(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】磁気記録媒体および磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/65 20060101AFI20220330BHJP
G11B 5/64 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
G11B5/65
G11B5/64
(21)【出願番号】P 2018096805
(22)【出願日】2018-05-21
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寿人
(72)【発明者】
【氏名】山口 健洋
(72)【発明者】
【氏名】徐 晨
(72)【発明者】
【氏名】神邊 哲也
(72)【発明者】
【氏名】茂 智雄
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015061(JP,A)
【文献】特開2002-358616(JP,A)
【文献】特開平07-254126(JP,A)
【文献】特開平10-125520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、下地層と、(001)配向しており、L1
0構造を有する磁性層をこの順で有し、
前記磁性層は、グラニュラー構造を有し、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含
み、
前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物は、アモルファス構造を有し、構成する原子の一部が水素原子で置換されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性層は、前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量が3体積%以上60体積%以下であることを特徴とする請求項
1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層は、厚さが1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1
または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層は、磁性粒子の粒界部に、前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含むことを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性粒子は、FePt合金またはCoPt合金を含むことを特徴とする請求項
4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載の磁気記録媒体を有することを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体および磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)に対する大容量化の要求が益々強まっている。このため、レーザー光源を搭載した磁気ヘッドにより、磁気記録媒体を加熱して記録する熱アシスト磁気記録方式が提案されている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式では、磁気記録媒体を加熱することによって、保磁力を大幅に低減することができる。このため、磁気記録媒体の磁性層に、結晶磁気異方性定数Kuの高い磁性材料を用いることができる。その結果、熱安定性を維持したまま、磁性材料を微細化することが可能となり、1Tbit/inch2の記録密度を達成することができる。ここで、Kuが高い磁性材料としては、L10型FePt合金、L10型CoPt合金、L11型CoPt合金等の規則合金等が提案されている。
【0004】
また、上記規則合金からなる結晶粒を分断するために、粒界相を形成する材料として、炭素、炭化物、酸化物、窒化物等の非磁性材料を添加して、グラニュラー構造を有する磁性層とすることが知られている。これにより、磁性粒子間の交換結合を低減することができ、シグナル・ノイズ比(SNR)を高くすることができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、FePt等の磁性材料と、C、BN、B4C等の非磁性材料を含む磁気記録層を有するデータ記憶媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱アシスト磁気記録方式では、レーザー光等を用いて、磁性層を局部的に加熱することによって、加熱された箇所の保磁力を低減させる。この場合、原理的には、記録ビットのみを加熱すれば、熱アシスト磁気記録方式の目的を果たすことができる。
【0008】
しかしながら、実際の磁気記録媒体では、記録ビットが隣接する磁性層の横方向にも、熱が拡散し、記録ビットに隣接するビットも加熱されることになる。また、磁性層の下には、下地層、基板等が存在するため、磁性層の下方向にも、熱が拡散することになる。特に、磁性層の横方向に熱が拡散すると、平面方向における磁化遷移領域が拡大し、その結果、書きにじみが発生しやすくなり、磁気記録媒体のSNRが低下する。
【0009】
本発明の一態様は、SNRが高い磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 基板と、下地層と、(001)配向しており、L10構造を有する磁性層をこの順で有し、
前記磁性層は、グラニュラー構造を有し、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含み、
