(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】画像解像度が改良された蛍光イメージングフローサイトメトリー
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20220214BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
G01N15/14 B
G01N21/64 B
G01N15/14 D
G01N15/14 C
(21)【出願番号】P 2018557350
(86)(22)【出願日】2017-05-12
(86)【国際出願番号】 US2017032417
(87)【国際公開番号】W WO2017197271
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-05-08
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518331416
【氏名又は名称】ビーディー バイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ディーボルト,エリック
(72)【発明者】
【氏名】オースレイ,キーガン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】バアル,マシュー
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0182136(US,A1)
【文献】特表2016-504598(JP,A)
【文献】Mahesh Ravi Varma et al.,Fast image reconstruction for fluorescence microscopy,AIP ADVANCES, American Institure of Physics, 2,Vol.2, No.3,2012年,32174-1~32174-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01N 21/00-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメトリーを行うためのシステムであって、
流れにおけるサンプルを照射するためのレーザ放射線を生成するためのレーザと、
照射に応答して前記サンプル
中の粒子から放射される放射線の少なくとも一部を検出し、時間信号を生成するように構成された少なくとも1つの検出器と、
前記時間信号を受信し、
前記流れにおける前記サンプル
中の粒子の画像を再構成するためにフォワードモデルに基づいて前記時間信号の統計分析を実行するために、前記検出器に接続された分析モジュールと
を備えるシステム。
【請求項2】
前記レーザ放射線は、無線周波数によって互いにシフトされた少なくとも2つの光周波数を含み、前記時間信号は、前記少なくとも2つの光周波数の差に対応する少なくとも1つのビート周波数を示す時間-周波数波形である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記時間信号は、
前記サンプルの蛍光像を形成するように前記分析モジュールが動作する時間蛍光信号、
前記サンプルの暗視野像を形成するように前記分析モジュールが動作する散乱光信号、または
前記サンプルの明視野像を形成するように前記分析モジュールが動作する透過光信号
である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記統計分析は、最小2乗最適化、勾配降下最適化、粒子群最適化、遺伝的アルゴリズム最適化、パラメトリック推定及びベイズスペクトル推定のいずれかを使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記統計分析は、
モデル化された時間セグメントとそれぞれの測定された時間セグメントとの間の差に対応する2乗残差和を最小化することによって、モデル化された時間セグメントに関連するパラメータの値を得るための最小2乗回帰分析、
照射されるサンプルの画像のモデルに関連する1つ以上のパラメータの1つ以上の推定値を、検出された時間信号と前記フォワードモデルから推定された時間信号との間の差に対応する2乗残差和を最小化することによって取得する、最小2乗分析、
前記フォワードモデルに基づく予測時間信号と測定された時間信号との間の距離を示す誤差勾配を計算し、先行の画像が前記誤差勾配をステップダウンすることによって、前記サンプルの更新される画像を反復計算する、勾配降下最適化法、
前記サンプルの画像を再構成するために、ベイズスペクトル推定と組み合わせて用いる測定された時間信号に関する先験的な情報、
粒子群最適化法、または
遺伝的アルゴリズム
を使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記勾配降下最適化法は、測定された時間信号に基づいて計算された初期推定画像を用いて反復計算を開始する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記先験的な情報は、前記時間信号が未知の周波数及び振幅の複数の正弦曲線からなることを示す、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記ベイズスペクトル推定は、前記正弦曲線の未知の周波数及び振幅の推定値を提供する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
フローサイトメトリーを実施するための方法であって、
流れにおけるサンプルをレーザ放射線で照射すること、
照射に応答して前記サンプル
中の粒子から放射される放射線の少なくとも一部を検出し、検出された放射線に対応する時間信号を生成するために検出器を配備すること、及び
前記流れにおける前記サンプル
中の粒子の画像を再構成するように、フォワードモデルに基づいて前記時間信号の統計分析を実行するためにコンピュータプロセッサを利用すること
を含む、方法。
【請求項10】
前記レーザ放射線は、前記サンプルからの蛍光放射線を引き出すために、無線周波数によって互いにシフトされた少なくとも2つの光周波数を含み、前記時間信号は、無線周波数が分離した光周波数に関連する1つ以上のビート周波数を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記時間信号を処理して蛍光像を生成し、前記蛍光像を前記統計分析を行うためのシード画像として使用することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記統計分析は、
検出された時間信号と前記フォワードモデルから推測されたそれぞれの時間信号との間の差に対応する2乗残差和を最小化することによって、再構成画像を得るための最小2乗法、
モデル化された時間セグメントとそれぞれの測定された時間セグメントとの差に対応する2乗残差和を最小化することによって、前記時間信号のモデルのパラメータの値を得るための最小2乗回帰分析、
前記フォワードモデルに基づく予測時間信号と測定された時間信号との間の距離を示す誤差勾配を計算し、先行の画像が前記誤差勾配をステップダウンすることによって、更新される画像を反復計算する、勾配降下最適化法、
前記サンプルの画像を再構成するために、ベイズスペクトル推定と組み合わせて用いる測定された時間信号に関する先験的な情報、
粒子群最適化法、または
遺伝的アルゴリズム
を使用する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記勾配降下最適化法は、測定された時間信号に基づいて計算された初期推定画像を用いて反復計算を開始する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記先験的な情報は、前記時間信号が未知の周波数及び振幅の複数の正弦曲線からなることを示す、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ベイズスペクトル推定は、前記正弦曲線の未知の周波数及び振幅の推定値を提供する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してサンプルの蛍光分析のための装置及び方法に関し、より詳細には、蛍光に基づくフローサイトメトリーのための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光イメージングは、例えば生物学的検体の分子組成に関する情報を得る際に、様々な生物医学的用途を有する。生物医学的フローサイトメトリーでは、外因性及び/または内因性の細胞のフルオロフォアによって放出された蛍光放射線を収集し、分析して、細胞の化学的及び/または物理的特性に関する情報を得る。
【0003】
しかし、従来の蛍光に基づくフローサイトメトリーでは、高速で流れる細胞、またはサブミリ秒の生化学的ダイナミクスのような他の高速の現象がぼやけてない画像を取得することは困難であり得る。
【0004】
特に、キロヘルツ範囲の画像化フレームレートにてサンプルを短時間曝露して結合された多くのフルオロフォアの弱い発光により、ぼやけていない画像を取得することが困難になっている。さらに、多くの従来のシステムは、1つの画像化モードでしか動作せず、したがって、サンプルの分析に十分な柔軟性を付与することができていない。
【0005】
したがって、蛍光分析をするための改良された方法及びシステムの必要性、特に蛍光に基づくフローサイトメトリーを実施するための改良された方法及びシステムの必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
一態様において、フローサイトメトリーを行うためのシステムであって、サンプル(例えば、細胞)を照射するためのレーザ放射線を生成するためのレーザと、照射に応答してサンプルから放射される放射線の少なくとも一部を検出し、検出された放射線に対応する時間信号を生成するように構成された少なくとも1つの検出器と、時間信号を受信し、サンプルの画像を再構成するために、またフォワードモデルなどのモデルに基づいて時間信号の統計分析を実行するために検出器に接続された分析モジュールとを含むシステムが開示されている。いくつかの実施形態ではフォワードモデルは線形モデルであり、その一方で他の実施形態ではフォワードモデルは非線形モデルである。
【0007】
いくつかの実施形態では、サンプルから放射される放射線は、蛍光放射線であり得る。このとき、その時時間信号は、サンプルの蛍光像を形成するように分析モジュールが動作する蛍光信号である。
【0008】
いくつかの実施形態では、サンプルから放射される放射線は、サンプルにより散乱されたレーザ放射線の一部の場合があり、分析モジュールは、散乱されたレーザ放射線に対応する時間信号に対して動作でき、サンプルの暗視野像を生成することができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、サンプルから放射される放射線は、サンプルにより透過される照射レーザ放射線の一部の場合があり、分析モジュールは、透過されるレーザ放射線に対応する時間信号に対して動作でき、サンプルの明視野像を生成することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、統計分析は、モデルの1つ以上のパラメータの最尤推定値を生成することに基づいている。例として、統計分析は、検出された時間信号と、フォワードモデルから推測されたそれぞれの時間信号との間の差に対応する2乗残差和を最小にすることによって、サンプルの画像を再構成する最小2乗法を使用することができる。
【0011】
本発明を実施する際に使用するために適した統計分析のいくつかの例には、最小自乗最適化、勾配降下最適化、粒子群最適化、遺伝的アルゴリズム最適化、及びベイズスペクトル推定が含まれるが、これらに限定されない。
【0012】
いくつかの実施形態では、分析モジュールは、サンプルの初期画像を形成し、統計分析のための初期(シード)画像としてその画像を使用する。例として、分析モジュールは、初期画像を形成するためフーリエ変換及びロックイン検出のいずれかを用いることができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、分析モジュールは、検出された時間信号のモデルを複数の時間セグメントとして使用する。例として、各時間セグメントは、正弦及び余弦の項を有するものとしてモデル化することができる。そのような実施形態では、統計分析は、モデル化された時間信号のパラメータの値、例えば、正弦及び余弦の項の振幅と位相を、モデルと、対応する測定された時間セグメントとの間の差に対応する2乗残差和を最小化することによって得るために、最小2乗回帰法を使用することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、統計分析は勾配降下最適化法を使用する。このような実施形態では、勾配降下最適化法は、フォワードモデルに基づく予測時間信号と測定された時間信号との間の距離を示す誤差勾配を計算し、サンプルの画像の先行の推定が誤差勾配をステップダウンして改善された画像を得る。このプロセスは、最良適合画像が得られるまで反復的に繰り返すことができる。勾配降下最適化法は、測定された時間信号に基づいて計算された画像の初期推定値を用いて反復プロセスを開始することができる。例として、分析モジュールは、フーリエ変換、例えばFFTを、測定された時間信号に適用することによって初期画像の推定値を計算することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、分析モジュールは、サンプルの画像を再構成するために、測定された時間信号に関する先験的な情報をベイズスペクトル推定と組み合わせて使用する。例として、いくつかの実施形態では、このような先験的な情報は、時間信号が未知の周波数、振幅及び位相の複数の正弦曲線からなることを示すことができる。さらに、場合によっては、時間信号は、雑音成分、例えばポアソン分布を有する雑音成分を含むことが知られていることがある。そのような場合、ベイズスペクトル推定は、モデル化された雑音に関連するパラメータと同様に、正弦曲線の未知の周波数、振幅及び位相の推定値を提供することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、レーザ放射線は、無線周波数によって互いにシフトされた少なくとも2つの光周波数を含む。例として、無線周波数シフトは、約10MHz~約250MHzの範囲であり得る。いくつかのそのような実施形態では、レーザ放射線は、各々が別の放射線に対して無線周波数シフトを有する複数の角度で隔てられたレーザビームの形態であってもよい。いくつかのこのような実施形態では、時間信号(例えば、蛍光信号)は、少なくとも2つの光周波数の差に対応する少なくとも1つのビート周波数を示す時間-周波数波形であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態において、試験中のサンプルは、細胞(例えば、哺乳類の細胞)、微小胞、細胞断片、リポソーム、ビーズ、及び小生物のいずれかを含むことができる。
