(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20220301BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220301BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20220301BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01B7/02 C
H01B13/00 517
H01F5/00 F
H01F5/06 H
(21)【出願番号】P 2018038670
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2020-09-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】漆原 誠
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201606(JP,A)
【文献】特開2016-126866(JP,A)
【文献】特開2008-305620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/00
H01F 5/00
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角導体と、前記平角導体を被覆する絶縁皮膜とを備えた絶縁平角導体であって、
前記平角導体は、第一の面と、前記第一の面に対向する第二の面とを有し、前記第一の面が前記第二の面よりも粗面とされて
いる絶縁平角導体
を、前記平角導体の前記第一の面が内側となるように巻回して形成したものであることを特徴するコイル。
【請求項2】
前記平角導体は、前記第一の面の表面粗さRaが0.14μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の
コイル。
【請求項3】
前記平角導体は、前記第二の面の表面粗さRaが0.07μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の
コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁平角導体は、断面が略矩形状の平角導体を絶縁皮膜で被覆したものである。この絶縁平角導体からなるコイルは、モータや変圧器などの各種電気機器用の電気コイルとして用いられている。絶縁平角導体からなるコイルは、断面が略円形状の絶縁丸線導体からなるコイルと比較して、導体同士の隙間を小さくすることができ、コイル中の導体の占有体積率を高くできるという利点がある。
【0003】
しかしながら、絶縁平角導体は、コイル状に曲げ加工する際に、絶縁丸線導体と比較して絶縁皮膜が剥がれやすいという問題がある。このため、平角導体と絶縁皮膜との密着性を向上させることが検討されている。
【0004】
特許文献1には、銅と樹脂間の密着特性に優れた銅・樹脂複合体として、銅又は銅合金からなる金属と、前記金属の上に形成されたナノポーラス層を介して、前記金属と接合する樹脂と、を有する複合体が開示されている。この特許文献1には、ナノポーラス層を形成する方法として、銅又は銅合金からなる金属の表面に、レーザを照射して酸化銅ナノポーラス層を形成する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、導体の外周にシランカップリング剤を塗布して形成された最内絶縁皮膜と、この最内絶縁皮膜上にエナメル線塗料を塗布、焼き付けして形成された最外絶縁皮膜とからなる絶縁皮膜を備えた絶縁電線が開示されている。この特許文献2には、導体の平均表面粗さRaを0.2~1.0μmとすること、そして表面粗さRaをこの範囲に粗面化する方法として、エッチング処理、銅めっき形成による粗化、サンドブラストによる表面研磨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-082401号公報
【文献】特許第5102541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
絶縁皮膜と平角導体との密着性を向上させるために、特許文献1に記載されているように、平角導体の表面にナノポーラス層を形成したり、特許文献2に記載されているように、平角導体の表面を粗面化することは有効な方法の一つである。しかしながら、平角導体全体を粗面化すると、異物等が平角導体の表面に付着しやすく、また洗浄しても異物等が残留しやすくなるおそれがある。平角導体の表面に異物等が付着していると、平角導体の表面を絶縁皮膜で均一に被覆するのが困難となり、絶縁皮膜の欠陥が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、絶縁皮膜の欠陥が発生しにくく、かつ平角導体と絶縁皮膜との密着性が高いコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のコイルは、平角導体と、前記平角導体を被覆する絶縁皮膜とを備えた絶縁平角導体であって、前記平角導体は、第一の面と、前記第一の面に対向する第二の面とを有し、前記第一の面が前記第二の面よりも粗面とされている絶縁平角導体を、前記平角導体の前記第一の面が内側となるように巻回して形成したものであることを特徴としている。
