IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気化学的にゲルマンを製造する方法 図1
  • 特許-電気化学的にゲルマンを製造する方法 図2
  • 特許-電気化学的にゲルマンを製造する方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】電気化学的にゲルマンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/01 20210101AFI20220225BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20220225BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20220225BHJP
【FI】
C25B1/01 Z
C25B11/052
C25B11/081
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019519181
(86)(22)【出願日】2018-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2018017647
(87)【国際公開番号】W WO2018212005
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017099785
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-501783(JP,A)
【文献】特表2007-527467(JP,A)
【文献】特開2011-137241(JP,A)
【文献】特開2012-052234(JP,A)
【文献】BOLEA E., LABORDA F., CASTILLO J.R., STURGEON R.E.,Spectrochimica Acta Part B,英国,2004年,Vol. 59,p. 505-513
【文献】TURYGIN V.V., SMIRNOV M.K., SHALASHOVA N.N., KHUDENKO A.V., NIKOLASHIN S.V., FEDOROV V.A., TOMILOV A,Inorganic Materials,2008年,Vol.44, No.10,p.1081-1085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜、陽極およびパラジウムを含む陰極を有する電気化学セル中で、ゲルマニウム化合物を含む電解液に通電して、陰極においてゲルマンを発生させて、電気化学的にゲルマンを製造する方法。
【請求項2】
前記電解液が、二酸化ゲルマニウムとイオン性物質とを含む電解液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記イオン性物質が、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記イオン性物質が水酸化カリウムであり、前記電解液中の水酸化カリウムの濃度が1~8mol/Lである、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記通電の際の陰極の電流密度が30~500mA/cm2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ゲルマンを発生させる際の反応温度が10~100℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的にゲルマンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの高速化・低消費電力化は、該デバイスの微細化等によって達成されてきたが、さらなる高速化・低消費電力化のための技術として、SiGe基板などの歪シリコンが注目されている。
該SiGe基板を作製する際の原料として、ゲルマン(GeH4)が使用されており、SiGe基板の使用の増加に伴い、GeH4の使用量も増加すると予想される。
【0003】
このようなGeH4の製造方法として、例えば、特許文献1には、陰極として、Cu合金またはSn合金を使用することで、GeH4を高い電流効率で電気化学的に製造できたことが記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、電気化学的にGeH4を製造する際に用いる陰極として、Pt、Zn、Ti、グラファイト、Cu、Ni、Cd、Pb、Snをスクリーニングした結果、CdまたはCuが電流効率や汚染等の点で最適であったことが記載されている。
【0005】
