(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】コネクタ用端子材
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20220315BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20220315BHJP
C25D 3/46 20060101ALI20220315BHJP
C25D 3/64 20060101ALI20220315BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20220315BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D3/12 101
C25D3/12 102
C25D3/46
C25D3/64
C25D5/12
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2020027614
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2021-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 圭栄
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-003194(JP,A)
【文献】特開2007-046142(JP,A)
【文献】特開2016-065316(JP,A)
【文献】特開2016-166396(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/12
C25D 3/46
C25D 3/64
C25D 5/12
C25D 7/00
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に形成されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層の上の少なくとも一部に形成された銀ニッケル合金からなる銀ニッケル合金めっき層と、該銀ニッケル合金めっき層の上に形成された銀からなる銀めっき層と、を備え、前記銀ニッケル合金めっき層は、膜厚が0.05μm以上0.5μm未満であり、ニッケル含有量が0.03at%以上1.00at%以下であることを特徴とするコネクタ用端子材。
【請求項2】
前記銀めっき層は、膜厚が0.5μm以上20.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等において電気配線の接続に使用される有用な皮膜が設けられたコネクタ用端子材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の電気配線の接続に用いられる車載用コネクタが知られている。この車載用コネクタ(車載用端子)に用いられる端子対は、メス端子に設けられた接触片が、メス端子内に挿入されたオス端子に所定の接触圧で接触することにより電気的に接続されるように設計されている。このようなコネクタ(端子)として、一般的に銅または銅合金板上に錫めっきを施し、リフロー処理を行った錫めっき付き端子が多く用いられていた。しかし、近年、高電流・高電圧化に伴い、より電流を多く流すことができる耐熱性、耐摩耗性に優れた銀等の貴金属めっきを施した端子の用途が増加している。
【0003】
このような耐熱性及び耐摩耗性が求められる車載用端子として、例えば、特許文献1には、導電性基材の表面にNi,Co,Feのいずれか1種又はこれらの合金からなる下地めっき層が形成され、下地めっき層の上にCu又はCu合金からなる中間めっき層が形成され、中間めっき層の上に合金層が形成された電気・電子部品用めっき材料が開示されており、その合金層が、Snめっき層とAgまたはInからなる金属めっき層との選択的熱拡散によって合金化されたものであることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、導電性基材と、導電性基材上に形成された下地層と、下地層上に形成された中間層と、中間層上に形成された銀又は銀合金からなる最表層とを有する可動接点用材料が開示されており、下地層がニッケルもしくはニッケル合金、又はコバルトもしくはコバルト合金からなり、中間層が銅又は銅合金からなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-177329号公報
