(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】計測装置、シアノヒドリン含有液の製造装置および計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20220310BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20220310BHJP
C07C 253/00 20060101ALI20220310BHJP
C07C 255/16 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01N21/33
C07C253/00
C07C255/16
(21)【出願番号】P 2018544710
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2017032843
(87)【国際公開番号】W WO2018070165
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2016199868
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆典
(72)【発明者】
【氏名】青木 英雅
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/054355(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054356(WO,A1)
【文献】特開2006-141263(JP,A)
【文献】特開2000-317468(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
C07C 253/00
C07C 255/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)で表される原料カルボニル化合物と式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる
計測装置であって、
前記
計測装置が、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、および前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるシアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、または、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、シアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有する、計測装置。
R
1COR
2 ・・・式(A)
式(A)において、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
M(CN)
n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。
【請求項2】
反応液の自動計測機能を有する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
原料カルボニル化合物および原料シアン化合物を反応系に供給する供給部と、
供給された原料を反応させシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
請求項1または2に記載の計測装置と
を有する、シアノヒドリン含有液の製造装置。
【請求項4】
前記計測装置が、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測しており、
前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部を有する、
請求項3に記載のシアノヒドリン含有液の製造装置。
【請求項5】
さらに、前記反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置を有し、
前記計測装置が、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測しており、
前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部を有する、
請求項3に記載のシアノヒドリン含有液の製造装置。
【請求項6】
原料カルボニル化合物および原料シアン化合物を反応系に供給する供給部と、
供給された原料を反応させシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
前記反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置と、
請求項1または2に記載の計測装置を少なくとも2つ有し、
さらに、
前記計測装置の少なくとも1つが、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部1と、
前記計測装置の少なくとも1つが、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部2と
を有するシアノヒドリン含有液の製造装置。
【請求項7】
式(A)で表される原料カルボニル化合物と式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる計測方法であって、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、シアン化剤の濃度が0とみなされる場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度が0とみなされる場合には、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度およびシアン化剤の濃度が共に0とみなされない場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出する計測方法。
R
1COR
2 ・・・式(A)
式(A)において、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
M(CN)
n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置、シアノヒドリン含有液の製造装置および計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノヒドリンは、カルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシエステルなどの原料として工業的に重要である。
このようなシアノヒドリンを製造する方法として、例えば、特許文献1や2に記載の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/054355号
【文献】国際公開第2009/054356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シアノヒドリンは、前記のとおり、カルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシエステルなどの原料として有用であり、近年、これらカルボン酸等は、飲食品用材料などに用いられている。例えば、シアノヒドリンの一つであるラクトニトリルは、乳酸等を製造するための原料として有用であり、該乳酸等は、飲食品用材料等に用いられている。
【0005】
この飲食品用材料等には、近年特に、反応原料等の不純物含量が極めて少ないことが求められており、その原料であるシアノヒドリン含有液にも不純物含量が極めて少ないことが求められている。
【0006】
しかしながら、従来のシアノヒドリン含有液の製造方法では連続的にシアノヒドリン含有液を製造する場合、反応器内の原料カルボニル化合物の量と、原料シアン化剤の量とを充分に制御することができなかったり、反応液の精製において精製条件を最適な状態に維持することができなかったり等で、低不純物含量のシアノヒドリン含有液を容易に得ることができなかった。これらは、反応液中の化合物の濃度を計測するために適した計測装置が存在していないことに起因していると考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に製造するため、反応液中の化合物の濃度を素早く計測することができる計測装置、測定方法および該装置を有するシアノヒドリン含有液の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、紫外線吸光光度計およびシアン計の少なくとも一方、並びに、屈折率計を有し、かつ、シアノヒドリン濃度を算出する特定のプログラムを有する計測装置によって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば、以下の[1]~[7]に関する。
【0009】
[1]式(A)で表される原料カルボニル化合物と式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる装置であって、
前記装置が、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、および前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるシアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、または、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、シアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有する、計測装置。
R1COR2 ・・・式(A)
式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
M(CN)n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。
【0010】
