(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】アクリルゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/06 20060101AFI20220322BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20220322BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220322BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220322BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220322BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L33/14
C08K3/04
C09K3/10 E
C09K3/00 P
F16L11/04
(21)【出願番号】P 2018526311
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2017023571
(87)【国際公開番号】W WO2018008474
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2016133546
(32)【優先日】2016-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516202361
【氏名又は名称】インディアン・インスティチュート・オブ・テクノロジー、カラグプル
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】中野 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】河崎 孝史
(72)【発明者】
【氏名】宮内 俊明
(72)【発明者】
【氏名】堀口 達徳
(72)【発明者】
【氏名】ツーヒン・サハ
(72)【発明者】
【氏名】アニル・クマル・ボーミック
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104130541(CN,A)
【文献】特開2011-006509(JP,A)
【文献】特開2012-211239(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162004(WO,A1)
【文献】特開2013-079348(JP,A)
【文献】国際公開第2009/099113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00-33/26
C08K 3/00-13/08
C01B 32/00-32/991
C09K 3/00-3/32
F16L 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルゴム100質量部に対し、酸化グラフェンを含有する炭素材料を0.1~50質量部含有
し、
前記アクリルゴムがエチレン単量体単位を含有し、
前記エチレン単量体単位の含有割合が、前記アクリルゴムの全質量のうち0.1~10質量%である、アクリルゴム組成物。
【請求項2】
前記アクリルゴムが、エポキシ基、カルボキシル基、及び活性塩素基から選ばれる少なくとも1つの官能基を含有するものである、請求項1に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
前記官能基を有する単量体単位の含有割合が、前記アクリルゴムの全質量のうち0.1~10質量%である、請求項2に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項4】
前記アクリルゴムが、エチルアクリレート単量体単位及びn-ブチルアクリレート単量体単位を含み、
前記アクリルゴムの全質量に対して前記エチルアクリレート単量体単位及び前記n-ブチルアクリレート単量体単位の合計が75~99質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項5】
前記炭素材料が酸化グラフェンである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のアクリルゴム組成物の加硫物。
【請求項7】
請求項
6に記載の加硫物を含むゴムホース。
【請求項8】
請求項
6に記載の加硫物を含むシール部品。
【請求項9】
請求項
6に記載の加硫物を含む防振ゴム部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引張物性・耐熱性を向上させたアクリルゴム組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高性能・高機能化の要求の高まりを背景に、ポリマーに対して各種フィラーを均一に分散させることで様々な特性を付与させる試みが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、シリコーン樹脂成形体に対して熱伝導性フィラーとなる酸化アルミニウムを少量分散させることにより、柔軟性を維持しながら高い熱伝導性を付与している。
【0004】
また、特許文献2では、エポキシ樹脂に対して無機フィラーを配合させることにより、絶縁性を付与した樹脂封止型半導体装置について開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、ジエン系ゴムに対して層状粘土鉱物等のフィラーをナノサイズで分散させることによって、破壊強度や耐屈曲疲労等の物性を向上させたナノコンポジットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-229849号
【文献】特開2013-211556号
