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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20220228BHJP
   C30B 23/02 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017246605
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019112256
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長炉内で2000℃以上の高温環境で炭化珪素種結晶に炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶インゴットの製造方法であって、
前記結晶成長炉内の温度を所定の結晶成長温度まで昇温させる昇温工程と、前記結晶成長温度を維持して前記炭化珪素単結晶を成長させる単結晶成長工程と、前記結晶成長炉内の温度を前記結晶成長温度から低下させ前記炭化珪素単結晶の成長を停止させる降温工程と、を有し、
前記単結晶成長工程と前記降温工程との間に、前記結晶成長炉内の温度を前記結晶成長温度に維持しつつ、前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を前記昇温工程および前記単結晶成長工程での窒素ガス濃度よりも増加させる降温準備工程を更に備え、
前記降温工程における前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を、前記昇温工程および前記単結晶成長工程での窒素ガス濃度よりも高くしたことを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記降温準備工程は、5時間以上15時間以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項3】
前記降温工程における前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を、30vol%以上にすることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記降温工程では、前記結晶成長炉内の窒素ガスの吸熱反応によって降温速度を速めることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶インゴットの製造方法は、昇華法であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華再結晶法による炭化珪素単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
炭化珪素単結晶は昇華再結晶法によって製造することが一般的である。昇華再結晶法は、炭化珪素種結晶上に、炭化珪素原料を昇華させて発生したSi、SiC、SiCなどのガスを炭化珪素種結晶上に再結晶化させ、結晶成長を行う方法である(例えば、特許文献1を参照)。こうした昇華再結晶法によって、高品質で大口径の炭化珪素単結晶を製造する方法として、例えば改良レーリー法が挙げられる。
【0004】
改良レーリー法では、例えば、黒鉛坩堝などからなる結晶成長炉内に、炭化珪素原料粉末と炭化珪素種結晶とを配置する。そして、結晶成長炉内を加熱して炭化珪素原料粉末が昇華する結晶成長温度、例えば2000℃以上まで昇温させる(昇温工程)。そして、この結晶成長温度を維持しつつ、結晶成長炉内の温度差を利用して炭化珪素種結晶上に原料ガスを再結晶化させて、炭化珪素単結晶を成長させる(単結晶成長工程)。そして、目標のサイズまで炭化珪素単結晶を成長したら、結晶成長炉内を降温させる(降温工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-114599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した昇華再結晶法による炭化珪素単結晶の製造では、単結晶成長工程において結晶成長炉内を2000℃以上の高温にする必要があるため、こうした高温状態から炭化珪素単結晶を室温まで冷却する降温工程に長時間を要し、生産性向上を難しくしていた。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、昇華再結晶法によって炭化珪素単結晶を製造する際に、炭化珪素単結晶成長後の降温工程に要する時間を短くすることにより、炭化珪素単結晶の製造効率を高めることが可能な炭化珪素単結晶インゴットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、結晶成長炉の炉内雰囲気と炭化珪素単結晶後の降温工程における降温時間との関係を鋭意研究し、その結果、結晶成長炉内の窒素ガス濃度を高めることにより降温時間が短縮されることを見い出した。