(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-02
(45)【発行日】2022-03-10
(54)【発明の名称】半導体冷却装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/40 20060101AFI20220303BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220303BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H01L23/40 F
H01L23/36 C
H01L23/36 Z
H01L23/46 Z
(21)【出願番号】P 2017233121
(22)【出願日】2017-12-05
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】松島 誠二
(72)【発明者】
【氏名】平野 智哉
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/069005(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090106(WO,A1)
【文献】特開2007-141932(JP,A)
【文献】特開2016-219572(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045758(WO,A1)
【文献】特開2017-092468(JP,A)
【文献】特開2006-294971(JP,A)
【文献】特開2016-167503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/40
H01L 23/36
H01L 23/473
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に配線層を介して半導体素子が搭載される半導体モジュールに接合される半導体冷却装置であり、
前記絶縁基板の他方の面側に接合される放熱基板と、
前記放熱基板の、前記絶縁基板が接合された面とは反対側の面に設けられたフィンと、
前記フィンの先端に接合され、前記放熱基板の材料より線膨張係数の小さい材料
であり、AlNまたはSiN、もしくはこれらを含む複合材からなる反り防止板とを備えることを特徴とする半導体冷却装置。
【請求項2】
絶縁基板の一方の面に配線層を介して半導体素子が搭載される半導体モジュールに接合される半導体冷却装置であり、
前記絶縁基板の他方の面側に接合される放熱基板と、
前記放熱基板の、前記絶縁基板が接合された面とは反対側の面に設けられたフィンと、
前記フィンの先端に接合され、平面寸法が前記放熱基板より小さく、前記放熱基板の材料より線膨張係数の小さい材料であり、AlN、SiN、アルミニウムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、これらの複合材のいずれかからなる反り防止板とを備えることを特徴とする半導体冷却装置。
【請求項3】
前記反り防止板に、該反り防止板の厚み方向に貫通する貫通部が形成されている請求項1
または2に記載の半導体冷却装置。
【請求項4】
前記フィンは高剛性材からなる請求項1
~3のうちのいずれか1項に記載の半導体冷却装置。
【請求項5】
前記放熱基板のフィンが接合された面側に装着され、放熱基板との間にフィンを収容して冷却媒体流通空間を形成するジャケットを備える請求項1~
4のうちのいずれか1項に記載の半導体冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を搭載した基板を冷却する半導体冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子は大電力を扱うことが多く、それに伴って発熱量が増大している。このため、半導体素子を実装した基板に冷却器を接合し、冷却器に放熱している。放熱に大きなスペースを確保できる定置設備では強制空冷が可能であるが、限られたスペース内に機器は配置する場合は液冷式冷却器が有用である。
【0003】
半導体素子はセラミック等の絶縁基板上に形成された配線層に搭載され、前記絶縁基板の反対側の面に、アルミニウムや銅の高熱伝導金属からなる冷却器がろう付等により接合される。冷却器としては、放熱板の一方の面に放熱したフィンを接合したものがあり、さらに放熱板にジャケットを装着してフィンを内蔵した冷却媒体流通空間を形成した液冷式冷却器がある(特許文献1~3参照)。
【0004】
