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特許7032304キメラ抗原受容体を発現する改変された単球/マクロファージおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体を発現する改変された単球/マクロファージおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220301BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20220301BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K14/705
C07K16/28
A61K35/15 Z
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P37/02
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018504165
(86)(22)【出願日】2016-07-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 US2016044440
(87)【国際公開番号】W WO2017019848
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-07-25
(31)【優先権主張番号】62/197,675
(32)【優先日】2015-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ギル サール
(72)【発明者】
【氏名】クリチンスキー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジューン カール エイチ.
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/051718(WO,A1)
【文献】特表2004-529636(JP,A)
【文献】Gene Therapy 13 602-610 (2006)
【文献】Cancer Research 68 3854-3862 (2008)
【文献】mAbs 7 303-310 (2015)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞であって、該CARが、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、該改変細胞が、ターゲティングされたエフェクター活性を保有するヒト単球またはマクロファージあり、該改変細胞がAd5f35アデノウイルスの構成要素を含む、前記改変細胞。
【請求項2】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む改変細胞であって、該核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列と、膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインをコードする核酸配列とを含み、該改変細胞が、該CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有するヒト単球またはマクロファージあり、かつ該改変細胞がAd5f35アデノウイルスの構成要素を含む、前記改変細胞。
【請求項3】
前記CARの抗原結合ドメインが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、単鎖可変断片、およびそれらの抗原結合性断片からなる群より選択される抗体を含む、請求項1または2記載の改変細胞。
【請求項4】
前記CARの抗原結合ドメインが、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項5】
前記CARの細胞内ドメインが、二重シグナル伝達ドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項6】
ターゲティングされたエフェクター活性が、前記CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる、請求項1~5のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項7】
ターゲティングされたエフェクター活性が、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項8】
核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項9】
アップレギュレートされた少なくとも1つのM1マーカーおよびダウンレギュレートされた少なくとも1つのM2マーカーを有する、請求項1~8のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項10】
前記CARを発現するように遺伝的に改変されている、請求項1~9のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項11】
ターゲティングされたエフェクター活性が、CD47活性またはSIRPα活性の阻害によって強化される、請求項1~10のいずれか一項記載の改変細胞。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
【請求項13】
免疫応答の処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞の使用。
【請求項14】
腫瘍またはがんの処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞の使用。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞を含む、対象における腫瘍またはがんと関連のある疾患または状態を処置するための薬学的組成物。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞を含む、対象における腫瘍を処置するための薬学的組成物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項記載の改変細胞を含む、対象における標的腫瘍細胞または腫瘍組織に対する免疫応答を刺激するための薬学的組成物。
【請求項18】
キメラ抗原受容体(CAR)をヒト単球またはマクロファージAd5f35アデノウイルスベクターを使用して導入する段階であって、該CARが、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、改変細胞が、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有するヒト単球またはマクロファージある、段階
を含む、細胞を改変する方法。
【請求項19】
前記細胞へのCARの導入が、CARをコードする核酸配列を導入する段階を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ターゲティングされたエフェクター活性が、前記CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
ターゲティングされたエフェクター活性が、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される、請求項18~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
ターゲティングされたエフェクター活性を強化するためにCD47活性またはSIRPα活性を阻害する段階をさらに含む、請求項18~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
CD47活性またはSIRPα活性を阻害する段階が、前記細胞を抗CD47遮断抗体または抗SIRPα遮断抗体と接触させることを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記CARの細胞内ドメインが二重シグナル伝達ドメインを含む、請求項18~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記CARの抗原結合ドメインが、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、単鎖可変断片、およびそれらの抗原結合性断片からなる群より選択される抗体を含む、請求項18~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記CARの抗原結合ドメインが、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される、請求項18~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
作用物質を標的に送達するために前記細胞を改変する段階をさらに含み、作用物質が、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項18~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
請求項18~27のいずれか一項記載の方法に従って改変された細胞を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願には、米国特許法第119(e)条(35 U.S.C. § 119(e))の下で、2015年7月28日に提出された米国仮特許出願第62/197,675号への優先権が与えられており、その出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
がん免疫療法は、数多くの固形腫瘍および血液悪性腫瘍の状況下でめざましい臨床成績を示している。内因性免疫系は悪性細胞に対して典型的には非反応性であるか、または悪性細胞の存在に対する身体反応の点で積極的に免疫抑制性になることもある。腫瘍の処置を向上させるための1つの方策は、白血球の遺伝子操作を通じて免疫系による腫瘍認識を強制することである。細胞外のターゲティングされた抗体と細胞内シグナル伝達ドメインとを含む、キメラ抗原受容体(CAR)として知られる合成免疫受容体を発現するように、T細胞を操作することができる。CD19に対して方向付けられたCARを発現するT細胞は顕著な抗白血病効果を示しており、処置を受けた急性リンパ芽球性白血病患者の90%で完全寛解が達成されている(Maude, et al., NEJM, vol. 371:1507-17, 2014(非特許文献1))。これらの結果には、そのような処置を受けた白血病患者における活発なT細胞増殖、および腫瘍部位への明確に記録されたT細胞浸潤が伴う。血液悪性腫瘍で実証されている高い奏効率にもかかわらず、固形腫瘍(ならびにある特定のリンパ系腫瘍)におけるCAR T細胞の有効性は限定的なことがある。このことに関して考えられる説明には、固形腫瘍に浸潤するT細胞の能力が損なわれている可能性、輸送の乏しさ、免疫抑制性の腫瘍微小環境、および固形腫瘍細胞上でわずかな腫瘍特異的抗原しか発現されないことが挙げられる。
【0003】
当技術分野では、そのような組成物によって腫瘍細胞に対する特異性を改善することならびに固形腫瘍および血液悪性腫瘍の両方における腫瘍部位への浸潤性を改善することによってがんを処置する、より有効な組成物および方法に対する需要が存在する。本発明はこの需要に応える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Maude, et al., NEJM, vol. 371:1507-17, 2014
【発明の概要】
【0005】
本明細書において開示されるように、本発明は、ターゲティングされたエフェクター活性を有する食細胞を用いる組成物および方法を含む。
【0006】
1つの局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含み、ここでCARは、原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、細胞は、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。
【0007】
別の局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む改変細胞を含み、ここで核酸配列は、原結合ドメインをコードする核酸配列と、膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインをコードする核酸配列とを含み、細胞は、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。
【0008】
さらに別の局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージまたは樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変する方法を含み、該CARは、原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、該細胞は、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。
【0009】
なお別の局面において、本発明は、本明細書に記載の方法に従って改変された細胞を含む。
【0010】
本明細書において描写される本発明の上記の諸局面または任意の他の局面のさまざまな態様において、CARの抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、単鎖可変断片、およびそれらの抗原結合性断片からなる群より選択される抗体を含む。別の態様において、CARの抗原結合ドメインは、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される。さらに別の態様において、CARの細胞内ドメインは二重シグナル伝達ドメインを含む。
【0011】
別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる。さらに別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される。
【0012】
別の態様において、組成物は、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質をさらに含む。
【0013】
別の態様において、改変細胞は、アップレギュレートされた少なくとも1つのM1マーカーおよびダウンレギュレートされた少なくとも1つのM2マーカーを有する。さらに別の態様において、改変細胞はCARを発現するように遺伝的に改変されている。なお別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、CD47活性またはSIRPa活性の阻害によって強化される。
【0014】
別の態様において、細胞へのCARの導入は、CARをコードする核酸配列を導入すること、例えば、CARをコードするmRNAをエレクトロポレーションによって導入すること、またはCARをコードする核酸配列を含むウイルスベクターを用いて細胞に形質導入を行うことなどを含む。
【0015】
別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる。別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される。
【0016】
別の態様において、本明細書に記載の方法は、例えば細胞を抗CD47遮断抗体または抗SIRPα遮断抗体と接触させる等によって、ターゲティングされたエフェクター活性を強化するためCD47活性またはSIRPα活性を阻害する段階をさらに含む。さらに別の態様において、本方法は、作用物質を標的に送達するために細胞を改変する段階をさらに含み、作用物質は、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0017】
1つの局面において、本発明は、本明細書に記載の細胞を含む薬学的組成物を含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、免疫応答の処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本明細書に記載の改変細胞の使用を含む。さらに別の局面において、本発明は、腫瘍またはがんの処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本明細書に記載の改変細胞の使用を含む。
【0019】
さらに別の局面において、本発明は、本明細書に記載された改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を、対象に投与する段階を含む、対象における腫瘍またはがんと関連した疾患または状態を処置する方法を含む。
【0020】
なお別の局面において、本発明は、本明細書に記載の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を対象に投与する段階を含む、対象における腫瘍を処置する方法を提供する。
【0021】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を対象に投与する段階を含む、対象において標的腫瘍細胞または腫瘍組織に対する免疫応答を刺激するための方法を含む。
[本発明1001]
キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞であって、該CARが、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、該細胞が、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である、前記改変細胞。
[本発明1002]
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む改変細胞であって、該核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列と、膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインをコードする核酸配列とを含み、該細胞が、該CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である、前記改変細胞。
[本発明1003]
前記CARの抗原結合ドメインが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、単鎖可変断片、およびそれらの抗原結合性断片からなる群より選択される抗体を含む、本発明1001または1002の改変細胞。
[本発明1004]
前記CARの抗原結合ドメインが、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される、本発明1001または1002の改変細胞。
[本発明1005]
前記CARの細胞内ドメインが、二重シグナル伝達ドメインを含む、本発明1001または本発明1002の改変細胞。
[本発明1006]
ターゲティングされたエフェクター活性が、前記CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる、本発明1001または1002の改変細胞。
[本発明1007]
ターゲティングされたエフェクター活性が、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される、本発明1001または1002の改変細胞。
[本発明1008]
核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質をさらに含む、本発明1001または1002の改変細胞。
[本発明1009]
アップレギュレートされた少なくとも1つのM1マーカーおよびダウンレギュレートされた少なくとも1つのM2マーカーを有する、本発明1001または本発明1002の改変細胞。
[本発明1010]
前記CARを発現するように遺伝的に改変されている、本発明1001または本発明1002の改変細胞。
[本発明1011]
ターゲティングされたエフェクター活性が、CD47活性またはSIRPα活性の阻害によって強化される、本発明1001または本発明1002の改変細胞。
[本発明1012]
本発明1001または1002の細胞と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
[本発明1013]
免疫応答の処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本発明1001または1002の改変細胞の使用。
[本発明1014]
腫瘍またはがんの処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本発明1001または1002の改変細胞の使用。
[本発明1015]
対象における腫瘍またはがんと関連のある疾患または状態を処置する方法であって、対象に対して、本発明1001または1002の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む、前記方法。
[本発明1016]
対象における腫瘍を処置する方法であって、対象に対して、本発明1001または1002の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む、前記方法。
[本発明1017]
対象における標的腫瘍細胞または腫瘍組織に対する免疫応答を刺激するための方法であって、対象に対して、本発明1001または1002の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む、前記方法。
[本発明1018]
キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージまたは樹状細胞に導入する段階であって、該CARが、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激分子および/または共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、該細胞が、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である、段階
を含む、細胞を改変する方法。
[本発明1019]
前記細胞へのCARの導入が、CARをコードする核酸配列を導入する段階を含む、本発明1018の方法。
[本発明1020]
核酸配列を導入する段階が、CARをコードするmRNAをエレクトロポレーションによって導入することを含む、本発明1019の方法。
[本発明1021]
核酸配列を導入する段階が、CARをコードする核酸配列を含むウイルスベクターを用いて細胞に形質導入を行うことを含む、本発明1019の方法。
[本発明1022]
ターゲティングされたエフェクター活性が、前記CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる、本発明1018の方法。
[本発明1023]
ターゲティングされたエフェクター活性が、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される、本発明1018の方法。
[本発明1024]
ターゲティングされたエフェクター活性を強化するためにCD47活性またはSIRPα活性を阻害する段階をさらに含む、本発明1018の方法。
[本発明1025]
CD47活性またはSIRPα活性を阻害する段階が、前記細胞を抗CD47遮断抗体または抗SIRPα遮断抗体と接触させることを含む、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記CARの細胞内ドメインが二重シグナル伝達ドメインを含む、本発明1018の方法。
[本発明1027]
前記CARの抗原結合ドメインが、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、単鎖可変断片、およびそれらの抗原結合性断片からなる群より選択される抗体を含む、本発明1018の方法。
[本発明1028]
前記CARの抗原結合ドメインが、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される、本発明1018の方法。
[本発明1029]
作用物質を標的に送達するために前記細胞を改変する段階をさらに含み、作用物質が、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、本発明1018の方法。
[本発明1030]
本発明1018に従って改変された細胞を含む組成物。

【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことにより、より良く理解されるであろう。本発明を実例で説明するために、現時点で好ましい態様を図面として示している。しかし、本発明は、図面中に示された態様の厳密な配置および手段には限定されないことが理解されるべきである。
【0023】
図1A図1Aは、サイトカイン、モノクローナル抗体、抗体断片、単鎖可変断片、酵素、追加的な受容体、ドミナントネガティブ受容体、腫瘍関連抗原、およびそれらの任意の組み合わせを非限定的に含む任意の遺伝子/転写物/タンパク質を含む、分泌性のこともあれば非分泌性のこともある追加的な遺伝子産物の化学量論的な共発現のための、ターゲティング機能を有する細胞外ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、および/または2A(P2A、T2A)を含有する遺伝子/遺伝子産物で構成されるキメラ抗原受容体(CAR)の概念図を示している一連の画像である。加えて、CAR構築物はCRISPR/Cas9遺伝子編集材料の共送達を含んでもよく、またはCRISPR/Cas9によりあらかじめ編集された細胞の状況下に導入されてもよい。
図1B図1Bは、抗原特異的scFvドメイン、CD8ヒンジドメイン、CD8膜貫通ドメイン、およびそれぞれCD3ζドメイン、FcεRI共通γサブユニットドメイン、またはデクチン-1の細胞内ドメインを含む、CARMA-ζ、CARMA-γ、およびCARMA-デクチンを含むCAR構築物の具体例を示している一連の画像である。
図2A図2Aは、レンチウイルス形質導入後の骨髄系細胞の表面に発現されたCAR19zを示しているグラフである。CAR19zレンチウイルスの用量設定を3倍希釈にて行い、これを1e5個/0.1mLのmRFP+ THP1細胞の形質導入を行うために用いた。mRFPは、骨髄系細胞株THP1のレンチウイルス形質導入によって発現させたレポーター遺伝子(赤色蛍光タンパク質)である。これらの細胞は、化学物質PMAへの曝露により、マクロファージに分化するように誘導することができる。THP1細胞を形質導入の24時間後に採取し、ビオチン化タンパク質Lに続いてストレプトアビジン-APCを用いることによってCAR表面発現に関して染色した。
図2B図2Bは、増大させた上でFACSによって選別した形質導入THP1細胞により、100% CAR19z陽性mRFP+ THP1サブラインが作製されることを示しているグラフである。
図2C図2Cは、THP1マクロファージ上での抗CD19、抗HER2、および抗メソテリンレンチウイルスCAR構築物の発現を実証しており、CAR(+)事象は右上四半分(quadrant)に示されている。
図3A図3Aは、THP1マクロファージモデルを用いたCARMAサブライン作製、1ng/mLホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)による分化、およびインビトロ食作用アッセイの概略を示している流れ図である。
図3B図3Bは、蛍光顕微鏡を利用した食作用アッセイによる実証で、抗CD19 CARマクロファージが、野生型(Wt)マクロファージとは異なり、CD19を発現するK562腫瘍細胞を貪食したことを示しているグラフである。
図3C図3Cは、蛍光顕微鏡を利用した食作用アッセイによる実証で、抗HER2 CARマクロファージが、野生型(Wt)マクロファージとは異なり、HER2を発現するK562腫瘍細胞を貪食したことを示しているグラフである。
図3D図3Dは、蛍光顕微鏡を利用した食作用アッセイによる実証で、抗メソテリンCARマクロファージが、野生型(Wt)マクロファージとは異なり、メソテリンを発現するK562腫瘍細胞を貪食したことを示しているグラフである。
図3E図3Eは、CARMA腫瘍食作用を、フローメトリーを利用したアッセイによって検証したことを示している代表的なFACSプロットである。CD19に対するmRFP+ CARMAをCD19+ GFP+ K562細胞と共培養し、二重陽性事象を定量した。
図3F図3Fは、CARMA食作用機能の図表化に用いた標準的な10倍視野におけるmRFPを示している画像である。
図3G図3Gは、CARMA食作用機能の図表化に用いた標準的な10倍視野における重ね合わせを示している画像である。
図3H図3Hは、食作用事象として定義され、Amnis Imagestream FACS分析などによって検証される、FACSに基づくmRFP/GFP二重陽性事象を示している一連の画像である。示されている事象は二重陽性事象に関してゲート処理されており、Amnis Imagestream食作用-侵食アルゴリズムによって高いものから低いものへの順に並べている。
図3I図3Iは、THP-1細胞株モデルにおけるmRFP+ CARMAによる腫瘍細胞の貪食が共焦点顕微鏡検査によってさらに実証されたことを示している一連の画像であり、GFP+腫瘍細胞がファゴソーム内に完全に封入されたことが三次元共焦点z-スタック再構築を介して立証されている。
図3J図3Jは、THP-1細胞株モデルにおけるmRFP+ CARMAによる腫瘍細胞の貪食が共焦点顕微鏡検査によってさらに実証されたことを示している一連の画像であり、GFP+腫瘍細胞がファゴソーム内に完全に封入されたことが三次元共焦点z-スタック再構築を介して立証されている。
図3K図3Kは、単一のCARMA細胞の経時的な運命(接触および免疫学的なシナプス形成が第一段階であり、食作用性貪食、GFPの消失を細胞死のマーカーとして用いた腫瘍の分解、ファゴソーム崩壊、およびファゴソーム修復につながる)を実証している一連の画像であり、CARMAが腫瘍細胞貪食後にも生存することを実証している。
