(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】コバルトとアルミニウムの分離方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20220315BHJP
B09B 1/00 20060101ALI20220315BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220315BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220315BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20220315BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20220315BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220315BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20220315BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220315BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220315BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M10/54
B09B1/00 Z ZAB
B09B3/00 303Z
B09B3/00 304Z
B09B5/00 Z
C22B1/02
C22B3/08
C22B3/12
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2018055188
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳二
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-004884(JP,A)
【文献】特開2017-115179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
C22B 1/00 - 61/00
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトを含む正極活物質とアルミニウムを含む正極集電材とを有するリチウムイオン二次電池から、コバルトとアルミニウムを分離するコバルトとアルミニウムの分離方法であって、
前記リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、
熱処理を行った前記リチウムイオン二次電池を粉砕および分級し、前記正極活物質と前記正極集電材とを含む正極材料を得る粉砕選別工程と、
アルカリ性物質を溶解させたアルカリ水溶液に前記正極材料を浸漬して水溶性のアルミニウム化合物を生成させ、該水溶性のアルミニウム化合物を前記アルカリ水溶液に溶出させるアルミニウム分離工程と、
前記アルカリ水溶液を分離した後の第1残渣を無機酸に溶解しpH調整して
、硫化物を加えて硫化銅を沈澱、分離させて、コバルト溶出液を得るコバルト分離工程
と、を備えることを特徴とするコバルトとアルミニウムの分離方法。
【請求項2】
前
記アルミニウム分離工程において、前記アルカリ水溶液の前記アルカリ性物質の濃度は0.5規定以上であり、前記正極材料1kgに対して前記アルカリ水溶液を25L以上用いることを特徴とする請求項1に記載のコバルトとアルミニウムの分離方法。
【請求項3】
前記コバルト分離工程において、前記アルカリ水溶液を分離した後の第1残渣を無機酸に溶解しpH4.5以上にpH調整してコバルト溶出液を得ることを特徴とする請求項1または2に記載のコバルトとアルミニウムの分離方法。
【請求項4】
前記コバルト溶出液を分離した後の第2残渣をpH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行い、洗浄したリパルプ液を前
記コバルト分離工程の酸浸出に繰り返す洗浄工程を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のコバルトとアルミニウムの分離方法。
【請求項5】
前
記アルミニウム分離工程において、前記アルカリ性物質がアルカリ金属水酸化物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のコバルトとアルミニウムの分離方法。
【請求項6】
前
記アルミニウム分離工程において、前記水溶性のアルミニウム化合物がアルミン酸化合物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のコバルトとアルミニウムの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルトとアルミニウムとを確実に分離して、コバルトを高い回収率で回収することを可能にするコバルトとアルミニウムの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、各種電子機器等の小型の物から電気自動車等の大型の物まで、幅広い分野の電源として利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池が廃棄された際には、有用な金属を回収して再利用することが求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極材と正極材とを、多孔質のポリプロピレン等のセパレータで分画し層状に重ね、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質および電解液と共にアルミニウムやステンレス等のケースに封入して形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材は銅箔などからなる負極集電体にバインダーが混合された黒鉛などの負極活物質を塗布して形成されている。また、正極材はアルミニウム箔などからなる正極集電体にバインダーが混合されたマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの正極活物質を塗布して形成されている。
