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特許7023736気体精製装置、気体精製方法、プロペンの製造装置及びプロパンの製造装置
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  • 特許-気体精製装置、気体精製方法、プロペンの製造装置及びプロパンの製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】気体精製装置、気体精製方法、プロペンの製造装置及びプロパンの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/047 20060101AFI20220215BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20220215BHJP
   C07C 7/12 20060101ALI20220215BHJP
   C07B 63/00 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
B01D53/047
C07C11/06
C07C7/12
C07B63/00 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018026432
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019141759
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山元 一生
(72)【発明者】
【氏名】小野 宏之
(72)【発明者】
【氏名】富岡 孝文
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-171851(JP,A)
【文献】特開昭62-241524(JP,A)
【文献】特開昭64-3003(JP,A)
【文献】特表2006-508020(JP,A)
【文献】特開昭62-117612(JP,A)
【文献】特開平4-126512(JP,A)
【文献】特開平1-307426(JP,A)
【文献】中国特許第1445205(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/047
C07C 11/06
C07C 7/12
C07B 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の気体と第2の気体とを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式で製品ガスを精製する気体精製装置であって、
前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、
前記第2の気体を吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、
前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、前記第1の気体及び前記第2の気体が流れる接続ラインと、
前記第2の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の気体が流れる第1の導出ラインと、
前記第2の吸着塔の一次側と接続され、前記第2の気体が流れる第2の導出ラインと、
前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、
前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させる吸引手段と、
を備え、
前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続される、気体精製装置。
【請求項2】
前記第1の導出ラインから分岐した第1の回収ラインと、
前記第2の導出ラインから分岐した第2の回収ラインと、
をさらに備え、
前記第1の導出ライン、前記第2の導出ライン、前記第1の回収ライン及び前記第2の回収ラインのそれぞれに開閉弁が設けられ、
前記開閉弁の開閉状態の切替により、前記第1の気体と前記第2の気体との間で製品ガスを切り替える、請求項1に記載の気体精製装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の気体精製装置を用いる圧力変動吸着方式の気体精製方法であって、
前記第1の吸着剤に前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着させ、前記第1の吸着塔から前記第2の吸着塔に前記第1の気体及び前記第2の気体を供給し、前記第2の吸着剤に前記第2の気体を吸着させた後、
