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特許7040176絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法
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  • 特許-絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220315BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220315BHJP
   H05K 3/44 20060101ALI20220315BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20220315BHJP
   H05K 1/02 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H05K3/44 A
H05K1/05 Z
H05K1/02 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018051619
(22)【出願日】2018-03-19
(65)【公開番号】P2019165097
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-214247(JP,A)
【文献】特開2008-227043(JP,A)
【文献】特開2006-303082(JP,A)
【文献】特開平6-53621(JP,A)
【文献】特開2016-4841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/12
H05K 3/44
H05K 1/05
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された熱硬化型樹脂を主成分とする絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記金属基板は、底面部と、この底面部から直交する方向に屹立した側壁部と、を備えており、
前記絶縁樹脂層および前記回路層は、前記底面部および前記側壁部に配設されており、
前記回路層は、金属材料からなり、前記絶縁樹脂層との接合界面に直交する方向における最小厚さが0.15mm以上2.0mm以下の範囲内とされており、
前記絶縁樹脂層は、前記金属基板の前記底面部および前記側壁部にわたって一体に形成されていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層は、前記金属基板との接合界面に直交する方向における最小厚さが0.01mm以上0.08mm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【請求項3】
前記絶縁樹脂層は、前記金属基板の前記側壁部の端部よりも外方に突出していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁回路基板。
【請求項4】
金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された熱硬化型樹脂を主成分とする絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、
前記金属基板は、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えており、
この金属基板の前記底面部および前記側壁部の一方の面に、熱硬化型樹脂を主成分とする樹脂組成物を配置する樹脂組成物配設工程と、
前記樹脂組成物を、第1加圧治具を用いて前記金属基板に向けて加圧し、前記金属基板と前記樹脂組成物を接合して絶縁樹脂層を形成する絶縁樹脂層形成工程と、
前記絶縁樹脂層の一方の面に前記回路層となる厚さ0.15mm以上2.0mm以下の範囲内の金属片を配置する金属片配設工程と、
前記金属片を、第2加圧治具を用いて前記絶縁樹脂層に向けて加圧し、前記金属片と前記絶縁樹脂層とを接合して回路層を形成する回路層形成工程と、
を有し、
前記第1加圧治具および前記第2加圧治具は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されていることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁樹脂層形成工程と、前記回路層形成工程と、を同時に実施することを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、硬化済みの熱硬化型樹脂であり、前記絶縁樹脂層形成工程においては、前記熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、硬化済みの熱硬化型樹脂からなる本体層と、この本体層の表面に形成された粘着層と、を備えていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、未硬化の熱硬化型樹脂であり、絶縁樹脂層形成工程において、前記熱硬化型樹脂を硬化させることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、底面部とこの底面部から屹立した側壁部とを備えた金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された熱硬化型樹脂を主成分とする絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路パターン状を有する回路層と、を備えた絶縁回路基板、および、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
