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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】シリカ粒子材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20220215BHJP
   C09C 1/30 20060101ALI20220215BHJP
   C08L 63/02 20060101ALN20220215BHJP
   C08K 9/06 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C09C1/30
C08L63/02
C08K9/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018056434
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167269
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216348(JP,A)
【文献】特開2018-021106(JP,A)
【文献】特開2016-121294(JP,A)
【文献】特開2011-063664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C09C 1/30
C08L 63/02
C08K 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)を表面にもち、pKa8以上で有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理されており、平均粒子径が5nm~3μmであり、
前記塩基性物質は、表面処理前の材料のシリカ粒子の質量を基準として0.1質量%~5質量%表面に存在するシリカ粒子材料。
【請求項2】
式(1):-OSiXで表される官能基と、式(2):-OSiYで表される官能基との双方がシリカ粒子の表面に結合しており、且つ、pKa8以上で有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理されており、平均粒子径が5nm~3μmであるシリカ粒子材料。(上記式(1)、(2)中;XはN-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)であり;X、Xは-OSiR及び-OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び-OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び-OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1~3のアルキル基から独立して選択される。なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと-O-にて結合しても良い。)
【請求項3】
前記塩基性物質は、トリエチレンテトラミン、プロパノールアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、又はトリメチルホスフィンである請求項1または2のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子材料。
【請求項4】
600nmにおける反射率変化率が25%R以下である請求項1~3のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子材料。
【請求項5】
請求項1~4のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子材料を製造する製造方法であって、 N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)がケイ素原子に結合したシランカップリング剤によってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程を持ち、
pKa8以上の有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理する工程を併せ持つシリカ粒子材料の製造方法。
【請求項6】
前記表面処理工程は、水を含む液状媒体中でN-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)がケイ素原子に結合したシランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2~1:10であり、
前記表面処理工程後に、塩化合物を添加して行う塩析により前記シリカ粒子を沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る固形化工程を備える請求項5に記載のシリカ粒子材料の製造方法。
【請求項7】
前記塩化合物は塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ピリジン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、塩化テトラメチルアンモニウム、及び、ドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選択される1以上の物質である請求項6に記載のシリカ粒子材料の製造方法。
【請求項8】
前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う請求項6又は7に記載のシリカ粒子材料の製造方法。
【請求項9】
前記第2の処理工程において、3つのアルコキシ基と炭素数1~3のアルキル基とを持つ第2のシランカップリング剤で前記オルガノシラザンの一部を置き換え、
前記第2の処理工程後に、さらに前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第3の処理工程を持つ請求項8に記載のシリカ粒子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料中にシリカ粒子材料を分散させて得られる樹脂組成物は、高い機械的特性を有している。シリカ粒子材料と樹脂材料との親和性を向上することで、樹脂組成物の更なる高性能化を実現するために、シリカ粒子材料の表面には、樹脂材料との親和性が向上できる表面処理が為されていることが多い。