【0005】
このようにリチウムイオン二次電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル等の有価金属が多く含まれているが、リサイクル過程で予め粉砕分離された正極活物質には、正極集電体であるアルミニウムが付着している。このアルミニウムを除去せずに溶媒抽出によりコバルトを精製すると、コバルトにアルミニウムが同伴し、回収したコバルトの純度が低下する。回収するコバルトの純度を高めるためには、正極活物質に付着したアルミニウムだけを予め回収しておくことが望ましい。
【0006】
正極活物質に含まれるコバルトと、これに付着したアルミニウムとを分離して回収する方法として、例えば、特許文献1には、正極集電体が付着した正極活物質にアルカリ水溶液を加えた後、pHを5.0程度に保つことでアルミニウムを水酸化アルミニウムにして沈殿させ、残りの残渣からコバルトを回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された回収方法では、水酸化アルミニウムを生成させてアルカリ水溶液に沈殿させる際に、正極活物質に含まれるコバルトの一部も水酸化物になって、水酸化アルミニウムと混合した状態で沈殿する。このため、単離されたコバルトの回収率が低いという課題があった。
【0009】
また、特許文献1に開示された回収方法では、リチウムイオン二次電池に含まれるLiPF6などの電解質に由来するフッ素とアルミニウムとが錯イオンを形成するために、水酸化アルミニウムの生成が抑制され、コバルトとアルミニウムとを高精度に分離することが困難であるという課題もあった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルトとアルミニウムとを高精度に分離して回収することが可能なコバルトとアルミニウムの分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法は、 コバルトを含む正極活物質とアルミニウムを含む正極集電材とを有するリチウムイオン二次電池から、コバルトとアルミニウムを分離するコバルトとアルミニウムの分離方法であって、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、熱処理を行った前記リチウムイオン二次電池を粉砕および分級し、前記正極活物質と前記正極集電材とを含む正極材料を得る粉砕選別工程と、アルカリ性物質を溶解させたアルカリ水溶液に前記正極材料を浸漬して水溶性のアルミニウム化合物を生成させ、該水溶性のアルミニウム化合物を前記アルカリ水溶液に溶出させるアルミニウム分離工程と、前記アルカリ水溶液を分離した後の第1残渣を無機酸に溶解しpH調整して、硫化物を加えて硫化銅を沈澱、分離させて、コバルト溶出液を得るコバルト分離工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法によれば、アルミニウム分離工程で、正極材料をアルカリ水溶液に浸漬して水溶性のアルミニウム化合物にして予め回収した。これにより、後工程で正極材料の残渣からコバルトを分離する際に、アルミニウムの含有量が減少しているので、後工程での残留アルミニウム除去操作が容易になり、コバルトとアルミニウムとを効率的に分離することが可能になる。
【0013】
また、本発明では、前記アルミニウム分離工程において、前記アルカリ水溶液の前記アルカリ性物質の濃度は0.5規定以上であり、前記正極材料1kgに対して前記アルカリ水溶液を25L以上用いることが好ましい。
【0014】
また、本発明では、前記コバルト分離工程において、前記アルカリ水溶液を分離した後の第1残渣を無機酸に溶解しpH4.5以上にpH調整してコバルト溶出液を得ることが好ましい。
【0015】
また、本発明では、前記コバルト溶出液を分離した後の第2残渣をpH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行い、洗浄したリパルプ液を前記コバルト分離工程の酸浸出に繰り返す洗浄工程を備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明では、前記アルミニウム分離工程において、前記アルカリ性物質がアルカリ金属水酸化物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明では、前記アルミニウム分離工程において、前記水溶性のアルミニウム化合物がアルミン酸化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の正極活物質に含まれるコバルトとアルミニウムとを高精度に分離して回収することを可能にするコバルトとアルミニウムの分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法を含むリチウムイオン二次電池の正極活物質のリサイクル方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のコバルトとアルミニウムの分離方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
図1は、本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法を含むリチウムイオン二次電池の正極活物質のリサイクル方法を段階的に示したフローチャートである。