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法は、結晶成長炉内で2000℃以上の高温環境で炭化珪素種結晶に炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶インゴットの製造方法であって、前記結晶成長炉内の温度を所定の結晶成長温度まで昇温させる昇温工程と、前記結晶成長温度を維持して前記炭化珪素単結晶を成長させる単結晶成長工程と、前記結晶成長炉内の温度を前記結晶成長温度から低下させ前記炭化珪素単結晶の成長を停止させる降温工程と、を有し、前記単結晶成長工程と前記降温工程との間に、前記結晶成長炉内の温度を前記結晶成長温度に維持しつつ、前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を前記昇温工程および前記単結晶成長工程での窒素ガス濃度よりも増加させる降温準備工程を更に備え、前記降温工程における前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を、前記昇温工程および前記単結晶成長工程での窒素ガス濃度よりも高くしたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、降温工程において、昇温工程および単結晶成長工程よりも窒素ガス濃度を高めることによって、窒素の吸熱反応が促進される。これによって、結晶成長炉の降温工程に要する時間を短縮し、炭化珪素単結晶の生産効率を高めることが可能となる。
【0011】
また、本発明では、前記降温準備工程は、5時間以上15時間以下の範囲であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記降温工程における前記結晶成長炉内の窒素ガス濃度を30vol%以上にすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記降温工程では、前記結晶成長炉内の窒素ガスの吸熱反応によって降温速度を速めることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記炭化珪素単結晶インゴットの製造方法は、昇華法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、昇華再結晶法によって炭化珪素単結晶を製造する際に、炭化珪素単結晶成長後の降温工程に要する時間を短くすることにより、炭化珪素単結晶の製造効率を高めることが可能な炭化珪素単結晶インゴットの製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法に用いる炭化珪素単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法を構成する各工程における結晶成長炉内の温度変化、および窒素ガス濃度変化を示すグラフである。
図3】本発明の検証結果を示すグラフである。
図4】本発明の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1は、本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法に用いる炭化珪素単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
炭化珪素単結晶製造装置10は、昇華再結晶法(昇華法)により炭化珪素単結晶22成長する装置である。即ち、炭化珪素単結晶製造装置10は炭化珪素を含む炭化珪素原料23を加熱により昇華させてSi、SiC、SiCなどの昇華ガスを発生させ、この昇華ガスを炭化珪素種結晶21の表面に再結晶(析出)させることにより、炭化珪素種結晶21の表面に炭化珪素単結晶22を成長させる装置である。
【0019】
炭化珪素単結晶製造装置10は、結晶成長炉(坩堝)14と、この結晶成長炉14を加熱する加熱手段(ヒータ)15と、結晶成長炉14および加熱手段15を覆う断熱材16と、これらを収容するチャンバー17と、を備えている。また、チャンバー17には、チャンバー17内を減圧する減圧手段(真空ポンプ)18、および結晶成長炉14内の雰囲気ガスを導入するガス供給手段19が接続されている。
【0020】
結晶成長炉(坩堝)14は、内部に炭化珪素種結晶21および炭化珪素原料23が配置される。結晶成長炉14は、炭化珪素単結晶22を昇華法により製造するための坩堝であれば、公知の物を用いることができる。例えば、黒鉛、炭化タンタル等を用いることができる。結晶成長炉14は成長時に高温となる。そのため、高温に耐えることのできる材料によって形成されている必要がある。例えば、黒鉛は昇華温度が3550℃と極めて高く、成長時の高温にも耐えることができる。
【0021】