【文献】特開2003-327751号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、アクリルゴムやその加硫物は、耐熱老化性や耐油性、機械的特性、圧縮永久歪み特性等の物性に優れているため、自動車のエンジンルーム内のホース部材やシール部材、防振ゴム部材等の材料として多く使用されている。
【0008】
これら部材についても、近年の排ガス対策やエンジンの高出力化等の影響を受け、より引張物性・耐熱性等の各種物性に優れるものが望まれている。
【0009】
そこで、本発明はより優れた引張物性・耐熱性を有するアクリルゴム組成物を提供することを主目的とする。さらに、本発明は、上記アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アクリルゴムに酸化グラフェンを含有する炭素材料を含有させることによって、特には当該炭素材料をナノサイズで微分散させることによって、引張物性・耐熱性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、アクリルゴム100質量部に対し、酸化グラフェンを含有する炭素材料を0.1~50質量部含有するアクリルゴム組成物を提供する。前記アクリルゴムは架橋性であってよく、すなわち加硫可能なものでありうる。前記アクリルゴムは、エポキシ基、カルボキシル基、及び活性塩素基から選ばれる少なくとも1つの官能基を含有するものでありうる。前記官能基を有する単量体単位の含有割合は、前記アクリルゴムの全質量に対して0.1~10質量%でありうる。前記アクリルゴムは、エチレン単量体単位を含有しうる。前記エチレン単量体単位の含有割合が、前記アクリルゴムの全質量に対して0.1~10質量%でありうる。また、前記炭素材料は酸化グラフェンでありうる。
また、本発明は前記アクリルゴム組成物の加硫物も提供する。すなわち、本発明は、前記アクリルゴム組成物を加硫させて得られた加硫ゴムも提供する。
また、本発明は、前記加硫物を含むゴムホース、前記加硫物を含むシール部品、及び前記加硫物を含む防振ゴム部品も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、より優れた引張物性及び/又は耐熱性を有するアクリルゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明のアクリルゴム組成物は、酸化グラフェンを含有する炭素材料を含み、特には当該炭素材料をナノレベルで分散した状態で含みうる。すなわち、本発明のアクリルゴム組成物には、ナノサイズの寸法を有する当該炭素材料が、分散した状態で含まれうる。
【0015】
本発明のアクリルゴム組成物は、例えば一般に使用されているゴム混練り装置を用いてアクリルゴムと前記炭素材料とを混練りすることにより得られうる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機等を用いることができるがこれらに限定されない。あるいは、本発明のアクリルゴム組成物は、例えば前記炭素材料を重合液中に含んだ状態でアクリルゴムを乳化重合することによっても得られうる。
【0016】
本発明に用いるアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに架橋席モノマーを共重合させたものでありうる。架橋席モノマーとは、架橋席(架橋点ともいう)を形成する官能基を有する単量体のことである。また、当該アクリルゴムは、さらにエチレンを共重合させたものであってもよく、すなわちエチレン共重合アクリルゴムでありうる。当該アクリルゴムは、必要に応じて(メタ)アクリル酸アルキルエステルに、酢酸ビニル等をさらに共重合させたものであってもよく、すなわち酢酸ビニル共重合アクリルゴム又はエチレン-酢酸ビニル共重合アクリルゴムであってもよい。本発明に用いられるアクリルゴムは、好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合アクリルゴムでありうる。「主成分として」は、アクリルゴムの全質量に対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単量体単位が合計で例えば75質量%~99質量%、好ましくは80質量%~98質量%、より好ましくは85質量%~97質量%、さらにより好ましくは90質量%~96質量%含まれることを意味する。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリルゴムの骨格となるものであり、その種類や配合割合を選択することにより、得られるアクリルゴム組成物の常態物性や耐寒性、耐油性等の基本特性を調整できる。本発明において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリレートと同義語であって、メタクリル酸アルキルエステル(メタクリレート)とアクリル酸アルキルエステル(アクリレート)の両方を含む概念である。
【0018】
本発明において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがありうるがこれらに限定されない。
【0019】
また、本発明において(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-(n-プロポキシ)エチルアクリレート、2-(n-ブトキシ)エチルアクリレート、3-メトキシプロピルアクリレート、3-エトキシプロピルアクリレート、2-(n-プロポキシ)プロピルアクリレート、2-(n-ブトキシ)プロピルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート等のアクリル酸アルコキシアルキルエステルも用いることができる。以上で述べた(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で用いられてもよく、又は2種類以上のものを併用してもよい。
【0020】
