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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20220330BHJP
   B63B 11/04 20060101ALI20220330BHJP
   B63J 2/14 20060101ALI20220330BHJP
   B63H 21/14 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B63B25/16 P
B63B25/16 G
B63B11/04 B
B63J2/14 B
B63H21/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020541319
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035190
(87)【国際公開番号】W WO2020050404
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018166836
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018166837
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018166838
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 拓海
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】武田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】赤星 顕悟
(72)【発明者】
【氏名】吉村 崇
(72)【発明者】
【氏名】萩原 和也
(72)【発明者】
【氏名】宍粟 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】安部 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】成島 直樹
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0031662(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0062240(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0000161(KR,A)
【文献】特表2013-500192(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0009577(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
B63B 11/04
B63J 2/14
B63H 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LPGを燃料とする推進用エンジンと、
供給ラインおよび返送ラインにより前記推進用エンジンと接続された、LPGを貯留するサービスタンクと、
移送ラインにより前記サービスタンクと接続された、前記サービスタンク内のLPGよりも低温のLPGを貯留するストレージタンクと、
前記供給ラインに設けられたポンプと、
前記移送ラインに設けられた、前記ストレージタンクから前記サービスタンクへ供給されるLPGを、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように加熱する加熱器と、
を備える、船舶。
【請求項2】
前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記加熱器でのLPGの加熱量を調整する制御装置をさらに備える、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記加熱器の上流側で前記移送ラインから分岐し、前記加熱器の下流側で前記移送ラインに合流するバイパスラインと、
前記加熱器を通過するLPGの流量と前記バイパスラインを流れるLPGの流量の比率を変更する分配機構と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記分配機構を制御して前記加熱器でのLPGの加熱量を調整する、請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記返送ラインに設けられた、前記推進用エンジンから前記サービスタンクへ返送されるLPGを冷却する冷却器をさらに備え、
前記制御装置は、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記加熱器でのLPGの加熱量だけでなく前記冷却器でのLPGの冷却量も調整する、請求項2または3に記載の船舶。
