(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】移相器及びフェーズドアレイ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/18 20060101AFI20220217BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20220217BHJP
H01P 1/15 20060101ALI20220217BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H01P1/18
H01Q3/36
H01P1/15
B81B7/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016253573
(22)【出願日】2016-12-27
【審査請求日】2019-12-24
(32)【優先日】2015-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503019176
【氏名又は名称】シナジー マイクロウェーブ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Synergy Microwave Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】シバン・ケイ・カウル
(72)【発明者】
【氏名】アジャイ・クマール・ポダー
(72)【発明者】
【氏名】スコマル・デイ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ・エル・ローデ
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525104(JP,A)
【文献】特表2005-536955(JP,A)
【文献】特開2013-118234(JP,A)
【文献】特表2004-505479(JP,A)
【文献】特開平11-274805(JP,A)
【文献】特開2005-142982(JP,A)
【文献】米国特許第06281838(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0186108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/10- 1/195
H01Q 3/00- 3/46
H01Q 21/00-25/04
B81B 1/00- 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移相器であって、
基板と、
入力ポートと、
出力ポートと、
第1の円形の共平面導波路の周りに円形パターンに分布された第1の複数のカンチレバービームを含み、前記入力ポートは、該第1の複数のカンチレバービームのうちの1つによって前記第1の円形の共平面導波路に接続されている、第1の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路と、
第2の円形の共平面導波路の周りに円形パターンに分布された第2の複数のカンチレバービームを含み、前記出力ポートは、該第2の複数のカンチレバービームのうちの1つによって前記第2の円形の共平面導波路に接続されている、第2の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路と、
16個の信号線であって、各信号線は、前記第1のSP16Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記第2のSP16Tマイクロ電気機械スイッチ回路のそれぞれのスイッチを互いに接続する、16個の信号線と
を備えてなり、
前記第1のSP16Tスイッチ回路と前記第2のSP16Tスイッチ回路と前記16個の信号線とは、基板の表面上において15.2mm
2の面積を占有している、移相器。
【請求項2】
4ビット出力を生成するために、所与の時点において前記移相器の2つのスイッチのみが作動し、前記移相器は均一なスイッチ作動を示す、請求項
1に記載の移相器。
【請求項3】
前記移相器は500MHzの帯域幅でKu周波数帯域において動作可能である、請求項1
または2に記載の移相器。
【請求項4】
複数の移相器を備えるフェーズドアレイであって、各移相器は請求項1~
3のいずれか一項に従って構成される、フェーズドアレイ。
【請求項5】
前記フェーズドアレイはパッシブ電子走査アレイであり、複数の放射素子を備え、各放射素子は、請求項1~
3のいずれか一項に記載の対応する移相器を有する、請求項
4に記載のフェーズドアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、電子走査フェーズアレイアンテナ等のRFへの適用例において位相シフトを導入するためのデバイス及び技法に関し、より詳細には、マイクロ電気機械システム(MEMS)ベーススイッチを用いる移相デバイス及び技法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年12月29日に出願された米国仮特許出願第62/272,285号の出願日の利益を主張するものであり、この仮特許出願は、その開示内容を引用することにより、本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0003】
マイクロ波移相器は、パッシブ電子走査アレイ(ESA)内の送信/受信(T/R)モジュールの重要な構成要素であり、商用及び他の適用例において広く使用されている。T/Rモジュール内で低損失の移相器を利用することによって、電力要件が下がり、それゆえ、必要とされる構成要素の数も少なくなる。これにより、ひいては、小型化及びコストの削減をもたらすことができる。Ku帯域周波数(例えば、約12GHz~約18GHz)において動作するT/Rモジュールは、広い観測幅、高い分解能の合成開口レーダ(SAR)、地上積雪の撮像等のためのESA及びESAアンテナの使用を可能にすることができる。4つの送信チャネル及び8つの受信機チャネルを有するT/Rモジュールの場合、それぞれの位相によって分離される32個の信号を取り扱う5ビット移相器が有用な構成要素である。
【0004】
モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)及び相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術を用いて、これまで、様々なタイプのデジタル移相器が実現されてきた。MMICベース移相器は多くの場合に、サイズが大きく、大きな損失を示し、歩留まりが低くなりがちな場合がある。CMOSベース移相器は多くの場合に、サイズがコンパクトであるが、損失及び雑音を補償するために、そのような移相器(その移相器はアクティブ移相器である)は、各アンテナ素子においてT/Rモジュールを必要とする。これは、CMOSベースフェーズドアレイのコストを大きく上昇させる。これに対して、1つのT/Rモジュールが複数の低損失移相器に接続される場合があるフェーズドアレイは、少ない構成要素数でも差し支えなく、そのため、より安価である。
