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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】錫めっき付銅端子材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/50 20060101AFI20220315BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220315BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D7/00 H
C25D5/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018067620
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178365
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 芙弓
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄基
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056424(JP,A)
【文献】特開2010-168598(JP,A)
【文献】特開平11-350188(JP,A)
【文献】特開2002-069688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/50
C25D 7/00
C25D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材の上に、ニッケル又はニッケル合金層、銅錫合金層、錫層がこの順に積層されてなる錫めっき付銅端子材であって、前記錫層は、平均厚みが0.2μm以上1.2μm以下であり、前記銅錫合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnの銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層であり、平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下であり、前記錫層の表面に、前記銅錫合金層の一部が露出しているとともに、錫凝固部が島状に存在しており、該錫凝固部は、前記錫層の表面に沿う方向の平均直径が10μm以上1000μm以下であり、前記錫層表面に対する面積率が1%以上90%以下であることを特徴とする錫めっき付銅端子材。
【請求項2】
前記錫凝固部の厚みが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1記載の錫めっき付銅端子材。
【請求項3】
前記錫凝固部を除く部分の前記錫層の表面に対して、前記銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の錫めっき付銅端子材。
【請求項4】
銅又は銅合金からなる基材上に、ニッケルまたはニッケル合金めっき層、銅めっき層及び錫めっき層をこの順で形成した後に、リフロー処理することにより、前記基材の上にニッケル又はニッケル合金層、銅錫合金層、錫層が順に積層されてなる錫めっき付銅端子材を製造する方法であって、前記ニッケル又はニッケル合金めっき層の厚みを0.05μm以上1.0μm以下とし、前記銅めっき層の厚みを0.05μm以上0.40μm以下とし、前記錫めっき層の厚みを0.5μm以上1.5μm以下とし、前記リフロー処理は、20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上に加熱する一次熱処理の後に、0℃/秒以上19℃/秒以下の昇温速度で240℃以上300℃以下の温度1秒以上15秒以下の時間加熱する二次熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理工程の後に、30℃/秒以下の冷却速度で2秒以上15秒以下の間冷却する一次冷却工程と、該一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有することを特徴とする錫めっき付銅端子材の製造方法。
【請求項5】
前記リフロー処理は、前記ニッケルまたはニッケル合金めっき層、前記銅めっき層及び前記錫めっき層を施した前記基材をその面方向に走行させながら、該基材の表面に、その走行方向に沿って熱風を吹き付けることにより前記基材の表面を加熱することを特徴とする請求項4記載の錫めっき付銅端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子、特に多ピンコネクタ用の端子として有用な錫めっき付銅端子材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車業界では、急速に電装化が進行し、電装機器の多機能・高集積化に伴い、使用するコネクタの小型・多ピン化が顕著になっている。コネクタが多ピン化すると、単ピンあたりの挿入力は小さくても、コネクタを装着する際にコネクタ全体では大きな力が必要となり、生産性の低下が懸念されている。そこで、錫めっき付き端子材の摩擦係数を小さくして単ピンあたりの挿入力を低減することが試みられている。
このような要求にこたえるものとして、例えば特許文献1の端子材が提案されている。この端子材は、表面の錫層の下に銅錫金属間化合物を柱状に成長させ、錫層表面に均一微細に露出させることにより、動摩擦係数を低減し、挿入力の低減を可能とするものである。
また、特許文献2では、錫層の表面に放射状の錫凝固組織を35mm当たり1個存在させることにより、最表面の圧延直角方向の表面粗さRaを0.05μm以下にすることが開示されている。この放射状の錫凝固組織は、錫めっき等を施した基材をリフロー処理して所定温度まで加熱した後、冷却水を噴霧することによって形成され、表面粗さを小さくするとされている。この特許文献2においても、銅錫合金層が錫層の表面に40%以下の面積率で露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-240520号公報