上述の絶縁回路基板として、例えば特許文献1に記載された金属ベース回路基板が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された金属ベース回路基板においては、金属基板上に絶縁樹脂層が形成され、この絶縁樹脂層上に回路パターンを有する回路層が形成されている。ここで、絶縁樹脂層は、熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂で構成されており、回路層は、銅箔で構成されている。
この金属ベース回路基板においては、回路層上に半導体素子が接合され、金属基板の絶縁樹脂層とは反対側の面にヒートシンクが配設されており、半導体素子で発生した熱をヒートシンク側に伝達して放熱する構造とされている。
【0004】
また、特許文献2には、金属箔上に絶縁層を介し導体回路を設けた金属ベース基板であって、前記金属箔の厚さが5μm以上300μm以下、無機フィラーと熱硬化性樹脂を含有する前記絶縁層の厚さが80μm以上200μm以下、前記導体回路の厚さが9μm以上140μm以下とされたものが提案されている。
この金属ベース回路基板においては、屈曲性に優れていることから、筐体の側面や底面に密着させることができ、筐体の側面や底面からも熱を放散することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-207666号公報
【文献】特開2006-303082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の絶縁回路基板(金属ベース回路基板)において熱抵抗を低下させて放熱特性を向上させるためには、半導体素子等の熱源が搭載される回路層の厚さを厚くし、回路層で熱を拡げることが効果的である。
しかしながら、特許文献2に記載された金属ベース回路基板においては、導体回路の厚さが9μm以上140μm以下と比較的薄く形成されているので、導体回路(回路層)で熱を拡げることができず、放熱特性を向上させることができなかった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えた金属基板を備え、かつ、回路層で熱を拡げることができ、放熱特性に優れた絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の絶縁回路基板は、金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された熱硬化型樹脂を主成分とする絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記金属基板は、底面部と、この底面部から直交する方向に屹立した側壁部と、を備えており、前記絶縁樹脂層および前記回路層は、前記底面部および前記側壁部に配設されており、前記回路層は、金属材料からなり、前記絶縁樹脂層との接合界面に直交する方向における最小厚さが0.15mm以上2.0mm以下の範囲内とされており、前記絶縁樹脂層は、前記金属基板の前記底面部および前記側壁部にわたって一体に形成されていることを特徴としている。
【0009】
この構成の絶縁回路基板によれば、前記金属基板は、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えており、前記絶縁樹脂層および前記回路層は、前記底面部および前記側壁部に配設されているので、回路層上に搭載された半導体素子等の熱源の熱を、金属基板の底面部および側壁部から放熱することができる。
そして、前記回路層は、金属材料からなり、前記絶縁樹脂層との接合界面に直交する方向における最小厚さが0.15mm以上2.0mm以下の範囲内とされているので、回路層の厚さが確保されており、回路層において半導体素子等の熱源の熱を、面方向に拡げることができる。
よって、放熱特性に特に優れた絶縁回路基板を提供することが可能となる。
【0010】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記絶縁樹脂層は、前記金属基板との接合界面に直交する方向における最小厚さが0.01mm以上0.08mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、絶縁樹脂層の厚さが確保されることになり、前記回路層と前記金属基板との間の絶縁性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明の絶縁回路基板においては、前記絶縁樹脂層は、前記金属基板の前記側壁部の端部よりも外方に突出していることが好ましい。
