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特許7048382ガスシールドアーク溶接の制御方法及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ガスシールドアーク溶接の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20220329BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20220329BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
B23K9/12 305
B23K9/16 J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018062123
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019171419
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 培尓
(72)【発明者】
【氏名】中司 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英市
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-073521(JP,A)
【文献】特開2008-246524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御方法であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記離脱制御期間中に、下記(a)及び(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とするガスシールドアーク溶接の制御方法。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制
c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【請求項2】
前記電流低下区間における、前記溶接電流の単位時間当たりの変化量である前記溶接電流の傾きが-200~-50A/msであり、
前記電流保持区間における、前記溶接電流の離脱保持時間Th1が2~8msであり、
前記電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが50~300A/msであり、
かつ、前記電流保持区間における、前記離脱保持時間Th1[ms]、ワイヤ直径d[mm]および溶接中のワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(1)を満足する、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
0.4≦(1.2/d)×(Fs/15)×Th1≦10 ・・・(1)
【請求項3】
前記(a)の制御を行う場合、前記アーク電圧を、設定電圧に対し±5%以内に維持し、
前記(c)の制御を行う場合、前記シールドガス中のAr比率を、80~100体積%の範囲にまで高める、請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項4】
シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御方法であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記電流低下区間における、前記溶接電流の単位時間当たりの変化量である前記溶接電流の傾きが-200~-50A/msであり、
前記電流保持区間における、前記溶接電流の離脱保持時間Th1が2~8msであり、
前記電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが50~300A/msであり、
かつ、前記電流保持区間における、前記離脱保持時間Th1[ms]、ワイヤ直径d[mm]および溶接中のワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(1)を満足し、
0.4≦(1.2/d)×(Fs/15)×Th1≦10 ・・・(1)
前記離脱制御期間中に、下記(a)~(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とするガスシールドアーク溶接の制御方法。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制御
(b)溶接中の前記ワイヤ送給速度Fsを、設定ワイヤ送給速度に対し40~95%の範囲にまで減速させる送給速度制御
(c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【請求項5】
前記(a)の制御を行う場合、前記アーク電圧を、設定電圧に対し±5%以内に維持し、
前記(b)の制御を行う場合、前記ワイヤ送給速度Fsを、前記設定ワイヤ送給速度に対し50~95%の範囲にまで減速させ、
前記(c)の制御を行う場合、前記シールドガス中のAr比率を、80~100体積%の範囲にまで高める、請求項4に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項6】
前記電流保持区間における、前記離脱保持電流Ih1[A]および溶接中のワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(2)を満足する、請求項1~のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
50≦(15/Fs)×Ih1≦280 ・・・(2)
【請求項7】
前記離脱制御期間および前記通常アーク期間の合計期間を溶滴の離脱周期とし、前記溶滴の離脱周期があらかじめ設定された監視時間Tarcを経過した場合に、前記溶滴の離脱を強制的に促すための強制離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記監視時間Tarcが10~60msであり、
前記監視時間Tarc[ms]、前記設定電流Icc[A]および前記溶接ワイヤのワイヤ直径d[mm]との関係が下記式(3)を満足する、請求項1~のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
10≦(d/1.2)×(350/Icc)×Tarc≦80 ・・・(3)
【請求項8】
前記強制離脱制御期間は、前記溶接電流を低下させる強制電流低下区間、前記強制電流低下区間後に前記溶接電流を一定の強制離脱保持電流Ih2で保持する強制電流保持区間、および前記強制電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる強制電流上昇区間を有し、
前記強制電流低下区間における、前記溶接電流の傾きが-100A/ms以下であり、
前記強制電流保持区間における、前記溶接電流の強制離脱保持時間Th2が1~5msであり、
前記強制電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが10~300A/msであり、
かつ、前記強制離脱制御期間後における前記溶接電流を、前記設定電流Iccの1.20~2.50倍の強制アーク保持電流Ih3および3~10msの強制アーク保持時間Th3の条件で保持する強制離脱アーク期間を設ける工程を有する、請求項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項9】
前記強制離脱制御期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した場合、前記離脱制御期間における前記電流低下区間に移行する、請求項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項10】
