(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】オレフィン樹脂組成物、フィルム及び医療用容器
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220222BHJP
A61J 1/10 20060101ALI20220222BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220222BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220222BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220222BHJP
B65D 81/32 20060101ALI20220222BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220222BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C08L23/10
A61J1/10 330B
B32B27/00 H
B32B27/00 104
B32B27/30 B
B32B27/32 Z
B65D81/32 D
C08J5/18 CEQ
C08J5/18 CES
C08L53/02
(21)【出願番号】P 2015110021
(22)【出願日】2015-05-29
【審査請求日】2018-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真里子
【合議体】
【審判長】佐藤 健史
【審判官】福井 悟
【審判官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-531486(JP,A)
【文献】特開2014-54769(JP,A)
【文献】特開2013-39771(JP,A)
【文献】特開平10-67894(JP,A)
【文献】特開平1-278539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B65D
C08J
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロピレンに由来する単量体単位を含むプロピレン系重合体と、
(B)ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位、及び共役ジエンに由来し水素添加された単量体単位を含むエラストマーと、
を含有し、
前記プロピレン系重合体がプロピレンとα-オレフィンとの共重合体であり、
前記共役ジエンが、1,3-ブタジエン及び/又はイソプレンを含み、
前記エラストマーを構成する単量体単位の総量を基準として、前記ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合がXモル%で、前記1,3-ブタジエンに由来し1,2-結合している水素添加された単量体単位及び前記イソプレンに由来し1,4結合又は3,4結合している水素添加された単量体単位の合計の割合がYモル%であるとき、X/Yが、0.090以上0.125以下であり、
前記プロピレン系重合体の溶融粘度がη
Aで、前記エラストマーの溶融粘度がη
Bであるとき、η
A及びη
Bが式:
0.9<η
A/η
B<2.4
を満たし、前記溶融粘度が230℃において60.8sec
-1の剪断速度で測定される値である、
オレフィン樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のオレフィン樹脂組成物を含むシール層を有するフィルム。
【請求項3】
袋体を形成している請求項2に記載のフィルムを備え、前記フィルムのシール層が当該袋体の内側の最表面に位置している医療用容器であって、
当該袋体の外縁部の少なくとも一部、及び前記外縁部の内側の隔壁部において前記フィルムのシール層同士がヒートシールされており、前記隔壁部が当該袋体の内部を複数の薬剤室に分割している、医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン樹脂組成物、並びに、これを用いたフィルム及び医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
容易に剥離可能な隔壁によって区切られた複数の薬剤室を有する容器が、輸液バッグなどの医療用容器として採用されている。混合すると変質する2種以上の薬剤を、このような容器のそれぞれの収納空間(薬剤室)に、予め収納し、所望の時点で容器を圧迫することにより隔壁を剥離させて、容易に薬剤を混合することができる。
【0003】
容易に剥離可能な隔壁を有する容器は、例えば、重ねられた2枚のフィルムの外縁部及び中央部をヒートシールする方法で製造することができる。中央部をヒートシールする温度を、外縁部をヒートシールする温度よりも低くすることで、中央部を、剥離可能な程度の弱い剥離強度でヒートシールすることができる。
また、医療用容器は、内容物を視認できるよう、透明性が求められる。
【0004】
医療用容器をはじめとする各種の容器を形成するための材料が、これまでにもいくつか提案されている(例えば、特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-169344号公報
【文献】特表2003-516248号公報
【文献】特開2000-86836号公報
【文献】特開平10-67894号公報
【文献】特開平9-59455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒートシールによって形成された隔壁部を有する医療用容器に関して、ヒートシールされた外縁部が十分に高い剥離強度を有するとともに、隔壁部の剥離強度が安定して適切な範囲にあることが望ましい。しかし、従来の材料を用いると、隔壁部の剥離強度がヒートシールの温度の変動の影響を受け易く、工程条件のばらつきに起因して隔壁部の剥離強度が過度に高くなることがあった。また、ヒートシール後の加熱滅菌によって隔壁部の剥離強度が高くなりすぎることもあった。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、隔壁部を有する医療用容器を形成するために用いられたときに、十分な透明性及びヒートシールされた外縁部の十分に高い剥離強度を維持しながら、隔壁部の適切な剥離強度を広い温度範囲のヒートシールで安定して得ることを可能にする、オレフィン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、(A)プロピレンに由来する単量体単位を含むプロピレン系重合体と、(B)ビニル芳香族化合物に由来する(水素添加されていない)単量体単位、及び共役ジエンに由来し水素添加された単量体単位を含むエラストマーと、を含有する、オレフィン樹脂組成物に関する。共役ジエンは、1,3-ブタジエン及び/又はイソプレンを含む。
