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特許7016472高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する方法及び合成反応器
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  • 特許-高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する方法及び合成反応器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する方法及び合成反応器
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/10 20060101AFI20220131BHJP
   C07C 21/067 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C07C17/10
C07C21/067
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020560524
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 CN2018109596
(87)【国際公開番号】W WO2019144647
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】201810085845.3
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810109001.8
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】520224960
【氏名又は名称】浙江皇馬科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG HUANGMA TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Zhangzhen New Industry District Shangyu Shaoxing, Zhejiang 312363 China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】尹 紅
(72)【発明者】
【氏名】陳 志栄
(72)【発明者】
【氏名】王 新栄
(72)【発明者】
【氏名】王 偉松
(72)【発明者】
【氏名】余 淵栄
(72)【発明者】
【氏名】王 勝利
(72)【発明者】
【氏名】王 月芬
(72)【発明者】
【氏名】馬 振強
(72)【発明者】
【氏名】趙 興軍
(72)【発明者】
【氏名】銭 建芳
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-201723(JP,A)
【文献】国際公開第2016/077287(WO,A1)
【文献】特開昭64-022829(JP,A)
【文献】特開昭53-124202(JP,A)
【文献】特開昭60-222430(JP,A)
【文献】中国実用新案第202044960(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第1456544(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102872786(CN,A)
【文献】INGRAM, S. et al.,Improvement of the technology of manufacture of 3-chlorine-2-methylpropene-1,Bashkirskii khimicheskii zhurnal,2009年,Vol.16, No.1,pp.42-48
【文献】POUTSMA,M. L.,Chlorination Studies of Unsaturated Materials in Nonpolar Media. III. Competition between Ionic and Free-Radical Reactions during Chlorination of the Isomeric Butenes and Allyl Chloride,Journal of the American Chemical Society,1965年,Vol.87, No.10,pp.2172-2183
【文献】VALITOV, R. B. et al.,Preparation of methallyl chloride from isobutylene-containing gases,Khemicheskaja Promyshlennost,1971年,Vol.47, No.10,pp.736-737