[2]反応液の自動計測機能を有する、[1]に記載の計測装置。
【0011】
[3]原料カルボニル化合物および原料シアン化合物を反応系に供給する供給部と、
供給された原料を反応させシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
[1]または[2]に記載の計測装置と
を有する、シアノヒドリン含有液の製造装置。
【0012】
[4]前記計測装置が、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測しており、
前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部を有する、
[3]に記載のシアノヒドリン含有液の製造装置。
【0013】
[5]さらに、前記反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置を有し、
前記計測装置が、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測しており、
前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部を有する、
[3]に記載のシアノヒドリン含有液の製造装置。
【0014】
[6]原料カルボニル化合物および原料シアン化合物を反応系に供給する供給部と、
供給された原料を反応させシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、
前記反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置と、
[1]または[2]に記載の計測装置を少なくとも2つ有し、
さらに、
前記計測装置の少なくとも1つが、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部1と、
前記計測装置の少なくとも1つが、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部2と
を有するシアノヒドリン含有液の製造装置。
【0015】
[7]式(A)で表される原料カルボニル化合物と式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる計測方法であって、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、シアン化剤の濃度が0とみなされる場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度が0とみなされる場合には、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度およびシアン化剤の濃度が共に0とみなされない場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出する計測方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の計測装置によれば、反応液中の化合物の濃度を素早く計測することができ、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<計測装置>
本発明の計測装置は、式(A)で表される原料カルボニル化合物と式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる装置であって、
前記装置が、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、および前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるシアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有するか、または、
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測するための紫外線吸光光度計、シアン化剤の濃度を計測するためのシアン計、および前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度を計測するための屈折率計を有し、前記紫外線吸光光度計から得られた前記カルボニル化合物の濃度、前記シアン計から得られた前記シアン化剤の濃度、および、前記屈折率計から得られた前記カルボニル化合物と前記シアン化剤と前記シアノヒドリンとの合計濃度から、前記シアノヒドリンの濃度を算出するプログラムを有する。
R1COR2 ・・・式(A)
式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
M(CN)n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。
【0018】
シアノヒドリン含有液の製造においては、生産性等の点から、連続的に製造することが好ましい。本発明者は、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を製造しようとして、反応原料の不純物含量の制御、反応の制御、精製条件の制御など、色々な方法を行ったが、不純物含量が充分に少ないシアノヒドリン含有液を連続的に製造することはできなかった。
【0019】
この原因としては、主に以下の2つが考えられる。
原因の1つ目としては、従来の技術では、原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤とを反応させてシアノヒドリン含有液を得るにあたって、例えば、原料カルボニル化合物や、原料シアン化剤の反応器への供給量を、流量計等を用いて制御していたことが挙げられる。流量計等を用いて供給量を制御しても、必ずしも反応器に供給される原料カルボニル化合物の量と、原料シアン化剤の量とを充分に制御できず、得られるシアノヒドリン含有液の品質が安定しなかった。
【0020】
これは、流量計等を用いた供給量の制御では、原料カルボニル化合物や原料シアン化剤をポンプで供給する際にガスを巻き込んだり、更に原料カルボニル化合物や原料シアン化剤の沸点が低い場合にはその一部が気化してガス状になったり、また、気化を抑制するために原料カルボニル化合物や原料シアン化剤を冷却する方法もあるが外気温からの熱やポンプ等の機器からの熱によりその一部が気化してガス状になる等によって、実際に反応器に供給される原料の量にばらつきが出たりするためであると考えられる。
【0021】
原因の2つ目としては、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させて得られたシアノヒドリンを含む反応液を、蒸留等によって精製する際に、例えば、単に蒸留条件を設定して一定に保つ方法を行っていたことが挙げられる。単に蒸留条件を一定に保つ方法では、蒸留装置内部の反応液の状態が変化することもあり、原料の未反応物が完全に取り除けなかったり、生成物であるシアノヒドリンの分解等が生じたりするため、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に得ることができなかった。
【0022】
本発明者が鋭意検討した結果、反応器や蒸留装置内の反応液の状況を把握し、その把握した状況に基づいて原料の供給量や蒸留条件を制御することで、高い生産性で、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に得ることができることが分かった。そこで、原料カルボニル化合物と原料シアン化物とを反応させる反応器内や蒸留装置内の反応液の状況を把握するために、本発明の計測装置が有用である。
【0023】
本発明の計測装置としては、以下に説明する計測装置(I)~(III)が挙げられる。
計測装置(I)は、原料の濃度を計測する機器として、紫外線吸光光度計と屈折率計とを有する装置である。計測装置(I)は、紫外線吸光光度計を用いて、前記反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測し、屈折率計を用いて、前記反応液中に含まれるカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計の濃度を計測する。
【0024】
その後、計測装置(I)が通常有するプログラムを用いて、前記紫外線吸光光度計で得られたカルボニル化合物の濃度、および屈折率計で得られたカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計濃度から、シアノヒドリン濃度を算出する。
【0025】
計測装置(II)は、原料の濃度を計測する機器として、シアン計と屈折率計とを有する装置である。計測装置(II)は、シアン計を用いて、前記反応液に含まれるシアン化剤の濃度を計測し、屈折率計を用いて、前記反応液中に含まれるシアン化剤とシアノヒドリンとの合計の濃度を計測する。
【0026】
その後、本発明の計測装置(II)が通常有するプログラムを用いて、前記シアン計で得られたシアン化剤の濃度、および屈折率計で得られたシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度から、シアノヒドリン濃度を算出する。
【0027】
計測装置(III)は、原料の濃度を計測する機器として、紫外線吸光光度計とシアン計と屈折率計とを有する装置である。計測装置(III)は、紫外線吸光光度計を用いて、前記反応液に含まれるカルボニル化合物の濃度を計測し、シアン計を用いて、前記反応液に含まれるシアン化剤の濃度を計測し、屈折率計を用いて、前記反応液中に含まれるカルボニル化合物とシアン化剤とシアノヒドリンとの合計の濃度を計測する。
【0028】
その後、本発明の計測装置(III)が通常有するプログラムを用いて、前記紫外線吸光光度計で得られたカルボニル化合物の濃度、前記シアン計で得られたシアン化剤の濃度、および屈折率計で得られたカルボニル化合物とシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度から、シアノヒドリン濃度を算出する。
【0029】
本発明の計測装置は、装置の簡易性および計測のし易さの観点から前記計測装置(I)および(II)が好ましく、計測装置(I)がより好ましい。
【0030】
