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特許7026380動揺度測定装置、動揺度測定プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】動揺度測定装置、動揺度測定プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/04 20060101AFI20220218BHJP
【FI】
A61C19/04 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017201351
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019072269
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 克味
(72)【発明者】
【氏名】中浜 久則
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信生
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-048992(JP,A)
【文献】特許第3620979(JP,B2)
【文献】米国特許第05632093(US,A)
【文献】独国特許出願公開第04003947(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00 - 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内を撮影する撮影部を本体の先端部の表面に有する口腔内カメラと、
歯牙を揺動させる揺動部材と、
前記口腔内カメラによって、前記揺動部材と共に撮影された少なくとも2枚の歯牙の画像から所定の基準位置の移動距離を算出する処理を行い、前記算出した移動距離を動揺度として測定する画像処理手段と、を備え
前記揺動部材は、前記口腔内カメラに連結されて前記口腔内カメラと一体的に動き、前記揺動部材が当接する歯牙に対して、前記歯牙の咬合面を前記撮影部が撮影できるように前記口腔内カメラを固定することを特徴とする動揺度測定装置。
【請求項2】
前記所定の基準位置は、前記揺動部材で保持した歯牙以外の組織に設定される請求項1に記載の動揺度測定装置。
【請求項3】
記揺動部材は、前記口腔内カメラと連結する連結部を有する請求項1または請求項2に記載の動揺度測定装置。
【請求項4】
前記揺動部材は、前記撮影部の撮影方向に対向して前記口腔内カメラを支持するように配置された状態で前記連結部によって前記口腔内カメラと連結され、
前記揺動部材は、前記連結部から前記撮影部が配置された側に延出して歯牙に当接する当接部を備える請求項3に記載の動揺度測定装置。
【請求項5】
前記当接部は、ピンセットである請求項4に記載の動揺度測定装置。
【請求項6】
前記口腔内カメラで撮影された画像を表示する表示装置をさらに備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の動揺度測定装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1に記載の動揺度測定装置として機能させるための動揺度測定プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の動揺度測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動揺度測定装置、動揺度測定プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の歯科治療では、歯周ポケットの深さを測ることによって歯周病の進行度を診断している。歯周ポケットの深さを測る6点法では、1本の歯につき、歯の頬側および舌側の近心・中央・遠心の6点を測定する。つまり、6点法を、ある患者の例えば24本の歯牙に対して実施すると、144点もの測定が必要となる。そして、出血による二次感染のリスクや、測定の痛み、診療時間の長さなど、歯科医師、衛生士、および患者への大きな負担となっている。
【0003】
