(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
C22F 1/053 20060101AFI20220328BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20220328BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C22F1/053
C22C21/10
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2018199481
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】細井 寛哲
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 隆広
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-501982(JP,A)
【文献】特開2000-248327(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060117(WO,A1)
【文献】特表2006-523145(JP,A)
【文献】特開2017-222920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/053
C22C 21/10
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7000系アルミニウム合金ビレットを熱間で押し出し、中空断面を有する押出形材を成形した後
プレス焼き入れし、前記押出形材の長手方向の一部又は全部の領域に2~5%の予歪みを付与し
た後、前記押出形材を所定長さに切断し、切断後の前記押出形材に対し前記領域に残留応力を伴う機械加工を行い、
この機械加工は曲げ加工、変断面加工、剪断加工及び切削加工を意味し、機械加工後の前記押出形材に対し加熱処理を行うことを特徴とする7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項2】
7000系アルミニウム合金ビレットを熱間で押し出し、中空断面を有する押出形材を成形した後
プレス焼き入れし、前記押出形材を所定長さに切断し、切断後の前記押出形材の長手方向の一部又は全部の領域に2~5%の予歪みを付与し
た後、前記領域に残留応力を伴う機械加工を行い、
この機械加工は曲げ加工、変断面加工、剪断加工及び切削加工を意味し、機械加工後の前記押出形材に対し加熱処理を行うことを特徴とする7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項3】
7000系アルミニウム合金ビレットを熱間で押し出し、中空断面を有する押出形材を成形した後冷却し、
前記押出形材を所定長さに切断し、切断後の前記押出形材を溶体化処理し、長手方向の一部又は全部の領域に2~5%の予歪みを付与した後、前記領域に残留応力を伴う機械加工を行い、
この機械加工は曲げ加工、変断面加工、剪断加工及び切削加工を意味し、機械加工後の前記押出形材に対し加熱処理を行うことを特徴とする7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項4】
前記押出形材に引張矯正を加え、これにより前記押出形材に予歪みを付与することを特徴とする
請求項1~3のいずれかに記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項5】
前記機械加工が引張曲げ加工であり、曲げ加工前に前記押出形材に張力を付与し、これにより前記押出形材に前記予歪みを付与することを特徴とする
請求項2又は3に記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理後の前記押出形材の0.2%耐力が400MPa以上であることを特徴とする
請求項1~5のいずれかに記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理として人工時効処理を行うことを特徴とする
請求項1~6のいずれかに記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理として人工時効処理及び焼付塗装を行うことを特徴とする
請求項1~6のいずれかに記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項9】
前記機械加工の前に人工時効処理を行い、前記加熱処理として焼付塗装を行うことを特徴とする