【文献】特開2016-156051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コネクタのさらなる多ピン化や電装機器の小型化による通電量の増加、エンジンルーム付近など高温環境での使用が増加しており、端子の高い耐熱性も求められている。この点、前述の先行技術のものでは、高温で長時間置かれた場合に、表面に露出した銅錫合金が酸化し、接触抵抗が増大するおそれがあるため、高温での長時間使用には適していると言い難かった。そこで、高温で長時間使用されても接触抵抗の増加が少ない材料が求められている。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、端子としての電気接続特性、挿抜性を良好に維持しながら、高温時の接触抵抗の増大を抑え、高温信頼性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、表面に意図的に錫の凝集部分を設けることにより、高温で長時間使用された後でも接触抵抗の増加が抑えられることを見出した。すなわち、本発明の錫めっき付銅端子材は、銅又は銅合金からなる基材の上に、ニッケル又はニッケル合金層、銅錫合金層、錫層がこの順に積層されてなる錫めっき付銅端子材であって、前記錫層は、平均厚みが0.2μm以上1.2μm以下であり、前記銅錫合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnの銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層であり、平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下であり、前記錫層の表面に、前記銅錫合金層の一部が露出しているとともに、前記錫層表面から隆起した錫凝固部が島状に存在しており、該錫凝固部は、前記錫層の表面に沿う方向の平均直径が10μm以上1000μm以下であり、前記錫層表面に対する面積率が1%以上90%以下である。
【0007】
錫層の平均厚みを0.2μm以上1.2μm以下としたのは、0.2μm未満では電気的接続信頼性の低下を招き、1.2μmを超えると表層を錫と銅錫合金の複合構造とすることができず、錫だけで占められるので動摩擦係数が増大するためである。錫層の上限厚みは望ましくは1.1μm以下、より望ましくは1.0μm以下である。
銅錫合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnの銅の一部がニッケルに置換した(Cu,Ni)Sn合金が存在することにより、錫層との界面を急峻な凹凸形状とすることができる。また、銅錫合金層の平均結晶粒径を0.2μm以上1.5μm以下としたのは、0.2μm未満では銅錫合金層は微細になり過ぎてしまい、表面に露出するほど縦方向(表面法線方向)に十分に成長していないため、端子材表面の動摩擦係数を0.3以下とすることができず、1.5μmを超えると横方向(表面法線方向に直交する方向)に大きく成長し、急峻な凹凸形状とならず、同様に動摩擦係数を0.3以下とすることができない。銅錫合金層の平均結晶粒径の下限は望ましくは0.3μm以上、より望ましくは0.4μm以上、さらに望ましくは0.5μm以上である。また、銅錫合金層の平均結晶粒径の上限は望ましくは1.4μm以下、より望ましくは1.3μm以下、さらに望ましくは1.2μm以下である。
【0008】
また、錫層表面に銅錫合金層の一部が露出しているが、これとは別に錫凝固部が島状に存在しており、この錫凝固部が存在している部分では高温使用時も錫が残留するため、その部分の銅錫合金の酸化の広がりが抑制され、接触抵抗の増大を抑えることができる。この場合、錫凝固部の平均直径が10μm未満又は錫凝固部の面積率が1%未満では、接触抵抗の増大を抑える効果に乏しく、平均直径が1000μmを超え、あるいは面積率が90%を超えると、表面の摩擦係数が大きくなって挿抜性が損なわれる。
【0009】
本発明の錫めっき付銅端子材の好ましい実施態様として、前記錫凝固部の最大厚みが0.1μm以上10μm以下であるとよい。
錫凝固部の最大厚みが0.1μm未満であると高温時の接触抵抗の増大抑制効果が乏しくなり、10μmを超えると摩擦係数が増大し易い。錫凝固部の最大厚みは0.3μm以上8.0μm未満が好ましい。より好ましくは、0.5μm以上7.0μm以下である。
【0010】
本発明の錫めっき付銅端子材の好ましい実施態様として、前記錫凝固部を除く部分の前記錫層の表面に対して、前記銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であるとよい。
錫層の表面における銅錫合金層の露出面積率が1%未満では動摩擦係数を0.3以下とすることが困難であり、60%を超えると、電気接続特性が低下するおそれがある。面積率の下限は望ましくは1.5%以上、上限は50%以下である。より望ましくは、下限は2%以上、上限は40%以下である。
【0011】
本発明の錫めっき付銅端子材の製造方法は、銅又は銅合金からなる基材上に、ニッケルまたはニッケル合金めっき層、銅めっき層及び錫めっき層をこの順で形成した後に、リフロー処理することにより、前記基材の上にニッケル又はニッケル合金層、銅錫合金層、錫層が順に積層されてなる錫めっき付銅端子材を製造する方法であって、前記ニッケル又はニッケル合金めっき層の厚みを0.05μm以上1.0μm以下とし、前記銅めっき層の厚みを0.05μm以上0.40μm以下とし、前記錫めっき層の厚みを0.5μm以上1.5μm以下とし、前記リフロー処理は、20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上に加熱する一次熱処理の後に、0℃/秒以上19℃/秒以下の昇温速度で240℃以上300℃以下の温度1秒以上15秒以下の時間加熱する二次熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理工程の後に、30℃/秒以下の冷却速度で2秒以上15秒以下の間冷却する一次冷却工程と、該一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する。
