(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20220307BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220307BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220307BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220307BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220307BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C01B25/45 M
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/08
(21)【出願番号】P 2021546358
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048785
(87)【国際公開番号】W WO2021132581
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2019238566
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】清 良輔
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/024724(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183661(WO,A1)
【文献】特表2005-519451(JP,A)
【文献】特開2012-234778(JP,A)
【文献】特開2012-022791(JP,A)
【文献】特開2012-226916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00-25/46
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01M 10/36-10/39
H01B 1/00-1/24
C04B 35/52-35/536
C04B 35/00-35/457
C01B 33/00-33/193
C04B 33/20ー39/54
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含み、
固体
31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを有し、かつ、
固体
29Si-NMRスペクトルにおいて、-80.0ppm~-100.0ppmの領域にピークを有し、
下記式(1)または(3)で表され、
LiTa
2
P
1-y
M
y
O
8
…式(1)
Li
1+x
Ta
2
P
1-y
M
y
O
8
…式(3)
上記式(1)および(3)において、元素Mは、Siを必須として含み、Si単独か、SiとともにSi以外の14族の元素とAlとからなる群から選ばれる元素を含み、元素M中のSi含有量は、原子数の百分率で50%以上であり、
yは元素Mの含有量であり、yは0より大きく0.7未満であり、
xは、Pを元素Mで置き換えることに伴う電荷バランスにより生じる増減量を示し、
X線回折測定法により求められる、単斜晶の結晶構造含有率が、70%以上であることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項2】
前記固体
31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域に、ピークを1つのみ有する、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質。
【請求項4】
請求項1
または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物からなる焼結体。
【請求項5】
請求項1
または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む電極材または電極。
【請求項6】
請求項1
または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物、それを用いた固体電解質、焼結体、電極材または電極ならびに全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、タブレット端末、携帯電話、スマートフォン、および電気自動車(EV)等の電源として、高出力かつ高容量の電池の開発が求められている。その中でも有機溶媒などの液体電解質に替えて、固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池が、充放電効率、充電速度、安全性、および生産性に優れるものとして期待されている。
【0003】
リチウムイオンを伝導する固体電解質としては、硫化物系の固体電解質も知られているが、安全性の観点からは酸化物系の固体電解質が好ましい。酸化物系の固体電解質としては、例えば、特許文献1において、リチウムを含み基本構成をSrZrO3とするペロブスカイト型イオン伝導性酸化物が開示されている。また、非特許文献1においては、単斜晶の結晶構造を有するLiTa2PO8が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示のイオン伝導性酸化物は、SrサイトやZrサイトが他の元素により置換された基本組成を有することにより、粒界部での電気伝導度を向上させているものの、まだ十分ではなく、結晶粒界におけるリチウムイオン伝導性が高く、かつ、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度の向上が望まれていた。また、非特許文献1で開示されているLiTa2PO8のトータルのリチウムイオン伝導度は2.48×10-4(S/cm)と、例えば特許文献1開示のペロブスカイト型化合物よりも低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-169145号公報
