(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220307BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220307BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20220307BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220307BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220307BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220307BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2017246642
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】安田 剛規
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 彰
(72)【発明者】
【氏名】内田 晴章
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129159(JP,A)
【文献】国際公開第2007/135790(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115605(WO,A1)
【文献】特開2011-159596(JP,A)
【文献】特開2016-072077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/38
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層と、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層と、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層と
が、
互いに接しつつ順に積層
されている積層体に対し、当該正極層から当該固体電解質層を介して当該貴金属層にリチウムイオンを移動させることで充電を行う充電工程と、
充電された前記積層体に対し、前記貴金属層から前記固体電解質層を介して前記正極層にリチウムイオンを移動させることで放電を行う放電工程と
を有
し、
前記充電工程および前記放電工程により、前記貴金属層が多孔質化すること
を特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記充電工程では、リチウムと前記貴金属層を構成する貴金属とが合金化し、
前記放電工程では、前記リチウムと前記貴金属との合金が脱合金化すること
を特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記充電工程により充電される前の前記積層体が、
前記正極層を形成する正極層形成工程と、
前記正極層の上に、
当該正極層に接するように、前記無機固体電解質を含む
前記固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、
前記固体電解質層の上に、
当該固体電解質層に接するように、前記貴金属層を形成する貴金属層形成工程と、
により形成される、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質層における前記無機固体電解質がリン酸塩(PO
4
3-)を含むことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属層が多結晶体からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
正極活物質を含む正極層を形成する正極層形成工程と、
前記正極層の上に、
当該正極層に接するように、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、
前記固体電解質層の上に、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層を
、当該固体電解質層に接し、且つ、積層方向から見た場合に当該貴金属層の平面の大きさが前記正極層の平面の大きさよりも大きくなるように形成する貴金属層形成工程と、
前記正極層と前記固体電解質層と前記貴金属層との積層体に対し、当該正極層から当該固体電解質層を介して当該貴金属層にリチウムイオンを移動させることで充電を行う充電工程と
を有するリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
正極活物質を含む正極層と、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層と、
白金(Pt)を除く白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir
)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層とを、この順に積層してなる積層体に対し、当該正極層から当該固体電解質層を介して当該貴金属層にリチウムイオンを移動させることで充電を行う充電工程と、
充電された前記積層体に対し、前記貴金属層から前記固体電解質層を介して前記正極層にリチウムイオンを移動させることで放電を行う放電工程と
