(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】水性マグネット塗料を用いたマグネットシート及びマグネット面
(51)【国際特許分類】
E04F 13/02 20060101AFI20220214BHJP
E04F 13/07 20060101ALI20220214BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220214BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220214BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220214BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220214BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20220214BHJP
D21H 27/20 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
E04F13/02 A
E04F13/07 C
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/02
C09D133/00
C09J7/20
D21H27/20 Z
(21)【出願番号】P 2020046875
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】前橋 義幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1996/017022(WO,A1)
【文献】特開2011-079996(JP,A)
【文献】特開2014-110065(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104231708(CN,A)
【文献】特開昭53-146285(JP,A)
【文献】特開昭60-091699(JP,A)
【文献】特開2003-094843(JP,A)
【文献】特開2015-054473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/0010/00,101/00-201/00
E04F 13/00-13/30
C09J 7/00- 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が
30μ以上110μ以下を主成分とするハードフェライト磁性粉を、
白色を含むカラーの水性樹脂塗料に分散してなる水性マグネット塗料
のみを単層として、壁面又はボードに塗布し乾燥させてなることを特徴とするマグネット面。
【請求項2】
水性樹脂塗料がエマルジョン系塗料であることを特徴とする、請求項1に記載の
マグネット面。
【請求項3】
エマルジョン系塗料がアクリル樹脂系エマルジョン塗料とシリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の
マグネット面。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3の何れか1項に記載の水性マグネット塗料
のみを単層として、非磁性材から成るシート状部材の片面に塗布し乾燥させてなることを特徴とする
マグネットシート。
【請求項5】
非磁性材から成るシート状部材が、裏面に粘着剤層が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のマグネットシート。
【請求項6】
非磁性材から成るシート状部材が、両面粘着テープであることを特徴とする請求項4に記載のマグネットシート。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のマグネットシートの粘着剤層面を、磁性又は非磁性の面に貼着させてなる事を特徴とするマグネット面。
【請求項8】
水性マグネット塗料を塗布した面を永久磁石で着磁した事を特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のマグネット面又はマグネットシート。
【請求項9】
着磁は、同じ幅の異極を交互に複数個並べて固定した永久磁石組体を、水性マグネット塗料を塗布した面に当接させた状態で、該幅方向に対して垂直方向へ直線状に移動して行うことを特徴とする請求項8に記載のマグネット面又はマグネットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性マグネット塗料を用いたマグネットシート及びマグネット面に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品を磁力によって壁面上に吸着保持できる室内磁性壁が人気をよんでいる。