【文献】特開2018-49834号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Kim et al., J. Mater. Chem. A, 2018, 6, p22478-22482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イオン伝導性に優れた固体電解質を提供し得る、リチウムイオン伝導性酸化物、それを用いた固体電解質、焼結体、電極材または電極ならびに全固体電池を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記の状況に鑑みて鋭意研究した結果、リチウム、タンタル、リン、ケイ素を含む酸化物であって、特定の核磁気共鳴(NMR)スペクトルピークを示す酸化物が、高いリチウムイオン伝導度を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
なお、上記の特許文献1および非特許文献1に記載の従来の技術においては、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として有するリチウムイオン伝導性酸化物において、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度を向上させる記載や示唆はない。また、特許文献2には、特定のNMRスペクトルピークを有する固体電解質が開示されているものの、本願発明に係る構成を教示するものではない。
【0010】
本発明は、次の〔1〕~〔7〕の事項に関する。
〔1〕少なくとも、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含み、
固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを有し、かつ、
固体29Si-NMRスペクトルにおいて、-80.0ppm~-100.0ppmの領域にピークを有することを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
〔2〕前記固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域に、ピークを1つのみ有する、〔1〕に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
〔3〕X線回折測定法により求められる、単斜晶の結晶構造含有率が、70%以上である、〔1〕または〔2〕に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質。
〔5〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物からなる焼結体。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む電極材または電極。
〔7〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を含む全固体電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性の高い酸化物系の固体電解質として用いることができ、固体電解質として用いたときに優れたイオン伝導性を示すリチウムイオン伝導性酸化物、それを用いた固体電解質、焼結体、電極材または電極ならびに全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例および比較例で得たリチウムイオン伝導性酸化物の、固体
31P-NMRスペクトル測定結果を示す。
【
図2】
図2は、実施例および比較例で得たリチウムイオン伝導性酸化物の、固体
29Si-NMRスペクトル測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<リチウムイオン伝導性酸化物>
(構成元素)
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、構成元素として、少なくとも、リチウム(Li)、タンタル(Ta)、リン(P)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含む。
【0014】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、LiTa2PO8のPの一部がSiを含む元素Mで置換されたものを基本構成とする。ここで元素Mは、Siを必須として含み、Si以外の14族の元素(ただし炭素を除く)とAlとからなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものであり、好ましくは実質的にSiのみである。すなわち本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、LiTa2PO8のPの一部がSiで置換されたものを基本構成とする。
【0015】
元素MがSiのみである場合、伝導性酸化物のリチウム、タンタル、リン、ケイ素、酸素の原子数の比(Li:Ta:P:Si:O)は、1:2:(1-y):y:8であり、好ましくは、前記yは0より大きく0.7未満である。
【0016】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、リチウムを含有する特定の酸化物からなるリチウムイオン伝導性酸化物ともいえる。ただ、このことは、リチウムイオン伝導性酸化物における不純物の存在を厳密に排除するものでなく、原料および/または製造過程などに起因する不可避不純物、その他、リチウムイオン伝導性を劣化させない範囲内において他の結晶系を有する不純物が本発明のリチウムイオン伝導性酸化物に含まれることは差し支えない。
【0017】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物を構成する元素の原子数の比は、例えば、LiCoO2等のリチウム含有遷移金属酸化物として、Mn、Co、Niが1:1:1の割合で含有されている標準粉末試料を用いて、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)により絶対強度定量法を用いて求めることができる。