本発明の計測装置で計測および算出する「濃度」、つまり、カルボニル化合物の濃度、シアン化剤の濃度、カルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方とシアノヒドリンとの合計の濃度、並びに、シアノヒドリン濃度等は、モル濃度であることが好ましい。
【0031】
本発明の計測装置を用いることによって、反応液中の化合物の濃度を素早く計測することができ、計測結果に基づいて原料の供給量や蒸留条件を制御することができるため、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に製造することができる。
【0032】
本発明の計測装置は、反応液を自動的にサンプリングできる自動サンプリング機能を有していることが好ましい。反応液のサンプリングは、手動で行ってもよいが、規則的に自動サンプリングすることにより、安定してサンプルを得ることができる。自動サンプリングは、例えば、反応器から計測を行う機器へ送液する流路や、反応器から計測を行う機器へ送液し、計測後機器から反応器へ送液する流路(循環路)を介して行われる。
【0033】
なお、本発明において、自動とは反応器等の製造設備の運転中に、人が介在することなく機器が能動的に作動することを意味する。すなわち、反応開始前の設定、メンテナンス等は人が介在して行われてもよい。
【0034】
また、サンプリングされた反応液は、本発明の計測装置によって濃度の検出が行われる。検出は手動で行っても、自動で行ってもよいが、自動検出されることが好ましい。自動検出とは、サンプリングされた反応液の検出を自動で行うことを意味する。
【0035】
本発明において、自動サンプリングと、自動検出とを合わせて、自動計測とも呼ぶ。すなわち、自動計測とは、反応液のサンプリング、サンプリングされた反応液の検出を自動で行うことを意味する。
【0036】
本発明の計測装置は、自動計測が可能な自動計測機能を有していることが、カルボニル化合物の濃度、シアン化剤の濃度、カルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方とシアノヒドリンとの合計の濃度等を継時的に把握することが容易であるため好ましい。すなわち、自動計測でない場合には、少なくともサンプリングおよび反応液の検出の片方を、手動で行う必要があるため、手間がかかるが、自動計測では、そのような手間が不要となり好ましい。
【0037】
また、前記検出された結果から、カルボニル化合物の濃度、シアン化剤の濃度カルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方とシアノヒドリンとの合計の濃度等を求めるが、該濃度の算出は、手動演算であっても、自動演算であってもよく、自動演算が算出のスピード、正確性、手間の観点から好ましい。なお、演算は通常、予めカルボニル化合物の濃度、シアン化剤の濃度、カルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方とシアノヒドリンとの合計の濃度等と、検出される物性との関係を求めたうえで、演算される。
【0038】
前記演算によって得られた、カルボニル化合物の濃度、シアン化剤の濃度、カルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方とシアノヒドリンとの合計の濃度等を用いて、本発明の計測装置が有するプログラムによって、シアノヒドリン濃度を算出する。
【0039】
また、検出された結果、および自動演算された結果の、少なくとも片方の結果を、自動記録することが好ましい。自動記録は、HDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)、CD、DVD等の記憶媒体に、電子データとして記録してもよく、紙面等に印刷することにより記録してもよく、その両方でもよい。
【0040】
<計測方法>
本発明の計測方法は、前記式(A)で表される原料カルボニル化合物と前記式(B)で表される原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられる計測方法であって、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、シアン化剤の濃度が0とみなされる場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度が0とみなされる場合には、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出し、
前記原料カルボニル化合物と前記原料シアン化剤との反応液において、カルボニル化合物の濃度およびシアン化剤の濃度が共に0とみなされない場合には、紫外線吸光光度計で計測されたカルボニル化合物の濃度、シアン計で計測されたシアン化剤の濃度および屈折率計で計測されたカルボニル化合物とシアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度とからシアノヒドリンの濃度を算出する。
つまり、本発明の計測方法とは、前述の計測装置を用いて計測を行う方法である。
【0041】
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応は、一般的に速やかに進行し、転換率はほぼ100%である。このため、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤のうち、どちらか一方の供給量が過剰になれば、反応液に含まれる他方の濃度は、0とみなすことができる。
【0042】
すなわち、シアン化剤の濃度が0とみなされる場合とは、典型的には反応器に供給される原料カルボニル化合物の量が原料シアン化剤の供給量よりも過剰である場合をいい、具体的には、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)が1.001以上である場合である。しかしながら、一時的に前記モル比が1.001を下回ったとしても、調整により1.001以上を達成できた場合も、「シアン化剤の濃度が0とみなされる場合」に含めることができる。このとき、計測装置としては、前記計測装置(I)を用いることが好ましい。
【0043】
同様に、カルボニル化合物の濃度が0とみなされる場合とは、典型的には反応器に供給される原料シアン化剤の量が原料カルボニル化合物の供給量よりも過剰である場合をいい、具体的には、原料シアン化剤が有するシアノ基と原料カルボニル化合物とのモル比(原料シアン化剤が有するシアノ基/原料カルボニル化合物)が1.001以上である場合である。しかしながら、一時的に前記モル比が1.001を下回ったとしても、調整により1.001以上を達成できた場合も、「カルボニル化合物の濃度が0とみなされる場合」に含めることができる。このとき、計測装置としては、前記計測装置(II)を用いることが好ましい。
【0044】
カルボニル化合物の濃度およびシアン化剤の濃度が共に0とみなされない場合とは、典型的には反応器に供給される原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が1に近い場合をいい、具体的には、反応器に供給されるモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)が1.001以上を安定的に達成できていない場合、または、モル比(原料シアン化剤が有するシアノ基/原料カルボニル化合物)が1.001以上を安定的に達成できていない場合である。「カルボニル化合物の濃度およびシアン化剤の濃度が共に0とみなされない場合」には、反応器に供給されるモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)またはモル比(原料シアン化剤が有するシアノ基/原料カルボニル化合物)が1.000以上1.001未満の場合も含まれる。このとき、計測装置としては、前記計測装置(III)を用いることが好ましい。
【0045】
本発明の計測装置および計測方法は、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させて、シアノヒドリン含有液を連続的に得る際に用いられていれば、特に制限されないが、例えば、以下の工程1~3を経てシアノヒドリン含有液を製造する際に用いることが好ましい。
工程1:原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を反応器に供給する工程であって、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との少なくとも一方を連続的に供給する工程
工程2:反応器において、工程1で供給された原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させ反応液を得る工程
工程3:工程2で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程
【0046】
本発明の計測装置および計測方法は、例えば、前記工程2で得られた反応器内の反応液の計測や、前記工程3における蒸留装置内の反応液の計測に用いることができる。
【0047】
〔工程1〕
工程1とは、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を反応器に供給する工程であって、原料カルボニル化合物とシアン化剤との少なくとも一方を連続的に供給する工程である。
【0048】
〈原料カルボニル化合物〉
前記原料カルボニル化合物は、下記式(A)で表される。
R1COR2 ・・・式(A)
式(A)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、またはこれらの基の一部が置換基で置換された基である。
【0049】
前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~30である。
前記脂環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~30である。
前記芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~30である。
前記複素環基の炭素数は、好ましくは2~30である。
【0050】