このような室内磁性壁は、例えば非磁性壁の壁面に磁性シートを貼着することで製作できる。ここで磁性シートは、磁粉と、粘結材となる有機高分子エラストマーとを原料としたシート状の磁性体である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁粉に用いられる磁性材が軟質の場合はそれを樹脂に分散させたシート状物を予め生産しておいて、それを現場で所定の大きさにカットして壁面に貼っていた。また、鉄粉や砂鉄を採用した塗料も実用化されている。
他方で磁性紛が硬質の場合は、合成樹脂バインダーに硬質フェライト粒子を分散させたシートを製造し、予め着磁しておいてから、改めて所定の形状にカットしてから壁面に貼るという工程が必要だった。
なお、ハード(硬質)磁性紛を分散させ、面に塗布する為の塗料は無かった。
【0005】
このように、室内磁性壁の製作には、施工に多くの手間と労力を要していた。
そこで本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、磁性面、特に任意形状の面積をマグネット面に変貌させる際、施工作業の手間と労力が軽減される水性マグネット塗料を用いたマグネットシート及びマグネット面を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。
即ち、本発明の態様は、粒子径が110μ以下を主成分とするハードフェライト磁性粉を、水性樹脂塗料に分散してなる水性マグネット塗料とする。
【0007】
本態様の水性マグネット塗料によると、壁面等に直接塗布し自然乾燥させることで、硬質(ハード)磁性の内装に適応できる。また磁性粉の粒子径が110μ以下のものを主成分とすることで、塗布及び乾燥後における表面粗さが室内壁にふさわしいものとなる。また、表面粗さが低く抑えられる事で、後工程の着磁を安定させることが出来る。
【0008】
水性樹脂塗料がエマルジョン系塗料であることが好ましく、エマルジョン系塗料がアクリル樹脂系エマルジョン塗料とシリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料の少なくとも一方を含んでいても良い。
さらに、該エマルジョン系塗料が、白色を含むカラーであれば、該カラーのマグネット面とすることが出来る。
【0009】
ハードフェライト磁性紛の粒子径が110μ以下30μ以上であれば、該カラーの発色がより鮮やかとなる。
【0010】
本発明の水性マグネット塗料を、壁面又はボードに直接塗布し乾燥させてマグネット面とすることが出来る。また、非磁性材から成るシート状部材の片面に塗布し乾燥させてマグネットシートすることが出来る。
【0011】
マグネットシートの裏面に粘着剤層が形成されていても良く、本発明の水性マグネット塗料を両面粘着シートの片面に塗布し乾燥させても、裏面に粘着剤層が形成されたマグネットシートとなる。
そしてそのマグネットシートの粘着剤層面を磁性又は非磁性の面に貼着させる事によって、マグネット面を形成することが出来る。
【0012】
マグネット面やマグネットシートは、永久磁石を用いて着磁することが出来る。
例えば、同じ幅の異極を交互に複数個並べて固定した永久磁石組体を、マグネット面又はマグネットシートに当接させた状態で、該幅方向に対して垂直方向へ直線状に移動させると、ピッチが一定の多極着磁を施すことが出来る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、磁性面、特に任意形状の面積をマグネット面に変貌させる際、施工作業の手間と労力が軽減される水性マグネット塗料を用いたマグネットシート及びマグネット面が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1その他で 本発明のマグネットシートを作成する方法の説明図である。
【
図2】
図1の方法で得られるマグネットシートである。
【
図3】実施例6で壁面に塗布・乾燥させたマグネットの断面の説明図である。
【
図4】実施例7のマグネットシートを製作する方法の説明図である。
【
図5】実施例7で得られたマグネットシートを説明する図である。
【
図6】実施例7で得られたマグネットシートをパーテーションに貼った場合の断面図である。
【
図7】本発明のマグネットシートを着磁するために実施例5で用いた永久磁石の形状・寸法及び磁極を説明する図である。
【
図8】「磁石組」を未着磁のマグネットシートに当接・移動させて、着磁する工程を説明する図である。
【
図9】
図8によって着磁されたマグネットシートの着磁状態を説明する図である。
【
図10】比較例1で得られたマグネットシート表面の低倍率の電子顕微鏡写真である。
【