【0010】
このような構成とされている本発明のコイルによれば、平角導体は、第一の面が第二の面よりも粗面とされていて、第一の面と絶縁皮膜との接触面積が大きくなるので、平角導体と絶縁皮膜との密着性が向上する。一方、第二の面は、第一の面よりも平滑な面とされていて、異物等が付着しにくいので、絶縁皮膜を形成する際に、絶縁皮膜の欠陥が発生しにくくなる。
【0011】
ここで、本発明のコイルにおいて、前記平角導体は、第一の面の表面粗さRaが0.14μm以上であることが好ましい。
この場合、平角導体の第一の面は、表面粗さRaが0.14μm以上とされているので、絶縁皮膜との接触面積が大きくなり、これにより絶縁皮膜との密着性がより確実に向上する。
【0012】
また、本発明のコイルにおいて、前記平角導体は、前記第二の面の表面粗さRaが0.07μm以下であることが好ましい。
この場合、平角導体の第二の面は、表面粗さRaが0.07μm以下とされているので、異物等がより確実に付着しにくくなり、これにより絶縁皮膜を形成する際に、絶縁皮膜の欠陥がより確実に発生しにくくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁皮膜の欠陥が発生しにくく、かつ平角導体と絶縁皮膜との密着性が高い絶縁平角導体と、その絶縁平角導体を用いたコイルを提供することが可能となる。また、本発明によれば、絶縁皮膜の欠陥が発生しにくく、かつ平角導体と絶縁皮膜との密着性が高い絶縁平角導体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態である絶縁平角導体の横断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態である絶縁平角導体を用いて、コイルを作製する方法を説明する斜視図である。
【
図3】本発明の第二実施形態である絶縁平角導体の横断面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態である絶縁平角導体を用いて、コイルを作製する方法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁平角導体、コイルおよび絶縁平角導体の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0019】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態である絶縁平角導体の横断面図である。
図1に示すように、絶縁平角導体10は、平角導体11と、平角導体11を被覆する絶縁皮膜15とを備える。
【0020】
平角導体11は、断面が略矩形状であり、その長辺側の面12と短辺側の面13とを有する。本実施形態では、短辺側の面13のうちの一方を第一の面13aとし、この第一の面13aを、第一の面13aに対向する第二の面13bよりも粗面としている。
【0021】
第一の面13aは、粗面とされていて、絶縁皮膜15との接触面積が第二の面13bより大きく、絶縁皮膜15との密着性が高くなるように設定されている。第一の面13aは、表面粗さRaが0.14μm以上であることが好ましく、0.48μm以上であることがより好ましい。第一の面13aの表面粗さRaが0.14μm以上であると、第一の面13aと絶縁皮膜との接触面積が大きくなる。
なお、第一の面13aの表面粗さRaが大きくなりすぎると、第一の面13aと絶縁皮膜15との間に空隙が生成しやすくなるおそれがある。このため、第一の面13aの表面粗さRaは1.5μm以下であることが好ましい。
【0022】
第二の面13bは、平坦な面とされていて、異物等が第一の面13aより付着しにくくなるように設定されている。第二の面13bは、表面粗さRaが0.07μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.07μm以下であると、第二の面13bに異物等がより確実に付着しにくくなる。
なお、第二の面13bの表面粗さRaは0.03μm以上であってもよい。第二の面13bの表面粗さRaを0.03μm未満としても異物等を付着しにくくする効果は飽和し、また表面粗さRaが0.03μm未満となるまで表面を平滑にすると、その平滑化の処理の費用が高くなるおそれがある。
【0023】