【0012】
基材にニッケル又はニッケル合金めっきすることにより、リフロー処理後(Cu,Ni)Sn合金を形成させ、これにより銅錫合金層の凹凸が急峻になって動摩擦係数を0.3以下とすることができる。
ニッケル又はニッケル合金めっき層の厚みが0.05μm未満では、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金が形成されなくなり、1.0μmを超えると曲げ加工等が困難となる。なお、ニッケル又はニッケル合金層に基材からの銅の拡散を防ぐ障壁層としての機能をもたせ耐熱性を向上させる場合、あるいは、耐摩耗性を向上させる場合には、ニッケル又はニッケル合金めっき層の厚みは0.1μm以上とすることが望ましい。めっき層は、純ニッケルに限定されず、ニッケルコバルト(Ni-Co)やニッケルタングステン(Ni-W)等のニッケル合金でも良い。
【0013】
銅めっき層の厚みが0.05μm未満では、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が大きくなり、銅錫合金の形状が微細になりすぎてしまい、表面に露出するほど縦方向(表面法線方向)に十分に成長しないため、動摩擦係数を0.3以下とすることができず、0.40μmを超えると、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、横方向(表面法線方向に直交する方向)に大きく成長し、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなる。
錫めっき層の厚みが0.5μm未満であると、リフロー後の錫層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、1.5μmを超えると、表面への銅錫合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。
【0014】
リフロー処理において、加熱工程を二段階の異なる条件で熱処理することにより、錫凝固部を生成し易くしている。一次熱処理では急加熱して、早い段階で240℃以上の高温状態とし、その後、240℃以上300℃以下の温度で二次熱処理することにより、表面の錫層の溶融時間を長く確保している。これにより、錫層との界面が鋭利な凹凸状となった銅錫合金層の一部が表面に露出することと相まって、溶融状態の錫が銅錫合金層にはじかれるようにして凝集する。この場合、一次昇温での昇温速度が20℃/秒未満であると、錫めっきが溶融するまでの間に銅原子が錫の粒界中を優先的に拡散し粒界近傍で金属間化合物が異常成長するため、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなる。一方、昇温速度が75℃/秒を超えると、金属間化合物の成長が不十分となり、その後の冷却において所望の金属間化合物層を得ることができない。
また、一次熱処理での到達温度が240℃未満では、錫の溶融が不十分となり、所望の錫凝固部が得られない。二次熱処理では、240℃以上300℃以下の範囲内であれば温度は適宜昇降させても特定の温度で保持しても良いが、その熱処理時間が15秒を超えると錫凝固部が過大となって動摩擦係数が大きくなる。1秒未満では、錫の溶融が不十分となり、所望の錫凝固部が形成されない。この二次熱処理の時間は一次熱処理の到達温度からの昇温・降温がある場合はその時間も含むものとする。二次熱処理のピーク温度は250℃以上がより好ましい。
また、熱処理工程でのピーク温度が240℃未満であると、錫が均一に溶融せず、ピーク温度が300℃を超えると、錫凝固部が過大となるので好ましくない。
【0015】
さらに、冷却工程においては、冷却速度の小さい一次冷却工程を設けることにより、銅原子が錫粒内に穏やかに拡散し、所望の金属間化合物構造で成長する。この一次冷却工程の冷却速度が30℃/秒を超えると、急激に冷却される影響で金属間化合物が十分に成長することができなくなり、銅錫合金層が十分に表面に露出しなくなる。冷却時間が2秒未満であっても同様に金属間化合物が十分に成長できない。冷却時間が15秒を超えると、CuSn合金の成長が過度に進み粗大化し、銅めっき層の厚みによっては、銅錫合金層の下にニッケル錫化合物層が形成され、ニッケル又はニッケル合金層のバリア性が低下する。この一次冷却工程は空冷が適切である。そして、この一次冷却工程の後、二次冷却工程によって急冷して金属間化合物層の成長を所望の構造で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、金属間化合物の成長がより進行し、所望の金属間化合物形状を得ることができない。
【0016】
本発明の錫めっき付銅端子材の製造方法の好ましい実施態様として、前記リフロー処理は、前記ニッケルまたはニッケル合金めっき層、前記銅めっき層及び前記錫めっき層を施した前記基材をその面方向に走行させながら、該基材の表面に、その走行方向に沿って熱風を吹き付けることにより前記基材の表面を加熱するとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、端子としての電気接続特性、挿抜性を良好に維持しながら、高温時の接触抵抗の増大を抑え、高温信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態の錫めっき付銅端子材を模式的に示した断面図である。
図2】実施例4の表面の顕微鏡写真である。
図3】動摩擦係数を測定するための装置を概念的に示す正面図である。
図4】接触抵抗値を測定するための試験片を概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の錫めっき付銅端子材を説明する。
