電極収容部1210の上部を、図20及び図21の矢印方向に向けて移動して、マイナス電極収容部1220の開口に挿入する。これによって、電気泳動管100、プラス電極収容部1210、及びマイナス電極収容部1220が一体化されて、電気泳動チップ1’の組立てが完成する。図22に示すように、組立完了状態の電気泳動チップ1’はその上端開口を介して、電気泳動管100の内部に分注可能となる。電気泳動チップ1’は、マイナス電極収容部1220からプラス電極収容部1210の脱落を防止する脱落防止機構を備えることができる。脱落防止機構は、マイナス電極収容部1220の筒状部分内側に設けたリブまたは突起と、当該リブまたは突起が噛み合うマイナス電極収容部1220の外側面に設けた窪みとから構成される。リブまたは突起が窪みに係合して脱落が防止される。
【0044】
(電気泳動システム)
本発明の第2の実施形態に係る電気泳動システム3を説明する。電気泳動システム3は、第1の実施形態に係る電気泳動システム3を具体化したものである。図23図25に示すように、電気泳動システム3は、検出機構(蛍光スキャナー)700と、ウェル530を含む複数のウェル等を備えるステージ800と、ステージ800上に設けられた縦方向(略垂直方向)へ略直転的に移動可能な縦移動ユニット600と、縦移動ユニット600を装着した状態で横方向(略水平方向)へ略直転的に移動可能な横移動ユニット900とを備える。縦移動ユニット600には、電気泳動チップ1または1’が着脱自在に装着される。検出機構700は、ロータリーファイバー回転機構750を備える。
【0045】
横移動ユニット900は、縦移動ユニット600を縦方向に移動するモータ901と、縦移動ユニット600の分注器601の吸引/吐出を行うポンプを駆動するモータ903とを備える。縦移動ユニット600、モータ901、903は、横移動ユニット900に搭載されているため、横移動ユニット900と一体となって横方向に移動可能である。横移動ユニット900は、ステージ800の下に不図示の横移動用機構(モータ及びギア)を備える。
【0046】
ステージ800の構造を図26を用いて説明する。図26(a)は、電気泳動用の分取ウェル530をステージ800に装着した状態の4レーン配置であり、図26(b)は、分取ウェル530をステージ800から取り外し電気泳動用の非分取ウェル535を装着した状態の8レーン配置である。ステージ800には、複数のウェル等が一列に並んだ複数の処理ライン(処理レーン)を備える。図26(b)は8つの処理ラインを使用する配置であり、図26(a)は、ライン幅より直径が大きい回転式の分取ウェル530を使用するため、1レーン飛ばしに4つの処理ラインを使用する配置である。なお、図26(b)の配置は、サンプルを分取する必要がなくバンドの位置関係(ラダーの形状)の情報が必要な場合(親子関係の検査等)に用いる。
【0047】
ステージ800の各ラインは、サンプルチューブ580と、チップ収容カートリッジ550と、サンプル抽出カートリッジ560と、PCRカートリッジ570と、分取ウェル530(図26(a))または非分取ウェル535(図26(b))とを備える。サンプルチューブ580には、生体関連物質のサンプルが収容される。チップ収容カートリッジ550には、複数の分注チップ611(図12)、試薬容器のシールを穿孔するピアシング用チップ、電気泳動チップ1または1’が収容される。サンプル抽出カートリッジ560は、複数のウェルを備え、磁性粒子を用いてサンプルからDNA等の生体関連物質を抽出する。また、図26に示すように、ステージ800上方で処理ラインの長手方向にそって横移動ユニット900が縦移動ユニット600と一体となって移動する。縦移動ユニット600には、縦移動ユニット600に装着された分注器610または電気泳動チップ1(1’)は、横移動ユニット900によって、処理ライン上で必要なウェル等の上方に移動し、縦移動ユニット600によって下降して、所定の処理を実行する。所定の処理とは、分注器610によるピアシング、吸引、または吐出、電気泳動チップ1,1’による電気泳動による分取とすることができる。
【0048】
(分取ウェル)
本発明の第2の実施形態に用いる分取ウェル530及び分取ウェル回転機構540について、図27図29を用いて説明する。分取ウェル530は、紫外線及び可視光が透過可能な透明材料を用いて、概略有底筒形状に形成される。さらに、分取ウェル530は、電気泳動用のバッファー等を収容するバッファー容器531と、バッファー容器531を取り囲むように環状に設けられた複数の分取容器533と、バッファー容器531の底部から十字状に突出する突出部535とを備える。電気泳動時には、図28に示すように、分注器610を用いて予めバッファー容器531に貯留されたバッファーを分取容器533に分注する。複数の分取容器533は、サンプル分取用の分取容器533と、排液分取用の分取容器533とから構成することができる。