【文献】特開2015-117424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、端子材の表面に設けられる銀層は、高温環境下でも酸化しないため、耐熱・耐摩耗性に優れている。一方、下地層は基材からの銅の拡散を防止する機能を有するが、表面に銀層を形成する場合、下地層をニッケルによって構成すると、錫とニッケルでは、金属間化合物を形成するため、密着性が良好だが、ニッケルと銀とは金属間化合物を形成せず、かつ、銀は酸化し難いため、酸素は銀めっき表面で侵入を防止できず、銀めっき中に拡散して、ニッケル層にまで到達する。その酸素がニッケル層で酸化ニッケルとなり、剥離が生じるおそれがある。このため、これら特許文献では、銀層とニッケル層との間に銅又は銅合金からなる中間層を形成している。この銅は、高温環境下で銀層に拡散し、銀と金属間化合物を形成しないために銀層の粒界に介在して、酸素の侵入を防止する。しかしながら、銀層の表面にまで銅が拡散すると、表面で酸化して接触抵抗が高くなる不具合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐熱性をさらに向上させ、高温環境下でも接触抵抗が増大せず、剥離も抑制できるコネクタ用端子材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコネクタ用端子材は、少なくとも表層が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に形成されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層の上の少なくとも一部に形成された銀ニッケル合金からなる銀ニッケル合金めっき層と、該銀ニッケル合金めっき層の上に形成された銀からなる銀めっき層と、を備え、前記銀ニッケル合金めっき層は、膜厚が0.05μm以上0.5μm未満であり、ニッケル含有量が0.03at%以上1.00at%以下である。
【0009】
表面に比較的軟質の銀めっき層が形成され、その下に銀めっき層に比べて硬い銀ニッケル合金めっき層が形成されているので、潤滑効果に優れ、耐摩耗性が向上する。また、高温環境下でも銀めっき層の表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。さらに、銀の光沢面により表面の意匠性も向上する。
この銀めっき層を表面に有するコネクタ用端子材において、本発明では、表面の銀めっき層と下地のニッケルめっき層との間に形成した銀ニッケル合金めっき層は、銀及びニッケルのいずれの成分も含んでいるので、これら層間の密着性を向上させることができる。
【0010】
また、特許文献記載の銅又は銅合金からなる中間層とは異なり、高温環境下でも銀ニッケル合金めっき層中のニッケルは銀めっき層への拡散が生じにくいため、接触抵抗の増大を抑制できる。さらに、高温環境下で表面の銀めっき層を通過して酸素が侵入したとしても、銀ニッケル合金めっき層が下地のニッケルめっき層に対する犠牲層として機能し、銀ニッケル合金めっき層中のニッケルが酸素と反応して、ニッケルめっき層に到達することを防止する。したがって、ニッケルめっき層の酸化による剥離が抑制される。この場合、銀ニッケル合金めっき層中のニッケルに酸化が生じるとしても、ニッケルは銀の界面に分散しているので、剥離にまでは至らない。したがって、高温環境下での性能劣化を抑制し、優れた耐摩耗性を維持できる。
【0011】
また、ニッケルは銅に比べて融点が高いので、熱によって拡散しがたく、このため、銅と異なり、高温環境下でも最表面に濃化しがたく、接触抵抗の増加を抑えることができる。
【0012】
なお、銀ニッケル合金めっき層のニッケル含有量が0.03at%未満であると、耐熱性が低下し、剥離し易くなる。ニッケル含有量が1.00at%を超えると銀ニッケル合金めっき層の導体抵抗が増加し、また、高温環境下での接触抵抗も増加しやすくなる。
また、銀ニッケル合金めっき層は、前述したニッケルめっき層への酸素の侵入を阻止する犠牲層として機能する程度の膜厚を有していればよく、膜厚が0.05μm未満では酸素と反応するニッケル量が少なく、耐熱性を向上できない。膜厚を0.5μm以上としても効果は飽和し、コスト的に無駄である。
【0013】