を有するリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する、小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池が知られている。リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、リチウムイオン伝導性を示し且つ正極および負極の間に配置される電解質とを有している。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池では、電解質として有機電解液等が用いられてきた。これに対し、電解質として無機材料からなる固体電解質(無機固体電解質)を用いるとともに、負極活物質としてリチウム金属および/またはリチウムを過剰に含むリチウム過剰層を用いることが提案されている(特許文献1参照)。そして、特許文献1では、正極側集電体膜、正極活物質膜、固体電解質膜および負極集電体膜を、この順に積層した後、正極集電体膜および負極集電体膜を介した充電を行うことに伴って、固体電解質膜と負極集電体膜との間にリチウム過剰層を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、固体電解質膜と負極集電体膜との間に、充電によりリチウム過剰層を生じさせる構成を採用した場合には、リチウム過剰層の形成・消失に伴って固体電解質膜と負極集電体膜との間に剥離を引き起こし、充放電のサイクル寿命が短くなるという問題があった。
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池の内部の剥離を抑制することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極層と、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層と、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層とを、この順に積層してなる積層体に対し、当該正極層から当該固体電解質層を介して当該貴金属層にリチウムイオンを移動させることで充電を行う充電工程と、充電された前記積層体に対し、前記貴金属層から前記固体電解質層を介して前記正極層にリチウムイオンを移動させることで放電を行う放電工程とを有している。
このようなリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記充電工程では、リチウムと前記貴金属層を構成する貴金属とが合金化し、前記放電工程では、前記リチウムと前記貴金属との合金が脱合金化することを特徴とすることができる。
また、前記充電工程および前記放電工程により、前記貴金属層が多孔質化することを特徴とすることができる。
また、他の観点から捉えると、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極層を形成する正極層形成工程と、前記正極層の上に、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、前記固体電解質層の上に、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層を形成する貴金属層形成工程と、前記正極層と前記固体電解質層と前記貴金属層との積層体に対し、当該正極層から当該固体電解質層を介して当該貴金属層にリチウムイオンを移動させることで充電を行う充電工程とを有している。
このようなリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記充電工程では、リチウムと前記貴金属層を構成する貴金属とが合金化することを特徴とすることができる。
さらに、他の観点から捉えると、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極層と、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む固体電解質層と、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成される貴金属層とを、この順に積層してなる積層体に対し、当該正極層側に第1電極を接続するとともに、当該貴金属層側に第2電極を接続する接続工程と、前記第1電極および前記第2電極を介して前記積層体に電流を供給することで、当該積層体を充電する充電工程とを有している。
このようなリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記充電工程では、リチウムと前記貴金属層を構成する貴金属とが合金化することを特徴とすることができる。
また、前記固体電解質層における前記無機固体電解質がリン酸塩(PO4
3-)を含むことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全固体リチウムイオン二次電池の内部の剥離を抑制することのできる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図2】実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】実施の形態の成膜後且つ初回充電前のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図4】(a)~(c)は、保持層を多孔質化する手順を説明するための図である。
【
図5】(a)は実施の形態の成膜後且つ初回充電前のリチウムイオン二次電池の断面STEM写真であり、(b)は実施の形態の初回放電後のリチウムイオン二次電池の断面STEM写真である。
【
図6】第1の変形例のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図7】第2の変形例のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図8】第3の変形例のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図9】第4の変形例のリチウムイオン二次電池の断面構成を示す図である。
【
図10】比較の形態の初回放電後のリチウムイオン二次電池の断面STEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で参照する図面における各部の大きさや厚さ等は、実際の寸法とは異なっている場合がある。
【0010】
[リチウムイオン二次電池の構成]
図1は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。本実施の形態のリチウムイオン二次電池1は、後述するように、複数の層(膜)を積層した構造を有しており、所謂成膜プロセスによって基本的な構造を形成した後、初回の充放電動作によってその構造を完成させるようになっている。ここで、
