(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】経編地およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 21/06 20060101AFI20220328BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
D04B21/06
D04B21/00 A
(21)【出願番号】P 2019509336
(86)(22)【出願日】2018-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2018010760
(87)【国際公開番号】W WO2018180684
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017067408
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】本多 勲
【審査官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140724(JP,A)
【文献】特開2008-69486(JP,A)
【文献】特開2003-41467(JP,A)
【文献】特公昭54-37546(JP,B2)
【文献】特開2011-62377(JP,A)
【文献】実公昭48-21183(JP,Y1)
【文献】米国特許第3952555(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフロント、ミドル、およびバックの3枚の筬から給糸された糸からなり、バック筬から給糸されたバック糸がコード編組織を形成し、フロント筬から給糸されたフロント糸とミドル筬から給糸されたミドル糸がヨコ方向に交互に配列され、且つ、フロント糸とミドル糸とのそれぞれが編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に形成し、フロント糸およびミドル糸の前記編目形成組織がそれぞれデンビー編組織またはコード編組織であり、さらに、フロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とが少なくともタテ方向に交互に配置されたことにより、バック糸のシンカーループ上にフロント糸とミドル糸が少なくともタテ方向に交互に露出してなる、経編地。
【請求項2】
フロント糸とミドル糸がそれぞれデンビー編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に形成してなる、請求項1に記載の経編地。
【請求項3】
経編地表面に露出している挿入組織の割合が15~60%である、請求項1または2に記載の経編地。
【請求項4】
フロント糸およびミドル糸の形成する前記編目形成組織と挿入組織とが、それぞれ1~5コース連続している、請求項1~3のいずれか1項に記載の経編地。
【請求項5】
少なくともフロント、ミドル、およびバックの3枚の筬を備える経編機により、バック筬からバック糸を給糸してコード編組織を編成し、フロント筬からフロント糸を給糸して編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、ミドル筬からミドル糸を給糸して編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、フロント糸およびミドル糸の前記編目形成組織としてそれぞれデンビー編組織またはコード編組織を編成し、このフロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とを少なくともタテ方向に交互に配置することにより、バック糸のシンカーループ上に、フロント糸とミドル糸とを少なくともタテ方向に交互に露出させる、経編地の製造方法。
【請求項6】
フロント筬からフロント糸を給糸してデンビー編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、ミドル筬からミドル糸を給糸してデンビー編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、このフロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とを少なくともタテ方向に交互に配置する、請求項5に記載の経編地の製造方法。
【請求項7】