コネクタ用端子材の一つの態様としては、前記銀めっき層は、膜厚が0.5μm以上20.0μm以下であるとよい。銀めっき層の膜厚が0.5μm未満では薄すぎるため、耐摩耗性向上の効果に乏しく、早期に摩耗して消失し易い。20.0μmを超える厚さでは、軟らかい銀めっき層が厚くなるため、摩擦係数が増大する傾向にある。なお、銀めっき層は銀ニッケル合金層の膜厚より大きくなる。
【0014】
コネクタ用端子材の他の一つの態様としては、前記銀めっき層は、純度99.99質量%以上(C、H、S、O、N、Na、Kを除く)の銀からなるとよい。銀めっき層に不純物が多く含まれると、接触抵抗が高くなる傾向になる。(C、H、S、O、N、Na、Kを除く)とは、ガス成分を除外する趣旨である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性が向上し、高温環境下でも接触抵抗が増大せず、剥離も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るコネクタ用端子材を模式的に示す断面図である。
【
図2】試料4における加熱前のコネクタ用端子材の断面のSIM(Scanning Ion Microscope)像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
[コネクタ用端子材の構成]
本実施形態のコネクタ用端子材1は、
図1に断面を模式的に示したように、少なくとも表層が銅又は銅合金からなる板状の基材2と、該基材2の上面に形成されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の上の少なくとも一部に形成された銀ニッケル合金からなる銀ニッケル合金めっき層4と、銀ニッケル合金めっき層4の上面に形成された銀からなる銀めっき層5と、を備えている。
【0019】
基材2の表層は、銅または銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。本実施形態では、
図1に示すように、基材2は銅又は銅合金からなる板材により構成されているが、母材の表面に銅めっき又は銅合金めっきが施されためっき材により構成されてもよい。この場合、母材としては、無酸素銅(C10200)やCu-Mg系銅合金(C18665)等を適用できる。
【0020】
ニッケルめっき層3は、基材2上にニッケル又はニッケル合金めっきを施すことにより被覆される。このニッケルめっき層3は、ニッケルめっき層3上の銀ニッケル合金めっき層4を介して銀めっき層5に基材2からCu成分が拡散することを抑制する機能を有する。このニッケルめっき層3の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.2μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。ニッケルめっき層3の膜厚が0.2μm未満であると、高温環境下では基材2からCu成分が銀めっき層5内に拡散して銀めっき層5の接触抵抗値が大きくなり、耐熱性が低下するおそれがある。一方、ニッケルめっき層3の厚さが5μmを超えると、曲げ加工時に割れが発生するおそれがある。なお、ニッケルめっき層3は、ニッケル又はニッケル合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0021】
銀ニッケル合金めっき層4は、後述するようにニッケルめっき層3の上に銀ストライクめっきを施した後に銀ニッケル合金めっきを施すことにより形成される。この銀ニッケル合金めっき層4は、銀とニッケルとの合金により構成され、銀とニッケルとの間には、金属間化合物が生成されないので、曲げ加工時に割れが発生することを抑制している。
【0022】
また、銀ニッケル合金めっき層4のニッケル含有量は、0.03at%以上1.00at%以下とされ、より好ましくは0.05at%以上1.00at%以下である。
ニッケルは銅に比べて融点が高いので、熱によって拡散しがたいため、銅と異なり、高温環境下でも最表面に濃化しがたい。このため、高温環境下での接触抵抗の増加を抑えることができる。銀ニッケル合金めっき層4のニッケル含有量が、0.03at%未満であると、耐熱性及び耐摩耗性が低下し、1.00at%を超えると銀ニッケル合金めっき層4の導体抵抗が増加し、また、高温環境下での接触抵抗も増加しやすくなる。
【0023】