本実施形態の錫めっき付銅端子材1は、銅又は銅合金からなる基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金層3、銅錫合金層4、錫層5がこの順に積層されている。
基材1は、銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0020】
ニッケル又はニッケル合金層3は、純ニッケル、ニッケルコバルト(Ni-Co)やニッケルタングステン(Ni-W)等のニッケル合金からなる層である。
このニッケル又はニッケル合金層3は、必ずしも限定されるものではないが、平均厚みが0.05μm以上1.0μm以下であり、平均結晶粒径が0.01μm以上0.5μm以下であり、結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径が1.0以下であり、銅錫合金層と接する面の算術平均粗さRaが0.005μm以上0.5μm以下である。
【0021】
ニッケル又はニッケル合金層3の平均厚みは、0.05μm未満では、(Cu,Ni)Sn合金に含有するNi含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成され難くなり、1.0μmを超えると曲げ加工等が困難となる。ニッケル又はニッケル合金層3の平均厚みは望ましくは0.075μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。なお、ニッケル又はニッケル合金層3に基材1からのCuの拡散を防ぐ障壁層としての機能をもたせ耐熱性を向上させる場合には、ニッケルまたはニッケル合金めっき層3の厚みは0.1μm以上とすることが望ましい。
【0022】
ニッケル又はニッケル合金層3の平均結晶粒径は、0.01μm未満では曲げ加工性及び耐熱性が低下し、0.5μmを超えるとリフロー処理時にニッケル又はニッケル合金層2のニッケルが銅錫合金層4形成時に取り込まれにくくなり、CuSn中にニッケルが含有され難くなるからである。また、ニッケル又はニッケル合金層3の結晶粒が粗大であると、摩耗し易く、例えば摺動試験による基材の露出までの回数が30回以上とならないことがある。ニッケル又はニッケル合金層3の平均結晶粒径の上限は望ましくは0.4μm以下、より望ましくは0.3μm以下、さらに望ましくは0.2μm以下である。
【0023】
ニッケル又はニッケル合金層3の結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径は、結晶粒径のばらつきの指数を示しており、この値が1.0以下であると、銅めっき層の厚みを厚くしても(Cu,Ni)Sn合金に含有するNi含有量が増え、錫層との界面を急峻な凹凸形状とすることができる。ニッケル又はニッケル合金層3の結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径は望ましくは0.95以下、より望ましくは0.9以下である。
【0024】
ニッケル又はニッケル合金層3の銅錫合金層4と接する面の算術平均粗さRaは、0.5μmを超えるとニッケル又はニッケル合金層3に突出した部分が形成され、摩耗がニッケル又はニッケル合金層3まで進行した際、突出した部分が先行して摩耗することにより発生した摩耗粉が研削効果を発揮して摩耗速度を加速させるおそれがあり、摺動試験による基材の露出までの回数を30回以上とするのが難しくなる。ニッケル又はニッケル合金層3の銅錫合金層4と接する面の算術平均粗さRaの下限は望ましくは0.01μm以上、さらに望ましくは0.02μm以上、上限は望ましくは0.4μm以下、さらに望ましくは0.3μm以下である。
【0025】
銅錫合金層4は、CuSnを主成分とし、該CuSnの銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層であり、後述するように基材2の上にニッケル又はニッケル合金めっき層、銅めっき層、錫めっき層を順に形成してリフロー処理することにより形成されたものである。この銅錫合金層4は、平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下であるのが好ましく、一部が錫層5の表面に露出している。また、このCuSn合金層4a中にニッケルが1at%以上25at%以下含有されているとよい。
CuSn合金層4a中のニッケル含有量が1at%未満ではCuSnの銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層が形成されず、急峻な凹凸形状となりにくい。25at%を超えると銅錫合金層4の形状が微細になりすぎる傾向にあり、銅錫合金層4が微細になりすぎると動摩擦係数を0.3以下にすることができない場合がある。CuSn合金層4a中のニッケル含有量の下限は望ましくは2at%以上、上限は20at%以下である。
【0026】
さらに、このCuSn合金層4aとニッケル又はニッケル合金層3との間には、部分的にCuSn合金層4bが存在する。このため、CuSn合金層4aは、ニッケル又はニッケル合金層3の上のCuSn合金層4bの上、又はCuSn合金層4bが存在しないニッケル又はニッケル合金層3の上のいずれか、あるいはこれらにまたがるように形成されている。この場合、CuSn合金層4aに対するCuSn合金層4bの体積比率は20%以下が好ましい。
ニッケル又はニッケル合金層3、又は当該層の少なくとも一部にCuSn合金層4bが形成され、それらの上にCuSn合金層4aが形成されることにより、銅錫合金層4の表面を急峻な凹凸形状とするのに有利である。この場合、CuSn合金層4aに対するCuSn合金層4bの体積比率が20%を超えるとCuSn合金層4aが縦方向に成長しにくく、CuSn合金層4aが急峻な凹凸形状となりにくい。CuSn合金層4aに対するCuSn合金層4bの体積比率は望ましくは15%以下、より望ましくは10%以下である。
【0027】
また、銅錫合金層4と錫層5との界面は、前述したように急峻な凹凸状に形成され、銅錫合金層4の一部が錫層5の表面に露出しており、錫層5を溶解除去して、銅錫合金層4を表面に現出させたときに測定される銅錫合金層4の平均高さRc÷銅錫合金層4の平均厚み(以降、銅錫合金層4の平均高さRc/銅錫合金層4の平均厚み、と表記する)が0.7以上であるとよい。