また、歯科医師は、例えばピンセットを用いて経験的な力加減で歯を手動で揺らすことによって歯の動揺度を検査し、歯周病の治癒の度合いについて判断している。このとき、歯科医師は、歯の揺れを目視で観察し、動揺度の測定結果を、大、中、小、無のいずれの分類にあてはめまるのかを主観的に判断している。
【0004】
従来、例えば赤、黄、青、白の4色によって動揺度が認識できるような動揺度測定器(特許文献1)や、4個のLEDを有してLEDの点灯数で動揺度が認識できるような動揺度測定装置(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3625035号公報
【文献】特許第3620979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、動揺度の分類が粗く、定量的な測定をすることができなかった。したがって、従来の動揺度の測定結果だけでは、例えば治癒の程度等を定量的に認識することができなかった。
【0007】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、定量的な測定をすることができる動揺度測定装置、動揺度測定プログラムおよび記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る動揺度測定装置は、口腔内を撮影する撮影部を本体の先端部の表面に有する口腔内カメラと、歯牙を揺動させる揺動部材と、前記口腔内カメラによって、前記揺動部材と共に撮影された少なくとも2枚の歯牙の画像から所定の基準位置の移動距離を算出する処理を行い、前記算出した移動距離を動揺度として測定する画像処理手段と、を備え、前記揺動部材は、前記口腔内カメラに連結されて前記口腔内カメラと一体的に動き、前記揺動部材が当接する歯牙に対して、前記歯牙の咬合面を前記撮影部が撮影できるように前記口腔内カメラを固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る動揺度測定装置、動揺度測定プログラムおよび記録媒体によれば、定量的な測定をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る動揺度測定装置の全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る動揺度測定装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図3】口腔内カメラと揺動部材を分解して示す分解斜視図である。
図4】歯牙を揺動する様子の一例を示す模式図である。
図5】歯牙を揺動する様子の他の例を示す模式図である。
図6】歯牙を揺動する前に撮影された画像例を示す模式図である。
図7】歯牙を揺動した後に撮影された画像例を示す模式図である。
図8】本発明の実施形態に係る動揺度測定装置の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る動揺度測定装置について詳細に説明する。
【0012】
まず、システム構成例について図1を参照して説明する。図1に示すように、動揺度測定装置1は、口腔内カメラ2と、揺動部材3と、演算装置4と、を主に備えている。
口腔内カメラ2は、公知の歯科用の口腔内カメラであり、口腔内の歯牙T等を撮影する。口腔内カメラとしては、従来種々の製品が市販され、概ね次のような特長を有している。例えば、(1)全長が200mm以下であり、操作者が鉛筆を持つのと同じようにして掴むことができる。(2)カメラレンズの周りに複数の照明用LEDを備え、数ミリメートルの撮影距離で撮影可能である。(3)横1024画素×縦768画素等の高解像度の静止画像を撮影するモードや、所定解像度の動画を撮影するモード等を有する。(4)口腔内カメラで撮影された画像を表示する動作プログラムが附属ソフトウェアとしてセットで販売されている。
動揺度測定装置1において、口腔内カメラ2として、このような市販品を採用することができる。以下では、口腔内カメラ2は、一例として、歯牙Tの静止画を撮影するものとして説明する。
【0013】
図1に示す動揺度測定装置1においては、口腔内カメラ2に揺動部材3が取り付けられている。揺動部材3は歯牙Tを保持して揺動させる部材である。揺動部材3は、滅菌できる器具であり、例えば、ステンレス鋼等によって形成されている。
また、口腔内カメラ2は、演算装置4と通信可能に接続されている。なお、図1には、口腔内カメラ2と演算装置4とをUSB接続する通信ケーブルを表示したが、有線通信に限らず、無線通信であっても構わない。無線通信の場合、口腔内カメラ2は、例えば充電可能なバッテリを搭載する。