経編地表面に露出させる挿入組織の割合を15~60%とする、請求項5または6に記載の経編地の製造方法。
【請求項8】
フロント糸およびミドル糸の形成する前記編目形成組織と挿入組織とを、それぞれ1~5コース連続して編成する、請求項5~7のいずれか1項に記載の経編地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物調の外観を有する経編地およびその製造方法に関する。
背景技術
【0002】
従来から様々な分野において、伸び特性の求められる用途、例えば、衣料やインテリア資材、車両内装材などの用途において、織物調の外観を有する編物が要求されている。織物調の外観を有する編物として、例えば、経糸が挿入された経編地及び緯糸が挿入された経編地などが挙げられる。しかしこのような経編地には、織物調の外観を有しているものの挿入糸によって伸び特性が抑制されているという課題があった。
【0003】
このような課題を解決すべく、特許文献1には、2枚以上の筬により編成された経編地において、フロント筬またはバック筬の一方からトータルデニール50~100デニールの合成繊維フィラメント糸(A)が給糸され、他方から合成繊維フィラメント糸(A)の40~60%のトータルデニールの合成繊維フィラメント糸(B)が給糸されて編成され、かつシワ加工されたものが開示されている。このような構成により、特許文献1の経編地は、織物調の外観を有しながらストレッチ性に優れたものとなっている。しかしながら、特許文献1の経編地は、2枚の筬により編成されたトリコット編地にシワ加工を施すことで、フロント糸のシンカーループを浮かせることにより織物の緯糸を表現しているに過ぎず、織物調の外観としては十分とはいえず、伸び特性も十分とはいえないものであった。また、2枚の筬により編成されたトリコット編地であるため、強度、特には引裂き強度に劣るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開平08-269851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、織物調の外観を有しながら、伸び特性の求められる用途のために必要とされる物性、特には引裂き強度に優れた経編地およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の経編地は、少なくともフロント、ミドル、およびバックの3枚の筬から給糸された糸からなり、バック筬から給糸されるバック糸がコード編組織を形成し、フロント筬から給糸されるフロント糸とミドル筬から給糸されるミドル糸がヨコ方向に交互に配列され、且つ、フロント糸とミドル糸とのそれぞれが編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に形成し、フロント糸およびミドル糸の前記編目形成組織がそれぞれデンビー編組織またはコード編組織であり、さらに、フロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とが少なくともタテ方向に交互に配置されたことにより、バック糸のシンカーループ上にフロント糸とミドル糸が少なくともタテ方向に交互に露出することを特徴とするものである。
【0007】
この経編地において、フロント筬から給糸されるフロント糸とミドル筬から給糸されるミドル糸がヨコ方向に交互に配列されることが好ましい。また、フロント糸とミドル糸がそれぞれデンビー編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に形成してなることが好ましい(すなわち、前記編目形成組織がデンビー編組織であることが好ましい)。
【0008】
また、この経編地において、経編地表面に露出している挿入組織の割合が15~60%であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記の経編地の製造方法として、少なくともフロント、ミドル、およびバックの3枚の筬を備える経編機により、バック筬からバック糸を給糸してコード編組織を編成し、フロント筬からフロント糸を給糸して編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、ミドル筬からミドル糸を給糸して編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成し、フロント糸およびミドル糸の前記編目形成組織としてそれぞれデンビー編組織またはコード編組織を編成し、このフロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とを少なくともタテ方向に交互に配置することにより、バック糸のシンカーループ上に、フロント糸とミドル糸とを少なくともタテ方向に交互に露出させることを特徴とするものである。