【0003】
特にエポキシ樹脂を樹脂材料として採用する場合には、N-フェニル-アミノアルキル基を導入することで親和性を向上できることを本出願人は開示している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-216348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、N-フェニル-アミノアルキル基を導入したシリカ粒子は、エポキシ樹脂との親和性が高いものの、色調の変化(特に経年変化)が発生することがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、N-フェニル-アミノアルキル基を導入し且つ色調の変化を抑制できるシリカ粒子材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、色調の変化は、N-フェニル-アミノアルキル基の重合により生成するポリアニリンに由来することが判明した。本発明者らは、N-フェニル-アミノアルキル基の重合について塩基性物質により効果的に抑制できることを見出し、以下の発明を完成した。
【0008】
(A)上記課題を解決する本発明のシリカ粒子材料は、平均粒子径が5nm~3μmであって、N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)を表面にもち、pKa8以上で有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理されている。
【0009】
(B)上記課題を解決する本発明のシリカ粒子材料は、平均粒子径が5nm~3μmであって、式(1):-OSiXで表される官能基と、式(2):-OSiYで表される官能基とのうちの少なくとも一つがシリカ粒子の表面に結合しており、且つ、pKa8以上で有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理されている。
(上記式(1)、(2)中;XはN-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)であり;X、Xは-OSiR及び-OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び-OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び-OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1~3のアルキル基から独立して選択される。なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと-O-にて結合しても良い。)
【0010】
(C)上記課題を解決する本発明のシリカ粒子材料の製造方法は、水を含む液状媒体中でN-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)がケイ素原子に結合したシランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2~1:10であり、
前記表面処理工程後に、塩化合物を添加して行う塩析により前記シリカ粒子を沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る固形化工程を備え、
pKa8以上の有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される塩基性物質にて表面処理されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリカ粒子材料及び本発明のシリカ粒子材料の製造方法で製造されたシリカ粒子材料は、N-フェニル-アミノをもつ官能基をもつことでエポキシ樹脂との親和性を高くしている一方、所定の塩基性物質にて表面処理されていることで色調の経年変化を抑制できている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の経時変化前後の透過率の波長依存性を示した図である。
図2】実施例1及び比較例1のIRスペクトルである。
図3】比較例1の経時変化前後の透過率の波長依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシリカ粒子材料及びその製造方法について実施形態に基づき詳細に説明を行う。本願発明のシリカ粒子材料の用途は特に限定しない。樹脂(又は樹脂組成物)中に分散させて樹脂組成物を構成したり、その他の材料に含有させてその材料が形成する隙間に挿入したりすることができる。樹脂組成物は、半導体封止材、アンダーフィル、構造材料、光学材料などに用いることができる。また、その他のフィラー(マイクロメートルオーダーの、繊維や粒子)も分散させることもできる。
【0014】
特に銅材料からなる部材に接するように用いられることが好ましい。例えば、表面や内部に配線(銅材料からなる部材)が配設されている基板材料を構成する樹脂組成物のフィラーに採用することが好ましい。特に配線に接触する部位に用いる樹脂組成物のフィラーにすることが望ましい。例えば配線が表面に形成される場合には基板の表面に、内部に形成される場合には内部に配設された配線の周囲に用いる樹脂組成物に用いることができる。基板を被覆する被覆材に採用したり、複数の基板を接着する接着層に採用したりできる。
【0015】
樹脂組成物中に本発明のシリカ粒子材料を含有させるときにはフィラーの全てとして用いることができるほか、フィラーの一部として用いることもできる。
【0016】
本実施形態のシリカ粒子材料は、N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5)を表面にもつ。また、本実施形態のシリカ粒子材料は、塩基性物質にて表面処理されている。平均粒子径は、5nm~3μmである。ここで、「平均粒子径」は体積平均粒径であり、レーザ回折法にて測定できる。なお、レーザ回折法にて測定した平均粒子径が40nm以下である場合には比表面積直径を算出して平均粒子径とする。比表面積直径は、窒素を用いてBET法にて測定した比表面積を用いて算出する。具体例は実施例にて説明する。
