(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】二層タイプの発酵乳製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20220204BHJP
【FI】
A23C9/12
(21)【出願番号】P 2018554192
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2017042801
(87)【国際公開番号】W WO2018101326
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2016232400
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】長岡 誠二
(72)【発明者】
【氏名】宮内 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋史
(72)【発明者】
【氏名】神谷 哲
(72)【発明者】
【氏名】北條 研一
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161237(JP,A)
【文献】特開2000-069918(JP,A)
【文献】特開2017-060449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-9/20
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵乳を濃縮して、濃縮後の発酵乳を得る濃縮工程と、
濃縮後の
前記発酵乳を冷却し、
15℃以下の温度で
1時間以上貯液することで粘度を
1,000cp以上増加させ
、8,000cp以上の粘度を有する発酵乳
を得る貯液工程と、
前記貯液工程で得た前記発酵乳を、15℃以下の充填温度で容器内に充填した後、充填後の前記発酵乳の上に、果肉・果汁を含むソースを充填して、前記発酵乳の上に前記ソースが積層されて前記容器内に収容されている二層タイプの発酵乳製品を得る充填工程、
を含む二層タイプの発酵乳製品の製造方法。
【請求項2】
前記濃縮工程における前記発酵乳の濃縮にセパレーター又はUF膜が用いられる請求項1記載の
二層タイプの発酵乳製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮発酵乳とその製造方法、特に、粘度が高められた濃縮発酵乳とその製造方法に関する。また、この発明は、二層タイプの発酵乳製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濃縮発酵乳の粘度を高める方法としては、従来から、(1)乳固形分を高める方法や、(2)安定剤を用いる方法が知られている。
しかし、(1)乳固形分を高める方法では、ざらつきが生じたり、コストが増加することが課題になる。また、(2)安定剤を用いた場合は、濃縮発酵乳本来の自然な食感が失われることが問題になる。
【0003】
一般的な濃縮発酵乳の製造方法として、40℃にて限外濾過膜(UF膜)で発酵乳を濃縮した後、20℃で容器に充填して5℃に冷却する提案が行われたこともある(非特許文献1)。
また、タンクで発酵した後に冷却・スムージングを行い、容器に充填する撹拌型発酵乳の製造法が提案されたこともある(非特許文献2)。この文献では、充填温度が高いと、冷却後の発酵乳の粘度が高くなることが示されており、一般的には20℃前後の温度で充填し、その後急速冷却し10℃以下まで冷却することが望ましい旨の記述がある。
しかし、20℃前後の温度で、又はそれ以上の温度で充填を行う場合、冷却後の粘度に比べて充填直後の発酵乳の粘度は極めて低いという特徴がある。
【0004】
なお、前記の他に、最終製品での粘度低下を抑制する方法として、非特許文献2には、製造工程中のせん断を抑え、適度な温度と時間で発酵後のヨーグルトを処理すると、製品粘度が高くなる旨の報告がされている。
【0005】
粘度が高められた濃縮発酵乳については、粘度が高められていることを利用して二層タイプの発酵乳製品にすることが考えられる。
二層タイプの発酵乳製品を製造するに際して発酵乳層と食品層の境界面を維持するために、発酵乳層と食品層の両方に、LMペクチン及びゼラチンといったゲル化剤を添加することが知られている(特許文献1)。
しかしながら、ゲル化剤を使用すると、乳の風味が損なわれて製品全体としての価値が低下するという問題がある。
【0006】
また、カサ型ノズルを使用することで発酵乳の上にゼリー層を形成する多層発酵乳の製造方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、この方法によると充填時にカサ型ノズルを上下に駆動させる機構が必要となり、既存の充填機をそのまま適用できないといった問題がある。
【0007】
本願の発明者等が調べたところ、国内の濃縮発酵乳製品では、下層にソースを充填した2層タイプの製品は存在するが、上層にソースを充填した製品は存在しなかった。
