IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロケット フレールの特許一覧

特許7034332薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー
<>
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図1
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図2
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図3
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図4
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図5
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図6
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図7
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図8
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図9
  • 特許-薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】薬物送達のための架橋デンプンをベースとするポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08B 31/08 20060101AFI20220304BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C08B31/08
C08B37/16
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020558044
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2019060231
(87)【国際公開番号】W WO2019202148
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】18290034.0
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トロッタ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】カルデラ,ファブリツィオ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】CHEMPLUSCHEM,2016年,Vol.81, No.5,p.439-443
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 31/08
C08B 37/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋デンプンをベースとするポリマーを調製する方法であって、下記:
1)澱粉質材料を適切な溶媒に溶解し、澱粉質材料溶液を形成させるステップと;
2)ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを得るために、前記澱粉質材料溶液中に式(I)のエピスルフィド
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、水素及び(C~C)アルキルから独立に選択される)を加えるステップと
を含み、
前記澱粉質材料が、シクロデキストリン、デキストリン、及びマルトデキストリン、並びにこれらの組合せからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記澱粉質材料がシクロデキストリンであるとき、これが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記澱粉質材料がβ-シクロデキストリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記澱粉質材料がマルトデキストリンであるとき、これが、穀類、マメ科植物デンプン又はモチトウモロコシデンプンに由来するマルトデキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記マルトデキストリンが、エンドウマメデンプンに由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マルトデキストリンが、滑らかなエンドウマメに由来する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記マメ科植物のデンプンが、25%~50%の範囲のアミロース含量を有し、これらの百分率が、デンプンの乾重量に対する乾重量として表される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記マメ科植物のデンプンが、30%~40%の範囲のアミロース含量を有し、これらの百分率が、デンプンの乾重量に対する乾重量として表される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記マメ科植物のデンプンが、35%~40%の範囲のアミロース含量を有し、これらの百分率が、デンプンの乾重量に対する乾重量として表される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ステップ1)において、前記溶媒が有機非プロトン性極性溶媒及び水から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ1)において、前記溶媒が水である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ2)が、室温にて行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ2)が、12~14の範囲のpHで行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ2)が、NaOHを使用することによって、12~14の範囲のpHで行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
澱粉質材料及び前記エピスルフィドの間のモル比が、1:2~1:20の比である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
澱粉質材料及び前記エピスルフィドの間のモル比が、1:5~1:12の比である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