まず、廃棄されたリチウムイオン二次電池(以下、廃LIBと称する)を構成する正極活物質を分離する前処理工程として、廃LIBを加熱炉で例えば約500℃程度まで加熱して熱処理を行う(熱処理工程)。熱処理は、真空加熱でも常圧加熱でも良い。廃LIBは、バインダー及び電解液の存在により正極活物質や負極活物質と、集電体であるアルミニウム箔や銅箔との付着力が大きい。このため、熱処理工程を行うことによって、これら活物質と集電体との分離を容易にする。
【0022】
次に、熱処理後の廃LIBを粉砕した後、篩分けによって正極活物質を選別分離する(粉砕選別工程)。廃LIBの粉砕は、例えば、二軸剪断破砕機やハンマーミルを用いて行う。
【0023】
そして、粉砕した廃LIBを、適切な目開きの篩を用いて分級し,電池容器,アルミニウム箔,銅箔,ニッケル端子を篩の上産物として、正極活物質(LiCoO2など)および負極活物質(グラファイト)を篩の下産物として回収する。この時、分離された正極活物質には、正極集電体であるアルミニウム箔の一部が分離されずに付着した状態になっている。この後、比重差などによって、正極活物質と負極活物質とを分離し、正極活物質の一部に正極集電体が付着した粉体状の正極材料を得る。
【0024】
次に、粉砕選別工程で分離された正極材料をアルカリ水溶液に浸漬する(アルミニウム分離工程)。アルカリ水溶液は、アルカリ性物質を水に溶解させたものである。アルカリ性物質としては、例えば、アルカリ金属水酸化物を用いることができる。本実施形態では、アルカリ性物質として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた。アルカリ水溶液におけるアルカリ性物質の濃度は0.5規定以上であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の用量としては、正極材料1kgに対してアルカリ水溶液を25L以上、より好ましくは50L以上用いる。
【0025】
アルミニウム分離工程では、正極材料をアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する。これにより、正極活物質に付着している正極集電体であるアルミニウムを水酸化ナトリウムと化合させて、アルミン酸化合物であるアルミン酸ナトリウム(二酸化アルミニウムナトリウム:NaAlO2)に変化させる。アルミン酸化合物は、水に易溶性であり、水溶液中ではテトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム(Na[Al(OH)4])として存在する。
【0026】
アルミニウム分離工程によって、正極材料に含まれるアルミニウムの多くは、アルカリ水溶液にアルミン酸化合物として溶解し水相に移行する。一方、アルミン酸化合物を含むアルカリ水溶液に固相として沈殿する第1残渣には、コバルトを含む正極活物質の構成材料がアルカリ水溶液に溶出することなく留まる。
【0027】
アルミニウム分離工程では、アルカリ水溶液のpHとアルミン酸化合物との溶解度の関係を考慮する必要があり、例えば、アルミン酸化合物の溶解度が0.1mol/L以上となる領域はpH14付近になる。しかしながら、アルカリ水溶液をpH14程度にするためには、水1L当たりのアルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウムが多量に必要となり、処理コストが大きく増大する。
【0028】
従って、より低いpHのアルカリ水溶液を多く用いて、アルミン酸化合物の絶対的な溶解量を増やしたほうが経済的である。このため、アルカリ水溶液のアルカリ性物質の濃度を0.5規定以上にして、正極材料1kgに対してアルカリ水溶液を25L以上用いることにより、正極活物質に付着しているアルミニウムの殆どを確実に溶解でき、かつ、アルカリ性物質の使用量を最小限にして、低コストにコバルトとアルミニウムとを分離することができる。
【0029】
この後、第1残渣とアルミン酸化合物が溶解したアルカリ水溶液とを濾別して分離する、そして、アルミニウムを含むアルカリ水溶液(水相)を回収する。アルミニウムがアルミン酸化合物として溶解したアルカリ水溶液は、例えば、乾燥工程などによって、アルミン酸化合物としてアルミニウムを回収することができる。
【0030】
次に、アルミニウム分離工程を経た第1残渣を無機酸に溶解した溶解液をpH4.5以上になるようにpH調整を行ったコバルト溶出液を形成する(コバルト分離工程)。
コバルト分離工程では、まず、アルミニウム分離工程で得られた第1残渣を無機酸(鉱酸)に浸漬して、第1残渣に含まれる金属成分であるコバルト、ニッケル、マンガンなどを無機酸に溶解する。無機酸としては、例えば硫酸が用いられる。例えば、50~70℃程度に加熱された硫酸に第1残渣を1~3時間程度浸漬する。これにより、コバルトを含む金属成分が硫酸に溶解する。ここでpH調整に用いる水として、後述する洗浄工程で生じるリパルプ液をリサイクル利用することができる。
【0031】
次に、このコバルトを含む金属成分が溶解した硫酸溶液をNaOH溶液でpH調整を行い、pH4.5以上の浸出液を得る。本実施形態では、例えば、pH調整によって金属成分が溶解した硫酸(浸出液)のpHを5.0にしている。
【0032】
そして、この浸出液に硫化物を加えて硫化銅を沈澱させ、沈殿を固液分離する。硫化物としては硫化水素、水硫化物などを用いることができる。例えば、pH5.0の浸出液に、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が-15~135mVになるように、好ましくはORPが0~50mVになるように、硫化物を添加して硫化銅を沈澱させる。ORPが-15mV未満ではコバルトの硫化物が生成し、135mVを上回ると硫化銅の生成が不十分になる。
【0033】