【0017】
表面処理としては、表面に付着させるだけの態様、付着させた後に加熱する態様などがある。表面に付着させる方法としても特に限定されず、塩基性物質が液体である場合にはそのまま接触させたり噴霧したり揮発させたり、液体乃至固体である場合には何らかの溶媒にて溶液とした後に噴霧したりすることができる。更に、本実施形態のシリカ粒子材料が、樹脂組成物中にフィラーとして採用される場合には、混合する樹脂組成物中に塩基性物質を分散させた状態にした後、塩基性物質による表面処理前の処理前粒子材料を樹脂材料中に分散させることで、塩基性物質による表面処理を行った本実施例の処理前粒子材料を樹脂材料中で得ることもできる。
【0018】
塩基性物質の量としては特に限定しない。例えば、塩基性物質による表面処理前の材料(以下「処理前粒子材料」と称する)のシリカ粒子の質量を基準として0.1質量%~5質量%程度の量を用いることができる。
【0019】
塩基性物質は、シリカ粒子材料の表面にどのように存在していても良い。例えば、付着していたり、化学結合していたりすることができる。塩基性物質は、pKa8以上である有機アミン化合物及び有機ホスフィンから選択される。pKaとしては8.5以上であることが好ましく、9以上であることが更に好ましい。
【0020】
有機アミン化合物としては、NR3-n(Rは一部水素が水酸基で置換されていても良い炭化水素基、nは1以上の整数)やNH(C2mNH)H(mは1から4までの整数、nは1から10までの整数。一部水素が水酸基で置換されていても良い)、複素環化式アミン化合物等が例示できる。トリエチレンテトラミン、エチレンジアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロパノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンイミン、ピロリジンなどが挙げられる。有機ホスフィンとしては、前述の有機アミン化合物における窒素原子がリン原子に置換された化合物が採用できる。トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタンなどが挙げられる。
【0021】
本実施形態のシリカ粒子材料について以下に説明する。
(A)本実施形態のシリカ粒子材料は、以下の処理前粒子材料を調整した後に塩基性物質により表面処理することで得られる。
【0022】
本処理前粒子材料は、式(1):-OSiXで表される官能基と、式(2):-OSiYで表される官能基とのうちの少なくとも1つがシリカ粒子の表面に結合した材料である。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ。更に、第1の官能基と第2の官能基とは両者共に表面に結合していることが好ましい。第1の官能基と第2の官能基とはシリカ粒子を構成するシリカに直接結合していても良いし、シリカ粒子の表面に付着している分子に結合していても良い。シリカ粒子に直接結合している場合には有機溶媒などにより洗浄してもそれらの官能基は脱落せず不溶化層を形成するが、シリカ粒子に付着している分子に結合している場合には適正な溶媒によりそれらの官能基が脱落する場合があり可溶化層を形成する。
【0023】
不溶化層が形成されると、樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難い。また、樹脂中での凝集も起こり難い。
【0024】
可溶化層は不溶化層の表面に形成される。可溶化層は有機溶剤に可溶である。つまり、有機溶剤で洗浄すると、可溶化層は除去される。また、可溶化層はシリカ粒子の表面から脱落可能であるため、樹脂中に拡散・分散できる。よって、可溶化層が形成されていても、樹脂との親和性が阻害されることはない。このため、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、樹脂中での凝集も起こり難い。
【0025】
第1の官能基におけるXは、N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5。特にn-プロピル基であって3位に窒素原子が結合するN-フェニル-アミノプロピル基が好ましい)である。X、Xは、それぞれ、-OSiR又は-OSiYである。YはRである。Y、Yは、それぞれ、R又は-OSiRである。
【0026】
第2の官能基におけるYはRである。Y、Yは、それぞれ、-OSiR又は-OSiYである。
【0027】
第1の官能基および第2の官能基に含まれる-OSiRが多い程、処理前粒子材料の表面にRを多く持つ。第1の官能基および第2の官能基に含まれるR(炭素数1~3のアルキル基)が多い程、最終的に得られる本実施形態のシリカ粒子材料は凝集し難い。
【0028】
第1の官能基に関していえば、X、Xがそれぞれ-OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、XおよびXがそれぞれ-OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ-OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0029】
第2の官能基に関していえば、Y、Yがそれぞれ-OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、YおよびYがそれぞれ-OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ-OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0030】
第1の官能基に含まれるXの数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとXとの存在数比や、本実施形態のシリカ粒子材料の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0031】
なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと-O-にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかと-O-にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと-O-にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと-O-にて結合していても良い。
【0032】
本実施形態のシリカ粒子材料において、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12~1:60であれば、シリカ粒子材料の表面にXとRとがバランス良く存在する。このため、処理前粒子材料における、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12~1:60であるように調製すれば、樹脂に対する親和性および凝集抑制効果に特に優れる。また、Xがシリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5~2.5個であれば、シリカ粒子材料の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基および第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。したがってこの場合にも、樹脂に対する親和性および本実施形態のシリカ粒子材料自身の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0033】
何れの場合にも、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのRは、0.5個~10個、さらには1個~10個であるのが好ましい。この場合には、本実施形態のシリカ粒子材料の表面に存在するXの数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性および本実施形態のシリカ粒子材料自身の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0034】
最終的な本実施形態のシリカ粒子材料においては、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているのが好ましい。そのために処理前粒子材料においても表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているのが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり2.0個以上であれば、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているといえる。
【0035】
本実施形態のシリカ粒子材料は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる可能性がある。詳しくは、本実施形態のシリカ粒子材料や処理前粒子材料について赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm-1にC-H伸縮振動の極大吸収がある。このため、本実施形態のシリカ粒子材料や処理前粒子材料であるか否かは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。但し、フェニルアミン由来の赤外吸収がブロードなピークであるために判別が困難である場合も多いため、その他の方法としては炭素原子の存在を測定したり、炭素原子・水素原子・窒素原子などの原子の組成比を算出して推測したりできる。
【0036】
得られた処理前粒子材料に対して前述の塩基性物質により表面処理を行うことで本実施形態のシリカ粒子材料が得られる。表面処理については前述したとおりである。
【0037】
また、上述したように本実施形態のシリカ粒子材料は凝集し難い。したがって、本実施形態のシリカ粒子材料は粒径の小さなシリカ粒子材料に適用できる。例えば、本実施形態のシリカ粒子材料は、体積平均粒径が5nm~3μm程度にできる。特に体積平均粒径の下限値としては、5nm、10nmが採用でき、上限値としては、3μm、2μm、1μm、0.5μmが採用できる。これらの下限値と上限とは任意に組み合わせることが可能である。
【0038】
なお、本発明のシリカ粒子材料は、乾燥状態を経ても一次粒子にまで分離している。「乾燥状態を経ても一次粒子にまで分離している」かどうかは、超音波処理することによって再度分散可能であることで判断できる。つまり、乾燥状態を経ても簡単に一次粒子にまで分離できれば「乾燥状態を経ても一次粒子にまで分離している」である。具体的には、本発明のシリカ粒子材料をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、本発明のシリカ粒子材料を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。本発明のシリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、このシリカ粒子材料のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、シリカ粒子材料の一次粒子に相当する粒度分布が観測され、凝集物の粒度分布が観測されなければ(例えば凝集物の割合が体積基準で5%以下(更には1%以下))、本発明のシリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したといえる。
【0039】
本発明のシリカ粒子材料は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていないシリカ粒子材料として提供できる。この場合、液状媒体の持ち込みがないために、樹脂材料用のフィラーとして好ましく用いられる。
【0040】
また、本発明のシリカ粒子材料は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。このため、本発明のシリカ粒子材料は、水に溶解する物質を必要なだけ除去することが容易であり、電子部品用のシリカ粒子材料に好適できる。
【0041】