澱粉質材料及び前記エピスルフィドの間のモル比が、1:10の比である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記澱粉質材料がシクロデキストリンであるとき、前記比が、1:10であり、最終的なジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーが、沈殿によって得られる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記澱粉質材料がマルトデキストリン又はデキストリンであるとき、前記比が1:10であり、これは、式(I)のエピスルフィドの量が、7モルの縮合されたグルコース単位(分子量162.15g/mol)毎に10モルのスルフィドと等しい、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
式(I)のエピスルフィドにおいて、R、R、R及びRが、H及びCHから独立に選択される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
式(I)のエピスルフィドが、プロピレンジスルフィドである、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ナノスポンジとしてまた称される架橋デンプンをベースとするポリマー、及びこれらを生成する方法に関する。
【0002】
そのように得られる架橋ナノスポンジは、薬物送達系として使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
デンプンをベースとするナノスポンジは、適当な架橋剤との架橋によって得られる、粒子の形態の澱粉質材料のポリマー、特に、シクロデキストリンである。
【0004】
澱粉質材料の中で、α,β,γ-シクロデキストリンは、天然又は半合成の環状オリゴ糖であり、一般に生分解性であり、β-CD、γ-CD及び特定のその誘導体、例えば、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)及びスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-CD)は、産業用途において大部分が使用されている。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0196542号において使用されているマルトデキストリンは、厳格な使用の規制によることなくシクロデキストリンと比較したときに、シクロデキストリンについての代替の生成物であるという結果となり、特に、着香剤の高収率の封入を示す結果となった。
【0006】
国際公開第2016/004974号において、デンプンの乾重量に対する乾重量として表して、25~50%の範囲のアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール、ジフェニルカーボネート、トリホスゲン、アシルジクロリド、ジイソシアネート、ジエポキシドからなる群から選択される陽性炭素原子を有する少なくとも1種の架橋化合物とを反応させることによって得ることができる架橋ポリマーについて記載されている。
【0007】
現在公知であるのは、デキストリンナノスポンジ、すなわち、デンプンをベースとするポリマーを調製するための様々な方法であり、これは、無水デキストリン、高温、及び除去することが困難である高沸点溶媒の使用を予想する。さらに、前記方法は、固体ブロックの形態のナノスポンジの調製を可能とし、これらはその使用を可能とするさらなる処理、例えば、洗浄、ソックスレー抽出及び粉砕を次いで必要とする。
【0008】
国際公開第2012/147069号において、界面重合の方法が記載されており、ここで、ナノスポンジは、互いに不混和性である有機相及び水相の間の界面において沈殿によって生成される。この方法は、機械タイプの方法の使用を伴わずにナノ粒子が得られることを有利に可能にし、使用される溶媒の量の低減を可能とし、一般に速い。
【0009】
ナノ粒子は、それらの寸法が生物学的構成要素の寸法に近いため、生物医学的用途のために関心をひくものである。特に、異なるタイプのナノ粒子は、薬物効果が増幅され、有害効果が低減するように、特定の細胞又は器官を標的とした薬物の時間制御された放出のための新規な薬物送達系として提案されてきた。
【0010】
F.Trottaら(Francesco Trotta et al. “Glutathione Bioresponsive Cyclodextrin Nanosponges”, ChemPlusChem Communications, Chem PubSoc Europe)は、薬物送達のための新規なナノスポンジとしてナノスポンジについて記載してきた。具体的には、in vitro及びin vivoでの研究は、記載されたナノスポンジがそれらのナノ構造内に封入された抗がん薬の有効性を増加させることができることを示した。グルタチオン水溶液に分散された(GSH)応答性ナノスポンジは、還元剤によって切断される傾向を有し、したがって、これらの材料を使用して、GSHの存在下で、化学療法抵抗性がん細胞に特有である濃度で、抗がん薬をホスト(host)及び放出することができることが示された。
【0011】
この論文において、新規なグルタチオン(GSH)応答性材料は、β-シクロデキストリン及び適切な量の架橋剤であるピロメリット酸二無水物の存在下、市販されており安価な2-ヒドロキシエチルジスルフィドを反応させることによって、ワンステップ合成によって得られる。反応は、トリエチルアミンの存在下でジメチルスルホキシド(DMSO)中で行われた。
【0012】
たとえ反応が95%超の収率を伴って室温にて数分で完了しても、反応は、廃棄することを必要とする有機溶媒中で行われた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
たとえ、これらの(GSH)応答性ナノスポンジについて報告された結果は非常に有望であっても、より効率的な(GSH)応答性材料が、容易に調製され、且つ抗がん薬のための担体として使用されることが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
上記の目的は、ジスルフィド架橋を有する新規な架橋ポリマー、すなわち、(GSH)応答性ナノスポンジによって達成された。
【0015】
したがって、本発明は、下記:
1)澱粉質材料を適切な溶媒に溶解し、澱粉質材料溶液を形成させるステップと;
2)ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを得るために、澱粉質材料溶液中に式(I)のエピスルフィド
【化1】
(式中、R、R、R及びRは、水素及び(C~C)アルキルから独立に選択される)を加えるステップと
を含む、グルタチオン(GSH)応答性架橋デンプンをベースとするポリマーを調製する方法に関する。
【0016】
本発明において、下記の用語が使用されるとき:
-「澱粉質材料」は、デンプンから得た材料を意味する。
-「適切な溶媒」は、澱粉質材料を溶解することができる溶媒を意味する。好ましくは、適切な溶媒は、有機非プロトン性極性溶媒及び水から選択することができ、より好ましくは、適切な溶媒は、水である。