図1は、初回放電後すなわちリチウムイオン二次電池1の構造が完成した状態を示している。
【0011】
図1に示すリチウムイオン二次電池1は、基板10と、基板10上に積層される正極集電体層20と、正極集電体層20上に積層される正極層30と、正極層30上に積層される固体電解質層40と、固体電解質層40上に積層される保持層50とを備えている。ここで、固体電解質層40は、正極集電体層20および正極層30の両者の周縁を覆うとともにその端部が基板10に直接積層されることで、基板10とともに正極集電体層20および正極層30を覆っている。また、このリチウムイオン二次電池1は、保持層50上に積層されるとともに保持層50の周縁において固体電解質層40に直接積層されることで、固体電解質層40に対して保持層50を被覆する被覆層60を備えている。さらに、このリチウムイオン二次電池1は、被覆層60上に積層されるとともに被覆層60の周縁において固体電解質層40に直接積層されることで、固体電解質層40に対して被覆層60を覆う負極集電体層70を備えている。
【0012】
次に、上記リチウムイオン二次電池1の各構成要素について、より詳細な説明を行う。
(基板)
基板10としては、特に限定されず、金属、ガラス、セラミックスなど、各種材料で構成されたものを用いることができる。
ここで、本実施の形態では、基板10を、電子伝導性を有する金属製の板材で構成している。より具体的に説明すると、本実施の形態では、基板10として、銅やアルミニウム等と比較して機械的強度が高いステンレス箔(板)を用いている。また、基板10として、錫、銅、クロム等の導電性金属でめっきした金属箔を用いてもよい。
【0013】
基板10の厚さは、例えば20μm以上2000μm以下とすることができる。基板10の厚さが20μm未満であると、リチウムイオン二次電池1の強度が不足するおそれがある。一方、基板10の厚さが2000μmを超えると、電池の厚さおよび重量の増加により体積エネルギー密度および重量エネルギー密度が低下する。
【0014】
(正極集電体層)
正極集電体層20は、固体薄膜であって、電子伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、各種金属や、各種金属の合金を含む導電性材料を用いることができる。
【0015】
正極集電体層20の厚さは、例えば5nm以上50μm以下とすることができる。正極集電体層20の厚さが5nm未満であると、集電機能が低下し、実用的ではなくなる。一方、正極集電体層20の厚さが50μmを超えると、電池の内部抵抗が高くなり、高速での充放電には不利である。
【0016】
また、正極集電体層20の製造方法としては、各種PVD(物理蒸着)や各種CVD(化学蒸着)など、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法もしくは真空蒸着法を用いることが望ましい。
【0017】
なお、金属製の板材のような導電性材料で基板10を構成する場合は、基板10と正極層30との間に正極集電体層20を設けなくてもよい。一方、基板10として絶縁性を有する材料を用いる場合には、基板10と正極層30との間に正極集電体層20を設けるとよい。
【0018】
(正極層)
正極層30は、固体薄膜であって、充電時にはリチウムイオンを放出するとともに放電時にはリチウムイオンを吸蔵する正極活物質を含んでいる。ここで、正極層30を構成する正極活物質としては、例えば、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)から選ばれる一種以上の金属を含む、酸化物、硫化物あるいはリン酸化物など、各種材料で構成されたものを用いることができる。また、正極層30は、固体電解質を含んだ合材正極であってもよい。
【0019】
正極層30の厚さは、例えば10nm以上40μm以下とすることができる。正極層30の厚さが10nm未満であると、得られるリチウムイオン二次電池1の容量が小さくなりすぎ、実用的ではなくなる。一方、正極層30の厚さが40μmを超えると、層形成に時間がかかりすぎるようになってしまい、生産性が低下する。ただし、リチウムイオン二次電池1に要求される電池容量が大きい場合には、正極層30の厚さを40μm超としてもかまわない。
【0020】
さらに、正極層30の作製方法としては、各種PVDや各種CVDなど、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法を用いることが望ましい。
【0021】
(固体電解質層)
固体電解質層40は、固体薄膜であって、無機材料からなる固体電解質(無機固体電解質)を含んでいる。ここで、固体電解質層40を構成する無機固体電解質については、リチウムイオン伝導性を示すものであれば、特に限定されるものではなく、酸化物、窒化物、硫化物など、各種材料で構成されたものを用いることができる。ただし、イオン伝導性を高めるという観点からすれば、固体電解質層を構成する無機固体電解質は、リン酸塩(PO4
3-)を含んでいることが望ましい。
【0022】
固体電解質層40の厚さは、例えば10nm以上10μm以下とすることができる。固体電解質層40の厚さが10nm未満であると、得られたリチウムイオン二次電池1において、正極層30と保持層50との間での短絡(リーク)が生じやすくなる。一方、固体電解質層40の厚さが10μmを超えると、電池の内部抵抗が高くなり、高速での充放電には不利である。
【0023】
さらに、固体電解質層40の製造方法としては、各種PVDや各種CVDなど、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法を用いることが望ましい。
【0024】
(保持層)
保持層50は、固体薄膜であって、リチウムイオンを保持する機能を備えている。
そして、
図1に示す保持層50は、多数の空孔52が形成された多孔質部51によって構成されている。すなわち、本実施の形態の保持層50は、多孔質構造を有している。なお、保持層50の多孔質化すなわち多孔質部51の形成は、成膜後の初回の充放電動作に伴って行われるのであるが、その詳細については後述する。