この場合、前記回路層と前記金属基板との間の沿面距離が増加し、前記回路層と前記金属基板との間の絶縁性をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された熱硬化型樹脂を主成分とする絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、前記金属基板は、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えており、この金属基板の前記底面部および前記側壁部の一方の面に、熱硬化型樹脂を主成分とする樹脂組成物を配置する樹脂組成物配設工程と、前記樹脂組成物を、第1加圧治具を用いて前記金属基板に向けて加圧し、前記金属基板と前記樹脂組成物を接合して絶縁樹脂層を形成する絶縁樹脂層形成工程と、前記絶縁樹脂層の一方の面に前記回路層となる厚さ0.15mm以上2.0mm以下の範囲内の金属片を配置する金属片配設工程と、前記金属片を、第2加圧治具を用いて前記絶縁樹脂層に向けて加圧し、前記金属片と前記絶縁樹脂層とを接合して回路層を形成する回路層形成工程と、を有し、前記第1加圧治具および前記第2加圧治具は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されていることを特徴としている。
【0013】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、金属基板の前記底面部および前記側壁部の一方の面に、熱硬化型樹脂を主成分とする樹脂組成物を配置する樹脂組成物配設工程と、前記樹脂組成物を、第1加圧治具を用いて前記金属基板に向けて加圧し、前記金属基板と前記樹脂組成物を接合して絶縁樹脂層を形成する絶縁樹脂層形成工程と、を備えており、前記第1加圧治具は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されているので、樹脂組成物を金属基板の前記底面部および前記側壁部に向けて確実に加圧することができ、金属基板の前記底面部および前記側壁部と前記樹脂組成物とを確実に接合することができる。
【0014】
また、前記絶縁樹脂層の一方の面に前記回路層となる厚さ0.15mm以上2.0mm以下の範囲内の金属片を配置する金属片配設工程と、前記金属片を、第2加圧治具を用いて前記絶縁樹脂層に向けて加圧し、金属片と絶縁樹脂層とを接合して回路層を形成する回路層形成工程と、を備えており、前記第2加圧治具は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されているので、前記金属片を、金属基板の前記底面部および前記側壁部の一方の面に形成された前記絶縁樹脂層に向けて加圧することができ、金属基板の前記底面部および前記側壁部の一方の面に形成された前記絶縁樹脂層と回路層となる金属片とを確実に接合することができる。
【0015】
ここで、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記絶縁樹脂層形成工程と、前記回路層形成工程と、を同時に実施してもよい。
この場合、樹脂組成物配設工程と金属片配設工程とを実施した後に、前記絶縁樹脂層形成工程と前記回路層形成工程とを同時に実施することで、工程を省略することができ、効率的に絶縁回路基板を製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記樹脂組成物は、硬化済みの熱硬化型樹脂であり、前記絶縁樹脂層形成工程および前記回路層形成工程において、前記熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱する構成としてもよい。
この場合、前記樹脂組成物として硬化済の熱硬化型樹脂を用いており、前記絶縁樹脂層形成工程および前記回路層形成工程において前記熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱するので、硬化済みの熱硬化型樹脂からなる樹脂組成物と金属基板とを確実に接合し、絶縁樹脂層を形成することができる。また、絶縁樹脂層と金属片を確実に接合し、回路層を形成することができる。
【0017】
また、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記樹脂組成物は、硬化済みの熱硬化型樹脂からなる本体層と、この本体層の表面に形成された粘着層と、を備えているものとしてもよい。
この場合、前記絶縁樹脂層形成工程および前記回路層形成工程において加熱することなく加圧するのみで、硬化済の熱硬化型樹脂からなる樹脂組成物と金属基板とを確実に接合し、前記絶縁樹脂層を形成することができる。また、絶縁樹脂層と金属片を確実に接合し、回路層を形成することができる。
【0018】
さらに、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記樹脂組成物は、未硬化の熱硬化型樹脂であり、絶縁樹脂層形成工程において、前記熱硬化型樹脂を硬化させる構成としてもよい。
この場合、絶縁樹脂層形成工程において、前記熱硬化型樹脂を硬化させて絶縁樹脂層を形成することができるとともに、絶縁樹脂層と金属基板とを確実に接合することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えた金属基板を備え、かつ、回路層で熱を拡げることができ、放熱特性に優れた絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態である絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面説明図である。
図2】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示すフロー図である。
図3】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示す説明図である。