【請求項5】
LPGを燃料とする推進用エンジンと、
供給ラインおよび返送ラインにより前記推進用エンジンと接続された、LPGを貯留するサービスタンクと、
移送ラインにより前記サービスタンクと接続された、前記サービスタンク内のLPGよりも低温のLPGを貯留するストレージタンクと、
前記供給ラインに設けられたポンプと、
前記返送ラインに設けられた、前記推進用エンジンから前記サービスタンクへ返送されるLPGを、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように冷却する冷却器と、
を備える、船舶。
【請求項6】
前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記冷却器でのLPGの冷却量を調整する制御装置をさらに備える、請求項5に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPGを燃料とする推進用エンジンを含む船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶では、一般的に、推進用エンジンの燃料は重油などの燃料油かLNG(Liquefied Natural Gas)であった。近年では、推進用エンジンの燃料としてLPG(Liquefied Petroleum Gas)を用いることも提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃料タンクから推進用エンジンへLPGを液体のまま供給する船舶が開示されている。LPGを燃料として用いた場合には、燃料油と比べて硫黄酸化物対策が不要であるとともに二酸化炭素排出量が少ないというメリットがあり、LNGと比べて比重が大きいために燃料タンクを小型化できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国公開特許第2012-0113398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LPGを燃料として用いる場合には、燃料タンクと推進用エンジンとを供給ラインおよび返送ラインにより接続し、燃料タンクとエンジンとの間でLPGを循環しながら必要量だけエンジンで使用することが考えられる。
【0006】
上記のようにLPGを循環させた場合には、LPGがエンジンを通過する際に加熱される。このため、燃料タンクをLPG循環用のサービスタンクとLPG保持用のストレージタンクとに分けることが望ましい。この場合、サービスタンクは比較的に高い温度のLPGを貯留し、ストレージタンクは比較的に低い温度のLPGを貯留する。
【0007】
ストレージタンクとサービスタンクのうちの少なくともサービスタンクは高圧に耐えられる圧力容器であり、サービスタンク内のLPGの温度が大気温以上になったとしても、サービスタンク内の高い圧力によってLPGの平衡状態が保たれる。
【0008】
ストレージタンク内のLPGの温度は大気圧での飽和温度以下であってもよいが、サービスタンクと同様にストレージタンクを圧力容器とし、ストレージタンク内の高い圧力によってLPGの平衡状態が保たれてもよい。ストレージタンクからサービスタンクへは、それらを接続する移送ラインを通じて、エンジンの燃料消費量に相当する量のLPGが供給される。
【0009】
上述した供給ラインにはポンプが設けられる。仮に、サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも低い場合は、LPGがサービスタンクからポンプまで供給ラインを流れる間に大気から熱を受けることによりポンプの入口で気化することがある。この場合、ポンプの破損や性能低下が発生する。例えば、ストレージタンクからサービスタンクへ大気温よりも低い温度のLPGが供給されたときに、サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも低くなることがある。
【0010】
そこで、本発明は、供給ラインに設けられたポンプの入口でのLPGの気化を防止することができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の一つの側面からの船舶は、LPGを燃料とする推進用エンジンと、供給ラインおよび返送ラインにより前記推進用エンジンと接続された、LPGを貯留するサービスタンクと、移送ラインにより前記サービスタンクと接続された、前記サービスタンク内のLPGよりも低温のLPGを貯留するストレージタンクと、前記供給ラインに設けられたポンプと、前記移送ラインに設けられた、前記ストレージタンクから前記サービスタンクへ供給されるLPGを、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように加熱する加熱器と、を備える、ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、加熱器でのLPGの加熱量が不足してサービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも低くなることが抑制される。これにより、ポンプの入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0013】