前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物は、アモルファス構造を有し、構成する原子の一部が水素原子で置換されていることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記磁性層は、前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量が3体積%以上60体積%以下であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)前記磁性層は、厚さが1nm以上10nm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)前記磁性層は、磁性粒子の粒界部に、前記炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含むことを特徴とする(1)~(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(5)前記磁性粒子は、FePt合金またはCoPt合金を含むことを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)(1)~(5)の何れか1項に記載の磁気記録媒体を有することを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、SNRが高い磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態における磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施の形態における磁気記憶装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図2の磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施の形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施の形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0014】
[磁気記録媒体]
図1に、本実施の形態における磁気記録媒体の一例を示す。
【0015】
磁気記録媒体100は、基板1と、下地層2と、(001)配向しており、L10構造を有する磁性層3と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含む保護層4がこの順で形成されている。このとき、磁性層3は、(001)配向している柱状晶の磁性粒子を含むグラニュラー構造を有する。また、磁性層3は、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含む。
【0016】
磁性層3は、上記のような構造を有するため、隣接する柱状晶の磁性粒子間の断熱性を向上させることができる。その結果、磁気ヘッドからレーザー光を照射する際に、磁性層3の横方向に熱が拡散しにくくなるため、書きにじみが発生しにくくなり、磁気記録媒体100のSNRが高くなる。
【0017】
また、磁性層3に含まれている、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物が、磁性層3に含まれている(001)配向している柱状晶の磁性粒子の粒界部に含まれていることで、磁性層3を構成する磁性粒子間の断熱性をより向上させることができる。
【0018】
炭素の水素化物としては、構成する原子の一部が水素原子で置換されているグラファイトまたはダイヤモンド、C-Hx結合(ただし、xは1、2または3である。)を有する硬質炭素、水素含有アモルファスカーボン(a-C:H)などを例示することができる。
【0019】
ホウ素の水素化物としては、構成する原子の一部が水素原子で置換されているホウ素結晶、水素含有アモルファスホウ素(a-B:H)などを例示することができる。
【0020】
窒化ホウ素の水素化物としては、構成する原子の一部が水素原子で置換されている窒化ホウ素、水素含有アモルファス窒化ホウ素(a-BN:H)などを例示することができる。
【0021】
磁性層3が上記のような構成を有することにより、隣接する磁性粒子間の断熱性が向上する理由として、以下のようなことが考えられる。
【0022】
従来のグラニュラー構造を有する磁性層は、磁性粒子の粒界部に、炭素、炭化物、酸化物、窒化物等の非磁性材料が存在している。この場合、隣接する磁性粒子の間の断熱性を高めるために、粒界部を構成する非磁性材料の熱伝導率を低くすると、その影響で磁性粒子の結晶性や配向性が低下する。
【0023】
一方、本実施の形態においては、グラニュラー構造を有する磁性層は、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含むため、磁性粒子の結晶性や配向性に影響を及ぼさずに、磁性層の熱伝導率を低くすることができる。
【0024】
ここで、炭素は、従来のグラニュラー構造を有する磁性層において、磁性粒子の粒界部に用いられている非磁性材料である。また、ホウ素、窒化ホウ素は、従来のグラニュラー構造を有する磁性層において、磁性粒子の粒界部に用いられている窒化物と特性が類似している。このため、炭素、ホウ素、窒化ホウ素は、磁性粒子の結晶性や配向性に影響を及ぼしにくい。
【0025】
一方、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物、窒化ホウ素の水素化物は、水素の原子半径が小さいため、磁性粒子の結晶性や配向性に影響を及ぼしにくいことに加えて、磁性層の熱伝導率を低くすることができる。特に、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物、窒化ホウ素の水素化物がアモルファス構造を有すると、磁性層の熱伝導率をさらに低くすることができる。
【0026】
また、磁性層3に含まれている、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物が、磁性層3に含まれている(001)配向している柱状晶の磁性粒子の粒界部に含まれていることで、磁性層3を構成する磁性粒子間の横方向の断熱性をより向上させることができる。
【0027】
以上のことから、磁気記録媒体100は、磁性層3の横方向、すなわち、隣接する磁性粒子間の断熱性が向上すると考えられる。
【0028】
炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の熱伝導率は、SiO2の熱伝導率の半分以下、すなわち、0.7W/(m・k)以下であることが好ましい。