発明の効果
【0010】
本発明の経編地およびその製造方法によれば、フロント糸とミドル糸による挿入組織が、バック糸によるシンカーループ上に少なくともタテ方向に交互に露出することで織物調の意匠を付与することができる。すなわち、挿入組織におけるフロント糸とミドル糸が、バック糸によるシンカーループ上に露出することにより、該シンカーループを覆い隠すことで織物調の意匠を付与することができる。
【0011】
しかも、バック筬から給糸されたバック糸のシンカーループを、フロント糸とミドル糸による編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)と挿入組織とで押えることにより、伸び特性の求められる用途のために必要とされる物性、特には、引裂き強度に優れた経編地とすることができる。
【0012】
さらに、フロント糸とミドル糸による編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)と挿入組織とが交互に形成されることで、タテ方向の伸びが抑制され、タテヨコの伸びバランスに優れた経編地とすることができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、織物調の外観を有しながら、伸び特性の求められる用途のために必要とされる物性、特には引裂き強度に優れた経編地およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の経編地の編成に使用する経編機の主要部を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の経編地の組織図の例である。(a)はフロント糸1とミドル糸2が、1in1outで給糸され、デンビー編組織と挿入組織とが交互に形成された場合を、(b)はフロント糸1とミドル糸2が、2in2outで給糸され、デンビー編組織と挿入組織とが交互に形成された場合を、(c)はフロント糸1とミドル糸2が、1in3outで給糸され、コード編組織と挿入組織とが交互に形成された場合を、それぞれ表している。
【
図3】本実施形態の経編地の一例の略示斜視図である。
【
図4】本実施形態の経編地の一部の略示拡大断面説明図である。(a)はフロント糸1(ミドル糸2でもよい)がバック糸3と接している状態を、(b)はフロント糸1(ミドル糸2でもよい)がバック糸3から浮いている状態を表している。
【
図13】比較例2の組織図である。発明を実施するための形態
【0015】
本実施形態は、少なくともフロント、ミドル、およびバックの3枚の筬から給糸された糸からなり、バック筬から給糸されるバック糸がコード編組織を形成し、フロント筬から給糸されるフロント糸とミドル筬から給糸されるミドル糸がヨコ方向に交互に配列され、且つ、フロント糸とミドル糸とのそれぞれが編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に形成し、フロント糸およびミドル糸の前記編目形成組織がそれぞれデンビー編組織またはコード編組織であり、さらに、フロント糸の形成した挿入組織とミドル糸の形成した挿入組織とが少なくともタテ方向に交互に配置されたことにより、フロント糸とミドル糸が少なくともタテ方向に交互に露出することを特徴とする経編地である。
【0016】
本実施形態の経編地は、トリコット編地やシングルラッセル編地などが挙げられる。
【0017】
本実施形態の経編地は、少なくとも3枚の筬、例えば
図1に略示するように1枚のフロント筬GB1と、1枚のミドル筬GB2と、1枚のバック筬GB3とを備える16~40ゲージの経編機により編成される。特には18~36ゲージの経編機が好ましい。ゲージ数が16ゲージ以上の場合は、幅方向のループが小さく挿入組織が浮きにくくなり、抗ピリング性が損なわれにくい。ゲージ数が40ゲージ以下の場合は、編地の伸びが大きく、シワが生じにくい。前記の経編機としては、トリコット編機、ラッセル編機が挙げられる。
図1は経編機の一種であるトリコット編機の主要部を示し、Nは編機幅方向に多数並列してなる編針、GB1~GB3はそれぞれ編成に使用する筬、G1~G3はフロント糸、ミドル糸およびバック糸としての編糸を通糸するガイド部、B1~B3は各編糸のビームを示す。また、図中の符号1はフロント糸を、符号2はミドル糸を、符号3はバック糸を、それぞれ示す。
