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特許7032756有機酸分解方法、新規な有機酸分解微生物及びコンポスト製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】有機酸分解方法、新規な有機酸分解微生物及びコンポスト製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220302BHJP
   C05F 17/20 20200101ALI20220302BHJP
【FI】
C12N1/20 F ZNA
C12N1/20 A
C05F17/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018048112
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019154366
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-29
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02597
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02598
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511133679
【氏名又は名称】山梨罐詰株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】中崎 清彦
(72)【発明者】
【氏名】山梨 裕一郎
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-246381(JP,A)
【文献】特開2006-230303(JP,A)
【文献】廃棄物資源循環学会論文誌,2011年,Vol.22, No.2, pp.141-148
【文献】Extremophiles,2006年,Vol.10, pp.363-372
【文献】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology,2017年,Vol.67, No.11, pp.4830-4835,<http://dx.doi.org/10.1099/ijsem.0.002391>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C05F 17/00-17/993
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)を用いて、有機酸を分解することを特徴とする有機酸分解方法。
【請求項2】
前記有機酸の分解は、50℃以上の温度条件下で行われることを特徴とする請求項1に記載の有機酸分解方法。
【請求項3】
前記有機酸が、酢酸、プロピオン酸、酪酸及び乳酸からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機酸分解方法。
【請求項4】
ゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)。
【請求項5】
有機物にゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)を接種し、50℃以上の温度条件下で好気性発酵を行う工程を有することを特徴とするコンポスト製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸を分解する方法、有機酸を分解することができる新規微生物及び当該微生物を用いたコンポスト製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活様式が大量生産、大量消費、大量廃棄に変化することにより廃棄物の増加が大きな問題となっている。日本では廃棄物の多くが最終的に埋め立てられて処理されているが、埋め立て用地の不足への懸念から廃棄物の資源化が求められている。廃棄物の中でも、家庭やレストラン、食品加工工場などから廃棄される食品廃棄物は、重金属等の有害な物質を含まない有機物であることから、コンポスト(堆肥)化することにより農業利用への資源化が可能である。そのため、コンポスト化は食品廃棄物リサイクルのための重要な技術として注目を集めている。
【0003】
しかしながら、コンポスト化は現在まで普及とは程遠い状況が続いている。この原因の1つに、コンポストを製造するのに長時間がかかることが挙げられる。食品廃棄物からなるコンポストは、微生物の好気性発酵により食品廃棄物を分解することにより得られるが、通常の自然発酵方式での食品廃棄物のコンポスト化は3ヵ月程度を要する(特許文献1参照)。そのため、特許文献1では、食品廃棄物に微生物を含む戻し堆肥及び水を加えて撹拌し、所定の大きさに造粒することで、有機物の分解速度を増加させて効率的にコンポストを生産する方法が記載されている。
【0004】
他方、自然発酵方式での食品廃棄物のコンポスト化に長時間を要する主な原因として、有機酸の影響があることが確認されている(非特許文献1~3参照)。食品廃棄物では、その回収時若しくはコンポスト化の初期に高濃度の酢酸や乳酸等の有機酸が生成してpHが低下すること、及びコンポスト化における有機物の分解に伴い有機酸が生成してpHが低下する現象が生じるために、その都度コンポスト化微生物の活性が阻害され、それゆえ、コンポスト化に長い時間がかかる、というものである。このため、コンポスト化にかかる時間を短縮する目的で、コンポスト原料中のpHの低下を抑制する様々な方法が試みられてきた。
【0005】
そこで、非特許文献1~3では、それぞれ水酸化カルシウム、石炭と石灰または酢酸ナトリウムのようなアルカリ性を呈する物質をコンポスト原料中に添加することで、pHの低下を防ぎ、コンポスト化を促進する方法が記載されている。しかしながら、アルカリ性の化学物質を添加する方法は、コストがかかることに加え、コンポスト製造時に化学物質を用いることで、そのコンポストを用いて栽培した野菜が有機栽培の条件を満たせなくなってしまうという問題もある。
【0006】