さらに、非特許文献2には、電気化学的にGeH4を製造する際に用いる陰極として複数の陰極を調査した結果、陰極としてHgを使用した場合に、水素化率が99%以上になったことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-52234号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Turygin et. al., Inorganic Materials, 2008, vol.44, No.10, pp.1081-1085
【文献】Djurkovic et. al., Glanik Hem. Drustva, Beograd, 1961, vol.25/26, pp.469-475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1の実施例で用いている陰極(McMaster-Carr社製の青銅)は、メッキやコーティング等で表面にだけ有効な元素を存在させるといった方法を適用し難く、工業的なGeH4の製造には不向きであった。
また、前記非特許文献1で用いているCdやCuを陰極として使用すると、長時間の反応では電流効率が低下し、工業的な連続反応には不向きであった。
さらに、前記非特許文献2で用いている陰極(Hg)は毒性が高く、工業的な反応には使用できなかった。
【0009】
本発明の一実施形態は、長期間にわたって安定的な電流効率でGeH4を電気化学的に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記製造方法等によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0011】
[1] 隔膜、陽極およびパラジウムを含む陰極を有する電気化学セル中で、ゲルマニウム化合物を含む電解液に通電して、陰極においてゲルマンを発生させて、電気化学的にゲルマンを製造する方法。
【0012】
[2] 前記電解液が、二酸化ゲルマニウムとイオン性物質とを含む電解液である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記イオン性物質が、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである、[2]に記載の製造方法。
[4] 前記イオン性物質が水酸化カリウムであり、前記電解液中の水酸化カリウムの濃度が1~8mol/Lである、[2]または[3]に記載の製造方法。
【0013】
[5] 前記通電の際の陰極の電流密度が30~500mA/cm2である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記ゲルマンを発生させる際の反応温度が10~100℃である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、長期間にわたって安定的な電流効率でGeH4を電気化学的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例で用いた装置の概略模式図である。
図2図2は、実施例1の製造方法における反応時間と電流効率との関係を示す図である。
図3図3は、比較例1の製造方法における反応時間と電流効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪電気化学的にGeH4を製造する方法≫
本発明の一実施形態に係る電気化学的にGeH4を製造する方法(以下「本方法」ともいう。)は、隔膜、陽極およびパラジウムを含む陰極を有する電気化学セル中で、ゲルマニウム化合物を含む電解液に通電して、陰極においてGeH4を発生させて、電気化学的にGeH4を製造する。
本方法によれば、長期間にわたって安定的な電流効率で効率的にGeH4を電気化学的に製造することができる。従って、本方法で得られたGeH4を用いることで、SiGe基板を効率的に製造することもできる。
【0017】
本方法は、前記効果を奏するため、工業的な連続反応に好適に用いることができる。
このような工業的な反応としては、例えば、電解液容量が500~2500Lで、セル数が30~150個、使用する電流が100~300Aといったような規模の反応が挙げられる。
また、前記連続反応としては、反応を、好ましくは20~200時間、より好ましくは30~120時間連続して行うことをいう。
【0018】
本方法によれば、好ましくは10~90%、より好ましくは12~40%の電流効率でGeH4を製造することができる。
また、本方法によれば、例えば30時間連続的に反応させた場合であって、反応がほぼ安定領域となる反応時間10時間時の電流効率を100%とした場合、該反応時間30時間時の前記電流効率を、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上に維持することができる。
