(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】化学療法による心毒性を阻止するための医薬組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20220415BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220415BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220415BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220415BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220415BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220415BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K31/704
A61K31/496
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61P9/00
A61K9/08
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/127
(21)【出願番号】P 2018540781
(86)(22)【出願日】2017-02-03
(86)【国際出願番号】 US2017016582
(87)【国際公開番号】W WO2017136774
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2020-01-30
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520103964
【氏名又は名称】エスシーティー ツー エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】518272267
【氏名又は名称】オーランサ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,クリストファー,ジー.
(72)【発明者】
【氏名】キム,ケヴィン,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ファム,リサ マリア ルシア
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ユンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ゾン,ゾン
(72)【発明者】
【氏名】フアン,グアンイ
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ジョセフ,シー.
(72)【発明者】
【氏名】エルマー,シドニー,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスシクライセ,ヴィワト
(72)【発明者】
【氏名】カダグ,エイソン マイケル,ジー.
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン,トーマス,バーナード
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ペク,イー
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0147353(US,A1)
【文献】国際公開第2014/077409(WO,A1)
【文献】Anti-Cancer Drugs,2011年,Vol. 22, No. 2,p. 176-184
【文献】Biomedicine & Pharmacotherapy,2014年,Vol. 68, No. 8,p. 1149-1159
【文献】Toxicology Letters,Vol. 92,1997年,p. 1-7
【文献】日本臨牀,2010年,68巻, 10号,p. 1818-1822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00-9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌剤および保護剤を含む、心毒性が低減された抗癌医薬組成物であって、
前記保護剤が、ミリセチン、ロビネチン、ビテキシン、トリセチン、フィセチン
、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびそれら
の塩からなる群から選択され、
前記抗癌剤が、アントラサイクリンまたはその
塩であり、かつ
前記保護剤と前記抗癌剤とのモル比が、1:1~1000:1である、医薬組成物。
【請求項2】
前記保護剤が、ミリシトリン、ロビネチン、ビテキシン、またはそれら
の塩である、請求項1に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項3】
錠剤、カプセル、ゲルカプセル、リポソーム、または液体である、請求項1または2に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項4】
静脈内投与に許容である、請求項1~3のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項5】
前記保護剤と前記抗癌剤とのモル比が、1:1~200:1、1:1~30:1、1:1~10:1、または1:1~5:1である、請求項1~4のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項6】
前記保護剤と前記抗癌剤との重量比が、1:1~1000:1、1:1~200:1、1:1~100:1、1:1~20:1、1:1~10:1、1:1~5:1、または1:1~2:1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項7】
前記アントラサイクリンが、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、およびバルルビシンからなる群から選択される、請求項
1~6のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項8】
前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシンである、請求項
