(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
A23D7/00 508
(21)【出願番号】P 2018063622
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅崇
(72)【発明者】
【氏名】河原 達也
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-030911(JP,A)
【文献】国際公開第2006/121182(WO,A1)
【文献】特開平05-311190(JP,A)
【文献】特開2001-149014(JP,A)
【文献】特開平06-178664(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057131(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココアバターを2~20質量%、下記油脂組成物Aを0.5~20質量%含有し、ココアバターの含有量に対する下記油脂組成物Aの含有量の質量比が0.3~1.2である水中油型乳化物。
油脂組成物A:M2X+MX2を50質量%以上含有する油脂である。
上記において、M、X、M2X、MX2はそれぞれ以下のものを示す。
M:炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸
X:炭素数16~18の直鎖飽和脂肪酸
M2X:Mが2分子、Xが1分子結合しているトリグリセリド
MX2:Mが1分子、Xが2分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
油脂を30~65質量%、液状油を20~60質量%含有する請求項1に記載の水中油型乳化物。
【請求項3】
カカオマスを3~20質量%含有する
請求項1又は請求項2に記載の水中油型乳化物。
【請求項4】
蛋白及び/又は澱粉を0.1~5質量%含有する
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水中油型乳化物。
【請求項5】
乳化剤を含有しない
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水中油型乳化物。
【請求項6】
前記水中油型乳化物がフィリング用である
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水中油型乳化物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水中油型乳化物を使用した食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココアバターの含有量が高い水中油型乳化物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
フィリングは、ベーカリー製品等の他の食品と組み合わせて使用される。ベーカリー製品と組み合わせて使用されるフィリングは、水分を含むフィリングが多数を占めている。水分を含むフィリングは、油脂が連続相をなしているフィリングと水が連続相をなしているフィリングに大別される。油脂が連続相をなしているフィリングは、通常、乳化形態が油中水型乳化物である。油中水型乳化物のフィリングとしては、例えば、特許文献1~3等が提案されている。また、水が連続相をなしているフィリングは、通常、乳化形態が水中油型乳化物である。水中油型乳化物のフィリングとしては、例えば、特許文献4~6等が提案されている。
【0003】
油中水型乳化物のフィリングは、外相が油脂であることから、比較的日持ちする。しかしながら、油中水型乳化物のフィリングは、口どけが油っぽくなるという欠点があった。これに対して、水中油型乳化物のフィリングは、外相が水であることから、比較的日持ちしない。しかしながら、水中油型乳化物のフィリングは、口どけが油っぽくなく、良好な口どけを有するという利点があった。従って、フィリングの口どけを優先する場合は、水中油型乳化物のフィリングが使用されていた。
【0004】
フィリングには、通常、砂糖等の呈味成分が添加される。呈味成分が添加されたフィリングのうち、チョコレート類が添加されたチョコレート風味のフィリングは、非常に人気のある商品である。チョコレート風味のフィリングには、通常、チョコレートやカカオマス等のカカオ原料が添加される。
【0005】
カカオ原料のうち、カカオマスは、チョコレートの風味を決める重要な原料である。そのため、カカオマスやカカオマスが使用されたチョコレートを、食品に多く配合した場合、チョコレート風味がより豊かな食品が得られる。なお、カカオマスがココアバターを約55質量%含むことから、カカオマスやカカオマスが使用されたチョコレートを、食品に多く配合した場合、食品のココアバターの含有量が多くなる。
【0006】
フィリングにおいても、カカオマスやカカオマスが使用されたチョコレートを、原料に使用した場合、チョコレート風味がより豊かなフィリングが得られる。しかしながら、フィリングが水中油型乳化物である場合、カカオマスに含まれるココアバターが、乳化安定性を悪化させるという問題があった。
【0007】
以上のような背景から、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-168002号公報
【文献】特開2012-200226号公報
【文献】特開2009-34082号公報
【文献】特開2013-202040号公報
【文献】特開2010-220483号公報
【文献】特開2007-209254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ココアバターの含有量に対して、特定の油脂を特定比率で配合すると、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明は、ココアバターを2~20質量%、下記油脂組成物Aを0.5~20質量%含有し、ココアバターの含有量に対する下記油脂組成物Aの含有量の質量比が0.3~1.2である水中油型乳化物。
油脂組成物A:M2X+MX2を50質量%以上含有する油脂である。
上記において、M、X、M2X、MX2はそれぞれ以下のものを示す。
M:炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸
X:炭素数16~18の直鎖飽和脂肪酸
M2X:Mが2分子、Xが1分子結合しているトリグリセリド