なお、前記複素環基とは、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含んで形成された環を有する基を表し、本明細書においては、芳香族性を有する複素環基は、芳香族炭化水素基ではなく、複素環基とする。
【0051】
前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、イミノ基、N-オキシド基、N-ヒドロキシ基、ジアゾ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホ基、メルカプト基、アルキルチオ基が挙げられる。
前記置換基で置換された基は、置換基を1つ有してもよく、2つ以上有してもよい。
【0052】
前記R1およびR2としては、本発明の効果がより発揮されやすい点や、原料シアン化剤との反応性に優れる点などから、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基または炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子または炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましく、R1が水素原子であり、かつ、R2が炭素数1~3のアルキル基であることが特に好ましい。
前記原料カルボニル化合物としては、R1またはR2が水素原子である化合物、つまりアルデヒドが好ましく、アセトアルデヒドが最も好ましい。
【0053】
前記原料カルボニル化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等の飽和アルキルアルデヒド;アクリルアルデヒド、メタクリルアルデヒド等の不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド;ニコチンアルデヒド等の複素環基含有アルデヒド;アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-メチル-2-ブタノン、3-ペンタノン、3-ヘキサノン、2-メチル-3-ペンタノン、3-ヘプタノン、2-メチル-3-ヘキサノン、2,4-ジメチル-3-ペンタノン、アセトフェノン、2-ノナノン、2-オクタノン、2-ヘプタノン、2-ヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン、4-ヘプタノン、シクロヘキサノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン等のケトンが挙げられる。
前記原料カルボニル化合物としては、2種以上を用いてもよいが、濃度計測や精製のし易さから1種単独で用いることが好ましい。
【0054】
前記原料カルボニル化合物としては特に制限されず、工業用、研究用等で入手できる化合物でよいが、このような原料カルボニル化合物を精製すること等で得られる精製カルボニル化合物を用いることが好ましい。
前記精製カルボニル化合物を用いることにより、得られる反応液に含まれる、カルボニル化合物由来の該カルボニル化合物より沸点の高い、ダイマー、トリマー、テトラマー等のオリゴマーなどの不純物(以下「特定不純物」ともいう。)量を低減することができる。原料カルボニル化合物がアセトアルデヒドである場合には、特定不純物とは常圧における沸点が25℃以上である成分をいう。
【0055】
前記原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物の含有量は、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下である。
【0056】
該特定不純物の含有量は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができるが、該方法で測定した時の検出限界以下であってもよい。前記特定不純物の含有量は、原料カルボニル化合物を精製することによって前記範囲内とすることができるが、未精製の原料カルボニル化合物の含有量が上記範囲内であれば必ずしも精製する必要はない。
【0057】
なお、前記特定不純物の含有量は、少なければ少ないほどよいため、その範囲の下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、好ましくは特定不純物の含有量の下限値が0.1質量ppmである。
【0058】
前記精製カルボニル化合物を得る方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができるが、簡便な方法で容易に精製カルボニル化合物を得ることができる等の点から、原料カルボニル化合物を蒸留する方法が好ましい。
【0059】
〔原料シアン化剤〕
前記原料シアン化物は、下記式(B)で表される。
M(CN)n ・・・式(B)
式(B)において、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、または亜鉛であり、nはMの価数である。nは、通常は1~3の整数であり、好ましくは1または2である。
【0060】
前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0061】
前記原料シアン化剤としては、具体的には、HCN、LiCN、NaCN、KCN、RbCN、CsCN、Mg(CN)2、Ca(CN)2、Sr(CN)2、Ba(CN)2、Fe(CN)2、Fe(CN)3、CuCN、Cu(CN)2、Zn(CN)2等が挙げられ、これらの中でも、反応液のpH制御をより容易にすることや塩の副生を抑制することができるなどの点から、シアン化水素(HCN)が好ましい。
前記原料シアン化剤は、2種以上を用いてもよいが、濃度計測や精製のし易さから1種単独で用いることが好ましい。
【0062】
前記原料シアン化剤としては特に制限されず、工業用、研究用等で入手できる化合物でよい。具体的には、シアン化水素の場合、アンモ酸化反応等で副生するシアン化水素を使用することも可能であり、メタン等を原料に製造することも可能である。また、シアン化ナトリウムを硫酸などの強酸と反応させて製造することも可能である。工業的には、(メタ)アクリロニトリルの製造の際に副生するシアン化水素を使用することが好ましい。
【0063】
前記原料シアン化剤は、蒸留、吸着等によって、予め精製した精製シアン化剤であってもよい。
より高純度のシアノヒドリン含有液を得ることを目的として、精製シアン化剤を用いてもよいが、通常、シアン化剤には高沸点の化合物はほとんど存在しないため、シアン化剤中の不純成分は、下記工程2の精製工程において除去することができる。
【0064】
工程1は、前記原料カルボニル化合物および前記原料シアン化剤を反応器に供給する工程であり、原料カルボニル化合物とシアン化剤との少なくとも一方を連続的に供給する。
前記反応器としては、原料を連続的に供給することが可能であり、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させることができればよく特に限定は無いが、例えば、連続槽型反応器、管型反応器、スクリューフィーダー型混合器、スタティックミキサー等を用いることができる。前記反応器としては、原料を連続的に供給することができることに加えて、シアノヒドリン含有液を連続的に取り出すことが可能な反応器が好ましい。また、前記反応器としては、回分式反応器は、原料を連続的に供給することができないため、用いることができない。前記反応器としては、原料カルボニル化合物が鉄製部材と接触すると、不純物の生成が促進されるため、鉄以外の材質であることが好ましい。反応器の材質としては、具体的には、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、モネル(商標)、ハステロイ(商標)、インコネル(商標)、インコロイ(商標)、フッ素樹脂、ガラス、磁器等が挙げられる。
【0065】
工程1では、溶媒を供給することが好ましい。溶媒としては1種または2種以上の溶媒を用いることができる。溶媒としては水、有機溶媒のいずれも用いることができる。有機溶媒としては、アルコール、カルボン酸、エステルなどが挙げられる。溶媒としては、反応後のシアノヒドリン含有液の濃度調整が容易であり、コスト面でも優れる水を用いることが好ましい。
【0066】
工程1で反応器に溶媒を供給する場合には、反応器に供給される溶媒の量としては特に限定は無いが、工程2における反応液中の溶媒量が好ましくは5~95質量%となる量で供給される。前記範囲では、工程2において、効率よく反応が進行し、所望濃度のシアノヒドリン含有液を容易に得ることができるため好ましい。
【0067】
なお、溶媒の反応器への供給は、溶媒のみで反応器へ供給してもよく、原料カルボニル化合物、原料シアン化剤、後述の触媒等と共に、反応器へ供給してもよい。
【0068】
原料カルボニル化合物や、原料シアン化剤が、反応器に供給する際の温度、反応器中の温度で固体である場合には、溶媒に溶解または懸濁させることが好ましい。
【0069】
また、本発明の計測装置に用いる反応器には、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を反応器に供給するための、導入部が接続されていることが好ましい。前記導入部としては、反応器に供給される原料カルボニル化合物の量を調整しながら供給可能な、原料カルボニル化合物導入部および、反応器に供給される原料シアン化剤の量を調整しながら供給可能な、原料シアン化剤導入部とを通常は有する。
【0070】
前記導入部は、通常、供給される原料カルボニル化合物あるいは原料シアン化剤の量を計測するための流量計等の供給量計測部を有する。前述のようにシアノヒドリン含有液の製造においては、流量計等を用いた流量の制御だけでは、必ずしも反応器に供給される原料の量を一定に保つことは出来ないが、供給量計測部で原料の量をある程度確認することが可能であり、大幅な供給量の変動を抑制することができる。
【0071】
反応器に供給される原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤との量は、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)が、好ましくは0.80~1.25、より好ましくは0.90~1.11である。
【0072】