1~7のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項9】
前記抗癌剤および前記保護剤からなる、請求項1~
8のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項10】
第二の保護剤をさらに含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項11】
前記第二の保護剤が、デクスラゾキサンまたはそれら
の塩である、請求項
10に記載の心毒性が低減された抗癌医薬組成物。
【請求項12】
癌に罹患した対象を処置するための薬剤であって、請求項1~
11のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を含む、薬剤。
【請求項13】
癌に罹患した対象において抗癌剤により誘発される心毒性を予防、低減、または排除するための薬剤であって、
前記薬剤がミリセチン、ロビネチン、ビテキシン、トリセチン、フィセチン
、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびそれら
の塩からなる群から選択される有効量の保護剤を含み、
前記抗癌剤が、アントラサイクリンまたはその
塩であり、かつ
前記薬剤が、前記抗癌剤の前または前記抗癌剤と同時に前記対象に投与され、それにより前記抗癌剤により誘発される心毒性を予防、低減、または排除する、薬剤。
【請求項14】
対象において癌を処置するための薬剤であって、
前記薬剤が、ミリセチン、ロビネチン、ビテキシン、トリセチン、フィセチン
、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびそれら
の塩からなる群から選択される有効量の保護剤またはその塩を含み、
前記薬剤が、有効量の抗癌剤の前または有効量の抗癌剤と同時に投与され、
前記抗癌剤が、アントラサイクリンまたはその
塩であり、かつ
前記薬剤が、前記対象において前記抗癌剤により誘発される心毒性を予防、低減、または排除する、薬剤。
【請求項15】
前記保護剤が、ミリセチン、ロビネチン、ビテキシン、およびそれら
の塩からなる群から選択される、請求項
13または
14に記載の薬剤。
【請求項16】
前記抗癌剤の投与前に前記対象に投与される、請求項
13~
15のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項17】
前記抗癌剤の投与の少なくとも5分、10分、30分、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または48時間前に前記対象に投与される、請求項
16に記載の薬剤。
【請求項18】
前記抗癌剤と同時に前記対象に投与される、請求項
13~
15のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項19】
前記抗癌剤および前記薬剤が、液体組成物中に共配合される、請求項
18に記載の薬剤。
【請求項20】
静脈内投与される、請求項
13~
19のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項21】
前記癌が、膀胱癌、骨癌、脳腫瘍、乳癌、食道癌、大腸癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、前立腺癌、肉腫、胃癌、および甲状腺癌からなる群から選択される、請求項
12~
20のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項22】
前記アントラサイクリンが、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、およびバルルビシンからなる群から選択される、請求項
13~21のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項23】
前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシンである、請求項
13~22のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項24】
前記対象に投与するための前記薬剤と前記抗癌剤とのモル比が、1:1~1000:1、1:1~200:1、1:1~30:1、1:1~10:1、または1:1~5:1である、請求項
13~
23のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項25】
前記対象に投与するための前記薬剤と前記抗癌剤との重量比が、1:1~1000:1、1:1~200:1、1:1~100:1、1:1~20:1、1:1~10:1、1:1~5:1、または1:1~2:1である、請求項
13~
24のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項26】
0.5mg/kg~200mg/kgの間、0.5mg/kg~50mg/kgの間、または1mg/kg~5mg/kgの間の量で投与される、請求項
13~
25のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項27】
前記薬剤が、第二の保護剤とさらに組み合わせて投与され、かつ前記第二の保護剤が、前記抗癌剤の前または前記抗癌剤と同時に投与される、請求項
13~
26のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項28】
前記第二の保護剤が、デクスラゾキサンまたはそれら
の塩である、請求項
27に記載の薬剤。
【請求項29】
前記心毒性が、心組織損傷、電気生理学的機能不全、収縮機能不全、心筋細胞のDNA二本鎖切断、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、および酸化ストレスの1種または複数を含む、請求項
13~
28のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項30】
前記電気生理学的機能不全が、QT延長またはQTc延長を含み、および/または前記収縮機能不全が、心臓の駆出率(EF)の低下、または心臓の短縮率(FS)の低下を含む、請求項
29に記載の薬剤。
【請求項31】
心毒性が低減された抗癌キットであって、
a.ミリセチン、ロビネチン、ビテキシン、トリセチン、フィセチン
、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびそれら
の塩からなる群から選択される保護剤と、
b.アントラサイクリンまたはその