前記強制離脱アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した場合、前記離脱制御期間における前記電流低下区間に移行する、請求項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項11】
前記強制離脱制御期間または前記強制離脱アーク期間における前記溶滴の離脱時期を、前記アーク電圧を用いて検知する請求項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項12】
前記通常アーク期間における前記溶滴の離脱時期を、アーク抵抗を用いて検知する請求項1~11のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接の制御方法。
【請求項13】
シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御装置であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記離脱制御期間中に、下記(a)及び(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とするガスシールドアーク溶接の制御装置。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制
c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【請求項14】
シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御装置であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記電流低下区間における、前記溶接電流の単位時間当たりの変化量である前記溶接電流の傾きが-200~-50A/msであり、
前記電流保持区間における、前記溶接電流の離脱保持時間Th1が2~8msであり、
前記電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが50~300A/msであり、
かつ、前記電流保持区間における、前記離脱保持時間Th1[ms]、ワイヤ直径d[mm]および溶接中のワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(1)を満足し、
0.4≦(1.2/d)×(Fs/15)×Th1≦10 ・・・(1)
前記離脱制御期間中に、下記(a)~(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とするガスシールドアーク溶接の制御装置。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制御
(b)溶接中のワイヤ送給速度Fsを、設定ワイヤ送給速度に対し40~95%の範囲にまで減速させる送給速度制御
(c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COを所定量以上含有するシールドガスを用いた消耗電極式ガスシールドアーク溶接において、溶滴の離脱直後に発生するスパッタの発生を抑制することができるガスシールドアーク溶接の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、溶滴(または「溶融部」ともいう)の移行形態の1つであるグロビュール移行は、溶接ワイヤ直径(線径)よりもサイズが大きな溶滴が溶融池に移行する現象である。COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガス雰囲気中において、中~大電流条件(例えば、1.2φの線径を用いた場合は250A以上)でガスシールドアーク溶接を行った場合、アークの緊縮によって、溶滴直下にアーク反力が集中し、溶滴を押し上げる反発力が大きくなる。
【0003】
そして、アーク反力によって押し上げられた溶滴は容易には離脱できず、その溶滴はワイヤ直径よりも大きく成長した後、自重により離脱する。離脱した溶滴は不規則で不安定な挙動を示しつつ、溶融池に移行すると共に、大粒のスパッタが発生する場合があり、また、離脱した溶滴自体がスパッタとなる場合もある。さらに、溶滴の離脱後、アークが溶接ワイヤ(単に「ワイヤ」あるいは「消耗式電極」ともいう)に移動した際、ワイヤ先端に残留した融液を吹き飛ばし、小粒のスパッタを発生させてしまう場合もある。
【0004】
このような事情を考慮し、上記スパッタの発生を抑制する方法として、以下のような様々な提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、炭酸ガスシールドアーク溶接方法において、ピーク期間とベース期間とを設け、ピーク期間中のピーク電流を振動させ、溶滴を所望サイズに形成し、この形成した溶滴をベース期間において短絡させることによって、直流の炭酸ガスアーク溶接方法よりもスパッタの発生を抑制することができる技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、溶滴を振動させるピーク期間において、溶滴の振動中に微小なスパッタが発生するおそれがある。また、所望サイズに成長させた溶滴はベース期間において、短絡させることによって移行させるため、短絡解除時にスパッタが発生する可能性がある。
【0007】
また、特許文献2では、パルス波形制御をベースに短絡や溶滴の過大を押し上げ、溶滴の変形を抑制しつつ溶滴移行を形成した後、パルスピーク電流によって溶滴上部にくびれを形成し、低電流時のパルスベース期間に溶滴を離脱させる手法が開示されている。そして、この手法を用いて、溶滴形成および溶滴離脱の各タイミングにおいて、最適なパルス電流を出力することにより、一定サイズの溶滴を規則正しく移行させる方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の方法においては、溶滴移行の規則性を保つために、能動的に溶滴を形成させるものであり、溶滴を離脱させるための電流パルスとしてベース変調波形制御方式が用いられているため、パルスのピーク期間中におけるアーク長の制御が困難であり、十分なスパッタ低減効果が得られるものではない。また、特許文献2では、一定のスパッタの低減効果があると述べられているものの、溶接条件や溶接姿勢等に関する制約が設けられるという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-88209号公報
【文献】特開2009-233728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、炭酸ガスシールドアーク溶接方法において、溶滴の形成および離脱状態を安定化し、溶滴離脱時の飛散スパッタを抑制するための技術が種々提案されているが、アーク長を略一定に維持しながら、溶滴離脱直後におけるスパッタを抑制することについては考慮されていなかった。より具体的には、中~大電流条件の炭酸ガスシールドアーク溶接方法において、溶滴と溶融池が短絡すること無く、溶滴離脱時の大粒スパッタ発生を抑制して溶接を行うことについては考慮されていなかった。