【0018】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、下記式(1)で表すことができる。
LiTa2P1-yMyO8 …式(1)
上記式(1)において、元素Mは、上述のように、Siを必須として含み、Si以外の14族の元素とAlとからなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものであり、好ましくは実質的にSiのみである。Si以外の14族元素としてはGeが挙げられる。
【0019】
上記式(1)においてyで表される、Siを含む元素Mの含有量は、0より大きく0.7未満である。この含有量の範囲は、リンと元素Mの元素の合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率で表すと、0.0より大きく70.0未満である。上記式(1)のyで表すとき、元素M含有量の下限は、好ましくは0.01であり、より好ましくは0.02であり、さらに好ましくは0.03である。元素M含有量の上限は、好ましくは0.65であり、より好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.55である。また、元素M中のSi含有量は、原子数の百分率で表すと、1以上、好ましくは50以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは90以上、最も好ましくは100である。
【0020】
上記において元素MがSiのみである場合の、本発明のより好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、下記式(2)で表すことができる。
LiTa2P1-ySiyO8 …式(2)
リチウムイオン伝導性酸化物中における元素Mの含有量が上記の範囲であると、後述する結晶粒内と粒子界面(結晶粒界)のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度が高い。元素M含有量は、リンと元素Mとの合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率として、従来公知の定量分析により求めることができる。例えば、試料に酸を加えて熱分解後、熱分解物を定容し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて求めることができる。後述するリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法において、リンと元素Mは系外に流出しないので、元素Mのドープ量として、リンと元素Mとの合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率としては、簡易的に原材料の仕込み量から算出することができる。
【0021】
上述の通り、元素Mは、Siを含み、Si以外の14族の元素(ただし炭素を除く)とAlとからなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものである。元素Mに含まれてもよいSi以外の元素としては、GeおよびAlが挙げられ、これらのうちではAlが好ましい。元素Mは、好ましくは実質的にSiのみである。元素MがSiのみである場合には、特に結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度が大きくなるため好ましい。
【0022】
リチウムイオン伝導性酸化物の構成元素の価数に着目したとき、ドープされる元素Mはリンと価数が異なるので、電化中性のバランスをとるため、リチウムイオン伝導性酸化物に含有されるリチウムが増減することが考えられる。例えば、Pを元素Mで置き換えることに伴う電荷バランスにより生じる増減量をxで表すと、リチウムイオン伝導性酸化物は、下記式(3)で表すことができる。
【0023】
Li1+xTa2P1-yMyO8 …式(3)
ここで本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは元素MがすべてSiであり、下記式(4)で表すことができる。
【0024】
Li1+xTa2P1-ySiyO8 …式(4)
(単斜晶の含有率)
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、X線回折(XRD)測定において確認される単斜晶の結晶構造含有率(以下、単に単斜晶の含有率ともいう)が、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。単斜晶の結晶構造含有率は、実施例において後述する、リートベルト解析を用いた方法で求めることができる。単斜晶の含有率が上述した範囲であると、トータルでのリチウムイオン伝導度が大きくなる傾向がある。
【0025】
(その他の結晶構造)
リチウムイオン伝導性酸化物は、後述する製造方法において焼成が不十分な場合、原材料が残存すると、X線回折測定において原材料に由来する回折ピークが確認される場合がある。原材料として用いる、炭酸リチウム(Li2CO3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、二酸化ケイ素(SiO2)などの元素Mの酸化物、およびリン酸一水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)の存在は、X線回折測定により確認することができる。これらの原材料化合物はリチウムイオン伝導性を有しないので含まないことが好ましい。また、焼成が不十分な場合に、副生成物の存在がX線回折測定において副生成物に由来する回折ピークとして確認される場合がある。具体的には、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、Li3PO4、TaPO5、Ta2O5などが観測される場合があるが、これらの副生成物等はリチウムイオン伝導性が小さいため含まないことが好ましい。
【0026】
(核磁気共鳴(NMR)スペクトル)
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを有し、かつ、固体29Si-NMRスペクトルにおいて、-80.0ppm~-100.0ppmの領域にピークを有する。このような特徴を有するリチウムイオン伝導性酸化物は、高いリチウムイオン伝導度を示す。