【0018】
本実施形態において、フロント糸およびミドル糸として用いられる繊維は特に限定されない。物性の観点からポリエステル繊維が好ましい。
【0019】
フロント糸およびミドル糸に用いられる糸条の形態も特に限定されない。スパン糸、フィラメント糸のどちらも用いることができる。またフィラメント糸としては、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のどちらも用いることができる。またフィラメント糸に後加工をした加工糸であってもよい。糸条の形態については目的に応じて適宜設定すればよい。また、機能性を有する糸条(吸水性のある糸など)を用いれば機能性が、意匠性の高い糸条(ラメ糸やモール糸など)を用いれば意匠性が付与できる。
【0020】
フロント糸およびミドル糸に用いられる糸条の繊度は、56~330dtexであることが好ましく、より好ましくは84~220dtexである。糸条の繊度が56dtex以上の場合、挿入組織による織物調の意匠が損なわれにくく、また強度が損なわれにくい。糸条の繊度が330dtex以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、また抗スナッギング性が損なわれにくい。
【0021】
バック糸として用いられる繊維は特に限定されない。物性の観点からポリエステル繊維が好ましい。
【0022】
バック糸に用いられる糸条の形態も特に限定されない。スパン糸、フィラメント糸のどちらも用いることができる。またフィラメント糸としては、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のどちらも用いることができる。またフィラメント糸に後加工をした加工糸であってもよい。糸条の形態については目的に応じて適宜設定すればよい。
【0023】
バック糸に用いられる糸条の繊度は、56~440dtexであることが好ましく、より好ましくは84~220dtexである。糸条の繊度が56dtex以上の場合、シンカーループの膨らみが十分となり編地が透けにくく、また強度が損なわれにくい。糸条の繊度が440dtex以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、また伸び特性が悪くなりにくい。
【0024】
本実施形態の経編地の編成において、例えば3枚の筬GB1~GB3を備える前記トリコット編機により編成する場合、3枚の筬GB1~GB3のうち、編機後方側(アンダーラップ時の筬位置が編針列から最も近くなる側)の所謂バック筬GB3をバック糸を給糸する地筬とする。このバック筬GB3は、バック糸が各コース毎に交互に左右にアンダーラップしながら編目形成(ルーピング)するコード編組織を編成する。
さらに、前記バック筬GB3より前方に配された少なくとも2枚の筬、フロント筬GB1とミドル筬GB2を、フロント糸とミドル糸を給糸する筬とする。このフロント筬GB1及びミドル筬GB2は、それぞれ、各糸が各コース毎に交互に左右にアンダーラップしながら編目形成する編目形成組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成する。ここで、フロント糸およびミドル糸の編目形成組織はそれぞれデンビー編組織またはコード編組織である。従って、フロント筬GB1及びミドル筬GB2は、それぞれ、デンビー編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成するか、コード編組織と挿入組織とをタテ方向に交互に編成する。
これにより、バック糸のシンカーループの上に、フロント糸およびミドル糸の挿入組織がそれぞれコース方向(タテ方向)に所定間隔おきにバック糸のシンカーループを跨いで編成されて織物調の意匠を付与し、また、フロント糸およびミドル糸の編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)がバック糸とともに地組織として編成されて強度を向上させる。
【0025】
本実施形態の場合は、前記の編成において、フロント筬GB1により給糸するフロント糸とミドル筬GB2により給糸するミドル糸とは、ヨコ方向に交互に配列される。具体的には、フロント筬GB1およびミドル筬GB2の2枚の筬において、フロント糸が糸入れしている列はミドル糸が糸抜きとなり、ミドル糸が糸入れしている列はフロント糸が糸抜きすることとなり、同じ列に糸入れしないことが肝要である。フロント糸およびミドル糸が共に糸抜きされている列があってもよい。