MX2:Mが1分子、Xが2分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、油脂を30~65質量%、液状油を20~60質量%含有する第1の発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第3の発明は、カカオマスを3~20質量%含有する第1の発明又は第2の発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第4の発明は、蛋白及び/又は澱粉を0.1~5質量%含有する第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第5の発明は、乳化剤を含有しない第1の発明~第4の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第6の発明は、前記水中油型乳化物がフィリング用である第1の発明~第5の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第7の発明は、第1の発明~第6の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物を使用した食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ココアバターを2~20質量%、下記油脂組成物Aを0.5~20質量%含有し、ココアバターの含有量に対する下記油脂組成物Aの含有量の質量比が0.3~1.2である。
油脂組成物A:M2X+MX2を50質量%以上含有する油脂である。
上記において、M、X、M2X、MX2はそれぞれ以下のものを示す。
M:炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸
X:炭素数16~18の直鎖飽和脂肪酸
M2X:Mが2分子、Xが1分子結合しているトリグリセリド
MX2:Mが1分子、Xが2分子結合しているトリグリセリド
【0014】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ココアバターを含有する。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ココアバターを2~20質量%含有し、好ましくは3~15質量%含有し、より好ましくは3~10質量%含有し、最も好ましくは3.5~7質量%含有する。水中油型乳化物がココアバターを前記範囲で含有すると、チョコレート風味が豊かな水中油型乳化物が得られる。
なお、本発明でココアバターは、配合されるココアバター以外に、配合されるカカオマス、ココアパウダー等のカカオ原料に含まれるココアバターや、配合されるチョコレートに含まれるココアバターや、配合されるチョコレートに含まれるカカオ原料由来のココアバターも含む。従って、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ原料を配合することで、ココアバターを含有させることもできる。
【0015】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、下記油脂組成物Aを含有する。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、M2X+MX2を50質量%以上含有する油脂である。本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、M2X+MX2を50質量%以上含有し、好ましくは60~100質量%含有し、より好ましくは65~85質量%含有する。
なお、本発明でM2X+MX2は、M2XとMX2の合計含有量のことである。また、本発明でM2Xは、Mが2分子、Xが1分子結合しているトリグリセリド(MMX+MXM+XMM)である。また、本発明でMX2はMが1分子、Xが2分子結合しているトリグリセリド(MXX+XMX+XXM)である。また、本発明でXは炭素数16~18の直鎖飽和脂肪酸である。また、本発明でMは炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸である。また、トリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。
【0016】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、MX2/M2Xの質量比が好ましくは0.05~4.5であり、より好ましくは0.2~3.0であり、さらに好ましくは0.5~1.5である。
なお、本発明でMX2/M2Xの質量比は、M2X含有量(質量%)に対するMX2含有量(質量%)の比のことである。
【0017】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸としてMを好ましくは35~65質量%含有し、より好ましくは37~63質量%含有し、さらに好ましくは40~60質量%含有する。
【0018】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸として、Xを好ましくは35~65質量%含有し、より好ましくは37~63質量%含有し、さらに好ましくは40~60質量%含有する。
【0019】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸中のDe/Mの質量比が好ましくは0.55~0.85であり、より好ましくは0.58~0.83であり、さらに好ましくは0.60~0.80である。
なお、本発明で構成脂肪酸中のDe/Mの質量比は、M含有量(質量%)に対するDe含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でDeはデカン酸(炭素数10の直鎖飽和脂肪酸)である。
【0020】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、構成脂肪酸中のSt/Xの質量比が好ましくは0.50以上であり、より好ましくは0.70以上であり、更に好ましくは0.80~0.98である。
なお、本発明で構成脂肪酸中のSt/Xの質量比は、X含有量(質量%)に対するSt含有量(質量%)の比のことである。なお、本発明でStは、ステアリン酸(炭素数18の直鎖飽和脂肪酸)である。
【0021】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、好ましくは下記油脂Dと下記油脂Eとの混合油をランダムエステル交換して得られる油脂である。また、本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、好ましくは下記油脂Dと下記油脂Fとの混合油をランダムエステル交換した後、極度硬化して得られる油脂である。
【0022】
前記油脂Dは、M3のみからなる。前記油脂Dは、好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTとする。)である。なお、本発明でM3はMが3分子結合しているトリグリセリド(MMM)である。