本発明において用いられるアクリルゴムは、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてアクリル酸エチル及びアクリル酸n-ブチルを用いて重合されたものでありうる。すなわち、本発明において用いられるアクリルゴムは、好ましくはエチルアクリレート単量体単位及びn-ブチルアクリレート単量体単位を含むものであり、より好ましくはこれら単量体単位を主成分として含むものでありうる。すなわち、本発明のアクリルゴム組成物は、アクリルゴムの全質量に対してエチルアクリレート単量体単位及びn-ブチルアクリレート単量体単位を合計で例えば75質量%~99質量%、好ましくは80質量%~98量%、より好ましくは85質量%~97質量%、さらにより好ましくは90質量%~96質量%含みうる。
【0021】
例えば、本発明において用いられるアクリルゴムは、エチルアクリレート単量体単位をアクリルゴムの全質量に対して例えば40~60質量%、好ましくは42~55質量%、より好ましくは44~50質量%含み、且つ、n-ブチルアクリレート単量体単位をアクリルゴムの全質量に対して例えば40~60質量%、好ましくは42~55質量%、より好ましくは44~50質量%含みうる。当該単量体単位の含有割合は、アクリルゴム又はアクリルゴム組成物について得られた核磁気共鳴スペクトルに基づき定量される。
【0022】
上記で述べた不飽和モノマーの配合量を調整することで、得られるアクリルゴム組成物やその加硫物の耐寒性や耐油性を調整することができる。例えば、エチルアクリレートとn-ブチルアクリレートとを使用してアクリルゴムを作る際、n-ブチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐寒性を向上させることができ、エチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐油性を向上させることができる。
【0023】
架橋席モノマーは、必要に応じて(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させることにより、架橋席モノマー由来の官能基による分子間架橋を可能とするものである。当該架橋席モノマーは、アクリルゴムの硬度や伸び特性を調整するために用いられうる。当該架橋席モノマーは、官能基としてカルボキシル基、エポキシ基、及び活性塩素基のいずれか1種類を含有することを必須とする。すなわち、本発明のアクリルゴムは、カルボキシル基、エポキシ基、及び活性塩素基から選ばれる少なくとも1つの基を含有するアクリルゴムでありうる。
【0024】
カルボキシル基を含有する架橋席モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキシル、桂皮酸等が挙げられるがこれらに限定されない。また、エポキシ基を有する架橋席モノマーとしては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル等が挙げられるがこれらに限定されない。活性塩素基を有する架橋席モノマーとしては、例えば2-クロルエチルビニルエーテル、2-クロルエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロルアセテート、アリルクロルアセテート等が挙げられるがこれらに限定されない。1つの架橋席モノマーが用いられてもよく又は複数の架橋席モノマーが併用されてもよい。
【0025】
本発明において用いられる架橋席モノマーは、好ましくはマレイン酸モノアルキルエステル又はフマル酸モノアルキルエステルであり、当該モノアルキル基の炭素数は例えば1~8、好ましくは2~6、より好ましくは3~5でありうる。より好ましくは、本発明において用いられる架橋席モノマーは、マレイン酸モノブチルでありうる。すなわち、本発明のアクリルゴムは好ましくはカルボキシル基含有アクリルゴムでありうる。当該カルボキシル基は、好ましくは上記マレイン酸モノアルキルエステル又はフマル酸モノアルキルエステル由来のものでありうる。
【0026】
代替的に、本発明において用いられる架橋席モノマーは、好ましくはグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートでありうる。より好ましくは、本発明において用いられる架橋席モノマーは、グリシジルメタクリレートでありうる。すなわち、本発明のアクリルゴムは好ましくはエポキシ基含有アクリルゴムでありうる。当該エポキシ基は、好ましくはグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート由来のものでありうる。
【0027】
架橋席モノマー単量体単位のアクリルゴム中の含有割合は、好ましくはアクリルゴムの全質量のうち0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~10質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%、特に好ましくは1~4質量%でありうる。架橋席モノマー単量体単位の含有割合が低すぎる場合、例えば0.1質量%より少ない場合、アクリルゴム組成物を架橋させる効果が少なく、得られた加硫物の強度が不足しうる。架橋席モノマー単量体単位の含有割合が高すぎる場合、例えば10質量%を超える場合、アクリルゴム組成物の加硫物が硬化し過ぎることにより、当該加硫物のゴム弾性が失われうる。当該単量体単位の定量は、架橋席モノマーがカルボキシル基を有するものである場合、共重合体の生ゴムをトルエンに溶解し、水酸化カリウムを用いた中和滴定により行われる。架橋席モノマーがエポキシ基を有するものである場合は、当該定量は、共重合体の生ゴムをクロロホルムに溶解し、過塩素酸酢酸溶液を用いた滴定により測定される。架橋席モノマーが活性塩素基を有するものである場合は、当該定量は、酸素フラスコ燃焼法にて分解処理し、硝酸銀を用いた滴定により測定される。
【0028】