【0018】
以下により詳細に説明するように、分析モジュールは、ハードウェア、ファームウェア、及び/またはソフトウェアで実施することができる。いくつかの実施形態では、そのような分析モジュールは、他の構成要素の中でも、1つ以上の通信バスを介して1つ以上のメモリモジュールと通信することができるプロセッサを含むことができる。プロセッサは、フローサイトメーターでの呼掛けの下でサンプルの画像を再構成するための本教示による統計分析のみならずフォワードモデルを実施するプログラムを実行することができる。
【0019】
関連する態様では、フローサイトメトリーを実施する方法が開示されており、この方法は、サンプル(例えば、細胞)をレーザ放射線で照射すること、照射に応答してサンプルから放射される放射線の少なくとも一部を検出し、検出された放射線に対応する時間信号を生成するための検出器を配備すること、及びサンプルの画像を再構成するように、フォワードモデルなどのモデルに基づいて時間信号の統計分析を実行するためにコンピュータプロセッサを利用することを含む。例として、再構成された画像は、蛍光、暗視野、及び明視野の像のいずれかとすることができる。いくつかの実施形態では、レーザ放射線は、サンプルから蛍光放射線を引き出すために選択される、無線周波数によって互いにシフトされた少なくとも2つの光周波数を含み得る。そのような実施形態では、時間信号は、無線周波数シフトされた光周波数に関連する1つ以上のビート周波数を含むことができる。このような時間信号は、サンプルの改良された画像を再構成するために統計分析を実行することができるシード蛍光像を生成するために処理できる。
【0020】
上記方法のいくつかの実施形態では、統計分析は、検出された時間信号と、フォワードモデルから推定されたそれぞれの時間信号との間の差に対応する2乗残差和を最小化することによってサンプルの画像を再構成するために最小2乗法を使用する。時間信号は、例えば、蛍光信号、散乱信号、または透過信号のいずれかであり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、時間信号は、複数の時間セグメントとしてモデル化することができる。いくつかのこのような実施形態では、各時間セグメントは、1つの正弦及び1つの余弦の項を有するものとしてモデル化することができる。このような実施形態では、統計分析はモデル化された時間セグメントとそれぞれの測定された時間セグメントとの間の差に対応する2乗残差和を最小化することによって、モデル化された時間信号のパラメータの値を得るために最小2乗回帰分析を用いることができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、統計分析は、画像を再構成するために勾配降下最適化法を使用している。勾配降下最適化法は、フォワードモデルに基づいて計算された予測時間信号と測定された時間信号との間の距離を示す誤差勾配を計算し、先行の画像が誤差勾配をステップダウンすることによって、更新される画像を反復計算することができる。反復プロセスは、例えば、測定された時間信号へのフーリエ変換の適用を介して、測定された時間信号に基づいて計算されたサンプルの初期推定画像から開始することができる。
【0023】
上記方法のいくつかの実施形態では、統計分析は、サンプルの画像を再構成するために、ベイズスペクトル推定と組み合わせて、測定された時間信号に関する先験的な情報を使用することができる。例として、いくつかの実施形態では、先験的な情報は、時間信号が、未知の周波数、振幅及び位相の複数の正弦曲線からなることを示すことができる。ベイズスペクトル推定は、周波数、振幅及び位相の推定値を提供することができる。さらに、場合によっては、先験的な情報は、時間信号がポアソンの周波数分布を有する雑音成分を含むことができることを示すことができる。ベイズ推定は、雑音成分のパラメータを判定することができる。
【0024】
上記方法の他の実施形態では、統計分析は、粒子群または遺伝的最適化法のいずれかを使用することができる。
【0025】
上記方法は、細胞(例えば、哺乳類の細胞)、微小胞、細胞断片、リポソーム、ビーズ、及び小生物を含有するサンプルなど、様々な異なるサンプルの画像を得るために、用いることができる。
【0026】
本発明の様々な態様は、以下で簡単に説明する関連性がある図面と関連させて、以下の詳細な説明を参照することによって、さらに理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態によるシステムを概略的に示す。
【
図2】Aは、ビームの伝播方向に垂直な平面のガウスビームの概略的な例示的なプロファイルである。Bは、トップハットビーム整形器によりAに示されたガウスビームを通過させ、ビーム整形器の出力ビームを集束させることによって得られる、概略的なトップハットビームプロファイルである。
【
図3】例示的なトップハットビーム整形器の構成要素を概略的に示す。
【
図4】複数のRFコームビームの断面のビームプロファイルを概略的に示す。
【
図5】
図4に示すRFコームビームと、トップハットビームプロファイルを有するLOビームとの重ね合わせを概略的に示す。
【
図6】分析中のサンプルを照射する、
図5に示された複合ビームを概略的に示す。
【
図7】仮想フルオロフォアの例示的なエネルギー準位を概略的に示す。
【
図8】
図7の仮想フルオロフォアに対応する吸収曲線を概略的に示す。
【
図9A】本教示の実施形態による検出システムを概略的に示しており、蛍光放射線を透過させるための光ファイバを含んでいる。
【
図9B】蛍光放射線が空き領域を伝播して複数の光検出器に到達する、本教示の実施形態による別の検出システムを概略的に示す。
【
図9C】本教示のいくつかの実施形態で使用するための明視野及び暗視野像生成アームを概略的に示す。
【
図9D】明視野像を生成するための検出アームと、サンプルから散乱された励起放射線の検出能力、ならびにサンプルによって放射された蛍光放射線を統合する検出アームとを含む、本教示のいくつかの実施形態で使用する検出システムを概略的に示す。
【
図10】本発明によるシステムの実施形態における光検出器によって生成された蛍光信号が、増幅器によって増幅でき、増幅された信号が分析モジュールによって分析されて分析下のサンプルの蛍光像を構築できることを概略的に示す。
【
図11A】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明の方法による様々なステップを示す。
【
図11B】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明の方法による様々なステップを示す。
【
図12】本発明の実施形態による分析モジュールの例示的なハードウェア実装の選択された構成要素を概略的に示す。
【
図13A】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明の別の方法における様々なステップを示す。
【
図13B】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明の別の方法における様々なステップを示す。
【
図14A】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明のさらに別の方法における様々なステップを示す。
【
図14B】複数のRFコームビーム及びトップハットプロファイルのLOビームからなる複合ビームでサンプルを照射することによって得られる蛍光信号の分析のための、本発明のさらに別の方法における様々なステップを示す。
【
図15A】単一励起周波数でのトップハットプロファイルのビームによるサンプルの照射を概略的に示す。
【
図15B】蛍光寿命測定及び蛍光寿命イメージングを可能にする、本教示の実施形態によるシステムの概略図である。
【
図16】Aは、本教示の実施形態によるサイトメトリーシステムを用いて得られた8つの別個のレベルの蛍光色素で染色されたポリスチレンビーズの暗視野強度対明視野強度の散布図である。Bは、複数のポリスチレンビーズによって放出された赤色蛍光(PE)対緑色蛍光(FITC)の散布図を示しており、データは、ゲートとしてAに示されるプロットの矩形断面を用いることによって得られたものである。C及びDは、Bに示すデータに対応するヒストグラムである。
【
図17A】本教示によるサイトメトリーシステムを用いて得られた抗CD45-FITC及びヨウ化プロピジウムで染色された固定末梢血白血球を含有するサンプルの明視野、暗視野及び蛍光像を示し、サンプルはまた、Calcein-AMで染色した生存HeLa細胞の画分を含んでいる。
【
図17B】集団Aが白血球を表し、集団Bがサンプル中のHeLa細胞を表す散布図であり、サンプルには
図17Aが画像をもたらしている。
【
図18A】本教示の実施形態によるサイトメトリーシステムを用いて得られた抗CD45-FITC及びヨウ化プロピジウムで染色した固定末梢血白血球を含有するサンプルの明視野、暗視野及び蛍光像を示し、それにおいてサンプルは抗EpCAM-FITC及びヨウ化プロピジウムで染色した固定MCF-7細胞の小画分が添加されている。
【
図18B】集団Aが白血球を表し、集団Bがサンプル中のMCF-7細胞を表す散布図であり、サンプルには
図18Aが画像をもたらしている。
【
図19A】調査中のサンプルの画像を再構成するために統計分析を用いるフローサイトメトリーを行うための、本教示による方法の実施形態における様々なステップを示すフローチャートである。
【
図19B】フローサイトメトリーを行うための本教示による方法の実施形態における様々なステップを示すフローチャートであり、サイトメトリー信号が複数の時間セグメントとしてモデル化され、最小2乗回帰分析がモデルのパラメータの推定値を得るために使用されている。
【
図19C】照射に応答してサンプルから得られたサイトメトリー信号からサンプルの画像を得るための、本教示による方法の実施形態における様々なステップを示すフローチャートである。
【
図19D】フローサイトメトリーを実施するための本教示による方法の実施形態における様々なステップを示すフローチャートであり、サンプルの最良適合画像を得るために、勾配降下最適化法を使用して、サンプルの画像推定を反復的に改善する。
【
図20】本教示の実施形態によるサイトメトリーシステムの様々な構成要素のモデリングを概略的に示す。
【
図21A】細長いミドリムシの細胞による光の消光及び散乱の測定値を示す。
【
図21B】
図21Aに示す信号のフーリエ成分を抽出することによる、ミドリムシの細胞の画像を示す。
【
図21C】本教示の実施形態によるシステムの励起モデル、電子的モデル及び位相応答を利用することによる、ミドリムシの細胞の改善された画像を示す。
【
図22B】
図22Aに示される信号のフーリエ係数の抽出を介して得られる画像を示す。
【
図22C】収集用電子機器の周波数応答、システムを駆動する基礎となるFIRE信号、及びシステムの位相応答に関する情報を組み込むことによって得られる、
図22Bに示された画像の改良版を示す。
【
図22D】基礎の信号のモデルと、フォトニックショット雑音の影響とを利用することによって得られる、
図22Bに示された画像の改良版を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本教示は、一般に、フローサイトメトリー、例えばサンプルの蛍光分析を実施するための方法及びシステムに関する。いくつかの実施形態では、統計的手法は、呼掛け式放射線(例えば、レーザ放射線)によるサンプルの照射に応答してサンプルから得られた、例えば時間-周波数波形の形で時間データから蛍光、明視野及び暗視野の像のいずれかを再構成する際に使用され得る。時間データは、様々な異なるシステムを使用して得ることができる。以下に開示されるいくつかの実施形態では、時間データは、無線周波数シフトされた複数のビームレットを有する光学ビームでサンプルを照射することによって生成できる。そのような実施形態の例を以下に記載するが、本発明の教示はこれらの実施形態に限定されない。
【0029】
多くの実施形態では、このような統計的手法を使用することは、再構成画像の空間分解能、強度分解能、及び/または信号対雑音比を、有利にも改善することができる。いくつかの実施形態では、例えば、信号のFFT分析を使用して、初期(シード)蛍光像、明視野像または暗視野像を再構成することができる。続いて、後述する統計的手法の少なくとも1つを画像に適用して、改良された画像を生成することができる。いくつかの実施形態では、統計的手法を用いて、モデルのパラメータを、例えば以下に説明する方法で、1つ以上の検出器によって検出される蛍光、明視野及び/または暗視野の信号に直接適合させることができる。
【0030】
本教示を記載するために以下で使用される様々な用語は、別段に記載されていない限り、当技術分野における通常の意味を有する。例えば、「フルオロフォア」という用語は、本明細書では、当技術分野における慣習的な意味と一致して、励起放射線による照射に応答して放射線を放出できる蛍光性化合物を示す。