本実施形態のシリカ粒子材料を製造する方法を以下に例示する。例えば、シリカ粒子の表面に第1の官能基と第2の官能基が形成できるシラン化合物を接触させることで処理前粒子材料を形成した後に塩基性物質による表面処理を行うこと(表面処理工程)で製造することができる。シラン化合物としてはシランカップリング剤やオルガノシラザンが例示できる。
【0042】
シラン化合物を反応させる条件としては、特に限定しない。例えば、乾燥した状態のシリカ粒子に対して液状乃至気体状のシラン化合物を直接接触させたり、シラン化合物を何らかの液状媒体中に溶解させた状態でシリカ粒子に接触させたりして反応させることができる。液状媒体としては水や水を含む混合物を採用することもできる。
【0043】
シランカップリング剤は、N-フェニル-アミノアルキル基(アルキル基は炭素数が2~5:すなわち上記のXをSiに結合する官能基としてもつ)がケイ素原子に結合したシランカップリング剤である。特にN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが例示できる。
【0044】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3);-OSiXで表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるXは式(1)で表される官能基におけるXと同じである。X、Xは、それぞれ、アルコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX、Xがオルガノシラザンに由来する-OSiY(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理されたシリカ粒子材料の表面には、式(1):-OSiXで表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):-OSiYで表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2~1:10であるため、得られたシリカ粒子材料における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12~1:60となる。
【0045】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX、Xは、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0046】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤で置き換えても良い。第2のシランカップリング剤としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものを用いることができる。この場合には、第3の官能基に含まれるX、Xが、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4);-OSiYで表される。Yは第2の官能基におけるYと同じRであり、X、Xはそれぞれアルコキシ基または水酸基である。第4の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、または、別の第4の官能基で置換される。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤に置き換える場合、第2のシランカップリング剤で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX、Xを、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0047】
オルガノシラザンの一部を第2のシランカップリング剤で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。X、Xが第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX、Xが別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換される。このため第2のシランカップリング剤は、第1のカップリング剤及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシランカップリング剤で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0048】
シランカップリング剤および第2のシランカップリング剤のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1~12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0049】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基およびシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0050】
第2のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0051】
なお、表面処理工程において、シランカップリング剤の重合や第2のシランカップリング剤の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5-ジブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、p-メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0052】
本発明のシリカ粒子材料の製造方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、液状媒体中にて表面処理工程を行う場合に採用することが好ましい工程である。固形化工程は、表面処理工程後に塩化合物を添加することでシリカ粒子材料を沈殿させる工程である。なお、塩基性物質により表面処理は、固形化工程の前後のどこで行っても良い。水を含む液状媒体を採用する場合には塩化合物を添加することで塩析が進行することもできる。本明細書中において塩析が進行しているかどうかの判断は、実際に沈殿が生じるかどうかで判断できるほか、塩化合物を反応系内に添加することのみをもっても、塩析が進行しているものとして判断できる。また、塩化合物の濃度が2mmol/L以上(好ましくは10mmol/L以上、より好ましくは15mmol/L以上)にまで添加することでも塩析が進行しているものとして扱うことができる。
