(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】麺類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220311BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 A
(21)【出願番号】P 2019540965
(86)(22)【出願日】2018-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2018032740
(87)【国際公開番号】W WO2019049860
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2017172532
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張替 敬裕
(72)【発明者】
【氏名】平内 亨
(72)【発明者】
【氏名】入江 謙太朗
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-083210(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031525(WO,A1)
【文献】特開平11-018706(JP,A)
【文献】特開2017-023050(JP,A)
【文献】特開2017-012114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性澱粉類を含有し、イヌリンを含むコーティング剤が表面に付着している麺類。
【請求項2】
前記麺類における前記イヌリンの付着量が、該麺類の0.01質量%以上である請求項1に記載の麺類。
【請求項3】
前記麺類における前記コーティング剤の付着量が、該麺類の1質量%以上である請求項1又は2に記載の麺類。
【請求項4】
前記コーティング剤が、油脂を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項5】
前記コーティング剤が、乳化物である請求項1~4のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項6】
前記コーティング剤が、増粘多糖類を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項7】
冷凍されている請求項1~6のいずれか1項に記載の麺類。
【請求項8】
難消化性澱粉類を含有する生麺類を加熱調理し、その調理済み麺類の表面に、イヌリンを含むコーティング剤を付着させる工程を有する、麺類の製造方法。
【請求項9】
前記生麺類が、粉体原料と水との混合物であり、該粉体原料に前記難消化性澱粉類が5質量%以上含まれる請求項8に記載の麺類の製造方法。
【請求項10】
前記コーティング剤の付着後に前記調理済み麺類を冷凍する請求項8又は9に記載の麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低糖質の麺類に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満、高脂血症、脂肪肝、糖尿病などの生活習慣病を予防・改善し得る食材、あるいは糖尿病などの糖代謝異常を有する人に適した食品素材として、低糖質化によるカロリーコントロールがなされた食品素材が種々提案されている。そのような低糖質の食品素材として、レジスタントスターチと称される、消化酵素の消化作用に抵抗性を有する難消化性澱粉が知られている。難消化性澱粉は、食物繊維の定量法として公認されているプロスキー法によって食物繊維として定量されるものであり、これを摂取することで、日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補給することができる。
【0003】
低糖質、低カロリーを目的として、難消化性澱粉の如き食物繊維を麺類に添加すると、製麺時に生地の伸展が悪くなって麺線が切れ易くなる、得られた麺類が弾力に欠けてボソボソした硬い食感のものになるなどの問題がある。斯かる問題の解決を図った技術として、例えば特許文献1には、麺原料として通常使用する小麦粉や蕎麦粉等の穀粉の全部又は一部に代えて、難消化性澱粉、小麦蛋白及び増粘多糖類を用いて生麺を調製すること、また、その生麺を加熱調理後に凍結して冷凍麺類を得ることが記載されている。斯かる方法によって製造された低糖質麺は、糖質が低含量であるという特徴に加えて、食感(硬さ、粘弾性)を通常の麺に類似させることができるという特徴を有するとされている。
【0004】