請求項1~6のいずれかに記載された7000系アルミニウム合金製部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7000系アルミニウム合金製部材の製造方法に関わり、特に7000系アルミニウム合金押出形材を機械加工して7000系アルミニウム合金製部材を製造する方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金押出形材は、任意の断面形状及び長さを有する中空断面のアルミニウム合金製部材(特に長尺部材)の製造が可能であり、自動車用部材(骨格部材、エネルギ吸収部材など)への積極的な採用が拡大している。自動車の骨格部材としてロッカー(サイドシル)、サイドメンバー、ピラー等があり、エネルギ吸収部材としてドアビーム、バンパー補強材、ルーフ補強材等がある。
このようなアルミニウム合金製部材は、基本的には曲げモーメントに対する剛性及び強度が求められることがほとんどである。従って、素材となる押出形材は、軽量で曲げ強度及び曲げ剛性に優れる中空断面とされることが多い。そのような中空断面として、例えば略矩形断面、及び略矩形の輪郭の内部に1又は2個の中リブを有する断面が挙げられる。
【0003】
アルミニウム合金押出形材を素材とするアルミニウム合金製部材の一般的な製造プロセスは、1)溶解鋳造、2)熱間押出、3)引張矯正(冷間)、4)切断、5)人工時効処理(熱処理型合金のみ)である。アルミニウム合金製部材が自動車用の場合、さらに曲げ加工や変断面加工及び穴明け等の加工が必要であり、4)の工程以降に行われる。
熱間押し出しで成形されたアルミニウム合金押出形材には、押出ダイスからのメタルの流速差や断面における冷却速度の不均一等により、曲がりやねじれが生じている。アルミニウム合金押出形材が薄肉で、非対称断面であるほど、曲がりやねじれが大きくなる傾向がある。また、冷却速度の速い水冷では、空冷に比べて曲がりやねじれが顕著になる。このような曲がりやねじれを矯正するため、アルミニウム合金押出形材は押出直後に、長尺のままで、冷間で引張矯正される。引張矯正におけるストレッチ量が多いほど、アルミニウム合金押出形材の断面積が減少する。引張矯正によってアルミニウム合金押出形材に付加される歪み(塑性歪み)は、肉厚減少や断面形状の変化を最小限に留めるため、概ね1%以下に設定されている。
【0004】
一般にアルミニウム合金の強度レベルが高いほど、軽量化効果を高くできるため、例えば自動車用部材向けに、高強度アルミニウム合金の開発が進められている。
高強度アルミニウム合金として代表的なものに、析出硬化型合金である6000系(Al-Mg-Si-(Cu)系)及び7000系(Al-Zn-Mg-(Cu)系)がある。一般的に、6000系アルミニウム合金は0.2%耐力で200~350MPa程度、7000系アルミニウム合金は0.2%耐力で300~500MPa程度が、T5、T6又はT7調質で得られる。特に7000系アルミニウム合金は高強度が得られ,高い軽量化効果が期待できる。
一方、7000系アルミニウム合金は、引張応力が作用した状態で、腐食環境下に晒され続けると、応力腐食割れ(SCC)と呼ばれる亀裂が生じるリスクが知られている。SCCによる割れは非常に鋭敏であるため早く進展し、突然の破損の危険性があり、品質保証の観点からその発生が強く懸念される。7000系アルミニウム合金のSCCは、高強度材になるほど起こりやすく、7000系アルミニウム合金の高強度化の足かせとなっている。
【0005】
SCC発生の主たる要因は、腐食環境下で、臨界値以上の引張残留応力が存在することである。引張残留応力は、製造過程での塑性加工、切削加工、熱処理(焼き入れ等)などで生じる。
アルミニウム合金押出形材の場合、押出直後は一定の断面形状を有するストレートな長尺材の状態である。アルミニウム合金押出形材を用いて自動車用部材等を製造する過程では、所要の形状にするため、曲げ加工、変断面加工及び剪断加工などの塑性加工や、切削加工といった機械加工が必要となる。このような機械加工を冷間で行う場合、アルミニウム合金押出形材に高い引張残留応力が生じることが知られている。
【0006】
SCCの発生リスクのある7000系アルミニウム合金押出形材において、上記のような機械加工を冷間で行う場合に発生する引張残留応力の抑制が課題となっている。
特許文献1には、7000系アルミニウム合金押出形材の端部を斜めに切り落とし、次いで前記端部に塑性変形を加えてドアビームを製造する場合に、塑性変形に伴う引張残留応力の発生を抑制し、耐SCC性を改善することが記載されている。
特許文献2には、T1調質状態の7000系アルミニウム合金押出形材に対し、所定の急熱・急冷条件で熱処理を施した後、塑性加工を行うことにより、塑性加工に伴う引張残留応力の発生を抑制し、耐SCC性を改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-362157号公報
