(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】OCT装置の制御装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/045 20060101AFI20220323BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20220323BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220323BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A61B1/045 614
A61B1/24
A61B1/00 526
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2021020251
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 隆信
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113390(JP,A)
【文献】特開2012-210293(JP,A)
【文献】特開2012-211797(JP,A)
【文献】特開2012-213433(JP,A)
【文献】特開2013-102897(JP,A)
【文献】特開2017-99748(JP,A)
【文献】特開2017-153748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体にレーザ光を照射して光干渉により前記被写体の内部情報を測定するOCT装置の制御装置であって、
被写体におけるレーザ光照射時の測定ポイントの測定値からなる画像データを解析して前記画像データの画素値のヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムから画素値の標準偏差を算出し、前記標準偏差を用いた所定の計算により、前記ヒストグラムの山の右側にウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定されるウィンドウを設定するウィンドウ処理手段を備える
ことを特徴とするOCT装置の制御装置。
【請求項2】
前記レーザ光照射時の測定ポイントの測定値からなる画像データは、歯牙の断面画像データ、または、歯牙の3D画像データである、
ことを特徴とする請求項1に記載のOCT装置の制御装置。
【請求項3】
前記ウィンドウ処理手段は、操作者の手動操作により、または、撮影中に所定の時間間隔毎に自動で、前記ウィンドウを設定する処理を実行する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のOCT装置の制御装置。
【請求項4】
前記ウィンドウ処理手段は、前記画素値の標準偏差をσ、前記画素値の平均値をμ、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(1A)および式(1B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第1のウィンドウを設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置。
WW=3σ … 式(1A)
WL=μ+3σ/2 … 式(1B)
【請求項5】
前記ウィンドウ処理手段は、前記画素値の標準偏差をσ、前記画素値のピーク位置をPk、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(2A)および式(2B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第2のウィンドウを設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置。
WW=3σ … 式(2A)
WL=Pk+3σ/2 … 式(2B)
【請求項6】
前記ウィンドウ処理手段は、前記画素値の標準偏差をσ、前記画素値の平均値をμ、前記画素値のピーク位置をPk、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(3A)および式(3B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第3のウィンドウを設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置。
WW=μ+3σ-Pk … 式(3A)
WL=(μ+3σ+Pk)/2 … 式(3B)
【請求項7】
前記ウィンドウ処理手段は、操作者の手動操作により、または、撮影中に所定の時間間隔毎に自動で、算出したウィンドウレベルを増減させて前記ウィンドウを設定する