【0005】
フェーズドアレイは、フェライトベース移相器、半導体ベース(PINダイオード又はトランジスタ)移相器及びMEMSベース移相器のいずれかを用いて実現することができる。移相器は、スイッチトライン構成、分布MEMS伝送線路(DMTL)構成、準集中素子構成、又は反射線路構成等の、幾つかの異なるトポロジを用いて実現することができる。一般的に、これらのトポロジは、6ビットまでの移相器を設計できるようにする。また、移相器は、液晶、フォトニック及び/又は強誘電体技術を用いて、周波数再構成を達成することもできる。上記の技術を用いて設計された移相器は、対象とする単一の帯域にわたって特定のタスクを実行することができる。
【0006】
MEMSベース技術は、詳細には、比較的コンパクトなサイズを保持しながら、PINダイオード及びトランジスタベーススイッチ(例えば、FETスイッチ)等の他の現代の固体技術に比べて、対象とする帯域にわたる送信信号の低損失、改善された整合、低い直流(DC)電力消費量、及び改善された位相精度を達成する能力を有する。MEMSベース移相器は、アナログ又はデジタルのいずれとしても設計することができる。アナログ移相器は、その名前が指しているように、バラクタによって0度~360度内で挿入位相を制御するために使用することができる。デジタル移相器は離散的な位相遅延を生成するために使用することができ、その位相遅延は、スイッチ(スイッチトライン、ローデッドライン移相器)又はバラクタ(DMTL移相器)によって選択することができる。そのため、最新のRFシステムに対する要求及び高精度計測に対する要求を満たすために、MEMSベースデジタル移相器を使用するフェーズドアレイを実現することが望ましい。
【0007】
しかしながら、RFフェーズドアレイにおいて移相器を実現するために上記で参照された技術(MEMSを含む)のそれぞれを用いる場合、許容できる位相シフトで、かつ小さな面積内での許容できる再現性で低損失を達成するのは困難である。これらの難題は、より高いビット構成になるほど、及び20GHz未満の周波数等のより低いマイクロ波周波数になるほど、更に難しくなる。
【0008】
DMTLは、比較的良好な挿入損失性能をもたらす1つの選択肢である。しかしながら、DTMLの動作は、ブラッグ周波数を横切ると、非線形になり、動作周波数帯域にわたって位相遅延が変動する。さらに、DMTL移相器の(その長さに沿った)面積は、より低い周波数(例えば、20GHz以下)において高いビット構成(例えば、3ビット以上)になるほど必然的に大きくなる。
【0009】
さらに、従来のスイッチトライン5ビット移相器では、所望の位相シフトを達成するために、任意の所与の時点において、最低でも10個のスイッチが起動されなければならない。別の言い方をすると、従来のスイッチトライン移相器の各セクションは、2つのスイッチ(1ビットセクションの一方の側に1つずつのスイッチ)の状態に基づいて、単一のビットを制御する。しかしながら、移相器の電力消費量を削減するために、所与の時点において、より少ない数のスイッチが起動されることが望ましい。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、無線周波数スペクトルのKu帯域内の無線周波数信号の場合であっても、コンパクトなサイズにおいて低損失、低電力消費量及び良好な位相精度を達成する5ビット移相器を提供する。5ビット移相器は、共平面導波路内に形成されるMEMSベース単極多投(SPMT)スイッチの組合せを利用する。言い換えると、無線周波数信号が送信される伝送線路は、接地電極又は層と同じ側において基板上に形成され、その伝送線路は、MEMSベースSPMTスイッチを用いて、線路及び接地と同じ面内で互いに接続される。
【0011】
本開示の一態様は、少なくとも1つの移相セクションを備える移相器を提供する。移相セクションは、入射する無線周波数信号を受信するための入力ポートと、出射する無線周波数信号を送信するための出力ポートと、入力ポートに結合される入力接合部と、出力ポートに結合される出力接合部と、複数の伝送線路とを備えてなる。入力接合部は第1の複数のスイッチを備え、出力接合部は第2の複数のスイッチを備える。複数の伝送線路はそれぞれ、第1の複数のスイッチのうちの1つを第2の複数のスイッチのうちの対応する1つに接続する。第1の複数のスイッチと第2の複数のスイッチと複数の伝送線路とは、共平面導波路内に形成される。
【0012】
幾つかの例では、入力接合部は少なくとも4つのカンチレバータイプスイッチを備えることができ、出力接合部は少なくとも4つのカンチレバータイプスイッチを備えることができる。他の例では、入力接合部は少なくとも8つのカンチレバータイプスイッチを備えることができ、出力接合部は少なくとも8つのカンチレバータイプスイッチを備えることができる。更に別の例では、入力接合部は16個のカンチレバータイプスイッチを備えることができ、出力接合部は16個のカンチレバータイプスイッチを備えることができる。
【0013】
移相器は、1つの移相セクションの出力接合部が共平面導波路内に形成された伝送線路によって他の移相セクションの入力接合部に結合されるような、少なくとも2つの移相セクションを更に備えることができる。移相セクションを接続する伝送線路は、移相セクションのインダクタンスを整合させるための誘導セクションを備えることができる。これらの移相セクションのうちの少なくとも2つの場合に、各移相セクションの入力接合部は、少なくとも4つのカンチレバータイプスイッチを備えることができ、各移相セクションの出力接合部は少なくとも4つのカンチレバータイプスイッチを備えることができる。第3の移相セクションが、少なくとも2つのカンチレバータイプスイッチを備える入力接合部と、少なくとも2つのカンチレバータイプスイッチを備える出力接合部とを有することができる。
【0014】