【0014】
演算装置4は、例えば、一般的なコンピュータで実現することができ、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、HDD(Hard Disk Drive)と、入力/出力インタフェースとを含んで構成されている。このコンピュータには、口腔内カメラ2で撮影された画像を表示する動作プログラム(附属ソフトウェア)や、撮影画像に所定の画像処理を施して動揺度を測定する動作プログラムがインストールされている。また、演算装置4と表示装置5とは、ノート型パーソナルコンピュータとして一体的に構成されている。
以下、各部の詳細について説明する。
【0015】
演算装置4は、図2に示すように、画像処理手段10を備えている。
画像処理手段10は、口腔内カメラ2によって、揺動部材3と共に撮影された少なくとも2枚の歯牙の画像から所定の基準位置の移動距離を算出する処理を行い、この算出した移動距離を動揺度として測定するものである。口腔内カメラ2と揺動部材3とを分解した分解斜視図を図3に示す。また、歯牙Tを揺動する様子の模式図を図4図7に示す。また、以下の説明では、図4図7に示すように測定対象の歯牙をT1、その両隣の歯牙をT0,T1と表記し、特に区別しない場合、単にTと表記する。
【0016】
画像処理手段10は、例えば、記憶部に格納されたプログラム(撮影画像に所定の画像処理を施して動揺度を測定する動作プログラム)をCPUがRAMに展開し実行することにより実現される。ここでは、図2に示すように、画像処理手段10は、画像切出手段11と、画像特徴抽出手段12と、移動量算出手段13と、を備えている。
【0017】
画像切出手段11は、口腔内カメラ2で撮影された画像を入力し、入力された画像から、その一部である所定エリアの画像を切り出して、切り出した画像を画像特徴抽出手段12に出力する。一般的な口腔内カメラで撮影された静止画像は、数十万画素の高画質である。画像切出手段11は、撮影画像中で測定対象が配置されたエリアが一部であることから、その測定対象が配置されたエリアを切り出す。画像を切り出すための所定エリアは、予め設定しておいてもよいし、操作者によって、その都度設定できるようにしてもよい。
【0018】
所定エリア内には、移動量を算出するために設定される所定の基準位置(以下、単に基準位置という)が含まれる。ここでは、揺動部材3で保持した歯牙T1以外の組織に基準位置を設定しておくものとする。基準位置の設定箇所は、対象とする歯牙T1の一方の側に隣接する歯牙T0や、対象とする歯牙T1の他方の側に隣接する歯牙T2であってもよい。その場合、歯牙T0,T2に詰め物や被せ物があれば、詰め物や被せ物に基準位置を設定してもよい。
【0019】
図4図7に示すように、操作者は、揺動部材3で歯牙T1を保持し、口腔内カメラ2ごと歯牙T1を揺らす。静止中であっても揺らしているときであっても、口腔内カメラ2の撮影部23に対して歯牙T1が固定された位置で撮影される。これにより、揺動部材3で保持した歯牙T1以外の組織が動いて写る。歯牙T1以外の組織に基準位置を予め設定しておくことで、例えば、揺動前の歯牙Tの画像と、動くところまで一方向に揺動した後の歯牙Tの画像と、の2枚の画像間において、基準位置が動くため、基準位置の移動量を定量的に数値化することができる。
【0020】
図2に戻って、画像処理手段10の説明を続ける。
画像切出手段11は、必須構成ではないが、口腔内カメラ2で撮影された画像全体を対象として画像処理する場合に比べて、処理速度を向上させたり、CPU等の処理負荷を低減させたりすることができることから、備えることが好ましい。
【0021】
画像特徴抽出手段12は、画像切出手段11によって切り出された画像から画像特徴量を抽出し、抽出した画像特徴量を移動量算出手段13に出力する。
画像特徴抽出手段12は、例えば、入力画像から局所的な特徴点やエッジを検出する。画像特徴抽出手段12には公知のフィルタ処理やエッジ検出オペレータ等を用いることができる。画像特徴抽出手段12には、移動量を算出するために所定の基準位置が設定されている。画像特徴抽出手段12は、例えば、歯牙Tを揺動する前に撮影された画像における基準位置と、揺動した後に撮影された画像における基準位置と、の差分を、画像特徴量として抽出する。
【0022】