【0025】
ここで、保持層50(多孔質部51)は、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成することができる。これらの中でも、より酸化されにくい白金(Pt)または金(Au)で保持層50を構成することが望ましい。なお、本実施の形態の保持層50(多孔質部51)は、上述した貴金属あるいはこれらの合金の多結晶体で構成することができる。
【0026】
保持層50の厚さは、例えば10nm以上40μm以下とすることができる。保持層50の厚さが10nm未満であると、リチウムを保持する能力が不十分となる。一方、保持層50の厚さが40μmを超えると、電池の内部抵抗が高くなり、高速での充放電には不利である。ただし、リチウムイオン二次電池1に要求される電池容量が大きい場合には、保持層50の厚さを40μm超としてもかまわない。
【0027】
さらに、保持層50の製造方法としては、各種PVDや各種CVDなど、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法を用いることが望ましい。そして、多孔質化した保持層50の製造方法としては、後述するような、充電と放電とを行う手法を採用することが望ましい。
【0028】
(被覆層)
被覆層60は、固体薄膜であって、非晶質構造を有する、金属または合金によって構成される。そして、これらの中でも、耐腐食性の観点から、クロム(Cr)単体またはクロムを含む合金であることが好ましく、クロムおよびチタン(Ti)の合金であることがより好ましい。また、被覆層60は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属または合金で構成されることが好ましい。また、被覆層60は、構成材料が異なる非晶質層を、複数積層して構成する(例えば非晶質クロム層および非晶質クロムチタン合金層の積層構造とする)こともできる。
【0029】
なお、本実施の形態における「非晶質構造」には、全体が非晶質構造を有しているものはもちろんのこと、非晶質構造中に微結晶が析出しているものも含まれる。
【0030】
被覆層60の厚さは、例えば10nm以上40μm以下とすることができる。被覆層60の厚さが10nm未満であると、固体電解質層40側から保持層50を通過してきたリチウムを、被覆層60でせき止めにくくなる。一方、被覆層60の厚さが40μmを超えると、電池の内部抵抗が高くなり、高速での充放電には不利である。
【0031】
さらに、被覆層60の製造方法としては、各種PVDや各種CVDなど、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法を用いることが望ましい。特に、被覆層60を、上述したクロムチタン合金で構成する場合、スパッタ法を採用すると、クロムチタン合金が非晶質化しやすい。
【0032】
なお、被覆層60に用いることが可能な金属(合金)としては、ZrCuAlNiPdP、CuZr、FeZr、TiZr、CoZrNB、NiNb、NiTiNb、NiP、CuP、NiPCu、NiTi、CrTi、AlTi、FeSiB、AuSi等を挙げることができる。
【0033】
(負極集電体層)
負極集電体層70は、固体薄膜であって、電子伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、各種金属や、各種金属の合金を含む導電性材料を用いることができる。ただし、被覆層60の腐食を抑制するこという観点からすれば、化学的に安定した材料を用いることが好ましく、例えば、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で構成することが好ましい。
【0034】
負極集電体層70の厚さは、例えば5nm以上50μm以下とすることができる。負極集電体層70の厚さが5nm未満であると、耐腐食性および集電機能が低下し、実用的ではなくなる。一方、負極集電体層70の厚さが50μmを超えると、電池の内部抵抗が高くなり、高速での充放電には不利である。
【0035】
また、負極集電体層70の製造方法としては、各種PVDや各種CVDなど、公知の成膜手法を用いてかまわないが、生産効率の観点からすれば、スパッタ法を用いることが望ましい。
【0036】
(正極層と保持層との関係)
このリチウムイオン二次電池1では、固体電解質層40を挟んで、正極層30と保持層50とが対向している。すなわち、固体電解質層40の保持層50とは反対側に、正極活物質を含む正極層30が位置している。そして、
図1の上方からみたときに、保持層50の平面の大きさは、正極層30の平面の大きさよりも大きくなっている。また、
図1の上方からみたときに、保持層50の平面の全周縁の内側に、正極層30の平面の全周縁が位置している。その結果、
図1に示す正極層30の上面(平面)には、固体電解質層40を挟んで、保持層50の下面(平面)が対峙している。
【0037】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
次に、上述したリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明を行う。
図2は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0038】
まず、図示しないスパッタ装置に基板10を装着し、基板10上に、正極集電体層20を形成する正極集電体層形成工程を実行する(ステップ20)。次に、上記スパッタ装置にて、正極集電体層20上に、正極層30を形成する正極層形成工程を実行する(ステップ30)。次に、上記スパッタ装置にて、正極層30上に、固体電解質層40を形成する固体電解質層形成工程を実行する(ステップ40)。次いで、上記スパッタ装置にて、固体電解質層40上に、保持層50を形成する保持層形成工程(貴金属層形成工程の一例)を実行する(ステップ50)。それから、上記スパッタ装置にて、固体電解質層40上および保持層50上に、被覆層60を形成する被覆層形成工程を実行する(ステップ60)。そして、上記スパッタ装置にて、固体電解質層40上および被覆層60上に、負極集電体層70を形成する負極集電体層形成工程を実行する(ステップ70)。これらステップ20~70を実行することにより、後述する