【0053】
得られた沈殿物は水で洗浄・乾燥等して、シリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)の固形物を得ることができる。上述したように、一般的なシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)を再度分散するのは非常に困難である。しかし、本発明のシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、上述したように、シリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)を水で洗浄することで、電子部品等の用途に用いられるシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)を容易に製造できる。なお、洗浄工程においては、シリカ粒子材料の抽出水(詳しくは、シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0054】
塩化合物としては特に限定しないが、無機塩化合物を添加する方法が簡易で有り好ましい。塩化合物としては、例えば塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、アンモニア(水)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ピリジン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、塩化テトラメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。特に50~300℃程度の加熱により揮発するような物質を採用することが望ましい。塩化合物はそのまま用いても良いが、水溶液などのような溶液(塩化合物溶液)として用いるのが好ましい。塩化合物溶液における塩化合物の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。塩化合物溶液の量は、洗浄対象であるシリカ粒子材料の質量を基準として6~12倍程度にすることができる。
【0055】
塩化合物溶液による処理(接触させること。塩析が進行する)は複数回数行うことも可能である。シリカ粒子材料を塩化合物溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。塩化合物溶液中にて処理する際には常温以上に加熱することもできる。
【0056】
その後、処理により懸濁させたシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄シリカ粒子材料を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取したシリカ粒子材料に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、シリカ粒子材料を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0057】
シリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
【0058】
乾燥以外でシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)を脱水する方法として、含水しているシリカ粒子材料に対して、水よりも沸点が高い水系有機溶媒を添加後、その水系有機溶媒に溶解可能な混合材料を混合し、水を除去する方法を用いることができる。水系有機溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテル(プロピレングリコール-1-メチルエーテル、沸点119℃程度;プロピレングリコール-2-メチルエーテル、沸点130℃程度)、ブタノール(沸点117.7℃)、N-メチル-2-ピロリドン(沸点204℃程度)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃程度)などが例示できる。
【0059】
混合材料は、水系有機溶媒よりも沸点が高い有機化合物である。沸点が水系有機溶媒及び水よりも高いので、最終的にシリカ粒子材料と共に残存することになる。混合材料はそのまま、又は、反応することで高分子にすることもできる。混合材料は、シリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)を分散するマトリクスを形成することもできる。混合材料は、含水したシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)に対して水系有機溶媒を添加した状態で、分散乃至溶解できる化合物である。混合材料は高分子であっても低分子であっても良い。混合材料は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基、及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、混合材料の分子量を向上できる。好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加したりできる。
【0060】
混合材料としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0061】
水(更には水系有機溶媒も)を除去することで、混合材料中にシリカ粒子材料(又は処理前粒子材料)が混合乃至分散した状態とすることができる。
【0062】
表面処理工程を乾燥状態のシリカ粒子に対して行った場合には余分なシラン化合物を乾燥や洗浄などにより除去することもできるし、余分なシラン化合物を可溶化層としてそのまま残存させることもできる。
【0063】
(樹脂組成物への応用)
