(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】原子炉制御棒位置指示システム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/10 20060101AFI20220204BHJP
【FI】
G21C17/10 710
(21)【出願番号】P 2018532368
(86)(22)【出願日】2017-01-10
(86)【国際出願番号】 US2017012782
(87)【国際公開番号】W WO2017123510
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-12-10
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】カルバハル、ジョージ、ブイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(72)【発明者】
【氏名】アーリア、ニコラ、ジー
(72)【発明者】
【氏名】フラマング、ロバート、ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】スミーゴ、デヴィッド、エム
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス、マイケル、エー
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター、メリッサ、エム
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-109889(JP,A)
【文献】特開昭54-140095(JP,A)
【文献】特開昭57-148292(JP,A)
【文献】米国特許第04486382(US,A)
【文献】特開昭47-043696(JP,A)
【文献】特開昭56-070494(JP,A)
【文献】特開平08-170997(JP,A)
【文献】米国特許第04623507(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
G21C 7/16
G21C 7/08
G21C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力バウンダリ内に核分裂反応が起こる炉心(28)を収容する原子炉容器(10)と、核分裂反応を制御するための制御棒システムとを有する原子炉システムであって、当該制御棒システムは、
音波を伝播させる冷却材中を移動し、当該炉心(28)に出入りして、当該核分裂反応を制御するように構成された制御棒(30)と、
当該制御棒(30)を駆動して当該炉心(28)に出入りさせるための駆動システム(32)と、
制御棒位置監視システムとより成り、
当該制御棒位置監視システムは、
一連のソナーパルスを発生するように構成されたソナーパルス発生器(34)、
当該圧力バウンダリ内の当該制御棒(30)の行程の上限より上方の位置に固定され、当該ソナーパルス発生器(34)が発生するソナーパルスを受信し、当該ソナーパルスを当該制御棒の上部に向けて発信し、当該制御棒からの反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を当該圧力バウンダリの外側の当該アンテナから離隔した所定の位置へ送信するように構成されたアンテナ(36)、および
当該アンテナ(36)から離隔した所定の位置にあり、当該反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を解析して制御棒位置を突き止めるように構成された処理装置(20)へ当該反射ソナー信号を送信するように構成された受信機(34)を有するものであり、
当該制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器(34)およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機(34)を含む冗長制御棒位置監視システムから成る原子炉システム。
【請求項2】
前記ソナーパルス発生器(34)は、前記冷却材の外に支持され、一連のソナーパルスを前記アンテナ(36)に向けて無線発信することを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項3】
前記アンテナ(36)は前記反射ソナー信号を前記受信機(34)に向けて無線送信することを特徴とする、請求項2の原子炉システム。
【請求項4】
前記反射ソナー信号は超音波信号である、請求項1の原子炉システム。
【請求項5】
前記ソナーパルス発生器(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子より成る、請求項1の原子炉システム。
【請求項6】
前記ソナーパルス発生器(34)および前記受信機(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子のトランシーバーを構成する、請求項1の原子炉システム。
