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特許7043369耐放射線性ハイドロゲル材およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】耐放射線性ハイドロゲル材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20220322BHJP
   G21F 3/00 20060101ALI20220322BHJP
   G21F 1/10 20060101ALI20220322BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C08L101/14
G21F3/00 F
G21F1/10
C08K5/13
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018157103
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029532
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克也
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】古川 英光
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-515086(JP,A)
【文献】特開昭63-152667(JP,A)
【文献】特表平09-501975(JP,A)
【文献】特開2016-166739(JP,A)
【文献】特開昭48-077299(JP,A)
【文献】特開2008-163055(JP,A)
【文献】特開2015-111052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00- 13/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルと、ラジカル捕捉剤とを含み、
前記ゲルは、粒子状の高分子と線状の高分子とが絡み合って結合したものであることを特徴とする耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項2】
前記ラジカル捕捉剤は、前記ゲルに放射線が照射されて生じるラジカルに水素原子を供給可能な物質であることを特徴とする請求項1に記載の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項3】
前記ラジカル捕捉剤は、フェノール性水酸基を有することを特徴とする請求項2に記の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項4】
前記ラジカル捕捉剤は、ヒドロキノンであることを特徴とする請求項3に記載の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項5】
前記ラジカル捕捉剤の添加量は、1質量%以上5質量%未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項6】
前記ラジカル捕捉剤の添加量は、1質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項7】
前記ゲルが、網目構造または架橋剤を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材。
【請求項8】
粒子状の高分子からなる第1のゲルを、第2のゲルの前駆体溶液に混合し、紫外線を照射して粒子状の高分子と線状の高分子とが絡み合って結合したハイドロゲルを得る工程と、前記ハイドロゲルにラジカル捕捉剤を含む水を含ませる工程とを有することを特徴とする耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル捕捉剤は、前記ハイドロゲルに放射線が照射されて生じるラジカルに水素原子を供給可能な物質であることを特徴とする請求項8に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項10】
前記ラジカル捕捉剤は、フェノール性水酸基を有することを特徴とする請求項9に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項11】
前記ラジカル捕捉剤は、ヒドロキノンであることを特徴とする請求項10に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項12】
前記ラジカル捕捉剤の添加量は、1質量%以上5質量%未満であることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項13】