【0031】
また、「サイトメトリー」及び「フローサイトメトリー」という用語は、当技術分野におけるそれらの通常の意味と一致して使用されている。特に、「サイトメトリー」という用語は、細胞を同定及び/または選別、さもなければ分析する技術を示すことがある。「フローサイトメトリー」という用語は、流体の流れに存在する細胞を、蛍光マーカーで標識し、放射線の励起を介して蛍光マーカーを検出することなどにより、同定及び/または選別、さもなければ分析することができるサイトメトリー技術を示すことができる。本明細書で使用される「約」及び「実質的に」という用語は、数値を含む特性に関して10%または5%の最大の変動を示す。
【0032】
「フォワードモデル」という用語は、所与のインプット(例えば、1つ以上のインプットパラメータ)に対するシステムまたはプロセスのアウトプットを数学的に予測するためのシステムまたはプロセスの数学的モデルを示す。例として、以下の実施形態のいくつかにおいて、フォワードモデルは、フローサイトメーターにおける呼掛け中のサンプルのピクセル化した画像の数学的モデルであり得、これは、サンプルから得られた時間信号を、フローサイトメーターにおけるその照射に応じて予測するために利用できる。次に、予測された時間信号と測定された時間信号との間の差を最小限にすることによって、モデルのパラメータを精緻化するために、統計分析を利用してもよい。その信号は、例えば、RF変調された照射放射線などの呼掛け式放射線による照射に応答してサンプルから放射される放射線を検出することで測定された信号が挙げられる。
【0033】
図1は、本教示の実施形態によるサイトメトリーを行うためのシステム10を概略的に示しており、このシステムは3つの動作モードで動作することができる。以下でより詳細に説明するように、1つの動作モードでは、試験中のサンプルを複数の励起周波数で同時に照射することができ、その各々は、例えばレーザビームの中心的な周波数をシフトすることで得られる。より具体的には、参照レーザビーム(本明細書では局部発振器ビームとも称される)を複数の無線周波数シフトされたレーザビームと混合することにより生成されるレーザビームによって、複数のサンプルの位置を同時に照射することができ、その結果、各サンプルの位置は、参照ビームと無線周波数シフトされたビームとのうちの1つによって照射されて、存在する場合には、その位置で対象のフルオロフォアを励起する。いくつかの実施形態では、参照ビーム自体が、レーザビームの無線周波数シフトを介して生成され得る。したがって、サンプルの各空間位置は、参照ビームの周波数と無線周波数シフトされたビームの1つの周波数との間の差に対応する異なるビート周波数で「タグ付け」することができる。言い換えれば、フルオロフォアによって発せられた蛍光放射線は、ビート周波数を空間的にコード化する。蛍光発光を検出することができ、その周波数成分を分析してサンプルの蛍光像を構築することができる。
【0034】
別の動作モードでは、サンプルは、複数の励起周波数でレーザビームによって一時的な間隔で連続して照射することができる。いくつかのこのような実施形態では、励起周波数は、レーザビームを受け取る音響光学偏向器(AOD)に時変駆動信号を印加することによって得ることができる。多くの実施形態では、レーザビームは、例えば、約300THz~約1000THzという範囲の数百テラヘルツ(THz)の範囲の周波数を有する。AODに印加される駆動信号は、典型的には、無線周波数の範囲、例えば、約10MHz~約250MHzの範囲内にある。AODを通るレーザビームの通過は、それぞれ異なる回折次数に対応する複数の回折ビームを生成する。0次回折ビームはインプットされるレーザビームの周波数に対して周波数シフトを示さないが、高次回折ビームは駆動信号の周波数またはその複合の周波数に対応したインプットされるレーザビームの周波数に対して周波数シフトを示す。いくつかの実施形態では、駆動信号によってシフトされたインプットされたレーザビームの周波数に対応する周波数を有する一次回折ビームは、分析中のサンプルに存在する場合には、対象のフルオロフォアを励起するための励起ビームとして使用される。駆動信号が時間と共に変化すると、一次回折ビームの周波数シフト及び角度シフトもまた変動し、それにより異なる位置で異なる励起周波数でのサンプルの照射が可能になる。照射された各々の位置から蛍光の放出があれば収集し、分析してサンプルの蛍光像を構築することができる。
【0035】
さらに別の動作モードでは、システム10を動作させて、単一の励起周波数によってサンプルの複数の位置を同時に照射することができ、これは、例えば、無線周波数によりレーザビームの中心周波数をシフトすることなどにより発生させることができる。例えば、サンプルの水平な広がりは、単一の励起周波数でレーザビームによって照射することができる。検出された蛍光放射線を使用して、サンプル、例えば細胞/粒子の蛍光内容物を分析することができる。
【0036】
このように、システム10の利点の1つは、後述するものの中でも特に、様々な機器を使用する必要なく、または異なる動作モード間で切り替えるときにシステムにいかなる機械的な変更をも加える必要なく、多様なモードで蛍光放出データを得る際に相当な柔軟性を付与するということである。
【0037】
特定の実施形態では、システムは、1つ以上の光源を含む。いくつかの例では、光源は、狭帯域光源、例えば非限定的に狭波長LED、1つ以上の光学バンドパスフィルタ、回折格子、モノクロメータまたは組合せて照射光の狭帯域を生成するそれらの任意の組み合わせと連結されるレーザまたは広帯域光源である。特定の例で、光源は、単一波長ダイオードレーザ(例えば、488nmレーザ)などの単一波長レーザである。いくつかの実施形態では、対象のシステムは、単一の光源(例えば、レーザ)を含む。他の実施形態では、対象のシステムは、2つ以上の異なる光源、例えば3つ以上の異なる光源、4つ以上の異なる光源、及び5つ以上の異なる光源などを含む。例えば、システムは、第1の波長をアウトプットする第1の光源(例えば、レーザ)と、第2の波長をアウトプットする第2の光源とを含むことができる。他の実施形態では、システムは、第1の波長をアウトプットする第1の光源と、第2の波長をアウトプットする第2の光源と、第3の波長をアウトプットする第3の光源とを含む。
【0038】
各光源は、300nm~1000nmの範囲、例えば350nm~950nm、例えば400nm~900nm及び450nm~850nmなどの波長を有することができる。特定の実施形態では、光源は、1つ以上のフルオロフォアの吸収最大値に対応する波長を有する(後述する)。例えば、光源は、280~310nm、305~325nm、320~350nm、370~425nm、400~450nm、440~500nm、475~550nm、525~625nm、625~675nm、及び650~750nmの1つ以上の範囲の波長を有する光をアウトプットすることができる。特定の実施形態では、各光源は、348nm、355nm、405nm、407nm、445nm、488nm、640nm及び652nmから選択される波長を有する光をアウトプットする。
【0039】
システム10は、レーザビーム14を生成するレーザ放射源12を含む。例として、レーザビームは、約1000THz~約300THzの範囲の周波数を有することができ、約300nm~約1000nmという範囲の真空の波長に対応している。レーザビームのビーム直径(例えば、ガウシアンレーザビームが使用される場合のビームウエスト)は、例えば、約0.1mm~約10mmの範囲とすることができる。一般性を失うことなく、この実施形態では、レーザ12は、約1mmのビーム直径を有する488nmの波長の放射線を放出する。
【0040】
レーザビームの周波数は、システムが意図されている特定の用途(複数可)に基づいて選択することができる。具体的には、以下により詳細に説明するように、レーザ周波数は、例えば、放射線の吸収を介して、対象のフルオロフォアの電子移行を励起して、低い周波数でフルオロフォアに蛍光放射線を放出させるために適している可能性がある。種々のレーザ源を用いることができる。このようなレーザ源のいくつかの例として、非限定的に、米国カリフォルニア州サンタクララのCoherent,Inc.により販売されているSapphire 488-SF、Genesis MX-488-1000-STM(Coherent,Inc.)、OBIS 405-LX(Coherent,Inc.)、米国カリフォルニア州サクラメントのVortran Laser Technology,Inc.により販売されているStadus 405-250、及び米国カリフォルニア州アーバインのNewport CorporationのLQC-660-110が挙げられる。本実施形態ではいずれかの一般性を失うことなく、レーザビームはその伝播方向に垂直な平面でガウス強度プロファイルを有すると仮定される。
【0041】
ミラー16は、レーザ放射ビーム14を受け取り、反射を介して音響光学偏向器(AOD)18にレーザビームを向ける。この実施形態では、AOD18は、ビーム14の伝搬方向に垂直な軸を中心としたAODの回転を可能にする、調整可能なポストホルダマウント(A)に取り付けられる。コントローラ21の制御下で動作するダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)20は、1つ以上の駆動信号をAOD18に印加することができる。例として、いくつかの実施形態では、これらの駆動信号は、約50MHz~約250MHzの周波数の範囲に及ぶことが可能である。いくつかの実施形態では、駆動信号は、約0.1MHz~約4MHzの範囲の周波数によって互いに分離されてもよい。この実施形態では、電子動力増幅器21’は、DDS20によって生成された無線周波数信号を増幅してAOD18に印加する。
【0042】
サンプルが複数の励起周波数で同時に照射される動作モードでは、RFコーム発生器20は、複数のRF駆動信号を同時にAOD18に印加する。例として、同時に印加されるRF駆動信号数は約20~約200の範囲にあることができる。レーザビームと駆動信号との相互作用は、レーザ12により発生されたレーザビームの周波数に対して駆動信号の1つに対応する周波数シフトを各々有する、角度で隔たりがある複数のレーザビームを生成する。いずれか特定の理論に限定されることなく、AODにおいて、圧電トランスデューサは、水晶などの結晶において高周波のフォノンを発生させることができ、このような高周波のフォノンによるレーザビームの光子の散乱は、周波数シフトされたレーザビームの生成をもたらし得る。これらの周波数シフトされたビーム22の1つは、本明細書では「局部発振器」(LO)ビームと称され、残りの周波数シフトされたビーム24は、本明細書では「RFコームビーム」と称される。例えば、周波数シフトされたビームの角度の隔たりは、約1ミリラジアン~約100ミリラジアンの範囲であり得る。
【0043】
LO及びRFコームビームはレンズ26を通過するが、この実施形態では、レンズは約50mmの焦点距離を有する正レンズである。レンズ26を通過した後、LOレーザビームは、LOビームを異なる方向(この実施形態ではLOビームの元の伝搬方向に実質的に直交する方向)に方向転換するミラー28によって遮断される。ミラー28は、RFコームビームに対して配置し、これらのビームがミラー28を外れて、レンズ30(この実施形態では200mmの焦点距離を有する)に伝播するようにする。このようにして、LOビーム及びRFコームビームは異なる伝播方向に向けられる。先に開示したようにピックオフミラー28を使用することにより、単一のAODを利用して、LOビームとRFコームビームとの両方を生成し、以下に説明する方法でそれらを組み合わせてサンプルを照射するための励起ビームを生成することができる。複数のAOD(例えば、LOビームを生成するためのものと、RFコームビームを生成するための他方との2つのAOD)を用いるのではなく、単一のAODを使用することにより、システムの設計が単純化され、さらに、以下により詳細に説明するように、複数の別個の動作モードのシステムを有効に使用できるようにする。
【0044】
いくつかの実施形態では、LOビームのビームプロファイルは、RFビームコムと再結合する前に修正される。例えば、LOビームのビームプロファイルは、空間的な次元、ビームの形状、強度、ビームの空間分布、またはそれらの任意の組み合わせにおいて調整(増加または減少)することができる。特定の実施形態では、LOビームのビームプロファイルの空間的な次元が修正される。例えば、ビームプロファイルは、流れの縦軸に直交する長手方向軸のように、ビームプロファイルを1つ以上の次元で引き延ばすように調整することができる。これらの実施形態による一例では、ビームプロファイルの(例えば、1つ以上の次元における)空間的な次元は、1%以上、例えば2%以上、例えば3%以上、例えば5%以上、例えば10%以上、例えば25%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば25%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば1.5倍以上、例えば2倍以上、例えば3倍以上及び5倍以上など増加し得る。これらの実施形態による別の例では、ビームプロファイルの(例えば、1つ以上の次元における)空間的な次元は、1%以上、例えば2%以上、例えば3%以上、例えば5%以上、例えば10%以上、例えば25%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば1.5倍以上、例えば2倍以上、例えば3倍以上及び5倍以上など減少し得る。
【0045】
