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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017235206
(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公開番号】P2019098063
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 低侵襲がん診療装置研究開発プロジェクト」「微粒子腫瘍マーカとリアルタイム3次元透視を融合した次世代高精度粒子線治療技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
【審査官】小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-106756(JP,A)
【文献】特表2012-501792(JP,A)
【文献】特開2015-016161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体内の標的に治療用放射線を照射する治療用放射線照射装置と、
少なくとも2方向から同時に追跡対象を透視用放射線により撮影する少なくとも2つの透視用放射線撮影装置と、
前記透視用放射線撮影装置で撮影された画像に基づいて前記追跡対象の3次元位置を演算する追跡対象位置演算装置と、
前記追跡対象位置演算装置で演算された前記追跡対象の3次元位置に基づいて前記標的が所定の照射許可領域内に存在するか否かを判定し、前記照射許可領域内にあると判定されたときは前記治療用放射線を照射するよう前記治療用放射線照射装置を制御する治療用放射線照射制御装置と、
前記追跡対象の3次元位置に基づき前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する透視用放射線撮影制御装置と、を備え
前記透視用放射線撮影制御装置は、
前記追跡対象の3次元位置が、前記照射許可領域を所定量だけ拡大又は縮小させた領域である標準撮影領域に含まれるか否かを判定し、
前記判定結果に基づいて前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記標準撮影領域は、前記照射許可領域を所定量だけ拡大させた領域とする
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記標準撮影領域は、前記照射許可領域を所定量だけ縮小させた領域とする
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を、前記透視用放射線撮影装置の撮影間隔を変更することにより制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を、前記透視用放射線撮影装置に供給する電流量を変更することにより制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記透視用放射線撮影制御装置は、前記追跡対象位置演算装置により演算された前記追跡対象の3次元位置に基づき前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項7】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記被験体の外部から前記追跡対象の3次元位置を測定する外部センサを更に備え、
前記透視用放射線撮影制御装置は、前記外部センサにより測定された前記追跡対象の3次元位置に基づき前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項8】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記追跡対象の3次元位置を推定する追跡対象位置推定装置を更に備え、
前記透視用放射線撮影制御装置は、前記追跡対象位置推定装置により推定された前記追跡対象の3次元位置に基づき前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する
ことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項9】
請求項乃至請求項のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記標準撮影領域の取得頻度少なくする
ことを特徴とする放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体内の標的の位置をリアルタイムに認識して、標的に対して治療用放射線を照射する放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の一般技術として、特許文献1,2に記載の技術がある。
【0003】
特許文献1には、「ターゲットを処置するために画像ガイド型処置が遂行される。画像ガイド型処置を遂行するために、ターゲットの動きを表す測定データが取得される。1つ以上のX線像のタイミングが測定データに基づいて決定される。ターゲットの位置を使用してターゲットにおいて処置が遂行される。」と記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「複数の第1照射部と、複数の検出部と、判定部と、制御部と、を備える。複数の第1照射部は、被検体に対して、それぞれが放射線を照射する。複数の検出部は、被検体を透過した放射線を検出し、検出した放射線に基づいてそれぞれが画像を生成する。判定部は、複数の画像のうちのいずれかである所定画像を用いて、被検体の体内のオブジェクトが第1領域に含まれているか否かを判定する。制御部は、オブジェクトが第1領域に含まれていない場合、オブジェクトが第1領域に含まれている場合よりも複数の放射線の単位時間当たりの照射量が少なくなるように複数の第1照射部を制御する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-501792号公報
【文献】特開2015-016161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線治療では、治療用放射線照射装置を用いて癌等の患部(標的)に電子線、陽子線、炭素線等の荷電粒子線やX線、γ線等の治療用放射線を照射する。
【0007】
特に、高精度放射線治療では呼吸や心拍、および腸の動きなどによる標的の位置や形状の変動に応じて治療用放射線照射装置を制御することが求められている。高精度な放射線治療で用いられる照射法として、動体追跡放射線治療がある。
【0008】
動体追跡放射線治療では、所定の時間間隔で複数方向から透視用放射線を照射し、被験体内を透視することで、標的の3次元位置を直接、もしくは標的付近に留置したマーカの3次元位置から間接的に測定,追跡し、標的が所定の照射許可領域内に存在するときに限り治療用放射線を患部へ照射する。