前記ラジカル捕捉剤の添加量は、1質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【請求項14】
前記ハイドロゲルが、網目構造または架橋剤を含むことを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐放射線性ハイドロゲル材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水分を多く含むハイドロゲルは、放射線の遮蔽体として有用な物質である。原子力施設にハイドロゲルを適用した例として、以下の特許文献1がある。特許文献1には、原子炉建屋内部に設けられた原子炉構造物で囲まれた空間へ穿孔して開口を設けるステップと、上記開口から上記空間を覆う部材を設けて、上記空間を上記部材で置換することを特徴とする発電プラントにおける汚染拡大防止方法が開示されている(請求項1)。そして、上記置換は、上記開口から上記空間へ充填ゲルを注入して、原子炉建屋内部の空間の一部を充填ゲルで埋めることで行なうことが開示されている(請求項2)。充填ゲルとしては、遮へい機能を有するナノコンポジット型ヒドロゲル(NCゲル)が開示されている(明細書段落0029)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-111052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1では、ゲルを遮蔽体として使用することが記載されているが、詳細なゲルの材料と耐放射線性との関係は検討されていない。
【0005】
本発明は、耐放射線性に優れたハイドロゲル材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ゲルと、ラジカル捕捉剤とを含み、上記ゲルは、粒子状の高分子と線状の高分子とが絡み合って結合したものであることを特徴とする耐放射線性ハイドロゲル材である。
【0007】
また、本発明の他の態様は、粒子状の高分子からなる第1のゲルを、第2のゲルの前駆体溶液に混合し、紫外線を照射して粒子状の高分子と線状の高分子とが絡み合って結合したハイドロゲルを得る工程と、前記ハイドロゲルにラジカル捕捉剤を含む水を含ませる工程とを有することを特徴とする耐放射線性ハイドロゲル材の製造方法である。
【0008】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲及び明細書に記載される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐放射線性に優れたハイドロゲル材およびその製造方法を提供することができる。
【0010】
上述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】微粒子調整ダブルネットワークゲル(P-DNゲル)を模式的に示す図
図2A】P-DNゲルの応力-ひずみ曲線(γ線非照射)
図2B】P-DNゲルの応力-ひずみ曲線(集積線量0.1MGyのγ線照射)
図2C】P-DNゲルの応力-ひずみ曲線(集積線量0.3MGyのγ線照射)
図3】ラジカル反応の連鎖による熱酸化反応のメカニズムを示す図
図4】ヒドロキノンがラジカル反応の連鎖を防止するメカニズムを示す図
図5】ハイドロゲル材を合成する方法の一例を示すフロー図
図6A】ハイドロゲル材(ヒドロキノン添加無し)の応力-ひずみ曲線を示すグラフ
図6B】ハイドロゲル材(ヒドロキノン1mass%添加)の応力-ひずみ曲線を示すグラフ
図6C】ハイドロゲル材(ヒドロキノン3mass%添加)の応力-ひずみ曲線を示すグラフ
図6D】ハイドロゲル材(ヒドロキノン5mass%添加)の応力-ひずみ曲線を示すグラフ
図7A図6Aのひずみ0~0.1mm/mmの範囲の拡大図
図7B図6Bのひずみ0~0.1mm/mmの範囲の拡大図
図7C図6Cのひずみ0~0.1mm/mmの範囲の拡大図
図7D図6Dのひずみ0~0.1mm/mmの範囲の拡大図
図8】ハイドロゲル材の圧縮破断応力とヒドロキノン添加濃度の関係を示すグラフ
図9】ハイドロゲル材の含水率とヒドロキノン添加濃度の関係を示すグラフ
図10】ハイドロゲル材の圧縮破断応力と集積線量の関係を示すグラフ
図11】ハイドロゲル材の含水率と集積線量の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の耐放射線性ハイドロゲル材は、上述した通り、ゲルと、ラジカル捕捉剤とを含むことを特徴とする。ゲルは、特に限定は無いが、複合網目構造または機能性架橋剤を含むことにより高強度化された材料を用いることが好ましい。より具体的には、高強度を有するゲルとして近年注目されている微粒子調整ダブルネットワークゲル(以下、「P-DNゲル」と称する。)を用いることが好ましい。ここで、P-DNゲルについて説明する。図1はP-DNゲルを模式的に示す図である。図1に示すように、P-DNゲル10は、固い微粒子ゲル(高分子ゲル)1を柔軟な線状高分子2で結び付けて高強度化したゲルであり、様々な分野への応用が期待されているゲルである。