【0027】
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを1つのみ有する。固体31P-NMRスペクトルにおける-20.0ppm~0.0ppmの領域のピークを、複数ではなく1つのみ有することは、リチウムイオン伝導性酸化物が十分量のSi原子を含むことを示すため好ましい。
【0028】
リチウムイオン伝導性酸化物が、固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを有するということは、リチウムイオン伝導性酸化物にP-O-Ta結合が存在することを示す。また、リチウムイオン伝導性酸化物が、固体29Si-NMRスペクトルにおいて、-80.0ppm~-100.0ppmの領域にピークを有するということは、リチウムイオン伝導性酸化物にSi-O-Ta結合が存在することを示す。すなわち、上記2つのピークを有することは、リチウムイオン伝導性酸化物が高いイオン伝導性を有する結晶構造を持つことを意味する。
【0029】
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、固体31P-NMRスペクトルにおいて、-20.0ppm~0.0ppmの領域以外にピークを有さないか、または、-20.0ppm~0.0ppmの領域以外にピークを有したとしても、-20.0ppm~0.0ppmの範囲内のピークに対する強度比が0.5以下である。また、本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、固体29Si-NMRスペクトルにおいて、-80.0ppm~-100.0ppmの領域以外にピークを有さないか、または、-80.0ppm~-100.0ppmの領域以外にピークを有したとしても、-80.0ppm~-100.0ppmの範囲内のピークに対する強度比が0.5以下である。
【0030】
(トータルでのリチウムイオン伝導度)
リチウムイオン伝導性酸化物のトータルでのリチウムイオン伝導度は、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度であり、例えば、後述する実施例において記載するイオン伝導度評価のインピーダンス測定で求めることができる。リチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、25℃において測定されるトータルでのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.50×10-4(S/cm)以上である。トータルでのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)の下限は、より好ましくは1.55×10-4(S/cm)であり、さらに好ましくは2.00×10-4(S/cm)であり、さらに好ましくは2.50×10-4(S/cm)である。上述した本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、特に用途に制限があるわけではないが、特にリチウムイオン二次電池用の固体電解質として好適に用いることができる。
【0031】
(結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度)
リチウムイオン伝導性酸化物の結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度は、例えば、前述したトータルでのリチウムイオン伝導度と同様に、インピーダンス測定で求めることができる。リチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、25℃において測定される結晶粒界でのリチウムイオン伝導度σgb(25℃)が3.00×10-4(S/cm)以上である。結晶粒界でのリチウムイオン伝導度σgb(25℃)の下限は、より好ましくは3.50×10-4(S/cm)であり、さらに好ましくは4.00×10-4(S/cm)である。上述した本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、特に用途に制限があるわけではないが、特にリチウムイオン二次電池用の固体電解質として好適に用いることができる。
【0032】
(結晶粒のメジアン径)
リチウムイオン伝導性酸化物が含む結晶粒のメジアン径は、好ましくは結晶粒径の算術平均が6.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。リチウムイオン伝導性酸化物が含む結晶粒のメジアン径は、後述する方法で作製したリチウムイオン伝導性酸化物のペレットに対して、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて1000倍以上の倍率で透過画像を得、任意の100μm四方の領域において少なくとも100個の結晶粒の粒径を計測して求める。結晶粒は完全な球形ではないので、最長径を結晶粒の粒径とする。本明細書においては、結晶粒の最長径とは、以下のようにして求められる結晶粒の輪郭を構成する多角形が有する最長の対角線の長さを意味する。
【0033】
リチウムイオン伝導性酸化物の透過画像において、結晶粒の輪郭は視野平面において凸多角形として観測される。凸多角形が有する複数の長さの対角線のうち最長の対角線の長さを結晶粒の最長径とする。
【0034】
なお、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含む結晶粒と、他の結晶粒との区別は、TEM装置に付属するエネルギー分散型X線分光(EDX)分析装置を用いて、結晶粒が含有する元素の違いから確認することもできる。
【0035】
<リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法>
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、上記の構成の範囲内のリチウムイオン伝導性酸化物が得られる限り特に限定されない。製造方法としては、例えば、固相反応、液相反応等が採用可能である。以下、固相反応による製造方法について詳細に説明する。
【0036】
固相反応による製造方法は、少なくともそれぞれ1段階の混合工程と焼成工程を有する製造方法が挙げられる。