この銅錫合金層4の平均高さRc/銅錫合金層4の平均厚みが0.7未満ではCuSn合金層4aが急峻な凹凸形状となり難く、動摩擦係数を0.3以下とするのが難しくなる。さらには、摺動試験による基材2の露出までの回数が少なくなり、30回以上とならないことがある。銅錫合金層4の平均高さRc/銅錫合金層4の平均厚みは望ましくは0.75以上、より望ましくは0.8以上である。
【0028】
錫層5は、その平均厚みが0.2μm以上1.2μm以下であり、錫層5の表面において、その表面から隆起した錫凝固部5aが島状に存在している領域と、錫凝固部5aの存在していない錫層5b(以下「ベース錫層」という)からなる領域とがある(図2参照)。この錫凝固部5aは、その平均直径が10μm以上1000μm以下であり、錫層5表面に対する面積率が1%以上90%以下である。この場合、錫層5の平均厚みは、錫凝固部5aを含んで測定される。
錫凝固部5aは、平面視で円形のものも存在するが、線状、楕円状等の方向性を有するものも存在する。したがって、錫凝固部5aの平均直径は、錫層5表面に沿う方向の錫凝固部5aの外縁上の長径(途中で外縁に接しない条件で錫凝固部に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で外縁に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)の平均値である。錫凝固部5aの厚みは0.1μm以上10μm以下である。この場合の厚みは、錫凝固部5aを除く部分のベース錫層5b表面を基準とする錫凝固部の突出高さである。
また、錫層5における錫凝固部5a以外の部分の表面には、前述したように銅錫合金層4の一部が露出しており、その露出面積率は1%以上60%以下である。この銅錫合金層4の露出面積率は、ベース錫層5b表面の面積に対する比率である。
【0029】
このような構造の端子材1は、銅錫合金層4と錫層5の界面が急峻な凹凸形状となり、錫層5の表面から数百nmの深さの範囲で、硬い銅錫合金層4と錫層5との複合構造とされ、その硬い銅錫合金層4の一部が錫層5にわずかに露出した状態とされ、その周囲に存在する軟らかい錫が潤滑剤の作用を果たし、0.3以下の低い動摩擦係数が実現される。この銅錫合金層4の露出面積率は1%以上60%以下の限られた範囲であるから、錫層5の持つ優れた電気接続特性を損なうことはない。
また、表面に錫凝固部5aが島状に存在しており、この錫凝固部5aが存在している部分では高温使用時も錫が残留するため、その部分の銅錫合金4の酸化の広がりが抑制され、接触抵抗の増大を抑えることができる。
【0030】
なお、この錫めっき付銅端子材1では、摺動距離1.0mm、摺動速度80mm/min、接触荷重5Nで同種材の表面上を往復摺動させる摺動試験により、基材が露出するまでの回数を30回以上とすることができる。また、表面の光沢度を500GU以上とすることができる。動摩擦係数の上限は望ましくは0.29以下、より望ましくは0.28以下である。
さらに、前述した銅錫合金層4の平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下で、ベース錫層5bの表面における銅錫合金層4の露出面積率が1%以上60%以下のときに、光沢度も高くなる。
【0031】
次に、この錫めっき付銅端子材1の製造方法について説明する。
基材2として、純銅又はCu-Mg-P系等の銅合金からなる板材を用意する。この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、ニッケルめっき、銅めっき、錫めっきをこの順序で施す。
【0032】
ニッケルめっきは一般的なニッケルめっき浴を用いればよく、例えば硫酸(HSO)と硫酸ニッケル(NiSO)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上60℃以下、電流密度は5~60A/dm以下とされる。5A/dm未満ではニッケル又はニッケル合金層の平均結晶粒径が微細にならず、銅錫合金層と接する面の表面粗さRaが大きくなり、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなるためである。このニッケルめっき層の膜厚は0.05μm以上1.0μm以下とされる。0.05μm未満では、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなり、1.0μmを超えると曲げ加工等が困難となるためである。
【0033】
銅めっきは一般的な銅めっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20~50℃、電流密度は1~30A/dmとされる。この銅めっきにより形成される銅めっき層の膜厚は0.05μm以上0.40μm以下とされる。0.05μm未満では、(Cu,Ni)Sn合金に含有するNi含有量が大きくなり、銅錫合金の形状が微細になりすぎてしまい、0.40μmを超えると、(Cu,Ni)Sn合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなるためである。
【0034】
錫めっき層形成のためのめっき浴としては、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1~30A/dmとされる。この錫めっき層の膜厚は0.5μm以上1.5μm以下とされる。錫めっき層の厚みが0.5μm未満であると、リフロー後の錫層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、かつ錫凝固物も十分な大きさに成長せず、1.5μmを超えると、表面の錫が過多となり、錫凝固物も過剰に粗大化してしまい、表面への銅錫合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。
【0035】
めっき処理を施した後、加熱してリフロー処理を行う。