このことからも従来の製造方法では充填時の発酵乳の粘度が低いため、上層にソースを充填することが困難であることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2815363号明細書
【文献】特開2013-013339号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】A.Y.Tamime, R.K.Robinson著 “Woodhead Publishing in Food Science and Technology, Yoghurt Science and Technology,second edition” (発行国:England,USA、発行所:Woodhead Publishing Limited,CRCPress LLC,1999年発行) p.332
【文献】齋藤忠夫、伊藤裕之、岩附慧二、吉岡俊満編 “ヨーグルトの事典”(東京、朝倉書店, 東京、2016年発行)p.113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、濃縮発酵乳とその製造方法、特に、粘度が高められた濃縮発酵乳とその製造方法を提案することを目的にしている。
また、この発明は、二層タイプの発酵乳製品とその製造方法を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者等は、発酵乳の製造工程において必要以上に乳固形分を高めたり安定剤を用いることなく製造できる高粘度な発酵乳について検討を行うに当たり、まず、従来から知られている製造方法についての検討を行った。
【0012】
<濃縮発酵乳の調製>
発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行う濃縮発酵乳の調製と、それを用いた二層タイプの発酵乳製品の製造は、従来から、一般的に、
図1に図示した工程で行われている。
本願の発明者等は、この製造フローに従って、次のようにして濃縮発酵乳を製造し、これを用いて二層タイプの発酵乳製品を製造して従来公知の技術についての検証を行った。
【0013】
なお、後述するように、本発明が提案する発酵乳およびその製造方法、二層タイプの発酵乳製品及びその製造方法は、
図1図示の製造フローにおいて、カード粉砕、濃縮工程後の冷却、エージング、充填工程を所定の条件の下に行うものである。
そこで、後述する本発明の実施形態、実施例においても、カード粉砕、濃縮工程後の冷却、エージング、充填工程を、本発明の実施形態、実施例で説明している所定の条件で行っている以外は、以下に説明するものと同様にして濃縮発酵乳を製造し、これを用いた二層タイプの発酵乳製品製造を行っている。
【0014】
まず、原料(脱脂粉乳490g、乳たんぱく質80g、水4,280g)を混合し、全固形分11.1%、脂肪分0.1%、たんぱく質4.8%に成分調整した調合液を調製した。
なお、本明細書中、特に断らない限り、「%」は、「質量%」を意味する。
この調合液を連続式プレート熱交換器で、95℃、5分間の条件で殺菌し、43℃まで冷却後、乳酸菌スターター(ブルガリカス菌OLL205013株(寄託番号:NITE BP-02411)、サーモフィラス菌OLS3290株(寄託番号:FERM BP-19638)の混合スターター)を、調合液97質量部当たり3質量部の量(150g)で接種して、調合液のpHが4.55になるまで発酵させた。
なお、これらの菌株の詳細は、以下のとおりである。
(a)ブルガリカス菌OLL205013株
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2017年2月3日(原寄託日)付で、受託番号:NITE BP-02411として国際寄託されたものである。
(b)サーモフィラス菌OLS3290株
Streptococcus thermophilus OLS3290株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに、2004年1月19日(国内寄託日)付の国内寄託から国際寄託への移管として、2013年9月6日付で、受託番号:FERM BP-19638として国際寄託されたものである。
発酵終了後、得られたカード(調合液の発酵による生成物)を10℃以下に冷却し、次いで、攪拌してカード破砕し、ノズルセパレーター(KNA-3:GEA Westfalia Separator社製)でホエイ(軽液)を分離し濃縮発酵乳(重液)を得た。
この際、濃縮発酵乳(重液)のたんぱく質濃度が10%になるように濃縮倍率を調節した。
濃縮発酵乳(重液)を連続式チューブ熱交換器で冷却し濃縮発酵乳(本発明の発酵乳)を得た。
【0015】
なお、濃縮倍率Cは
C=F/Q=F/(F-W)
という計算式で求めた。
ここで、Fは供給液の質量流量[kg/h]、Qは濃縮発酵乳(重液)の質量流量[kg/h]、Wはホエイ(軽液)の質量流量[kg/h]である。
【0016】
濃縮発酵乳を、プラスチックカップに98g(後述の「検証2」参照)又は84g(後述の「実施例3」参照)充填して表面を平らに均した後、予め調製した果肉入りソースをその上に42g(後述の「検証2」参照)又は36g(後述の「実施例3」参照)充填した。