【0023】
前記油脂Eは、沃素価が5以下であり、構成脂肪酸としてXを90質量%以上含有する。前記油脂Eは、沃素価が5以下であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。前記油脂Eは、構成脂肪酸としてXを90質量%以上含有し、好ましくは93質量%以上含有し、より好ましくは95質量%以上含有する。前記油脂Eは、好ましくは菜種油の極度硬化油、大豆油の極度硬化油又はパーム油の極度硬化油であり、より好ましくは菜種油の極度硬化油である。
【0024】
前記油脂Dと油脂Eとの混合油の配合比(油脂D:油脂E)は、好ましくは質量比10:90~65:35であり、より好ましくは質量比20:80~55:45であり、さらに好ましくは質量比40:60~55:45である。
【0025】
前記油脂Fは、構成脂肪酸として炭素数16~18の脂肪酸を90質量%以上含有する。前記油脂Fは、構成脂肪酸として炭素数16~18の脂肪酸を90質量%以上含有し、好ましくは93質量%以上含有し、より好ましくは95質量%以上含有する。前記油脂Fは、好ましくは菜種油、大豆油又はパーム油であり、より好ましくは菜種油である。
【0026】
前記油脂Dと油脂Fとの混合油の配合比(油脂D:油脂F)は、好ましくは質量比10:90~65:35であり、より好ましくは質量比20:80~55:45であり、さらに好ましくは質量比40:60~55:45である。
【0027】
油脂組成物Aを製造するためのランダムエステル交換は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。油脂組成物Aを製造するためのランダムエステル交換は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法を用いてもよい。
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1~1質量%添加した後、減圧下、80~120℃で0.5~1時間攪拌しながら反応を行うことができる。化学的エステル交換終了後は、水洗等により触媒を除去した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色・脱臭処理を施すことができる。
酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02~10質量%(好ましくは0.04~5質量%)添加した後、40~80℃、好ましくは40~70℃で0.5~48時間(好ましくは0.5~24時間)攪拌しながら反応を行うことができる。酵素的エステル交換終了後は、濾過等によりリパーゼを除去した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色・脱臭処理を施すことができる。ランダムエステル交換を行うことのできるリパーゼは、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
【0028】
油脂組成物Aを製造するための極度硬化(水素添加)は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。油脂組成物Aを製造するため極度硬化は、例えば、ニッケル触媒の下、水素圧0.02~0.3Mpa、160~200℃の条件にて行うことができる。
【0029】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂組成物Aは、ランダムエステル交換の後又は極度硬化の後に、分別を行うこともできる。
油脂組成物Aを製造するための分別は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。分別は、好ましくはドライ分別(自然分別)である。ドライ分別は、油脂を槽内で攪拌しながら冷却することで油脂の結晶を析出させた後、圧搾及び/又はろ過することで、高融点部(硬質部又は結晶画分とも言う。)と低融点部(軟質部又は液状画分とも言う。)に分けられる。油脂を分別する時の温度は、対象となる油脂の性状によっても異なるため、特に制限されることはない。ドライ分別する時の温度は、好ましくは33~45℃であり、より好ましくは35~43℃、さらに好ましくは37~43℃である。
【0030】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、前記油脂組成物Aを0.5~20質量%含有し、好ましくは0.5~15質量%含有し、より好ましくは1~10質量%含有し、さらに好ましくは1~8質量%含有する。水中油型乳化物が前記油脂組成物Aを前記範囲で含有すると、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物が得られる。
【0031】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは液状油を含有する。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、液状油を好ましくは20~60質量%含有し、より好ましくは25~55質量%含有し、さらに好ましくは30~50質量%含有する。
なお、本発明で液状油とは、20℃で液状の油脂のことである。液状油の具体例は、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油やこれらの油脂の加工油脂(分別油、エステル交換油、水素添加油)等である。これらの液状油は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される液状油は、好ましくは菜種油である。
【0032】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ココアバター、前記油脂組成物A以外にも、通常、水中油型乳化物の製造に使用される食用油脂を使用することができる。水中油型乳化物の製造に使用される食用油脂の具体例は、パーム油、パーム核油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、乳脂等やこれらの加工油脂(分別油、エステル交換油、水素添加油)等である。これらの食用油脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
油脂のトリグリセリド組成は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))に準拠して測定することができる。