【0009】
エラストマーを構成する単量体単位の総量を基準として、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合がXモル%で、1,3-ブタジエンに由来し1,2-結合している水素添加された単量体単位及びイソプレンに由来し1,4結合又は3,4結合している水素添加された単量体単位の合計の割合がYモル%であるとき、X及びYは、式:0.075<X/Y<0.300を満たす。
【0010】
プロピレン系重合体の溶融粘度がηAで、エラストマーの溶融粘度がηBであるとき、ηA及びηBが式:0.9<ηA/ηB<2.4を満たす。この溶融粘度は、230℃において60.8sec-1の剪断速度で測定される値である。
【0011】
本発明の別の側面は、上記オレフィン樹脂組成物を含むシール層を有するフィルムに関する。
【0012】
これらの要件を満たすオレフィン樹脂組成物及びこれを用いたフィルムを、ヒートシールによって形成された隔壁部を有する医療用容器を形成するために用いると、加熱滅菌の前後において十分な透明性及び外縁部の十分に高い剥離強度を維持しながら、隔壁部の適切な剥離強度を広い温度範囲のヒートシールで安定して得ることが可能である。ここでいう隔壁部の適切な剥離強度には、薬剤等の内容物を充填する前および充填する時には剥離して開通してしまわない程度の適度な剥離強度、ならびに、薬剤等の内容物を充填した後は加熱滅菌しても易剥離性を維持することができる剥離強度を含む。
【0013】
本発明の更に別の側面は、袋体を形成している上記フィルムを備え、フィルムのシール層が当該袋体の内側の最表面に位置している医療用容器に関する。当該袋体の外縁部の少なくとも一部、及び外縁部の内側の隔壁部においてフィルムのシール層同士がヒートシールされている。隔壁部は、当該袋体の内部を複数の薬剤室に分割している。
【0014】
この医療用容器は、十分な透明性及び縁部の十分に高い剥離強度を維持しながら、隔壁部の適切な剥離強度を安定して有することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒートシールによって形成された隔壁部を有する医療用容器を、十分な透明性及び外縁部の十分に高い剥離強度を維持しながら、隔壁部の適切な剥離強度を広い温度範囲のヒートシールで安定して得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、容器の一実施形態を示す平面図である。
図1に示す容器1は、輸液バッグ等の医療用容器として用いることができる。容器1は、矩形の主面を有し袋体を形成している筒状のフィルム5を有する。フィルム5は、袋体の内側の最表面に位置しているシール層を有する。袋体の中央部において、フィルム5のシール層同士がヒートシールされることで、隔壁部10が形成されている。隔壁部10の両側で対向する一対の外縁部(筒状のフィルム5の2つの開口部)においてフィルム5のシール層同士がヒートシールされることで、外縁のヒートシール部20が形成されている。隔壁部10は、袋体の内部を独立した2つの薬剤室30a,30bに分割している。薬剤室30a,30bは、それぞれヒートシール部20及び隔壁部10によって密閉されており、それぞれ異なる薬液等の内容物で充填される。
【0019】
容器1は、例えば、筒状のフィルム5の中央部分を低温でヒートシールして隔壁部10を形成することと、薬液等の内容物で薬剤室30a,30bを充填することと、隔壁部10の両側で対向するフィルム5の外縁部を高温でヒートシールしてヒートシール部20を形成することと、をこの順で含む方法により製造することができる。筒状のフィルム5は、例えば、水冷式インフレーション成形のようなインフレーション成形によって得ることができる。フィルム5がシール層を有する多層フィルムである場合、対向するシール層同士が密着するようにフィルム5をヒートシールする。
【0020】
図2も、容器の一実施形態を示す平面図である。
図2に示す容器1は、重ね合わされた2枚のフィルム5から形成された袋体を有する。この容器1は、矩形の主面を有するフィルム5の短辺側の外縁部に設けられたヒートシール部20に加えて、フィルム5の長手方向に沿う外縁部に設けられたヒートシール部21を有する。この容器1は、例えば、重ね合されたフィルム5の長手方向に沿う外縁部を高温でヒートシールしてヒートシール部21を形成することと、フィルム5の中央部分を低温でヒートシールして隔壁部10を形成することと、薬剤室30a,30bを内容物で充填することと、フィルムの短辺側の外縁部を高温でヒートシールしてヒートシール部20を形成することとをこの順で含む方法により製造することができる。
【0021】
図3も、容器の一実施形態を示す平面図である。
図3に示す容器1は、ヒートシール部20において筒状のフィルム5の間に挿入された口部材40を備える。この場合、容器1を完成した後に、口部材40を通じて内容物を薬剤室30a,30bに充填することができる。
【0022】
隔壁部10及びヒートシール部20が形成された容器1は、薬剤室30a,30bに内容物が充填された状態で、通常、加熱滅菌される。加熱滅菌の温度は例えば90~135℃で、加熱滅菌のための加熱時間は例えば10~90分である。
【0023】
混合すると変質する2種の内容物を、予め薬剤室30a,30bにそれぞれ収納し、所望の時点で容器1を圧迫することにより隔壁部10におけるシール層を剥離させて、内容物同士を容易に混合することが可能である。隔壁部10は、内容物充填時に剥離して開通しない程度の適度な剥離強度を有するとともに、内容物充填後、加熱滅菌しても易剥離性を維持することができる。なお、内容物としては通常、液体または固体が想定され、通常は、少なくとも一つの薬剤室には液体が充填される。
【0024】
隔壁部10における剥離強度は、ヒートシール部20、21における剥離強度よりも小さい。隔壁部10における加熱滅菌前(内容物の充填前及び充填時)並びに加熱滅菌後の180度剥離強度は、好ましくは、2~15N/15mm、3~12N/15mm、又は3~10N/15mmである。隔壁部の剥離強度が小さいと、外部からの衝撃によって隔壁が容易に剥離してしまい、意図しない内容物の混合が起きる可能性がある。隔壁部の剥離強度が大きいと、容器を圧迫して隔壁を剥離させることが、困難となる傾向がある。