図4図4Aは、CD19+(標的)またはCD19-(対照)GFP+ K562腫瘍細胞に対するインビトロ食作用アッセイを用いて検討した抗CD19 CARマクロファージを示しているグラフである。CARMAの抗原特異性を実証することとして、抗原担持腫瘍細胞のみが貪食された。CARMA機能に細胞内シグナル伝達ドメインが必要であることを実証するために、CAR19-Δζ構築物(細胞内シグナル伝達ドメインを欠く)を利用した。図4Bは、CAR19-Δζマクロファージが腫瘍細胞を貪食できなかったことを示しているグラフである。図4Cは、インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイを介して、CAR19-Δζマクロファージが抗腫瘍機能を有意に低下させたことを示しているグラフである。図4Dは、R406(Syk阻害薬)の存在下で行ったインビトロCARMA食作用アッセイを示しているグラフである。R406はCARMAの食作用機能を独立に抑止し、このことはマクロファージにおけるCARシグナル伝達がSyk依存性であって、アクチン重合およびNMIIA媒介性食作用機能をもたらしたことを指し示している。図4Eは、サイトカラシンD(アクチン重合阻害薬)の存在下で行ったインビトロCARMA食作用アッセイを示しているグラフである。サイトカラシンDはCARMAの食作用機能を独立に抑止し、このことはマクロファージにおけるCARシグナル伝達がSyk依存性であって、アクチン重合およびNMIIA媒介性食作用機能をもたらしたことを指し示している。図4Fは、ブレビスタチン(非筋肉性ミオシンIIA阻害薬)の存在下で行ったインビトロCARMA食作用アッセイを示しているグラフである。ブレビスタチンはCARMAの食作用機能を独立に抑止し、このことはマクロファージにおけるCARシグナル伝達がSyk依存性であって、アクチン重合およびNMIIA媒介性食作用機能をもたらしたことを指し示している。
図5A図5Aは、標的腫瘍細胞株上でのCD47の発現をアイソタイプ対照と対比して示しているフローサイトメトリーグラフである。K562およびK562-CD19+(K19)をこれらの実験に用いたが、これらは両方ともCD47高発現細胞株である。
図5B図5Bは、抗CD47モノクローナル抗体の追加により、標的抗原担持腫瘍細胞のCARマクロファージ媒介性食作用が、Wtマクロファージ媒介性食作用とは異なり、選択的に強化されたことを示しているグラフである。WtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを、0、0.01、0.10、1.00または10.0mcg/mLのいずれかの抗CD47モノクローナル抗体とともに、CD19+ K562腫瘍細胞とインキュベートした。
図5C図5Cは、抗SIRPαモノクローナル抗体の追加により、標的抗原担持腫瘍細胞のCARマクロファージ媒介性食作用が、Wtマクロファージ媒介性食作用とは異なり、選択的に強化されたことを示しているグラフである。WtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを、0、0.01、0.10、1.00または10.0mcg/mLの抗SIRPαモノクローナル抗体とともに、CD19+ K562腫瘍細胞とインキュベートした。
図5D図5Dは、抗SIRPαモノクローナル抗体によるCD47/SIRPα軸の遮断により、CARマクロファージによる多食作用(2個またはそれを上回る腫瘍細胞を一度に貪食したマクロファージと定義される)が強化されたことを実証しているグラフである。
図5E図5Eは、インビトロ食作用アッセイを示しているグラフである。CD47/SIRPα遮断性モノクローナル抗体によって加わるオプソニン作用の対照とするために、CD47と結合するがCD47をSIRPα結合部位に対しては遮断しない対照抗CD47モノクローナル抗体(クローン2D3)をインビトロ食作用アッセイに用いた。結合部位を遮断したクローン(抗CD47、クローンB6H12)またはSIRPα受容体の遮断のみが、CARMA腫瘍食作用の強化を直接的に導いている。
図5F図5Fは、抗原陰性(CD19陰性)腫瘍細胞に対するインビトロ食作用を示しているグラフである。CARマクロファージ上のCD47/SIRPα軸の遮断が抗原特異性の消失を導くか否かを検討するために、抗原陰性(CD19陰性)腫瘍細胞に対するインビトロ食作用を、抗CD47または抗SIRPαモノクローナル抗体の存在下で実施させたところ、観察可能な食作用はみられなかった。
図5G図5Gは、THP1マクロファージ上のSIRPα受容体をノックアウトして、抗SIRPα抗体の非存在下または存在下におけるCARMAまたはSIRPα-KO CARMAによる腫瘍食作用を比較することによって検討した、SIRPα遮断性モノクローナル抗体の存在下におけるCARMA食作用強化の特異性を示しているグラフである。CRISPR/Cas9をSIRPα欠失のために用い、機能アッセイの前に細胞をSIRPα陰性に関して選別した。SIRPαのノックアウトはCARMA機能を強化し、かつ、抗SIRPαを再びノックアウト細胞に加えても、食作用をさらに強化することはできなかった。
図6図6Aは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおける、48時間時点での用量依存的な様式での、CAR19ζ CARMAマクロファージによる、Wtマクロファージとは異なる(THP-1マクロファージモデルを使用)、CD19+ GFP+ルシフェラーゼ+ K562細胞の特異的溶解を示しているグラフである。図6Bは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおける、48時間時点での用量依存的な様式での、CAR19ζ THP-1単球またはWt THP-1単球(未分化であり、それ故にマクロファージではなく単球のモデルとなる)による腫瘍細胞の特異的溶解を実証しているグラフである。図6Cは、10μg/mLの抗SIRPαモノクローナル抗体の非存在下または存在下でのインビトロでのWtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージとの48時間の共培養後のルシフェラーゼ陽性CD19+ K562腫瘍細胞に由来する、ルシフェラーゼによりもたらされる生物発光を示している一群の画像である。図6Dは、抗SIRPαモノクローナル抗体の存在下または非存在下でのWtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージの特異的溶解を実証しているグラフである。
図7A図7Aは、FcεRI共通γ(CAR19γ、CARMA19γ)サブユニット細胞内ドメインを有するCAR構築物を作製し、レンチウイルス中にパッケージングして、3倍系列ウイルス希釈物としてTHP-1骨髄系細胞の形質導入に用いたことを示している一連のグラフである。CAR19γはTHP-1マクロファージ上に発現された。
図7B図7Bは、100% CAR陽性に関して選別して、インビトロ機能特性決定のために利用した、CAR19γマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを示しているグラフである。CAR19ζマクロファージおよびCAR19γマクロファージは両方ともCD19+腫瘍細胞を貪食し、両方とも抗SIRPαモノクローナル抗体の追加によるCD47/SIRPα軸の遮断との相乗作用を呈した。
図7C図7Cは、CAR19ζマクロファージおよびCAR19γマクロファージがSykを介したシグナル伝達を行って腫瘍食作用を作動させることを実証している、R406 Syk阻害インビトロ食作用アッセイを示しているグラフである。
図7D図7Dは、インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイにおいて、さまざまなE:T比での24時間の共培養後に、CAR19ζ THP1マクロファージおよびCAR19γ THP1マクロファージが両方とも、Wt THP1マクロファージとは異なり、CD19+腫瘍細胞を効率的に死滅させたことを示しているグラフである。
図8図8Aは、マクロファージが、構成性に発現された病原体認識受容体を介して、感染の保存的な分子的引き金、例えば病原体関連分子パターンなどに反応したことを示しているグラフである。図8Bは、CARMAの腫瘍食作用機能を強化するために、独立にTLR1~9に対するリガンドを用いるかまたは培地対照を用いて初回刺激を行ったCARマクロファージを用いて実施したインビトロ食作用アッセイを示しているグラフである。TLR1、2、4、5および6に対するリガンドはCARMAの食作用機能を強化した。図8Cは、ある範囲内のTLR3またはTLR6リガンド濃度でCARMAの腫瘍細胞食作用を強化するかまたは強化しなかったTLRリガンド間の違いを示しているグラフである。
図9図9Aは、酵素産物の1つであるβ-グルカンがマクロファージの表面上のデクチン-1と結合して、活性化およびエフェクター機能をもたらしたことを示しているグラフである。β-グルカンがCARMA機能を増強する能力を検討する目的で、5mcg/mLのβ-グルカンの非存在下または存在下でインビトロ腫瘍食作用アッセイを実施した。β-グルカンはCARマクロファージの食作用能力を強化したが、Wtマクロファージについては強化しなかった。図9Bは、β-グルカンがCARMA腫瘍死滅を強化する能力を検討するために、0、0.5、5、または50μg/mLのβ-グルカンの存在下で、さまざまなエフェクター(E):標的(T)比で実施した、インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイを示している一連のグラフである。β-グルカンはCAR THP-1マクロファージの抗原担持腫瘍細胞の特異的溶解を強化したが、Wt THP-1マクロファージについては強化しなかった。
図10A図10Aは、デクチン-1細胞内シグナル伝達ドメインで構成されるCAR構築物を作製したことを示している一連の画像である。これらの構築物をレンチウイルス中にパッケージングして、レンチウイルス力価の3倍系列希釈物としてTHP-1骨髄系細胞の形質導入に用いた。
図10B図10Bは、CARが、CD8TM-デクチン1 CAR構築物を発現するマクロファージの表面に検出されたことを示しているグラフである。
図10C図10Cは、CARが、デクチンTM-デクチン1 CAR構築物を発現するマクロファージの表面に検出されたことを示しているグラフである。
図10D図10Dは、CD8TM-デクチン1 CARおよびデクチンTM-デクチン1 CARマクロファージをインビトロのルシフェラーゼ死滅アッセイにおいて検討したことを示しているグラフである。両方の構築物とも腫瘍細胞の特異的溶解を実証した。
図10E図10Eは、K562(対照)またはK19(標的)腫瘍細胞に対するインビトロ腫瘍食作用アッセイにおいて検討したデクチン1-CARマクロファージを示しているグラフである。デクチン1-CARマクロファージはコグネイト-抗原担持腫瘍細胞を選択的に貪食した。
図10F図10Fは、デクチン-1 CARマクロファージが複数の腫瘍細胞の貪食に対して能力を実証したことを示している一連の画像である。
図10G図10Gは、インビトロ腫瘍食作用アッセイを示しているグラフである。デクチン1-CARマクロファージは、SIRPαの遮断またはTLRリガンドによる初回刺激との相乗作用を実証した。
図11図11Aは、3種の異なるCD19+標的細胞株におけるカルレティキュリンレベルをアイソタイプ対照と対比して示している一連のグラフである。図11Bは、3種の異なるCD19+標的細胞株におけるカルレティキュリン発現の正規化平均蛍光強度を示しているグラフである。図11Cは、低レベルのカルレティキュリンが、標的細胞、具体的にはNalm6細胞株およびJEKO細胞株を、CAR19zマクロファージ食作用から中程度に防御したことを示しているグラフである。これらのデータは、カルレティキュリン沈着/誘導の利用を、CARMAエフェクター機能を増強するための追加的な方策として用いうることを示唆する。
図12A図12Aは、mRNA発現プラスミド中にクローニングして、インビトロで転写させて、mRNAの初代ヒト単球への直接的なエレクトロポレーションを行った抗HER2 CAR構築物を示している一連のグラフである。
図12B図12Bは、初代ヒト単球由来のマクロファージ(完全に分化した)への抗HER2 CAR mRNAエレクトロポレーションの効率が79.7%であったことを示している一連のグラフである。
図12C図12Cは、mRNAエレクトロポレーションが単球およびマクロファージの両方で高いCARトランスフェクション効率をもたらす一方で、mRNA分解が理由でCAR発現が一時的であり、インビトロでのエレクトロポレーション後の第2日にピークがあって第7日までに消失したことを示しているグラフである。
図13図13Aは、HER2+卵巣がんの転移性腹腔内癌腫症のモデルであるIE6 SKOV3 CBG/GFP+ヒト卵巣がん細胞をIP注射を介して注射したNSGSマウスを示しているグラフである。マウスに対して、モックエレクトロポレーションを行ったかまたは抗HER2 CAR mRNAのエレクトロポレーションを行った初代ヒトマクロファージ(E:T比1:1)のいずれかを同時注射し、腫瘍量を画像化した。CARマクロファージはおよそ2週間にわたって腫瘍増殖のわずかな減少を実証した。腫瘍量が生物発光的に定量された最初の時点は投与24時間後であり、このことはCAR単球およびCARマクロファージが最初の24時間に活性を有していたことを実証している。図13Bは、HER2+卵巣がんの転移性腹腔内癌腫症のモデルである1E6 SKOV3 CBG/GFP+ヒト卵巣がん細胞をIP注射を介して注射したNSGSマウスを示しているグラフである。マウスに対して、モックエレクトロポレーションを行ったかまたは抗HER2 CAR mRNAのエレクトロポレーションを行った初代ヒト単球(E:T比1:1)のいずれかを同時注射し、腫瘍量を画像化した。CAR単球はおよそ2週間にわたって腫瘍増殖のわずかな減少を実証した。腫瘍量が生物発光的に定量された最初の時点は投与24時間後であり、このことはCAR単球およびCARマクロファージが最初の24時間に活性を有していたことを実証している。
図14A図14Aは、初代ヒト単球由来のマクロファージに対するCAR導入遺伝子のレンチウイルス送達を複数のCAR構築物を用いて検討したことを示している一連のグラフである。CAR19はレンチウイルス形質導入を介してヒトマクロファージに送達され、対照群とCAR19レンチウイルス(MOI 10)群との比較でそれぞれ4.27%および38.9%の形質導入効率を実証した。
図14B図14Bは、初代ヒトマクロファージにおける抗HER2 CARの発現を示している一連の代表的なFACSプロットであり、対照条件とMOI 10 CAR LV条件との間で形質導入効率はそれぞれ1.47%および18.1%であった。
図15A図15Aは、抗CD19に関して、形質導入効率が形質導入の中間点(第4日)にピークであったことを示している一連のグラフである。選択したCD14+細胞(正常ドナーのアフェレーシス生成物由来)をGM-CSF条件培地中で7日間分化させることによって、単球由来のマクロファージを作製した。レンチウイルス形質導入を介したCARの送達を最適化するために、抗CD19レンチウイルスを、単球からマクロファージへの分化過程の種々の時点で、マクロファージへの形質導入を行うために用いた。
図15B図15Bは、抗HER2に関して、形質導入効率が形質導入の中間点(第4日)にピークであったことを示している一連のグラフである。選択したCD14+細胞(正常ドナーのアフェレーシス生成物由来)をGM-CSF条件培地中で7日間分化させることによって、単球由来のマクロファージを作製した。レンチウイルス形質導入を介したCARの送達を最適化するために、抗HER2レンチウイルスを、単球からマクロファージへの分化過程の種々の時点で、マクロファージへの形質導入を行うために用いた。
図15C図15Cは、食作用の有効性がCAR形質導入効率に比例し、マクロファージ形質導入が分化過程の第4日にピークになることを示している一連のグラフである。
図16A図16Aは、mRNAエレクトロポレーションが一過性であって、レンチウイルスの効率が中程度に過ぎず高力価を必要としたことを考慮した上での、導入遺伝子を初代ヒトマクロファージに導入するための代替的な形質導入アプローチを示している一連のグラフである。アデノウイルス(組換え、複製能欠損性)が、初代ヒトマクロファージ形質導入のための効率的なアプローチとして同定された。コクサッキーアデノウイルス受容体(Ad5に対するドッキングタンパク質)およびCD46(Ad35に対するドッキングタンパク質)の発現を初代ヒトマクロファージ上のアイソタイプ対照と対比して検討したところ、CD46は、コクサッキーアデノウイルス受容体とは異なり、高度に発現された。このことから、キメラAd5f35アデノウイルスを初代ヒトマクロファージ形質導入のために利用し、HER2に対するキメラ抗原受容体(GFPおよび空Ad5f35ウイルスを対照として用いた)を発現させるために標準的な分子生物学手法を介して操作した。
図16B図16Bは、Ad5f35がMOI 1000でヒトマクロファージ内に導入遺伝子(GFPをモデル導入遺伝子として用いた)を効率的に送達し、IVIS SpectrumでのGFPシグナル定量によるモニタリングで発現が経時的に増したことを示しているグラフである。
図16C図16Cは、最大10,000までの広範囲のMOIにわたる、種々の時点での初代ヒトマクロファージの形質導入動態の比較を示しているグラフである。
図16D図16Dは、広範囲にわたるウイルスMOIでの、形質導入後48時間時点での、Ad5f35形質導入ヒトマクロファージ上の抗HER2 CAR発現の一連の代表的なFACSプロットである。
図16E図16Eは、Ad5f35-GFP形質導入初代ヒトマクロファージの一連の代表的な蛍光顕微鏡画像であり、最大の形質導入効率はMOI 1000で実証された。
図17A図17Aは、FACS分析を介したインビトロ食作用アッセイにおいて検討した初代ヒトCARMAを示している一連のグラフである。マクロファージ(非形質導入性または抗HER2 CAR)を、GFP+ SKOV3卵巣がん細胞との共培養の前にDiIで染色した。DiI/GFP二重陽性事象によって定義される食作用は、CAR群では26.6%、対照群では4.55%のレベルとして測定された。
図17B図17Bは、これらの二重陽性事象が食作用を表すことを視覚的に実証している一連の画像である。DiI/GFP二重陽性事象が食作用事象であってダブレットではないことを立証するために、サイトカラシンD(食作用阻害薬)を実験の1アームに追加したところ、CAR媒介性食作用は1.74%に十分に抑止された。初代ヒトCARマクロファージが腫瘍細胞を貪食しうることをさらに立証するために、二重陽性事象をAmnis Imagestream FACSでゲーティング処理して、Amnis食作用-侵食アルゴリズムによって高いものから低いものへの順に並べた。
図17C図17Cは、SKOV3-GFPと共培養したDiI染色CAR-HER2マクロファージの共焦点顕微鏡画像の一連の画像である。
図18図18は、CARヒトマクロファージが、UTDヒトマクロファージとは異なり、乳がん細胞を貪食したことを示しているグラフである。単球由来のマクロファージのAd5f35-CAR形質導入を用いて、抗HER2 CAR初代ヒトマクロファージを作製した。これらの細胞(または対照非形質導入細胞)を、インビトロでのFACSに基づく食作用アッセイにおいて、SKBR3ヒト乳がん細胞のエフェクターとして利用した。加えて、抗SIRPαモノクローナル抗体の追加は乳がん細胞のCARMAマクロファージの食作用を強化したが、UTDマクロファージについては強化しなかった。これらの結果は、THP-1モデルにおいてCARMAで認められたCD47/SIRPα軸の遮断間の相乗作用が初代ヒトマクロファージ試験にも同じく当てはまることを実証している。
図19図19は、CARMAがpH-Rodo Green大腸菌(E.Coli)粒子の完全な食作用を呈することを示している一連の代表的なFACSプロットである。CARマクロファージが抗菌的な意味で依然として機能的な自然免疫細胞であって、感染刺激に応答する能力を失っていないことを実証する目的で、対照非形質導入マクロファージまたはCARマクロファージをFACSに基づく大腸菌食作用アッセイに使用した。
図20A図20Aは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおいてエフェクター細胞として検討した初代ヒト抗HER2 CARMAを示しているグラフである。抗HER2 CARMAマクロファージは、対照UTDマクロファージとは異なり、48時間の共培養後にHER2+ K562細胞の特異的溶解を導いたが、HER2発現を欠く対照K562細胞の特異的溶解は導かなかった。
図20B図20Bは、SKBR3乳がん細胞を標的として利用する、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイを示しているグラフである。CARMAは48時間の共培養後に両方のモデルに対して有意な抗腫瘍活性を有したが、対照UTDも対照空Ad5f35形質導入マクロファージもそうではなかった。
図20C図20Cは、SKOV3卵巣がん細胞を標的として利用する、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイを示しているグラフである。CARMAは48時間の共培養後に両方のモデルに対して有意な抗腫瘍活性を有したが、対照UTDも対照空Ad5f35形質導入マクロファージもそうではなかった。
図20D図20Dは、死滅アッセイにおけるCD47/SIRPα軸の遮断間の相乗作用を示しているグラフである。SKOV3卵巣がん細胞を、培地、対照非形質導入マクロファージ、抗HER2 CARMA、抗HER2 CARMA+抗CD47 mAB(10mcg/mL)または抗HER2 CARMA+抗SIRPα(10mcg/mL)と共培養して、ルシフェラーゼシグナルを継続的に測定した。CARMAは第13日までに完全な腫瘍根絶を導いたが、腫瘍根絶の動態はCD47/SIRPα軸の遮断の存在下ではさらに迅速であった。
図20E図20Eは、THP-1マクロファージCARMAモデルで実証されたβ-グルカンとの相乗作用を示しているグラフであり、CARMAのβ-グルカン初回刺激は腫瘍死滅動態の強化を導いた。
図20F図20Fは、CARMAのLPS(TLR-4リガンドの1つ)またはポリ-IC(TLR-3リガンドの1つ)への曝露が抗腫瘍効果の変化を導いたことを示しているグラフである。
図21図21は、インビトロでのルシフェラーゼアッセイにおいて初代ヒトCARMAが腫瘍を除去する能力を示している一連の画像である。GFP+ SKOV3卵巣がん細胞を、対照UTDマクロファージ、対照UTDマクロファージ+10mcg/mLトラスツズマブ、対照空Ad5f35ウイルス形質導入マクロファージ、または抗HER2初代ヒトCARMAと共培養した。CARMAは、対照条件とは異なり、腫瘍細胞を除去することができた。
図22A図22Aは、M1マーカーCD80/CD86の用量依存的なアップレギュレーションおよびM2マーカーCD163の用量依存的なダウンレギュレーションがFACSによって測定されたことを示している一群のグラフである。マクロファージは表現型の点で可塑的な細胞であり、多様な機能的特徴を持つことができ、これは一般的にM1およびM2マクロファージ分類に分けられ、M1は炎症性/活性化性であり、M2は免疫抑制性/腫瘍促進性である。M1マーカーおよびM2マーカーを、Ad5f35 CARウイルスによる初代ヒトマクロファージの形質導入から48時間後に測定した。
図22B図22Bは、M1マーカーおよびM2マーカーに対する効果がCAR発現またはAd5f35形質導入の結果であったか否かを示している一連のグラフである。マクロファージの形質導入を、何も用いずに、空Ad5f35を用いて、または抗HER2 Ad5f35を用いて行ったところ、空/CAR Ad5f35は同じパターンの表現型推移を示した。
図22C図22Cは、抑制性サイトカインに曝露されたCARMAが、ルシフェラーゼを利用したインビトロ特異的溶解アッセイにおいて、48時間の時点でそれらの死滅活性を維持したことを示しているグラフである。対照UTDマクロファージを抑制性サイトカインにより条件付けしたところ、腫瘍増殖の強化が実証された。
図22D図22Dは、ヒトCARマクロファージ、対照UTD、空Ad5f35または抗HER2 CAR Ad5f35が形質導入されたマクロファージ、標準的なM2誘導性サイトカインである10ng/mLのIL-4、または共培養中にマクロファージをM2に転換させることが以前に示されているがん細胞(SKOV3、卵巣がん細胞株;HDLM2、ホジキンリンパ腫細胞株)の免疫抑制に対する抵抗性を示している一群のグラフである。対照UTDマクロファージは、STAT6リン酸化を介してIL-4刺激に特異的に応答するM2マーカーであるCD206をアップレギュレートした。空Ad5f35は、IL-4および腫瘍により誘導されるM2表現型への転換に対する抵抗性を呈し、CAR-Ad5f35形質導入マクロファージは、さらにそうであった。
図22E図22Eは、M2に極性化させるため(またはそうしないため)にIL-4に24時間曝露された対照UTDまたは抗HER2 CARマクロファージの代謝表現型、および酸素消費速度を示しているグラフである。
図22F図22Fは、CARMAがM2転換に対して抵抗性であることを指し示す表現型、代謝および機能アッセイを示しているグラフである。
図23A図23Aは、0(UTD)から1000までの範囲にわたるMOIでAd5f35-CAR-HER2を用いた形質導入を受けた初代ヒト正常ドナー単球(CD14陽性選択を介して精製)を示している一群のグラフである。CAR発現は形質導入後48時間時点でFACSを介して測定した。CAR単球はAd5f35によって効率的に作製され、発現はMOI 1000にピークがあった。
図23B図23Bは、初代単球の形質導入効率を示しているグラフである。
図23C図23Cは、単球が最大で1000までのMOIで高い生存度(FACS Live/Dead Aqua分析により測定)を維持したことを示しているグラフである。
図23D図23Dは、CARヒト単球が、非形質導入(UTD)ヒト単球とは異なり、M1活性化マーカーをアップレギュレートしたことを示している一連のグラフである。
図23E図23Eは、CARヒト単球が、非形質導入(UTD)ヒト単球とは異なり、M2マーカーをダウンレギュレートしたことを示している一連のグラフである。
図24図24Aは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイを介して評価した、HER2+ SKBR3細胞(ヒト乳がん)の抗HER2 CAR単球性死滅を示しているグラフである。図24Bは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイを介して評価した、HER2+ SKOV3細胞(ヒト卵巣がん)の抗HER2 CAR単球性死滅を示しているグラフである。
図25A図25Aは、ヒトHER2(+)卵巣がん異種移植片をインビボでモデル化するために用いたNOD-scid IL2Rg-null-IL3/GM/SF、NSG-SGM3(NSGS)マウスの模式図である。第0日にマウスに対して、固形悪性腫瘍の高悪性度で本質的に転移性のモデルである腹腔内癌腫症のモデルとして、7.5E5コメツキムシ緑色ルシフェラーゼ(CBG luc)陽性/緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性SKOV3卵巣がん細胞を腹腔内(IP)注射した。マウスには非投与(腫瘍のみ)とするか、または4E6非形質導入(UTD)ヒトマクロファージもしくはCAR-HER2(CARMA)ヒトマクロファージの単回用量を第0日にIP注射を介して注射した。
図25B図25Bは、腫瘍量の代用として生物発光(総フラックス;光子/秒)を用いて、マウスを継続的に画像化したことを示しているグラフである。
図25C図25Cは、CARMA投与を受けたマウスの生存率を示しているグラフである。CARMA投与を受けたマウスでは腫瘍量のおよそ2桁の減少がみられた。
図25D図25Dは、CARMAを投与されたマウスは、非投与マウスまたはUTDマクロファージを投与されたマウスと比べて、30日の延命効果(p=0.018)を有したことを示している一群の画像である。
図25E図25Eは、第36日に死亡したマウスから採取し、FACS分析でのヒトCD45発現を介して、養子移入したヒトマクロファージの存在に関して評価した腫瘍を示している一群のグラフである。
図26A図26Aは、非形質導入(UTD)であるか、または導入遺伝子を欠く空Ad5f35ビリオン(空)もしくはAd5f35-CAR-HER2-ζ(CARMA)を用いた感染多重度1000での形質導入を受けたかのいずれかであるヒトマクロファージの形質導入後48時間の時点で、FACS分析によって検証した表面CAR発現を示しているグラフである。
図26B図26Bは、空Ad5f35またはCAR-HER2-ζ Ad5f35のいずれかを用いた形質導入を受けた細胞におけるM1マクロファージ極性化を実証するために評価した表面マーカーを示している一群のグラフである。M1マーカー(HLA DR、CD86、CD80、PDL1)はアップレギュレートされたが、一方、M2マーカー(CD206、CD163)はダウンレギュレートされた。
図26C図26Cは、HER2+転移性卵巣がんのIPモデルに用い、4つの投与アーム(各アーム当たりn=5)に層別化したNSGSマウスの模式図である。マウスを非投与のままとするか、または1E7非形質導入マクロファージ、空-Ad5f35形質導入マクロファージ、もしくはCAR-HER2-ζ形質導入マクロファージのIP注射を第0日に行った。
図26D図26Dは、継続的な生物発光画像化を介してモニターした腫瘍量を、腫瘍生着後第27日に示された代表的なデータによって示している一群の画像である。
図26E図26Eは、継続的な生物発光画像化を介してモニターした腫瘍量を、腫瘍生着後第27日に示された代表的なデータによって示している一群のグラフである。
図27図27Aは、HER2+転移性卵巣がんのIPモデルに用い、投与を行わないこと、および3E6、1E7または2E7 CAR-HER2-ζヒトマクロファージのいずれかのIP投与を第0日に行うことで構成される4つの投与アーム(各アーム当たりn=5)に層別化したNSGSマウスの模式図を示している。図27Bは、継続的な生物発光画像化を介してモニターした腫瘍量を示しているグラフである。このモデルではマクロファージの数に対する用量依存的反応が観察された。図27Cは、マウス当たり3E6、1E7または2E7のマクロファージでのCAR-HER2マクロファージの単回投与が、生着後第36日までに用量依存的な腫瘍根絶(非投与マウスとの対比で)を導いたことを示しているグラフである。
図28図28は、CARMAに関して提唱される治療アプローチの説明図である。手短に述べると、患者単球を末梢血から選択し、エクスビボで分化させて、CARを発現するように形質導入を行い、相乗作用性化合物との共刺激を行って(または行わずに)、静脈内、腹腔内、腫瘍内、インターベンショナルラジオロジー手順、または他の経路のいずれかによる注射で患者に戻す。留意すべきこととして、分化過程を省いて単球に形質導入を行い、患者に注入して戻すこともできる。単球の供給源は、HLAを合致させたドナーであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
定義
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記述された方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を本発明の試験の実践において用いることができるが、好ましい材料および方法が本明細書において記述される。本発明を記述および主張するうえで、以下の専門用語が用いられる。
【0025】
本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0026】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)をいうように用いられる。例として、「1つの(an)要素」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0027】
