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特許7016810液体油および粉末原料の混合可食性組成物、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】液体油および粉末原料の混合可食性組成物、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220131BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/70 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
A23L33/10
A23D9/007
A61K38/00
A61P3/02
A61K9/06
A61K31/70
A61K31/715
A61K31/215
A61K45/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018547228
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2017039396
(87)【国際公開番号】W WO2018079847
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2016213811
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久嶋 智子
(72)【発明者】
【氏名】神野 暢子
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-245589(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114995(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/094039(WO,A1)
【文献】特開2015-096036(JP,A)
【文献】特開2013-208111(JP,A)
【文献】柴田雅史,口唇化粧料における安定性と感触の両立技術,FRAGRANCE JOURNAL,Vol. 40, No. 1,2012年,pp. 59-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
A23D 9/007
A61K 38/00
A61P 3/02
A61K 9/06
A61K 31/70
A61K 31/715
A61K 31/215
A61K 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステルから形成された析出物の空隙に、液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでなる構造を有する可食性組成物であり、
上記粉末原料には粉末タンパク質が含まれており、
上記グリセリン脂肪酸エステル、液体油、および粉末原料の総量を100質量%とした場合、液体油の割合が45~70質量%、グリセリン脂肪酸エステルの割合が2~10質量%、および粉末タンパク質を含む粉末原料(但し、グリセリン脂肪酸エステルを除く)の割合が20~53質量%であることを特徴とする、可食性組成物。
【請求項2】
粉末原料として、さらに粉末状の糖質、および不溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の可食性組成物。
【請求項3】
粉末原料として、さらに粉末状の調味料、香料、栄養成分、および機能性成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の可食性組成物。
【請求項4】
糖質を5~30質量%、または/および、不溶性食物繊維を0.5~10質量%の割合で含有する請求項2または3に記載する可食性組成物。
【請求項5】
8~25℃の範囲における固体脂含有率が2~15質量%である、請求項1乃至4のいずれかに記載する可食性組成物。
【請求項6】
自由水を含まないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項7】
100gあたりのエネルギーが540kcal以上である、請求項1乃至6のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項8】
ケトン比(脂質含有量/(糖質含有量+タンパク質含有量))が0.9以上2.8以下である、請求項1乃至7のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項9】
エネルギーまたは/およびタンパク質補給用栄養食品である請求項1乃至8のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項10】
経口組成物、経管栄養組成物またはそれらに対する添加用組成物である請求項1乃至9のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項11】
リキャップ容器に充填されてなる請求項1乃至10のいずれかに記載の可食性組成物。
【請求項12】
下記(a)~(d)の工程を有する可食性組成物の製造方法:
(a)液体油を、グリセリン脂肪酸エステルの融点以上の温度に加熱する工程、
(b)上記加熱した液体油に粉末状の上記グリセリン脂肪酸エステルを溶解して10分以上保持する工程、
(c)上記グリセリン脂肪酸エステルを溶解した液体油中に粉末タンパク質を含む粉末原料を配合して混合する工程、および
(d)上記(c)工程で得られた混合物を冷却して、半流動状またはペースト状物を得る工程;
ここで、液体油、グリセリン脂肪酸エステルおよび粉末タンパク質を含む粉末原料の総量を100質量%とした場合、液体油の割合は45~70質量%、グリセリン脂肪酸エステルの割合は2~10質量%、および粉末タンパク質を含む粉末原料(グリセリン脂肪酸エステルを除く)の割合は20~53質量%である。
【請求項13】
さらに下記(e)工程を有する請求項12に記載する製造方法:
(e)(d)工程で得られた半流動状またはペースト状の可食性組成物をリキャップ容器に充填する工程。
【請求項14】
粉末原料として、さらに粉末状の糖質、不溶性食物繊維、調味料、香料、栄養成分、および機能性成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項12または13記載する製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれかに記載する可食性組成物の製造方法である、請求項12乃至14のいずれかに記載する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や病人等における低栄養状態を改善するための補助食品として有用な可食性組成物、具体的には油脂とタンパク質を含有するエネルギー補給用栄養食品または/およびタンパク質補給用栄養食品として有用な可食性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者における低栄養状態(PEM)の原因のひとつとして、食事摂取量の減少によるエネルギーおよびタンパク質の摂取不足があげられる。改善策として、エネルギーとタンパク質を補給する栄養改善が考えられる。一方、濃厚流動食やゼリー状組成物では水の配合が不可欠であり、少食となった高齢者ではそれらを食事と別に摂取することは難しい。食事量を変えることなく、できるだけ高エネルギーまたは/および高タンパク質の食事を摂取させる必要があるものの、現在市販されている飲食物では、十分なエネルギーまたは/およびタンパク質の補給を適えるものは存在しない。
【0003】
このため、上記要望に応えるために、水を含まず、嵩が小さく、普段摂取する日常の食事に混ぜて使用することができる、油脂とタンパク質を含有する高エネルギーまたは/および高タンパク質の栄養組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2012/114995
【非特許文献】
【0005】
【文献】柴田雅史「オイルワックスゲルの硬度制御」 J. Jpn. Soc. ColourMaster., 78[7], 310-314 (2005)
【文献】柴田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」 J. Jpn. Soc. ColourMaster., 85[8], 339-342 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究をかさね、まず温度依存性が大きい固体脂では常温保存が難しいため常温で液状の油(液体油)を選定し、油に練り込みやすい粉末タンパク質を使用したところ、液体油と粉末タンパク質のペースト状の混合物は液体油が分離しやすく、油とタンパク質を乳化するための乳化剤を併用しても、油分離抑制効果が弱く、保存性安定性に欠けることが判明した。
【0007】
そこで、この問題を解決する方法として、液体油にこれをゲル化する乳化剤を高温溶解し、冷却することで析出する板状結晶「オイルワックスゲル」を活用することにした。この方法で調製されるゲル状油脂は、これをそのまま喫食できる食品(そのまま食べることができる飲食物)に混ぜることで、当該喫食品が嚥下・咀嚼困難な方にでも食べやすくなることから(特許文献1参照)、嚥下・咀嚼困難者用食品の製造にも採用されている。しかし、このゲル状油脂は、油が染み出しやすいという問題を有している。
【0008】
本発明は、上記の問題を解消することを課題とするものであり、第1に、油脂とタンパク質を含有し、エネルギーまたは/およびタンパク質補給用栄養食品として使用できる可食性組成物を提供することを課題とする。当該可食性組成物は、好ましくは、極力嵩が小さく、普段の食事に混ぜて使用することができるものである。第2に、当該可食性組成物において、含有する油脂の染みだしが抑制されており、保存安定性が良好で、一定期間保存が可能である可食性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解消すべく鋭意検討を重ねていたところ、液体油に乳化剤を所定の割合で配合して溶解させた混合物に、粉末状のタンパク質を含む粉末原料を一定の割合で配合して冷却することで調製される組成物が、上記課題解決に適う特性を有しており、温度変化や撹拌処理によっても油の染み出しが有意に抑制されていることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0010】
(I)可食性組成物
(I-1)乳化剤から形成された析出物の空隙に、液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでなる構造を有する可食性組成物であり、
上記粉末原料には粉末タンパク質が含まれており、