【0049】
分取ウェル回転機構540は、ラックアンドピニオンを用いて複数の電気泳動分取ウェル530を回転する。分取ウェル回転機構540は、図29に示すように、分取ウェル回転用モータ541と、モータ541により回転する第1ピニオンギヤ543と、第1ピニオンギヤ543により直転的に移動されるラックギヤ545と、ラックギヤ545により回転される複数の第2ピニオンギヤ547と、複数の第2ピニオンギヤ547により回転される複数のインターナルギヤ549とを備える。ラックギヤ545は、第1ピニオンギヤ543と噛み合う第1歯面543aと、複数の第2ピニオンギヤ547と噛み合う第2歯面543bとを備える。インターナルギヤ549は、分取ウェル530の突出部535に固定される。制御部がモータ541の回転方向を変えることにより、複数の電気泳動分取ウェル530を時計方向または反時計方向に回転させることができる。分取ウェル530及び分取ウェル回転機構540により、横移動ユニット900の位置を移動することなく、サンプル中の複数のバンドを複数の分取容器533に分取することができる。
【0050】
第2の実施形態の電気泳動装置3によるDNA等の分取動作を図30図32を用いて説する。図30には、電気泳動装置3に電気泳動チップ1’を装着して電気泳動を行っている状態を示している。電気泳動チップ1’の電気泳動管100の下端及びプラス電極300の下端320は、分取ウェル530の分取容器533のバッファー中に浸けられている。検出装置700の検出端部730は、各分取ウェル530の背後に配置される。検出端部(蛍光スキャン部)730は、検出端部移動ユニット750により図31に矢印で示す、縦方向(略垂直方向)及び横方向(略水平方向)へ略直転的に移動可能である。検出端部730は、分取ウェル530の側面の輪郭にそうように湾曲した湾曲面731と、湾曲面731に設けられたスリット731aとを備える。スリット731aの内部には、励起光用光ファイバー710の照射端及び蛍光受光用光ファイバー720の受光端が、分取ウェル530または電気泳動管100のゲル収容管112の側面に対向するように配置されている。検出端部移動ユニット750は、複数の検出端部730を搭載し、複数の検出端部730を一体的または個別に略縦方向に移動する縦移動機構(不図示)と、複数の検出端部730を略横方向に一体的または個別に移動する横移動機構(不図示)とを備える。
【0051】
そして、電気泳動時に、検出端部730は、電気泳動チップ1’の長手方向(略垂直方向)にそって、図32に示すように移動可能である。検出端部730が長手方向にそって移動した際、検出端部730は電気泳動チップ1’の側面に近づく方向または遠ざかる方向に移動することができる。これによって、検出端部730が電気泳動チップ1’の側面の近傍で対向した状態でバンドを測定できるため測定精度が向上する。図14で説明した場合と同様に、検出端部730を略垂直方向に移動しながら測定を行うことにより、電気泳動中にサンプルから分離した複数のバンドの位置をスキャンすることができる。
【0052】
検出端部730が図30の位置にある状態で、検出端部730は電気泳動チップ1’の最下端を測定することができる。1つのバンドが1つの分取部533に落下したことを検出すると、電気泳動システム3の制御部はプラス及びマイナス電極300、400にへの電圧付与を停止した後、電気泳動チップ1’の下端を分取ウェルの上方に移動し、分取ウェル530を所定角度回転して、電気泳動チップ1’を他の分取部533の上方に移動する。そして、制御部は、電気泳動チップ1’を降下し、電気泳動チップ1’の下端を他の分取部533内のバッファーに浸け、プラス及びマイナス電極300、400の間に電圧を印加して電気泳動を再開する。このような動作を繰り返すことにより複数のバンドを複数の分取部に自動的に分取することができる。
【0053】
〔第3の実施形態〕
第1の実施形態の電気泳動チップ1(図1図14図16)、第2の実施形態の電気泳動チップ1’(図17)、第4の実施形態の電気泳動チップ1A(図36)では、第1の電極(プラス電極)300により電気泳動管100の下方からゲルにプラス電位を加え、第2の電極(マイナス電極)400により電気泳動管100の上方からゲルにマイナス電位を加えている。これによって、電気泳動チップ1、1’、1Aを用いて電気泳動を行う際、DNA等のサンプルは上から下に移動しつつ分子量に応じて分離されて検出または分取可能となる。