量、時間的持続時間などのような測定可能な値をいう場合に本明細書において用いられる「約」は、規定値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおより好ましくは±0.1%のバラツキを包含するよう意図されるが、これはそのようなバラツキが、開示された方法を実施するのに適切なためである。
【0028】
本明細書において用いられる「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激された、またはそのエフェクター機能を発揮するように刺激された、単球/マクロファージの状態のことを指す。活性化は、誘導されたサイトカイン産生、食作用、細胞シグナル伝達、標的細胞死滅、または抗原のプロセシングおよび提示を伴うこともできる。「活性化された単球/マクロファージ」という用語は、特に、細胞分裂を起こしているか、またはエフェクター機能を発揮している単球/マクロファージのことを指す。
【0029】
「作用物質」、または「生物学的作用物質」または「治療用作用物質」という用語は、本明細書において、本明細書に記載の改変細胞によって発現される、放出される、分泌される、または標的へと送達される可能性のある分子を指して用いられる。作用物質には、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子(例えば、小分子)、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。作用物質は、標的上または標的細胞上に存在する任意の細胞部分、例えば受容体、抗原決定基または他の結合部位等と結合しうる。作用物質は散在してもよく、または細胞の中に輸送されて、そこでそれが細胞内で作用してもよい。
【0030】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子をいう。抗体は、天然供給源または組み換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであってもよく、無傷の免疫グロブリンの免疫反応性部分であってもよい。抗体は、典型的には、免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab')2、ならびに一本鎖抗体(scFv)およびヒト化抗体を含む、種々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York; Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0031】
「抗体断片」という用語は、無傷の抗体の一部分をいい、無傷の抗体の抗原決定可変領域をいう。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2およびFv断片、直鎖状抗体、scFv抗体、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0032】
本明細書において用いられる「抗体重鎖」は、天然に存在する立体配座にある全抗体分子中に存在する2つのタイプのポリペプチド鎖のうち大きい方をいう。
【0033】
本明細書において用いられる「抗体軽鎖」は、天然に存在する立体配座にある全抗体分子中に存在する2つのタイプのポリペプチド鎖のうち小さい方をいう。αおよびβ軽鎖は、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプをいう。
【0034】
本明細書において用いられる用語「合成抗体」とは、例えば、本明細書において記述されるバクテリオファージによって発現される抗体のような、組み換えDNA技術を用いて作製される抗体を意味する。この用語はまた、抗体タンパク質またはその抗体を規定するアミノ酸配列を発現する抗体コードDNA分子の合成によって作製された抗体であって、そのDNA配列またはアミノ酸配列が、利用可能でかつ当技術分野において周知であるDNA配列またはアミノ酸配列の合成技術を用いて得られた抗体も意味するとみなされるべきである。
【0035】
本明細書において用いられる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれうる。当業者は、事実上、全てのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として働きうることを理解するであろう。さらに、抗原は、組み換えDNAまたはゲノムDNAに由来することができる。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それゆえ、本明細書においてその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。さらに、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことを理解するであろう。本発明が、2つ以上の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を含むが、これに限定されないこと、およびこれらのヌクレオチド配列が、所望の免疫応答を誘発するために様々な組み合わせで配置されることは容易に明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要は全くないことを理解するであろう。抗原が生体サンプルから作製され、合成されまたは由来しうることは容易に明らかである。そのような生体サンプルは、組織サンプル、腫瘍サンプル、細胞または生体液を含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0036】
本明細書において用いられる「抗腫瘍効果」という用語は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少、転移の数の減少、平均余命の増加、またはがん性病状に付随する様々な生理的症状の改善によって明らかになりうる生物学的効果をいう。「抗腫瘍効果」は、腫瘍のそもそもの発生の予防における、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞および抗体の能力によっても明らかになりうる。
【0037】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、免疫系によって外来性であると認識される任意の自己抗原を意味する。自己抗原には、細胞表面受容体を含めて、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0038】
本明細書において用いられる「自己免疫疾患」という用語は、自己免疫応答から生じる障害と定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な応答の結果である。自己免疫疾患の例としては、とりわけ、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害性表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、尋常性白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0039】
本明細書において用いられる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ個体に由来する任意の材料をいうよう意図される。
【0040】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片をいう。
【0041】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片をいう。
【0042】
本明細書において用いられる「がん」という用語は、異常細胞の急速かつ制御不能な増殖によって特徴付けられる疾患と定義される。がん細胞は局所的に広がることもあれば、または血流およびリンパ系を通じて身体の他の部分に広がることもある。様々ながんの例としては、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膵臓がん、大腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がんなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。ある特定の態様において、がんは甲状腺髄様癌である。
【0043】
本明細書において用いられる「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、免疫エフェクター細胞上で発現されるように操作され、抗原に特異的に結合する人工T細胞表面受容体をいう。CARは、養子細胞移入を伴う療法として用いられうる。単球を患者(血液、腫瘍、または腹水)から取り出し、特定の形態の抗原に特異的な受容体を発現するように改変する。いくつかの態様において、CARは、例えば、腫瘍関連抗原に対する特異性をもって発現されている。CARは、細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン、および腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインも含みうる。いくつかの局面において、CARは、CD3ζ膜貫通および細胞内ドメインに融合された、一本鎖可変断片(scFv)由来モノクローナル抗体の融合体を含む。CARデザインの特異性は、受容体のリガンド(例えば、ペプチド)に由来しうる。いくつかの態様において、CARは、腫瘍関連抗原に特異的なCARを発現する単球/マクロファージを再度方向付けることによって、がんを標的とすることができる。
【0044】
「キメラ性細胞内シグナル伝達分子」という用語は、1つまたは複数の刺激分子および/または共刺激分子の1つまたは複数の細胞内ドメインを含む組換え受容体のことを指す。キメラ性細胞内シグナル伝達分子は、細胞外ドメインを実質的に欠いている。いくつかの態様において、キメラ性細胞内シグナル伝達分子は、さらなるドメイン、例えば膜貫通ドメイン、検出可能なタグ、およびスペーサードメインなどを含む。
【0045】
本明細書において用いられる場合、「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響または変化を与えないアミノ酸改変をいうよう意図される。そのような保存的改変には、アミノ酸置換、付加および欠失が含まれる。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発のような、当技術分野において公知の標準的な技法によって、本発明の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、抗体のCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基で置き換えることができ、この変化した抗体は、本明細書において記述される機能的アッセイ法を用い抗原結合能について試験することができる。
【0046】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書において用いられる場合、単球/マクロファージ上のコグネイト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、増殖、活性化、分化などを含むが、これらに限定されない、単球/マクロファージ応答を媒介するシグナルを与える、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。共刺激リガンドは、CD7、B7-1 (CD80)、B7-2 (CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3と特異的に結合するリガンドを含むことができるが、これらに限定されることはない。共刺激リガンドはまた、とりわけ、限定されるものではないが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1 (LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3のような単球/マクロファージ上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体、およびCD83と特異的に結合するリガンドも包含する。
【0047】
「共刺激分子」とは、最初の刺激を強めるかまたは弱めるために用いられる、自然免疫細胞上の分子のことを指す。例えば、病原体関連パターン認識受容体、例えばTLR(強める)またはCD47/SIRPα軸(弱める)などは、自然免疫細胞上の分子である。共刺激分子には、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、本明細書に記載の他の共刺激分子、それらの任意の誘導体、変異体、または断片、同じ機能的能力を有する、共刺激分子の任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。
【0048】
本明細書において用いられる「共刺激シグナル」とは、一次シグナル、例えばマクロファージ上のCARの活性化などとの組み合わせで、マクロファージの活性化を導くシグナルのことを指す。
【0049】
「細胞傷害性の」または「細胞傷害性」という用語は、細胞を死滅させるかまたは損傷させることを指す。1つの態様において、代謝的に強化された細胞の細胞傷害性は、例えば、マクロファージの増加した細胞溶解活性である。
【0050】
「疾患」は、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」は、その動物が恒常性を維持できるが、その動物の健康状態が障害のない場合よりも好ましくない健康状態である。未処置のまま放置されても、障害が必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0051】
「有効量」または「治療的有効量」は、本明細書において互換的に用いられ、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、または治療的もしくは予防的利益をもたらす、本明細書において記述される化合物、製剤、材料もしくは組成物の量のことを指す。そのような結果には、当技術分野において適当な任意の手段によって判定されるような抗腫瘍活性が含まれうるが、これに限定されることはない。
【0052】
「コードする」とは、定義されたヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)配列または定義されたアミノ酸配列のいずれかを有する、生物学的過程において他の重合体および高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAのような、ポリヌクレオチドにおける特定のヌクレオチド配列の固有の特性ならびにそれに起因する生物学的特性をいう。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり通常は配列表に示されるヌクレオチド配列であるコード鎖も、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖もともに、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードするということができる。
【0053】
本明細書において用いられる場合、「内因性」とは、生物、細胞、組織もしくは系の内部に由来するか、またはそれらの内部で産生される、任意の材料をいう。
【0054】
本明細書において用いられる場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系の外部から導入されるか、またはそれらの外部で産生される、任意の材料をいう。
【0055】
本明細書において用いられる「増大する」という用語は、単球/マクロファージの数の増加のように、数が増加することをいう。1つの態様において、エクスビボで増大した単球/マクロファージは、培養物中に当初存在している数と比べて数が増加する。別の態様において、エクスビボで増大した単球/マクロファージは、培養物中の他の細胞型と比べて数が増加する。本明細書において用いられる「エクスビボ」という用語は、生物(例えば、ヒト)から取り出され、生物の外側で(例えば、培養皿、試験管、またはバイオリアクタ中で)増殖された細胞をいう。
【0056】
本明細書において用いられる「発現」という用語は、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0057】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組み換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用性エレメントを含む; 発現のための他のエレメントは宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組み換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)ならびにウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような、当技術分野において公知の全てのものが含まれる。
【0058】
本明細書において用いられる「相同性」とは、2つの重合体分子間の、例えば、2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子のような、2つの核酸分子間の、または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性をいう。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が同じ単量体サブユニットによって占められている場合; 例えば、2つのDNA分子の各々における位置がアデニンによって占められているなら、それらはその位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致しているまたは相同である位置の数の一次関数である; 例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10サブユニット長の重合体における5つの位置)が相同であるなら、2つの配列は50%相同であり; 位置の90% (例えば、10中9)が一致しているまたは相同であるなら、2つの配列は90%相同である。核酸またはタンパク質に対して適用される場合、本明細書において用いられる「相同な」とは、約50%の配列同一性を有する配列のことを指す。より好ましくは、相同配列は約75%の配列同一性を有し、さらにより好ましくは少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する。
【0059】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含んだキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2または抗体の他の抗原結合部分配列のような)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、持ち込まれたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含むことができる。これらの改変は、抗体性能をさらに改良かつ最適化するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、かつFR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つの、および典型的には2つの、可変ドメインの実質的に全てを含む。また、ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれを含む。さらなる詳細については、Jones et al., Nature, 321: 522-525, 1986; Reichmann et al., Nature, 332: 323-329, 1988; Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 2: 593-596, 1992を参照されたい。
【0060】
「完全ヒト」とは、分子全体がヒト由来であるか、または抗体のヒト形態と同一のアミノ酸配列からなる、抗体のような、免疫グロブリンをいう。
【0061】
本明細書において用いられる「同一性」とは、2つのポリペプチド分子間のような、2つの重合体分子間の、特に2つのアミノ酸分子間のサブユニット配列同一性をいう。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する場合; 例えば、2つのポリペプチド分子の各々における位置がアルギニンによって占められているなら、それらはその位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアライメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する程度または同一性は、百分率として表現されることが多い。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致しているまたは同一である位置の数の一次関数である; 例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10アミノ酸長の重合体における5つの位置)が同一であるなら、2つの配列は50%同一であり; 位置の90% (例えば、10中9)が一致しているまたは同一であるなら、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0062】
「実質的に同一な」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチド分子または核酸分子を意味する。好ましくは、そのような配列は、比較のために用いられる配列に対して、アミノ酸レベルまたは核酸について、少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、より好ましくは90%、95%またはさらには99%同一である。
【0063】
ガイド核酸配列は、二本鎖DNA標的部位の一方の鎖(ヌクレオチド配列)に対して相補的であってよい。ガイド核酸配列と標的配列との間の相補性のパーセンテージは、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、63%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%でありうる。ガイド核酸配列は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35個またはそれを上回るヌクレオチドの長さでありうる。いくつかの態様において、ガイド核酸配列は、10~40個のヌクレオチドの連続したひと続きである。可変ターゲティングドメインは、DNA配列、RNA配列、改変されたDNA配列、改変されたRNA配列(例えば、本明細書に記載の改変を参照)、またはそれらの任意の組み合わせで構成されうる。
【0064】
配列同一性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705のSequence Analysis Software Package、BLAST、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラムなど)を用いて測定される。そのようなソフトウェアは、さまざまな置換、欠失、および/または他の改変に対して相同性の度合いを指定することによって、同一または類似の配列をマッチングさせる。保存的置換には、典型的には、以下の群の中での置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。同一性の度合いを決定するための1つの例示的なアプローチでは、BLASTプログラムを用いることができ、e-3~e-100の間にある確率スコアは類縁性のある配列であることを指し示す。
【0065】
本明細書において用いられる「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現される抗体は、BCR (B細胞受容体)または抗原受容体といわれることもある。このタンパク質のクラスに含まれる5つの成員は、IgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物のような、身体分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な循環血中抗体である。IgMは、ほとんどの対象で一次免疫応答において産生される主要な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体固定および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御において重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として働いている可能性がある。IgEは、アレルゲンに対する曝露時に肥満細胞および好塩基球からのメディエータの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0066】
本明細書において用いられる「免疫応答」という用語は、リンパ球が抗原分子を異物と同定し、抗体の形成を誘導し、および/またはリンパ球を活性化して抗原を除去する場合に起きる抗原に対する細胞応答と定義される。
【0067】
本明細書において用いられる場合、「説明材料(instructional material)」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用できる刊行物、記録、略図または他の任意の表現媒体を含む。本発明のキットの説明材料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に添付されてもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と一緒に出荷されてもよい。あるいは、説明材料および化合物がレシピエントによって共同的に用いられることを意図して、説明材料は容器とは別に出荷されてもよい。
【0068】
「単離された」とは、天然の状態から変えられたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、または例えば、宿主細胞のような、非天然環境で存在することができる。
【0069】
本明細書において用いられる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属をいう。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できるという点で、レトロウイルスの中でも独特である; それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVは全て、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0070】
本明細書において用いられる用語「改変された」とは、本発明の分子または細胞の変化した状態または構造を意味する。分子は化学的に、構造的に、および機能的になど、多くの方法で改変されうる。細胞は、核酸の導入によって改変されうる。
【0071】
本明細書において用いられる用語「調節する」とは、処置もしくは化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが処置を受けていない対象における応答のレベルと比較して、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は対象、好ましくはヒトにおいて、天然のシグナルもしくは応答をかく乱させ、および/またはそれに影響を与え、それにより有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0072】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基に関する以下の略語が用いられる。「A」はアデノシンをいい、「C」はシトシンをいい、「G」はグアノシンをいい、「T」はチミジンをいい、および「U」はウリジンをいう。
【0073】
特別の定めのない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型である、かつ同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。RNAまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列という語句はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、型によっては、イントロンを含みうる程度までイントロンを含みうる。
【0074】
「機能的に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現を結果的にもたらす、機能的連結をいう。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列との機能的関係の下で配置されている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与えるなら、プロモーターはコード配列に機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されたDNA配列は連続的であり、2つのタンパク質コード領域をつなぎ合わせることが必要な場合、同じ読み枠の中にある。
【0075】
「過剰発現された」腫瘍抗原または腫瘍抗原の「過剰発現」という用語は、患者の特定の組織または臓器の内部にある固形腫瘍のような疾患領域からの細胞における腫瘍抗原の発現が、その組織または臓器からの正常細胞における発現のレベルと比べて異常なレベルであることを示すよう意図される。腫瘍抗原の過剰発現によって特徴付けられる固形腫瘍または血液悪性腫瘍を有する患者は、当技術分野において公知の標準的なアッセイ法によって判定することができる。
【0076】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、腫瘍内(i.t.)もしくは腹腔内(i.p.)、もしくは胸骨内注射、または輸注法が含まれる。
【0077】
本明細書において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸はヌクレオチドの重合体である。したがって、本明細書において用いられる核酸およびポリヌクレオチドは互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それらは単量体「ヌクレオチド」に加水分解されうるという一般知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されうる。本明細書において用いられる場合、ポリヌクレオチドには、非限定的に、組み換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを用いた組み換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングを含む、当技術分野において利用可能な任意の手段により、ならびに合成手段により得られる全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0078】