他の実施形態では、LOビームのビーム形状が修正される。例えば、ビーム形状は、ビームプロファイルを1つ以上の次元で引き延ばすように修正することができる。特定の例では、LOビームのビーム形状は、LOビームの伝播に垂直な平面で引き延ばされる。特定の実施形態では、LOビームプロファイルの形状は、円形のビームプロファイルから、流れの長手方向軸に直交する軸において引き延ばされた楕円形のビームプロファイルに変更される。他の実施形態では、LOビームプロファイルの形状は、円形のビームプロファイルから、流れの長手方向軸に直交する軸において長い次元の矩形のビームプロファイルに変更される。さらに他の実施形態では、LOビームの強度が変更される。例えば、LOビームの強度は、1%以上、例えば2%以上、例えば3%以上、例えば5%以上、例えば10%以上、例えば25%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば1.5倍以上、例えば2倍以上、例えば3倍以上、及び5倍以上など増加し得る。特定の実施形態では、LOビームの強度は、RFコームビームの強度に一致するように修正される。例えば、LOビームは、RFコームビームの強度と10%以下、例えば9%以下、例えば8%以下、例えば3%以下、例えば2%以下、例えば1%以下、例えば0.01%以下異なる強度を有してもよく、LOビームの強度がRFコームビームと0.001%以下異なる場合を含めてよい。特定の例では、LOビーム及びRFコームビームの強度は同一である。
【0046】
さらに他の実施形態では、ビームプロファイルの空間的な分布も修正することができる。例えば、LOビームは、LOビームの強度がもはや1つ以上の次元においてガウス型ではなくなるように修正してもよい。例えば、LOビームは、流れの長手方向軸に平行であり、流れの長手方向軸に直交する第2の軸に沿って非ガウス分布である第1の軸に沿ってガウス分布を有するように修正されてもよい。
【0047】
屈折及び回折ビーム整形プロトコルを含むがこれに限定されないLOビームのビームプロファイルを修正するために、任意のビーム整形プロトコルを使用することができる。いくつかの実施形態では、LOビームはトップハットビーム整形器によって修正される。
【0048】
この実施形態では、LOビームは別の正レンズ32(この実施形態では約200mmの焦点距離を有する)に伝搬する。レンズ26とレンズ32との組み合わせはLOビームを拡大及びコリメートし、トップハットビーム整形器34の後ろ側の開口を概ね満たすようにする。より具体的には、LOビーム22は、レンズ32を通過し、ミラー33及び35によって反射されて、トップハットビーム整形器34に至る。
【0049】
トップハットビーム整形器34は、トップハット強度プロファイルの整形を可能にするために、ガウスLOビームの同位相波面を整形する。より詳細には、トップハットビーム整形器を出るLOレーザビーム22’は、ビームスプリッタ44によって反射され、レンズ46(この実施形態では100mmの焦点距離を有する)によって中間像面48上に集束される。中間像面48でのレーザビームは、ビームの伝播方向に垂直な平面で水平方向に沿ったトップハット強度プロファイルを有する。この実施形態では、AOD18と同様に、ビームスプリッタ44は調整可能なポストホルダマウント(B)に取り付けられている。この実施形態では、トップハットビーム整形器は、放射の偏光がビームのトップハット方向に沿って(この実施形態では水平方向に沿って)実質的に均一であるトップハットビームプロファイルを生成する。
【0050】
例証として、
図2Aは、トップハットビーム整形器に入るときのLOレーザビームのガウス強度プロファイルを概略的に示す。
図2Bに概略的に示すように、中間像面48では、LOレーザビームは水平方向(この例証では紙面に垂直な方向)に伸長し、水平線Aなどのプロファイルを通って延びる各水平線に沿って実質的に一定であるが、ガウスプロファイルに従って垂直に変化するビームプロファイルを示す。
【0051】
様々なトップハットビーム整形器を使用することができる。例えば、非球面または回折光学素子を有する屈折光学素子は、レンズによって集束された後に、レンズの焦点面にトップハットのプロファイルのパターンを生成する適切な空間的同位相波面を有するビームを生成するために使用することができる。このようなトップハットビーム整形器には複数のフォームファクタが存在し、この教示の様々な実施形態においてサンプルに適切なLOビームの形状を生成するために、このアプローチの様々な実施態様が利用可能である。例えば、いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる「Refractive optical system that converts a laser beam to a collimated flat-top beam」と題する米国特許第6,295,168号と、「Rectangular flat-top beam shaper」と題する米国特許第7,400,457号とは、本教示のいくつかの実施形態によるシステムにおいてフラットトップビーム整形器として使用することができるビーム整形システムを開示している。例証として、
図3は米国特許第7,400,457号の
図1を再現したものであり(参照符号は異なる)、それは直交する2つの非シリンドリカルレンズ302、304を含む正方形または矩形のビームを提供するためのビーム整形システム300を概略的に示す。第1の非シリンドリカルレンズ302は、X軸に沿った入射ビームAを整形するためのもので、第2の非シリンドリカルレンズ304は、Y軸に沿った入射ビームAを整形するためのものである。2つの交差した非シリンドリカルレンズは、X軸に沿ったフラットトッププロファイルを有する、得られる矩形のレーザビームBを提供するように適合される。非シリンドリカルレンズ302のインプット面302aは、表面の中心が小さく、レンズの両方のX先端に向かって緩やかに増加する可変の曲率半径を有する凸状の円筒面である。第2の非シリンドリカルレンズ304は、第1の非シリンドリカルレンズと類似しているが、Y軸に沿ってビームを整形するために、レンズ302に対して直角に配置される。レンズ302及び304のインプット面302a/304a及びアウトプット面302b/304bのプロファイルは、入射ビームAのX及びYプロファイルと、得られた矩形ビームBの所望の強度プロファイルとの関数として独立して選択することができる(例えば、当該特許の第5欄及び第6欄を参照)。
【0052】
使用可能な市販のトップハットビーム整形器の例としては、例えば、カナダのラチネのOsela,Inc.が販売するDTH-1D-0.46deg-4mmが挙げられる。
【0053】
以下により詳細に説明するように、水平方向に沿ってLOビームを伸張するためにビーム整形器を使用すると、複数の利点が得られる。例えば、確実にLOビームとRFコームビームとの組み合わせが実質的に類似した照射の強度で複数のサンプルの位置を照射するようにし、サンプルの位置全体にわたってLOビームとRFコームビームとの強度を一致させて、それにより、高次の変調深度を有する蛍光信号の強度振幅変調を生成することができる。このような強度の整合がない場合、画像化システムは視野が小さく、AODを駆動する周波数(ピクセル)のすべては利用できない。蛍光信号の変調の深度は、サンプルの蛍光像を再構成するシステムの能力において重要な役割を果たすので、全ピクセルにおける励起ビート周波数の一様に高次である変調の深度は、システムの動作に対し特に有効である。さらに、RFコームビームを生成するためにAODに印加される電気信号の振幅は、RFコームビームを等化するためにダイレクトデジタルシンセサイザのアウトプットを(例えば、コントローラ21を用いて)制御することによって調整することができ、その結果RFコームビームとLOビームとが重なり合うすべての空間的な位置にわたってRFコームビームの強度がLOビームのビーム強度に等しくなる。この特徴は、蛍光放射線の強度振幅変調の高い変調深度を保証するという利点をもたらす。
【0054】
再び
図1を参照すると、RFコームビーム24は、レンズ26及び30の組み合わせを介して中間像面38に画像化される。より具体的には、RFコームビーム24は、レンズ26を通過し、ミラー28を外れてレンズ30に到達する。それはミラー40及び42を介して中間像面38にRFコームビームを導く。
【0055】
図4は、中間像面38における例示的な数のRFコームビームの分布を概略的に示している(一般性を失うことなく、RFコームビームの数は、例証の目的のために6つに選択される(RF1、...、RF6と分類)、ただし他の数字も使用することができる)。
図4に示すように、中間像面38において、RFコームビーム24は、水平方向に沿って互いに空間的に隔てられている。他の実施形態では、RFコームビーム24のうちの2つ以上が部分的に重なってもよい。したがって、レンズ26及び30の組み合わせは、角度において隔たりがあるRFコームビームを、水平方向に広がる、空間的に隔たりがあるビームのセットに変換する。
【0056】
再び
図1を参照すると、上述のように、ビームスプリッタ44は、トップハットビーム整形器34から出るレーザビーム22’を受け取り、そのビームをレンズ46に反射させ、それが次にビームを中間像面48に集束させ、LOビームがトップハットビームプロファイルを呈する。ビームスプリッタはまた、中間像面38からRFコームビーム24を受け取り、それをRFコームビームが通過できるようにする。レンズ46は、RFコームビーム24を中間像面48上に集束させて、トップハットビームプロファイルを有するLOビームと結合して、結合ビーム49を生成する。
【0057】
例証として、
図5は、その伝搬軸に垂直な平面において結合させたビーム49の1つの例示的なプロファイルを概略的に示す。結合させたビームの強度プロファイルは、トップハットLOビーム(四角形で概略的に示す)の強度プロファイルとRFコームビーム24(それぞれ円の1つで概略的に示す)の強度プロファイルとの重ね合わせとして生成される。以下でより詳細に説明するように、LOビームとRFコームビームとのこの重ね合わせは、水平の広がりに沿って、その水平の広がりに沿った1つの空間的な位置にそれぞれ対応する複数のビート周波数を提供する。サンプルの水平の広がりを照射すると、サンプルの位置から放射された蛍光放射線は、振幅の変調を介して、その位置を照射する放射線に関連するビート周波数をコード化する。
【0058】
再び
図1を参照すると、この実施形態では調整可能なポストホルダマウントCに取り付けられた正レンズ50(この実施形態では200mmレンズ)及び対物レンズ52は、フローセル54に流れるサンプル上に中間面48で像を中継するべく望遠鏡を形成する。この実施形態では、ミラー56がレンズ50に複合ビーム49を反射させ、ダイクロイックミラー58が、レンズ50から通過した後に結合された光ビームを対物レンズ52に向かって反射する。
【0059】
図6に概略的に示すように、複合ビーム49は、フローセル54を通って流れるサンプル62の複数の空間的な位置60を同時に照射する。したがって、各位置60は、RFコームビームの1つと、トップハット形状のLOレーザビームの一部との重なり合いにより照射される。これらの空間的な位置では、放射線は、存在する場合にはサンプルにおける対象のフルオロフォアを励起する。より具体的には、この実施形態では、LOビーム及びRFコームビームは、複数のサンプルの位置60において、例えば励起された電子状態への電子移行を引き起こすことによってフルオロフォアを同時に励起する。
【0060】
いくつかの実施形態では、サンプルは、複数の細胞が同伴される流動的な流体を含むことができる。場合によっては、細胞を1つ以上の蛍光マーカー(フルオロフォア)で標識することができる。蛍光マーカーの一部の例は、非限定的に蛍光性タンパク質(例えば、GFP、YFP、RFP)、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート)(FITC)、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC))で標識された抗体、核酸染色(例えば、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、SYTO16、ヨウ化’プロピジウム(PI))、細胞膜染色(例えば、FMI-43)、及び細胞機能色素(例えば、Fluo-4、Indo-1)を含む。他の場合には、細胞に存在する内在性フルオロフォアを用いて、細胞から蛍光放射線を引き出すことができる。以下でより詳細に述べるように、このような外因性または内在性フルオロフォアは、照射放射に応答して電子励起を受け、蛍光放射線を放出(典型的には励起周波数より低い周波数で)し、それが収集及び分析される。
【0061】
例証として、いかなる特定の理論にも限定されるものではないが、
図7は、基底電子状態Aに対応する仮定上のエネルギー準位、ならびにフルオロフォアの2つの電子励起電子状態B及びCを示す。フルオロフォアは、放射線エネルギーの吸収を介してその基底電子状態(A)から励起電子状態(B)に励起することができる。次いで、フルオロフォアは、フルオロフォアの振動モードによって媒介される低放射移行を介して、より低次の励起状態Bに緩和し得る。フルオロフォアは、光学上の移行を介して低次の電子状態Cから基底状態にさらに緩和することが可能であり、それにより励起周波数より低い周波数で蛍光放射線を放出する。この仮説の例は、説明のみを目的として提示したものであり、蛍光放射線を放出できる唯一のメカニズムを示すものではないことを理解されたい。
【0062】
多くの場合、フルオロフォアは、基底状態から励起電子状態に励起される周波数の範囲にわたって電磁放射線を吸収することができる。例証として、
図8は、
図7に関連して論じた仮定上のフルオロフォアの吸収曲線を示す。本教示による実施形態の一実施態様では、LO周波数は、対象のフルオロフォアの吸収のピークに対応する周波数と一致するように選択することができる。無線周波数シフトされたビームは、それぞれのビート周波数によって吸収のピークと隔たる周波数を有することができる。典型的には、これらの周波数の隔たりは、励起周波数のいずれかの劣悪化を回避するためにフルオロフォアの吸収帯域幅と比較して小さいものにする。例として、また例証のみとして、破線A及びBは、LOビーム及びRFコームビームの1つの周波数を概略的に示す(説明を簡単にするために図は縮尺通りに描いていない)。LOレーザビームと描かれたRFコームビームの1つとの両方によるサンプルの空間的な位置の同時照射は、LOビームとRFコームビームとの周波数の差に対応するビート周波数での振幅の変調を示す蛍光放射線をもたらす。