上記のような冷却器を接合した半導体冷却装置において、半導体素子の発熱によって温度が上昇すると、放熱基板の材料である金属の線膨張係数が絶縁基板の材料であるセラミックの線膨張係数よりも大きいために、膨張しようとする放熱基板が絶縁基板に引っ張られて反りが生じる。そして、放熱基板に反りが生じると、絶縁基板にクラックが生じたり、絶縁基板が剥離することがある。
【0005】
このような放熱基板の反りに対して、特許文献1は、放熱基板とフィンの間にセラミックからなる拘束板を介在させ、放熱基板を拘束することによって反りを防止する技術を提案している。また、特許文献2は、放熱板の冷却器側の面の一部に凹部を設け、この凹部に熱膨張係数が熱膨張係数が近似する金属またはセラミックからなる補正板をろう付することによって放熱基板の反りを防止する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-141932号公報
【文献】特開2004-146650号公報
【文献】特開2005-191502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2に記載された方法は、放熱基板とフィンの間に拘束板または補正板が介在することでフィンへの伝熱が遅れるおそれがある。また、放熱基板とフィンが一体に成形された冷却器には適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、冷却性能を低下させることなく放熱基板の反りを防止できる半導体冷却装置の構造を提供するものである。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]~[4]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]絶縁基板の一方の面に配線層を介して半導体素子が搭載される半導体モジュールに接合される半導体冷却装置であり、
前記絶縁基板の他方の面側に接合される放熱基板と、
前記放熱基板の、前記絶縁基板が接合された面とは反対側の面に設けられたフィンと、
前記フィンの先端に接合され、前記放熱基板の材料より線膨張係数の小さい材料からなる反り防止板とを備えることを特徴とする半導体冷却装置。
【0011】
[2]前記反り防止板に、該反り防止板の厚み方向に貫通する貫通部が形成されている前項1に記載の半導体冷却装置。
【0012】
[3]前記フィンは高剛性材からなる前項1または2に記載の半導体冷却装置。
【0013】
[4]前記放熱基板のフィンが接合された面側に装着され、放熱基板との間にフィンを収容して冷却媒体流通空間を形成するジャケットを備える前項1~3のうちのいずれか1項に記載の半導体冷却装置。
【発明の効果】
【0014】
上記[1]に記載の半導体冷却装置は、半導体モジュールの絶縁基板が接合される放熱基板の反対の面に設けられたフィンの先端に、放熱基板よりも線膨張係数の小さい反り防止板が接合されている。半導体素子の発熱によって絶縁基板および放熱基板の温度が上昇すると、絶縁基板よりも線膨張係数の大きい放熱基板が伸びて反ろうとするが、反対側の面に配置された反り防止板が放熱基板の伸びを抑制する。その結果として、放熱基板の反りが抑制され、絶縁基板のクラック発生や接合部分の剥離を防ぐことができる。また、フィンの先端に反り防止板を接合する構造であり放熱基板とフィンとの間に介在物がないので、半導体素子が発する熱が放熱基板からフィンに速やかに伝わり、冷却性能が優れている。
【0015】
上記[2]に記載の半導体冷却装置は、反り防止板に形成された貫通部を冷却媒体の流路として利用できる。
【0016】
上記[3]に記載の半導体冷却装置は、フィンの剛性が高く変形し難いので、反り防止板による効果が低下しない。
【0017】
上記[4]に記載の半導体冷却装置によれば、ジャケットの装着によってフィンを収容する冷却媒体流通空間が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の半導体冷却装置の一実施形態の分解斜視図である。
【
図2】
図1の半導体冷却装置の組み立て状態におけるA-A線断面図である。
【
図3】
図1の半導体冷却装置の放熱基板を反り防止板側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[半導体冷却装置の構造]
図1~3に、半導体冷却装置の一実施形態と、この半導体冷却装置に伝熱層を介して取り付けられた半導体モジュールを示す。
【0020】
半導体冷却装置1は、放熱基板10、多数のピン状のフィン11、反り防止板20およびジャケット30により構成されている。
【0021】
四角形の放熱基板10は、一方の面の中央部に多数のフィン11が放熱基板と一体に立設され、フィン11群の周囲がフランジ12となされている。前記フランジ12の四隅にジャケット取付用の孔13が穿設されている。
【0022】