前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させ、前記第2の吸着剤から脱離した前記第2の気体を前記第2の導出ラインから製品ガスとして回収するとともに、
前記第1の気体を前記第1の導出ラインから前記再生ラインに導入する、気体精製方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の気体精製装置を用いる圧力変動吸着方式の気体精製方法であって、
前記第1の吸着剤に前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着させ、前記第1の吸着塔から前記第2の吸着塔に前記第1の気体及び前記第2の気体を供給し、前記第2の吸着剤に前記第2の気体を吸着させた後、
前記第1の導出ラインから前記第1の気体を製品ガスとして回収するとともに、
前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させ、前記第2の吸着剤から脱離した前記第2の気体を前記第2の導出ラインから前記再生ラインに導入する、気体精製方法。
【請求項5】
プロパンとプロペンとを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式でプロペンを製造する装置であって、
プロパン及びプロペン以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、
プロペンを吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、
前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、プロパン及びプロペンが流れる接続ラインと、
前記第2の吸着塔の二次側と接続され、プロパンが流れる第1の導出ラインと、
前記第2の吸着塔の一次側と接続され、プロペンが流れる第2の導出ラインと、
前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、
前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤からプロペンを脱離させる吸引手段と、
を備え、
前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続され、
前記第1の導出ラインから前記再生ラインにプロパンを導入し、前記第2の導出ラインからプロペンを回収する、プロペンの製造装置。
【請求項6】
プロパンとプロペンとを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式でプロパンを製造する装置であって、
プロパン及びプロペン以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、
プロペンを吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、
前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、プロパン及びプロペンが流れる接続ラインと、
前記第2の吸着塔の二次側と接続され、プロパンが流れる第1の導出ラインと、
前記第2の吸着塔の一次側と接続され、プロペンが流れる第2の導出ラインと、
前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、
前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤からプロペンを脱離させる吸引手段と、
を備え、
前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続され、
前記第2の導出ラインから前記再生ラインにプロペンを導入し、前記第1の導出ラインからプロパンを回収する、プロパンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体精製装置、気体精製方法、プロペンの製造装置及びプロパンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
混合気体に含まれる成分を精製する技術として蒸留等が用いられている。ところが、プロパン及びプロペンのように化学的性質が似ている複数の化合物を含む混合気体の成分を精製する場合、蒸留を用いると装置規模が大きくなり、設備コストが高くなるというデメリットがある。
【0003】
工業ガスの製造において、除去対象物を含む原料ガスを精製して製品ガスを得る装置として、圧力変動吸着方式の装置、いわゆるPSA装置が知られている(特許文献1及び非特許文献1等)。PSA装置としては、PSA方式で原料ガスから対象物を分離して得られるガスに対して、さらに複数回にわたってPSA方式による分離を行う装置も知られている(特許文献2等)。