例えば、上記の船舶は、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記加熱器でのLPGの加熱量を調整する制御装置をさらに備えてもよい。
【0014】
例えば、上記の船舶は、前記加熱器の上流側で前記移送ラインから分岐し、前記加熱器の下流側で前記移送ラインに合流するバイパスラインと、前記加熱器を通過するLPGの流量と前記バイパスラインを流れるLPGの流量の比率を変更する分配機構と、をさらに備え、前記制御装置は、前記分配機構を制御して前記加熱器でのLPGの加熱量を調整してもよい。
【0015】
上記の船舶は、前記返送ラインに設けられた、前記推進用エンジンから前記サービスタンクへ返送されるLPGを冷却する冷却器をさらに備え、前記制御装置は、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記加熱器でのLPGの加熱量だけでなく前記冷却器でのLPGの冷却量も調整してもよい。この構成によれば、エンジンからサービスタンクへ返送されるLPGが冷却器により冷却されるので、サービスタンク内のLPGの温度が高くなり過ぎることを抑制することができる。さらに、LPGの加熱量に加えてLPGの冷却量を調整することで、幅広い状況に対応することができる。
【0016】
また、本発明の別の側面からの船舶は、LPGを燃料とする推進用エンジンと、供給ラインおよび返送ラインにより前記推進用エンジンと接続された、LPGを貯留するサービスタンクと、移送ラインにより前記サービスタンクと接続された、前記サービスタンク内のLPGよりも低温のLPGを貯留するストレージタンクと、前記供給ラインに設けられたポンプと、前記返送ラインに設けられた、前記推進用エンジンから前記サービスタンクへ返送されるLPGを、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように冷却する冷却器と、を備える、ことを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、エンジンからサービスタンクへ返送されるLPGが冷却器により冷却されるので、サービスタンク内のLPGの温度が高くなり過ぎることを抑制することができる。しかも、上記の構成によれば、冷却器でのLPGの冷却量が過剰になってサービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも低くなることが抑制される。これにより、ポンプの入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0018】
例えば、上記の船舶は、前記サービスタンク内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、前記冷却器でのLPGの冷却量を調整する制御装置をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、供給ラインに設けられたポンプの入口でのLPGの気化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の概略構成図である。
図2】変形例の船舶の概略構成図である。
図3】第1代替手段に係る船舶の概略構成図である。
図4】第1代替手段におけるサービスタンクの拡大図である。
図5図4のV-V線に沿った断面図である。
図6】第2代替手段におけるサービスタンクの拡大図である。
図7】第3代替手段に係る船舶の概略構成図である。
図8】第4代替手段に係る船舶の概略構成図である。
図9】第4代替手段におけるサービスタンクの拡大図である。
図10】第4代替手段の変形例のサービスタンクの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る船舶1を示す。この船舶1は、LPGを燃料とする推進用エンジン11と、LPGを貯留するストレージタンク2およびサービスタンク4を含む。LPGは、プロパンを主成分とするプロパンガスであってもよいし、ブタンを主成分とするブタンガスであってもよい。
【0022】
エンジン11は、供給ライン5および返送ライン6によりサービスタンク4と接続されている。換言すれば、サービスタンク4とエンジン11との間で、供給ライン5および返送ライン6を通じてLPGが循環する。サービスタンク4は、移送ライン3によりストレージタンク2と接続されている。例えば、ストレージタンク2の容積は、サービスタンク4の容積よりも大きい。
【0023】
エンジン11は、例えば、ディーゼルサイクルまたはオットーサイクルのレシプロエンジンである。図示は省略するが、エンジン11は、供給ライン5の下流端と返送ライン6の上流端とを接続する主流路と、主流路に互いに並列に接続された複数の燃料噴射弁を含む。燃料噴射弁は、LPGを液体のまま、シリンダ内へ供給される空気中に噴射する。ただし、エンジン11は、ガスタービンエンジンであってもよい。