【0063】
やはり例証として、またいずれか特定の理論に限定されることなく、LOビームとRFコームビームの1つとの同時照射によってフルオロフォアに印加される電界は、以下のように数学的に定義することができる。
【0064】
【0065】
式中、
Ecomは、複合ビームの電界を示し、
ERFは、RFコームビームの1つに関連する電界の振幅を示し、
ELOは、LOビームに関連する電界の振幅を示し、
ω0は、レーザ12で発生するレーザビームの周波数を示し、
ωRFは、RFコームビームに関連する周波数シフトを示し、
ωLOは、LOビームに関連する周波数シフトを示す。
【0066】
LO及びRFコームビームの電界の重ね合わせに応答して放出される蛍光放射線の強度は、(ωRF-ωLO)に対応するビート周波数で変調を示す。したがって、LOビームとRFコームビームの1つとの重ね合わせによって照射されるサンプルの各々の空間的な位置から放射される蛍光放射線は、その空間的な位置を照らすLOビームに関連する無線周波数シフトとRFコームビームに関連する無線周波数シフトとの差に対応するビート周波数での変調を示す。
【0067】
蛍光発光のプロセスは有限の時間(一般的な有機フルオロフォアでは典型的に1~10ナノ秒)を必要とするので、励起ビート周波数が高すぎると放出される蛍光は高い変調深度を示さない。したがって、多くの実施形態において、励起ビート周波数は、1/τf よりも大幅に小さくなるように選択され、この場合、τf はフルオロフォアの特徴的な蛍光寿命である。いくつかの例では、励起ビート周波数は、1%以上、例えば2%以上、例えば3%以上、例えば5%以上、例えば10%以上、例えば25%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば1.5倍以上、例えば2倍以上、例えば3倍以上及び5倍以上など、1/τf より小さくてもよい。例えば、励起ビート周波数は、0.01MHz以上、例えば0.05MHz以上、例えば0.1MHz以上、例えば0.5MHz以上、例えば1MHz以上、例えば5MHz以上、例えば10MHz以上、例えば25MHz以上、例えば50MHz以上、例えば100MHz以上、例えば250MHz以上、例えば500MHz以上及び750MHz以上など、1/τf より小さくてもよい。いくつかの実施形態では、光検出器は、照射されるサンプルからの光(例えば、蛍光などの発光)を検出するように構成される。いくつかの実施形態では、光検出器は、1つ以上の検出器、例えば2つ以上の検出器、例えば3つ以上の検出器、例えば4つ以上の検出器、例えば5つ以上の検出器、例えば6つ以上の検出器、例えば7つ以上の検出、及び8つ以上の検出器などを含み得る。任意の光検出プロトコルを使用することができ、例えば非限定的に、アクティブピクセルセンサ(APS)、象限フォトダイオード、イメージセンサ、電荷結合素子(CCD)、増強電荷結合素子(ICCD)、発光ダイオード、フォトンカウンタ、ボロメーター、焦電素子、フォトレジスタ、光起電力セル、フォトダイオード、光電子増倍管、フォトトランジスタ、量子ドット光伝導体またはフォトダイオード、及びそれらの組み合わせのような他の光検出器が、他の光検出器の中でも挙げられる。いくつかの実施形態では、対象の光検出器は、350nm~1200nm、例えば450nm~1150nm、例えば500nm~1100nm、例えば550nm~1050nm、例えば500nm~1000nm及び400nm~800nmなどの範囲の光を検出するように構成されている。特定の実施形態では、光検出器は、例えば395nm、421nm、445nm、448nm、452nm、478nm、480nm、485nm、491nm、496nm、500nm、510nm、515nm、519nm、520nm、563nm、570nm、578nm、602nm、612nm、650nm、661nm、667nm、668nm、678nm、695nm、702nm、711nm、719nm、737nm、785nm、786nm、または805nmの発光の最大放出で光を検出するように構成される。
【0068】
いくつかの実施形態では、サンプルによって放射された蛍光放射線は、様々な異なる方法で、例えば励起ビームの伝搬方向に垂直な光路に沿って収集することができる。他の実施形態では、蛍光放射線が外方向で検出される。
【0069】
再び
図1を参照すると、この実施形態では、照射されるサンプルに存在する1つ以上のフルオロフォアにより放射された蛍光放射線は、対物レンズ52を通過し、ダイクロイックミラー58を透過して光検出器64に到達する。より具体的にはこの実施形態では、レンズ65はダイクロイックミラー58を透過した蛍光放射線をスリット開口66上に集束させる。スリットを透過した蛍光放射線は蛍光放射フィルタ68を通過して光検出器64に達する。スリット開口66(または後述する他の実施形態では光学フィルタ)は、光検出器の前面に配置されており、面外の蛍光放射線を阻止しながら、実質的にサンプルの特定の平面から放射される蛍光放射線の通過を可能にする。さらに、蛍光放射フィルタ68、例えば通過帯域フィルタは、他の周波数での放射線の通過を実質的に阻止しながら、蛍光放射線の光検出器64への通過を可能にする。
【0070】
光検出器64は、ビート周波数の全範囲から信号を検出して送信するために十分なRF帯域幅を有する。適切な光検出器のいくつかの例には、とりわけ、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード、及びハイブリッド光検出器が含まれるが、これらに限定されない。例として、いくつかの実施形態では、Hamamatsu Corporationによって市販されている光電子増倍管(例えば、R3896、R10699、H11462)を使用することができる。光検出器は、受信した蛍光放射線の検出に応答して、信号、例えばこの実施形態ではアナログ信号を生成する。
【0071】
別の例として、
図9Aを参照すると、LOビームと空間的に隔てられたRFコームビームとの同時照射に応答してサンプルから放射された蛍光放射線は、対物レンズ52及びダイクロイックミラー58を通過し、レンズ100を介してマルチモード光ファイバ102上に結合されており、そのファイバは近位端102aから遠位端102bまで延在する。より具体的には、光ファイバ102の近位端102aが、蛍光放射線を受け取るように、レンズ100の焦点面の近傍に配置される。光ファイバの遠位端102bに連結された蛍光取り出しレンズ104は、ファイバを出る放射線をコリメートする。
【0072】
多くの場合、サンプルを照射する励起放射線は、励起周波数がサンプルの複数のフルオロフォアの吸収スペクトル内に入るように、十分広い放射線吸収スペクトルを有することができる複数のフルオロフォア(例えば、有機フルオロフォア)を励起する。その時、各フルオロフォアは多様な周波数で蛍光放射線を発する。一般性を失うことなく、例証の目的で、この実施形態では、検出システムは、4つの光電子増倍管106、108、110、及び112を含み、それぞれが図解している例の励起放射線によって励起される4つのフルオロフォアの1つによって放射される蛍光放射線に対応するコリメートされた放射線の一部を受け取る。より具体的には、ダイクロイックミラー114は、第1の周波数でフルオロフォアの1つによって放射された蛍光放射線を光電子増倍管106に反射し、他の周波数での蛍光放射線は通過させる。別のダイクロイックミラー116は、異なる第2の周波数が異なるフルオロフォアによって発せられた蛍光を光電子増倍管108に反射する一方で、第3の周波数のさらに別のフルオロフォアによって発せられた蛍光放射線を含む放射線の残りを、第3のダイクロイックミラー118に届かせ、それがその蛍光放射線を光電子増倍管110に反射させる。ダイクロイックミラー118は、第4の放射周波数で第4のフルオロフォアによって放射された蛍光放射線を含む放射線の残りを通過させて光電子増倍管112に到達させる。
【0073】
4つの蛍光周波数のうちの1つを中心とする複数のバンドパスフィルタ120、122、124及び126が、光電子増倍管106、108、110及び112の前にそれぞれ配置されている。各光電子増倍管によって検出された信号は、後述するように分析されて、それぞれの蛍光周波数で蛍光像を生成する。いくつかの実施形態では、複数の光検出器を用いるのではなく、単一の光検出器、例えば単一の光電子増倍管を使用して蛍光放射線、例えば単一のフルオロフォアからの放射に対応する蛍光周波数を検出することができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、サンプルがフローセルを流れるとき、サンプルの異なる水平の列が照射され、各々の水平の列に関連する蛍光放射線が光電子増倍管106、108、110及び112などの1つ以上の光検出器によって検出される。
【0075】
図9Bは、
図9Aに関連して上述したものと同様の検出システムを概略的に示す。ただし、この検出システムでは、光ファイバを用いるのではなく、ダイクロイックミラー58を通過した複数のフルオロフォアからの蛍光放出を含む蛍光放射線が、空き領域を伝播して光電子増倍管106、108及び112に到達する。より具体的には、レンズ100は、レンズ100と104との間に配置された開口126上に蛍光放射線を集束し、開口は、焦点外放射線を阻むことができる。レンズ104は、開口を通過する放射線をコリメートし、コリメートされた放射線は、
図9Aに関連して上述した方法で、光電子増倍管間で分配される。
【0076】
いくつかの実施形態では、システム10は、励起放射線を使用してサンプルの暗視野及び明視野の像(サンプル不存在下でのフローセルの画像)を提示するように構成することができる。例として、
図9Cは、サンプルの暗視野及び明視野の像をそれぞれ検出するための2つの検出アーム200及び202を含むシステム10の実施形態を概略的に示す。
【0077】
より具体的には、検出アーム200は、フローセルを流れるサンプルによって散乱される励起放射線の一部を受け取るように、励起放射線の伝搬に対して垂直に配置される。検出アーム200は、サンプルによって散乱された励起放射線の少なくとも一部を、レンズ204によって光電子増倍管208に入射された立体角に集合的に向ける2つのレンズ204及び206を含む。より具体的には、レンズ204は、受け取った散乱放射線をコリメートし、レンズ206がコリメートされた散乱放射線を光電子増倍管208に集束させる。この実施形態では、適切なバンドパスフィルタ210が、光電子増倍管208の前に配置され、所望の周波数を有する放射線が光電子増倍管208へと通過することを可能にする一方、望ましくない周波数の放射線を阻止する。光電子増倍管208のアウトプットは、例えば暗視野像を生成するために以下に説明するような分析モジュールによって、当技術分野で知られている方法で処理することができる。
【0078】
検出アーム202は、順に2つのレンズ212及び214を含み、レンズ212は、フローセルを出る励起放射線を順方向に(実質的に、フローセル54に入る励起放射線の伝播方向に沿って)コリメートし、レンズ214はコリメートされた放射線を光検出器216に集束させる。光検出器の前に配置されたバンドパスフィルタなどの適切なフィルタ218は、励起周波数を光検出器216に伝達させる一方で、実質的に他の放射周波数を阻止する。光検出器216のアウトプットは、フローセルの明視野像を生成するために当技術分野で知られている方法で処理することができる。
【0079】
このように、検出アーム200は、細胞を流れる流体によって散乱された励起放射線を検出し、検出アーム202は、フローセルを透過する励起放射線を検出する。流体がフローセルを流れていないとき、光電子増倍管208によって検出される信号は低く、光検出器216によって検出される信号は高い、なぜならばフローセルを通過する励起放射線の散乱がほとんどなく、したがって、励起放射線は多くの割合、またいくつかの場合にはすべてがフローセルを透過するからである。対照的に、フローセルを通る流体サンプルの流れは、光電子増倍管208によって生成された信号を、サンプルによる励起放射線の一部の散乱により増加させることができ、光検出器216によって生成された信号は、フローセルを透過する励起放射線のレベルが低下するので減少する。
【0080】
さらなる例として、また
図9Dを参照すると、本教示によるシステムの一実施形態では、励起放射線の伝搬方向と実質的に直交する方向にフローセル54に対して配置された検出アーム220aは、サンプルの複数のフルオロフォアにより放出される蛍光放射線、ならびにサンプルによって散乱される励起放射線の双方を検出するための光検出器を含む。より具体的には、検出アーム220は、集束されていない放射線を阻止する開口226に蛍光放射線ならびに散乱された励起放射線を導くレンズ222及び224を含む。レンズ228は、開口を通過する放射線をコリメートする。ダイクロイックミラー230は、暗視野像を検出するために励起周波数の放射線の一部を光電子増倍管232に反射させる一方、蛍光放射線を通過させる。光電子増倍管232の前に配置された適切なフィルタ232a、例えばバンドパスフィルタは、励起周波数の放射線を光電子増倍管232に通過させる一方、不要な放射周波数を阻止する。別のダイクロイックミラー234は、第1の周波数のフルオロフォアによって放出された蛍光放射線を光電子増倍管236に反射する一方で、他の周波数で他のフルオロフォアによって放出される蛍光放射線の通過を可能にする。別のダイクロイックミラー238は、第2の周波数で別のフルオロフォアによって放出された蛍光放射線を光電子増倍管240に反射する一方で、光電子増倍管242によって検出される、第3の周波数でさらに別のフルオロフォアから放出される蛍光放射線の通過を可能にする。先行の実施形態と類似して、複数のフィルタ236a、240a、及び242aが、光電子増倍管236、240、及び242の前にそれぞれ配置され、望ましくない放射周波数を実質的に阻止しながら所望の周波数の放射線を透過させる。
【0081】
引き続き