なお、「フロント糸とミドル糸とがヨコ方向に交互に配列される」とは、1本のフロント糸と1本のミドル糸とがヨコ方向に交互に配列されることのみを意味するのではなく、1本又はヨコ方向に連続して並ぶ複数本のフロント糸と、1本又はヨコ方向に連続して並ぶ複数本のミドル糸とが、ヨコ方向にかわるがわる配列されることを意味する。従って、例えば、ヨコ方向に連続して並ぶ2本のフロント糸と、ヨコ方向に連続して並ぶ2本のミドル糸とが、ヨコ方向にかわるがわる配列されていてもよい。
また、フロント糸とミドル糸がそれぞれコード編組織と挿入組織とを交互に形成する場合、挿入組織が他方のコード編組織によって押えられないように、糸抜きを例えば、Xin(X+α)out(αは0または自然数)とすることが肝要である。すなわち、1本の糸入れに対し1本以上の糸抜きをすることが肝要である。例えば、3本糸入れした場合は3本以上糸抜きし、3in3out、3in4out又は3in5out等とすることが肝要である。ここで、αは偶数であることが好ましく、より好ましくは0又は2である。αが偶数の場合、挿入組織が左右に偏りにくく、織物調の外観が良好となる。またαが2以下の場合、バック糸のシンカーループを跨ぐ挿入糸の数が十分確保されるため、織物調の外観が良好となる。
フロント筬GB1により給糸するフロント糸とミドル筬GB2により給糸するミドル糸とがヨコ方向に交互に配列されて編成された結果、編成後の経編地において、経編地の幅方向(ヨコ方向)に、フロント糸とミドル糸とが交互に配列される。
【0026】
また、フロント筬GB1から給糸されるフロント糸により、編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)(A)と挿入組織(B)とがタテ方向に交互に編成される。なお周知の通り、デンビー編組織およびコード編組織は、編方向の数コースにわたって、各コース毎に交互に、左右にアンダーラップしながら編目形成する編組織である。同様に、ミドル筬GB2により給糸するミドル糸についても、編目形成組織(A’)と、挿入組織(B’)とがタテ方向に交互に編成される。フロント糸の形成した挿入組織(B)とミドル糸の形成した挿入組織(B’)はコース方向(タテ方向)に交互に配置されることが肝要である。これと上述の糸の配列(すなわちフロント糸およびミドル糸のヨコ方向への交互の配列)とにより、フロント糸の挿入組織(B)とミドル糸の挿入組織(B’)の部分が、互いに相手のデンビー編組織およびコード編組織(A)とデンビー編組織およびコード編組織(A’)の部分に押さえられることなく、経編地表面に交互に露出し、特に良好な織物調の外観を得ることができる。
【0027】
フロント糸とミドル糸の形成する編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)におけるアンダーラップ数は1針以上であることが肝要であり、好ましくは1~3針である。アンダーラップ数が1針以上の場合、引裂き強度や伸び特性が損なわれにくい。なお、アンダーラップ数が1針未満の場合とは、コース方向に同一編針に編成される場合、すなわち鎖編組織が編成される場合である。また、アンダーラップ数が3針以下の場合、織物調の意匠が損なわれにくく、また編地の風合が粗硬になりにくい。また、フロント糸とミドル糸の形成する編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)におけるアンダーラップ数は、互いの挿入組織を露出させるという観点から、同数であることが好ましい。
フロント糸とミドル糸の形成する編目形成組織(すなわちデンビー編組織またはコード編組織)と挿入組織とが各々連続して編成されるコース数は、1コース以上であることが肝要であり、好ましくは1~5コースであり、より好ましくは1~3コースである。連続して編成されるコース数が5コース以下の場合、抗スナッギング性が悪くなりにくい。
【0028】
以上のように編成された経編地の組織図を
図2に例示する。
図2ではバック糸3が破線で描かれ、フロント糸1及びミドル糸2が実線で描かれている。
図2(a)~(c)の編組織において、バック糸3はフルセットで給糸されコード編組織を形成している。また、
図2(a)の編組織において、フロント糸1及びミドル糸2は、1in1outで給糸され、デンビー編組織と挿入組織とを交互に形成している。また、
図2(b)の編組織において、フロント糸1及びミドル糸2は、2in2outで給糸され、デンビー編組織と挿入組織とを交互に形成している。また、