図5】実施例において絶縁回路基板の耐電圧性を評価する試験装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10、および、この絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0022】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
【0023】
はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
【0024】
絶縁回路基板10は、金属基板11と、金属基板11の一方の面に形成された絶縁樹脂層12と、絶縁樹脂層12の一方の面に形成された回路層13と、を備えている。
【0025】
金属基板11は、絶縁回路基板10に搭載された半導体素子3において発生した熱を面方向に拡げることによって、放熱特性を向上させる作用を有する。このため、金属基板11は、熱伝導性に優れた金属、例えば銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、無酸素銅の圧延板で構成されている。
ここで、金属基板11は、図1に示すように、底面部11aと、この底面部11aから屹立した側壁部11bと、を備えている。
【0026】
また、金属基板11(底面部11aおよび側壁部11b)の厚さt1は、0.05mm以上3mm以下の範囲内に設定されている。ここで、金属基板11(底面部11aおよび側壁部11b)の厚さt1の下限は、1.0mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましい。一方、金属基板11(底面部11aおよび側壁部11b)の厚さt1の上限は、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態においては、金属基板11の底面部11aの幅Wは10mm以上150mm以下の範囲内、側壁部11bの高さHが2.0mm以上10.0mm以下の範囲内とされている。また、側壁部11bは底面部11aから直交する方向に屹立したものとされている。
【0027】
絶縁樹脂層12は、回路層13と金属基板11との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性を有する熱硬化型樹脂で構成されている。本実施形態では、絶縁樹脂層12の強度を確保するために、フィラーを含有する熱硬化型樹脂が用いられている。ここで、フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることができる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂等を用いることができる。本実施形態では、絶縁樹脂層12は、フィラーとしてアルミナを含有するエポキシ樹脂で構成されている。
【0028】
本実施形態では、図1に示すように、絶縁樹脂層12は、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bにわたって形成されている。
また、絶縁樹脂層12の金属基板11との接合界面に直交する方向における最小厚さt2が0.01mm以上0.08mm以下の範囲内とされている。ここで、絶縁樹脂層12の金属基板11との接合界面に直交する方向における最小厚さt2の下限は、0.02mm以上であることが好ましく、0.04mm以上であることがさらに好ましい。一方、絶縁樹脂層12の金属基板11との接合界面に直交する方向における最小厚さt2の上限は、0.06mm以下であることが好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態では、絶縁樹脂層12は、図1に示すように、金属基板11の側壁部11bの端部よりも外方に突出した構造とされていることが好ましい。なお、絶縁樹脂層12の突出量Pは、0mm以上5.0mm以下の範囲内とされている。ここで、絶縁樹脂層12の突出量Pの下限は、1.0mm以上であることが好ましく、2.0mm以上であることがさらに好ましい。一方、絶縁樹脂層12の突出量Pの上限は、3.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
回路層13は、図4に示すように、絶縁樹脂層12の一方の面に、導電性に優れた金属からなる金属片23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層13を構成する金属片23として、無酸素銅の圧延板が用いられている。
この回路層13においては、上述の金属片23がパターン状に配置されることで回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
【0031】
そして、回路層13は、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの領域に形成されており、絶縁樹脂層12との接合界面に直交する方向における最小厚さt3が0.15mm以上2.0mm以下の範囲内とされている。ここで、回路層13の絶縁樹脂層12との接合界面に直交する方向における最小厚さt3の下限は、0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。一方、回路層13の絶縁樹脂層12との接合界面に直交する方向における最小厚さt3の上限は、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
以下に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、図2から図4を用いて説明する。
【0033】
(樹脂組成物配設工程S01)