【請求項7】
前記制御棒(30)は複数の独立可動型制御棒から成り、当該独立可動型制御棒はそれぞれ対応する制御棒位置監視システムを有し、それぞれの当該独立可動型制御棒位置監視システムの前記ソナーパルスは固有の周波数を有することを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項8】
前記ソナーパルスの周波数はそれぞれ、前記原子炉システム内の電磁ノイズのいかなる周波数とも異なることを特徴とする、請求項7の原子炉システム。
【請求項9】
明確に分離した2つのアンテナ(36)を含む、請求項1の原子炉システム。
【請求項10】
前記2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは、実質的に同じ周波数で発信されることを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項11】
前記2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは明確に異なる周波数で発信されることを特徴とする、請求項1の原子炉システム。
【請求項12】
前記アンテナ(36)はセラミックアンテナである、請求項1の原子炉システム。
【請求項13】
圧力バウンダリ内に核分裂反応が起こる炉心(28)を収容する原子炉容器(10)と、核分裂反応を制御するための制御棒システムとを有する原子炉システムであって、当該制御棒システムは、
音波を伝播させる冷却材中を移動し、当該炉心(28)に出入りして、当該核分裂反応を制御するように構成された制御棒(30)と、
当該制御棒(30)を駆動して当該炉心(28)に出入りさせるための駆動システム(32)と、
制御棒位置監視システムとより成り、
当該制御棒位置監視システムは、
一連のソナーパルスを発生するように構成されたソナーパルス発生器(34)、
当該圧力バウンダリ内の当該制御棒(30)の行程の上限より上方の位置に固定され、当該ソナーパルス発生器(34)が発生するソナーパルスを受信し、当該ソナーパルスを当該制御棒の上部に向けて発信し、当該制御棒からの反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を当該圧力バウンダリの外側の当該アンテナから離隔した所定の位置へ送信するように構成されたアンテナ(36)、および
当該アンテナ(36)から離隔した所定の位置にあり、当該反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を解析して制御棒位置を突き止めるように構成された処理装置(20)へ当該反射ソナー信号を送信するように構成された受信機(34)を有するものであり、
当該制御棒(30)は、制御棒駆動軸(32)と、当該制御棒駆動軸の行程の上部を取り囲む制御棒駆動軸ハウジング(26)とを含み、当該アンテナ(36)が当該制御棒駆動軸ハウジングの内部に支持されており、
当該ソナーパルス発生器および当該受信機(34)の通電に必要な電力が、温接点が当該制御棒駆動軸ハウジング(26)に取り付けられ、冷接点が当該温接点の反対側の当該制御棒駆動軸ハウジングから離れた位置に取り付けられた熱電発電装置(40、48)によって供給されることを特徴とする、原子炉システム。
【請求項14】
圧力バウンダリ内に核分裂反応が起こる炉心(28)を収容する原子炉容器(10)と、核分裂反応を制御するための制御棒システムとを有する原子炉システムであって、当該制御棒システムは、
音波を伝播させる冷却材中を移動し、当該炉心(28)に出入りして、当該核分裂反応を制御するように構成された制御棒(30)と、
当該制御棒(30)を駆動して当該炉心(28)に出入りさせるための駆動システム(32)と、
制御棒位置監視システムとより成り、
当該制御棒位置監視システムは、
一連のソナーパルスを発生するように構成されたソナーパルス発生器(34)、
当該圧力バウンダリ内の当該制御棒(30)の行程の上限より上方の位置に固定され、当該ソナーパルス発生器(34)が発生するソナーパルスを受信し、当該ソナーパルスを当該制御棒の上部に向けて発信し、当該制御棒からの反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を当該圧力バウンダリの外側の当該アンテナから離隔した所定の位置へ送信するように構成されたアンテナ(36)、および
当該アンテナ(36)から離隔した所定の位置にあり、当該反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を解析して制御棒位置を突き止めるように構成された処理装置(20)へ当該反射ソナー信号を送信するように構成された受信機(34)を有するものであり、
当該制御棒(30)は、制御棒駆動軸(32)と、当該制御棒駆動軸の行程の上部を取り囲む制御棒駆動軸ハウジング(26)とを含み、当該アンテナ(36)が当該制御棒駆動軸ハウジングの内部に支持されており、
当該一連のソナーパルスのうちの1つの原ソナーパルスと当該反射ソナー信号のうちの対応する1つの信号とを振幅および位相を含めて受信し、当該1つの原ソナーパルスおよび当該1つの反射ソナー信号を演算処理のため信号処理基地局(52)へ送信するデータ送信器(38)を含むことを特徴とする、原子炉システム。