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチレン及び塩素ガスを原料として、冷却面付きの合成反応器において塩素化反応により2-メチルアリルクロリドを合成する方法であって、
前記合成反応器は、イソブチレン導入管及び塩素ガス導入管と接続する合成反応管を備え、
前記イソブチレンと塩素ガスを合成反応管に導入して気相塩素化反応を進行させ、
前記合成反応器のイソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管の直径は0.2~0.5mmであり、
前記合成反応器の冷却面は、反応体積に対して8000~20000m/mの熱交換面積を有し、
前記イソブチレンと塩素ガスのモル比は、1.005~1.02:1であり、
前記塩素化反応の温度が0~30℃であり、塩素化反応の滞留時間が0.1~1秒である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記合成反応器は、冷却ジャケットに包まれた、イソブチレン導入管及び塩素ガス導入管と接続する合成反応管を備え、前記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管は3方向に連通するように接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管がT字状又はY字状となるように接続されている、請求項に記載の方法
【請求項4】
前記イソブチレン導入管、及び塩素ガス導入管がU字状となるように接続されており、前記合成反応管の上端がU字状の外底部に接続されている、請求項に記載の方法
【請求項5】
前記合成反応器は、複数で組み合わせて各合成反応器の冷却ジャケットが互いに連通する、請求項1~4のいずれかに記載の方法
【請求項6】
複数の前記合成反応器が同一の冷却ジャケット内に並列に固定されている、請求項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物の塩素化反応及び装置に関し、有機合成反応分野に属する。
【背景技術】
【0002】
2-メチルアリルクロリドは、重要な有機合成の中間体であり、医薬、農薬、香料モノマー、高分子材料等の分野で広く用いられている。
【0003】
2-メチルアリルクロリドは、通常、イソブチレンと塩素ガスとを気相塩素化反応させて得られる。
【0004】
従来の塩素化反応は、いずれも冷却ジャケット付きの管式反応器中、反応温度100℃以下、圧力は常圧、反応滞留時間は0.5秒から数秒の範囲で行われている。そして、塩素化副反応を避けるために、通常、イソブチレンを過量に維持して、2種類の原料を噴射の方式で反応管に投入する必要があった。
【0005】
反応過程における温度変動を避けるために、DE3402446には、反応過程において一定量の酸素ガスを加えることが提案されている。しかし、この方法によりイソブチレンと酸素ガスとの混合物を過量に生成しやすく、安全面でリスクがある。この課題に対して、CN1030407では、塩素ガスをジャケット付き冷却反応管の長さ方向に沿った複数の箇所から注入する方法によって温度変動を抑制することが提案された。しかし、この方法では、塩素ガスの流速を150~260m/秒に保持することが要求され、反応選択率は最高でも86.5%であった。
【0006】
管式反応器は、反応器の単位体積当たりの熱交換面積が小さいので、反応管において長さ方向に沿って明らかな温度分布が発生し、局所的に高温になるため、副反応が増加し、反応選択率が低下してしまう。
【0007】
管式反応器に存在する課題に対して、CN1288119では、同心ノズルを用い、同時に、塩素化反応物を循環させて反応ガスと直接接触して冷却する方式で反応熱を取り除く方法を提案しているが、選択率データは開示されていない。
【0008】
CN101182279には、複数個の同心ノズルを用い、同時に、塩素化反応物を循環させて反応ガスと直接接触して冷却する方式で反応熱を取り除く実施例が記載されているが、最高選択率は85.9%であった。
【0009】
上述した塩素化技術の課題は、反応場に冷却面がなく、温度を制御することができないので、副反応が多く、選択率が低く、かつ、過度な塩素化によりコーキング物質がノズルを詰まらせることである。
【0010】
ノズルがコークス化しやすいという課題に対して、CN202044960の実用新案権では、フラットノズルを用い、同時に塩素化反応物を循環させて反応ガスと直接に接触して冷却する方式で反応熱を取り除くことが提案されている。しかし、本実用新案権ではコークス化の課題を解決したことを証明する実施例は示されておらず、反応液において生成物の含有量が88%に達した実施例も開示されていない。
【発明の概要】
【0011】