図11】比較例1で採用されたBaフェライトの106μ↑の粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図12】実施例1で採用されたBaフェライトの106μ↓&32μ↑の粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図13】実施例2で採用されたBaフェライトの32μ↓の粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図14】実施例1で採用された焼き石膏粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図15】実施例1及び実施例2で採用された酸化チタン粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図16】比較例3で採用した砂鉄の106μ↓&32μ↑粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図17】比較例2で採用した砂鉄の32μ↓粉体の電子顕微鏡写真である。
【
図18】表1の実験No.4の配合で作成した、実施例1で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【
図19】表1の実験No.6の配合で作成した、実施例2で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【
図20】表1の実験No.8の配合で作成した、実施例3で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【
図21】表1の実験No.9の配合で作成した、実施例3で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【
図22】表1の実験No.12の配合で作成した、実施例4で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において磁性粉の粒子径が重要である。
粉体の粒子径を工業的にコントロールする為には篩による分級操作が採用されるが、本発明で採用した、研究及び開発用の「サンポーのステンレスふるい」(ブランド名)では、各篩の網の隙間の大きさ(開口)を、「OPENING」の数値で表している。例えばOPENING106μでは106μ角の綾織の隙間を表している。
OPENING106μの篩を例にとると、基本的には粒子径が106μより小さいものは網を通過し、106μより大きいものは網の上に残る。
【0016】
そこで本明細書では、OPENING106μの篩を通過した粉体を「106μ↓」と表現し、篩の網の上に残った粉体を「106μ↑」と表すものとする。他のOPENING数値についても同様で、この場合「106μ↓&32μ↑」は、OPENING106μの篩を通過し、且つOPENING32μの篩を通過しない粉体を意味している事とする。
なお、粒子径が網の開口より小さくても、各粒子が凝集するか、大きな粒子に付着すると通過しないで網の上に残る。さらに粒子径が網の開口より大きくても、粒子の形状に拠っては通過してしまうことがあるため、篩を用いた分級では粒子径に若干の誤差があり、厳密に区分することは難しい。
以下の実施例では略円筒状の枠体の下部にステンレス製の網を張った「TEST-SIEVE」(商品名)を用いた。
【0017】
なお本発明の塗料、及び該塗料から得られたシート等をその形態にかかわらず、また着磁の有無にかかわらず、「マグネット塗料」あるいは「マグネットシート」等と呼称する。
【実施例1】
【0018】
白い水性樹脂塗料(「水性多用途EX(白)=アクリル樹脂系エマルジョン塗料」及び「水性多用途カラー(白)=シリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料」株式会社アサヒペンが販売)それぞれ5ccに、等方性BaフェライトTF(東京フェライト製造(株)製)の焼結体をハンマーで粉砕し、篩で分級した粉体106μ↓&32μ↑をそれぞれ13.8グラム加えて良く混合して鼠色の水性マグネット塗料2種類を得た。
上記とは別に水性多用途EX(白)5ccに、上記と同じマグネット紛を13.8グラム加えた後、水2cc(後述する表1には記載していない)と共に焼き石膏(高級工作用/家庭化学工業株式会社が販売)0.5グラムを添加して素早く混合して鼠色の水性マグネット塗料を得た。更に上記とは別に水性多用途カラー(白)5ccに、上記と同じマグネット紛を13.8グラム加えた後、酸化チタン(白色顔料/アマゾン.コム社から購入)0.18グラムを添加し良く混合して鼠色の水性マグネット塗料を得た。
【0019】
得られた4種類の水性マグネット塗料を、それぞれ
図1に示す方法で両面粘着テープ1の片面に塗布し、自然乾燥させてマグネットシート9(
図2参照)を得た。
具体的には、両面粘着テープ((株)ニトムズ製のPROSELF(登録商標)の「カーペット用強弱両面テープ」)1の巻き凹面(巻体の径方向内側面)を台紙4に貼着させ、巻き凸面(巻体の径方向外側面)の離型紙2を取り除いた面の粘着剤層3の表面に、上記水性マグネット塗料を配置し、バーコーター6による矢印X1方向への押圧移動により延伸させスペーサー7の厚さのシート状のマグネット層(乾燥前)8として塗り付けた。
なお、以下の各実施例2,3及び比較例1,2,3では、結果としてできたマグネットシートや軟磁性シートはそれぞれ色や処方配合は異なるものの、構成形状としては同一であることから、本明細書では、同一の符号「9」又は「10」を付す。他の実施形態でも同様な考えを適用する。但しマグネット層を表す場合は符号「11」とした。