長辺側の面12は、粗面とされていてもよいし、平滑な面とされていてもよい。また、長辺側の面12は、粗面と平坦な面とを有していてもよい。この場合、第一の面13aと接する側が粗面で第二の面13bと接する側が平滑な面とされていることが好ましい。平角導体11と絶縁皮膜15との密着性を向上させ、かつ平角導体11の表面への異物等の付着を低減させるためには、長辺側の面12は、第一の面13aと長辺側の面12が交差する角部から長辺の1/2以下の範囲で粗面とされていることが好ましい。
【0024】
平角導体11の材料としては、コイル用の平角導体の材料として一般に利用されている金属および合金を用いることができる。例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を用いることができる。
【0025】
平角導体11を被覆する絶縁皮膜15は、膜厚が、10μm以上50μm以下の範囲内にあることが好ましい。
絶縁皮膜15の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等を用いることができる。これらの材料は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0026】
次に、本実施形態の絶縁平角導体10の製造方法について説明する。
本実施形態の絶縁平角導体10の製造方法は、第一の面13aと、第一の面13aに対向する第二の面13bとを有する平角導体11を用意する工程と、平角導体11の第一の面13aを、第二の面13bよりも粗面となるように粗面化処理する粗面化処理工程と、粗面化処理された平角導体11の表面を、絶縁皮膜15で被覆する被覆工程とを含む。
【0027】
粗面化処理工程において、平角導体11の第一の面13aを、第二の面13bよりも粗面となるように粗面化処理する方法としては、例えば、第一の面13aをエッチング液に、第二の面13bがエッチング液に触れないように浸漬する方法を用いることができる。具体的には、例えば、平角導体11の第一の面13aのみをエッチング液に浸漬させる方法、第二の面13bをマスキングして、平角導体11全体をエッチング液に浸漬させる方法などを用いることができる。
【0028】
平角導体11のエッチング液への浸漬時間は、平角導体11のエッチング量が平角導体11の厚さとして0.1μm以上3.0μm以下の範囲内となる時間であることが好ましく、特に1.5μm以上2.0μm以下の範囲内となる時間であることが好ましい。エッチング液への浸漬時間がこの範囲内にあると、絶縁皮膜15との密着性に優れた表面粗さRaを有する粗面を形成することができる。
【0029】
被覆工程において、粗面化処理された平角導体11の表面を、絶縁皮膜15で被覆する方法としては、特に制限はなく、例えば、塗布法および電着法を利用することができる。塗布法は、絶縁皮膜形成用の樹脂と溶剤とを含むワニスを、導体の表面に塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を加熱して、生成した絶縁皮膜を導体に焼き付ける方法である。電着法は、電荷を有する絶縁樹脂粒子が分散されている電着液に導体と電極とを浸漬し、この導体と電極との間に直流電圧を印加することによって、導体表面に絶縁樹脂粒子を電着させて電着層を形成し、次いで電着層を加熱して、生成した絶縁皮膜を導体に焼き付ける方法である。
【0030】
次に、絶縁平角導体10を用いたコイルについて説明する。
図2は、本発明の第一実施形態である絶縁平角導体10を用いて、コイルを作製する方法を説明する斜視図である。
【0031】
コイルの作製に際しては、
図2に示すように、絶縁平角導体10を、平角導体11の第一の面13a(エッジ面)が内側となるように巻回することによって、コイル(エッジワイズコイル)を作製する。絶縁平角導体10を巻回すると、内側に圧縮応力が付与されるが、絶縁皮膜15との密着性が高い第一の面13aが内側となるように、絶縁平角導体10を巻回することによって、平角導体11と絶縁皮膜15とが剥離しにくくなる。絶縁平角導体10を巻回する方法としては、特に制限はなく、通常のエッジワイズコイルの作製に際して一般に用いられる公知の方法を採用することができる。
【0032】
以上のような構成とされた第一実施形態の絶縁平角導体10によれば、平角導体11は、短辺側の面13のうちの一方である第一の面13aが、第二の面13bよりも粗面とされていて、第一の面13aと絶縁皮膜15との接触面積が大きくなるので、第一の面13aと絶縁皮膜15との密着性が向上する。一方、第二の面13bは、第一の面13aよりも平滑な面とされていて、異物等が付着しにくいので、絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくくなる。
【0033】
また、本実施形態の絶縁平角導体10において、平角導体11は、第一の面13aの表面粗さRaを0.14μm以上とすることによって、絶縁皮膜15との接触面積が大きくなり、これにより絶縁皮膜15との密着性がより確実に向上する。
【0034】