【0011】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、COを所定量以上含有するシールドガスを使用する消耗電極式ガスシールドアーク溶接を行うにあたり、溶滴と溶融池が短絡すること無く、溶滴が離脱する際のスパッタの発生を抑制しつつ、ビード外観を優れたものとすることができるガスシールドアーク溶接の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のガスシールドアーク溶接の制御方法は、シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御方法であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記離脱制御期間中に、下記(a)~(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とする。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制御
(b)溶接中のワイヤ送給速度Fsを、設定ワイヤ送給速度に対し40~95%の範囲にまで減速させる送給速度制御
(c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記(a)の制御を行う場合、前記アーク電圧を、設定電圧に対し±5%以内に維持し、前記(b)の制御を行う場合、前記ワイヤ送給速度Fsを、前記設定ワイヤ送給速度に対し50~95%の範囲にまで減速させ、前記(c)の制御を行う場合、前記シールドガス中のAr比率を、80~100体積%の範囲にまで高める。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記電流低下区間における、前記溶接電流の単位時間当たりの変化量である前記溶接電流の傾きが-200~-50A/msであり、前記電流保持区間における、前記溶接電流の離脱保持時間Th1が2~8msであり、前記電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが50~300A/msであり、かつ、前記電流保持区間における、前記離脱保持時間Th1[ms]、ワイヤ直径d[mm]および前記ワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(1)を満足する。
0.4≦(1.2/d)×(Fs/15)×Th1≦10 ・・・(1)
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記電流保持区間における、前記離脱保持電流Ih1[A]および前記ワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(2)を満足する。
50≦(15/Fs)×Ih1≦280 ・・・(2)
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記離脱制御期間および前記通常アーク期間の合計期間を溶滴の離脱周期とし、前記溶滴の離脱周期があらかじめ設定された監視時間Tarcを経過した場合に、前記溶滴の離脱を強制的に促すための強制離脱制御期間を設ける工程を有し、前記監視時間Tarcが10~60msであり、前記監視時間Tarc[ms]、前記設定電流Icc[A]および前記溶接ワイヤのワイヤ直径d[mm]との関係が下記式(3)を満足する。
10≦(d/1.2)×(350/Icc)×Tarc≦80 ・・・(3)
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記強制離脱制御期間は、前記溶接電流を低下させる強制電流低下区間、前記強制電流低下区間後に前記溶接電流を一定の強制離脱保持電流Ih2で保持する強制電流保持区間、および前記強制電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる強制電流上昇区間を有し、前記強制電流低下区間における、前記溶接電流の傾きが-100A/ms以下であり、前記強制電流保持区間における、前記溶接電流の強制離脱保持時間Th2が1~5msであり、前記強制電流上昇区間における、前記溶接電流の傾きが10~300A/msであり、かつ、前記強制離脱制御期間後における前記溶接電流を、前記設定電流Iccの1.20~2.50倍の強制アーク保持電流Ih3および3~10msの強制アーク保持時間Th3の条件で保持する強制離脱アーク期間を設ける工程を有する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記強制離脱制御期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した場合、前記離脱制御期間における前記電流低下区間に移行する。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記強制離脱アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した場合、前記離脱制御期間における前記電流低下区間に移行する。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記強制離脱制御期間または前記強制離脱アーク期間における前記溶滴の離脱時期を、前記アーク電圧を用いて検知する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記ガスシールドアーク溶接の制御方法は、前記通常アーク期間における前記溶滴の離脱時期を、アーク抵抗を用いて検知する。
【0022】
また、上記課題を解決する本発明のガスシールドアーク溶接の制御装置は、シールドガスとして、COの含有量が100体積%である炭酸ガス、またはCOの含有量が30体積%以上で残部がArである混合ガスを用い、かつ、アークにより溶融された溶接ワイヤ先端の溶滴の離脱時期を検知することで溶接電流を制御するガスシールドアーク溶接の制御装置であって、
前記溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間を設ける工程と、
前記通常アーク期間において、前記溶滴の離脱時期を検知した後、前記溶接電流を低下させる電流低下区間、前記電流低下区間後に前記溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1で保持する電流保持区間、および前記電流保持区間後に前記溶接電流を上昇させる電流上昇区間を有する離脱制御期間を設ける工程を有し、
前記離脱制御期間中に、下記(a)~(c)の少なくともいずれか1つの短絡防止制御を行うことを特徴とする。
(a)溶接中アーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制御
(b)溶接中のワイヤ送給速度Fsを、設定ワイヤ送給速度に対し40~95%の範囲にまで減速させる送給速度制御
(c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るガスシールドアーク溶接の制御方法によれば、COを所定量以上含有するシールドガスを使用する消耗電極式ガスシールドアーク溶接を行うにあたり、溶滴と溶融池が短絡すること無く、溶滴が離脱する際のスパッタの発生を抑制しつつ、ビード外観を優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法について説明したフローチャートである。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。
図4図4は、本発明の第3の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。
図5図5は、本実施形態に係るガスシールドアーク溶接の溶接システムの概略構成の一例を示す図である。
図6図6は、溶滴の離脱検知をアーク電圧を用いて行う場合の溶接電流制御装置を示すブロック図である。
図7図7は、溶滴の離脱検知をアーク抵抗を用いて行う場合の溶接電流制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接の制御方法を実施するための形態(実施形態)について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0026】