図9Dを参照すると、本教示によるシステムのこの実施態様は、例えば、
図9Cに関連して説明した方法で明視野像を生成するための別の検出アーム220bをさらに含む。より具体的には、検出アーム202は、励起放射線の明視野像を生成するために光を光検出器216に集束する2つのレンズ212及び214を含む。フィルタ218、例えばバンドパスフィルタが光検出器216の前に配置され、不要な放射周波数を排除しながら励起放射線を検出器に通過させる。
【0082】
再び
図1及び
図10を参照すると、この実施形態では、トランスインピーダンス増幅器70を光検出器64のアウトプット(または
図9A~
図9Dに関連して説明した光検出器のそれぞれ)に結合して光検出器によって生成された信号を増幅することができる。データ分析ユニット72(本明細書では、分析モジュールまたは分析装置とも称される)は、増幅された信号を受信し、その信号を分析してサンプルの蛍光像を生成する。データ分析ユニット72は、ハードウェア、ファームウェア、及び/またはソフトウェアで実施することができる。例として、検出された蛍光データを分析する方法は、プロセッサの制御下でアクセスされる分析モジュールのROM(read-only-memory)ユニットに記憶して、受信された蛍光信号を分析することができる。
【0083】
以下により詳細に説明するように、分析方法は、時間変化する光検出器のアウトプットの周波数成分を判定し、それらの周波数成分に基づいてサンプルの蛍光像を構築する。光検出器のアウトプットの周波数内容を判定するため様々な方法を用いることができる。そのような適切な方法のいくつかの例には、フーリエ変換、ロックインでの検出、フィルタリング、I/Q復調、ホモダイン検出、及びヘテロダイン検出が含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
例として、
図11A及び
図11Bは、サンプルの蛍光像を生成するために分析モジュール72によって実行され得る例示的な分析ステップを示す。ステップ(1)では、アナログ増幅信号をデジタル化してデジタル化された蛍光データを生成する。ステップ(2)では、デジタル化されたデータの適切な部分(長さ)が分析のために選択される。例えば、サンプルの照射された列(本明細書ではフレームとも称される)に対応する蛍光データを分析のために選択することができる。あるいは、データフレームの一部を分析のために選択することができる。
【0085】
ステップ(3)では、選択されたデータのフーリエ変換が行われる。例として、いくつかの実施形態では、データの周波数成分を判定するために、データの高速フーリエ変換(FFT)が実行される。いくつかのそのような実施形態では、FFTのビンは、データ取得のために選択された周波数に対応させることができる。例えば、256MHzのサンプリングレートの場合、256個のサンプルが、例えばDCから128MHzまで、互いに1MHzだけ分離された周波数ビンを生成することができる。FFT分析により、放出された蛍光放出が振幅変調を示すビート周波数に対応する周波数が得られる。
【0086】
引き続き、
図11A及び
図11Bを参照すると、この実施形態では、ステップ(4)において、FFTデータに存在する各周波数成分の振幅の尺度は、その周波数成分の実数成分と虚数成分との2乗の和の平方根を得ることにより計算する。各周波数成分は、サンプルの特定の位置から蛍光放射線を引き出すために使用されるビート周波数の1つに対応するので、周波数成分の振幅の尺度は、その周波数成分に関連する位置のピクセルの値を水平な列のサンプルに沿って提供できる。このようにして、サンプルの水平な列の画像のピクセルの値を判定することができる。サンプルがフローセルを垂直方向に流れるため、サンプルの各々の水平の列について得られた蛍光データに対して、上記のステップを繰り返すことができる。ピクセルの値を用いて蛍光像を構築することができる(ステップ5)。
【0087】
上述したように、分析モジュール72は、当技術分野で知られている技術を用いて、本教示に従って、ハードウェア、ファームウェア、及び/またはソフトウェアで実施することができる。例として、
図12は、分析器72の例示的な実施態様を概略的に示しており、それは増幅された蛍光信号を増幅器70から受信し、その信号をデジタル化して、デジタル化された蛍光データを生成するためのアナログ/デジタル変換器74を含む。分析モジュールは、計算及び論理演算の実行を含む分析モジュールの動作を制御する中央処理装置(CPU)76をさらに含む。分析モジュールはまた、ROM(読出し専用メモリ)78、RAM(ランダムアクセスメモリ)80及び永久メモリ82を含む。通信バス84は、CPU76と他の構成要素との間の通信を含む分析モジュールの様々な構成要素間の通信を容易にする。メモリモジュールは、蛍光データ及び分析結果を分析するための命令を記憶するために使用できる。例として、いくつかの実施形態では、データ分析用の命令、例えば、
図11A及び
図11Bに関連して説明した上記のステップを実行するための命令がROM78に記憶できる。CPUは、ROM78に記憶された命令を使用して、RAM80に記憶されたデジタル化された蛍光データを操作して、サンプルの蛍光像(例えば、一次元または二次元の画像)を生成することができる。CPUは、永久記憶装置82、例えばデータベースの蛍光像の記憶を行うことができる。
図12に概略的に示すように、分析モジュールは、受信したデータ(例えば、蛍光データ)からピクセルの強度及び他の量の計算を実行するためのグラフィックス処理ユニット(GPU)76’を任意に含むことができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、光検出器によって生成されたアウトプット信号の周波数の復調は、ロックイン検出技術を使用して達成することができる。例として、
図13A及び
図13Bを参照すると、このような1つの実施形態では、増幅された蛍光信号をデジタル化して(ステップ1)、デジタル化された蛍光信号の数個のコピーを生成して(ステップ2)おり、この場合デジタル化されたコピーの数(N)は、RFコームビームに関連付けられている周波数の数に対応している。信号の各デジタル化されたコピーは、RFコームビームの1つ及びLOビームの周波数の差に等しいビート周波数に対応する周波数を有する正弦曲線及び余弦曲線と乗算されて、複数の中間信号を生成する(ステップ2)。各中間信号がローパスフィルタを通過し(ステップ3)、それはRFコーム周波数間の周波数間隔の半分に等しい帯域幅を有する。
【0089】
RFコーム周波数の1つに対応する各ビート周波数(換言すれば、照射されるサンプルの空間的な位置に対応する各周波数)に対して、その周波数に対応する、2つのフィルタリングされた中間信号の2乗の和の平方根は、LOビーム及び当該の周波数を有するRFコームビームによって照射されるサンプルの位置に対応する画像のピクセルの振幅の尺度として得られる(ステップ4)。いくつかの実施形態では、同じビート周波数に対応する(すなわち、同じサンプルの位置に対応する)複数の蛍光データ信号を上述の方法で処理することができ、ピクセルの値を平均して平均ピクセルの値を得ることができる。
【0090】
サンプルがフローセルを垂直方向に流れるときに、サンプルの各々の水平の列について得られた蛍光データに対して、上記のステップを繰り返すことができる。ピクセルの値を用いて蛍光像を構築することができる(ステップ5)。
【0091】
上記のロックインの検出方法は、ソフトウェア、ファームウェア及び/またはハードウェアで実施することができる。例として、一実施形態では、特に、6種を超える周波数が使用される場合、上記のロックイン検出方法は、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)を使用して実施することができる。いくつかの実施形態では、スイスのチューリッヒのZurich Instrumentsが販売するHF2L-MF多周波増幅器のような多周波数ロックイン増幅器を使用することができる。
【0092】
さらなる例として、いくつかの実施形態では、検出された蛍光信号の周波数の復調は、バンドパスフィルタベースの画像復調技術を使用することによって達成することができる。
図14A及び
図14Bを参照すると、このような周波数復調法の一実施形態では、光検出器64及び増幅器70によって提供される蛍光信号をデジタル化し(ステップ1)、デジタル化した信号の幾つかのコピーを生成し(ステップ2)、この場合デジタル化したコピーの数(N)は、RFコームビームに関連する周波数の数に対応する。デジタル化された蛍光信号の各コピーは、その信号をRFコームビームの1つに関連するビート周波数(すなわち、サンプルの特定の位置に関連するビート周波数)を中心とするバンドパスフィルタに通すことによってフィルタリングされる(ステップ3)。より具体的には、バンドパスフィルタは、N個のビート周波数のうちの1つの中心に位置し、隣り合うビート周波数間の周波数間隔の半分に等しい帯域幅を有する。
【0093】
各ビート周波数における包絡線検波器を用いて、各水平ラインについて、その周波数に対応する各ピクセルの振幅を推定する(ステップ4)。場合によっては、当該のピクセルに関連するサンプルの位置に対応する複数の蛍光信号を処理することによって得られたピクセルに対応する複数のピクセルの値を平均化して、平均ピクセルの値が得られる。サンプルがフローセルを垂直方向に流れるとき、サンプルの各々の水平の列について得られた蛍光データに対して上記のステップを繰り返すことができる。ピクセルの値は、サンプルの一次元または二次元の蛍光像を構築するために使用することができる(ステップ5)。
【0094】
また、分析モジュールは、明視野像及び暗視野像のデータを受信及び処理するように構成できる。例えば、
図9C及び
図10を参照すると、分析モジュール72は、暗視野像及び明視野像を生成するために、光検出器208及び218から暗視野像及び明視野像のデータを受信するようにさらに構成することができる。例えば、
図12を参照すると、暗視野及び明視野像を生成するための命令は、例えば、当技術分野で公知の方法で、永久メモリ82に記憶することができる。プロセッサ76は、これらの命令を使用して、受信した暗視野像及び明視野像のデータを処理して画像を生成することができる。分析モジュールは、例えば蛍光像、明視野像及び暗視野像の一方または両方を重ね合わせることによって複合画像を生成するように構成することもできる。
【0095】
上記のシステム10のような、本教示によるシステムによって生成された蛍光像ならびに明視野像及び暗視野像は、異なる様々な方法で使用することができる。例えば、蛍光像は、従来のフローサイトメーターによって生成されたデータと同等な値を生成するために統合することができる。蛍光像はまた、当該の像を生じる蛍光プローブの位置を判定するために分析され得る(例えば、プローブが核にあるか、細胞質にあるか、細胞小器官に局在するか、細胞膜の外側にあるかを判定することができる)。さらに、いくつかの応用例では、すべてが同じ細胞から得られる異なる蛍光帯域を検出することにより得られる複数の蛍光像を用いて、細胞内で複数の蛍光プローブがどの程度共局在しているかを判定することができる。さらに、とりわけ、多色の蛍光像、明視野及び暗視野像を使用して、細胞の形態、細胞シグナル伝達、内在化、細胞-細胞相互作用、細胞死、細胞周期、及びスポット計数(例えば、FISH)の分析が可能である。
【0096】
上記のように、システム10は、少なくとも3つの異なるモードで動作させることができる。上述した1つのモードでは、LOビーム及び複数のRFコームビームがサンプルの一部(例えば、水平の広がりに沿って配置された位置)を同時に照射し、照射された場所から放射された蛍光放射線を検出し、サンプルの蛍光像を構築するために分析する。別の動作モードでは、複数のRF駆動信号をAODに同時に印加するのではなく、駆動信号を含む周波数ランプをAODに印加して、レーザビームの周波数を開始周波数(f1 )から終了周波数(f2 )に経時的に変化させる。周波数ランプの各駆動周波数に対して、レーザビームの周波数はその駆動周波数だけシフトされ、サンプルは周波数シフトされたレーザビームによって照射され、サンプルから蛍光放射線を引き出す。言い換えれば、このモードでは、システムは、中心のレーザ周波数からシフトされる複数の周波数で一時的な間隔でサンプルを連続的に照射することによって、サンプルからの蛍光放射線を得るように動作させる。AODによって生成される周波数シフトには角度の偏向が伴い、同一の光路を使用しながらビームがサンプルを横切って高速で走査される。
【0097】
より具体的には、この動作モードでは、RF周波数シンセサイザ10は、AOD18に印加される駆動信号を開始周波数(f1 )から終了周波数(f2 )にランプさせるために使用される。例として、駆動信号がランプされる周波数の範囲は、約50MHz~約250MHzとすることができる。いくつかの実施形態では、駆動信号は、約100MHzから約150MHzまでランプする。この実施形態では、例えば高速を成し遂げるために、駆動周波数が時間の経過とともに継続的に変更される。他の実施形態では、駆動周波数は、開始周波数(f1 )から終了周波数(f2 )まで離散的なステップで変更することができる。
【0098】
周波数シフトされたビームがミラー28を外れて、レンズ26、レンズ30、ミラー40/42、ビームスプリッタ44、レンズ46、ミラー56、レンズ50、ミラー58及び対物レンズ52によって画定される光路に沿って伝搬して、サンプルホルダを流れるサンプルの一部を照射するように、駆動周波数が選択される。ランプ速度は、サンプルがビームを横切って流れる際に放出される蛍光放射線に基づいて生成される蛍光像の垂直方向のいずれかのぼけを改善し、好ましくは防止するために十分に速いことが好ましい。これは、例えば、ランプ速度をサンプルの流速と一致させることによって達成できる。サンプルのレーザスポットの大きさは、適切な速度を推定するために使用することができる。例として、1マイクロメートルのレーザスポットの大きさの場合、画像がぼやけることを避けるために、0.1メートル/秒というサンプルの流速に対して1列にわたる走査時間を10マイクロ秒以下にするべきである。
