(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】粒子捕捉用マイクロデバイス、及びそれを用いた粒子の捕捉、濃縮、又は分離方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2017189511
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2016193796
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】金 秀▲弦▼
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博史
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0148937(US,A1)
【文献】特開平05-126796(JP,A)
【文献】特開2009-214044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0120537(US,A1)
【文献】特開2006-181572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 3/10
B01D 57/00 - 57/02
B03C 3/00 - 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電泳動によって試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイスであって、
流入口と、
流出口と、
前記流入口と前記流出口とを連通する流路チャンバーとを有し、
前記流路チャンバーの底面は、平面であり、
前記流路チャンバーは、前記流入口から前記流出口に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有し、
前記拡大部は、前記流路チャンバーの底面に対して高さ方向に流路の断面積が拡大し、
前記流路チャンバーの底面には、電界発生手段が、少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に配置されている、マイクロデバイス
(但し、拡大部が高さ方向及び幅方向の双方に流路の断面積が拡大する場合を除く)。
【請求項2】
誘電泳動によって試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイスであって、
流入口と、
流出口と、
前記流入口と前記流出口とを連通する流路チャンバーと
、
電界発生手段とを有し、
前記流路チャンバーの底面は平面であり、
前記流路チャンバーは、前記流入口と前記流出口との間には流路の断面積が拡大する拡大部が形成されており、前記流入口と前記拡大部との間の流路の高さは、前記流路チャンバーに導入された試料中の粒子が前記流路チャンバーの底面近傍で前記流路を移動
可能な高さであり、前記拡大部は、前記流路チャンバーの底面に対して高さ方向に流路の断面積が拡大
し、
前記
電界発生手段は、前記流路チャンバーの底面
にのみ配置され、かつ、
前記拡大部に対面する位置に少なくとも配置されている、マイクロデバイス。
【請求項3】
前記粒子は、稀少細胞である、請求項1又は2に記載のマイクロデバイス。
【請求項4】
前記稀少細胞は、血中循環腫瘍細胞又は免疫細胞である、請求項3記載のマイクロデバイス。
【請求項5】
マイクロデバイスの流路チャンバー内に試料中の粒子を捕捉する方法であって、
前記マイクロデバイスは、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロデバイスであり、
前記マイクロデバイスの前記電界発生手段に電場を発生させること、及び
前記マイクロデバイスの前記流入口から前記流路チャンバー内に前記試料を導入することを含む、前記粒子を捕捉する方法。
【請求項6】
前記試料の導入は、前記流路チャンバーの容量を超える量の前記試料を導入することにより行う、請求項5に記載の捕捉方法。
【請求項7】
前記粒子は、稀少細胞である、請求項5又は6に記載の捕捉方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の捕捉方法によって、前記流路チャンバー内に試料中の粒子を捕捉すること、及び
前記流路チャンバーに回収液を導入して前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含む、試料の濃縮方法。
【請求項9】
試料中の粒子を分離する方法であって、
上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有し、底面が平面である流路チャンバー内の少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び
粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入し、前記試料中に含まれる複数種類の粒子を分離することを含み、
前記拡大部は、前記流路チャンバーの底面に対して高さ方向に流路の断面積が拡大し、
前記電場は、流路チャンバーの底面で発生させる、粒子の分離方法
(但し、拡大部が高さ方向及び幅方向の双方に流路の断面積が拡大する場合を除く)。
【請求項10】
前記粒子は、稀少細胞である、請求項9に記載の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイス、試料中の粒子を捕捉する方法及びそれを用いた粒子を濃縮又は分離する方法に関する。本開示のマイクロデバイス並びに捕捉、濃縮及び分離方法は、一又は複数の実施形態において、試料中の細胞の捕捉、濃縮、又は分離に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
細胞等の様々な粒子を含む液を濃縮したり、該液から粒子を回収したりすることが行われている。例えば、特許文献1には、誘電泳動(DEP)を用いた検査対象物の捕捉と、細胞破砕(EP)を用いた検査対象物の破砕とを単一のウエルで行うことが可能なマイクロチャンバーアレイ装置が開示されている。また、特許文献2には、誘電泳動を用い、微粒子を含んだ液を、微粒子濃度の高い濃縮液と微粒子濃度の低い希釈液とに分けるための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-34641号公報
【文献】特開2008-249513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
疾患の早期発見及び診断や学術的な研究等を目的として、生体から採取される検体中の粒子(例えば細胞等)や様々な成分の分析が行われている。例えば、血液には、血中循環腫瘍細胞/CTC(Circulating Tumor Cell)や免疫細胞等の稀少細胞といった医学的に重要な細胞が含まれている。例えば、CTCは、原発腫瘍組織又は転移腫瘍組織から遊離し、血液に浸潤した細胞であることから、血液中のCTC数が、がんの転移の可能性及び予後に関係があることが報告されている。このため、これらの細胞を正確に分析することが求められている。
【0005】