図3に示す、成膜後(且つ初回充電前)のリチウムイオン二次電池1が得られる。そして、このリチウムイオン二次電池1を、スパッタ装置から取り外す。
【0039】
続いて、スパッタ装置から取り外したリチウムイオン二次電池1に対し、1回目の充電を行わせる初回充電工程(充電工程の一例)を実行する(ステップ80)。なお、ステップ80では、リチウムイオン二次電池1に対し、基板10には正の電極端子(第1電極の一例)を、負極集電体層70には負の電極端子(第2電極の一例)を、それぞれ接続し(接続工程の一例)、これら正の電極端子および負の電極端子を介して、リチウムイオン二次電池1の充電を行う。それから、充電がなされたリチウムイオン二次電池1に対し、1回目の放電を行わせる初回放電工程(放電工程の一例)を実行する(ステップ90)。なお、このとき、上記正の電極端子および負の電極端子を介して、リチウムイオン二次電池1の放電を行うことができる。これら初回充電と初回放電とにより、保持層50の多孔質化すなわち多孔質部51および多数の空孔52の形成が行われ、
図1に示すリチウムイオン二次電池1が得られる。なお、初回充放電動作による保持層50の多孔質化の詳細については後述する。
【0040】
[成膜後且つ初回充電前のリチウムイオン二次電池の構成]
図3は、本実施の形態の成膜後且つ初回充電前のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。
図3は、
図2に示すステップ70までが完了した状態を示している。なお、
図1は、上述したように、
図2に示すステップ90(全工程)が完了した状態を示している。
【0041】
図3に示すリチウムイオン二次電池1の基本構成は、
図1に示すものと同じである。ただし、
図3に示すリチウムイオン二次電池1は、保持層50が多孔質化されておらず、
図1に示すものよりも緻密になっている点が異なる。また、
図3に示すリチウムイオン二次電池1は、保持層50の厚さが、
図1に示すものよりも薄くなっている点が異なる。ここで、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1では、
図3に示す、正極層30、固体電解質層40および保持層50が、積層体の一例としての機能を有している。
【0042】
[保持層の多孔質化]
では、上述した保持層50の多孔質化について、より詳細な説明を行う。
図4は、保持層50を多孔質化する手順を説明するための図であり、保持層50およびその周辺を拡大して示した図である。ここで、
図4(a)は成膜後且つ初回充電前(ステップ70の後)の状態を、
図4(b)は初回充電後且つ初回放電前(ステップ80とステップ90との間)の状態を、
図4(c)は初回放電後(ステップ90の後)の状態を、それぞれ示している。したがって、
図4(a)は
図3に、
図4(c)は
図1に、それぞれ対応している。ここで、
図4(a)に示す多孔質化前の保持層50は、貴金属層の一例である。
【0043】
(成膜後且つ初回充電前)
まず、
図4(a)に示す「成膜後且つ初回充電前」の状態では、保持層50が緻密化している。また、保持層50の厚さは保持層厚さt50であり、被覆層60の厚さは被覆層厚さt60であり、負極集電体層70の厚さは負極集電体層厚さt70である。
【0044】
(初回充電後且つ初回放電前)
図4(a)に示すリチウムイオン二次電池1を充電(初回充電)する場合、基板10(
図1参照)には直流電源の正の電極が、負極集電体層70には直流電源の負の電極が、それぞれ接続される。すると、
図4(b)に示すように、正極層30で正極活物質を構成するリチウムイオン(Li
+)が、固体電解質層40を介して保持層50へと移動する。すなわち、充電動作において、リチウムイオンはリチウムイオン二次電池1の厚さ方向(
図4(b)において上方向)に移動する。
【0045】
このとき、正極層30側から保持層50側に移動してきたリチウムイオンは、保持層50を構成する貴金属と合金化する。例えば保持層50を白金(Pt)で構成した場合、保持層50では、リチウムと白金とが合金化(固溶体化、金属間化合物の形成あるいは共晶化)する。
【0046】
また、保持層50内に入り込んできたリチウムイオンの一部は、保持層50を通過して被覆層60との境界部に到達する。ここで、本実施の形態の被覆層60は、非晶質構造を有する、金属または合金で構成されており、多結晶構造を有する保持層50と比べて、粒界の数が著しく少なくなっている。このため、保持層50と被覆層60との境界部に到達したリチウムイオンは、被覆層60に入り込みにくくなることから、保持層50内に保持された状態を維持する。
【0047】
そして、初回充電動作が終了した状態において、正極層30から保持層50に移動したリチウムイオンは、保持層50に保持される。このとき、保持層50に移動してきたリチウムイオンは、白金との合金化あるいは白金内での金属リチウムの析出化等によって、保持層50に保持されるものと考えられる。
【0048】
ここで、
図4(b)に示すように、初回充電後且つ初回放電前のリチウムイオン二次電池1では、保持層厚さt50が、
図4(a)に示す成膜後且つ初回充電前の状態よりも増加する。すなわち、保持層50の体積は、初回充電によって増加する。これは、保持層50において、リチウムと白金とが合金化することに起因しているものと考えられる。これに対し、被覆層厚さt60は、初回充電の前後でほぼ変わらない。すなわち、被覆層60の体積は、初回充電によってほぼ変わらない。これは、被覆層60に、リチウムが入り込みにくいことに起因するものと考えられる。そして、このことは、負極集電体層厚さt70が、初回充電の前後でほぼ変わらないこと、すなわち、負極集電体層70の体積が、初回充電の前後でほぼ変わらないこと(負極集電体層70を構成する白金が、保持層50を構成する白金のように多孔質化しておらず、緻密なままであること)によって裏付けられるものと考えられる。
【0049】
(初回放電後)
図4(b)に示すリチウムイオン二次電池1を放電(初回放電)する場合、基板10(