まず、本発明の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法の全体の流れについて、フローチャートを用いて説明する。
図1に示すように、溶接開始後、溶接電流をあらかじめ設定された設定電流Iccで保持する通常アーク期間に移行する(ステップS1)。
【0027】
通常アーク期間中は、常に溶滴の離脱時期を検知できたか否かの判定を行い(ステップS2)、溶滴の離脱時期を検知できた場合(ステップS2でYes)、後述する離脱制御期間へ移行する(ステップS8)。離脱制御期間の終了後は、再び通常アーク期間へと戻る(ステップS1)。
一方、溶滴の離脱時期を検知できない場合(ステップS2でNo)、溶滴の離脱周期(詳細は後述を参照)が監視時間を経過したことを確認の上(ステップS3)、強制離脱制御期間へと移行する(ステップS4)。
【0028】
強制離脱制御期間中においても、常に溶滴の離脱時期を検知できたか否かの判定を行い(ステップS5)、溶滴の離脱時期を検知できた場合(ステップS5でYes)、離脱制御期間へ移行する(ステップS8)。離脱制御期間の終了後は、再び通常アーク期間へと戻る(ステップS1)。
一方、溶滴の離脱時期を検知できない場合(ステップS5でNo)、強制離脱制御期間の終了後に、強制離脱アーク期間に移行する(ステップS6)。
【0029】
強制離脱アーク期間中においても、常に溶滴の離脱時期を検知できたか否かの判定を行い(ステップS7)、溶滴の離脱時期を検知できた場合(ステップS7でYes)、離脱制御期間へ移行する(ステップS8)。離脱制御期間の終了後は、再び通常アーク期間へと戻る(ステップS1)。
一方、溶滴の離脱時期を検知できない場合(ステップS7でNo)、強制離脱アーク期間が所定時間を経過したことを確認の上(ステップS9)、再び通常アーク期間へと戻る(ステップS1)。
【0030】
上記フローで説明したように、本実施形態のガスシールドアーク溶接の制御方法においては、通常アーク期間、強制離脱制御期間および強制離脱アーク期間のいずれかにおいて溶滴の離脱検知がなされた場合に、直ちに離脱制御期間へと移行することとなる。そして、この離脱制御期間中に、後述するような所定の短絡防止制御を行う。
【0031】
続いて、本実施形態のガスシールドアーク溶接の制御方法の詳細について、第1の実施形態、第2の実施形態および第3の実施形態に分けて説明する。なお、第1の実施形態は、通常アーク期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS2でYes)の例である。また、第2の実施形態は、強制離脱アーク期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS7でYes)の例である。さらに、第3の実施形態は、強制離脱制御期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS5でYes)の例である。
【0032】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法について説明する。上記の通り、第1の実施形態は、通常アーク期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS2でYes)の例である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。以下、同図を参照しつつ詳細に説明する。
【0033】
第1の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法では、溶滴の離脱周期が、通常アーク期間と離脱制御期間の2つの期間から構成されている。また、この溶滴の離脱周期を繰り返しながら溶接が行われる。
【0034】
[通常アーク期間]
通常アーク期間では、溶接ワイヤ先端に溶滴を形成し移行をさせるために、あらかじめ設定された設定電流Iccが通電される。本制御方法は、中電流~大電流の範囲で適している。最も制御に効果がある範囲として、設定電流Iccの値は250~500Aである。より好ましい上限は380Aであり、より好ましい下限は280Aである。
【0035】
また、通常アーク期間において、溶接ワイヤ先端に形成された溶滴の離脱時期を検知する。このとき、溶滴の離脱時期を調べるために、溶滴の離脱またはその離脱直前を検知(以下、まとめて「溶滴の離脱検知」と呼ぶ)した場合に出力する信号である離脱検知信号が用いられる。
その一例を具体的に説明すると、溶滴が離脱する場合、ワイヤ先端に存在する溶滴の根元がくびれ、そのくびれが進行する結果、アーク電圧およびアーク抵抗(=アーク電圧/溶接電流)が上昇する。また、溶滴が離脱するとアーク長が長くなるため、アーク電圧およびアーク抵抗が上昇する。そして、これらの時間微分値や時間2階微分値も当然上昇することとなる。溶滴がくびれ始めて離脱するまでの間はアーク電圧およびアーク抵抗、更にこれらの時間微分値や時間2階微分値は常に上昇している。よって、これらのうち少なくともいずれか1つを検知し、所定の演算を行い、その結果を所定のしきい値と比較して離脱検知信号として出力することにより、溶滴の離脱時期を判断することができる。
より詳細には、例えば特開2008-246524号に記載の溶滴離脱検知方法を参照することができる。
【0036】
[離脱制御期間]
上記通常アーク期間中に、溶滴の離脱検知がなされた場合、直ちに、検知時の溶接電流(すなわち、設定電流Icc)よりも低い溶接電流への切り替えを行い、離脱制御期間へと移行する。離脱制御期間は、溶接電流を所定の条件下で低下させる電流低下区間、電流低下区間後に溶接電流を一定の離脱保持電流Ih1および所定の離脱保持時間Th1で保持する電流保持区間、および電流保持区間後に溶接電流を所定の条件下で上昇させる電流上昇区間の3つの区間から構成される。
【0037】
(電流低下区間)
電流低下区間は、通常アーク期間におけるアーク反力によって、飛散するスパッタを低減させるために設けられる。より詳細には、溶滴の離脱検知後に直ちに電流低下区間を設けることで、アーク反力を低下させ、後述する電流保持期間で安定的に溶滴が離脱できるように溶滴の振動を抑制する。
【0038】
電流低下区間における、溶接電流の単位時間当たりの変化量である溶接電流の傾きは-200~-50A/msであることが好ましい。上記溶接電流の傾きが-50A/msを超える場合には、溶滴離脱直後の電流低下区間において溶滴が離脱し、アーク反力によって、スパッタが発生しやすくなるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは-120A/ms以下、より好ましくは-100A/ms以下である。
一方、上記溶接電流の傾きが-200A/msを下回る場合には、ワイヤが溶融池と短絡するおそれがあるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは-180A/ms以上、より好ましくは-150A/ms以上である。
なお、電流低下区間においては、図2における溶滴の状態の模式図に示すように、溶滴のくびれが促進された懸垂状態となっている(図中の(A)を参照)。
【0039】
(電流保持区間)
電流保持区間は、離脱した溶滴がスパッタ化するのを抑制するべく、溶滴が溶融池に完全に落ちるための時間を確保するために設けられる。電流保持区間における溶接電流の離脱保持時間Th1は、2~8msであることが好ましい。離脱保持時間Th1が8msを超える場合には、ワイヤと溶融池が短絡することによってスパッタが発生するおそれがあるため好ましくない。離脱保持時間Th1は、好ましくは5ms以下である。
一方、離脱保持時間Th1が2msを下回る場合には、溶融池に溶滴が移行しないまま、後述する電流上昇区間に進み、強まったアーク反力によって、溶滴が爆発し、スパッタが発生しやすくなるため好ましくない。離脱保持時間Th1は、好ましくは3ms以上である。
【0040】