塩の抗癌剤であって、心毒性を誘発する抗癌剤と、
c.抗癌剤によって誘発される心毒性を予防、低減、または排除するために、前記抗癌剤の前または前記抗癌剤と同時に前記保護剤が投与される説明書と
を含むキット。
【請求項32】
第二の保護剤をさらに含む、請求項
31に記載の心毒性が低減された抗癌キット。
【請求項33】
前記第二の保護剤が、デクスラゾキサンまたはそれら
の塩である、請求項
32に記載の心毒性が低減された抗癌キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年2月4日出願の米国特許仮出願第62/291,480号、および2016年6月9日出願の米国特許仮出願第62/348,102号の優先権を主張するものであり、それらの出願は、全ての目的で全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
心毒性およびうっ血性心不全は、腫瘍治療、最も顕著なものとして1年あたり100万人を超える癌患者と、全ての小児癌患者の半数に投与されるアントラサイクリン系を含む腫瘍治療による重篤な副作用である。有害な心臓副作用は、プロテインキナーゼ阻害剤、およびプロテインキナーゼを標的とする抗体系生物製剤で処置された患者でも観察される。心不全率の特定の低下が、最大用量のアントラサイクリン系をキャッピングすることにより、そして投与計画を変更することにより実現されたが、それらの全てがこれらの抗癌剤の治療効力を重度に限定する。抗癌剤の心毒性はまた、心臓の既往症を有するそれらの患者が処置を受けるのを妨げる可能性がある。
【0003】
アントラサイクリン系は一般に、アントラセンの構造中心を有する化合物類である。それらは多くの場合、効果の高い化学療法剤であり、それゆえ白血病、リンパ腫、乳癌、子宮癌、卵巣癌、膀胱癌および肺癌をはじめとする多くの癌の処置に用いられ、多くの場合、小児癌の処置レジメンに用いられる。一部のアントラサイクリン薬としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、およびエピルビシンが挙げられる。厳密な機構は、いまだ検証され得ないが、アントラサイクリン系は、DNAおよびRNA合成を阻害すること;スーパーオキシドからヒドロキシルラジカルへの変換を促進する鉄で、レドックスサイクルを通してフリーラジカル形成を促進すること;トポイソメラーゼ(例えば、トポイソメラーゼIIαおよび/またはIIβ)を阻害すること;ならびにオープンな染色体エリアからヒストンを退けること、により作用することが報告されている。
【0004】
アントラサイクリン使用で共通の副作用は、心毒性に関連するが、該心毒性は、用量依存性で、累積暴露から生じる場合もある。心毒性は、幾つかの例において、アントラサイクリン系の代謝の際のレドックスサイクルを通した毒性活性酸素種の形成から、そしてトポイソメラーゼIIの阻害により誘発された二本鎖DNA切断の形成から生じる場合がある。活性酸素種(ROS)は、アポトーシス経路を活性化して、癌細胞および正常細胞の両方を細胞死に導く可能性がある。心筋細胞は、酸化ストレスに感受性になり得る。心臓ミトコンドリアは、内部ミトコンドリア膜内に高濃度に存在する二価陰イオンリン脂質カルジオリピンに対して高親和性を有するアントラサイクリンおよびアントラサイクリン-鉄複合体によって容易に損傷され得る。
【0005】
一部のプロテインキナーゼ阻害剤を含む小分子および生物阻害剤(biologic inhibitors)もまた、心毒性を誘発し得る。プロテインキナーゼ阻害剤は、プロテインキナーゼの活性を阻害し、癌処置に用いることができる、広い分類の化合物である。チロシンキナーゼは、細胞成長(例えば、上皮成長因子(「EGFR」))をはじめとする種々の細胞機能を調節し、調節不全が、特定の癌形成に導く可能性がある。そのようなチロシンプロテインキナーゼの阻害は、所与のプロテインキナーゼのATPポケットに結合する小分子を使用して、該プロテインキナーゼが標的タンパク質のリン酸化を触媒するのを遮断することにより遂行され得る。小分子は、(1)心臓細胞においても役割を担うキナーゼを選択的に阻害すること(例えば、オンターゲット副作用);(2)同じ経路で複数のキナーゼを標的とすること(例えば、オフターゲットキナーゼに影響を及ぼすこと);および(3)心臓の機能において役割を担う非キナーゼターゲットを阻害すること、により心毒性を誘発する場合があり;小分子もまた、異なる機構を通して心毒性を誘発する場合がある。イマチニブメシル酸塩(Gleevec(登録商標))、ニロチニブ(Tasigna(登録商標))、ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))、スニチニブ(Sutent(登録商標))およびダサチニブ(Sprycel(登録商標))などのTKI阻害剤の心毒性が、過去に報告されている(Chu et al.,Lancet(2007)370:2011-2019;Xu et al.,Hematol Rev.(2009)Marl;1(1):e4;Kerketla et al.,Nature Medicine(2006)12:908-916)。
【発明の概要】
【0006】
プロテインキナーゼ活性は、受容体プロテインキナーゼに対するモノクローナル抗体などの生物製剤によっても阻害され得る。これらの治療薬は、受容体プロテインキナーゼが活性化するのを防止することにより有効性を発揮することができ、一般には高特異性で細胞表面抗原に結合することができる。複数のモノクローナル抗体は、心臓機能において重要な役割を担う受容体プロテインキナーゼを標的とし、こうして結果的に心毒性を誘発し得る。トラスツズマブおよびベバシズマブは、心毒性を誘発し得るモノクローナル抗体の例である(例えば、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスから生じた心不全)。プロテアソーム阻害剤の化学療法化合物(例えば、ボルテゾミブ)もまた、心毒性および心不全に関連することが知られている。
【0007】
現在、ビスジオキソピペラジンデクスラゾキサン(DEX)が、抗癌剤を受けている癌患者の心毒性および心不全の発症を低減することで認可された唯一の薬物である。その臨床効果にもかかわらず、DEXは、ドキソルビシンまたはエピルビシンのようなアントラサイクリン系300~500mg/m2の蓄積用量を既に受けた転移乳癌患者の処置にしか認可されていない。DEXは、小児および青年への使用は認可されておらず、アントラサイクリンを処置された低年齢小児が癌の後の後期生涯で心不全を高い割合で発症するという報告を見出すのは非常に落胆させられる。さらに、限定された処方の認可および使用もまた、アントラサイクリンの抗腫瘍有効性を妨害すること、続発性悪性腫瘍を誘発すること、ならびに血液および骨髄障害を誘発すること、をはじめとするDEXの欠点の証拠である。