PSA装置は、除去対象物を吸着する吸着剤を使用するため、化学的性質が似ている複数の化合物を含む混合気体でも比較的規模の小さい装置で目的のガスを分離できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-199206号公報
【文献】特開昭60-97022号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】鈴木謙一郎著.圧力スイングサイクルシステム.1983,講談社.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来のPSA装置では、原料ガスから除去対象物の70%以上を除去し、かつ、90%以上の回収率で化学的性質が似ている複数の化合物のそれぞれを製品ガスとして製造することが困難であった。
例えば、特許文献1に記載の装置では、吸着塔内の吸着剤を再生する際に、製品ガスの一部を再生ガスとして使用しているため、製品ガスの回収率が低下し、製品ガスの回収量が減少する。
【0007】
非特許文献1には、真空ポンプを利用して吸着剤を再生する装置が記載されている。非特許文献1に記載の装置において、製品ガスの一部を再生ガスとして使用せずに、真空ポンプを利用して吸着剤を再生すれば、製品ガスの回収量が減少しにくくなる。ところが、非特許文献1に記載の装置のように真空ポンプを利用すると、装置の設備費、消費電力及び設備維持費用が増大し、製造コストが高くなる。
【0008】
一方でPSA装置を用いる製品ガスの製造においては、吸着塔内の吸着剤に吸着された成分を製品ガスとして回収することが求められる場合もある。ところが、特許文献2に記載の装置において、吸着剤に吸着された成分を製品ガスとして高収率で回収するには、吸着塔内の吸着剤の種類を変更する必要があり、吸着剤の変更等のPSA装置の改造の費用が生じ、コスト面で不利である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低コストで製品ガスを高純度かつ高収率で得ることができ、吸着剤を変更せずに複数種類の気体を製品ガスとして製造できる気体精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 第1の気体と第2の気体とを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式で製品ガスを精製する気体精製装置であって、前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、前記第2の気体を吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、前記第1の気体及び前記第2の気体が流れる接続ラインと、前記第2の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の気体が流れる第1の導出ラインと、前記第2の吸着塔の一次側と接続され、前記第2の気体が流れる第2の導出ラインと、前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させる吸引手段と、を備え、前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続される、気体精製装置。
[2] 前記第1の導出ラインから分岐した第1の回収ラインと、前記第2の導出ラインから分岐した第2の回収ラインと、をさらに備え、前記第1の導出ライン、前記第2の導出ライン、前記第1の回収ライン及び前記第2の回収ラインのそれぞれに開閉弁が設けられ、前記開閉弁の開閉状態の切替により、前記第1の気体と前記第2の気体との間で製品ガスを切り替える、[1]の気体精製装置。
[3] [1]又は[2]の気体精製装置を用いる圧力変動吸着方式の気体精製方法であって、前記第1の吸着剤に前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着させ、前記第1の吸着塔から前記第2の吸着塔に前記第1の気体及び前記第2の気体を供給し、前記第2の吸着剤に前記第2の気体を吸着させた後、前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させ、前記第2の吸着剤から脱離した前記第2の気体を前記第2の導出ラインから製品ガスとして回収するとともに、前記第1の気体を前記第1の導出ラインから前記再生ラインに導入する、気体精製方法。
[4] [1]又は[2]の気体精製装置を用いる圧力変動吸着方式の気体精製方法であって、前記第1の吸着剤に前記第1の気体及び前記第2の気体以外の気体を吸着させ、前記第1の吸着塔から前記第2の吸着塔に前記第1の気体及び前記第2の気体を供給し、前記第2の吸着剤に前記第2の気体を吸着させた後、前記第1の導出ラインから前記第1の気体を製品ガスとして回収するとともに、前記第2の吸着剤から前記第2の気体を脱離させ、前記第2の吸着剤から脱離した前記第2の気体を前記第2の導出ラインから前記再生ラインに導入する、気体精製方法。