本実施形態のシリカ粒子材料は、樹脂材料中に分散させて樹脂組成物とするためにフィラーとして用いることができる。樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂が例示できる。樹脂材料は硬化の前後どちらでも良い。
【実施例
【0064】
以下、本発明のシリカ粒子材料および本発明のシリカ粒子材料の製造方法を具体的に説明する。
【0065】
(試験1)
・処理前粒子材料Aの製造
(1)準備工程
シリカ粒子としてのコロイダルシリカを固形分濃度が20%になるようイオン交換水で希釈したスラリーを調製した。
【0066】
(2)第1工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール40質量部、12N塩酸0.3質量部を加え混合して分散液とした。この分散液にN-フェニル-アミノプロピルトリメトキシシラン0.3質量部を加え40℃で72時間混合した(混合液)。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときN-フェニル-アミノプロピルトリメトキシシランは必要な量の一部の水酸基が表面処理されずに残存するように計算して加えた。
【0067】
(3)第2工程
次いで、混合液にヘキサメチルジシラザン0.5質量部を加えた。塩化合物溶液として5質量%炭酸アンモニウム水溶液を6質量部加え40℃で72時間放置した。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水、及びイソパノール中で安定に存在できなくなり凝集・沈殿した。なお、N-フェニル-アミノプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5だった。
【0068】
(4)固形化工程
表面処理の工程(第1及び第2工程)で得られた混合物全量をろ紙(アドバンテック製
5A)でろ別した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄したのちに105℃で乾燥して、シリカ粒子固形分が得られた。得られたシリカ粒子固形分(シリカ粒子材料に相当、以下同じ)を本実施例の処理前粒子材料Aとした。
【0069】
ここで、原料として採用したコロイダルシリカの種類・粒径を変化させることで、得られた処理前粒子材料の比表面積(窒素:BET法)が300m/g、60m/g、30m/gとなるようにした。コロイダルシリカの平均粒子径は、[平均粒子径(nm)]=6000/[比表面積(m2/g)]/[比重(g/cm3)]により比表面積とシリカの比重2.2(g/cm3)から求めた。上述のコロイダルシリカの平均粒子径は9nm(300m2/g)、45nm(60m2/g)、91nm(30m2/g)だった。
【0070】
なお、比表面積の値によって前述したN-フェニル-アミノプロピルトリメトキシシランの添加量、ヘキサメチルジシラザンの添加量を適宜調整した。具体的には、表面積1mあたり2μmol、5μmolとなるようにN-フェニル-アミノプロピルトリメトキシシランの添加量、ヘキサメチルジシラザンの添加量を調整した。
【0071】
・処理前粒子材料Bの製造
(表面処理工程)
シリカ粒子としてVMC法で作られた乾式球状シリカ(アドマファイン)100質量部に表面処理剤としてKBM573(信越化学製)1質量部を混合・撹拌することにより表面処理を行い本実施例の処理前粒子材料Bとした。処理前粒子材料Bの比表面積は10m/gであり、平均粒子径が272nmだった。
【0072】
(5)塩基性物質による表面処理
・実施例1
本実施例の処理前粒子材料A(300m/g)100質量部に対して、メチルエチルケトン(MEK)400質量部、塩基性物質としてのトリエチレンテトラミン(pKa10.0)1質量部を混合することで処理前粒子材料に対して塩基性物質による表面処理を行い、本実施例のシリカ粒子材料のMEK分散液を得た。製造直後は薄黄色であった。
【0073】
得られたMEK分散液について経時変化を検討した。経時変化の評価は、製造直後のMEK分散液と40℃で30日経過後のMEK分散液とについて、紫外可視光分光光度計を用いて測定波長500nm及び600nmにおける透過率を測定した。製造直後の600nmにおける透過率をT1、500nmにおける透過率をT3とし、40℃で30日経過後の600nmにおける透過率をT2、500nmにおける透過率をT4とした。
【0074】
その結果、透過率については500nm及び600nm共に1%T低下した。参考までに透過率を測定した結果を図1に示す。
【0075】
更に、調製直後の試料について、MEK分散液にヘプタンを加えて遠心分離を行い、沈降したシリカ粒子材料を分離した。この操作を3回繰り返した後に乾燥させてFT-IRにてスペクトルを測定した。その結果、シリカ粒子材料の表面に1級アミンのNH伸縮と想定されるピークが1640cm-1に新たに検出され、トリエチレンテトラミンによる表面処理が完了していることがわかった。参考までにIRスペクトルを図2に示す。
【0076】
そして、MEK分散液の状態にて40℃で30日経過したMEK分散液について、ヘプタンを加えて遠心分離を行い、沈降したシリカ粒子材料(経時変化後)を分離した。この操作を3回繰り返した後に乾燥させて紫外可視光分光光度計にて反射率を測定した。
【0077】
製造直後の600nmにおける反射率をR1、500nmにおける反射率をR3とし、40℃で30日経過後の600nmにおける反射率をR2、500nmにおける反射率をR4とした。その結果、反射率については500nmで4%R低下し、600nmでは2%R低下した。この40℃で30日経過前後の反射率が変化した差分値の初期値に対する変化率を反射率変化率とする。例えば600nmにおける反射率変化率は、(R1-R2)/R1×100(%)として算出できる。
【0078】
シリカ粒子材料(経時変化後)について600℃で加熱した時に生成するガスをGC-MS分析装置により分析したところ、アゾベンゼンは検出できなかった。N-フェニル-アミノに由来する着色反応が進行すると、アゾベンゼンを生成することが予測されるため、アゾベンゼンが検出されないと言うことは、N-フェニル-アミノに由来する着色反応が進行していないことが推測された。
【0079】
塩基性物質による表面処理を行っていない処理前粒子材料Aの表面は以下のような化学構造をもつことが予測される。