前記モル比の上限以下であると、過剰の原料カルボニル化合物を回収する必要がなく、また原料カルボニル化合物による副反応が起こりにくくなる。また、前記モル比の下限以上であると、過剰の原料シアン化剤を回収する必要がない。原料の転化率の観点からは、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近いほど好ましく、具体的には、0.95~1.05が特に好ましい。但し、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近いほど、意図せぬ僅かな供給量の変化で、反応器に供給される原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤とのどちらが過剰になるかが、変化してしまう。原料カルボニル化合物が過剰の場合には、原料カルボニル化合物の回収が必要になり、原料シアン化剤が過剰の場合には、原料シアン化剤の回収が必要になり、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が、1に近い場合には、どちらが過剰になるかが安定しないため、両方を回収することが可能な設備が必要となる。このため、予め片方の原料をわずかに過剰に供給することが好ましい。具体的には、原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)が、1.001~1.100が特に好ましい。また、シアン化剤が有するシアノ基と原料カルボニル化合物とのモル比(シアン化剤が有するシアノ基/原料カルボニル化合物)が、1.001~1.100であることも特に好ましい。
【0073】
原料カルボニル化合物を過剰にしたときは、例えば、後述する工程2において、計測装置(I)を用いて反応器中の反応液の計測を行い、原料カルボニル化合物およびシアノヒドリンのモル濃度が後述する要件(1)を満たすように原料の供給量を制御することによって、シアノヒドリンの収率を高く維持することができる。また、原料カルボニル化合物を過剰にしたときは、後述する工程3においても、計測装置(I)を用いて蒸留装置中の反応液の計測を行い、前記計測の結果に基づいて、蒸留条件を制御することによって、シアノヒドリン含有液に含まれる原料カルボニル化合物の含有量の低減や、シアノヒドリン含有液の濃度調整を行うことができる。
【0074】
原料シアン化剤を過剰にしたときは、例えば、後述する工程2において、計測装置(II)を用いて反応器中の反応液の計測を行い、原料シアン化剤およびシアノヒドリンのモル濃度が後述する要件(2)を満たすように原料の供給量を制御することによって、シアノヒドリンの収率を高く維持することができる。また、原料シアン化剤を過剰にしたときは、後述する工程3においても、計測装置(II)を用いて蒸留装置中の反応液の計測を行い、前記計測の結果に基づいて、蒸留条件を制御することによって、シアノヒドリン含有液に含まれる原料シアン化剤の含有量の低減や、シアノヒドリン含有液の濃度調整を行うことができる。
【0075】
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が1に近いときは、後述する工程2および工程3において反応器中または蒸留装置中の反応液の計測を、計測装置(III)を用いて行うことか好ましい。
しかしながら、片方の原料を過剰にする方が、該過剰となる成分を回収する設備を設ければよく、製造装置を簡略化できるため好ましい。
【0076】
前記範囲内で、原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤とのモル濃度を制御することにより、原料カルボニル化合物あるいは、原料シアン化剤が、大過剰で反応器に供給されることが無く好ましい。
【0077】
工程1では、原料カルボニル化合物とシアン化剤との少なくとも一方を連続的に供給するが、好ましくは原料カルボニル化合物および原料シアン化剤の両方を連続的に供給することが好ましい。原料カルボニル化合物および原料シアン化剤を連続的に供給することにより、反応器中の原料や、シアノヒドリンの濃度が一定となりやすいため好ましい。
なお、本発明において連続的に供給するとは、絶え間なく反応器に供給される態様が包含されるのはもちろん、滴下のように僅かな間隔があいていてもよい。なお、連続的に供給するとは、具体的には、供給と供給との間が例えば、数秒から数分で供給されることを意味する。
【0078】
〔工程2〕
工程2は、反応器において、工程1で供給された原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させ反応液を得る工程である。
【0079】
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤との反応は、次のような反応式を例示できる。
M(CN)n+nHX→nHCN+MXn
nR1COR2+nHCN→nR1R2C(OH)(CN)
ここで、HXは酸や水であり、M、n、R1、R2は、前述の通りである。
【0080】
原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させることにより、シアノヒドリンを含む反応液が得られる。該シアノヒドリンとしては、α-シアノヒドリンが好ましく、ラクトニトリルが特に好ましい。
前記反応は通常は連続式で行われるが、半回分式で行われてもよい。
【0081】
工程2では、原料カルボニル化合物とシアン化剤とが反応することにより、シアノヒドリンが得られる。前記シアノヒドリンとしては、α-シアノヒドリンが好ましく、ラクトニトリルが特に好ましい。すなわち、原料カルボニル化合物としては、アセトアルデヒドが特に好ましい。
【0082】
工程2は、触媒の存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては、塩基性化合物を用いることが好ましい。前記塩基性化合物はpH調整剤としても作用するため好ましい。
【0083】
前記塩基性化合物としては、有機塩基性化合物、無機塩基性化合物が挙げられる。前記有機塩基性化合物としては、アミン化合物、4級アンモニウム塩、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物および金属アルコキサイドなどの塩基性化合物が挙げられる。
【0084】
反応器中の反応液のpHは、好ましくは3~7、より好ましく4~6、特に好ましくは5~6である。前記触媒は、反応液のpHが前記範囲となる量で用いることが好ましい。
【0085】
工程2は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては工程1で用いたものが好ましい。
【0086】
また、工程2では、酸の存在下で行ってもよい。特にシアン化剤としてシアン化水素以外を用いた場合には、反応液のpHが高くなるため、pHを前記範囲とする目的で酸を用いることが好ましい。酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等の酸を用いることができる。
【0087】
反応器中の温度(反応温度)は、原料カルボニル化合物とシアン化剤とが好適に反応できればよく、特に限定はないが、通常は0~40℃、好ましくは0~30℃、より好ましくは5~25℃、特に好ましくは10~20℃である。
【0088】
また、工程2における平均滞留時間は、原料カルボニル化合物とシアン化剤とが充分に反応できればよく、特に限定は無いが、通常は0.1~24時間、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0089】
本発明の計測装置および計測方法は、工程2によって得られた反応液に含まれるカルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方の濃度、並びに、シアノヒドリンの濃度の計測に用いることができる。
【0090】
本発明の計測装置は、工程2によって得られた反応液の状況を把握できれば、どこに設置してもよいが、反応器内、または、反応器から分岐した流路上に設置することが好ましく、計測のしやすさの点や、装置の簡略化の点などから、反応器から分岐した流路上に設置することがより好ましい。
【0091】
反応器から濃度の計測のために抜出された反応液については、濃度を計測後、廃棄してもよいが、計測後の反応液を反応器に戻すことが、生産性の観点からは好ましい。なお、濃度を計測後、計測後の反応液を反応器に戻さず、廃棄することが、簡便さの観点からは好ましい。
【0092】
本発明の計測装置や計測方法を用いて得られたカルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方の濃度、並びに、シアノヒドリンの濃度の結果に基づいて、工程1において反応器に供給する原料カルボニル化合物および原料シアン化剤の少なくとも一方の濃度を制御することが好ましい。これにより、反応液中の濃度変化に従って、速やかに原料の供給量を制御することができ、シアノヒドリンの生産性を向上させることができる。
【0093】
前記制御は、原料カルボニル化合物のモル濃度をM1、シアン化剤が有するシアノ基のモル濃度をM2、シアノヒドリンのモル濃度をM3とした際に、下記要件(1)および(2)の少なくとも一方を満たすように原料の供給量を制御することが好ましい。
要件(1):M1/M3が、0.001~0.100である。
要件(2):M2/M3が、0.001~0.100である。
【0094】
要件(1)において、M1/M3が、0.001~0.050であることが好ましい。また、要件(2)において、M2/M3が、0.001~0.050であることが好ましい。
【0095】
なお、反応器に供給される原料カルボニル化合物と、原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比(原料カルボニル化合物/原料シアン化剤が有するシアノ基)が、1.001~1.100である場合には、計測装置(I)または計測装置(III)を用いることができるが、計測装置(I)を用いて計測を行うことが好ましく、このとき、要件(1)を満たすことが好ましい。このように原料カルボニル化合物が過剰の場合には、シアン化剤はほとんど全て反応してシアン化剤の濃度は0とみなすことができる。したがって、原料カルボニル化合物の濃度を紫外線吸光光度計で計測し、カルボニル化合物とシアノヒドリンとの合計濃度を屈折率計で計測すれば、シアノヒドリンの濃度を求めることができる。