すなわち、リフロー処理はCO還元性雰囲気にした加熱炉内でめっき後の処理材を20~75℃/秒の昇温速度で240℃以上に加熱する一次熱処理の後に、240~300℃の温度で加熱する二次熱処理を行う熱処理工程と、熱処理工程後に、30℃/秒以下の冷却速度で2~15秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に100~300℃/秒の冷却速度で0.5~5秒間冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。一次冷却工程は空冷により、二次冷却工程は10~90℃の水を用いた水冷により行われる。
また、基材2は帯状の条材に形成されており、これを長さ方向に走行させながら前述の各めっきが施され、その後、リフロー処理される。そして、このリフロー処理においては、めっきを施した基材(条材)は、リフロー処理炉内に長さ方向に走行しながら、その表面に熱風が吹き付けられることにより加熱される。このときの熱風は、基材(条材)の走行方向に沿って(上流側から下流側へ)基材の走行速度とほぼ同じ速度で吹き付けられると、円形の錫凝集部が形成される。
【0036】
このリフロー処理を還元性雰囲気で行うことにより錫めっき表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となり、所望の金属間化合物構造を作製することが容易となる。
この場合、熱処理工程を二段階にすることにより、錫凝固部を生成し易くしている。一次熱処理で急加熱して、早い段階で240℃以上の高温状態とした後、二次熱処理することにより、表面の錫層の凝集時間を長く確保し、これにより、錫層との界面が鋭利な凹凸状となった銅錫合金層の一部が表面に露出することと相まって、溶融状態の錫が銅錫合金層にはじかれるようにして凝集する。
この場合、基材の表面に走行方向に沿って熱風を吹き付けることにより、その相対風速(=熱風の速度-基材の走行速度)を変えることによって錫凝固部の形状を円形の他、楕円や線状にも変化させることができる。
なお、一次熱処理は昇温処理であるが、二次熱処理は240℃以上300℃以下の範囲内であれば温度は適宜昇降させても特定の温度で保持しても良く、例えば一次熱処理後に適宜の速度でピーク温度まで昇温した後すぐ一次冷却工程に移る場合、ピーク温度まで昇温した後に加熱保持する場合、一次熱処理での到達温度から昇温することなく、加熱保持する場合、一次熱処理の到達温度を240℃より高い温度、例えば250℃とし、そこから上記温度範囲内の所定温度、例えば240℃まで降温する場合など、種々の態様が可能である。
【0037】
また、冷却工程を二段階とし、冷却速度の小さい一次冷却工程を設けることにより、銅原子が錫粒内に穏やかに拡散し、所望の金属間化合物構造で成長する。そして、その後に急冷を行うことにより金属間化合物層の成長を止め、所望の構造で固定化することができる。
ところで、高電流密度で電析した銅と錫は安定性が低く室温においても合金化や結晶粒肥大化が発生し、リフロー処理で所望の金属間化合物構造を作ることが困難になる。このため、めっき処理後速やかにリフロー処理を行うことが望ましい。具体的には15分以内、望ましくは5分以内にリフローを行う必要がある。めっき後の放置時間が短いことは問題とならないが、通常の処理ラインでは構成上1分後程度となる。
【実施例
【0038】
板厚0.25mmの銅合金(Mg;0.5質量%以上0.9質量%以下-P;0.04質量%以下)を基材とし、ニッケル(Ni)めっき、銅(Cu)めっき、錫(Sn)めっきを順に施した。この場合、ニッケルめっき、銅めっき及び錫めっきのめっき条件は実施例、比較例とも同じで、表1に示す通りとした。表1中、Dkはカソードの電流密度、ASDはA/dmの略である。
【0039】
【表1】
【0040】
めっき処理を施した後、加熱してリフロー処理を行った。このリフロー処理は、最後の錫めっき処理をしてから1分後に行い、加熱工程(一次熱処理、二次熱処理)、一次冷却工程、二次冷却工程を行った。各めっき層の厚さ(Niめっき、Cuめっき、Snめっきの厚さ)、リフロー条件(一次熱処理の昇温速度及び到達温度、二次熱処理の昇温速度及びピーク温度、ピーク温度での保持時間(二次熱処理時間)、基材に対する熱風の相対速度(相対風速)、一次冷却速度及び一次冷却時間、二次冷却速度)は、表2に示す通りとした。
【0041】
【表2】

【0042】
これらの試料について、錫層の平均厚み(平均Sn厚)、ニッケル又はニッケル合金層の平均厚み、ニッケル又はニッケル合金層の表面粗さRa、ニッケル又はニッケル合金層の平均結晶粒径、ニッケル又はニッケル合金層の結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径、銅錫合金層の平均結晶粒径、(Cu,Ni)Sn合金層中のニッケル含有量、CuSn合金層に対するCuSn合金層の体積比率、銅錫合金層の錫層表面上の露出面積率、銅錫合金層の平均高さRc/銅錫合金層の平均厚みを測定するとともに、動摩擦係数、耐摩耗性、光沢度、電気的信頼性を評価した。表中、ニッケル又はニッケル合金層については「NiorNi合金層」と記載している。
【0043】
(各層の厚みの測定方法)
ニッケル又はニッケル合金層の平均厚み、錫層及び銅錫合金層の平均厚みは、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)にて測定した。錫層の平均厚み及び銅錫合金層の平均厚みの測定には、最初にリフロー後のサンプルの全錫層の厚み(銅錫合金層部分、ベース錫層部分、錫凝固物部分を含む厚みであるが、錫凝固物は凹凸があるため平均厚みで算出される)を測定した後、銅錫合金層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に5分間浸漬することにより錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させ銅錫合金層の厚みを測定した後、(全錫層の厚み-銅錫合金層の厚み)を錫層の厚みと定義した。ニッケル又はニッケル合金層の厚みの測定には、ニッケル又はニッケル合金層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に1時間程度浸漬することにより錫層及び銅錫合金層を除去し、その下層のニッケル又はニッケル合金層を露出させニッケル又はニッケル合金層の厚みを測定した。