【文献】特許第5671422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
曲げ加工による歪みは、押出形材の断面高さHと曲げ中立軸の曲率半径Rに依存し、曲げ外側と曲げ内側には長手方向(押出平行方向)に概ね±H/2Rの歪みが生じる。押出形材の歪み分布(除荷前)は
図1Aに示すようになり、押出形材の最表層において最も歪み量が大きくなる。押出形材の断面高さHと曲率半径Rの比R/Hは、例えば自動車用部材の場合一般に10~100程度であり、最表層の歪みは0.5~5%程度となる。
また、曲げ加工後(除荷後)の残留応力は主に押出形材の長手方向に生じ、一般的には
図1Bに示すような残留応力分布となる。SCC発生の要因となる引張残留応力が最大値を示す位置は、最も歪み量が大きくなる最表層(曲げ外側)ではなく、断面の中心(曲げの中心)寄りの位置、すなわち曲げ加工により付加される歪みが比較的小さい位置となる。
引張曲げ加工の場合、押出形材に対し耐力σyと断面積Sの積(σy×S)の0.3~0.7倍程度の張力を付加して曲げ加工が行われ、引張残留応力が最大値を示す位置がさらに断面の中心(張力ゼロのときの曲げの中心)寄りの位置に近づく。この場合も、張力ゼロの曲げ加工と同様に、引張残留応力が最大値を示す位置は、引張曲げ加工により加えられる歪みが比較的小さい位置となる。
【0009】
変断面加工においても、高い引張残留応力は大きい歪みが導入された領域ではなく、歪みが小さい領域で発生する。
図2は、一対のフランジ1,2と一対のウエブ3,4からなるアルミニウム合金押出形材に変断面加工(潰し加工)を施したときの側面図と断面図を示す。変断面加工後の引張残留応力は主に押出方向に対し垂直方向(
図2中の上下矢印参照)に生じる。ウエブ3,4に生じた引張残留応力は、塑性歪みが導入された領域とそうでない領域の境界付近(C-C断面の付近)、すなわち歪みが小さい領域において最も大きくなる(特開2014-145119号公報参照)。
【0010】
7000系アルミニウム合金押出形材に対する塑性加工は、T1調質又はT4調質の状態で行われることが多い。これは、1)人工時効処理後の押出形材は硬化していて延性に乏しく、加工時に割れるため、2)導入される残留応力を低減する(残留応力の大きさは加工時の押出形材の耐力にほぼ比例する)ため、である。従って、塑性加工後に、押出形材に対し人工時効処理が行われる。7000系アルミニウム合金押出形材の人工時効処理条件は、概ね120~180℃×5~20時間の範囲内である。
また、先に述べた自動車用部材の場合、車体が組み上がった後(人工時効処理後)に、焼付塗装と呼ばれる工程が施される。焼付塗装の加熱条件は、人工時効処理より一般的に高温であり、概ね150~200℃で1時間以内である。
【0011】
塑性加工により7000系アルミニウム合金押出形材に生じた残留引張応力は、人工時効処理や焼付塗装において加熱されることにより低減する。しかし、加熱による残留引張応力の低減(応力緩和)は、導入された歪みが大きい領域では進行しやすいが、導入された歪みが小さい箇所では十分進行しない。一方、先に記載したとおり、塑性加工後の押出形材において、歪みが小さい領域に大きい残留引張応力が存在することがある。このような領域では加熱による残留引張応力の低減が進行せず、その結果、製品(アルミニウム合金部材)に残留引張応力が低減されないままで存在することとなり、これがSCC発生の原因となる。
【0012】
本発明は、7000系アルミニウム合金押出形材を素材とする7000系アルミニウム合金部材の製造方法において、加熱処理による引張残留応力の低減を促進し、引張残留応力の低い7000系アルミニウム合金部材を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る7000系アルミニウム合金部材の製造方法は、7000系アルミニウム合金ビレットを熱間で押し出し、中空断面を有する押出形材を成形した後冷却し、前記押出形材の長手方向の一部又は全部の領域に2~5%の予歪みを付与し、前記領域に残留応力を伴う機械加工を行い、前記押出形材に対し加熱処理を行うことを特徴とする。
上記発明において、機械加工には、曲げ加工、変断面加工、剪断加工(打ち抜き等)等の塑性加工、及び切削加工が含まれる。また、加熱処理には、人工時効処理及び焼付塗装等が含まれる。
【発明の効果】
【0014】