上記に従って調製した濃縮発酵乳をベースとし、濃縮後の冷却温度並びにタンクでのエージング温度又は充填温度を種々に調節した。
【0017】
<評価方法>
[粘度測定]
発酵乳の粘度は、B型粘度計TVB-10(東機産業)を用いて測定した。より詳しくは、4号(M23)ローターを用いて、30rpm、30秒間後の試料(濃厚発酵乳)の粘度の値を計測した。
【0018】
[官能評価]
種々の条件にてエージング又は充填した発酵乳を10℃にて12時間保存した後に、試食して風味を評価した。
【0019】
[2層タイプ発酵乳の外観評価]
種々の条件にてエージング又は充填した発酵乳の上に、直ちに果汁又は果肉入りのソースを充填し、外観を目視により評価した。
【0020】
<従来公知の技術についての検証1>
濃縮後の発酵乳を20℃まで冷却して容器に98g充填した後、直ちに粘度測定を実施した。
また、容器充填後に10℃以下まで急冷し12時間保存した試料についても同様に評価した。
【0021】
更に、濃縮後の発酵乳を40℃で容器に充填した試料についても、上述と同様に2つの時点で評価した。
【0022】
【0023】
表1に示した通り20℃充填では充填直後の発酵乳粘度は3,250cpであったが、10℃にて12時間保存した場合、7,860cpまで増粘した。
また、40℃充填では充填直後の発酵乳粘度は2,060cpであったが、10℃にて12時間保存した場合、14,910cpまで増粘した。
この結果から、非特許文献2で報告されていた「充填温度が高いと、冷却後の発酵乳の粘度が高くなること」を確認できた。
【0024】
<従来公知の技術についての検証2>
濃縮後の発酵乳を20℃又は40℃で容器に98g充填した後、直ちにキウイソースを42g充填し、2層タイプ発酵乳の外観を評価した。
キウイソースは、キウイ果肉18.2質量%、砂糖26.5質量%、LMペクチン0.6質量%、及び、水を含むものであった。なお、ソースの充填にはスプールノズル充填機FX-01(四国化工機)を用いた。
【0025】
図2中のA及びBに示す通り、40℃で充填した濃縮発酵乳ではキウイソースが発酵乳に陥没し、2層状態を呈することができなかった。
また、
図2中のC及びDに示す通り、20℃で充填した濃縮発酵乳は、ソースの一部が発酵乳に陥没することで上面全体にソースが伸展しなかった。
なお、
図2中、A及びBは、同じ条件で2回実験した結果を示す。また、
図2中、C及びDは、同じ条件で2回実験した結果を示す。
この結果から、従来公知の技術では20℃前後で充填し、急冷することで容器内での発酵乳の粘度を向上させることができる反面、発酵乳の上層に果汁又は果肉入りのソースを充填することが極めて困難であることが示された。
【0026】
上述した従来公知の技術についての検証から、非特許文献1、2に示された20℃で濃縮発酵乳の充填を行い、その直後に発酵乳の上に果肉・果汁等を含むソースを充填する方法では、発酵乳の粘度が低いため、ソースが発酵乳に沈み込む、又は発酵乳の全面にソースが伸展しないといった問題点が存在することが認められた。
【0027】
このように、発酵乳の製造工程において必要以上に乳固形分を高めたり安定剤を用いたりすることなく高粘度な物性を発現することができる。特に、安定剤を用いることなく高粘度の発酵乳を製造することができる。しかし、これらの利点を維持することを前提とした場合、発酵乳の上に果肉・果汁等を含むソースを充填しても2層を維持できる2層タイプの発酵乳を製造するためには、新たな解決手段の提案が必要であると認められた。
【0028】
上述したように、非特許文献2には、製造工程中のせん断を抑え、適度な温度と時間で発酵後のヨーグルトを処理すると、製品粘度が高くなる旨の報告がされている。
本願の発明者等は、
図1に示されている従来公知の製造工程で、従来から採用されている装置、機器の他に新たな装置、機器などを採用することなく高粘度の発酵乳を製造することを目指して、せん断抑制とは異なる視点から鋭意検討を進めた。
【0029】
本願の発明者等は、バッファータンク並びにサージタンク又は充填機での発酵乳の温度管理に着目し、本願発明を完成させたものであり、それは、以下の通りである。
[1] 濃縮後の発酵乳を冷却し、所定の温度で所定の時間貯液することで粘度を増加させることを特徴とする発酵乳の製造方法。
[2] 前記冷却前の発酵乳の濃縮にセパレーター又はUF膜が用いられる[1]の発酵乳の製造方法。
[3] 前記所定の温度が15℃以下である[1]又は[2]の発酵乳の製造方法。
[4] 前記所定の時間が1時間以上である[1]乃至[3]のいずれかの発酵乳の製造方法。
[5] 前記所定の温度で所定の時間貯液することで前記貯液後、貯液前よりも前記発酵乳の粘度が1,000cp以上増加する[1]乃至[4]のいずれかの発酵乳の製造方法。
[6] 前記貯液後の前記発酵乳の粘度が4,000cp以上である[5]の発酵乳の製造方法。
【0030】
[7] 発酵乳の上に果肉・果汁(果肉と果汁のいずれか一方または両方)を含むソースが積層されて容器内に収容されている二層タイプの発酵乳製品を製造する方法であって、前記発酵乳を15℃以下の充填温度で前記容器内に充填した後、充填後の前記発酵乳の上に前記ソースを充填する二層タイプの発酵乳製品の製造方法。