また、電流保持区間における、離脱保持時間Th1[ms]、ワイヤ直径d[mm]およびワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(1)を満足することが好ましい。
0.4≦(1.2/d)×(Fs/15)×Th1≦10 ・・・(1)
離脱保持時間Th1、ワイヤ直径dおよびワイヤ送給速度Fsとの関係が、上記数値の範囲内であれば、安定した溶滴の離脱制御が可能となる結果、スパッタ発生の低減につながる。
ただし、(1.2/d)×(Fs/15)×Th1が10を超える場合には、ワイヤと溶融池とが短絡しやすくなるため、スパッタが増加するおそれがあるため好ましくない。上記関係式は、好ましくは4.4以下、より好ましくは2.6以下である。
一方、(1.2/d)×(Fs/15)×Th1が0.4を下回る場合には、電流保持区間で溶滴が離脱せず、後述する電流上昇区間において溶滴が離脱し、アーク反力によって大粒のスパッタが発生しやすくなるため好ましくない。上記関係式は、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.2以上である。
【0041】
更に、電流保持区間における、離脱保持電流Ih1[A]およびワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が下記式(2)を満足することが好ましい。
50≦(15/Fs)×Ih1≦280 ・・・(2)
離脱保持電流Ih1[A]およびワイヤ送給速度Fs[m/min]との関係が、上記数値の範囲内であれば、安定した溶滴の離脱制御が可能となる結果、スパッタ発生の低減につながる。
ただし、(15/Fs)×Ih1が280を超える場合には、電流保持区間で溶滴が成長し、溶融池と短絡することによって、大粒のスパッタが発生しやすくなるため好ましくない。上記関係式は、好ましくは250以下、より好ましくは200以下である。
一方、(15/Fs)×Ih1が50を下回る場合には、電流保持区間でアーク切れが発生し、ワイヤと溶融池とが短絡するおそれがあるため好ましくない。上記関係式は、好ましくは120以上、より好ましくは140以上である。
なお、電流保持区間においては、図2における溶滴の状態の模式図に示すように、電流低下区間において懸垂状態となっていた溶滴の離脱が行われ(図中の(B)を参照)、その直後においては、アーク柱は小さい状態である(図中の(C)を参照)。
【0042】
(電流上昇区間)
電流上昇区間は、ワイヤと溶融池の短絡防止を図るため、緩やかな上昇傾斜を行うために設けられる。電流上昇区間における、溶接電流の単位時間当たりの変化量である溶接電流の傾きは50~300A/msであることが好ましい。上記溶接電流の傾きが300A/msを超える場合には、ワイヤ先端の溶滴がアーク反力によって爆発する可能性があるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは200A/ms以下、より好ましくは150A/ms以下である。
一方、上記溶接電流の傾きが50A/msを下回る場合には、ワイヤが溶融池と短絡するおそれがあるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは100A/ms以上、より好ましくは120A/ms以上である。
なお、電流上昇区間においては、図2における溶滴の状態の模式図に示すように、溶接電流を上昇させることによりアーク柱は大きくなり、溶滴は成長していく(図中の(D)を参照)。
【0043】
[短絡防止制御]
本実施形態においては、上記で説明したように、離脱制御期間として電流低下区間、電流保持区間および電流上昇区間を設け、溶滴の離脱検知後における溶接電流を制御することによって、溶滴が離脱する際のスパッタの発生を抑制しつつ、以下で説明するように、離脱制御期間中に所定の短絡防止制御を導入することによって、溶滴と溶融池の短絡も抑制する。
【0044】
離脱制御期間においては、溶滴が離脱する際のスパッタの発生を抑制するために溶接電流を低下させることに伴い、アーク長が短くなり、溶滴と溶融池が短絡しやすい状態となる。溶滴と溶融池が短絡する場合、急激な電流上昇が起こると、アーク反力によりスパッタが発生しやすくなる。
このため、溶滴が離脱する際のスパッタの発生を抑制するために溶接電流を低下させた場合において、溶滴と溶融池の短絡を抑制することは、溶接時のスパッタの発生を効果的に抑制する上で重要な観点である。
【0045】
そこで本実施形態では、離脱制御期間中の短絡防止制御として、下記(a)~(c)の少なくともいずれか1つを行う。
(a)溶接中のアーク電圧を、設定電圧に対し±10%以内に維持する出力電圧制御
(b)溶接中のワイヤ送給速度Fsを、設定ワイヤ送給速度に対し40~95%の範囲にまで減速させる送給速度制御
(c)前記シールドガス中のAr比率を、50~100体積%の範囲にまで高めるガス比率制御
【0046】
上記(a)~(c)のいずれの短絡防止制御においても、アーク長を長くする(広げる)ための手段としては共通である。離脱制御期間中に、アーク長を長くするように制御することで、溶滴と溶融池との短絡を効果的に抑制することができる。
このように、溶接電流を所定条件で制御した離脱制御期間内に、短絡防止制御を導入することによって、溶滴の離脱時のスパッタ発生を抑制しつつも、溶滴と溶融池との短絡を抑制することで短絡時のスパッタ発生をも未然に防ぐことが可能となる。結果、溶融離脱時のスパッタ発生と、短絡時のスパッタ発生を両面から抑制することができ、溶接後のビード外観を優れたものとすることができる。
なお、上記(a)~(c)の短絡防止制御は、それぞれ単独で用いられるのでもよく、または2種以上を組み合わせて用いられるのでもよい。
【0047】
上記(a)の出力電圧制御に関し、アーク電圧が設定電圧の+10%を超える場合には、アーク長変動により、アークの指向性が弱くなる。そのため、アーク偏向が激しくなり、不安定な状態に陥る。結果にはビード形状が悪くなる。一方、アーク電圧が設定電圧の-10%を下回る場合には、ワイヤ先端の溶滴が溶融池と短絡するおそれがある。上記数値は、好ましくは±5%以下、より好ましくは±3%以下である。
【0048】
上記(b)の送給速度制御に関し、設定ワイヤ送給速度に対するワイヤ送給速度Fsの減速割合が95%を超える場合には、ワイヤ先端の溶滴が溶融池と短絡するおそれがあるため好ましくない。上記数値は、好ましくは85%以下、より好ましくは75%以下である。一方、設定ワイヤ送給速度に対するワイヤ送給速度Fsの減速割合が40%を下回る場合には、ワイヤが溶けず、アーク長が不安定となり、ビード外観に影響するため好ましくない。上記数値は、好ましくは50%以上である。
【0049】
上記(c)のガス比率制御に関し、高められるシールドガス中のAr比率が50体積%を下回る場合、短絡移行によりスパッタが発生するため好ましくない。シールドガス中のAr比率は、好ましくは80体積%以上、より好ましくは95体積%以上である。
【0050】
<第2の実施形態>
続いて、第2の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法について説明する。上述の通り、第2の実施形態は、強制離脱アーク期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS7でYes)の例である。
図3は、本発明の第2の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。以下、同図を参照しつつ詳細に説明する。
【0051】
第2の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法では、溶滴の離脱周期として通常アーク期間と離脱制御期間の2つの期間から構成されている点で、第1の実施形態と共通する。ただし、溶滴の離脱周期があらかじめ設定された監視時間Tarcを経過した場合、溶滴の離脱を強制的に促すための強制離脱制御期間、およびその後の強制離脱アーク期間を設けている点で異なる。