図6は、歯牙Tを揺動する前に撮影された画像の一例を示す。図7は、歯牙Tを動くところまで一方向に揺動した後に撮影された画像の一例を示す。2枚の撮影画像は、それぞれの画像に写った歯牙T1の位置が重なる。よって、揺動部材3で保持した歯牙T1以外の組織として、例えば歯牙T0に基準位置を設定しておけば、歯牙T1を揺動する前に撮影された画像における基準位置と、揺動した後に撮影された画像における基準位置と、の差分を抽出することができる。
【0023】
図2に戻って、画像処理手段10の説明を続ける。
移動量算出手段13は、画像特徴抽出手段12によって抽出された画像特徴量から、基準位置の移動量を算出する。算出された移動量は、動揺度として表示装置5に表示される。
動揺度測定装置1において、図1に示すように口腔内カメラ2に揺動部材3が取り付けられている。そして、揺動部材3が歯牙Tに当接したときの歯牙Tの咬合面から口腔内カメラ2までの距離は予め分かっており、事前校正により、撮影画像の長さ(画素数)と実空間上の距離とが対応付けられている。これにより、移動量算出手段13は、例えば、歯牙Tを揺動する前後に取得されたそれぞれの基準位置の画像上における差分を、実空間上の長さに換算する。
【0024】
ここで、通常、歯牙Tの動揺度の検査では、歯牙を一方向に動くところまで動かし、その後、反対方向に動くところまで動かしている。このようにして、両方向にまたがる全振幅の長さを測定している。
一方、動揺度測定装置1においては、例えば、歯牙を動かす前に撮影した画像を取得し、歯牙を一方向に動くところまで動かした後に撮影した画像を取得する。このため、この場合、歯牙Tを揺動する前後に取得されたそれぞれの基準位置の画像は、片方向の振幅の長さを反映している。そこで、移動量算出手段13は、基準位置の画像上における差分から算出した実空間上の長さを2倍することで、動揺度の判定に対応した長さとして、最終的な実空間上の移動量を算出する。
【0025】
具体的には、移動量算出手段13は、基準位置の画像上における差分から実空間上の長さとして例えば0.6mmを求めた場合、それを2倍して、1.2mmを移動量として算出する。同様に、移動量算出手段13は、基準位置の画像上における差分から実空間上の長さとして例えば0.8mmを求めた場合、それを2倍して、1.6mmを移動量として算出する。このようにすることで、動揺度が1.6mmから1.2mmに改善したことを定量的に表現することができる。
【0026】
前記したように、従来、歯の動揺度の測定結果は、大、中、小、無のいずれかに分類されている(ミラーの分類)。
「無」は、臨床では0度と呼ばれ、ほとんど動かない場合、または、生理的にしか動かない場合(0.2mm未満)とされている。
「小」は、臨床では1度と呼ばれ、0.2~1mmの動きがあり、唇舌方向に動く場合とされている。
「中」は、臨床では2度と呼ばれ、1.0~2mmの動きがあり、唇舌方向・近遠方向に動く場合とされている。
「大」は、臨床では3度と呼ばれ、2mm以上の動きがあり、唇舌方向・近遠方向・垂直方向に動く場合とされている。
移動量算出手段13は、実空間上の長さで移動量を算出するので、操作者である歯科医師は、測定結果を直感的にミラーの分類にあてはめることができる。さらに、操作者は、動揺度を実空間上の長さで定量的に把握することができる。
【0027】
また、ここでは、図1および図2に示すように、動揺度測定装置1は、口腔内カメラ2で撮影された画像を表示する表示装置5を備えている。表示装置5は、画像を表示するものであり、例えば、液晶ディスプレイ等から構成される。表示装置5には、様々な画面やウィンドウが表示され、撮影画像や、ユーザ入力画面や測定結果等が表示される。
これにより、動揺度測定装置1は、目視に比べて拡大された撮影画像を表示装置5に表示することができる。そのため、操作者である歯科医師は、表示装置5を介して揺動前後の動きを確認することで、感覚的に揺動部材3を動かす力の加減を認識し易くなる。
【0028】
図3に示すように、口腔内カメラ2は、例えば、本体21と、本体21の先端側に接続された先端部22と、先端部22の表面に設けられた撮影部23と、本体21の所定位置に設けられた操作部24と、を備えている。
本体21は、回路基板等を内蔵した円筒形の部材である。本体21の外周面は、操作者が操作部24を操作する際に把持するグリップとしても機能する。
【0029】