本明細書において用いられる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は互換的に用いられ、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基で構成される化合物をいう。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互につなぎ合わされた2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において用いられる場合、この用語は、例えば、当技術分野において一般的にはペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーともいわれる短鎖と、当技術分野において一般にタンパク質といわれる長鎖の両方をいい、そのなかには多くのタイプがある。「ポリペプチド」には、とりわけ、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変種、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0079】
本明細書において用いられる「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始させるために必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列と定義される。
【0080】
本明細書において用いられる場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に機能的に連結された遺伝子産物の発現のために必要とされる核酸配列を意味する。ある場合には、この配列はコアプロモーター配列であってよく、他の場合には、この配列はエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節エレメントを含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を発現させるものであってもよい。
【0081】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、細胞のほとんどまたは全ての生理学的条件の下で、遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0082】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的にはプロモーターに対応する誘導因子が細胞内に存在する場合にのみ遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0083】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするまたは遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的には細胞が、プロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0084】
「免疫抑制に対して抵抗性」という用語は、免疫系の活性または活性化の抑制が欠如していることまたは抑制が低下していることを意味する。
【0085】
「シグナル伝達経路」は、細胞のある部分から細胞の別の部分へのシグナルの伝達において役割を果たす種々のシグナル伝達分子間の生化学的関係をいう。「細胞表面受容体」という語句は、シグナルを受け取り、細胞の原形質膜を越えてシグナルを伝達しうる分子および分子の複合体を含む。
【0086】
「一本鎖抗体」とは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖断片が、操作されたアミノ酸の長さを介してFv領域に連結されている、組み換えDNA技法によって形成された抗体をいう。米国特許第4,694,778号; Bird (1988) Science 242:423-442; Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Ward et al. (1989) Nature 334:54454; Skerra et al. (1988) Science 242:1038-1041に記述されているものを含めて、一本鎖抗体を作製する様々な方法が知られている。
【0087】
抗体に関して本明細書において用いられる用語「特異的に結合する」とは、特異的抗原を認識するが、サンプル中の他の分子を実質的に認識または結合しない抗体を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体が、1つまたは複数の種由来のその抗原に結合してもよい。しかし、そのような異種間反応性はそれ自体で、特異的としての抗体の分類を変化させることはない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗体が、その抗原の異なる対立遺伝子型に結合してもよい。しかし、そのような交差反応性はそれ自体で、特異的としての抗体の分類を変化させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関連して用い、相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味してもよい; 例えば、抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的であるなら、エピトープAを含む分子(または遊離した、標識されていないA)の存在は、標識された「A」およびその抗体を含む反応において、その抗体に結合した標識されたAの量を減らすであろう。
【0088】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合し、それによって、限定されるものではないが、Fc受容体機構を介するまたは人工CARを介するシグナル伝達のような、シグナル伝達事象を媒介することにより誘導される、一次応答を意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再編成などのような、ある特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0089】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイト刺激リガンドと特異的に結合する、単球/マクロファージ上の分子を意味する。
【0090】
本明細書において用いられる「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)または腫瘍細胞上に存在する場合、単球/マクロファージ上のコグネイト結合パートナー(本明細書において「刺激分子」といわれる)と特異的に結合でき、それによって、活性化、免疫応答の開始、増殖などを含むが、これらに限定されない、免疫細胞による応答を媒介するリガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、Toll様受容体(TLR)リガンド、抗toll様受容体抗体、アゴニスト、および、単球/マクロファージ受容体に対する抗体を包含する。加えて、インターフェロンγなどのサイトカインは、マクロファージに対する強力な刺激物質である。
【0091】
「対象」という用語は、免疫応答が誘発されうる生物(例えば、哺乳動物)を含むよう意図される。本明細書において用いられる「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物でありうる。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよびネズミ哺乳動物のような、家畜およびペットが含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0092】
本明細書において用いられる場合、「実質的に精製された」細胞は、他の細胞型を本質的に含まない細胞である。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態において通常結び付いている他の細胞型から分離された細胞をいう。ある例では、実質的に精製された細胞の集団とは、均質な細胞集団をいう。他の例では、この用語は、単に、天然の状態において通常結び付いている細胞から分離された細胞をいう。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロで培養されない。
【0093】
「標的部位」または「標的配列」とは、結合が起きるのに十分な条件の下で結合分子が特異的に結合しうる核酸の一部分を規定するゲノム核酸配列をいう。
【0094】
「標的」は、体内にある処置が必要な細胞、臓器、または部位を意味する。
【0095】
本明細書において用いられる場合、「T細胞受容体」または「TCR」という用語は、抗原の提示に応答してT細胞の活性化に関与する膜タンパク質の複合体をいう。TCRは、主要組織適合遺伝子複合体分子に結合した抗原を認識する役割を担う。TCRは、アルファ(a)およびベータ(β)鎖のヘテロ二量体から構成されるが、一部の細胞ではTCRはガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖からなる。TCRは、構造的に類似しているが、異なる解剖学的位置および機能を有するα/βおよびγ/δ形態で存在しうる。各鎖は、2つの細胞外ドメイン、つまり可変ドメインおよび定常ドメインから構成される。いくつかの態様において、TCRは、TCRを含む任意の細胞(例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、記憶T細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、およびγδT細胞を含む)上で改変されうる。
【0096】
本明細書において用いられる「治療的」という用語は、処置および/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0097】
本明細書において用いられる「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクションされた、形質転換された、または形質導入されたものである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0098】
疾患を「処置する」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、対象が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0099】
本明細書において用いられる「腫瘍」という用語は、良性、前癌性、悪性、または転移性でありうる、組織の異常な成長を意味する。
【0100】
本明細書において用いられる「転写制御下」または「機能的に連結された」という語句は、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するためにプロモーターがポリヌクレオチドに関して正しい位置および方向にあることを意味する。
【0101】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、かつ単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用できる組成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結び付いたポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを含むが、これらに限定されない、多数のベクターが当技術分野において公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えばポリリジン化合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性の化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0102】
範囲: 本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式の記述は、単に簡便にするためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限と解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、可能な全ての部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を具体的に開示したものとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0103】
説明
蓄積されつつある証拠により、マクロファージが数多くのがんの腫瘍微小環境に大量に存在し、そこでそれらが古典的に活性化された(M1、抗腫瘍性)または代替的に活性化された(M2、腫瘍促進性)表現型をとりうることが示唆されている。マクロファージは自然免疫系の強力なエフェクターであり、食作用、細胞性細胞傷害作用、および適応免疫応答を調整するための抗原提示という、少なくとも3種の別個の抗腫瘍機能を果たすことができる。T細胞はT細胞受容体またはキメラ免疫受容体を介する抗原依存性活性化を必要とするが、マクロファージは種々の様式で活性化されうる。直接的なマクロファージ活性化は抗原非依存的であり、Toll様受容体(TLR)による病原体関連分子パターン認識に依拠している。免疫複合体媒介性活性化は抗原依存的であるが、抗原特異的抗体の存在および抑制性CD47-SIRPα相互作用の欠如を必要とする。
【0104】
腫瘍関連マクロファージは、腫瘍微小環境によってリプログラミング可能であって、微小環境における重要な免疫抑制の働き手となることが示されている。したがって、免疫抑制的な遺伝子リプログラミングの発生を防ぐためにマクロファージを遺伝的に操作することができれば、この分野における垂直的進歩となる。
【0105】
本発明は、対象における悪性腫瘍を処置するための組成物および方法を含む。本発明は、単球、マクロファージまたは樹状細胞におけるキメラ抗原受容体の発現を含む。そのような改変細胞は腫瘍微小環境に動員されて、そこでそれは腫瘍に浸潤して標的細胞を死滅させることによって強力な免疫エフェクターとして作用する。
【0106】
キメラ抗原受容体(CAR)
本発明の1つの局面においては、改変された単球、マクロファージまたは樹状細胞が、その中でCARを発現させることによって作製される。したがって、本発明は、CARおよびCARをコードする核酸構築物を範囲に含み、ここでCARは抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含む。
【0107】
1つの局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含み、ここでCARは、原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、細胞は、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。別の局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む改変細胞を含み、核酸配列は、原結合ドメインをコードする核酸配列と、膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、共刺激分子の細胞内ドメインをコードする核酸配列とを含み、細胞は、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。1つの態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、CARの抗原結合ドメインと特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる。別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される。
【0108】
抗原結合ドメイン
1つの態様において、本発明のCARは、標的細胞上の抗原と結合する抗原結合ドメインを含む。CARの抗原結合ドメインと結合する抗原として作用しうる細胞表面マーカーの例には、ウイルス感染症、細菌感染症および寄生虫感染症、自己免疫疾患ならびにがん細胞と関連するものが含まれる。
【0109】
抗原結合ドメインの選択は、標的細胞の表面に存在する抗原の型および数に依存する。例えば、抗原結合ドメインを、特定の疾患状態と関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用する抗原を認識するように選択してもよい。
【0110】
1つの態様において、抗原結合ドメインは、腫瘍抗原、例えば関心対象の腫瘍またはがんに特異的な抗原等と結合する。1つの態様において、本発明の腫瘍抗原は1つまたは複数の抗原性がんエピトープを含む。腫瘍関連抗原の非限定的な例は、以下を含む:CD19;CD123;CD22;CD30;CD171;CS-1(CD2サブセット1、CRACC、SLAMF7、CD319および19A24とも称される);C型レクチン様分子-1(CLL-1またはCLECL1);CD33;上皮増殖因子受容体変異体III(EGFRvIII);ガングリオシドG2(GD2);ガングリオシドGD3(aNeu5Ac(2-8)aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-1)Cer);TNF受容体ファミリーメンバーB細胞成熟(BCMA);Tn抗原((Tn Ag)または(GalNAcα-Ser/Thr));プロテアーゼ特異的膜抗原(PSMA);受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1);Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3);腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72);CD38;CD44v6;がん胎児性抗原(CEA);上皮細胞接着分子(EPCAM);B7H3(CD276);KIT(CD117);インターロイキン-13受容体サブユニットα-2(IL-13Ra2またはCD213A2);メソテリン;インターロイキン11受容体α(IL-11Ra);前立腺幹細胞抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21(テスチシン(Testisin)またはPRSS21);血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体β(PDGFR-β);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);CD20;葉酸受容体α;受容体チロシン-プロテインキナーゼERBB2(Her2/neu);ムチン1、細胞表面関連(MUC1);上皮増殖因子受容体(EGFR);神経細胞接着分子(NCAM);プロスターゼ(Prostase);前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);伸長因子2突然変異型(ELF2M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質α(FAP);インスリン様増殖因子1受容体(IGF-I受容体)、炭酸脱水酵素IX(CAIX);プロテアソーム(プロソーム、マクロパイン)サブユニット、β型、9(LMP2);糖タンパク質100(gp100);切断点クラスター領域(BCR)およびエーベルソンマウス白血病ウイルスがん遺伝子ホモログ1(Abl)からなるがん遺伝子融合タンパク質(bcr-abl);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3(aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-1)Cer);トランスグルタミナーゼ5(TGS5);高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-GD2ガングリオシド(OAcGD2);葉酸受容体β;腫瘍内皮マーカー1(TEM1/CD248);腫瘍内皮マーカー7関連物(TEM7R);クローディン6(CLDN6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);globoHグリコセラミド(GloboH)の六糖部分;乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体β3(ADRB3);パンネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合体、座位K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCR γ選択的リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);がん/精巣抗原1(NY-ESO-1);がん/精巣抗原2(LAGE-1a);黒色腫関連抗原1(MAGE-A1);染色体12pに位置するETS転座変異体遺伝子6(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリー、メンバー1A(XAGE1);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie 2);黒色腫がん精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫がん精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパク質p53(p53);p53突然変異体;プロステイン;サバイビン(surviving);テロメラーゼ;前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1またはガレクチン8)、T細胞1によって認識される黒色腫抗原(メランAまたはMART1);ラット肉腫(Ras)突然変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害因子(ML-IAP);ERG(膜貫通型プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;v-mycトリ骨髄細胞腫ウイルスがん遺伝子神経芽腫由来ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2);シトクロムP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様(BORISまたはBrother of the Regulator of Imprinted Sites)、T細胞3によって認識される扁平上皮細胞がん抗原(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OY-TES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫、X切断点2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス1(RU1);腎臓ユビキタス2(RU2);レグマイン;ヒト乳頭腫ウイルスE6(HPV E6);ヒト乳頭腫ウイルスE7(HPV E7);腸管カルボキシルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2突然変異型(mut hsp70-2);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体のFc断片(FCARまたはCD89);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);および免疫グロブリンλ様ポリペプチド1(IGLL1)。
【0111】
抗原結合ドメインは、抗原と結合する任意のドメインを含むことができ、それにはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト抗体、およびそれらの任意の断片が非限定的に含まれうる。したがって、1つの態様において、抗原結合ドメイン部分は哺乳動物抗体またはその断片を含む。別の態様において、CARの抗原結合ドメインは、抗CD19抗体、抗HER2抗体、およびそれらの断片からなる群より選択される。
【0112】
場合によっては、抗原結合ドメインは、CARが最終的に用いられることになるものと同じ種に由来する。例えば、ヒトに用いる目的には、CARの抗原結合ドメインは、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはそれらの断片を含む。
【0113】
本発明のいくつかの局面において、抗原結合ドメインは、CARの別のドメインに、例えば、膜貫通ドメインまたは細胞内ドメインに、細胞における発現のために機能的に連結されている。1つの態様において、抗原結合ドメインをコードする核酸は、膜貫通ドメインをコードする核酸および細胞内ドメインをコードする核酸と機能的に連結されている。
【0114】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、CARは、CARの抗原結合ドメインを細胞内ドメインと接続する膜貫通ドメインを含むように設計することができる。1つの態様において、膜貫通ドメインは、CARにおけるドメインの1つまたは複数に天然に付随する。場合によっては、膜貫通ドメインを、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を避けるように選択すること、またはそのためのアミノ酸置換によって選択もしくは改変することもできる。
【0115】
膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源のいずれに由来してもよい。供給源が天然である場合には、ドメインは任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来しうる。本発明において特に有用性のある膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、およびTLR9に由来しうる(すなわち、それらの少なくとも膜貫通領域を含む)。場合によっては、ヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジを含む、種々のヒトヒンジも用いることができる。
【0116】
1つの態様において、膜貫通ドメインは合成性であってもよく、この場合には、それは主として、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含むと考えられる。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に認められるであろう。
【0117】
細胞内ドメイン
CARの細胞内ドメイン、または別の言い方では細胞質ドメインは、本明細書の他所に記載されるキメラ性細胞内シグナル伝達分子と類似したまたは同一の細胞内ドメインを含み、CARが発現される細胞の活性化の原因となる。
【0118】
1つの態様において、CARの細胞内ドメインは、シグナル活性化および/または形質導入の原因となるドメインを含む。
【0119】
本発明に用いるための細胞内ドメインの例には、表面受容体の細胞質部分、共刺激分子、および、単球、マクロファージ、または樹状細胞においてシグナル伝達を惹起するように協調的に作用する任意の分子、ならびにこれらの要素の任意の誘導体または変異体および同じ機能的能力を有する任意の合成配列が含まれるがこれらに限定されない。
【0120】
細胞内ドメインの例には、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、一般的なFcRγ、FcRβ(Fcε R1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、本明細書に記載の他の共刺激分子、それらの任意の誘導体、変異体または断片、同じ機能的能力を有する、共刺激分子の任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせを非限定的に含む、1つまたは複数の分子または受容体由来の断片またはドメインが含まれる。
【0121】
1つの態様において、CARの細胞内ドメインは、二重シグナル伝達ドメイン、例えば41BB、CD28、ICOS、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、TLR11、CD116受容体β鎖、CSF1-R、LRP1/CD91、SR-A1、SR-A2、MARCO、SR-CL1、SR-CL2、SR-C、SR-E、CR1、CR3、CR4、デクチン1、DEC-205、DC-SIGN、CD14、CD36、LOX-1、CD11bを、任意の組み合わせで、上記の段落に列記されたシグナル伝達ドメインのいずれかと共に含む。別の態様において、CARの細胞内ドメインは、1つまたは複数の共刺激分子の任意の部分、例えば、CD3、FcεRIγ鎖由来の少なくとも1つのシグナル伝達ドメイン、それらの任意の誘導体または変異体、同じ機能的能力を有するそれらの任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせを含む。
【0122】
CARの抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞内ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサードメインを組み入れてもよい。本明細書で用いる場合、「スペーサードメイン」という用語は、一般に、膜貫通ドメインを、ポリペプチド鎖中の抗原結合ドメインまたは細胞内ドメインのいずれかと連結させる働きをする任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドのことを意味する。1つの態様において、スペーサードメインは、最大で300アミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸で構成される。別の態様において、短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカー、好ましくは長さが2~10アミノ酸であるものが、CARの膜貫通ドメインと細胞内ドメインとの間の連結を形成してもよい。リンカーの一例には、グリシン-セリンダブレットが含まれる。
【0123】
ヒト抗体