上記製造方法によれば、アルミニウム合金押出形材に2~5%の予歪みを付与した後に残留応力を伴う機械加工を行うことにより、その後の加熱による引張残留応力の低減を促進することができ、引張残留応力の低い7000系アルミニウム合金部材を製造することができる。引張残留応力が低減することにより、7000系アルミニウム合金部材の耐SCC性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】曲げ加工で押出形材に生じる歪みの分布を示す図(1A)、及び除荷後に押出形材に生じる残留応力の分布を示す図(1B)である。
【
図2】変断面加工(潰し加工)を行った押出形材の側面図、及び同側面図のA-A断面図、B-B断面図、及びC-C断面図である。
【
図3】本発明のプロセスの典型例を示すフロー図である。
【
図4】クリープ試験片の寸法を示す図(4A)、及び
図4AのA部拡大図(4B9である。
【
図5】実施例のNo.1の合金のクリープ曲線(クリープ歪み-経過時間)に及ぼす予歪みの影響を示す図である。
【
図6】実施例のNo.2の合金のクリープ曲線(クリープ歪み-経過時間)に及ぼす予歪みの影響を示す図である。
【
図7】実施例のNo.3の合金のクリープ曲線(クリープ歪み-経過時間)に及ぼす予歪みの影響を示す図である。
【
図8】定常クリープ速度と予歪みの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る7000系アルミニウム合金部材の製造方法は、熱間押出工程、押出直後の冷却工程、予歪みを付与する工程、残留応力の発生を伴う機械加工工程、及び加熱工程を含む。以下、本発明が適用されるアルミニウム合金及び前記各工程について、
図3のフロー図を参照して説明する。
【0017】
(アルミニウム合金の組成)
本発明が適用されるアルミニウム合金は、JIS又はAAで規格される7000系(Al-Mg-Zn(-Cu)系)アルミニウム合金であり、組成は特に限定的ではない。好ましい組成として、Zn:3.0~8.0質量%、Mg:0.4~2.5質量%、Cu:0.05~2.0質量%、Ti:0.005~0.2質量%を含有し、さらに、Mn:0.01~0.3質量%、Cr:0.01~0.3質量%、Zr:0.01~0.3質量%の1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不純物からなる組成を挙げることができる。
【0018】
(熱間押出工程S1)
この工程では、加熱した7000系アルミニウム合金ビレットを押出ダイスから押し出し、中空断面の押出形材を成形する。中空断面は用途に応じて任意の形状を取り得るが、例えば自動車用であれば、典型例として略矩形断面、及び略矩形の輪郭の内部に1又は2以上の中リブを有する断面を挙げることができる。
(冷却工程S2)
熱間押出された押出形材は、押出直後からオンラインで冷却し、好ましくは空冷又は水冷によりプレス焼き入れする。必要があれば、押出形材をいったん冷却後、所定長さに切断し、オフラインにおいて溶体化処理する。
【0019】
(予歪み付与工程S3)
冷却された押出形材に対し、冷間で2~5%の予歪み(塑性歪み)を付与する。予歪みが付与される際の押出形材は、T1調質又は又はT4調質の状態であることが好ましい。なお、本実施の形態において、T1調質の状態とは、プレス焼き入れ後、自然時効以外の人工的な調質が行われていない状態、T4調質の状態とは、溶体化処理後、自然時効以外の人工的な調質が行われていない状態を意味する。予歪みを付与する領域は、押出形材の長手方向の一部又は全部の領域であり、後述する機械加工が行われる箇所が前記領域に含まれる必要がある。
この工程で付与される予歪み量を2%以上とするのは、後述する実施例で示すように、予歪み量を2%以上とすることにより、後述する加熱処理工程において引張残留応力の低減効果が顕著となるからである。一方、予歪み量を5%以下とするのは、5%を超えても引張残留応力の低減効果が大きくは変化しないこと、及び押出形材の断面積減少や肉厚減少が顕著になるためである。
【0020】
押出形材がプレス焼き入れされ、T1調質の状態の場合、予歪み付与工程を、長尺の押出形材に対して通常行われる引張矯正の一環として行うことができる。この場合、長尺の押出形材の全長(チャック部分を除く)に対し均一な予歪みを付与できる利点がある。ただし、通常の引張矯正で付与される歪み量は1%以下であるが、本発明においては歪み量は2~5%である。予歪み付与工程後(引張矯正後)の押出形材は、目的とする製品(7000系アルミニウム合金部材)の長さに応じた長さに切断する。なお、予歪み付与工程の前に、長尺の押出形材を目的とする製品(7000系アルミニウム合金部材)の長さに応じた長さに切断し、切断後の個々の押出形材に対し、この予歪み付与工程を行うこともできる。
押出形材が溶体化処理され、T4調質の状態の場合、通常、押出形材は、すでに目的とする製品(7000系アルミニウム合金部材)の長さに応じた長さに切断されている。この場合も、予歪みは引張(ストレッチ)により押出形材の全長(チャック部分を除く)に対して付与することが好ましい。