【0025】
ヒートシールにより形成される隔壁部の剥離強度は、ヒートシールのための加熱温度(ヒートシール温度)を変更することにより調節することができる。隔壁部を形成するためのヒートシール温度は、100℃以上180℃以下、110℃以上175℃以下、又は115℃以上170℃以下であってもよい。ヒートシール温度を上記範囲とすることによって、容易に剥離可能な隔壁部を形成することができる。ヒートシール温度は、具体的には例えばヒートシールバーの温度である。
【0026】
本発明によれば、隔壁部を形成するためのヒートシール温度の幅(ヒートシール温度の範囲の広さ)は、8℃以上40℃以下、又は10℃以上30℃以下であることができる。ヒートシール温度幅が8℃以上であることによって、適切な剥離強度の隔壁部を有する容器をさらに安定的に製造することができる。また、ヒートシール温度の幅が40℃以下であることによって、外縁部のヒートシール温度を低くすることができるため、容器を構成するフィルムを損傷することを抑制しながら容器を製造することができる。シール層が後述のオレフィン樹脂組成物を含んでいることから、ヒートシール温度がこれらの比較的広い幅で変動するときであっても、適切な剥離強度の隔壁部を有する容器を安定して製造することができる。
【0027】
外縁のヒートシール部20、21における180度剥離強度は、好ましくは、30N/15mm以上70N/15mm以下である。外縁のヒートシール部の180度剥離強度が30N/15mm以上であると、該容器は衝撃等を受けても破損し難い。
【0028】
外縁のヒートシール部20、21を形成するときのヒートシール温度は、例えば、180℃以上230℃以下、185℃以上220℃以下、又は190℃以上210℃以下であってもよい。ヒートシール部20、21を形成するときのヒートシール温度が上記範囲であると、容器の性能を実質的に損なわない範囲で、より経済的に医療用容器を製造することがすることができる。
【0029】
フィルム5が熱水又は水蒸気等による滅菌処理後にも良好な透明性を示すことから、本実施形態の容器は、輸液バッグなどの医療用容器として好適に用いることができる。フィルム5の内部ヘイズは、加熱滅菌前、加熱滅菌後共に、好ましくは、0.5~20、0.5~18、又は0.5~15である。内部ヘイズが20%以下であると視認性が良好のため、内容物(薬剤等)の検査精度が向上する。
【0030】
以下、フィルム5のシール層を形成するために用いることができるオレフィン樹脂組成物及びこれから得られるフィルムの実施形態に関して説明する。本実施形態に係るオレフィン樹脂組成物は、(A)プロピレン系重合体と、(B)ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位、及び共役ジエンに由来する単量体単位を含むエラストマーと、を含有する。
【0031】
[(A)プロピレン系重合体]
プロピレン系重合体は、プロピレンに由来する単量体単位を含む重合体であり、結晶性を有していてもよい。本明細書において、「結晶性を有する」とは、示差走査型熱量計を用いて測定される結晶融解熱量が20J/g以上であることを意味する。プロピレン系重合体は、熱水又は水蒸気等による加熱滅菌処理における耐熱性、及び、フィルムの耐ブロッキング性向上に寄与し得る。
【0032】
プロピレン系重合体は、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体、又はこれらの組み合わせを含む混合物であってもよい。プロピレン系重合体における、プロピレンに由来する単量体単位の割合は、プロピレン系重合体の質量を基準として、例えば85質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。
【0033】
プロピレン系重合体を構成するプロピレン以外のオレフィンとしては、例えば、エチレン、及びα-オレフィンが挙げられる。α-オレフィンの炭素数は4~8であってもよく、その具体例としては、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、及び1-オクテンが挙げられる。
【0034】
プロピレン系重合体の具体例は、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ペンテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセンランダム共重合体、及びプロピレン-エチレンブロック共重合体を含む。プロピレン系重合体は、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、及びプロピレン-1-ブテンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体であってもよい。
【0035】
プロピレン系重合体がプロピレン-エチレンランダム共重合体である場合、エチレンに由来する単量体の含有量は、1質量%~10質量%であってもよく、2質量~7質量%であってもよい。これらの含有量は、共重合体の質量を基準として計算される。
【0036】
プロピレン-1-ブテンランダム共重合体及びプロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体において、エチレンに由来する単量体単位の含有量が0~5質量%であってもよく、1-ブテンに由来する単量体単位の含有量が2~15質量%であってもよい。エチレンに由来する単量体単位の含有量が0~4質量%であってもよく、1-ブテンに由来する単量体単位の含有量が3~13質量%であってもよい。これらの含有量は、共重合体の質量を基準として計算される。
【0037】
プロピレン系重合体の、230℃において60.8sec-1の剪断速度で測定される溶融粘度ηAが、500Pa・s以上、又は600Pa・s以上であってもよく、1300Pa・s以下、又は1200Pa・s以下であってもよい。溶融粘度ηAがこれらの範囲内にあると、耐ブロッキング性、製膜加工性の点でより優れた効果が得られる。
【0038】
プロピレン系重合体は、例えば、特公昭64-6211号公報、特公平4-37084号公報に記載されている重合用触媒の存在下で、プロピレンを単独で重合する、又はプロピレンと他のオレフィンとを共重合することによって得ることができる。重合方法としては、例えば、溶液重合、バルク重合、気相重合、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