油脂の構成脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96)に準拠して測定することができる。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準拠して測定することができる。
【0034】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、油脂を好ましくは30~65質量%含有し、より好ましくは35~60質量%含有し、さらに好ましくは40~55質量%含有する。
なお、本発明で油脂とは、水中油型乳化物に含まれる全ての油脂を合わせた全油脂分である。すなわち、油脂は、配合される油脂の他に、カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等の含油原料に含まれるココアバター、乳脂等も含む。従って、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等の含油原料を配合することで、油脂を含有させることもできる。
【0035】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、カカオマスを好ましくは3~20量%含有し、より好ましくは5~15質量%含有し、さらに好ましくは7~10質量%含有する。水中油型乳化物がココアバターを前記範囲で含有すると、チョコレート風味がより豊かな水中油型乳化物が得られる。
なお、本発明でカカオマスは、配合されるカカオマス以外に、配合されるチョコレートに含まれるカカオマスも含む。従って、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、カカオマスを含有するチョコレートを配合することで、カカオマスを含有させることもできる。
【0036】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、無脂カカオ固形分を好ましくは1~20質量%含有し、より好ましくは2~15質量%含有し、さらに好ましくは2~10質量%含有し、最も好ましくは3~5質量%含有する。水中油型乳化物が無脂カカオ固形分を前記範囲で含有すると、チョコレート風味がより豊かな水中油型乳化物が得られる。
なお、本発明で無脂カカオ固形分とは、カカオ豆、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ原料から油脂、水分を除いた固形分のことである。
【0037】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは蛋白及び/又は澱粉を含有し、より好ましくは蛋白を含有する。
【0038】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される蛋白は、好ましくは乳由来の蛋白、卵由来の蛋白であり、より好ましくは乳由来の蛋白、卵白由来の蛋白である。
なお、本発明で乳由来の蛋白は、粉乳等の乳製品に含まれる蛋白も含む。また、本発明で卵由来の蛋白は、卵白等の卵に含まれる蛋白も含む。従って、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、粉乳等の乳製品や卵白等の卵を配合することで、蛋白を含有させることもできる。
【0039】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される澱粉は、好ましくは加工澱粉である。本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される加工澱粉は、米、小麦、タピオカ、馬鈴薯、とうもろこし由来の澱粉を加工処理したものである。加工澱粉の具体例は、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、アルファ化澱粉等である。
【0040】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、蛋白及び/又は澱粉を好ましくは0.1~5質量%含有し、好ましくは0.5~3質量%含有し、より好ましくは0.8~2質量%含有する。水中油型乳化物が蛋白及び/又は澱粉を前記範囲で含有すると、乳化剤を使用しなくても、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化物が得られる。
【0041】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは増粘多糖類を含有する。増粘多糖類の具体例は、砂糖(ショ糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、マルトトリオース、テトラオース等である。これらの糖類は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される糖類は、好ましくは液糖であり、より好ましくはBrix60~80の液糖であり、さらに好ましくはBrix65~75の液糖である。
【0042】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、糖類を好ましくは20~65質量%含有し、より好ましくは30~60質量%含有し、更に好ましくは35~55質量%含有する。
【0043】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、水分を好ましくは5~30量%含有し、より好ましくは10~20質量%含有し、さらに好ましくは12~16質量%含有する。
なお、本発明で水分とは、水中油型乳化物に含まれる全ての水分を合わせた全水分である。すなわち、水分は、配合される水の他に、液糖、練乳等の含水原料に含まれる水分等も含む。
【0044】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは糖類を含有する。糖類の具体例は、砂糖(ショ糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、マルトトリオース、テトラオース等である。これらの糖類は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される糖類は、好ましくは液糖であり、より好ましくはBrix60~80の液糖であり、さらに好ましくはBrix65~75の液糖である。
【0045】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、糖類を好ましくは20~65質量%含有し、より好ましくは30~60質量%含有し、更に好ましくは35~55質量%含有する。