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置。
【請求項8】
前記ウィンドウ処理手段は、撮影中に取得した前記画像データ、または、撮影済みの前記画像データを解析して前記ウィンドウを設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のOCT装置の制御装置として機能させるためのOCT装置制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OCT装置の制御装置およびプログラムに係り、特に歯科用のOCT装置の制御装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体にレーザ光を照射して光干渉により被写体の内部情報を測定する光干渉断層画像生成装置(Optical Coherence Tomography:OCT装置)が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載されたOCT装置においては、撮影により取得された被写体の画像のコントラスト(WW/WL)は手動で調整されていた。具体的には、撮影時に、操作者は、撮影画像を見ながら、WW/WLの値を数値入力するか、または、スライドバー等を操作して設定していた。なお、WWはウィンドウ幅(Window width)であり、WLはウインドウレベル(Window Level)である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯牙を被写体とする歯科用のOCT装置においては、撮影中に、把持したプローブを患者の口腔内に挿入しているため、撮影しながら同時にコントラスト(WW/WL)を調整することは非常に困難であった。そこで、通常は歯科医師が撮影を担当し、アシスタントがコントラスト(WW/WL)調整等の操作を行っていた。ただし、アシスタントは、画像のコントラスト調整に不慣れであると、断層画像および3D画像を適切なコントラストで表示するまでに時間が掛かり過ぎてしまうことになるので、コントラスト調整の知識が必要であった。そのため、OCT装置の改良の余地があった。
【0005】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものであり、コントラスト調整を自動的に行うことのできるOCT装置の制御装置およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本願発明者は、OCT装置で歯牙を被写体とし、被写体におけるレーザ光照射時の多数の測定ポイントを設定し、それら測定ポイントの測定値からなる歯牙の断面画像データを取得し、歯牙の断面画像データの画素値のヒストグラムを作成して鋭意検討した。その結果、ヒストグラムの山の右側には歯牙の内部の画素および歯牙の表面の画素が分布し、ヒストグラムの山の左側には歯牙の断面画像にとって不要な部分の画素が分布することを見出した。
そこで、本発明に係るOCT装置の制御装置は、被写体にレーザ光を照射して光干渉により前記被写体の内部情報を測定するOCT装置の制御装置であって、被写体におけるレーザ光照射時の測定ポイントの測定値からなる画像データを解析して前記画像データの画素値のヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムから画素値の標準偏差を算出し、前記標準偏差を用いた所定の計算により、前記ヒストグラムの山の右側にウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定されるウィンドウを設定するウィンドウ処理手段を備えることを特徴とする。
また、なお、本発明は、コンピュータを、前記したOCT装置の制御装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、OCT装置で撮影された歯牙の画像のコントラスト調整を自動的に行うことができる。そのため、コントラスト調整の知識が十分とは言えない者でもOCT装置の撮影をアシストすることができる。また、歯科医師が1人で撮影しながら同時にコントラストを容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るOCT装置を模式的に示す構成図である。
【
図2】
図1のウィンドウ処理手段の説明図であって、(a)は歯牙の断面画像、(b)はヒストグラム、(c)は3つの画素値グループの画像領域をそれぞれ示している。
【
図7】実施例1のWLの値に200を加算した第1変形例の模式図である。
【
図8】実施例1のWLの値に400を加算した第2変形例の模式図である。
【
図9】実施例1の第1変形例に係るA断面画像である。
【
図10】実施例1の第1変形例に係る3D画像である。