【0009】
ここで用いられる透視用放射線には、電子線、陽子線、炭素線等の荷電粒子、若しくはX線、γ線がある。以下では、治療用の放射線と標的の位置を測定するための放射線とを区別するため、治療用の放射線を「治療用放射線」、測定用の放射線を「透視用放射線」と称す。
【0010】
標的の位置を測定するための透視用放射線の撮影は、例えば治療用放射線照射装置と一体に設けられた透視用放射線撮影装置等により、治療の開始から終了までの間、所定の間隔で間欠的に行われる。
【0011】
従って、透視用放射線撮影の間隔を短縮すると標的の位置を検知する間隔が狭まるため、より高精度な照射を実現することができる。しかし、透視用放射線の照射頻度が高くなり、透視用放射線撮影装置の使用負荷が増大するという問題が生じる。
【0012】
ここで治療中に透視用放射線撮影の間隔を変更し、透視用放射線撮影装置の利用効率を向上させる技術として、上述した特許文献1,2に記載の技術がある。
【0013】
特許文献1では、治療中の標的の動きを測定し、標的の動きが既定値より大きい場合は透視用放射線撮影の間隔を縮小し、小さい場合は透視用放射線撮影の間隔を拡大している。この方法を適用することにより、透視用放射線撮影の頻度を抑えることができ、透視用放射線撮影装置の負荷が軽減することが期待される。
【0014】
また特許文献2では、ある一方向から撮影した被験体の透視画像において、透視画像上に投影された患部が指定領域に含まれない場合、他方向からの透視用放射線撮影を控えている。この方法を適用することによっても、透視用放射線撮影の頻度が抑えられ、透視用放射線撮影装置の負荷が軽減することが期待される。
【0015】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
【0016】
すなわち、上記特許文献1に記載の技術では、標的の移動速度が早い場合は照射間隔を縮小できず、透視用放射線撮影装置の負荷を軽減することができない、との問題があることが本発明者らの検討によって明らかとなった。また、照射許可領域内における標的の動きが規定値以下である場合は、照射許可領域内外に関わらず、標的位置の測定頻度が低下するため、標的の検出精度を十分に確保することができずに治療用放射線の照射精度が低下するおそれが生じることも本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0017】
また、上記特許文献2に記載の技術では、透視画像上に投影された標的が指定領域に含まれない間は一方向からしか透視画像を撮影しないため、標的と似た形状を持つ構造物(例えば血管など)が透視画像上に投影された場合に、構造物を標的と誤認識してしまうおそれがあることが本発明者らの検討によって明らかとなった。このような誤認識が発生した場合、操作者は治療用放射線の照射を中断し、透視用放射線を照射しながら正しい標的を選択し直す必要がある。結果として治療時間が増加し、透視用放射線撮影装置の負荷を必ずしも軽減することができない、との問題が生じることが本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0018】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、治療時間の増大を従来に比べて効果的に抑制することができるとともに、透視用放射線撮影装置の負荷を軽減することができる放射線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、被験体内の標的に治療用放射線を照射する治療用放射線照射装置と、少なくとも2方向から同時に追跡対象を透視用放射線により撮影する少なくとも2つの透視用放射線撮影装置と、前記透視用放射線撮影装置で撮影された画像に基づいて前記追跡対象の3次元位置を演算する追跡対象位置演算装置と、前記追跡対象位置演算装置で演算された前記追跡対象の3次元位置に基づいて前記標的が所定の照射許可領域内に存在するか否かを判定し、前記照射許可領域内にあると判定されたときは前記治療用放射線を照射するよう前記治療用放射線照射装置を制御する治療用放射線照射制御装置と、前記追跡対象の3次元位置に基づき前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御する透視用放射線撮影制御装置と、を備え、前記透視用放射線撮影制御装置は、記追跡対象の3次元位置が、前記照射許可領域を所定量だけ拡大又は縮小させた領域である標準撮影領域に含まれるか否かを判定し、前記判定結果に基づいて前記透視用放射線撮影装置の単位時間当たりの照射量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、治療時間の増大を従来に比べて効果的に抑制することができるとともに、透視用放射線撮影装置の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態における放射線治療システムの構成を表す概略図である。
図2】本発明の第1の実施形態における標的位置演算装置および透視用放射線撮影制御装置の機能的構成を、関連装置とともに表すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態の治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標を示すタイミングチャートである。
図5】従来技術の治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標を示すタイミングチャートである。
図6】本発明の第2の実施形態における放射線治療システムの構成を表す概略図である。
図7】本発明の第2の実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
図8】本発明の第3の実施形態における放射線治療システムの構成を表す概略図である。
図9】本発明の第3の実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
図10】本発明の第4の実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
図11】本発明の変形例1における治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標を示すタイミングチャートである。
図12】本発明の変形例1における治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標の他の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の放射線治療システムの実施形態を、図面を用いて説明する。
【0023】
なお以下の実施形態では、治療用放射線として陽子線や炭素線などの荷電粒子線を用いる場合について説明するが、治療用放射線はX線やγ線等を用いることができる。
【0024】
<第1の実施形態>