【請求項15】
前記データ送信器(38)は無線データ送信器である、請求項14の原子炉システム。
【請求項16】
前記制御棒駆動軸ハウジング(26)内の温度を監視し、当該温度を前記データ送信器(38)に送信するよう動作可能な温度センサ(70)を含み、前記データ送信器(38)は当該温度を前記信号処理基地局(52)に送信するように動作可能であることを特徴とする、請求項14の原子炉システム。
【請求項17】
前記温度センサ(70)は、前記制御棒駆動軸ハウジング(26)に沿って離隔する複数の温度センサから成ることを特徴とする、請求項16の原子炉システム。
【請求項18】
前記信号処理基地局(52)は、前記原ソナーパルス(58)および前記反射ソナー信号(60)の飛行時間を突き止め、その結果を前記温度(70)に基づいて補正するように構成されていることを特徴とする、請求項16の原子炉システム。
【請求項19】
前記ソナーパルス発生器(34)は、前記冷却材の外に支持され、一連のソナーパルスを前記アンテナ(36)に向けて無線発信することを特徴とする、請求項13の原子炉システム。
【請求項20】
前記アンテナ(36)は前記反射ソナー信号を前記受信機(34)に向けて無線送信することを特徴とする、請求項19の原子炉システム。
【請求項21】
前記反射ソナー信号は超音波信号である、請求項13の原子炉システム。
【請求項22】
前記ソナーパルス発生器(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子より成る、請求項13の原子炉システム。
【請求項23】
前記ソナーパルス発生器(34)および前記受信機(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子のトランシーバーを構成する、請求項13の原子炉システム。
【請求項24】
前記制御棒(30)は複数の独立可動型制御棒から成り、当該独立可動型制御棒はそれぞれ対応する制御棒位置監視システムを有し、それぞれの当該独立可動型制御棒位置監視システムの前記ソナーパルスは固有の周波数を有することを特徴とする、請求項13の原子炉システム。
【請求項25】
前記ソナーパルスの周波数はそれぞれ、前記原子炉システム内の電磁ノイズのいかなる周波数とも異なることを特徴とする、請求項24の原子炉システム。
【請求項26】
明確に分離した2つのアンテナ(36)を含む、請求項13の原子炉システム。
【請求項27】
前記制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器(34)およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機(34)を含む冗長制御棒位置監視システムから成り、当該2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは、実質的に同じ周波数で発信されることを特徴とする、請求項13の原子炉システム。
【請求項28】
前記制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器(34)およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機(34)を含む冗長制御棒位置監視システムから成り、当該2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは明確に異なる周波数で発信されることを特徴とする、請求項13の原子炉システム。
【請求項29】
前記アンテナ(36)はセラミックアンテナである、請求項13の原子炉システム。
【請求項30】
前記ソナーパルス発生器(34)は、前記冷却材の外に支持され、一連のソナーパルスを前記アンテナ(36)に向けて無線発信することを特徴とする、請求項14の原子炉システム。
【請求項31】
前記アンテナ(36)は前記反射ソナー信号を前記受信機(34)に向けて無線送信することを特徴とする、請求項30の原子炉システム。
【請求項32】
前記反射ソナー信号は超音波信号である、請求項14の原子炉システム。
【請求項33】
前記ソナーパルス発生器(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子より成る、請求項14の原子炉システム。
【請求項34】
前記ソナーパルス発生器(34)および前記受信機(34)は真空マイクロエレクトロニクス素子のトランシーバーを構成する、請求項14の原子炉システム。
【請求項35】
前記制御棒(30)は複数の独立可動型制御棒から成り、当該独立可動型制御棒はそれぞれ対応する制御棒位置監視システムを有し、それぞれの当該独立可動型制御棒位置監視システムの前記ソナーパルスは固有の周波数を有することを特徴とする、請求項14の原子炉システム。
【請求項36】
前記ソナーパルスの周波数はそれぞれ、前記原子炉システム内の電磁ノイズのいかなる周波数とも異なることを特徴とする、請求項35の原子炉システム。