【0054】
これに対して、第3の実施形態では、第1~第4の実施形態の下側の第1の電極300、300Aをマイナス電極とし、第1~第4の実施形態の上側の第2の電極400、400Aをプラス電極とした。さらに、第3の実施形態では、図12の第1給電部621をマイナス電極とし、第2給電部623をプラス給電部とする。第3の実施形態の電気泳動チップ1、1’を用いて電気泳動する際、DNA等のサンプルは、電気泳動チップ1、1’の電気泳動管100の下端側から提供され、電気泳動管100を下から上に移動しつつ分子量に応じて分離されて分取可能となる。なお、第3の実施形態の電気泳動管100の上下に印加される電圧の大きさを調整することにより、重力に関わらず下から上に向かってサンプルを電気泳動することができる。
【0055】
〔第4の実施形態〕
第4の実施形態の電気泳動チップ1Aは、第1の実施形態の電気泳動チップ1や第2の実施形態の電気泳動チップ1’とは異なり、第1電極(プラス電極)300A及び第2の電極(マイナス電極)400Aを保持するホルダを、電気泳動管100と一体成形したものである。第4の実施形態の電気泳動チップ1Aを図36~37を用いて説明する。電気泳動チップ1Aの電気泳動管100は、バッファー収容管110と、バッファー収容管110の下端に圧入されるゲル収容管112(キャピラリーチューブ)とを備える。ゲル収容管112には、ゲル140が充填され、ゲル収容管112の下端開口は下部キャップ(ゴム栓)130で密封されている。バッファー収容管110は、その上端開口の周囲に形成されたフランジ部130と、フランジ部130及びバッファー収容管110の側面の間に形成された複数のリブ131と、フランジ部130から上方に突出する第1の電極嵌合ピン(第1の嵌合体)133と、フランジ部130から上方に突出する第2の電極嵌合ピン(第2の嵌合体)134とを備えている。第4の実施形態のホルダは、第1の電極嵌合ピン133、及び第2の電極嵌合ピン134から構成される。
【0056】
第1の電極嵌合ピン133の上端には、切り欠き部133aが設けられ、切り欠き部133aに第1の電極300Aの湾曲部が収容または嵌合される。第1の電極嵌合ピン133の下端の周囲のフランジ部130には、一対の貫通孔が設けられる。第1の電極300Aの上端310A及び下端320Aがそれぞれ一対の貫通孔に挿入される。第1の電極嵌合ピン133に第1の電極300Aが取り付けられた状態で、第1の電極嵌合ピン133に第1の電極300Aを保持するために、Oリング136が第1の電極嵌合ピン133側の第1の電極300Aの周囲に取り付けられる。第2の電極嵌合ピン143の上端には、切り欠き部143aが設けられ、切り欠き部143aに第2の電極400Aの湾曲部が収容または嵌合される。第2の電極嵌合ピン134の下端の周囲のフランジ部130には、一対の貫通孔が設けられる。第2の電極400Aの上端410A及び下端420Aがそれぞれ一対の貫通孔に挿入される。第2の電極嵌合ピン134に第2の電極400Aが取り付けられた状態で、第2の電極嵌合ピン134に第2の電極400Aを保持するために、Oリング136が第2の電極嵌合ピン134側の第2の電極400Aの周囲に取り付けられる。
【0057】
第4の実施形態の電気泳動チップ1Aの組立方法を図38図40を用いて説明する。図38(A)に示すように、第1の組立工程では、ゲルを収容した状態で、ゲル収容管112の下端開口に下部キャップ130を取り付け、ゲル収容管112の上端開口に上部キャップ(ゲル密封栓)121を取り付け、図38(B)に示すように、ゲル収容管112を密封する。上部キャップ121は、棒状であり、その上端に環状のつまみ123を備えている。
【0058】
図38(B)の状態のゲル収容管112に対して、図39(C)に示すように、つまみ123及び上部キャップ121を、バッファー収容管110の下端開口から、バッファー収容管110の内部に挿入する。ゲル収容管112をバッファー収容管110の方向に移動して、図39(D)に示すように、ゲル収容管112の上端をバッファー収容管110の下端開口内に圧入して一体化する。なお、図39(D)の状態で、上部キャップ121のつまみ123の全体が、バッファー収容管110の上端開口から露出している。
【0059】