【0024】
供給ライン5には、上流側から順に、ポンプ51、加熱器52および遮断弁53が設けられている。ポンプ51の数は1つであっても複数であってもよい。加熱器52は、サービスタンク4からエンジン11へ供給されるLPGをエンジン11の要求温度(例えば、45℃)まで加熱する。供給ライン5の上流端は、サービスタンク4の下部に接続されている。例えば、加熱器52は、熱媒流体とLPGとの間で熱交換を行う熱交換器である。
【0025】
返送ライン6には、上流側から順に、遮断弁61、第1圧力調整弁62、冷却器63および第2圧力調整弁64が設けられている。遮断弁61と第1圧力調整弁62の位置は逆であってもよい。冷却器63は、エンジン11からサービスタンク4へ返送されるLPG(エンジン11を通過することによって加熱されたLPG)を所定の温度(例えば、40℃)まで冷却する。なお、冷却器63は省略されてもよい。返送ライン6は、サービスタンク4の内部まで延びている。例えば、冷却器63は、熱媒流体とLPGとの間で熱交換を行う熱交換器である。
【0026】
本実施形態では、供給ライン5と返送ライン6とがバイパスライン71により接続されている。バイパスライン71は、加熱器52と遮断弁53の間で供給ライン5から分岐し、第1圧力調整弁62と冷却器63の間で返送ライン6に合流している。バイパスライン71には、遮断弁72が設けられている。ただし、遮断弁72に代えて流量制御弁がバイパスライン71に設けられてもよい。
【0027】
サービスタンク4は、高圧に耐えられる圧力容器である。サービスタンク4は断熱材で覆われておらず、サービスタンク4内のLPGの温度は、大気温、ストレージタンク2から供給されるLPGの温度、エンジン11から返送されるLPGの温度などに応じて変化する。すなわち、サービスタンク4内の高い圧力によってLPGの平衡状態が保たれる。例えば、サービスタンク4内のLPGの温度が0~50℃であると仮定すると、サービスタンク4内の気層の圧力(飽和蒸気圧)はゲージ圧で約0.4MPa~約1.8MPaである。以下、圧力の表示は全てゲージ圧である。ただし、サービスタンク4は断熱材で覆われてもよい。
【0028】
一方、ストレージタンク2は、内部のLPGを低温に維持するために、断熱材(図示せず)で覆われている。この低温は、サービスタンク4内のLPGの温度(より望ましくは、大気温)よりも低ければ、大気圧での飽和温度(プロパンガスでは、-42℃)以下であってもよいし、大気圧での飽和温度よりも高くてもよい。ただし、ストレージタンク2がサービスタンク4と同様に圧力容器であり、ストレージタンク2内の高い圧力によってLPGの平衡状態が保たれてもよい。
【0029】
ストレージタンク2内には、ポンプ21が配置されている。ポンプ21の数は1つであっても複数であってもよい。上述した移送ライン3の上流端は、ポンプ21に接続されている。移送ライン3は、サービスタンク4の内部まで延びている。ただし、ポンプ21は、ストレージタンク2の外で移送ライン3の途中に設けられてもよい。
【0030】
ストレージタンク2からサービスタンク4へは、移送ライン3を通じて、エンジン11の燃料消費量に相当する量のLPGが供給される。このLPGの供給は、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。移送ライン3には、ストレージタンク2からサービスタンク4へ供給されるLPGを所定の温度(例えば、0~45℃)まで加熱する加熱器32が設けられている。例えば、加熱器32は、熱媒流体とLPGとの間で熱交換を行う熱交換器である。
【0031】
本実施形態では、移送ライン3に、加熱器32をバイパスするバイパスライン33が接続されている。バイパスライン33は、加熱器32の上流側で移送ライン3から分岐し、加熱器32の下流側で移送ライン3に合流している。
【0032】
移送ライン3にはバイパスライン33の分岐点と加熱器32との間で第1流量制御弁31が設けられており、バイパスライン33には第2流量制御弁34が設けられている。第1流量制御弁31および第2流量制御弁34は、加熱器32を通過するLPGの流量とバイパスライン33を流れるLPGの流量の比率を変更する分配機構35を構成する。
【0033】
ただし、分配機構35としては、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34の代わりに、例えば、移送ライン3におけるバイパスライン33の分岐点に設けられた分配弁(三方弁)が用いられてもよい。
【0034】
上述したポンプ51および各種の弁は、制御装置8により制御される。ただし、図1では、図面の簡略化のために一部の信号線のみを描いている。制御装置8は、例えば、ROMやRAMなどのメモリとCPUを有するコンピュータであり、ROMに記憶されたプログラムがCPUにより実行される。制御装置8は、単一の機器であってもよいし、複数の機器(例えば、エンジン制御装置と燃料供給制御装置)に分割されてもよい。