上記先行技術に報告された2-メチルアリルクロリドの合成過程に存在する課題に対して、本発明は、高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する方法を提供する。特製の設備を用いて反応させることにより、反応過程が安定化し、制御しやすく、反応選択率が高く、副反応が少なく、コークス化現象が発生しないという利点が得られる。
【0012】
本発明は、同時に該合成反応器を提供する。
【0013】
本発明は、イソブチレン及び塩素ガスを原料として、冷却面付きの合成反応器において塩素化反応を進行させ2-メチルアリルクロリドを得る、高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する方法であって、上記合成反応器は、イソブチレン導入管及び塩素ガス導入管を有する合成反応管であり、上記イソブチレンと塩素ガスを合成反応管に導入して気相塩素化反応させる。上記塩素化反応温度は、0~30℃であり、上記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管の直径は、0.2~0.5mmであり、上記合成反応器の冷却面は、反応体積に対して8000~20000m/mの熱交換面積を有することを特徴とする。
【0014】
上記塩素化反応においてイソブチレンを少し過量とすることが好ましい。
【0015】
前記イソブチレンと塩素ガスとのモル比は、1.005~1.02:1であることが好ましい。
【0016】
前記塩素化反応の滞留時間は0.1~1秒であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る高選択率で2-メチルアリルクロリドを合成する反応器は、冷却ジャケットに包まれた、イソブチレン導入管及び塩素ガス導入管を有する合成反応管であり、前記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管が3方向に連通するように接続されていることを特徴とする。
【0018】
上記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管がT字状又はY字状となるように接続されてもよい。
【0019】
上記イソブチレン導入管、及び塩素ガス導入管がU字状となるように接続されており、上記合成反応管の上端がU字状の外底部に接続されてもよい。
【0020】
上記イソブチレン導入管、塩素ガス導入管及び合成反応管の直径は0.2~0.5mmであり、上記合成反応器の冷却面は、反応体積に対して8000~20000m/mの熱交換面積を有することが好ましい。
【0021】
本発明では、複数の上記合成反応器を含み、複数の上記合成反応器の冷却ジャケットが互いに連通する、2-メチルアリルクロリドを合成する反応器の組み合わせも提供する。
【0022】
複数の前記合成反応器が同一の冷却ジャケット内に並列に固定されてもよい。
【0023】
本発明の発明者は、研究をした結果、以下のことを見出した。イソブチレンの気相塩素化反応は強い放熱反応であり、イソブチレンと塩素ガスとが等モル比の条件下では、完全反応の断熱温度上昇が440℃に達する。そして、反応温度が高いほど、反応が速く、副反応が多くなり、コークス化の問題を引き起こしやすい。したがって、反応温度を制御し、反応の選択率を向上させようとすれば、反応温度を効果的に制御しなければならない。理論計算及び実験検証により、反応体積に対して熱交換面積を8000m/m以上とし、かつ0~30℃の条件で反応する場合、反応はほぼ一定の温度で行うことができ、ホットスポット温度が所定温度より3℃を超えることはないことが明らかになった。このように単位反応体積当たりの熱交換面積を大きくするためには、反応チャネルの直径を0.5mm以下に縮小しなければならない。本発明では、マイクロチャネル反応器とも称される合成反応器を用いることにより、この要求を満たすことができる。イソブチレンと塩素ガスとの混合を促進するために、T字状マイクロチャネル反応器がより好ましい。選択率を良好に維持するためには、イソブチレンモル比を少し過量にすることが好ましい。塩素ガスを十分に反応させるためには、反応滞留時間は0.1~1秒であることが好ましい。
【0024】
本発明のプロセスでは、反応温度を制御し、熱交換面積を向上させるために、塩素化反応を微小な反応管内で行い、反応温度を一定に維持している。これにより、コークス化を生じることなく、選択率が良い。
【0025】
本発明のプロセスを実現するために提供されるマイクロチャネル反応器によるイソブチレンの塩素化反応は、反応過程が安定であり、制御性が良く、反応選択率が高く、副反応が少なく、コークス化現象が発生しない。
【0026】
本発明に係るマイクロチャネル反応器は、微小な反応管内で反応を行うので、生産工程において複数個の合成反応器を組み合わせて使用し、同一の冷却ジャケットを共用することができ、反応効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る合成反応器の一例を示す構造模式図である。