さらに、図40(E)に示すように、第1の電極嵌合ピン133に第1の電極300Aの湾曲された上端310Aが取り付けられた後、Oリング136で第1の電極300Aの湾曲された上端310Aが第1の電極嵌合ピン133に固定される。同様に、第2の電極嵌合ピン134に第2の電極400Aの湾曲された上端410Aが取り付けられた後、Oリング136で第2の電極400Aの湾曲された上端410Aが第2の電極嵌合ピン134に固定されて、図40(F)に示すように、第4の実施形態の電気泳動チップ1Aの組立が完了する。なお、電気泳動チップ1Aは、図40(G)に示すように、第1の電極300Aの下部をゲル収容管112の下部に対して支持する支持体160を備えることができる。
【0060】
第1~第4の実施形態の電気泳動具(電気泳動チップ)、電気泳動装置、及び電気泳動システムは、DNA等の核酸の電気泳動に限定されず、タンパク質等の生体関連物質を含む有機物の電気泳動にも適用可能である。第1~第4の実施形態の電気泳動チップ1、1’、1Aの縦移動ユニット600による縦方向及び横方向の移動は、予め定めた手順にしたがって制御部が自動的に実行することができる。各実施形態の検出装置700は、蛍光を検出するがこれに限定されず、化学発光を検出したり、吸光度を検出する装置を用いることもできる。化学発光を検出する場合には、励起光の光源705及び励起光用光ファイバー710を省略することができる。吸光度を検出する場合は、PMT等の光検出素子740に換えて吸光度光計を用い、さらに着色した標識化DNAを用いることができる。各実施形態の電気泳動装置または電気泳動システムに、磁性粒子を用いたDNAの抽出機構、及び/または断片化DNAをPCR等により増幅する増幅機構を組み合わせた抽出/増幅装置を提供することもできる。電気泳動装置、抽出機構、増幅機構は、予め定めた手順にしたがって自動的に処理を行うことができる。第1~第4の実施形態の電気泳動チップ1、1’、1Aの縦移動ユニット600への着脱は、着脱機構をにより自動的に行うことができる。各実施形態の光検出素子740は、PMTに限定されず、CCDやCMOS等の撮像素子を用いることもできる。
【0061】
各実施形態の電気泳動システム3において、並列に配置された各電気泳動チップ1~1Gのバンド位置の誤差補正を電圧を制御することにより、電気泳動のバンドの位置の均等化が可能となる。各実施形態の制御部は、電気泳動チップの溶液に混入させた蛍光標識化DNA等を常時検出装置700(蛍光スキャナー)で観察し、一定の略水平位置で一列に揃えるように、各電気泳動チップの電圧を個別にオンオフすることにより、位置制御しDNA等の分取または解析を正確に行うことができる。
【0062】
第1の実施形態、第2の実施形態、及び第4の実施形態では、電気泳動管100の上側にマイナス電極400、下側にプラス電極300を設けてゲルに電位を加えるものとし、第3の実施形態では、電気泳動管100の下側にマイナス電極400、上側にプラス電極300を設けてゲルに電位を加えるものとしたが、これに限定されず、マイナス電極とプラス電極とを交互に切換えるパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いることができる。図12及び図14に示すように、電気泳動装置2は、給電部621及び623と電気的に接続される電源部630を備える。電源部630は、電極300及び400の間に加わる電場を周期的に変化させることができる。より具体的には、電源部630は、電極300及び400の間の電場が加わる向きを周期的に反転させることができる。さらに、電源部630は、電極300及び400の間の電場の向きを周期的に反転させつつ、前記電場の強さを周期的に変化させることもできる。PFGEを行うことにより、大分子量(数十kbp~数Mbp)のDNAを効率よく分離することができる。
【0063】
(遺伝子マーカー解析)
第1の実施形態の電気泳動システム3を、遺伝子マーカー解析に用いることもできる。遺伝子マーカーとしては、一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)、制限酵素断片長多型(RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)、またはマイクロサテライトを用いることができる。マイクロサテライトとは、ゲノム上に存在する反復配列であり、数塩基(例えば、2~4塩基)の単位配列の繰り返しから構成される。第1の実施形態の電気泳動システム3を、マイクロサテライト解析等の遺伝子マーカーの解析に用いた場合を以下説明する。
【0064】
第1の実施形態の電気泳動システム3は、図16に示すように複数の電気泳動チップ1~1Bを備えており、各電気泳動チップ1~1Bを用いて、異なる複数のサンプルの電気泳動を行う。電気泳動の際には、各サンプルの基準バンド(例えば分子量マーカーのバンド)の位置が揃うように、検出装置700の検出端部730で測定しつつ、制御部が第1の電極および第2の電極の間の電圧を調整し電気泳動を実行する。これによって、電気泳動チップ1~1Bにそれぞれ投入された異なるサンプルについて、基準バンドの位置が揃ったラダー(電気泳動パターン)を得ることができる。