【0037】
・混合工程
混合工程では、リチウム原子、タンタル原子、ケイ素原子を含む元素Mを、それぞれ含む化合物およびリン酸塩を混合する。
【0038】
リチウム原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、リチウム原子を含有する無機化合物としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化リチウム(Li2O)などのリチウム化合物を挙げることができる。これらのリチウム化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。分解、反応させやすいことから炭酸リチウム(Li2CO3)を用いることが好ましい。
【0039】
タンタル原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、五酸化タンタル(Ta2O5)、硝酸タンタル(Ta(NO3)5)などのタンタル化合物を挙げることができる。これらのタンタル化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。コストの点から五酸化タンタル(Ta2O5)を用いることが好ましい。
【0040】
ケイ素原子を含む元素Mを含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、元素Mの単体、または酸化物を挙げることができる。これらの物質は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。これらのうちでは、扱いやすさの点から酸化物を用いることが好ましい。具体的には、元素Mがケイ素原子のみである場合には、二酸化ケイ素(SiO2)を用いることができる。また、元素Mがケイ素原子に加えて、GeあるいはAlを含む場合には、酸化ゲルマニウム(GeO2)あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を二酸化ケイ素(SiO2)とともに用いることができる。
【0041】
リン酸塩としては、特に限定はされないが、分解、反応させやすいことからリン酸一水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、リン酸二水素一アンモニウム(NH4H2PO4)などのリン酸塩を挙げることができる。これらのリン酸塩は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。
【0042】
上述した原材料の混合方法としては、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェットミルなどの方法を用いることができる。混合する原材料の比率は、簡便には、上述した式(1)の組成となるよう化学量論比で混合する。より具体的には、後述する焼成工程において、リチウム原子が系外へ流出しやすいので、上述したリチウム原子を含有する化合物を1~2割程度過剰に加えて調節されてもよい。
【0043】
混合雰囲気は、大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
・焼成工程
焼成工程では、混合工程で得た混合物を焼成する。焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とするように複数回行う場合には、焼成工程間に、一次焼成物を解砕し、または小粒径化することを目的として、ボールミルや乳鉢を用いた解砕工程を設けてもよい。
【0044】
焼成工程は大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
焼成温度としては、800~1200℃の範囲が好ましく、950~1100℃の範囲がより好ましく、950~1000℃の範囲がさらに好ましい。800℃以上で焼成するとケイ素を含む元素Mの固溶が十分に行われてイオン伝導度が向上し、1200℃以下にすると、リチウム原子が系外へ流出しにくく好ましい。焼成時間は、30分~16時間が好ましく、3~12時間が好ましい。焼成時間が前述の範囲であると、結晶粒内と結晶粒界との両方において、バランスよくイオン伝導度が大きくなりやすく好ましい。焼成時間が前述の範囲より長いと、リチウム原子が系外へ流出しやすい。焼成の時間と温度は互いに合わせて調整される。
【0045】
焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とする場合、低温での仮焼成は、400~800℃で、30分~12時間行ってもよい。
また、副生成物等の残存を抑えるために、高温焼成を2回行ってもよい。2回目の焼成工程では、焼成温度としては、800~1200℃の範囲が好ましく、950~1100℃の範囲がより好ましく、950~1000℃の範囲がさらに好ましい。各焼成工程の焼成時間は30分~8時間が好ましく、2~6時間が好ましい。
【0046】
焼成後に得られる焼成物は、大気中に放置すると、吸湿したり二酸化炭素と反応したりして変質することがある。焼成後に得られる焼成物は、焼成後の降温において200℃より下がったところで除湿した不活性ガス雰囲気下に移して保管することが好ましい。
【0047】
このようにして本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物を得ることができる。
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物は、優れたリチウムイオン伝導性を示し、そのままで、あるいは賦形・焼結した焼結体として、固体電解質として好適に使用することができ、全固体電池の固体電解質として、特にリチウムイオン二次電池の固体電解質として好適に使用することができる。本発明に係る全固体電池は、上述した本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質を有することが好ましく、また、当該固体電解質と正極あるいは負極とが一体化した複合電極などの、本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物を含む電極材を有していてもよい。
【0048】
<リチウムイオン二次電池>