図1参照)には負荷の正の電極が、負極集電体層70には負荷の負の電極が、それぞれ接続される。すると、
図4(c)に示すように、保持層50に保持されるリチウムイオン(Li
+)が、固体電解質層40を介して正極層30へと移動する。すなわち、放電動作において、リチウムイオンはリチウムイオン二次電池1の厚さ方向(
図4(c)において下方向)へと移動し、正極層30に保持される。これに伴って、負荷には直流電流が供給される。
【0050】
このとき、保持層50では、リチウムが離脱することに伴い、リチウムと白金との合金の脱合金化(金属リチウムが析出した場合は金属リチウムの溶解化)が行われる。そして、保持層50で脱合金化が行われた結果、保持層50が多孔質化され、多数の空孔52が形成された多孔質部51となる。このようにして得られる多孔質部51は、ほぼ貴金属(例えば白金)で構成されることになる。ただし、初回放電が終了した状態において、保持層50の内部でリチウムは消失するわけではなく、放電動作による移動を行わない一部のリチウムが残存する。
【0051】
ここで、
図4(c)に示すように、初回放電後のリチウムイオン二次電池1では、保持層厚さt50が、
図4(b)に示す初回充電後且つ初回放電前の状態よりも減少する。これは、保持層50において、リチウムと白金との合金の脱合金化が行われることに起因するものと考えられる。そして、このことは、初回放電によって保持層50内に形成される空孔52の形状が、面方向に比べて厚さ方向が小さくなるように扁平化していることによって裏付けられる。また、
図4(c)に示すように、初回放電後のリチウムイオン二次電池1では、保持層厚さt50が、
図4(a)に示す成膜後且つ初回充電前の状態よりも増加する。これは、初回充電および初回放電によって保持層50が多孔質化されること、すなわち、保持層50内に多数の空孔52が形成されることに起因するものと考えられる。なお、これに対し、被覆層厚さt60および負極集電体層厚さt70は、初回放電の前後でもほぼ変わらない。
【0052】
[本実施の形態のリチウムイオン二次電池の構成例]
図5は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1の断面STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)写真であり、(a)は成膜後且つ初回充電前の状態を、(b)は初回放電後の状態を、それぞれ示している。このSTEM写真は、日立ハイテクノロジーズ社製HD-2300型超薄膜評価装置を用いて撮影したものである。ここで、
図5(a)は上述した
図4(a)(および
図3)に、
図5(b)は上述した
図4(c)(および
図1)に、それぞれ対応している。
【0053】
図5(a)に示すリチウムイオン二次電池1の具体的な構成および製造方法は、以下に示す通りである。
【0054】
基板10(
図5では省略)には、ステンレス(SUS304)を用いた。基板10の厚さは30μmとした。
【0055】
正極集電体層20(
図5では省略)には、スパッタ法で形成したアルミニウム(Al)を用いた。正極集電体層20の厚さは100nmとした。
【0056】
正極層30(
図5では省略)には、スパッタ法で形成したマンガン酸リチウム(Li
1.5Mn
2O
4)を用いた。正極層30の厚さは1000nmとした。
【0057】
固体電解質層40には、スパッタ法で形成したLiPON(リン酸リチウム(Li3PO4)の酸素の一部を窒素に置き換えたもの)を用いた。固体電解質層40の厚さは1000nmとした。
【0058】
保持層50には、スパッタ法で形成した白金(Pt)を用いた。保持層50の厚さは410nm(成膜後且つ初回充電前)とした。
【0059】
被覆層60には、スパッタ法で形成したクロムチタン合金(CrTi)を用いた。被覆層60の厚さは50nmとした。
【0060】
負極集電体層70には、スパッタ法で形成した白金(Pt)を用いた。負極集電体層70の厚さは100nmとした。
【0061】
このようにして得られた、成膜後且つ初回充電前のリチウムイオン二次電池1(
図3参照)に対し、電子線回折による結晶構造の解析を行ったところ、次の通りであった。
【0062】
SUS304からなる基板10、アルミニウムからなる正極集電体層20、白金からなる保持層50および負極集電体層70は、それぞれ結晶化していた。これに対し、マンガン酸リチウムからなる正極層30、LiPONからなる固体電解質層40、そして、クロムチタン合金からなる被覆層60は、それぞれ非晶質化していた。ただし、正極層30、固体電解質層40および被覆層60はそれぞれ、電子線回折で微かにリングが観られ、非晶質構造中に微結晶が存在していることがわかった。
【0063】
このようにして得られたリチウムイオン二次電池1に対し、初回充電および初回放電を行った。
・初回充電条件
電流 1C
終了電圧 4.0Vもしくは2時間
・初回放電条件
電流 1C
終了電圧 2.0V
【0064】
では、
図5に示すSTEM写真について説明を行う。
まず、
図5(a)では、保持層50がほぼ一様に白くなっているのに対し、
図5(b)では、白地に複数の灰色の斑点が存在していることがわかる。また、
図5(b)では、保持層50のうち、被覆層60との境界部側に、面方向に比べて厚さ方向が小さくなるように扁平化するとともに、他の灰色の斑点に比べて相対的に巨大な灰色の部位が存在していることもわかる。ここで、
図5(b)では、白地になっている部位が多孔質部51に、灰色になっている部位が空孔52に、それぞれ対応しているものと考えられる。なお、
図5(b)では、
図5(a)に比べて、保持層50がより厚くなっていることもわかる。なお、
図5(b)に示す保持層50の厚さは、610nm(初回放電後)となっていた。
【0065】
また、
図5(a)および
図5(b)の両者において、被覆層60および負極集電体層70は、それぞれの濃淡に関しほとんど変化がないことがわかる。さらに、
図5(a)および
図5(b)の両者において、被覆層60および負極集電体層70は、それぞれの厚さに関しほとんど変化がないこともわかる。
【0066】
[比較の形態のリチウムイオン二次電池の構成例]