[8] 前記発酵乳が、[1]乃至[6]のいずれかの製造方法によって製造された発酵乳である[7]の二層タイプの発酵乳製品の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、濃縮発酵乳とその製造方法、特に、粘度が高められた濃縮発酵乳とその製造方法を提供することができる。
また、この発明によれば、二層タイプの発酵乳製品とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】この発明の製造工程の一例を説明する製造フローである。
【
図2】従来の製造方法で製造した二層タイプの発酵乳製品を上側から見た状態を表す参考写真である。
【
図3】この発明の製造方法で製造した二層タイプの発酵乳製品を上側から見た状態を表す参考写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この実施形態では、
図1に図示した製造フローに従って、以下に説明するように、発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行って濃縮発酵乳を製造し、製造後の濃縮発酵乳を用いて二層タイプの発酵乳製品を製造している。発酵後の濃縮工程のための手段は、公知の手段であればすべて採用できるが、望ましくはセパレーター及び/又はUF膜である。
【0034】
この実施形態の発酵乳およびその製造方法、及び、二層タイプの発酵乳製品及びその製造方法は、
図1に図示した製造フローにおいて、カード破砕、濃縮工程後の冷却、エージング、充填工程を所定の条件の下に行うものであり、その他の工程は、従来、一般的に行われている工程と同様である。そこで、この実施形態に特有の工程を中心に以下説明を行う。
【0035】
この実施形態では、濃縮後の発酵乳を冷却し、所定の温度で所定の時間貯液することで粘度を増加させている。
発明者等の検討によれば、冷却後の所定の温度で、所定の時間エージングを行うことで、組成(例えば、乳固形分の割合)を高めることなく濃厚な物性の発酵乳を製造することができた。本発明において、好適な組成として、たんぱく質濃度は、好ましくは3~15%、より好ましくは5~13%、さらに好ましくは8~12%、特に好ましくは9~11%である。
【0036】
このように、サージタンク等の貯液タンクでエージングにより粘度を増加させた発酵乳は、撹拌子等によりタンク内部を撹拌することで次工程に払い出される。このとき、撹拌子としては、公知の撹拌子を使用することができ、発酵乳の粘度を著しく下げない、例えば大型の撹拌翼またはリボン型撹拌子のような形態が望ましい。
また、粘度を増加させた発酵乳とすることで、発酵乳の上に果肉・果汁等を含むソースを充填しても2層を維持できる発酵乳を製造することができた。
なお、冷却後の所定の温度で所定の時間エージングを行うことで粘度が増加した発酵乳を製造できるだけでなく、酸味の少ない発酵乳が製造できる。
前記において、冷却前の発酵乳の濃縮にはセパレーター又はUF膜を用いることができる。
【0037】
前記で冷却後の所定の温度で、所定の時間行う貯液の際の所定の温度は、好ましくは15℃以下、より好ましくは12℃以下、特に好ましくは10℃以下である。また、前記で冷却後の所定の温度で、所定の時間行う貯液の際の所定の温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは2℃以上、特に好ましくは5℃以上である。
【0038】
また、前記所定の時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上である。また、前記所定の時間は、好ましくは10日以下、より好ましくは5日以下、特に好ましくは3日以下である。
【0039】
この実施形態において、前記所定の温度で所定の時間貯液することで前記貯液後、貯液前よりも前記発酵乳の粘度が1,000cp以上増加することが望ましく、2,000cp以上増加することがより望ましく、3,000cp以上増加することが特に望ましい。また、前記貯液後、貯液前よりも前記発酵乳の粘度が15,000cp以下増加することが望ましく、14,000cp以下増加することがより望ましく、13,000cp以下増加することが特に望ましい。
【0040】
貯液後の前記発酵乳の10℃における粘度は、好ましくは4,000cp以上、より好ましくは6,000cp以上、特に好ましくは8,000cp以上である。また、貯液後の前記発酵乳の10℃における粘度は、好ましくは20,000cp以下、より好ましくは16,000cp以下、特に好ましくは12,000cp以下である。
【0041】
この実施形態における発酵乳の上に果肉・果汁を含むソースが積層されて容器内に収容されている二層タイプの発酵乳製品を製造する方法は、前記発酵乳を15℃以下の充填温度で前記容器内に充填した後、充填後の前記発酵乳の上に前記ソースを充填するものである。