【0065】
ラダーの情報(配置または形状)は、検出端部730を電気泳動管の長手方向にそって移動しつつスキャンすることにより得ることができる。このラダーに含まれる遺伝子マーカーを解析することにより、ヒトの個人識別、親子解析、親族解析、またはプレシジョンメディシン(精密医療)等を実行することができる。また、第1の実施形態の電気泳動システム3は、基準バンドの位置を揃えることができるため、各サンプルのラダーの解析(比較)が容易となる。さらに、比較するサンプルは、それぞれ独立した電気泳動チップ1~1B内で、独立した分注器及びウェルを用いて電気泳動を実行するため、異なるサンプル間のコンタミネーションの可能性を低減することができる。
【実施例
【0066】
本発明の電気泳動システムの実施例を説明する。本実施例において、第1、第2、及び第3の実施形態と同一部分は、同一符号を付し、説明は適宜省略する。本実施例は、第3の実施形態に対応する構成を備える。図32に示すように、本実施例の電気泳動システム3は、サンプルを収容するサンプル容器(ウェル)580、ローディングバッファーを収容するローディング容器581、電気泳動バッファーを収容する電気泳動容器582と、洗浄液を収容する洗浄容器583とを備える。これらの容器に、電気泳動に必要なサンプル、試薬、及び各種バッファーが予め分注器等を用いてそれぞれ分注される。容器580、581、582、583は、それぞれ1つまたは複数設けることができる。容器580、581、582、583は、好ましくはステージ800(図23図26)上に配置される。サンプルは、好ましくはPCRから得られたDNA等である。ローディングバッファーは、電気泳動バッファーと、分子量マーカーと、ラべリングダイとを混合したものである。
【0067】
ローディングダイは、2本鎖DNA検出のための蛍光色素であり、例えばSYBER GREEN Iを用いることができる。ローディングダイには、視覚的に泳動状態を確認できるようにBromophenol Blue(BPB)や、Xylene Cyanole FF(XC)等を含めることもできる。分子量マーカーとは、解析するDNAのサイズを推定するための、既知サイズのDNA断片である。分子量マーカーは、DNA等のサンプルと同時に泳動される。分子量マーカーは好ましくは2種類のサイズを含み、解析するDNAサイズは、2種類の分子量マーカーのサイズの間でなければならない。電気泳動バッファーは、ゲルの組成、分離するDNAサイズに最適な電気泳動バッファの種類や濃度を選択することができる。電気泳動バッファーとしては、例えばTAEバッファー、またはTBEバッファーを用いることができる。電気泳動バッファーは、電気泳動管100(キャピラリーカラム)の先端部の洗浄液としても使用することもできる。
【0068】
本実施例の電気泳動方法で実行される工程1)~3)を、図34を用いて説明する。最初に工程1)において、サンプル調整を行う。具体的には、サンプル容器580中のサンプル(例えば5μl)を分注器610に取り付けた分注チップ611に吸引した状態で、分注器610を移動して、ローディング容器581に吐出する。分注器610を用いて、ローディング容器581中の液体の吸引吐出を繰り返し、ローディング容器581中のサンプルとローディングバッファーとを撹拌し十分に混合する。
【0069】
工程2)において、電気泳動チップ1(1’)を用いてサンプルのローディングを行う。具体的には、電気泳動管100及びマイナス電極(第1の電極)300の下端部を、ローディング容器581中のサンプル及びローディングバッファーの混合液に浸す。この状態で、所定時間、所定電圧を印加し、サンプルをゲルの下端に浸透(ローディング)させる。所定時間は、好ましくは1~5秒、より好ましくは2~3秒とすることができる。所定電圧は、好ましくは、50~150V、より好ましくは80~120V、さらに好ましくは約100Vとすることができる。この時の印加する所定時間により、電気泳動するサンプル量が決まる。なお、サンプルのローディング量を多くすると、蛍光強度を強くすることができるが、サンプルのDNAサイズの分解能は低下する。
【0070】