反り防止板20は、平面寸法が放熱基板10より小さく、前記フィン11の先端にろう付されて放熱基板10と平行に配置されている。また、前記反り防止板20は、一辺の端部近傍に3つの円形孔21が穿設され、その対向辺は端部が3箇所で切り欠かれて切り欠き部22が形成されている。前記円形孔21および切り欠き部22は本発明における貫通部に対応する。前記反り防止板20は放熱基板10よりも線膨張係数の小さい材料で形成されている。
【0023】
ジャケット30は、フィン11群を収容する凹部31を有する箱型であり、前記凹部31の底面に凹部31を二分する隔壁32が突設されている。前記ジャケット30の一つの側壁に孔33が穿設され、その側壁に対向する側壁に孔34が穿設され、前記隔壁32で二分されたそれぞれの区画に連通している。前記側壁外面に各孔33、34に連通して冷却媒体の導管を接続するジョイント35が取り付けられている。また、前記ジャケット30の上面において、凹部31の開口縁の近傍に溝36が設けられ、この溝36にOリング37が嵌め込まれている。また、前記溝36の外側に4つの雌ねじ部38が形成されている。
【0024】
半導体モジュール2は、絶縁基板40の一方の面に配線層41が接合され、その配線層41に半導体素子42がはんだ層43によって接合されている。さらに、前記絶縁基板40の他方の面には、半導体素子41が発する熱を前記半導体冷却装置1に伝達するための伝熱層44が接合されている。
【0025】
そして、前記半導体モジュール2は、伝熱層44を介して半導体冷却装置1の放熱基板10にろう付されている。
【0026】
前記半導体冷却装置1は以下のようにして組み立てられるとともに、半導体モジュール2に取り付けられる。
【0027】
前記半導体モジュール2が接合された放熱基板10をジャケット30に被せ、凹部31にフィン11群を収容して放熱基板10で凹部31の開口部を閉じ、放熱基板10の孔13をジャケット30の雌ねじ部38に位置合わせする。そして、ボルト50を放熱基板10の孔13に挿入してジャケット30の雌ねじ部38に止め付ける。これにより、放熱基板10とジャケット30の凹部31の間に囲まれた冷却媒体流通空間が形成され、Oリング37によって液密構造が形成されるとともに、前記反り防止板20が凹部31の隔壁32の上面に当接する。前記冷却媒体流通空間は反り防止板20と隔壁32によって、反り防止板20と放熱基板10の間にあってフィン11群が収容された放熱室60と、反り防止板20と凹部31の底面との間にあって隔壁32で二分された第1室61および第2室62とに区画される。前記放熱室60と第1室61は反り防止板20の円形孔21で連通し、放熱室60と第2室62は切り欠き部22で連通している。
【0028】
上記の半導体冷却装置1において、ジャケット30の一方の側壁の孔33から第1室61に冷却媒体を導入すると、冷却媒体は円形孔21を通って放熱室60に入ってフィン11を冷却し、切り欠き部22を通って第2室62に進み、対向する側壁の孔34から排出される。
【0029】
前記半導体モジュール2および半導体冷却装置1において、半導体素子42が発生する熱は、配線層41、絶縁基板40、伝熱層44、放熱基板10、フィン11に伝達され、フィン11から冷却媒体に排熱される。
【0030】
前記放熱基板10の線膨張係数は絶縁基板40の線膨張係数よりも大きく、かつ、前記反り防止板20の線膨張係数は放熱基板10の線膨張係数よりも小さい。即ち、放熱基板10の両側に放熱基板10よりも線膨張率の小さい絶縁基板40と反り防止板20が配置されている。半導体素子42の発熱によって絶縁基板40および放熱基板10の温度が上昇すると、線膨張係数の大きい放熱基板10が絶縁基板40よりも伸びて反ろうとするが、反対側の面に配置された反り防止板20が放熱基板10の伸びを抑制する。その結果として、放熱基板10の反りが抑制され、絶縁基板40のクラック発生や接合部分の剥離を防ぐことができる。
【0031】
また、本発明の反り防止構造では、反り防止板20がフィン11の先端に接合され放熱基板10とフィン11との間に介在物がないので、半導体素子42が発する熱が放熱基板10からフィン11に速やかに伝わる。従って、本発明の反り防止構造は反り防止板によって冷却性能が低下することがなく、かかる点で放熱基板とフィンとの間に反り防止板を介在させた従来の反り防止構造よりも冷却性能が優れている。また、本発明の反り防止構造はフィンが放熱基板と一体成形物であるか、接合物であるかを問わず適用できる。
【0032】
また、前記フィン11の先端に接合された反り防止板20は凹部31内をフィン11の高さに相当する深さで仕切ることになるが、反り防止板20に円形孔21および切り欠き部22といった貫通部を設けることによって冷却媒体の流通路が形成される。このため、反り防止板20が冷却媒体の流通を妨げるのではなく、反り防止板20と貫通部21、22によって冷却媒体の流通を制御してフィン11群に冷却媒体を行き渡らせて冷却効率を高めることができる。