【0013】
高分子にγ線を照射すると、架橋が優先的に起こるもの(架橋型)と結合の切断が優先的に起こるもの(崩壊型)があることが知られており、これまで様々な有機高分子系材料の耐放射線性が調べられてきた。しかし、近年開発されたP-DNゲルに対し、高線量のγ線を照射して性質変化を調べた研究はこれまで実施されておらず、P-DNゲルが架橋型か崩壊型のどちらに分類されるのか、照射後の物性がどう変化するのかは不明であった。そこで、まず始めに、P-DNゲルに線量を変えてγ線を照射し、P-DNゲルの耐放射線性について実験を行った。
【0014】
P-DNゲルの合成は、以下の手順で行った。すなわち、まず高分子ゲル粒子1と、線状高分子2を含むゲルの前駆体を含む水溶液とを調整し、両者を混合して紫外線を照射し、ゲル化した。高分子ゲル粒子1は、後述する実施例1の第1のゲルの作製方法で作製した。また、線状高分子2を含むゲルの前駆体を含む水溶液は、後述する実施例1の第2の粒子の作製方法で作製した。
【0015】
図2A図2CはP-DNゲルの応力-ひずみ曲線である。図2Aはγ線非照射、図2Bは集積線量0.1MGyのγ線を照射、図2Cは集積線量0.3MGyのγ線を照射した結果である。また、別途γ線照射前後のP-DNゲルの含水率も測定した。
【0016】
P-DNゲルに対して、集積線量0.1MGyのγ線を照射したゲルの含水率はγ線非照射のP-DNゲルとほぼ変わらなかったものの、図2Bに示すように、応力(圧縮破断応力)が約1/4に低下したことが確認された。さらに、集積線量0.3MGyのγ線を照射したP-DNゲルの含水率は3~4%低下し、破断時のひずみ量もγ線非照射のP-DNゲルと比べて半分以下に低下したことも確認された。
【0017】
ひずみ量が0~0.1mm/mmの範囲で、γ線非照射のP-DNゲルと、集積線量0.3MGyのγ線を照射したP-DNのヤング率を比較すると、γ線非照射のP-DNゲル(約0.2MPa)に比べて集積線量0.3MGyのγ線を照射したP-DNゲルでは3倍以上(約0.7MPa)に大きくなっていることも確認された。
【0018】
これらの結果から、γ線照射によって新たな架橋が形成されたことにより、P-DNゲルが硬く(ひずまなく)なった結果として脆くなり、き裂等が発生しやすくなったことで圧縮破断応力が低下したと考えられる。さらに、P-DNゲルは網目構造の隙間に水分子を保持しているが、新たな架橋が形成されたことで隙間が減り、保持できる水分子が減ったために含水率が低下したと考えられる。従って、P-DNゲルは架橋型である可能性が高い。
【0019】
新たな架橋が形成される原因としては、γ線照射によりC-H結合やO-H結合等が切断され、反応性の高いラジカルが発生したことが考えられる。一般的な有機高分子系材料の劣化においては、熱によるラジカル反応の連鎖による熱酸化反応が知られている。図3はラジカル反応の連鎖による熱酸化反応のメカニズムを示す図である。図3に示すように、熱酸化反応は熱によってラジカルが生成し、生成したラジカルが起点となって酸化反応が連鎖的に進行するというものである。この連鎖反応は、ラジカルの発生原因が熱ではなく、紫外線照射や放射線照射であっても同様に発生する(下記文献参照)。
参考文献:瀬口忠男、田村清俊、渡士克己、鈴木雅秀、島田明彦、杉本雅樹、出崎亮、吉川正人、大島武、工藤久明、原子力発電所用ケーブルの経年劣化メカニズムの研究(受託研究)、JAEA-Research 2012-029
従って、P-DNゲルにおいてもラジカル起点の連鎖反応が起きたと推測する。この推測が正しければ、発生したラジカルを即座に(反応する前に)失活させるような処理ができれば連鎖反応を食い止めることができるため、γ線によるP-DNゲルの劣化速度を遅くできる可能性がある。C-H結合やO-H結合の切断によって発生したラジカルを失活させるためには、発生したラジカルに対して水素原子を供給することで失活(安定化)させるラジカル捕捉剤を添加する手法が考えられる。
【0020】
発生したラジカルに対して水素を効率的に供給できるラジカル捕捉剤として、二重結合やベンゼン環などの共役系の化学構造を有する物質が好ましい。また、ラジカル捕捉剤は、P-DNゲルのラジカルを効果的に捕捉するために、フェノール性水酸基やイオン基などP-DNゲルとの結合性が高い化学構造をもつことが好ましい。フェノール性水酸基を複数有する物質であれば、一部のフェノール性水酸基がP-DNゲルと結合し、P-DNゲルの主鎖の付近で発生したラジカルをより効果的に捕捉することができる。ただし、疎水性のベンゼン環部位が増えたり、分子量が増え過ぎたりすると水に溶けにくくなり、ラジカル捕捉剤の水溶液を調製してゲルに添加することができなくなる。ゲルへのラジカル捕捉剤の添加方法は、追って詳述する。
【0021】