【
図11】実施例1の第2変形例に係るA断面画像である。
【
図12】実施例1の第2変形例に係る3D画像である。
【
図13】実施例2のWWおよびWLの模式図である。
【
図14】実施例3のWWおよびWLの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るOCT装置の制御装置を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。
図1に示すように、OCT装置1は、光学ユニット10と、プローブ30と、制御ユニット50と、を主に備え、被写体Sにレーザ光を照射して光干渉により被写体Sの内部情報を測定するものである。
【0010】
光学ユニット10は、一般的な光コヒーレンストモグラフィの各方式が適用可能な光源、光学系、検出部を備えている。光学ユニット10は、被写体Sにレーザ光を周期的に照射する光源11と、被写体Sの内部情報を検出するディテクタ(検出器)23と、光源11とディテクタ23との間の光路中に設けられた光ファイバや各種光学部品等を備えている。光源11としては、例えばSS-OCT(Swept Source Optical Coherence Tomography)方式のレーザ光出力装置を用いることができる。被写体Sは例えば歯牙であるものとする。
【0011】
ここで、光学ユニット10の概略を説明する。光源11から射出された光は、光分割手段であるカップラ12により、計測光と参照光とに分けられる。計測光は、サンプルアーム13のサーキュレータ14からプローブ30に入射する。この計測光は、プローブ30のシャッタ31が開状態において、コリメータレンズ32、2次元走査機構33を経て集光レンズ34によって被写体Sに集光され、そこで散乱、反射した後に再び集光レンズ34、2次元走査機構33、コリメータレンズ32を経てサンプルアーム13のサーキュレータ14に戻る。戻ってきた計測光はカップラ16を介してディテクタ23に入力する。
【0012】
一方、カップラ12により分離された参照光は、レファレンスアーム17のサーキュレータ18からコリメータレンズ19を経て集光レンズ20によってレファレンスミラー21に集光され、そこで反射した後に再び集光レンズ20、コリメータレンズ19を経てサーキュレータ18に戻る。戻ってきた参照光はカップラ16を介してディテクタ23に入力する。つまり、カップラ16が、被写体Sで散乱、反射して戻ってきた計測光と、レファレンスミラー21で反射した参照光とを合波するので、合波により干渉した光(干渉光)をディテクタ23が被写体Sの内部情報として検出することができる。なお、サンプルアーム13の偏光コントローラ15、および、レファレンスアーム17の偏光コントローラ22は、それぞれ、プローブ30を含むOCT装置1内部に生じた偏光を、より偏光の少ない状態に戻すために設置されている。
【0013】
プローブ30は、レーザ光を2次元走査する2次元走査機構33を含み、光学ユニット10からのレーザ光を被写体Sに導くと共に、被写体Sで反射した光を光学ユニット10に導くものである。本実施形態では、2次元走査機構33は、回転軸が互いに直交した2つのガルバノミラー(X方向ガルバノミラーとY方向ガルバノミラー)や、各ガルバノミラーのモータ等で構成されている。ここで、X方向およびY方向とは、プローブ30の先端が正対する被写体Sの表面において横方向(X方向)および縦方向(Y方向)に対応する。
【0014】
制御ユニット50は、AD変換回路51と、DA変換回路52と、2次元走査機構制御回路53と、表示装置54と、OCT制御装置100とを備える。
AD変換回路51は、ディテクタ23のアナログ出力信号をデジタル信号に変換するものである。本実施形態では、AD変換回路51は、光源11であるレーザ出力装置から出力されるトリガ(trigger)に同期して信号の収得を開始し、同じくレーザ出力装置から出力されるクロック信号ckのタイミングに合わせて、ディテクタ23のアナログ出力信号を収得し、デジタル信号に変換する。このデジタル信号は、OCT制御装置100に入力する。
【0015】
DA変換回路52は、OCT制御装置100のデジタル出力信号をアナログ信号に変換するものである。本実施形態では、DA変換回路52は、光源11から出力されるトリガ(trigger)に同期して、OCT制御装置100のデジタル信号をアナログ信号に変換する。このアナログ信号は、2次元走査機構制御回路53に入力する。
【0016】
2次元走査機構制御回路53は、プローブ30内の2次元走査機構33を制御するドライバである。2次元走査機構制御回路53は、OCT制御装置100のアナログ出力信号に基づいて、光源11から出照されるレーザ光の出力周期に同期して、ガルバノミラーのモータを駆動または停止させるモータ駆動信号を出力する。2次元走査機構制御回路53は、一方のガルバノミラーの回転軸を回転させてミラー面の角度を変更する処理と、他方のガルバノミラーの回転軸を回転させてミラー面の角度を変更する処理と、を異なるタイミングで行う。