上記乳化剤、液体油および粉末原料の総量を100質量%とした場合、液体油の割合が45~70質量%、乳化剤の割合が2~10質量%、および粉末タンパク質を含む粉末原料(乳化剤を除く)の割合が20~53質量%であることを特徴とする、可食性組成物。
【0011】
(I-2)上記析出物が、乳化剤を液体油中で溶解させた後に冷却することで析出した板状の結晶物であり、当該乳化剤からなる板状の結晶物と板状の結晶物との間に、液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでなる構造を有する可食性組成物である、(I-1)に記載する可食性組成物。
【0012】
上記本発明の可食性組成物は「オイルワックスゲル」様の構造を有するものであってもよい。「オイルワックスゲル」は、室温で液体の液体油を固体のワックスと加熱混合し、冷却することによって固化して調製されるものである(非特許文献1及び2参照)。オイルワックスゲルの構造は、板状のワックス結晶がカードハウス状に析出することにより形成されており、液体油はこのワックス結晶でできた構造の空隙に溜まるように存在している。
【0013】
(I-3)粉末原料として、さらに粉末状の糖質、および不溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(I-1)または(I-2)記載の可食性組成物。
(I-4)粉末原料として、さらに粉末状の調味料、香料、栄養成分、および機能性成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-5)糖質を5~30質量%、および/または、不溶性食物繊維を0.5~10質量%の割合で含有する(I-3)または(I-4)に記載する可食性組成物。
(I-6)8~25℃の範囲における固体脂含有率が2~15質量%である、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する可食性組成物。
(I-7)自由水を含まないことを特徴とする(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-8) 半流動状またはペースト状物の形状を有する(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-9)100gあたりのエネルギーが540kcal以上である、(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-10)ケトン比(油脂含有量/(糖質含有量+タンパク質含有量))が0.9以上2.8以下である、(I-1)乃至(I-9)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-11)エネルギーまたは/およびタンパク質補給用栄養食品である(I-1)乃至(I-10)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-12)経口組成物、経管栄養組成物(胃瘻用組成物、腸瘻用組成物、経鼻経管栄養組成物)、またはそれらに対する添加用組成物である(I-1)乃至(I-10)のいずれかに記載の可食性組成物。
(I-13)リキャップ容器に充填されてなる(I-1)乃至(I-12)のいずれかに記載の可食性組成物。
【0014】
(II)可食性組成物の製造方法
(II-1) 下記(a)~(d)の工程を有する可食性組成物の製造方法:
(a)液体油を、乳化剤の融点以上の温度に加熱する工程、
(b)上記加熱した液体油に乳化剤を溶解して保持する工程、
(c)上記乳化剤を溶解した液体油中に粉末タンパク質を含む粉末原料を配合して混合する工程、および
(d)上記(c)工程で得られた混合物を冷却して、半流動状またはペースト状物を得る工程;
ここで、液体油、乳化剤および粉末タンパク質を含む粉末原料の総量を100質量%とした場合、液体油の割合は45~70質量%、乳化剤の割合は2~10質量%、および粉末タンパク質を含む粉末原料(乳化剤を除く)の割合は20~53質量%である。
【0015】
(II-2)さらに下記(e)工程を有する(II-1)に記載する製造方法:
(e)(d)工程で得られた半流動状またはペースト状の可食性組成物を容器、好ましくはリキャップ容器に充填する工程。
(II-3)上記粉末原料が、さらに粉末状の糖質、および不溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものである、(II-1)または(II-2)に記載する製造方法。
(II-4)粉末原料が、さらに粉末状の調味料、香料、栄養成分、および機能性成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する製造方法。
【0016】
(II-5)上記可食性組成物が、糖質を5~30質量%、および/または、不溶性食物繊維を0.5~10質量%の割合で含有する(II-2)乃至(II-4)のいずれかに記載する製造方法。
(II-6)上記可食性組成物が、8~25℃の範囲における固体脂含有率が2~15質量%である、(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する製造方法。
(II-7)上記可食性組成物が自由水を含まないものである(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する製造方法。
(II-8)上記可食性組成物が、100gあたりのエネルギーが540kcal以上のものである、(II-1)乃至(II-7)のいずれかに記載の製造方法。
(II-9)上記可食性組成物が、そのケトン比(油脂含有量/(糖質含有量+タンパク質含有量))が0.9以上2.8以下のものである、(II-1)乃至(II-8)のいずれかに記載する製造方法。
(II-10) 上記可食性組成物がエネルギーまたは/およびタンパク質補給用栄養食品である(II-1)乃至(II-9)のいずれかに記載する製造方法。
(II-11)上記可食性組成物が経口組成物、経管栄養組成物(胃瘻用組成物、腸瘻用組成物、経鼻経管栄養組成物)、またはそれらに対する添加用組成物である(II-1)乃至(II-10)のいずれかに記載の製造方法。
(II-12)上記可食性組成物が、(I-1)乃至(I-13)のいずれかに記載する可食性組成物である、(II-1)乃至(II-11)のいずれかに記載する製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可食性組成物は、普段の食事(主食、総菜や汁物等の副食)やデザートの製造時または喫食時に、これらに混ぜて使用することができる。こうすることで、日常の食事やデザートのタンパク質含量、脂質含量、または/およびエネルギー量を、喫食物の嵩を大きく上げることなく、増加することができる。つまり、エネルギーまたは/およびタンパク質の補給用経口組成物として有効に使用することができる。また本発明の可食性組成物は、半流動状またはペースト状を有しているため、可撓性の押し出しチューブ容器に収容して片手で簡単に使用することができる。
また本発明の可食性組成物は、経管栄養組成物(胃瘻用栄養組成物、腸瘻用栄養組成物、または経鼻経管栄養組成物)を摂取している高齢者、病人または嚥下障害者(経管栄養摂取者)に対して、経管栄養組成物と併用して用いることができ、この場合、経管栄養組成物の投与チューブに直接押し出し注入することができる。
さらに本発明の製造方法を用いて製造される可食性組成物は、液体油が粉末原料に担持または含浸された状態で乳化剤から形成される板状物と板状物との間隙に入り込んだ構造を有し、少なくとも25~40℃の条件で半流動性またはペースト状の形状を有しながらも、液体油が安定して保持されている。このため、漏出が有意に抑制された状態で容器、好ましくは押し出しチューブ容器中に収納することができる。特に、粉末原料として多孔性糖類または/および不溶性食物繊維を使用することで、リキャップ容器に充填して繰り返し使用した場合であっても、キャップ溶液のキャップ部からの液体油の染みだしを有意に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】液体油に対する乳化剤の溶解時間(分)とそれによって調製された混合物の25℃条件下での粘度(mPa/s)との関係性を示す(試験例5)。
図2】液体油および乳化剤の溶解物に対して粉末原料を混合して冷却調整する混合組成物の品温(℃)とその粘度(mPas)と関係を示す(試験例6)。
図3】液体油および乳化剤の溶解物に対して粉末原料を混合して冷却調整する混合組成物の品温(℃)とその粘度(mPas)と関係を示す(試験例6)。
図4】液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物の温度(℃)と粘度(mPas)との関係を示す(試験例7)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)可食性組成物
本発明の可食性組成物は、少なくとも液体油、乳化剤、および粉末タンパク質を含む粉末原料を原料として調製される。具体的には、本発明の可食性組成物は液体油を乳化剤と加熱混合し、次いで粉末タンパク質を含む粉末原料と混合しながら冷却することによって固化させたものである。斯くして製造される可食性組成物には、液体油中で乳化剤が板状に析出することで形成される、いわゆる「カードハウス」の空間内に、原料として配合した液体油および粉末タンパク質を含む粉末原料からなる成分が入り込んだ構造を有するものが含まれる。つまり、本発明の可食性組成物には、オイルワックスゲル様の構造および性状を有するものが含まれる。
【0020】
以下、本発明の可食性組成物の製造に使用する原料を説明する。
【0021】
(A)液体油
本発明において液体油とは常温で液状である可食性の油脂を意味し、この限りにおいて特に限定されるものではない。本発明において常温とは、15℃以上25℃以下を意味する。また原料に使用される油脂は、1種類であってもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは20℃で液状である油脂である。2種以上の油脂を組み合わせて用いる場合には、少なくとも1種類の油脂が20℃で液状である油脂であることが好ましいが、より好ましくは2種以上の油脂を含んだ状態で20℃で液状であることが好ましい。さらに好ましくは全ての油脂が20℃で液状であることが望ましい。
【0022】
かかる油脂としては、例えば菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマワリ油、および紅花油等の植物油脂;パーム分別油、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭素数6~12の中鎖脂肪酸と炭素数12~24の長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とするトリグリセリド、並びにこれらの混合油等が挙げられる。パーム分別油としては、具体的には、2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)等が例示できる。なお、パーム油を分別する方法には特に制限はなく、溶剤分別、乾式分別、乳化分別の何れの方法を用いてもよい。これらのパーム分別油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、及びトリグリセリドの由来は特に制限されず、例えば植物に由来するものであっても、また魚介類や動物に由来するものであってもよいが、好ましくは植物に由来する液体油である。