まず、図3に示すように、底面部11aおよび側壁部11bを有する金属基板11の一方の面に、樹脂組成物22を配設する。本実施形態では、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの内側の面に沿うように、樹脂組成物22を配設している。
ここで、樹脂組成物22は、フィラーと熱硬化型樹脂とを含有するものとされており、本実施形態では、フィラーとしてのアルミナと熱硬化型樹脂としてのエポキシ樹脂と硬化剤とを含有する樹脂組成物を硬化させて、シート状に形成した硬化済みの熱硬化型樹脂とされている。なお、硬化済みの熱硬化型樹脂とは、JIS 7148-1(2015)に規定される「硬化反応率の測定方法」によって測定された硬化反応率が95%以上とされたものを指す。
【0034】
(絶縁樹脂層形成工程S02)
次に、図3に示すように、金属基板11の一方の面に樹脂組成物22を積層した状態で、樹脂組成物22の金属基板11とは反対側の面に当接されるように、第1加圧治具41を挿入する。そして、この第1加圧治具41によって、樹脂組成物22を金属基板11側に向けて加圧するとともに加熱し、樹脂組成物22と金属基板11とを接合して、絶縁樹脂層12を形成する。
なお、本実施形態では、図3に示すように、樹脂組成物22は、金属基板11の側壁部11bの端部よりも外方に突出して配置されている。
【0035】
ここで、絶縁樹脂層形成工程S02における加熱温度は、樹脂組成物22に含まれる熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上とする。本実施形態では、加熱温度が150℃以上250℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上60分以下の範囲内とされている。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上10MPa以下の範囲内とされている。
【0036】
そして、第1加圧治具41は、ポアソン比が0.4以上の材質で構成されている。これにより、第1加圧治具41によって樹脂組成物22を金属基板11の底面部11aに向けて加圧すると、第1加圧治具41が加圧方向と交差する方向に拡がるように変形し、樹脂組成物22が金属基板11の側壁部11bに向けて十分に加圧されることになる。
ここで、本実施形態では、絶縁樹脂層形成工程S02における加熱温度が樹脂組成物22に含まれる熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上(具体的には、150℃以上250℃以下)とされているので、十分な耐熱性を有する必要がある。
このため、本実施形態では、第1加圧治具41を、ポリテトラフルオロエチレン(PTEE)で構成している。
【0037】
(金属片配設工程S03)
次に、図4に示すように、絶縁樹脂層12の一方の面に、複数の金属片23を回路パターン状に配置する。本実施形態では、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの内側の面に形成された絶縁樹脂層12に沿うように、金属片23を配設している。
ここで、金属片23は、導電性に優れた金属材料からなる金属板を打ち抜いて形成されたものとされており、本実施形態では、無酸素銅の圧延板を打ち抜いたものとされている。この金属片23の厚さは、0.15mm以上2.0mm以下の範囲内とされている。
【0038】
(回路層形成工程S04)
次に、図4に示すように、絶縁樹脂層12の一方の面に金属片23を積層した状態で、金属片23の絶縁樹脂層12とは反対側の面に当接されるように、第2加圧治具42を挿入する。そして、この第2加圧治具42によって、金属片23を絶縁樹脂層12側に向けて加圧するとともに加熱し、金属片23と絶縁樹脂層12とを接合して、回路層13を形成する。
【0039】
ここで、回路層形成工程S04における加熱温度は、絶縁樹脂層12に含まれる熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上とする。本実施形態では、加熱温度が150℃以上250℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上60分以下の範囲内とされている。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上10MPa以下の範囲内とされている。
【0040】
そして、第2加圧治具42は、ポアソン比が0.4以上の材質で構成されている。これにより、第2加圧治具42によって金属片23を金属基板11の底面部11aに形成された絶縁樹脂層12に向けて加圧すると、第2加圧治具42が加圧方向と交差する方向に拡がるように変形し、金属片23が金属基板11の側壁部11bに形成された絶縁樹脂層12に向けて十分に加圧されることになる。
ここで、本実施形態では、回路層形成工程S04における加熱温度が絶縁樹脂層12に含まれる熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上(具体的には、150℃以上250℃以下)とされているので、十分な耐熱性を有する必要がある。
このため、本実施形態では、第2加圧治具42を、ポリテトラフルオロエチレン(PTEE)で構成している。
【0041】
上述した各工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0042】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層13に半導体素子3を接合する。本実施形態では、回路層13と半導体素子3とを、はんだ材を介して接合している。