【0099】
励起放射線による照射に応答してサンプルから放出された蛍光放射線は、上述の方法で収集され、検出される。具体的には、
図10を参照すると、蛍光放射線は光検出器64によって検出される。検出された蛍光は増幅器70によって増幅され、増幅された信号は分析モジュール72によって分析されて、サンプルの蛍光像を再構成する。画像の再構成は、開始周波数(f
1 )から終了周波数(f
2 )までの走査期間内の特定の時間に、水平なピクセル位置を割り当てることによって行われる。上記の動作モードのようにピクセルの値を得るために周波数成分の振幅を分析することとは対照的に、この動作モードで使用される復調手法は、検出された蛍光信号の時間領域の値のみを用いて、画像のピクセルに値を割り当てる。サンプルの二次元蛍光像を得るために、サンプルが垂直方向に流れるときに、このプロセスを繰り返すことができる。
【0100】
サンプルによって放出された蛍光放射線がもしあれば、光検出器64によって収集される。
図10を参照すると、検出された蛍光放射線は、増幅器70によって増幅される。分析モジュール72は、増幅された信号を受信する。この動作モードでは、分析モジュールは蛍光信号を分析して、サンプル、例えば細胞/粒子の蛍光内容物を判定する。この動作モードでは、サンプルを励起するビームは1つしかないので、サンプルを励起するために応答してビート周波数は生成されない。したがって、蛍光信号の周波数領域に画像の情報は存在しない。むしろ、検出された蛍光信号は、時間の領域においてコード化された画像情報を有する。この動作モードでは、検出された蛍光信号の時間の値を水平なピクセルの座標として、また蛍光信号のデジタル化された電圧の値をピクセルの値(輝度)として使用して、デジタルで画像を再構成することができる。AODに印加される駆動周波数のそれぞれの走査は、画像の1つの水平な列(行)を生成する。画像の再構成は、サンプルが照射領域(点)を流れる際に連続走査によって達成される。
【0101】
さらに別の動作モードでは、システム10を動作させて、単一の励起周波数によってサンプルの複数の位置を同時に照射することができ、これは、例えば、無線周波数によるレーザビームの中心周波数をシフトすることによって生成できる。より具体的には、再び
図1を参照すると、このような動作モードでは、単一の駆動無線周波数をAOD18に印加して、AOD18に入射するレーザビームに対してシフトされる周波数を有するレーザビームを生成することができる。さらに、周波数シフトされるレーザビームは、AODに入射するレーザビームに対する角度シフトを呈し、無線周波数のレーザビームがミラー28によって遮蔽されて、レンズ32、ミラー33及び35を介して、トップハットビーム整形器34に向かって反射されるようにする。トップハットビーム整形器を出るビームはビームスプリッタ44によって反射され、レンズ46によって中間像面48上に集束される。その面では、
図15Aに概略的に示すように、レーザビーム1000は、水平方向に沿って伸長するプロファイルを示す。
【0102】
水平方向に伸長するレーザビームは、ミラー56によって正レンズ50に向けて反射される。レーザビームは、レンズ50を通過した後、ミラー58によって対物レンズ52に反射される。前述したように、正レンズ50及び対物レンズ52は、トップハットのプロファイルのレーザビームを中間像面48からフローセル54を流れるサンプル上に中継するための望遠鏡を形成している。
【0103】
水平に伸張されたレーザビームはサンプルの水平の広がりを照射して、サンプルに存在するならば、その水平の広がりに沿って対象のフルオロフォアを励起する。したがって、この動作モードでは、サンプルの複数の水平な位置が異なる励起周波数で照射される第1の動作モードとは異なり、サンプルの複数の水平な位置が同じ励起周波数で照射される。この動作モードにより、使用者が流れる細胞または粒子の画像を得ることは、可能にはならない。しかし、この動作モードでは、他の2つの動作モードよりも強力な光強度を典型的にサンプルに印加することができ、それは画像が必要でない場合には、より高い信号対雑音比のデータを得るために有用なことがある。この動作モードは、システムにいずれかの機械的な変更を加える必要なしに、音響光学偏向器を駆動する電気信号を単に変更することによって利用可能である。
【0104】
したがって、システム10は、サンプルから蛍光放射線を引き出すために、3つの異なる動作モードで動作させることができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、蛍光寿命測定をサンプルの各々の空間的な位置で実行することができ、それは例えば、無線周波数シフトされた及び局部発振器のビームのそれぞれに関するビートの位相を、検出された蛍光信号における各無線周波数成分の位相と比較することによってなされる。例として、
図15Bは、このような蛍光寿命測定を可能にする、上述のシステム10の修正版であるシステム10’を示す(
図1に示される特定の構成要素は、簡略化のためにこの図には示していない)。具体的には、ビームスプリッタ44に入射するRFコームビームの一部は、ビームスプリッタによって収束レンズ400上に反射される(この実施形態では例証として、レンズ400は200mmの焦点距離を有するが、他の焦点距離も利用し得る)。レンズ400は、RFコームビームの当該の部分を、励起ビームを検出するフォトダイオード402に集束させる。フォトダイオード402のアウトプットは、分析モジュール72によって受け取ることができる(
図10参照)。分析モジュールは、例えば上述の復調技術の1つを使用して励起ビームの周波数逆多重化をもたらし、励起ビームの各無線周波数成分の位相を判定することができる。これは、検出された蛍光信号の各無線周波数成分に対して、その無線周波数成分の位相を比較することができる参照位相を提供することができる。例えば、励起信号のFFTの実数成分及び虚数成分、またはロックイン型復調のI成分及びQ成分を用いることができる。あるいは、サンプル/フローセルの明視野像を検出する検出器のアウトプットを用いて、蛍光ビート周波数の位相を比較することができる基準位相を得ることができる。
【0106】
より具体的には、分析モジュール72は、例えば上述したように、検出された蛍光信号の周波数逆多重化をもたらすことができる。当業者に理解されるように、蛍光信号の各ビート周波数について、空間的に分解された蛍光寿命測定及び蛍光寿命画像を得るために、無線周波数成分の位相を励起ビームのそれぞれの基準位相と比較することができる。
【0107】
特定の実施形態では、対象のシステムは、流れにおけるサンプルによって放射された光を検出するための上記光学的構成を使用するフローサイトメトリーシステムを含む。特定の実施形態では、対象のシステムは、米国特許第3,960,449号;第4,347,935号;第4,667,830号;第4,704,891号;第4,770,992号;第5,030,002、第5,040,890号;第5,047,321号;第5,245,318号;第5,317,162号;第5,464,581号;第5,483,469号;第5,602,039号;第5,620,842号;第5,627,040号;第5,643,796号;第5,700,692号;第6,372,506号;第6,809,804号;第6,813,017号;第6,821,740号;第7,129,505号;第7,201,875号;第7,544,326号;第8,140,300号;第8,233,146号;第8,753,573号;第8,975,595号;第9,092,034号;第9,095,494号;及び第9,097,640号に記載されているフローサイトメーターの1つ以上の構成要素を含むフローサイトメトリーシステムであり、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
上述のように、いくつかの実施形態では主題のシステムは、フローサイトメーターの流れなどの、流れとして流れているサンプルの画像化粒子(例えば細胞)のために構成されている。フローストリームの粒子の流速は、0.00001m/s以上、例えば0.00005m/s以上、例えば0.0001m/s以上、例えば0.0005m/s以上、例えば0.001m/s以上、例えば0.005m/s以上、例えば0.01m/s以上、例えば0.05m/s以上、例えば0.1m/s以上、例えば0.5m/s以上、例えば1m/s以上、例えば2m/s以上、例えば3m/s以上、例えば4m/s以上、例えば5m/s以上、例えば6m/sまたは0μL/min以上、例えば7m/s以上、例えば8m/s以上、例えば9m/s以上、例えば10m/s以上、例えば15m/s以上、及び25m/s以上などであってよい。例えば、流れ(例えば、フローノズルオリフィス)の大きさ次第で、流れは、0.001μL/min以上、例えば0.005μL/min以上、例えば0.01μL/min以上、例えば0.05μL/min以上、例えば0.1μL/min以上、例えば0.5μL/min以上、例えば1μL/min以上、例えば5μL/min以上、例えば10μL/min以上、例えば25μL/min以上、例えば50μL/min以上、例えば100μL/min以上、例えば250μL/min以上、及び500μL/min以上などの対象のシステムにおける流速を有することができる。
【0109】
上述したように、サンプルに呼掛けることによって得られた、蛍光データなどの時間データ(信号)から、画像(例えば蛍光像)を再構成するために、複数の技術を使用することができる。いくつかの実施形態では、当該の信号を生成した可能性が最も高い基礎画像に到達するように、測定される信号を分析するために基礎画像に基づいて予測信号(例えば蛍光信号)を提供するフォワードモデルが使用される。いくつかの実施形態では、フォワードモデルを反転させて、画像を得るために測定信号で動作させるためのリバースモデルを生成することができる。例えば、フォワードモデルは、基礎画像をスペクトログラムの大きさとして扱うことができる。そのような場合には、画像に逆フーリエ変換を適用することによって、画像を生じさせる信号を得ることができる。次いでリバースモデルは、フーリエ変換を測定された信号に適用して画像に到達させることを伴う。
【0110】
いくつかの実施形態では、本教示によるサイトメトリーのシステムが、1つ以上のRF周波数によって互いに隔てられる複数の光ビームによって照射されるサンプルの基礎となる「真の画像」を、測定される時間信号にいかに変換するかということを示唆するモデルを構成する。このモデルを反転し、システムの既知のパラメータまたは測定されたパラメータを組み込むことによって、測定された信号は、基礎となる真の画像に一層近似する推定値に変換することができる。さらなる例証として、
図20は、このようなモデルをいかに構築することができるかを概略的に示す。二次元強度マップ(I(x,y))として表されるサンプルの「真の画像」の生成、及び測定された信号(y(t))への変換は、検出アームに使用される照射システム、光学的収集システム、及び電子システムなどのサイトメトリーシステムの成分の複数の特性によって、影響を受ける。例として、照射システムは、他の要素の中でも、レーザビーム、レーザビームを受信する音響光学偏向器、及び偏向器にRF信号を印加するためのRF発生器を含むことができ、1つ以上のRF周波数によって周波数において分離された複数の光学ビームを生成するようにする。これらのシステムに関連するパラメータ(楕円で示す)に関する知見により、サンプルの画像を推定する能力が向上する。例えば、いくつかの実施形態では、電子構成要素の応答は、画像信号を含まない電子構成要素の測定されたアウトプットの応答のフーリエスペクトルの部分から測定することができる。応答のロールオフのモデルが仮定され、モデルは測定された応答に適合させることができる。
【0111】
サンプルの照射スポットは、わずかに異なる周波数を有する2つのビームの光干渉によって生成することができる。ビームの経路長の差は、サンプルにおけるビート周波数の位相シフトを引き起こし得る。多くの実施形態では、システムの機械的振動による(例えば、冷却ファンによって引き起こされる)微小な経路長の変動でさえ、サンプルにおけるビームの位相に影響を及ぼし得る。ロックイン検出を展開するには、これらの位相の変化を考慮する必要がある。いくつかの実施形態では、全事象の前後の位相シフトは、典型的には高い信号対雑音比(SNR)を有し、そうでなければ位相を変えるべきでない、明視野信号の位相内容を用いて測定することができる。得られた位相シフトは、周波数領域で分割された信号のフーリエ成分の回転としてモデル化することができる。
【0112】
いくつかの実施形態では、電子システムに関連するショット雑音は、その行に存在する信号の量に比例した白色ガウス雑音の行として画像に現れることが可能である。これは、独立したガウス雑音またはピクセル単位のポアソン雑音(各ピクセルの雑音はそのピクセルの強度に比例する)のいずれかを仮定する従来の画像化の大半の雑音モデルとは異なる。いくつかの実施形態では、この特性を有する雑音により像に誤りがある場合、基礎画像の最尤を見出すことによって、画像の質を改善することができる。1つの技術は、自然に生み出される画像が白色雑音とは異なり、ピクセルは相関がないという事実を適用する。このような技術は、真の画像が比較的平坦な強度の多くの領域を含むことを担うことができる。これは、最適化問題としての推定を表す。可能な限り測定信号に近いが、推定値内のその変動量を最小にする画像の推定値を見つける必要がある。いくつかの実施形態では、これは、以下のコスト関数によって達成することができる。
||G-y|| + λ(r)×TV(G)
式中、||G-y||は画像(G)の推定値と測定画像との間の距離に推定値Gの総分散(行に依存するペナルティ項λによって重み付けされる)を加えたものを表す。このコスト関数は、サンプルの最良適合画像を得るために最小化することができる。任意の最適化手法を使用して、この最小化(粒子群最適化、遺伝的アルゴリズム、または勾配降下を含む)を行うことができる。
【0113】