【0023】
すばやくエネルギーを補給する(脂質を消化・吸収しやすい)観点から、油脂として好ましくは炭素数5~12の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸トリグリセリドである。風味の観点から、油脂としてより好ましくは植物に由来する炭素数6~12の中鎖脂肪酸トリグリセリド、特に好ましくは炭素数8~12の中鎖脂肪酸トリグリセリドである。かかる中鎖脂肪酸トリグリセリドは商業的に入手することができる。制限はされないものの、例えばカプリル酸(C8)及びカプリン酸(C10)とグリセリンのトリエステルである中鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。
【0024】
液体油の使用量は、本発明の効果を奏することを限度として制限されないものの、本発明の可食性組成物を構成する基本成分である液体油、乳化剤、および粉末蛋白質を含む粉末原料の総量を100質量%とした場合にそれに占める割合として、45~70質量%を挙げることができる。エネルギー補給、最終製品(可食性組成物)の流動性、及び/又は油の分離の抑制の観点から、好ましくは45~70質量%、より好ましくは55~65質量%であり、とくに好ましくは55~60質量%である。
【0025】
(B)乳化剤
本発明において使用される乳化剤は、可食性であり、上記液体油に溶解させた後、冷却することで板状に析出して板状物、好ましくはカードハウスを形成するものである。つまり、上記液体油に対して、所定温度以上の温度で溶解し、且つそれを冷却することで当該液体油中で板状結晶を析出する特性を有するものである。乳化剤が液体油中で溶解する上記所定の温度、つまり乳化剤の融点としては、使用する液体油の融点よりも10℃以上高いことが好ましい。乳化剤の融点として、通常50℃以上、好ましくは55℃以上を挙げることができる。具体的には50℃~85℃、好ましくは55℃~85℃、さらに好ましくは55℃~80℃を挙げることができる。なお、乳化剤が析出する上記冷却温度としては、使用する液体油が液体状態を呈している常温以上であって、使用する乳化剤の融点未満の温度範囲を挙げることができる。例えば、乳化剤として融点が80℃のものを使用する場合、冷却温度としては常温以上80℃未満の温度範囲を挙げることができる。
【0026】
乳化剤として、具体的には、上記の融点を有するグリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0027】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が5~25であるグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。好ましくは脂肪酸の炭素数が8~22であるグリセリン脂肪酸エステルである。より具体的には、カプリル酸グリセリン、カプリン酸グリセリン、ラウリン酸グリセリン、パルミチン酸グリセリン、オレイン酸グリセリン、ステアリン酸グリセリン、及びベヘン酸グリセリン等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;ジカプリル酸グリセリン、トリカプリル酸グリセリン、オクタステアリン酸ポリグリセリル-6等が挙げられる。好ましくは、モノカプリル酸グリセリン、モノカプリン酸グリセリンおよびモノラウリン酸グリセリンが挙げられ、なかでも、モノカプリル酸グリセリンおよびモノカプリン酸グリセリンが特に好ましい。また、これらのグリセリン脂肪酸エステルは、一種単独で使用してもよいし、或いは2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
かかる乳化剤は、商業上入手できるものを使用することができ、例えば、DES-70V(理研ビタミン株式会社製、グリセリンモノ脂肪酸エステル、融点:60℃)、ポエムB-100(理研ビタミン株式会社製、グリセリンモノ脂肪酸エステル、融点:69~75℃)、ポエムB-200(理研ビタミン株式会社製、グリセリンモノ脂肪酸エステル、融点:75~85℃)、エマックスBW-36(理研ビタミン株式会社製、グリセリン脂肪酸エステル、融点:80℃)等を挙げることができる。
【0029】
なお、これらの乳化剤は、その使用に際して粉末状を有していることが好ましい。ここで粉末状とは、細~粗までの各種粒径を有する粉粒体の形態をいう。好ましくは目開き5mm(4メッシュ)の篩を通過可能な固体物である。この限りにおいて、その形態は、いわゆる粉砕状、粉状、粉末状、フレーク状、顆粒状、または粒状等と称される形態を有するものであればよく、その個々の形状は厳格に制限されることはない。なお、本明細書全体において、篩の目開きおよびメッシュは、JIS Z 8801の規定に基づく。
【0030】
乳化剤の使用量は、本発明の効果を奏することを限度として制限されないものの、本発明の経口組成物を構成する基本成分である液体油、乳化剤、および粉末蛋白質を含む粉末原料の総量を100質量%とした場合にそれに占める割合として、2~10質量%を挙げることができる。好ましくは2.2~10質量%であり、より好ましくは2.5~8質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。
【0031】
また液体油脂に対する乳化剤の割合として、特に制限はないが、液体油脂100質量部に対して、通常3~20質量部を挙げることができる。好ましくは4~15質量部であり、より好ましくは4~10質量部である
【0032】
(C)粉末原料
本発明において使用される粉末原料は、少なくともタンパク質を含むものである。
【0033】
なお、当該粉末原料の使用量は、本発明の効果を奏することを限度として制限されないものの、本発明の可食性組成物を構成する基本成分である液体油、乳化剤、および粉末原料の総量を100質量%とした場合にそれに占める割合として、20~53質量%を挙げることができる。最終製品(経口組成物)の流動性を保ちつつ、油の分離を抑制する観点から、好ましくは20~52.5質量%、より好ましくは20~47.8質量%、さらに好ましくは25~40質量%であり、特に好ましくは25~35質量%である。
【0034】
本発明において粉末原料の一つとして使用されるタンパク質は、基本的には可食性であればよく、動物性および植物性の別を問わない。
【0035】
例えば、動物性タンパク質としては、卵、乳、肉(牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉等)、魚、および貝類等の動物性の蛋白含有原料のうち、構成成分からタンパク質以外の成分を除いたタンパク質含量が50質量%以上であるものをいう。ゼラチン、アルブミン、コラーゲン、およびカゼインの精製物または粗精製物も、本発明が対象とする動物性タンパク質に含まれる。具体的には、例えば、卵タンパクとしては脱脂卵等が、乳タンパクとしては乳清蛋白(ホエイプロテイン)、乳カゼイン、およびカゼインネート等を挙げることができる。動物性タンパク質として好ましくは、制限されないものの、乳タンパクや卵タンパクを例示することができる。なお、後述する試験例に示すように、コラーゲン等のように保油力のあるタンパク質を用いることで、本発明の可食性組成物について油の分離を抑制することができる。
【0036】
また植物性タンパク質としては、例えば大豆などの豆類、芋類、小麦や米などの穀類等の植物に含まれるタンパク質をいい、好ましくはこれらの植物の蛋白含有原料のうち、構成成分からタンパク質以外の成分を除いたタンパク質含量が50質量%以上であるものである。グルテン、アルブミン、グロブリン、グルテニン、グルテリン、オリゼニン、グリシニン、グリアジン、およびツエインの精製物または粗精製物も、本発明が対象とする植物性タンパク質に含まれる。具体的には、例えば小麦タンパクとしては小麦グルテン等が、大豆タンパクとしては分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、脱脂大豆蛋白などを挙げることができる。植物性タンパク質として好ましくは、制限されないものの、例えば大豆タンパクや小麦タンパクを例示することができる。
【0037】
これらのタンパク質は、溶解性および吸収性を上げるために部分分解物であってもよい。かかる部分分解物としては、具体的には、動物または植物に由来する蛋白含有原料を蛋白分解酵素あるいは酸等を用いてそこに含まれるタンパク質を部分的に分解することにより得られる水溶性のタンパク分解物が挙げられる。
【0038】
本発明で使用されるタンパク質は、その使用に際して粉末状であることが好ましい。ここで粉末状とは、前述する乳化剤と同様に、細~粗までの各種粒径を有する粉粒体の形態をいう。好ましくは目開き5mm(4メッシュ)の篩を通過可能な固体物である。この限りにおいて、その形態は、いわゆる粉砕状、粉状、粉末状、フレーク状、顆粒状、または粒状等と称される形態を有するものであればよく、その個々の形状は厳格に制限されることはない。
【0039】
本発明で使用する粉末原料(100質量%)に占めるタンパク質の割合は、制限されないものの、60~100質量%を挙げることができる。好ましくは65~90質量%、より好ましくは70~85質量%である。また本発明の可食性組成物(最終製品)(100質量%)中に含まれるタンパク質の割合は、最終製品に求められるエネルギー量または/およびタンパク量に応じて、適宜調整することができるものの、例えば最終製品がタンパク質補給用栄養食品である場合、好ましくは65~85質量%の範囲、より好ましくは70~80質量%の範囲を挙げることができる。最終製品がエネルギー補給用栄養食品である場合、タンパク量は、好ましくは20質量%以上であり、例えば20~50質量%の範囲であってもよい。
【0040】
また粉末原料に配合することができるタンパク質以外の成分としては、可食性であれば特に制限はされないが、好ましくは例えば粉末状の糖質、および食物繊維である。より好ましくは粉末状の糖質、および不溶性食物繊維を挙げることができる。
【0041】