以上の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板10によれば、金属基板11が、底面部11aと、この底面部11aから屹立した側壁部11bと、を備えており、絶縁樹脂層12および回路層13が、底面部11aおよび側壁部11bに配設されているので、回路層13上に搭載された半導体素子3の熱を、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bから放熱することができる。
さらに、回路層13が、金属材料(本実施形態では無酸素銅)からなり、絶縁樹脂層12との接合界面に直交する方向における最小厚さt3が0.3mm以上2.0mm以下の範囲内とされているので、回路層13において半導体素子3の熱を、面方向に拡げることができる。
よって、半導体素子3の熱を金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bを介して、効率良く放熱することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、絶縁樹脂層12は、金属基板11の側壁部11bの端部よりも外方に突出しているので、回路層13と金属基板11との間の沿面距離が増加し、回路層13と金属基板11との間の絶縁性をさらに向上させることができる。なお、絶縁樹脂層12の突出量Pが、0mm以上5.0mm以下の範囲内とされているので、確実に回路層13と金属基板11との間の絶縁性を向上させることができる。
【0045】
本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの一方の面に、熱硬化型樹脂を主成分とする樹脂組成物22を配置する樹脂組成物配設工程S01と、樹脂組成物22を、第1加圧治具41を用いて金属基板11に向けて加圧し、金属基板11と樹脂組成物22を接合して絶縁樹脂層12を形成する絶縁樹脂層形成工程S02と、を備えており、第1加圧治具41は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されているので、樹脂組成物22を金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bに向けて確実に加圧することができ、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bと絶縁樹脂層12とを確実に接合することができる。
【0046】
また、絶縁樹脂層12の一方の面に回路層13となる厚さ0.3mm以上2.0mm以下の範囲内の金属片23を配置する金属片配設工程S03と、金属片23を、第2加圧治具42を用いて絶縁樹脂層12に向けて加圧し、金属片23と絶縁樹脂層12とを接合して回路層13を形成する回路層形成工程S04と、を備えており、第2加圧治具42は、ポアソン比が0.4以上の材料で構成されているので、金属片23を、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの一方の面に形成された絶縁樹脂層12に向けて加圧することができ、金属基板11の底面部11aおよび側壁部11bの一方の面に形成された絶縁樹脂層12と、回路層13となる金属片23とを確実に接合することができる。
【0047】
さらに、本実施形態においては、樹脂組成物22として、フィラーとしてのアルミナと熱硬化型樹脂としてのエポキシ樹脂と硬化剤とを含有する樹脂組成物を硬化させて、シート状に形成した硬化済みの熱硬化型樹脂を用いており、絶縁樹脂層形成工程S02において、熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱する構成としているので、硬化済みの熱硬化型樹脂からなる樹脂組成物22と金属基板11とを確実に接合し、絶縁樹脂層12を形成することができる。
また、回路層形成工程S04において、熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱する構成としているので、金属片23と絶縁樹脂層12とを確実に接合し、回路層13を形成することができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、第1加圧治具41および第2加圧治具42を、ポリテトラフルオロエチレン(PTEE)で構成しているので、絶縁樹脂層形成工程S02および回路層形成工程S04において、熱硬化型樹脂のガラス転移温度以上に加熱しても、第1加圧治具41および第2加圧治具42が熱劣化することを抑制することができ、第1加圧治具41および第2加圧治具42を用いて確実に加圧することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0050】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、絶縁樹脂層が金属基板の側壁部の端部よりも突出する構成として説明したが、これに限定されることはなく、絶縁樹脂層が金属基板の側壁部の端部から突出していなくてもよい。
さらに、本実施形態では、側壁部が底面部から直交するように屹立したものを図示して説明したが、これに限定されることはなく、側壁部が傾斜して屹立したものであってもよい。このとき、第1加圧部材および第2加圧部材は、金属基板の形状に応じた形状とすることが好ましい。
【0052】