本開示の別の態様は、接地電位と同じ側(例えば、CPW)において基板上に形成される第1の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える第1の2ビットセクションと、接地電位と同じ側において基板上に形成される第3のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び第4のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路を備える第2の2ビット移相セクションと、接地電位と同じ側において基板上に形成される第1の単極双投(SPDT)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極双投(SPDT)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える第3の1ビット移相セクションとを備える、移相器を提供する。SP4T及びSPDTマイクロ電気機械スイッチ回路内の各スイッチは、約2マイクロメートル厚の単一コンタクトスイッチとすることができる。5ビット出力を生成するために、所与の時点において、移相器の6つのスイッチしか作動する必要がない。幾つかの例では、移相器は、約5.17mm×約3.19mmの面積を占有することができる。他の例では、移相器は、約4.7mm×約2.8mmの面積を占有することができる。
【0015】
移相器は、第1の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える2ビットセクションと、第1の単極8投(SP8T)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極8投(SP8T)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える3ビット移相セクションとを備えることができる。そのような例では、5ビット出力を生成するために、所与の時点において、移相器の4つのスイッチしか作動する必要がない。
【0016】
代替的には、移相器は基板と、第1の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路と、16個の信号線とを備えることができ、各信号線は、第1のSP16Tスイッチ回路及び第2のSP16Tスイッチ回路のそれぞれのスイッチを互いに接続する。4ビット出力を生成するために、所与の時点において、移相器の2つのスイッチしか作動する必要がない。移相器は、均一なスイッチ作動を示すことができるか、基板の表面上で約15.2mm2の面積を占有することができるか、又はその両方である。
【0017】
上記の例のいずれにおいても、移相器のセクションは、共平面導波路線路上でカスケードに(例えば、直列に)接続することができる。移相器は、所与の時点において、10個より少ないスイッチが作動して5ビット出力を生成することができる。移相器は、約500MHzの帯域幅でKu周波数帯域において動作可能とすることができる。
【0018】
本開示の更に別の態様は、本明細書において記載されるような複数の移相器を備えるフェーズアレイを提供する。フェーズアレイはパッシブ電子走査アレイとすることができ、複数の放射素子を備えることができる。各放射素子は、フェーズアレイの複数の移相器のうちの対応する移相器を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示による、例示的な移相器を示す概略図である。
【
図2】本開示による、例示的な単極4投(SP4T)スイッチを示す概略的な平面図である。
【
図3】
図2のスイッチの場合の引込電圧及び解放電圧のグラフ表示である。
【
図4】
図2のスイッチの場合の損失性能のグラフ表示である。
【
図5】本開示の別の態様による、例示的な移相器を示す平面図である。
【
図6】
図5のスイッチの場合の反射損失のグラフ表示である。
【
図7】
図5のスイッチの場合の挿入損失のグラフ表示である。
【
図8】本開示による、別の例示的な移相器を示す平面図である。
【
図9】
図8のスイッチの場合の反射損失のグラフ表示である。
【
図10】
図8のスイッチの場合の挿入損失のグラフ表示である。
【
図11】試験治具上に取り付けられる、本開示による例示的な移相器を示す斜視図である。
【
図12】本開示による、別の例示的な移相器を示す概略図である。
【
図13】本開示による、例示的な単極16投(SP16T)スイッチを示す平面図である。
【
図14】
図13のスイッチの場合の反射損失及び挿入損失のグラフ表示である。
【
図15】
図13のスイッチの場合のアイソレーションのグラフ表示である。
【
図16】本開示による、例示的な4ビット移相器を示す平面図である。
【
図17】
図16の移相器の場合の反射損失のグラフ表示である。
【
図18】
図16の移相器の場合の挿入損失のグラフ表示である。
【
図19】
図16の移相器の場合の周波数応答の関数としての位相誤差のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本開示の一態様による、例示的な無線周波数移相器100の概略図である。移相器100は、入力ポートP1と、出力ポートP2と、3つのカスケード接続されたセクション、すなわち、精細2ビットセクション(fine 2-bit section)102、粗大2ビットセクション(coarse 2-bit section)104及び1ビットセクション106とを備える。各セクションは、一対の単極多投(SPMT)スイッチを備え、1つのスイッチはそのセクションの入力側にあり、対応するスイッチが出力側にある。各スイッチは複数の切替可能素子を有し、それらの素子は一般に「スイッチ」とも呼ばれる。明確にするために、本開示はSPMTスイッチを「スイッチ回路」と呼び、その中に含まれる切替可能素子を「スイッチ」と呼ぶ。
【0021】
単極多投スイッチ回路ごとに、所与の時点において、回路の1つのスイッチのみが起動される。移相器100内のスイッチ回路対ごとに、1つのスイッチ回路の各スイッチは、他のスイッチ回路のスイッチと一対一対応を有し、第1のスイッチ回路のスイッチが起動されるとき、他のスイッチ回路の対応するスイッチが起動され、残りのスイッチは動作しないままである。
【0022】
対応する各スイッチ対は、それぞれのチャネルを介して互いに接続され、そのセクションの入力側にある回路のスイッチにおいて受信された無線周波数信号を、チャネルを通して、そのセクションの出力側にあるその回路の対応するスイッチに送信できるようにする。精細2ビットセクション102及び粗大2ビットセクション104はいずれも、4つのチャネルによって接続される一対の単極4投スイッチ回路120を備える。1ビットセクション106は、2つのチャネルによって接続される一対の単極双投スイッチ回路130を備える。
【0023】
各チャネルは、共平面導波路(CPW)内に形成される信号線(例えば、伝送線路)とすることができ、それは、伝送線路がデバイスの接地電極と同じ平面内に(例えば、線路が形成される基板の同じ側に)あることを意味する。これは、マイクロストリップ線路内に構成される他のより高ビットの移相器(例えば、4ビット、5ビット等)と対照的である。マイクロストリップ線路構成は、製造に関する難題を増やし、接地するためのビア及び整合のためのラジアルスタブの形成を更に必要とする。本開示のCPW構成は、それぞれの信号線と近接して追従するように接地線を設計することによって、これらの困難な事態及び要件を回避する。
【0024】
