(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】坩堝及びSiC単結晶成長装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220204BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B11/00 C
(21)【出願番号】P 2018085805
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第206418222(CN,U)
【文献】特開平11-268990(JP,A)
【文献】特開2007-231370(JP,A)
【文献】特開2010-076991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶を設置できる蓋と、原料を入れる容器とを備え、
前記容器の前記蓋と対向する底部に、前記蓋に向かって凹む凹部が形成されており、前記凹部は内側加熱手段を設置できる、坩堝
と、
前記坩堝の凹部に設置された内側加熱手段と、
前記坩堝の外側に設置された外側加熱手段と、
前記内側加熱手段を前記坩堝の高さ方向に移動させる移動機構と、を備える、SiC単結晶成長装置。
【請求項2】
前記凹部は前記底部の平面視中央に位置し、前記凹部の平面視形状が円形である、請求項1に記載の
SiC単結晶成長装置。
【請求項3】
前記凹部は前記底部の平面視中央から同心円状の位置にあり、前記凹部の平面視形状が環状である、請求項1に記載の
SiC単結晶成長装置。
【請求項4】
前記内側加熱手段の加熱方式が抵抗加熱である、請求項
1~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝及びSiC単結晶成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、特徴的な特性を有する。例えば、シリコン(Si)と比べて、絶縁破壊電界は1桁大きく、バンドギャップは3倍大きく、熱伝導率は3倍程度高い。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
近年の技術開発に伴い、SiCを用いたSiCデバイスの低価格化が求められている。SiCデバイスは、SiCエピタキシャルウェハを加工して作製される。そのため、SiCエピタキシャルウェハの大口径化、及び、SiCエピタキシャルウェハを得るためのSiC単結晶の大口径化が求められている。
【0004】
SiC単結晶を製造する方法の一つとして、昇華法が広く知られている。昇華法は、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。黒鉛製の坩堝内に配置した台座にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱する。そして坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスが種結晶に供給され、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる。
【0005】
例えば、特許文献1には、大口径のSiC単結晶を得るために、坩堝の内部に棒状のグラファイトを設けることが記載されている。特許文献1には、棒状のグラファイトを熱伝導又は熱輻射により加熱することで、坩堝の中央部と外周部で単結晶の成長速度を安定化させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の坩堝における棒状のグラファイトは、坩堝中央に設けられた原料を充分に加熱することができない。特許文献1には坩堝中央に設けられた棒状のグラファイトを熱伝導により加熱することが記載されている。しかしながら、熱伝導は温度差により生じるものであり、坩堝外周部と中央部の温度差を充分に抑制できない。
【0008】
一方で、棒状のグラファイトを誘導加熱で加熱することも考えられる。しかしながら、コイルによる高周波は坩堝の外周によって吸収される。そのため、高周波により坩堝内部に設けられた棒状のグラファイトを充分に加熱することはできない。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、原料の使用効率を高めることができる坩堝及びSiC単結晶成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、坩堝に凹部を設け、その凹部に内側加熱手段を設けることで、坩堝中央に設置された原料も効率的に昇華させることができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかる坩堝は、種結晶を設置できる蓋と、原料を入れる容器とを備え、前記容器の前記蓋と対向する底部に、前記蓋に向かって凹む凹部が形成されており、前記凹部は内側加熱手段を設置できる。