本発明者は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1との対比を行うため、層構成が異なるリチウムイオン二次電池(以下では、「比較の形態のリチウムイオン二次電池」と称する)を作製した。
【0067】
ここで、表1は、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1および比較の形態のリチウムイオン二次電池の、各層の構成材料を示している。
【0068】
【0069】
比較の形態のリチウムイオン二次電池の具体的な構成および製造方法は、以下に示す通りである。
【0070】
基板10には、ステンレス(SUS304)を用いた。基板10の厚さは30μmとした。
【0071】
正極集電体層20には、スパッタ法で形成したチタン(Ti)を用いた。正極集電体層20の厚さは300nmとした。
【0072】
正極層30(
図5では省略)には、スパッタ法で形成したマンガン酸リチウム(Li
1.5Mn
2O
4)を用いた。正極層30の厚さは550nmとした。
【0073】
固体電解質層40には、スパッタ法で形成したLiPON(リン酸リチウム(Li3PO4)の酸素の一部を窒素に置き換えたもの)を用いた。固体電解質層40の厚さは550nmとした。
【0074】
負極集電体層70は、第1負極集電体層71および第2負極集電体層72の2層構造とした。第1負極集電体層71には、スパッタ法で形成した銅(Cu)を用い、厚さは450nm(成膜後且つ初回充電前)とした。また、第2負極集電体層72には、スパッタ法で形成したチタン(Ti)を用い、厚さは1000nmとした。なお、保持層50および被覆層60は設けなかった。
【0075】
このようにして得られたリチウムイオン二次電池に対し、上述した初回充電条件および初回放電条件にて、初回充電および初回放電を行った。
【0076】
図10は、比較の形態の初回放電後のリチウムイオン二次電池の断面STEM写真である。このSTEM写真も、日立ハイテクノロジーズ社製HD-2300型超薄膜評価装置を用いて撮影したものである。
【0077】
図10より、比較の形態のリチウムイオン二次電池では、初回放電後に、固体電解質層40と銅からなる第1負極集電体層71との境界部に、これらの界面に沿って隙間(クラック)が形成されていることがわかる。また、比較の形態のリチウムイオン二次電池では、初回放電後の第1負極集電体層71の濃度がほぼ一様となっており、多孔質化されていない(空孔が形成されていない)こともわかる。なお、比較の形態のリチウムイオン二次電池の場合、初回充放電の前後で、第1負極集電体層71の厚さの変化はほとんど生じなかった。
【0078】
比較の形態のリチウムイオン二次電池で、固体電解質層40と銅からなる第1負極集電体層71との境界部に隙間(クラック)が形成された理由としては、次のことが考えられる。
【0079】
比較の形態のリチウムイオン二次電池を充電する場合、正極層30から固体電解質層40を介して第1負極集電体層71側に移動してきたリチウムイオンは、第1負極集電体層71の内部には移動せず、固体電解質層40と第1負極集電体層71との境界部に析出し、負極層(あるいはリチウム過剰層)を形成する。したがって、比較の形態のリチウムイオン二次電池の場合、正極層30側から第1負極集電体層71側に移動してきたリチウムイオンは、第1負極集電体層71を構成する銅とは、ほとんど合金化しないものと考えられる。
【0080】
充電状態にある比較の形態のリチウムイオン二次電池を放電する場合、固体電解質層40と第1負極集電体層71との境界部に形成された負極層に存在するリチウムイオンが、固体電解質層40を介して正極層30へと移動する。そして、放電に伴って多くのリチウムイオンが負極層から離脱し、負極層がほぼ消失した状態となったとき、固体電解質層40と銅からなる第1負極集電体層71とは、再度密着することができなくなる。その結果、比較の形態の放電後のリチウムイオン二次電池では、固体電解質層40と第1負極集電体層71との境界部に、隙間(クラック)が形成されたものと考えられる。
【0081】
このように、比較の形態のリチウムイオン二次電池では、貴金属ではない銅からなる第1負極集電体層71が、実際には、リチウムイオンを保持し、かつ第1負極集電体層71と固体電解質層40との密着性を維持する機能をほぼ有していないことになる。このことは、
図10に示す、比較の形態のリチウムイオン二次電池において、銅からなる第1負極集電体層71が、初回放電後に多孔質化されていないことによって裏付けられるものと考えられる。
【0082】
[まとめ]
以上説明したように、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1では、固体電解質層40上に、多孔質化した白金で構成された保持層50を設けた。これにより、固体電解質層40と負極集電体層70との間に、例えばリチウムで構成された負極層を設ける場合と比較して、充電によるリチウムの析出に伴う、リチウムイオン二次電池1内での剥離を抑制することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、固体電解質層40を挟んで正極層30と対向して配置される保持層50に、非晶質構造を有するクロムチタン合金で構成される被覆層60を積層した。これにより、保持層50に、例えば多結晶構造を有する被覆層60を積層した場合と比較して、充電動作に伴って正極層30から保持層50に移動してきたリチウムの、被覆層60を介した外部への漏出を抑制することができる。
【0084】
さらに、本実施の形態では、被覆層60上に、白金で構成された負極集電体層70を設けた。これにより、被覆層60上に、貴金属以外で構成された負極集電体層70を設ける場合と比較して、被覆層60を構成する金属(ここでクロムおよびチタン)の、酸化等による腐食(劣化)を抑制することができる。
【0085】
さらにまた、本実施の形態では、固体電解質層40を構成する無機固体電解質として、リン酸塩(PO4
3-)を含むLiPONを用いているが、白金等からなる多孔質貴金属層を保持層50とすることで、保持層50がリン酸塩によって腐食するのを抑制することができる。
【0086】