銀ニッケル合金めっき層4の膜厚は、0.05μm以上0.5μm未満に設定され、より好ましくは、0.10μm以上0.5μm以下である。この銀ニッケル合金めっき層4は、表面から侵入する酸素とニッケルとが反応することにより、その下地層であるニッケルめっき層3に酸素が到達することを阻止する犠牲層としての機能を有するものであり、その機能を発揮し得る程度の膜厚を有していればよく、その膜厚が0.05μm未満では、高温環境下でニッケルめっき層3への酸素の侵入を阻止する効果が十分でなく、摺動時に剥がれ易くなって耐摩耗性が低下する。その膜厚を0.5μm以上としても効果は飽和し、コスト的に無駄である。
【0024】
銀めっき層5は、銀ニッケル合金めっき層4の上に銀めっきを施すことにより形成される。この銀めっき層5は、比較的軟質であり、その下に硬い銀ニッケル合金めっき層4が形成されているので、潤滑効果に優れており、耐摩耗性が向上する。また、高温環境下でも酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。さらに、銀の光沢面により表面の意匠性も向上する。
この銀めっき層5の膜厚は、0.5μm以上20.0μm以下であるとよい。銀めっき層5の膜厚が0.5μm未満では薄すぎるため、耐摩耗性向上の効果に乏しく、早期に摩耗して消失し易い。20.0μmを超える厚さでは、軟らかい銀めっき層5が厚くなるため、摩擦係数が増大する傾向にある。なお、銀めっき層5は銀ニッケル合金層4の膜厚より大きくなる。
【0025】
この銀めっき層5は、純度99.99質量%以上(C、H、S、O、N、Na、Kを除く)が好ましい。銀めっき層5の銀濃度が99.99質量%未満であると不純物が多く含まれることとなり、接触抵抗が高くなる傾向にあるからである。(C、H、S、O、N、Na、Kを除く)とは、ガス成分を除外する趣旨である。
【0026】
次に、このコネクタ用端子材1の製造方法について説明する。このコネクタ用端子材1の製造方法は、基材2となる少なくとも表層が銅又は銅合金からなる板材を洗浄する前処理工程と、ニッケルめっき層3を基材2に形成するニッケルめっき層形成工程と、ニッケルめっき層3上に銀ストライクめっきを施す銀ストライクめっき工程と、銀ストライクめっき後に銀ニッケル合金めっき層4を形成する銀ニッケル合金めっき層形成工程と、銀ニッケル合金めっき層4上に銀めっきを施して銀めっき層5を形成する銀めっき層形成工程と、を備える。
【0027】
[前処理工程]
まず、基材2として、少なくとも表層が銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材にアルカリ電解脱脂、エッチング、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行う。
【0028】
[ニッケルめっき層形成工程]
この基材2の表面に、ニッケル又はニッケル合金からなるめっきを施してニッケルめっき層3を形成する。例えば、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル(II)六水和物30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき浴を用いて、浴温45℃、電流密度5A/dm2の条件下でニッケルめっきを施して形成される。なお、ニッケルめっき層3を形成するニッケルめっき浴は、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴を用いて電気めっきにより形成してもよい。
【0029】
[銀ストライクめっき工程]
ニッケルめっき層3に対して5~10質量%のシアン化カリウム水溶液を用いて活性化処理を行った後、ニッケルめっき層3上に銀めっきを短時間施して、薄い銀めっき層(銀ストライクめっき層)を形成する。この銀ストライクめっきを施すためのめっき浴の組成は、特に限定されないが、例えば、シアン化銀(AgCN)1g/L~5g/L、シアン化カリウム(KCN)80g/L~120g/Lからなる。そして、この銀めっき浴に対してアノードとしてステンレス鋼(SUS316)を用いて、浴温25℃、電流密度3A/dm2の条件下で銀めっきを30秒程度施すことにより銀ストライクめっき層が形成される。この銀ストライクめっき層は、その後に銀ニッケル合金めっき層4が形成されることにより、層としての識別は困難になる。
【0030】
[銀ニッケル合金めっき層形成工程]