【0035】
遮断弁53,61に関しては、制御装置8は、エンジン11の停止中は遮断弁53,61を閉じ、エンジン11の稼動中に遮断弁53,61を開く。エンジン11の停止中は、遮断弁53,61の間の流路(供給ライン5の下流側部分、エンジン11の主流路および返送ライン6の上流側部分)が不活性ガスでパージされる。
【0036】
制御装置8は、ポンプ51の吐出流量がエンジン11の燃料消費量に応じて変化するようにポンプ51を制御する。例えば、エンジン11の負荷が高いときは、エンジン11から返送ライン6へ流れ込むLPGの流量である余剰流量が図略の流量計により検出され、この余剰流量がエンジン11の燃料消費量に対して一定の割合となるように、ポンプ51が制御される。余剰流量の代わりに、供給ライン5からエンジン11へ流れ込むLPGの流量である供給流量が採用されてもよい。逆に、エンジン11の負荷が低いときは、ポンプ51の吐出流量は一定に保たれる。
【0037】
遮断弁72に関しては、制御装置8は、エンジン11の稼働前に、ポンプ51の流量が安定するまでは遮断弁72を開くとともに遮断弁53を閉じる。ポンプ51の流量が安定すると、制御装置8は、遮断弁72を閉じ、遮断弁53を開く。エンジン11の稼働中では、エンジン11の負荷の急激な減少などによりエンジン供給圧力(後述する第1圧力計91で検出される圧力)が上昇した場合に、制御装置8は遮断弁72を開いてエンジン供給圧力の上昇を抑制する。
【0038】
制御装置8は、第1圧力計91および第2圧力計92と電気的に接続されている。第1圧力計91は、バイパスライン71の分岐点よりも下流側で供給ライン5に設けられており、エンジン11へ供給されるLPGの圧力を検出する。第2圧力計92は、第1圧力調整弁62と第2圧力調整弁64との間で返送ライン6に設けられており、第1圧力調整弁62で減圧された後のLPGの圧力を検出する。
【0039】
制御装置8は、第1圧力計91で検出される圧力がエンジン11の要求圧力(例えば、エンジン11がディーゼルサイクルのレシプロエンジンである場合、5~6MPa)となるように第1圧力調整弁62を制御する。
【0040】
上述したようにLPGはエンジン11を通過することによって加熱されるため、エンジン11から返送ライン6に流れ込むLPGの温度は少し高くなる(例えば、55℃)。従って、第1圧力調整弁62で減圧されたLPGが気化することを防止するために、制御装置8は、第2圧力計92で検出される圧力が、想定される最大温度における飽和蒸気圧よりも高い設定値(例えば、3.5MPa)となるように第2圧力調整弁64を制御する。
【0041】
また、制御装置8は、第1温度計81および第2温度計82とも電気的に接続されている。第1温度計81は、大気温を検出する。第2温度計82は、サービスタンク4に設けられており、サービスタンク4内のLPGの温度を検出する。
【0042】
そして、制御装置8は、第2温度計82で検出されるサービスタンク4内のLPGの温度が第1温度計81で検出される大気温よりも高くなるように、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34(分配機構35)を制御して加熱器32でのLPGの加熱量を調整する。なお、第1温度計81を用いる代わりに、大気温として気象予報などの推測値を使用してもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の船舶1では、加熱器32のLPGの加熱量が適切に調整されるので、加熱器32でのLPGの加熱量が不足してサービスタンク4内のLPGの温度が大気温よりも低くなることが抑制される。これにより、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0044】
また、本実施形態では、エンジン11からサービスタンク4へ返送されるLPGが冷却器63により冷却されるので、サービスタンク4内のLPGの温度が高くなり過ぎることを抑制することができる。
【0045】
<変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、サービスタンク4に設けられた第2温度計82の代わりに、図2に示すように、移送ライン3に設けられた第2温度計83が採用されてもよい。第2温度計83は、加熱器32を通過したLPGとバイパスライン33を流れたLPGとが混ざり合った後のLPGの温度である移送温度を検出する。
【0047】
この場合、制御装置8は、まず、返送ライン6からサービスタンク4へ流れ込むLPGの流量である返送流量、移送ライン3からサービスタンク4へ流れ込むLPGの流量である移送流量、および大気温から、サービスタンク4内のLPGの温度が大気温よりも高くなるために必要な目標移送温度を算出する。そして、制御装置8は、第2温度計83で検出される移送温度が目標移送温度となるように、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34(分配機構35)を制御する。