そこで、有機酸を分解する微生物を利用して、コンポスト化の過程におけるpHを調整する技術が注目されるようになっている。例えば、非特許文献4には、食品残渣のコンポスト化にあたり、酵母のKluyveromyces marxianus Y60株をコンポスト原料に接種することにより、コンポスト原料中の有機酸が分解され、コンポスト化が促進されたことが記載されている。また、非特許文献5には、コンポスト原料に酵母であるPichia kudriavzevii RB1株を接種することにより、コンポスト原料中の有機酸が分解され、それに伴って有機物分解の促進効果が確認されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4782595号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Process Biochem.,1971年,Vol.6,p.32-36
【文献】Bioresour. Technol.,2009年,Vol.100,p.3324-3331
【文献】Bioresour. Technol.,2009年,Vol.100,p.2005-2011
【文献】Lett. Appl. Microbiol.,1998年,Vol.26,p.175-178
【文献】Bioresour. Technol.,2013年,Vol.144,p.521-528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献4及び非特許文献5で開示された有機酸を分解する微生物は、いずれも生育温度が30℃程度である酵母に属しており、好熱性微生物ではないため、コンポスト化の過程において有機物分解が活発に行われる60℃付近の高温環境下では死滅してしまう。それゆえ、コンポスト化の初期(コンポスト開始時~昇温期前まで)においては、上述した酵母等の有機酸分解微生物が有機酸の分解を行うため、コンポスト原料中に元から存在する有機酸は分解されるものの、コンポスト化が促進され、有機物分解が活発に生じる高温期においては、有機物分解に伴って生成する有機酸を分解してpHの低下を抑制し、高温期の活発な有機物分解を維持することは困難であった。
【0010】
本発明は上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、コンポスト化過程における高温期の環境、すなわち、高温かつ好気の条件下で有機酸を活発に分解する新規な微生物を提供すること、並びにこの新規な微生物を用いて有機酸を活発に分解する方法及び有機物分解を促進させて効率的にコンポストを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の有機酸の分解方法は、ゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)を用いて、有機酸を分解するものである。
【0012】
ゲオバチルス sp.AD5株(NITE P-02597)及びエアリバチルス sp.AD8株(NITE P-02598)は、好気性の高温耐性を有する好熱菌であり、50℃以上の高温環境下であっても生育が阻害されず、有機酸を分解する能力を有した微生物である。そのため、好気かつ高温条件下においても、これらの微生物は活発に活動し、有機酸を迅速に分解することができる。
【0013】
また、本発明において、有機酸の分解は、50℃以上の温度条件下で行われることも好ましい。これにより、好熱性細菌であるゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株の好適な培養温度が選択される。
【0014】
また、本発明の有機酸分解方法における有機酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸及び乳酸からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることも好ましい。ゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株が分解する有機酸として好適なものが選択される。
【0015】
また、本発明にかかる有機酸を分解する微生物は、ゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)である。
【0016】
また、本発明のコンポスト製造方法は、有機物にゲオバチルス sp.(Geobacillus sp.)AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.(Aeribacillus sp.)AD8株(NITE P-02598)を接種し、50℃以上の温度条件下で好気性発酵を行う工程を有している。
【0017】
コンポスト化の過程においてコンポスト化微生物により有機物が分解されると有機酸が生じるが、ゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株をコンポスト原料である有機物に接種しておくことによって、生じた有機酸が速やかにゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株により分解される。そのため、コンポスト環境中のpHの低下が抑制され、コンポスト化微生物の活発な活動が維持される。ゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株は好気性の好熱菌であるため、有機物が活発に分解され、高温の発酵熱が生じている温度条件下においても活発に活動することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する有機酸分解方法、有機酸分解微生物及びコンポスト製造方法を提供することができる。
(1)有機酸分解能を備えた新規な微生物により、高温かつ好気の条件下で有機酸を効率的に分解することができる。
(2)有機物の分解により生成した酢酸等の有機酸を効率的に分解することができるため、環境中のpHの低下が抑制され、有機物を分解するコンポスト化微生物の活動が維持される。それゆえ、有機物分解が迅速に進行し、コンポスト化期間が短縮され、コンポスト製造を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1におけるRun A(破線)及びRun B(実線)の装置内温度の経時変化を示すグラフである。