図2(c)の編組織において、フロント糸1及びミドル糸2は、1in3outで給糸され、コード編組織と挿入組織とを交互に形成している。
このように編成されることにより、
図2及び
図3に示すように、フロント糸1の挿入組織の部分20とミドル糸2の挿入組織の部分21とが経編地の表面に露出する。これらの挿入組織の部分20、21がタテ方向及びヨコ方向に間隔を空けながら周期的に並ぶので、経編地が特に良好な織物調の外観を呈する。
【0029】
フロント糸が形成するデンビー編組織またはコード編組織(A)におけるニードルループのオーバーラップ方向と、ミドル糸が形成するデンビー編組織またはコード編組織(A’)におけるニードルループのオーバーラップ方向とは、編組織の1リピートの中で同じ順番で同じ方向を向いていることが好ましい。例えば、フロント糸の編組織の1リピートの中でオーバーラップが順に右、左、右の方向になされている場合は、ミドル糸の編組織の1リピートの中でもオーバーラップが順に右、左、右の方向になされていることが好ましい。同様に、フロント糸が形成するデンビー編組織またはコード編組織(A)におけるシンカーループのアンダーラップ方向と、ミドル糸が形成するデンビー編組織またはコード編組織(A’)におけるシンカーループのアンダーラップ方向とは、編組織の1リピートの中で同じ順番で同じ方向を向いていることが好ましい。上記を満たすことにより、挿入組織(B)と挿入組織(B’)が経編地表面に露出しやすく、織物調の外観を容易に得ることができる。このとき、ニードルループはクローズステッチ、オープンステッチのいずれでもあってもよい。
【0030】
経編地表面に露出している挿入組織の高さは、0.1~2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~1.2mmである。挿入組織の高さが0.1mm以上の場合、強度、特には引裂き強度が損なわれにくい。挿入組織の高さが2.0mm以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、また抗スナッギング性が損なわれにくい。ここで挿入組織の高さとは、
図4において符号hで示される高さのことで、挿入組織におけるフロント糸1(ミドル糸2でもよい)の頂点Pと、バック糸3により形成されるコード編組織のシンカーループ頂点Qとの高低差をいう。
ここで、経編地表面に露出している挿入組織の高さは、下記の実施例に記載の方法で測定される挿入組織の高さである。
【0031】
経編地表面に露出している挿入組織の割合は、15~60%であることが好ましく、より好ましくは25~50%である。挿入組織の割合が15%以上の場合、織物調の外観が得られやすく、また編地の風合が粗硬になりにくい。挿入組織の割合が60%以下の場合、強度が損なわれにくく、また抗スナッギング性が損なわれにくい。
ここで、経編地表面に露出している挿入組織の割合は、以下のように求められる。
挿入組織割合(%)=25.4mm四方に露出している挿入組織のコース数の和÷(コース密度×ウエル密度)×100
なお、コース密度は25.4mmあたりのコース数、ウエル密度は25.4mmあたりのウエル数である。
【0032】
バック筬GB3により給糸するバック糸によって形成される編組織は、意匠と強度の観点から、コード編組織である。コード編組織のアンダーラップ数は2~7針が好ましく、より好ましくは3~5針である。アンダーラップ数が2針以上の場合、バック糸の形成するシンカーループの重なりが十分となり、得られる編地が透けにくく意匠性が損なわれにくく、また引裂き強度が損なわれにくい。アンダーラップ数が7針以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、また編地の伸びが大きくなり、シワが生じにくい。
【0033】
経編地の密度は、20~100コース/25.4mm、16~60ウエル/25.4mmであることが好ましく、より好ましくは30~70コース/25.4mm、20~50ウエル/25.4mmである。密度が20コース/25.4mm以上かつ16ウエル/25.4mm以上の場合、編地が透けにくく意匠性が損なわれず、また保型性が損なわにくく、さらに挿入組織の間隔が狭くて挿入糸が浮きにくく動きにくいため抗スナッギング性が損なわれにくい。密度が100コース/25.4mm以下かつ60ウエル/25.4mm以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、編地の伸びが大きく、シワが生じにくい。
【0034】