無線周波数信号が対応するスイッチ間で(入力側スイッチ回路から出力側スイッチ回路まで)信号線を介して送信されるとき、その信号は、チャネルの構成及び特性に応じて、位相シフトを受ける場合がある。本開示において、所与の移相器セクション102、104、106の各チャネルは、結果としてそれぞれ異なる位相シフトを生じるように設計される。具体的には、
図1の例において、1ビットセクション106のチャネルはそれぞれ、0度及び180度の位相シフトを与える。したがって、信号は、どの対応するスイッチ対が起動されるかに応じて、180度シフトされるか、又は全くシフトされない。粗大2ビットセクション104のチャネルは、ここでもまた、どの対応するスイッチ対が起動されるかに応じて、それぞれ、付加的な0度、45度、90度又は135度の位相シフトを与える。精細2ビットセクション102は、ここでもまた、どの対応するスイッチ対が起動されるかに応じて、付加的な0度、11.25度、22.5度又は33.75度の位相シフトを与える。例えば、信号に292.5度の位相シフトを適用することが望ましい場合には、精細2ビットセクション102の22.5度の位相シフトチャネル、粗大2ビットセクション104の90度の位相シフトチャネル及び1ビットセクション106の180度の位相シフトチャネルが、それぞれのチャネルの一方にあるスイッチを起動することによって開かれることになり、その間、移相器の残りのスイッチは動かないままにされる。
【0025】
移相器セクション102、104及び106は、1つのセクションの出力が次のセクションの入力であるように、互いに直列に接続される。
図1の例では、精細2ビットセクション102の出力は粗大2ビットセクション104のための入力であり、粗大2ビットセクション104の出力は1ビットセクションのための入力である。しかしながら、その移相器は、セクションの順序に関係なく、5ビット出力を有するフェーズアレイを作製できることを、当業者は認識するべきである。
【0026】
また、チャネル構成は、5ビットフェーズドアレイが、32個の異なる位相のうちのいずれか1つにおいて受信チャネルから信号を送信することができるように選択される。さらに、チャネル位相遅延は、32個の異なる位相が11.25度の増分において、経時的に均等に散在するように選択される。
【0027】
2ビットセクションはそれぞれ、一対の単極4投(SP4T)スイッチ回路120を備える。これらのスイッチ回路は、米国仮特許出願第62/272,280号からの優先権を主張する「High Performance Switch for Microwave MEMS」と題する同一所有者の同時に出願された特許出願において記述されているような、MEMSベースデジタルスイッチとすることができる。その特許出願の開示は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。その特許出願に記述されているように、各スイッチは、機械ばねがカンチレバービームを横方向に動かす機械的な力を与えるように、機械ばねがカンチレバービームの中点に接続されているカンチレバービームを有するラテラルスイッチとすることができる。代替的には、カンチレバービームは、(導波路の平面に対して)面外方向に動くことができ、機械ばねは、カンチレバービームを面外方向に動かす機械的な力を与える。いずれの設計でも、各機械ばねは、別々のアクチュエータによって作動することができる。
【0028】
移相器の1ビットセクション106は、一対の単極双投(SPDT)スイッチ回路130を備える。2ビットセクションのSP4Tスイッチ回路間に延在する4つの伝送線路、すなわちチャネルと同様に、SPDTスイッチ回路は、MEMSベースデジタルスイッチとすることができる。スイッチ回路は、対応するスイッチ対間に延在する2つの伝送線路によって互いに接続することができ、同様に設計されたMEMSベーススイッチ回路を用いて、それらの伝送線路に接続することができる。
【0029】
図1の移相器を全体として見ると、移相器100の2ビットセクション102、104はそれぞれ8つのスイッチを備え、1ビットセクションは4つのスイッチを備える。全部で、移相器は20個のスイッチを備える。任意の所与の時点において、各セクションの2つのスイッチ(スイッチ回路ごとに1つのスイッチ)がアクティブになる(例えば、閉じる)ことができ、それにより、2つの起動された(例えば、閉じられた)スイッチ間の選択されたチャネルにわたって信号を搬送する。したがって、移相器の3つのセクションにわたって信号を搬送するために、任意の所与の時点において、5ビット出力を与えるために、6つのスイッチ(又はカスケード接続されるステージごとに2つのスイッチ)しかアクティブになる必要がない。
【0030】
全般に、上記の設計のSPDTスイッチ回路及びSP4Tスイッチ回路は、比較的サイズが小さいこと、及び比較的に切替時間及び解放時間が短いこと(例えば、切替の場合に約28μsec及び解放の場合に約21μsec)に起因して、応力(例えば、延長された時間にわたって繰り返されるオン/オフ変化)に対して影響を受けにくい。
【0031】
1ビットセクション106のSPDTスイッチ回路に関して、「High Performance Switch for Microwave MEMS」と題する同一所有者の同時に出願された特許出願は、ビームが撓む方向に応じて、ビームの遊端の両側にある2つのポートのうちのいずれか一方に接触させることができる、単一の横方向に撓むカンチレバービームを備えるSPDTスイッチ回路を記述している。そのようなSPDTスイッチ回路は、単一のスイッチを用いて、又は別の言い方をすると、スイッチの入力端を2つのチャネルのうちのいずれか一方に接触させることができる単一の可撓性素子を用いて設計することができる。
【0032】
それにもかかわらず、MEMSベースカンチレバータイプインラインスイッチの場合、単一コンタクトのカンチレバースイッチを使用することは、複数コンタクトのカンチレバースイッチを使用することより、一般的に平坦性及び応力の影響を受けにくいことがわかっている。複数コンタクトカンチレバースイッチは、単一コンタクト障害(例えば、1つのコンタクトが「下方」位置において永久に張り付いたままになる)及びアクチュエータ障害(例えば、1つのコンタクトが「上方」位置において永久に張り付いたままになる)の両方に陥りやすい場合がある。移相器(及び類似のスイッチング技術に依拠する他のデバイス)の単一のスイッチの障害でも、移相器の全体性能に著しく損害を与える可能性がある。さらに、カンチレバータイプスイッチの複数コンタクト及び他の複雑な設計は、包囲する構造間の先端の撓みの分布が不均等であることに起因して、応力勾配の影響を受けやすい場合がある。このため、スイッチを所望のように作動させるために、多くの場合に複数の電圧が必要とされる。しかしながら、複数の電圧を与えることは、所与の時点において複数の(例えば、6個の)スイッチが作動しているデバイスの場合に特に、デバイスの全体的な歩留まりを下げる可能性がある。対照的に、単一コンタクトカンチレバースイッチはスイッチの全体的な接触力を改善し、移相器内の種々の経路にわたるスイッチングによって引き起こされる静電力を均等に分散させるのを助ける。