【0020】
上述した実施例1の配合、及び以下の比較例1の配合処方を、表1に纏めた。その他の実施例及び比較例も同様である。
尚、実施例1の配合は、表1の実験No.1,2,3,4に記載している。下記比較例1の配合は、実験No.5である。
【表1】
【0021】
本実施例で得られたマグネット層11は両面粘着テープ1における粘着剤層3と強固に粘着していて、乾燥させた磁性シートの磁性表面に例えば両面粘着テープ1の粘着剤層3を貼着させた場合と比較して、同等だった。
該現象は、本発明の実施例2,3及び比較例1,2,3においても同様だった。
【0022】
[比較例1]
実施例1で採用した「水性多用途カラー(白)=シリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料」5ccに、実施例1で採用した等方性BaフェライトTF(東京フェライト製造(株)製)の焼結体をハンマーで粉砕し、篩で分級した粉体106μ↑を13.8グラム加えて良く混合して鼠色の水性マグネット塗料を得た。(表1の実験No.5)
【0023】
得られた水性マグネット塗料を、実施例1と同様にして両面粘着テープ1の片面に塗布・乾燥させてマグネットシート9を得た。
【実施例2】
【0024】
水性多用途カラー(白)5ccに加えて、白色顔料の酸化チタン(アマゾンで購入)0.18グラムを添加し、更に実施例1で採用した等方性BaフェライトTFの焼結体をハンマーで粉砕し、篩で分級した粉体32μ↓を13.8グラム加えて良く混合して黒っぽい水性マグネット塗料を得た。(表1の実験No.6)
続いて実施例1と同様にして両面粘着テープ1の片面に塗布・乾燥させてマグネットシート9を得た。
【0025】
[比較例2]
水性多用途EX(白)5ccに、ニュージーランド・タハロ産の砂鉄(しまだ鉱業から購入)を分級して得られた32μ↓の粉体14.6グラムを加えてよく混合した。(表1の実験No.7)
なお、砂鉄の量はその密度を考慮してフェライトと同じ体積比率とした。
続いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープの1の片面に塗布・乾燥させて軟磁性シート9を得た。
【実施例3】
【0026】
水性多用途カラー(緑)5ccに加えて水性多用途カラー(白)1ccを加えた混合水性樹脂塗料を2組準備し、それぞれに、実施例1で採用した等方性BaフェライトTFの焼結体をハンマーで粉砕し篩で分級した粉体106μ↓&32μ↑を16.6グラム、及び32μ↓を16.6グラム、それぞれに加えて良く混合して、緑っぽい水性マグネット塗料を2種類得た。(表1の実験No.8.9である)
尚本発明では、樹脂塗料の量が2割増しになれば磁性紛の量も2割増しとして、体積比率を同じにした。
続いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープの1の片面に塗布・乾燥させてマグネットシート9を2種類を得た。
【0027】
[比較例3]
実施例3と同じ樹脂塗料に、Baフェライトに代えて比較例2で採用した砂鉄を分級して得られた106μ↓&32μ↑の粉体を17.5グラム加えて良く混合して緑の水性マグネット塗料を得た。(表1の実験No.10)
更に、水性多用途カラー(緑)5cc単独に分級して得られた砂鉄106μ↓&32μ↑の粉体を14.6グラム加えて良く混合して緑の水性マグネット塗料を得た。(表1の実験No.11)
続いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープの1の片面に塗布・乾燥させて軟磁性シート9を2種類2枚得た。
【実施例4】
【0028】
水性多用途カラー(黄)5ccに加えて水性多用途カラー(白)1ccを加えた混合水性樹脂塗料に、実施例1で採用した等方性BaフェライトTFの焼結体をハンマーで粉砕し篩で分級した粉体106μ↓&32μ↑を16.6グラム加えて良く混合して、黄色っぽい水性マグネット塗料を得た。(表1の実験No.12である)
続いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープの1の片面に塗布・乾燥させてマグネットシート9を得た。
【0029】
[比較例4]
Baフェライトに代えてニュージーランド・タハロ産の砂鉄を分級して得られた106μ↓&32μ↑を17.5グラムを加えた以外は実施例4と同様にして、(表1の実験No.13)両面粘着テープの片面に塗布・乾燥させて軟磁性シートを得た。
【0030】
ここで、上記した各実施例1~4、及び比較例1~4の検討結果の一部について記述する。
実施例1~4、及び比較例1~4で得られたマグネットシート9(全13種類)の表面の色を測色計(株式会社コニカミノルタ社製の分光測色計:CM-700d)で定量化した。サンプルのデータは、1枚に付き所定間隔をあけた異なる3ヶ所を測定し、その測定数値の算術平均を採った。ここに、L*a*b*表色系(国際照明委員会)において、「L*」軸は明度(明るさ)であり、「a*」軸はプラスが赤でマイナスは緑を表す。「b*」軸はプラスが黄でマイナスは青を表している。