また特許文献2には、即席油揚げ麺の製造において、麺原料に多糖類の一種であるイヌリンを添加することで、製麺性や食味食感等に影響を与えずに、油脂含量を低減することができる旨記載されている。具体的には、小麦粉等の主原料粉に対し、0.5~7.5質量%のイヌリンを練り水に溶解又は分散させて加え、混錬して麺生地を調製し、さらに麺線とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-2000号公報
【文献】特開2008-278788号公報
【発明の概要】
【0006】
難消化性澱粉が配合された麺類は、口に入れた際に、ざらついた食感を強く感じるため、食味食感の点で改良の余地があった。このような、難消化性澱粉を配合した麺類に特有のざらついた食感を効果的に抑制し得る技術は未だ提供されていない。
【0007】
本発明の課題は、難消化性澱粉類を含有し低糖質でありながらも、難消化性澱粉類を含有する麺類に特有のざらついた食感が抑制された麺類及びその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明は、難消化性澱粉類を含有し、イヌリンを含むコーティング剤が表面に付着している麺類である。
【0009】
また本発明は、難消化性澱粉類を含有する生麺類を加熱調理し、その調理済み麺類の表面に、イヌリンを含むコーティング剤を付着させる工程を有する、麺類の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明が適用可能な麺類の種類は、典型的には、麺生地を細長く成形した麺線の外形をなす麺類であるが、これに限定されず、例えばマカロニ、ペンネなどのいわゆるショートパスタなども包含される。本発明が適用可能な麺類としては、例えば、うどん、ひやむぎ、そうめん、平めん、日本蕎麦、中華麺;スパゲッティ、マカロニ等のパスタ;餃子、焼売、春巻き、ワンタンの皮等の麺皮類が挙げられる。
【0011】
本発明の麺類は、典型的には、粉体原料に加水し混捏して、粉体原料と水との混合物である麺生地を調製し、該麺生地を麺線などの所定の形状に加工して未α化状態の生麺類を得る工程を経て製造される。粉体原料は、麺生地の調製に用いられる原材料のうち、常温常圧下で粉状の原材料であり、穀粉類及び後述する難消化性澱粉類を含むが、油脂、食塩等の副原料は含まない。麺生地の麺線への加工は、例えば、生地をロール圧延等の常法により圧延して麺帯を得、該麺帯から公知の麺線加工装置を用いて麺線を切り出すことによって実施可能であり、また、一軸押出製麺機や二軸押出製麺機等を用いた従来公知の押出製麺法によっても実施可能である。
【0012】
本発明の麺類は穀粉類を含有し、従って前記粉体原料には穀粉類、具体的には、穀粉及び澱粉が含まれる。尚、本発明における「穀粉類」には、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリンなどの難消化性澱粉類は包含されない。穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム粉、全粒粉、ふすま等の小麦粉の他、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等が挙げられる。澱粉としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉;前記各種澱粉にα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施した加工澱粉が挙げられる。本発明では、これらの穀粉類の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の麺類は、難消化性澱粉類を含有する。本発明で用いる難消化性澱粉類の代表的なものは、難消化性澱粉(レジスタントスターチ)である。難消化性澱粉は、消化酵素の消化作用に抵抗性を有し、健康な人の小腸内で消化・吸収されない澱粉及び部分分解物の総称である。難消化性澱粉は、各種の澱粉を物理的及び/又は化学的に加工することにより生成又は調製される。麺類の主原材料たる粉体原料に難消化性澱粉が含まれることで、麺類における糖質(炭水化物)の含有量が低減されカロリーの低減が図られ、生活習慣病の予防ないし改善などに役立つようになる。本発明では、当技術分野で公知の難消化性澱粉を使用することができ、その種類及び製造方法は特に限定されない。例えば、難消化性澱粉は、通常澱粉を澱粉分解酵素で限定加水分解した後、脱分枝化酵素を加えて反応させることにより得ることができる。具体的には、ジャガイモ、タピオカ、トウモロコシ等の澱粉をα-アミラーゼ等の澱粉分解酵素によって部分的に加水分解して得た中間生成物を温水に溶解し、イソアミラーゼ等の酵素によって脱分枝化すると共に、老化させてから酵素を不活性化し、若しくは酵素を不活性化してから老化させて、噴霧乾燥することにより得ることができる。
【0014】