【0096】
また、反応器に供給される原料シアン化剤が有するシアノ基と原料カルボニル化合物とのモル比(原料シアン化剤が有するシアノ基/原料カルボニル化合物)が、1.001~1.100である場合には、計測装置(II)または計測装置(III)を用いることができるが、計測装置(II)を用いて計測を行うことが好ましく、このとき要件(2)を満たすことが好ましい。このようにシアン化剤が過剰の場合には、原料カルボニル化合物はほとんど全て反応して原料カルボニル化合物の濃度は0とみなすことができる。したがって、シアン化剤の濃度をシアン計で計測し、シアン化剤とシアノヒドリンとの合計濃度を屈折率計で計測すれば、シアノヒドリンの濃度を求めることができる。
【0097】
制御の具体的な方法としては、本発明の計測装置を用いて得られた結果、原料カルボニル化合物が設定値に対して過剰であることが判明した場合には、原料カルボニル化合物の供給量を減らす、シアン化剤の供給量を増やす等の制御を行うことができる。一方、本発明の計測装置を用いて得られた結果、原料シアン化剤が設定値に対して過剰であることが判明した場合には、シアン化剤の供給量を減らす、原料カルボニル化合物の供給量を増やす等の制御を行うことができる。また、本発明の計測装置を用いて得られた結果、シアノヒドリンのモル濃度が低すぎることが判明した場合には、反応が充分に進捗していないことを意味するため、原料カルボニル化合物およびシアン化剤の供給量を減らすことができる。
【0098】
工程1で供給された原料カルボニル化合物と原料シアン化剤とを反応させた後、反応液を回収する工程、回収された反応液のpHを調整する工程等を経てもよく、本発明の計測装置は、反応液を回収する工程、回収された反応液のpHを調整する工程等を経て得られた反応液を計測してもよい。
【0099】
前記反応液を回収する工程は、通常、反応器に設けられた流路から、反応液を回収する工程であり、回収するスピードは、通常、原料、水等の反応器に供給される全成分の供給量とほぼ同等である。全成分の供給量と、反応液の回収量とが同等であると、反応器内に存在する反応液の量が一定となるため好ましい。なお、反応液を回収するために設けられた流路は、通常は工程3を行うために設けられた流路とは別の流路である。
【0100】
前記回収された反応液のpHを調整する工程は、反応液を安定化するために行うことができる工程である。具体的には、回収された反応液にpH調整剤を添加する工程が挙げられる。pH調整剤としては、例えば硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等の酸が挙げられる。
【0101】
反応液にpH調整剤を添加した後の溶液は、好ましくはpH0.0~5.0、より好ましくはpH0.5~3.0である。
【0102】
〔工程3〕
工程3は、工程2で得られた反応液を蒸留装置に供給し、該反応液を蒸留する精製工程である。なお、前記「工程2で得られた反応液」とは、前述のように反応液を回収する工程や、前記反応液のpHを調整する工程を経た場合は、回収する工程を経た後の反応やpHを調整する工程を経た後の反応液を意味する。
蒸留装置への供給方法は、特に制限されず、断続的に供給してもよいが、生産性等の点から、連続的に供給することが好ましい。
【0103】
前記蒸留方法としては、特に制限されず、工業的に実施できる方法であればよい。具体的な方法としては、単蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留等が挙げられ、精密蒸留では、棚段塔や充填塔による方法等が挙げられる。充填塔による方法においては、規則充填物や不規則充填物を使用する方法等が挙げられる。また、蒸留する方法は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であるが、半回分式または連続式が好ましい。
【0104】
前記蒸留する際の条件についても、特に制限されないが、前記原料カルボニル化合物として、アセトアルデヒドを用い、前記原料シアン化剤として、シアン化水素を用いてラクトニトリルを得る場合には、蒸留温度は、好ましくは20~60℃、より好ましくは30~50℃であり、蒸留時間(滞留時間)は、好ましくは1~300分、より好ましくは5~150分である。蒸留圧力は、蒸留温度との関係によって決まるが、前記蒸留温度においては、好ましくは0.1~400KPaA、より好ましくは1~200KPaAである。
【0105】
前記温度で反応液を蒸留することで、反応液中の反応原料等の不純物を低減することができ、高収率で低不純物含量のシアノヒドリン含有液を容易に、高い生産性で得ることができる。特に、原料カルボニル化合物として、前記精製カルボニル化合物を用いることで、前記温度で反応液を精製することによる効果がより発揮される。
【0106】
また、シアノヒドリン含有液中の不純物含量をより低減するため、還流を行うことが好ましい。還流を行う際の還流比は、好ましくは0.1~20、より好ましくは1~10である。還流比が前記範囲内であれば、生産効率を大幅に低下させることなく、カルボニル化合物、シアン化剤、シアノヒドリン、溶媒等の各成分の分離率を向上させることができる。
【0107】
前記蒸留は、通常、蒸留装置で行われる。この際には、原料カルボニル化合物および原料シアン化剤は、シアノヒドリン含有液よりも沸点が低い傾向にあることから、目的物であるシアノヒドリン含有液は、該装置の底部に溜まる傾向にある。
前記蒸留の際には、蒸留条件をより容易に制御することができる等の点から、蒸留装置の底部からシアノヒドリン含有液を抜き出す工程を含むことが好ましい。
【0108】
本発明の計測装置および計測方法は、蒸留装置中の反応液に含まれるカルボニル化合物およびシアン化剤の少なくとも一方の濃度、並びに、シアノヒドリンの濃度を計測するために用いることができる。なお、本発明の計測装置で計測する前記反応液は、通常、蒸留装置の底部に存在するシアノヒドリン含有液を意味する。
【0109】
本発明の計測装置や計測方法を用いて、蒸留装置内の実際の反応液の中の成分の濃度を把握することができる。工程1において、原料カルボニル化合物を過剰にしたときは、計測装置(I)を用いて蒸留装置中の反応液の計測を行うことが好ましく、原料シアン化剤を過剰にしたときは、計測装置(II)を用いて蒸留装置中の反応液の計測を行うことが好ましい。原料カルボニル化合物と原料シアン化剤が有するシアノ基とのモル比が1に近いときは、蒸留装置中の反応液の計測を、計測装置(III)を用いて行うことが好ましい。
本発明の計測装置や計測方法で得られた結果に基づき、蒸留条件を制御することによって、蒸留条件を最適化することができ、シアノヒドリン含有液に含まれる不純物量を低減することができる。
【0110】
また、本発明の計測装置や計測方法でシアノヒドリンの濃度を計測することで、蒸留装置内の反応液の実際の状況、具体的には、計測されたシアノヒドリン濃度と予想値との対比から、蒸留装置内の反応液の温度等が外部制御の温度等に対し、どのような状況になっているのかを評価することができる。
【0111】
本発明の計測装置は、蒸留装置内の反応の状況を把握できれば、どこに設置してもよいが、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設置することが好ましく、計測のしやすさの点や、装置の簡略化の点などから、蒸留装置から分岐した流路上に設置することがより好ましい。
蒸留装置から分岐した流路上で本発明の計測装置を用いる場合には、該計測を行った後の反応液を、再び蒸留装置内に流入させてもよく、蒸留装置から取り出してもよい。
【0112】
また前記計測は、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口(取り出し口)付近で行うことが好ましい。つまり、蒸留装置内で計測を行う場合には、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近に計測器が設置されていることが好ましく、蒸留装置から分岐した流路上で計測を行う場合には、該流路は、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近から分岐していることが好ましい。
【0113】
前記計測を、蒸留装置のシアノヒドリン含有液の出口付近で行うことにより、充分に精製した後の反応液の濃度を計測することができ、蒸留条件の適否をより正確に判断することができるため好ましい。
【0114】
本発明の計測装置や計測方法を用いて得られた反応液中のカルボニル化合物およびシアノヒドリンの濃度の結果に基づいて、蒸留条件を制御することが好ましい。
前記制御を行うことにより、不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を容易に、高生産性で得ることができ、また、シアノヒドリン含有液の濃度を調整することができる。
【0115】
制御因子としては、蒸留温度、蒸留圧力および還流比から選択される少なくとも一つの因子を制御することが挙げられ、制御のし易さから蒸留温度および蒸留圧力から選択される少なくとも一つの因子を制御することが好ましい。
具体的な制御の例としては、一般的に、カルボニル化合物およびシアン化剤は、シアノヒドリンよりも沸点が低いため、本発明の計測装置や計測方法で計測した蒸留装置内の反応中のカルボニル化合物の濃度が、後述の上限値よりも高い場合には、蒸留温度を上げる制御、および、蒸留圧力を下げる制御から選択される少なくとも一方の制御を行うことが好ましい。これにより、蒸留装置中の反応液のカルボニル化合物や、原料に使用したシアン化剤の濃度を下げることができる。
【0116】
本発明の計測装置や計測方法で計測した蒸留装置における反応液中のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量が、それぞれ好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下になるように、制御することが好ましい。
なお、前記カルボニル化合物およびシアン化剤の含有量は、少なければ少ないほどよく、これらは存在していないことが好ましいため、その範囲の下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、それぞれ0.1質量ppmである。