糖質は通常食物繊維以外の炭水化物を意味する。これらとしては、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコール、異性化糖、澱粉分解物、及びこれらの混合物等の可食性の糖類を挙げることができる。より具体的にはぶどう糖(単糖)、砂糖、麦芽糖(マルトース)、乳糖、トレハロース(以上、二糖)、マルチトール、パラチニット(以上、糖アルコール)、ぶとう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖(以上、異性化糖)、水飴(ぶどう糖、麦芽糖、及びデキストリンの混合物)、デキストリン(澱粉分解物)が挙げられる。油の分離を抑制する観点から、糖質として多孔性糖質を用いることが好ましい。ここで多孔性糖質としては、例えばエタノールを媒体として糖質の含水結晶を無水結晶に脱水結晶変換する方法(エタノール法)(Ohashi, T., et al., Carbohydrate Research, 342, 819-825 (2007)等参照)で製造される糖質の無水結晶物を挙げることができる。斯くして製造される糖質の無水結晶物は、微細な結晶からなる粒子であり、多孔性構造を有する。かかる多孔性糖質として、好ましくは、麦芽糖、乳糖、トレハロース、マルトース、デキストリンを例示することができる。
【0042】
粉末原料に糖質を配合する場合、本発明の最終の可食性組成物(最終製品)(100質量%)中に含まれる当該糖質の割合は、最終製品に求められる味やエネルギー量に応じて調整することができ、通常5~30質量%の範囲から適宜選択することができる。例えば最終製品が高エネルギー補給用栄養食品である場合、好ましくは5~15質量%の範囲、より好ましくは5~10質量%の範囲を挙げることができる。
【0043】
また、不溶性食物繊維としては、通常室温の水に溶解しない食物繊維を意味するが、好ましくはヒトの消化酵素では加水分解されない難消化性の食品成分のうち水不溶性の食物繊維である。例えば、小麦ふすま、コーンふすま、オーツブラン、植物から抽出したセルロースを主体とする繊維(例えば、コーンファイバー、大豆食物繊維およびビートファイバー等)、セルロース、結晶セルロース、寒天、キトサン、キチン、ヘミセルロース、リグニン、およびグルカン等を例示することができる。好ましくは植物から抽出したセルロースを主体とする繊維(例えば、コーンファイバー、大豆食物繊維およびビートファイバー等)、セルロース、結晶セルロースであり、より好ましくはコーンファイバー、大豆食物繊維、ビートファイバーである。粉末原料に不溶性食物繊維を配合する場合、本発明の最終の可食性組成物(最終製品)(100質量%)中に含まれる当該不溶性食物繊維の割合は、最終製品に求められるエネルギー量や油脂分離の抑制の観点に応じて調整することができ、通常0.5~10質量%の範囲から適宜選択することができる。例えば最終製品がエネルギー補給用栄養食品である場合、好ましくは1~8質量%の範囲、より好ましくは3~6質量%の範囲を挙げることができる。
【0044】
なお、本発明で使用される上記糖質および不溶性食物繊維も、その使用に際して粉末状であることが好ましい。ここで粉末状とは、前述する乳化剤やタンパク質と同様に、細~粗までの各種粒径を有する粉粒体の形態をいう。好ましくは目開き5mm(4メッシュ)の篩を通過可能な固体物である。この限りにおいて、その形態は、いわゆる粉砕状、粉状、粉末状、フレーク状、顆粒状、または粒状等と称される形態を有するものであればよく、その個々の形状は厳格に制限されることはない。
【0045】
さらに粉末原料には、上記タンパク質(必要に応じてさらに糖質または/および不溶性食物繊維)に加えて、調味料、香辛料、栄養成分および機能性成分からなる群から選択される少なくとも1種を配合することができる。
【0046】
調味料は、可食性組成物に旨味、甘味、酸味、塩味、および辛味等の味を付けるために使用される可食性成分であればよく、この限りにおいて特に制限されるものではない。例えば基礎調味料(例えば、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、酒、みりん)、うまみ調味料(例えば、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系調味料、イノシン酸二ナトリウム等の核酸系調味料など)、エキス(出汁)(例えば、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキス)が挙げられる。
【0047】
香辛料は、可食性組成物に辛味、スパイシー感または香気を付けるために使用される可食性成分であればよく、例えば、唐辛子、カラシ、わさび、ニンニク、コショウ、シナモン、ナツメグ、サフラン、パセリ、ローズマリー、オレガノ、山椒、カレー(クミン)等、各種の香辛料を例示することができる。これらの原料となる植物片の乾燥物や粉砕物、抽出物などであっても良い。なお、植物片を例示すると、葉、茎、花、果実(これらを総称して、「ハーブ」という。)、果皮、つぼみ、樹皮、種子、地下茎など(これらを総称して、「スパイス」という。)である。
【0048】
機能性成分は、人体の生理学的機能に影響を与えるとされる成分を指し、例えば生体機能の調節、抗酸化作用、疾病リスク低減作用、血圧上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、脂質代謝改善作用、認知機能改善作用、骨量または骨密度改善作用、抗うつ作用、および抗動脈硬化作用等といった各種生理機能が期待される成分である。具体的には、ポリフェノール類(例えば、カテキン、プロアントシアニジン、プロシアニジン、アントシアニン、ケルセチン、レスベラトロール、イソフラボン、クルクミン、プニカラギン、エラジタンニン、ヘスペリジンおよびナリンジンなどの柑橘系フラボノイド、およびクロロゲン酸)、カロテノイド、アルカロイド、不飽和脂肪酸類、天然物の有機溶媒抽出物などを挙げることができる。また、ビタミン様物質としては、カルニチン、プロポリスエキス、コエンザイムQ10、還元型コエンザイムQ10、脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、およびそれらの前駆体)、水溶性ビタミン(ビタミンB、ビタミンC、およびそれらの前駆体)、オメガ3脂肪酸(α-リノレン酸(ALA)、アラキドン酸(AA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA))、ルテイン、アスタキサンチン等を例示することができる。
【0049】
栄養成分は、ミネラルや微量元素であり、具体的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン、鉄、銅、亜鉛、モリブテン、およびマンガンなどを例示することができる。
【0050】
なお、これらの粉末原料は、その使用に際して粉末状を有していることが好ましい。ここで粉末状とは、細~粗までの各種粒径を有する粉粒体の形態をいう。好ましくは目開き5mm(4ッシュ)の篩を通過可能な固体物である。この限りにおいて、その形態は、いわゆる粉砕状、粉状、粉末状、フレーク状、顆粒状、または粒状等と称される形態を有するものであればよく、その個々の形状は厳格に制限されることはない。
【0051】
本発明の可食性組成物は、好ましくは自由水を含まないことを特徴とする。ここで自由水とは、前述する原料や成分に本来含まれている水分以外の水であり、意図的に外部から添加される水分を意味する。
【0052】
また、本発明の可食性組成物は、好ましくは8~25℃における固体脂含有率が2~15質量%であることを特徴とする。ここで「8~25℃における固体脂含有率が2~15質量%」とは、被験試料を8~25℃の温度条件で測定した場合に、いずれの温度条件下でも常に固体脂含有率が2~15質量%の範囲にあることを意味する。制限されないものの、長期保存に適する観点では、固体脂含有率として好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~12質量%、さらに好ましくは5~11質量%、最も好ましくは6~10質量%を挙げることができる。ここで被験試料は、本発明の可食性組成物の製造に使用される液体油と乳化剤とから構成されるオイルワックスゲル様物である。当該オイルワックスゲル様物は、可食性組成物の製造に使用する液体油に乳化剤を加熱溶解した後に、冷却することで調製される。具体的には、当該オイルワックスゲル様物は、後述する本発明の可食性組成物の製造工程において、(c)の工程を経ることなく、(a)、(b)及び(d)の工程により調製することができる。つまり、固体脂含有率(%)とは、実質的に可食性組成物の製造に使用する液体油及び乳化剤の総量を100質量%とした場合における固体脂含有率を意味する。
【0053】
かかる固体脂含有率(SFC:solid fat content)は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9-2003固体脂含量(NMR法)に従って測定することができる。具体的には、例えば、Bruker社製の測定装置(NMR法)を使用して、以下のようにして測定することができる(逐次法)。まず、被験試料を、測定装置(Bruker社製minispec mq20 NMR Analyzer)の測定セルに入れて、60℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持する。さらに、25℃で30分間保持した後、0℃で30分間保持し、その後、SFCを測定する温度で30分間保持後、SFCを測定する。
【0054】
また本発明の可食性組成物は、好ましくは100gあたりのエネルギーが540kcal以上であることを特徴とする。より好ましくは600kcal以上である。
【0055】
かかるエネルギーは、本発明の可食性組成物100gあたりに含まれる糖質含量、タンパク質含量、および脂質含量を求め、下式から求めることができる。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで本発明の可食性組成物に含まれる糖質の量は、下記に示すように、可食性組成物の重量(100g)から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、および水分の重量(g)を控除して算出することができる。
【0058】
[糖質含量(g/100g)]
糖質(g/100g)
=100 g-〔タンパク質含量(g/100g)+脂質含量(g/100g)+食物繊維含量(g/100g)+灰分含量(g/100g)+水分含量(g/100g)〕。
【0059】
ここでタンパク質の含量は、ケルダール法により窒素量を算出し、算出した窒素量から「窒素-タンパク質換算係数」を考慮して求めることができる。また脂質の含量は酸分解法により;食物繊維の含量はプロスキー法、プロスキー法では分析が困難とされる低分子水溶性食物繊維を含む可食性組成物の場合は酵素―HPLC法により;灰分の含量は直接灰化法により、水分の含量は減圧加熱乾燥法により;それぞれ求めることができる。なお、上記エネルギー(kcal/100g)の算出に使用する「タンパク質含量」および「脂質含量」も、上記の方法に従って求めることができる。
【0060】
これらの測定方法は、いずれも栄養改善法の栄養表示基準(日本国厚生労働省)で規定された分析法であり、その詳細もその分析法に従うことができる(例えば日本国消費者庁のHP[http://www.caa.go.jp/foods/pdf/160331_tuchi4-betu2.pdf]参照)。
【0061】