しかしながら、上記のCTC等の稀少細胞は、試料内に数個程度というようにきわめて少量しか存在しない。このため、分析に用いる際の利便性から、試料中に含まれる粒子を濃縮した状態で回収することが求められている。このような試料を濃縮する場合、一般的な濃縮方法である遠心分離で生じる細胞のロスが、非常に大きな問題となってくる。また、遠心分離を用いて濃縮する場合、発生するロスの程度が作業者間や実験間などで大きく、再現性についても問題がある。
【0006】
本開示は、一又は複数の実施形態において、試料中の稀少細胞等の粒子を精度よく捕捉可能な装置及び方法に関し、好ましくは試料中の稀少細胞等の粒子を濃縮可能な装置及び方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、誘電泳動によって試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイスであって、流入口と、流出口と、前記流入口と前記流出口とを連通する流路チャンバーとを有し、前記流路チャンバーは、流入口から流出口に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有し、前記流路チャンバーには、電界発生手段が少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に配置されている、粒子捕捉用マイクロデバイスに関する。
【0008】
本開示は、その他の態様において、マイクロデバイスの流路チャンバー内で試料中の粒子を捕捉する方法であって、前記マイクロデバイスは、上記の粒子捕捉用マイクロデバイスであり、前記マイクロデバイスの前記電界発生手段に電場を発生させること、及び前記マイクロデバイスの前記流入口から前記流路チャンバー内に前記試料を導入することを含む、試料中の粒子を捕捉する方法に関する。
【0009】
本開示は、その他の態様において、本開示の粒子の捕捉方法によって試料中の粒子を捕捉することを含む、試料中の粒子を濃縮、分離、観察又は回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一態様において、試料中の稀少細胞等の粒子を精度よく捕捉することができる。また、本開示によれば、一態様において、試料中の稀少細胞等の粒子を、ロスを低減しつつ高い再現性で捕捉又は回収できるという効果を奏しうる。また、本開示によれば、一態様において、試料中の稀少細胞等の粒子を濃縮、分離、観察又は回収できるという効果を好ましくは奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示のマイクロデバイスの一例の概略図である。
図1において、(A)はマイクロデバイス1の上面図であり、(B)は(A)のI-I方向の断面図であり、(C)は(B)のII-II方向の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例2及び比較例3における捕捉後のがん細胞の分布を示す画像の一例である。
【
図3】
図3は、実施例7における捕捉後のがん細胞及び白血球の分布を示す画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一態様において、上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバーに不均一な電場を発生させ、その状態で流路チャンバーの上流側から流路チャンバー内に細胞液を導入すると、拡大部において流速が減少した細胞を誘電泳動力により捕捉しやすくなるとともに、細胞の濃縮を行うことができるという、本発明者らが見出した新たな知見に基づく。
また、本開示は、一態様において、流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバーと細胞の誘電泳動力とを利用することによって、細胞の濃縮効率を向上できるという、本発明者らが見出した新たな知見に基づく。
【0013】
本開示によって、細胞等の粒子を精度よく捕捉できるメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。
拡大部を有する流路チャンバー内に試料を導入すると、拡大部において流路断面積が拡大することにより試料の流速が低下する。その結果、試料の流速を低下させた状態で、試料中の粒子に誘電泳動力を及ぼすことができるため、粒子が捕捉しやすくなると考えられる。特に、流路チャンバーの高さが低い拡大部前の部分から流路チャンバーの高さを高さ方向に拡大する拡大部を形成することで、電界発生手段(例えば、電極)に近い状態(つまり粒子が受ける誘電泳動力を高めた状態にした上)で粒子の流速を低下させることができ、それにより、粒子の捕捉率をより向上できると考えられる。
流路内では、流路中央部と比べて、流路の壁面側(例えば、上面側及び底面側)の方が流速が遅いという流速の分布が生じるため、流速の遅い底面側に近づいた状態で粒子が拡大部または近傍に到達するように、拡大部前の流路の高さを低くして物理的に粒子が底面側に近づいた状態を作っておく。さらに、誘電泳動力は電界発生手段との距離が近いほど強く作用するので、流路の底面に電界発生手段を設置しておくことにより、底面に近づけておいた粒子には強い誘電泳動力が作用する。このような状態から、流路チャンバー内の流路断面積を拡大させると、試料全体の流速が低下し、底面近傍の試料の流速もさらに低下する。その結果、効率良く粒子を捕捉することができる。つまり、拡大部を設けていない構成より、拡大部を設けた構成の方が捕捉効率が高く、高さ方向への拡大の方が幅方向への拡大よりも効果的に上記効果が得られる。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
[マイクロデバイス]
本開示は、一態様において、誘電泳動によって試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイス(本開示のマイクロデバイス)に関する。本開示のマイクロデバイスは、流入口と、流出口と、前記流入口と前記流出口とを連通する流路チャンバーとを有し、前記流路チャンバーは、流入口から流出口に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有し、前記流路チャンバーには、電界発生手段が、少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に配置されている。
【0015】
本開示のマイクロデバイスによれば、一又は複数の実施形態において、試料中の稀少細胞等の粒子を精度よく捕捉することができる。また、本開示のマイクロデバイスによれば、一又は複数の実施形態において、効率よく粒子の濃縮を行うことができる。本開示のマイクロデバイスは、一又は複数の実施形態において、捕捉又は濃縮した粒子の観察、分析又は回収を行うことができる。
【0016】
本開示のマイクロデバイスにおける流路チャンバーは、流入口及び流出口と連通しており、流入口から導入した試料を流出口から排出可能である。また、流入口又は流出口から回収液を導入することにより、流路チャンバー内に捕捉された粒子を流路チャンバーから回収可能である。
【0017】