【0117】
また、本発明の計測装置や計測方法で計測した蒸留装置における反応液中のシアノヒドリンの濃度が、好ましくは5~100質量%、より好ましくは10~100質量%、さらに好ましくは50~100質量%になるように、制御することが好ましい。
【0118】
前記制御は、高生産性でシアノヒドリン含有液を得ることができる等の点から、人為的な操作を介さずに、自動で行う自動制御であることが好ましい。自動制御は、具体的には、前記検出したデータ、演算後のデータ、記録後のデータ等と、前記所望のカルボニル化合物およびシアン化剤の含有量やシアノヒドリンの濃度に基づいて、蒸留条件を調整するように設定されたプログラムにより行われる。
【0119】
≪シアノヒドリン含有液の製造装置≫
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物を反応系に供給する供給部と、供給された原料を反応させシアノヒドリンを含む反応液を得る反応器と、前述の計測装置とを有する。
【0120】
前記計測装置は、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設け、反応器中の反応液の計測をすることができる。前記計測装置が、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測している場合、本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部(以下、「制御部1」ともいう)を有することが好ましい。
【0121】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、さらに、前記反応器で得られた反応液を蒸留する蒸留装置を有することが好ましい。
【0122】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置が有する計測装置は、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設け、前記蒸留装置中の反応液を計測することができる。前記計測装置が、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測している場合、本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部(以下、「制御部2」ともいう)を有することが好ましい。
【0123】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置が有する計測装置は、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けてもよく、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けてもよい。
【0124】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、反応原料等の不純物含量の少ないシアノヒドリン含有液を製造する観点から、前記計測装置を少なくとも2つ有することが好ましい。さらに、本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、前記計測装置の少なくとも1つが、前記反応器内、または、前記反応器から分岐した流路上に設けられ、反応器中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、原料カルボニル化合物および原料シアン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物の反応系への供給量を制御する制御部1と、前記計測装置の少なくとも1つが、前記蒸留装置内、または、前記蒸留装置から分岐した流路上に設けられ、前記蒸留装置中の反応液を計測し、前記計測装置での結果に基づいて、蒸留条件を制御する制御部2とを有することがより好ましい。
【0125】
前記供給部としては、特に制限されないが、例えば、パイプライン等が挙げられる。
この供給部としては、原料カルボニル化合物の供給部であって、該原料カルボニル化合物が精製カルボニル化合物である場合、前記鉄製ではないことが好ましい。
【0126】
前記反応器としては、特に制限されないが、例えば、連続槽型反応器、管型反応器、スクリューフィーダー型混合器、スタティックミキサー等が挙げられる。前記反応器としては、原料を連続的に供給することができることに加えて、シアノヒドリン含有液を連続的に取り出すことが可能な反応器が好ましい。前記反応器としては、原料カルボニル化合物が鉄製部材と接触すると、不純物の生成が促進されるため、鉄以外の材質であることが好ましい。
【0127】
前記蒸留装置は、該装置の底部にシアノヒドリン含有液の出口(取り出し口)を有することが好ましく、該出口付近に前記計測器を有することが好ましい。
【0128】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置には、計測装置で計測された結果に基づいて原料の供給量、蒸留条件等を制御するための部材、例えば、計測器とポンプ(原料の供給量を制御する装置)や蒸留装置(蒸留温度等を制御する装置)とを結ぶ配線、制御するためのシグナルを送る指令部、指令部からのシグナルに基づいて原料の供給量、蒸留条件等制御する制御部などを有していることが好ましい。
【0129】
本発明のシアノヒドリン含有液の製造装置は、前記部材以外にも、原料や生成物を貯蔵する貯蔵タンクや、反応液を蒸留装置に供給、触媒等を反応器に供給する供給部、などの従来の製造装置に用いられてきた部材を有していてもよい。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0131】
[1.アセトアルデヒド過剰条件での反応液中のアセトアルデヒド、シアン化水素およびラクトニトリルの定量方法(シアン化剤濃度が0とみなせる場合)]
<1-1.アセトアルデヒドの定量方法>
抜き出した反応液の一部を用い、紫外線吸光光度計でアセトアルデヒドに特有の波長330nmでの吸光度を求めた。この吸光度から、予め吸光度と反応液中のアセトアルデヒドのモル濃度との相関を求めた検量線から、前記液体中のアセトアルデヒドのモル濃度を計測した。
【0132】
<1-2.シアン化水素の定量方法>
抜き出した反応液の一部を用い、シアン計でシアン濃度を求めた。予め前記シアン計でのシアン濃度とシアン化水素濃度との相関を求めた検量線からシアン化水素のモル濃度を計測した。
【0133】
<1-3.屈折率計の検量線の作成>
反応液の屈折率を求めるのに先だって以下の検量線を作成した。
1)水/ラクトニトリルの組成比を水100%、ラクトニトリル100%の間で変化させたラクトニトリル水溶液を複数作製し、各々の屈折率を測定し、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線A-0)。
2)前記特定のラクトニトリル水溶液にアセトアルデヒドを加え、アセトアルデヒドの濃度が異なるアセトアルデヒド/ラクトニトリル/水の組成液を作製し、それぞれの屈折率を測定した。
3)ラクトニトリルのモル濃度が前記2)とは異なるラクトニトリル水溶液も、2)と同様に屈折率を測定した。
4)アセトアルデヒドのモル濃度が特定の同一濃度である一群のデータを用い、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線A-1)。
5)アセトアルデヒドのモル濃度が4)とは異なる濃度であるもののデータについても、同一のアセトアルデヒドのモル濃度毎に、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を同様に作成した(検量線A-2~A-X)。
【0134】
<1-4.ラクトニトリルの定量方法>
前記液体の紫外線吸光光度計から求めたアセトアルデヒドのモル濃度に対応する検量線を、(A-0~A-X)から選択し、または前記検量線群から内挿させて作成し、その検量線と液体の屈折率nとから、ラクトニトリルのモル濃度を定量した。なお、ラクトニトリルのモル濃度の定量は、計測装置に組み込まれたプログラム(演算ソフト)を用いて行った。
【0135】
[2.シアン化水素過剰条件での反応液中のアセトアルデヒド、シアン化水素およびラクトニトリルの定量方法(カルボニル化合物濃度が0とみなせる場合)]
<2-1.アセトアルデヒドの定量方法>
抜き出した反応液の一部を用い、紫外線吸光光度計でアセトアルデヒドに特有の波長330nmでの吸光度を求めた。この吸光度から、予め吸光度と反応液中のアセトアルデヒドのモル濃度との相関を求めた検量線から、前記液体中のアセトアルデヒドのモル濃度を計測した。
【0136】
<2-2.シアン化水素の定量方法>
抜き出した反応液の一部を用い、シアン計でシアン濃度を求めた。予め前記シアン計でのシアン濃度とシアン化水素濃度との相関を求めた検量線からシアン化水素のモル濃度を計測した。
【0137】
<2-3.屈折率計の検量線の作成>
反応液の屈折率を求めるのに先だって以下の検量線を作成した。
1)水/ラクトニトリルの組成比を水100%、ラクトニトリル100%の間で変化させたラクトニトリル水溶液を複数作製し、各々の屈折率を測定し、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線B-0)。
2)前記特定のラクトニトリル水溶液にシアン化水素を加え、シアン化水素の濃度が異なるシアン化水素/ラクトニトリル/水の組成液を作製し、それぞれの屈折率を測定した。
3)ラクトニトリルのモル濃度が前記2)とは異なるラクトニトリル水溶液も、2)と同様に屈折率を測定した。
4)シアン化水素のモル濃度が特定の同一濃度である一群のデータを用い、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を作成した(検量線B-1)。
5)シアン化水素のモル濃度が4)とは異なる濃度であるもののデータについても、同一のシアン化水素のモル濃度毎に、ラクトニトリルのモル濃度と屈折率との検量線を同様に作成した(検量線B-2~B-X)。
【0138】
<2-4.ラクトニトリルの定量方法>