【0008】
多くの癌治療が心臓の機能で発揮する重篤な影響を前提とすれば、アントラサイクリン系、プロテインキナーゼ阻害剤(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤)、プロテアソーム阻害剤、および他の癌処置剤により誘発された心毒性を予防、緩和または排除する効果的薬物を開発するための明確な臨床要件が存在する。特に重要なのは、抗癌剤の抗癌作用を有意に妨害せずに、抗癌剤による心毒性を予防または低減し得る薬物の開発である。同じく重要なのは、好中球減少症、心臓の問題の増悪、または続発性悪性腫瘍のリスク増大などの重篤な副作用を誘発しない心保護剤の開発である。これらの潜在的薬物は、癌患者の潜在的心臓傷害を防御するだけでなく、最大抗癌効果を実現するように最適化された化学療法用量を可能にすることにより、既存の癌治療を有意に改善するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】概して、癌処置剤および保護剤を患者に同時投与することにより、患者における癌処置による心毒性を低減する方法を示す。
【
図2】概して、癌処置剤、デクスラゾキサン(DEX)、および保護剤の同時投与を示す。
【
図3】処置の3日後のヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(iPSC-CM)の細胞生存に及ぼす偽処置、ドキソルビシン(DOX)、ミリセチン、またはドキソルビシンとミリセチンの同時投与の影響を示す。
【
図4A-B】処置の2日後のヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(iPSC-CM)のミトコンドリア健常性に及ぼすドキソルビシン(DOX)(4A)、またはドキソルビシンとミリセチンの同時投与(4B)の影響を示す。
【
図5】処置の3日後のヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(iPSC-CM)の収縮性に及ぼす偽処置、ドキソルビシン、またはドキソルビシンとミリセチンの同時投与の影響を示す。
【
図6A-C】
図3に示された実験の生データ(6A)もしくは正規化データ(6B)、または
図5に示された実験の生データ(6C)を提供するチャートを示す。
【
図7A-C】処置の3日後のヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(iPSC-CM)のドキソルビシンによるアポトーシスに及ぼす上昇濃度のミリセチン(7A)、ミリシトリン/ミリセトリン(7B)、またはジヒドロミリセチン(7C)の影響を示す。
【
図8】72時間の上昇濃度のドキソルビシンでのドキソルビシン(DOX)による心毒性に及ぼすミリセチン(MYR;100μM)の保護効果を示すグラフである。Y軸:細胞生存率%、X軸:上昇濃度のDOX。
【
図9】0.5μMドキソルビシン(DOX)で処置されたヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞の、上昇濃度の(X軸)ミリセチン(MYR:円形)およびデクスラゾキサン(DEX;正方形)による救済の割合%を示したグラフである。
【
図10】偽処置、ドキソルビシン(DOX)(0.5μM)、DOX+DEX(100μM)、またはDOX+MYR(100μM)での処置48時間後の心拍数(1分あたり;左図)、期間(秒;中央図)およびピーク高(任意単位;右図)のスケールで表された、心筋細胞のDOXによる収縮不全に対するミリセチンの保護効果を示す。
【
図11】各条件で定量されたγH2AX陽性細胞の割合%(右)および細胞の代表的画像(左)で表された、処置48時間後に測定された、DMSO、DOXのみ(0.5μM)、DOX+DEX(100μM)、またはDOX+ミリセチン(MYR)(100μM)で処置されたヒトiPSC由来心筋細胞におけるDOXによるDNA二本鎖切断に及ぼすMYRの影響を示す。
【
図12】偽処置(DMSO;左)、ドキソルビシン(DOX)のみ(0.5μM;中央)、またはDOX+ミリスチン(MYR)(100μM;右)の代表的画像に示されたDOXによるサルコメア破壊に及ぼすMYRの影響を示す。
【
図13】デクスラゾキサン(DEX)に比較したトポイソメラーゼIIαおよびβ(TOPOIIαおよびTOPOIIβ)の阻害に及ぼすミリセチン(MYR)の影響を示す。
【
図14】グラフ(上)および代表的画像(下)で示されたTOPOIIβタンパク質分解に及ぼすミリセチン(MYR)およびデクスラゾキサン(DEX)の影響を示す。
【
図15】脱連環ゲル(上)およびグラフ(下)で示されたトポイソメラーゼIIβ(TOPOIIβ)酵素阻害およびその相対的能力に及ぼすミリセチン(MYR)およびジヒドロミリセチン(DHM)の影響を示す。
【
図16】DOXによる細胞死から心筋細胞を救済することにおけるMYRおよびDHMの相対的能力を示したグラフである。
【
図17】DOXによる二本鎖切断から心筋細胞を救済することにおけるMYRおよびDHMの相対的能力を示したグラフである。
【
図18】DOXのみまたはDOX+MYRで処置された心筋細胞において実証された、TOPOIIα(右)およびTOPOIIβ(左)のRNA発現レベルに及ぼすMYRの影響を示したグラフである。
【
図19】エピルビシン(EPI;左)およびイダルビシン(IDA;右)による細胞障害性から心筋細胞を保護するミリセチン(MYR)の能力を示した2つのグラフを示す。
【
図20】スニチニブ(SUN)による細胞死に及ぼすミリセチン(MYR)の影響を示したグラフである。
【
図21】ソラフェニブ(SOR)による収縮不全に及ぼすミリセチン(MYR)の影響を示したグラフである。
【
図22】ボルテゾミブ(BOR)による細胞死に及ぼすミリセチン(MYR)の影響を示したグラフである。
【
図23】DOXの抗癌活性に及ぼすミリセチン(MYR)の影響の欠如を示したグラフである。
【
図24】短縮率(左)および駆出率(右)の割合%で測定されたマウスのDOXによる収縮不全に及ぼすMYRの影響を示す。
【
図25】ヒト人工多能性幹細胞に由来する心筋細胞のミトコンドリア毒性に及ぼすDOX、DEXおよび様々な保護剤の影響を示す。
【
図26】ヒト人工多能性幹細胞に由来する心筋細胞のアポトーシスに及ぼすDOX、DEXおよび様々な保護剤の影響を示す。
【