-「ナノスポンジ」は、粒子の形状の架橋ポリマーを意味する。一般に、前記架橋粒子の平均直径は、1~1000nmの範囲である。この平均直径は、流体力学的径である。これは、例えば、当業者がレーザー光散乱によって決定することができる。一般に、このような粒子は、室温(20℃~25℃)にて水に不溶性である。
-「GSH応答性架橋デンプンをベースとするポリマー」は、化学療法抵抗性がん細胞において見出されるものと同様の濃度で、グルタチオンの存在に対して応答性である架橋デンプンをベースとするポリマーを意味する。
-「ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー」は、ジスルフィド架橋を有する架橋デンプンをベースとするポリマーを意味する。
【0017】
別の態様では、本発明は、したがって、本発明の方法によって得ることができるジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーに関する。
【0018】
本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは単にジスルフィド結合によって特性決定されるため、本発明は非常に有利であるという結果となった。本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは、生体物質を封入し、これらを標的細胞に送達することができる。したがって、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは、担体、好ましくは、ここで、ナノスポンジと称する、薬物を送達するためのナノ担体であるという結果となった。さらに、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは、非常に高含量のジスルフィド架橋を有する有利に高度に架橋されたデンプンをベースとするポリマーでよく、これはグルタチオンの存在下で実際は生体応答性である。
【0019】
したがって、本発明は、薬物を封入及び送達するための、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー、好ましくは(GSH)応答性ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図面の説明
図1】本発明のステップb)の説明である。
図2】実施例1のTGA分析の、硫化プロピレンと架橋したβ-シクロデキストリンの架橋デンプンをベースとするポリマーのTGA分析のスペクトルを示す。方法:N中で700℃へと10℃/分。
図3】実施例1の架橋デンプンをベースとするポリマーのFTIR-ATR分析のスペクトルを示す。
図4】実施例1において得た架橋デンプンをベースとするポリマーの固体状態13C NMRスペクトルを示す;
図5】グルタチオンの非存在下でのβCD S-Sの光学映像(倍率630×)である;
図6】50mMのグルタチオンの存在下でのβCD S-Sの光学映像(倍率630×)である;
図7】実施例15において示すようなドキソルビシンの放出動態を示す;
図8】実施例16のグルタチオンの非存在下又は存在下でのドキソルビシンを充填した2HES-NSからのドキソルビシンの放出を示す。
図9】実施例16の放出動態の比較を示す;
図10】実施例17において示すようなクマリンの放出動態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
したがって、本発明は、下記:
1)澱粉質材料を適切な溶媒に溶解し、澱粉質材料溶液を形成させるステップと;
2)ジスルフィド架橋を得るために、澱粉質材料溶液中に式(I)のエピスルフィド
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、水素及び(C~C)アルキルから独立に選択される)を加えるステップと
を含む、架橋デンプンをベースとするポリマーを調製する方法に関する
ステップ1)において、澱粉質材料を、適切な溶媒に溶解する。好ましくは、適切な溶媒は、有機非プロトン性極性溶媒及び水から選択することができ、より好ましくは、適切な溶媒は、水である。有機非プロトン性極性溶媒の中では;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、シレン、ジメチルイソソルビド。好ましくは、シレン及びジメチルイソソルビドが好ましい。
【0022】
上記で示すように、澱粉質材料は、デンプンによって得られる生成物である。
【0023】
表現「デンプン」は古典的には、当業者には周知の任意の技術によって任意の適切な植物源から単離されたデンプンを指すことが指摘される。単離されたデンプンは典型的には、3%以下の不純物を含有する。前記百分率は、単離したデンプンの総乾重量に対する不純物の乾重量で表される。これらの不純物は典型的には、タンパク質、コロイド状物質及び繊維性残渣を含む。適切な植物源は、例えば、マメ科植物、穀類、及び塊茎を含む。
【0024】
好ましくは、本発明に有用な澱粉質材料は、室温(20℃~25℃)にて水に可溶性である。特に、植物源から単離されたデンプン(天然デンプン)は、可溶性ではないことに留意すべきである。これは古典的には、冷水不溶性顆粒の形態である。冷水溶性(室温にて可溶性)である澱粉質材料を得るために、天然デンプンは古典的には、物理及び/又は化学修飾を受けなければならない。このような修飾は、例えば、調理、例えば、酵素による加水分解、熱処理、例えば、酸による化学的処理、又はこれらの組合せを包含する。
【0025】
好ましくは、澱粉質材料は、シクロデキストリン、デキストリン、及びマルトデキストリン、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0026】
澱粉質材料がシクロデキストリンであるとき、これは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリン、好ましくは、β-シクロデキストリンでよい。
【0027】
一実施形態では、澱粉質材料は、マルトデキストリンである。表現「マルトデキストリン」は古典的には、デンプンの酸加水分解及び/又は酵素加水分解によって得られる澱粉質材料を指す。規制状況を参照すると、マルトデキストリンは、1~20のデキストロース当量(DE)を有する。
【0028】
澱粉質材料がマルトデキストリンであるとき、これは好ましくは、穀類及び/又はマメ科植物デンプン、さらに好ましくは、エンドウマメデンプン、特に、滑らかなエンドウマメ、又はトウモロコシデンプン、好ましくは、モチトウモロコシデンプンに由来する。
【0029】
第1の好ましい実施形態では、澱粉質材料が特に、エンドウマメデンプンに由来するマルトデキストリンであるとき、マルトデキストリンは、デンプンの乾重量に対する乾重量として表して、少なくとも25%、好ましくは、少なくとも30%、さらに好ましくは、少なくとも35%のアミロース含量を有するデンプンに由来する。このアミロース含量は、好ましくは、デンプンの乾重量に対する乾重量として表して、25~50%、より好ましくは、30%~40%、さらにより好ましくは、35%~40%、例えば、35%~38%の範囲から選択される。