加熱手段(ヒータ)15は、例えば、結晶成長炉14の外周を覆うコイル状の高周波加熱コイルからなる。なお、こうした加熱手段15は、高周波加熱コイル以外にも、例えば、抵抗加熱式のグラファイトヒータなどであってもよい。
【0022】
断熱材16は、加熱された結晶成長炉14の熱が外部に放散することを防止する部材であり、例えば、カーボンフェルト材から構成されている。カーボンフェルト材は、優れた断熱効果を有し、かつ炭化珪素単結晶22の成長中における成長条件の変化を抑制できるので、結晶性の良好な炭化珪素単結晶22の製造に寄与する。
【0023】
チャンバー17は、内部に結晶成長炉14、加熱手段15、および断熱材16を気密に収容する。これにより、結晶成長炉14の内部を減圧(真空)環境や常圧環境に保持することができる。
【0024】
減圧手段(真空ポンプ)18は、例えば、公知の各種真空ポンプを適用することができる。こうした減圧手段18によって、後述する炭化珪素単結晶インゴットの製造方法における結晶成長工程から降温工程までの間、結晶成長炉14内を減圧環境にする。また、この減圧手段18は、高温の結晶成長炉14内で生じた窒素と酸素との化合物であるNOxを排出するためにも用いられる。
【0025】
ガス供給手段19は、結晶成長炉14内に所定の種類のガスを供給し、結晶成長炉14内を特定のガス雰囲気にする。本発明においては、ガス供給手段19は、窒素ガスを含む不活性ガスを供給する。ガス供給手段19から供給される不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスなどが挙げられる。また、窒素ガスとともに供給される不活性ガスとして、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガスなども用いることができる。
【0026】
炭化珪素単結晶22の育成時に結晶成長炉14内に配置される炭化珪素種結晶21は、結晶構造が特に限定されるものではなく、成長させる炭化珪素単結晶22と同一の結晶構造であっても、あるいは異なる結晶構造であってもよい。成長させる炭化珪素単結晶22の結晶性を向上する観点から、成長させる炭化珪素単結晶22と同じ結晶構造をもつ炭化珪素種結晶21を選択することが好ましい。
【0027】
炭化珪素原料23は、形状が粉末状であっても、塊状の焼結体であってもよく、本実施形態では、多結晶の炭化珪素粉末を用いている。炭化珪素原料23として粉末状のものを用いることによって、塊状のものと比較して昇華をより容易にすることができる。
【0028】
以上のような構成の炭化珪素単結晶製造装置10では、後述する炭化珪素単結晶インゴットの製造方法において、ガス供給手段19から窒素を含む任意の組成の雰囲気ガスを供給できるので、炭化珪素単結晶22の育成時における結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を自在に制御することができる。
【0029】
次に、上述した炭化珪素単結晶製造装置10を用いた、本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法の一実施形態を説明する。
図2は、本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法を構成する各工程における結晶成長炉内の温度変化、および窒素ガス濃度変化を示すグラフである。なお、これらのグラフは、それぞれの項目の変化の様子を示すものである。
本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法は、結晶成長炉14内の温度を所定の結晶成長温度T1まで昇温させる昇温工程E1と、この結晶成長温度T1を維持して炭化珪素単結晶22を成長させる単結晶成長工程E2と、結晶成長炉14内の温度を結晶成長温度T1から低下させ炭化珪素単結晶22の成長を停止させる降温工程E4と、単結晶成長工程E2および降温工程E4の間に設定され、結晶成長炉14内の温度を結晶成長温度T1に維持しつつ、結晶成長炉13内の窒素ガス濃度を昇温工程E1および単結晶成長工程E2での窒素ガス濃度C1よりも増加させる降温準備工程E3とを備えている。
【0030】
本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法によって、炭化珪素単結晶22を製造する際には、まず、結晶成長炉14内に炭化珪素原料23および炭化珪素種結晶21を配置してから加熱手段15を動作させ、結晶成長炉14内を室温から結晶成長温度T1、例えば2400℃まで昇温させる(昇温工程E1)。結晶成長炉14内が結晶成長温度T1まで昇温すると、炭化珪素原料23から昇華ガスが発生し、結晶成長が開始される。
【0031】
こうした昇温工程E1においては、結晶成長炉14内の窒素ガス濃度が初期設定濃度C1となるように制御する。窒素ガス濃度の初期設定濃度C1としては、30vol%未満、例えば15vol%である。こうした結晶成長炉14内の窒素ガス濃度は、ガス供給手段19から供給される窒素ガス、または窒素ガスを含む混合ガスの流量を制御することによって実現できる。窒素ガス濃度は、結晶成長炉へのガスの流入量によって制御することができる。