図27A-D】ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞のミトコンドリア健常性に及ぼす偽処置(27A)、DEX(27B)、ドキソルビシンとデクスラゾキサンの同時投与(27C)、またはドキソルビシンとビテキシンの同時投与(27D)の影響を示す。
【
図28A-B】3日間(左)または30時間目の時点の(右)ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞の電気生理学的活性に及ぼすDOX、またはDOXと様々な濃度のビテキシン(VIT)の同時投与の影響を示す。
【
図29A-B】MDA-MB-231転移乳癌細胞の生存可能性に及ぼすドキソルビシンとケンペロール(KAE;左)およびビテキシン(VIT;右)の同時投与の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
簡単な概要
本開示は、アントラサイクリン系、プロテインキナーゼ阻害剤および/または生物製剤で処置された患者において心臓を保護するため、そして心不全を予防するための組成物、キット、および方法を提供する。化学療法の下で癌患者の心不全を潜在的に増悪させるリスクを最小限にすることにより、従来の癌処置が本明細書に記載された発明で改善された有効性および安全性を実現することができる。
【0011】
該組成物は、抗癌剤と共に、または抗癌剤を伴わずに、1種または複数の保護剤を含む。該キットは多くの場合、1種または複数の保護剤と、時には抗癌剤も含む。該方法は、癌処置を含む薬物または他の治療による心毒性を低減、予防、または排除する方法を包含する。
【0012】
幾つかの態様において、本開示は、式1
【化1】
(式中、
X
1は、CR
5R
6、NR
5、O、S、C=O、またはC=Sであり;
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
9、およびR
10のそれぞれは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボン酸、エステル、アミン、アミド、カルボナート、カルバマート、ニトロ、チオエーテル、チオエステル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクリル、単糖、アリール、またはヘテロアリールであり、それらのいずれも置換または非置換であり、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり;
R
4、R
7およびR
8は、アルコキシ、ヒドロキシル、またはHであり;
W
1は、OまたはSである)に従う保護剤、またはその塩を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
幾つかの態様において、X1は、OまたはSであり得;R1、R2、R3、R9、およびR10のそれぞれは、独立して、アルコキシ、シクロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり得;R4、R7およびR8のそれぞれは、独立してアルコキシ、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0014】
幾つかの態様において、X1は、Oであり;R1、R2、R3、R9、およびR10のそれぞれは、独立して、アルコキシ、シクロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり得;R4、R7およびR8のそれぞれは、独立してアルコキシ、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0015】
さらに別の態様において、X1は、Oであり;R1およびR2のそれぞれは、独立して、ヒドロキシルまたはHであり得;R3、R9、およびR10のそれぞれは、独立して、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヒドロキシルまたはHであり得;R4は、ヒドロキシルであり、R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。
【0016】
さらに別の態様において、X1は、Oであり;R1は、ヒドロキシルであり;R2およびR3のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R9およびR10は、Hであり;R4は、ヒドロキシルであり;R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。
【0017】
さらに別の態様において、X1は、Oであり;R1は、ヒドロキシルであり;R2およびR3のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R9は、ヘテロシクリルまたはHであり得;R10は、Hであり;R4は、独立して、ヒドロキシルまたはHであり得;R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。
【0018】
さらに別の態様において、X1は、Oであり;R1は、ヒドロキシルであり;R2およびR9のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R3は、シクロアルキル、ヒドロキシルまたはHであり得;R10は、Hであり;R4は、ヒドロキシルであり;R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。一実施形態において、R3のシクロアルキルは、単糖であり得る。
【0019】
幾つかの態様において、該医薬組成物は、ミリセチンを含み得、以下の式に従う化合物である。
【化2】
【0020】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ミリセトリン/ミリシトリンを含み得、以下の式に従う化合物である。
【化3】
【0021】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ロビネチンを含み得、以下の式に従う化合物である。
【化4】
【0022】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、トリセチンを含み得、以下の式に従う化合物である。
【化5】
【0023】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンを含み得、以下の式に従う化合物である。
【化6】