また、各磁性シート9の表面(以下、単に「シート表面」と記すことがある)を肉眼で観察して、表面の粗さや色彩を感覚的に評価した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0031】
表2から判る様に、粒子径が106μ↑であれば塗装面やシート表面が粗く、一般的な塗装面、シート表面としては不向きである。
図10は、表1の実験No.5のマグネットシート表面の 低倍率の電子顕微鏡写真である。表面の凹凸の大きさが観察できる。
また表2からは、粒子径が32μ↓であれば表面の粗さは無いが、しかし磁性粉の黒さが優位となって塗料の白さやカラーが損なわれてしまう傾向にある。
【0032】
ここで、カラーの水性樹脂塗料に水性多用途カラー(白)を添加すると、肉眼では明るく白さが増した奥行きのあるカラーに見える様になる。それは、表2の実験No.10と11との比較で、明度「L*」の数値や「a*」の緑の数値にも表れている。
【実施例5】
【0033】
実施例1~4で得られたマグネットシートの着磁を以下の手段で実施した。
寸法が(2.0mm)×(9mm)×(12mm)の板状(
図7)で、寸法が(2.0mm)×(9mm)の平面が磁極で、長さ12mmの方向に磁化させた焼結Nd磁石(N35/株式会社マグナ社製)6個を、
図8に示すようにNS極を交互に並べて磁極面を面一に揃えた「磁石組」13を準備し、本発明のマグネットシートの表面に当接させ、図の矢印X2の方向へ一直線にスライドさせ、
図9に示す様な着磁ピッチが2.0mmでN・S交互に多極着磁されたマグネットシートを得た。
同様に、寸法が(2.5mm)×(9mm)×(12mm)の焼結Nd磁石でもって、着磁ピッチが2.5mmでN・S交互に多極着磁されたマグネットシートを得た。
【0034】
着磁されたマグネットシートの表面磁束密度(表面に垂直方向)をテスラメーター(モデルMG-801/マグナ社)で測定したところ、最低でも10mT以上最大16mT程度、平均13.4mTを示し、着磁ピッチ2.5mmの場合、2.0mmに比べて大略1mT程度強い事が判った。
表面磁束密度には、着磁操作やマグネットシート自体のバラつき、そして測定誤差等を含むが、しかしいずれのシートも、メタリーシートを少なくとも2枚磁気係留させる事が出来た。
【0035】
[比較例5]
比較例1~4で得られたシートを、実施例5の方法で着磁を試みたが、比較例2,3,4のシートは着磁できなかった。
比較例1のシートは、表面の凹凸の影響で安定した着磁が困難だった。着磁されたシートの表面磁束密度は、5.8mT~7.7mT程度で、数か所で15mTが測定されたに過ぎず、弱い。メタリーシート1枚の係留も困難であった。
【0036】
表2には、実施例5と比較例5の結果を示している。
その総合判断の欄は、得られたシート9の表面の粗さと表面の色の具合を肉眼で観察し、実際に壁面等に塗布した場合を想定すると共に、さらに本発明の最大の目的である磁気吸引性とを併せて、総合的に判定したものである。「×」印は「採用不可」、「△~○」は「採用可能」、「○」は「採用」の判断を表している。
【実施例6】
【0037】
水性多用途カラー(緑)200ccに水性多用途カラー(白)40ccを加えたカップへ、等方性BaフェライトTF(東京フェライト製造(株)製)の焼結体をハンマーで粉砕し、篩で分級した粉体106μ↓を662グラム加えて良く混合して緑色を示す水性マグネット塗料を得た。
次いで、「こて」でもって子供部屋の壁面5の内、略1平方メートルを上記水性マグネット塗料で塗装し、自然乾燥させた(
図3参照)。
有機溶媒が無い水性塗料なので、健康に気使うことなく作業が出来た。使用したコテは水道水で洗う事が出来た。
【0038】
次いで、実施例5で用いた焼結Nd磁石で、約25cm四方をピッチ2.5mmで着磁した。着磁にあたっては、壁面に定規を水平に当てて、その定規に沿って磁石組13を壁面に当接したまま水平方向へ移動させた。
【0039】
壁面は深い緑色を呈し、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
着磁された部分は、メモ用紙をゼムクリップで磁気係留することが出来た。
また、ハードフェライトは他の永久磁石によって磁化して該永久磁石を磁気吸引するので、市販の磁気フックなどを使用することも出来た。
【実施例7】
【0040】
実施例4で得られた水性マグネット塗料を、両面粘着テープ1(
図4)の片面に塗布・乾燥させて、裏面に粘着剤層3付きの黄色いマグネットテープ10を得た。(
図5)
該マグネットテープ10の離型紙2をはがして非磁性のパーテーション5Aに貼り、カラフルなマグネットパーテーションとすることが出来た。(
図6)
【0041】
因みに、本発明で採用した両面粘着テープ1の何れの粘着面も水道水をはじく。しかし、該両面粘着剤層3の表面に、本発明の水性マグネット塗料を塗布し乾燥すると、水性マグネット塗料から水分を除去した物質、つまり水に分散していた「磁性粉を絡めた塗料樹脂」だけが残って粘着剤層3の表面に粘着しているのである。