【0044】
((Cu,Ni)Sn合金層中のニッケル含有量、CuSn合金層の有無の測定方法)
(Cu,Ni)Sn合金層中のニッケル含有量、CuSn合金層の有無は、断面STEM像の観察及びEDS分析による面分析で合金の位置を特定し、点分析で(Cu,Ni)Sn合金層中のニッケルの含有量を、深さ方向の線分析によりCuSn合金層の有無を求めた。また、断面観察に加え、より広範囲におけるCuSn合金層の有無については、錫めっき被膜剥離用のエッチング液に浸漬して錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させた後、CuKα線によるX線回折パターンを測定することで判定した。測定条件は以下のとおりである。
PANalytical製:MPD1880HR
使用管球:Cu Kα線
電圧:45 kV
電流:40 mA
【0045】
(銅錫合金層の平均結晶粒径の測定方法)
銅錫合金層の平均結晶粒径はリフロー処理後の断面EBSD分析結果より測定した。リフロー処理工程が終了した材料からサンプルを採取し、圧延方向に直交する断面を観察し、結晶粒径の平均値及び標準偏差を測定した。耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(HITACHI社製S4300-SE,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.5.2)によって、電子線の加速電圧15kV、測定間隔0.1μmステップで3.0μm×250μm以上の測定面積で、各結晶粒の方位差の解析を行った。解析ソフトOIMにより各測定点のCI値を計算し、結晶粒径の解析からはCI値が0.1以下のものは除外した。結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となる測定点間から、双晶を除くものを結晶粒界として結晶粒界マップを作成した。結晶粒径の測定方法は、結晶粒の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)の平均値を結晶粒径とした。結晶粒は50個以上を測定した。
(ニッケル又はニッケル合金層の平均結晶粒径の測定方法)
ニッケル又はニッケル合金層の平均結晶粒径は、断面を走査イオン顕微鏡により観察した。結晶粒径の測定方法は、結晶粒の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)の平均値を結晶粒径とした。
(ニッケル又はニッケル合金層の結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径の測定方法)
上記で得られた平均結晶粒径に対して標準偏差を求め、標準偏差/平均結晶粒径を算出した。
【0046】
(ニッケル又はニッケル合金層の算術平均粗さRaの測定方法)
ニッケル又はニッケル合金層の銅錫合金層と接する面の算術平均粗さRaは錫めっき被膜剥離用のエッチング液に浸漬し錫層及び銅錫合金層を除去し、その下層のニッケル又はニッケル合金層を露出させた後、オリンパス株式会社製レーザ顕微鏡(OLS3000)を用い、対物レンズ100倍(測定視野128μm×128μm)の条件で、長手方向で7点、短手方向で7点、計14点測定したRaの平均値より求めた。
【0047】
(銅錫合金層の露出面積率の測定方法)
銅錫合金層の露出面積率は、表面酸化膜を除去後、100×100μmの領域を走査イオン顕微鏡により観察した。測定原理上、最表面から約20nmまでの深さ領域にCuSn合金が存在すると、白くイメージングされるので、画像処理ソフトを使用し、測定領域における錫凝固部を除いた領域の面積に対する白い領域の面積の比率を銅錫合金層の露出面積率とみなした。
【0048】
(CuSn合金層とCuSn合金層の体積比率の測定方法)
銅錫合金層のCuSn合金層とCuSn合金層の体積比率は、断面を走査イオン顕微鏡により観察した。
【0049】
(銅錫合金層の平均高さRc/銅錫合金層の平均厚みの測定方法)
銅錫合金層の平均高さRcは、錫めっき被膜剥離用のエッチング液に浸漬し錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させた後、株式会社オリンパス製レーザ顕微鏡(OLS3000)を用い、対物レンズ100倍(測定視野128μm×128μm)の条件で、長手方向で7点、短手方向で7点、計14点測定したRcの平均値より求めた。この方法により求めた平均高さRcを銅錫合金層の平均厚みで割る事により、銅錫合金層の平均高さRc/銅錫合金層の平均厚みを算出した。
【0050】
(錫凝固部の平均直径、最大厚み、面積率の測定方法)
錫凝固部の平均直径は、株式会社オリンパス製光学顕微鏡を用い、対物レンズ5倍(測定視野1880μm×1410μm)の条件で観察した。任意に4領域選択し、領域内の錫凝固部の長径(途中で外縁に接しない条件で錫凝固部に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で外縁に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)の平均値より求めた。
錫凝固部の厚みは、株式会社オリンパス製レーザ顕微鏡(OLS3000)を用い、対物レンズ10倍(測定視野1280μm×960μm)の条件で観察した。任意に4領域選択し、領域内の錫凝固部の最大厚みを測定し、平均値より求めた。
錫凝固部の面積率に際しては、表面酸化膜を除去後、500μm×500μmの領域を走査イオン顕微鏡により観察した。錫凝固部の部分は黒くイメージングされるので、画像処理ソフトを使用し、測定領域の全面積に対する黒い領域の面積比率を錫凝固部の面積率とみなした。この方法に従って、500μm×500μmの領域を、任意に4領域選択し、その平均値を錫凝固部の面積率とした。