本開示のマイクロデバイスにおける流路チャンバーは、流入口から流出口に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する。これにより、本開示のマイクロデバイスは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバー内に導入した試料中の粒子を電界発生手段(例えば、電極)に近づけた状態で試料の流速(粒子の速度)を急激に減速させることができ、さらには電界発生手段によって流路チャンバー内に発生させた誘電泳動力を、減速した粒子に作用させることができる。このため、本開示のマイクロデバイスによれば、一又は複数の実施形態において、試料中の粒子を精度よく捕捉することができる。
【0018】
拡大部は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの底面に対して高さ方向、幅方向、又は高さ方向と幅方向の双方に流路の断面積が拡大する。高さ方向への流路の拡大としては、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの上面の高さが高くなることが挙げられる。高さ方向への流路の拡大としては、一又は複数の実施形態において、高さ方向への90度(試料流入方向に対して垂直方向)又は略90度の拡大でもよいし、流入口から流出口に向かう高さ方向への直線的、段階的、若しくは曲線的な拡大又はこれらの組み合わせでもよい。段階的な拡大としては、一又は複数の実施形態において、階段状(一段も含む)の拡大が挙げられる。幅方向への流路の拡大とは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの幅が広がることが挙げられる。幅方向への流路の拡大としては、一又は複数の実施形態において、流路の幅が180度(試料流入方向に対して水平方向)又は略180度拡大することでもよいし、流入口から流出口に向かう幅方向への直線的、段階的、若しくは曲線的な拡大又はこれらの組み合わせでもよい。段階的な拡大としては、一又は複数の実施形態において、階段状(一段も含む)の拡大が挙げられる。
本開示において、拡大部が流入口から流出口に向かって高さ方向及び/又は幅方向に直線的又は曲線的に拡大する場合、上記拡大が開始した部分から、高さが最も高い部分及び/又は幅が最も広い部分までの領域を拡大部という。
【0019】
拡大部は、流路チャンバーの底面積をより小さくでき、その結果、濃縮率を向上でき、又はマイクロデバイスを用いて粒子の観察を行う際の観察面をより狭くできる点から、高さ方向に流路が拡大することが好ましい。
【0020】
拡大部としては、一又は複数の実施形態において、流入口と流出口との直線方向(試料流入方向)に対して直交する断面の流路断面積が、拡大する部分が挙げられる。本開示において「流路の断面積(流路断面積)」とは、試料が流入する方向に対して直交する方向における断面の流路チャンバーの面積をいう。断面積が拡大することとは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの流路断面積が、拡大部直前の流路断面積よりも大きければよい。捕捉粒子、試料及び流速などに応じて、流路断面積は適宜決定すればよい。流路チャンバーの流路断面積は、一又は複数の実施形態において、拡大部直前の流路断面積の1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、5.5倍以上又は6倍以上である。したがって、拡大部と拡大部直前との流路断面積比([拡大部の流路断面積]/[拡大部直前の流路断面積])は、一又は複数の実施形態において、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、5.5以上若しくは6以上であり、又は、10以下、9以下、8以下若しくは7以下である。本開示において「拡大部の流路断面積」とは、拡大部において流路断面積が最も広い流路断面積をいう。本開示において「拡大部直前の流路断面積」とは、拡大部よりも上流側であって、流路断面積が変化(拡大)する直前の流路断面積をいう。
【0021】
[拡大部が流路チャンバーの底面に対して高さ方向に拡大する形態]
拡大部が流路チャンバーの底面に対して高さ方向に拡大する形態において、拡大部の高さ(He)と拡大部直前(拡大変化点)の高さ(Hb)との比(He/Hb)は、捕捉粒子、試料及び流速などに応じて適宜決定すればよいが、一又は複数の実施形態において、1.5以上であり、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、5.5以上又は6以上が好ましい。また、上記比(He/Hb)の上限は、一又は複数の実施形態において、10以下、9以下、8以下又は7以下である。本開示において「拡大部の高さ(He)」とは、拡大部において流路チャンバーの高さが最も高い部分の高さをいう。本開示において「拡大部直前の高さ(Hb)」とは、拡大部よりも上流側であって、流路断面積が大きくなる直前の流路チャンバーの高さをいう。
【0022】
拡大部の高さ(He)は、100μm以上であり、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、一又は複数の実施形態において、100μm以上、200μm以上、300μm以上、400μm以上、500μm以上又は600μm以上である。拡大部の高さは、一又は複数の実施形態において、1000μm以下、900μm以下、800μm以下又は700μm以下である。
【0023】
拡大部直前の高さ(Hb)は、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、一又は複数の実施形態において、200μm以下、150μm以下、100μm以下、50μm以下又は40μm以下である。拡大部直前の高さ(Hb)は、一又は複数の実施形態において、20μm以上又は30μm以上である。
【0024】
該形態における流路チャンバーの幅は、一又は複数の実施形態において、捕捉率をより向上させる点から、0.05mm以上、0.1mm以上又は0.5mm以上であり、粒子の濃縮を行う点から、50mm以下、40mm以下、30mm以下、20mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下又は1mm以下である。本開示において流路チャンバーの幅とは、試料流入方向と直交する方向における流路の長さをいう。
【0025】
なお、拡大部の高さ(He)、拡大部直前の高さ(Hb)及び流路チャンバーの幅などは、捕捉粒子、試料及び流速などに応じて適宜決定すればよい。
【0026】
[拡大部が流路チャンバーの底面に対して幅方向に拡大する形態]
拡大部が流路チャンバーの底面に対して幅方向に拡大する形態において、拡大部の幅(We)と拡大部直前の幅(Wb)との比(We/Wb)は、一又は複数の実施形態において、1.5以上であり、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、5.5以上又は6以上が好ましい。また、上記比(We/Wb)の上限は、一又は複数の実施形態において、10以下、9以下、8以下又は7以下である。本開示において「拡大部の幅(We)」とは、拡大部における流路チャンバーの幅が最も広い部分の幅をいう。本開示において「拡大部直前の幅(Wb)」とは、拡大部よりも上流側であって、流路断面積が大きくなる直前の流路チャンバーの幅をいう。