本発明で用いる難消化性澱粉類には、難消化性澱粉の他に例えば、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンが含まれる。難消化性デキストリンは、澱粉を焙焼し、アミラーゼで加水分解した後、その中の難消化性成分を取り出して製造される水溶性の食物繊維である。還元難消化性デキストリンは、難消化性デキストリンの還元物であり、例えば、焙焼デキストリンを酵素消化して得た難消化性デキストリンを、水素添加により還元することで製造され、その製造方法としては特開平2-154664号公報を参考にすることができる。但し、前記の本発明の効果、特にざらついた食感を抑制する効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、難消化性澱粉類としては、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンよりも、難消化性澱粉が好ましい。
【0015】
前記粉体原料における難消化性澱粉類の含有量は、難消化性澱粉類を使用する意義即ち製造目的物たる麺類の低糖質化を考慮すると、該粉体原料の全質量に対して5質量%以上が好ましい。麺類のより一層の低糖質化を図る観点からは、粉体原料において難消化性澱粉類の含有量を5質量%よりも多くすることが望ましいが、多すぎると難消化性澱粉類の影響が強く出すぎる結果、難消化性澱粉類を配合した麺類に特有のざらついた食感が顕著になり、さらには茹で歩留まりの不安定化が顕著になる。以上を考慮すると、前記粉体原料における難消化性澱粉類の含有量は、該粉体原料の全質量に対して、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0016】
また、本発明の麺類の低糖質化の観点からは、前記粉体原料における穀粉類(穀粉及び澱粉)の含有量は、通常の麺類に比して少ないことが好ましい。斯かる観点から、粉体原料における穀粉類の含有量は、該粉体原料の全質量に対して、好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。
【0017】
本発明の麺類は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記の穀粉類及び難消化性澱粉類以外の他の成分を含有してもよい。本発明の麺類の主原材料たる前記粉体原料に含有可能な他の成分としては、例えば、小麦蛋白、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、膨張剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、アルコール、保存剤、酵素剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、小麦蛋白は、麺類(麺線)の強度や食味をより一層向上し得るため、本発明で好ましく用いられる。小麦蛋白としては、粉末状の小麦蛋白を好適に使用することができる。粉末状の小麦蛋白は、グルテンの蛋白質としての性質を変えずに、これを粉末にしたものであり、活性グルテンとも称される。
【0018】
本発明の麺類の主たる特徴の1つとして、イヌリンを含むコーティング剤が表面に付着している点が挙げられる。これにより、難消化性澱粉類を含有する麺類に特有のざらついた食感が効果的に抑制され、低糖質でありながらも食味食感に優れた麺類が得られる。イヌリンは、キク科植物の塊茎や球根などに含有される多糖類であり、果糖が多数重合した構造を有する。イヌリンが種々の重合度のイヌリンの混合物である場合、混合物中のイヌリンの鎖長は、平均重合度で表すことができる。本発明で用いるイヌリンは、平均重合度が10~30のものであることが好ましい。イヌリンは、イヌリンを含有する植物、例えばキクイモ、ダリア、ゴボウ、アザミ、ヤムイモ、チコリ等から抽出することができる。さらに、抽出されたイヌリンを分画(例えば、特開平9-324002号公報参照)することにより、所望の鎖長のイヌリンを得ることができる。イヌリンはまた、イヌリン合成酵素を用いて製造することもでき(例えば、特開2009-50281号公報参照)、又は市販品(例えば、フジ日本精糖株式会社製)を使用することもできる。イヌリンは、人が消化することのできない難消化性の多糖類であるため、ダイエット食品用素材、糖尿病食等としても使用され、また、腸内でのビフィズス菌の増殖促進に有効であるとされている。
【0019】
尚、本発明の麺類は、典型的には、前記粉体原料と水とを用いて常法に従って調製された未α化状態の生麺類に対し、加熱調理を施して得られる調理済み麺類であるところ、斯かる典型的な本発明の麺類においては、イヌリンを含むコーティング剤は、調理済み麺類の表面に付着している。
【0020】
麺類(調理済み麺類)におけるイヌリンの付着量は、イヌリンによる作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、少なくとも麺類の0.01質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。一方で、麺類におけるイヌリンの付着量が過剰量となると、イヌリンの甘味が食味に悪影響を及ぼすおそれがあることから、麺類におけるイヌリンの付着量は、該麺類の全質量に対して、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0021】