【0033】
図2は、共平面導波路内に形成されるSP4Tスイッチ回路200(
図1のSP4Tスイッチ回路等)の概略図である。スイッチ回路200は、RF入力が与えられる伝送線路である入力ポート210と、RF入力が2ビットセクションのチャネル221、222、223、224のそれぞれと橋絡される伝送線路の箇所である中央接合部212とを備える。中央接合部212は、円形構成において4つのカンチレバータイプインラインスイッチ240に接続される。各カンチレバースイッチは電源(図示せず)に接続される。カンチレバースイッチのビームが(例えば、バイアス電圧によって)作動するとき、スイッチが閉じ、RF入力が、それぞれの接続された伝送線路又はチャネル221、222、223、224を通って進行する。入力及び出力の伝送線路はそれぞれ、接地層230の平面内にあるチャネル内に形成される。
【0034】
単一コンタクトスイッチ自体は、わずか約2マイクロメートル厚とすることができ、薄膜パッケージを用いてパッケージすることができる。共平面導波路上の単一コンタクトスイッチ(「単純」カンチレバービームと呼ばれる場合もある)の配置によって、SPDT及びSP4T構造の全体設計のコンパクトさを更に改善することができる。
【0035】
SP4Tスイッチ回路の性能に特に影響を及ぼす別の要因は、中央接合部から延在するそれぞれのスポークのスポーク長214である(
図2の右下角において分解図で示される)。スポーク長は、全波シミュレーションの使用を通してスイッチの全体性能を改善するように最適化することができる。
【0036】
また、
図2は、共平面導波路のそれぞれの側壁を橋絡する1つ又は複数のエアブリッジ260を備える、共平面導波路内の各導波路チャネルも示す。詳細には、
図2の例において、エアブリッジ260は、入力及び出力伝送線路内の不連続部(先細りのエッジ)の上方に位置合わせされる。エアブリッジは、スイッチの動作周波数を延長するために、伝送線路の実効誘電率を下げる。また、エアブリッジは、導波路接地層230の複数の部分を互いに橋絡し、それにより、デバイス全体にわたって接地電位を同等にすることができる。また、接地層を橋絡することは、導波路の不連続部において生成される、より高次のモードを克服するのも助ける。本開示において、各信号線の幅は同じであり、エアブリッジの幅も同じである。しかしながら、他の移相器設計では、移相器の適切な性能を確保するために、これらの特性の一方又は両方をチャネルごとに変更することができる。
【0037】
上記で説明されたように、2ビットセクション及び1ビットセクションごとに、1つのスイッチの中央接合部から反対側のスイッチの中央接合部まで伝搬する信号が、チャネルに応じて異なる位相遅延を有することになるように、各伝送線路の特性が異なるように設計される。例えば、1ビットセクションの場合、伝送線路は、それぞれの出力間に180度の位相シフトを生成するように設計することができる。伝送線路のこれらの様々な特性は、チャネル長、チャネルの特定の曲げ、線路の幾何学的形状等を含みうる。
【0038】
図3は、移相器の2ビットセクションのうちの1つにおいて中央接合部をそれぞれの伝送線路に接続するために使用されるSP4T構成内の例示的なMEMSベーススイッチ回路(本明細書において、「DCコンタクトスイッチ」とも呼ばれる)の測定された引込電圧及び解放電圧を示す。
図3に示されるように、スイッチは、約43Vにおいて引き込み、約28Vにおいて解放するように設計される。
【0039】
図4は、無線周波数スペクトルのKu周波数帯域(例えば、約13GHz~約18GHz)において動作するときの例示的なSP4Tスイッチのための測定された損失性能を示す。
【0040】
共平面導波路内に上記の移相器を形成する1つの課題は、導波路の平面内に全ての信号線を配線し、モデル化することである。移相器によって取り扱われるビット数が増えるにつれて、又は移相器のサイズが小さくなるにつれて、又はその両方において、信号線を適切に配線することは、適切な移相器性能を得る(例えば、各チャネルが送信される信号の位相を、所望の量だけシフトする)のに益々重要になる。チャネルの適切な性能を確保するために、種々のチャネル対間の結合の効果を成し遂げることができる。
【0041】
図5は、(左から右に)精細2ビットセクション502と、粗大2ビットセクション504と、1ビットセクション506とを備える、本開示の一態様による、例示的な移相器500の平面図である。精細2ビットセクションでは、それぞれのチャネルの位相遅延は(上から下に)22.5度、0度、11.25度及び33.75度である。粗大2ビットセクションでは、それぞれのチャネルの位相遅延は、(上から下に)90度、0度、45度及び135度である。1ビットセクションでは、それぞれのチャネルの位相遅延は、(上から下に)0度及び180度である。2ビットセクション及び1ビットセクションごとに、そのセクションのスイッチ間の線路ごとの位相速度の差が、移相器500の動作帯域にわたって位相シフトを生成する。
【0042】
図5は、移相器が良好な性能を有することがわかったチャネルの1つの例示的なレイアウトを示す。この例において、2ビットセクションの0度シフト伝送線路の幾何学的形状は概ね同じであるのに対して、1ビットセクションの0度シフト伝送線路の幾何学的形状は異なる幾何学的形状を有することに留意されたい。位相シフト伝送線路の幾何学的形状は、移相器の全体寸法を、更にはデバイスの全体サイズを念頭に置いて選択することができる。この関連で、各所与のセクションの場合に、そのセクションの伝送線路が互いに対して(入射する信号の位相にかかわらず)所望の位相シフトをもたらす限り、
図5の例の根底にある利点から逸脱することなく、異なる例において他の幾何学的形状を実現することができる。
【0043】
図5には、移相器のバイアス線540も示される。バイアス線は、例えば、チタンタングステンの層を含む、高い抵抗性になるように設計することができ、スイッチを作動させるために、スイッチトラインに接続することができる。短絡を防ぐために、バイアス線及び伝送線路は、二酸化シリコンの層等の誘電体構成要素によって分離することができる。
【0044】
図5に示されるように、移相器の全体サイズは約5.17mm×3.19mmである。また、
図5において、移相器の各セクションは、誘導線550、552(又は「誘導セクション」)によってカスケード接続されるように(ブロックD及びブロックEにおいて)更に詳細に示される。これらの線の長さ、幾何学的形状及び誘導性は、その線によって接続される移相器のセクション間の整合を最適化するように選択される。