【0052】
[監視時間Tarc]
監視時間Tarcは、成長した溶滴がなかなか離脱せず、溶滴の肥大化により溶滴と溶融池との短絡を防止するために設けられる。通常では、設定電流Iccで通電される通常アーク期間において溶滴のくびれが成長して、その後、自発的に離脱が行われるが、溶滴がある程度の大きさに成長した段階でも離脱が行われない場合、肥大化した溶滴が溶融池と短絡を起こすおそれがある。これを防止するために、溶滴の離脱周期があらかじめ設定された監視時間Tarcを超える場合、溶滴の離脱を強制的に促すための所定の溶接電流制御を行う。
【0053】
監視時間Tarcは、10~60msであることが好ましい。監視時間Tarcが10~60ms以内の場合、溶滴の肥大化を抑止することができるため、溶滴が溶融池との短絡による大粒スパッタ発生の抑制に効果がある。
【0054】
また、監視時間Tarc[ms]、設定電流Icc[A]および溶接ワイヤのワイヤ直径d[mm]との関係が下記式(3)を満足することが好ましい。
10≦(d/1.2)×(350/Icc)×Tarc≦80 ・・・(3)
監視時間Tarc[ms]、設定電流Icc[A]およびワイヤ直径d[mm]との関係が、上記数値の範囲内であれば、肥大化した溶滴が溶融池との短絡を抑制することとなるため好ましい。ただし、(d/1.2)×(350/Icc)×Tarcが80を超える場合には、離脱しない溶滴が更に肥大化になるため好ましくない。上記関係式は、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
一方、(d/1.2)×(350/Icc)×Tarcが10を下回る場合には、溶滴が理想な大きさまで成長せずに、離脱してしまうため好ましくない。上記関係式は、好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。
【0055】
[強制離脱制御期間]
溶滴の離脱周期が監視時間Tarcを経過した場合、直ちに検知時の溶接電流(すなわち、設定電流Icc)よりも低い溶接電流への切り替えを行い、強制離脱制御期間へと移行する。強制離脱制御期間は、溶接電流を所定の条件下で低下させる強制電流低下区間、強制電流低下区間後に溶接電流を一定の強制離脱保持電流Ih2および所定の強制離脱保持時間Th2で保持する強制電流保持区間、および強制電流保持区間後に溶接電流を所定の条件下で上昇させる強制電流上昇区間の3つの区間から構成される。
【0056】
(強制電流低下区間)
強制電流低下区間は、成長する溶滴の揺動を防止するために設けられる。より詳細には、溶滴の離脱周期が監視時間Tarcを経過した場合に、直ちに強制電流低下区間を設けることで、溶滴がアーク反力を受けにくく、安定的に懸垂状態に遷移する。
【0057】
強制電流低下区間における、溶接電流の単位時間当たりの変化量である溶接電流の傾きは-100A/ms以下であることが好ましい。上記溶接電流の傾きが-100A/msを超える場合には、アーク反発力が大きく、強制電流低下区間中に溶滴が更に肥大化し、溶滴と溶融池とが短絡するおそれがあるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、-500Aを下回る場合、溶滴が不安定となる上、ワイヤが溶けず、溶融池と短絡するおそれがあるため、好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは-150A/ms以下、より好ましくは-200A/ms以下である。
なお、強制電流低下区間においては、溶滴のくびれが促進された懸垂状態となっている。
【0058】
(強制電流保持区間)
強制電流保持区間は、溶滴のくびれ形成を促進させるために設けられる。より詳細には、強制電流低下区間後に強制電流保持区間を設けることで、溶滴のくびれが形成されやすくなり、後述の強制電流上昇区間や強制離脱アーク期間における溶滴の離脱促進に寄与する。
【0059】
強制電流保持区間における、溶接電流の強制離脱保持時間Th2は、1~5msであることが好ましい。強制離脱保持時間Th2が5msを超える場合には、溶滴が溶融池に近づきすぎて、溶滴と溶融池とが短絡するおそれがあるため好ましくない。強制離脱保持時間Th2は、好ましくは8ms以下、より好ましくは6ms以下である。
一方、強制離脱保持時間Th2が1msを下回る場合には、溶滴が強制電流保持区間で離脱できず、後述する強制電流上昇区間で強まったアーク反力によって、溶滴が爆発し、スパッタ化する可能性がある。強制離脱保持時間Th2は、好ましくは3ms以上、より好ましくは4ms以上である。
なお、強制電流保持区間においても、強制電流低下区間と同様、溶滴のくびれが促進された懸垂状態となっている。
【0060】
(強制電流上昇区間)
強制電流上昇区間は、溶滴の安定的な成長を促進させるために設けられる。より詳細には、強制電流保持区間後に強制電流上昇区間を設けることで、溶滴がアーク反発力を受けにくく、安定的に成長が可能となり、懸垂する溶滴の揺動が効果的に抑制され得る。
【0061】
強制電流上昇区間における、溶接電流の単位時間当たりの変化量である溶接電流の傾きは10~300A/msであることが好ましい。上記溶接電流の傾きが300A/msを超える場合には、溶滴が反発力によって持ち上げられ、大粒のスパッタが発生しやすくなるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは250A/ms以下、より好ましくは200A/ms以下である。
一方、上記溶接電流の傾きが10A/msを下回る場合には、溶滴がより肥大化し、溶滴と溶融池との短絡を発生させるおそれがあるため好ましくない。上記溶接電流の傾きは、好ましくは100A/ms以上、より好ましくは150A/ms以上である。
なお、強制電流上昇区間においては、溶接電流を上昇させることによりアーク柱は大きくなり、溶滴はさらに成長していく。
【0062】
[強制離脱アーク期間]
強制離脱アーク期間では、監視時間Tarc内に離脱しきれなかった溶滴を強制的に離脱させるために、設定電流Iccよりも大きな溶接電流である強制アーク保持電流Ih3が通電される。つまり、通常アーク期間で通電された設定電流Iccよりも大きな一定電流で通電することで、溶滴に強大な電磁ピンチ力を与え、強制的に溶滴を離脱させる仕組みである。
【0063】
強制アーク保持電流Ih3は、設定電流Iccの1.20~2.50倍であることが好ましい。強制アーク保持電流Ih3が設定電流Iccの2.50倍を超える場合には、懸垂する溶滴が揺動しやすくなり、大粒のスパッタが発生しやすくなるため好ましくない。上記値は、好ましくは2.30倍以下、より好ましくは2.00倍以下である。
一方、強制アーク保持電流Ih3が設定電流Iccの1.20倍を下回る場合には、溶滴に強大な電磁ピンチ力がかかりにくく、溶滴が離脱しにくくなるおそれがあるため好ましくない。上記値は、好ましくは1.60倍以上、より好ましくは1.80倍以上である。
【0064】
なお、強制離脱アーク期間において、溶滴の離脱を検知した場合、直ちに、検知時の溶接電流よりも低い溶接電流への切り替えを行い、上記の離脱制御期間へと移行し、第1の実施形態で説明したものと同様、溶滴の離脱周期を繰り返していく。また、強制離脱制御期間および強制離脱アーク期間において懸垂状態となっていた溶滴は、電磁ピンチ力の影響によって強制的に離脱が行われる(図3中の(A)、(B)を参照)。
【0065】
[離脱検知手段]
上述の通り、溶滴の離脱時期を調べるための方法として、アーク電圧またはアーク抵抗を用いた離脱検知信号が好適に用いられるが、強制離脱アーク期間においては、アーク電圧(アーク電圧の時間微分値および時間2階微分値も含む)を用いて検知することが好ましい。上記期間においては、定電流制御区間であり、溶接電流値の変動が小さいため、アーク電圧の変動のみで精度よく溶滴の離脱時期を検知することができる。また、溶接電流の変動を考慮して所定の演算を行う必要がないため、演算時間を短縮化でき、迅速な離脱検知を行うことが可能となる。