【0029】
磁性層3は、スパッタ法により形成することができる。
【0030】
磁性層3を形成する際には、スパッタリングターゲットの温度上昇を低減するため、RFスパッタ法を用いることが好ましい。これにより、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の分解を抑制することができる。また、導電性の低いスパッタリングターゲットも使用することができる。
【0031】
なお、磁性層3に含まれる炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物は、一部が分解して、炭素、ホウ素または窒化ホウ素になっていてもよい。
【0032】
磁性層3の形成に用いられるスパッタリングターゲットの製造方法としては、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物と、磁性粉末を含む組成物を焼結する方法、炭素、ホウ素または窒化ホウ素と、磁性粉末を含む組成物を水素中で焼結する方法等が挙げられる。
【0033】
また、磁性層3を形成する際に、炭素、ホウ素または窒化ホウ素と、磁性粉末を含む組成物を焼結して製造されているスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングガス中に水素を導入してもよい。
【0034】
また、磁性層3を形成する際に、炭素、ホウ素または窒化ホウ素と、磁性粉末を含む組成物を焼結して製造されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタした後、水素プラズマに曝してもよい。
【0035】
磁性層3中の炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量は、3体積%以上60体積%以下であることが好ましく、20体積%以上50体積%以下であることがさらに好ましい。磁性層3中の炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量が3体積%以上であると、隣接する磁性粒子間の断熱性が向上し、60体積%以下であると、1ビット当たりの磁性粒子の体積が増大し、磁気記録媒体100の熱揺らぎが生じにくくなる。
【0036】
ここで、磁性層3中の炭素、ホウ素または窒化ホウ素の含有量および炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量は、磁性層3の形成に用いられるスパッタリングターゲット中の炭素、ホウ素または窒化ホウ素の含有量および炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量とは必ずしも一致しない。このため、予備実験により、磁性層3中の炭素、ホウ素または窒化ホウ素と、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の比率と、磁性層3の形成に用いられるスパッタリングターゲット中の炭素、ホウ素または窒化ホウ素の含有量および炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量と、磁性層3の成膜条件との関係を算出し、これにより、実際に成膜する磁性層3中の炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物の含有量を求めることができる。
【0037】
磁性層3の厚さは、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1.5nm以上5.5nm以下であることがさらに好ましい。磁性層3の厚さが1nm以上10nm以下であると、L10構造を有する磁性層3の(001)配向性、規則化度を向上させることができる。また、グラニュラー構造を有する磁性層3の隣接する磁性粒子間の断熱性を向上させることができる。
【0038】
磁性粒子は、FePt合金またはCoPt合金を含むことが好ましい。これにより、磁性粒子の結晶磁気異方性定数Kuが高くなる。
【0039】
基板1としては、公知の基板を用いることができる。
【0040】
ここで、磁気記録媒体100を製造する際に、基板1を500℃以上の温度に加熱することが必要となる場合がある。このため、基板1として、例えば、軟化温度が500℃以上、好ましくは600℃以上の耐熱ガラス基板を用いることができる。
【0041】
下地層2を構成する材料としては、L10構造を有する磁性層3を(001)配向させるのに適していれば、特に限定されないが、例えば、(100)配向している、W、MgO等が挙げられる。
【0042】
また、下地層2は、多層構造を有することができる。この場合、多層構造を有する下地層を構成する複数の層の間の格子ミスフィットは、10%以下であることが好ましい。
【0043】
多層構造を有する下地層としては、例えば、(100)配向している、W、MgOが積層されている下地層が挙げられる。
【0044】
また、下地層2を確実に(100)配向させるために、下地層2の下に、Cr、Crを含み、BCC構造を有する合金、または、B2構造を有する合金を含む層をさらに形成することができる。
【0045】
ここで、Crを含み、BCC構造を有する合金としては、例えば、CrMn合金、CrMo合金、CrW合金、CrV合金、CrTi合金、CrRu合金等が挙げられる。
【0046】
また、B2構造を有する合金としては、例えば、RuAl合金、NiAl合金等が挙げられる。
【0047】
磁気記録媒体100は、磁性層3上に、保護層4が形成されているが、保護層4を省略することもできる。
【0048】
保護層4の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0049】
保護層4の厚さは、1nm以上6nm以下であることが好ましい。保護層4の厚さが1nm以上であると、磁気ヘッドの浮上特性が良好となり、6nm以下であると、磁気スペーシングが小さくなり、磁気記録媒体100のSNRが向上する。
【0050】
磁気記録媒体100は、保護層4上に、パーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂を含む潤滑剤層がさらに形成されていてもよい。