以下に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、および水分の含量の求め方を具体的に説明する。
【0062】
[タンパク質の含量](ケルダール法)
(1)測定方法
試料の適量(Wg)をケルダール分解フラスコに精密に量り、分解促進剤(硫酸カリウムと硫酸銅(II)五水和物を9:1の質量比で混合したもの)5gを加え、次いで濃硫酸15mLを加え、穏やかに振り混ぜた後、弱火で加熱する。分解が始まると液は黒化して泡立つ。黒色粘稠液になったら加熱を強める。反応が進むと、液は徐々に黒褐色から褐色になり、最後に青色ないし青緑色で澄明な液になる。さらに1~2時間強熱を続けて分解を完了させる。冷却後、分解液に脱イオン水を約120mL加え、沸騰石を少量加えてから、静かに30w/v%水酸化ナトリウム水溶液70mLを加えて、蒸留装置に連結させる。蒸留液の留出口に4%ホウ酸水溶液40mLを入れた三角フラスコを、留出口がホウ酸水溶液の液面より下になるように装着した後、加熱蒸留し、液量が120mLになったら留出口を液面から離し、さらに150mLまで蒸留する。蒸留液に混合指示薬(0.2w/v%メチルレッドと0.2 w/v%プロムクレゾールグリーンの95v/v%エタノール溶液を1:5の容量比で混合したもの)を数滴加え、0.05mol/L硫酸標準溶液(濃硫酸約28mLに水を加えて10Lに定容したもの。これを0.1mol/L水酸化ナトリウム標準溶液で標定した後、使用する。)で滴定する。青色、青緑色を経て、汚無色から桃色になったところを終点とする(滴定量:VmL)。別途、空試験として試料の代わりにショ糖を試料と同量採取し、前記と同様に操作して分解、蒸留、次いで滴定する(空試験滴定量:VmL)。
【0063】
(2)計算
上記で得られた滴定値から下式により、試料中の窒素含量(g/100g)を求め、それに窒素-タンパク質換算係数を乗じて試料中のタンパク質含量(g/100g)を算出する。なお、窒素-タンパク質換算係数としては「6.25」が用いられる。
【0064】
【数2】
【0065】
[脂質の含量](酸分解法)
(1)測定方法
試料の適量(乾物として1~2g以下)を50mL容のビーカーに精密に量り(Wg)、エタノール2mLを加えて、ガラス棒でよく混和する。次いで、塩酸(25→36)10mLを加えて十分に混和し、時計皿で覆って70~80℃の電気恒温水槽上で30~40分間時々かき混ぜながら加温する。放冷後、内容物をマジョニア管に移し、ビーカーとガラス棒をエタノール10mLで洗い、さらにエーテル25mLで洗浄し、洗液は先の抽出管に集める。栓をして軽く振って混和した後、栓を緩めて一旦ガスを抜いた後、ふたたび栓をして30秒間激しく振り混ぜる。次いで石油エーテル25mLを加え、同様にして30秒間激しく振り混ぜる。上層(エーテル・石油エーテル層)が透明になるまで静置した後、当該上層を、脱脂綿を詰めた漏斗で濾過する。濾液は、あらかじめ100~105℃の電気定温乾燥器で1時間乾燥後、デシケーター中で1時間放冷し、恒量(Wg)にしたフラスコに集める。管内に残った水層に再びエーテルと石油エーテルを各20mLずつ加え、上記と同様に操作した後静置し、エーテル・石油エーテル層を再び濾過して上記フラスコに集める。さらに管内に残った水層に再びエーテルと石油エーテルを各15mLずつ加え、上記の操作をもう一度繰り返した後、抽出管の先端、栓及び漏斗の先端をエーテルと石油エーテルの等量混液で十分に洗い、これも上記フラスコに集める。混液を捕集したフラスコをロータリーエバポレーターに連結し、70~80℃の溶媒留去用電気恒温水槽中で加温して溶媒を留去し、混液がわずかになったら電気恒温水槽で残りの混液を十分留去する。フラスコの外側をガーゼでふき、100~105℃の電気定温乾燥器中で1時間乾燥後、デシケーターに移し、1時間放冷して秤量する。乾燥、放冷、秤量の操作を繰り返し、恒量(Wg)を求める。
【0066】
(2)計算
上記で得られた測定値から下式により、試料中の脂質含量(g/100g)を求める。
【0067】
【数3】
【0068】
[食物繊維の含量]
(A)プロスキー法
(1)試料の調製
試料は予め粉砕機で粒度が2mm(10メッシュ)以下になるように粉砕し、粉末状としておく。
【0069】
(2)測定方法
(i)熱安定α-アミラーゼによる消化
試料1~10gを0.0001gまで精密に2つ量り(Smg、S mg)、それぞれをトールビーカーに入れ、一方(S)をタンパク質測定用、他方(S)を灰分測定用とする。それぞれのビーカーに0.08mol/Lリン酸緩衝液50mLを加え、pHが6.0±0.5であることを確認する。これに熱安定α-アミラーゼ溶液0.1mLを加え、アルミニウム箔で覆い、沸騰水浴中に入れて、5分ごと撹拌しながら30分間放置する。なお、熱安定α-アミラーゼ溶液としては、例えばターマミル120L(Novo Nordisk製)を挙げることができる。
【0070】
(ii)プロテアーゼによる消化
上記ビーカーを冷却後、0.275mol/L水酸化ナトリウム溶液を約10mL添加し、pH7.5±0.1に調整する。プロテアーゼ溶液0.1mLを加え、ビーカーを再びアルミニウム箔で覆い、60±2℃の水浴中で振盪しながら30分間反応させる。なお、プロテアーゼ溶液として、プロテアーゼ(例えば、No.P-5380:Sigma製など)を50mg/mLとなるように、0.08mol/Lリン酸緩衝液に溶解したものを使用することができる。
【0071】
(iii)アミログルコシダーゼによる消化
上記ビーカーを冷却後、0.325mol/L塩酸を約10mL加えて、pH4.3±0.3に調整する。アミログルコシダーゼ溶液0.1mLを加え、アルミニウム箔で覆い、60±2℃の水浴中で振盪しながら30分間反応させる。なお、アミログルコシダーゼとして例えば、No.A-9913(Sigma製)などを用いることができる。
【0072】
(iv)沈殿の生成
室温において酵素反応液の4倍量に相当するエタノールを、60±2℃に加温してから上記酵素反応液に加え、室温下で正確に60分間放置して、食物繊維を沈殿させる。
【0073】
(v)濾過
78v/v%エタノールにより、予めルツボ形ガラス濾過器の珪藻土を底に均一にしておき、当該濾過器に、吸引しながら食物繊維を含む酵素反応液を流し込む。ビーカーと濾過器を78v/v%エタノール20mLで3回、エタノール10mLで2回以上、アセトン10mLで2回以上、順次洗浄する。
【0074】
(vi)乾燥・秤量
残留物を含む濾過器を一夜105±5℃で乾燥し、デシケーター中で冷却後、0.1mgまで秤量する。タンパク質測定用の質量を「R mg」、灰分測定用の質量を「RA mg」とする。
【0075】
(vii)残留物中のタンパク質の定量
タンパク質測定用の残留物は、珪藻土とともに掻き取り、ケルダール法によって残留物中の窒素含量を定量する。窒素係数6.25を乗じてタンパク質含量(Pmg)を求める。
【0076】
(viii)残留物中の灰分の定量
灰分測定用の残留物は、525±5℃で5時間灰化する。デシケーター中で冷却後、0.1mgまで秤量し、残留物の灰分含量(Amg)を求める。
【0077】
(ix)空試験
空試験は、試料を含まずに同様に操作し、それぞれ(タンパク質測定用、灰分測定用)の乾燥・秤量後の残留物の質量をRPBmg、RAB mg、これらの残留物中のタンパク質含量(P mg)及び灰分含量(A mg)を求める。
【0078】
(3)計算
上記で得られた測定値から下式により、試料中の食物繊維含量(g/100g)を求める。
【0079】
【数4】
【0080】
(B)酵素-HPLC法
当該酵素-HPLC法は、上記プロスキー法を基本とし、高速液体クロマトグラム上で食物繊維画分を測定する方法である。具体的には、まずプロスキー法で試料中の食物繊維含量を測定する。次に濾過工程で発生する濾液についてイオン交換樹脂によりタンパク質、有機酸類、無機塩類を除去し高速液体クロマトグラフィーに供し、得られるクロマトグラム上で食物繊維画分(三糖類以上)、単糖類・二糖類画分とを分け、食物繊維画分とブドウ糖のピーク面積の比率を求める。同時に、内部標準物質として、でん粉の分解等により生成するブドウ糖の質量を別途酵素法により求め、ピーク面積比率にブドウ糖質量を掛けることにより低分子水溶性食物繊維含量を求め、先にプロスキー法により求めた値と合わせることにより総食物繊維を求める方法である。
【0081】
(1)試料の調製
上記(A)プロスキー法の(v)濾過の操作で得られたろ液について、95v/v%エタノール洗浄までの全量を定量的に回収し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノール分を除去した後、100mL定容として低分子水溶性食物繊維を含む酵素処理液とする。酵素処理液に不溶物が含まれる場合には濾過する。
【0082】
(2)測定方法
(i)タンパク質、有機酸、無機塩類の除去(イオン交換樹脂による)
上記で調製した酵素処理液50mLを、イオン交換樹脂50mLを充填したカラム(ガラス管、20mm×300mm)に、SV1.0(通液速度:50mL溶液/1時間)で通液し、さらに蒸留水で押し出し、溶出液200mLとする。この溶液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、水で適当な濃度(例えば、Brix5程度)に調整して孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、下記条件の高速液体クロマトグラフィーに供する。
【0083】
<HPLC条件>
カラム:TSK gelG2500PWXL(東ソー)、内径7.8mm、長さ300mmを2本直列に接続
カラム温度:80℃
移動相:水
流速:0.5mL/分
注入量:20μL。
【0084】
次いで得られた得られたクロマトグラムから、内部標準物質(ブドウ糖)及び食物繊維画分のピーク面積を求める。なお、三糖類であるマルトトリオースのピーク溶出位置を指標とし、これと同じかこれより前に溶出するものを食物繊維画分とする。
【0085】
(ii)内部標準物質
(1)で得られる酵素処理液中のブドウ糖をピラノースオキシダーゼで測定し、その含量を求め、標準物質とする。
【0086】
(3)計算
上記で得られた測定値から下式により、試料中の低分子水溶性食物繊維含量(g/100g)を求め、それに上記プロスキー法で求めた食物繊維含量(TDF g/100g)を加算する。
【0087】
【数5】
【0088】
[灰分の含量](直接灰化法)
(1)測定方法
あらかじめ恒量にした灰化容器(Wg)に、適量の試料を精密に量り(Wg)、必要な前処理を行った後、550~600℃の温度に達した電気炉に入れ、白色またはそれに近い色になるまで灰化する。灰化後、灰化容器を取り出し、温度が200℃近くになるまで放冷してからデシケーターに移し、室温に戻った後に秤量する。同じ操作(灰化、放冷、秤量)を恒量(Wg)になるまで繰り返す。灰化した際に、炭塊の残存が認められる場合は、灰に水を入れて溶かし、未灰化物を露出させた後、水浴上で蒸発乾固する。次いで、水浴上または100℃程度のホットプレート上で十分に乾燥後、再び550~600℃で灰化を行い、恒量になるまで数回この操作を繰り返す。