図2】実施例1におけるRun A(破線)及びRun B(実線)のpHの経時変化を示すグラフである。
図3】実施例1におけるRun A(破線)及びRun B(実線)の有機酸濃度の経時変化を示すグラフである。菱形のマーカーは酢酸(AA)、四角形のマーカーは乳酸(LA)、三角形のマーカーはプロピオン酸(PA)、丸形のマーカーは酪酸(BA)を示す。
図4】実施例1におけるRun A(破線)及びRun B(実線)の微生物濃度の経時変化を示すグラフである。三角形のマーカーは酵母、丸形のマーカーは常温性細菌、四角形のマーカーは好熱性細菌を示す。
図5】実施例1におけるRun A(破線)及びRun B(実線)の炭酸ガス発生速度の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例2における(a)Run Aの微生物叢の変化を示すグラフ、及び(b)Run Bの微生物叢の変化を示すグラフである。
図7】実施例3における(a)AD5(AD1~AD7)株のBLAST解析結果を示す図、及び(b)AD8株のBLAST解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の有機酸分解方法は、有機酸分解能を有するゲオバチルス sp.AD5株(NITE P-02597)又はエアリバチルス sp.AD8株(NITE P-02598)を用いて、有機酸分解することにより行われる。本発明者らは後述する実施例に示すように、さまざまな条件下でコンポスト化試験を行ったところ、50℃~70℃の高温環境下において、コンポスト原料中の有機酸濃度が低下してpHが上昇し、有機物分解が促進されて炭酸ガスの発生が活発に行われる試験区(後述する実施例1のRun B参照)があることを発見した。この試験区のコンポスト試料から高温かつ好気条件下で有機酸の分解能を有するゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株が単離された。
【0021】
ゲオバチルス sp.AD5株(NITE P-02597)及びエアリバチルス sp.AD8株(NITE P-02598)の培養温度は50℃以上が好ましく、50℃~80℃がより好ましく、60℃~70℃が特に好ましい。このような培養条件でゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株を培養することにより好熱性微生物であるこれらの菌が増殖し、培養環境中に存在する有機酸が分解される。
【0022】
また、有機酸の分解にあたっては、あらかじめ培養・増殖させた相当量のゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株の培養物、芽胞等を有機酸を含む分解対象物中に添加してもよい。ゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株はいずれもBacillaceae科に属する微生物であり、TS液体培地((トリプチケースペプトン17g/L、ファイトンペプトン3g/L、塩化ナトリウム5g/L、KHPO 2.5g/L、D-グルコース2.5g/L、pH7.3)やTS寒天培地(TS液体培地に寒天20g/Lを加えたもの)で好適に培養され、増殖される。
【0023】
ゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株が分解する有機酸としては、特に限定されないが、一例としてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸、コハク酸、オキサロ酢酸、マロン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの有機酸は、コンポスト製造時において、食品残渣等のコンポスト原料がコンポスト化微生物により、有機物分解されることにより生成する。そのため、ゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株をコンポスト製造時における有機酸の分解に用いることができる。
【0024】
次に、ゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株を用いたコンポスト製造方法について説明する。食品残渣等の主に食品廃棄物からなるコンポスト原料に対し、ゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株を接種し、好気性発酵を行う工程について説明する。接種にあたっては、ゲオバチルス sp.AD5株もしくはエアリバチルス sp.AD8株のいずれか、またはこれらを組み合わせて接種してもよい。あらかじめ培養・増殖させた相当量のゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株の培養物又は芽胞等をコンポスト原料に添加し、混合することにより容易に接種することができる。接種後、コンポスト化温度は50℃以上が好ましく、50℃~80℃がより好ましく、60℃~70℃とすることが特に好ましい。このような培養条件でゲオバチルス sp.AD5株及びエアリバチルス sp.AD8株を培養することにより、これらの微生物がコンポスト環境中に増殖する。
【0025】
コンポスト化が開始すると、コンポスト化初期には環境温度は室温程度であるため、コンポスト原料中に元々存在する常温菌の有機酸分解微生物、あるいは、コンポスト原料に別途接種されたPichia kudriavzevii RB1株のような有機酸分解微生物(いずれも高温では生育できない微生物)によって、コンポスト原料中に元から含まれる有機酸が分解されるが、これにともなって、有機物分解を担うコンポスト化微生物が活性化され、コンポスト化温度は次第に上昇し昇温期を経て高温期となるため、高温で生育できないこれらの有機酸分解微生物は死滅する。また、有機物を分解するコンポスト化微生物に好適な培養環境である好気かつ高温条件下では、有機物の活発な分解が起こると同時に有機酸が大量に生産されるが、本発明では、高温かつ好気の条件で生育可能なゲオバチルス sp.AD5株又はエアリバチルス sp.AD8株がコンポスト原料中に接種されているので、これらの微生物が、高温条件下において生産された有機酸を活発に分解し、有機酸の蓄積を防ぐ。それゆえ、コンポスト環境中のpHの低下が抑制され、有機物を分解する微生物の活発な活動も維持され、コンポスト化が効率的に進行する。コンポスト化期間は、3日~21日程度とすることが好ましく、5日~14日間程度とすることが好ましい。