【0032】
次に、昇温工程E1において結晶成長炉14内の温度が結晶成長温度T1に達したら、結晶成長炉14内の温度が結晶成長温度T1に維持されるように加熱手段15を制御する(単結晶成長工程E2)。この単結晶成長工程E2では、結晶成長炉14内の温度が結晶成長温度T1に維持されることによって昇華ガスが継続して発生し、炭化珪素原料23よりも表面温度が僅かに低くなっている炭化珪素種結晶21の表面に昇華ガスが再結晶し、炭化珪素単結晶22が成長する。こうした単結晶成長工程E2においても、結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を初期設定濃度C1、例えば20vol%に維持する。
【0033】
電子デバイス用途のn型4H-SiC基板には、ドーパントとして窒素が添加される。窒素を添加する為に、成長中に窒素ガスを導入する。窒素ガスは高温で結晶表面において反応し、窒素原子がSiC単結晶中にドーピングされる。この窒素ドープ量は窒素ガス濃度C1に依存し、窒素ガス濃度が高ければドープ量も高くなる。得られるSiC単結晶は、この窒素ドープ量に応じて導電性を発現する。すなわち、単結晶成長中、窒素ガス濃度C1によってウェハーの比抵抗率が決定されることになる。
【0034】
4H-SiC単結晶基板を電子デバイス用途として使用する場合、基板は15mΩcm以上25mΩcm以下程度の比抵抗率が要求される。この範囲の比抵抗率のSiC単結晶を得るための単結晶成長中、窒素ガス濃度C1は、ある程度成長条件に依存するが、5vol%以上25vol%以下である。
【0035】
また、窒素ドープ量を過剰にした場合、窒素ドープ量が高いほど積層欠陥が発生しやすいという問題がある。基板表面の積層欠陥はエピタキシャル成長で引き継がれ、デバイス不良を発生させることが知られている。よって、積層欠陥発生を防止するためには、単結晶成長中、窒素ガス濃度C1は低くしなければならず、通常、20vol%以下とすることが望ましい。
すなわち、通常のn型SiC単結晶の成長中の窒素ガス濃度は、ドーピング量によって決まる一定範囲に維持されるのが一般的である。
【0036】
単結晶成長工程E2では、長さが例えば10~50mm程度になるまで炭化珪素単結晶22を成長させる。炭化珪素単結晶22の平均成長速度は、特に制限はないが、例えば0.1mm/h~0.8mm/h程度であればよい。このような単結晶成長工程E2は、トータルで100h程度行えばよい。
【0037】
炭化珪素単結晶22が所定の長さまで成長したら、次に降温工程E4の前工程として、降温準備工程E3を行う。この降温準備工程E3では、結晶成長炉14内の温度を結晶成長温度T1に維持したままガス供給手段19を制御して、結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を、昇温工程E1および単結晶成長工程E2での窒素ガス濃度である初期設定濃度C1よりも高めて、降温時濃度C2にする。この降温時濃度C2としては、結晶成長炉14内の窒素ガス濃度が30vol%以上、例えば、40vol%以上、より好ましくは50vol%以上である。
【0038】
降温準備工程E3の設定時間は、結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を降温時濃度C2にするために要する時間であり、結晶成長炉14の内容積によって変化する。降温準備工程E3の設定時間は、例えば5h以上、15h以下である。こうした降温準備工程E3の設定時間は、例えば結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を初期設定濃度C1から瞬時に降温時濃度C2まで高めることができれば、限りなく短く設定することもできる。即ち、降温準備工程E3の設定時間は、降温工程E4の開始時点で結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を降温時濃度C2にしておくために必要な時間であればよい。
【0039】
また、降温準備工程E3中も結晶成長は継続されている。降温準備工程E3を長くし過ぎると、得られる炭化珪素単結晶22に、過剰に窒素ドープされた領域が多く含まれてしまうため、積層欠陥による不良を発生させてしまう可能性がある。そのため、降温準備工程は15h以下とすることが望ましい。
【0040】
なお、この降温準備工程E3では、結晶成長炉14内の温度を結晶成長温度T1に維持しているので、炭化珪素単結晶22は成長し続ける。このため、降温準備工程E3は、単結晶成長工程E2の最終段階の一部として、降温工程E4に向けて窒素ガス濃度を高める過程ということもできる。
【0041】