【0017】
表示装置54は、OCT制御装置100によって生成される光干渉断層画像(以下、OCT画像という)を表示するものである。表示装置54は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等から構成される。
【0018】
OCT制御装置(OCT装置の制御装置)100は、OCT装置1の制御装置であって、光源11から出射されるレーザ光に同期して2次元走査機構33を制御することで撮影を行うと共に、ディテクタ23の検出信号を変換したデータから被写体SのOCT画像を生成する制御を行うものである。OCT画像等は、公知の光干渉断層画像等の生成方法で生成することができる。例えば、レーザ光照射時の測定ポイント毎に、ディテクタ23で収得した、カプラ16で計測光と参照光との合波による干渉光のアナログ信号を、周波数解析(FFT処理)し、被写体S表面から内部に進む深さ方向(光軸方向)の測定値(Aラインデータ)を取得する。測定ポイントを横方向(X方向)に走査することで、AラインデータをX方向に重ね合わせ、被写体Sの断面画像データ(A断面画像)を取得することができる。さらに、測定ポイントをA断面に直交する方向(Y方向)に走査することで、このA断面画像をY方向に重ね合わせ、3D画像を形成することができる。なお、OCT画像等を例えば特許文献1に記載された手法を用いて生成するようにしてもよい。
【0019】
OCT制御装置100は、ウィンドウ処理手段110を備えている。ウィンドウ処理手段110は、被写体Sにおけるレーザ光照射時の測定ポイントの測定値からなる画像データを解析して画像データの画素値のヒストグラムを作成し、ヒストグラムから画素値の標準偏差を算出し、標準偏差を用いた所定の計算により、ヒストグラムの山の右側にウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定されるウィンドウを設定する。ウィンドウ幅およびウィンドウレベルは、一般にCT等の医用画像を表示する際に用いられている。以下では、自動的にヒストグラムを算出して標準偏差等を用いてウィンドウを設定する一連の処理をオートコントラストと呼称する。
【0020】
ここで、オートコントラストに用いる画像データは、例えば、歯牙のA断面画像データである。オートコントラストに用いる画像データが、A断面画像である場合、A断面画像における深さ方向(光軸方向)の画素数×幅方向の画素数が、画素の合計の数となる。このA断面画像を、その面に直交する方向(Y方向)に重ね合わせると、3D画像を形成することができる。
【0021】
そのため、オートコントラストに用いる画像データは、例えば、歯牙の3D画像データであってもよい。このようにオートコントラストに用いる画像データが3D画像データである場合、A断面画像の深さ方向の画素数×幅方向の画素数×直交する方向の画素数が、画素の合計の数となる。
オートコントラストに用いる画像データは、被写体Sにおけるレーザ光照射時の測定ポイントに対応する予め定められた個数の測定値からなる。
すなわち、歯牙の断面画像(A断面画像)の場合、被写体におけるレーザ光照射時の測定ポイントを横方向(X方向)に走査した時の測定ポイントの個数に対応する予め定められた光軸方向の測定値(Aラインデータ)の個数からなる画像データを、オートコントラストに用いる画像データとして解析して前記画像データの画素値に関するヒストグラムを作成し所望のウィンドウ処理を行うことができる。
同様に、歯牙の3D画像の場合、被写体におけるレーザ光照射時の測定ポイントを横方向(X方向)およびそのA断面に直交する方向(Y方向)に走査した時の測定ポイントの個数に対応する予め定められた光軸方向の測定値(Aラインデータ)の個数からなる画像データを、オートコントラストに用いる画像データとして解析して前記画像データの画素値に関するヒストグラムを作成し所望のウィンドウ処理を行うことができる。
【0022】
ウィンドウ処理手段110は、例えば操作者の手動操作によりオートコントラスト(ウィンドウを設定する処理)を実行する。この場合、OCT装置1は、オートコントラスト実行ボタンを備え、操作者がオートコントラスト実行ボタンを押したときに、ウィンドウ処理手段110は、オートコントラストを実行する。オートコントラスト実行ボタンは、制御ユニット50の適所またはプローブ30の適所に設けることができる。アシスタントがOCT装置の撮影をアシストする場合、オートコントラスト実行ボタンは、制御ユニット50の側に設けることが好ましい。また、オートコントラスト実行ボタンをプローブ30若しくはフットコントローラ(図は省略)に設けることで、歯科医師が1人で撮影しながら同時にコントラストを容易に調整することができる。
【0023】