【0026】
上述したコンポスト製造方法により、微生物が活発に有機物分解を行う高温期が維持され、通常、3ヶ月間程度要していた有機物のコンポスト化を2週間以下程度に短縮することができる。また、高温での発酵期間が安定して得られるため、発酵が充分に行われ、コンポスト製品のばらつきを低減できるという効果を有する。
【0027】
本発明の有機酸分解能を有するゲオバチルス sp.AD5株(NITE P-02597)及びエアリバチルス sp.AD8株(NITE P-02598)は、上述したようなコンポスト化の際に使用されるだけでなく、あらゆる目的での有機酸の分解の際にも使用され得る。特に限定されないが、例えば、工場排水中に含まれる有機酸を分解するような場合にも好適に使用することが可能である。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に特に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
1.コンポスト混合原料のコンポスト化
本実施例で使用したコンポスト原料及びコンポスト混合原料は下記の通りである。
(コンポスト原料)
コンポスト原料としては、一般的にはさまざまな食品残渣や食品廃棄物が用いられるが、本実施例においては、再現性のあるデータを得るために、モデル的な食品残渣として市販のラビットフード(ラビットフード チモシー、イースター株式会社製品)と米飯(サトウのごはん、佐藤食品工業株式会社製品)を用いた。各材料中に含まれる炭素の元素含有率は、ラビットフードが44.0%、米飯が43.2%であり、窒素の元素含有率はラビットフードが2.4%、米飯が0.89%であった。C/N比はラビットフードが18.1、米飯が48.5であった。
【0030】
(コンポスト混合原料)
上述したコンポスト原料であるラビットフードと米飯を乾燥重量比で7:3に混合した。このラビットフードと米飯からなる原料と、通気性改良材であるおがくずと、種菌として市販の微生物資材(オーレスG、株式会社松本微生物研究所)とを、乾燥重量比で10:9:1に混合し、コンポスト混合原料とした。微生物資材中の常温性および好熱性細菌濃度はそれぞれ1.28×10CFU/g-ds、3.98×10CFU/g-dsであった。これに、有機酸を分解可能な酵母Pichia kudriavzevii RB1株(非特許文献5参照)をコンポスト混合原料中で10CFU/g-dsとなるように接種した。通常、家庭や飲食店、食品加工工場などから排出された食品残渣は、コンポスト化されるまでに酸敗が進んで多くの有機酸が含まれているため、pHが低くなっている。本実施例では、Sundbergらの文献(Bioresour. Technol.,2011年,Vol.102,p.2859-2867)の記載を参考にして、4種類の有機酸、具体的には、酢酸を2.90g/kg-ds、プロピオン酸を3.02g/kg-ds、酪酸を2.43g/kg-ds、乳酸を12.45g/kg-dsの濃度になるようにコンポスト混合原料に添加した。これらの有機酸を添加した後のコンポスト混合原料のpHは5.0付近と、一般的な食品残渣のpHの値と同等になった。また、コンポスト化開始時には、蒸留水を加えてコンポスト混合原料の含水率が60%になるように調整した。
【0031】
(コンポスト化)
コンポスト化にあたっては、研究室規模のコンポスト化装置(円筒形、容積約30L)を用いた。コンポスト混合原料を収容する装置本体は、耐熱性のポリ塩化ビニルで形成されており、装置本体には装置内温度を調節するためのリボンヒータが巻き付けられ、発泡スチロールからなる断熱材に埋設されている。装置にコンポスト混合原料を湿重量で約3kg投入し、底部より通気しながらコンポスト化を行った。コンポスト化にあたってはRun AとRun Bの2つのコンポスト条件にて試験を行った。Run Aは有機物分解に伴う昇温過程を制御せずにコンポスト化を行うものであり、Run Bは昇温過程において、いったん40℃に装置内温度を制御し、コンポスト混合原料中に含まれる酵母Pichia kudriavzevii RB1株での有機酸分解を促した後に60℃に昇温させてコンポスト化を行うものである。
【0032】
具体的に、Run Aでは、コンポスト化開始時の装置温度は室温(25℃付近)とし、通気流量は好気条件を維持するために最低限必要である45L/hに調整した。微生物の有機物分解にともなう自己発熱によってコンポスト内部の温度が上昇し、60℃に達した後は自己発熱と外部加熱の調整によって60℃に制御した。コンポスト化期間は10日間とした。一方、Run Bでは、コンポスト化開始時の装置温度は室温(25℃付近)とし、通気流量は45L/hに調整した。コンポスト内部の温度が上昇する昇温過程で40℃に達した時に、通気量を増加させてコンポスト内部を冷却しながら24時間40℃を維持し、コンポスト混合原料中に含まれる酵母Pichia kudriavzevii RB1株での有機酸分解を促した。その後、通気量を45L/hに戻してコンポスト内部の温度を60℃に昇温させ、自己発熱と外部加熱の調整によって60℃に制御した。コンポスト化期間は10日間とした。
【0033】
コンポスト化過程における均一な有機物分解のために、コンポスト化期間中は1日に1度、装置のふたを開け、装置内部のコンポスト混合原料を混合攪拌する切り返しの操作をおこなった。切り返し時には、コンポスト化物の含水量が低下し過ぎないように、適宜蒸留水を添加した。また、切り返し時には、分析試料としてコンポスト試料を約15gずつ採取した。
【0034】
また、本実施例で行ったコンポスト試料のpH、含水率、有機酸濃度、微生物濃度及びコンポスト化における炭酸ガス発生速度の測定は以下のように行った。
【0035】
(1)pH