【0030】
第2の好ましい実施形態では、特に、マルトデキストリンがトウモロコシデンプン、特に、モチトウモロコシデンプンに由来するとき、本発明に有用なマルトデキストリンは、デンプンの乾重量に対する乾重量として表して、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも60%、より好ましくは、少なくとも70%、さらにより好ましくは、少なくとも80%、さらにより好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも95%、例えば、少なくとも98%のアミロペクチン含量を有するデンプンに由来する。
【0031】
好ましくは、本発明において、澱粉質材料がマルトデキストリンであるとき、マルトデキストリンは、1~18の範囲内で選択されるデキストロース当量(DE)を有する。このDEは、例えば、2又は17と等しい。
【0032】
適切なマルトデキストリンは、市販されており、例えば、名称KLEPTOSE(登録商標)Linecaps(ROQUETTE)又はGLUCIDEX(登録商標)(ROQUETTE)で販売されているものである。
【0033】
本発明によれば、澱粉質材料は、デキストリンでよい。表現「デキストリン」は古典的には、乾燥条件下で、一般に、酸の存在下で、デンプンを加熱することから得られる澱粉質材料を指す。
【0034】
好ましくは、本発明の澱粉質材料がデキストリンであるとき、これは好ましくは、トウモロコシデンプンに由来する。適切なデキストリンは、市販されており、例えば、名称STABILYS(登録商標)(ROQUETTE)で販売されているものである。
【0035】
ステップ2)は、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを得るための、澱粉質材料溶液中の式(I)のエピスルフィドの添加である。好ましくは、添加は、室温にて行われる。好ましくは、R、R、R及びRは、独立に、水素又はメチルであり、より好ましくは、エピスルフィドは、硫化プロピレンである。
【0036】
有利なことには、ステップ2)は、溶媒として水を使用することによって、好ましくは、室温にて有機溶媒を使用する必要性を伴わずに、ステップa)によって得られる澱粉質材料溶液中で直接行うことができる。ステップ2)は、好ましくは、NaOHを使用することによって、好ましくは、12~14の範囲のpHで行われる。
【0037】
澱粉質材料及び式(I)のエピスルフィドの間のモル比は、1:2~1:20、より好ましくは、1:5~1:12、さらにより好ましくは、1:10の比である。澱粉質材料がシクロデキストリンであるとき、上記の比は、好ましくは、1:10であり、最終的なジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、沈殿によって得られる。
【0038】
澱粉質材料がマルトデキストリンであるとき、比は、好ましくは、1:10であり、すなわち、式(I)のエピスルフィド、好ましくは、プロピレンジスルフィドの量は、7モルの縮合されたグルコース単位(分子量162.15g/mol)毎に10モルのスルフィドと等しい。最終的なジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、ゲル化によって得られる。
【0039】
澱粉質材料がデキストリンであるとき、比は、好ましくは、1:10であり、すなわち、式(I)のエピスルフィド、好ましくは、プロピレンジスルフィドの量は、7モルの縮合されたグルコース単位(分子量162.15g/mol)毎に10モルのスルフィドと等しい。最終的なジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、ゲル化によって得られる。
【0040】
ステップ2)は、単にジスルフィド架橋によって特性決定される本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーを沈殿/ゲル化することを可能とし、下記の実験パートによって明らかとなるように技術的に特性決定した。
【0041】
ステップ2)、及び澱粉質材料としてβ-シクロデキストリンで調製した架橋デンプンをベースとするポリマーの例示となる説明を、図1において報告する。
【0042】
ステップ2)の後、架橋デンプンをベースとするポリマーは好ましくは、上清のpHが中性となるまで遠心サイクルを通して水で洗浄する。次いで、架橋デンプンをベースとするポリマーをアセトンですすぎ、乾燥させることができる。最終的な架橋デンプンをベースとするポリマーがゲル化によって得られる場合、ゲルを乳鉢において粉砕し、その後、水で洗浄した。
【0043】
別の態様では、次いで、本発明は、本発明の方法によって得ることができ、且つ単にジスルフィド架橋を有する架橋デンプンをベースとするポリマーに関する。
【0044】
本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは好ましくは、有機及び水性の溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、エタノール、クロロホルム及びジエチルエーテル中で不溶性である。
【0045】
好ましくは、本発明の架橋ポリマーは、ナノスポンジである。
【0046】
本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、生体物質を封入することができる。
【0047】
他方、物質を封入することができる本発明のジスルフィドポリマーは、医薬品産業においてだけでなく、化粧品産業、食品産業、紙及び不織布産業、織物、超芳香製品及び脱臭剤、洗剤又は植物衛生製品、飲料産業及び殺虫剤の分野において使用することができる。
【0048】
本発明のポリマーは、異なる物理化学的特徴及びサイズを有する様々な有機化合物、例えば、薬物、染料、気体、蒸気の封入/包接/捕捉を可能とする。
【0049】
したがって、さらなる態様では、本発明は、有機化合物の封入/包接/捕捉のための本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーの使用に関する。
【0050】
有利なことには、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、活性成分をホスト(host)するだけでなく、これらを標的細胞へと送達するために使用することができる。したがって、特に、ナノスポンジの形態の、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは、薬物を送達するためのナノ担体であるという結果となった。さらに、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーは、グルタチオンの存在下で実際は生体応答性である、非常に高含量のジスルフィド架橋を有する高度に架橋されたポリマーでよい。