【0033】
本発明においては、反り防止板とジャケットの凹部の底面との間に冷媒流通空間が形成されることには限定されず、反り防止板が凹部の底面に当接している場合も本発明に含まれる。また、反り防止板における貫通部の有無も問わない。反り防止板に貫通部が無くても、反り防止板の寸法を小さくして凹部の側面との間に形成される隙間を冷却媒体流路として利用することができる。
図4の反り防止板25は、平面寸法をフィン群が形成されている部分よりも小さくして凹部の側壁との間に隙間を作り、さらに端部に半円形の切り欠き状の貫通部26を設けた例である。前記反り防止板に設ける貫通部の位置や数は限定されないが、冷却媒体が澱み無くフィン群の全体に行き渡るように、冷却媒体の出入り口の位置に応じて適宜設定する。
【0034】
前記反り防止板20、25の厚みは0.2mm~5mmが好ましく、特に好ましい厚みは0.2mm~2mmである。
【0035】
フィンの形状は図示例の断面円形のピン状に限定されず、他のフィンとして断面菱形のピンフィンや厚肉のストレートフィンを例示できる。また、フィンが放熱基板と一体成形物であることにも限定されない。例えば、アルミニウム等の薄板を曲成したコルゲートフィンを放熱基板にろう付等により接合したものであってもよい。ただし、フィンは熱、温度変化、冷却媒体等によって変形しない、あるいは変形し難いことが好ましい。フィンが変形すると反り防止板による放熱基板反り防止効果が低下するため、反り防止板による効果を長く維持するにはフィンが高剛性材で形成されていることが好ましい。剛性の高いフィンとは、具体的には、ピンフィン、角柱フィン、菱型フィンと呼ばれる支柱形状のフィンや、板形状のフィンでは高さ15mm以下、板厚0.2mm以上でフィン間の隙間が2mm以下で微細に配置されているフィンである。
【0036】
本発明の半導体冷却装置の構成は、放熱基板、フィンおよび反り防止板であり、これらを備えているものは、ジャケット装着の有無にかかわらず本発明の技術的範囲に含まれる。同様に、放熱基板に半導体モジュールが接合されていても接合されていなくても本発明の技術的範囲に含まれる。また、半導体モジュールの絶縁基板と半導体冷却装置の放熱基板との接合形態も限定されず、絶縁基板を伝熱層を介さずに放熱基板に直接接合することもできる。
[半導体冷却装置および半導体モジュールの材料]
前記半導体冷却装置1および半導体モジュール2を構成する部材の好ましい材料および好ましい形態は以下のとおりである。
(半導体冷却装置)
前記放熱基板10およびフィン11を構成する材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅または銅合金などの高熱伝導性材料が好ましい。これらの金属の線膨張係数は後述する絶縁基板40を構成する材料の線膨張係数よりも大きい。
【0037】
前記反り防止板20を構成する材料は、放熱基板10よりも線膨張係数が小さいことが条件であり、純アルミニウムよりも線膨張係数が小さい材料が好ましい。線膨張係数の条件を満たす材料として、AlN、SiN、アルミニウムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、これらの複合材等を例示できる。
【0038】
前記ジャケット30の材料は限定されない。また、放熱基板10とジャケット30で形成される液密構造の形態も限定されない。
(半導体モジュール)
前記絶縁基板40を構成する材料は、電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れていることが好ましい。かかる点で窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0039】
前記配線層41を構成する材料は、導電性に優れかつ熱伝導性に優れたものが好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅または銅合金が好ましい。これらの中でも特に純アルミニウムが好ましい。
【0040】
前記伝熱層44を構成する材料は配線層41を構成する材料に準じる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は発熱量の大きい半導体素子の冷却装置として利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…半導体冷却装置
2…半導体モジュール
10…放熱基板
11…フィン
20、25…反り防止板
21…円形孔(貫通部)
22…切り欠き部(貫通部)
26…切り欠き部(貫通部)
30…ジャケット
40…絶縁基板
41…配線層
42…半導体素子