採取した2gのコンポスト試料をホモジナイズカップの中に取り、滅菌水を18g加えて、10000rpmで10分間、ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製品、製品名:AM-5)で均一な懸濁液にした。懸濁液のpHをpHメータ(株式会社堀場製作所製品、製品名:D-51)で測定した。
【0036】
(2)含水率
約1gのコンポスト試料を3つの秤量瓶にそれぞれ採取して秤量した後、定温乾燥機(ヤマト科学株式会社製品、製品名;DS-600)で24時間、105℃で乾燥させた。乾燥後のコンポスト試料の重量を測定し、乾燥後の減少重量を乾燥前の重量で除した値を含水率として求めた。
【0037】
(3)有機酸濃度
上記pH測定の際に作成した試料の懸濁液を0.20μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液を得た。このろ液中に含まれる有機酸について、高速液体クロマトグラフィ(HPLC;日本分光株式会社製品、ChromNAV)により分析を行った。カラムにはSUGAR SH1011(昭和電工株式会社製品)を用い、カラム温度は50℃とした。HPLCの移動相には、脱気した5mMの硫酸水溶液を用い、流速は1.0mL/minとした。HPLCの検出器は日本分光株式会社製品、型番;UV-2075を用い、検出波長は210nmとした。
【0038】
(4)微生物濃度
コンポスト試料中の酵母、常温性細菌及び好熱性細菌の濃度は寒天培地を用いた希釈平板法で求めた。採取したコンポスト試料2gに9倍量の滅菌水を加え10000rpm、10分間ホモジナイズ処理したものを適宜希釈して培地上に塗抹した。酵母濃度の測定にはPD寒天培地(栄研化学株式会社製品)を用い、培養温度30℃、培養期間3日間とした。なお、細菌の増殖を抑制するために、1mLのクロラムフェニコール溶液(クロラムフェニコール100mgをエタノール1mLに溶解)を1LのPD寒天培地に加えた。常温性細菌及び好熱性細菌濃度の測定には、TS寒天培地(トリプチケースペプトン17g/L、ファイトンペプトン3g/L、塩化ナトリウム5g/L、KHPO 2.5g/L、D-グルコース2.5g/L、寒天20g/L、pH7.3)を用い、培養温度は常温性細菌が30℃、好熱性細菌が60℃、培養期間は3日間とした。なお、常温性細菌を計測するときには、糸状菌の増殖を抑制するため、100μLのアンホテリシンB溶液(アンホテリシンB25mgをジメチルスルホキシド1mLに溶解)を1LのTS寒天培地に加えた。菌体濃度は、コンポスト試料の乾燥重量1g当たりのコロニー形成数であるCFU/g-dsで表した。
【0039】
(5)炭酸ガス発生速度
コンポスト化における有機物分解の速度は、有機物が分解されると炭酸ガスが生成することから、コンポスト化に伴って生成した炭酸ガス量を測定し、炭酸ガス発生速度(単位時間及び単位コンポスト試料の乾燥重量あたりの炭酸ガスの発生量;mol/h/g-ds)として定量した。炭酸ガス発生速度は、排気ガス中の炭酸ガス濃度を赤外線ガス分析装置(理研計器株式会社製品、型式;RI-555)で測定し、通気速度をガスメーター(株式会社シナガワ製品、型式;DC-2)で連続的に測定して算出した。また、有機物分解量は、食品残渣中の炭素量に対して炭酸ガスとして失われた炭素量の比と定義した炭素変化率で定量した。
【0040】
コンポスト化開始後、装置内の温度を測定した。また、分析試料として採取したコンポスト試料を用いてpH、含水率、有機酸濃度及び微生物濃度を測定した。加えて、コンポスト化に伴って生成した炭酸ガス量を測定し、単位時間あたりの炭酸ガス発生速度を求めた。これらの結果を図1~5にそれぞれ示す。横軸はコンポスト化開始後のコンポスト化日数(日)を示している。Run A(破線)は有機物分解に伴う昇温過程を制御せずにコンポスト化を行った試験条件での結果を示しており、Run B(実線)は、昇温過程において、いったん装置内温度を40℃で24時間維持し、コンポスト混合原料中に含まれる酵母Pichia kudriavzevii RB1株での有機酸分解を促した後に60℃に昇温させてコンポスト化を行った試験条件での結果を示している。
【0041】
図1に装置内温度の経時変化を示す。Run Aでは、最初に温度が30℃以上に上昇し、一旦、低下した後に53℃付近に達した。その後、再び室温にまで低下したが、試験開始から5日過ぎには60℃となり、以降は外部加熱により60℃を維持した。一方、Run Bでは、昇温期に40℃に達した後は通気流量を増加させて冷却することにより、24時間、40℃の状態が維持された。その後、通気流量を45L/hに戻すと、試験開始から4日までに60℃となり、それ以降は、自己発熱と外部加熱を組み合わせることにより60℃を維持した。
【0042】
図2にpHの経時変化を示す。Run A、Run Bのいずれの試験条件におけるコンポスト化においてもpHはすみやかに5から6.5付近まで上昇し、試験開始から2日後までその値を保った。その後、Run AではpHは約4.5まで低下し、5日付近で一旦僅かに上昇するものの、再び低下して5付近の低いpHをコンポスト化終了まで維持した。一方、Run BではpHは試験開始から3日後に5.3付近に低下した後、6日付近から徐々に上昇し、最終的には約8.5という高い値を示した。この結果によれば、Run BではpHが最終的に弱アルカリ性を示すことから、有機酸が分解されるだけでなく、タンパク質の分解によってアルカリ性物質であるアンモニアが生成した、すなわち、タンパク質の分解が活発に行われたと考えられる。以上の結果、昇温期に40℃の温度制御を行ったRun Bと温度制御しないRun Aとでは、pHの変化に大きな差が生じ、Run Bの方がタンパク質分解が活発に行われたことがわかった。なお、Run A、Run Bのいずれのコンポスト化においても、コンポスト化物の含水率は60%付近を維持しており、コンポスト化において、活発な有機物分解がおこる条件を満たしていた。
【0043】