CARの抗原結合ドメインを用いる場合には、ヒト抗体またはその断片を用いることが好ましいと考えられる。ヒト対象の治療的処置のためには、完全ヒト抗体が特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いるファージディスプレイ法を、これらの手法の改良法と併せて含む、当技術分野において公知の種々の方法によって作製することができる。また、米国特許第4,444,887号および第4,716,111号;ならびにPCT公開公報第WO 98/46645号、WO 98/50433号、WO 98/24893号、WO 98/16654号、WO 96/34096号、WO 96/33735号およびWO 91/10741号も参照されたい;これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0124】
また、ヒト抗体を、機能的内因性免疫グロブリンを発現する能力はないがヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することはできるトランスジェニックマウスを用いて産生させることもできる。例えば、ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体を、無作為に、または相同組換えによって、マウス胚性幹細胞に導入することができる。または、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子に加えて、ヒト可変領域、定常領域、および多様性領域をマウス胚性幹細胞に導入することもできる。マウス重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入と別々または同時に、非機能性にすることができる。例えば、キメラマウスおよび生殖系列突然変異型マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。この改変された胚性幹細胞を増やし、胚盤胞に微量注入してキメラマウスを生じさせる。続いて、キメラマウスを交配させて、ヒト抗体を発現するホモ接合性子孫を生じさせる。トランスジェニックマウスに対して、通常の様式で、選択された抗原、例えば、本発明のポリペプチドの全体または一部分による免疫処置を行う。免疫処置を行ったトランスジェニックマウスから、選択した標的に対して方向付けられた抗体を、従来のハイブリドーマ技術を用いて入手することができる。トランスジェニックマウスによって保有されるヒト免疫グロブリン導入遺伝子はB細胞分化の際に再編成され、その後にクラススイッチおよび体細胞突然変異を起こす。したがって、そのような手法を用いて、IgG1(γ1)およびIgG3を非限定的に含む、治療的に有用なIgG、IgA、IgMおよびIgE抗体を産生させることが可能である。ヒト抗体を産生させるためのこの技術の概略については、Lonberg and Huszar(Int. Rev. Immunol, 13:65-93 (1995))を参照されたい。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を産生させるためのこの技術の詳細な考察、ならびにそのような抗体を産生させるためのプロトコールについては、例えば、PCT公開公報第WO 98/24893号、WO 96/34096号およびWO 96/33735号;ならびに米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;および第5,939,598号も参照されたく、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。加えて、Abgenix, Inc.(Freemont, Calif.)およびGenpharm(San Jose, Calif.)などの会社と、選択した抗原に対して方向付けられたヒト抗体を、上記のものに類似した技術を用いて得るための契約を結ぶこともできる。抗原負荷刺激によってヒト抗体の産生がもたらされると考えられる、生殖系列突然変異型マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入に関する具体的な考察については、例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993);Bruggermann et al., Year in Immunol, 7:33 (1993);およびDuchosal et al., Nature, 355:258 (1992)を参照されたい。
【0125】
また、ヒト抗体を、ファージディスプレイライブラリーから導き出すこともできる(Hoogenboom et al., J. Mol. Biol, 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991);Vaughan et al., Nature Biotech., 14:309 (1996))。ファージディスプレイ技術(McCafferty et al., Nature, 348:552-553 (1990))は、免疫処置を受けていないドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロでヒト抗体および抗体断片を産生させるために用いることができる。この手法によれば、抗体Vドメイン遺伝子を、糸状バクテリオファージ、例えばM13またはfdの主要コートタンパク質またはマイナーコートタンパク質の遺伝子中にインフレームでクローニングして、ファージ粒子の表面上に機能的抗体断片として提示させる。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づく選択により、それらの特性を呈する抗体をコードする遺伝子の選択ももたらされる。このため、ファージはB細胞のいくつかの特性を模倣する。ファージディスプレイは種々のフォーマットで行うことができる;それらの概説については、Johnson, Kevin S, and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源をファージディスプレイに用いることができる。Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)は、免疫処置を受けたマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模なランダムコンビナトリアルライブラリーから、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離している。免疫処置を受けていないヒトドナーからV遺伝子のレパートリーを構築して、抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を、本質的にはMarks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J., 12:725-734 (1993)に記載された手法に従って単離することができる。米国特許第5,565,332号および第5,573,905号も参照されたく、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0126】
また、ヒト抗体をインビトロ活性化B細胞によって作製することもできる(米国特許第5,567,610号および第5,229,275号を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。また、ヒト抗体を、限定はされないが、Roder et al.(Methods Enzymol, 121:140-167 (1986))によって記載されたものなどのハイブリドーマ手法を用いてインビトロで作製することもできる。
【0127】
ヒト化抗体
または、いくつかの態様においては、非ヒト抗体をヒト化することができ、この場合には、抗体の特定の配列または領域を、ヒトにおいて天然に産生される抗体との類似性を高めるために改変する。例えば、本発明において、抗体またはその断片は非ヒト哺乳動物scFvを含みうる。1つの態様において、抗原結合ドメイン部分はヒト化される。
【0128】
ヒト化抗体は、以下のものを非限定的に含む、当技術分野において公知の種々の手法を用いて生成させることができる:CDRグラフティング(例えば、欧州特許第EP 239,400号;国際公開公報第WO 91/09967号;ならびに米国特許第5,225,539号、第5,530,101号および第5,585,089号を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、ベニヤリング(veneering)またはリサーフェイシング(resurfacing)(例えば、欧州特許第EP 592,106号および第EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology 28(4/5):489-498;Studnicka et al., 1994, Protein Engineering 7(6):805-814;およびRoguska et al., 1994, Proc Natl Acad Sci USA 91:969-973を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、チェーンシャッフリング(chain shuffling)(例えば、米国特許第5,565,332号を参照。これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、ならびに例えば、米国特許出願公開第US2005/0042664号、米国特許出願公開第US2005/0048617号、米国特許第6,407,213号、米国特許第5,766,886号、国際公開公報第WO 9317105号、Tan et al., J. Immunol, 169: 1119-25 (2002), Caldas et al., Protein Eng., 13(5):353-60 (2000), Morea et al., Methods, 20(3):267-79 (2000), Baca et al., J. Biol. Chem., 272(16):10678-84 (1997), Roguska et al., Protein Eng., 9(10):895-904 (1996), Couto et al., Cancer Res., 55 (23 Supp):5973s-5977s (1995), Couto et al., Cancer Res., 55(8): 1717-22 (1995), Sandhu J S, Gene, 150(2):409-10(1994)、およびPedersen et al., J. Mol. Biol, 235(3):959-73 (1994)に開示された手法、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。多くの場合、フレームワーク領域におけるフレームワーク残基は、抗原結合を変更するため、好ましくは改善するために、CDRドナー抗体由来の対応する残基によって置換されると考えられる。これらのフレームワーク置換は、当技術分野において周知の方法によって、例えば抗原結合にとって重要なフレームワーク残基を同定するためにCDRとフレームワーク残基との相互作用をモデリングすることによって、および特定の位置にある異常なフレームワーク残基を同定するために配列比較によって同定される(例えば、Queen et al., 米国特許第5,585,089号;およびRiechmann et al., 1988, Nature, 332:323を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0129】
ヒト化抗体は、非ヒト性である供給源からその中に導入された、1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「インポート」残基と称され、典型的には「インポート」可変ドメインから採られる。したがって、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリン分子由来の1つまたは複数のCDR、およびヒト由来のフレームワーク領域を含む。抗体のヒト化は当技術分野において周知であり、本質的にはWinterらの方法(Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature, 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988))に従って、ヒト抗体の対応する配列を齧歯動物のCDRまたはCDR配列へと置換すること、すなわち、CDRグラフティング(EP 239,400号;PCT公開公報第WO 91/09967号;および米国特許第4,816,567号;第6,331,415号;第5,225,539号;第5,530,101号;第5,585,089号;第6,548,640号。これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)によって行うことができる。そのようなヒト化キメラ抗体では、実質的にインタクトではないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている。実際上は、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくはいくつかのフレームワーク(FR)残基が、齧歯動物抗体における類似部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。また、抗体のヒト化を、ベニヤリングもしくはリサーフェイシング(EP 592,106号;EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology, 28(4/5):489-498;Studnicka et al., Protein Engineering, 7(6):805-814 (1994);およびRoguska et al., PNAS, 91:969-973 (1994))またはチェーンシャッフリング(米国特許第5,565,332号)によって達成することもでき、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0130】
ヒト化抗体を作製する上で用いられる、軽鎖および重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低下させることを目的とする。いわゆる「ベストフィット」法に従って、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。続いて、齧歯動物のものに最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れる(Sims et al., J. Immunol, 151:2296 (1993);Chothia et al., J. Mol. Biol, 196:901 (1987)、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。もう1つの方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを用いる。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に用いることができる((Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0131】
抗体はヒト化することができ、これは、標的抗原に対する高い親和性保持し、かつ他の有利な生物学的特性を有する。本発明の1つの局面によれば、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いた親配列およびさまざまな概念上のヒト化産物の分析の過程によって、ヒト化抗体が調製される。免疫グロブリンの三次元モデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列に関して可能性のある三次元立体構造を図示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検討により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の考えられる役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原と結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。このようにして、標的抗原に対する親和性の増加といった所望の抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント配列およびインポート配列から選択し、組み合わせることができる。一般に、CDR残基は、抗原結合に影響を及ぼすことに直接かつ最も実質的に関与している。
【0132】
ヒト化抗体は、元の抗体と類似の抗原特異性を保っている。しかし、ある特定のヒト化方法を用いると、標的抗原に対する抗体の結合の親和性および/または特異性を、その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、Wu et al., J. Mol. Biol, 294:151 (1999)によって記載されたような「定方向進化」の方法を用いて高めることができる。
【0133】
ベクター
本明細書において他所に記載されたような単球、マクロファージまたは樹状細胞にCARを導入するために、ベクターを用いてもよい。1つの局面において、本発明は、本明細書に記載されたようなCARをコードする核酸配列を含むベクターを含む。1つの態様において、ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロトランスポゾン(例えば、piggyback、sleeping beauty)、部位特異的挿入ベクター(例えば、CRISPR、Znフィンガーヌクレアーゼ、TALEN)、または自殺発現ベクター、または当技術分野において公知の他のベクターを含む。
【0134】
上述したすべての構築物は、ヒト細胞に用いることが認可されている、第3世代レンチウイルスベクタープラスミド、他のウイルスベクター、またはRNAとともに用いることができる。1つの態様において、ベクターは、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターである。別の態様において、ベクターはRNAベクターである。
【0135】
本明細書に記載の分子の任意のものの作製は、シークエンシングによって検証することができる。完全長タンパク質の発現は、イムノブロット、免疫組織化学、フローサイトメトリー、または当技術分野において周知であって利用可能である他の技術を用いて検証することができる。
【0136】
本発明はまた、本発明のDNAが挿入されたベクターも提供する。レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するものを含むベクターは、長期的遺伝子移入を達成するための適したツールであるが、これはそれらが導入遺伝子の長期的で安定的な組み込み、および娘細胞におけるその伝搬を可能にするためである。レンチウイルスベクターは、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターを上回る利点を有するが、これはそれらが、肝細胞などの非増殖性細胞の形質導入も行うことができるためである。また、それらには、それらが導入された対象において生じる免疫原性が低いという利点も加わっている。
【0137】
天然性または合成性の核酸の発現は、典型的には、核酸またはその部分をプロモーターと機能的に連結させて、その構築物を発現ベクター中に組み入れることによって達成される。ベクターは一般に、哺乳動物細胞において複製可能なものであり、かつ/または哺乳動物の細胞ゲノム中に組み込まれうる。典型的なベクターは、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節のために有用なプロモーターを含有する。
【0138】
核酸は、さまざまな種類のベクター中にクローニングすることができる。例えば、核酸を、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルスおよびコスミドを非限定的に含むベクター中にクローニングすることができる。特に関心が持たれるベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクターおよびシークエンシングベクターが含まれる。
【0139】
発現ベクターを、ウイルスベクターの形態で細胞に与えることもできる。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al., 2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1-4, Cold Spring Harbor Press, NY)、ならびにウイルス学および分子生物学の他のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが非限定的に含まれる。一般に、適したベクターは、少なくとも1種の生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択マーカー(例えば、WO 01/96584号;WO 01/29058号;および米国特許第6,326,193号を参照されたい)。
【0140】
そのほかのプロモーターエレメント、例えばエンハンサーなどは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近示されている。プロモーターエレメント間の間隔には柔軟性があり、そのため、エレメントが互いに対して逆位になったり移動したりしてもプロモーター機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、反応性の低下を起こすことなく、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで隔てることができる。プロモーターによっては、個々のエレメントが協調的に、または独立して、転写を活性化しうるように思われる。
【0141】
適したプロモーターの一例は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それと機能的に連結した任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を作動させることのできる強力な構成性プロモーター配列である。しかし、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、伸長因子1αプロモーター、ならびにアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプロモーターなどの、ただしこれらには限定されないヒト遺伝子プロモーターを非限定的に含む、他の構成性プロモーター配列を用いることもできる。さらに、本発明は、構成性プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として想定している。誘導性プロモーターの使用により、それと機能的に連結しているポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が所望である場合には有効にし、発現が所望でない場合には発現を無効にすることができる分子スイッチがもたらされる。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリンプロモーターが非限定的に含まれる。
【0142】
CARポリペプチドまたはその部分の発現を評価する目的で、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を容易にするために、細胞に導入される発現ベクターに、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方を含有させることもできる。他の局面において、選択マーカーを別個のDHA小片上に保有させて、同時トランスフェクション手順に用いることもできる。宿主細胞における発現を可能にするために、選択マーカー遺伝子およびレポーター遺伝子をいずれも、適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーには、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0143】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために用いられる。一般に、レポーター遺伝子とは、レシピエント生物または組織に存在しないかまたはそれらによって発現されず、かつ、その発現が何らかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性によって顕在化するポリペプチドをコードする、遺伝子のことである。レポーター遺伝子の発現は、そのDNAがレシピエント細胞に導入された後の適した時点でアッセイされる。適したレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌性アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光性タンパク質の遺伝子が含まれうる(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479:79-82)。適した発現系は周知であり、公知の手法を用いて調製すること、または販売されているものを入手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最も高レベルでの発現を示す最小限の5'フランキング領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域をレポーター遺伝子と連結させて、プロモーターにより作動する転写を作用物質が調節する能力を評価するために用いることができる。
【0144】
核酸の導入
1つの局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージまたは樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変するための方法を含み、該CARは、原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激分子の細胞内ドメインとを含み、該細胞は、CARを発現しかつターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージまたは樹状細胞である。1つの態様において、細胞へのCARの導入は、CARをコードする核酸配列を導入することを含。別の態様において、核酸配列の導入は、CARをコードするmRNAをエレクトロポレーションによって導入することを含む。
【0145】
CARなどの遺伝子を細胞に導入して発現させる方法は、当技術分野において公知である。発現ベクターに関連して、ベクターは、宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞または昆虫細胞に、当技術分野における任意の方法によって容易に導入することができる。例えば、発現ベクターを、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0146】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を作製するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrook et al., 2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1 -4, Cold Spring Harbor Press, NY)を参照されたい。エレクトロポレーション(Amaxa Nucleofector-II (Amaxa Biosystems, Cologne, Germany))、(ECM 830 (BTX) (Harvard Instruments, Boston, Mass.)またはGene Pulser II (BioRad, Denver, Colo.)、Multiporator (Eppendort, Hamburg Germany)を含む市販の方法を用いて、核酸を標的細胞に導入することができる。リポフェクションを用いたカチオン性リポソーム媒介トランスフェクションを用いて、ポリマーカプセル化を用いて、ペプチド媒介トランスフェクションを用いて、または「遺伝子銃」のような微粒子銃粒子送達系を用いて、核酸を細胞に導入することもできる(例えば、Nishikawa, et al. Hum Gene Ther., 12(8):861-70 (2001)を参照のこと)。
【0147】
関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAおよびRNAベクターの使用が含まれる。RNAベクターは、RNA転写物を産生するためのRNAプロモーターおよび/他の関連するドメインを有するベクターを含む。ウイルスベクター、および特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物、例えば、ヒト細胞に遺伝子を挿入するための最も広く使われている方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来しうる。例えば、米国特許第5,350,674号および同第5,585,362号を参照されたい。
【0148】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズのような、コロイド分散系、ならびに水中油型乳剤、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含めて脂質に基づく系が含まれる。インビトロおよびインビボでの送達媒体として用いるための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0149】
非ウイルス性送達系を利用する場合、例示的な送達媒体の1つはリポソームである。脂質製剤の使用を、宿主細胞への核酸の導入のために想定している(インビトロ、エクスビボまたはインビボ)。別の局面において、核酸を脂質と付随させてもよい。脂質と付随した核酸は、リポソームの水性内部の中に封入するか、リポソームの脂質二重層の内部に配置させるか、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方と結合する連結分子を介してリポソームに付着させるか、リポソーム内に封じ込めるか、リポソームと複合体化させるか、脂質を含有する溶液中に分散させるか、脂質と混合するか、脂質と配合するか、脂質中に懸濁物として含有させるか、ミセル中に含有させるかもしくは複合体化させるか、または他の様式で脂質と付随させることができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターが関連する組成物は、溶液中のいかなる特定の構造にも限定されない。例えば、それらは二重層構造の中に、ミセルとして、または「崩壊した」構造として存在しうる。それらはまた、溶液中に単に点在していて、大きさも形状も均一でない凝集物を形成する可能性があってもよい。脂質とは、天然脂質または合成脂質であってよい脂肪性物質のことである。例えば、脂質には、細胞質中に天然に存在する脂肪小滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合物のクラス、例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドなどが含まれる。