【請求項37】
明確に分離した2つのアンテナ(36)を含む、請求項14の原子炉システム。
【請求項38】
前記制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器(34)およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機(34)を含む冗長制御棒位置監視システムから成り、当該2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは、実質的に同じ周波数で発信されることを特徴とする、請求項14の原子炉システム。
【請求項39】
前記制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器(34)およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機(34)を含む冗長制御棒位置監視システムから成り、当該2つの別個のソナーパルス発生器(34)から発信される前記ソナーパルスは明確に異なる周波数で発信されることを特徴とする、請求項14の原子炉システム。
【請求項40】
前記アンテナ(36)はセラミックアンテナである、請求項14の原子炉システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、ここに参照して援用する2016年1月15日提出の米国特許出願第14/996,439号の利益を主張する。
本発明は概して原子炉制御棒位置指示システムに関し、具体的には、パルスソナーを用いて制御棒の位置を突き止める制御棒位置指示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
制御棒位置指示システムは、制御棒駆動軸の位置を直接測定することによって制御棒の軸方向位置を突き止める。加圧水型原子炉では、現在、アナログ式制御棒位置指示システムとデジタル式制御棒位置指示システムの両方が使用されている。従来のデジタル式制御棒位置指示システムは、世界各地の原子力発電所で30年以上にわたって供用されているが、これは現在、ペンシルベニア州クランベリー郡区に所在のウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニーLLCが提案する新型原子炉AP1000(登録商標)の制御棒位置指示システムの原型である。
【0003】
図1に示すような従来の加圧水型原子炉制御棒位置指示システムでは、核反応を制御するために原子炉容器10内の炉心28に制御棒30が挿入されたり引き抜かれたりする。制御棒30は、典型的な構成として、スパイダにひとまとめに連結され、駆動軸によって炉心に出し入れされる。当該駆動軸は、制御棒駆動機構(CRDM)により作動されると、圧力ハウジング26内をステップ状に移動する。炉心28内の制御棒30の相対的位置は、駆動軸位置指示器12によって突き止められる。
【0004】
図1に示すような従来のデジタル式制御棒位置指示システムは、各制御棒駆動軸につき2個のコイルスタック12と、当該コイルスタックからの信号を処理するデジタル式制御棒位置指示電子装置14、20とを含む。各コイルスタック12は、圧力ハウジング26上に設置された独立のコイルチャンネルを構成し、各チャンネルは21個のコイルから成る。コイルは、3.75インチ(9.53cm)(6ステップ)の間隔で交互に配列されている。制御棒駆動軸のコイルスタック毎に設けられるデジタル式制御棒位置指示電子装置は、一対の冗長なデータキャビネット14A、14B内に配置される。従来のデジタル式制御棒位置指示システムは制御棒位置をそれぞれ独立に確認する設計であるが、その精度は6ステップ未満になり得ない。デジタル式制御棒位置指示システムの総合精度は、両方のチャンネルが機能するときは±3.75インチ(9.53cm)(6ステップ)、単一のチャンネルを用いるときは±7.5インチ(19.1cm)(12ステップ)と考えられる。従来のアナログ式制御棒位置指示システムは、従来のデジタル式制御棒位置指示システムとは対照的に、コイルスタック線形可変差動変圧器の直流出力電圧の振幅に基づいて制御棒の位置を突き止める。適切に校正されたアナログ式制御棒位置指示システムの総合精度は、±7.2インチ(18.3cm)(12ステップ)と考えられる。従来のアナログ式およびデジタル式制御棒位置指示システムのいずれも、制御棒の実際位置を突き止める能力はない。
【0005】
本願で使用する「制御棒」という用語は、一般的に、例えば一群の制御棒が物理的に連結された制御棒クラスタのような、独自の軸方向位置情報を有する一つのユニットを意味する。制御棒の数は、プラントの設計によって異なる。例えば、典型的な4ループ加圧水型原子炉は53本の制御棒を有する。各制御棒は、1つ以上のチャンネルを有する独自のコイルセットと、デジタル式システムの場合、各チャンネルに付随するデジタル式制御棒位置指示電子装置とを必要とする。したがって、典型的な4ループ加圧水型原子炉のデジタル式制御棒位置指示システムは、全体で、それぞれが2系統の独立チャンネルを有する53個のコイルスタックと、106台のデジタル式制御棒位置指示電子装置とを具備する。