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物の好適な実施態様の1つとして、固体電解質として、リチウムイオン二次電池に利用することが挙げられる。本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上述した本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物を、そのままで、あるいは賦形・焼結した焼結体として、固体電解質として用いた全固体電池であることが好ましく、また、上述した本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物を含む電極材または電極を有することも好ましい。
【0049】
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば、固体電解質層を備える固体電池の場合、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体がこの順に積層された構造を成している。
【0050】
正極集電体および負極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体および合金、またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物などの導電体で構成される。なお、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。導電性接着層は、粒状導電材や繊維状導電材などを含んで構成することができる。
【0051】
正電極層および負電極層は、公知の粉末成形法によって得ることができる。例えば、正極集電体、正電極層用の粉末、固体電解質層用の粉末、負電極層用の粉末および負極集電体をこの順に重ね合わせて、それらを同時に粉末成形することによって、正電極層、固体電解質層および負電極層のそれぞれの層形成と、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体のそれぞれの間の接続を同時に行うこともできる。また、各層を逐次に粉末成形することもできる。得られた粉末成形品を、必要に応じて、焼成などの熱処理を施してもよい。
【0052】
粉末成形法としては、例えば、粉末に溶剤を加えてスラリーとし、スラリーを集電体に塗布し、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(ドクターブレード法)、スラリーを吸液性の金型に入れ、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(鋳込成形法)、粉末を所定形状の金型に入れ圧縮成形することを含む方法(金型成形法)、スラリーをダイスから押し出して成形することを含む押出成形法、粉末を遠心力により圧縮して成形することを含む遠心力法、粉末をロールプレス機に供給して圧延成形することを含む圧延成形法、粉末を所定形状の可撓性バッグに入れ、それを圧力媒体に入れて等方圧を加えることを含む冷間等方圧成形法(cold isostatic pressing)、粉末を所定形状の容器に入れ真空状態にし、その容器に高温下、圧力媒体にて等方圧を加えることを含む熱間等方圧成形法(hot isostatic pressing)などを挙げることができる。
【0053】
金型成形法としては、固定下パンチと固定ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む片押し法、固定ダイに粉末を入れ、可動下パンチと可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む両押し法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加え圧が所定値を超えた時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むフローティングダイ法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えると同時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むウイズドローアル法などを挙げることができる。
【0054】
正電極層の厚さは、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~150μm、さらに好ましくは50~100μmである。固体電解質層の厚さは、好ましくは50nm~1000μm、より好ましくは100nm~100μmである。負電極層の厚さは、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~150μm、さらに好ましくは50~100μmである。
【0055】
(活物質)
負電極用の活物質としては、リチウム合金、金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物SiOn(0<n≦2)、ケイ素/炭素複合材、多孔質炭素の細孔内にケイ素を内包する複合材、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムで被覆されたグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。ケイ素/炭素複合材や多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材は、比容量が高く、エネルギー密度や電池容量を高めることができるので好ましい。より好ましくは、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材であり、ケイ素のリチウム吸蔵/放出に伴う体積膨張の緩和性に優れ、複合電極材料または電極層において、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスを良好に維持することができる。特に好ましくは、ケイ素ドメインが非晶質であり、ケイ素ドメインのサイズが10nm以下であり、ケイ素ドメインの近傍に多孔質炭素由来の細孔が存在する、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材である。
【0056】