銀ストライクめっき後に銀ニッケル合金めっきを施して銀ニッケル合金めっき層4を形成する。この銀ニッケル合金めっき層4を形成するためのめっき浴の組成は、例えば、シアン化銀(AgCN)40g/L~60g/L、シアン化カリウム(KCN)130g/L~200g/L、炭酸カリウム(K2CO3)15g/L~35g/L、シアン化ニッケル(II)カリウム・1水和物(2KCN・Ni(CN)2・H2O)100g/L~200g/L、銀ニッケル合金めっき層4を平滑に析出させるための添加剤からなる。この添加剤は、アンチモンを含まないものであれば、一般的な添加剤で構わない。
【0031】
このめっき浴に対してアノードとして純銀板を用いて、浴温20℃~30℃、電流密度5A/dm2~12A/dm2の条件下で銀ニッケル合金めっきを施すことにより、ニッケル含有量が0.03at%~1.0at%、膜厚0.05μm以上0.5μm未満の銀ニッケル合金めっき層4が形成される。なお、銀ニッケル合金めっき層4を形成するためのめっき浴は、上記組成に限定されず、シアン浴であり、かつ添加剤にアンチモンが含まれていなければ、その組成は特に限定されない。
【0032】
[銀めっき層形成工程]
銀めっき層5を形成するための銀めっき浴の組成は、例えば、シアン化銀カリウム(K[Ag(CN)2])45g/L~60g/L、シアン化カリウム(KCN)100g/L~150g/L、炭酸カリウム(K2CO3)10g/L~30g/L、添加剤からなる。この添加剤は、アンチモンを含まないものであれば、一般的な添加剤で構わない。このめっき浴に対してアノードとして純銀板を用いて、浴温23℃、電流密度2A/dm2~5A/dm2の条件下で銀めっきを施すことにより膜厚0.5μm以上20μm以下の銀めっき層5が形成される。この銀めっき層5を形成するためのめっき浴は、上記組成に限定されず、シアン浴であり、かつ添加剤にアンチモンが含まれていなければ、その組成は特に限定されない
【0033】
このようにして基材2の表面にニッケルめっき層3、銀ニッケル合金めっき層4及び銀めっき層5が順に形成されたコネクタ用端子材1が形成される。そして、コネクタ用端子材1に対してプレス加工等を施すことにより、表面に銀めっき層5が位置するコネクタ用端子が形成される。なお、上述の各めっき層形成工程は、基材2をめっき浴中に順次浸漬して行うので、基材2の両面にめっき層3,4,5が形成される。基材2の一方の面をマスキングして、他方の面にのみめっき層3,4,5が形成されるようにすることも可能である。
【0034】
本実施形態のコネクタ用端子材1は、基材2の最表面に形成された銀めっき層5が比較的軟らかく、その下の硬い銀ニッケル合金めっき層4により支持されるので、その潤滑効果により、耐摩耗性が向上する。また、表面が銀めっき層5であるので、高温環境下でも表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。さらに、銀の光沢面により表面の意匠性も向上する。
この場合、銀ニッケル合金めっき層4は、ニッケルを含んでいるので、硬度が高いが、銀とニッケルとの間には、金属間化合物が生成されないので、銀ニッケル合金めっき層4の硬度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0035】
また、この銀めっき層5と下地のニッケルめっき層3との間に形成した銀ニッケル合金めっき層4は、銀及びニッケルのいずれの成分も含んでいるので、これら層間の密着性を向上させることができる。
この場合、ニッケルは銅に比べて融点が高いので、熱によって拡散しがたく、銅と異なり、最表面への濃化が生じにくい。したがって、耐熱性を向上でき、接触抵抗の増加を抑制できる。さらに、銀ニッケル合金めっき層4がニッケルめっき層3上に銀ストライクめっき層を介して形成されているので、ニッケルめっき層3との界面から剥離することを抑制できる。
【0036】
表面の銀めっき層5は酸素と反応しないため、高温環境下で酸素が内部に侵入し易いが、この銀めっき層5を通過して酸素が侵入したとしても、銀ニッケル合金めっき層4中のニッケルと反応して、下地層としてのニッケルめっき層3に酸素が到達することを防止する。したがって、銀ニッケル合金めっき層4がニッケルめっき層3に対する犠牲層として機能し、ニッケルめっき層3の酸化による剥離が抑制される。この場合、銀ニッケル合金めっき層4中のニッケルは酸化が生じるとしても、銀ニッケル合金めっき層4内にニッケルが分散しているので、剥離にまでは至らない。したがって、高温環境下での性能劣化を抑制し、優れた耐摩耗性を維持できる。