【0150】
使用に適した脂質は、商業的供給源から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MOから得ることができ; リン酸ジセチル(「DCP」)は、K & K Laboratories (Plainview, NY)から得ることができ; コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから得ることができ; ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc. (Birmingham, AL)から得られうる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質のストック溶液は、約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも容易に蒸発するので、唯一の溶媒として用いられる。「リポソーム」は、密閉された脂質二重層または凝集体の生成によって形成される種々の単層状および多層状脂質媒体を包含する一般用語である。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を有する小胞構造を有すると特徴付けることができる。多層状リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水溶液に懸濁させると、自発的に形成される。脂質成分は閉鎖構造の形成前に自己再構成を受け、脂質二重層の間に水および溶解溶質を閉じ込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。しかしながら、通常の小胞構造とは溶液中で異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとり、または脂質分子の不均一な凝集体として単に存在しうる。リポフェクトアミン-核酸複合体も企図される。
【0151】
外因性核酸を宿主細胞に導入するために、またはその他の方法で本明細書に記載される分子に細胞を曝露するために用いられる方法にかかわらず、宿主細胞における核酸の存在を確認するために、種々のアッセイ法が実施されうる。そのようなアッセイ法には、例えば、サザンおよびノザンブロッティング、RT-PCRおよびPCRのような、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ法; 例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によって、または本発明の範囲に入る薬剤を同定するための本明細書において記述されるアッセイ法によって、特定のペプチドの存在または非存在を検出するような「生化学的」アッセイ法が含まれる。
【0152】
1つの態様において、核酸配列の1つまたは複数は、細胞の集団に形質導入を行うこと、細胞の集団にトランスフェクションを行うこと、および細胞の集団にエレクトロポレーションを行うことからなる群より選択される方法によって導入される。1つの態様において、細胞の集団は、本明細書に記載の核酸配列の1つまたは複数を含む。
【0153】
1つの態様において、細胞に導入される核酸はRNAである。別の態様において、RNAは、インビトロで転写されたRNAまたは合成RNAを含むmRNAである。RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)生成された鋳型を用いたインビトロ転写によって産生される。任意の供給源由来の関心対象のDNAは、適切なプライマーおよびRNAポリメラーゼを用いてインビトロmRNA合成のための鋳型にPCRによって直接変換することができる。DNA供給源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列または任意の他の適切なDNA供給源であることができる。インビトロ転写のための所望の鋳型は、CARである。
【0154】
PCRを用いてインビトロでのmRNA転写のための鋳型を作製することができ、これが次いで、細胞に導入される。PCRを実施するための方法は、当技術分野において周知である。PCRで用いるためのプライマーは、PCRの鋳型として用いられるDNAの領域に実質的に相補的な領域を有するようにデザインされる。本明細書において用いられる「実質的に相補的」とは、プライマー配列中の塩基の大部分または全部が相補的であるか、または1つもしくは複数の塩基が非相補的である、もしくはミスマッチであるヌクレオチドの配列をいう。実質的に相補的な配列は、PCRに用いられるアニーリング条件の下で、意図されたDNA標的とアニールまたはハイブリダイズすることができる。プライマーは、DNA鋳型の任意の部分に実質的に相補的であるようにデザインすることができる。例えば、プライマーは、5'および3' UTRを含む、細胞内で通常転写される遺伝子の部分(読み取り枠)を増幅するようにデザインすることができる。プライマーは、関心対象の特定ドメインをコードする遺伝子の一部分を増幅するようにデザインすることもできる。1つの態様において、プライマーは、5'および3' UTRの全部または一部分を含むヒトcDNAのコード領域を増幅するようにデザインされる。PCRに有用なプライマーは、当技術分野において周知である合成方法によって作製される。「フォワードプライマー」は、増幅されるDNA配列の上流にあるDNA鋳型上のヌクレオチドと実質的に相補的なヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「上流」とは、コード鎖に対して増幅されるDNA配列の、5'側の位置をいうように本明細書において用いられる。「リバースプライマー」は、増幅されるDNA配列の下流にある二本鎖DNA鋳型と実質的に相補的なヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「下流」とは、コード鎖に対して増幅されるDNA配列の、3'側の位置をいうように本明細書において用いられる。
【0155】
RNAの安定性および/または翻訳効率を促進する能力を有する化学構造が用いられてもよい。RNAは、好ましくは5'および3' UTRを有する。1つの態様において、5' UTRは長さが0~3000ヌクレオチドである。コード領域に付加される5'および3' UTR配列の長さは、UTRの異なる領域にアニールするPCRのためのプライマーをデザインすることを含むが、これに限定されない、異なる方法によって変化させることができる。この手法を用いて、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に最適な翻訳効率を達成するために必要とされる5'および3' UTRの長さを変えることができる。
【0156】
5'および3' UTRは関心対象の遺伝子の、天然に存在する内因性5'および3' UTRであることができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性ではないUTR配列を、フォワードプライマーおよびリバースプライマーにUTR配列を組み入れることによって、または鋳型の他の任意の改変によって付加することができる。関心対象の遺伝子に対して内因性ではないUTR配列の使用は、RNAの安定性および/または翻訳効率を変化させるのに有用であることができる。例えば、3' UTR配列中のAUに富むエレメントはmRNAの安定性を低下させうることが知られている。それゆえ、当技術分野において周知であるUTRの特性に基づいて転写されたRNAの安定性を増加させるように、3' UTRを選択またはデザインすることができる。
【0157】
1つの態様において、5' UTRは、内因性遺伝子のコザック(Kozak)配列を含むことができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性ではない5' UTRが上記のようにPCRによって付加される場合、コンセンサスコザック配列は、5' UTR配列を付加することによって再デザインすることができる。コザック配列は、いくつかのRNA転写産物の翻訳効率を高めることができるが、効率的な翻訳を可能にするために全てのRNAに必要とされるようではない。多くのmRNAに対してのコザック配列の必要性は、当技術分野において公知である。他の態様において、5' UTRは、そのRNAゲノムが細胞内で安定なRNAウイルスに由来することができる。他の態様において、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を妨げるために、様々なヌクレオチド類似体を3'または5' UTRにおいて用いることができる。
【0158】
遺伝子クローニングを必要とせずにDNA鋳型からRNAの合成を可能にするために、転写のプロモーターはDNA鋳型に対して、転写される配列の上流に付け加えられるべきである。RNAポリメラーゼのプロモーターとして機能する配列がフォワードプライマーの5'末端に付加される場合、RNAポリメラーゼプロモーターは、転写される読み取り枠の上流でPCR産物に組み入れられるようになる。1つの態様において、プロモーターは、本明細書の他の箇所に記述されるように、T7ポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターには、T3およびSP6 RNAポリメラーゼプロモーターが含まれるが、これらに限定されることはない。T7、T3およびSP6プロモーターのコンセンサスヌクレオチド配列は、当技術分野において公知である。
【0159】
1つの態様において、mRNAは、リボソーム結合、細胞内でのmRNAの翻訳開始および安定性を決定する5'末端のキャップおよび3'ポリ(A)尾部の両方を有する。環状DNA鋳型、例えば、プラスミドDNAでは、RNAポリメラーゼは真核細胞での発現には適さない長い鎖状体の生成物を産生する。3' UTRの末端で線状化されたプラスミドDNAの転写は、転写後にポリアデニル化されても真核生物のトランスフェクションにおいて効果的ではない正常なサイズのmRNAをもたらす。
【0160】
直鎖状DNA鋳型上で、ファージT7 RNAポリメラーゼは鋳型の最後の塩基を越えて転写産物の3'末端を伸長させることができる(Schenborn and Mierendorf, Nuc Acids Res., 13:6223-36 (1985); Nacheva and Berzal-Herranz, Eur. J. Biochem., 270:1485-65 (2003)。
【0161】
DNA鋳型へのポリA/Tストレッチの組み込みの従来の方法は、分子クローニングである。しかしながら、プラスミドDNAに組み込まれたポリA/T配列は、プラスミドの不安定性を引き起こすことがあり、その理由は、細菌細胞から得られたプラスミドDNA鋳型が、欠失および他の異常で高度に損なわれていることが多いためである。これにより、クローニング手順は面倒で時間がかかるだけでなく、信頼できないことも多い。それが、クローニングなしにポリA/T 3'ストレッチを有するDNA鋳型の構築を可能にする方法が非常に望ましいという理由である。
【0162】
転写DNA鋳型のポリA/Tセグメントは、100T尾部(サイズは50~5000 Tであることができる)のようなポリT尾部を含むリバースプライマーを用いることによってPCR中に、またはDNAライゲーションもしくはインビトロ組み換えを含むが、これらに限定されない、任意の他の方法によってPCR後に産生することができる。ポリ(A)尾部はまた、RNAに安定性を与え、RNAの分解を低減させる。一般に、ポリ(A)尾部の長さは、転写されたRNAの安定性と正の相関がある。1つの態様において、ポリ(A)尾部は、100~5000個のアデノシンである。
【0163】
RNAのポリ(A)尾部は、大腸菌(E. coli)ポリAポリメラーゼ(E-PAP)のような、ポリ(A)ポリメラーゼを用いてインビトロ転写後にさらに伸長することができる。1つの態様において、ポリ(A)尾部の長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドに増加させると、RNAの翻訳効率が約2倍増加する。さらに、異なる化学基の3'末端への結合は、mRNA安定性を増加させることができる。そのような結合は改変された/人工のヌクレオチド、アプタマーおよび他の化合物を含むことができる。例えば、ATP類似体は、ポリ(A)ポリメラーゼを用いてポリ(A)尾部に組み入れることができる。ATP類似体はRNAの安定性をさらに増すことができる。
【0164】
5'キャップもRNA分子に安定性をもたらす。好ましい態様において、本明細書において開示される方法により産生されるRNAは、5'キャップを含む。5'キャップは、当技術分野において知られ、本明細書において記述されている技法を用いて提供される(Cougot, et al., Trends in Biochem. Sci., 29:436-444 (2001); Stepinski, et al., RNA, 7:1468-95 (2001); Elango, et al., Biochim. Biophys. Res. Commun., 330:958-966 (2005))。
【0165】
本明細書において開示される方法によって産生されるRNAは、内部リボソーム侵入部位(IRES)配列を含むこともできる。IRES配列は、mRNAとのキャップ非依存性リボソーム結合を開始させ、翻訳の開始を容易にする任意のウイルス配列、染色体配列または人為的にデザインされた配列でありうる。糖、ペプチド、脂質、タンパク質、酸化防止剤、および界面活性剤のような細胞透過性および生存性を促進する因子を含有できる、細胞エレクトロポレーションに適した任意の溶質を含めることができる。
【0166】
いくつかのインビトロ転写RNA(IVT-RNA)ベクターは、文献において公知であり、これはインビトロ転写のための鋳型として標準化された様式で利用され、安定化されたRNA転写産物が産生されるように遺伝子操作されている。現在、当技術分野において用いられているプロトコールは、以下の構造: RNA転写を可能にする5' RNAポリメラーゼプロモーター、その後に非翻訳領域(UTR)が3'側および/または5'側のいずれかで隣接した関心対象の遺伝子、ならびに50~70個のAヌクレオチドを含む3'ポリアデニルカセットを有するプラスミドベクターに基づく。インビトロ転写に先立ち、環状プラスミドは、II型制限酵素によってポリアデニルカセットの下流で線状化される(認識配列は切断部位に対応する)。したがってポリアデニルカセットは、転写産物中の後のポリ(A)配列に対応する。この手順の結果として、一部のヌクレオチドは、線状化後に酵素切断部位の一部として残り、3'末端でポリ(A)配列を伸長またはマスクする。この非生理的な突出部が、そのような構築体から細胞内に産生されるタンパク質の量に影響を与えるかどうかは、明らかではない。
【0167】
ある局面において、RNA構築体はエレクトロポレーションによって細胞に送達される。例えば、米国特許第2004/0014645号、米国特許第2005/0052630A1号、米国特許第2005/0070841A1号、米国特許第2004/0059285A1号、米国特許第2004/0092907A1号に教示されているように哺乳動物細胞への核酸構築体のエレクトロポレーションの製剤および方法論を参照されたい。任意の既知の細胞型のエレクトロポレーションに必要な電場強度を含む様々なパラメータは、関連する研究文献ならびに当技術分野における多数の特許および出願において一般的に知られている。例えば、米国特許第6,678,556号、米国特許第7,171,264号、および米国特許第7,173,116号を参照されたい。エレクトロポレーションの治療的適用のための装置は、例えばMedPulser(商標) DNAエレクトロポレーション治療システム(DNA Electroporation Therapy System) (Inovio/Genetronics, San Diego, Calif.)のように市販されており、米国特許第6,567,694号; 米国特許第6,516,223号、米国特許第5,993,434号、米国特許第6,181,964号、米国特許第6,241,701号、および米国特許第6,233,482号のような特許に記述されており; エレクトロポレーションは、例えば米国特許第20070128708A1号に記述されているようにインビトロでの細胞のトランスフェクションのために用いることもできる。エレクトロポレーションは、インビトロで細胞に核酸を送達するために利用することもできる。したがって、当業者に公知の多くの利用可能な装置およびエレクトロポレーションシステムのいずれかを利用する発現構築体を含めて核酸の細胞へのエレクトロポレーション介在性の投与は、関心対象のRNAを標的細胞に送達するための素晴らしい新たな手段となる。
【0168】
細胞の供給源
1つの態様において、食細胞が本明細書に記載される組成物および方法において使用される。単球、マクロファージおよび/または樹状細胞などの食細胞の供給源が対象から得られる。対象の非限定的な例としては、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が挙げられる。好ましくは、対象はヒトである。細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、臍帯および腫瘍を含む、いくつかの供給源から得ることができる。ある特定の態様において、当技術分野において利用可能な任意の数の単球、マクロファージ、樹状細胞または始原細胞株が用いられうる。ある特定の態様において、T細胞は、フィコール(Ficoll)分離のような、当業者に公知の任意の数の技法を用いて、対象から収集された血液の単位から得ることができる。1つの態様において、個体の循環血液からの細胞は、アフェレーシスまたは白血球除去輸血によって得られる。アフェレーシス生成物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球および血小板を含めて、リンパ球を含む。アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して、血漿画分を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような、適切な緩衝液もしくは培地またはその後の加工処理段階のため、カルシウムを欠くかつマグネシウムを欠きうるか、もしくは全部ではないが多くの二価陽イオンを欠きうる洗浄溶液の中に細胞を配してもよい。洗浄後、細胞は、例えば、Ca不含、Mg不含PBSのような、種々の生体適合性緩衝液に再懸濁されうる。あるいは、アフェレーシスサンプルの望ましくない成分が除去され、細胞は培地に直接再懸濁されうる。
【0169】
別の態様において、細胞は、赤血球を溶解し、例えばパーコール(PERCOLL)(商標)勾配を通じた遠心分離によってリンパ球および赤血球を枯渇させることにより、末梢血から単離される。あるいは、細胞は臍帯から単離することができる。いずれにせよ、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞の特定の亜集団は、陽性または陰性選択技法によってさらに単離することができる。
【0170】
このように単離された単核細胞は、CD34、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19またはCD20を含むが、これらに限定されない、特定の抗原を発現する細胞を枯渇させることができる。これらの細胞の枯渇は、単離された抗体、腹水などの、抗体を含む生体サンプル、物理的支持体に結合した抗体、および細胞結合抗体を用いて達成することができる。
【0171】
陰性選択による、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞集団の濃縮は、陰性選択細胞に特有の表面マーカーに向けられた抗体の組み合わせを用いて達成することができる。好ましい方法は、陰性選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに向けられたモノクローナル抗体のカクテルを用いる陰性磁気免疫接着またはフローサイトメトリーによる細胞選別および/または選択である。例えば、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞の細胞集団の陰性選択による濃縮は、CD34、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19またはCD20に対する抗体を典型的に含むモノクローナル抗体カクテルを使用して達成することができる。
【0172】
陽性または陰性選択による所望の細胞集団の単離の間、細胞および表面(例えば、ビーズのような粒子)の濃度を変えることができる。ある特定の態様において、細胞およびビーズの最大の接触を確実にするために、ビーズおよび細胞が一緒に混合される体積を有意に減少させる(すなわち、細胞の濃度を増加させる)ことが望ましい場合がある。例えば、1つの態様において、20億個の細胞/mlの濃度が用いられる。1つの態様において、10億個の細胞/mlの濃度が用いられる。さらなる態様において、1億個超の細胞/mlが用いられる。さらなる態様において、10、15、20、25、30、35、40、45、または50百万個の細胞/mlの細胞濃度が用いられる。さらに別の態様において、75、80、85、90、95、または100百万個の細胞/mlの細胞濃度が用いられる。さらなる態様において、125または150百万個の細胞/mlの濃度を用いることができる。高濃度の細胞の使用は、細胞収量、細胞活性化、および細胞増大の増加をもたらすことができる。
【0173】
1つの態様において、細胞の集団は、本発明の単球、マクロファージ、または樹状細胞を含む。細胞の集団の例には、末梢血単核細胞、臍帯血細胞、精製された単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団、および細胞株が非限定的に含まれる。別の態様において、末梢血単核細胞は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団を含む。さらに別の態様において、精製された細胞は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団を含む。
【0174】
別の態様において、細胞は、アップレギュレートされたM1マーカーおよびダウンレギュレートされたM2マーカーを有する。例えば、少なくとも1つのM1マーカー、例えばHLA DR、CD86、CD80およびPDL1などは食細胞においてアップレギュレートされている。もう1つの例において、少なくとも1つのM2マーカー、例えばCD206、CD163などは、食細胞においてダウンレギュレートされている。1つの態様において、細胞は、アップレギュレートされた少なくとも1つのM1マーカーおよびダウンレギュレートされた少なくとも1つのM2マーカーを有する。
【0175】
さらに別の態様において、食細胞におけるターゲティングされたエフェクター活性は、CD47活性またはSIRPα活性のいずれかの阻害によって強化される。CD47活性および/またはSIRPα活性は、食細胞を抗CD47抗体または抗SIRPα抗体で処理することによって阻害することができる。あるいは、CD47活性またはSIRPα活性を、当業者に公知である任意の方法によって阻害することもできる。
【0176】
細胞の増大
1つの態様において、単球、マクロファージまたは樹状細胞を含む細胞または細胞集団は、増大のために培養される。別の態様において、始原細胞を含む細胞または細胞集団は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の分化および増大のために培養される。本発明は、本明細書において記載されるようなキメラ抗原受容体を含む単球、マクロファージまたは樹状細胞を増大させることを含む。
【0177】
本明細書において開示されるデータによって実証されているように、本明細書に開示される方法によって細胞を増大させる段階により、約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、9000倍、10,000倍、100,000倍、1,000,000倍、10,000,000倍、またはそれを上回って、ならびにそれらの間のいずれかおよびすべての全体的および部分的な整数倍に増やすことができる。1つの態様において、細胞は約20倍~約50倍の範囲で増大される。
【0178】
培養後に、細胞を培養装置内にて細胞培地中で、ある期間にわたって、または細胞が最適な継代のために集密もしくは高い細胞密度に達するまでインキュベートし、その後に別の培養装置への継代を行う。培養装置は、インビトロで細胞を培養するために一般的に用いられる任意の培養装置であってよい。好ましくは、細胞を別の培養装置に継代する前の集密のレベルは70%またはそれを上回る。より好ましくは、集密のレベルは90%またはそれを上回る。期間は、インビトロでの細胞の培養に適する任意の時間であってよい。培養培地の入れ替えは、細胞の培養中にどの時点に行ってもよい。好ましくは、培養培地を約2~3日毎に入れ替える。続いて細胞を培養装置から採取し、その上で細胞を直ちに用いるか、または後に用いるための貯蔵することができる。
【0179】
本明細書において記述される培養段階(本明細書において記述される作用物質との接触)は、非常に短くてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23時間など、24時間未満であってもよい。本明細書においてさらに記述される培養段階(本明細書において記述される作用物質との接触)は、もっと長くてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14またはそれ以上の日数であってもよい。
【0180】
1つの態様において、細胞は数時間(約3時間)~約14日間、またはその間の任意の時間単位の整数値の間、培養されうる。細胞培養に適切な条件には、血清(例えば、ウシ胎仔血清もしくはヒト血清)、L-グルタミン、インスリン、M-CSF、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGF-βおよびTNF-α、または当業者に公知の細胞増殖のための任意の他の添加剤を含む、増殖および生存に必要な因子を含有しうる適切な培地(例えば、マクロファージ完全培地、DMEM/F12、DMEM/F12-10 (Invitrogen))が含まれる。細胞増殖のための他の添加剤には、界面活性剤、プラスマネート、ならびにN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールのような還元剤が含まれるが、これらに限定されることはない。培地は、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-MEM、F-12、X-Vivo 15、およびX-Vivo 20、Optimizerにアミノ酸、ピルビン酸ナトリウムおよびビタミンを添加したものであって、無血清であるか、適切な量の血清(もしくは血漿)もしくは規定のホルモン群、ならびに/または細胞の増殖および増大に十分な量のサイトカインを補充したかのいずれかのものを含むことができる。抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンは、実験的培養物にのみ含められ、対象に注入しようとする細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支持するのに必要な条件、例えば、適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気に加えて5% CO2)の下で維持される。
【0181】
細胞を培養するために用いられる培地は、細胞を活性化しうる作用物質を含みうる。例えば、単球、マクロファージまたは樹状細胞を活性化しうることが当技術分野において公知である作用物質が培地中に含められる。
【0182】
治療法
本明細書に記載の改変細胞を、対象の処置のための組成物中に含めることができる。1つの局面において、組成物は、本明細書に記載のキメラ抗原受容体を含む改変細胞を含みうる。組成物は薬学的組成物を含むことができ、薬学的に許容される担体をさらに含みうる。改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与することができる。
【0183】
1つの局面において、本発明は、対象における腫瘍またはがんと関連のある疾患または状態を処置する方法であって、対象に対して、本明細書に記載の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む方法を含む。別の局面において、本発明は、対象における固形腫瘍を処置する方法であって、対象に対して、本明細書に記載の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む方法を含む。別の局面において、本発明は、対象における標的腫瘍細胞または腫瘍組織に対する免疫応答を刺激するための方法であって、対象に対して、本明細書に記載の改変細胞を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む方法を含む。さらに別の局面において、本発明は、免疫応答の処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本明細書に記載の改変細胞の使用を含む。なお別の局面において、本発明は、腫瘍またはがんの処置をそれを必要とする対象において行うための医薬の製造における、本明細書に記載の改変細胞の使用を含む。
【0184】
本明細書において記載されたように作製された改変細胞は、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する。1つの態様において、改変細胞は、例えば、CARの抗原結合ドメインとの特異的結合などを通じて、標的細胞上の抗原に対して方向付けられた、ターゲティングされたエフェクター活性を有する。別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性には、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌が非限定的に含まれる。
【0185】
別の態様において、本明細書に記載の改変細胞は、作用物質、生物学的作用物質または治療的作用物質を標的に送達する能力を有する。作用物質を標的に送達するように細胞を改変することができ、ここで作用物質は、核酸、抗生物質、抗炎症性作用物質、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。非限定的な一例として、腫瘍抗原を標的とするCARによって改変されたマクロファージは、マクロファージ機能を補助するために、サイトカインまたは抗体などの作用物質を分泌することができる。また、抗CD47/抗SIRPα mABなどの抗体も、マクロファージ機能を補助することができる。さらにもう1つの例において、腫瘍抗原を標的とするCARによって改変されたマクロファージは、抑制性遺伝子(すなわち、SIRPα)をダウンレギュレートすることによってマクロファージ機能を補助するsiRNAをコードするように操作される。もう1つの例では、CARマクロファージは、マクロファージ機能を補助する受容体または酵素のドミナントネガティブ(または他の様式で突然変異された)バージョンを発現するように操作される。
【0186】