【0006】
既存の制御棒位置指示システムの駆動軸位置検出器12から制御棒位置指示電子装置キャビネット14までの接続、および制御棒位置指示電子装置キャビネット14から表示キャビネット20までの接続は実配線による。アナログ式制御棒位置指示システムは、格納容器の外に配置された制御棒位置指示電子装置キャビネットを使用するが、デジタル式制御棒位置指示システムの制御棒位置指示電子装置キャビネットは格納容器の中に配置されている。運転停止時に、原子炉容器蓋体を取り外して燃料棒を交換する。蓋体を取り外すには、すべての駆動軸位置指示検出器12の配線を外す必要があり、この作業は一体型蓋体パッケージの有無次第だが数日かかることがある。一体型蓋体を使用していても、このプロセスは丸1日かかる可能性がある。すべてのケーブルを外す作業を手際よくするとしても、ケーブル集合体には応力と摩耗が生じる。このため、接続不良の問題が起こり、最終的に制御棒の位置測定に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
現在、デジタル式の制御棒位置の指示は、原子炉容器蓋体の上方にある駆動軸行程ハウジング26の外側に同心的に取り付けられた検出器(AP1000(登録商標)プラントでは合計69体の検出器集合体)によって行われている。これらの検出器は、管体の上に長手方向に3.75インチ(9.53cm)の間隔でワイヤを巻回したコイルから成る。この管体は、駆動軸行程ハウジング上に嵌合する。駆動軸がコイル内を移動すると、コイルから出る磁束が変化し、この磁束変化を信号処理ハードウェアが処理して、駆動軸の位置を測定し通報する。
【0008】
各検出器集合体は、駆動軸行程ハウジング上に位置する管体を必要とする。各検出器集合体を構成する48個の検出器コイルはそれぞれ、電磁場の発生に必要な交流電力を供給する数本のケーブル集合体を必要とする。これらのコイルには、2つの信号処理キャビネットも必要である。最終的に、検出器の分解能は、コイル間の磁場の相互作用のため、±3.125インチ(7.938cm)が限度である。この限度のため、システムは、5/8インチ(1.59cm)という単一ステップに相当する精度を達成することができない。そのため、システムが提供する位置情報は5つのステップから成る群に限定され、これがプラントの安全裕度に不要な保守性をもたらすことになる。
【0009】
したがって、燃料交換のための運転停止時により高い精度および効率を実現できる新しい制御棒位置指示システムが望まれる。
【発明の概要】
【0010】
上記およびその他の目的は、圧力バウンダリ内に核分裂反応が起こる炉心を収容する原子炉容器と、核分裂反応を制御するための制御棒システムとを有する原子炉システムによって達成される。当該制御棒システムは、音波を伝播させる冷却材中を移動し、当該炉心に出入りして、当該核分裂反応を制御するように構成された制御棒を含む。当該制御棒システムはさらに、当該制御棒を駆動して当該炉心に出入りさせるように構成された駆動システムと、制御棒位置監視システムとを含む。当該制御棒位置監視システムは、一連のソナーパルスを発生するように構成されたソナーパルス発生器を含む。この制御棒位置監視システムはさらに、当該圧力バウンダリ内の当該制御棒の行程の上限より上方の位置に固定され、当該ソナーパルス発生器が発生するソナーパルスを受信し、当該ソナーパルスを当該制御棒の上部に向けて発信し、当該制御棒からの反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を当該圧力バウンダリの外側の当該アンテナから離隔した所定の位置へ送信するように構成されたたアンテナを含む。この制御棒位置監視システムはさらに、当該アンテナから離隔した所定の位置にあり、当該反射ソナー信号を受信し、当該反射ソナー信号を解析して制御棒位置を突き止めるように構成された処理装置へ当該反射ソナー信号を送信するように構成された受信機を含む。
【0011】
一実施態様において、当該冷却材の外に支持された当該ソナーパルス発生器は、当該一連のソナーパルスを当該アンテナに無線送信し、当該アンテナは当該反射ソナー信号を当該受信機に無線送信する。当該ソナー信号は超音波信号であり、当該ソナーパルス発生器は真空マイクロエレクトロニクス素子により構成するのが好ましい。当該ソナーパルス発生器および当該受信機は、真空マイクロエレクトロニクス素子より成るトランシーバであるのが望ましい。当該制御棒は通例、複数の独立可動型制御棒から成り、当該独立可動型制御棒はそれぞれ対応する制御棒位置監視システムを有する。本発明の一実施態様によると、それぞれの当該独立可動型制御棒位置監視システムの当該ソナーパルスは固有の周波数を有する。当該ソナーパルスの周波数はそれぞれ、当該原子炉システム内の電磁ノイズのいかなる周波数とも異なるのが好ましい。
【0012】