[(B)エラストマー]
オレフィン樹脂組成物が含有するエラストマーは、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位、及び共役ジエンに由来し水素添加された単量体単位を含む。共役ジエンは、1,3-ブタジエン及び/又はイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)を含む。本明細書において、「ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位」は、特に他に定義されない限り、ビニル芳香族化合物の芳香環が水素添加されていない単量体単位を意味する。
【0040】
ビニル芳香族化合物は、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、及びビニルピリジンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。これらの中でも、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを選択してもよい。
【0041】
ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合は、エラストマーの質量を基準として、5~40質量%、又は7~30質量%であってもよい。ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合が5重量%未満であると、フィルム及び容器の耐ブロッキング性が低下する傾向がある。ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合が40質量%を超えると、フィルム及び容器の耐衝撃性、特に低温時の耐衝撃性、および透明性が低下する可能性がある。同様の観点から、エラストマーを構成する単量体単位の総量を基準として、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合がXモル%であるとき、Xは2モル%以上、又は4モル%以上であってもよく、20モル%以下、又は15モル%以下であってもよい。
【0042】
1,3-ブタジエンに由来し水素添加された単量体単位としては、式(B-1,2)で表される1,2結合している単量体単位、及び、式(B-1,4)で表される1,4結合している単量体単位が挙げられる。
【0043】
【0044】
イソプレンに由来し水素添加された単量体単位としては、式(I-1,4)で表される1,4結合している単量体単位、式(I-3,4)で表される3,4結合している単量体単位、及び、式(I-1,2)で表される1,2結合している単量体単位が挙げられる。
【0045】
【0046】
いくつかの形態に係るエラストマーは、1,3-ブタジエンに由来し1,2-結合している水素添加された式(B-1,2)の単量体単位、イソプレンに由来し1,4結合している水素添加された式(I-1,4)の単量体単位、及び、イソプレンに由来し3,4結合している水素添加された式(I-3,4)の単量体単位から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含む。
【0047】
式(B-1,2)で表される単量体単位、式(I-1,4)で表される単量体単位、及び式(I-3,4)で表される単量体単位の合計の割合が、エラストマーを構成する単量体単位の総量を基準として、Yモル%であるとき、Yは、40モル%以上、又は50モル%以上であってもよく、95モル%以下、又は90モル%以下であってもよい。式(B-1,2)、式(I-1,4)又は式(I-3,4)で表される単量体単位は、エラストマーとプロピレン系重合体との相溶性の向上に寄与する。
【0048】
いくつかの形態に係るエラストマーは、これらに加えて、式(B-1,4)又は式(I-1,2)で表される単量体単位、及び、1,3-ブタジエン又はイソプレンに由来し水素添加されていない単量体単位から選ばれる他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0049】
エラストマーは、1,3-ブタジエン及びイソプレン以外の共役ジエンに由来し、水素添加された、又は水素添加されていない単量体単位を更に含んでいてもよい。他の共役ジエンとしては、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、及びクロロプレン等が挙げられる。
【0050】
ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の割合X(モル%)、及び、1,3-ブタジエンに由来し1,2-結合している水素添加された単量体単位及びイソプレンに由来し1,4結合又は3,4結合している水素添加された単量体単位の合計の割合Y(モル%)は、式:0.075<X/Y<0.300を満たすことが好ましい。透明性及び隔壁部の適切な剥離強度の観点から、X/Yは、0.080以上、0.085以上、又は0.090以上であってもよく、0.250以下、0.200以下、又は0.145以下であってもよい。X及びYの値は、13C NMRスペクトルのピーク強度比に基づいて求めることができる。オレフィン樹脂組成物中のエラストマーが、組成の異なる複数種の重合体から構成される混合物である場合、X及びYはその混合物全体としての割合であり、例えば混合物の13C NMRスペクトルによって決定される。
【0051】
エラストマーの、230℃において60.8sec-1の剪断速度で測定される溶融粘度ηBは、400Pa・s以上、又は500Pa・s以上であってもよく、1400Pa・s以下、又は1300Pa・s以下であってもよい。溶融粘度ηBがこれらの範囲内にあると、製膜加工性、フィルム及び容器の耐ブロッキング性の点でより優れた効果が得られる。
【0052】