【0066】
一方、通常アーク期間においては、アーク抵抗(アーク抵抗の時間微分値および時間2階微分値も含む)、すなわちアーク電圧/溶接電流を用いて検知することが好ましい。上記期間において、溶適の離脱時期を精度よく検知するためには、溶接電流の変動の影響も加味する必要がある。よって、アーク電圧と溶接電流の両方の影響を加味したアーク抵抗を用いて検知することが好ましい。
【0067】
<第3の実施形態>
さらに続いて、第3の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法について説明する。上述の通り、第3の実施形態は、強制離脱制御期間において溶滴の離脱検知がなされた場合(ステップS5でYes)の例である。
図4は、本発明の第3の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法における、時間軸(t)に対する溶接電流の波形図および離脱検知信号の波形図、並びに波形図中の所定時点における溶滴の状態を示す模式図である。以下、同図を参照しつつ、第2の実施形態と異なる点を中心に詳細に説明する。
【0068】
第3の実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御方法では、溶滴の離脱周期があらかじめ設定された監視時間Tarcを経過した場合、溶滴の離脱を強制的に促すための強制離脱制御期間を設ける点で、第2の実施形態と共通する。
ただし、本実施形態では、強制離脱制御期間の任意のタイミング(図4の例では、強制電流保持区間内)で、溶滴の離脱検知がなされた場合、強制離脱制御期間における電流制御プロセスを中断し、直ちに、検知時の溶接電流よりも低い溶接電流への切り替えを行い、上記の離脱制御期間へと移行し、第1の実施形態で説明したものと同様、溶滴の離脱周期を繰り返していく。
【0069】
<ガスシールドアーク溶接の制御システム>
さらに、本実施形態に係るガスシールドアーク溶接の制御システムについて説明する。図5は、本実施形態に係るガスシールドアーク溶接の溶接システムの概略構成の一例を示す図である。
【0070】
図5に示すように、本実施の形態に係る溶接システムは、溶接ロボット100と、ロボットコントローラ200と、溶接電源300と、送給装置400と、ガスコントローラ(ブレンダー)500とを備えている。溶接電源300は、プラスのパワーケーブル(1)を介して電極側に接続され、マイナスのパワーケーブル(2)を介して、ワークWと接続されている。また、図中のパワーケーブル(3)は、溶接電源300と溶接ワイヤの送給装置400とを接続し、溶接ワイヤの送給速度を制御する。
【0071】
溶接ロボット100は、電極からアークを出し、その熱で溶接の対象であるワークWを溶接する。ここで、溶接ロボット100は、電極を保持する溶接トーチとして、溶接トーチ110を有している。
溶接トーチ110の先端では、電極である溶接ワイヤを、コンタクトチップと呼ばれる円筒形の導体の先端から一定の突出し長さを保持する。本実施形態で適用する溶接方法は、コンタクトチップと溶接ワイヤとが接触し、アーク電圧を印加して通電することで、ワークWと溶接ワイヤ先端との間にアークが発生し、溶接ワイヤを溶融させて行う消耗電極式となる。
【0072】
さらに、溶接トーチ110は、シールドガスノズル(シールドガスを噴出する機構)を備えており、また、ガスホース(4)を介してCOガスやArガスなどのシールドガスのガス供給量やガス比率をコントロールするガスコントローラ500と接続されている。また、ガスコントローラ500は、COガスまたはArガスを含有するガスボンベと接続されている。
【0073】
ロボットコントローラ200は、溶接ロボット100を操作するための指令、溶接電源300に対して電源(電流値、電圧値など)を制御するための指令、ガスコントローラ500に対してガス供給量やガス比率を制御するための指令などを行う。また、後述するように、ロボットコントローラ200には、所定の手段により溶滴の離脱を検知し、溶接ワイヤに給電する溶接電流を制御するための溶接電流制御装置をも備えている。
【0074】
溶接電源300は、ロボットコントローラ200からの指令により、電極及びワークWに電力を供給することで、電極とワークWとの間にアークを発生させる。また、溶接電源300は、ロボットコントローラ200からの指令により、送給装置400に電力を供給する。なお、溶接作業時の電流は、直流または交流であっても良く、その波形は特に問わないが、矩形波や三角波などのパルスであっても良い。
【0075】
送給装置400は、溶接作業の進行に合わせて溶接トーチ110に溶接ワイヤを送る。送給装置400により送られる溶接ワイヤは、特に限定されず、ワークWの性質や溶接形態等によって選択され、例えば、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。また、溶接ワイヤの材質も問わず、例えば、軟鋼でも良いし、ステンレスやアルミニウム、チタンといった材質でも良い。さらに、溶接ワイヤの径も特に問わない。
【0076】
<溶接電流制御装置>
図6は、アーク電圧の時間2階微分値を用いて、溶滴の離脱又は離脱直前を検出して、所定の制御を行う場合の溶接電流制御装置を示すブロック図である。3相交流電源(図示せず)に、出力制御素子1が接続されており、この出力制御素子1に与えられた電流は、トランス2、ダイオードからなる整流部3、直流リアクトル8及び溶接電流を検出する電流検出器9を介して、コンタクトチップ4に与えられる。被溶接材7はトランス2の低位電源側に接続されており、コンタクトチップ4内を挿通して給電される溶接ワイヤ5と、被溶接材7との間に溶接アーク6が生起される。
【0077】
コンタクトチップ4と被溶接材7との間のアーク電圧は、電圧検出器10により検出されて出力制御器15に入力される。出力制御器15には、更に、電流検出器9から溶接電流の検出値が入力されており、出力制御器15は、アーク電圧及び溶接電流を基に、ワイヤ5に給電する溶接電流を制御している。
【0078】
電圧検出器10により検出されたアーク電圧は、溶滴離脱検出部18の溶接電圧微分器11に入力され、溶接電圧微分器11において、時間1階微分が演算される。次に、この溶接電圧の1階微分値は、2階微分器12に入力され、この2階微分器12において、アーク電圧の時間2階微分が演算される。その後、この時間2階微分値は比較器14に入力される。2階微分値設定器13に、2階微分設定値(閾値)が入力されて設定されており、比較器14は、2階微分器12からの2階微分値と2階微分値設定器13からの設定値(閾値)とを比較し、2階微分値が設定値を超えた瞬間に、溶滴離脱検出信号を出力する。この2階微分値が設定値を超えた瞬間が、溶滴がワイヤ端から離脱したか、又は離脱の直前であると判定される。
【0079】
この溶滴離脱検出信号は、波形生成器20に入力され、波形生成器20において、溶滴離脱後の溶接電流波形が制御され、出力補正信号が出力制御器15に入力される。この波形生成器20は、溶滴離脱検出信号が入力されると、波形生成器20に設定された期間は、検出時の溶接電流値(すなわち、設定電流値Icc)よりも低い所定の溶接電流値になるように、出力制御器15に制御信号(出力補正信号)を出力する。この結果、上述したような離脱制御期間における電流低下区間の電流制御が行われる。その後は、電流保持区間および電流上昇区間に続くように、波形生成器20から所定の制御信号が出力される。
波形設定器19は、波形生成器20において、出力補正信号を出力する期間や溶接電流の制御条件を入力するものであり、波形設定器19により、出力補正信号を出力する期間や及び溶接電流の制御条件が波形生成器20に設定される。
【0080】
なお、溶滴離脱検出信号は、溶滴の離脱またはその直前を検出した場合に出力する信号である。溶滴が離脱する際には、ワイヤ先端に存在する溶滴の根元がくびれ、そのくびれが進行する結果、アーク電圧及びアーク抵抗が上昇する。また、溶滴が離脱するとアーク長が長くなるため、アーク電圧及びアーク抵抗が上昇する。これをアーク電圧及びアーク抵抗またはそれらの微分値で検出した場合、溶接中、溶接条件が変化すると、その溶接条件の変化に影響して、溶滴離脱検出部が、誤検出を頻発し、スパッタを増大させる。