工程3)において、電気泳動チップ1(1’)を用いてサンプルの電気泳動及び分析を行う。具体的には、矢印A1にしたがって、ローディング容器581でサンプルをローディングした電気泳動チップ1(1’)を、洗浄容器583に移動する。洗浄容器583中の洗浄液に対して、電気泳動管100及びマイナス電極300の下端部を浸けたり出したりすることにより、下端部を洗浄することができる。この下端部の洗浄により、ゲルに浸透していないDNAを洗い流し、その影響を無くすことができる。この洗浄後に、矢印A2にしたがって、電気泳動チップ1(1’)を電気泳動容器582に移動する。電気泳動チップ1(1’)の電気泳動管100及びマイナス電極300の下端部を電気泳動容器582中の電気泳動バッファーに浸す。そして、電気泳動管100のマイナス電極300とプラス電極400との間に上記所定電圧を印加し、電気泳動管100で電気泳動を実行する。DNA等のサンプルはマイナスに帯電しているため、電気泳動により電気泳動管100の下から上に移動する。なお、印加する電圧を高くすると、電気泳動時間を短縮できるが、発熱等による電気泳動パターンの乱れが発生しやすくなる。
【0071】
工程3)によって電気泳動ラダーが得られる。この電気泳動ラダーの解析を図35を用いて説明する。図35は、電気泳動管100をサンプルS等が電気泳動する状態を示している。サンプルSには、サンプル調整の際、既知のサイズ(分子量)を持つ2種類のマーカーが予め混合される。2種類のマーカーとしては、検出するサンプルDNAの分子量より低い(小さい)分子量を有する低分子量マーカーMLと、検出するサンプルDNAの分子量より高い(大きい)分子量を有する高分子量マーカMHとが選択される。図35に示すように、電気泳動管100の側面には、検出装置(蛍光スキャナー)700の検出端部730が配置されている。
【0072】
そして、2種類のマーカーML、MHをサンプルSと同時に電気泳動する。図35に示すように、電気泳動開始から時間Tが経過した時、低分子量マーカーMLの移動距離DL、サンプルSの移動距離DS、高分子量マーカーMHの移動距離DH、を測定する。移動距離の測定方式としては、図35の右側に示す検出端部730を下側から上側に向かって電気泳動管100の長手方向に移動しつつ、各マーカー及びサンプルの蛍光を測定することにより、各移動距離Dを測定することができる。低分子量マーカーMLの移動距離DL、高分子量マーカーMHの移動距離DH、低分子量マーカーMLの分子量、高分子量マーカーMHの分子量、移動時間Tを用いて、DNAサイズと電気泳動速度の関係式を求めることができる。2つのマーカーの間にあるサンプルSの位置を先に求めた関係式に当てはめることにより、サンプルDNAのサイズを見積もることができる。
【0073】
サンプルに含まれる解析するDNAのサイズ(分子量)は、2種類のマーカーML、MHの間に位置しなければならない。また、2種類のマーカーML、MHのサイズ(分子量)の差を大きくすると、推定精度が落ちるため、好ましくは、低分子量マーカーMLとの分子量に対して、高分子量マーカMHとの分子量を、2~3倍程度に設定することができる。
低分子マーカーは、サンプルSに含まれるプライマー・ダイマーと容易に識別できるだけ大きくなければならない。
【0074】
移動距離を測定せずに、移動時間を測定することによりサンプルDNAのサイズを見積もることもできる。図35の左側に示す検出端部730の位置を既知の検出位置PDに固定する。低分子量マーカーML、サンプルS、高分子量マーカーMHが、検出位置PDを通過する通過時間をそれぞれ測定することにより、それぞれの通過時間、低分子量マーカーMLの分子量、高分子量マーカーMHの分子量の関係式から、サンプルDNAのサイズを見積もることができる。なお、本実施例は、第3の実施形態に基づき電気泳動管100を下から上に移動する電気泳動として説明したが、これに限定されず、第1及び第2の実施形態のように、電気泳動管100を上から下に移動する電気泳動に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1,1’ 電気泳動チップ
2 電気泳動装置
3 電気泳動システム
100 電気泳動管
110 バッファー収容管
112 ゲル収容管
200 ホルダ
210 プラス電極収容部
220 マイナス電極収容部
300 プラス電極
400 マイナス電極
500 カートリッジ
600 縦移動ユニット
700 検出装置
730 検出端部
800 ステージ
900 横移動ユニット
1200 ホルダ
1210 プラス電極収容部
1220 マイナス電極収容部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
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図38
図39
図40