前記反応液のシアン計から求めたシアン化水素のモル濃度に対応する検量線を、(B-0~B-X)から選択し、または前記検量線群から内挿させて作成し、その検量線と反応液の屈折率nとから、ラクトニトリルのモル濃度を定量した。なお、ラクトニトリルのモル濃度の定量は、計測装置に組み込まれたプログラム(演算ソフト)を用いて行った。
【0139】
[実施例1]
蒸留管および冷却管を備えたフラスコに、常圧における沸点が25℃以上である成分(特定不純物)の含有量が600質量ppmである原料アセトアルデヒドを仕込み、50KPaGの圧力下で、温度を40℃で加温して蒸留を行ったところ、特定不純物の含有量が160質量ppmである精製アセトアルデヒドを得た。
【0140】
なお、原料アセトアルデヒドおよび精製アセトアルデヒド中の特定不純物の含有量は、以下の方法で測定した。
攪拌機、蒸留塔、留出器を備えたガラス製フラスコに、原料アセトアルデヒドを供給し、常圧で単蒸留を行った。蒸留塔気相部の温度をみながら、フラスコの加熱を行い気相部の温度が丁度25℃に達したとき加熱を停止し、単蒸留を終了した。単蒸留後、フラスコに残った残分を秤量し、供給した原料アセトアルデヒドの合計量に対する質量ppmを求めた。
【0141】
攪拌機および冷却器を備えたCSTR型の反応器(連続槽型反応器)に、攪拌下、得られた精製アセトアルデヒドをそのまま連続的に供給し、シアン化水素、水を、アセトアルデヒド/シアン化水素のモル比が1.01となるように、各々の流量をコリオリ流量計にて測定し、ポンプで流量制御しながら連続的に供給した。反応器内の反応温度を15~20℃、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液でpHを5~6に調整しながら、滞留時間が3時間になるように、反応液を抜き出しながら反応を行った。
【0142】
前記反応液の抜き出しは、反応器の底部から分岐した流路上で行った。計測装置を用いて、抜き出した反応液のアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度を自動計測した。
なお、前記計測装置には、紫外線吸光光度計および屈折率計によって出力されたアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度に対応してアセトアルデヒドおよびシアン化水素の供給量を自動で調整できる制御装置をオンラインで結合させた。
【0143】
アセトアルデヒドのモル濃度およびラクトニトリルのモル濃度に基づき、アセトアルデヒドおよびシアン化水素の供給量を制御し、アセトアルデヒド/ラクトニトリル(モル比)=0.01となるように調整した。
【0144】
その結果、反応開始から10時間目でのアセトアルデヒドの転化率は99.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%、供給シアン化水素量に対して100.0%であった。
更に20時間目でのアセトアルデヒドの転化率は99.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%、供給シアン化水素量に対して100.0%であった。
【0145】
そして、30時間目でのアセトアルデヒドの転化率は99.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%、供給シアン化水素量に対して100.0%であった。結果を表1にまとめた。
よって、アセトアルデヒドの転化率およびラクトニトリルの収率は常に安定しており、ラクトニトリルの収率は常に高かった。
【0146】
さらに上記で得られた反応液に、10質量%硫酸水溶液を供給し、pH1.0に調整し、pH調整したラクトニトリル含有液を得た。
前記pH調製したラクトニトリル含有液を、蒸留塔に連続的に供給し、蒸留を行った。蒸留条件として、蒸留温度を40℃、蒸留圧力を7.5KPa、蒸留塔の滞留時間を0.5時間とし、蒸留塔の底部から分岐した流路上で、計測装置にて、アセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度を自動計測した。
なお、前記計測装置には、紫外線吸光光度計および屈折率計によって出力されたアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度に対応して蒸留温度を自動で調整できる制御装置をオンラインで結合させた。
【0147】
前記自動計測した結果に基づいて、蒸留塔の底部のラクトニトリル含有液のラクトニトリル濃度が80質量%、アセトアルデヒド濃度が300質量ppm以下になるように、前記制御装置が蒸留温度を40℃±2.5℃の範囲で微調整した。
蒸留により得られたラクトニトリル含有液中のアセトアルデヒド含量は、200質量ppm±10質量ppmの範囲であり、ラクトニトリルの濃度は80質量%±0.25質量%の範囲であった。なお、反応液のシアン化水素の転化率は100.0%であったことから、蒸留後の溶液にはシアン化水素は含まれていない。
【0148】
[比較例1]
反応器から抜き出した反応液の一部について、アセトアルデヒドの濃度計測およびラクトニトリルの濃度計測を行わず、前記濃度に基づくアセトアルデヒドおよびシアン化水素の供給量の制御を行わなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0149】
その結果、反応開始から10時間目でのアセトアルデヒドの転化率は99.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%、供給シアン化水素量に対して100.0%であった。
更に20時間目でのアセトアルデヒドの転化率は98.1%、シアン化水素の転化率は100%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して97.2%、供給シアン化水素量に対して99.6%であった。
【0150】
そして、30時間目でのアセトアルデヒドの転化率は97.0%、シアン化水素の転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給アセトアルデヒド量に対して95.2%、供給シアン化水素量に対して99.1%であった。結果を表1にまとめた。
よって、アセトアルデヒドの転化率およびラクトニトリルの収率は安定せず、ラクトニトリルの収率は時間の経過とともに低下した。
【0151】
[実施例2]
攪拌機および冷却器を備えたCSTR型の反応器(連続槽型反応器)に、アセトアルデヒド、シアン化水素を攪拌下でシアン化水素/アセトアルデヒドのモル比が1.01となるように、実施例1に記載の精製アセトアルデヒドとシアン化水素とを、各々の流量をコリオリ流量計にて測定し、ポンプで流量制御しながら供給した。反応器内の反応温度を15~20℃、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液でpHを5~6に調整しながら、滞留時間が3時間になるように、反応液を抜き出しながら反応を行った。
【0152】
前記反応液の抜き出しは、反応器の底部から分岐した流路上で行った。計測装置を用いて、抜き出した反応液のシアン化水素およびラクトニトリルのモル濃度を自動計測した。
なお、前記計測装置には、シアン計および屈折率計によって出力されたシアン化水素およびラクトニトリルのモル濃度に対応してアセトアルデヒドおよびシアン化水素の供給量を自動で調整できる制御装置をオンラインで結合させた。
【0153】
シアン化水素のモル濃度およびラクトニトリルのモル濃度に基づき、シアン化水素およびアセトアルデヒドの供給量を制御し、シアン化水素/ラクトニトリル(モル比)=0.01となるように調整した。
【0154】
その結果、反応開始から10時間目でのシアン化水素の転化率は99.0%、アセトアルデヒドの転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して98.9%、供給アセトアルデヒドに対して100.0%であった。
更に20時間目でのシアン化水素の転化率は99.0%、アセトアルデヒドの転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して98.9%、供給アセトアルデヒド量に対して100.0%であった。
【0155】
そして、30時間目でのシアン化水素の転化率は99.0%、アセトアルデヒドの転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して98.9%、供給アセトアルデヒド量に対して100.0%であった。結果を表2にまとめた。
よって、シアン化水素の転化率、アセトアルデヒドの転化率およびラクトニトリルの収率は常に安定し、ラクトニトリルの収率は高かった。
【0156】
[比較例2]
抜き出した反応液の一部について、シアン化水素の濃度計測およびラクトニトリルの濃度計測を行わず、前記濃度に基づくシアン化水素の供給量の制御を行わなかった以外は実施例2と同様に反応を行った。
【0157】
その結果、反応開始から10時間目でのシアン化水素の転化率は98.9%、アセトアルデヒドの転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して98.6%、供給アセトアルデヒドに対して100.0%であった。
更に20時間目でのシアン化水素の転化率は98.0%、アセトアルデヒドの転化率は100.0%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して97.0%、供給アセトアルデヒド量に対して99.6%であった。
【0158】
そして、30時間目でのシアン化水素の転化率は96.9%、アセトアルデヒドの転化率は100%、ラクトニトリルの収率は、供給シアン化水素量に対して95.0%、供給アセトアルデヒド量に対して98.9%であった。結果を表2にまとめた。
よって、シアン化水素の転化率およびラクトニトリルの収率は安定せず、ラクトニトリルの収率は時間の経過とともに低下した。
【0159】
[比較例3]
実施例1において、蒸留塔中のアセトアルデヒドおよびラクトニトリルのモル濃度を計測せずに、蒸留温度、蒸留圧力および滞留時間の制御のみで前記蒸留を制御した以外は実施例1と同様にしてラクトニトリル含有液を製造した。
【0160】
得られたラクトニトリル含有液中のアセトアルデヒド含量は、840質量ppm±200質量ppmであり、ラクトニトリルの濃度は75質量%±5質量%であった。
【0161】
【0162】