しかし、2階微分値による検出の場合、溶接中に溶接条件が変化しても、その変化に影響されず、正確に溶滴の離脱を検出できる。また、溶滴離脱直前のくびれによるアーク電圧またはアーク抵抗の変化に相当する2階微分値を2階微分値設定器13で設定すれば、溶滴離脱直前を検出し、溶接波形を制御できるため、ワイヤ先端に残留した融液を吹き飛ばして小粒スパッタを発生させてしまうという問題を完全に解消できる。
【0081】
図7は、アーク抵抗の時間2階微分値を用いて、溶滴の離脱又は離脱直前を検出して、所定の制御を行う場合の溶接制御装置を示すブロック図である。本図における溶滴離脱検出部18は、溶接電圧微分器11の代わりに、アーク抵抗微分器17を設けたものである。電圧検出器10及び電流検出器9の出力は、アーク抵抗算出器16に入力され、アーク抵抗算出器16において、電圧を電流で除することにより、アーク抵抗が算出される。このアーク抵抗の算出値は、アーク抵抗微分器17に入力され、アーク抵抗微分器17で1次微分された後、2階微分器12において、2階微分される。このアーク抵抗の2階微分値は、比較器14において、2階微分設定器13から入力された2階微分設定値(閾値)と比較され、アーク抵抗の2階微分値が、設定値を超えた瞬間に溶滴離脱検出信号が出力される。
【実施例
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0083】
<溶接条件>
母材に対して、トーチ傾斜角度は45°とし、溶接ワイヤ(消耗式電極)は、JIS Z3312:2009 YGW11に適合する組成で共通とした。
【0084】
更に、溶接の初期条件、溶接ワイヤ、短絡防止制御および離脱制御期間の各条件について表1~表4にまとめた。
(溶接の初期条件)
・シールドガスの種類(「%」は体積%を示す)
・設定電流Icc(A)
・設定電圧(V)
(溶接ワイヤ)
・設定送給速度Fs(m/min)
・突出し長さ(mm)
・ワイヤ直径d(mm)
【0085】
(短絡防止制御)
・出力電圧制御
制御条件(設定電圧に対してアーク電圧を何%以内に維持するか)
当該制御の適用有無(制御ON/OFF)
・送給速度制御
制御条件(設定ワイヤ送給速度に対し、送給速度ワイヤ送給速度を何%にまで減速させるか)
当該制御の適用有無(制御ON/OFF)
・ガス比率制御
制御条件(シールドガス中のAr比率を何体積%にまで高めるか)
当該制御の適用有無(制御ON/OFF)
【0086】
(離脱制御期間)
・電流低下区間
溶接電流の傾き(A/ms)
・電流保持区間
離脱保持時間Th1(ms)
離脱保持電流Ih1(A)
式(1)で示される値:(1.2/d)×(Fs/15)×Th1)
式(2)で示される値:(15/Fs)×Ih1
・電流上昇区間
溶接電流の傾き(A/ms)
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
また、溶滴の強制離脱制御、強制離脱制御期間、強制離脱アーク期間、離脱検知手段の各条件について表5~表8にまとめた。
(溶滴の強制離脱制御)
・監視時間Tarc(ms)
・式(3)で示される値:(d/1.2)×(350/Icc)×Tarc
・当該制御の適用有無(強制離脱制御期間のON/OFF)
【0092】
(強制離脱制御期間)
・強制電流低下区間
溶接電流の傾き(A/ms)
・強制電流保持区間
強制離脱保持時間Th2(ms)
強制離脱保持電流Ih2(A)
・強制電流上昇区間
溶接電流の傾き(A/ms)
(強制離脱アーク期間)
・強制アーク保持時間Th3(ms)
・強制アーク保持電流Ih3(A)
・強制アーク保持電流Ih3と設定電流Iccとの比(Ih3/Icc)
(離脱検知手段)
・通常アーク期間における離脱検知手段
・強制離脱アーク期間における離脱検知手段
【0093】
<評価方法>
(ビード外観)
ビード際の波の最大値と最小値との差を測定することにより、ビード外観の評価を行った。最大値と最小値の差(絶対値)が2mm以上のものを評価「×」(不良)、1mm以上2mm未満のものを評価「○」(良)、1mm未満のものを評価「◎」(優良)と判定した。
【0094】
(スパッタ発生量)
溶接後のビード外観を写真撮影し、そのビード外観写真をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトにより二値化処理を行い、ビード表面に発生したスパッタと、スパッタが発生していない領域とを区別した。そして、アークスタートから50mmの位置を起点とし、溶接長100mm×幅75mmの領域内におけるスパッタの個数を測定した。
本発明に係る短絡防止制御を行っていない試験No.82(比較例)におけるスパッタの個数に対するスパッタの個数が40%未満のものを評価「◎」(優良)、40%以上50%未満のものを評価「○」(良)、50%以上70%未満のものを評価「△」(可)、70%以上のものを評価「×」(不良)と判定した。
【0095】
ビード外観およびスパッタ発生量の評価結果を表5~表8に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
表1~表3および表5~表7における試験No.1~No.78は、本発明の要件を満足する実施例であり、ビード外観およびスパッタ発生量の少なくとも一方において優れた結果が得られた。
また、上述した好ましい実施形態の要件を満足する実施例は、ビード外観およびスパッタ発生量の少なくとも一方において更に優れた結果が得られた。
【0101】
一方、表4および表8における試験No.79~No.84は、本発明の要件を満足しない比較例であり、以下の不具合を有している。
【0102】
試験No.79は、出力電圧制御に関し、アーク電圧が設定電圧の+10%を超えていたため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
試験No.80は、出力電圧制御に関し、アーク電圧が設定電圧の-10%を下回っていたため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
試験No.81は、ガス比率制御に関し、高められるシールドガス中のAr比率が50体積%を下回っていたため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
試験No.82は、出力電圧制御、送給速度制御およびガス比率制御のうち、いずれの短絡防止制御も行わなかったため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
試験No.83は、送給速度制御に関し、設定ワイヤ送給速度に対するワイヤ送給速度Fsの減速割合が40%を下回っていたため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
試験No.84は、送給速度制御に関し、設定ワイヤ送給速度に対するワイヤ送給速度Fsの減速割合が95%を超えていたため、ビード外観およびスパッタ発生量のいずれにおいても評価が×であった。
【符号の説明】
【0103】
1 出力制御素子
2 トランス
3 整流部
4 コンタクトチップ
5 ワイヤ
6 溶接アーク
7 被溶接材
8 直流リアクトル
9 溶接電流検出器
10 溶接電圧検出器
11 溶接電圧微分器
12 2階微分器
13 2階微分値設定器
14 比較器
15 出力制御器
16 アーク抵抗算出器
17 アーク抵抗微分器
18 溶滴離脱検出部
19 波形設定器
20 波形生成器
100 溶接ロボット
110 溶接トーチ
200 ロボットコントローラ
300 溶接電源
400 送給装置
500 ガスコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7