図5の例において、2つの2ビットセクション間の誘導セクションは約383マイクロメートル長であり、粗大2ビットセクションと1ビットセクションとの間の誘導セクションは約344マイクロメートル長である。誘導性整合を改善することは、各スイッチの中央接合部と投との間の寄生誘導効果を低減する。また、誘導性整合を改善することに加えて、選択される長さが、望ましくない経路外共振(off-path resonance)を除去することもできる。移相器設計の全波シミュレーションの使用は更に、接続されるセクション間の最良の結合を示すエリア(「高結合エリア」)を識別するために使用することもできる。同じように、特定の接合部容量C
jを有するようにセクションの中央接合部を設計することによって、入力線において、誘導性整合を改善することもできることに留意されたい。接合部容量は、移相器設計の全波シミュレーションの使用を通して最適化することもできる。
【0045】
1つの例では、約13GHz~約18GHzのKu帯域において動作することが期待される移相器の場合、挿入損失応答のあらゆる起こり得る降下を識別するために、約8GHz~約18GHzまでの全波シミュレーションを実行することができる。13GHz未満の周波数においてシミュレーションを実行する理由は、挿入損失応答の降下が動作帯域外であっても、製造後、及びセクションが互いにカスケード接続された後に、付加される寄生容量及び線路容量が、性能降下を動作帯域に向かってシフトする可能性があるためである。セクションを接続する信号線長を、異なるセクションからの経路外共振を克服し、かつ良好な位相精度を有する移相器の性能を確保するように選択することができる。
【0046】
さらに、2つの誘導セクションの幾何学的形状を異なるものにすることができる。2つの2ビットセクション502と504との間の誘導セクション550は、2つの接続されるセクション間の中間点において両側に切欠き又は溝を含む。対照的に、粗大2ビットセクション504と1ビットセクション506との間の誘導セクション552は、2つの接続されるセクション間の中間点において、両側に、又は一方の側にのみ、切欠き又は溝を含みうる。
【0047】
接合部容量や、スポーク長や、(例えば、CPWの不連続部にある)誘導曲げは、より高次のモードを低減又は除去するのを助けることもできる。
【0048】
図6及び
図7は、
図5の例示的な5ビット移相器の測定された反射損失及び挿入損失のグラフ表示である。
図6に示されるように、移相器のための整合(S
11及びS
22の両方)が、約0.1GHz~約18GHzの帯域にわたって19dBより良好であることがわかった。
図7に示されるように、移相器の平均挿入損失は、約13GHz~約18GHzの帯域にわたって約3.89dBであることがわかった。
【0049】
図8は、
図5の移相器500に類似の特性を有する別の例示的な移相器800を示す。
図8の移相器800も、精細2ビットセクション802と、粗大2ビットセクション804と、1ビットセクション806とを備え、
図8の位相遅延チャネルは
図5の位相遅延チャネルに相当する。2つの移相器間の重要な違いは、その全体サイズである。すなわち、
図8の移相器は約4.7mm×約2.8mmにすぎない。したがって、
図8の移相器は、
図5の移相器より約24%コンパクトである。
【0050】
図9及び
図10は、
図8の例示的な5ビット移相器の測定された反射損失及び挿入損失のグラフ表示である。
図9に示されるように、移相器のための整合(S
11及びS
22の両方)が、約0.1GHz~約18GHzの帯域にわたって22dBより良好であることがわかった。
図10に示されるように、移相器の平均損失は、約13GHz~約18GHzの帯域にわたって約2.65dBであることがわかった。
【0051】
図5及び
図8の例示的な移相器の製造中に、カンチレバースイッチに対して静摩擦を引き起こす場合がある任意の汚染を導入しないように注意しなければならない。そのため、製造が完了した後に、全てのスイッチを解放できる(例えば、スイッチの状態を変更できる)ことを確認することが好ましい。
【0052】
上記の構造、プロセス及び考慮すべき事柄は、CPW線上に4つのSP4Tスイッチ回路及び2つのSPDTスイッチ回路を有するMEMSベース移相器をもたらすために適用することができる。現代の適用例における移相器の利点は主に、移相器が約17GHzの範囲内の周波数帯域(例えば、約16.75GHz~約17.25GHz)にわたって動作するときに得られるが、そのような移相器は、Ku帯域全体を含む、Ku帯域の任意の部分にわたって動作することができる。詳細には、本開示は、約15mm2以下の面積を有するデバイスを用いて、各位相ステップ間が11.25度(すなわち、5ビット出力)で0度~360度の位相シフトを達成することを可能にする。そのような移相器は、全部で20個のDCコンタクトスイッチと、接続用CPW伝送線路とを備えることができ、約500MHz帯域幅の帯域幅にわたってマイクロ波周波数において良好な動作信頼性を有することができる。
【0053】
上記の例示的な移相器は、25℃の温度及び70ボルトバイアスで17GHzの動作周波数において動作しているときに、応力緩和プロセス中に、初期値からの約1.36dB(詳細には約3.55dB~約4.91dB)の損失変動と、約1.24度(詳細には約0.87度~約2.11度)の位相誤差の全体的な最大変動とを示すこともわかっている。例示的な移相器は、2W低温切替条件下で100万サイクルまでにわたって動作することもわかっている。
【0054】
図11は、上記の開示に従って設計され、試験治具に取り付けられた例示的な移相器の写真である。
【0055】
図12は、入力ポートP1と出力ポートP2との間に2ビットセクション1204と直列にカスケード接続される3ビットセクション1202を利用する別の5ビット移相器1200を示す。3ビットセクション1202は、一対のMEMSベース単極8投(SP8T)スイッチ回路1220を備え、第1のスイッチ回路内の8個のスイッチはそれぞれ、伝送線路1210によって第2の回路内の対応するスイッチに接続される。2ビットセクション1204は、一対のSP4Tスイッチ回路1230を備え、第1のスイッチ回路内の4つのスイッチはそれぞれ、伝送線路1210によって第2の回路内の対応するスイッチに接続される。2つのセクション1220、1230は、長さl
Cを有する誘導セクションによって接続される。この設計は、1つの位相状態を達成するのに、一度に4つのスイッチしか作動する必要がなく、それにより、サイクルにわたる均一な作動につながる。
【0056】
本開示は、Ku帯域内の周波数であっても、コンパクトなサイズで、低い損失、低い電力消費量、良好な位相精度を達成する4ビット移相器も提供する。4ビット移相器は、一対のMEMSベース単極16投(SP16T)スイッチ回路を利用する。