なお、前記電流効率は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
<電気化学セル>
前記電気化学セルとしては、隔膜、陽極および前記陰極を有すれば特に制限されず、従来公知のセルを用いることができる。
該セルとしては、具体的には、陽極を含む陽極室と、陰極を含む陰極室とを隔膜を用いて隔てたセル等が挙げられる。
【0020】
<陰極>
前記陰極は、Pdを含めば特に制限されない。
該陰極は、金属Pdからなる電極やPdを主成分とするPd基合金からなる電極であってもよいし、金属PdまたはPd合金をメッキまたはコーティングした電極であってもよい。
前記メッキまたはコーティングした電極としては、Ni等の基材に金属PdまたはPd合金をメッキまたはコーティングした電極等が挙げられる。
これらの中でも、金属Pdは高価であるため、コストの面からは、金属PdまたはPd合金をメッキまたはコーティングした電極であることが好ましい。
【0021】
前記陰極の形状は特に制限されず、板状、柱状、中空状等のいずれであってもよい。
また、前記陰極の大きさ、表面積等も特に制限されない。
【0022】
<陽極>
前記陽極としては、特に制限されず、電気化学的にGeH4を製造する際に従来用いられてきた陽極を用いればよいが、NiおよびPt等の導電性金属からなる電極、該導電性金属を主成分とする合金からなる電極等が好ましく、コストの面から、Niからなる電極が好ましい。
また、前記陽極は、陰極と同様に、前記導電性金属または該金属を含む合金をメッキまたはコーティングした電極を使用してもよい。
前記陽極の形状、大きさ、表面積等も、前記陰極と同様に特に制限されない。
【0023】
<隔膜>
前記隔膜としては、特に制限されず、電気化学セルに従来用いられてきた、陽極室と陰極室とを隔てることが可能な隔膜を用いればよい。
このような隔膜としては、種々の電解質膜や多孔質膜を用いることができる。
電解質膜としては、高分子電解質膜、例えばイオン交換固体高分子電解質膜、具体的には、NAFION(登録商標)115、117、NRE-212(シグマアルドリッチ社製)等が挙げられる。
多孔質膜としては、多孔質ガラス、多孔質アルミナ、多孔質チタニア等の多孔質セラミックス、多孔質ポリエチレン、多孔質プロピレン等の多孔質ポリマー等を用いることができる。
【0024】
本発明の一実施形態では、隔膜により、電気化学セルを陽極室と陰極室とに分けるため、陽極で発生するO2ガスと陰極で発生するGeH4とを混合させず、それぞれの電極室の独立した出口から取り出すことができる。
2ガスとGeH4とが混合すると、O2ガスとGeH4とが反応して、GeH4の収率が低下する傾向にある。
【0025】
<ゲルマニウム化合物を含む電解液>
本方法では、ゲルマニウム化合物を含む電解液からGeH4を製造する。
該電解液は、好ましくは水溶液である。
【0026】
前記ゲルマニウム化合物としては、GeO2が好ましい。
前記電解液中のGeO2の濃度は、高い方が反応速度が速くなり、効率的にGeH4を合成できるため、溶媒、好ましくは水に対する飽和濃度にすることが好ましい。
【0027】
前記電解液は、電解液の導電性を向上させ、GeO2の水への溶解性を促進させるために、イオン性物質を含むことが好ましい。
該イオン性物質としては、電気化学に用いられる従来公知のイオン性物質を用いることができるが、前記効果に優れる等の点から、KOHまたはNaOHが好ましい。これらの中でも、KOH水溶液は、NaOH水溶液に比べより導電性に優れるため、KOHが好ましい。
【0028】
前記電解液中のKOHの濃度は、好ましくは1~8mol/L、より好ましくは2~5mol/Lである。
KOHの濃度が前記範囲にあると、GeO2濃度の高い電解液を容易に得ることができ、高い電流効率でGeH4を効率的に製造することができる。
KOHの濃度が前記範囲の下限未満であると、電解液の導電性が低くなる傾向にあり、GeH4の製造に高電圧が必要になる場合があり、また、GeO2の水への溶解量が低下する傾向にあり、反応効率が低下する場合がある。一方、KOHの濃度が前記範囲の上限を超えると、電極やセルの材質として耐食性の高い材質が必要になる傾向にあり、装置のコストが高くなる場合がある。
【0029】
<反応条件>
本方法において、GeH4を製造する際(前記通電の際)の陰極の単位面積当たりの電流の大きさ(電流密度)は、反応速度に優れ、高い電流効率でGeH4を製造できる等の点から、好ましくは30~500mA/cm2、より好ましくは50~400mA/cm2である。
電流密度が前記範囲にあると、単位時間当たりのGeH4の発生速度や反応効率を低下させることなく、水の電気分解による水素ガスの発生量を適度に制御することもできる。
【0030】
GeH4を製造する際(GeH4を発生させる際)の反応温度は、反応速度に優れ、低コストでGeH4を製造できる等の点から、好ましくは10~100℃、より好ましくは15~40℃である。