また、ウィンドウ処理手段110は、操作者の手動操作によらずに、例えば撮影中に所定の時間間隔毎に自動で、オートコントラスト(ウィンドウを設定する処理)を実行するようにしてもよい。オートコントラストを実行するトリガを手動にするか自動にするかは、オートコントラストを実行しようとする場面に応じて適宜設定することができる。
【0024】
ウィンドウ処理手段110は、例えば歯牙の撮影中に取得した画像データを解析してオートコントラストを実行する(ウィンドウを設定する)。OCT装置1の操作者は、プレビューモード撮影中に表示装置54の画面に表示されるプレビュー画像(OCTの粗い画像)を見ながら、自ら把持するプローブ30を目的の部位に位置決めする。そして、位置を決めたら、プローブ30を患者に数秒間固定して計測モード撮影によりOCTの精細画像を記録している。そこで、ウィンドウ処理手段110は、プレビュー画像を表示するプレビュー撮影中にオートコントラストを実行するように構成することができる。この場合、画像データは、測定毎に(一定時間毎に)書き換えられていく。これにより、適切なコントラスト(WW/WL)が設定されていないためにプレビュー画像が見づらい場合には、オートコントラストを実行することで、表示装置54の画面に適切なコントラスト(WW/WL)のプレビュー画像を表示させることができる。
【0025】
なお、WLが低過ぎて、しかもWWが狭く設定されると、暗い部分の面積が少なくなって、全体が白っぽい画像になる。このような画像はコントラストが不適切な画像の一例である。また、WLが高過ぎで、しかもWWが狭く設定されると、明るい部分の面積が少なくなって、全体が黒っぽい画像になる。このような画像はコントラストが不適切な画像の他の一例である。
【0026】
オートコントラストを実行しようとする場面は撮影中に限るものではない。ウィンドウ処理手段110は、例えば撮影済みの画像データを解析してオートコントラストを実行する(ウィンドウを設定する)ようにしてもよい。すなわち、ウィンドウ処理手段110は、計測モード撮影後、または、保存されているOCT画像データを読込んだときに、オートコントラストを実行するように構成することができる。この場合、計測モード撮影後、メモリ上に、画像データが書き込まれる。このデータが、OCT画像データとして、ファイルに保存される。よって、保存されているOCT画像データは、計測モード撮影後にメモリ上に書き込まれた画像データと同じデータなので、該当ファイルを読込み、データをメモリ上に書込めば、計測モード撮影後と同じ状態になる。これにより、設定されているコントラストが不適切で画像が見づらい場合、オートコントラストを実行することで、表示装置54の画面に適切なコントラスト(WW/WL)のOCTの精細画像を表示させることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、一例として、プレビューモードの画像データは、1024×134×134画素のメモリ空間を有する(1画素サイズ:16ビット、A断面の画素数:1024×134)。また、計測モードの画像データは、1024×400×400画素のメモリ空間を有する(1画素サイズ:16ビット、A断面の画素数:1024×400)。このようにしたのは、オートコントラストにプレビューモードの画像データと計測モードの画像データとの、両方に対応するためである。
すなわち、本実施形態では、プレビューモードで、オートコントラストに歯牙の断面画像(A断面画像)を用いる場合は、1024×134個の測定値からなる画像データを解析してヒストグラムを作成し、歯牙の3D画像を用いる場合は、1024×134×134個の測定値からなる画像データを解析してヒストグラムを作成し、所望のウィンドウ処理を行う。
また、計測モードで、オートコントラストに歯牙の断面画像(A断面画像)を用いる場合は、1024×400個の測定値からなる画像データを解析してヒストグラムを作成し、歯牙の3D画像を用いる場合は、1024×400×400個の測定値からなる画像データを解析してヒストグラムを作成し、所望のウィンドウ処理を行う。
【0028】
次に、オートコントラストの原理について
図2を参照して説明する。
図2(a)は、OCT装置1で得られた臼歯を撮影したOCT画像(A断面画像)の一例である。
図2(b)は、このA断面画像について作成した画素値のヒストグラムである。
図2(b)では、横軸の数値(画素値)が大きいほど明るく、横軸の数値(画素値)が小さいほど暗いことを示している。そして、
図2(b)に示すように、画素の大部分は、破線で囲んだ第1画素値グループ201、第2画素値グループ202、第3画素値グループ203に分類することが可能である。
【0029】
図2(c)は、
図2(b)に示す第1~第3画素値グループ201~203と、
図2(a)に示すA断面画像の画像領域との対応関係を示す図である。