イヌリンを用いた麺類は特許文献1にも記載されているが、特許文献1に記載されているのは、イヌリンを即席油揚げ麺に内包させて油脂含量を低減させることであって、イヌリンがざらついた食感の低減に有効であることは記載されておらず、そもそも、そのざらつきの原因物質である難消化性澱粉類を麺類に配合することも記載されていない。また、本発明者の知見によれば、イヌリンを麺類に内包させた場合は、本発明のように麺類の表面に付着させた場合に比して、ざらつきの抑制効果に劣る。これは、後述する実施例と比較例との対比からも明らかである。
【0022】
イヌリンは常温で固体であり、これを含むコーティング剤の典型的な形態としては、イヌリンと水との混合物からなるイヌリンクリームが挙げられる。このイヌリンクリームは、水にイヌリンを溶解させ、必要に応じて冷却することで得られるクリーム状のコーティング剤である。イヌリンクリームにおけるイヌリンと水との含有質量比は、前者/後者として、好ましくは1/10~1/1、さらに好ましくは1/2~2/3である。また、コーティング剤におけるイヌリンの含有量は、ざらついた食感の低減と麺類の食味食感とのバランスの観点から、該コーティング剤の全質量に対して、好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0023】
コーティング剤は、イヌリンに加えてさらに、油脂を含有してもよい。コーティング剤にイヌリン及び油脂が含有されていることにより、ざらついた食感がより一層確実に低減され得る。コーティング剤に含有可能な油脂としては、食品分野において通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、ひまわり油、大豆油、綿実油、サラダ油、コーン油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、菜種油、米ぬか油、紅花油、ゴマ油、カポック油、ヤシ油、アマニ油、荏胡麻油、ぶどう油等の植物性油脂;牛脂、ラード、魚油、鯨油、バター等の乳脂肪等の動物性油脂;これらの油脂の1種以上を原料とする硬化油、分別油、エステル交換油等の加工油脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの油脂の中でも、大豆油は、麺に絡みやすく、食味に影響を与えにくいため、本発明で好ましく用いられる。
【0024】
コーティング剤における油脂の含有量は、コーティング剤による作用効果(ざらつき低減効果)をより確実に奏させるようにする観点から、該コーティング剤の全質量に対して、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。このコーティング剤の油脂含有量20質量%以上というのは、麺類の喫食時に併用されるソースの平均的な油脂含有量よりも多い量である。例えば、ナポリタン(トマトケチャップで味付けしたスパゲティ)で使用されるトマトソースにおける油脂含有量は通常10質量%前後、多くても15質量%以下程度である。一方で、コーティング剤中に油脂が過剰に含まれていると、特に、コーティング剤が後述するように乳化物である場合に、その乳化状態が不安定となるおそれがあることから、コーティング剤における油脂の含有量は、該コーティング剤の全質量に対して、好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0025】
コーティング剤は、乳化物であることが好ましい。即ち、コーティング剤の好ましい一実施形態は、少なくともイヌリン、油脂及び水を含有し、乳化されている。本発明者の知見によれば、麺類(調理済み麺類)の表面にコーティング剤として、乳化物ではなく油脂を単独で付着させた後、該麺類を冷凍すると、該麺類や該油脂の種類によっては、その冷凍工程中あるいは冷凍工程後の調理済み冷凍麺類の保存中に、該油脂が麺類の表面から脱落する場合がある。これに対し、コーティング剤として乳化物たる油脂組成物を用いた場合には、このような冷凍工程の存在に起因する不都合が生じ難く、コーティング剤による作用効果がより一層安定的に奏されるようになる。乳化物たるコーティング剤は、水中に油脂が粒子となって分散している水中油滴(O/W)型エマルションでもよく、油脂中に水が粒子となって分散している油中水滴(W/O)型エマルションでもよい。
【0026】