本発明の放射線治療システムの第1の実施形態について図1乃至図5を用いて説明する。
【0025】
図1は本実施形態における放射線治療システムの全体概略構成を示す図である。図2は、本実施形態における標的位置演算装置および透視用放射線撮影制御装置の機能的構成を、関連装置とともに表すブロック図である。図3は本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
【0026】
図1において、放射線治療システム100は、標的3に対して陽子や炭素等の重粒子からなる粒子線を照射するための装置である。放射線治療システム100は、加速器101、ビーム輸送装置102、被験体2の位置決めが可能な治療台1、加速器101から供給された治療用粒子線を標的3に照射する治療用放射線照射装置7、透視用放射線撮影装置4A,4B、中央制御系103等を備えている。
【0027】
治療用粒子線は、治療室とは別室に備えた加速器101にて必要なエネルギーまで加速された後、ビーム輸送装置102により治療用放射線照射装置7まで導かれる。加速器101は、シンクロトロン型加速器やサイクロトロン型加速器、他の加速器とすることができる。
【0028】
なお、治療用放射線としてX線を用いる場合には、加速器101やビーム輸送装置102の替わりに治療用X線を発生させるX線照射装置を設ける。γ線を用いる場合は、加速器101やビーム輸送装置102の替わりに治療用γ線を発生させるγ線照射装置を設ける。
【0029】
透視用放射線撮影装置4Aは、第1方向から被験体2の標的3に向けて透視用放射線を発生させる透視用放射線発生装置5Aと、透視用放射線発生装置5Aから発生して被験体2を透過した透視用放射線の2次元線量分布を検出する透視用放射線検出器6Aと、信号処理回路(図示省略)とを備えている。
【0030】
透視用放射線検出器6Aは、2次元的に配置された検出素子からアナログ信号を出力する。信号処理回路は、透視用放射線検出器6Aからアナログ信号を処理して透視画像のデータを生成し、標的位置演算装置11へ送信する。
【0031】
同様に、透視用放射線撮影装置4Bは、第1方向とは異なる第2方向から被験体2に向けて透視用放射線を発生させる透視用放射線発生装置5Bと、透視用放射線発生装置5Bから発生して被験体2を透過した透視用放射線の2次元線量分布を検出する透視用放射線検出器6Bと、信号処理回路(図示省略)とを備えている。
【0032】
透視用放射線検出器6Bは、2次元的に配置された検出素子からアナログ信号を出力する。信号処理回路は、透視用放射線検出器6Bからアナログ信号を処理して透視画像のデータを生成し、標的位置演算装置11へ送信する。
【0033】
本実施形態では、透視用放射線撮影装置4Bによる標的3の撮影は、透視用放射線撮影装置4Aの撮影と同期して行われている。
【0034】
同期して取得された2つの透視画像にはそれぞれ標的3が写っており、予め用意した標的3のテンプレート画像とのテンプレートマッチングにより標的3の位置をそれぞれの透視画像中で特定する。透視画像の全範囲を探索すると探索に時間を要するため、ひとつ前の透視画像における標的3の位置を中心として予め定められた大きさの範囲内でのみ標的3の位置を探索することが望ましい。
【0035】
テンプレートマッチングにより検出した標的3の透視用放射線検出器6A上における位置と透視用放射線発生装置5Aとを結ぶ線、および標的3の透視用放射線検出器6B上における位置と透視用放射線発生装置5Bとを結ぶ線の2本の線は、理想的には1点で交わり、その交点が標的3の存在する位置とみなせる。
【0036】
しかし、実際には、テンプレートマッチングの精度やX線透視装置の設置誤差などから、2本の線は交わらずにねじれの関係にあることが多い。このねじれの関係にある2本の線が最も接近する位置には共通の垂線を引くことができる。この共通の垂線を共通垂線と呼ぶ。そして、共通垂線の中点を標的3の位置とみなしている。
【0037】
ここで、少なくとも片方の透視画像上で標的3を正しく検出できていない場合、例えば、片方の透視画像で標的3に替わり、または標的3に追加して標的3に似た構造物を標的3とテンプレートマッチングで認識した場合、構造物との透視用放射線検出器6A,6B上における位置と透視用放射線発生装置5A,5Bとを結ぶ誤認識線が引かれる。この誤認識線ともう一方の線との間に引かれる共通垂線は、正しく認識できている場合の共通垂線より長くなる。そこで、本実施形態では、この共通垂線の原理を利用して、標的3を正確に追跡する。
【0038】
例えば、2組の透視画像のそれぞれにおいてマッチングスコアが所定値より高い位置を標的3の位置の候補としてそれぞれリスト化し、標的3位置の2つの候補リストから全組み合わせに対して共通垂線の長さを計算し、その上で、マッチングスコアと共通垂線とに基づいて標的3の位置を検出する。この際、マッチングスコアおよび共通垂線に重み付けを行い、この重み付けの結果に基づいて最も適切な共通垂線を選択して、標的3の位置を検出することが可能である。
【0039】
図1に戻り、中央制御系103は、加速器101やビーム輸送装置102、治療用放射線照射装置7、透視用放射線撮影装置4A,4B等の放射線治療システム100内の各機器の動作を制御する装置であり、標的位置演算装置11、治療用放射線照射制御装置10、透視用放射線撮影制御装置12等を有している。
【0040】
標的位置演算装置11は、透視用放射線撮影装置4A,4Bで撮影された画像から標的3の位置をリアルタイムに演算する装置であり、図2に示すように、通信部20と、記録部21と、表示部22と、2次元位置演算部23と、3次元位置演算部24とを有している。
【0041】
通信部20は、透視用放射線撮影装置4A,4Bや透視用放射線撮影制御装置12、治療用放射線照射制御装置10等との間で通信を行う。
【0042】
記録部21は、透視用放射線撮影装置4A,4Bより受信した撮影画像や後述する演算結果等を保存する。この記録部21には、第1テンプレート画像として、透視用放射線撮影装置4Aの撮影方向における標的3の投影像が予め用意され記録されている。また、第2テンプレート画像として、透視用放射線撮影装置4Bの撮影方向における標的3の投影像が予め用意され記録されている。
【0043】
表示部22は、透視用放射線撮影装置4A,4Bの撮影画像や後述する演算結果等を表示する。
【0044】
2次元位置演算部23は、透視用放射線撮影装置4Aの撮影画像と第1テンプレート画像とをマッチングさせることにより、透視用放射線撮影装置4Aの撮影方向(第1方向)から見た標的3の2次元位置を演算する。また、透視用放射線撮影装置4Bの撮影画像と第2テンプレート画像とをマッチングさせることにより、透視用放射線撮影装置4Bの撮影方向(第2方向)から見た標的3の2次元位置を演算する。演算された標的3の2次元位置は、対応する撮影画像と関連付けられ、記録部21に保存されるようになっている。
【0045】