また、本実施形態では、絶縁樹脂層形成工程S02を実施した後に、金属片配設工程S03および回路層形成工程S04を実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、樹脂組成物配設工程S01の後に金属片配設工程S03を実施し、絶縁樹脂形成工程S02および回路層形成工程S04を同時に実施してもよい。このとき、金属片が配設されない箇所には、押圧用部材を配設し、金属基板11と樹脂組成物22とを全面で押圧するように構成することが好ましい。
【0053】
さらに、本実施形態では、樹脂組成物22として、シート状に形成した硬化済みの熱硬化型樹脂を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば、樹脂組成物22を、硬化済みの熱硬化型樹脂からなる本体層と、この本体層の表面に形成された粘着層と、を備えたものとしてもよい。この場合、金属片配設工程S03および回路層形成工程S04において、加圧するのみで、金属基板11と樹脂組成物22(絶縁樹脂層12)と金属片23とを接合することが可能となる。このため、第1加圧治具41および第2加圧治具42の材質を、耐熱性を考慮することなく選択することができ、例えばポリプロピレン等を適用することができる。
【0054】
また、樹脂組成物22として、シート状に形成した未硬化の熱硬化型樹脂を用いて、絶縁樹脂層形成工程S02において、未硬化の熱硬化型樹脂を硬化させて絶縁樹脂層12を形成してもよい。この場合、絶縁樹脂層形成工程S02においては、未硬化の熱硬化型樹脂からなる樹脂組成物22の全体を加圧できるように、第1加圧治具41の形状等を設計することが好ましい。
【実施例
【0055】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0056】
表1に示す金属基板を準備した。この金属基板は、底面部と、この底面部から屹立した側壁部と、を備えたものとされている。なお、金属基板の底面部の幅が10mm、側壁部の高さが2.0mmとされている。
【0057】
この金属基板の一方の面(底面部および側壁部)に、表1に示す樹脂組成物のシート材を配置した。なお、樹脂組成物としては、硬化済みの樹脂組成物(硬化反応率95%以上)、未硬化の樹脂組成物(硬化反応率95%未満)、硬化済みの樹脂組成物からなる本体層とアクリル系樹脂からなる粘着層(厚さ0.03mm)とを備えたものを使用した。
そして、表2に示すように、絶縁樹脂層形成工程として、第1加圧部材を用いて加圧するとともに加熱した。
【0058】
次に、絶縁樹脂層の一方の面に、表1に示す金属片を配設し、表2に示すように、回路層形成工程として、第2加圧部材を用いて加圧するとともに加熱した。これにより、絶縁樹脂層と金属片とを接合し、回路層を形成した。
以上の工程により、本発明例および比較例の絶縁回路基板を製造した。なお、このとき、絶縁樹脂層の厚さと絶縁樹脂層の金属基板の側壁部の端部からの突出量を、表3に示すものとした。
【0059】
なお、比較例1では、第1加圧部材および第2加圧部材として、ポアソン比が0.20とされたカーボンで構成されたものを用いた。
比較例2では、金属片の厚さ(回路層の厚さ)を0.035mmとした。
比較例3では、金属片の厚さ(回路層の厚さ)を0.1mmとした。
【0060】
そして、得られた絶縁回路基板について、熱抵抗、耐電圧性を、以下のようにして評価した。
【0061】
(熱抵抗)
熱抵抗は、次のようにして測定した。半導体素子としてヒータチップを接合し、ヒータチップを100Wの電力で加熱し、熱電対を用いてヒータチップの温度を実測した。また、ヒートシンクを流通する冷却媒体(エチレングリコール:水=9:1)の温度を実測した。そして、ヒータチップの温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とした。
【0062】
(耐電圧性)
図5に示すように、金属基板11をベース板61の上に載置し、回路層の上にプローブ62を接触させ、部分放電を評価した。測定装置として、三菱電線株式会社製の部分放電試験機を用いた。なお、試験雰囲気として、3M社製フロリナート(tm)FC-770中で実施した。
そして、電圧を0.5kVごとのステッププロファイル(保持時間30秒)で昇圧し、絶縁破壊が生じた電圧(漏れ電流が10mA以上となった電圧)を絶縁破壊電圧とした。評価結果を表3に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
第1加圧部材および第2加圧部材として、ポアソン比が0.20とされたカーボンで構成されたものを用いた比較例1においては、熱抵抗が6.0K/Wと高く、かつ、絶縁破壊電圧が2.0kVと低く、放熱性及び耐電圧性が不十分であった。
金属片の厚さ(回路層の厚さ)を0.035mmとした比較例2においては、熱抵抗が7.0K/Wと高く、放熱性が不十分であった。
金属片の厚さ(回路層の厚さ)を0.1mmとした比較例3においては、熱抵抗が6.0K/Wと高く、放熱性が不十分であった。
【0067】
これに対して、本発明の規定を満足する本発明例1-8においては、熱抵抗が5.0K/W以下、絶縁破壊電圧が6.0kV以上であり、放熱性及び耐電圧性に優れていた。
以上のことから、本発明例においては、放熱特性に優れた絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
10 絶縁回路基板
11 金属基板
11a 底面部
11b 側壁部
12 絶縁樹脂層
13 回路層
22 樹脂組成物
23 金属片
41 第1加圧治具
42 第2加圧治具
図1
図2
図3
図4
図5