また、本実施形態の絶縁平角導体10において、平角導体11は、第二の面13bの表面粗さRaを0.07μm以下とすることによって、異物等がより付着しにくくなり、これにより絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥がより確実に発生しにくくなる。
【0035】
また、本実施形態のコイルによれば、上述の絶縁平角導体10を平角導体11の第一の面13aが内側となるように巻回して形成したものであるので、巻回による圧縮応力が付与されても平角導体11の第一の面13aと絶縁皮膜15とが剥がれにくくなる。
【0036】
また、本実施形態の平角導体の粗面化処理方法によれば、平角導体11の第一の面13aを、第二の面13bよりも粗面となるように粗面化処理された平角導体11の表面を、絶縁皮膜15で被覆するので、第一の面13aと絶縁皮膜15との接触面積が大きくすることができ、これにより平角導体11と絶縁皮膜15との密着性が向上する。また、平角導体11の第二の面13bは、第一の面13aよりも平滑な面とされていて、異物等が付着しにくいので、絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくくなる。よって、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくく、かつ平角導体11と絶縁皮膜15との密着性が高い絶縁平角導体10を得ることができる。
【0037】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。
【0038】
図3は、本発明の第二実施形態である絶縁平角導体の横断面図である。
図3に示すように、絶縁平角導体20は、平角導体11と、平角導体11を被覆する絶縁皮膜15とを備え、平角導体11は、断面が略矩形状であり、その長辺側の面12と短辺側の面13とを有する。
【0039】
本実施形態では、長辺側の面12のうちの一方を第一の面12aとし、この第一の面12aを、第一の面12aに対向する第二の面12bよりも粗面として、第一の面12aと絶縁皮膜15との密着性を向上させている点で第一実施形態と相違する。第一の面12aおよび第二の面12bの表面粗さRaの好ましい値は、第一実施形態の第一の面13aおよび第二の面13bの場合と同じである。
【0040】
短辺側の面13は、粗面とされていてもよいし、平滑な面とされていてもよい。また、短辺側の面13は、粗面と平坦な面とを有していてもよい。この場合、第一の面12aと接する側が粗面で第二の面12bと接する側が平滑な面とされていることが好ましい。平角導体11と絶縁皮膜15との密着性を向上させ、かつ平角導体11の表面への異物等の付着を低減させるためには、短辺側の面13は、第一の面12aと短辺側の面13が交差する角部から短辺の1/2以下の範囲で粗面とされていることが好ましい。
【0041】
絶縁皮膜15の膜厚および材料は、第一実施形態の場合と同じである。
【0042】
本実施形態の絶縁平角導体20の製造方法は、粗面化処理工程において、平角導体11の第一の面12aを、第二の面12bよりも粗面となるように粗面化処理すること以外は、第一実施形態で説明した絶縁平角導体10の製造方法と同様である。粗面化処理工程において、平角導体11の第一の面12aを、第二の面12bよりも粗面となるように処理する方法としては、第一実施形態の場合と同様に、第一の面12aをエッチング液に、第二の面12bがエッチング液に触れないように浸漬する方法を用いることができる。
【0043】
次に、絶縁平角導体20を用いたコイルについて説明する。
図4は、本発明の第二実施形態である絶縁平角導体20を用いて、コイルを作製する方法を説明する斜視図である。
【0044】
コイルの作製に際しては、
図4に示すように、絶縁平角導体20を、平角導体11の第一の面12a(フラット面)が内側となるように巻回することによって、コイル(フラットワイズコイル)を作製する。絶縁平角導体20を巻回すると、内側に圧縮応力が付与されるが、絶縁皮膜15との密着性が高い第一の面12aが内側となるように、絶縁平角導体20を巻回することによって、平角導体11と絶縁皮膜15とが剥離しにくくなる。絶縁平角導体20を巻回する方法としては、特に制限はなく、フラットワイズコイルの作製に際して一般に用いられる公知の方法を採用することができる。
【0045】
以上のような構成とされた第二実施形態の絶縁平角導体20によれば、平角導体11は、長辺側の面12のうちの一方である第一の面12aが、第二の面12bよりも粗面とされていて、第一の面12aと絶縁皮膜15との接触面積が大きくなるので、第一の面12aと絶縁皮膜15との密着性が向上する。一方、第二の面12bは、第一の面12aよりも平滑な面とされていて、異物等が付着しにくいので、絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくくなる。
【0046】
また、本実施形態の絶縁平角導体20において、平角導体11は、第一の面12aの表面粗さRaを0.14μm以上とすることによって、絶縁皮膜15との接触面積が大きくなり、これにより絶縁皮膜15との密着性がより確実に向上する。