【0037】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、基材2の上面全域にニッケルめっき層3、銀ニッケル合金めっき層4及び銀めっき層5が形成されていることとしたが、これに限らず、例えば、基材2の上面の一部にニッケルめっき層3が形成され、そのニッケルめっき層3の上に銀ニッケル合金めっき層4及び銀めっき層5が形成されていてもよいし、基材2の上面の全域に形成したニッケルめっき層3の上面の一部に、銀ニッケル合金めっき層4及び銀めっき層5が形成されていてもよい。端子に形成された際に少なくとも接点となる部分の表面が銀めっき層5であるとよい。
【実施例】
【0038】
基材として銅合金(CDA No.C18665)からなる板を用い、各工程を以下のように実施した。
【0039】
[前処理工程]
基材にアルカリ電解脱脂、エッチング、酸洗をして表面を清浄化した。
【0040】
[ニッケルめっき層形成工程]
スルファミン酸ニッケル:300g/L、塩化ニッケル(II)六水和物:30g/L、ホウ酸:30g/Lからなるめっき浴を用い、浴温:45℃、電流密度:5A/dm2、アノード:ニッケル板とする条件の下、基材をめっき浴に浸漬して60秒間通電することにより、膜厚1μmのニッケルめっき層を形成した。
【0041】
[銀ストライクめっき工程]
シアン化銀(AgCN):2g/L、シアン化カリウム(KCN):100g/Lからなるめっき浴を用い、アノード:ステンレス鋼(SUS316)、浴温:25℃、電圧:3Vの条件下、30秒間通電して、ニッケルめっき層の上に銀ストライクめっきを施した。
【0042】
[銀ニッケル合金めっき層形成工程]
シアン化銀(AgCN):40g/L、シアン化カリウム(KCN):150g/L、炭酸カリウム(K2CO3):20g/L、シアン化ニッケル(II)カリウム1水和物(2KCN・Ni(CN)2・H2O):140g/L、添加剤:20ml/Lからなるめっき浴を用い、アノード:銀板、浴温:25℃として、銀ストライクめっき層の上に銀ニッケル合金めっき層を形成した。このとき、銀ニッケル合金めっき層4中のニッケル含有量は電流密度に比例するので、電流密度:5A/dm2~12A/dm2内で調整することで、銀ニッケル合金めっき層4中のニッケル含有量を0.03at%~1.0at%に調整した。また、銀ニッケル合金めっき層4の膜厚はめっき時間に比例するので、めっき時間を1秒~16秒とすることで、銀ニッケル合金めっき層4の膜厚を調整した。
【0043】
[銀めっき層形成工程]
シアン化銀カリウムK(Ag(CN)2):45g/L、シアン化カリウム(KCN):100g/L、炭酸カリウム(K2CO3):20g/L、AgO-56(アトテックジャパン株式会社製光沢剤):4ml/Lからなるめっき浴を用い、浴温:23℃、電流密度:4A/dm2の条件下で、銀ニッケル合金めっき層の上に銀めっき層を形成した。
【0044】
また、比較例として、ニッケルめっき層の上に銀ニッケル合金めっき層を形成せずに銀めっき層を形成したもの、銀ニッケル合金めっき層のニッケル含有量を0.03at%~1.0at%から外れたもの等も作製した。
【0045】
また、銀ニッケル合金めっき層に代えて、以下のように銅めっき層を形成したものも作製した。
銅めっき層については、硫酸銅5水和物(CuSO4・5H2O):200g/L、硫酸(H2SO4):50g/Lからなるめっき浴を用い、浴温40℃、電流密度5A/dm2、アノード:リン含有銅の条件で、めっきすることにより形成した。
この銅めっき層に対して5~10質量%のシアン化カリウム水溶液を用いて活性化処理を行った後、銅めっき層上に実施例と同様の銀ストライクめっき、及び銀めっきを施して銀めっき層を形成した。
【0046】
これら各めっき層を形成した各試料について、銀ニッケル合金めっき層の膜厚、銀ニッケル合金めっき層中のニッケル含有量、銀めっき層の膜厚を測定した。表1では、銀ニッケル合金めっき層、銀めっき層をそれぞれAgNi層、Ag層、ニッケル含有量をNi含有量と表記している。
【0047】
[各めっき層の膜厚の測定]
銀ニッケル合金めっき層及び銀めっき層の膜厚は、セイコーインスツル株式会社製の集束イオンビーム装置:FIB(型番:SMI3050TB)を用いて断面加工を行い、傾斜角60°の断面SIM(Scanning Ion Microscopy)像における任意の3箇所の膜厚を測長し、その平均を求めた後、実際の長さに変換した。