これらの測定結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
動摩擦係数、光沢度、電気的信頼性は以下のように評価した。
(動摩擦係数の測定方法)
動摩擦係数については、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料について半径1.5 mmの半球状としたメス試験片を作成し、板状の同種の試料をオス試験片としてアイコーエンジニアリング株式会社製の摩擦測定機(横型荷重試験機 型式M-2152ENR)を用い、両試験片間の摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。図3により説明すると、水平な台11上にオス試験片12を固定し、その上にメス試験片13の半球凸面を置いてめっき面同士を接触させ、メス試験片13に錘14によって100gf以上500gf以下の荷重Pをかけてオス試験片12を押さえた状態とした。この荷重Pをかけた状態で、オス試験片12を摺動速度80mm/minで矢印により示した水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力Fをロードセル15によって測定した。その摩擦力Fの平均値Favと荷重Pより動摩擦係数(=Fav/P)を求めた。
【0053】
(耐摩耗性の評価方法)
耐摩耗性については、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料について半径3.0mmの半球状としたメス試験片を作成し、板状の同種の試料をオス試験片としてアイコーエンジニアリング株式会社製の摩擦測定機(横型荷重試験機 型式M-2152ENR)を用い、繰り返し摺動試験を実施して求めた。図3により説明すると、水平な台11上にオス試験片12を固定し、その上にメス試験片13の半球凸面を置いてめっき面同士を接触させ、メス試験片13に錘14によって100gf以上500gf以下の荷重Pをかけてオス試験片12を押さえた状態とした。この荷重Pをかけた状態で、オス試験片12を摺動速度80mm/minで矢印により示した水平方向1mmの距離を往復摺動させた。1回の往復を摺動回数1として繰り返し摺動させ、基材が露出した摺動回数から求めた。摺動回数が30回以上でも基材が露出しなかったものを「○」、摺動回数が30回に満たないうちに基材が露出したものを「×」とした。
【0054】
(光沢度の測定方法)
光沢度は、日本電色工業株式会社社製光沢度計(型番:VG-2PD)を用いて、JIS Z 8741に準拠し、入射角60度にて測定した。
【0055】
(接触抵抗値の測定方法)
電気的信頼性を評価するため、大気中で140℃1000時間加熱し、接触抵抗を測定した。測定方法は嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、図4に示すように、各試料について半径R=3mmの半球状としたメス試験片21を作製し、板状の同種の試料をオス試験片22として用いて試験を実施した。水平な台23にオス試験片22を固定し、その上にメス試験片21の半球凸面21aを置いてめっき面同士を接触させ、メス試験片21に0から10Nまで荷重をかけた際の接触抵抗を測定し、荷重を7Nとしたときの接触抵抗値で評価した。
これらの測定結果、評価結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
表3及び表4から明らかなように、実施例はいずれも動摩擦係数が0.3以下と小さく、良好な耐摩耗性を示した。接触抵抗値については、5mΩ以上になると電気接続特性的に良好と言えないレベルになってくると考えられるため、本評価では加熱試験後の接触抵抗値が5mΩ以上となったものを不合格と判断することとしたが、実施例はいずれも5mΩ未満であった。
これに対して、各比較例は以下のような不具合が認められた。
錫凝固物が過大であった比較例1では、動摩擦係数が過大となった。逆に錫凝固物が過小となった比較例2では、加熱後の接触抵抗が不合格判断となり、また銅錫合金中のニッケル含有量も若干過多となっているため動摩擦係数も0.3を少し超える結果となった。比較例3は錫凝固物が過小で表面面積率も低く、一方で銅錫合金層の表面露出率が過大であり、結果として光沢度と加熱後の接触抵抗が不合格となった。比較例4は錫層の平均厚さが過小で錫凝固物の表面面積率も低くなってしまい、一方、銅錫合金層の表面露出率は過大となったため、加熱後の接触抵抗も合格基準を大きく外れていた。比較例5は錫凝固物の大きさが過大であり、一方銅錫合金層の表面露出率が過小となり(その一因として、ニッケル層の膜厚が不十分であったことが考えられる)、結果として動摩擦係数が過大になってしまった。比較例6は、錫凝固物の表面面積率が過大となり、これも動摩擦係数が過大となってしまった。銅錫合金層の平均結晶粒径が過大となった比較例7では、光沢度と加熱後の接触抵抗が不合格となった。比較例8は、錫凝固物の生成が確認されなかった例であるが、光沢度と加熱後の接触抵抗が不合格となった。比較例9は、銅錫合金層の平均結晶粒径が過小となったが(その一因としてニッケル層内のニッケル結晶が過剰に成長し、そのため銅錫合金層に十分なニッケルが供給されず銅錫合金の成長が不十分となったことが考えられる)、その結果として動摩擦係数が過大となり、耐摩耗性(摺動試験)も不合格となった。比較例10は、一次熱処理の到達温度が設定下限より低く、その分リフロー時の熱風の相対速度を他より大きめに設定し、加熱量を上げようとしたものであるが、錫凝固物の成長に偏りが生じて表面面積率が設定下限よりも低くなってしまい、その結果として動摩擦係数と耐摩耗性が不合格となった。
図2は実施例4の表面の顕微鏡写真であり、島状に錫凝固部5aが形成されているのがわかる。
【符号の説明】
【0058】
1 錫めっき付銅端子材
2 基材
3 ニッケル又はニッケル合金層
4 銅錫合金層
4a CuSn合金層
4b CuSn合金層
5 錫層
5a 錫凝固部
5b ベース錫層
11 台
12 オス試験片
13 メス試験片
14 錘
15 ロードセル
21 メス試験片
22 オス試験片
23 台
図1
図2
図3
図4