【0051】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、薬物を封入及び送達するための、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー、好ましくは(GSH)応答性ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーの使用に関する。
【0052】
上記で説明したように、グルタチオン水溶液に分散された(GSH)応答性ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、還元剤によって切断される傾向を有したが、したがって、本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを使用して、化学療法抵抗性がん細胞に特有である濃度でのGSHの存在下で抗がん薬をホスト及び放出することができることが示された。
【0053】
最も好ましい実施形態では、本発明は、化学療法抵抗性がん細胞において抗がん薬をホスティング(hosting)及び送達することにおいて使用するための、本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーに関する。
【0054】
本発明のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーは、固体状態で使用される。最終的な架橋デンプンをベースとするポリマーは、任意の溶媒中で不溶性であり、したがって、溶媒と接触したときにその固体状態を維持する。室温にて一晩撹拌した後に、適切な溶媒に溶解した過剰なゲスト分子を伴う選択した量のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを加えることによって関心のある物質の封入を容易に得ることができ、封入が起こり、これは真空下での単純に濾過によって回収される。
【0055】
本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製の例、その特性決定、及び抗がん薬の封入/包接の例を参照して本発明をこれから説明する。
【実施例
【0056】
実験パート
実施例1
β-シクロデキストリンと架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
6.00gのβ-シクロデキストリン(オーブン中で80~120℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、2.00gの水酸化ナトリウムを15mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、4.14mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、白っぽい懸濁液が形成された。それに続く日において、懸濁液を過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。アセトンによる24時間のソックスレー抽出によって完全な精製が達成された。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0057】
このように得られた架橋デンプンをベースとするポリマーを、N2中で毎分10℃の勾配を伴うTA Instruments TGA2050v5.4Aを使用したTGA分析によって分析した。分析の結果は、図2において報告するサーモグラムである。ポリマーの分解は、約200℃で開始し、概ね370℃まで続いた。それにも関わらず、最大分解速度は325℃で達した。700℃にて、約7%の最終残渣が記録された。この熱重量分析によって、β-シクロデキストリンの修飾を確認した。熱分解は実質的により低い温度で開始したが、ワンステップ熱分解プロセスを介して進行する。
【0058】
さらに、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーをより良好に特性決定するために、これをPerkinElmer Spectrum100FT-IR分光計を用いてFTIR-ATR分析で分析した。分析の結果は、図3において報告するスペクトルである。赤外スペクトルにおいて、架橋剤によって導入されたCH基のピーク(すなわち、2960、1585cm-1)を、シクロデキストリン単位の特徴的なバンドに加えて観察することができる。2960、1450及び1370cm-1でのピークは、β-シクロデキストリンの修飾を示す。最も有意な変動は、硫化プロピレンによって導入されたCH基のC-H伸縮振動に由来する。
【0059】
下記の表1において、対応する吸収基と共に主要なピークを列挙する。
【0060】
【表1】
【0061】
ポリマーの化学構造のさらなる確認は、固体NMR分析によって得た。NMRスペクトルは、それぞれ、1H核及び13C核について600.17及び150.91MHzで作動するJeol ECZR600装置で得た。図4において報告する固体状態13C NMRスペクトルは、硫化プロピレンとの重合反応に由来するCH3基(16.6ppm)の存在を明らかにし、このように、FTIR-ATRスペクトルにおいて従前観察されたものを確認した。架橋構造についての証拠は、36.7~38ppmの範囲にあるピークから生じる。より強いシグナル(36.7ppm)は、SH部分に隣接したCHによるものであり、一方、より低いピーク(38ppm)は、S-S架橋に隣接するCH基に起因し得る。
【0062】
得られたポリマーをまた、Thermoscientific FlashEA1112Series装置においてCHNS分析によって特性決定した。結果を下記の表2において報告する。
【0063】
【表2】
【0064】
硫黄の測定した含量は、(合成反応のために最初に導入された)最終ポリマーの硫化プロピレンとβ-シクロデキストリンの間の予想されるモル比より有意により高い比、すなわち、10/1の硫化プロピレンとβ-シクロデキストリンの間の比を示唆した。これは未反応のシクロデキストリンの部分的消失又はエピスルフィドの部分的重合に基づいたことを本発明者らは考えた。
【0065】
実施例2
α-シクロデキストリンと架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのα-シクロデキストリン(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを7.5mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、2.42mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、白っぽい懸濁液が形成された。それに続く日において、懸濁液を過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0066】
実施例3