【0024】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、フィセチンを含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ケルセチンを含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ケンペロールを含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物中の該保護剤は、以下の構造を有する化合物であり得る:
【化7】
【0025】
特別な例において、該医薬組成物中の該保護剤は、ビテキシンであり得る。
【0026】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1種または複数の化学療法剤(複数可)(抗癌剤)または生物剤(複数可)を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、化学療法剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1種または複数の化学療法剤(複数可)(抗癌剤)と、ミリセチン、トリセチン(5,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボン)、ロビネチン、フィセチン、ビテキシン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、およびミリセトリンからなる群から選択される保護剤(複数可)のうちの1種または複数と、を含み得る。
【0027】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、アントラサイクリンまたはその塩を含み得る。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、またはバルルビシンであり得る。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ドキソルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、エピルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、イダルビシンである。
【0028】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、プロテインキナーゼ阻害剤であり得る。幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、アファチニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、カルフィルゾミブ、セリチニブ、コビメタニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イブルチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、オシメルチニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、トファシチニブ、テムシロリムス、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、またはビスモデギブである。
【0029】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、プロテアソーム阻害剤であり得る。特別な例において、該プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブであり得る。
【0030】
幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤であり得る。幾つかの実施形態において、例えば該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブ、スニチニブ、ボスチニブ、ゲフィチニブ、ダサチニブ、ダブラフェニブ、ベムラフェニブ、イマチニブ、ラパチニブ、メシラートおよびニロチニブからなる群から選択される。特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブである。別の特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、スニチニブである。
【0031】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、生物製剤であり得る。幾つかの実施形態において、該生物製剤は、抗体である。幾つかの実施形態において、該抗体は、アドトラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・チウキセタン、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、トシツモマブ-I131、またはトラスツズマブであり得る。1つの特別な例において、該抗体は、トラスツズマブである。
【0032】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、液体組成物であり得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、カプセル、ゲルカプセル、またはリポソームであり得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、錠剤であり得る。
【0033】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物はまた、デクスラゾキサンを追加の保護剤として含み得る。
【0034】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、少なくとも1mgの1種または複数の保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1mg~200mgの間の1種または複数の保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1mg~300mgの間の1種または複数の保護剤を含み得る。
【0035】
幾つかの実施形態において、2種の保護剤が存在し、互いに共配合されている(co-formulated)。幾つかの実施形態において、該2種の保護剤は、該医薬組成物中に別個の物体として存在し得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、化学療法剤を含み得、該化学療法剤は、2種の保護剤のうちの一方と共配合されている。
【0036】
幾つかの態様において、本開示は、
(a)式2