【0048】
また、加熱器32が熱媒流体とLPGとの間で熱交換を行う熱交換器であり、加熱器32に供給する熱媒流体の温度が変更可能な場合は、バイパスライン33および流量制御弁31,34が省略されて、制御装置8が、加熱器32に供給する熱媒流体の温度を変更することで加熱器32でのLPGの加熱量を調整してもよい。
【0049】
また、制御装置8は、サービスタンク4内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、加熱器32でのLPGの加熱量だけでなく冷却器63でのLPGの冷却量も調整してもよい。このように、LPGの加熱量に加えてLPGの冷却量を調整することで、幅広い状況に対応することができる。
【0050】
冷却器63でのLPGの冷却量を調整する場合、図示は省略するが、返送ライン6に冷却器63をバイパスするようにバイパスラインを接続し、冷却器63を通過するLPGの流量とバイパスラインを流れるLPGの流量の比率を変更することで冷却器63でのLPGの冷却量を調整してもよい。あるいは、冷却器63が熱媒流体とLPGとの間で熱交換を行う熱交換器であり、冷却器63に供給する熱媒流体の温度が変更可能な場合は、冷却器63に供給する熱媒流体の温度を変更することで冷却器63でのLPGの冷却量を調整してもよい。
【0051】
加熱器32でのLPGの加熱量だけでなく冷却器63でのLPGの冷却量も調整する場合は、例えば、加熱器32だけで調整する場合に比べて加熱器32でのLPGの加熱量を少なくするとともに、冷却器63でのLPGの冷却量を少なくしてもよい。
【0052】
また、制御装置8は、サービスタンク4内のLPGの温度が大気温よりも高くなるように、加熱器32でのLPGの加熱量を調整することなく、冷却器63でのLPGの冷却量だけを調整してもよい。この構成によれば、冷却器63でのLPGの冷却量が過剰になってサービスタンク4内のLPGの温度が大気温よりも低くなることが抑制される。これにより、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。言うまでもないが、冷却器63でのLPGの冷却量だけを調整する場合は、加熱器32は省略可能である。
【0053】
また、図1および図2では、サービスタンク4の形状が縦長円筒状であるが、サービスタンク4は、横長円筒状、球形状、立方体状、直方体状などのその他の形状を有してもよい。同様に、ストレージタンク2の形状も任意に変更可能である。これらの点は、後述する代替手段でも同様である。
【0054】
(代替手段)
前記実施形態では、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止するために、サービスタンク4内のLPGの温度を大気温よりも高くする手段が採用されていた。しかし、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止するためには、別の手段を採用することも可能である。
【0055】
サービスタンク4内では、移送ライン3を通じて供給される比較的に低い温度のLPG(供給LPG)と、返送ライン6を通じて返送される比較的に高い温度のLPG(返送LPG)とが混ざり合う。しかしながら、供給LPGと返送LPGとが完全に混ざり合う前に、比較的に高い温度の返送LPGが供給ライン5を通じてサービスタンク4から流出すると、供給ライン5に設けられたポンプ51の入口でLPGが気化することがある。この場合、ポンプ51の破損や性能低下が発生する。
【0056】
そこで、上記の観点からは、以下に説明するような第1~第4代替手段が考えられる。なお、第1~第4代替手段では、前記実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0057】
(第1代替手段)
図3に、第1代替手段に係る船舶1Aを示す。この船舶1Aが、図1に示す船舶1と異なるのは、バイパスライン33、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34を含まないことである。ただし、前記実施形態と同様に、船舶1Aがバイパスライン33、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34を含み、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34が前記実施形態と同様に制御されてもよい。また、第1代替手段では、サービスタンク4に特別な対策がなされている。
【0058】
サービスタンク4について図4および図5を参照してより詳しく説明すると、返送ライン6におけるサービスタンク4の外部から内部へ延びる下流側部分および移送ライン3におけるサービスタンク4の外部から内部へ延びる下流側部分は、返送ライン6の下流端および移送ライン3の下流端から流出するLPGが旋回流を形成するように構成されている。
【0059】