【0089】
(2)計算
上記で得られた測定値から下式により、試料中の灰分含量( g/100g)を求める。
【0090】
【数6】
【0091】
[水分の含量](減圧加熱乾燥法)
(1)測定方法
所定の温度に調節した定温乾燥器に秤量皿を入れ、1~2時間加熱後、デシケーターに移す。放冷して室温に達したら、ただちに秤量する。再び加熱、放冷、秤量の操作を繰り返し、恒量(Wg)を求める。次に、適量の試料(通常2~3g)を精密に量り(Wg)、蓋をわずかにずらして、所定の温度に調節した真空乾燥器に入れ、真空ポンプで吸引しながら、所定の減圧度に設定する。一定時間(約5時間)減圧乾燥後に真空ポンプを止め、洗気瓶中の濃硫酸を通して除湿した空気を乾燥器内に静かに導入して常圧に戻し、秤量皿を取り出し、蓋をしてデシケーター中で放冷後、秤量する。恒量(Wg)に達するまで減圧、乾燥、放冷、秤量を繰り返す。
【0092】
(2)計算
上記で得られた測定値から下式により、試料中の水分含量(g/100g)を求める。
【0093】
【数7】
【0094】
さらに本発明の可食性組成物は、好ましくはケトン比が0.9以上2.8以下であることを特徴とする。より好ましくは1.0以上2.5以下、さらに好ましくは1.1~2.2である。
【0095】
ここでケトン比は、本発明の可食性組成物に含まれる脂質、糖質、およびタンパク質の含量から下式により求めることができる。
【0096】
【数8】
【0097】
ケトン比が0.9以上4以下(好ましくは1以上4以下)である食品を、いわゆる「ケトン食」という。これは摂取エネルギーの60~90質量%を脂肪で摂るというものであり、糖質(炭水化物)の摂取を減らすことにより、体内でエネルギー源として使われている糖が枯渇し、その代わりに体内の脂肪が分解されてケトン体が生じるため、体はこれをエネルギー源として利用するようになる。
【0098】
本発明が対象とする可食性組成物には、経口組成物と経管組成物が含まれる。
本発明が対象とする経口組成物は、口を介して摂取されるものであればよく、食品、経口医薬部外品、および経口医薬品が含まれるが、好ましくは食品である。なお、ここで食品には、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、いわゆる健康食品、およびその他の一般食品が含まれる。本発明が対象とする経管組成物は、チューブ(管)を介して胃腸内に投与される組成物であり、鼻からチューブを介して胃内に注入投与される経管経鼻組成物、チューブを介して直接胃内または腸内に注入投与される経管胃瘻組成物または経管腸瘻組成物などの経管栄養組成物が含まれる。また本発明が対象とする可食性組成物は、単独で使用することもできるが、通常の飲食物や経管栄養組成物に対してそのエネルギーまたは/およびタンパク質を補充(増強、強化)する目的で、その摂取時にそれらと併用するか若しくはそれらに添加混合して用いることができる。この意味で、本発明の可食性組成物は、通常の飲食物や経管栄養組成物に対する補助組成物または添加組成物であることができる。
【0099】
本発明の好適な可食性組成物は、前述するように100gあたりのエネルギーが540kcal以上であり、且つケトン比が0.9以上2.8以下である、高エネルギー、高脂肪、および高タンパク質状態の食品(ケトン食)である。かかるケトン食を包含する本発明の可食性組成物は、エネルギー含量または/およびタンパク質含量が高いため、エネルギーまたは/およびタンパク質補給用の栄養食品また経管栄養組成物として調製することができる。このため、虚弱体質者、食欲不振者、病中病後者、体力が弱っている者(衰弱者)、高齢者、幼児、スポーツ競技者およびスポーツ愛好家などを対象とした栄養補助・栄養ケア用の食品または経管栄養組成物として、好適に用いることができる。かかる栄養補助・栄養ケア用の食品は、そのまま摂取することも可能であるが、好ましくは普段の食事(主食、総菜や汁物等の副食)または/および食後や食間のデザートの製造時または喫食時に混ぜて摂取することができ、こうすることで、食事摂取量が減少し、小食になった高齢者や食欲不振者についても、通常の食事量(または少ない食事量)で、所望する量のエネルギーやタンパク質を補給することが可能になる。
【0100】
本発明の可食性組成物は、前述するように乳化剤から形成された板状物と板状物の間に、液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでなる構造および性状、好ましくはオイルワックスゲルの構造および性状を有している。そして、この構造および性状に基づいて、少なくとも品温25~40℃の状態で半流動状またはペースト状の形状を有している。好ましくは品温15~40℃の状態で半流動状またはペースト状の形状を有する。ここで半流動状とは流動性のある半固形の状態を意味し、ペースト状とは、静置した状態では自由に流動しないものの、力を加えることで流動性(チクソトロピー性)を有する程度の硬さ、好ましくはチューブ容器から押し出し可能な流動性と硬さを有する半固形の状態を意味する。かかる半流動状またはペースト状には、ジャム状、マーマレード状、餡状、ピュレ状、ケチャップ状、糊状、粥状などの類似の形状をすべて含む。すなわち、本発明によれば、加熱工程なしで、各所望材料についてジャム状、マーマレード状、餡状、ピュレ状、糊状、粥状、ケチャップ状などの形態の食品を得ることができる。
【0101】
かかる形状の可食性組成物は、品温25℃で粘度800~20000mPasを備えていることが好ましい。好ましくは1000~10000mPas、より好ましくは1000~5000mPas、特に好ましくは1000~4000mPasである。なお、かかる粘度は、B型粘度計(東機産業社製、TVB-10、ローターNo.4)を用いて、品温25℃、12rpm、120秒の条件で測定することができる(以下、同じ)。
【0102】
かかる形状を有する本発明の可食性組成物は、制限されないものの、好ましくは押し出し可能なチューブ容器に充填されていることが好ましい。当該チューブ容器は押し出し口に開閉可能な蓋(キャップ)を備えており、用時に蓋(キャップ)を開けて押し出し口から内容物を流出して使用され、それ以外の時は内容物がチューブ容器の外部に流出しないように蓋(キャップ)を閉じて使用されるものである(リキャップ容器)。なお、蓋は、制限されないものの、大きく2種類に分類できる。ひとつは閉塞時に蓋(キャップ)を数回捻って閉塞するスクリュー型キャップであり、他方は閉塞時に蓋(キャップ)を容器および中栓に押し込んで閉塞するワンタッチ型キャップである。なお、チューブ容器の材質は特に問わず、ポリエチレン製樹脂、ポリプロピレン製樹脂、ポリスチレン製樹脂等の合成樹脂からなるシートまたはアルミニウム箔製のシートの一層乃至多層シートから形成されるものであってよく、好ましくは飲食物を充填する慣用のチューブ容器を使用することができる。
【0103】
(2)可食性組成物の製造方法
本発明が対象とする可食性組成物は、下記の(a)~(d)の工程を有する方法で製造することができる:
(a)液体油を、乳化剤の融点以上の温度に加熱する工程、
(b)上記液体油に粉末状の乳化剤を溶解して保持する工程、
(c)上記乳化剤を溶解した液体油中に粉末タンパク質を含む粉末原料を配合して混合する工程、および
(d)上記(c)工程で得られた混合物を冷却して、半流動状またはペースト状物を得る工程。
【0104】
斯くして調製される半流動状またはペースト状物は、そのままで本発明の可食性組成物として提供され、使用することができる。しかし、市場に商品として流通させるためには、通常、上記工程(d)後に下記(e)工程により容器に充填されて、最終製品(商品:食品、経口医薬品、経口医薬部外品、経管組成物)として調製される。
(e)(d)工程で得られた半流動状またはペースト状の可食性組成物を容器に充填する工程。
【0105】
なお、上記の製造工程で使用する各原料(液体油、乳化剤、タンパク質)およびその性状、並びに半流動状またはペースト状物の定義は、上記(1)の項に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。
【0106】
以下、これらの各製造工程について説明する。
【0107】
(a)液体油を加熱する工程
当該(a)工程は、液体油を、次の(b)工程で使用する乳化剤の融点以上の温度に加熱する工程である。ここで使用される液体油の定義、その具体例、およびその使用量は、上記(1)に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。
【0108】
液体油の加熱温度としては、使用する乳化剤の融点以上であればよいが、好ましくは使用する乳化剤の融点より10℃以上高い温度であり、より好ましくは20℃以上高い温度である。具体的な加熱温度として、70~180℃、好ましくは70~100℃、より好ましくは75~90℃を挙げることができる。
【0109】
(b)乳化剤の溶解保持工程
当該(b)工程は、上記(a)工程で加熱した液体油に粉末状の乳化剤を配合し、溶解して保持する工程である。ここで使用される乳化剤の定義、その性状、その具体例、およびその使用量は、上記(1)に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。
【0110】
液体油に対する乳化剤の溶解は、乳化剤が液体油中に均一に分散し溶解する方法であればよく、その限りにおいて特にその方法を問うものではない。制限されるものでないが、通常、上記(a)工程により加熱状態にある液体油に乳化剤を添加配合し、撹拌することで実施することができる。撹拌中も液体油と乳化剤の混合物は加熱した状態であることが好ましく、その加熱温度としては、(a)工程で採用された加熱温度を挙げることができる。
【0111】
また溶解に要する時間は、乳化剤が液体油中に均一に分散し溶解するまでの時間を挙げることができ、液体油および乳化剤との量、並びに乳化剤の溶解度などから適宜調整することができる。制限されないが、通常、10分間以上、好ましくは10~120分程度を挙げることができる。
【0112】
かかる溶解後、調製された液体油と乳化剤の溶解混合物は、好ましくは溶解温度の状態で、より好ましくは75~90℃条件下で保持される。保持時間としては、通常10分間以上、好ましくは20分間以上を挙げることができる。具体的には10~240分間であり、好ましくは20~100分間である。なお、ここで保持とは、乳化剤の一部または全てが液体油中に溶解した状態を維持することを意味し、この限りにおいて液体油は静置の状態であっても振盪や撹拌の状態であってもよい。
なお、液体油に配合する乳化剤の割合として、制限されないものの、液体油100質量部に対して、通常3~20質量部を挙げることができる。好ましくは4~15質量部であり、より好ましくは4~10質量部である。
【0113】
(c)粉末原料の配合混合工程
(d)半流動状/ペースト状物調製工程