正電極用の活物質としては、LiCo酸化物、LiNiCo酸化物、LiNiCoMn酸化物、LiNiMn酸化物、LiMn酸化物、LiMn系スピネル、LiMnNi酸化物、LiMnAl酸化物、LiMnMg酸化物、LiMnCo酸化物、LiMnFe酸化物、LiMnZn酸化物、LiCrNiMn酸化物、LiCrMn酸化物、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、遷移金属酸化物、硫化チタン、グラファイト、ハードカーボン、遷移金属含有リチウム窒化物、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、リチウム金属、リチウム合金、Li含有固溶体、およびリチウム貯蔵性金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。LiNiCoMn酸化物、LiNiCo酸化物またはLiCo酸化物が好ましく、LiNiCoMn酸化物がより好ましい。この活物質は固体電解質との親和性がよく、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスに優れる。また、平均電位が高く、比容量と安定性のバランスにおいてエネルギー密度や電池容量を高めることができるからである。また、正電極用の活物質は、イオン伝導性酸化物であるニオブ酸リチウム、リン酸リチウムまたはホウ酸リチウム等で表面が被覆されていてもよい。
【0057】
本発明の一実施形態における活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましく0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく0.5μm以上3μm以下が最も好ましい。また、短径の長さに対する長径の長さの比(長径の長さ/短径の長さ)、すなわちアスペクト比が、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である。
【0058】
本発明の一実施形態における活物質は、二次粒子を形成していてもよい。その場合、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.3μm以上15μm以下がより好ましく、0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上2μm以下が最も好ましい。圧縮成形して電極層を形成する場合においては、活物質は、一次粒子であることが好ましい。活物質が一次粒子である場合は、圧縮成形した場合でも、電子伝導パスまたは正孔伝導パスが損なわれることが起こりにくい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
・リチウムイオン伝導性酸化物(1)(20%Siドープ)の作製
リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素とし、かつ、ケイ素とリンの合計中のケイ素原子数の割合が20%であるリチウムイオン伝導性酸化物(1)を作製する。目的とするリチウムイオン伝導性酸化物(1)は、LiTa2PO8で表される酸化物において、P原子数の20%がSiに置き換えられたものであり、式Li1+xTa2P1-ySiyO8(xはPをSiに置き換えることに伴う電荷バランス)のyが0.2であるリチウムイオン伝導性酸化物である。
【0060】
原料として、炭酸リチウム(Li2CO3)(シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta2O5)(富士フイルム和光純薬製、純度99.9%)、二酸化ケイ素(SiO2)(富士フイルム和光純薬製、純度99.9%)、リン酸一水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)(シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を用い、焼成後のリチウム、タンタル、リン、ケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、1+x:2:0.8:0.2となるように、焼成時に生じるLiの脱離量、電荷バランスx、ならびに副生物(LiTaO3)の生成抑制効果を考慮して、Li:Ta:P:Si=1.38:2.00:0.852:0.2の仕込み組成比で、各原料を秤量した。
【0061】
秤量した各原料粉末を、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間破砕混合した。
得られた混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃において2時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0062】
焼成して得られた一次焼成物に、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間破砕混合し、解砕物を得た。
得られた解砕物を、油圧プレスにより40MPaで仮成形し、次いで冷間等方圧成形法(CIP)により300MPaで本成形し、直径10mm、厚み1mmのペレットを得た。 得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1100℃まで昇温し、1100℃において3時間焼成を行い、二次焼成物を得た。
【0063】
得られた二次焼成物を降温後、室温で取り出し、除湿された窒素雰囲気下に移し、ケイ素とリンの合計中のケイ素原子数の割合が20%であるリチウムイオン伝導性酸化物(1)を得た。
【0064】
・NMRスペクトル測定
上記で得たリチウムイオン伝導性酸化物(1)をサンプルとして用い、核磁気共鳴分光装置(NMR;ブルカー社製、AV500NMR)に4mmCP/MASプローブを取り付け、室温で測定を行った。
【0065】
固体
31P-NMRスペクトルは、シングルパルス法を用い、90°、パルス4μs、マジック角回転数10kHzの条件で測定した。化学シフトは、リン酸二水素一アンモニウムを外部基準(1.0ppm)として用いることにより得た。測定範囲は-125~125ppmであった。測定結果を
図1に示す。
【0066】
また固体