コーティング剤は、増粘多糖類を含有してもよい。コーティング剤に増粘多糖類が含有されていると、コーティング剤の粘性の向上により、コーティング剤の麺類表面への付着性が向上し、結果として、コーティング剤による作用効果がより一層安定的に奏されるようになる。尚、本発明の必須成分たるイヌリンは、一般に増粘多糖類として分類される場合があるが、ここでいう増粘多糖類、即ちイヌリンに加えて併用される増粘多糖類には、イヌリンは包含されない。増粘多糖類としては、食品分野において通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩類、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、アラビアガム、グルコマンナン、ガラクトマンナン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、寒天、カラギーナン、プルラン、カードラン、ジェランガム、こんにゃく粉、セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース等)、大豆多糖類、α化デンプン、α化加工デンプン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの増粘多糖類の中でも、キサンタンガムは、コーティング剤に適度な粘性を付与するため、本発明で好ましく用いられる。コーティング剤における増粘多糖類の含有量は、該コーティング剤の全質量に対して、好ましくは0.01~0.4質量%、さらに好ましくは0.04~0.15質量%である。増粘多糖類の含有量が少なすぎると、これを使用する意義に乏しく、増粘多糖類の含有量が多すぎると、食味食感が低下するおそれがある。
【0027】
コーティング剤には、前記のイヌリン、油脂、水及び増粘多糖類以外の他の成分を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で用いることができる。そのような他の成分としては、例えば、カゼイン、乳化剤、澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。コーティング剤は、イヌリン、油脂、水などの各種成分を混合することで調製可能であり、また、その混合は、必要に応じ混合物全体を加熱しつつ行ってもよい。
【0028】
尚、本発明で用いるコーティング剤はあくまで、難消化性澱粉類を含有する麺類に特有のざらついた食感を抑制する目的で麺類に付着される、いわば食味食感改良剤としての油剤であり、例えばナポリタンにおけるトマトソースのような、麺類の喫食時に併用される料理の一部としてのソースとは使用目的が異なり、自ずと、含有成分もソースとは異なるのが通常である。具体的には、本発明で用いるコーティング剤は通常、食塩、砂糖、アミノ酸、核酸、香辛料、香料等の調味料の含有量が、該コーティング剤の全質量に対して、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、最も好ましくはゼロである。
【0029】
本発明の麺類(調理済み麺類)におけるコーティング剤の付着量は、コーティング剤による作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、少なくとも麺類の1質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。一方で、麺類におけるコーティング剤の付着量が過剰量となると、食品としてのバランスに欠けることになる他、高カロリー化を招く結果として昨今の健康志向のニーズに対応し難くなり、難消化性澱粉類の配合による低糖質化の意義が損なわれることになりかねない。以上を考慮すると、麺類におけるコーティング剤の付着量は、該麺類の全質量に対して、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0030】
本発明の麺類は、典型的には、難消化性澱粉類を含有する未α化状態の生麺類を加熱調理し、その調理済み麺類(α化麺類)の表面に、イヌリンを含むコーティング剤を付着させる工程を経て製造される。
【0031】
前記の麺類の製造方法において、生麺類の加熱調理は、該生麺類の水分存在下での加熱処理(α化処理)であり、具体的には例えば、茹で処理、蒸し処理、油ちょう処理、熱風乾燥処理が挙げられ、これらの処理は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて行うことができる。典型的には、茹で処理及び/又は蒸し処理である。生麺類の加熱調理の一例として、98~100℃の湯で生麺類を茹でる処理が挙げられ、この場合の茹で時間は、生麺線の太さ等に応じて適宜調整することができる。
【0032】
また、前記の麺類の製造方法において、調理済み麺類の表面にコーティング剤を付着させる方法は特に制限されず、典型的な付着方法として、調理済み麺類とコーティング剤とを混ぜ合わせる方法が挙げられる。調理済み麺類の表面にコーティング剤を付着させる作業、具体的には例えば両者を混ぜ合わせる作業は通常、加熱を伴わずに非加熱で行われる。