なお、架橋席モノマー単量体単位の含有割合とは、架橋席モノマーとしてカルボキシル基を含有するものだけを用いる場合は、カルボキシル基を含有する架橋席モノマー単量体単位の含有割合であり、架橋席モノマーとして、エポキシ基を含有するもの及び他の架橋席モノマーの両方を用いる場合は、エポキシ基と他の架橋席モノマー由来の官能基との合計の含有割合のことである。
【0029】
アクリルゴムには、本発明の目的を損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は架橋席モノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合させることもできる。共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、酢酸ビニル、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテル等のビニル及びアリルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル、アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニル等のエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0030】
アクリルゴムの製造においてエチレンを共重合させる場合には、エチレン単量体単位のアクリルゴム中の含有割合は、好ましくはアクリルゴムの全質量のうち0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%であり、さらにより好ましくは1.0~2.9質量%でありうる。エチレンをこの数値範囲で共重合させることによって、強度を著しく向上させたアクリルゴムが得られうる。当該単量体単位の含有割合は、アクリルゴム又はアクリルゴム組成物について得られた核磁気共鳴スペクトルに基づき定量される。
【0031】
アクリルゴムは、上記の単量体を乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の公知の方法によって共重合することにより得られうる。アクリルゴムの製造方法は、当業者により適宜選択されうる。
【0032】
本発明に用いる酸化グラフェン含有炭素材料としては、例えば黒鉛、特には酸化黒鉛、薄片化黒鉛、特には薄片化酸化黒鉛、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明において、本発明の効果をより奏するために、これらの炭素材料のうち酸化グラフェンを用いるのが特に好ましい。
【0033】
前記炭素材料のアクリルゴム組成物中の含有割合は、アクリルゴム100質量部に対して0.1~50質量部、より好ましくは0.15~45質量部、さらにより好ましくは0.2~40質量部でありうる。当該含有割合が低すぎる場合、例えばアクリルゴム100質量部に対して0.1質量部未満である場合、当該炭素材料による強度の向上効果が現れない場合がありうる。当該含有割合が高すぎる場合、例えばアクリルゴム100質量部に対して50質量部超である場合、引張物性が低下しうる。当該炭素材料の含有割合は、熱重量測定により測定される。
【0034】
前記炭素材料の平均粒径は、例えば0.1μm~1000μm、好ましくは0.5μm~300μm、より好ましくは1μm~200μm、さらにより好ましくは5μm~100μmでありうる。当該平均粒径は、任意の30個の粒子の最大径の平均値でありうる。当該最大径は、原子間力顕微鏡により確認されうる。
【0035】
前記炭素材料の厚みは、通常は20nm以下であり、例えば0.1~20nm、好ましくは0.2~10nm、より好ましくは0.3~8nmでありうる。
【0036】
前記炭素材料は、粉末状態でアクリルゴムと混練されてよく、又は、水又は他の極性溶媒中の分散物としてアクリルゴムと混練されてもよい。このような混練により、本発明のアクリルゴム組成物が製造されうる。
【0037】
前記炭素材料が酸化グラフェンである場合、酸化グラフェンの平均粒径は、例えば0.1μm~1000μm、好ましくは0.5μm~300μm、より好ましくは1μm~200μm、さらにより好ましくは5μm~100μmでありうる。当該平均粒径の測定方法は、上記で述べたものと同じである。酸化グラフェンの厚みは、通常は20nm以下であり、例えば0.1~20nm、好ましくは0.2~10nm、より好ましくは0.3~8nmでありうる。酸化グラフェンは単層又は多層のもの、例えば2~5層のものでありうる。酸化グラフェンが有しうる官能基は、例えばエポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及び/又はカルボニル基でありうる。酸化グラフェンは、これら官能基の1つ又はそれより多くを有していてもよい。酸化グラフェンは、当業者に既知の方法によって製造されてよく、例えば改良ハマーズ法により製造されうる。
【0038】
アクリルゴム組成物は、さらに、加硫剤や加硫促進剤を含みうる。
【0039】
加硫剤は、アクリルゴム組成物の加硫に通常用いられるものであればよい。例えば、架橋席モノマーとしてカルボキシル基を有するモノマーを使用する場合は、加硫剤としてはポリアミン化合物が適当であり、特にグアニジン系化合物を加えた加硫系が好適に用いられうる。また、架橋席モノマーとしてエポキシ基を有するモノマーを使用する場合は、加硫剤としてイミダゾール化合物が好適に用いられうる。
【0040】
前記ポリアミン化合物としては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、ビス(4-3-アミノフェノキシ)フェニルサルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン等の芳香族ポリアミン化合物;ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン化合物等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