上記を踏まえると、ラジカル捕捉剤として、例えば以下のヒドロキノン(式1)およびカテキン(式2)が好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
【化2】
図4はヒドロキノンがラジカル反応の連鎖を防止するメカニズムを示す図である。図4に示すように、ゲルを構成するCH結合にγ線が照射されると、CH結合が切断され(図4(1))、ラジカルが発生する(不安定化する)(図4(2))。このラジカルに、ヒドロキノンから水素が供給され(図4(3))、ラジカルが安定化する(図4(4))。
【0024】
本発明のハイドロゲル材が上述したラジカル捕捉剤を含むことは、紫外・可視(UV-VIS)吸収スペクトルや赤外吸収スペクトル測定によって分析することができる。
【実施例
【0025】
以下、実施例に基づき、本発明についてより詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図5はP-DNゲル材を調整する方法の一例を示すフロー図である。上述したように、P-DNゲルは、硬く脆いゲル(第1のゲル(1stゲル))と柔らかいゲル(第2のゲル(2ndゲル))の2つのネットワークが絡み合った構造をしている。P-DNゲルは、最初に第1のゲルを合成して粉末(微粒子)状にしたものを、開始剤を入れた第2のゲルの前駆体を含む溶液に混ぜ、ゲル溶液を調整する(図5のS1)。次に、ゲル溶液に紫外線を照射してゲル溶液をゲル化する(S2)。そして、ゲルにラジカル捕捉剤としてヒドロキノンを溶解した水を含ませて膨潤させ(S3)、ハイドロゲル材を作製する。本実施例では、上記手順に沿ってヒドロキノンの添加濃度を変えたハイドロゲル材を作製し、耐放射線性および含水率について評価を行った。
【0027】
1.ハイドロゲル材試験片の作製
(1)第1のゲルの合成
モノマーにNaAMPS(2-acrylamido-2methylpropanesulfonic acid, sodium salt,50mass% solution in water, シグマアルドリッチ社製)、架橋剤にMBAA(N,N’-methylenebis-acrylamide,和光純薬工業株式会社製)、開始剤にα-keto(α-keto glutaric acid,和光純薬工業株式会社製)および溶媒に精製水を用いて第1のゲル溶液を調整した。試薬は全て未精製で使用した。各濃度は、NaAMPS:1M、MBAAは4mol%、α-keto:0.1mol%(MBAAおよびα-ketoの濃度はモノマー比)とし、混合して撹拌後に窒素ガスでバブリングした上で紫外線を照射し、ゲル化させた。乾燥機で1日乾燥させた後、ダンシングミルで約100μmの微粒子粉末とし、目開き100μmのふるいにより大きい粒子を除去した。
【0028】
(2)第2のゲルの前駆体溶液の合成
モノマーにDMAAm(N,N-dimethylacrylamide, 東京化成工業株式会社製)、架橋剤にMBAA、開始剤にα-ketoおよび溶媒に精製水を用いて第2のゲル溶液を調製した。試薬は全て未精製で使用した。各濃度は,DMAAm:2M,MBAA:0.1mol%,α-keto:0.1mol%(MBAAおよびα-ketoの濃度はモノマー比)で一定とした。
【0029】
(3)ゲル溶液のゲル化
第2のゲルの前駆体溶液を調製後、第1のゲル微粒子を添加し、撹拌した後、型に入れて紫外線を照射してP-DNゲルを合成した。第1のゲルと第2のゲルの混合比は、第1のゲルの粉末と第2のゲルの前駆体溶液の質量で1:30とした。
【0030】
(4)ゲル膨潤
P-DNゲルの合成後、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノンを溶かした水溶液にてP-DNゲルを膨潤させることでラジカル捕捉剤を含むハイドロゲル材を作製した。ラジカル捕捉剤の添加量は、0mass%、1mass%、3mass%および5mass%とした。膨潤時間は48時間とした。ヒドロキノンの水に対する溶解度が70g/L(20℃)であり、5mass%より大きくするとヒドロキノンが析出してしまうおそれがあったことから、ヒドロキノンが析出しないよう最大濃度は5mass%とした。
【0031】
ハイドロゲル材を、レーザーカッターを用いて25×50mm、厚さ3mmに切り出した試験片を8個(各濃度2個ずつ)作製した。試験片を耐熱ガラス瓶に入れ、各濃度の試験片の一方にはγ線照射中に乾燥しないようにアルミ箔でフタをしてγ線(線源:Co-60、照射時の線量率:1.8kGy/h、集積線量:0.1MGy(1×10Gy))を照射した。もう一方の試験片はリファレンス(γ線非照射)として瓶のフタを閉め、保管した。
【0032】
2.耐放射線性および含水率評価試験
全ての試験片について圧縮試験及び含水率測定を行った。圧縮試験は、卓上型材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、型式:STA-1150)を用いて行った。また、含水率は加熱乾燥式水分計(株式会社エー・アンド・デイ製、型式:MS-70)で測定した。