当該(c)工程は、上記(b)工程で調製した液体油と乳化剤の溶解混合物(以下、単に「溶解混合物」とも称する)に粉末原料を配合し混合する工程である。また(d)工程は、上記(c)工程で調製した液体油と乳化剤と粉末原料との混合物(以下、単に「混合物」とも称する)を冷却して半流動またはペースト状物を得る工程である。ここで使用される粉末原料、およびそれに含まれるタンパク質やその他の成分の定義、その性状、その具体例、およびその使用量は、上記(1)に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。また半流動およびペース状物の意味も上記(1)に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。
【0114】
溶解混合物に対する粉末原料の混合は、溶解混合物中に粉末原料を分散させる方法であればよく、その限りにおいて特にその方法を問うものではない。制限されるものでないが、通常、上記(b)工程で調製した溶解混合物について、その加熱を止めて、これに粉末原料を添加配合し、撹拌することで実施することができる。撹拌は、溶解混合物に粉末原料が(好ましくは均一に)分散するように行うことができる。この場合、加熱を止めた溶解混合物に粉末原料を分散させた後に((c)工程)、得られた混合物を室温以下(25±5℃以下)に冷却してもよいし((d)工程)、また溶解混合物および粉末原料との混合物を室温以下(25±5℃以下)になるように冷却しながら混合することで、溶解混合物に粉末原料を分散させてもよい((c)および(d)工程)。好ましくは、溶解混合物および粉末原料とを、室温以下(25±5℃以下)になるように冷却しながら混合する方法であり、できるだけ短時間(例えば、30分以内)にこの一連の操作(混合と冷却)をすることが好ましい。なお、冷却は、溶解混合物および粉末原料との混合物の温度が30℃以下、好ましくは25℃以下になるように行うことが好ましく、制限されないものの、通常溶解混合物および粉末原料との混合物を入れた容器を冷却(例えば、水冷)することで実施することができる。
【0115】
かかる冷却により得られる半流動およびペースト状物は、液体油に溶解していた乳化剤が析出し、析出物によって形成された空隙に、液体油を担持または含浸した状態の粉末原料が入り込んだ構造を有していると考えられる。好ましくは、当該析出物は板状の結晶であり、乳化剤から形成される板状結晶と板状結晶との間隙に液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでいる。ここで析出した乳化剤から形成される板状物からなる構造は、カードハウス構造とも称される。
【0116】
また当該半流動およびペースト状物は、乳化剤から形成される析出物の空隙(好ましくは板状物と板状物との間隙(カードハウスの空隙))の中に液体油と粉末原料とが混合した状態で存在しており、液体油が粉末原料に担持または含浸されることで、品温が少なくとも25~40℃、好ましくは15~40℃の場合でも、液体油が流出しない状態で保持されている。つまり斯くして調製された混合物は、少なくとも品温25~40℃で半流動性またはペースト状の形状を有している。
【0117】
かかる形状の可食性組成物は、品温25℃で粘度800~20000mPasを備えていることが好ましい。好ましくは1000~10000mPas、より好ましくは1000~5000mPas、特に好ましくは1000~4000mPasである。
【0118】
(e)容器充填工程
当該(e)工程は、上記(d)工程で調製した混合物(半流動およびペースト状物は)を容器に充填する工程である。ここで使用される容器は、上記(1)に記載した通りであり、上記の記載はここに援用される。好ましくは開閉可能な蓋(キャップ)を有するリキャップ容器であり、より好ましくは半流動性またはペースト状の形状を有する内容物を押し出すことで排出させることができるチューブ容器である。容器への充填は慣用方法により行うことができる。
【0119】
斯くして製造される可食性組成物は、好ましくは普段の食事(主食、総菜や汁物等の副食)または/および食後や食間のデザートの製造時または喫食時に、チューブから押し出してこれらに混ぜて使用される。こうすることで、普段の食事または/および食後や食間のデザートのタンパク質含量、脂質含量、または/およびエネルギー量を、喫食物の嵩を大きく上げることなく、増加することができる。つまり、エネルギーまたは/およびタンパク質の補給用経口組成物として有効に使用することができる。また本発明の可食性組成物は、通常の経管栄養組成物の製造時または摂取時に、チューブから押し出してこれらに混ぜて使用されてもよい。こうすることで、通常の経管栄養組成物のタンパク質含量、脂質含量、または/およびエネルギー量を、嵩を大きく上げることなく、増加することができる。つまり、エネルギーまたは/およびタンパク質の補給用経管組成物として有効に使用することができる。
【0120】
また上記の方法で製造される可食性組成物は、前述するように液体油が粉末原料に担持または含浸された状態で、乳化剤から形成される板状物と板状物との間隙に入り込んだ構造を有し、液体油が安定して保持されているため、漏出や染み出しが有意に抑制された状態で容器、好ましくはリキャップ容器内に収納されている。特に、粉末原料として多孔性糖類または/および不溶性食物繊維を使用することで、リキャップ容器に充填して繰り返し使用した場合であっても、当該リキャップ溶液のキャップ部からの液体油の染みだしを有意に抑制することができる。
【0121】
以上、本明細書において、「含有する」という用語は「から本質的になる」及び「からなる」という用語を包含するものとして用いられる。
【実施例
【0122】
以下、試験例および実施例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例等に何ら制限されるものではない。なお、下記の試験例における工程、処理、又は操作は、特に言及がない場合、室温及び大気圧条件下で実施される。室温は10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0123】
試験例1.液体油、タンパク質および乳化剤の適切な配合比の検討
(1)目的
液体油および粉末原料(粉末タンパク質)の混合組成物の調製に使用する原料(液体油、タンパク質、乳化剤)の配合比率を変えて、性状、粘度、および油の分離を評価する。
【0124】
(2)方法
容器に入れた液体油を90℃に加熱して、これに粉末状の乳化剤を添加し溶解させて、10分間保持した(被験試料1-4)。なお、粉末乳化剤を添加しない場合(被験試料1-1~1-3)は、液体油を90℃に加熱し、粉末乳化剤を添加することなく10分間保持した。次に、加熱を止めて粉末タンパク質を加え、容器を内容物の温度が常温程度になるように冷却(水冷)しながら混合してペースト状の液体油と粉末タンパク質との混合組成物(被験試料1-1~1-3)並びにペースト状の液体油と粉末乳化剤と粉末タンパク質との混合組成物(被験試料1-4)を調製し、100ml容量のポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)(サイズ40mm(直径)×100mm(高さ))に充填した。
液体油としては植物由来の油脂を、粉末タンパク質としてはミルクプロテイン(フォンテラ社製MPC480)、粉末状乳化剤としてはグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学社製TAISET26:ベヘン酸グリセリルを20%、オクタステアリン酸グリセリルを20%、及び硬化パーム油を60%含む)を使用した。
【0125】
次いで、調製した混合組成物の性状、粘度、および油の分離を評価した。なお粘度は、B型粘度計(ローターNo.4、東機産業社製、TVB-10)を用いて、25℃条件下、12rpm、120秒の回転条件で測定した。性状は、25℃条件下で目視と手触りで評価した。油の分離の有無は、混合組成物を調製後、室温条件下で3分間静置し、ポリプロピレン製遠沈管の上部に形成される油層の厚さから下記基準に従って評価した。
【0126】
[油の分離]の判断基準
++:油層が2mm以上
+:油層が1mm以上2mm未満
±:油層が1mm未満
-:油層が認められない
【0127】
【表1】
【0128】
(3)結果
結果を表2に示す。
表2において、固体脂含有率(8℃、25℃)は、社団法人日本油化学会編「基準油脂分析試験法」の2.2.9-2003固体脂含量(NMR法、逐次法)に従って測定した。またエネルギー(Kcal/100g)、及びケトン比は、調製した混合組成物に含まれる油脂含量(脂質含量)、糖質含量、及びタンパク質含量から、計算式により求めることができる。固体脂含有率の定義及びその被験試料の調製方法を含め、これらの詳細は「発明の詳細な説明」にて説明した通りである(以降の試験例2~においても同じ)。
【0129】
【表2】
【0130】
表2に示すように、混合組成物中の粉末タンパク質の配合比率を或る程度増やすとペースト状の混合物となるものの(被験試料1-2および1-4)、乳化剤を配合しないと油が分離した(被験試料1-2)。また、粉末タンパク質の配合比率を増やしすぎるとペースト状の組成物とならなかった(被験試料1-3)。一方、粉末タンパク質の比率を所定量とし、これに乳化剤を併用することで油の分離が抑制できるとともに、なめらかなペースト状の混合物となる(被験試料1-4)ことが確認できた。
【0131】
試験例2.粉末タンパク質の種類
(1)目的
粉末原料の成分として様々な種類の粉末タンパク質を用いて液体油および粉末原料の混合組成物を調製し、性状、粘度、および油の分離を評価する。
【0132】
(2)方法
容器にいれた液体油を90℃に加熱して、これに粉末状の乳化剤を添加し溶解させて10分間保持した。なお、液体油と粉末状乳化剤は試験例1と同じものを使用した。次に、加熱を止めて各種の粉末タンパク質(表3)をそれぞれ加え、容器を内容物の温度が常温程度になるように冷却(水冷)しながら混合してペースト状の液体油と粉末タンパク質との混合組成物を調製し、100ml容量のポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)に充填した。なお、粉末タンパク質として、ミルクプロテイン(MPC480:フォンテラ社製)、ホエイプロテイン(WPC550:フォンテラ社製)、ホエイプロテインアイソレート(WPI895:フォンテラ社製)、およびナトリウムカゼイネート(Sodium Caseinate:アーラ社製)を使用した。なお、調製した混合組成物について、その性状、粘度、および油の分離を、試験例1と同様の方法で評価した。
【0133】
【表3】
【0134】
(3)結果
結果を表4に示す。
【0135】
【表4】
【0136】
表4に示すように、ミルクプロテイン、ホエイプロテイン、ホエイプロテインアイソレート、またはナトリウムカゼイネートの粉末タンパク質で作った混合組成物(被験試料2-1~2-4)はいずれも、性状がペーストで、油の分離も見られなかった。したがって、本発明の組成物に混合する粉末タンパク質は、その種類を変えても、安定したペースト状になることが確認できた。
【0137】
試験例3.繰り返し使用時の油の染みだし抑制
(1)目的