図2(c)において、ハッチングを付した画像領域211は、第1画素値グループ201に対応した暗い部分の画像領域である。この画像領域211は、被写体より上側の空間および被写体内部のレーザ光が到達できず画像にならない領域である。そのため、画像領域211は、画像としては不要な部分に相当する。
【0030】
図2(c)において、ハッチングを付した画像領域212は、第2画素値グループ202に対応した明るい部分の画像領域である。この画像領域212は、被写体である歯の内部の領域であって、主にエナメル質や、エナメル質と象牙質との境界部分が含まれ、画像として必要な部分に相当する。
図2(c)において、ハッチングを付した画像領域213は、第3画素値グループ203に対応した最も明るい部分の画像領域である。この画像領域213は、被写体である歯の表面や、う蝕等の欠損のある部分が含まれ、画像として必要な部分に相当する。
【0031】
上記のように1つの断面画像の各部分の画素値(画素の明るさ)とヒストグラムとを調べたときに見られる特徴は、歯牙を撮影したOCT断層画像に、ほぼ共通する特徴である。そこで、第1画素値グループ201(暗い部分)は、OCT画像としては不要な部分であるため、第2画素値グループ202(明るい部分)と、第3画素値グループ203(最も明るい部分)のみを表示するようにウィンドウ設定すればよいことが分かる。第2画素値グループ202と、第3画素値グループ203とは、ヒストグラムの山の右側に位置するので、ウィンドウ処理手段110は、オートコントラストによって、ヒストグラムの山の右側にウィンドウを設定する。なお、ヒストグラムの山の右側とは、ヒストグラムの横軸の数値(画素値)が大きくなる側のことである。また、歯牙を撮影したOCT断層画像においては、ヒストグラムの山の右側とは、歯牙の背景などの不要な画素が配置されている側とは反対側のことである。
【0032】
また、歯牙を撮影したOCT断層画像は、断面画像の画素値のヒストグラムが正規分布に近似できる傾向にあることが分かった。そこで、ウィンドウ処理手段110は、断面画像の画素値のヒストグラムの標準偏差σを用いて、ウィンドウ設定位置を決定することで、ヒストグラムの山の右側の範囲を適切に決定する。
【0033】
(実施例1)
本実施形態では、一例として、ウィンドウ処理手段110は、画素値の標準偏差をσ、画素値の平均値をμ、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(1A)および式(1B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第1のウィンドウを設定する。
WW=3σ … 式(1A)
WL=μ+3σ/2 … 式(1B)
【0034】
式(1A)のようにWWを3σとした理由は、画素値が正規分布していると仮定すると、±3σ区間内に99.7%の画素が含まれるからである。
【0035】
以下、実験的に求めた実施例1を具体的に説明する。
図3は、一例の歯牙を撮影したOCT画像のA断面画像の画素値のヒストグラムである。なお、
図4~
図6、
図9~
図12、
図15~
図18は、OCT画像をオートコントラスト処理で計算したWW/WLでウィンドウ処理し、ディスプレイに表示した画面のキャプチャ画像である。
【0036】
この実験において、
図3のヒストグラムを解析し、平均値μと、標準偏差σと、ピーク位置Pkと、を求めた。その結果、平均値μ=416.91、標準偏差σ=864.83、ピーク位置Pk=93であった。なお、後記する変形例、実施例2、実施例3におけるヒストグラムも、この
図3のヒストグラムと同じものであり、算出した平均値μ、標準偏差σおよびピーク位置Pkを共通に利用する。なお、ピーク位置Pkについては実施例2および実施例3で用いる。
【0037】
前記した式(1A)および式(1B)によれば、ウィンドウ幅WW、およびウィンドウレベルWLの値は、次の通りである。
WW=2594.49≒2594
WL=1714.16≒1714
図4~
図6は、オートコントラストを実行したときに表示されたOCT画像の一例である。
【0038】
図4は、表示装置54の表示画面に、A断面画像、L断面画像、S断面画像、En-face画像、および3D画像を一度に表示させた様子を示している。
図4において例えば右下のS断面画像は、プローブ30の先端から被写体Sへの光の照射方向(以下、プローブ30の光軸方向)に対して垂直な断層面の画像である。このS断面画像上の十字線の横線5Aで示す断面の画像は、A断面画像である。S断面画像上の十字線の縦線5Lで示す断面の画像は、L断面画像である。A断面画像およびL断面画像は、プローブ30の光軸方向に沿った断層面の画像であって、互いに直交する断層面の画像である。En-face画像は、被写体Sを上表面側から見た被写体Sの表面の情報と、被写体Sの深さ方向の情報とを合成した画像(正面画像)である。このEn-face画像には、外表面に本来表れない内部情報も合成されている。なお、A断面画像が基本となる断面画像であり、このA断面画像を、その面に直交する方向に重ね合わせると、3D画像を形成することができる。