経編地の引裂き強度は、70N以上であることが好ましく、より好ましくは150N以上であり、さらに好ましくは220N以上である。引裂き強度が70N以上の場合、使用の際に破れが生じにくい。引裂き強度の上限値は特に限定されないが、250N以下であることが好ましい。引裂き強度が250N以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、編地が軽く扱いやすい。ここで引裂き強度とは、下記の実施例に記載の方法で測定される引裂き強度のことである。
【0035】
経編地の伸びは、タテ方向ヨコ方向ともに5N/25.4mm以上であることが好ましく、より好ましくはタテ方向15N/25.4mm以上、ヨコ方向50N/25.4mm以上である。さらに好ましくは、伸びがタテ方向に15N/25.4mm以上、ヨコ方向に50N/25.4mm以上で、かつ、タテ方向とヨコ方向の伸びの比率(ヨコ/タテ)が0.5~2.0の範囲である。伸びがタテ方向ヨコ方向ともに5N/25.4mm以上の場合、編地のハリやコシが失われにくく、シワになりにくい。ここで伸びとは、下記の実施例に記載の方法で測定される伸びのことである。
【0036】
経編地の目付は180~360g/m2の範囲であることが好ましく、より好ましくは200~320g/m2の範囲であり、さらに好ましくは240~280g/m2の範囲である。目付が180g/m2以上の場合、使用の際に破れが生じにくく、目的とする意匠が得られやすい。目付が360g/m2以下の場合、編地の風合が粗硬になりにくく、編地が軽く扱いやすい。
【0037】
なお、本実施形態は、上述の3枚筬の経編機を用いた編成のほか、4枚筬以上の編成機(すなわち4枚以上の筬を有する編成機)を用いた編成とすることもできる。例えば、フロント糸を給糸するフロント筬、ミドル糸を給糸するミドル筬、およびバック糸を給糸するバック筬に加えて、前記バック筬の後方に地筬をさらに1枚又は複数枚設け、上記と同様の方法でフロント糸とミドル糸をバック糸のシンカーループ上にタテ方向に交互に露出させるように編成して実施することができる。さらに、4枚筬以上の編成機において、ミドル糸を給糸するミドル筬を複数枚にし、フロント糸と複数のミドル糸をバック糸のシンカーループ上にタテ方向に交互に露出させるように編成して実施することができる。
【0038】
得られた経編地には、従来公知の後加工(染色、熱セットなど)を行うことができる。
<実施例>
【0039】
以下、実施例により本実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、得られた経編地の評価は、以下の方法に従った。
【0040】
[意匠性]
得られた経編地に対して次の評価基準で評価をした。
(評価基準)
◎:織物調にみえる
○:おおよそ織物調にみえる
△:おおよそ織物調にみえるが、ループが目立つ
×:織物調にみえない
【0041】
[伸び特性]
得られた経編地に対して次の評価基準で評価をした。
タテ方向、ヨコ方向における5%円形モジュラスを測定するために、直径300mmの大きさの円形試験片を、各方向について3枚ずつ採取した。
試験片はつかみ間隔を200mmとし、低速度伸長型の引張り試験機(オートグラフAG-1、株式会社島津製作所製)に取り付けた。つかみ冶具の大きさは、上下ともに表側は縦25.4mm×横25.4mm、裏側は縦25.4mm×横50.8mmとした。このときの初荷重は、0.98Nとした。
取り付けた試験片を、引っ張り速度200mm/分において20%伸長時まで引っ張り、荷重-伸長曲線を求めた。
求めた荷重-伸長曲線から、5%伸長時の荷重(N/25.4mm)を読みとった。
それぞれの方向について、3枚の試験片の平均値を5%円形モジュラスの値とし、次の評価基準で評価をした。
(評価基準)
◎:タテ方向15N/25.4mm以上、ヨコ方向50N/25.4mm以上、かつ、ヨコ/タテの比率が0.5~2.0の範囲
○:タテ方向15N/25.4mm以上、ヨコ方向50N/25.4mm以上
△:タテ方向5N/25.4mm以上15N/25.4mm未満、かつ、ヨコ方向5N/25.4mm以上50N/25.4mm未満
×:タテ方向・ヨコ方向のいずれかが5N/25.4mm未満
【0042】
[引裂き強度]
幅50mm、長さ250mmの大きさで、長さ方向をタテ方向として、試験片を5枚準備した。各試験片には、短辺100mm、長辺150mmとなる等脚台形のマークを付け、このマークの短辺の中央に辺と垂直に10mmの切り込みを入れた。