先端部22は、本体21よりも小径の円筒形の部材であり、カメラヘッドとして機能する。なお、本体21の先端側は、先端部22に滑らかに接続するようなテーパー形状となっている。このテーパー形状となっている部分から、先端部22の基端側の部分にかけての外周面は、操作者が鉛筆を持つのと同じようにして掴むことができる。
【0030】
撮影部23は、患者の口腔内に挿入されて口腔内を撮影する部位である。撮影部23は、カメラレンズや撮像素子を備えると共に、カメラレンズの周囲にLED等の複数の照明装置を備えている。
操作部24は、手元で撮影を行うためのボタンやモード切替ボタンを含んでいる。
【0031】
図3に示すように、揺動部材3は、例えば、本体部31と、連結部32と、当接部33と、把持部34と、を備えている。本体部31は、例えばピンセット状に形成されている。
連結部32は、本体部31の基端側に設けられ、口腔内カメラ2と連結するための部材である。連結部32は、口腔内カメラ2の先端部22に対して、この揺動部材3を着脱自在(交換可能)に構成されている。連結部32は、中空の円筒を略半円の筒になるように切断した形状で形成されている。
【0032】
連結部32は、口腔内カメラ2の先端部22を略半円の筒で挟む際に、バネの力で挟むように構成してもよい。または、連結部32は、口腔内カメラ2の先端部22の端部からスライドしながら挿入されて先端部22に嵌合して固定されるように構成してもよい。
【0033】
揺動部材3は、撮影部23の撮影方向に対向して口腔内カメラ2を支持するように配置された状態で連結部32によって口腔内カメラ2と連結されている。
揺動部材3は、撮影画像の中央に映った歯牙を機械的に保持できるような口腔内カメラ2の部位に連結部32で取り付けられている。すなわち、図4および図5に示すように、上から撮影対象の歯牙T1を撮影することができるように取り付けられている。
【0034】
これにより、図4に示すように、揺動部材3が当接する歯牙T1に対して、歯牙T1の咬合面を撮影部23が撮影できるように口腔内カメラ2を歯牙T1に対して固定することができる。また、歯牙T1と共に撮影部23が揺動するので、揺動前後において歯牙T1が同じ位置に写るような画像を撮影することができる。このとき、歯牙T1以外の組織に基準位置を設定しておくので、背景画像中の基準位置について、揺動前後における差分を算出することができる。
【0035】
動揺度測定装置1は、揺動部材3を介して小さな歯牙Tを、相対的に大きな口腔内カメラ2の動きに連動させることができるので、細かな作業を効率よく行うことができるようになる。
【0036】
当接部33は、本体部31の先端側に設けられ、連結部32から本体部31が配置された側(撮影部23が配置された側)に延出して歯牙に当接する部位である。当接部33は、歯牙Tを揺らせることができるように構成されている。
【0037】
ここでは、当接部33が、ピンセットであることとしている。これにより、揺動部材3の当接部33は、図4に示すように、歯牙T1を挟持して強固に固定することで、歯牙T1を安定的に揺動させることができる。
【0038】
また、当接部33は、歯牙T1を挟持することなく、歯牙T1を保持することも可能である。図5に示すように、ピンセットを閉じた状態で当接部33を歯牙Tの咬合面に押し当てることで、歯牙T1を揺動可能に保持することもできる。この手法は、歯牙が臼歯であるときに特に有効である。
【0039】
把持部34は、当接部33の開閉動作をするときに把持する部位であり、例えば、本体部31の前方に配置されている。
【0040】
撮影する際に、揺動部材3の当接部33を、図4に示すように歯牙Tに当接させることにより、手振れを防止すると共に、口腔内カメラ2を安定した状態に支持させることができる。この揺動部材3は、撮影後、新品あるいは滅菌した揺動部材3と交換することにより、揺動部材3を常に清潔な状態にすることができる。
【0041】
以上説明したように、動揺度測定装置1は、測定対象となる歯牙T1の撮影画像を画像処理することで、例えば歯牙T1の揺動前後にそれぞれ写っている基準位置の移動距離を算出することができる。これにより、歯牙が揺動部材3によってどれだけ動かされたかを定量的に求めることができる。したがって、動揺度測定装置1は、動揺度を精度よく測定することができる。