1つの態様において、マクロファージは複数の遺伝子によって改変され、ここで少なくとも1つの遺伝子はCARを含み、かつ少なくとも1つの他の遺伝子はCARマクロファージ機能を強化する遺伝因子を含む。別の態様において、マクロファージは複数の遺伝子によって改変され、ここで少なくとも1つの遺伝子はCARを含み、かつ少なくとも1つの他の遺伝子は他の免疫細胞(腫瘍微小環境内のT細胞など)の機能を補助するかまたはリプログラミングする。
【0187】
さらに、改変細胞を、糖尿病、乾癬、関節リウマチ、多発性硬化症、GVHD、同種免疫寛容誘導強化、移植拒絶反応などに共通するものなどの免疫反応を抑制するために、動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくはヒトに投与することができる。加えて、本発明の細胞を、疾患の処置または軽減のために免疫応答、特に細胞媒介性免疫応答の減弱化または他の様式での阻害が望ましい任意の状態の処置のために用いることもできる。1つの局面において、本発明は、対象に対して、本明細書に記載の細胞集団を含む治療的有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む、対象における自己免疫疾患などの状態の処置を含む。加えて、本発明の細胞を、CAR T細胞、腫瘍浸潤性リンパ球、またはチェックポイント阻害薬を非限定的に含む、代替的な抗がん免疫療法による処置の前の前処理または前処置として投与することもできる。
【0188】
自己免疫疾患の例としては、後天性免疫不全症候群(AIDS、これは自己免疫成分を伴うウイルス性疾患である)、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、内耳自己免疫病(AIED)、自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、心筋症、セリアック病-疱疹状皮膚炎; 慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIPD)、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、ドゴー病、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性慢性関節炎(スティル病)、若年性関節リウマチ、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症(進行性全身性硬化症(PSS)、これは全身性硬化症(SS)としても知られる)、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、白斑ならびにヴェーゲナー肉芽腫症が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0189】
細胞は、炎症性障害を処置するために使用することもできる。炎症性障害の例としては、慢性および急性炎症性障害が挙げられるが、これらに限定されることはない。炎症性障害の例としては、アルツハイマー病、喘息、アトピー性アレルギー、アレルギー、アテローム性動脈硬化症、気管支喘息、湿疹、糸球体腎炎、移植片対宿主病、溶血性貧血、骨関節炎、敗血症、卒中、組織および臓器の移植、血管炎、糖尿病性網膜症ならびに人工呼吸器誘発肺損傷が挙げられる。
【0190】
本発明の細胞は、がんを処置するために用いることができる。がんには、血管が発達していないか、またはまだ実質的に血管が発達していない腫瘍、ならびに血管が発達した腫瘍が含まれる。がんには非固形腫瘍(血液腫瘍、例えば白血病およびリンパ腫など)が含まれてよく、または固形腫瘍も含まれてよい。本発明の細胞によって処置されることになるがんの種類には、癌腫、芽細胞腫および肉腫、ある特定の白血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性腫瘍、例えば、肉腫、癌腫および黒色腫が非限定的に含まれる。成人腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんも含められる。
【0191】
固形腫瘍とは、通常は嚢胞も液体領域も含まない組織の異常腫瘤のことである。固形腫瘍は良性のことも悪性のこともある。さまざまな種類の固形腫瘍が、それを形成する細胞の種類によって名付けられている(肉腫、癌腫およびリンパ腫など)。肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、リンパ性悪性腫瘍、膵がん、乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭がん、褐色細胞種皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、髄様がん、気管支がん、腎細胞がん、肝がん、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱がん、黒色腫、ならびにCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫および混合神経膠腫など)、神経膠芽細胞腫(多形性神経膠芽細胞腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫および脳転移など)が含まれる。
【0192】
血液悪性腫瘍は、血液または骨髄のがんである。血液(または造血器)悪性腫瘍の例には、白血病、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄急性白血病、急性骨髄性白血病、ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性の白血病および赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病および慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無症候型およびハイグレード型)、多発性骨髄腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、毛様細胞白血病および骨髄異形成が含まれる。
【0193】
本発明の細胞は、適切な前臨床および臨床の実験および試験において判定される投与量および経路でならびに時間で投与することができる。細胞組成物は、これらの範囲内の投与量で複数回投与されうる。本発明の細胞の投与は、当業者によって判定される所望の疾患または状態を処置するのに有用な他の方法と組み合わされてもよい。
【0194】
投与される本発明の細胞は、治療を受けている対象に関して自家、同種異系(allogeneic)または異種でありうる。
【0195】
本発明の細胞の投与は、当業者に公知の任意の簡便な様式で行われうる。本発明の細胞はエアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、植込みまたは移植により対象に投与されうる。本明細書において記述される組成物は患者へ経動脈的に、皮下に、皮内に、腫瘍内に、リンパ節内に(intranodally)、髄内に、筋肉内に、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与されうる。他の例では、本発明の細胞は、対象における炎症部位、対象における局所疾患部位、リンパ節、臓器、腫瘍などに直接注射される。
【0196】
薬学的組成物
本発明の薬学的組成物は、本明細書において記述される細胞を、1つまたは複数の薬学的にまたは生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含みうる。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などのような緩衝液; グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストランのような炭水化物、マンニトール; タンパク質; ポリペプチドまたはグリシンのようなアミノ酸; 抗酸化剤; EDTAまたはグルタチオンのようなキレート剤; アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム); および保存料を含みうる。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与のために製剤化される。
【0197】
本発明の薬学的組成物は、処置される(または予防される)疾患に適切な様式で投与されうる。臨床試験によって適切な投与量が判定されうるが、投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患のタイプおよび重症度のような因子によって判定されよう。
【0198】
「免疫学的に有効な量」、「抗免疫応答に有効な量」、「免疫応答を阻害する有効量」または「治療量」が示されている場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、免疫応答、および状態の個体差を考慮して、医師により決定され得る。本明細書において記述される細胞を含む薬学的組成物は、104~109個の細胞/kg体重、好ましくは105~106個の細胞/kg体重の投与量で、それらの範囲内の全ての整数値を含めて、投与されうると一般に言及することができる。本明細書に記載される細胞組成物はまた、これらの投与量で複数回投与されうる。細胞は、免疫療法において一般に知られている注入技法を用いることにより投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照のこと)。特定の患者に対する最適な投与量および処置計画は、疾患の徴候について患者を監視し、それに応じて処置を調整することにより、医学分野の当業者によって容易に判定されることができる。
【0199】
ある特定の態様において、単球、マクロファージ、または樹状細胞を対象に投与し、続いて血液を再び採血し(またはアフェレーシスを行い)、本発明にしたがってそれから単球、マクロファージ、または樹状細胞を活性化し、これらの活性化された細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは数週間ごとに複数回行うことができる。ある特定の態様において、細胞は、10 ml~400 mlの採血から活性化されうる。ある特定の態様において、細胞は、20 ml、30 ml、40 ml、50 ml、60 ml、70 ml、80 ml、90 mlまたは100 mlの採血から活性化される。理論によって束縛されるべきではないが、この複数の採血/複数の再注入プロトコールを用いて、細胞のある特定の集団を選び出すことができる。
【0200】
本発明のある特定の態様において、細胞は、本明細書において記述される方法、または細胞が治療レベルにまで増大される当技術分野において公知の他の方法を用いて改変され、抗ウイルス療法、シドフォビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても公知)またはMS患者に対するナタリズマブ処置もしくはPML患者に対する処置のような薬剤による処置を含むが、これらに限定されない多くの関連処置法と一緒に(例えば、その前に、それと同時にまたはその後に)患者に投与される。さらなる態様において、本発明の細胞は、CART細胞療法、化学療法、放射線、免疫抑制剤、例えばサイクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノレートおよびFK506、抗体、または他の免疫除去剤、例えば抗CD52抗体アレムツズマブ(CAMPATH)、抗CD3抗体もしくは他の抗体療法、サイトキシン(cytoxin)、フルダリビン(fludaribine)、サイクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、ならびに放射線照射と併用されてもよい。これらの薬物はカルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害し(サイクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子によって誘導されるシグナル伝達に重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)。(Liu et al., Cell 66:807-815, 1991; Henderson et al., Immun. 73:316-321, 1991; Bierer et al., Curr. Opin. Immun. 5:763-773, 1993)。さらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、例えばフルダラビンなどの化学療法剤を用いたリンパ球除去療法、外部ビーム放射線療法(XRT)、シクロホスファミド、リツキサン、または抗体、例えばOKT3もしくはCAMPATHと一緒に(例えば、その前に、それと同時にまたはその後に)患者に投与される。例えば、1つの態様において、対象は、高用量化学療法を用いた標準的な処置の後に末梢血幹細胞移植を受けてもよい。ある特定の態様において、移植後に、対象は本発明の細胞の注入を受ける。さらなる態様において、外科手術の前または後に、細胞が投与されうる。
【0201】
対象に投与される前記処置の投与量は、処置される状態および処置のレシピエントの正確な性質によって変化する。ヒト投与のための投与量の拡大縮小は、当技術分野において認められている実践にしたがって行うことができる。CAMPATHの用量は、例えば、一般的に、成人患者については1~約100 mgの範囲であり、通常、1~30日間、毎日投与される。好ましい一日用量は1~10 mg/日であるが、場合によっては、40 mg/日までの高用量が用いられてもよい(米国特許第6,120,766号に記述されている)。
【0202】
本発明において有用な方法および組成物は、実施例に記載の特定の製剤に限定されないことが理解されるべきである。以下の実施例は当業者に、本発明の、細胞を作製および使用する方法、増大および培養方法、ならびに治療方法の完全な開示かつ記述を提供するために記載されており、本発明者らがその発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【0203】
本発明の実践には、別段の指示がない限り、分子生物学(組み換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技法が利用され、それらは十分に当業者の認識範囲内である。そのような技法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, fourth edition (Sambrook, 2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait, 1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney, 2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos, 1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel, 2002);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」, (Babar, 2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan, 2002)のような、文献のなかで十分に説明されている。これらの技法は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、したがって、本発明の形成(making)および実践において考慮されうる。特定の態様に特に有用な技法は、以下の項で論じられる。
【実施例
【0204】
実験的実施例
本発明は、以下の実験的実施例を参照して、さらに詳細に説明される。これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、特記しない限り、限定することを意図したものではない。したがって、本発明は、以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供された教示の結果として明らかになる、ありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0205】
さらなる説明なしに、当業者は、上記の説明および以下の実施例を用いて、本発明の化合物を作製して利用し、かつ特許請求の範囲に記載の方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を具体的に指し示したものであり、本開示の残りの部分を多少なりとも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0206】
これらの実験に用いた材料および方法を以下に説明する。
【0207】
細胞培養:THP1、K562、SKOV3、SKBR3、HDLM2、MD468、およびすべての細胞株を、10%ウシ胎仔血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを加えたRPMI 1640中で、5% CO2下において37Cで培養した。THP1 mRFP+サブライン(Wt)は、mRFP+ 細胞株のレンチウイルス形質導入およびFACS精製によって作製した。THP1 mRFP+サブラインを用いて、THP1 mRFP+ CAR19z+(CAR19z;CARMA19z)、THP1 mRFP+ CAR19Δz+(CAR19Δz;CARMA19Δz)、THP1 mRFP+ MesoZ+およびTHP1 mRFP+ CARHer2z+(CARHer2z;CARMAHer2z)サブラインを作製した。単球分化は、培地中で1ng/mLのホルボール12-ミリステート13-アセテートとともに細胞を48時間培養することによって誘導した。
【0208】
初代ヒトマクロファージ:初代ヒト単球を、正常ドナーのアフェレーシス生成物から、Miltenyi CD14 MicroBeads(Miltenyi、130-050-201)を用いて精製した。単球を、5%ヒトAB血清を加えたX-Vivo培地、または10%ウシ胎仔血清を加えたRPMI 1640中で、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタマックス(glutamax)および10ng/mL組換えヒトGM-CSF(PeproTech、300-03)とともに、MACS GMP Cell Differentiation Bags(Miltenyi、170-076-400)内で7日間培養した。マクロファージを第7日に採取し、後に使用するまでFBS+10% DMSO中で凍結保存した。
【0209】
食作用アッセイ:WtまたはCARMA mRFP+ THP1サブラインを、1ng/mLホルボール12-ミリステート13-アセテートにより、48時間かけて分化させた。GFP+抗原担持腫瘍サブライン、すなわちK562 CD19+ GFP+細胞を、分化させたTHP1マクロファージに、PMA洗い流し後に1:1比で添加した。マクロファージを標的腫瘍細胞と4時間共培養し、食作用を、蛍光顕微鏡によって、EVOS FL Auto Cell Imaging Systemを用いて定量した。3つの視野の平均をnとして考慮し、すべての条件について3回ずつ定量した。FACSに基づく食作用をBD LSR-Fortessaで分析した。FlowJo(Treestar, Inc.)を用いてフローサイトメトリーデータを分析した。生存性のシングレットゲーティングによるmRFP/GFP二重陽性事象を食作用とみなした。CD47/SIRPα軸の遮断は、共培養の開始時に遮断性モノクローナル抗体(マウス抗ヒトCD47クローンB6H12、eBioscience #14-0479-82;陰性対照としてのマウス抗ヒトCD47クローン2D3、eBioscience #14-0478-82;マウス抗ヒトSIRPαクローンSE5A5、BioLegend #323802)の指定濃度での添加を介して行った。TLR共刺激は、TLR1~9アゴニスト(ヒトTLR 1~9アゴニストキット;Invivogen #tlrl-kit1hw)を共培養の時点で添加することによって行った。
【0210】
インビトロ死滅アッセイ:WtマクロファージまたはCAR担持マクロファージを、抗原担持性または対照のコメツキムシ緑色ルシフェラーゼ(CBG)/緑色蛍光性タンパク質(GFP)陽性の標的腫瘍細胞と、さまざまなエフェクター-標的比(30:1で開始して3倍希釈として減少させる)で共培養した。生物発光画像化を利用して、IVIS Spectrum Imaging System(Perkin Elmer)を用いて腫瘍量を決定した。特異的溶解パーセントは以下の通りに算出した:
特異的溶解(%)=((処置したウェル-腫瘍のみのウェル)/(最大死滅-腫瘍のみのウェル)*100)
【0211】
タイムラプス顕微鏡検査:CAR媒介性食作用の蛍光性タイムラプスビデオ顕微鏡検査を、EVOS FL Auto Cell Imaging Systemを用いて行った。画像を40秒毎に18時間にわたって取り込んだ。画像分析はFIJI画像化ソフトウェアを用いて行った。
【0212】
レンチウイルスの作製およびトランスフェクション:キメラ抗原受容体構築物をGeneArt(Life Technologies)によって新規合成し、以前に記載した通りにレンチウイルスベクター中にクローニングした。以前に記載した通りにHEK293T細胞を用いて濃縮レンチウイルスを作製した。
【0213】
アデノウイルスの作製およびトランスフェクション:CMVプロモーター下にGFP、CARをコードするかまたは導入遺伝子をコードしないAd5f35キメラアデノウイルスベクターを作製し、標準的な分子生物学手順に従って用量設定を行った。初代ヒトマクロファージに対してさまざまな感染多重度で形質導入を行い、EVOS FL Auto Cell Imaging Systemを用いてGFP発現および生存度に関して継続的に画像化を行った。CAR発現は、Hisタグ標識抗原および抗His-APC二次抗体(R&D Biosystems Clone AD1.1.10)を用いる表面CAR発現のFACS分析によって評価した。
【0214】
フローサイトメトリー:FACSはBD LSR Fortessaにて行った。表面CAR発現は、ビオチン化タンパク質L(GenScript M00097)およびストレプトアビジンAPC(BioLegend、#405207)、またはHisタグ標識抗原および抗His-APC二次抗体(R&D Biosystems Clone AD1.1.10)を用いて評価した。Fc受容体は、染色の前にヒトTrustain FcX(BioLegend、#422301)によってブロックした。CD47発現は、マウス抗ヒトCD47 APC(eBioscience #17-0479-41)を、バックグラウンド決定のためのマウスIgG1κAPCアイソタイプ対照とともに用いて決定した。カルレティキュリン発現は、マウス抗カルレティキュリンPEクローンFMC75(Abcam #ab83220)を用いて決定した。すべてのフロー結果について、生存性(Live/Dead Aqua Fixable Dead Cell Stain, Life TechnologiesL34957)単細胞に関するゲーティングを行った。
【0215】
Imagestreamサイトメトリー:単細胞蛍光性画像化によるFACSを、ImageStream MarkII Imaging Flow Cytometer(EMD Millipore)にて行った。手短に述べると、mRFP+マクロファージまたはDiIで染色されたマクロファージ(CARまたは対照)をGFP+腫瘍細胞と4時間にわたり共培養し、その後に固定およびImageStreamデータ収集を行った。データはImageStreamソフトウェア(EMD Millipore)を用いて分析した。
【0216】
RNAエレクトロポレーション:標準的な分子生物学の手法を用いて、CAR構築物をT7プロモーターの制御下にあるインビトロ転写プラスミド中にクローニングした。mMessage mMachine T7 Ultra In Vitro Transcription Kit(Thermo Fisher)を用いてCAR mRNAをインビトロ転写させ、RNEasy RNA Purification Kit(Qiagen)を用いて精製し、BTX ECM850エレクトロポレーター(BTX Harvard Apparatus)を用いてヒトマクロファージへのエレクトロポレーションを行った。CAR発現を、エレクトロポレーション後のさまざまな時点でFACS分析を用いてアッセイした。
【0217】
TLR/デクチン-1初期刺激:WtマクロファージまたはCARマクロファージにおけるTLRまたはデクチン-1初回刺激を、インビトロ食作用アッセイまたは死滅アッセイの前に、細胞を、それぞれ推奨用量のTLR 1~9アゴニスト(ヒトTLR1~9 Agonist Kit、Invivogen)またはβ-グルカン(MP Biomedicals、LLC)とともに30分間プレインキュベートすることによって行い、その後に共培養を行った。WtマクロファージまたはCARマクロファージのインビトロ機能を、非初回刺激条件と初回刺激条件との間で比較した。
【0218】
マクロファージ/単球表現型:以下の表面マーカーを、M1/M2の識別のためにマクロファージ/単球免疫表現型FACSパネルの一部として評価した:CD80、CD86、CD163、CD206、CD11B、HLA-DR、HLA-A/B/C、PDL1およびPDL2(BioLegend)。TruStain FcXを、免疫染色の前にFc受容体遮断のために用いた。表現型判定の前には、マクロファージ/単球を活性化条件に曝露させる、すなわちAd5f35形質導入を48時間行うか、またはそれを行わなかった。
【0219】
Seahorseアッセイ:マクロファージの代謝表現型および酸素消費を、Seahorseアッセイ(Seahorse XF、Agilent)を用いて決定した。分析の前に、対照マクロファージまたはCARマクロファージを培地対照または免疫抑制サイトカインに24時間曝露させた。Seahorseアッセイの全体を通じて、細胞をオリゴマイシン、FCCPおよびロテノンで逐次的に処理した。アッセイは各条件について6回ずつ行った。
【0220】
インビボアッセイ:NOD-scid IL2Rg-null-IL3/GM/SF、NSG-SGM3(NSGS)マウスをヒト異種移植モデル用に用いた。CBG-ルシフェラーゼ陽性ヒトSKOV3卵巣がん細胞を生着させたマウスを非投与のままとするか、または非形質導入ヒトマクロファージ、空Ad5f35形質導入ヒトマクロファージ、もしくはAd5f35 CAR-HER2形質導入ヒトマクロファージを種々の用量で投与した。継続的な生物発光画像化を用いて腫瘍量をモニターした(IVIS Spectrum、Perkin Elmer)。臓器および腫瘍を屠殺後にFACS分析のために採取した。全生存率をモニターして、Kaplan-Meier分析を用いて比較した。
【0221】
実験の結果を以下に述べる。
【0222】
図1Aは、サイトカイン、モノクローナル抗体、抗体断片、単鎖可変断片、酵素、追加的な受容体、ドミナントネガティブ受容体、腫瘍関連抗原、およびそれらの任意の組み合わせを非限定的に含む任意の遺伝子/転写物/タンパク質を含む、分泌性のこともあれば非分泌性のこともある追加的な遺伝子産物の化学量論的な共発現のための、ターゲティング機能を有する細胞外ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、および/または2A(P2A、T2A)を含有する遺伝子/遺伝子産物で構成されるキメラ抗原受容体(CAR)の概念図を示している一連の画像である。加えて、CAR構築物はCRISPR/Cas9遺伝子編集材料の共送達を含んでもよく、またはCRISPR/Cas9によりあらかじめ編集された細胞の状況下に導入されてもよい。抗原特異的scFvドメイン、CD8ヒンジドメイン、CD8膜貫通ドメイン、およびそれぞれCD3ζドメイン、FcεRI共通γサブユニットドメイン、またはデクチン-1の細胞内ドメインを含む、CARMA-ζ、CARMA-γ、およびCARMA-デクチンを含むCAR構築物の具体例は、図1Bにモデル化されている。
【0223】
図2Aは、レンチウイルス形質導入後の骨髄系細胞の表面に発現されたCAR19zを示しているグラフである。CAR19zレンチウイルスの用量設定を3倍希釈にて行い、これを1e5個/0.1mLのmRFP+THP1細胞の形質導入を行うために用いた。mRFPは、骨髄系細胞株THP1のレンチウイルス形質導入によって発現させたレポーター遺伝子(赤色蛍光タンパク質)である。これらの細胞は、化学的PMAへの曝露により、マクロファージに分化するように誘導することができる。THP1細胞を形質導入24時間後に採取し、ビオチン化タンパク質Lに続いてストレプトアビジン-APCを用いることによってCAR表面発現に関して染色した。形質導入THP1細胞を増大させてFACSによって選別して、100% CAR19z陽性mRFP+ THP1サブラインを生成させた(図2B)。図2Cは、THP1マクロファージ上での抗CD19、抗HER2、および抗メソテリンレンチウイルスCAR構築物の発現を実証しており、CAR(+)事象を右上四半分に示している。
【0224】
図3Aは、THP1マクロファージモデルを用いたCARMAサブライン作製、1ng/mLホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)による分化、およびインビトロ食作用アッセイの概略を示している流れ図である。抗CD19 CARマクロファージ、抗HER2 CARマクロファージ、および抗メソテリンCARマクロファージは、野生型(Wt)マクロファージとは異なり、蛍光顕微鏡を利用した食作用アッセイによる実証で、それぞれCD19、HER2またはメソテリンを発現するK562腫瘍細胞を貪食した(図3B~3D)。CD19に対するmRFP+ CARMAをCD19+ GFP+ K562細胞と共培養して二重陽性事象を定量した、フローメトリーに基づくアッセイによって、CARMA腫瘍食作用をさらに検証した(代表的なFACSプロットを示している‐図3E)。CARMA食作用機能の図表化において用いられた標準的な10倍視野が、mRFPのみ(図3F)または重ね合わせ(図3G)で示されている。FACSに基づくmRFP/GFP二重陽性事象を食作用事象として定義し、Amnis Imagestream FACS分析などによって検証した。示されている事象は二重陽性事象に関してゲート処理されており、Amnis Imagestream食作用-侵食アルゴリズムによって高いものから低いものへの順になっている(図3H)。THP-1細胞株モデルにおけるmRFP+ CARMAによる腫瘍細胞の貪食が、共焦点顕微鏡検査によってさらに実証され、GFP+腫瘍細胞がファゴソーム内に完全に封入されたことが三次元共焦点z-スタック再構築を介して立証されている(図3Iおよび3J)。図3Kは、単一のCARMA細胞の経時的な運命(接触性および免疫学的なシナプス形成が第一段階であり、食作用性貪食、GFPの消失を細胞死のマーカーとして用いた腫瘍の分解、ファゴソーム崩壊、およびファゴソーム修復につながる)を実証しており、CARMAが腫瘍細胞貪食後にも生存することを実証している。図3Lは、CARMAが多数の腫瘍細胞を一度に多数貪食する能力を実証している。
【0225】