本発明で採用したエマルジョン系塗料、更にアクリル樹脂系又はシリコンアクリル樹脂系は、上記粘着が良好である。
【0042】
本発明で採用した粉体の電子顕微鏡写真を
図11~
図17に示す。これらの図で、明色部分が粉体である。
図11,12,13から明らかな様に、分級操作でもって粒子径が厳密に区分されていない。
径の小さな粒子は色を黒くする作用があり、大きな粒子は、塗装表面を粗くすることが、表2から明らかになっている。
【0043】
また、実施例1~4、及び比較例1~4で得られたマグネットシート断面の電子顕微鏡写真を、
図18~
図22に示す。
【0044】
図18は表1の実験No.4の配合で作成した、実施例1で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。台紙16に貼った両面粘着シート15の他の面に塗布され、乾燥したマグネット層14が、写真撮影の目的で、導電性両面粘着テープ17でもって装置の所定の位置(図示せず)に固定されている。
図19は表1の実験No.6の配合で作成した、実施例2で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。Baフェライト粒子は小さい。マグネット層14は粘着剤15に良く粘着している。
【0045】
図20は表1の実験No.8の配合で作成した、実施例3で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。塗料樹脂がBaフェライト粒子を粘着している。
図21は表1の実験No.9の配合で作成した、実施例3で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。Baフェライト粒子は小さい。
図22は表1の実験No.12の配合で作成した、実施例4で得られたマグネットシートの断面電子顕微鏡写真である。
【0046】
何れの配合であれ、磁性層は粘着剤層と一体化しており、塗料樹脂は磁性粉を絡めている。ハサミやカッターで本発明のマグネットシートを切断する操作で、粉落ち現象や汚れの現象、或いは剥離現象は認められなかった。
【0047】
本発明の他の特徴は、マグネットシート層が比較的柔軟な事である。例えば実施例1で製作した
図2のシート9では、軟磁性層の厚さが約0.4~0.6mmのシートを直径20mmの円筒状に曲げても、クラックが発生することは無かった。
また、その軟らかさから、手触りが良いという特徴がある。
【0048】
以上のように本発明の実施例や比較例は、現実の篩の開口寸法を基準にしたが、先に記述した様に、篩を用いた分級操作では粒子径を厳密に区分する事が出来ない。「OPENING」の数値より小さい粒子径の粒子が篩上に残り、数値より大きい径の粒子が篩を通過することは避けられない。更に各篩のメーカーでは、網を編むワイヤーの径や編み方が異なることがあり、ASTM規格やタイラー規格によって「OPENING」の数値が異なっている。
以上及び表2から、塗布・乾燥後の塗布表面からは、粒子径は「110μ↓」である事が好ましい。
本発明の最大の特長である着磁が有効に実施できるためにもまた、粒子径は「110μ↓」である事が好ましく、「30μ↓」は何ら問題が無い。
他方で本発明の特長の1つであるカラー化に関しては、より鮮明な色を出現させるためには、粒子径は「30μ↑」が好ましい。
【0049】
以上から、本発明においてハードフェライト粒子径は「110μ↓」とし、付帯的な用途、あるいは特定の機能を付加させたい場合は、「110μ↓&30μ↑」とする。
【0050】
本発明では、着磁パターンとして一般に既存のカレンダー法で生産されるマグネットシートで採用されている多極着磁を採用したが、もちろんこれに限定されることは無い。本発明で採用されるハードフェライト(ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト)は、希土類永久磁石程度の磁力でもって磁化されるので、ボタン磁石によるスポット磁化や、水玉模様の磁化も可能である。
勿論、電磁石方式の着磁ヨークを用いた着磁であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の水性マグネット塗料を用いたマグネット面は、例えば強力な永久磁石を当接するだけで着磁することが出来るので、マグネット壁面として活用することが出来る。
また、該マグネット面は、軟磁性面としての機能を併せ持つので、磁気フックなどを係留することも出来る。カラー化も可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 両面粘着テープ(又は両面粘着シート)
2 離型紙
3 粘着剤層
4 台紙(シート状部材)
5 非磁性面(壁、パーテーションなど)
6 バーコーター
7 スペーサー
8 磁性(マグネット)層
9 マグネットシート
10 マグネットシート
11 マグネット層
12 Nd焼結永久磁石
13 磁石組(永久磁石組体)
14 着磁されたマグネットシート
X1 バーコーターを移動せせる方向
X2 磁石組を移動させる方向