さらに、グアニジン系化合物としては、グアニジン、テトラメチルグアニジン、ジブチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
イミダゾール化合物としては、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチル-2-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチル-5-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1-アミノエチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾ-ル、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-ウンデシル-イミダゾールトリメリテート、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1)’〕エチル-s-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ-(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、N,N’-ビス-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、1-(シアノエチルアミノエチル)-2-メチルイミダゾール、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-アジボイルジアミド、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-ドデカンジオイルジアミド、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-エイコサンジオイルジアミド、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1)’〕-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-〔2’-ウンデシルイミダゾリル-(1)’〕-エチル-s-トリアジン、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3-ジベンジル-2-メチルイミダゾリウムクロライド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
加硫剤の含有量は、特に限定するものではないが、アクリルゴム100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましい。この範囲にすることで必要十分な加硫処理が行われうる。
【0044】
加硫促進剤は、加硫速度を調整するために添加する。加硫促進剤としては特に限定するものではないが、具体的には、エポキシ樹脂用の硬化剤、例えば熱分解アンモニウム塩、有機酸、酸無水物、アミン類、硫黄、硫黄化合物等が挙げられる。加硫促進剤の添加量は、本発明におけるアクリルゴム組成物から得られる加硫物の特性を減退しない範囲で添加してもよい。
【0045】
上記加硫剤及び加硫促進剤等は、本発明のアクリルゴム組成物と加硫温度以下の温度で混練されうる。本発明のアクリルゴム組成物は、所望する各種の形状に成形された後に加硫して加硫物としたり、加硫させた後に各種の形状に成形することもできる。加硫温度はアクリルゴム組成物中の各成分の配合割合や加硫剤の種類によって適宜設定でき、通常は100~200℃、好ましくは130~180℃である。また、加硫に要する時間は1~10時間、好ましくは2~6時間である。
【0046】
アクリルゴム組成物を混練、成型、加硫する装置、およびアクリルゴム組成物の加硫物を混練、成型する装置は、通常ゴム工業で用いるものを使用することができる。
【0047】
アクリルゴム組成物は、実用に供するに際してその目的に応じ、充填剤、補強剤、可塑剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤等を添加してもよい。
【0048】
充填剤、補強剤としては、通常のゴム用途に使用されている充填剤や補強剤を添加することができ、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、炭酸カルシウム等の充填剤、補強剤がある。これら添加剤の含有量は、合計で、アクリルゴム組成物100質量部に対して20~100質量部の範囲が好ましい。
【0049】
可塑剤としては、通常のゴム用途に使用されている可塑剤を添加することができ、例えば、エステル系可塑剤、ポリオキシエチレンエーテル系可塑剤、トリメリテート系可塑剤等がある。可塑剤の含有量は、アクリルゴム組成物100質量部に対して、50質量部程度までの範囲が好ましい。
【0050】
本発明のアクリルゴム組成物及びその加硫物は、特に、ゴムホースや、ガスケット、パッキング等のシール部品及び防振ゴム部品として好適に用いられる。すなわち、本発明は、本発明の加硫物を含むゴムホース、シール部品、又は防振ゴム部品を提供する。当該ゴムホース、シール部品及び防振ゴム部品は、本発明のアクリルゴム組成物のみ又はその加硫物のみからなってもよく、又は他の部品との組み合わせられていてもよい。
【0051】
ゴムホースとしては、例えば、自動車、建設機械、油圧機器等のトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、ドレイン系統用ホース等がある。
【0052】
ゴムホースの構成としては、一般的に行われているように補強糸あるいはワイヤーをホースの中間あるいは、ゴムホースの最外層に設けたものでもよい。
【0053】
シール部品としては、例えば、エンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O-リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材及びラックアンドピニオンブーツ材等がある。