3次元位置演算部24は、2次元位置演算部23での演算結果から、透視用放射線撮影装置4A,4Bの撮影方向から見た標的3の2次元位置を逆投影するとともに、上述の共通垂線も利用して、標的3の3次元位置を演算する。演算された標的3の3次元位置は、記録部21に記録されるとともに、透視用放射線撮影制御装置12および治療用放射線照射制御装置10へと送信される。
【0046】
また、演算された標的3の3次元位置は、対応する透視用放射線撮影装置4A,4Bの撮影画像とともに、表示部22に表示されるようになっている。これにより、操作者は標的3の位置をリアルタイムに確認できる。
【0047】
透視用放射線撮影制御装置12は、標的位置演算装置11により測定された標的3の位置に基づき透視用放射線発生装置5A,5Bの単位時間当たりの照射量を制御する制御装置であり、通信部30と、記録部31と、表示部32と、照射制御部33と、設定部34と、を有している。
【0048】
特に、本実施形態の透視用放射線撮影制御装置12では、照射制御部33において標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれるか否かを判定し、標準撮影領域に含まれていないと判定されたときは、標準撮影領域に含まれていると判定されたときよりも透視用放射線撮影装置の撮影間隔を拡大するよう制御することで、単位時間当たりの照射量を制御する。
【0049】
標準撮影領域は、後述する治療用放射線照射制御装置10で治療用粒子線の出射の可否の判定に用いられる照射許可領域に基づき定められる。例えば、標準撮影領域は照射許可領域を所定量だけ等方的、または非等方的に拡大させた任意の領域とすることが可能である。また、照射許可領域と全く同じ範囲の領域とすることや、照射許可領域を所定量縮小させた任意の領域とすることができる。
【0050】
通信部30は、標的位置演算装置11と透視用放射線発生装置5A,5Bとの間で通信を行う。記録部31は、標的位置演算装置11より受信した標的3の3次元位置等を保存する。表示部32は、後述する判定結果等を表示する。照射制御部33は、記録部31に保存された標的3の3次元位置に基づき透視用放射線発生装置5A,5Bによる透視用放射線の撮影間隔を制御する。設定部34は、透視用放射線撮影間隔が照射制御部33で制御される間隔となるよう透視用放射線発生装置5A,5Bを設定する。
【0051】
治療用放射線照射制御装置10は、標的位置演算装置11から受信した標的3の3次元位置が所定の照射許可領域に含まれるか否かを判定し、その判定結果に基づき治療用放射線照射装置7を制御して、標的3へ向けて治療用粒子線を照射する。
【0052】
~治療処理の流れ~
本実施形態における放射線治療システム100による動体追跡放射線治療の処理フローについて図3を用いて説明する。
【0053】
まず、透視用放射線撮影制御装置12は、操作者が設定部34を用いて標準撮影間隔および拡大撮影間隔を設定したことを認識する(ステップS100)。
【0054】
本ステップにおける標準撮影間隔とは、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる際に透視用放射線撮影をする撮影間隔であり、治療用粒子線の照射精度を確保できる程度に小さい値が設定される。なお、標準撮影間隔として予め固定された値を利用することも可能であり、その場合本ステップは省略される。
【0055】
また、拡大撮影間隔とは、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない際の透視用放射線撮影をする撮影間隔であり、標準撮影間隔より大きい値で標的3を追跡できる程度に小さい値が設定される。なお、拡大撮影間隔についても予め固定された値を利用することが可能であり、その場合本ステップは省略される。
【0056】
ステップS100に続いて、照射制御部33は前回の透視用放射線照射時間から一定の時間が経過したのち、透視用放射線発生装置5A,5Bへ透視用放射線照射信号を送信する。透視用放射線照射信号を受信した透視用放射線発生装置5A,5Bは標的3へ向けて透視用放射線を発生させる(ステップS101)。なお、一定の時間とは先のステップS100において設定された標準撮影間隔若しくは拡大撮影間隔から定まる時間である。また治療開始直後は一定の時間を空けずに透視用放射線を発生させることが可能である。
【0057】
ステップS101に続いて、透視用放射線撮影装置4A,4Bが生成した透視画像が標的位置演算装置11へ送信され、標的位置演算装置11において標的3の3次元位置が算出される(ステップS102)。
【0058】
ステップS102に続いて、照射制御部33は、ステップS102で演算された標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれるか否かを判定する(ステップS103)。
【0059】
ステップS103でYes(標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる)と判定された場合は、透視用放射線撮影制御装置12の照射制御部33は透視用放射線の撮影間隔を標準撮影間隔に変更する(ステップS104)。一方、ステップS103でNo(標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない)と判定された場合は、照射制御部33は透視用放射線の撮影間隔を拡大撮影間隔に変更する(ステップS105)。
【0060】
ステップS104若しくはステップS105に続いて、治療用放射線照射制御装置10は、標的位置演算装置11で演算された標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれるか否かを判定する(ステップS106)。
【0061】
ステップS106でYes(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれる)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は治療用放射線照射装置7へ治療用粒子線照射信号を送信し、標的3へ向け治療用粒子線を照射する(ステップS107)。一方ステップS106でNo(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれない)と判定された場合は、ステップS101へ処理を戻す。
【0062】
ステップS107に続いて、治療用放射線照射制御装置10および透視用放射線撮影制御装置12は、終了指示(操作者の特別の指示、あるいは治療用放射線照射装置7が指定の照射を終えたことによる治療用粒子線照射終了に伴う動体追跡終了の指示、等)があるか否かを判定する(ステップS108)。
【0063】
ステップS108でYes(終了指示あり)と判定された場合は、透視用放射線撮影および治療用粒子線の照射を停止し、動体追跡放射線治療を終了する。一方ステップS108でNo(終了指示なし)と判定された場合は、ステップS101に処理を戻し、動体追跡放射線治療を継続する。
【0064】
~効果~