図3に有機酸濃度の経時変化を示す。Run A、Run Bのいずれの試験条件におけるコンポスト化においても、コンポスト混合原料中の酢酸(AA)、乳酸(LA)、プロピオン酸(PA)及び酪酸(BA)はコンポスト化開始後直ちに分解された。しかしながら、Run Aでは試験開始から3日後に24g/kg-dsの酢酸が蓄積した。これは有機物が分解することにより炭酸ガスが発生するだけでなく、分解中間体である酢酸の一部が、炭酸ガスにまで分解されずに蓄積したものと考えられる。その後、Run Aに含まれる酢酸は試験開始から5日目には一旦減少したが、その後、再び20~25g/kg-dsの高濃度の酢酸が蓄積した。一方、Run Bでは、Run Aと比べて、試験開始4日後まで酢酸濃度は低い値に維持された。これは、昇温過程において、RB1株の活性に適した40℃付近に装置内温度が維持された結果、RB1株が酢酸を分解し、酢酸濃度が低く抑えられたものと考えられる。その後、Run Bでは、装置内温度が60℃に達すると酵母であるRB1株は活性を失うため、酢酸が徐々に蓄積し、酢酸濃度は約15g/kg-dsに上昇するが、試験開始6日を過ぎる頃から再び酢酸の活発な分解が始まり、最終的には酢酸を含めたすべての有機酸は分解され、有機酸はまったく残存しなかった。
【0044】
図4に微生物(酵母、常温性細菌、好熱性細菌)の濃度の経時変化を示す。Run A、Run Bのいずれの試験条件におけるコンポスト化においても、酵母は速やかに増殖し酵母濃度は10CFU/g-ds以上に達した。なお、酵母の計数に用いた培地は真菌用の培地であるが、出現するコロニーのほとんどはPichia kudriavzevii RB1株であることが確認された。その後、Run AではRB1株は減少・増加と濃度が変化するが、高温では生存できないために、温度が60℃に維持された6日以降には濃度が検出限界以下にまで低下した。他方、Run Bでは昇温期の装置内温度を40℃に維持したため、高濃度を数日維持した後、温度が60℃に達した試験開始4日以降に検出限界以下にまで濃度が低下した。常温性細菌については、Run Aでは10CFU/g-dsにまで増殖した後、一定値を保ったが、Run Bでは10CFU/g-ds付近まで増殖し、Run Aに比べて高い最終濃度を示した。また、好熱性細菌についても、40℃での温度制御を行ったRun Bの方が温度制御を行わなかったRun Aよりも一桁高い濃度となった。これらの微生物濃度の差は、Run BがRun Aに比べて有機物分解が促進されたことに対応している。また、Run A及びRun Bの両方ともに試験後半には、常温性細菌及び好熱性細菌の濃度の変化は少なくなり、微生物濃度は略一定となった。
【0045】
図5に炭酸ガス発生速度の経時変化を示す。Run AとRun Bのいずれについても、まず、コンポスト混合原料に含まれる有機酸の分解に対応すると考えられる炭酸ガス発生速度のピークが観察された。Run Aでは、続いて試験開始2日過ぎから炭酸ガス発生速度の第2のピークが観察されたが、ピーク形状はシャープであり、炭酸ガスの発生は長期に亘って継続しなかった。なお、このとき、Run Aではこの第2のピークに対応する温度上昇のピークが観察された(図1参照)。その後、試験開始5日付近で、炭酸ガス発生速度の第3のピークが観察されたが、この第3のピークも、図1に示すRun Aの5日目の温度の急激な上昇に対応していることがわかった。この結果は、有機物が活発に分解された際に発生した代謝熱が蓄積し、温度が上昇するためと考えられる。他方、Run Bでは、第2のピークがブロードとなっている。このことは、昇温期に酵母RB1株の活性に適した40℃を維持することで有機酸の分解が継続され、コンポスト化物中のRB1株以外の微生物の活性も高められ、有機物分解が進んだことを示している。その後、炭酸ガス発生速度は減少したが、Run Bでは試験開始から7日以降になると再び炭酸ガス発生速度が増加し、第3のピークが観察された。この結果は、7日より前に、好熱性微生物による活発な有機物分解のための環境が整ったことを表している。
【0046】
図1~5に示すデータを総合的に分析すると、Run Aでは、まず、コンポスト混合原料中の有機酸が酵母RB1株により分解されるため、有機酸濃度は低下し、pHは上昇し、炭酸ガスが発生している。pHが上昇するとコンポスト化物中に含まれるRB1株以外の他の微生物の活性も上昇するため、有機物分解が進み、試験開始から2日後には、炭酸ガス発生速度も大きくなると共に有機物分解の中間体である有機酸が生成している。ここで有機酸が蓄積するとpHは低下し、微生物(酵母RB1株及び他の微生物)の活性も低下するため、炭酸ガス発生速度も低下している。これにより、発熱量が減少し、温度が低下するため、生き残っていたRB1株が再び増殖することができるようになり、それゆえ、蓄積されていた有機酸が分解され、pHがわずかに上昇したものと考えられる。pHが上昇すると再び炭酸ガスも発生するようになるため、代謝熱が生成され、温度は上昇して60℃に達している。有機物分解が進むと、有機酸と炭酸ガスの生成が進行するが、60℃もの高温条件下のためRB1株は死滅しており、また、有機酸の蓄積によりpHは低下するので、微生物全体の活性も低下して、炭酸ガスは全く発生しなくなっている。そして、このとき代謝熱はほとんど発生していないが、温度は外部加熱で維持されているため60℃が保たれている。
【0047】
一方、Run Bでは、まず、コンポスト混合原料中の有機酸が酵母RB1株により分解されるため、有機酸濃度は低下し、pHは上昇し、炭酸ガスが発生している。試験開始から2日目以降には有機物分解の中間体である有機酸も生成するが、装置内温度を40℃に維持している間に酵母RB1株が有機酸を分解するため、炭酸ガスはRun Aに比べて多く発生している。装置内の40℃の温度制御が終了すると代謝熱の蓄積によって、装置内温度は徐々に昇温し、試験開始4日目には60℃まで達するが、60℃では酵母RB1株が死滅するため、有機酸が徐々に蓄積し、pHも低下し、微生物全体の活性が阻害されて、炭酸ガス発生速度は極めて小さくなっている。しかしながら、装置内温度が60℃に維持されている試験開始から6日目以降に有機酸の分解が開始し、pHも併せて上昇し、炭酸ガスも大量に発生している。この一連のRun Bの結果は、40℃での温度制御を行うことで有機酸の蓄積量を低減させ、有機物分解を促進できることを示している。また、さらに重要なこととして、好気条件で60℃もの高温条件に維持されているコンポスト化において、有機酸の分解が行われたことが挙げられる。このことは、高温かつ好気条件下で有機酸を分解する微生物が存在することを意味している。酵母RB1株のように、常温の条件で有機酸を分解する微生物は存在が確認されており、高温かつ嫌気条件下でのメタン発酵において、脂肪酸を分解してメタンを生成する微生物が存在することも知られている。しかしながら、これまで、高温かつ好気条件下のコンポスト化の過程で、有機酸を活発に分解できる微生物の存在は知られていなかった。そこで以下実施例2及び3において、Run Bで確認された有機酸を分解する微生物の解析及び単離を試みた。