【0021】
(機械加工工程S4)
予歪み付与工程の後、機械加工工程が冷間で行われる。本発明でいう機械加工には、曲げ加工(
図1参照)、変断面加工(
図2参照)、剪断加工(打ち抜き等)等の塑性加工、及び切削加工が含まれる。この機械加工により、押出形材に残留引張応力が発生する。なお、曲げ加工が引張曲げ加工の場合、押出形材の両端を挟持するチャックにより前記予歪み付与工程(ストレッチ)を行った後、そのまま引張曲げ加工に移行することができる。この場合、前記チャックにより押出形材に負荷する張力Tを、予歪み付与工程では耐力σyと断面積Sの積(σy×S)の1倍超として押出形材に2~5%の予歪みを付与し、引張曲げ加工工程では(σy×S)の1倍未満(例えば0.3~0.7倍程度)に減少させる。
【0022】
(加熱処理工程S5)
機械加工工程に続いて、加熱処理工程が行われる。加熱処理工程として、例えば人工時効処理と焼付塗装の一方又は双方が行われる。なお、焼付塗装とは、焼付硬化型の塗料を塗装した後、熱を加えて塗料を強制的に乾燥させることをいう。
この加熱処理工程により、押出形材に存在する引張残留応力が低減し、特に予歪み付与工程を行ったことにより、機械加工工程で大きい歪みが導入されなかった箇所に存在する引張残留応力が効果的に低減する。加熱処理の条件は、例えば120~200℃×20分~20時間の範囲内で適宜選択される。
人工時効処理の条件は7000系アルミニウム合金の通常のものでよく、例えば120~180℃×5~20時間の範囲内で行えばよい。焼付塗装の条件も通常のものでよく、例えば150~200℃で20分以上1時間以内の条件で行えばよい。なお、加熱処理工程として焼付塗装を行うとき、人工時効処理は機械加工工程の前(予歪み付与工程の後)に行うこともでき、この場合、人工時効処理は本発明でいう加熱処理工程に相当しない。
【0023】
加熱処理は、押出形材(7000系アルミニウム合金製部材)の0.2%耐力が400MPa以上となる条件で行うことが好ましい。7000系アルミニウム合金は、高強度であるほど腐食環境下でSCCが発生しやすく、7000系アルミニウム合金が400MPa以上の高い0.2%耐力を有するとき、本発明のSCC抑制効果が顕著に表れるからである。
【実施例】
【0024】
本実施例では、7000系アルミニウム合金のクリープ特性に及ぼす予歪みの影響を調査した。なお、クリープは一定応力下での歪み変化、応力緩和(残留応力の低減)は歪み一定下での応力変化であるが、材料内で発生している現象は同じである。
3種類の7000系アルミニウム合金のビレットを熱間で押し出し、平板状の押出材(長さ500mm×幅110mm×厚さ3mm)を成形し、押出直後にオンラインで空冷した。各押出材(No.1~3)の組成を表1に示す。
【0025】
【0026】
No.1~3の押出材(いずれもT1調質)からJIS13号B試験片を採取し、JISZ2241の規定に準拠して引張試験を行った。その結果を表2に示す。
【0027】
【0028】
また、前記No.1~3の押出材(いずれもT1調質)から、押出直交方向(LT方向)が長手方向になるように、
図4に示す形状の板材クリープ試験片を採取した。
クリープ試験片を冷間でストレッチし、1%、2%、5%、10%の予歪み(塑性歪み)を付与した。予歪みを付与したクリープ試験片と予歪み0%(ストレッチなし)のクリープ試験片を用い、クリープ試験を行った。試験温度は各合金の時効温度相当(No.1:130℃、No.2:140℃、No.3:140℃)とし、負荷応力は220MPaに固定した。
クリープ試験の結果(クリープ歪みと経過時間の関係)を
図5~7に示す。
図5は、No.1の試験結果、
図6はNo.2の試験結果、
図7はNo.3の試験結果である。
図5~7の右に記載した値は予歪みの大きさである。
図5~7の各線図から求めた、予歪みごとの定常クリープ速度(定常クリープ領域での歪み速度)を表3に示す。また、表3のデータを元に、予歪み0%の定常クリープ速度を1として整理した定常クリープ速度と予歪みの関係を
図8に示す。
【0029】
【0030】
図8に示すように、予歪みを付与することにより、全ての合金(No.1~3)で定常クリープ速度が増加した。特に2%以上の予歪みを付与したとき、予歪みを付与しないときに比べて定常クリープ速度の増加が大きい。すなわち、予歪みを付与することで、加熱による押出材の応力緩和が促進されている。
この結果から、ストレッチ量を意図的に増やすなどして押出形材に対し予歪みを付与することにより、人工時効や焼付塗装などの加熱処理工程で応力緩和を促進し、7000系アルミニウム合金部材の引張残留応力(SCCの発生要因である)を顕著に低減できることが分かる。