γ-シクロデキストリンと架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのγ-シクロデキストリン(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを7.5mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、1.81mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、白っぽい懸濁液が形成された。それに続く日において、懸濁液を過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0067】
実施例4
KLEPTOSE(登録商標)Linecaps(17のDEを有するエンドウマメデンプンに由来するマルトデキストリン)と架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのKLEPTOSE(登録商標)Linecaps(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを7.5mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、2.07mLの硫化プロピレンを導入した。数時間以内に、ゲルが形成された。それに続く日において、ゲルをスパチュラで崩し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。よって、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを得た。
【0068】
さらに、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーをより良好に特性決定するために、これをFTIR-ATR分光法によって分析した。
【0069】
下記の表3において、対応する吸収基と共に主要なピークを列挙する。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例5
GLUCIDEX(登録商標)2(2のDEを有するモチトウモロコシデンプンに由来するマルトデキストリン)と架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのGLUCIDEX(登録商標)2(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを15mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、2.07mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、ゲル化が起こり、モノリシックブロックが形成された。それに続く日において、ゲルを乳鉢において粉砕し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0072】
さらに、本発明の架橋ポリマーをより良好に特性決定するために、これをFTIR-ATR分光法によって分析した。
【0073】
下記の表4において、対応する吸収基と共に主要なピークを列挙する。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例6
STABILYS(登録商標)A025(トウモロコシデンプンに由来するデキストリン)と架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのSTABILYS(登録商標)A025(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを15mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、2.07mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、ゲル化が起こり、モノリシックブロックが形成された。それに続く日において、ゲルを乳鉢において粉砕し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0076】
さらに、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーをより良好に特性決定するために、これをFTIR-ATR分光法によって分析した。
【0077】
下記の表5において、対応する吸収基と共に主要なピークを列挙する。
【0078】
【表5】
【0079】
実施例7
KLEPTOSE(登録商標)Linecaps(17のDEを有するエンドウマメデンプンに由来するマルトデキストリン)と架橋剤として硫化エチレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのKLEPTOSE(登録商標)Linecaps(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを7.5mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、1.57mLの硫化エチレンを導入した。数時間後、ゲル化が起こった。それに続く日において、ゲルをスパチュラで崩し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。よって、ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを得た。
【0080】
実施例8
プルランと架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのプルラン(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを17mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、0.83mLの硫化プロピレンを導入した。数時間以内に、ゲルが形成された。それに続く日において、ゲルをスパチュラで崩し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0081】
実施例9
環状ニゲロシル-(1→6)-ニゲロース(CNN)(環状四糖)と架橋剤として硫化プロピレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのCNN(オーブン中で80~120℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、0.30gの水酸化ナトリウムを5mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、1.45mLの硫化プロピレンを導入した。数分後、白っぽい懸濁液が形成された。それに続く日において、懸濁液を過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0082】
実施例10