【0048】
[実施例2]
2.コンポスト試料中の微生物叢の解析
実施例1におけるコンポスト混合原料のコンポスト化の過程における微生物叢の変化を、次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing,NGS)の方法により解析した。実施例1において、コンポスト混合原料の切り返しの際に、分析試料として装置内部から採取したコンポスト試料0.2gから、DNA抽出キット(ISOIL for Beads Beating;株式会社ニッポンジーン)を用いてDNAを抽出した。抽出されたDNAについて、16S rRNA遺伝子の一部(V3、V4領域を含む遺伝子領域)をPCRによって増幅した。PCRには、ホットスタートPCR用のDNAポリメラーゼ(TaKaRa EX Taq(登録商標) Hot Start Version、RR006A;タカラバイオ株式会社)を用い、PCR装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Standard、TP600;タカラバイオ株式会社)にて行った。PCR試薬の組成、プライマーの配列と増幅条件をそれぞれ表1および表2に示す。なお、表2の各プライマー配列のうちの下線部は各サンプルを識別するインデックス付与のための配列であり、下線部以外の配列が原核生物16S rRNAのV3、V4領域を含む遺伝子領域に対応している。各PCR産物について、1.0×Tris-borate-EDTA(TBE)アガロースゲル(寒天濃度2%)電気泳動を行い、目的配列である原核生物16S rRNAのV3、V4領域を含む遺伝子領域が増幅されたことを確認した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
各PCR産物は、DNA精製キット(Agencourt AMPure XP;ベックマン・コールター株式会社)を用いて精製した。精製したPCR産物に対し、Nextera XT Index kit(イルミナ株式会社)及びDNAポリメラーゼ(TaKaRa EX Taq(登録商標) Hot Start Version;タカラバイオ株式会社)を用いて多サンプル解析のためのインデックスを付与した。インデックス付与のための試薬の組成を表3に示す。また、インデックス付与のためのPCR条件は表2に示したPCR条件と同じとした。その後、インデックスを付与したDNA断片を精製し、塩基配列を決定した。
【0052】
【表3】
【0053】
得られた塩基配列データの解析は、データ解析ツールであるQuantitative Insights Into Microbial Ecology(QIIME) ver 1.9.1(Caporaso et al.,Nature Methods,2010年,Vol.7,p.335-336)を用いて行った。アダプター配列を取り除き、フォワードとリバースそれぞれのプライマーから読み取った約300塩基の配列をアラインメントした後に配列を補完し、約465塩基の配列にした。その後、16S rRNAシーケンスデータをOTU解析し、細菌分類群に振り分け、微生物叢分布を得た。以下表4に解析された微生物分類群の一覧表を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
また、実施例1のコンポスト化の過程で変化する微生物叢をNGS解析した結果を図6に示す。まず、Run Aにおける微生物叢の変化を図6(a)に示す。コンポスト化の過程全般に亘り、NO.113のBacillus属の微生物が圧倒的に優勢となっている。しかし、Run Aでは、コンポスト化物中に有機酸が蓄積され、pHも低いままであったため、NO.113のBacillus属の微生物は、好気かつ高温のコンポスト化条件下における有機酸の分解活性は極めて低いものと考えられた。
【0056】
そして、有機酸を分解する微生物の存在が確認されたRun Bにおける微生物叢の変化を図6(b)に示す。コンポスト化開始から1日後ではNO.110のBacillaceae科の微生物の存在度が高いが、コンポスト化3~4日目にはNO.113のBacillus属の微生物が圧倒的に優勢となっており、特に4日目にはNO.113の微生物の相対存在度は80%を示した。その後、コンポスト化開始から6日以降にはNO.113の微生物の存在度は20~30%に低減するが、他の微生物に比べて高い存在度が維持された。また、コンポスト化開始から6日以降には、NO.114のBacillaceae科の微生物、NO.202のSymbiobacterium属の微生物、NO.108のBacillales目の微生物及びNO.137等のUreibacillus属の微生物等の存在度が際立って大きくなっている。このうち、NO.114のBacillaceae科の微生物はコンポスト化6日目で存在度が20%と最大となり、その後、コンポスト化の進行とともに存在度が次第に低下した。実施例1のRun Bの結果によれば、コンポスト化開始から6日目以降に60℃もの高温下で活発な有機物分解が観察されることから、NO.113以外の微生物であって、コンポスト化6日目及び6日目以降に高い存在度を示した微生物、すなわち、NO.114(Bacillaceae科)、NO.202(Symbiobacterium属)、NO.108(Bacillales目)及びNO.137(Ureibacillus属)の微生物のうちのいずれか又は複数が有機酸を分解している可能性が高いと考えられた。
【0057】
[実施例3]
3.有機酸分解微生物の単離及び同定
(微生物の単離)
実施例1におけるコンポスト混合原料の切り返しの際に、分析試料として装置内部から採取したRun Bのコンポスト試料のうち、活発な有機酸分解が生じていた6日目のコンポスト試料から有機酸分解微生物の単離を試みた。コンポスト試料を滅菌水で1/100に希釈したのち、酢酸が唯一の炭素源として含まれている以下表5及び6に示す無機塩酢酸培養液に接種し、培養温度60℃にて3日間の集積培養を行った。この培養液100μLを無機塩酢酸培養液の寒天培地に塗抹して、培養温度60℃、培養期間5日間で培養した。培養後の寒天培地には8つのコロニーが観察された。この8つのコロニーのAD1~AD8株を有機酸分解微生物としてそれぞれ回収し、単離した。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