【0054】
防振ゴム部品としては、例えば、ダンパープーリー、センターサポートクッション、サスペンションブッシュ等がある。
【実施例】
【0055】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0056】
下記に示す条件でアクリルゴムA、Bを作製した。
<アクリルゴムA>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、アクリル酸エチル5.6Kg、アクリル酸n-ブチル5.6Kg、マレイン酸モノブチルを560g、部分ケン化ポリビニルアルコール4質量%の水溶液17Kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機でよく混合し、均一な懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、圧力を3.5MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、別途注入口よりt-ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%、2リットル)を圧入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応が終了した。生成した重合液に硼酸ナトリウム水溶液(3.5質量%、7リットル)を添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムAとした。
【0057】
このアクリルゴムAの共重合体組成は、エチレン単量体単位2.0質量%と、マレイン酸モノブチル単量体単位3.5質量%と、エチルアクリレート単量体単位47.5質量%と、n-ブチルアクリレート単量体単位47.0質量%であった。マレイン酸モノブチル単量体単位の定量は、共重合体の生ゴムをトルエンに溶解し、水酸化カリウムを用いた中和滴定により測定した。その他の共重合体組成は、核磁気共鳴スペクトルを採取し、各成分を定量した。
【0058】
<アクリルゴムB>
アクリルゴムAと同様な方法であるが、マレイン酸モノブチルの代わりにグリシジルメタクリレート150gに変えて重合を開始させ、アクリルゴムBを得た。
【0059】
このアクリルゴムBの共重合体組成は、エチレン単量体単位2.0質量%と、グリシジルメタクリレート単量体単位3.5質量%と、エチルアクリレート単量体単位47.5質量%と、n-ブチルアクリレート単量体単位47.0質量%であった。グリシジルメタクリレート単量体の定量は、共重合体の生ゴムをクロロホルムに溶解し、過塩素酸酢酸溶液を用いた滴定により測定した。その他の共重合体組成は、核磁気共鳴スペクトルを採取し、各成分を定量した。
【0060】
<アクリルゴム組成物の作製>
上記の方法で得たアクリルゴムA又はBを用いて、表1の配合組成で、ハーケミキサー、6インチオープンロールを用いて混練を行い、厚さ2.4mmのシートに分出しした後、プレス加硫機で170℃、50分のプレス加硫を行った。
【0061】
なお、表1に用いた配合試薬は以下の通りである。
・ステアリン酸:花王株式会社製ルナックS-90
・ステアリルアミン:花王株式会社製ファーミン80
・流動パラフィン:カネダ社製ハイコールK-230
・老化防止剤:ユニロイヤル社製ナウガード445(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)
・2,2-[ビス4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン:和歌山精化社製
・XLA-60:ランクセス社製加硫促進剤
・トリメチルチオ尿素:大内新興化学工業社製
・1-ベンジル-2-メチルイミダゾール:四国化成工業社製
・オクタデシルトリメチル・アンモニウムブロマイド:東邦化学工業社製
・グラフェン:アスブリー・カーボン(Asbury Carbon)社製グラフェン3777
【0062】
また、表1の酸化グラフェンはアスブリー・カーボン社製グラフェン3777を改良ハマーズ法によって酸化したものを使用した。すなわち、当該酸化グラフェンは以下の手順により得られた。
1.グラフェン1gと硝酸ナトリウム0.5gとを混ぜた後、濃硫酸23mLを加えて1時間攪拌して混合物1を得た。
2.上記混合物1に過マンガン酸カリウム3gを、混合物の温度が20℃を超えないようにゆっくりと加えて混合物2を得た。
3.上記混合物2を35℃で12時間攪拌した後、水500mLを激しく攪拌しながら加えて懸濁液を得た。
4.上記懸濁液に30%過酸化水素水5mLを加えて、過マンガン酸カリウムを完全に消費させた。
5.上記4.の処理後の懸濁液を塩酸、水で洗浄後、濾過して乾燥し、酸化グラフェンを得た。
【0063】
<物性試験方法>
得られたアクリルゴム組成物について、引張強さ、破断時伸び、および耐熱性を以下の条件で評価した。
(1)引張強さ・破断時伸び
ASTM D 412-98に準拠して測定した。
(2)耐熱性試験
熱重量測定装置を用い、約10mgのサンプルを窒素雰囲気化(窒素流量35ml/分)において、20℃/分の昇温速度で600℃まで加熱し、サンプル重量が5%減少した温度を分解温度として測定した。
各実施例、比較例についての測定結果を表1に示した。
【0064】
【0065】
表1に示されるとおり、酸化グラフェンを含む実施例1~8のアクリルゴム組成物は、酸化グラフェンを含まない比較例1のアクリルゴム組成物と比較して、機械強度、特には引張物性及び耐熱性に優れていた。また、酸化グラフェンの含有量が50質量部より多い比較例2~4のアクリルゴム組成物は、実施例1~8と比較して引張物性、特には伸びの評価結果が悪かった。また、酸化グラフェンでなくグラフェンを用いた比較例5のアクリルゴム組成物は、実施例1~8と比較して引張物性、特には伸びの評価結果が悪かった。以上の結果より、本発明のアクリルゴム組成物は、引張物性および耐熱性に優れたゴム物性を有する。