【0080】
【化1】
【0081】
ここで、塩基性物質による表面処理を行っていない処理前粒子材料Aの場合では、その表面は以下のような反応により着色するものと予測される。ここで生成した反応物は加熱によりアゾベンゼンを生じるため、加熱によってアゾベンゼンが生成するかどうかで検出できる。
【0082】
【化2】
【0083】
本実施例においては、(化1)の構造は、塩基性物質による表面処理により一部乃至全部が以下の構造に変化することで着色が抑制されるものと考えられる。
【0084】
【化3】
【0085】
・実施例2
トリエチレンテトラミンに代えて、塩基性物質としてのジメチルアミン(pKa10.7)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0086】
・実施例3
トリエチレンテトラミンに代えて、塩基性物質としてのプロパノールアミン(pKa9.5)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0087】
・実施例4
トリエチレンテトラミンに代えて、塩基性物質としてのトリメチルホスフィン(pKa8.7)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0088】
・実施例5
処理前粒子材料Aとして比表面積が60m/gのものを採用し、分散媒としてのMEKの量を処理前粒子材料A100質量部に対して100質量部に減らした以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0089】
・実施例6
処理前粒子材料Aとして比表面積が30m/gのものを採用した以外は実施例5と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0090】
・実施例7
処理前粒子材料Aではなく、処理前粒子材料Bとして比表面積が10m/gのものを採用した以外は実施例5と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0091】
・比較例1
トリエチレンテトラミンを用いない以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0092】
透過率の経時変化は600nmでは39%T、500nmでは24%Tだった。反射率の経時変化は600nmでは35%R、500nmでは20%Rだった。参考までに透過率を測定した結果を図3に示す。1級アミンのNH伸縮と想定されるピーク(1640cm-1)は未検出であった。GC-MSで分析したところ着色物質のアゾベンゼンが検出された(図2)。
【0093】
・比較例2
塩基性物質としてのトリエチレンテトラミンに代えて、含窒素物質であるイミダゾール(pKa7.0)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0094】
・比較例3
塩基性物質としてのトリエチレンテトラミンに代えて、含窒素物質であるヘキサメチルジシラザン(pKa7.6)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0095】
・比較例4
塩基性物質としてのトリエチレンテトラミンに代えて、有機アミンではあるがpKaが6未満であるアニリン(pKa4.9)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0096】
・比較例5
塩基性物質としてのトリエチレンテトラミンに代えて、有機ホスフィンではあるがpKaが6未満であるトリフェニルホスフィン(pKa2.7)を用いた以外は実施例1と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0097】
・比較例6
トリエチレンテトラミンを用いない以外は実施例5と同様の方法にてシリカ粒子材料を調製して試験を行った。
【0098】
(結果)
実施例1~7及び比較例1~6の各試料について透過率及び反射率の経時変化、表面への塩基性物質の導入、経時変化後のアゾベンゼンの検出の有無について表1(反射)及び表2(透過)に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表1より明らかなように、各実施例のシリカ粒子材料については、塩基性物質による表面処理を行うことにより、600nm・500nm共に、経時変化による色調変化を抑制することができることが分かった。また、外観変化も肉眼では観察できなかった。更に、アゾベンゼンも検出できず、N-フェニル-アミノ基の重合の進行は問題にならないことが分かった。そして、塩基性物質であってもpKaが高い方が初期の反射率が高い傾向に有った。
【0102】
なお、表1では実施例1において500nmにおける反射率が経時変化により上昇しているが、誤差であるか、または、塩基性物質による表面処理の効果により脱色が進行したものと推測できる。
【0103】
また、各比較例のシリカ粒子材料においては、調製直後における反射率が低い上に、経時変化の大きさも大きいことが分かった。
【0104】
更に、表2の結果からも、各実施例のシリカ粒子材料については、塩基性物質による表面処理を行うことにより、600nm・500nm共に、経時変化による色調変化を抑制することができることが分かった。そして、反射率での結果を同様に、透過率の結果からも、塩基性物質におけるpKaが高い方が透過率の経時変化の大きさが小さい傾向に有った。
【0105】
また、各比較例のシリカ粒子材料においては、調製直後における透過率が低い上に、経時変化後にほぼ透過率が0%になることが明らかになった。
【0106】
従って、塩基性物質による表面処理によりN-フェニル-アミノ基に由来する着色を充分に抑制できることが明らかになった。
【0107】
(試験2)
実施例1及び比較例1のシリカ粒子材料について、液状エポキシ樹脂(ビスフェノールA:ビスフェノールF=50:50)及びアミン系硬化剤とからなる樹脂材料中に、全体の質量を基準として20質量%の割合で分散させて本実施例及び比較例の樹脂組成物を調製した。その後、それぞれの樹脂組成物について硬化させた試験試料について、40℃で30日経過後に肉眼で観察したところ、実施例の試験試料は、比較例の試験試料に比べて着色の程度が明らかに少ないことが分かった。
図1
図2
図3