【0027】
拡大部の幅(We)は、0.075mm以上であり、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、一又は複数の実施形態において、0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、1mm以上、2mm以上、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上又は10mm以上である。拡大部の幅(We)は、一又は複数の実施形態において、500mm以下、400mm以下、300mm以下、200mm以下、100mm以下、90mm以下、80mm以下、70mm以下、60mm以下、50mm以下、40mm以下、30mm以下又は20mm以下である。
【0028】
拡大部直前の幅(Wb)は、拡大部において流速を低下させ捕捉率をより向上させる点から、一又は複数の実施形態において、50mm以下、40mm以下、30mm以下、20mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下又は1mm以下である。拡大部の直前の幅(Wb)は、一又は複数の実施形態において、0.05mm以上、0.1mm以上又は0.5mm以上である。
【0029】
粒子を流路チャンバーの底面に近づけた状態で、拡大部にて流速をより低下させることにより、粒子の捕捉率をさらに向上させる点から、流入口側から拡大変化点までにおける流路チャンバーの高さは、一又は複数の実施形態において、200μm以下、150μm以下、100μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下又は20μm以下である。流路チャンバーの高さは、一又は複数の実施形態において、20μm以上又は30μm以上である。
【0030】
流路チャンバーに形成される拡大部の数は特に制限されるものではなく、少なくとも1つ形成されていればよい。
【0031】
流路チャンバーの長さは、一又は複数の実施形態において、捕捉率をより向上させる点から、0.05mm以上、0.1mm以上、0.5mm以上又は1mm以上であり、粒子の濃縮を行う点から、100mm以下、50mm以下、40mm以下、30mm以下、20mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下又は2mm以下である。本開示において流路チャンバーの長さとは、試料流入方向における流路チャンバーの長さをいう。
【0032】
流路チャンバーの体積(容量)は、一又は複数の実施形態において、10pl以上、100pl以上、1nl以上、10nl以上、0.1μl以上、0.2μl以上、0.3μl以上、0.4μl以上、0.5μl以上、0.6μl以上、0.7μl以上、0.8μl以上、0.9μl以上若しくは1μl以上であり、又は10ml以下、5ml以下、1ml以下、0.5ml以下、0.3ml以下、0.1ml以下、90μl以下、80μl以下、70μl以下、60μl以下、50μl以下、40μl以下、30μl以下、20μl以下若しくは10μl以下である。なお、拡大部の幅(We)、拡大部直前の幅(Wb)、流路チャンバーの長さ、流路チャンバーの体積などは、捕捉粒子、試料及び流速などに応じて適宜決定すればよい。
【0033】
流路チャンバーの底面は、粒子の捕捉率をさらに向上でき、かつ捕捉後の粒子の観察を容易にする点から、平面であることが好ましい。
【0034】
流路チャンバーには、誘電泳動を生じさせるための電界発生手段が配置されている。本開示のマイクロデバイスは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーに配置された該電界発生手段に電圧を印加することによって不均一電場を発生させ、誘電泳動を生じさせることができる。電界発生手段は、粒子の捕捉率をさらに向上させる観点から、一又は複数の実施形態において、少なくとも拡大部又はその近傍に配置されていればよい。拡大部又はその近傍に配置することとしては、一又は複数の実施形態において、拡大部が一方壁面のみが上側へ拡大した形状を有する場合、拡大部に対面する位置に電界発生手段が配置されることが挙げられる。電界発生手段は、粒子の捕捉率をさらに向上でき、かつ捕捉後の粒子の観察を容易にする点から、流路チャンバーの底面に配置することが好ましい。粒子を流路チャンバーの底面に近づけた状態で、拡大部にて流速を低下させることにより、粒子の捕捉率をさらに向上させる点から、電界発生手段は少なくとも拡大部に対面する流路チャンバーの底面に配置されていることが好ましい。
【0035】
電界発生手段としては、一又は複数の実施形態において、誘電泳動のための対向電極が挙げられる。粒子の捕捉率をさらに向上させる観点から、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの底面には、誘電泳動のための対向電極が配置されている。本開示のマイクロデバイスは、流路チャンバーの底面に配置された対向電極に電界を印加することによって不均一電場を発生させ、誘電泳動を生じさせることができる。電極は、一又は複数の実施形態において、拡大部付近に少なくとも配置されていればよく、粒子の捕捉率をより向上させる点からは、流路チャンバーの底面の上流側から下流側にかけて全体に配置されていることが好ましい。電極は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの内壁面の底面に配置されていることが好ましい。
【0036】
電極の形態は特に制限されるものではなく、一又は複数の実施形態において、櫛形電極(交差指状電極)が挙げられる。櫛形電極は、一又は複数の実施形態において、
図1(C)に示すように、櫛形電極の各電極指の長手方向が流入口と流出口との直線方向(試料流入方向)に対して直交するように配置することが好ましい。
【0037】
電極の幅は、一又は複数の実施形態において、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上若しくは10μm以上であり、又は5000μm以下、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下若しくは100μm以下である。電極の幅は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。本開示において電極の幅とは、試料が流入する方向の電極の長さをいう。
【0038】
電極間のギャップは、一又は複数の実施形態において、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上若しくは10μm以上であり、又は1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下若しくは100μm以下である。本開示において電極間のギャップとは、試料が流入する方向において隣接する電極と電極との間隔(距離)をいう。
【0039】