プロピレン系重合体の溶融粘度ηA及びエラストマーの溶融粘度ηBは、式:0.9<ηA/ηB<2.4を満たすことが好ましい。これにより、外縁部での高い剥離強度、及び隔壁部での適切な剥離強度を容易に両立させることができる。同様の観点から、ηA/ηBは1.0以上、1.1以上、又は1.2以上であってもよく、2.2以下、2.0以下、又は1.8以下であってもよい。プロピレン系重合体又はエラストマーが複数種の成分から構成される混合物である場合、ηA及びηBは、混合物としての溶融粘度である。230℃において60.8sec-1の剪断速度で測定される溶融粘度ηA及びηBは、フィルムを形成する成形過程におけるオレフィン樹脂組成物中での各成分の溶融粘度に相当し得ると考えられる。したがって、この条件で測定される溶融粘度の比に基づいて、成形後のフィルム表面の形態(各成分の割合等)を制御できると考えられる。本発明者の知見によれば、例えば水冷式インフレーション成形によって、筒状のフィルムを形成する場合、この溶融粘度の比によってフィルムの特性を効果的に制御できる。
【0053】
エラストマーとしては、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位と共役ジエンに由来する単量体単位とのランダム共重合体の水添物、及び以下に示す(i)~(v)の重合体ブロックからなる群より選択される二以上の重合体ブロックを含むブロック共重合体の水添物が好ましい。
(i)芳香族ビニル化合物の割合がブロック全体の80質量%以上である芳香族ビニル化合物重合体ブロック
(ii)共役ジエンの割合がブロック全体の80質量%以上である共役ジエン重合体ブロック
(iii)1,2-又は3,4-結合している共役ジエンの割合がブロック全体の25質量%未満である共役ジエン重合体ブロック
(iv)1,2-又は3,4-結合している共役ジエンの割合がブロック全体の25~100質量%である共役ジエン重合体ブロック
(v)芳香族ビニル化合物と共役ジエンのランダム共重合体ブロック
【0054】
(v)のランダム共重合体ブロックは、芳香族ビニル化合物の割合が連続的に一分子中で変化するいわゆるテーパータイプを含んでもよい。
【0055】
上記「(i)~(v)の重合体ブロックからなる群より選択される二以上の重合体ブロックを含むブロック共重合体」のブロック構造の例としては、以下を挙げることができる。
(i)-(ii)、(i)-(iii)、(i)-(iv)、(i)-(v)、(iii)-(iv)、(iii)-(v)、[(i)-(ii)]x-Y、[(i)-(iii)]x-Y、[(i)-(iv)]x-Y、[(i)-(v)]x-Y、[(iii)-(iv)]x-Y、[(iii)-(v)]x-Y、(i)-(ii)-(iii)、(i)-(ii)-(v)、(i)-(ii)-(i)、(i)-(iii)-(i)、(i)-(iv)-(i)、(i)-(iv)-(iii)、(iii)-(iv)-(iii)、(i)-(v)-(i)、[(i)-(ii)-(iii)]x-Y、[(i)-(ii)-(v)]x-Y、[(i)-(ii)-(i)]x-Y、[(i)-(iii)-(i)]x-Y、[(i)-(iv)-(i)]x-Y、[(i)-(iv)-(iii)]x-Y、[(i)-(v)-(i)]x-Y、(i)-(ii)-(i)-(ii)、(ii)-(i)-(ii)-(i)、(i)-(iii)-(i)-(iii)、(iii)-(i)-(iii)-(i)、[(i)-(ii)-(ii)-(ii)]x-Y、(i)-(ii)-(i)-(ii)-(i)、[(i)-(ii)-(i)-(ii)-(i)]x-Y、[(ii)-(i)]x-Y、[(iii)-(i)]x-Y、[(iv)-(i)]x-Y、[(v)-(i)]x-Y、(ii)-(i)-(ii)-(iii)、(ii)-(i)-(ii)-(v)、(ii)-(i)-(ii)-(i)、(ii)-(i)-(iii)-(i)、(iii)-(i)-(iv)-(i)、(iii)-(i)-(iv)-(iii)、(iii)-(i)-(v)-(i)、[(iii)-(i)-(ii)-(iii)]x-Y、[(iv)-(i)-(ii)-(v)]x-Y、[(iv)-(i)-(ii)-(i)]x-Y、[(iv)-(i)-(iii)-(i)]x-Y、[(iv)-(i)-(iv)-(i)]x-Y、[(iv)-(i)-(iv)-(iii)]x-Y、[(iv)-(i)-(v)-(i)]x-Y、(iv)-(i)-(ii)-(i)-(ii)、(iv)-(ii)-(i)-(ii)-(i)、(iv)-(i)-(iii)-(i)-(iii)、(iv)-(iii)-(i)-(iii)-(i)、[(iv)-(i)-(ii)-(i)-(ii)]x-Y、(iv)-(i)-(ii)-(i)-(i)-(i)、[(iv)-(i)-(ii)-(i)-(ii)-(i)]x-Y
【0056】
これらブロック構造中、xは2以上であり、Yはカップリング剤の残基である。
【0057】
上記ブロック共重合体がカップリング剤の残基を含む変性ブロック共重合体である場合、カップリング剤としては、例えば、ハロゲン化合物、エポキシ化合物、カルボニル化合物、及びポリビニル化合物を挙げることができる。カップリング剤のより具体的な例としては、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジブロモエタン、エポキシ化大豆油、ジビニルベンゼン、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、テトラクロロゲルマニウム、ビス(トリクロロシリル)エタン、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、ジメチルテレフタル酸、ジエチルテレフタル酸、及びポリイソシアネートを挙げることができる。
【0058】
上記ブロック共重合体は、例えば、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒中で、n-ブチルリチウム等の有機リチウム化合物を重合開始剤として用いたリビングアニオン重合によって得ることができる。この場合、ルイス塩基を炭化水素溶媒とともに用いることにより、式(B-1,2)、式(I-1,4)又は式(I-3,4)で表される単量体単位の合計の割合を制御することができる。かかるルイス塩基としては、例えば、エーテル及びアミンを挙げることができる。ルイス塩基のより具体的な例として、(1)ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル、ブチルエーテル、高級エーテル、テトラヒドロフルフリルメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ビス(テトラヒドロフルフリル)ホルマール、2,2-ビス(2-テトラヒドロフルフリル)プロパン、またエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、及びプロピレングリコールエチルプロピルエーテル等のポリアルキレングリコールのエーテル誘導体、並びに(2)テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、及びトリブチルアミン等の第3級アミンを挙げることができる。