【0047】
また、本実施形態の絶縁平角導体20において、平角導体11は、第二の面12bの表面粗さRaを0.07μm以下とすることによって、異物等がより付着しにくくなり、これにより絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥がより確実に発生しにくくなる。
【0048】
また、本実施形態のコイルによれば、上述の絶縁平角導体20を平角導体11の第一の面12aが内側となるように巻回して形成したものであるので、平角導体11の第一の面12aと絶縁皮膜15とが剥がれにくくなる。
【0049】
また、本実施形態の平角導体の粗面化処理方法によれば、平角導体11の第一の面12aを、第二の面12bよりも粗面となるように粗面化処理された平角導体11の表面を、絶縁皮膜15で被覆するので、第一の面12aと絶縁皮膜15との接触面積が大きくすることができ、これにより平角導体11と絶縁皮膜15との密着性が向上する。また、平角導体11の第二の面12bは、第一の面12aよりも平滑な面とされていて、異物等が付着しにくいので、絶縁皮膜15を形成する際に、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくくなる。よって、絶縁皮膜15の欠陥が発生しにくく、かつ平角導体11と絶縁皮膜15との密着性が高い絶縁平角導体20を得ることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0052】
[本発明例1]
(平角銅線の粗面化処理)
短辺が1.5mm、長辺が6.5mmで、4つ面の表面粗さRaがそれぞれ0.07μmの長尺状の平角銅線を用意した。
この平角銅線の短辺側の一対の面のうちの一方の面を第一の面として、第一の面全体、および第一の面と長辺側の面が交差する角部から長辺の1/2の範囲までが銅エッチング液に触れるように、平角銅線を銅エッチングに浸漬した。浸漬時間は、銅エッチング液に触れている平角銅線のエッチング量が0.5μmの厚さに相当する量となる時間とした。浸漬終了後、平角銅線を銅エッチング液から取出して、水に浸漬して洗浄した後、平角銅線に温風を吹き付けて乾燥した。
【0053】
(絶縁平角銅線の作製)
粗面化処理後の平角銅線の表面に、電着法により絶縁皮膜を形成して、絶縁平角銅線を作製した。具体的には、負の電荷を有するポリアミドイミド(PAI)粒子を2質量%含有する電着液に、粗面化処理後の平角銅線と電極とを浸漬し、平角銅線を正極とし、電極を負極として直流電圧を印加して、平角銅線の表面に乾燥後の皮膜の厚さが40μmとなるようにPAI粒子を電着させて、電着層を形成した。続いて300℃に保持された焼付炉(電気炉)で5分間乾燥・焼き付け処理を行った。
【0054】
(コイルの作製)
絶縁平角銅線を、直径が平角銅線の長辺と同じ6.5mmの丸棒に添って、平角銅線の第一の面が内側なるようにエッジワイズ曲げ加工にて、曲げ半径が3.25mmとなるようにL字状(90度)に折り曲げて、直線部とL字状折り曲げ部を持つコイル(エッジワイズコイル)を作製した。
【0055】
[本発明例2~4]
平角銅線の粗面化処理において、平角銅線の銅エッチング液への浸漬時間を、平角銅線のエッチング量が下記の表1に示す厚さとなるように調整したこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁平角銅線とコイルを作製した。
【0056】
[比較例1]
平角銅線の粗面化処理を行わなかったこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁平角銅線とコイルを作製した。
【0057】
[評価]
本発明例1~4および比較例1で作製した絶縁平角銅線およびコイルについて、下記の評価を行った。その結果を、表1に示す。
【0058】
(粗面化処理後の平角銅線の表面粗さRa)
粗面化処理後の平角銅線の表面粗さRaを下記の方法により測定した。
1.サンプルの絶縁平角銅線を樹脂埋めし、平角銅線の断面(平角銅線の長手方向と垂直な面)を露出させる。
2.SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、露出した平角銅線の第一の面と第二の面の断面画像を撮影する。その際、断面画像は、第一の面と第二の面のそれぞれ2か所について撮影する。
3.上記2で得られた断面画像から絶縁皮膜と平角導体との界面を、第一の面もしくは第二の面の輪郭曲線として抽出する。
4.上記3で得られた輪郭曲線の算術平均粗さRaを算出する。第一の面および第二の面のそれぞれ2か所で撮影した断面画像から得られた算術平均粗さRaの平均値を、第一の面および第二の面の表面粗さRaとして採用する。
【0059】
(コイルのL字状折り曲げ部の平角銅線の表面粗さRa)
コイルのL字状折り曲げ部の平角銅線の表面粗さRaは、L字状折り曲げ部から切り出した絶縁平角銅線をサンプルとしたこと以外は、上記の粗面化処理後の平角銅線の表面粗さRaと同様にして測定した。