【0012】
(2)上記態様にかかる坩堝において、前記凹部は前記底部の平面視中央に位置し、前記凹部の平面視形状が円形であってもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかる坩堝において、前記凹部は前記底部の平面視中央から同心円状の位置にあり、前記凹部の平面視形状が環状であってもよい。
【0014】
(4)第2の態様にかかるSiC単結晶成長装置は、上記態様にかかる坩堝と、前記坩堝の凹部に設置された内側加熱手段と、前記坩堝の外側に設置された外側加熱手段と、を備える。
【0015】
(5)上記態様にかかるSiC単結晶成長装置において、前記内側加熱手段を前記坩堝の高さ方向に移動させる移動機構をさらに備えてもよい。
【0016】
(6)上記態様にかかるSiC単結晶成長装置において、前記内側加熱手段の加熱方式が抵抗加熱であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様にかかる坩堝及びSiC単結晶成長装置は、原料の使用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図2】本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置の別の例の断面模式図である。
【
図3】内側加熱手段の形状を模式的に示した図である。
【
図4】内側加熱手段を有さないSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図5】内側加熱手段が坩堝の高さ方向に移動する場合のSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
「SiC単結晶成長装置」
図1は、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
図1に示すSiC単結晶成長装置100は、坩堝10と、内側加熱手段20と、外側加熱手段30と、を備える。
図1では、理解を容易にするために、種結晶Sと原料Gとを同時に図示している。
【0021】
「坩堝」
坩堝10は、昇華法により単結晶を結晶成長させるための坩堝である。坩堝10は、蓋11と容器12とを備える。蓋11は種結晶を設置することができ、容器12は原料Gを保持する。容器12に原料Gを設置し、蓋11に種結晶Sを設置すると、種結晶Sが原料Gに対して対向配置される。原料Gから昇華した原料ガスは、種結晶S上で再結晶化し、単結晶が成長する。
【0022】
坩堝10の容器12の蓋11と対向する底部12Aには、凹部12aが形成されている。凹部12aは、坩堝10の外側から見て、蓋11に向かって凹んでいる。凹部12aは、
図1に示すように内側加熱手段20を収容する。
【0023】
凹部12aは、坩堝10の平面視中央に対して対称に位置することが好ましい。凹部12aに設置される内側加熱手段20により、坩堝10を均等に加熱できる。坩堝10を均等に加熱することで、原料Gを効率的に昇華させることができる。
【0024】
凹部12aを坩堝の平面視中央に対して対称に有する場合の具体例として、以下の例を挙げることができる。第1の例として、凹部12aを坩堝10の平面視中央に設け、凹部12aの平面視形状を円形とする構造が挙げられる。
図1は、第1の例に対応する。また第2の例として、凹部12aを坩堝10の平面視中央から同心円状に設け、凹部12aの平面視形状を環状とする構造が挙げられる。
図2は、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置の別の例の断面模式図であり、第2の例に対応する。
図2に示すSiC単結晶成長装置101は、平面視環状の凹部12bを有し、凹部12b内に内側加熱手段21が収容されている。またこの他、坩堝10の平面視中央から同心円状の位置に、柱状の凹部が点在する構成でもよい。
【0025】
「内側加熱手段」
内側加熱手段20は、坩堝10の凹部12aに収容される。内側加熱手段20は、坩堝10の内部から原料Gを加熱する。
【0026】
内側加熱手段20は、公知の加熱方式を採用できる。例えば、加熱方式として抵抗加熱、誘導加熱等が挙げられる。内側加熱手段は、抵抗加熱方式であることが好ましい。内側加熱手段20が抵抗加熱方式の場合、内側加熱手段20を外部の電流源と接続するだけでよい。すなわち、SiC単結晶成長装置100の構成が複雑化することが防げる。
【0027】
内側加熱手段20が誘導加熱方式の場合は、内側加熱手段20はコイル等の高周波発生源を有する必要がある。SiC単結晶を成長させる場合は、断熱材等で高周波発生源を被覆する。断熱材で高周波発生源を被覆することで、SiC単結晶を成長させる高温の温度環境下でも、高周波発生源の溶融を防ぐことができる。
【0028】