抗CD19 CARマクロファージを、CD19+(標的)またはCD19-(対照)GFP+ K562腫瘍細胞に対するインビトロ食作用アッセイを用いて検討した。CARMAの抗原特異性を実証することとして、抗原担持腫瘍細胞のみが貪食された(図4A)。CARMA機能に細胞内シグナル伝達ドメインが必要であることを実証するために、CAR19-Δζ構築物(細胞内シグナル伝達ドメインを欠く)を利用した。CAR19-Δζマクロファージは腫瘍細胞を貪食することができず、インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイを介して、抗腫瘍機能を有意に低下させた(図4Bおよび4C)。インビトロCARMA食作用アッセイを、R406(Syk阻害薬)、サイトカラシンD(アクチン重合阻害薬)またはブレビスタチン(非筋肉性ミオシンIIA阻害薬)の存在下で行った。R406、サイトカラシンDおよびブレビスタチンはCARMAの食作用機能を独立に抑止し、このことはマクロファージにおけるCARシグナル伝達がSyk依存性であって、アクチン重合およびNMIIA媒介性食作用機能をもたらしたことを指し示している(図4D~4F)。
【0226】
図5Aは、標的腫瘍細胞株上でのCD47の発現をアイソタイプ対照と対比して示しているフローサイトメトリーグラフである。K562およびK562-CD19+(K19)をこれらの実験に用いたが、これらは両方ともCD47高発現細胞株である。
【0227】
図5Bは、抗CD47モノクローナル抗体の追加により、標的抗原担持腫瘍細胞のCARマクロファージ媒介性食作用が、Wtマクロファージ媒介性食作用とは異なり、選択的に強化されたことを示しているグラフである。WtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを、CD19+ K562腫瘍細胞と、0、0.01、0.10、1.00または10.0mcg/mLのいずれかの抗CD47モノクローナル抗体とともにインキュベートした。
【0228】
図5Cは、抗SIRPαモノクローナル抗体の追加により、標的抗原担持腫瘍細胞のCARマクロファージ媒介性食作用が、Wtマクロファージ媒介性食作用とは異なり、選択的に強化されたことを示しているグラフである。WtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを、0、0.01、0.10、1.00または10.0mcg/mLのいずれかの抗SIRPαモノクローナル抗体とともに、CD19+ K562腫瘍細胞とインキュベートした。
【0229】
図5Dは、抗SIRPαモノクローナル抗体によるCD47/SIRPα軸の遮断により、CARマクロファージによる多食作用(2個またはそれを上回る腫瘍細胞を一度に貪食したマクロファージと定義される)が強化されたことを実証しているグラフである。
【0230】
CD47/SIRPα遮断性モノクローナル抗体によって加えられるオプソニン作用の対照とするために、CD47と結合するがCD47をSIRPα結合部位に対しては遮断しない対照抗CD47モノクローナル抗体(クローン2D3)をインビトロ食作用アッセイに用いた。結合部位を遮断したクローン(抗CD47、クローンB6H12)またはSIRPα受容体の遮断のみが、CARMA腫瘍食作用の強化を直接的に導いている(図5E)。
【0231】
CARマクロファージ上のCD47/SIRPα軸の遮断が抗原特異性の消失を導くか否かを検討するために、抗原陰性(CD19陰性)腫瘍細胞に対するインビトロ食作用を、抗CD47または抗SIRPαモノクローナル抗体の存在下で実施したところ、観察可能な食作用はみられなかった(図5F)。
【0232】
SIRPα遮断性モノクローナル抗体の存在下におけるCARMA食作用強化の特異性を、THP1マクロファージ上のSIRPα受容体をノックアウトして、抗SIRPα抗体の非存在下または存在下におけるCARMAまたはSIRPα-KO CARMAによる腫瘍食作用を比較することによって検討した。CRISPR/Cas9をSIRPα欠失のために用い、機能アッセイの前に細胞をSIRPα陰性に関して選別した。SIRPαのノックアウトはCARMA機能を強化し、かつ、抗SIRPαを再びノックアウト細胞に加えても、食作用をさらに強化することはできなかった(図5G)。
【0233】
図6Aは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおける、48時間時点での用量依存的な様式での、CAR19ζ CARMAマクロファージによる、Wtマクロファージとは異なる(THP-1マクロファージモデルを使用)、CD19+ GFP+ルシフェラーゼ+ K562細胞の特異的溶解を示しているグラフである。
【0234】
図6Bは、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおいて、48時間時点での用量依存的な様式での、CAR19ζまたはWt THP-1単球(未分化であり、それ故にマクロファージではなく単球のモデルとなる)による腫瘍細胞の特異的溶解を実証しているグラフである。
【0235】
図6Cは、10mcg/mLの抗SIRPαモノクローナル抗体の非存在下または存在下でのインビトロでのWtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージとの48時間の共培養後のルシフェラーゼ陽性CD19+ K562腫瘍細胞に由来する、ルシフェラーゼによりもたらされる生物発光を示している一群の画像である。図6Dは、抗SIRPαモノクローナル抗体の存在下または非存在下でのWtマクロファージまたはCAR19ζマクロファージの特異的溶解を実証しているグラフである。
【0236】
FcεRI共通γ(CAR19γ、CARMA19γ)サブユニット細胞内ドメインを有するCAR構築物を作製し、レンチウイルス中にパッケージングして、3倍系列ウイルス希釈物としてTHP-1骨髄系細胞の形質導入に用いた。CAR19γはTHP-1マクロファージ上に発現された(図7A)。
【0237】
CAR19γマクロファージまたはCAR19ζマクロファージを100% CAR陽性に関して選別して、インビトロ機能特性決定のために利用した。CAR19ζマクロファージおよびCAR19γマクロファージは両方ともCD19+腫瘍細胞を貪食し、両方とも抗SIRPαモノクローナル抗体の添加によるCD47/SIRPα軸の遮断との相乗作用を呈した(図7B)。
【0238】
R406 Syk阻害インビトロ食作用アッセイで実証されたように、CAR19ζマクロファージおよびCAR19γマクロファージは両方とも、Sykを介したシグナル伝達を行って腫瘍食作用を作動させた(図7C)。
【0239】
インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイにおいて、さまざまなE:T比での24時間の共培養後に、CAR19ζマクロファージおよびCAR19γTHP1マクロファージは両方とも、Wt THP1マクロファージとは異なり、CD19+腫瘍細胞を効率的に死滅させた(図7D)。
【0240】
自然免疫系の白血球として、マクロファージは、構成性に発現された病原体認識受容体を介して、感染の保存的な分子的引き金、例えば病原体に付随する分子パターンなどに反応する。Toll様受容体は特性が最も明らかにされている病原体認識受容体であり、マクロファージを活性化することが知られている。
【0241】
CARMAの腫瘍食作用機能を強化するために、TLR1~9に対するリガンド、または培地対照により独立に初回刺激を行ったCARマクロファージを用いてインビトロ食作用アッセイを実施した。TLR1、2、4、5および6に対するリガンドはCARMAの食作用機能を強化した(図8A)。このことは、TLRリガンドを、作製過程中においてCARMAを初回刺激するために用いうること、または新規な第二世代/次世代CARMA構築物として、CARシグナル伝達および下流エフェクター機能を強化するために、TLRシグナル伝達ドメインをCAR構築物中にコードさせうることを示唆する。
【0242】
図8Bおよび8Cは、CARMAの腫瘍細胞食作用を強化するか、または強化しなかったTLRリガンド間の違いが、ある範囲内のTLR3またはTLR6リガンド濃度で保たれたことを示している。
【0243】
酵素産物の1つであるβ-グルカンは、マクロファージの表面上のデクチン-1と結合して、活性化およびエフェクター機能をもたらす。β-グルカンがCARMA機能を増強する能力を検討する目的で、5mcg/mLのβ-グルカンの非存在下または存在下でインビトロ腫瘍食作用アッセイを実施した。β-グルカンはCARマクロファージの食作用能力を強化したが、Wtマクロファージの能力は強化しなかった(図9A)。
【0244】
β-グルカンがCARMA腫瘍死滅を強化する能力を検討するために、0、0.5、5、または50mcg/mLのβ-グルカンの存在下で、さまざまなエフェクター(E):標的(T)比で、インビトロでルシフェラーゼを利用した特異的溶解アッセイを実施した。β-グルカンはCAR THP-1マクロファージの抗原担持腫瘍細胞の特異的溶解を強化したが、Wt THP-1マクロファージについてはそうではなかった(図9B)。これらの結果は、β-グルカンをCARMAの作製過程中に補助剤として用いうること、またはデクチン-1細胞内シグナル伝達ドメインをCAR導入遺伝子中にコードさせうることを指し示している。
【0245】
β-グルカンがCARMAの機能を強化させたことを考慮して、デクチン-1細胞内シグナル伝達ドメインで構成されるCAR構築物を作製した(図10A)。これらの構築物をこれらの構築物をレンチウイルス中にパッケージングして、レンチウイルス力価の3倍系列希釈物としてTHP-1骨髄系細胞の形質導入に用いた。CARは、CD8TM-デクチン1 CAR構築物およびデクチンTM-デクチン1 CAR構築物の両方において表面上で検出された(図10Bおよび10C)。細胞を100%陽性に関して選別して、下流インビトロ機能実験に用いた。
【0246】
CD8TM-デクチン1 CARおよびデクチンTM-デクチン1 CARマクロファージをインビトロのルシフェラーゼ死滅アッセイで検討した。両方の構築物とも腫瘍細胞の特異的溶解を実証した(10D)。
【0247】
デクチン1-CARマクロファージを、K562(対照)またはK19(標的)腫瘍細胞に対するインビトロ腫瘍食作用アッセイで検討したところ、デクチン1-CARマクロファージはコグネイト-抗原担持腫瘍細胞を選択的に貪食した(図10E)。デクチン-1 CARマクロファージは、複数の腫瘍細胞の貪食に対して能力を実証した(図10F)。
【0248】
インビトロ腫瘍食作用アッセイにおいて、デクチン1-CARマクロファージは、SIRPαの遮断またはTLRリガンドによる初回刺激との相乗作用を実証した(図10G)。
【0249】
図11Aは、3種の異なるCD19+標的細胞株におけるカルレティキュリンレベルをアイソタイプ対照と対比して示しているグラフである。図11Bは、3種の異なるCD19+標的細胞株におけるカルレティキュリン発現の正規化平均蛍光強度を示しているグラフである。
【0250】
図11Cは、低レベルのカルレティキュリンが、標的細胞、具体的にはNalm6細胞株およびJEKO細胞株を、CAR19zマクロファージ食作用から中程度に防御したことを示しているグラフである。これらのデータは、カルレティキュリン沈着/誘導の利用を、CARMAエフェクター機能を増強するための追加的な方策をして用いうることを示唆する。
【0251】
初代ヒト単球由来のマクロファージにおけるCARの機能を検証および検討するために、いくつかの遺伝子送達アプローチを検討した。図12Aでは、抗HER2 CAR構築物をmRNA発現プラスミド中にクローニングして、インビトロで転写させて、初代ヒト単球に直接的にmRNAのエレクトロポレーションを行った。図13Aは、ゲーティング方針、生存度、およびモックエレクトロポレーションを行った細胞と比べてトランスフェクション効率が84.3%であることを実証している。図12Bは、初代ヒト単球由来のマクロファージ(完全に分化した)への抗HER2 CAR mRNAエレクトロポレーションの効率が79.7%であること示している。
【0252】
図12Cは、mRNAエレクトロポレーションが単球およびマクロファージの両方で高いCARトランスフェクション効率をもたらす一方で、mRNA分解が理由でCAR発現が一時的であり、インビトロでのエレクトロポレーション後の第2日にピークがあって第7日までには消失したことを実証しているグラフである。
【0253】
NSGSマウスに対して、HER2+卵巣がんの転移性腹腔内癌腫症のモデルであるIE6 SKOV3 CBG/GFP+ヒト卵巣がん細胞をIP注射を介して注射した。マウスには、モックエレクトロポレーションを行ったかまたは抗HER2 CAR mRNAのエレクトロポレーションを行った初代ヒト単球または初代ヒトマクロファージ(E:T比1:1)のいずれかを同時注射し、腫瘍量を画像化した。CARマクロファージ(図13A)およびCAR単球(図13B)は、およそ2週間にわたって腫瘍増殖のわずかな減少を実証した。腫瘍量が生物発光的に定量された最初の時点は投与24時間後であり、このことはCAR単球およびCARマクロファージが最初の24時間に活性を有していたことを実証している。
【0254】
初代ヒト単球由来のマクロファージに対するCAR導入遺伝子のレンチウイルス送達を複数のCAR構築物を用いて検討した。図14Aでは、CAR19はレンチウイルス形質導入を介してヒトマクロファージに送達され、対照群とCAR19レンチウイルス(MOI 10)群との比較でそれぞれ4.27%および38.9%の形質導入効率を実証した。FACSゲーティング方針が示されている。
【0255】
図14Bは、初代ヒトマクロファージにおける抗HER2 CARの発現を示している代表的なFACSプロットであり、対照条件とMOI 10 CAR LV条件との間でそれぞれ1.47%および18.1%形質導入効率であった。
【0256】
選択したCD14+細胞(正常ドナーのアフェレーシス生成物由来)をGM-CSF条件培地中で7日間分化させることによって、単球由来のマクロファージを作製した。レンチウイルス形質導入を介したCARの送達を最適化するために、抗CD19および抗HER2レンチウイルスを、単球からマクロファージへの分化過程の種々の時点で、マクロファージに形質導入するために用いた。抗CD19および抗HER2 CAR構築物の両方に関して、形質導入効率が形質導入の中間点(第4日)にピークであったことが示されている(図15Aおよび15B)。CD11b+/GFP+事象を定義した上で、抗CD19 CAR初代ヒトマクロファージを、CD19+ GFP+ K562腫瘍細胞に対するインビトロでのFACSに基づく食作用アッセイに用いた。図15Aにおけるような種々の時点でのマクロファージ形質導入をこのアッセイに用いた。図15Cは、食作用の有効性がCAR形質導入効率に比例し、マクロファージ形質導入が分化過程の第4日にピークになることを実証している。
【0257】
mRNAエレクトロポレーションが一過性であって、レンチウイルスの効率が中程度に過ぎず高力価を必要としたことを考慮して、導入遺伝子を初代ヒトマクロファージに導入するための代替的な形質導入アプローチを検討した。アデノウイルス(組換え、複製能欠損性)が、初代ヒトマクロファージ形質導入のための効率的なアプローチとして同定された。コクサッキーアデノウイルス受容体(Ad5に対するドッキングタンパク質)およびCD46(Ad35に対するドッキングタンパク質)の発現を初代ヒトマクロファージ上のアイソタイプ対照と対比して検討したところ、CD46は高度に発現されていたがコクサッキーアデノウイルス受容体はみられなかった(図16A)。このことから、キメラAd5f35アデノウイルスを初代ヒトマクロファージ形質導入のために利用し、HER2に対するキメラ抗原受容体(GFPおよび空Ad5f35ウイルスを対照として用いた)を発現させるために標準的な分子生物学手法を介して操作した。
【0258】
図16Bは、1000のMOIでAd5f35がヒトマクロファージ内に導入遺伝子(GFPをモデル導入遺伝子として用いた)を効率的に送達し、IVIS SpectrumでのGFPシグナル定量によるモニタリングで発現が経時的に増したことを示している。図16Cは、広範囲のMOI(最大10,000まで)にわたって、種々の時点での、初代ヒトマクロファージの形質導入動態の比較を示している。
【0259】
図16Cは、広範囲にわたるウイルスMOIでの、形質導入後48時間時点での、Ad5f35形質導入ヒトマクロファージ上の抗HER2 CAR発現の一連の代表的なFACSプロットを示している。
【0260】
図16Dは、Ad5f35-GFP形質導入初代ヒトマクロファージの一連の代表的な蛍光顕微鏡画像を示しており、最大の形質導入効率はMOI 1000で実証された。
【0261】
初代ヒトCARMAを、FACS分析を介したインビトロ食作用アッセイで検討した。マクロファージ(非形質導入または抗HER2 CAR)を、GFP+ SKOV3卵巣がん細胞との共培養の前にDiIで染色した。DiI/GFP二重陽性事象によって定義される食作用は、CAR群では26.6%、対照群では4.55%のレベルとして測定された(図17A)。DiI/GFP二重陽性事象が食作用事象であってダブレットではないことを立証するために、サイトカラシンD(食作用阻害薬)を実験の1アームに追加したところ、CAR媒介性食作用は1.74%に十分に抑止された。初代ヒトCARマクロファージが腫瘍細胞を貪食しうることをさらに立証するために、二重陽性事象をAmnis Imagestream FACSでゲーティング処理して、Amnis食作用-侵食アルゴリズムによって高いものから低いものへの順に並べたところ、これらの二重陽性事象食作用を表すことが視覚的に実証された(図17B)。加えて、DiI染色したCAR-HER2マクロファージをSKOV3-GFPと共培養して共焦点顕微鏡によって画像化したところ、食作用が立証された。
【0262】
抗HER2 CAR初代ヒトマクロファージを、単球由来のマクロファージのAd5f35-CAR形質導入を用いて作製した。これらの細胞(または対照非形質導入細胞)を、インビトロでのFACSに基づく食作用アッセイにおいて、SKBR3ヒト乳がん細胞のエフェクターとして利用した。図18は、CARヒトマクロファージが、UTDヒトマクロファージと異なり、乳がん細胞を貪食することを実証する。加えて、抗SIRPαモノクローナル抗体の追加は乳がん細胞のCARMAマクロファージの食作用を強化したが、UTDマクロファージについてはそうではなかった。これらの結果は、THP-1モデルにおいてCARMAで認められたCD47/SIRPα軸の遮断同士の相乗作用が初代ヒトマクロファージ試験にも同じく当てはまることを実証している。
【0263】
マクロファージは自然免疫系の白血球であり、それ故に監視的抗菌特性を有する。CARマクロファージが抗菌的な意味で依然として機能的な自然免疫細胞であって、感染刺激に応答する能力を失っていないことを実証する目的で、対照非形質導入マクロファージまたはCARマクロファージを、FACSに基づく大腸菌食作用アッセイに使用した。図19は、CARMAがpH-Rodo Green大腸菌粒子の完全な食作用を呈することを示している代表的なFACSプロットである。
【0264】
初代ヒト抗HER2 CARMAを、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイにおいてエフェクター細胞として検討した。抗HER2 CARMAマクロファージは、48時間の共培養後に、HER2+ K562細胞の特異的溶解を導いたがHER2発現を欠く対照K562細胞の特異的溶解を導かず、対照UTDマクロファージはいずれも導かなかった(図20A)。CARMA死滅が、HER2を生理的レベルで発現する腫瘍細胞(HER2を過剰発現するようにレンチウイルス性に形質導入されたK562-HER2とは対照的に)にも当てはまることを実証するために、SKBR3乳がん細胞およびSKOV3卵巣がん細胞を標的として用いた。CARMAは48時間の共培養後に両方のモデルに対して有意な抗腫瘍活性を有していたが、対照UTDも対照空Ad5f35形質導入マクロファージもそうではなかった(図20Bおよび20C)。死滅アッセイにおけるCD47/SIRPα軸の遮断同士の相乗作用について検討する目的で、SKOV3卵巣がん細胞を、培地、対照非形質導入マクロファージ、抗HER2 CARMA、抗HER2 CARMA+抗CD47 mAB(10mcg/mL)または抗HER2 CARMA+抗SIRPα(10mcg/mL)と共培養して、ルシフェラーゼシグナルを継続的に測定した。CARMAは第13日までに完全な腫瘍根絶を導いたが、腫瘍根絶の動態はCD47/SIRPα軸の遮断の存在下ではさらに迅速であった(図20D)。THP-1マクロファージCARMAモデルにおいて実証されたβ-グルカンとの相乗作用を同様の実験で検討したところ、CARMAのβ-グルカン初回刺激は腫瘍死滅動態の強化を導いた(図20E)。CARMAのLPS(TLR-4リガンドの1つ)またはポリ-IC(TLR-3リガンドの1つ)への曝露は抗腫瘍効果の変化を導いた(図20F)。
【0265】
図20A~20Fにおけるルシフェラーゼアッセイでは、インビトロで初代ヒトCARMAが腫瘍を除去する能力が実証された。これらの結果を立証するために、GFP+ SKOV3卵巣がん細胞を、対照UTDマクロファージ、対照UTDマクロファージ+10mcg/mLトラスツズマブ、対照空Ad5f35ウイルス形質導入マクロファージ、または抗HER2初代ヒトCARMAと共培養した。CARMAは、対照条件とは異なり、腫瘍細胞を除去することができた(図21)。
【0266】
マクロファージは表現型の点で可塑的な細胞であり、多様な機能的特徴を持つことができ、これは一般的にM1およびM2マクロファージ分類に分けられ、M1は炎症性/活性化性であり、M2は免疫抑制性/腫瘍促進性である。Ad5f35 CARウイルスによる初代ヒトマクロファージの形質導入から48時間後に、M1マーカーCD80/CD86の用量依存的なアップレギュレーションおよびM2マーカーCD163の用量依存的なダウンレギュレーションがFACSによって測定された(図22A)。この効果がCAR発現またはAd5f35形質導入の結果であったか否かを検討するために、マクロファージの形質導入を、何も用いずに、空Ad5f35を用いて、または抗HER2 Ad5f35を用いて行ったところ、空/CAR Ad5f35は同じパターンの表現型推移を示した(図22B)。
【0267】
固形腫瘍微小環境は一般に免疫抑制性であり、M2状態へのマクロファージ極性化を導くことができる。ウイルス形質導入に起因して極性化したM1であるCARMAが、免疫抑制性サイトカインにより媒介されるM2への転換に対して抵抗性であるか否かを検討するために、対照非形質導入ヒトマクロファージまたは抗HER2 CARヒトマクロファージをIL-4、IL-10またはIL-13に24時間曝露させて、その後にSKOV3卵巣がん細胞との共培養を行った。抑制性サイトカインにより条件付けされた対照UTDマクロファージは腫瘍増殖の増強を引き起こしたが、一方、抑制性サイトカインに曝露されたCARMAは、ルシフェラーゼを利用したインビトロ特異的溶解アッセイにおいて48時間の時点で、それらの死滅活性を維持した(図22C)。
【0268】
ヒトCARマクロファージの免疫抑制に対する抵抗性をさらに検討するために、対照UTD、空Ad5f35または抗HER2 CAR Ad5f35が形質導入されたマクロファージを、標準的なM2誘導性サイトカインである10ng/mLのIL-4、または共培養中にマクロファージをM2に転換することが以前に示されているがん細胞(SKOV3、卵巣がん細胞株;HDLM2、ホジキンリンパ腫細胞株)に曝露させた。対照UTDマクロファージは、STAT6リン酸化を介してIL-4刺激に特異的に応答するM2マーカーであるCD206をアップレギュレートした。空Ad5f35はIL-4および腫瘍により誘導されるM2表現型への破壊に対する抵抗性を呈し、CAR-Ad5f35形質導入マクロファージはさらにそうであった(図22D)。
【0269】
CARマクロファージの表現型についてさらに特性決定を行うために、酸素消費を測定するためのSeahorseアッセイを用いて代謝表現型を調査した。M2マクロファージは、ATP産生に関して酸化的リン酸化への依存性がより高いという理由で、M0マクロファージまたはM1マクロファージよりも基礎酸素消費速度が高かった。対照UTDまたは抗HER2 CARマクロファージを、M2に極性化させるため(またはそうしないため)にIL-4に24時間曝露させて、酸素消費速度を測定した。対照UTDマクロファージはM2マクロファージに特徴的である増加した基礎酸素消費特性を実証したが、一方、CARMAはIL-4に反応せず、このことはそれがM2転換に対して抵抗性であることを示唆する(図22E)。これらのデータは総合して、CARMAがM2転換に対して抵抗性であることを、表現型、代謝および機能アッセイを用いて物語っている。
【0270】
初代ヒト正常ドナー単球(CD14陽性選択を介して精製)に対して、0(UTD)から1000までの範囲にわたるMOIでAd5f35-CAR-HER2を用いた形質導入を行った。CAR発現を形質導入後48時間時点でFACSを介して測定した。CAR単球はAd5f35によって効率的に作製され、発現はMOI 1000にピークがあった(図23Aおよび23B)。単球は最大で1000までのMOIで高い生存度(FACS Live/Dead Aqua分析により測定)を維持した(図23C)。CARヒト単球は、FACSによる分析で、M1活性化マーカーをアップレギュレートし(図23D)、M2マーカーをダウンレギュレートした(図23E)が、非形質導入(UTD)ヒト単球はそうでなく、このことは形質導入後48時間時点でのM1単球表現型を実証している。
【0271】
抗HER2 CAR単球性死滅を、ある範囲にわたるエフェクター:標的(E:T)比で、インビトロでルシフェラーゼを利用した死滅アッセイを介して評価した。非形質導入(UTD)またはCAR-HER2-ζ(CAR)単球を、HER2+ SKBR3(ヒト乳がん)またはHER2+ SKOV3(ヒト卵巣がん)細胞のいずれかとインビトロで共培養した。共培養の開始後24、48および96時間の時点で、特異的溶解を算出した。CAR単球は、UTD単球とは異なり、乳がん細胞および卵巣がん細胞の両方をインビトロで溶解させた(図24Aおよび24B)。
【0272】
NOD-scid IL2Rg-null-IL3/GM/SF、NSG-SGM3(NSGS)マウスを、ヒトHER2(+)卵巣がん異種移植片をインビボでモデル化するために用いた。第0日にマウスに対して、固形悪性腫瘍の高悪性度で本質的に転移性のモデルである腹腔内がん腫症のモデルとして、7.5E5コメツキムシ緑色ルシフェラーゼ(CBG luc)陽性/緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性SKOV3卵巣がん細胞を腹腔内(IP)注射した。マウスには非投与(腫瘍のみ)とするか、または4E6非形質導入(UTD)ヒトマクロファージもしくはCAR-HER2(CARMA)ヒトマクロファージの単回用量を第0日にIP注射を介して注射した(模式図、図25A)。腫瘍量の代用として生物発光(総フラックス;光子/秒)を用いて、マウスを継続的に画像化した。CARMA投与を受けたマウスでは、腫瘍量のおよそ2桁の減少がみられた(図25Bおよび25C)。CARMAを投与されたマウスは、非投与マウスまたはUTDマクロファージを投与されたマウスと比べて、30日の延命効果(p=0.018)を有した(図25D)。固形腫瘍結節内へのマクロファージの輸送を実証するために、第36日に死亡したマウスから腫瘍を採取して、養子移入したヒトマクロファージの存在をFACS分析でヒトCD45発現を介して評価した(図25E)。
【0273】
ヒトマクロファージに対して、形質導入を行わないか(UTD)、または導入遺伝子を欠く空Ad5f35ビリオン(空)もしくはAd5f35-CAR-HER2-ζ(CARMA)を用いた感染多重度1000での形質導入を行った。表面CAR発現を、形質導入後48時間時点でのFACS分析によって検証した(図26A)。空Ad5f35またはCAR-HER2-ζAd5f35のいずれかによる形質導入を受けた細胞におけるM1マクロファージ極性化を実証するために、表面マーカーを評価した。M1マーカー(HLA DR、CD86、CD80、PDL1)はアップレギュレートされ、一方、M2マーカー(CD206、CD163)はダウンレギュレートされた(図26B)。NSGSマウスを再びHER2+転移性卵巣がんのIPモデルとして用い、4つの投与アーム(各アーム当たりn=5)に層別化した。マウスを非投与のままとするか、または1E7非形質導入マクロファージ、空-Ad5f35形質導入マクロファージ、もしくはCAR-HER2-ζ形質導入マクロファージのIP注射を第0日に行った(図26C)。腫瘍量を継続的な生物発光画像化を介してモニターし、腫瘍生着後第27日に示された代表的なデータを示している(図26Dおよび26E)。CARMA投与を受けたマウスでは、投与後第20日時点での腫瘍量が非投与マウスのおおよそ2,400分の1であった。
【0274】
NSGSマウスをHER2+転移性卵巣がんのIPモデルに用い、非投与、および3E6、1E7または2E7 CAR-HER2-ζヒトマクロファージのいずれかのIP投与を第0日に行うことで構成される4つの投与アーム(各アーム当たりn=5)に層別化した(図27A)。腫瘍量を継続的な生物発光画像化によってモニターしたところ、このモデルではマクロファージ数に依存的な用量反応が観察された(図27B)。マウス当たり3E6、1E7または2E7のマクロファージでのCAR-HER2マクロファージの単回投与は、生着後第36日までに用量依存的な腫瘍根絶(非投与マウスとの対比で)を導いた(図27C)。
【0275】
図28は、CARMAに関して提唱される治療アプローチの説明図である。手短に述べると、患者単球を末梢血から選択し、エクスビボで分化させて、CARを発現するように形質導入を行い、相乗作用性化合物との共刺激を行って(または行わずに)、静脈内、腹腔内、腫瘍内、インターベンショナルラジオロジー手順、または他の経路のいずれかによって患者に注射して戻す。留意点として、分化過程を省いて単球に形質導入を行い、患者に注入して戻すこともできる。単球の供給源は、HLAを合致させたドナーであってもよい。
【0276】
他の態様
本明細書における変数の定義における要素のリストの記述は、単一の要素または列記された要素の組み合わせ(または部分的組み合わせ)としての、その変数の定義を含む。本明細書における態様の記述は、単一の態様としての、または他の態様もしくはその一部分と組み合わせられた、その態様を含む。
【0277】
本明細書で引用した各特許、特許出願および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は特定の態様に関連して開示されているが、本発明の他の態様および変形は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることが明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような態様および同等の変形を包含するように解釈されることが意図される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図20D
図20E
図20F
図21
図22A
図22B
図22C
図22D
図22E
図22F
図23A
図23B
図23C
図23D
図23E
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図25E
図26A
図26B
図26C
図26D
図26E
図27
図28