この後、固液分離によって、液相がコバルト溶出液として回収される。得られたコバルト溶出液は、精製工程などでニッケルやマンガンなどと分離された後、精製コバルトとしてリサイクル利用することができる。
【0034】
一方、固液分離によって得られた、残存コバルトを含有する第2残渣は、水を加えて再懸濁させ、pH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行う。(洗浄工程)。洗浄工程でのpH調整は、無機酸、例えば硫酸を用いればよい。この後、リパルプ洗浄した第2残渣を固液分離し、リパルプ液とリパルプ残渣とを得る。
【0035】
リパルプ液は、洗浄工程で回収したコバルトを含むことから、コバルト分離工程における第一残渣を無機酸に溶解する際に用いる希流酸の溶液として利用し、コバルト分離工程のpH調整時に回収できなかったコバルトをコバルト分離工程へと繰り返す。一方、リパルプ残渣は、アルミニウム、銅などの金属成分が含まれており、後工程でこれら金属成分を精製分離してリサイクル利用してもよい。
【0036】
以上のように、本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法によれば、アルミニウム分離工程で、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料をアルカリ水溶液に浸漬して、正極集電材に含まれるアルミニウムをアルミン酸化合物にして分離、回収した。これにより、後工程で得られるコバルトを含むコバルト溶出液は、アルミニウムや、アルミニウムと錯イオンを形成するフッ素の含有量が減少しているので、このコバルト溶出液に残っているアルミニウムの除去操作が容易になり、コバルトの回収率及び純度を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0038】
本発明のコバルトとアルミニウムの分離方法の効果を検証した。
以下に示す本発明の実施例1-3と、従来の比較例1、2にそれぞれ示す手順に従って、廃LIBから正極活物資を取り出して、コバルトとアルミニウムの分離を行った。
【0039】
(実施例1)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15gを3つ用意し、3種類の濃度(0.5規定、1規定、2規定)の水酸化ナトリウム水溶液400mlにそれぞれ浸漬した。そして、アルミン酸化合物としてアルミニウムを水相に移行させて固液分離し、固相の第1残渣を245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH5.00までpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行い、コバルト溶出液を得た。
【0040】
3種類の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルミニウムをアルミン酸化合物として溶解した水溶液(アルカリ溶解液)、および銅を沈澱させた後の液相であるコバルト溶出液について、金属元素およびフッ素の濃度を測定した。水酸化ナトリウム水溶液が0.5規定、1規定、2規定の場合のそれぞれの結果を表1-3に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
この実施例1の結果によれば、アルミニウムの多くはアルカリ溶解液に移行し、コバルト溶出液に残ったアルミニウムの濃度が大きく低減されていることが確認された。また、正極材料のアルミニウムを予め溶出させるための水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.5規定以上必要であり、それ以上に濃度を上げてもアルミニウムの溶出効果は大きく変わらないことが確認された。
【0045】
(実施例2)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15gを3つ用意し、0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液400ml,600ml,800mlにそれぞれ浸漬した。そして、アルミン酸化合物としてアルミニウムを水相に移行させて固液分離し、固相の第1残渣を245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH5.00までpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行い、コバルト溶出液を得た。
【0046】
上述した実施例2において、浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH5.00にpH調整する前、およびpH調整した後のそれぞれの試料についてアルミニウムの濃度を測定した結果を
図2に示す。なお、
図2では各試料により液量が変化したためコバルト濃度20g/Lが基準となるようにアルミニウム濃度を補正した。さらに、水酸化ナトリウム水溶液0mlの結果は、水酸化ナトリウム水溶液によるアルミニウム溶出を行わなかった場合の参考例である。
【0047】
この実施例2の結果によれば、水酸化ナトリウム水溶液によるアルミニウム溶出において、水酸化ナトリウム水溶液の液量が多いほど、コバルト溶出液に含まれるアルミニウム濃度を低減できることが確認された。また、浸出液をpH5.00までpH調整を行うことによって、アルミニウム濃度を低減できることが確認された。例えば、正極材料15gに対し800mlの0.5規定水酸化ナトリウム水溶液でアルミニウムを溶出させておくと、pH調整後のアルミニウム濃度を50mg/L以下にできることが分かった。
【0048】