さらに別の実施態様において、当該制御棒位置監視システムは、それぞれ独立する2つの別個のソナーパルス発生器およびそれぞれ独立する2つの別個の受信機を含む冗長制御棒位置監視システムを含む。この冗長制御棒位置監視システムは、明確に分離した2つのアンテナを含んでもよい。そのような実施態様の一事例では、当該2つの別個のソナーパルス発生器から発信される当該ソナーパルスは実質的に同じ周波数で発信される。さらにその別の事例では、当該2つの別個のソナーパルス発生器から発信される当該ソナーパルスは、明確に異なる周波数で発信される。当該アンテナはセラミックアンテナであるのが好ましい。
【0013】
さらに別の実施態様において、当該制御棒は制御棒駆動軸と、当該制御棒駆動軸の行程の上部を取り囲む制御棒駆動軸ハウジングとを含むが、当該制御棒駆動軸ハウジングの内部には当該アンテナが支持されている。当該ソナーパルス発生器および当該受信機の通電に必要な電力は、温接点が当該制御棒駆動軸ハウジングに取り付けられ、冷接点が当該温接点の反対側の当該制御棒駆動軸ハウジングから離れた位置に取り付けられた熱電発電装置によって供給するのが好ましい。
【0014】
当該システムは、当該一連のソナーパルスのうちの1つの原ソナーパルスと、当該反射ソナー信号のうちの対応する1つの信号とを振幅および位相を含めて受信し、当該1つの原ソナーパルスおよび当該1つの反射ソナー信号を演算処理のため信号処理基地局へ送信するデータ送信器も含む。当該データ送信器は無線データ送信器であるのが好ましい。当該システムはまた、当該制御棒駆動軸ハウジング内の温度を監視し、当該温度を前記データ送信器に送信するよう動作可能な温度センサを含む。当該温度センサは、当該制御棒駆動軸ハウジングに沿って離隔する複数の温度センサから成るのが望ましい。当該信号処理基地局は、当該1つの原ソナーパルスおよび当該1つの反射ソナー信号の飛行時間を突き止め、その結果を当該温度に基づいて補正するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0016】
【
図1】従来のデジタル式制御棒位置指示システムの概略図である。
【0017】
【
図2】本発明の好ましい実施態様を略示するシステム配置図である。
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施態様を
図2に示す。本発明は、真空マイクロエレクトロニクス素子により構成されるパルスソナー・トランシーバ34、44(送信器/受信機)を使用する。真空マイクロエレクトロニクス素子のパルスソナー・トランシーバは、放射線と温度に対する耐性があり、現行のシステムに比べて有意に高い精度で制御棒の位置を指示することができる。カリフォルニア州エメリービルのInnosys社が提供する市販のSSVDのような真空マイクロエレクトロニクス素子は、この目的に好適である。真空マイクロエレクトロニクス素子については、米国特許第7,005,783号に説明がある。既存の磁気コイル12の代わりに、ビーム幅が約2度と非常に狭く、セラミックベースで、小型且つ冗長構成の一次アンテナ36を用いるが、このアンテナは各制御棒駆動軸ハウジング26の内部に支持される。各制御棒駆動軸ハウジング26は冗長構成の一次ハードウェアセットを具備し、このハードウェアセットは干渉を避けるために独自の周波数で制御棒位置データを無線送信する。
図2の右側に示す一次ハードウェアは、真空マイクロエレクトロニクス素子の一次パルスソナー・トランシーバ34と、真空マイクロエレクトロニクス素子の一次データ送信器38と、温接点がヒートパイプ42を介して制御棒駆動軸ハウジング26に結合された熱電発電装置40とから成る。
図2の左側に示す冗長ハードウェアは、真空マイクロエレクトロニクス素子の冗長パルスソナー・トランシーバ44と、真空マイクロエレクトロニクス素子の冗長データ送信器46と、温接点がヒートパイプ50を介して駆動軸ハウジング26に結合された熱電発電装置48とから成る。ハードウェアの設置に先立ち、ノイズや干渉発生源がないのを確かめるための電磁干渉実地調査を行う。データの無線送信周波数として、駆動軸ハウジングの場所で未使用の周波数帯域中の周波数を選ぶ。受信した測定信号を必要に応じてフィルターにかけることにより、送信信号の精度に影響を与える電気的干渉や関連する他の問題を極力抑えるようにする。パルスソナー・トランシーバ34、44および無線データ送信器38、46が必要とする直流電力は1つ以上の熱電発電装置40、48から取り出すが、当該熱電発電装置の温接点はヒートパイプ42、50を介して駆動軸行程ハウジング26に結合され、冷接点は当該熱電発電装置の反対側にある。なお、トランシーバ34、44および無線データ送信器38、46は、必要であれば従来型ケーブルにより給電してもよい。また必要であれば、従来型フィールドケーブルでデータを送信することもできる。
【0020】
図3は、本発明のシステムの概略図である。このシステムは、飛行時間・位相差・振幅変化法を用いて制御棒の正確な位置を突き止める。飛行時間の集計は、パルス送信器34、44からの信号が発生源へ戻るまでに要する時間を測定することによって行う。このシステムは、