GLUCIDEX(登録商標)2(2のDEを有するモチトウモロコシデンプンに由来するマルトデキストリン)と架橋剤として硫化エチレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのGLUCIDEX(登録商標)2(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを15mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、1.57mLの硫化エチレンを導入した。数時間以内に、ゲルが形成された。それに続く日において、ゲルをスパチュラで崩し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0083】
実施例11
STABILYS(登録商標)A025(トウモロコシデンプンに由来するデキストリン)と架橋剤として硫化エチレンとを反応させることによる本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーの調製
3.00gのSTABILYS(登録商標)A025(オーブン中で80~100℃にて少なくとも一晩乾燥させた)は、1.00gの水酸化ナトリウムを15mLの水に加えることによってあらかじめ調製したアルカリ性溶液中で連続的に撹拌することによって可溶化した。次いで、1.57mLの硫化エチレンを導入した。数時間以内に、ゲルが形成された。それに続く日において、ゲルをスパチュラで崩し、過剰なアセトンに加え、遠心した。次いで、上清を新鮮なアセトンで置換え、再び遠心した。遠心分離/洗浄サイクルをアセトンで5~6回及び水を使用して5~6回繰り返した(上清のpHが中性となるまで)。最終的に、粉末を凍結乾燥し、デシケーター中で貯蔵した。
【0084】
実施例12
イミダクロプリドの封入/吸収試験
イミダクロプリド(ICP)を吸収する実施例のポリマー(γ-シクロデキストリン+硫化プロピレン)の能力を、カーボネートγ-シクロデキストリンポリマー(39mLの無水N,N-ジメチルホルムアミド中の6.50gの無水γ-シクロデキストリン及び3.25gの1,1’-カルボニルジイミダゾールを90℃にて4時間反応させることによって合成し、それに続いて、脱イオン水によるブフナー濾過によって浄化し、エタノール中のソックスレー抽出によって24時間精製する)と比較して評価した。具体的には、5mgのICPを100mLのアセトニトリル-水(60/40v/v)溶液に溶解することによってあらかじめ調製した10mLの50ppmのICP溶液に、100mgのポリマーを加えた。72時間の撹拌の後、1mLのポリマー分散物を取り出し、0.2μmのシリンジフィルターで濾過し、HPLC/UVに注入した。残留する吸収されていないICPを、10~100ppmの濃度範囲に亘って外部較正曲線を使用して定量化した(HPLC方法:カラムC18、λ検出器252nm、移動相アセトニトリル-水60/40v/v、流量1.2mL/分、総操作時間8分、保持時間約2.4分)。
【0085】
実施例のポリマーは、ICPの濃度を50ppmから概ね45ppmへと低減させることができ、言い換えると、100mgのポリマーは、50μgのICP(ICPの総量の10%)を吸収した。一方では、カーボネートポリマーによって吸収されるICPの量は、1μgより低かった。
【0086】
実施例13
クロジナホッププロパルギルの封入/吸収試験
クロジナホッププロパルギル(CFP)を吸収する実施例3のポリマー(γ-シクロデキストリン+硫化プロピレン)の能力を、カーボネートγ-シクロデキストリンポリマー(39mLの無水N,N-ジメチルホルムアミド中の6.50gの無水γ-シクロデキストリン及び3.25gの1,1’-カルボニルジイミダゾールを90℃にて4時間反応させることによって合成し、それに続いて、脱イオン水によるブフナー濾過によって浄化し、エタノール中のソックスレー抽出によって24時間精製する)と比較して評価した。具体的には、5mgのCFPを100mLのアセトニトリル-水(60/40v/v)溶液に溶解することによってあらかじめ調製した10mLの50ppmのCFP溶液に、100mgのポリマーを加えた。72時間の撹拌の後、1mLのポリマー分散物を取り出し、0.2μmのシリンジフィルターで濾過し、HPLC/UVに注入した。残留する吸収されていないCFPを、5~100ppmの濃度範囲に亘って外部較正曲線を使用して定量化した(HPLC方法:カラムC18、λ検出器230nm、移動相アセトニトリル-水60/40v/v、流量2mL/分、総操作時間10分、保持時間約7分)。
【0087】
実施例3のポリマーは、CFPの濃度を50ppmから概ね7ppmへと低減させることができ、言い換えると、100mgのポリマーは、430μgのCFP(CFPの総量の86%)を吸収した。一方では、カーボネートポリマーによって吸収されるCFPの量は、1μgより低かった。
【0088】
実施例14
ドキソルビシンの封入
A)実施例1において生成されたブランクのジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーの懸濁液の調製
実施例1において生成した重みを付けた量のジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーを、水/PEG400の混合物(10%w/v)に10mg/mlの濃度で室温にて懸濁した。次いで、懸濁液を、高剪断ホモジナイザー(Ultraturrax(登録商標)、IKA、Konigswinter、Germany)を使用して24000rpmで15分間分散させた。
【0089】
B)実施例1において生成された蛍光ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーの懸濁液の調製
蛍光標識したジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー懸濁液は、重みを付けた量の6-クマリン(1mg/ml)を、A)のブランクのジスルフィド架橋ポリマーの水性懸濁液(10mg/ml、従前に記載したように調製)に加え、室温にて暗中24時間撹拌することによって得た。次いで、蛍光ジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー懸濁液を、Modulyo凍結乾燥器(Edwards)を使用して凍結乾燥し、粉末を得た。
【0090】
C)ドキソルビシンを充填したジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマー懸濁液の調製
ドキソルビシンを充填したジスルフィド架橋ポリマーは、重みを付けた量の蛍光ドキソルビシン(2mg/ml)をジスルフィド架橋ポリマーの水性懸濁液(10mg/ml)に加えることによって得た。次いで、混合物を室温にて暗中一晩撹拌した。それに続いて、透析ステップを行い、充填されていないドキソルビシンを分離した。
【0091】
D)ジスルフィド架橋ポリマー水性懸濁液の特性決定
実施例14Cのジスルフィド架橋ポリマー懸濁液を、物理化学的プロファイル下でin vitroで特性決定した。
【0092】
ジスルフィド架橋ポリマー懸濁液の平均直径及び多分散性指数を、光子相関分光(PCS)によって決定した。ゼータ電位は、90Plus装置(Brookhaven、NY、USA)を使用して電気泳動移動度によって決定した。分析は、濾過した蒸留水で希釈したβCD S-S懸濁液を使用して90°の散乱角及び25℃の温度で行った。ゼータ電位決定のために、希釈したNS配合物の試料を、電気泳動セル中に入れ、ここで、概ね15V/cmの電界を印加した。