また、動揺度測定装置1によって歯の動揺度を定量的に測定した結果は、診断に用いることができる。例えば、歯周疾患の治療において、治癒の度合いを簡便に定量評価できる。このように簡便に定量的な歯の動揺度測定ができるようになるため、苦痛の少ない迅速な診療が提供可能となる。
【0042】
(変形例1)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。また、以下のように変形してもよい。例えば、動揺度測定装置1の構成は図1に示したように口腔内カメラ2や揺動部材3を含んで実現することも可能であるし、口腔内カメラ2や揺動部材3を含まずに演算装置4で実現することも可能である。また、一般的なコンピュータを、動揺度測定装置として機能させる動揺度測定プログラムにより動作させることで実現することも可能である。このプログラムは、通信回線を介して提供することも可能であるし、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。この記録媒体を装着されたコンピュータが、この記録媒体に記録された動揺度測定プログラムに基づいた各機能を実現することができる。
また、演算装置4と表示装置5とは、ノート型パーソナルコンピュータとして一体的に構成されているものとしたが、タブレット端末やスマートフォンで構成してもよい。また、演算装置4と表示装置5とを分離して、デスクトップ型やタワー型のコンピュータで構成してもよい。
【0043】
(変形例2)
前記実施形態では、揺動部材3の当接部33がピンセットであるものとして説明したが、当接部33の形状はこれに限らない。
当接部は、把持部34をつまんだときに開き、把持部34を手放すと閉じるような逆動作のピンセットであっても構わない。また、揺動部材3において把持部34の位置は、本体部31の前側に限らず、本体部31の後側であってもよい。
当接部33および把持部34は、例えばネクタイピンの留め具のようにバネの力で挟む構造であっても構わない。
【0044】
(変形例3)
前記実施形態では、揺動部材3の当接部33が、開閉可能なピンセットであるものとして説明したが、開閉可能でなくても構わない。当接部は、例えば、棒状で先端が丸くなっている形状、すなわちピン形状でもよい。
【0045】
(変形例4)
前記実施形態では、揺動部材3で保持した歯牙T1以外の組織に基準位置を設定しておくものとして説明したが、基準位置の設定箇所はこれに限らない。
例えば、揺動部材3で保持した歯牙T1に基準位置を設定してもよい。その場合、歯牙T1に詰め物や被せ物があれば、それでもよい。また、歯牙T1に接触している揺動部材3の当接部33に基準位置を設定してもよい。
【0046】
これらの場合、歯牙T1の揺動前後のそれぞれの撮影画像においては、当接部33や歯牙T1の位置に変化はなく、歯牙T1以外の組織の画像(背景)が変化している。
そこで、背景の側を画像処理により固定させ、相対的に、撮影画像では位置の変化のない歯牙T1の位置が変化して見えるように画像処理を行う。
例えば撮影画像の各画素値を所定の閾値と比較することで、2値化画像を生成する処理を行うことで、歯牙T1や当接部33に対応する画像オブジェクトとその背景画像とを分離できる。これにより、背景の位置が固定された画像上で、歯牙T1を保持する当接部33の位置の変化を判別することができる。そのため、当接部33の移動量を定量的に数値化することができる。この値を動揺度の定量評価値としてもよい。
【0047】
(変形例5)
前記実施形態では、対象となる歯牙の静止画を画像処理するものとして説明したが、動画であっても構わない。
揺動部材3で歯牙T1を保持し、口腔内カメラ2ごと歯牙T1を揺らすことにより、歯牙T1は撮影された映像中で常に固定された位置で映る。このとき、固定した歯牙T1以外の組織が動いて映ることになる。ここで、例えば、背景の側を画像処理により固定させ、相対的に、撮影された映像では静止していた歯牙T1が動いて見えるように、動画を構成するフレーム画像の移動処理を行う。例えば2値化処理を行うことで、歯牙T1や当接部33に対応する画像オブジェクトとその背景画像とを分離できる。これにより、背景の位置が固定された画像上で、歯牙T1を保持する当接部33の位置の変化を判別することができる。このとき、連続する2枚の画像から基準位置の移動方向および移動距離を算出する処理を、歯牙T1を揺動する前の画像から、歯牙T1を揺動した後の画像にかけて順次行い、それらの総和を求める。結果として、連続する例えば数十枚の画像から、基準位置の最終的な移動距離を算出する。なお、動画において2枚の連続画像から移動体(画像オブジェクト)を抽出し、抽出した画像オブジェクトを追跡することにより、その移動距離を算出する方法は特に限定されず、例えば公知の動画解析ソフトウェアを用いてもよい。そして、歯牙T1に接触している揺動部材3の当接部33に基準位置を設定しておくことで、画像オブジェクトに対応する当接部33の移動量を定量的に数値化することができる。この値を動揺度の定量評価値としてもよい。