内側加熱手段20の形状は、凹部12a、12b内に収容できれば特に問わないが、凹部12a、12bの形状にあわせて設定することが好ましい。
図3は、内側加熱手段の形状を模式的に示した図である。凹部12aが平面視円形の場合(
図1)は、
図3(a)に示す内側加熱手段20を用いることができ、凹部12bが平面視円環形の場合(
図2)は、
図3(b)に示す内側加熱手段21や、
図3(c)に示す内側加熱手段22を用いることができる。
【0029】
また内側加熱手段20は、坩堝10の高さ方向に移動できる移動機構をさらに有してもよい。内側加熱手段20を坩堝10の高さ方向に移動できるようにすることで、原料Gが昇華しにくい部分を重点的に加熱することができる。内側加熱手段20を移動させる移動機構は、特に問わない。例えば、内側加熱手段20を高さ方向に上下動させるリフト等を用いることができる。
【0030】
「外側加熱手段」
外側加熱手段30は、公知の加熱方式を採用できる。例えば、加熱方式として抵抗加熱、誘導加熱等が挙げられる。
図1に示す外側加熱手段30は、コイル31と、コイル31から発生する高周波を受けて発熱するヒータ32とを備える。
図1に示す外側加熱手段30は、コイル31に電流を流し、ヒータ32を誘導加熱する誘導加熱方式の加熱手段である。
【0031】
ここまで、SiC単結晶成長装置の構成について具体的について説明した。次いで、SiC単結晶成長装置の作用について説明する。
【0032】
図4は、内側加熱手段を有さないSiC単結晶成長装置102の断面模式図である。
図4に示すSiC単結晶成長装置102は、内側加熱手段20及び内側加熱手段20を設置するための凹部12aが設けられていない点が、
図1に示すSiC単結晶成長装置100と異なる。
図3において、
図1と同一の構成については同一の符号を付している。
【0033】
図4に示す坩堝10’は、外側加熱手段30により加熱される。つまり、坩堝10’の中央部は、外周部と比較して相対的に低温になる。そのため、坩堝10’の中央部に設置された原料Gは昇華しにくくなる。
【0034】
この傾向は、種結晶S上に結晶成長する単結晶の口径が大きくなるに従い、顕著になる。単結晶の口径が3インチから4インチ程度の場合は、坩堝10’の直径もそれほど大きくないため、坩堝10’内に温度差が生じていても中央部の原料Gを昇華させることはできる。これに対し、単結晶の口径が6インチを超えると、坩堝10’の直径が大きくなり、中央部を充分加熱できなくなる。すなわち、中央部の原料Gが昇華しなくなり、原料Gを効率的に単結晶の成長に利用することができない。
【0035】
またこの傾向は、原料Gを昇華させるために必要な温度が高温になるに従い、顕著になる。例えば、原料GがSiCの場合、原料Gを昇華させるために2000℃を超える温度が必要になる。そのため、加熱されている部分と加熱されていない部分との温度差が大きくなりやすい。
【0036】
これに対し、
図1に示すように本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置100は、内側加熱手段20と外側加熱手段30とによって坩堝10を加熱する。坩堝10は外周側からと中央部側から加熱されるため、坩堝10の外周部と中央部との温度差が低減する。また内側加熱手段20は、外側加熱手段30とは独立で加熱される。すなわち、内側加熱手段20による加熱が不十分となることもない。
【0037】
上述のように、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置100によれば、坩堝10の中央部も充分加熱することができ、坩堝10の中央部に設置された原料Gも昇華させることができる。すなわち、坩堝10内に設置された原料Gを漏れなく効率的に利用できる。
【0038】
また
図5は、内側加熱手段20が坩堝10の高さ方向に移動する場合のSiC単結晶成長装置103の断面模式図である。
図5に示すように、内側加熱手段20の高さ方向の厚みが、凹部12aの深さよりも小さい場合、原料G内で原料の一部が焼結し、原料焼結部Gsが形成される場合がある。この場合でも、内側加熱手段20を原料焼結部Gsが形成される部分に移動させることで、原料焼結部Gsの原料も効率的に昇華させることができる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0040】
例えば、
図1、
図2、
図5において、原料Gは凹部によって坩堝内に形成された溝部内に収容されている。原料Gは、必ずしも溝部内に収容されている必要はない。例えば、原料Gの最表面が、溝部の蓋部側の一端より高い位置に存在してもよい。
【符号の説明】
【0041】
10,10’…坩堝、11…蓋、12…容器、12A…底部、12a,12b…凹部、20,21,22…内側加熱手段、30…外側加熱手段、31…コイル、32…ヒータ、100,101,102,103…SiC単結晶成長装置、S…種結晶、G…原料