本実施形態における効果について図4および図5を用いて説明する。図4は、本実施形態の透視用放射線撮影制御を行った場合の治療用粒子線照射信号と透視用放射線照射信号および標的3の3次元位置のタイミングチャートの一例を示す図であり、図5は、従来の治療用粒子線照射信号と透視用放射線照射信号および標的3の3次元位置のタイミングチャートの一例を示す図である。
【0065】
なお、本来ならば標的3の位置は3次元位置を表すが、図4および図5においては、説明を簡略化するために標的3の3次元位置はある一方向に対してのみ周期的に変化しているものとする。
【0066】
図4および図5において、治療用粒子線照射信号がONとなっている間、治療用放射線照射装置7は治療用粒子線を標的3へ向け照射する。同様に、透視用放射線照射信号がONとなっている間、透視用放射線発生装置5A,5Bは標的3へ向け透視用放射線を発生させる。
【0067】
図4に示すように、本実施形態の透視用放射線撮影制御では、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない場合は、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる場合と比べ、透視用放射線照射信号がONとなる間隔が拡大している。その結果、図5に示す従来の制御に比べ、透視用放射線照射信号がONとなる回数が減少し、透視用放射線発生装置5A,5Bが透視用放射線を照射する回数が少なくなっている。
【0068】
なお、図4に示す本実施形態の透視用放射線撮影制御と、図5に示す従来の透視用放射線撮影制御とでは、治療用粒子線照射信号がONとなるタイミングは同じである。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、治療用粒子線を照射するタイミングを変化させずに、透視用放射線発生装置5A,5Bが透視用放射線を発生させる回数を減らせることができるため、標的3に対する治療用粒子線の照射精度を維持したまま、透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷を軽減することができる。また、2方向からの透視用放射線の撮影を同期させて行うことにより、撮影条件が厳しい場合であっても標的3を高精度に追跡することができる。すなわち、標的3を見失う頻度を従来に比べて低減することができ、標的3を見失った場合にオペレータが標的3を再検出させる手間を省略することができる。このため、照射時間を短縮することが可能である。また、照射時間が短くなることにより、透視用放射線による撮像回数を削減することができ、透視用放射線撮影装置の更なる負担軽減を図ることができる。
【0070】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態の放射線治療システムについて図6および図7を用いて説明する。図6は本実施形態における放射線治療システムの構成を表す概略図である。図7は本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
【0071】
図6に示すように、本実施形態の放射線治療システム100Aは、標的3の3次元位置を外部センサ51により測定する。なお、本実施形態の放射線治療システム100Aにおいて、上記第1の実施形態の放射線治療システム100と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0072】
図6において、本実施形態における放射線治療システム100Aは、加速器101、ビーム輸送装置102、治療台1、治療用放射線照射装置7、透視用放射線撮影装置4A,4B、中央制御系103Aに加えて、外部センサ51を備えている。
【0073】
外部センサ51は、被験体2の外部から標的3の3次元位置を間欠的に測定し、標的3の3次元位置データを透視用放射線撮影制御装置12Aへ送信する。ここでいう外部センサ51としては、超音波センサやMRI等が挙げられる。例えば、標的3が前立腺の場合、超音波センサを用いて標的3の3次元位置を測定することができる。また同様に、MRIを用いても標的3の3次元位置を測定することができる。
【0074】
中央制御系103Aは、標的位置演算装置11、治療用放射線照射制御装置10、透視用放射線撮影制御装置12Aにより構成される。
【0075】
透視用放射線撮影制御装置12Aは、通信部30を介して外部センサ51から標的3の3次元位置を受信し、受信した標的3の3次元位置に基づき透視用放射線発生装置5A,5Bによる透視用放射線の照射間隔を制御する。
【0076】
その他の構成・動作は前述した第1の実施形態の放射線治療システム100内の各装置と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0077】
~治療処理の流れ~
本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローについて図7を用いて説明する。
【0078】
まず、透視用放射線撮影制御装置12Aは、操作者が設定部34を用いて標準撮影間隔および拡大撮影間隔を設定したことを認識する(ステップS200)。
【0079】
本ステップにおける標準撮影間隔および拡大撮影間隔については、第1の実施形態のステップS100と略同じとすることができる。また、本実施形態では、拡大撮影間隔として無限大に大きい値を設定することが可能である。拡大撮影間隔を無限大に大きな値に設定した場合は、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない間は透視用放射線を照射しないことになる。このような制御によれば、透視用放射線撮影装置4A,4Bの更なる負荷軽減を図ることが可能である。
【0080】
ステップS200に続いて、外部センサ51により被験体2内の標的3の3次元位置を測定する(ステップS201)。
【0081】
ステップS201に続いて、透視用放射線撮影制御装置12Aは、ステップS201において外部センサ51が測定した標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれるか否かを判定する(ステップS202)。
【0082】
ステップS202でYes(標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる)と判定された場合は、透視用放射線撮影制御装置12Aは透視用放射線の撮影間隔を標準撮影間隔に変更する(ステップS203)。一方、ステップS202でNo(標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない)と判定された場合は、透視用放射線撮影制御装置12Aは透視用放射線の撮影間隔を拡大撮影間隔に変更する(ステップS204)。
【0083】
ステップS203若しくはステップS204に続いて、透視用放射線撮影制御装置12Aは前回の透視用放射線照射時間から一定の時間が経過したのち、透視用放射線発生装置5A,5Bへ透視用放射線照射信号を送信する。透視用放射線照射信号を受信した透視用放射線発生装置5A,5Bは標的3へ向けて透視用放射線を発生させる(ステップS205)。