[5] プロパンとプロペンとを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式でプロペンを製造する装置であって、プロパン及びプロペン以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、プロペンを吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、プロパン及びプロペンが流れる接続ラインと、前記第2の吸着塔の二次側と接続され、プロパンが流れる第1の導出ラインと、前記第2の吸着塔の一次側と接続され、プロペンが流れる第2の導出ラインと、前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤からプロペンを脱離させる吸引手段と、を備え、前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続され、前記第1の導出ラインから前記再生ラインにプロパンを導入し、前記第2の導出ラインからプロペンを回収する、プロペンの製造装置。
[6] プロパンとプロペンとを含む原料ガスから、圧力変動吸着方式でプロパンを製造する装置であって、プロパン及びプロペン以外の気体を吸着する第1の吸着剤を有する第1の吸着塔と、プロペンを吸着する第2の吸着剤を有する第2の吸着塔と、前記第1の吸着塔の二次側と前記第2の吸着塔の一次側とを接続し、プロパン及びプロペンが流れる接続ラインと、前記第2の吸着塔の二次側と接続され、プロパンが流れる第1の導出ラインと、前記第2の吸着塔の一次側と接続され、プロペンが流れる第2の導出ラインと、前記第1の吸着塔の二次側と接続され、前記第1の吸着剤を再生する再生ガスが流れる再生ラインと、前記第2の導出ラインに設けられ、前記第2の吸着剤からプロペンを脱離させる吸引手段と、を備え、前記再生ラインが、前記第1の導出ライン及び前記第2の導出ラインのそれぞれと接続され、前記第2の導出ラインから前記再生ラインにプロペンを導入し、前記第1の導出ラインからプロパンを回収する、プロパンの製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで製品ガスを高純度かつ高収率で得ることができ、吸着剤を変更せずに複数種類の気体を製品ガスとして製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を適用した一実施形態である第1の実施形態に係る気体精製装置の構成の一例を示す模式図である。
図2】本発明を適用した一実施形態である第2の実施形態に係る気体精製方法を示す説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における下記の用語の意味は以下の通りである。
「PSA」は、Pressure Swing Adsorptionの略である。本明細書では圧力変動吸着方式を「PSA方式」と記し、PSA方式で気体を精製する装置を「PSA装置」と記す。
吸着剤の「再生」とは、除去対象物が吸着された吸着剤を再び除去対象物が吸着され得る状態に戻すことを意味する。
「再生ガス」とは、再生の対象となる吸着剤を有する吸着塔に吸着剤を再生するために供給される気体を意味する。
「再生排ガス」とは、再生の対象となる吸着剤を有する吸着塔から排出される気体であり、吸着剤の再生に使用された気体を意味する。
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0015】
<気体精製装置>
本実施形態の気体精製装置は、第1の気体と第2の気体と除去対象物とを含む原料ガスから、製品ガスを精製する装置である。
第1の気体、第2の気体及び除去対象物は特に限定されない。第1の気体、第2の気体の具体例としては、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテン等の炭化水素が例示される。除去対象物としては、窒素、酸素、アルゴン、水蒸気、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素等が例示される。
第1の気体と第2の気体の組合せとしては、前記の具体例から、少なくとも2種以上を選択できる。これらのなかでも、エタン及びエチレンの組合せ、プロパン及びプロペンの組合せ、ブタン及びブテンの組合せ等のように、化学的性質又は物理的性質が似ている化合物同士の組合せを選択しても、本発明の効果を得ることができる。
以下の実施形態においては、原料ガスがプロパン(第1の気体)及びプロペン(第2の気体)を含み、除去対象物として二酸化炭素を含む場合を一形態例として説明する。