【化8】
(式中、
【化9】
は、単結合または二重結合を表し;
X
1は、CR
5R
6、NR
5、O、S、C=O、またはC=Sであり;
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
9、およびR
10のそれぞれは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボン酸、エステル、アミン、アミド、カルボナート、カルバマート、ニトロ、チオエーテル、チオエステル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、またはヘテロアリールであり、それらのいずれも置換または非置換であり、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり;
R
4、R
7およびR
8は、ヒドロキシルであり;
W
1は、OまたはSである)に従う化合物またはその塩からなる群から選択される保護剤と;
(b)化学療法剤または生物製剤と、
を含む医薬組成物を提供する。
【0037】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、抗癌剤または化学療法剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該保護剤は、ミリセチン、トリセチン、ロビネチン、フィセチン、ビテキシン、ジヒドロロビネチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンおよびミリセトリンからなる群から選択される。
【0038】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1種または複数の保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ミリセチンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ミリセトリンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ロビネチンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ジヒドロロビネチンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ビテキシンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、トリセチンを含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ケルセチンを含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、ケンペロールを含む。
【0039】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、アントラサイクリンまたはその塩を含む。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、またはバルルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ドキソルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、エピルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、イダルビシンである。
【0040】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、プロテインキナーゼ阻害剤であり得る。幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、アファチニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、カルフィルゾミブ、セリチニブ、コビメタニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イブルチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、オシメルチニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、トファシチニブ、テムシロリムス、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、またはビスモデギブである。
【0041】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、プロテアソーム阻害剤である。特別な例において、該プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブである。
【0042】
幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤である。幾つかの実施形態において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブ、スニチニブ、ボスチニブ、ゲフィチニブ、ダサチニブ、ダブラフェニブ、ベムラフェニブ、イマチニブ、ラパチニブ、メシラートおよびニロチニブからなる群から選択される。特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブである。別の特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、スニチニブである。
【0043】
幾つかの実施形態において、該化学療法剤は、生物製剤である。幾つかの実施形態において、該生物製剤は、抗体である。幾つかの実施形態において、該抗体は、アドトラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・チウキセタン、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、トシツモマブ-I131、またはトラスツズマブである。特別な例において、該抗体は、トラスツズマブである。特別な例において、該抗体は、ベバシズマブである。
【0044】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または300mgの1種または複数の保護剤を含み得る。