【0059】
共役ジエンに由来するエラストマー中の単量体単位のうち、80モル%以上、90モル%以上、又は95~100モル%が水素添加されて飽和していることが好ましい。水素添加されている共役ジエンの割合が80モル%未満であると、プロピレン系重合体との相溶性が低下し、フィルム及び容器の透明性が低下する傾向がある。
【0060】
水素添加は、例えば、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。水素添加の割合は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、及び反応時間等の条件を変えることにより任意に調整することができる。
【0061】
使用可能な水添触媒は、例えば元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物であり、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、及びPtから選ばれる原子を含む化合物である。水添触媒のより具体的な例としては、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物、Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属及び該金属を担持するカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体を有する担持型不均一系触媒、Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤との組み合わせを含む均一系チーグラー型触媒、Ru、Rh等の有機金属化合物を挙げることができる。これらの水添触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、Ti、Zr、Hf、Co、又はNiを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。Ti、Zr、又はHfを含むメタロセン化合物が更に好ましい。チタノセン化合物とアルキルリチウムとの反応により生成する水添触媒は、安価で工業的に特に有用な触媒であるので特に好ましい。具体的な例として、例えば、特開平1ー275605号公報、特開平5-271326号公報、特開平5-271325号公報、特開平5-222115号公報、特開平11-292924号公報、特開2000-37632号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭63-5401号公報、特開昭62-218403号公報、特開平7-90017号公報、特公昭43-19960号公報、特公昭47-40473号公報に記載の水添触媒を挙げることができる。
【0062】
水素添加後、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系もしくはアミン系の老化防止剤を添加した後、水添ジエン系重合体溶液から水素添加されたジエン系重合体であるエラストマーを取得する。エラストマーの取得は、例えば、水添ジエン系重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系重合体溶液を熱湯中に撹拌下投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により行うことができる。
【0063】
エラストマーの市販品の例としては、クラレ社製の商品名「セプトン」、商品名「ハイブラー」等、旭化成社製の商品名「タフテック」等、JSR社製の商品名「ダイナロン」等、クレイトンポリマーズ社製の商品名「クレイトン」がある。
【0064】
[オレフィン樹脂組成物]
オレフィン樹脂組成物におけるプロピレン系重合体の含有量は、プロピレン系重合体とエラストマーとの合計量を基準として、50質量%以上90質量%以下であってもよく、60質量%以上80質量%以下であってもよい。エラストマーの含有量は、プロピレン系重合体とエラストマーとの合計量を基準として、10質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上40質量%以下であってもよい。プロピレン系重合体及びエラストマーの含有量がこれら範囲内にあることで、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0065】
オレフィン樹脂組成物は、プロピレン系重合体、及びエラストマー以外の重合体を更に含有していてもよい。この重合体の例としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数4以上のα-オレフィンとの共重合体、1-ブテン単独重合体、及びスチレン系ブロック共重合体が挙げられる。この他の重合体の割合は、プロピレン系重合体、及びエラストマーの合計量100質量部に対して、20質量部以下、又は10質量部以下であってもよい。
【0066】
オレフィン樹脂組成物は、必要に応じて、中和剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、耐候安定剤、造核剤、顔料、加工性改良剤、金属石鹸等の添加剤を含有していてもよい。
【0067】
オレフィン樹脂組成物は、各成分をドライブレンドして調製した混合物であってもよく、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ロール等の溶融混練機で、180℃以上280℃以下の温度範囲で溶融混練して調製した混合物であってもよい。
【0068】
[オレフィン樹脂組成物を含むシール層を有するフィルム]
いくつかの形態に係るフィルムは、オレフィン樹脂組成物を含む層(シール層)を少なくとも1層有する。シール層は、フィルム状に成形されたオレフィン樹脂組成物であってもよい。このフィルムは、1層のシール層のみを有する単層フィルムであってもよく、シール層以外の層を有する多層フィルムであってもよい。
【0069】