【0016】
本実施形態の気体精製装置は、PSA装置である。そのため、以下の実施形態においては、一般的なPSA装置が備える脱圧ライン及び均圧ライン並びにこれらの各ラインに設けられる開閉弁等の構成(即ち、本発明の特徴との関連性が低い構成)に関する説明を省略し、図示を省略する。気体精製装置は一般的なPSA装置が備えるようなこれらの構成を備えてもよく、備えなくてもよい。
【0017】
図1は、本実施形態に係る気体精製装置10の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、気体精製装置10は、第1のPSAユニット1と第2のPSAユニット2と第1のタンク3と第2のタンク4と第3のタンク5と原料ラインL1と接続ラインL2と第1の導出ラインL3と第2の導出ラインL4と再生ラインL5と第1の回収ラインL6と第2の回収ラインL7と再生排ガスラインL8とを備える。
以下に気体精製装置10の各構成要素に関して詳しく説明を行う。
【0018】
第1のPSAユニット1は、原料ガスから除去対象物を分離する。第1のPSAユニット1は、第1の吸着塔1aと第1の吸着塔1bとを有する。第1の吸着塔1a,1bは基本的に同じ構成であり、中空円筒状である。第1の吸着塔1a,1bは内部に第1の吸着剤を有する。本実施形態においては、第1の吸着剤は除去対象物(本形態例では二酸化炭素である。以下、二酸化炭素と記す。)を吸着できる形態であれば特に限定されない。第1の吸着剤としては、分子篩炭、アミン担持アルミナ等を含む吸着剤が好ましい。
【0019】
原料ラインL1は、第1の吸着塔1a,1bに原料ガスを供給するためのラインである。原料ラインL1は、第1の吸着塔1a,1bの一次側(上流側)と接続される。
接続ラインL2は、第1の気体(本形態例ではプロパン(C)である。以下、プロパンと記す。)と第2の気体(本形態例ではプロペン(C)である。以下、プロペンと記す。)とを含む気体を第1のPSAユニット1から第2のPSAユニット2に導出するためのラインである。接続ラインL2は、第1の吸着塔1a,1bの二次側(下流側)と第2の吸着塔2a,2bの一次側(上流側)とを接続する。具体的には、接続ラインL2は、分岐した第1の端部が第1の吸着塔1a,1bの二次側のそれぞれと接続され、分岐した第2の端部が第2の吸着塔2a,2bの一次側のそれぞれと接続される。
接続ラインL2には第1のタンク3が設けられている。第1のタンク3は、第1のPSAユニット1から導出される気体を貯めるためのタンクである。これにより、プロパンとプロペンとを含む気体を第1のPSAユニット1から第2のPSAユニット2に安定して供給することができ、プロパンとプロペンとを含む気体の流量の変動を低減できる。
【0020】
第2のPSAユニット2は、プロパンとプロペンとを分離する。第2のPSAユニット2は第2の吸着塔2aと第2の吸着塔2bとを有する。第2の吸着塔2a,2bは基本的に同じ構成であり、中空円筒状である。第2の吸着塔2a,2bは内部に第2の吸着剤を有する。本実施形態においては、第2の吸着剤はプロペンを吸着できる形態であれば特に限定されない。第2の吸着剤としては、ゼオライト、銀イオン担持活性炭等を含む吸着剤が好ましい。
【0021】
第1の導出ラインL3は、第2のPSAユニット2の二次側から導出されるプロパンが流れるラインである。第1の導出ラインL3は、分岐した第1の端部が第2の吸着塔2a,2bの二次側のそれぞれと接続され、第2の端部が再生ラインL5と接続される。
第1の導出ラインL3には、第2のタンク4と開閉弁V1とが一次側からこの順に設けられている。
【0022】
第1の回収ラインL6は、第1の導出ラインL3から分岐したラインである。具体的に、第1の回収ラインL6は、第2のタンク4と開閉弁V1との間の第1の導出ラインL3から分岐している。第1の回収ラインL6には開閉弁V2が設けられている。第1の回収ラインL6は、プロパンを製品ガスとして回収するためのラインである。
【0023】
第2のタンク4は、第2のPSAユニット2から導出されるプロパンを貯めるためのタンクである。これにより、第2のPSAユニット2で分離されたプロパンの一部を第2のタンク4から第1の導出ラインL3及び再生ラインL5を経由させ、第1のPSAユニット1に安定して供給することができる。その結果、第1の吸着剤の再生ガスとして使用されるプロパンの流量の変動を低減できる。
【0024】
第2の導出ラインL4は、第2のPSAユニット2の一次側から導出されるプロペンが流れるラインである。第2の導出ラインL4は、分岐した第1の端部が第2の吸着塔2a,2bの一次側のそれぞれと接続され、第2の端部が再生ラインL5と接続される。
第2の導出ラインL4には、ポンプPと第3のタンク5と開閉弁V3とが一次側からこの順に設けられている。
【0025】