【0084】
ステップS205に続いて、透視用放射線撮影装置4A,4Bが生成した透視画像は標的位置演算装置11へ送信され、標的3の3次元位置が算出される(ステップS206)。
【0085】
ステップS206に続いて、治療用放射線照射制御装置10は、標的位置演算装置11で演算された標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれるか否かを判定する(ステップS207)。
【0086】
ステップS207でYes(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれる)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は治療用放射線照射装置7へ治療用粒子線照射信号を送信し、標的3へ向け治療用粒子線を照射する(ステップS208)。一方ステップS207でNo(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれない)と判定された場合は、ステップS201へ処理を戻す。
【0087】
ステップS208に続いて、治療用放射線照射制御装置10および透視用放射線撮影制御装置12Aは、終了指示(操作者の特別の指示、あるいは治療用放射線照射装置7が指定の照射を終えたことによる治療用粒子線照射終了に伴う動体追跡終了の指示、等)があるか否かを判定する(ステップS209)。
【0088】
ステップS209でYes(終了指示あり)と判定された場合は、透視用放射線撮影および治療用粒子線の照射を停止し、動体追跡放射線治療を終了する。一方ステップS209でNo(終了指示なし)と判定された場合は、ステップS201に処理を戻し、動体追跡放射線治療を継続する。
【0089】
~効果~
本実施形態の放射線治療システム100Aにおいても、前述した第1の実施形態の放射線治療システム100とほぼ同様な効果が得られる。
【0090】
また、本実施形態では、外部センサ51で標的3の3次元位置を測定するため、第1の実施形態よりも拡大撮影間隔を大きな値もしくは無限大に設定することができ、透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷をより軽減することができる。
【0091】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態の放射線治療システムについて図8および図9を用いて説明する。図8は本実施形態における放射線治療システムの構成を表す概略図である。図9は本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
【0092】
本実施形態の放射線治療システム100Bは、標的3の3次元位置を推定し、推定した3次元位置が所定の領域に含まれるか否かを判定する。
【0093】
図8において、本実施形態における放射線治療システム100Bは、加速器101、ビーム輸送装置102、治療台1、治療用放射線照射装置7、透視用放射線撮影装置4A,4B、中央制御系103Bを備えている。
【0094】
中央制御系103Bは、標的位置演算装置11、治療用放射線照射制御装置10、透視用放射線撮影制御装置12Bに加えて、標的3の3次元位置を推定する標的位置推定装置61より構成される。
【0095】
標的位置推定装置61は、標的位置演算装置11が演算した標的3の3次元位置データを時系列順に記録し、記録した3次元位置データに基づき、現在の標的3の3次元位置を推定する。なお、標的3の3次元位置の推定方法は様々な任意の方法を用いることができる。例えば、標的3の3次元位置の変化が被験体2の呼吸周期と同じと仮定すれば、現在の呼吸位相から標的3の3次元位置を推定できる。なお標的位置推定装置61が記録する標的3の3次元位置データとして、治療開始前に取得された標的3の3次元位置データを使用してもよい。
【0096】
透視用放射線撮影制御装置12Bは、通信部30を介して、標的位置推定装置61が推定した標的3の3次元位置を受信し、受信した標的3の3次元位置に基づき透視用放射線発生装置5A,5Bの透視用放射線の照射間隔を制御する。
【0097】
その他の構成・動作は前述した第1の実施形態の放射線治療システム100内の各装置と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0098】
~治療処理の流れ~
本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローについて図9を用いて説明する。
【0099】
まず、透視用放射線撮影制御装置12Bは、操作者が設定部34を用いて標準撮影間隔および拡大撮影間隔を設定したことを認識する(ステップS300)。標準撮影間隔については、第1の実施形態のステップS100と略同じである。本ステップにおける拡大撮影間隔は標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない際の透視用放射線撮影をする撮影間隔であり、標準撮影間隔より大きい値が設定される。なお、拡大撮影間隔についても予め固定された値を利用することが可能であり、その場合本ステップは省略される。
【0100】
ステップS300に続いて、標的位置推定装置61は、記録された標的3の3次元位置データに基づき、現在の標的3の3次元位置を推定する(ステップS301)。
【0101】
ステップS301に続いて、透視用放射線撮影制御装置12Bは、ステップS301において標的位置推定装置61が推定した標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれるか否かを判定する(ステップS302)。
【0102】
ステップS302でYes(推定された標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる)と判定された場合は、透視用放射線撮影制御装置12Bは透視用放射線撮影間隔を標準撮影間隔に変更する(ステップS303)。一方、ステップS302でNo(推定された標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない)と判定された場合は、透視用放射線撮影制御装置12Bは透視用放射線撮影間隔を拡大撮影間隔に変更する(ステップS304)。
【0103】
ステップS303若しくはステップS304に続いて、透視用放射線撮影制御装置12Bは、前回の透視用放射線照射時間から一定の時間が経過したのち、透視用放射線発生装置5A,5Bへ透視用放射線照射信号を送信する。透視用放射線照射信号を受信した透視用放射線発生装置5A,5Bは標的3へ向けて透視用放射線を発生させる(ステップS305)。
【0104】
ステップS305に続いて、透視用放射線撮影装置4A,4Bが生成した透視画像は標的位置演算装置11へ送信され、標的3の3次元位置が算出される(ステップS306)。