【0060】
(コイル内側のL字状折り曲げ部の平角銅線と絶縁皮膜との密着性)
平角銅線と絶縁皮膜との密着性は、コイル内側のL字状折り曲げ部の絶縁皮膜の表面状態により評価した。まず、コイル内側のL字状折り曲げ部の絶縁皮膜の表面を、光学顕微鏡を用いて20倍の倍率で観察して、凹凸の有無を確認した。次に、絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されたものは、曲げ方向に対して垂直方向から、凹凸が確認された部分を拡大観察(300倍)して、凹凸がない部分を通るベースラインを引き、凸部の高さ(凸部の最も高い位置とベースラインとの距離)を測定した。絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されなかった場合を「◎」、絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されたが、凸部の高さが5μm未満の場合を「○」、凸部の高さが5μm以上の場合を「×」と評価した。
【0061】
【0062】
平角銅線の第一の面の表面が粗面化されていない比較例1の絶縁平角銅線を巻回して形成したコイルは、コイル内側の折り曲げ部の絶縁皮膜の表面に高さが5μm以上の凸部が確認され、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が低いことが確認された。
【0063】
これに対して、平角銅線の第一の面の表面が粗面化されている本発明例1~4の絶縁平角銅線を巻回して形成したコイルは、コイル内側の折り曲げ部の絶縁皮膜の表面に高さが5μm以上の凸部が確認されず、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が向上していることが確認された。特に、平角銅線の第一の面の表面粗さRaが0.48μm以上とされた本発明例3~4の絶縁平角銅線を巻回して形成したコイルは、コイル内側の折り曲げ部の絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されず、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が顕著に向上していることが確認された。
【0064】
[本発明例5~7、比較例2]
平角銅線の第一の面の粗面化処理を、本発明例4と同じ条件で行った。
次いで、平角銅線の粗面化処理を行っていない部分(第二の面全体、および第二の面と長辺側の面が交差する角部から長辺の1/2の範囲までの部分)を、銅エッチング液に浸漬して平角銅線を粗面化処理した。平角銅線の銅エッチング液への浸漬時間は、平角銅線のエッチング量が下記の表2に示す厚さとなるように調整した。そして最後に、第一の面と第二の面とを粗面化処理した平角銅線について、本発明例1と同様に絶縁皮膜を形成して絶縁平角銅線を作製した。
【0065】
[評価]
本発明例5~7、比較例2および本発明例4にて作製した絶縁平角銅線について、下記の評価を行った。その結果を、表2に示す。
【0066】
(表面粗さRa)
粗面化処理後の平角銅線の表面粗さRaを、上記と同様の方法で測定した。
【0067】
(曲げ試験後のL字状折り曲げ部外側の亀裂の有無)
絶縁平角銅線を、直径6.5mmの丸棒に添って、平角銅線の第一面が内側となるようにエッジワイズ曲げ加工にて、曲げ半径が3.25mmとなるようにL字状(90度)に折り曲げて、曲げ試験を行った。
折り曲げ試験後の絶縁平角銅線について、L字状折り曲げ部の外側の絶縁皮膜の表面を、光学顕微鏡を用いて20倍の倍率で観察し、絶縁皮膜の亀裂の有無を確認した。平角銅線の表面が直接見える程度の亀裂が生じている場合を「有」、平角銅線の表面が直接見える程度の亀裂が生じていない場合を「無」とした。
【0068】
(総エッチング量)
本発明例4にて第一の面のみを粗面化処理した平角銅線の総エッチング量を1として、本発明例5~7および比較例2にて粗面化処理した平角銅線の総エッチング量を算出した。例えば、本発明例5では、第一の面のエッチング量が1で、第二の面のエッチング量が第一の面に対して25%であるので、総エッチング量は1.25(=1+0.25)となる。
【0069】
【0070】
本発明例4~7および比較例2で作製した絶縁平角銅線のいずれについても曲げ試験後のL字状折り曲げ部外側に亀裂は確認できなかった。平角銅線は、総エッチング量が多くなると表面粗さRaが大きくなり、異物等が付着しやすくなるおそれがある。このため、平角銅線は、総エッチング量が少ないこと、すなわち第二の面が平坦な面とされていることが好ましい。したがって、本発明例4~7および比較例2において、異物等の付着のしやすさでは、総エッチング量が最も少ない本発明例4が最も好ましい。
【符号の説明】
【0071】
10、20 絶縁平角導体
11 平角導体
12 長辺側の面
12a 第一の面
12b 第二の面
13 短辺側の面
13a 第一の面
13b 第二の面
15 絶縁皮膜