【0093】
ジスルフィド架橋ポリマーの物理化学的特徴はまた、グルタチオン(50mM)の非存在下及び存在下で評価した。
【0094】
【表6】
【0095】
図5において、グルタチオンの非存在下でのジスルフィド架橋ポリマーの光学映像(倍率630×)、及び図6において、50mMのグルタチオンの存在下でのジスルフィド架橋ポリマーの光学映像(倍率630×)を報告する。グルタチオンの添加は、散乱光及び光学顕微鏡分析の両方によって明らかにされるように、粒径の増加をもたらした。本発明者らは、この効果を、GSHの添加に起因するpHの変動、及び粒子凝集に好都合であるZ電位絶対値の結果として生じた減少の結果だと見なす。
【0096】
実施例15
ドキソルビシンを充填したジスルフィド架橋デンプンをベースとするポリマーのin vitroでの放出
in vitroでの薬物放出実験を、受理チャンバーからセルロース膜(Spectrapore、カットオフ=12000Da)によって分離されたドナーチャンバーを含むマルチコンパートメント回転セルにおいて行った。実施例14Cの1mlのドキソルビシンを充填したジスルフィド架橋ポリマーを、ドナーチャンバー中に入れた。受理コンパートメントは、1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)をpH7.4で含有した。in vitroでの放出研究を、グルタチオン(50mM)の存在下で受理コンパートメントにおいて行った。受理相を規則的な間隔で取り出し、同じ量の新鮮な溶液と完全に置き換え、シンク条件を維持した。取り出した試料中のドキソルビシンの濃度を、HPLCによって検出した。
【0097】
ドキソルビシンのHPLC定量決定
ドキソルビシンの定量決定は、蛍光検出器(Chrompack)を備えたポンプ(Shimadzu LC-9A PUMP C)からなるHPLCシステムによって行った。Agilent TC C18カラム(250mm×4.6mm、5μm)を使用して分析を行った。移動相は、KH2PO4 0.01M(pH1.4)、アセトニトリル及びメタノールの混合物(65:25:10v/v/v)であり、脱気し、1ml/分の流量を伴うカラムを通してポンプで汲み上げた。カラム流出液を、それぞれ、480nm及び560nmの励起波長及び発光波長でモニターした。外部標準方法を使用して、薬物濃度を計算した。この目的のために、1mgのドキソルビシンを秤量し、メスフラスコ中に入れ、水に溶解し、ストック標準液を得た。次いで、移動相を使用してこの溶液を希釈し、一連の較正溶液を提供し、それに続いてHPLCシステム中に注入した。線形較正曲線を、0.999の回帰係数を伴う5~100ng/mLの濃度範囲に亘って得た。
【0098】
グルタチオン(50mM)の非存在下又は存在下での受理相における実施例14Cのジスルフィド架橋ポリマーからのドキソルビシンのin vitroでの放出動態を、下記の表7において報告し、図7において表す。
【0099】
【表7】
【0100】
よって、実施例14のジスルフィド架橋ポリマー(βCD NS S-Sと称される)を、50nMのグルタチオンの存在下又は非存在下でドキソルビシンを送達することについて評価した。
【0101】
図7から見ることができるように、ドキソルビシンは、ジスルフィド架橋ポリマーによって直線的な様式で放出されたが、このように、本発明の架橋デンプンをベースとするポリマーが、グルタチオンの存在下でドキソルビシン送達系であったことを示した。
【0102】
この実施例は、本発明のジスルフィド架橋ポリマーが、がん細胞におけるのと同じ濃度でグルタチオンが存在するとき、架橋デンプンをベースとするポリマー自体中に封入された抗腫瘍剤を放出することができる送達薬物系であったことをまた示した。
【0103】
実施例16
比較の目的のために、2-ヒドロキシエチルジスルフィド(2HES)に由来するジスルフィド架橋(硫黄含量0.62重量%)を含有するナノスポンジを、Trotta et al., ChemPlusChem 2016, 81, 439-443において報告されている手順に従って、β-シクロデキストリン及び2HESとピロメリット酸二無水物とを反応させることによって合成した。具体的には、1.00gの無水β-CD及び0.10gの2HESを、4.0mLのジメチルスルホキシドに可溶化した。その後、1mLのトリエチルアミン及び2.75gのピロメリット酸二無水物を溶液中に導入し、硬いゲルが形成されるまで撹拌した。24時間後、ゲルを乳鉢において粉砕し、脱イオン水、次いで、アセトンによるブフナー濾過によって洗浄し、最終的に、アセトンによるソックスレー抽出によって14時間精製した。2HES-ナノスポンジに、実施例14Cにおいて報告した手順に従ってドキソルビシンを充填した。次いで、2HES-ナノスポンジからのドキソルビシンのin vitroでの放出研究を、実施例15において報告するように、グルタチオンの非存在下及び存在下で行った。図8から明らかであるように、グルタチオンは、ドキソルビシンの3倍より速い放出を誘発したが、受理相中のその含量は50mMのグルタチオンの存在下で0.8%から2.5%へと増加した。
【0104】
しかし、2HES-ナノスポンジと比較して、実施例14Cのポリマーは、グルタチオンに対して有意により高い感受性を示した。これは、6時間後に放出されたドキソルビシンの量が、グルタチオンが50mMの濃度で導入されたとき、概ね10%から85%へと増加(8倍の増加)したためである(図9)。
【0105】
実施例17
実施例14B)の蛍光標識した蛍光ジスルフィド架橋ポリマーからの6-クマリンのin vitroでの薬物放出を、受理チャンバーからセルロース膜(Spectrapore、カットオフ=12000Da)によって分離されたドナーチャンバーを含むマルチコンパートメント回転セルにおいて評価した。1mlの蛍光標識したβCD S-Sを、ドナーチャンバー中に入れた。受理コンパートメントは、1mlの水/Tween20(0.5%w/v)混合物を含有した。in vitroでの放出研究はまた、グルタチオン(10mM)の存在下で受理コンパートメントにおいて行われた。受理相を規則的な間隔で取り出し、同じ量の新鮮な溶液と完全に置き換え、シンク条件を維持した。
【0106】
取り出した試料中の6-クマリンの濃度を、蛍光検出器(Ex450nm、Em480nm)を使用して決定した。
【0107】
グルタチオン(10mM)の非存在下又は存在下での受理相における蛍光標識した架橋デンプンをベースとするポリマーからの6-クマリンのin vitroでの放出動態の結果を表8において報告し、図9において表す。
【0108】
【表8】
【0109】
実際は、本発明の新規なポリマーは、GSH(S-S結合を撹乱する)及び蛍光プローブとして使用するクマリンのより速い放出の存在に対して応答性であった。GSHの非存在下で、無視できる放出のみが観察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10