電極の厚みは、一又は複数の実施形態において、0.1nm以上、0.5nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、4nm以上、5nm以上、6nm以上、7nm以上、8nm以上、9nm以上若しくは10nm以上であり、又は1,000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下若しくは500nm以下である。
【0040】
各電極指の長さは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの幅に応じて適宜決定できる。各電極指の長さは、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの幅の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上若しくは70%以上であり、又は100%以下、95%以下、90%以下若しくは85%以下である。粒子の捕捉率をより向上させる点から、各電極指は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの幅方向全体に配置されていることが好ましい。
【0041】
電極の材質は、一又は複数の実施形態において、インジウムスズ酸化物(ITO)、チタニウム、クロム、金、白金、ZnO(酸化亜鉛)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、銀、銅、導電性の物質(導電性ポリマー等)等が挙げられる。電極は、一又は複数の実施形態において、捕捉した粒子の観察又は分析が容易になることから、透明であることが好
ましい。
【0042】
流入口及び流出口の形成位置は特に制限されない。流入口及び流出口の位置としては、一又は複数の実施形態において、マイクロデバイスの側面、上面又は下面等が挙げられる。
【0043】
マイクロデバイスの材質は、特に制限されず、一又は複数の実施形態において、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等の樹脂等が挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、シリコーン等が挙げられる。マイクロデバイスは、一又は複数の実施形態において、捕捉した粒子の観察又は分析が容易になることから、透明であることが好ましい。
【0044】
[マイクロデバイスを製造する方法]
本開示のマイクロデバイスは、例えば、基板上に電極を形成すること、及び電極を形成した基板と上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を含む流路チャンバー(流路)が形成された基板とを接合することにより製造することができる。よって、本開示は、その他の態様において、基板上に電極を形成すること、及び電極を形成した基板と上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を含む流路チャンバー(流路)が形成された基板とを接合することを含むマイクロデバイスの製造方法に関する。基板の接合は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバー(流路)が基板に形成された電極を覆うように行う。
【0045】
電極の形成は、一又は複数の実施形態において、従来公知の方法により行うことができる。形成方法としては、一又は複数の実施形態において、フォトリソグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術等が挙げられる。
【0046】
流路の形成は、一又は複数の実施形態において、従来公知の方法により行うことができる。形成方法としては、一又は複数の実施形態において、切削技術、鋳造技術等が挙げられる。
【0047】
[粒子を捕捉する方法]
本開示は、その他の態様において、上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入することを含む、試料中の粒子を捕捉する方法(本開示の捕捉方法)に関する。なお、電場の発生と、試料の注入口への導入の開始タイミングは、同時であってもよいし、試料が拡大部に到達する前であれば、試料導入後に電場を発生させてもよい。本開示の捕捉方法によれば、上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内に、該流路チャンバーの上流側から、粒子を含有する試料を導入することから、精度よく粒子を捕捉することができるとともに、簡便に粒子の濃縮を行うことができる。本開示の捕捉方法は、一又は複数の実施形態において、本開示のマイクロデバイスを用いて行うことができる。よって、本開示は、その他の態様において、マイクロデバイスの流路チャンバー内で試料中の粒子を捕捉する方法であって、前記マイクロデバイスは、本開示のマイクロデバイスであり、前記マイクロデバイスの前記電界発生手段に、電場を発生させること、及び前記マイクロデバイスの前記流入口から前記流路チャンバー内に前記試料を導入することを含む、前記粒子を捕捉する方法に関する。
【0048】
一又は複数の実施形態において、電場は、少なくとも拡大部に対応する部分に発生させればよい。本開示の捕捉方法は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの底面の少なくとも一部又は全部に粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させることを含み、捕捉率をより向上させる点からは、拡大部に対応する流路チャンバーの底面に粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、又は流路チャンバーの底面全体に粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させることを含む。
【0049】
試料の流量は、一又は複数の実施形態において、処理効率を向上させる点から、1μL/分以上、2μL/分以上、3μL/分以上、4μL/分以上、5μL/分以上、6μL/分以上、7μL/分以上、8μL/分以上、9μL/分以上、又は10μL/分以上である。また、捕捉率をより向上させる点から、1000μL/分以下、900μL/分以下、800μL/分以下、700μL/分以下、600μL/分以下、500μL/分以下、400μL/分以下、300μL/分以下、200μL/分以下、又は100μL/分以下である。
【0050】
流路チャンバー内に導入する試料の量は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの容量を超える量であることが好ましい。本開示の捕捉方法は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの容量を超える量の試料を導入することを含む。
【0051】
電場の発生は、一又は複数の実施形態において、流路チャンバーの底面に配置された電極に交流電圧を印加することにより行うことができる。
【0052】
印加電圧は、一又は複数の実施形態において、0.1V以上、0.5V以上、1V以上、2V以上、3V以上、4V以上、5V以上、6V以上、7V以上、8V以上、9V以上又は10V以上であり、印加電圧は、一又は複数の実施形態において、100V以下、90V以下、80V以下、70V以下、60V以下、50V以下、40V以下又は30V以下である。