第2の回収ラインL7は、第2の導出ラインL4から分岐したラインである。具体的に、第2の回収ラインL7は、第3のタンク5と開閉弁V3との間の第2の導出ラインL4から分岐している。第2の回収ラインL7には開閉弁V4が設けられている。第2の回収ラインL7は、プロペンを製品ガスとして回収するためのラインである。
【0026】
ポンプPは第2の吸着剤にプロペンが吸着されている状態において、第2の吸着剤からプロペンを脱離させる吸引手段の一例である。これにより、第2のPSAユニット2によって分離されたプロパンの一部を第2の吸着剤の再生ガスとして第2の吸着塔2a,2b内に供給せずに、第2の吸着剤からプロペンを脱離させることができる。
【0027】
第3のタンク5は、第2のPSAユニット2から導出されるプロペンを貯めるためのタンクである。これにより、第2のPSAユニット2で分離されたプロペンの一部を第3のタンク5から第2の導出ラインL4及び再生ラインL5を経由させ、第1のPSAユニット1に安定して供給することができる。その結果、第1の吸着剤の再生ガスとして使用されるプロペンの流量の変動を低減できる。
【0028】
再生ラインL5は、第1の吸着剤を再生する再生ガスを第1の吸着塔1a,1bに供給するためのラインである。
再生ラインL5は、第1の端部が第1の導出ラインL3及び第2の導出ラインL4のそれぞれの第2の端部と接続され、分岐した第2の端部が第1の吸着塔1a,1bの二次側のそれぞれと接続される。これにより、プロパン又はプロペンのいずれか一方を第1の吸着剤を再生する再生ガスとして、第1の吸着塔1a,1bに供給できる。
【0029】
再生排ガスラインL8は、第1のPSAユニット1から再生排ガスを排出するためのラインである。再生排ガスラインL8は、第1の吸着塔1a,1bの一次側と接続される。ただし、図1においては簡略化のため、再生排ガスラインL8と第1の吸着塔1aとの接続を省略している。
【0030】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の気体精製装置にあっては、第1の吸着剤が第1の気体及び第2の気体以外の気体を吸着するため、製品ガスの純度が高くなる。
また、気体精製装置にあっては、再生ラインが第1の導出ライン及び第2の導出ラインのそれぞれと接続されるため、第1の気体及び第2の気体のうち、製品ガスとして回収する気体を再生ガスとして使用せずに、製品ガスとして回収しない気体を第1の吸着塔に再生ガスとして供給できる。その結果、再生排ガスラインに真空ポンプを設けなくても、第1の吸着剤を再生でき、装置の設備費が低く抑えられるとともに、製品ガスとして回収する気体の回収量及び回収率が高くなる。
また、気体精製装置にあっては、第1の導出ラインと第2の導出ラインとを備えるため、第2の吸着塔から製品ガスとして導出する気体を選択でき、吸着剤の変更等の装置の改造をせずに製品ガスとして回収する気体を容易に変更できる。
【0031】
特に、気体精製装置によれば、本実施形態例のように、プロパン及びプロペン等の化学的性質が似ている複数種類の化合物のガスと二酸化炭素等の除去対象物とを含む原料ガスから、プロパン及びプロペンのそれぞれを90%以上の回収率で製品ガスとして回収できるとともに、原料ガス中の除去対象物の70%以上を分離できる。
気体精製装置10は、開閉弁V1~V4の開閉状態の切替により、プロパンとプロペンとの間で製品ガスとして回収する気体を切り替えるため、プロパンの製造装置又はプロペンの製造装置として使用可能である。
【0032】
<気体精製方法>
以下、上述した気体精製装置10を用いる本実施形態の気体精製方法について説明する。本実施形態の気体精製方法は、PSA方式の気体精製方法である。そのため、以下の実施形態においては、一般的な(即ち、本発明の特徴との関連性が低い)PSA方式の気体精製方法で行われる脱圧及び均圧等の操作に関する説明を省略する。
【0033】
以下に示す実施形態では、原料ガスを第1の吸着塔1bに供給し、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤にプロパン及びプロペン以外の気体を吸着させ、第1の吸着塔1bから第2の吸着塔2bにプロパン及びプロペンを供給し、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤にプロペンを吸着させた後を一例として、説明する。
即ち、以下の実施形態では、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤に二酸化炭素が吸着されており、第2のタンク4にプロパンが貯められ、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤にプロペンが吸着されている状態から、気体精製方法の説明を開始する。
【0034】
[第1の実施形態]