(微生物の同定)
単離された8つの微生物株AD1~AD8から、DNA抽出キット(ISOIL for Beads Beating;株式会社ニッポンジーン)を用いてDNAを抽出した。微生物から抽出したDNAについて、その16S rRNA領域をPCRによって増幅した。PCRには、ホットスタートPCR用のDNAポリメラーゼ(TaKaRa EX Taq(登録商標) Hot Start Version、RR006A;タカラバイオ株式会社)を用い、PCR装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Standard、TP600;タカラバイオ株式会社)にて行った。PCR試薬の組成、プライマーの配列と増幅条件をそれぞれ表7および表8に示す。各PCR産物について、1.0×Tris-borate-EDTA(TBE)アガロースゲル(寒天濃度2%)電気泳動を行い、目的配列である16S rRNA領域が増幅されたことを確認した。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
目的領域の増幅が確認された各PCR産物は、DNA精製キット(Wizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean-Up System;プロメガ株式会社)を用いて精製した。精製したPCR産物に対し、プライマー357Fおよびプライマー907Rを用いてV3、V4領域を含む16S rRNAの一部を増幅した。プライマーの配列と増幅条件を表9に示す。
【0064】
【表9】
【0065】
増幅されたPCR産物について、DNAシークエンス反応キット(BigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit;アプライドバイオシステムズ株式会社)を用いてシークエンシング反応を行った。塩基配列の解析はDNAシークエンサー(ABI Prism(登録商標)310 Genetic Analyzer;アプライドバイオシステムズ株式会社)により行った。決定した塩基配列について、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に登録されている配列に対してBLAST解析を行い、最も近縁な微生物を特定した。
【0066】
有機物分解微生物として単離したAD1~AD8のDNAを解析したところ、AD1~AD7の7つの微生物株は塩基配列が一致し、AD1~AD7はすべて同じ微生物であることが分かった。他方、AD8の塩基配列はAD1~AD7のものとは異なっており、AD8とAD1~AD7とは別の微生物であることがわかった。図7にAD5(AD1~AD7)株及びAD8株のBLAST解析結果を示す。これによれば、AD5(AD1~AD7)株はBacillaceae科Geobacillus属に属する細菌であり、Geobacillus thermodenitrificansと最も相同性が高かった(相同性98%)。一方、AD8株はBacillaceae科Aeribacillus属に属する細菌であり、Aeribacillus pallidus(相同性99%)と近縁であることがわかった。この「AD5」及び「AD8」は特許微生物寄託センターに、AD5:NITE P-02597、AD8:NITE P-02598として寄託された。
【0067】
AD5(AD1~AD7)株及びAD8株の微生物同定結果を、実施例2におけるNGS解析結果に反映させるべく、AD5及びAD8の塩基配列情報を用いて、AD5(AD1~AD7)株及びAD8株が実施例2における表4及び図6等に示されたどの微生物分類群に分類されるかを確かめた。その結果、本実施例でBacillaceae科Geobacillus属に属する微生物と同定されたAD5(AD1~AD7)株は、実施例2におけるNO.114のBacillaceae科の微生物分類群に分類されることがわかった。この結果より、実施例1のRun Bにおいて、NO.114の微生物、すなわち、AD5株がコンポスト化6日目に多く存在し、有機酸分解を好気かつ高温条件下で活発に行ったことが明らかとなった。他方、本実施例でBacillaceae科Aeribacillus属と同定されたAD8株は、実施例2におけるNO.137のPlanococaseae科の微生物分類群に分類された。AD8株はAeribacillus pallidusと近縁であるが、このAeribacillus pallidusは、2010年にGeobacillus属から再分類されている。それゆえ、AD8株は少なくともBacillaceae科に属する微生物分類群に分類されるものと予想されたが、予想とは異なり、異なる微生物群に分類された(なお、目(Order)レベルでは、AD8株もNO.137の微生物共にBacillales目に分類されるため、一致している)。この理由としては、BLAST検索とNGS解析に用いた微生物データベースが異なっているためと考えられる。このAD8株と対応する微生物分類群であるNO.137は、実施例1のRun Bにおいて、コンポスト化6日目に多く存在し、有機酸分解に関与すると推測されていた微生物であった。よって、実施例1のRun Bにおいて、NO.137の微生物、すなわち、AD8株がコンポスト化6日目に多く存在し、有機酸分解を好気かつ高温条件下で活発に行ったことが推測された。これらの結果より、AD5(AD1~AD7)株及びAD8株が、コンポスト化において、好気かつ高温条件下で増殖し、活発な有機酸の分解を行うことが明らかとなった。
【0068】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。
【受託番号】
【0069】
NITE P-02597
NITE P-02598
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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