【0033】
図6A~6Dはハイドロゲル材の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。図6Aはヒドロキノン添加無し、図6Bはヒドロキノン1mass%添加、図6Cはヒドロキノン3mass%添加、図6Dはヒドロキノン5mass%添加した試験片の結果である。また、図7A~7Dは、図6A~6Dのひずみ0~0.1mm/mmの範囲の拡大図である。図8はハイドロゲル材の圧縮破断応力とヒドロキノン添加濃度の関係を示すグラフである。
【0034】
図6A~6D、図7A~7Dおよび図8に示すように、ヒドロキノン添加量が増えるとγ線照射後の圧縮破断応力が高くなる傾向にあった。図8から、ヒドロキノンを5mass%添加した試験片は、γ線非照射の試験片よりもγ線を照射した試験片のほうが圧縮破断応力の向上が確認された。なお、ヒドロキノンを3mass%添加した試験片は、γ線照射後は破断点が不明なため、グラフ上に記載されていない。
【0035】
図6Cにおいて、γ線を照射した試験片は、応力測定後にハイドロゲルに亀裂が入っていることを確認されたが、グラフ上からは破断点が読み取れなかった。また、図6Dにおいて、γ線非照射の試験片よりもγ線を照射した試験片の方がひずみが大きい傾向にあることが確認された。また、γ線非照射の試験片も、γ線を照射した試験片も、今回の測定範囲では共に破断しなかった。
【0036】
γ線非照射の試験片においても、ヒドロキノン添加量の増加に伴い圧縮破断応力が高くなっているが、図7A~7Dのひずみ0~0.1mm/mmの範囲での応力-ひずみ曲線を見ると、グラフの傾き(ヤング率)はほぼ変わっていない。つまり、ヒドロキノン添加量が多いほうが、P-DNゲル本来の弾性を保ったまま、より破断しにくいゲルとなっている。
【0037】
図9はハイドロゲル材の含水率とヒドロキノン添加濃度の関係を示すグラフである。含水率測定結果では、ヒドロキノン添加量が増えると含水率が低下する傾向が確認できた。さらに、ヒドロキノン添加量が5mass%になると、γ線非照射の試験片でも、ヒドロキノン非添加の試験片の膨潤前含水率(図9中の太線(含水率:75%))を下回っており、γ線照射後はγ線非照射の試験片よりも更に含水率が10%程度低下している。このことから、ヒドロキノン添加量が5mass%ではP-DNゲルの構造が変化し、別な物質となっている可能性を示唆している。ハイドロゲル材を遮へい体として使用する場合は含水率が高いほうが良いため、ヒドロキノン添加量は5mass%より少ない方が好ましいと考えられる。
【0038】
したがって、圧縮破断応力と含水率の両者を考慮した結果、ヒドロキノン添加量は1mass%以上5mass%未満が好ましく、1mass%以上3mass%以下がより好ましい。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、上記実施例1と同様の手順で作製したハイドロゲル材の試験片(ヒドロキノン添加濃度:3mass%)を作製し、高線量を照射した際の耐放射線性および含水率について評価を行った。γ線の照射は、集積線量1×10Gy(0.1MGy)、3×10Gy(0.3MGy)および1×10Gy(1.0MGy)とした。
【0040】
図10はハイドロゲル材の圧縮破断応力と集積線量の関係を示すグラフである。図10に示すように、ヒドロキノンを添加していない試験片では、集積線量0.1MGyで圧縮破断応力が急激に低下しているが、ヒドロキノンを3mass%添加すると逆に0.1MGyで圧縮破断応力が向上し(今回使用した試験機の最大応力を超えた)、その後0.3MGyで急激に低下する結果となった。ただし、ヒドロキノンを3mass%添加した試験片に、集積線量0.3MGyのγ線を照射した試験片と、ヒドロキノンを添加せず、γ線を照射していない試験片を比較すると、圧縮破断応力は約1/2程度の低下に抑えられていることから、ヒドロキノン添加により0.3MGyまでは、耐放射線性向上の効果がある。
【0041】
図11はハイドロゲル材の含水率と集積線量の関係を示すグラフである。図11に示すように、含水率は集積線量の増加と共に徐々に低下する傾向が見られたが、急激な変化は確認されなかったことから、P-DNの大きな構造変化等は生じていないと考えられる。
【0042】
以上、説明したように、本発明によれば、耐放射線性に優れたハイドロゲル材およびその製造方法を提供できることが示された。
【0043】
本発明のハイドロゲル材は、原子力施設の遮蔽体としての使用に限られず、医療用機器および宇宙用機器等、放射線を扱う施設に適用可能である。
【0044】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…微粒子ゲル、2…線状高分子、10…P-DNゲル。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11