【0048】
[ニッケル含有量(Ni含有量)の測定]
各試料に対して、高周波電源を適用したグロー放電発光分光装置(rf-GD-OES(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy))を用いて、以下の条件で銀めっき層の表面から深さ方向に元素分析を行い、得られた値に対して半定量キットを用いることで定量値(at%)換算を行った。
測定エリア:直径4mmの円形
使用ガス:超高純度Arガス
ガス圧力:600Pa
高周波出力:35W
パルス周波数:1000Hz
デューティ比(又はDuty cycle):0.25(25%放電)
取り込み間隔:0.01秒
【0049】
[接触抵抗]
各試料のそれぞれを60mm×10mmと、60mm×30mmの2種類の試験片に切り出し、前者の試験片の中央部に曲率半径5mmのエンボス加工を行ったサンプルをメス端子の代用(メス端子試験片)とし、後者の平板状のままの試験片サンプルをオス端子の代用(オス端子試験片)とした。これらの試験片について、加熱処理を行わない場合の接触抵抗(mΩ)と、150℃で500時間の加熱処理を行った場合の接触抵抗(mΩ)を、それぞれ測定した。測定に際しては、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス端子試験片の凸面を接触させ、オス端子試験片に5Nの荷重をかけた時の接触抵抗値を4端子法により測定した。
【0050】
[摩擦係数]
各試料のそれぞれを60mm×10mmと、60mm×30mmの2種類の試験片に切り出し、前者の試験片の中央部に曲率半径5mmのエンボス加工を行ったサンプルをメス端子の代用(メス端子試験片)とし、後者の平板状のままの試験片サンプルをオス端子の代用(オス端子試験片)とした。メス端子試験片として、加熱処理を行わない(加熱前)試験片と、150℃で120時間の加熱処理後の試験片を作製し、それぞれ摩擦係数を測定した。ただし、加熱処理はメス端子試験片のみに行い、オス端子試験片はそれぞれ加熱前の状態で測定に使用した。測定に際しては、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス端子試験片の凸面を接触させ、オス端子試験片に5Nの荷重をかけながら、摺動速度1.33mm/secの条件で、20mmの距離を移動させ、摩擦係数の変化を測定した。そして、20mmの移動距離の途中である移動距離10mmから15mmの間で得られた摩擦係数の平均値を摩擦係数とした。
また、((加熱後の摩擦係数-加熱前の摩擦係数)/(加熱前の摩擦係数))×100により変動率(%)を求めた。
【0051】
これらの結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1からわかるように、銀ニッケル合金めっき層の膜厚が0.05μm以上0.5μm未満で、ニッケル含有量が0.03at%以上1.00at%以下の試料1~6は、接触抵抗が小さく、かつ、接触抵抗及び摩擦係数の加熱前後の変動も少なく、優れた耐熱性を有している。なお、試料11のように銀ニッケル合金めっき層の膜厚を大きくしても、接触抵抗及び摩擦係数のさらなる向上は認められない。
【0054】
図2は、試料4の断面SIM像であり、基材表面のニッケルめっき層の上に、銀ニッケル合金めっき層、銀めっき層が形成されている。
【0055】
これに対して、試料7は銀ニッケル合金めっき層を形成しなかったので、摩擦係数の変動が大きく、試料8は銀ニッケル合金めっき層中のニッケル含有量が少ないために摩擦係数の変動が大きくなっている。加熱処理前後で摩擦係数の変動が大きくなった原因として、加熱処理後のニッケルめっき層表面が酸化し、摩擦係数測定時に摺動することで、ニッケルめっき層と、銀ニッケル合金めっき層あるいは銀めっき層との間で剥離が起こり、ニッケルめっき層まで摩耗したことが考えられる。このニッケルめっき層は硬いため、硬い膜では摩擦係数が低下し、摩擦係数が加熱前と比べて大きく低下する挙動を示した。
試料9は銀ニッケル合金めっき層中のニッケル含有量が多いため、加熱後の接触抵抗が大きく、摺動時の剥離による摩擦係数の変動も大きくなった。。試料10は銀ニッケル合金層ではなく銅層を形成したために、加熱後に接触抵抗が大きくなっている。
【符号の説明】
【0056】
1 コネクタ用端子材
2 基材
3 ニッケルめっき層
4 銀ニッケル合金めっき層
5 銀めっき層