図2】本発明に係る合成反応器組み合わせの一例を示す構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面及び実施例を参照しながら、本発明の技術的解決手段をさらに説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る冷却ジャケット1付きの合成反応器を示す。この反応器は1本の細長い反応管4を有し、反応管4の上端口には原料塩素ガス導入管2及びイソブチレン導入管3が接続されており、下端口には反応生成物導出管5が接続されている。本発明において、塩素ガス導入管2、イソブチレン導入管3及び反応管4の接続方式は、2種類の原料が同時に反応管4の一方の端部から導入され混合反応させることができればよく、例えば3方向に連通するように接続される。反応管4の他方の端部は生成物出口であり、塩素ガス導入管2、イソブチレン導入管3及び反応管4がT字状又はY字状となることが好ましい。
【0030】
図2は、複数個の本発明に係る合成反応器組み合わせの接続方式を示す。各々の反応器は独立した反応管4を有し、独立した塩素ガス導入管2、イソブチレン導入管3及び反応生成物導出管5を有する。複数個の反応器は同一の冷却ジャケット1を共用し、複数個の本発明に係る合成反応器を同一の冷却ジャケットに並列に固定され、空間及びエネルギーを有効に利用して、反応効率を向上させることができる。
【0031】
実施例1
図1に示すマイクロチャネル反応器(チャネルの直径が0.2mm、反応体積に対して熱交換面積が20000m/m)にイソブチレン及び塩素ガスをそれぞれ導入し、イソブチレン及び塩素ガスの流量を調節、制御することにより、反応滞留時間を1秒とし、イソブチレンと塩素ガスとのモル比を1.005:1にし、冷凍塩水によって反応温度を0℃に制御した。30分間安定的に反応させた後、反応器出口からサンプルを採取して液体生成物の組成を分析した。それぞれの質量含有量は、2-メチルアリルクロリド 89.6%、t-ブチルクロリド 2.3%、イソクロチルクロリド 1.3%、ジクロロ-t-ブタン 5.6%、ジクロロイソブチレン 1.2%であり、これに基づいて算出された2-メチルアリルクロリドの選択率は91.4%であった。
【0032】
実施例2
図1に示すマイクロチャネル反応器(チャネルの直径が0.5mm、反応体積に対して熱交換面積が8000m/m)にイソブチレン及び塩素ガスをそれぞれ導入し、イソブチレン及び塩素ガスの流量を調節、制御することにより、反応滞留時間を0.1秒とし、イソブチレンと塩素ガスとのモル比を1.02:1にし、低温水によって反応温度を30℃に制御した。30分間安定的に反応させた後、反応器出口からサンプルを採取して液体生成物の組成を分析した。それぞれの質量含有量は、2-メチルアリルクロリド 88.7%、t-ブチルクロリド 2.1%、イソクロチルクロリド 1.5%、ジクロロ-t-ブタン 6.0%、ジクロロイソブチレン 1.5%であり、これに基づいて算出された2-メチルアリルクロリドの選択率は90.5%であった。
【0033】
実施例3
図1に示すマイクロチャネル反応器(チャネルの直径が0.4mm、反応体積に対して熱交換面積が10000m/m)にイソブチレン及び塩素ガスをそれぞれ導入し、イソブチレン及び塩素ガスの流量を調節、制御することにより、反応滞留時間を0.5秒とし、イソブチレンと塩素ガスとのモル比を1.01:1にし、冷凍塩水によって反応温度を10℃に制御した。30分間安定的に反応させた後、反応器出口からサンプルを採取して液体生成物の組成を分析した。それぞれの質量含有量は、2-メチルアリルクロリド 89.3%、t-ブチルクロリド 2.3%、イソクロチルクロリド 1.4%、ジクロロ-t-ブタン 5.7%、ジクロロイソブチレン 1.3%であり、これに基づいて算出された2-メチルアリルクロリドの選択率は91.1%であった。
【0034】
実施例4
図2に示すマイクロチャネル反応器(チャネルの直径が0.3mm、反応体積に対して熱交換面積が13330m/m)にイソブチレン及び塩素ガスをそれぞれ導入し、イソブチレン及び塩素ガスの流量を調節、制御することにより、反応滞留時間を0.3秒とし、イソブチレンと塩素ガスとのモル比を1.01:1にし、低温水によって反応温度を20℃に制御した。30分間安定的に反応させた後、反応器出口からサンプルを採取して液体生成物の組成を分析した。それぞれの質量含有量は、2-メチルアリルクロリド 89.1%、t-ブチルクロリド 2.2%、イソクロチルクロリド 1.5%、ジクロロ-t-ブタン 5.8%、ジクロロイソブチレン 1.4%であり、これに基づいて算出された2-メチルアリルクロリドの選択率は90.9%であった。
【符号の説明】
【0035】
1 冷却ジャケット
2 塩素ガス導入管
3 イソブチレン導入管
4 反応管
5 反応生成物導出管
図1
図2