【0046】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、その他にも、通常、フィリング等の食品として使用される水中油型乳化物の製造に使用される原料を使用することができる。食品として使用される水中油型乳化物の製造に使用される原料の具体例は、寒天、ゼラチン等のゲル化剤、ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、CMC、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘多糖類、大豆粉、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、フレーバー、着色料、酸化防止剤等を使用することができる。
【0047】
通常、フィリング等の食品に使用される水中油型乳化物には、乳化させて、乳化状態を維持するために、通常、乳化剤が使用される。しかしながら、近年の消費者の健康志向から、食品に使用される水中油型乳化物には、乳化剤を使用しないことが求められている。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、乳化剤を使用しなくても、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する。そのため、本発明によると、乳化剤を使用しないという消費者の要望に応えることができる。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは乳化剤を含有しない。
【0048】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造方法は、特に制限されない。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、従来公知の食品として使用される水中油型乳化物の製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、例えば、水分を含む水相に、油脂を含む油相を加え、ホモミキサーを用いて水中油型に乳化させることにより製造することができる。
【0049】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくはフィリング用である。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、そのままフィリングとして使用することができる。
【0050】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する。また、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、乳化剤を使用しなくても、ココアバターの含有量が高く、良好な乳化安定性を有する。
【0051】
本発明の実施の形態の食品は、本発明の実施の形態の水中油型乳化物を使用している。 本発明の実施の形態の食品は、好ましくはベーカリー製品である。ベーカリー製品の具体例は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン等の焼き菓子、バターケーキ類(パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等)、スポンジケーキ類(ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等)、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋生菓子、菓子パン、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、ドーナツ、デニッシュ、クロワッサン等のパンである。
【0052】
本発明の実施の形態の食品の製造方法は、特に制限されない。本発明の実施の形態の食品は、従来公知の食品の製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態の食品は、具体的には、本発明の実施の形態の水中油型乳化物とベーカリー製品等の食品とを組み合わせることで、製造することができる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物とベーカリー製品等の食品とを組み合わせる手段は、例えば、詰める(包餡、注入)、挟む、載せる(トッピング)等である。
【実施例】
【0053】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔分析方法〕
油脂のトリグリセリド組成は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))に準拠して測定した。また、油脂の構成脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96)に準拠して測定した。また、油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準拠して測定した。
【0054】
〔油脂組成物A1の製造〕
51質量部の菜種油の極度硬化油(沃素価:1、X含有量:96.8質量%)と49質量部のMCT(M3含有量:100質量%)とを混合した。得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより、油脂組成物A1(M2X含有量:43.4質量%、MX2含有量:32.3質量%、M2XとMX2の合計含有量:75.7質量%、MX2/M2X質量比:0.74、M含有量:48.4質量%、X含有量:50.1質量%、De/M質量比:0.71、St/X質量比:0.95)を得た。
ランダムエステル交換は、常法に従い、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。
【0055】
〔フィリングの製造及び評価〕
表1~2の配合に従って、油相と水相とをそれぞれ調製し、乳化させることで、水中油型乳化物であるフィリングを製造した。なお、液糖は、BriX70の液糖を使用した。また、表での配合量及び含有量の単位は質量%である。
製造された水中油型乳化物であるフィリングをスプーンで広げた時の状態を確認し、以下の評価基準に従い、フィリングの乳化安定性を評価した。評価結果が◎又は○である場合、フィリングが良好な乳化安定性を有しているとした。評価結果を表1~2に示した。
【0056】
<フィリングの評価基準>
◎:とても滑らかで艶がある状態
○:スプーンで広がる程度の滑らかさがある状態
×:スプーンで広がらず、ブツブツと切れてしまう状態
【0057】
【0058】
【0059】
表1、2から分かるように、実施例のフィリングは、乳化安定性が良かった。
一方、表1、2から分かるように、比較例のフィリングは、乳化安定性が悪かった。