粉末原料として使用する添加剤の種類を変えてペースト状の混合組成物を調製し、チューブ容器に充填し、繰り返し使用した時の油の染みだし性を評価した。
【0138】
(2)方法
容器に入れた液体油を90℃に加熱して、これに粉末状の乳化剤を添加し溶解させて10分間保持した、次に、加熱を止めてから粉末タンパク質、各種その他の粉末原料(表5)を加え、容器を内容物の温度が常温程度になるように冷却(水冷)しながら、混合して液体油、乳化剤および粉末タンパク質のペースト状の混合組成物を調製し、100ml容量のポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)に充填した。その他の粉末原料として、コラーゲン(GEL250微粉:新田ゼラチン社製)、多孔質糖質(精製マルトース、「サンマルトミドリ」:林原社製)または不溶性食物繊維(大豆食物繊維、「FIBRIM[登録商標]2000」:デュポン社製)を表5に記載の配合比率で混合して、液体油、乳化剤、および粉末タンパク質を含む粉末原料の混合組成物を調製した。なお、「FIBRIM[登録商標]2000」は、大豆の食物繊維を精製加工したものであり、不溶性食物繊維を70質量%、水溶性食物繊維を5質量%、タンパク質を12質量%含んでいる。液体油は植物由来の油脂を、粉末タンパク質はWPC(アラセン392:フォンテラ社製)、粉末乳化剤はグリセリン脂肪酸エステル(TAISET26:太陽化学社製)を使用した。
【0139】
調製した混合組成物の性状、粘度、油の分離を、試験例1と同様の方法で評価した。またこれらの混合組成物90gをリキャップ式チューブ容器(凸版印刷社製リキャップ式倒立チューブ、高さ14cm、幅4.5cm、絞り口の大きさ15mm)に充填し、チューブから繰り返し吐出して、使用時の油の染みだし性を評価した。具体的には、当該ペースト使用時の油の染みだし試験は、室温条件下で、下記方法により実施した。
【0140】
(a)チューブ容器の吐出口から10g絞り出し、リキャップした。
(b)チューブ容器をキャップしたまま、吐出口を下に倒置させた状態で冷蔵庫に8時間静置した。
(c)冷蔵庫で8時間静置後、キャップに出てきた油をキャップごと計量、キャップ重量を差し引いた。
(d)キャップに出てきた油をふき取り、リキャップした。
(e)チューブ容器を、吐出口を下に倒置させた状態で常温に8時間以上静置した。
(f)以降(b)から(e)を3回繰り返した。
【0141】
【表5】
【0142】
(3)結果
表6に結果を示す。
【0143】
【表6】
【0144】
表6に示すように、コラーゲン、多孔質糖質、および不溶性食物繊維のいずれか少なくとも1つの保油力のある粉末原料を配合してペースト状に調製した混合組成物(被験試料3-1~3-4)は、油の分離がなく、またチューブ容器に充填して繰り返し使用した場合でも、これらを配合しないペースト状混合組成物(被験試料3-5)に生じる油の染みだしが有意に抑制できることが確認された。
【0145】
試験例4.オルガノゲルとオイルワックスゲルの違い
(1)目的
より安定的な物性の液体油および粉末原料の混合組成物を製造するために、乳化剤を検討する。
【0146】
(2)方法
容器にいれた植物由来の液体油を90℃に加熱して、これに粉末乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル(エマックスBW-36:理研ビタミン社製)、または12-ヒドロキシステアリン酸を含む乳化剤(固めるテンプル:ジョンソン社製)を添加して溶解させて、10分間保持した、次に、加熱を止めてから粉末タンパク質を加え、容器を内容物の温度が常温程度になるように冷却(水冷)しながら、混合してペースト状の液体油および粉末タンパク質の混合組成物を調製し、100ml容量のポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)に充填した。
【0147】
なお、表7に記載する配合比率で液体油、乳化剤および粉末タンパク質を混合して、液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物を製造し、得られた混合組成物が、オルガノゲルか、オイルワックスゲル様物かの別を目視にて判定した。オルガノゲルは、半透明なゲル(寒天状の柔軟な塊)となる。オイルワックスゲルは、透明感の低い白色ゲル(流動性をもつソリッド、ペースト状)となる(非特許文献2)。
【0148】
【表7】
【0149】
(3)結果
表8に結果を示した。オルガノゲルは寒天のように弾力性はあるものの硬く流動性がないが、オイルワックスゲルはソリッドでありながらもペースト状でチクソトロピー性の流動性があり、本発明のなめらかなペースト物性に適している。表8に示すように、粉末乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いて調製した本発明の可食性組成物はペースト状の透明感の低い白色ゲルの形状、つまりオイルワックスゲル様の形状を有していた。この結果から、粉末乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステルを用いることで、オイルワックスゲル様の可食性組成物が調製できることが確認された。このことから、本発明の可食性組成物は、液体油中で溶解させた乳化剤が冷却することで板状に析出し、そによって形成されたカードハウス構造の空隙に、液体油を担持または含浸した粉末原料が入り込んでなる構造を有するものと考えられる。
【0150】
【表8】
【0151】
試験例5.乳化剤の加熱溶解条件
(1)目的
より安定的な物性を有する、液体油および粉末乳化剤の混合組成物を製造するために、液体油および乳化剤の加熱溶解条件を検討する。
【0152】
(2)方法
液体油および粉末状乳化剤を表9に記載の配合比率(すなわち、液体油100質量部に対して粉末乳化剤が4.2質量部)で混合し、90℃条件で5~30分間撹拌しながら乳化剤を溶解した。液体油は植物由来の油脂を、乳化剤はグリセリン脂肪酸エステル(TASEI26、太陽化学社製)を用いた。粘度測定時には、試料を25ml容量のポリプロピレン製容器に採取して、水冷にて25℃まで冷却し、25℃条件下での粘度をB型粘度計(東機産業社製、TVB-10、ローターNo.4、12rpm、120秒)で測定した。
【0153】
【表9】
【0154】
(3)結果
原料(液体油および粉末状乳化剤)の加熱条件(90℃)下での溶解時間(5~30分間)を横軸に、製造した混合組成物の25℃条件での粘度(mPa・s)との関係を図1に示す。溶解時間が短く(5分間)、乳化剤の溶解が不十分な場合、25℃冷却時に乳化剤の析出が不完全で不均一となって調製物の粘度が高くなる傾向が見られたが、10分以上、好ましくは15分以上かけて十分溶解させた場合は、25℃冷却時に乳化剤が完全に析出して均一な物性となって調製物の粘度が安定した〔本発明の製造工程(a)および(b)〕。このことから、オイルワックスゲルのように液体油中に乳化剤の析出物による空隙構造(好ましくはカードハウス構造)を安定して形成するためには、液体油中に乳化剤を溶解させた後、一定時間保持することが好ましいことが確認された。
【0155】
試験例6.冷却条件の検討
(1)目的
より安定的な物性を有する液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物を製造するために、これら混合組成物の冷却条件を検討する。
【0156】
(2)方法
表10に記載の配合比率になるように、液体油および粉末状乳化剤を90℃で10分間撹拌しながらよく溶解し、これに粉末タンパク質を混合しながら設定温度(品温:約50℃~25℃)になるように冷却して、液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物を製造した。なお、液体油は植物由来の油脂を、粉末タンパク質はホエイプロテイン(アラセン392:アーラ社製)、粉末状乳化剤はグリセリン脂肪酸エステル(TAISEI26:太陽化学社製)を使用した。次いでその混合組成物を100ml容量のポリプロピレン製容器に充填し、得られた混合組成物について粘度を測定した。粘度は、品温(約25~50℃)、12rpm、120秒、ローターNo.4の条件でB型粘度計(東機産業社製、TVB-10)にて測定した。
【0157】
【表10】
【0158】
(3)結果
上記で調製した混合組成物について、品温と粘度との関係を図2および図3に示す。25℃以下の温度への冷却を100分かけてゆっくり行った場合は、乳化剤の析出が不安定なためにペーストの粘度が安定しにくく、品温が25℃に到達してやっと安定した(図2)。一方、25℃以下の冷却を上記の半分の50分かけて速やかに行った場合は、乳化剤が早期に完全に析出し、25℃でのペースト粘度が安定しやすかった(図3)〔本発明の製造方法の工程(d)〕。つまり、液体油に乳化剤をよく溶解させた後、粉末タンパク質などの粉末原料を添加し冷却しながら混合する時間(冷却時間)はあまり長くないほうがよいことが、安定的な物性の液体油および粉末原料の混合組成物を製造するのに好ましいことが示された。
【0159】
試験例7.冷却条件の検討
(1)目的
より安定的な物性の液体油および粉末原料の混合組成物を製造するために、液体油および粉末原料の冷却条件を検討する。
【0160】
(2)方法
容器に入れた液体油を90℃に加熱して、これに粉末の乳化剤を添加し溶解させて10分間保持した。次に、加熱を止めてから、これに粉末タンパク質、各種その他の粉末原料(表11)を加え、内容物の温度が各温度帯(45℃、40℃、30℃、25℃)になるように容器を放冷または急冷(氷水or水冷)しながら、混合してペースト状の液体油、乳化剤および粉末タンパク質の混合組成物を調製した。液体油は植物由来の油脂を、粉末タンパク質はホエイプロテイン(アラセン392:アーラ社製)、粉末乳化剤はグリセリン脂肪酸エステル(TAISEI26:太陽化学社製、融点80℃)、多孔質糖質はマルトース(サンマルトミドリ:林原社製)を用いた。各温度に調製した液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物を、100ml容量のポリプロピレン製容器に半量の50ml程度充填し、各保持温度の恒温庫内に設置したローテーター(TAITEC社製RT-50)の遠沈管に貼り付けて、一定速度(約20回/分)で回転した。ローテーターから100mlポリプロピレン製容器を外し、室温で1日保持した。その後、液体油、乳化剤および粉末原料の混合組成物の粘度を、25℃、6rpm、30秒、ローターNo.4の条件でB型粘度計(東機産業社製、TVB-10)にて測定した。
【0161】
【表11】
【0162】
(3)結果
結果を図4に示した。この結果から、液体油に乳化剤を溶解した後、当該溶解物中に粉末原料を混合し、品温を25~40℃程度にすることで乳化剤の析出を速やかに行うことができ、ペースト状物が得られる〔前述の工程(d)〕ことがわかった。また、冷却温度として40℃を採用しても、調製されるペースト状物のペースト粘度は安定していることが確認された。
図1
図2
図3
図4