図13は、例示的なRF MEMS単極16投(SP16T)スイッチ回路1300を示す。スイッチ回路1300は、円形タイプCPW線路構成において、間に位置決めされる複数のカンチレバービーム1320を備える。CPW線路は入力ポート1310にも接続される。入力ポート1310は、16個のそれぞれカンチレバービーム1320によって16個の第2のポート1330に接続される。入力ポート及び出力ポートは、全部で17個あり、円形パターンにおいて均等に分布する。隣接するポート間の角度は、それゆえ、約21.17度である。
【0057】
図13のカンチレバービーム1330は、CPW線の平面の内外に動き、それにより、1つのポートを反対側にあるポートのコンタクトバンプに対して電気的に接続及び切断する。各カンチレバービームは更に、互いに対してY字形構成に配置される3つの機械ばねに取り付けられる。カンチレバービームと同様に、機械ばねは、
図13の平面の内外に(スイッチポートのz方向に)動く。SP16Tスイッチ回路1300の全面積は、約2.5mm
2である(差し渡し約1.56mm、上下に約1.61mm)。
【0058】
図14及び
図15は、
図13の例示的なSP16Tスイッチ回路のためのシミュレートされた反射損失、アイソレーション及び挿入損失を示す。
図14に示されるように、SP16Tスイッチは、約26GHzまでの周波数において、約14dBより良好な反射損失と、約1.9dBの最悪時挿入損失とを示す。
図15は、類似の周波数までの約14dBのアイソレーションを示す。
【0059】
SP16Tスイッチ回路は、「High Performance Switch for Microwave MEMS」と題する同一所有者の特許出願において更に詳細に記述されており、その特許出願の開示は本出願と同時に出願され、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0060】
K帯域4ビット移相器を作製するために、(スイッチングネットワークとも呼ばれる)2つのSP16Tスイッチ回路を接続することができる。第1のSP16Tスイッチ回路の16ポート(そして、カンチレバービーム又はスイッチ)はそれぞれ、他のSP16Tスイッチ回路の対応するポート(そして、対応するカンチレバービーム又はスイッチ)に接続することができる。対応するポートを互いに接続する信号線はそれぞれ、異なる位相遅延を与えることができる。SP16Tスイッチ回路及び信号線はすべて、基板の共通の表面上に形成される。より具体的には、SP16Tスイッチ回路及び信号線は、CPW内に形成され、それにより、接地面が基板の同じ表面上に形成される。
【0061】
図16は、上記の構成において互いに接続される2つのSP16Tスイッチ回路の一例を示す。
図16において、それぞれの接続線の位相遅延は、上から下に、337.5度、292.5度、247.5度、180度、157.5度、112.5度、67.5度、22.5度、0度、45度、90度、135度、202.5度、225度、270度及び315度である。したがって、2つのスイッチは、16個の異なる位相のいずれか1つにおいて信号を遅延させることができる4ビット移相器1600を形成する。移相器の全面積は、バイアス線及びバイアスパッドを含んで、差し渡しで約3.62mm及び上下に約4.2mm、すなわち、約15.2mm
2である。
【0062】
図17及び
図18は、2つのSP16Tスイッチングネットワークを使用する4ビット移相器の測定された反射損失及び挿入損失のグラフ表示である。
図17に示されるように、反射損失は、約18GHz~約26GHzの周波数の場合に約10dBより良好であると測定される。
図18に示されるように、最悪時挿入損失は、同様の周波数範囲にわたって約4.58dBであると測定される。
【0063】
図19は、移相器の位相対周波数応答を示す。移相器の測定される平均位相誤差は、約25GHzの周波数において約2.3度である。
【0064】
特に、4ビットSP16Tベーススイッチングネットワークは、比較的に簡単なトポロジを保持しながらも信頼性がある。そのスイッチングネットワークは、所与の位相状態を起動するために、所与の時点において2つのスイッチしか作動する必要がない。したがって、そのスイッチングネットワークは、そのスイッチングネットワークが組み込まれるデバイスの信頼性を著しく改善することができる。
【0065】
所与のスイッチ又はデバイスの場合のスイッチの作動数は、スイッチ又はデバイスの信頼性に関する重要な要因である。単一のスイッチの場合、「スイッチサイクル」が、2つの動作状態:オンとオフとの間の1つの作動サイクルを構成する。しかしながら、上記の5ビット移相器の場合、「スイッチサイクル」は32の動作状態を構成し、どのサイクルにわたっても、2ビットの精細セクション及び粗大セクションがそれぞれサイクルあたり8回作動し、1ビットセクションがサイクルあたり16回作動する。所与のサイクルにおいて1ビットセクションが2ビットセクションよりも多い回数作動しなければならないので、1ビットセクションの故障確率は2ビットセクションのいずれかの故障確率より高い場合があることが認識されうる。さらに、1ビットセクションがいずれかの2ビットセクションより頻繁に作動するので、5ビット移相器は不均一なスイッチ作動に陥りやすい。
【0066】
それに対して、SP16Tベース4ビット移相器は1つの4ビットセクションのみを備える。それゆえ、SP16Tベース4ビット移相器は、1ビットセクションに関連付けられる故障確率を伴わず、5ビット移相器の不均一なスイッチ作動特性はすべて有しないので、より信頼性の高いデバイスになる。それゆえ、SP16Tベーストポロジは、移相器の信頼性及び性能を改善するために、より高いビット構成の場合に使用することができる。
【0067】
特に、一対のSP4Tスイッチ回路とカスケード接続される一対のSP8Tスイッチ回路を利用する5ビット移相器であっても、信頼性を幾分改善することになるが、SP4Tスイッチ回路がSP8Tスイッチ回路の2倍の頻度で作動することになるので、依然として不均一なスイッチ作動になる。
【0068】
本明細書において説明された移相器のための例示的な適用例は、最新の通信システム及び高精度計測システムだけでなく、多くの場合にパッシブ電子走査アレイ(ESA)を使用する宇宙ベースレーダシステムを含みうる。ESAでは、おおよそ数十万個の放射素子が使用される。放射素子ごとに、1つの移相器(多くの場合に、3ビット~5ビット)が存在し、移相器はアンテナビームの方向とそのサイドローブ特性とを集団で制御する。数十万個の移相器を使用するESAの場合、本開示の方法及びデバイスは、比較的に低いRF損失を示しながら、比較的に低コストであり、比較的に軽量(パッケージ及び設置物を含む)の解決策を提供することができる。
【0069】
合成開口レーダ(SAR)の適用例では、17GHz周波数が一般に利用されるので、本開示の移相器はそのような適用例において特に有益である。そのような適用例では、移相器のそのモジュールサイズは、4個のT/Rモジュールが、アンテナパネル上の16×16要素のサブアレイに給電することを可能にすることができる。