【0053】
印加周波数は、電極に粒子を捕捉可能な周波数であればよく、一又は複数の実施形態において、1kHz以上、5kHz以上、10kHz以上、50kHz以上、100kHz以上、200kHz以上、300kHz以上、400kHz以上、500kHz以上、600kHz以上、700kHz以上、800kHz、900kHz以上若しくは1MHz以上であり、又は100MHz以下、90MHz以下、80MHz以下、70MHz以下、60MHz以下、50MHz以下、40MHz以下、30MHz以下、20MHz以下若しくは10MHz以下である。
【0054】
試料は、一又は複数の実施形態において、粒子と、粒子を懸濁又は分散させる媒体(液体)とを含む。
【0055】
本開示における特に限定されない一又は複数の実施形態において、粒子としては、細胞が挙げられる。細胞としては、一又は複数の実施形態において、CTC等の稀少細胞が挙げられる。稀少細胞としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、ヒト結腸癌細胞、ヒト胃癌細胞、ヒト大腸癌細胞、及びヒト肺癌細胞等が挙げられる。
【0056】
粒子を懸濁又は分散させる媒体(液体)は、一又は複数の実施形態として、粒子における分極の発生の低減を抑制する点、電流が流れることによる細胞へのダメージを低減する点、又は誘電泳動による捕捉率をより向上させる点から、電気伝導率(導電率)が出来る限り低いことが望ましい。同様の観点から、媒体は、一又は複数の実施形態として、電解質の含有量が少ないことが好ましい。同様の観点から、粒子が生細胞の場合、媒体は、一又は複数の実施形態として、ショ糖等張液等の非電解質の等張液が好ましい。
【0057】
本開示の捕捉方法によれば、一又は複数の実施形態において粒子の濃縮を行うことができ、さらには粒子の分析を行うことができる。よって、本開示は、その他の態様において、本開示の捕捉方法によって試料中の粒子を捕捉することを含む、試料中の粒子を濃縮する方法に関する。本開示の濃縮する方法は、一又は複数の実施形態において、粒子を捕捉した流路チャンバーに回収液を導入し、前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含んでいてもよい。よって、本開示は、さらにその他の態様において、本開示の捕捉方法によって試料中の粒子を流路チャンバーに捕捉すること、及び流路チャンバーに回収液を導入し、前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含む、試料中の粒子を回収する方法に関する。本開示は、さらにその他の態様において、本開示の捕捉方法によって試料中の粒子を捕捉することを含む、試料中の粒子を分析する方法に関する。
【0058】
本開示の捕捉方法によれば、一又は複数の実施形態において、粒子の濃縮を行うことができ、さらには捕捉した粒子の観察又は分析を行うことができる。よって、本開示は、その他の態様において、本開示の捕捉方法によって試料中の粒子を前記流路チャンバーに捕捉すること、及び前記流路チャンバーに捕捉した粒子を観察又は分析することを含む粒子を観察又は分析する方法に関する。粒子の観察は、一又は複数の実施形態において、顕微鏡観察等により行うことができる。粒子の分析は、例えば、本開示のマイクロデバイスにて行うことができ、例えば、流路チャンバーに前記粒子を捕捉した後、当該流路チャンバーにて行うことができる。
【0059】
本開示のマイクロデバイス及び捕捉方法によれば、一又は複数の実施形態において、電場から受ける誘電泳動力と液流れから受ける抗力のバランスが異なる粒子を異なる捕捉領域で捕捉することができる。すなわち、本開示のマイクロデバイス及び捕捉方法によれば、一又は複数の実施形態において、試料中に複数種類の粒子を含有している場合(例えば、電場から受ける誘電泳動力と液流れから受ける抗力のバランスが異なる粒子を2種類以上含む場合)、それを異なる捕捉領域で捕捉することができる。よって、本開示は、さらにその他の態様において、試料中の粒子を分離する方法であって、上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入することを含む粒子の分離方法に関する。本開示の分離方法によれば、一又は複数の実施形態において、電場から受ける誘電泳動力と液流れから受ける抗力のバランスが異なる粒子を異なる捕捉領域で捕捉することができる。本開示の分離方法によれば、一又は複数の実施形態において、試料がCTCと白血球とを含有する場合、液流れから受ける抗力が小さい白血球は断面流速の速い拡大部よりも上流側で捕捉でき、液流れから受ける抗力が白血球よりも大きいCTCは断面流速が遅い拡大部近傍で捕捉できる。本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、試料中に含まれる複数種類の粒子を分離することができる。よって、本開示は、さらにその他の態様において、上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内の少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入し、前記試料中に含まれる複数種類の粒子を分離することを含む、試料中の粒子を分離する方法に関する。
【0060】
本開示のマイクロデバイスの一実施形態において、図面に基づいて説明する。
図1は、本開示のマイクロデバイスの一実施形態の概略図である。
図1において、(A)はマイクロデバイス1の上面図であり、(B)は(A)のI-I方向の断面図であり、(C)は(B)のII-II方向の断面図である。
【0061】
図1に示すように、マイクロデバイス1は、流入口10と、流路チャンバー11と、流出口12と、櫛形電極13とを有する。流入口10及び流出口12は、マイクロデバイス1の上面に形成され、マイクロデバイス1の底面に沿って長手方向に形成された流路チャンバー11と連通している。後述する
図2のように、流路チャンバー11の流入口10に接する部分には、流入口10から導入した細胞液を流路チャンバー11に均一に展開し、壁面に気相が残るのを抑制するためにテーパー部が設けられていてもよい。なお、テーパー部がない構成であってもよい。
【0062】
流路チャンバー11は、流路の断面積が高さ方向に拡大する拡大部14を有する。
図1のマイクロデバイス1において、拡大部14は、流路チャンバー11の略中央部分に形成されている。拡大部14の高さ(He)と拡大変化点の高さ(Hb)との比(He/Hb)は略3である。拡大部14の上流側の流路チャンバー11の高さ(Hu)と拡大変化点の高さ(Hb)は同じである。すなわち、
図1のマイクロデバイス1において、流路チャンバー11の最上流部から拡大変化点までの高さは、略一定である。また、拡大部14の高さ(He)と拡大部14の下流側の流路チャンバー11の高さ(Hd)は同じである。すなわち、
図1のマイクロデバイス1において、拡大部14から流路チャンバー11の最下流部までの高さは、略一定である。
本実施形態において、拡大部14は、流路の高さ(流路の断面積)が急激に拡大している。拡大変化点の高さ(Hb)は、拡大部14に達することによって細胞の流速が急激に減速した際の電極との距離をできる限り近くでき、その結果、細胞の捕捉率をより向上させるために、できる限り低いことが好ましい。拡大部14の高さ(He)は、拡大変化点の高さ(Hb)に応じて適宜決定することができる。