【0105】
ステップS306に続いて、治療用放射線照射制御装置10は、標的位置演算装置11で演算された標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれるか否かを判定する(ステップS307)。
【0106】
ステップS307でYes(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれる)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は治療用放射線照射装置7へ治療用粒子線照射信号を送信し、標的3へ向け治療用粒子線を照射する(ステップS308)。一方ステップS307でNo(演算された標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれない)と判定された場合は、ステップS301へ処理を戻す。
【0107】
ステップS308に続いて、治療用放射線照射制御装置10および透視用放射線撮影制御装置12Bは、終了指示(操作者の特別の指示、あるいは治療用放射線照射装置7が指定の照射を終えたことによる治療用粒子線照射終了に伴う動体追跡終了の指示、等)があるか否かを判定する(ステップS309)。
【0108】
ステップS309でYes(終了指示あり)と判定された場合は、透視用放射線撮影および治療用粒子線の照射を停止し、動体追跡放射線治療を終了する。一方ステップS309でNo(終了指示なし)と判定された場合は、ステップS301に処理を戻し、動体追跡放射線治療を継続する。
【0109】
~効果~
本実施形態の放射線治療システム100Bにおいても、前述した第1の実施形態の放射線治療システム100とほぼ同様な効果が得られる。
【0110】
また、本実施形態では、標的3の3次元位置を推定する標的位置推定装置61を更に備えているため、透視用放射線を照射せずとも標的3の3次元位置を求めることができる。このため、標準撮影間隔および拡大撮影間隔を第1の実施形態より大きな値に設定することができ、透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷をより軽減することができる。
【0111】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態の放射線治療システムについて図10を用いて説明する。図10は本実施形態における放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローを示す図である。
【0112】
本発明の第4の実施形態における放射線治療システムについて説明する。本実施形態の放射線治療システムは、第1乃至第3の実施形態の放射線治療システム100,100A,100Bのいずれかとその構成は略同じである。
【0113】
違いは、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bにおいて、透視用放射線発生装置5A,5Bの単位時間当たりの照射量を、標的3の3次元位置と基準点との距離に基づき制御するものである。なお、この基準点は、照射許可領域に基づき定められる。例えば、基準点は照射許可領域の重心や照射許可領域を等方的、または非等方的に縮小させた任意の点とすることが可能である。
【0114】
その他の構成・動作は前述した第1の実施形態の放射線治療システム100や第2の実施形態の放射線治療システム100A、第3の実施形態の放射線治療システム100B内の各装置と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0115】
~治療処理の流れ~
本実施形態が第1の実施形態に基づく場合の放射線治療システムによる動体追跡放射線治療の処理フローについて図10を用いて説明する。
【0116】
まず、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは、操作者が設定部34を用いて標準撮影間隔および拡大撮影間隔を設定したことを認識する(ステップS400)。
【0117】
本ステップにおける標準撮影間隔とは、標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれる際に透視用放射線の撮影間隔であり、治療用粒子線の照射精度を確保できる程度に小さい値が設定される。なお、標準撮影間隔として予め固定された値を利用することも可能であり、その場合本ステップは省略される。
【0118】
ステップS400に続いて、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは透視用放射線発生装置5A,5Bを制御し、透視用放射線を標的3へ向けて発生させる(ステップS401)。
【0119】
ステップS401に続いて、透視用放射線撮影装置4A,4Bが生成した透視画像は標的位置演算装置11へ送信され、標的3の3次元位置が算出される(ステップS402)。
【0120】
ステップS402に続いて、治療用放射線照射制御装置10は、標的位置演算装置11で演算された標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれるか否かを判定する(ステップS403)。
【0121】
ステップS403でYes(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれる)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bに対して透視用放射線の撮影間隔を標準撮影間隔へ変更するよう変更信号を出力し、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは撮影間隔を変更する(ステップS404)。
【0122】
ステップS404に続いて、治療用放射線照射制御装置10は治療用放射線照射装置7へ治療用粒子線照射信号を送信し、標的3へ向け治療用粒子線を照射する(ステップS405)。
【0123】
ステップS405に続いて、治療用放射線照射制御装置10は、終了指示(操作者の特別の指示、あるいは治療用放射線照射装置7が指定の照射を終えたことによる治療用粒子線照射終了に伴う動体追跡終了の指示、等)があるか否かを判定する(ステップS406)。
【0124】
ステップS406でYes(終了指示あり)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bに対して透視終了信号を出力して、透視用放射線撮影および治療用粒子線の照射を停止し、動体追跡放射線治療を終了する。一方ステップS406でNo(終了指示なし)と判定された場合は、ステップS401に処理を戻し、動体追跡放射線治療を継続する。
【0125】