【0051】
[磁気記憶装置]
本実施の形態における磁気記憶装置は、前述の本実施の形態における磁気記録媒体を有していれば、特に限定されない。
【0052】
本実施の形態における磁気記憶装置は、例えば、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子が設けられている磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系を有する。また、磁気ヘッドは、例えば、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0053】
図2に、本実施の形態における磁気記憶装置の一例を示す。
【0054】
図2の磁気記憶装置は、磁気記録媒体100と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104を有する。
【0055】
【0056】
磁気ヘッド102は、記録ヘッド208と、再生ヘッド211を有する。
【0057】
記録ヘッド208は、主磁極201と、補助磁極202と、磁界を発生させるためのコイル203と、レーザー光発生部としての、レーザーダイオード(LD)204と、LD204から発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。
【0058】
再生ヘッド211は、シールド209で挟まれている再生素子210を有する。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(スパッタリングターゲット1の作製)
以下に示す製造方法により、60体積%(52at%Fe-48at%Pt)-40体積%Cの組成を有するスパッタリングターゲット1を製造した。
【0061】
ガスアトマイズ法により、52at%Fe-48at%Ptの組成を有するFePt合金粉末を得た。FePt合金粉末は、平均粒径が15μmであった。
【0062】
FePt合金粉末と、カーボンブラック(平均粒径0.05μm、アモルファス構造)を、体積比60:40で混合した後、円盤状に圧縮成形した。次に、1×10-3Paの高真空中、焼結温度1000℃、焼結時間3時間、焼結圧力300kgf/cm2の条件で、圧縮成形物を焼結し、直径200mmの焼結体からなるスパッタリングターゲット1を得た。スパッタリングターゲット1は、FePt合金とアモルファス構造の炭素から構成されていた。
【0063】
(スパッタリングターゲット2の作製)
以下に示す製造方法により、60体積%(52at%Fe-48at%Pt)-40体積%Bの組成を有するスパッタリングターゲット2を製造した。
【0064】
ガスアトマイズ法により、52at%Fe-48at%Ptの組成を有するFePt合金粉末を得た。FePt合金粉末は、平均粒径が15μmであった。
【0065】
FePt合金粉末と、ホウ素粉末(平均粒径15μm、アモルファス構造)を、体積比60:40で混合した後、円盤状に圧縮成形した。次に、1×10-3Paの高真空中、焼結温度1000℃、焼結時間3時間、焼結圧力300kgf/cm2の条件で、圧縮成形物を焼結し、直径200mmの焼結体からなるスパッタリングターゲット2を得た。スパッタリングターゲット2は、FePt合金とアモルファス構造のホウ素から構成されていた。
【0066】
(スパッタリングターゲット3の作製)
以下に示す製造方法により、60体積%(52at%Fe-48at%Pt)-40体積%BNの組成を有するスパッタリングターゲット3を製造した。
【0067】
ガスアトマイズ法により、52at%Fe-48at%Ptの組成を有するFePt合金粉末を得た。FePt合金粉末は、平均粒径が15μmであった。
【0068】
FePt合金粉末と、六方晶窒化ホウ素(h-BN)粉末(平均粒径15μm)を、体積比60:40で混合した後、円盤状に圧縮成形した。次に、1×10-3Paの高真空中、焼結温度1000℃、焼結時間3時間、焼結圧力300kgf/cm2の条件で、圧縮成形物を焼結し、直径200mmの焼結体からなるスパッタリングターゲット3を得た。スパッタリングターゲット3は、FePt合金とh-BNから構成されていた。
【0069】
(実施例1)
最初に、2.5インチのガラス基板上に、下地層を成膜した。具体的には、2.5インチのガラス基板上に、第1の下地層として、膜厚50nmの50Co-50Ti(50at%のCoと50at%のTiとの合金(以下、同様))膜を成膜した後、ガラス基板を300℃で加熱した。次に、第2の下地層として、膜厚12nmの80Cr-20V膜、第3の下地層として、膜厚40nmのW膜、第4の下地層として、膜厚3nmのMgO膜をこの順で成膜した。なお、下地層を成膜する際には、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、スパッタガスとしては、Arを用いた。
【0070】
その後、ガラス基板を520℃で加熱した。次に、RFスパッタ装置およびスパッタリングターゲット1を用いて、下地層上に、厚さ2nmの磁性層を成膜した。このとき、スパッタガスとして、Arと水素の混合ガス(体積比5:1)を3Paの圧力で導入した。その後、ガラス基板の温度を480℃とした。
【0071】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、C-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファスカーボン(a-C:H)を含んでいることがわかった。また、C-H伸縮振動のピークの強度と、C-C伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-C:Hおよび水素化されていない炭素の含有量を求めたところ、それぞれ10体積%および30体積%であった。
【0072】
その後、磁性層上に、厚さ3nmのDLCからなる保護層を形成した。次に、保護層上に、厚さ1.2nmのパーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂からなる潤滑剤層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0073】