以下、プロペンを製品ガスとして回収する場合を一例として、図1を参照しながら第1の実施形態を説明する。即ち、以下に示す第1の実施形態においては、気体精製装置10がプロペンの製造装置である。図1中、太線で示すラインは、プロパンが流れているラインを意味する。
【0035】
図1に示すように、開閉弁V1及び開閉弁V4を開いた状態とし、開閉弁V2及び開閉弁V3を閉じた状態とする。この状態で原料ガスを第1の吸着塔1aに供給し、第1の吸着塔1a内の第1の吸着剤に二酸化炭素を吸着させる。これにより、原料ガスから二酸化炭素が除去される。
次いで、プロパンとプロペンとを含む気体が第1のPSAユニット1から第2のPSAユニット2に導出され、プロパン及びプロペンが第2の吸着塔2aに供給される。すると、第2の吸着塔2a内の第2の吸着剤にはプロペンが吸着され、プロパンが第1の導出ラインL3に導出される。これにより、プロパンとプロペンとが分離される。
【0036】
第1の実施形態では、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤からプロペンを脱離させ、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤から脱離したプロペンを第2の導出ラインL4から製品ガスとして回収するとともに、プロパンを第1の導出ラインL3から再生ラインL5に導入する。これにより、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤から脱離したプロペンは、第2の導出ラインL4と第2の回収ラインL7とをこの順に経由し、製品ガスとして回収される。
また、第2のPSAユニット2で分離されたプロパンを第1の導出ラインL3から再生ラインL5に導入することで、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤を再生する再生ガスとしてプロパンを使用できる。これにより、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤から二酸化炭素が脱離し、再生排ガスラインL8にはプロパンと二酸化炭素を含む気体が流れる。
【0037】
第2の吸着剤からプロペンを脱離させる際には、プロパンを第2の吸着塔を介して第2の導出ラインL4に導入しないことが好ましい。これにより、製品ガスであるプロペンにプロパンが混入しにくくなり、プロペンの純度をさらに高めることができる。プロパンを第2の吸着塔2bに供給せずに第2の吸着剤からプロペンを脱離させる方法としては、ポンプPを使用し、第2の導出ラインL4を介して第2の吸着塔2b内を吸引する方法が例示される。
【0038】
(作用効果)
以上説明した第1の実施形態の気体精製方法では、プロペンが製品ガスとして回収され、プロパンは製品ガスとしての回収対象ではない。そのため、プロパン(即ち、第1の気体)を第1の吸着剤の再生に使用することで、プロペン(即ち、第2の気体)を第1の吸着剤の再生に使用する必要がなくなるため、プロペンの回収量及び回収率が高くなる。
また、気体精製方法では、第1の吸着塔で二酸化炭素を充分に除去できるため、プロペンの純度が高くなる。
また、製品ガスとして回収しないプロパンを第1の吸着剤の再生に使用することで、第1の吸着剤の再生に真空ポンプを必要としないため、消費電力及び設備維持費用が低く抑えられる。
【0039】
[第2の実施形態]
以下、プロパンを製品ガスとして回収する場合を一例として、図2を参照しながら第2の実施形態を説明する。即ち、以下に示す第2の実施形態においては、気体精製装置10がプロパンの製造装置である。図2中、太線で示すラインは、プロペンが流れているラインを意味する。
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態で説明した構成と同一の構成については、同一の語及び同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0040】
図2に示すように、開閉弁V2及び開閉弁V3を開いた状態とし、開閉弁V1及び開閉弁V4を閉じた状態とする。この状態で、原料ガスを第1の吸着塔1aに供給し、第1の吸着塔1aで原料ガスから二酸化炭素を除去し、第2の吸着塔2aでプロパンとプロペンとを分離する。
【0041】
第2の実施形態では、第1の導出ラインL3からプロパンを製品ガスとして回収するとともに、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤からプロペンを脱離させ、第2の吸着塔2b内の第2の吸着剤から脱離したプロペンを第2の導出ラインL4から再生ラインL5に導入する。これにより、第2のPSAユニット2で分離されたプロパンが、第1の導出ラインL3と第1の回収ラインL6とをこの順に経由し、製品ガスとして回収される。