一方、ステップS403でNo(標的3の3次元位置が照射許可領域に含まれない)と判定された場合は、治療用放射線照射制御装置10は透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bに対して透視用放射線の撮影間隔を変更するよう変更信号を出力する。透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは、変更信号の入力を受けて標的位置演算装置11から標的3の3次元位置データを受信し、標的3と基準点との距離を算出する(ステップS407)。
【0126】
ステップS407に続いて、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは、ステップS407で算出された距離に応じて透視用放射線を撮影する撮影間隔を変更する(ステップS408)。
【0127】
本ステップにおける撮影間隔の変更とは、基準点から標的3の3次元位置までの距離が大きければ撮影間隔を拡大し、基準点から標的3の3次元位置までの距離が小さければ、標準撮影間隔より大きな値で撮影間隔を小さくすることを意味する。撮影間隔を変更後、ステップS401に処理を戻す。
【0128】
~効果~
本実施形態の放射線治療システムにおいても、前述した前述した第1の実施形態の放射線治療システム100や第2の実施形態の放射線治療システム100A、第3の実施形態の放射線治療システム100Bとほぼ同様な効果が得られる。
【0129】
また、本実施形態では、透視用放射線撮影制御装置12,12A,12Bは、標的3の3次元位置と基準点との距離に基づき透視用放射線撮影装置4A,4Bの単位時間当たりの照射量を制御することにより、標的3の3次元位置が基準点から離れた際に撮影間隔を拡大することができ、透視用放射線発生装置5A,5Bの撮影回数を連続的に変更できるため、透視用放射線撮影装置4A,4Bの負荷をより効果的に軽減することができる。
【0130】
<その他の変形例>
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が考えられる。例えば、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加・削除・置換をすることも可能である。
【0131】
例えば、本発明では以下のような変形例の形態とすることができる。
【0132】
<変形例1>
第1乃至第4の実施形態の変形例として、透視用放射線発生装置5A,5Bによる透視用放射線の照射間隔の調整の替わりに、図11に示すように、透視用放射線発生装置5A,5Bに供給される電流量を変更することができる。図11は本変形例1における治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標を示すタイミングチャートである。
【0133】
第1の実施形態の場合、図3に示すステップS100の替わりに、標準電流量および減少電流量を設定するステップを実行する。
【0134】
ここでいう標準電流量とは、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる場合に透視用放射線発生装置5A,5Bに供給される電流量であり、標的3の2次元位置を演算できる程度に小さい値が設定される。
【0135】
また、ここでいう減少電流量とは、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない場合に透視用放射線発生装置5A,5Bに供給される電流量であり、標準電流量より小さな値で、標的3の2次元位置を演算できる程度に小さい値が設定される。
【0136】
また、標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれる場合は、ステップS104の替わりに透視用放射線発生装置5A,5Bに供給される電流量を標準電流量に設定するステップを実行する。標的3の3次元位置が標準撮影領域に含まれない場合は、ステップS105の替わりに透視用放射線発生装置5A,5Bに供給される電流量を減少電流量に設定するステップを実行する。
【0137】
更には、本変形例1では、図12に示すように、電流量の変更と透視用放射線撮影間隔の変更を同時に行うことが可能である。このように撮影間隔と電流量を同時に制御することで、透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷をより軽減することができる。図12は本変形例1における治療用粒子線と透視用放射線の照射信号および標的の座標を示すタイミングチャートである。
【0138】
なお、本変形例1の制御は、以下で説明する変形例2乃至4の何れかにも適用することができる。
【0139】
<変形例2>
第1乃至第3の実施形態の変形例として、標準撮影領域を複数の範囲に分割して、透視用放射線の撮影間隔を標準撮影間隔と拡大撮影間隔との間で段階的に変更することが可能である。
【0140】
このように撮影間隔を段階的に変更することで、照射領域付近において標的3をより見失いにくくなり、より透視用放射線撮影装置4A,4Bの負荷を軽減することができる。
【0141】
<変形例3>
第1乃至第3の実施形態の変形例として、標準撮影領域を中抜きにすることができる。すなわち、標的3の移動量が少なく、標的3の3次元位置が標準撮影領域内で安定している場合は、透視用放射線による標的3の3次元位置の測定の頻度を少なくしても標的3をロスとすることなくその3次元位置を高精度に把握することが可能であることから、標準撮影領域を中抜きにすることが可能である。
【0142】
このように標準撮影領域を中抜きにすることで、標的3の3次元位置が標準撮影領域内で安定している場合に透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷を軽減することができ、透視用放射線撮影装置4A,4Bの負荷をより軽減することができる。
【0143】
<変形例4>
第4の実施形態の変形例として、標的3の3次元位置と基準点との距離が予め設定された指定値以下の場合は、変形例3と同様に、透視用放射線の撮影間隔を無限大になるように設定することができる。
【0144】
このような制御により、標的3の3次元位置が基準点付近で安定している場合にも透視用放射線発生装置5A,5Bの負荷を軽減することができる。
【0145】
また、上述の第1乃至第4の実施形態や変形例1乃至4では、追跡対象として標的3を用いる場合を例に説明したが、追跡対象は標的3に限られない。追跡対象は、例えば、標的3の近くに埋め込まれた任意の形状,個数のマーカや、被験体2内の高密度領域、例えば肋骨等の骨などとすることができる。
【符号の説明】
【0146】
2…被験体
3…標的
4A,4B…透視用放射線撮影装置
5A,5B…透視用放射線発生装置
6A,6B…透視用放射線検出器
7…治療用放射線照射装置
10…治療用放射線照射制御装置
11…標的位置演算装置(追跡対象演算装置)
12,12A,12B…透視用放射線撮影制御装置
51…外部センサ
61…標的位置推定装置(追跡対象位置推定装置)
100,100A,100B…放射線治療システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12