図5は、このときのA断面画像を示し、
図6は、このときの3D画像を示している。3D画像上の十字線の横線5Sで示す断面の画像は、S断面画像であり、また、縦線5Lで示す断面の画像は、L断面画像である。
【0039】
(実施例1の変形例)
被写体によって、画素の分布に微妙なずれがあり、
図2(b)で説明した画像として不要な部分である第1画素値グループ201(暗い部分)の範囲が異なる。そのため、前記した式(1A)および式(1B)で算出したWW/WL値の設定では、表示に不必要なデータが含まれる場合がある。
【0040】
そこで、ウィンドウ処理手段110は、例えば操作者の手動操作により、オートコントラストで算出されたウィンドウレベルを増減させてウィンドウを設定するように構成することができる。この場合、操作者は、表示画像を見ながら、WLのシフト量を増減させ、決定し、その値を保存し、シフト量として使用する。ここで、シフト量の増減は、UP,DOWNキーや、矢印キー、スライダバー等で行うことができる。
【0041】
また、ウィンドウ処理手段110は、例えば撮影中に所定の時間間隔毎に自動で、オートコントラストで算出されたウィンドウレベルを増減させてウィンドウを設定するように構成することもできる。この場合、WLの調整は、予め設定した固定値をWL値のシフト量として使用する。そのために、操作者は、例えばWL値増減プリセットボタンを押す。
このように、ウィンドウ処理手段110は、手動または自動でWLの調整をすることで、操作者は、見易い画像を得ることができる。
【0042】
図7は、実施例1において式(1B)から算出されたWL値を+200シフトした場合の変形例の模式図を示している。なお、
図7のヒストグラムは
図3のヒストグラムと同じものである。この場合のウィンドウ幅WW、およびウィンドウレベルWLの値は、次の通りである。
WW=2594
WL=1714+200=1914
図9は、このときのA断面画像を示し、
図10は、このときの3D画像を示している。
【0043】
同様に、
図8は、実施例1において式(1B)から算出されたWL値を+400シフトした場合の変形例の模式図を示している。なお、
図8のヒストグラムは
図3のヒストグラムと同じものである。この場合のウィンドウ幅WW、およびウィンドウレベルWLの値は、次の通りである。
WW=2594
WL=1714+400=2114
図11は、このときのA断面画像を示し、
図12は、このときの3D画像を示している。
【0044】
(実施例2)
本実施形態では、他の一例として、ウィンドウ処理手段110は、画素値の標準偏差をσ、画素値のピーク位置をPk、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(2A)および式(2B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第2のウィンドウを設定することもできる。
WW=3σ … 式(2A)
WL=Pk+3σ/2 … 式(2B)
【0045】
図13は、実施例2の模式図を示している。なお、
図13のヒストグラムは
図3のヒストグラムと同じものである。前記した式(2A)および式(2B)によれば、ウィンドウ幅WW、およびウィンドウレベルWLの値は、次の通りである。
WW=2594.49≒2594
WL=1390.25≒1390
図15は、このときのA断面画像を示し、
図16は、このときの3D画像を示している。
【0046】
実施例2は、実施例1の変形例と同様に、ウィンドウ処理手段110が手動または自動でWLの調整をするように変形することができる。なお、図示を省略するが、実施例2において式(2B)から算出されたWL値を+200シフトした場合や+400シフトした場合においても、適切なコントラストのOCT画像が得られることを確かめることができた。
【0047】
(実施例3)
本実施形態では、さらに他の一例として、ウィンドウ処理手段110は、画素値の標準偏差をσ、画素値の平均値をμ、画素値のピーク位置をPk、ウィンドウ幅をWW、ウィンドウレベルをWLとしたときに、以下の式(3A)および式(3B)によって定義されたウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定される第3のウィンドウを設定することもできる。
WW=μ+3σ-Pk … 式(3A)
WL=μ+3σ+Pk/2 … 式(3B)
【0048】
図14は、実施例3の模式図を示している。なお、
図14のヒストグラムは
図3のヒストグラムと同じものである。前記した式(3A)および式(3B)によれば、ウィンドウ幅WW、およびウィンドウレベルWLの値は、次の通りである。