また、プロペンを第2の導出ラインL4から再生ラインL5に導入することで、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤を再生する再生ガスとしてプロペンを使用できる。これにより、第1の吸着塔1b内の第1の吸着剤から二酸化炭素が脱離し、再生排ガスラインL8にはプロペンと二酸化炭素を含む気体が流れる。
【0042】
第2の吸着剤からプロペンを脱離させる際には、プロパンを第2の吸着塔2bに供給しないことが好ましい。これにより、第2のPSAユニット2で分離されたプロパンの全量をそのまま回収でき、製品ガスであるプロパンの回収量及び回収率をさらに高めることができる。プロパンを第2の吸着塔2bに供給せずに第2の吸着剤からプロペンを脱離させる方法としては、ポンプPを使用し、第2の導出ラインL4を介して第2の吸着塔2b内を吸引する方法が例示される。
【0043】
(作用効果)
以上説明した第2の実施形態の気体精製方法では、プロパンが製品ガスとして回収され、プロペンは製品ガスとしての回収対象ではない。そのため、プロペン(即ち、第2の気体)を第1の吸着剤の再生に使用することで、プロパン(即ち、第1の気体)を第1の吸着剤の再生に使用する必要がなくなるため、プロパンの回収量及び回収率が高くなる。
また、第2の実施形態の気体精製方法では、第1の実施形態と同様に、第1の吸着塔で二酸化炭素を充分に除去でき、第1の吸着剤の再生に真空ポンプを必要としないため、プロパンの純度が高くなり、消費電力及び設備維持費用が低く抑えられる。
【0044】
このように気体精製装置10によれば、開閉弁V1~V4の開閉状態の切替という簡単な操作で、プロパンとプロペンとの間で製品ガスとして回収する気体を切り替えることができる。
【0045】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。
例えば上述の実施形態においては、第1の吸着剤は二酸化炭素を吸着できる形態を、第2の吸着剤はプロペンを吸着できる形態を一例として説明したが、第1の吸着剤及び第2の吸着剤の種類及び形態は、原料ガス中の除去対象物及び第2の気体に応じて適宜選択できる。
【0046】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0047】
(実施例1)
実施例1では気体精製装置10を用いて、原料ガスからPSA方式でプロペンを精製し、プロペンを製品ガスとして回収した。実施例1で使用した原料ガスは、プロパンを50%、プロペンを25%、二酸化炭素を25%含んでいた。原料ガスを第1のPSAユニット1に供給し、第2のPSAユニット2でプロパンとプロペンとを分離した。第1の吸着剤の再生には第2のPSAユニット2で分離したプロパンを使用した。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、第1の吸着剤の再生の際に再生ガスを使用せず、第1の吸着塔内の圧力を大気圧に低下させた以外は、実施例1と同様にしてプロペンを製品ガスとして回収した。
【0049】
(比較例2)
比較例2では、第1の吸着剤の再生に使用したガスを第1のタンク3内の気体に変更した以外は、実施例1と同様にしてプロペンを製品ガスとして回収した。
【0050】
(参考例1)
参考例1では、気体精製装置10が備える再生排ガスラインL8に真空ポンプを設け、真空ポンプが設けられた気体精製装置を用いて、プロペンを製品ガスとして回収した。参考例1では、第1の吸着剤の再生の際に再生ガスを使用せず、前記真空ポンプを使用した。
【0051】
実施例1、比較例1,2、参考例1で得られたプロペンの組成を分析し、プロペンの回収率、二酸化炭素の除去率及びプロパンの除去率を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1では、真空ポンプを用いた例である参考例1と同程度のプロペンの回収率、二酸化炭素の除去率及びプロパンの除去率を達成できた。すなわち、実施例1では真空ポンプを使う場合に比べて安価な方法で、真空ポンプを用いる場合と同程度の純度かつ回収率でプロペンを製造できた。
比較例1では、第1の吸着剤の再生の際に、第1の吸着剤の再生の際に再生ガスを使用せず、第1の吸着塔内の圧力を大気圧に低下させたため、第1の吸着剤の再生が不十分であり、二酸化炭素の除去率が低下し、結果としてプロペンの回収率が低下した。
比較例2では、第1の吸着剤の再生に第1のタンク3内の気体を使用したため、プロペンの回収率が低下した。
【符号の説明】
【0054】
1…第1のPSAユニット,2…第2のPSAユニット、1a,1b…第1の吸着塔、2a,2b…第2の吸着塔、3…第1のタンク、4…第2のタンク、5…第3のタンク、10…気体精製装置、L1…原料ライン、L2…接続ライン、L3…第1の導出ライン、L4…第2の導出ライン、L5…再生ライン、L6…第1の回収ライン、L7…第2の回収ライン、L8…再生排ガスライン、P…ポンプ、V1~V4…開閉弁
図1
図2