降温準備工程E3によって結晶成長炉14内の窒素ガス濃度が降温時濃度C2まで高められたら、降温工程E4に移行する。この降温工程E4では、加熱手段15の動作を停止させる。これにより、炭化珪素原料23の昇華による昇華ガスの発生が止まり、炭化珪素単結晶22の成長が停止する。
【0042】
そして、この降温工程E4における結晶成長炉14内の窒素ガス濃度は、前工程である降温準備工程E3によって、昇温工程E1および単結晶成長工程E2での窒素ガス濃度である初期設定濃度C1よりも高濃度の降温時濃度C2まで高められている。これにより、結晶成長炉14内の窒素ガスは、結晶成長炉14を構成する炉壁や断熱材16に含まれる酸素等と反応する。一例として、窒素と酸素との反応による一酸化窒素の生成は、式(1)に示す通り、吸熱反応となる。
+O=2NO-43kcal・・・(1)
【0043】
窒素分子は、その三重結合の結合解離エネルギーが942kJ/molと高いため1000℃以下の範囲では概ね不活性であるが、1000℃を超えると結合が解離して他の物質と反応しやすくなる。結晶成長炉14内では、断熱材への吸着等によって残存する水分や酸素のほか、ヒーターや断熱材に使用される炭素が存在し、1000℃以上の高温環境では複雑に反応が起こる。これらと窒素との反応によってできると考えられる結合の結合エネルギーは、N-Oが201kJ/mol、N=Oが607kJ/mol、C-Nが305kJ/mol、C=Nが615kJ/mol、C≡Nが887kJ/mol、H-Nが386kJ/molであり、いずれもN≡Nの942kJ/molより小さい。そのため、複雑に反応が起こったとしても窒素分子の関わる反応は、総合的に吸熱反応である。
降温工程E4において、昇温工程E1および単結晶成長工程E2よりも窒素ガス濃度を高めて、窒素の吸熱反応を促進することにより、結晶成長炉14が断熱材16で覆われているために冷却しにくい降温工程E4の所要時間を短縮することが可能になる。
【0044】
なお、窒素の吸熱反応の促進によって生じた一酸化窒素(NO)などは、減圧手段(真空ポンプ)18によって速やかに結晶成長炉14の外部に吸引されるので、結晶成長炉14を構成する炉壁や断熱材16の窒素酸化物(NOx)による劣化を抑制することができる。
【0045】
そして、結晶成長炉14内が室温まで冷却された後、炭化珪素種結晶21ごと成長した炭化珪素単結晶22を結晶成長炉14から取り出す。取り出された炭化珪素種結晶21と炭化珪素単結晶22は、全体を炭化珪素インゴットとして用いてもよく、また、成長させた炭化珪素単結晶22と炭化珪素種結晶21とを分離してもよい。炭化珪素単結晶22から炭化珪素種結晶21を除去する方法は特に限定されず、たとえば切断、研削、へき開など機械的な除去方法を用いることができる。
【0046】
以上説明した本発明の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法によれば、降温工程E4において、昇温工程E1および単結晶成長工程E2よりも窒素ガス濃度を高めて、窒素の吸熱反応を促進させることにより、結晶成長炉14が断熱材16で覆われているために冷却しにくい降温工程E4の所要時間を短縮することが可能となる。
また、例えばアルゴンガスなどの希ガスの流量を高めて結晶成長炉14の冷却を促進させる場合と比較して、希ガスに比べて大幅にコストが低い窒素を用いることで、降温工程E4の所要時間を短縮するためにかかるコストを低く抑えることができる。
【実施例
【0047】
本発明の効果を検証した。
検証にあたっては、図1に示したような炭化珪素単結晶製造装置10を用いた。
そして、本発明例として、降温工程E4における結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を56vol%にして、降温工程E4の開始からの経過時間と結晶成長炉14内の温度変化を測定した。
また、比較例として、降温工程E4における結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を0vol%(窒素ガスを含まない)にして、降温工程E4の開始からの経過時間と結晶成長炉14内の温度変化を測定した。
こうした検証結果を図3のグラフに示す。また、図4は、図3の要部の拡大グラフである。
【0048】
図3および図4に示す検証結果によれば、降温工程E4において結晶成長炉14内の窒素ガス濃度を56vol%に高めた本発明例は、降温工程E4において窒素ガスを含まない比較例に対して冷却速度が早められ、より短時間で冷却可能であることが確認された。
【0049】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、こうした実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10…炭化珪素単結晶製造装置
14…結晶成長炉(坩堝)
15…加熱手段
16…断熱材
18…減圧手段(真空ポンプ)
21…炭化珪素種結晶
22…炭化珪素単結晶
23…炭化珪素原料
図1
図2
図3
図4