なお、ここでは詳細な説明を行わないが、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)または金(Au)あるいはこれらの合金で保持層50を構成した場合は、白金(Pt)単体で保持層50を構成した場合と同じく、充放電によって保持層50の多孔質化を図ることができ、保持層50にリチウムを保持させることが可能となる。
【0087】
また、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池1の製造において、所謂成膜プロセスによって基本的な構造を形成した後、初回の充放電動作によってその構造を完成させるようにした。より具体的に説明すると、スパッタ等の成膜プロセスによって緻密な保持層50を形成した後、初回充電動作および初回放電動作によって保持層50を多孔質化するようにした。これにより、例えば別プロセスによって保持層50を多孔質化する場合と比較して、リチウムイオン二次電池の製造プロセスを簡易なものとすることができる。
【0088】
さらに、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1では、固体電解質層40を挟んで配置される正極層30および保持層50の平面の大きさを、正極層30<保持層50とした。これにより、リチウムイオンが正極層30から保持層50側へと移動する際の、横方向(面方向)への移動が抑制される。その結果、リチウムイオン二次電池1の側面側からのリチウムイオンの外部への漏出を抑制することができる。
【0089】
[変形例]
なお、本実施の形態のリチウムイオン二次電池1では、基板10と固体電解質層40とを用いて、正極集電体層20および正極層30を覆い、且つ、固体電解質層40と被覆層60および負極集電体層70とを用いて、保持層50を覆う構成を採用していたが、これに限られるものではない。
【0090】
(第1の変形例)
図6は、第1の変形例のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。ここで、
図6は、初回放電後すなわちリチウムイオン二次電池1の構造が完成した状態(
図1に対応)を示している。
【0091】
この第1の変形例では、
図6の上方からみたときの正極集電体層20および正極層30の平面の大きさが、固体電解質層40の平面の大きさとほぼ同じとなっている点が、上記本実施の形態とは異なる。ただし、第1の変形例においても、本実施の形態と同じ手順(
図2参照)にて、緻密な保持層50を含むリチウムイオン二次電池1を製造した後、成膜後の初回の充放電動作を行うことによって、保持層50を多孔質化したリチウムイオン二次電池1(
図6参照)を得ることができる。
【0092】
(第2の変形例)
図7は、第2の変形例のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。ここで、
図7は、初回放電後すなわちリチウムイオン二次電池1の構造が完成した状態(
図1に対応)を示している。
【0093】
この第2の変形例では、
図7の上方からみたときの被覆層60の平面の大きさが、保持層50の平面の大きさと同じとなっており、且つ、
図7の上方からみたときの負極集電体層70の大きさが、被覆層60の平面の大きさと同じとなっている点が、上記本実施の形態とは異なる。ただし、第2の変形例においても、本実施の形態と同じ手順(
図2参照)にて、緻密な保持層50を含むリチウムイオン二次電池1を製造した後、成膜後の初回の充放電動作を行うことによって、保持層50を多孔質化したリチウムイオン二次電池1(
図7参照)を得ることができる。
【0094】
(第3の変形例)
図8は、第3の変形例のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。ここで、
図8は、初回放電後すなわちリチウムイオン二次電池1の構造が完成した状態(
図1に対応)を示している。
【0095】
この第3の変形例では、
図8の上方からみたときの被覆層60の平面の大きさが、保持層50の平面の大きさと同じとなっており、且つ、
図8の上方からみたときの負極集電体層70の大きさが、被覆層60の平面の大きさと同じとなっている点が、上記第1の変形例とは異なる。ただし、第3の変形例においても、本実施の形態と同じ手順(
図2参照)にて、緻密な保持層50を含むリチウムイオン二次電池1を製造した後、成膜後の初回の充放電動作を行うことによって、保持層50を多孔質化したリチウムイオン二次電池1(
図8参照)を得ることができる。
【0096】
(第4の変形例)
図9は、第4の変形例のリチウムイオン二次電池1の断面構成を示す図である。ここで、
図9は、初回放電後すなわちリチウムイオン二次電池1の構造が完成した状態(
図1に対応)を示している。
【0097】
この第4の変形例では、
図9の上方からみたときの保持層50の平面の大きさが、固体電解質層40の平面の大きさと同じとなっている点が、上記第3の変形例とは異なる。ただし、第4の変形例においても、本実施の形態と同じ手順(
図2参照)にて、緻密な保持層50を含むリチウムイオン二次電池1を製造した後、成膜後の初回の充放電動作を行うことによって、保持層50を多孔質化したリチウムイオン二次電池1(
図9参照)を得ることができる。
【0098】
[その他]
なお、本実施の形態では、保持層50および負極集電体層70を、同じ貴金属(Pt)で構成していたが、これに限られるものではなく、別の貴金属で構成してもよい。
【0099】
また、本実施の形態では、基板10上に、正極集電体層20、正極層30、固体電解質層40、保持層50、被覆層60および負極集電体層70の順に積層を行うことで、リチウムイオン二次電池1の基本構成を形成していた。すなわち、基板10に近い側に正極層30を配置し、基板10から遠い側に保持層50を配置する構成を採用していた。ただし、これに限られるものではなく、基板10に近い側に保持層50を配置し、基板10から遠い側に正極層30を配置する構成を採用してもかまわない。ただし、この場合は、基板10に対する各層の積層順が、上述したものとは逆になる。
【符号の説明】
【0100】
1…リチウムイオン二次電池、10…基板、20…正極集電体層、30…正極層、40…固体電解質層、50…保持層、51…多孔質部、52…空孔、60…被覆層、70…負極集電体層