X線回折装置(XRD)を用いて、下地層および磁性層を分析したところ、下地層は、BCC構造を有する(100)配向膜であること、磁性層は、L10構造を有する(001)配向膜であることが確認された。
【0074】
(実施例2)
スパッタリングターゲット1の代わりに、スパッタリングターゲット2を用いた以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0075】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、B-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファスホウ素(a-B:H)を含んでいることがわかった。また、B-H伸縮振動のピークの強度と、B-B伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-B:Hおよび水素化されていないホウ素の含有量を求めたところ、それぞれ10体積%および30体積%であった。
【0076】
X線回折装置(XRD)を用いて、下地層および磁性層を分析したところ、下地層は、BCC構造を有する(100)配向膜であること、磁性層は、L10構造を有する(001)配向膜であることが確認された。
【0077】
(実施例3)
スパッタリングターゲット1の代わりに、スパッタリングターゲット3を用いた以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0078】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファス窒化ホウ素(a-BN:H)を含んでいることがわかった。また、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークの強度と、B-N伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-BN:Hおよび水素化されていない窒化ホウ素の含有量を求めたところ、それぞれ10体積%および30体積%であった。
【0079】
X線回折装置(XRD)を用いて、下地層および磁性層を分析したところ、下地層は、BCC構造を有する(100)配向膜であること、磁性層は、L10構造を有する(001)配向膜であることが確認された。
【0080】
(実施例4)
スパッタガス(Arと水素の混合ガス)の体積比を10:1に変更した以外は、実施例3と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0081】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファス窒化ホウ素(a-BN:H)を含んでいることがわかった。また、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークの強度と、B-N伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-BN:Hおよび水素化されていない窒化ホウ素の含有量を求めたところ、それぞれ13体積%および37体積%であった。
【0082】
(実施例5)
スパッタガス(Arと水素の混合ガス)の体積比を15:1に変更した以外は、実施例3と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0083】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファス窒化ホウ素(a-BN:H)を含んでいることがわかった。また、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークの強度と、B-N伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-BN:Hおよび水素化されていない窒化ホウ素の含有量を求めたところ、それぞれ1.5体積%および38.5体積%であった。
【0084】
(実施例6)
スパッタガス(Arと水素の混合ガス)の体積比を3:1に変更した以外は、実施例3と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0085】
赤外分光光度計(IR)を用いて、磁性層を分析したところ、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークが存在していることから、磁性層が水素含有アモルファス窒化ホウ素(a-BN:H)を含んでいることがわかった。また、B-H伸縮振動およびN-H伸縮振動のピークの強度と、B-N伸縮振動のピークの強度から、磁性層中のa-BN:Hおよび水素化されていない窒化ホウ素の含有量を求めたところ、それぞれ40体積%および0体積%であった。
【0086】
(比較例1~3)
磁性層を成膜する際に、スパッタガスとして、Arのみを導入した以外は、実施例1~3と同様にして、磁気記録媒体を製造した。
【0087】
X線回折装置(XRD)を用いて、下地層および磁性層を分析したところ、下地層は、BCC構造を有する(100)配向膜であること、磁性層は、L10構造を有する(001)配向膜であることが確認された。
【0088】
次に、磁気記録媒体のSNRを測定した。
【0089】
(SNR)
図3の磁気ヘッドを用いて、磁気記録媒体のSNRを測定した。
【0090】
表1に、磁気記録媒体のSNRの測定結果を示す。
【0091】
【表1】
表1から、実施例1~6の磁気記録媒体は、SNRが高いことがわかる。
【0092】
これに対して、比較例1~3の磁気記録媒体は、磁性層が、炭素の水素化物、ホウ素の水素化物または窒化ホウ素の水素化物を含んでいないため、SNRが低い。
【符号の説明】
【0093】
1 基板
2 下地層
3 磁性層
4 保護層
100 磁気記録媒体
101 磁気記録媒体駆動部
102 磁気ヘッド
103 磁気ヘッド駆動部
104 記録再生信号処理系
201 主磁極
202 補助磁極
203 コイル
204 レーザーダイオード(LD)
205 レーザー光
206 近接場光発生素子
207 導波路
208 記録ヘッド
209 シールド
210 再生素子
211 再生ヘッド