【0070】
さらに、本開示の例示的な移相器は、SPDT、SP4T、SP8T及びSP16Tスイッチ回路を備える。しかしながら、他の例では、他のタイプのSPMTスイッチ回路が利用される場合がある。例えば、単極3投(SP3T)スイッチ回路が利用される場合がある。例えば、4つのカスケード接続されるSP3Tスイッチ回路が3ビット出力をもたらすことができる。
【0071】
特定の実施形態を参照しながら本明細書において本発明を説明してきたが、これらの実施形態は本発明の原理及び適用例を例示するにすぎないことを理解されたい。そのため、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に数多くの変更を加えることができること、及び他の構成を考案することができることを理解されたい。
なお、本願の出願当初の開示事項を維持するために、本願の出願当初の請求項1~15の記載内容を以下に追加する。
(請求項1)
少なくとも1つの移相セクションを備える移相器であって、前記移相セクションは、
入射する無線周波数信号を受信するための入力ポートと、
出射する無線周波数信号を送信するための出力ポートと、
前記入力ポートに結合される入力接合部であって、該入力接合部は第1の複数のスイッチを備える、入力接合部と、
前記出力ポートに結合される出力接合部であって、該出力接合部は第2の複数のスイッチを備える、出力接合部と、
複数の伝送線路であって、各伝送線路は前記第1の複数のスイッチのうちの1つを前記第2の複数のスイッチの対応する1つに接続する、複数の伝送線路と
を備えてなり、前記第1の複数のスイッチと前記第2の複数のスイッチと前記複数の伝送線路とは共平面導波路内に形成されている、移相器。
(請求項2)
前記入力接合部は4つのカンチレバータイプスイッチ、8つのカンチレバータイプスイッチ又は16個のカンチレバータイプスイッチのうちの1つを備え、前記出力接合部は、前記入力接合部内に備えられるカンチレバータイプスイッチの数に等しい複数のカンチレバータイプスイッチを備える、請求項1に記載の移相器。
(請求項3)
少なくとも2つの移相セクションを更に備え、1つの移相セクションの出力接合部は他の移相セクションの入力接合部に、前記共平面導波路内に形成される伝送線路によって結合される、請求項1又は2に記載の移相器。
(請求項4)
前記移相セクションを接続する伝送線路は、前記移相セクションのインダクタンスを整合させるための誘導セクションを更に備える、請求項3に記載の移相器。
(請求項5)
移相器であって、
第1の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極4投(SP4T)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える第1の2ビット移相セクションであって、前記第1のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記第2のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路は、基板上の、接地電位と同じ側に形成される、第1の2ビット移相セクションと、
第3のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び第4のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路を備える第2の2ビット移相セクションであって、前記第3のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記第4のSP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路は、基板上の、接地電位と同じ側に形成される、第2の2ビット移相セクションと、
第1の単極双投(SPDT)マイクロ電気機械スイッチ回路及び第2の単極双投(SPDT)マイクロ電気機械スイッチ回路を備える第3の1ビット移相セクションであって、前記第1のSPDTマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記第2のSPDTマイクロ電気機械スイッチ回路は、基板上の、接地電位と同じ側に形成される、第3の1ビット移相セクションと
を備えてなり、
前記第1の2ビットセクションと前記第2の2ビットセクションと前記第3の1ビットセクションとは、互いに直列に接続されている、移相器。
(請求項6)
前記SP4Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記SPDTマイクロ電気機械スイッチ回路はそれぞれ、2マイクロメートル厚の単一コンタクトスイッチである、請求項5に記載の移相器。
(請求項7)
5ビット出力を生成するために、所与の時点において前記移相器の6つのスイッチのみが作動する、請求項5又は6に記載の移相器。
(請求項8)
前記移相器は、4.7mm×2.8mmの面積を占有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の移相器。
(請求項9)
前記移相セクションは、共平面導波路線路上にカスケード接続されている、請求項5~8のいずれか一項に記載の移相器。
(請求項10)
前記移相器は、所与の時点において10個より少ないスイッチが作動して5ビット出力を生成する、請求項5~9のいずれか一項に記載の移相器。
(請求項11)
移相器であって、
基板と、
第1の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路と、
第2の単極16投(SP16T)マイクロ電気機械スイッチ回路と、
16個の信号線であって、各信号線は、前記第1のSP16Tマイクロ電気機械スイッチ回路及び前記第2のSP16Tマイクロ電気機械スイッチ回路のそれぞれのスイッチを互いに接続する、16個の信号線と
を備えてなり、
前記第1のSP16Tスイッチ回路と前記第2のSP16Tスイッチ回路と前記16個の信号線とは、基板の表面上において15.2mm2の面積を占有している、移相器。
(請求項12)
4ビット出力を生成するために、所与の時点において前記移相器の2つのスイッチのみが作動し、前記移相器は均一なスイッチ作動を示す、請求項11に記載の移相器。
(請求項13)
前記移相器は500MHzの帯域幅でKu周波数帯域において動作可能である、請求項1~12のいずれか一項に記載の移相器。
(請求項14)
複数の移相器を備えるフェーズドアレイであって、各移相器は請求項1~13のいずれか一項に従って構成される、フェーズドアレイ。
(請求項15)
前記フェーズドアレイはパッシブ電子走査アレイであり、複数の放射素子を備え、各放射素子は、請求項1~13のいずれか一項に記載の対応する移相器を有する、請求項14に記載のフェーズドアレイ。