WW=2918.4≒2918
WL=1553.7≒1554
図17は、このときのA断面画像を示し、
図18は、このときの3D画像を示している。
【0049】
実施例3は、実施例1の変形例と同様に、ウィンドウ処理手段110が手動または自動でWLの調整をするように変形することができる。なお、図示を省略するが、実施例3において式(3B)から算出されたWL値を+200シフトした場合や+400シフトした場合においても、適切なコントラストのOCT画像が得られることを確かめることができた。
【0050】
OCT制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、入出力インタフェースを備えたコンピュータから構成される。
【0051】
本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、OCT制御装置100として協調動作させるプログラム(OCT装置制御プログラム)で実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【0052】
なお、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更なども含まれる。
例えば、ウィンドウ処理手段110は、前記した第1のウィンドウ、第2のウィンドウ、および、第3のウィンドウのうちのいずれか1つだけを設定してもよいが、それに限定されるものではない。撮影対象によっては、第1のウィンドウを設定するよりも、第2のウィンドウや第3のウィンドウを設定する方が、より見やすいコントラストに調整できる場合もある。ここで、撮影対象の違いとしては、例えば歯牙の部位(エナメル質、象牙質、歯の表面)、歯牙の種類(臼歯、前歯)、歯列中の歯牙の位置、画像の種類(A断面画像、L断面画像、S断面画像、En-face画像、3D画像)、患者の個人差などを挙げることができる。ウィンドウ処理手段110は、第1ないし第3のウィンドウのうちのいずれか2つを設定できるように構成してもよいし、3つとも設定できるように構成してもよい。例えば3つとも設定できるように構成した場合、歯科医師は、撮影した画像データに対して、第1ないし第3のウィンドウを順番に適応してそれぞれの画像を見比べてみて、コントラスト調整に最も効果のあった1つのウィンドウを選択し、その選択したウィンドウが設定されたときの画像を診断に用いることができる。
【0053】
また、オートコントラストに使用する断面画像は、1つであることに限定されるものではなく、複数であってもよい。複数の断面画像を用いた場合、画素値が平均化されノイズ等の影響を受けにくいため、より正確な値を計算することができる。また、3D画像をオートコントラストに使用したときにも同様の効果を奏することができる。一方、オートコントラストに使用する断面画像が1つである場合、画像取得時間や計算時間が少なくて済むので、断層画像や3D画像を適切なコントラストで表示するまでに要する時間を低減する効果がある。
【0054】
2次元走査機構33として、ガルバノミラーを採用した場合について説明したが、これに限らず、2次元MEMSミラーを採用することもできる。2次元MEMSミラーの素子は、例えば、光を全反射するミラーや、電磁力を発生する電磁駆動用の平面コイル等の可動構造体が形成されたシリコン層と、セラミック台座と、永久磁石と、の3層構造に形成されて、コイルへ通電される電流の大きさに比例してX方向及びY方向に静的、動的傾斜する制御が可能になっている。
【符号の説明】
【0055】
1 OCT装置
10 光学ユニット
11 光源
12 カップラ
13 サンプルアーム
14 サーキュレータ
15 偏光コントローラ
16 カップラ
17 レファレンスアーム
18 サーキュレータ
19 コリメータレンズ
20 集光レンズ
21 レファレンスミラー
22 偏光コントローラ
23 ディテクタ
30 プローブ
31 シャッタ
32 コリメータレンズ
33 2次元走査機構
34 集光レンズ
50 制御ユニット
51 AD変換回路
52 DA変換回路
53 2次元走査機構制御回路
54 表示装置
100 OCT制御装置
110 ウィンドウ処理手段
S 被写体
【要約】
【課題】コントラスト調整を自動的に行うことのできるOCT装置の制御装置およびプログラムを提供すること。
【解決手段】OCT制御装置100は、被写体Sにレーザ光を照射して光干渉により被写体Sの内部情報を測定するOCT装置1の制御装置であって、被写体Sにおけるレーザ光照射時の測定ポイントの測定値からなる画像データを解析して画像データの画素値のヒストグラムを作成し、ヒストグラムから画素値の標準偏差を算出し、標準偏差を用いた所定の計算により、ヒストグラムの山の右側にウィンドウ幅およびウィンドウレベルで特定されるウィンドウを設定するウィンドウ処理手段110を備える。
【選択図】
図1