この場合、15℃以下の充填温度で前記容器内に充填される発酵乳は、上述した実施形態で製造したいずれかの発酵乳とすることができる。
この実施形態によれば、発酵乳の製造工程において必要以上に乳固形分を高めたり安定剤を用いたりすることなく高粘度な物性を発現させることができる。
また、安定剤を用いることなく高粘度の発酵乳を製造することで発酵乳の上に果肉・果汁等を含むソースを充填しても2層を維持できる2層タイプの発酵乳製品を製造できる。
【0042】
この実施形態によれば、発酵乳の調製に安定剤を使用しない場合には、濃厚でありながらも自然な風味と食感を呈する発酵乳を製造できる。
また、発酵乳の調製に安定剤を用いることなく、発酵乳の上に果肉・果汁等を含むソースを充填しても、2層を維持できる発酵乳製品を製造できる。
更に、この実施形態によれば、低温で貯液するため酸味の少ない発酵乳の保管が可能となり、需要に合わせて必要な時に充填し、製品を出荷することができる。これによって、製造効率の向上が図られる。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
図1に図示した製造フローに従って、上述した実施形態で説明したように、発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行って濃縮発酵乳を製造し、製造後の濃縮発酵乳を用いて二層タイプの発酵乳製品を製造する際に、濃縮後の発酵乳の温度及び貯液(エージング)を次のように調整した。
従来、一般的に行われている製造工程では、濃縮発酵乳の充填温度が20℃前後であることから、一般的には充填機前のバランスタンク又はサージタンクでは充填温度とほぼ同等に濃縮発酵乳の温度が制御されている。
この実施例では、
図1に示した濃縮後の発酵乳を20℃以下に冷却し、その後、サージタンクで15℃以下に一定時間貯液(エージング)した。なお、エージング過程で大型の傾斜翼にて濃縮発酵乳を数回撹拌した。
【0044】
表2にサージタンク内の発酵乳の温度と粘度を示した。
貯液してから1時間以上のエージングにより1,300cpの増粘が認められた。
また、貯液直後の発酵乳と1時間以上エージングした発酵乳の官能評価を実施したところ、エージングにより濃厚感が増すことが明らかとなった。
【0045】
濃縮発酵乳の貯液温度が粘度に影響を及ぼすことを確認できた。
【表2】
【0046】
[実施例2]
図1に図示した製造フローに従って、上述した実施形態で説明したように、発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行って濃縮発酵乳を製造し、製造後の濃縮発酵乳を用いて二層タイプの発酵乳製品を製造する際に、充填温度を次のように調整した。
サージタンクにて12時間エージングした発酵乳を用いて充填温度を調節して、容器に充填した。
充填直後の発酵乳の粘度を測定した結果、表3に示した通り「10℃充填」(充填時の発酵乳の液温:10℃)では「20℃充填」(充填時の発酵乳の液温:20℃)に比べて、エージングによって増粘した粘度を低下させることなく充填できることを確認でき、充填温度が発酵乳の粘度に影響を及ぼすことを確認できた。
【0047】
【0048】
[実施例3]
図1に図示した製造フローに従って、上述した実施形態で説明したように、発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行って濃縮発酵乳を製造し、製造後の濃縮発酵乳を用いて二層タイプの発酵乳製品を製造した。
ここでは、実施例2の検討を踏まえて、10℃充填及び、20℃充填を行った。
容器に濃縮発酵乳を84g充填した後、直ちにバナナソースを36g充填し、2層タイプの発酵乳製品の外観を評価した。
バナナソースは、バナナ果肉40.0質量%、砂糖15.0質量%、LMペクチン0.2質量%、及び、水を含むものであった。
なお、ソースの充填にはスプールノズル充填機FX-01(四国化工機)を用いた。
【0049】
その結果、10℃充填の場合には、
図3に示す通り、発酵乳の上層にソースが伸展し、2層タイプ発酵乳製品の製造が可能であった。
一方、20℃充填の場合には、ソースの伸展性が悪く、部分的に下層の発酵乳が上部から目視された。
ソースが上層に位置する2層タイプ発酵乳の充填適性に対して、充填温度が影響を及ぼすことを確認できた。
【0050】
[実施例4]
図1に図示した製造フローに従って、上述した実施形態で説明したように、発酵後に濃縮工程(ホエイ除去)を行って濃縮発酵乳を製造し、製造後の濃縮発酵乳を用いて二層タイプの発酵乳製品を製造した。
濃縮後の発酵乳をサージタンクで15℃、20℃でそれぞれ5日間保存した試料の官能評価を実施したところ、15℃保存では風味に問題が無かったが、20℃保存では酸味が増加し、品質変化が顕著であった。
サージタンクの貯液温度が濃縮発酵乳の風味に影響を及ぼすことを確認できた。
【0051】
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、本発明はこれらに限られることなく特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。