あるいは、背景の側を固定させる画像処理を行わずに、例えば、歯牙T1以外の組織に基準位置を設定しておくことで、画像オブジェクトに対応する基準位置の移動量を定量的に数値化することもできる。この値を動揺度の定量評価値としてもよい。
このように動画を表示装置5に表示させることで、操作者である歯科医師は、動揺度を感覚的に確認できる。
【0048】
(変形例6)
前記実施形態では、対象となる歯牙T1を保持する揺動部材3と、口腔内カメラ2とを一体的に動かすものとして説明したが、歯牙を揺動する揺動部材と、口腔内カメラ2とを分離して別々に動かしても構わない。
図8は、本発明の実施形態に係る動揺度測定装置の変形例を示す模式図である。
図8に示す固定部材50は、口腔内カメラ2を口腔内に固定するための部材であり、口腔内カメラ2の先端部に脱着可能に構成されている。この例では、撮影に際して、口腔内カメラ2の先端部に嵌入された固定部材50が、測定対象の歯牙に隣接する2つの歯牙を跨ぐようにこれらの歯牙にそれぞれ固定されている。固定部材50は、測定対象の歯牙の周囲で基準位置を設定可能な他の歯牙等が口腔内カメラ2で撮影可能であれば、その形状やサイズは適宜設計変更することができる。固定部材50は、例えば滅菌可能な部材からなる。
【0049】
また、図8に示す揺動部材60は、例えば棒状で先端が丸くなっている形状の部材である。揺動部材60は、例えば滅菌可能な部材からなる。揺動部材60は、歯科医師が治療に用いる一般的なピンセット等でも構わない。
この変形例においても、揺動部材60で揺動する歯牙以外の組織に基準位置を設定しておけばよい。この場合、揺動前後のそれぞれの撮影画像においては、固定部材50が固定された2つの歯牙の位置に変化はなく、揺動された歯牙の位置、または、揺動部材60の位置の変化を判別することができる。そのため、揺動部材60の移動量を定量的に数値化することができる。この値を動揺度の定量評価値としてもよい。
【0050】
(変形例7)
前記実施形態では、歯牙Tを揺動する前後にそれぞれ撮影された画像を画像処理するものとして説明したが、揺動した後の画像だけを用いても構わない。
例えば、歯牙を動かす前に当該歯牙を撮影せずに、歯牙を一方向に動くところまで動かした後に撮影した画像を取得した後、歯牙を反対方向に動くところまで動かした後に撮影した画像を取得する。この場合、歯牙Tを一方向および反対方向に動かした後に取得されたそれぞれの基準位置の画像は、両方向にまたがる全振幅の長さを反映している。そのため、移動量算出手段13は、基準位置の画像上における差分から算出した実空間上の長さを2倍することなく、そのまま、動揺度の判定に対応した長さとして、最終的な実空間上の移動量とする。これによれば、歯牙の一方向の揺れ幅と、歯牙の反対方向の揺れ幅とが大きく異なる場合、動揺度の測定結果の精度が向上する。
【0051】
(変形例8)
前記実施形態では、歯牙Tを揺動するときの基準位置を、歯牙または詰め物や被せ物に設定することとして説明したが、これに限らない。例えば、歯牙や口腔内の組織と区別し易いような色を有した人体に無害のマーカを歯牙の近傍に配置してもよい。また、基準位置を設定するための基準点の代用となる微小な点状のマーカや、基準線の代用となる微小な線状のマーカでもよい。マーカは、表面の光反射性が高く滅菌できる素材で構成されることが好ましい。例えば歯科医師が一方の手で把持するスティックの先端に点状のマーカを装着し、このマーカを歯牙の近傍に配置し、歯科医師が他方の手で把持した口腔内カメラ2を操作するようにしてよい。
【符号の説明】
【0052】
1 動揺度測定装置
2 口腔内カメラ
3,60 揺動部材
4 演算装置
5 表示装置
10 画像処理手段
11 画像切出手段
12 画像特徴抽出手段
13 移動量算出手段
23 撮影部
32 連結部
33 当接部
50 固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8