櫛形電極13は、流路チャンバー11の底面を構成する基板の上面に形成されている。
【0063】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる。
〔1〕 誘電泳動によって試料中の粒子を捕捉するためのマイクロデバイスであって、
流入口と、
流出口と、
前記流入口と前記流出口とを連通する流路チャンバーとを有し、
前記流路チャンバーは、流入口から流出口に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有し、
前記流路チャンバーには、電界発生手段が、少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に配置されている、マイクロデバイス。
〔2〕 前記拡大部は、前記流路チャンバーの底面に対して高さ方向に流路の断面積が拡大する、〔1〕記載のマイクロデバイス。
〔3〕 前記拡大部は、前記流路チャンバーの底面に対して、幅方向に階段状に流路の断面積が拡大する、〔1〕記載のマイクロデバイス。
〔4〕 前記流路チャンバーの底面は、平面である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のマイクロデバイス。
〔5〕 前記電界発生手段は、前記流路チャンバーの底面に配置されている、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のマイクロデバイス。
〔6〕 上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内の少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び
粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入することを含む、試料中の粒子を捕捉する方法。
〔7〕 前記拡大部において、前記粒子に誘電泳動力を作用させることを含む、〔6〕記載の捕捉方法。
〔8〕 前記拡大部の上流側から拡大部にかけて、前記粒子に誘電泳動力を作用させることを含む、〔6〕又は〔7〕に記載の捕捉方法。
〔9〕 前記流路チャンバーは、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のマイクロデバイスの流路チャンバーである、〔6〕から〔8〕のいずれかに記載の捕捉方法。
〔10〕 マイクロデバイスの流路チャンバー内に試料中の粒子を捕捉する方法であって、
前記マイクロデバイスは、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のマイクロデバイスであり、
前記マイクロデバイスの前記電界発生手段に、電場を発生させること、及び
前記マイクロデバイスの前記流入口から前記流路チャンバー内に前記試料を導入することを含む、前記粒子を捕捉する方法。
〔11〕 前記試料の導入は、前記流路チャンバーの容量を超える量の前記試料を導入することをにより行う、〔10〕に記載の捕捉方法。〔12〕 〔6〕から〔11〕のいずれかに記載の捕捉方法によって試料中の粒子を捕捉することを含む、試料中の粒子を濃縮する方法。
〔13〕 前記流路チャンバーに回収液を導入し、前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含む、〔12〕記載の濃縮方法。
〔14〕 〔6〕から〔11〕のいずれかに記載の捕捉方法によって、前記流路チャンバー内に試料中の粒子を捕捉すること、及び
前記流路チャンバーに回収液を導入して前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含む、試料の濃縮方法。〔15〕 〔6〕から〔11〕のいずれかに記載の捕捉方法によって試料中の粒子を前記流路チャンバーに捕捉すること、及び
前記流路チャンバーに捕捉した粒子を観察又は分析することを含む、粒子を観察又は分析する方法。
〔16〕 〔6〕から〔11〕のいずれかに記載の捕捉方法によって試料中の粒子を前記流路チャンバーに捕捉すること、及び
前記流路チャンバーに回収液を導入し、前記流路チャンバーに捕捉した粒子を前記流路チャンバーから回収することを含む、試料中の粒子を回収する方法。
〔17〕 試料中の粒子を分離する方法であって、
上流側から下流側に向かって流路の断面積が拡大する拡大部を有する流路チャンバー内の少なくとも前記拡大部又は前記拡大部の近傍に、粒子に誘電泳動力を作用させる電場を発生させること、及び
粒子を含有する試料を、前記流路チャンバーの上流側から前記流路チャンバー内に導入し、前記試料中に含まれる複数種類の粒子を分離することを含む、粒子の分離方法。
【0064】
以下に、実施例を用いて本開示をさらに説明する。但し、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
[マイクロデバイスの作製]
図1に示すマイクロデバイスを以下の手順で作製した。
1) ITO基板にウェットエッチングで電極をパターニングした。
2) シリコンウェハ上に、リソグラフィー技術を用いてSU-8で流路のモールドを作製した。
3) 上記モールドを用いて、PDMSで流路を作製した。
4) 電極をパターニングしたITO基板と、PDMSで作製した流路とを、酸素プラズマで表面を活性化し、ITO基板上にパターニングされた電極が流路と向き合うように貼りあわせた。
なお、拡大部の上流側(流入口側)(拡大部直前)の高さは約50μm、拡大部の高さは約100μm、流路チャンバー体積は約4μlとした。
【0066】
[細胞の捕捉率評価]
Celltracker greenで染色済みのSNU-1細胞を下記誘電泳動用バッファーに添加し、下記条件でマイクロデバイスに送液し、細胞の捕捉を行った。送液終了後、流路チャンバー内に捕捉された細胞の数を顕微鏡を用いて計測し、その値を添加した細胞数で除することによって捕捉率を求めた。その結果を下記表1に示す。
<送液条件>
流量:200μL/分
処理液量:200μL
印加条件:20Vp-p,1MHz,正弦波,AC電圧
細胞:SNU‐1(ヒト胃癌細胞、生細胞)
分散液:10mM HEPES,0.1mM CaCl2,59mM D-グルコース,236mM スクロース,0.2% BSA(約40μS/cm(4mS/m))
【0067】
(比較例1及び2)
拡大部を有さず流路チャンバーの高さが一定である以外は、実施例1と同様にマイクロデバイスを作製し、実施例1と同様に細胞の捕捉を行った。その結果を下記表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示すように、拡大部を有する実施例1のデバイスは、拡大部を有さない比較例1及び2のデバイスよりも高い捕捉率で細胞を捕捉することができた。また、表1に示す通り、実施例1のデバイスは流路チャンバー内の体積が3.9μLであるため、実施例1のデバイスに細胞液を導入することにより、細胞液の体積を、導入(処理)前の50分の1以下にまで細胞を大幅に濃縮することができた(50倍濃縮)。
なお、上記実施例1では処理液量を200μlで実験を行ったが、処理液量を1ml以上にしても同様に高い捕捉率で処理することが可能であり、本手法によって250倍以上の濃縮を行うことが可能であった。