多層フィルム、例えば、基材層と、基材層の一方の主面側に多層フィルムの最表層として設けられたシール層とを有する。基材層の材料は、通常、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水添物、スチレン-イソプレン-ブタジエンブロック共重合体の水添物、スチレンブタジエンラバーの水添物等のスチレン系エラストマー、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン酸樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和エステル系樹脂、ポリカーボネート、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ化ビニル系樹脂、シリコーン樹脂、あるいはこれらの架橋物が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中でも、オレフィン系樹脂が好ましく、エチレン系重合体、及びプロピレン系重合体が好ましい。透明性、柔軟性、耐衝撃性の観点から、プロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとを含む組成物が特に好ましい。この組成物において、耐熱性の観点から、プロピレン系重合体の含有量は、プロピレン系重合体とスチレン系エラストマーの合計量を100質量%として、60~95質量%であることが好ましい。基材層は延伸フィルムであってもよい。
【0070】
フィルムの厚み(シール層単独又は多層フィルムの厚み)は、1μm以上1000μm以下、又は50μm以上500μm以下であってもよい。多層フィルムの場合、シール層は、多層フィルム全体の厚みに対して5%~95%、又は10%~90%であることが好ましい。フィルムの表面は、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理、電子線照射処理及び紫外線照射処置等の表面処理法で処理されていてもよい。フィルムは、着色又は印刷されていてもよい。
【0071】
フィルムを製造する方法としては、Tダイ成形法又はインフレーション成形法が挙げられる。成形されたフィルムを冷却固化する方法としては、チルロールによる冷却、水冷、空冷が挙げられる。透明性に優れたフィルムを得るため、水冷が好ましい。
【0072】
多層フィルムを製造する方法としては、共押出による方法、押出ラミネーションによる方法、ドライラミネーションによる方法が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
1.原料
実施例及び比較例では、以下の原料を使用した。
(プロピレン系重合体)
・ノーブレン(登録商標)FH3315(住友化学(株)製、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレンに由来する単量体単位の含有量:96.8質量%、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):9.94×102Pa・s)
(エラストマー)
・クレイトンG1643(クレイトンポリマー製、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):4.08×102Pa・s)
・クレイトンG1645(クレイトンポリマー製、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):1.21×103Pa・s)
・クレイトンG1657(クレイトンポリマー製、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):7.95×102Pa・s)
・タフテックH1052(旭化成ケミカルズ(株)製、スチレン-ブタジエン共重合体の水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):6.07×102Pa・s)
・ハイブラー7311F(クラレ(株)製、スチレン-イソプレン-ブタジエンブロック共重合体の水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):1.31×103Pa・s)
・ダイナロン1320P(JSR(株)製、スチレン-ブタジエンラバーの水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):1.19×103Pa・s)
・ダイナロン1321P(JSR(株)製、スチレン-ブタジエンラバーの水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):6.23×102Pa・s)
・ダイナロン2324P(JSR(株)製、スチレン-ブタジエンラバーの水添物、溶融粘度(60.8sec-1/230℃):6.91×102Pa・s)
【0075】
2.評価方法
物性測定は、下記の手順で行った。
(1)溶融粘度
各プロピレン系重合体及びエラストマーの溶融粘度を以下の方法で測定した。クレイトンG1657とクレイトンG1645の質量比50:50の混合物の溶融粘度も同様に測定したところ、8.31×102Pa・sであった。
キャピラリーレオメーター((株)東洋精機製作所製 キャピログラフ)を用い、温度230℃、せん断速度60.8sec-1の条件で、直径1mmおよび長さ40mmのオリフィスから溶融した各プロピレン系重合体及びエラストマーを押出しながら、溶融粘度を測定した。
クレイトンG1657とクレイトンG1645の質量比50:50の混合物は、あらかじめラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)にて、混練温度180℃、混練時間5分、回転数60rpmで両者を溶融混練して調製した。
【0076】
(2)プロピレン系重合体における単量体単位の含有量
プロピレン系重合体(プロピレン-エチレンランダム共重合体)のIRスペクトルを測定し、得られたIRスペクトルデータから、プロピレン系重合体におけるエチレンに由来する単量体単位の含有量(単位:質量%)を、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている(i)ランダム共重合体に関する方法に従って求めた。
【0077】
エチレンに由来する単量体単位の含有量を下記式に代入して、プロピレン系重合体におけるプロピレンに由来する単量体単位の含有量を算出した。
プロピレンに由来する単量体単位の含有量(質量%)=100(質量%)-エチレンに由来する単量体単位の含有量(質量%)
【0078】
(3)エラストマーにおける単量体単位の割合
各エラストマーの13C NMRスペクトルに基づいて、以下の各単量体単位の含有率を求めた。