上述したように、いくつかの場合において、フォワードモデルはまた、信号に対する様々な雑音寄与モデル、例えばショット雑音モデル、及び光電子増倍管及び/または電子増幅器からの雑音寄与のモデル、例えば乗法雑音、熱雑音、高調波歪み、及び非線形歪みを組み込むこともできる。
【0114】
いくつかの実施形態では、統計的手法を使用して、モデルパラメータを測定データに適合させることができる。そのようないくつかの実施形態では、フォワードモデルを直接反転することはできない。場合によっては、そのような統計的手法は、測定データを生じさせる可能性が最も高いモデルパラメータを生成する最尤推定量として動作する。さらに、いくつかの実施形態では、上述のFFTまたはロックインベースの処理などのリバースモデルを使用して再構成された画像を、このような統計的手法の初期(シード)画像として使用でき、信号対雑音比、及び/または画像の解像度をさらに高める。
【0115】
例として、
図19Aのフローチャートを参照すると、本教示によるフローサイトメトリーを実行するための1つの例示的な方法では、サンプルにレーザ放射線を照射し、照射に応答してサンプルから放射される放射線の少なくとも一部を検出して、検出された放射線に対応する時間信号を生成する。フォワードモデルに基づく信号の統計分析は、サンプルの画像を再構成するように実行される。画像は、サンプルの蛍光像、暗視野像及び明視野像のいずれかとすることができる。
【0116】
さらなる例証として、このような統計的手法のいくつかの例を以下に示す。
【0117】
このような統計的手法の一例は、最小2乗最適化であり、それはシステム/プロセスを、正規分布の誤差を有する複数の線形成分の和としてモデル化することができる。例として、
図19Bを参照すると、信号を複数の短い時間セグメント(例えば、持続時間が約1~100マイクロ秒のセグメント)に分割することによって、サイトメトリー信号(例えば、蛍光、明視野及び/または暗視野)の信号をモデル化することができる(ステップ1)。いくつかの実施形態では、各セグメントは、ゼロ、一次及び二次の項と共に各画像のピクセルについて1つの正弦及び1つの余弦の項を有するものとしてモデル化することができ、N×Mのピクセル画像に適合する(2×N+3)×Mのパラメータを得る。さらに、各セグメントは、雑音、例えば正規分布の雑音を含むようにモデル化することもできる。次いで、モデルによって予測された時間セグメントと、測定されたサイトメトリー信号と関連するそれぞれの時間セグメントとの間の差に対応する残差の2乗の和を最小化することによって、モデルのパラメータの測定された値を得るために、最小2乗法の回帰分析を使用することができる(ステップ2)。サイトメトリー画像の再構成に使用するための最小2乗最適化法は、高速であり、例えば、行列演算を使用して実施することができる。
【0118】
さらなる例として、
図19Cを参照すると、サンプルにレーザ放射線を照射することができ(ステップ1)、レーザ放射線(例えば本実施形態では蛍光放射線)による照射に応答してサンプルから放射される放射線を検出して、検出された放射線に対応する蛍光信号を生成し得る(ステップ2)。例えば、上記のシステムを用いて、無線周波数タグされた蛍光データを取得することができる。モデルから推定された蛍光シグナルと測定された蛍光シグナルとの間の差に対応する残差の2乗和を最小化することによって、最小2乗分析を使用して、サンプルのピクセル化された画像のモデルに関連するパラメータの最良の推定値(例えば、この実施形態ではサンプルの蛍光像)を得ることができる(ステップ3)。
【0119】
いくつかの実施形態では、勾配降下最適化法を、サイトメトリー画像、例えば、蛍光、明視野、及び/または暗視野の像の再構成のために使用することができる。この方法は、非線形モデルを使用することを可能にし、それによってフリーパラメータの数を減らし、通常は計算時間を犠牲にする。フリーパラメータが少なくなると、モデルの分散が減少し、それにより画像の信号対雑音比(SNR)を改善できる。勾配降下は、画像(例えば、蛍光像)の初期推定から始めることができる反復性の最適化法である。より具体的には、
図19Dのフローチャートを参照すると、このような実施形態では、サンプルにレーザ放射線を照射することができ(ステップ1)、照明、例えば蛍光放射線に応答してサンプルから放射される放射線を検出して時間データを生成することができる(ステップ2)。時間データは、サンプルの画像の初期推定を生成するために処理することができる。例えば、いくつかの実施形態では、そのような推定は、サンプルから得られた時間データ、例えば蛍光データにFFTまたは上記の最小2乗法を適用することによって得ることができる。サンプルの最終的な画像を得るために、画像の初期推定が反復的に改善される。各反復において、予測された信号と測定された信号との間の距離及び関連する誤差勾配を示す誤差関数が計算され、画像は誤差勾配がステップダウンする。反復プロセスは、誤差が最小になるまで繰り返され、それによって最良適合画像が生成される(ステップ3)。画像が誤差勾配をステップダウンするステップサイズは、例えば、計算時間と精度との間のトレードオフに基づいて選択することができる。
【0120】
場合によっては、最適化プロセスがパラメータ空間の極小にトラップされる可能性があるので、勾配降下最適化法は、最良のグローバルな画像に到達しないことがある。したがって、いくつかの実施形態では、粒子群最適化を、サイトメトリー画像の再構成に用いることができる。勾配降下最適化法と同様に、粒子群最適化は、画像の推定(例えば、検出された蛍光データに対してFFTまたは最小2乗法を適用することによって得られる蛍光像の推定)から開始することができる。次いで、粒子群最適化は、それらの負の誤差勾配の方に偏るようにパラメータ空間を無作為にサンプリングする、それぞれが粒子と称される複数の(「群」)モデルを使用する。無作為サンプリングの程度を制御することにより、群はより遅い収束を犠牲にして極小を回避することができる。
【0121】
いくつかの実施形態では、遺伝的アルゴリズムの最適化が画像の再構成に使用される。そのような方法では、ランダムに変化するパラメータを有するモデルの集団が用いられる。各モデルの「適応度」は、例えば、予測された画像データと測定された画像データとの間の誤差の程度に基づいて評価される。次いで、閾値よりも大きい「適応度」を有するモデルが選択され、それらのパラメータをランダムに結合して、新しい世代のモデルが生成される。これらの子孫は、最も適合したモデルが残るまで同じプロセスを経る。特に、画像のピクセルは、遺伝的アルゴリズムで使用されるパラメータである。システムのフォワードモデルは、このパラメータのセットを予想される時間信号に変換し、その後、予想された信号と測定された信号との間の差が、モデルの適合度を評価するために使用される。測定された信号とは非常に異なる時間信号を生成する画像は、あまり適合しないと考えられる。
【0122】
いくつかの実施形態では、画像信号(例えば、蛍光、明視野または暗視野の信号)に関する先験的な情報を、ベイズスペクトル推定と一緒に使用して、高解像度画像を得ることができる。例として、いくつかの実施形態で、画像信号が、未知の周波数及び振幅の複数の正弦曲線からなることが分かる場合がある。そのようないくつかの実施形態では、ベイズスペクトル推定方法を使用して、従来のパワースペクトル手法を使用して得られるものよりも高い精度及び正確さでこれらの正弦曲線のパラメータを推定することができる。これは、ひいては従来可能であったよりも高い周波数分解能をもたらし、超高解像度の画像化を可能にし得る。言い換えれば、そのような実施形態では、時間領域信号は、限られた数のパラメータでの複数の独立した測定値として扱うことができ、パラメータの最尤推定値を得ることができる。
【0123】
画像を再構成するための上記の方法は、ハードウェア、ファームウェア及び/またはソフトウェアで実施することができる。例として、上記データ分析モジュール72(例えば、
図10参照)は、統計分析技術を使用して上記の画像再構成法を実行するように構成することができる。例として、上記の方法を実行するための必要なステップを含むプログラムは、分析モジュールのメモリユニット、例えばROMに記憶することができる。次いで、モジュールのプロセッサは、プログラムにアクセスして、画像再構成法のステップを、試験中のサンプルから受け取った時間データ、例えば、蛍光データに適用することができる。
【0124】
以下の実施例は、本教示の様々な態様のさらなる解明のためにのみ提供され、本発明の教示を実施する最適な方法または得られる最適な結果を必ず示すことを意図してはいない。
【実施例】
【0125】
実施例1
図9Aに関連して上述したものと類似した検出システムと共に、
図1に関連して上述したものと類似したシステムを用いて、8つの別個のレベルの蛍光色素で染色されたポリスチレン製ビーズから出る蛍光放射線を測定した。それらは、イリノイ州レイクフォレストのSpherotech Inc.により、商品名RCP-30-5Aで市販されている。このシステムはまた、上述の方法で明視野及び暗視野の像を生成するために使用された。
【0126】
図16Aは、暗視野強度対明視野強度の散布図である。プロットの矩形部分をゲートとして使用して、
図16B、
図16C、及び
図16Dに示すデータを生成した。これは測定されたすべての事象の約32%を含む(合計50,000事象が検出された)。
図16Bは、各粒子によって放出される赤色蛍光(PI)対緑色蛍光(FITC)の散布図を示す。このプロットは、明るさのレベルが異なる8つの集団を明確に示している。
図16C及び
図16Dは同じデータのヒストグラムである。
【0127】
実施例2
CD45-FITC及びヨウ化プロピジウムで染色した固定末梢血白血球のFIRE、明視野及び暗視野の像を、
図9Aに関連して上述したものと類似した検出システムと共に
図1に関連して上述したものと類似したシステムを用いて得た。サンプルはまた、Calcein-AMで染色された生存HeLa細胞の一部を含んでいた。細胞は、データ取得間に0.5m/秒の速度でフローセルを通って流れていた。
【0128】
図17Aに示す画像は、上から下へ、明視野、CD45-FITC、及びヨウ化プロピジウム蛍光チャンネルのオーバーレイ、明視野、暗視野、CD45-FITC、及びPIチャンネル蛍光である。補正は適用されず、すべての画像は表示のために自動スケーリングされている。2、3、5、8、9、12、17,20、及び21という番号の細胞は、HeLa細胞(B集団)であり、他の細胞は白血球(A集団)である。
【0129】
図17Bは、集団Aが白血球を表し、集団BがHeLa細胞を表す散布図である。
【0130】
実施例3
CD45-FITC及びヨウ化プロピジウムで染色された固定末梢血白血球のFIRE、明視野及び暗視野の像を、
図9Aに関連して上述したものと類似した検出システムと共に
図1に関連して上述したものと類似したシステムを用いて得た。サンプルは、固定されたMCF-7細胞の小部分を添加し、抗EpCAM-FITC及びヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。細胞は、データ取得間に0.5m/秒の速度でフローセルを通って流れていた。
【0131】
図18Aに示す画像は、上から下へ、明視野、FITC及びPIチャネル蛍光のオーバーレイ、明視野、暗視野、FITC及びPI蛍光である。白血球集団において、緑色蛍光は、PI染色由来の蛍光過剰の人工物である。すべての画像は、表示のために明るさが自動調整され、したがって、白血球はFITC蛍光を示しているように見えるが、これはPIからの小さな蛍光過剰信号である。1、2、4、5、10、13、15及び16という番号の細胞がMCF-7細胞である。
【0132】
図18Bは、集団Aが白血球を表し、集団BがMCF-7細胞を表す散布図である。
【0133】
実施例4
図21Aは、細長いミドリムシ(藻類)細胞による光消滅及び光散乱の高い信号対雑音(SNR)のFIRE測定を示し、細胞の存在により信号が減少する。
図21Bは、
図21Aに示す信号のフーリエ成分を抽出して得られた細胞の画像を示す。これは、細胞の許容可能な画像である。しかし、この画像は、上述したように、FIRE励起信号、電子応答、及びシステムの位相応答に関する情報を組み込んで、
図21Cに示す画像を生成することによって改善することができる。
【0134】
実施例5
図22Aは、蛍光による実施例4のミドリムシ細胞の脂質内容物の低信号対雑音FIRE測定を示す。蛍光ターゲットによって生成される明確なパルスが存在しているが、大量の雑音が信号を破壊している。
図22Bは、信号のフーリエ係数を抽出した結果を示す。細胞は雑音に対して認識されていない。収集用電子装置の周波数応答、システムを駆動する基礎のFIRE信号、及びシステムの位相応答に関する情報を組み込むことにより、
図22Cに示す改善されたが雑音が多い画像が生成される。上述の方法で、基礎信号のより洗練されたモデル及びフォトニックショット雑音の影響が、
図22Dに示される画像を生成する。
【0135】
当業者であれば、本教示の範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができることを理解するであろう。特に、上述の実施形態の様々な特徴、構造、または特性は、適切な方法で組み合わせることができる。例えば、一実施形態に関連して論じた検出システムを別の実施形態で使用することができる。
【0136】
関連出願
本願は、2016年5月12日に出願された「Fluorescence Imaging Flow Cytometry With Enhanced Image Resolution」と題する仮特許出願第62/335,359号に対する優先権を主張し、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本願はまた、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2017年3月17日に出願された「Cell Sorting Using A High Throughput Fluorescence Flow Cytometer」と題された米国特許出願第15/461,124号にも関連する。