第1代替手段では、サービスタンク4内(正確には、LPGからなる液層40中)に、下方に向かって縮径するすり鉢状(逆円錐状)のガイド部材45が配置されている。返送ライン6の下流端および移送ライン3の下流端はガイド部材45の上方に位置しており、供給ライン5の上流端は、ガイド部材45よりも下方でサービスタンク4に接続されている。
【0060】
返送ライン6の下流側部分は、返送ライン6の下流端から流出するLPGがガイド部材45の上面に斜めに衝突するように、ガイド部材45の周方向であって水平方向に対して少し下向きに折り曲げられている。同様に、移送ライン3の下流側部分は、移送ライン3の下流端から流出するLPGがガイド部材45の上面に斜めに衝突するように、ガイド部材45の周方向であって水平方向に対して少し下向きに折り曲げられている。このため、返送ライン6の下流端および移送ライン3の下流端から流出するLPGがガイド部材45の上面に沿って旋回流を形成する。
【0061】
以上説明したような構成の船舶1Aでは、比較的に高い温度の返送LPG(返送ライン6を通じてサービスタンク4へ返送されるLPG)と比較的に低い温度の供給LPG(移送ライン3を通じてサービスタンク4へ供給されるLPG)とが、旋回流によって混ぜ合わされる。これにより、サービスタンク4内のLPGの温度が均一となり、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0062】
<変形例>
第1代替手段では、サービスタンク4内にガイド部材45が配置されていたが、返送ライン6の下流側部分および移送ライン3の下流側部分をガイド部材45の周方向であって水平方向に折り曲げた場合には、ガイド部材45が省略されてもよい。ただし、第1代替手段のようにガイド部材45が設けられていれば、ガイド部材45の上方で旋回流を確実に形成することができる。
【0063】
(第2代替手段)
次に、図6を参照して、第2代替手段に係る船舶を説明する。第2代替手段の船舶が第1代替手段の船舶1Aと異なるのは、サービスタンク4内の構造だけである。
【0064】
具体的に、第2代替手段では、返送ライン6の下流端が、サービスタンク4内で、移送ライン3の下流端よりも下方に位置している。
【0065】
さらに、第2代替手段では、サービスタンク4内に仕切部材46が配置されている。仕切部材46は、LPGからなる液層40(気層はLPGが気化したPGからなる)を第1領域41と第2領域42とに仕切る。供給ライン5の上流端は第1領域41と連通し、返送ライン6の下流端および移送ライン3の下流端は第2領域42内に位置する。
【0066】
第2代替手段では、仕切部材46が鉛直方向に平行な板であり、第1領域41と第2領域42とが水平方向に並んでいる。ただし、仕切部材46は、水平方向に平行な板であって、第1領域41が第2領域42の下側に位置してもよい。この場合、仕切部材46は、メッシュ材やパンチングメタルなどの多孔板であってもよい。あるいは、仕切部材46は、第1領域41がサービスタンク4の中央に位置し、第2領域42が第1領域41の周囲に位置するような鉛直方向に延びる筒状であってもよい。
【0067】
第2代替手段のような構成では、比較的に高い温度の返送LPGと比較的に低い温度の供給LPGとの密度差により、図6中に矢印で示すように、サービスタンク4内では返送LPGが上昇し、供給LPGが下降する。従って、返送LPGと供給LPGとが、対流によって混ぜ合わされる。これにより、サービスタンク4内のLPGの温度が均一となり、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0068】
<変形例>
仕切部材46が無くても返送LPGと供給LPGとが対流によって混ぜ合わされるので、仕切部材46は省略されてもよい。ただし、仕切部材46が設けられていれば、第2領域42内で返送LPGと供給LPGとを十分に混ぜ合わせることができる。
【0069】
(第3代替手段)
図7に、第3代替手段に係る船舶1Bを示す。第3代替手段では、返送ライン6と移送ラインとがサービスタンク4の外部で互いに合流している。このため、返送ライン6の下流側部分と移送ライン3の下流側部分は、サービスタンク4の外部から内部へ延びる共通の流路となっている。
【0070】
より詳しくは、返送ライン6は、第2圧力調整弁64の下流側で移送ライン3と合流している。返送ライン6には、第2圧力調整弁64と移送ライン3の合流点との間に逆止弁65が設けられている。
【0071】
移送ライン3は、加熱器32の下流側で返送ライン6と合流している。移送ライン3には、加熱器32と返送ライン6の合流点との間に逆止弁36が設けられている。
【0072】
返送ライン6と移送ラインとの合流態様は、三本の配管がT字状またはY字状に接続されたものであってもよい。あるいは、返送ライン6と移送ラインとの合流点に容器が設けられ、この容器に三本の配管が接続されてもよい。
【0073】
以上説明したような構成の船舶1Bでは、比較的に高い温度の返送LPGと比較的に低い温度の供給LPGとが互いに混ぜ合わさった後にサービスタンク4内に流入する。これにより、サービスタンク4内のLPGの温度が均一となり、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0074】