・スチレン:スチレンに由来する(水素添加されていない)単量体単位
・ブタジエン(1,2結合):1,3-ブタジエンに由来し1,2結合している水素添加された単量体単位
・ブタジエン(1,4結合):1,3-ブタジエンに由来し1,4結合している水素添加された単量体単位
・ブタジエン(1,4結合)’:1,3-ブタジエンに由来し1,4結合している水素添加されていない単量体単位
・イソプレン(3,4結合):イソプレンに由来し3,4結合している水素添加された単量体単位
・イソプレン(1,4結合):イソプレンに由来し1,4結合している水素添加された単量体単位
・イソプレン(3,4結合)’:イソプレンに由来し3,4結合している水素添加されていない単量体単位
・イソプレン(1,4結合)’:イソプレンに由来し1,4結合している水素添加されていない単量体単位
【0079】
<13C NMR条件>
装置:ブルカー・バイオスピン(株)製 AVANCEIII 600HD(10mmクライオプローブ)
測定溶媒:1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2
試料濃度:0.1mg/mL
測定温度:135℃
測定方法:逆ゲートデカップリング法
積算回数:256回
パルス幅:90度
パルス繰り返し時間:21.7秒
【0080】
13C NMRスペクトルにおいて、以下のように帰属されるA~Iのシグナル強度を求めた。
A:スチレンの1位炭素(145~147ppm、1炭素)
F:イソプレン(1,4結合)’の不飽和結合炭素(122~125、133~137ppm、2炭素)
B:ブタジエン(1,4結合)’の不飽和結合炭素(129~133ppm、2炭素)
C:スチレンの4位炭素(125~126ppm、1炭素)
D:(25~47ppm)
G:(17~22ppm)
H:イソプレン(3,4結合)’のメチル炭素(15~17ppm、1炭素)
E:ブタジエン(1,2結合)のメチル炭素(9~14ppm、1炭素)
I:イソプレン(3,4結合)のメチル炭素(7~9ppm、1炭素)
各シグナルの強度に基づいて、各単量体単位に相当するシグナル強度を以下に従って決定し、式:(各単量体単位に相当するシグナル強度/各単量体単位に相当するシグナル強度の合計)×100により、各単量体単位の割合(モル%)を求めた。得られた結果を表1に示す。
・スチレン:(A+C)/2
・ブタジエン(1,2結合):E
・ブタジエン(1,4結合):(D-A-B-C-E×3+F/2+H-G×3)/4
・ブタジエン(1,4結合)’:B/2
・イソプレン(3,4結合):I
・イソプレン(1,4結合):G-F/2-H-I
・イソプレン(3,4結合)’:H
・イソプレン(1,4結合)’:F/2
【0081】
【0082】
(4)剥離強度(単位:N/15mm)
ヒートシールされたフィルムを、シール幅方向の直角方向にシール幅15mmになるように切り出し、5mmx15mmのシール部を有する試験片を得た。この試験片の剥離試験を、ショッパー型引張試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて、23℃、湿度50%、剥離速度200mm/分、剥離角度180度の条件で行い、180度剥離強度を測定した。
【0083】
(5)内部ヘイズ(単位:%)
石英ガラス製の容器(セル)に、プロピレン系重合体とほぼ同じ屈折率を有する液体であるフタル酸ジメチルと、内部ヘイズを測定するためのフィルムを入れた。その状態で、JIS K-7136に準じた方法でフィルムの内部ヘイズを測定した。内部ヘイズが小さいほど、フィルムの透明性が高いことを意味する。
【0084】
3.フィルムの作製及びその評価
プロピレン系重合体としての60質量%のノーブレン(登録商標)FH3315と、エラストマーとしての40質量%のダイナロン2324Pとを、二軸混練押出機((株)テクノベル製、スクリュー径20mmφ)によって、190℃で混練し、オレフィン樹脂組成物のペレットを得た。
【0085】
得られたペレットを、冷却水槽を備えたTダイ製膜機((株)プラスチック工学研究所製、スクリュー径20mmφ、ダイス幅150mm、リップ開度1mm)に供給して、樹脂温度230℃、冷却水温度30℃の条件で製膜し、実施例1のフィルム(厚み300μm)を得た。
【0086】
プロピレン系重合体及びエラストマーの種類及び量を表2、表3又は表4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、各実施例及び比較例のフィルムを得た。
【0087】
同じフィルム2枚を重ね合わせ、該フィルム2枚を15μmのナイロンフィルム2枚で挟んだ。ナイロンフィルムに挟まれた2枚のフィルムを、上部に5mm幅のヒートシールバーが装着され、下部にシリコンゴムが敷かれた温調台が設置されたヒートシールテスター(テスター産業(株)製)で、1kg/cm2の圧力で5秒間、圧着して、ヒートシールした。その際、ヒートシールバーの方向をフィルムのTD方向に合わせた。上部のヒートシールバーの温度を、隔壁部又は外縁部を想定した表2~4に示す温度に設定し、各温度でフィルムをヒートシールした。シリコンゴムが敷かれた下部の温調台は40℃一定とした。ナイロンフィルムの間から、ヒートシールされたフィルムを取り出した。
【0088】
ヒートシール後のフィルムを一昼夜、23℃、湿度50%の環境下に放置した。その後、ヒートシールされた部分の剥離強度(加熱処理前の剥離強度)を測定した。さらに、ヒートシールされたフィルムを、オートクレーブ(アルプ(株)製)中で、121℃の熱水に20分間浸漬した。その後、乾燥したフィルムから切り出した試験片を用いて、剥離強度(加熱処理後の剥離強度)を測定した。
【0089】
ヒートシールされる前のフィルムを、上記と同様に熱水中で加熱処理した。加熱処理前後のフィルムの内部ヘイズを測定した。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
表2~4に示されるように、X/Yが式:0.075<X/Y<0.300を満たし、ηA及びηBが式:0.9<ηA/ηB<2.4を満たす実施例のフィルムによれば、外縁部と隔壁部のシール温度を変えることで、十分に高い外縁部の剥離強度を維持しながら、隔壁部の剥離強度を広い温度範囲で適度なレベルに設定できることが確認された。また、実施例のフィルムは、医療用容器として十分な透明性を有していた。
【符号の説明】
【0094】
1…容器、5…フィルム(袋体)、10…隔壁部、20,21…ヒートシール部、30a,30b…薬剤室、40…口部材。