【0070】
(実施例2)
Celltracker greenで染色済みのSNU-1細胞を、パラホルムアルデヒド(PFA)及びTween20を用い下記の処理条件で処理して固定化及び膜透過化処理した細胞を使用した以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表2及び
図2に示す。
<固定化・膜透過化処理条件>
1.固定化:1% PFA(PBS溶液)を用いて、室温で15分反応
2.膜透過処理:0.175% Tween20を用いて、室温で20分反応
【0071】
(比較例3及び4)
実施例2の固定化及び膜透過化処理を行った細胞を使用した以外は、比較例1又は2と同様に行った。その結果を下記表2及び
図2に示す。
【0072】
【0073】
表2に示すように、拡大部を有する実施例のデバイスは、拡大部を有さない比較例3及び4のデバイスよりも高い捕捉率で細胞を捕捉することができた。また、実施例2のデバイスは流路チャンバー内の体積が3.9μLであるため、実施例2のデバイスに細胞液を導入することにより、細胞液の体積を、導入(処理)前の50分の1以下にまで削減でき、その結果、簡便に細胞を大幅に濃縮することができた。
【0074】
図2は、実施例2及び比較例3の捕捉後の細胞の分布を示す画像である。
図2(a)が実施例2の画像であり、
図2(b)が比較例3の画像である。
図2(a)及び(b)において白の破線で囲んだ部分を拡大したものを
図2(c)及び(d)に示す。
図2(a)~(d)における白い点が捕捉された細胞を示す。
図2(b)及び(d)に示すように比較例3のデバイスでは細胞が捕捉されている場所が分散した。これに対し、
図2(a)及び(c)に示すように、実施例2のデバイスでは、多くの細胞がデバイスの中央部、つまり拡大部付近で捕捉された。つまり、実施例2のデバイスでは、局所的な細胞の捕捉が可能であり、捕捉した細胞の観察が容易であった。
【0075】
(実施例3)
実施例2の固定化・膜透過化処理を行った細胞を含む細胞液を、下記表3に示す流量で、下記表3に示すように拡大部の高さが異なる流路チャンバーを有する2種類のマイクロデバイスに導入した以外は実施例1と同様に行った。その結果を下記表3に示す。
【0076】
【0077】
表3に示すように、拡大部を備える本開示のマイクロデバイスを使用することによって、いずれの場合においても、75%を超える高い捕捉率で細胞を捕捉することができた。また、拡大部において高さを2倍(50μm→100μm)としたデバイスよりも、6倍(50μm→300μm)としたデバイスの方が、速い流量で高い捕捉率で細胞を捕捉することができた。このように、目的の処理流量に応じて拡大部の高さを変化させれば、さらに速い流量で処理することも可能である。
【0078】
(比較例5)
実施例2の固定化・膜透過化処理を行った細胞を含む細胞液1mlを、マイクロ遠心チューブに入れ200×gで5分遠心分離し、細胞を回収した。回収した細胞数を計測しその回収率を求めた。その結果回収率は22%であった。
【0079】
(実施例4)
比較例5と同じ1mlの細胞液を、実施例1と同様に、本開示のマイクロデバイスで濃縮した。その結果、デバイス内に回収された細胞の回収率は98%(処理流量:50μL/分)であった。
つまり、拡大部を備える本開示のマイクロデバイスを使用することによって、遠心分離よりも高い捕捉率で細胞を回収できることが確認できた。
【0080】
(実施例5)
Celltracker greenで染色済みのSW620細胞(ヒト結腸癌細胞)を含む細胞液1mlを、実施例1と同様に、本開示のマイクロデバイスで濃縮した(処理流量:20μL/分)。次に、PBS(-)10μlを、マイクロデバイスの流出口からピペットで送液し、マイクロデバイス内に捕捉された細胞をマイクロデバイスから回収した。回収された細胞数を顕微鏡を用いて計測し、その値を送液前の細胞液中の細胞数(概数)で除することによって回収率を求めた。その結果を下記表4に示す。
【0081】
(実施例6)
下記条件で処理したSW620細胞を含む細胞液1mlを、実施例4と同様に、本開示のマイクロデバイスで濃縮し、デバイス内に捕捉された細胞数を顕微鏡を用いて計測した。次に、PBS(-)20μlを、マイクロデバイスの流出口からピペットで送液し、マイクロデバイス内に捕捉された細胞をマイクロデバイスから回収した。回収された細胞数を顕微鏡を用いて計測し、その値を送液前の細胞液中の細胞数(概数)で除することによって回収率を求めた。その結果を下記表4に示す。
<細胞処理条件>
1.固定化:2% PFA(PBS溶液)を用いて、室温で15分反応
2.膜透過処理:0.1% Tween20を用いて、室温で15分反応
3.染色:抗サイトケラチン抗体とHoechst33342を用い、室温で15分反応
【0082】
【0083】
表4に示すように、拡大部を備える本開示のマイクロデバイスを使用することによって、誘電泳動によって細胞を捕捉して、デバイス内に回収することができるだけでなく、観察後にデバイス内に捕捉された細胞をほぼ100%に近い高い回収率で濃縮液として回収できた。また、再現性も高かった。なお、入口からデバイス内の液を全量吸引する回収方法でも、85%という高い回収率で細胞を回収することができた。
本開示のマイクロデバイスを使用することにより、少量の回収液で細胞のロスを抑えつつ容易に細胞を回収できた。つまり、本開示のマイクロデバイスによれば、容易に細胞の濃縮を行うことができた。
【0084】
(実施例7)
下記条件で処理したSW620細胞と白血球を混合した細胞液を、実施例1と同様に、本開示のマイクロデバイスで濃縮した(処理流量:20μL/分)。
<SW620細胞処理条件>
1.固定化:0.05% PFA(PBS溶液)を用いて、室温で15分反応
2.膜透過処理:0.4% Tween20を用いて、室温で20分反応
3.染色:抗サイトケラチン抗体とHoechst33342を用い、室温で30分反応<白血球処理条件>
1.固定化:0.05% PFA(PBS溶液)を用いて、室温で15分反応
2.一次染色:抗CD45等の抗体を用いて、室温で15分反応
3.二次染色:標識用の二次抗体とHoechst33342を用い、室温で30分反応
【0085】
その結果を
図3に示す。
図3は、実施例7の捕捉後の細胞の分布を示す画像である。
図3において、がん細胞を三角で囲み、白血球を丸で囲むことにより、捕捉後の細胞の分布の様子を模式的に表している。
図3に示すように、白血球のほとんどは拡大部よりも上流側(流入口側)(
図3の長鎖線で囲まれた領域)で捕捉され、がん細胞の多くは拡大部近傍(
図3の破線で囲まれた領域)で捕捉された。これは、白血球は液流れから受ける抗力が小さいため、拡大部よりも上流側で捕捉された一方、がん細胞は液流れから受ける抗力が白血球よりも大きいため拡大部よりも上流側では捕捉されず、拡大部近傍で捕捉されたと考えられる。なお、両細胞が混合した状態で染色等の処理をしたサンプルの場合でも、同様の現象が観察された。
実施例7の結果より、本開示のデバイスによれば、試料に複数の細胞が含まれうる場合、細胞の液流れからの受ける抗力と、受ける誘電泳動力とのバランスの違いを利用して、それぞれの細胞の捕捉位置が分かれるように捕捉できることが示唆された。