反応温度が前記範囲にあると、反応効率を低下させることなく、セルの加熱のための電力消費を適度に制御することもできる。
【0031】
GeH4を製造する際の反応雰囲気(陽極室および陰極室の気相部分)は特に制限されないが、不活性ガス雰囲気であることが好ましく、該不活性ガスとしては、窒素ガスが好ましい。
【0032】
本方法では、電気化学セル中の前記電解液は、静止させたままでもよいし、撹拌してもよいし、別途他の液槽を設けて循環流通させてもよい。
前記他の液槽を設けて循環流通させた場合、反応液濃度の変化が相対的に小さくなり、電流効率の安定化が期待できるとともに、電極表面のGeO2濃度が高く保たれ、反応速度の向上が期待できる。このため、電気化学セル中の前記電解液は循環流通させることが好ましい。
【0033】
<GeH4の製造装置>
本方法では、前記電気化学セルを用いれば特に制限されないが、該セル以外に、例えば、図1に示すような、電源、測定手段(FT-IR、圧力計(PI)、積算計等)、窒素ガス(N2)供給路、マスフローコントローラー(MFC)、排気路など、従来公知の部材を有する装置を用いることができる。
また、図示しない、前述の循環流路等を有する装置を用いてもよい。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0035】
[実施例1]
以下の材料を用い、図1に示すような、隔膜で陽極室と陰極室とを隔てた塩化ビニル製電気化学セルを作製した。
・陰極:0.5cm×0.5cm×厚さ0.5mmのPd板
・陽極:2cm×2cm×厚さ0.5mmのNi板
・隔膜:ナフィオン(登録商標) NRE-212(シグマアルドリッチ社製)
・電解液:4mol/LのKOH水溶液に90g/Lの濃度でGeO2を溶解させた液体
・陰極室への電解液導入量:100mL
・陽極室への電解液導入量:100mL
・標準電極:銀-塩化銀電極を陰極に設置
【0036】
得られた電気化学セルにおける、陽極室および陰極室の気相部分を窒素ガス(N2)でパージした後、電源として、北斗電工(株)製Hz-5000を用い、-100mAで37時間電流を印加することで、電気化学的にGeH4を製造した。このときの電流密度は、174mA/cm2であった。
なお、電流の印加の際に電気化学セルの温度をコントロールしなかったところ、反応温度は15~22℃であった。
陰極室の出口ガスを、積算計を用いて測定することで、反応により生じた出口ガス全量(GeH4および水素ガスを含むガス)を測定し、FT-IRを用いることで、出口ガス全量中のGeH4濃度を測定した。これらの測定結果から、GeH4の発生量を算出した。
【0037】
ある特定の反応時間において直近1時間のGeH4の発生量と、印加した電気量とから、下記式に基づいて電流効率を算出し、該電流効率を反応時間1時間の電流効率とした。同様にして、各反応時間の電流効率を算出した。結果を図2に示す。
図2の結果から、37時間の反応で、電流効率の低下は見られなかった。
電流効率(%)=[前記発生量(mmol/min)のGeH4が発生するのに相当する電気量(C/min)×60(min)×100]/[印加した全電気量(C/min)×60(min)]
【0038】
[比較例1]
陰極として1cm×1cm×厚さ0.5mmのCd板を使用し、印加する電流を-200mAで24時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。
実施例1と同様にして算出した電流効率の結果を図3に示す。
図3の結果から、反応時間が12時間を超えると、電流効率の低下が見られた。
【0039】
図2によれば、電流効率=16%程度(反応がほぼ安定領域となる反応時間10時間時)が平常反応時の電流効率と判断でき、30時間を超えて反応しても、電流効率は低下しなかった。
一方、図3は、反応時間=10時間における電流効率を頂点とする山型の図であり、反応時間が10時間を超えると、電流効率が減少し続けた。従って、比較例1で用いた陰極(Cd板)は、長時間の反応には耐えられず、陰極を交換する頻度や陰極をメンテナンスする頻度を多くする必要があるため、Cd板は、工業的な反応には不向きであると考えられる。
【0040】
また、比較例1では、陰極板の単位面積当たりの電流負荷量、つまり電流密度(200mA/(1cm2+1cm2+(1×0.05×3))=93mA/cm2)が、実施例1(100mA/(0.25cm2+0.25cm2+(0.5×0.05×3))=174mA/cm2)に比べ小さく、比較例1は実施例1に比べマイルドな条件であるにもかかわらず、反応時間10時間頃から電流効率が低下し続けているが、実施例1では30時間以上経過しても電流効率は低下することが無かった。
なお、前記電流密度の計算において、「×3」としているのは、一つの面が、固定治具で隠れていることによる。
図1
図2
図3