29Si-NMRスペクトルは、シングルパルス法を用い、90°、パルス4μs、マジック角回転数7kHzの条件で測定した。化学シフトは、ヘキサメチルシクロトリシロキサンを外部基準(-9.7ppm)として用いることにより得た。測定範囲は-240ppm~110ppmであった。測定結果を
図2に示す。
【0067】
・単斜晶の結晶構造含有率
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、リチウムイオン伝導性酸化物(1)の粉末X線回折測定(XRD)を行った。X線回折測定条件としては、Cu-Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10~50°の範囲で測定を行い、リチウムイオン伝導性酸化物(1)のX線回折図形を得た。
【0068】
得られたXRD図形に対し、公知の解析ソフトウェアRIETAN-FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析を行い、求められた単斜晶結晶量と単斜晶以外の結晶量から算出したところ、単斜晶の含有率は96.8%であった。
【0069】
・イオン伝導度評価
(測定ペレット作製)
リチウムイオン伝導性酸化物のイオン伝導度評価用の測定ペレットの作製は、次のように行った。得られたリチウムイオン伝導性酸化物(1)を、錠剤成形機を用いて直径10mm、厚さ1mmの円盤状に成形し、1100℃で大気下3時間焼成した。得られた焼成物の、理論密度に対する相対密度は96.3%であった。得られた焼成物の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成して、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
【0070】
(インピーダンス測定)
リチウムイオン伝導性酸化物(1)のイオン伝導度評価を次のように行った。前述の方法で作製した測定ペレットを、測定前に2時間25℃に保持した。次いで、25℃においてインピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル製、型番:1260A)を用いて振幅25mVで周波数1Hz~10MHzの範囲でACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewソフトを用いて等価回路でフィッティングして、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ得た。求められた各イオン伝導度を併せて表1に示す。
【0071】
[実施例2]
・リチウムイオン伝導性酸化物(2)(15%Siドープ)の作製
実施例1のリチウムイオン伝導性酸化物の作製において、各原料の使用量を変更したことの他は、実施例1と同様にして、ケイ素とリンの合計中のケイ素原子数の割合が15%であるリチウムイオン伝導性酸化物(2)を得た。ここで、各原料は、焼成後のリチウム、タンタル、リン、ケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、1+x:2:0.85:0.15となるように、焼成時に生じるLiの脱離量、電荷バランスx、ならびに副生物(LiTaO3)の生成抑制効果を考慮して、Li:Ta:P:Si=1.32:2.00:0.900:0.15の仕込み組成比で秤量して使用した。
【0072】
・NMRスペクトル測定
得られたリチウムイオン伝導性酸化物(2)について、実施例1と同様にして、固体
31P-NMRスペクトルおよび固体
29Si-NMRスペクトルを測定した。固体
31P-NMRスペクトルの測定結果を
図1に、固体
29Si-NMRスペクトルの測定結果を
図2にそれぞれ示す。
【0073】
・単斜晶結晶構造含有率、イオン伝導度評価
得られたリチウムイオン伝導性酸化物(2)について、実施例1と同様にして、単斜晶結晶構造含有率を求め、イオン伝導度を評価した。単斜晶含有率、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ表1に示す。
【0074】
[比較例1]
・リチウムイオン伝導性酸化物(3)(Siドープなし)の作製
実施例1のリチウムイオン伝導性酸化物の作製において、各原料の使用量を変更したことの他は、実施例1と同様にして、LiTa2PO8で表されるリチウムイオン伝導性酸化物(3)を得た。ここで、各原料は、焼成後のリチウム、タンタル、リン、ケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、1:2:1:0となるように、焼成時に生じるLiの脱離量、電荷バランスx、ならびに副生物(LiTaO3)の生成抑制効果を考慮して、Li:Ta:P:Si=1.15:2.00:1.065:0の仕込み組成比で秤量して使用した。
【0075】
・NMRスペクトル測定
得られたリチウムイオン伝導性酸化物(3)について、実施例1と同様にして、固体
31P-NMRスペクトルおよび固体
29Si-NMRスペクトルを測定した。固体
31P-NMRスペクトルの測定結果を
図1に、固体
29Si-NMRスペクトルの測定結果を
図2にそれぞれ示す。
【0076】
・単斜晶結晶構造含有率、イオン伝導度評価
得られたリチウムイオン伝導性酸化物(3)について、実施例1と同様にして、単斜晶結晶構造含有率を求め、イオン伝導度を評価した。単斜晶含有率、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ表1に示す。
【0077】
【表1】
以上の実施例および比較例の結果より、少なくとも、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含み、固体
31P-NMRスペクトルにおいて-20.0ppm~0.0ppmの領域にピークを有し、かつ、固体
29Si-NMRスペクトルにおいて-80.0ppm~-100.0ppmの領域にピークを有することを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物は、リチウムイオン伝導性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物は、固体電解質、焼結体および電極材あるいはその原料として好適であり、特にリチウムイオン二次電池の固体電解質として好適に用いることができる。