(実施例3)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15gを0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液800mlに浸漬した。そして、アルミン酸化合物としてアルミニウムを水相に移行させて固液分離し、固相の第1残渣を245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH2.9~5.2の範囲でpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行い、コバルト溶出液を得た。
【0049】
それぞれのpHでpH調整を行った後のコバルト溶出液について、アルミニウムの濃度を測定した。この結果を
図3に示す。なお、
図3ではpH調整後の液量が試料ごとに変化したためコバルト濃度20g/Lが基準となるようにアルミニウム濃度を補正した。また、同様にコバルト、ニッケル、マンガンの濃度を測定した。この結果を
図4に示す。
【0050】
図3によれば、金属成分を浸出させた後のpH調整において、pHを4.5以上となるようにpH調整を行えばコバルト溶出液中のアルミニウムの濃度が低減できることがわかるが、さらに好ましくはpH5.0以上とすることでアルミニウム濃度を50mg/L以下にできることが確認された。一方、コバルトの浸出の観点からは、pH5.2以下が好ましく、さらに好ましくは4.5以下である。コバルトの回収は後工程の第2残渣からリパルプ液としてコバルトを回収しコバルト分離工程に繰り返すことにより可能である。結局、pHは4.5以上が好ましく、さらにpH5.2以上が好ましい。
pH5.2におけるコバルト溶出液のコバルト回収率は廃LIB中コバルトに対して92%であった。コバルト含有リパルプ液をコバルト分離工程に繰り返さなくともコバルト回収率92%は確保できるが、繰り返した方がよりコバルト回収率が高くなり望ましい。コバルトをリパルプ液繰返しにすることでコバルト回収率がさらに上昇できることを実施例4にて確認した。
【0051】
(実施例4)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15g(コバルト含有量18質量%)を0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液800mlに浸漬した。そして、アルミン酸化合物としてアルミニウムを水相に移行させて固液分離し、固相の第1残渣を245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH5.9までpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行い、コバルト溶出液を得た。そして、固液分離後の固相である第2残渣に水を加えて再懸濁させ、pH4.3にしてリパルプ洗浄を行った。そして、リパルプ洗浄後に固液分離を行って得られたリパルプ液100mlを、次回の正極材料から金属成分を浸出させる工程におけるpH調整するための水に用いた。こうしたリパルプ液のリサイクル利用を4回繰り返した。
【0052】
リパルプ液のリサイクル利用を4回繰り返した際の、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルミニウムを溶解した水溶液(アルカリ溶解液)、およびpH調整後のコバルト溶出液中コバルト濃度について測定した。この結果を表4に示す。
【0053】
【0054】
リパルプ液のpHを4.3と低くして、リパルプ液中コバルト濃度を高め、コバルト回収率を上昇させた。
実施例3のリパルプ液の繰り返しがない場合のコバルト溶出液のコバルト回収率は92であった。リパルプ液の繰り返しを行った実施例4のコバルト溶出液の回収率の平均値は98%であった。リパルプ液の繰り返しによりコバルト回収率が100%近くに達成できることを確認した。
【0055】
(比較例1)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15gを245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH5.2までpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行った。
【0056】
銅を沈澱させた後の液相であるコバルト溶出液について、金属元素およびフッ素の濃度を測定した。この結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
比較例1の結果によれば、フッ素濃度が高いためアルミニウムと錯イオンを形成するため、実施例1に比して、コバルト溶出液に高い濃度でアルミニウムが残留している。
【0059】
(比較例2)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質及び負極活物質の粗分離を行い、正極活物質と正極集電材とを含む正極材料を得た。この正極材料15gを245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH3.8~5.7の範囲でpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて固液分離を行った。
【0060】
銅を沈澱させた後の液相であるコバルト溶出液について、アルミニウムの濃度を測定した。この結果を
図5に示す。なお、
図5は実施例3同様にコバルト濃度20g/Lが基準となるようにアルミニウム濃度を補正した。また、同様にコバルト、ニッケル、マンガンの濃度を測定した。この結果を
図6に示す。
【0061】
比較例2の結果によれば、コバルト溶出液のコバルト濃度20g/Lに対して、アルミニウム濃度100mg/L以下までアルミニウムを除去するには、pH調整時にpH5.7以上にする必要がある。しかし、pH5を超えるとコバルトの回収率が顕著に低下し、pH5.7ではコバルトが30%も損失する。比較例2では、コバルトとアルミニウムとを効率的に分離することが難しいことが分かった。