(第4代替手段)
図8に、第4代替手段に係る船舶1Cを示す。この船舶1Cは、前記実施形態と同様に、バイパスライン33、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34を含む。前記実施形態で説明したように、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34は、加熱器32を通過するLPGの流量とバイパスライン33を流れるLPGの流量の比率を変更する分配機構35を構成する。
【0075】
ただし、分配機構35としては、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34の代わりに、例えば、移送ライン3におけるバイパスライン33の分岐点に設けられた分配弁(三方弁)が用いられてもよい。
【0076】
第4代替手段では、サービスタンク4に特別な対策がなされている。サービスタンク4について図9を参照してより詳しく説明すると、移送ライン3の下流端は、サービスタンク4内で、返送ライン6の下流端よりも下方に位置している。また、供給ライン5の上流端は、移送ライン3の下流端よりも下方でサービスタンク4に接続されている。
【0077】
第4代替手段では、サービスタンク4内に仕切部材47が配置されている。仕切部材47は、LPGからなる液層40(気層はLPGが気化したPGからなる)を第1領域41と第2領域42とに仕切る。供給ライン5の上流端は第1領域41と連通し、移送ライン3の下流端は第1領域41内に位置し、返送ライン6の下流端は第2領域42内に位置する。
【0078】
第4代替手段では、仕切部材47が水平な多孔板であり、第1領域41が仕切部材47の下側の領域、第2領域42が仕切部材47の上側の領域である。このような多孔板としては、例えば、メッシュ材やパンチングメタルなどが用いられる。
【0079】
制御装置8は、第1温度計84および第2温度計85とも電気的に接続されている。第1温度計84は、サービスタンク4に設けられており、サービスタンク4内の液層40の上部(本実施形態では、第2領域42)の温度を検出する。液層40の上部の温度は、サービスタンク4内の温度分布(密度分布)の影響で、サービスタンク4内の液面の温度以下である。第2温度計85は、バイパスライン33の合流点の下流側で移送ライン3に設けられており、移送ライン3からサービスタンク4へ流れ込むLPG(加熱器32を通過したLPGとバイパスライン33を流れたLPGとが混ざり合った後のLPG)の温度を検出する。
【0080】
そして、制御装置8は、第2温度計85で検出されるLPGの温度が第1温度計84で検出されるLPGの温度(サービスタンク4内の液面の温度以下の温度)よりも低く保たれるように、第1流量制御弁31および第2流量制御弁34(分配機構35)を制御して加熱器32でのLPGの加熱量を調整する。
【0081】
以上説明したように、第4代替手段の船舶1Cでは、サービスタンク4内では移送ライン3の下流端が返送ライン6の下流端よりも下方に位置するので、返送LPG(返送ライン6を通じてサービスタンク4へ返送されるLPG)よりも低温の供給LPG(移送ライン3を通じてサービスタンク4へ供給されるLPG)が優先的に供給ライン5を通じてサービスタンク4から流出する。これにより、ポンプ51の入口でのLPGの気化を防止することができる。
【0082】
さらに、第4代替手段では、移送ライン3に加熱器32が設けられているので、ストレージタンク2内のLPGの温度が大気圧での飽和温度以下であっても、供給LPGを加熱器によって加熱することができる。従って、サービスタンク4を低温用の特殊鋼材(例えば、-46℃以下でも靱性を有する鋼材)ではなく、一般的な鋼材で構成することができる。また、供給LPGの加熱量は、移送ライン3からサービスタンク4へ流れ込むLPGの温度がサービスタンク4内の液層40の上部の温度よりも低く保たれるように調整されるので、加熱器32が有っても、上述した低温の供給LPGが優先的に流出するという効果を確実に得ることができる。
【0083】
<変形例>
仕切部材47は、必ずしも水平な多孔板である必要はなく、図10に示すような断面逆L字状の形状を有してもよいし、その他の形状を有してもよい。あるいは、仕切部材47自体が省略されてもよい。
【0084】
ただし、図9および図10に示すように、サービスタンク4内に仕切部材47が配置されていれば、供給LPGが供給ラインを通じて優先的に流出するという効果を顕著に得ることができる。
【符号の説明】
【0085】
1,1A~1C 船舶
11 推進用エンジン
2 ストレージタンク
3 移送ライン
32 加熱器
33 バイパスライン
35 分配機構
4 サービスタンク
5 供給ライン
51 ポンプ
6 返送ライン
63 冷却器
8 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10