【0033】
本発明の麺類は冷凍されていてもよい。即ち、前記の麺類の製造方法において、調理済み麺類の表面に対するコーティング剤の付着後に、該調理済み麺類を冷凍してもよく、斯かる冷凍工程により、長期保存が可能な調理済み冷凍麺類が得られる。斯かる冷凍工程は、公知の冷凍手段を用いて行うことができ、例えば、短時間で凍結させる急速冷凍でもよく、比較的ゆっくり凍結させる緩慢冷凍でもよい。製造目的物たる調理済み冷凍麺類の品質面の観点からは、急速冷凍が望ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(生麺類の調製)
粉体原料100質量部に対し、練り水として25℃の水30~33質量部を加え混練して麺生地を調製した。粉体原料の組成は、小麦粉(デュラム小麦粉、日清製粉株式会社製、「レオーネG」)35質量部、難消化性澱粉(松谷化学工業株式会社製、「パインスターチRT」)40質量部、加工澱粉(酢酸化タピオカ澱粉、松谷化学工業株式会社製、「松谷さくら2」)15質量部、小麦蛋白(日本コロイド株式会社製、「スーパーグル85H」)10質量部であり、粉体原料における難消化性澱粉の含有量は40質量%であった。調製した麺生地を、パスタ製造用の押出製麺機を用いて-600mmHgの減圧条件下で押出し圧100kgf/cm2で麺線に押出し、太さ1.8mmの生麺類としての生麺線(生パスタ)を得た。
【0036】
〔実施例1~16〕
生麺線(生パスタ)を沸騰水で6~8分間茹で調理し、湯から取り出して約15℃の水で30秒間水洗いした後、水切りした。こうして得られた調理済み麺類の麺塊と下記表1に示す組成のイヌリン含有剤(コーティング剤)とを非加熱下で混ぜ合わせることで、調理済み麺類の麺線表面にイヌリン含有剤を付着させた後、-40℃で急速冷凍して、調理済み冷凍麺類(調理済み冷凍パスタ)を得、これを庫内温度-20℃の冷凍庫に保存した。使用したイヌリン含有剤の組成を下記表1に示す。
【0037】
〔比較例1〕
イヌリン含有剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして調理済み冷凍麺類(調理済み冷凍パスタ)を得、これを庫内温度-20℃の冷凍庫に保存した。
【0038】
〔比較例2及び3〕
イヌリン含有剤を調理済み麺類の麺線表面に付着させずに内包させた以外は、実施例1と同様にして調理済み冷凍麺類(調理済み冷凍パスタ)を得、これを庫内温度-20℃の冷凍庫に保存した。具体的には、粉体原料100質量部に対し、練り水として25℃の水30~33質量部を加え混練して麺生地を調製した。粉体原料の組成は、小麦粉(デュラム小麦粉、日清製粉株式会社製、「レオーネG」)30質量部、難消化性澱粉(松谷化学工業株式会社製、「パインスターチRT」)40質量部、加工澱粉(酢酸化タピオカ澱粉、松谷化学工業株式会社製、「松谷さくら2」)15質量部、小麦蛋白(日本コロイド株式会社製、「スーパーグル85H」)10質量部、イヌリン(フジ日本精糖株式会社「フジFF」)5質量部であり、粉体原料における難消化性澱粉の含有量は40質量%であった。調製した麺生地を、パスタ製造用の押出製麺機を用いて-600mmHgの減圧条件下で押出し圧100kgf/cm2で麺線に押出し、太さ1.8mmの生麺類としての生麺線(生パスタ)を得た。
【0039】
【0040】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例で得られた調理済み冷凍麺類を、-20℃の冷凍庫に保存開始してから48時間後に取り出し、電子レンジで喫食可能な状態になるまで加熱解凍し、その解凍した調理済み麺類の食感を、10名の専門パネラー(麺類の食感を評価する業務に5年以上従事している者)に下記評価基準により評価してもらった。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表2に示す。
【0041】
<食感の評価基準>
5点:ざらつきを感じることなく、非常に良好。
4点:ざらつきが少なく、良好。
3点:ざらつきは少なめであり、やや良好。
2点:ざらつきがあり、不良。
1点:ざらつきが強く、非常に不良。
【0042】
【0043】
表2に示す通り、麺類に難消化性澱粉を含有させるとざらついた食感が強くなるが(比較例1)、各実施例のように、その麺線にイヌリン含有剤を付着させることで、ざらついた食感が効果的に抑制されることがわかる。一方で、比較例2及び3のように、難消化性澱粉を含有する麺線にイヌリン含有剤を内包させる方法は、ざらつき抑制効果に乏しい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の麺類は、難消化性澱粉類を含有し低糖質でありながらも、難消化性澱粉類を含有する麺類に特有のざらついた食感が抑制されており、食味食感に優れる。
また、本発明の麺類の製造方法は、このような高品質の本発明の麺類を効率よく製造することができる。