試験片は、つかみ間隔100mmで低速度伸長型の引張試験機に取り付けた。この時に台形の短辺は張り、長辺は緩めてつかんだ。200mm/minの引張速度で引裂き、強度を測定した。引裂き強度は、平均値(N)で表わした。
5枚の試験片の中の最小値を引裂き強度とし、次の評価基準で評価をした。
(評価基準)
◎:220N以上
○:150N以上220N未満
△:70N以上150N未満
×:70N未満
【0043】
[抗スナッギング性]
幅330mm、長さ200mmの大きさの、タテ・ヨコの各方向の試験片を各2枚準備した。幅方向の端から、30±2.5mmの位置を中表に筒状に縫い合わせた。
縫い合わせた筒状試験片をひっくり返して内外逆転させ表面を外側にして試験機のドラムに取り付けた。試験機はASTM D3939に規定されているICI Mace Snag Tester(アトラス社製)を用いた。メースの質量は160gとした。接触子の位置を試験機に添付されているゲージを使って調整し、ドラムを600回回転させた後、試験片を取り外した。この時タテ方向、ヨコ方向それぞれの試験片に対し、ドラムを順回転および逆回転させたときのそれぞれの評価を行った。
試験片を観察箱内でICIの標準見本と比較し、等級を判別した。タテ方向、ヨコ方向それぞれの試験片の最悪値を抗スナッギング性とし次の評価基準で評価した。
(評価基準)
○:3級以上
△:2級以上3級未満
×:2級未満
【0044】
[挿入組織の高低差]
経編地の幅方向断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)にて観察し、挿入組織の挿入糸とバック糸のシンカーループの頂点との高低差を測定した。
【0045】
[実施例1]
28ゲージのトリコット編機(HKS3M:カールマイヤー株式会社製)を用いてトリコット編地を編成した。詳細には、
図5に示すように、フロント筬GB1にフロント糸として130dtex/24fのポリエステルマルチフィラメント糸を1in1out(1本糸入れ、1本糸抜き)で導糸してデンビー編組織と挿入組織を交互に形成し、ミドル筬GB2にミドル糸として130dtex/24fのポリエステルマルチフィラメント糸を1out1inで導糸してデンビー編組織と挿入組織を交互に形成し、バック筬GB3にバック糸として167dtex/48fのポリエステルマルチフィラメント加工糸をフルセットで導糸してコード編組織を形成した。このとき、フロント糸が形成するデンビー編組織におけるニードルループのオーバーラップ方向と、ミドル糸が形成するデンビー編組織におけるニードルループのオーバーラップ方向は同方向であった。また、挿入組織の挿入糸が経編地表面に連続して露出しているコース数は1であった。
【0046】
得られたトリコット編地をヒートセッターにて190℃で1分間プレセットした後、130℃にて染色、乾燥し、ヒートセッターにて150℃で1分間仕上げセットして、仕上がりが48コース/25.4mm、32ウエル/25.4mmのトリコット編地を作製した。このとき、経編地表面に露出している挿入組織の割合は25%、挿入糸の高さは0.3mmであった。また、得られた経編地の意匠性は○、伸び特性は◎、引裂き強度は◎、抗スナッギング性は○であった。
【0047】
[実施例2~8、比較例1~2]
表1および
図5~13に示された条件に従い、実施例1と同様の手順で実施例2~8および比較例1~2の経編地を得た。
なお、実施例のうち、実施例1~6、8はフロント糸とミドル糸の挿入部分の長さ(挿入部分のコース数)が同じである実施例であり、実施例7はフロント糸とミドル糸の挿入部分の長さが異なる実施例である。
また、実施例のうち、実施例1~2、5~8はフロント糸とミドル糸とが共に地組織に編み込まれるコース(挿入部分でないコース)が存在する実施例であり、実施例3、4はフロント糸とミドル糸とが共に地組織に編み込まれるコースが存在しない実施例である。また、実施例のうち、実施例5、8は、フロント糸とミドル糸とが共に地組織に編み込まれるコースが2コース以上連続している実施例であり、より具体的にはフロント糸とミドル糸とが共に地組織に編み込まれるコースが3コース連続している実施例である。
また実施例のうち、実施例1~4、6~7は、経編地の外観上、フロント糸とミドル糸の挿入部分がコース方向に間隔を空けることなく交互に並ぶ実施例であり、実施例5、8は、経編地の外観上、フロント糸とミドル糸の挿入部分がコース方向に間隔を空けて交互に並ぶ実施例である。
評価結果は表1の通りであった。
【0048】
【符号の説明】
【0049】
1…フロント糸、2…ミドル糸、3…バック糸、20、21…挿入組織の部分