図3に示すように、パルス繰り返し周波数オシレータ54およびパルス送信器56から成るパルス発生器を含み、当該パルス発生器から既知で所定の時間に発信されるパルスが制御棒32の最上部で反射してアンテナ36に戻ったエコー60を、信号処理のために基地局52に送信する構成である。パルス送信器56が駆動軸行程ハウジング26内へ信号58を発信すると、この同じ信号は結合により分岐されて整流ダイオード68へ送られ、DC信号に変換されて、比較器64により基準電圧62と比較される。送信信号が存在すれば、比較器の出力は高くなり、リレーコイルK1が通電されて、常閉接点K1Aが開き、常開接点K1Bが閉じる。受信されたエコー60は、K1Aが開いているためパルス送信器に入れず、唯一の経路として、K1Bを通り増幅器66および無線データ送信器38に入る。パルス送信器の出力を継続的に分割し、周波数スペクトル情報として無線データ送信器に提供することにより、原信号の位相および振幅はシステムにとって既知となる。無線データ送信器は、この生の原信号(振幅と位相を含む)と制御棒で反射した戻り信号とを、さらなる演算処理のため信号処理基地局52へ送信する。飛行時間の測定については、冷却材中の音速が温度の影響を受けるため、一定の音速を仮定しない。このため、システムの一部として、一連の熱電対70を制御棒駆動軸行程ハウジング26に沿って離隔配置して、音速を温度に基づいて調整する。本発明で要求される精度を実現するために、このシステムは、制御棒駆動軸行程ハウジング26内の冷却材の水面下において、当該ハウジングの長手方向のさまざまな高さに配置された複数の熱電対を含む。駆動軸が動くと、これらの熱電対を通じてシステムが冷却材温度の急な変化を検知し、その情報を基地局52に送信して、温度変化に応じた信号の補正を行う。
【0021】
典型的な加圧水型原子炉は、2,220psig(15.3メガパスカル)および華氏626度(摂氏330度)で運転される。N.BilaniukおよびG.S.K.Wongのモデル(N.Bilaniuk and G.S.K.Wong(1993)「Speed of sound in pure water as a function of temperature」J.Acoust.Soc.Am.93(3),pp 1609-1612、およびその誤記を訂正したN.Bilaniuk and G.S.K.Wong(1996)「Erratum:Speed of sound in pure water as a function of temperature[J.Acoust.Soc.Am.93(3),1609-1612(1993)」J.Acoust.Soc.Am.99(5),p 3257)によると、華氏212度(摂氏100度)の水中における音速はc=5,062フィート/秒である。信号の往復時間は次式から計算できる。
【数1】
ここに、dは制御棒駆動軸の最上部までの距離であり、cは特定温度における水中の音速である。制御棒が完全に引き抜かれたときトランシーバのアンテナが制御棒駆動軸の上方約1フィートの位置にあり、制御棒が移動できる全距離が16フィートであると仮定すると、上式に基づいて、往復時間は次のようになる。
t(1フィート)=0.395ミリ秒
t(17フィート)=6.672ミリ秒
制御棒が、完全に引き抜かれた位置から1ステップ(5/8インチ(1.59cm))動くと、往復時間は次のようになる。
t=414.86マイクロ秒
5/8インチ(1.59cm)の移動に対する受信信号のデルタ値は19.75マイクロ秒である。これは、飛行時間を計算する上で最も要求が厳しいケースであるが、処理基地局において1MHzクロックを用いれば容易に対応できる。前述のように、駆動軸の位置を突き止めるために受信信号の位相および振幅情報も用いる。位相と振幅もまた駆動軸の移動に比例して変化し、誤差補正項として使用される。このシステムの推定精度は±0.4インチであり、これは現行のシステムより7倍高い精度である。
【0022】
したがって、このシステムは、主として制御棒駆動機構のステップ精度によって制限される精度を改善し、それにより、現行の安全裕度に組み込まれる保守性を実質的にゼロにする。先行技術に基づく現行システムの精度は±3.125インチである。本発明のシステムの精度は、0.625インチという駆動軸の最小移動量によってのみ制限される。本発明による安全裕度の改善は、その思想を利用する原子炉が、従来技術を利用した同様の原子炉よりも多量の電力を生産できることを意味する。冗長センサは、半分の精度でなくてこの設計と同等の精度を提供する。設置時の初期校正のみが必要となり、駆動軸行程ハウジング内および隣接する駆動軸行程ハウジングとの間のセンサの相互作用の問題が解消される。このシステムはさらに、信号ケーブルと給電ケーブルとを不要にすることにより、運転停止時の燃料交換作業をより効率的に行えるようにする。本発明の制御棒位置監視システムはまた、現行システムよりも実質的に改善された精度を提供する。さらには、駆動軸を強磁性体にする必要がなくなる。
【0023】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明したが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替を想到できるであろう。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含するものである。