【0045】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1mg~50mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~10mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~20mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~30mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~40mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~50mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~100mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、1mg~200mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、40mg~300mgの間の該保護剤を含み得る。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、50mg~400mgの間の該保護剤を含み得る。
【0046】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、化学療法剤を含み得、該化学療法剤および該保護剤は、該医薬組成物中に混合される。
【0047】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該化学療法剤の用量は、少なくとも0.1mgである。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該化学療法剤の用量は、0.01mg~50mgの間である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該化学療法剤の用量は、0.01mg~100mgの間である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該化学療法剤の用量は、0.01mg~200mgの間である。
【0048】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、少なくとも50mgの用量の該生物製剤を含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1mg~100mgの間の用量の該生物製剤を含む。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1mg~200mgの間の用量の該生物製剤を含む。
【0049】
幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも1:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも2:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも3:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも4:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも5:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも6:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも7:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも8:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも9:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも10:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも20:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも100:1である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも1:2である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも1:3である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも1:4である。幾つかの実施形態において、該医薬組成物は、該化学療法剤を含み、該保護剤と該化学療法剤のモル比は、少なくとも1:5である。
【0050】
本開示は、本明細書に開示された医薬組成物のいずれかを対象に投与するための方法を提供する。幾つかの態様において、本開示は、概して心毒性または心不全を予防、低減または排除するための方法を提供する。幾つかの態様において、本開示は、対象において化学療法剤または生物製剤による心毒性を予防、低減、または排除するための方法であって、式1に従う1種または複数の保護剤を該対象に投与し、それにより対象において化学療法剤または生物製剤による心毒性を予防、低減、または排除することを含む、方法を提供する。幾つかの例において、該医薬組成物は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、およびミリシトリンなどからなる群から選択される化合物を含む。
【0051】
幾つかの態様において、本開示は、対象において化学療法剤または生物製剤による心毒性を予防、低減、または排除するための方法であって、式1または式2に従う少なくとも1種の保護剤を該対象に投与し、それにより対象において化学療法剤または生物製剤による心毒性を予防、低減、または排除することを含む、方法を提供する。
【0052】
幾つかの実施形態において、該対象は、該対象への式1または2で示される1種または複数の保護剤(複数可)の投与の前に、化学療法剤または生物製剤が投与される。
【0053】
幾つかの実施形態において、該対象は、該対象への式1または2で示される少なくとも2種の保護剤の投与に続いて、化学療法剤または生物製剤が投与される。
【0054】
幾つかの態様において、本開示は、(a)癌を有する対象に、該対象において心毒性を誘発する可能性がある化学療法剤または生物製剤を投与すること、および(b)該対象に式1または式2に従う少なくとも1種の保護剤を投与し、該保護剤が対象における心毒性を予防、低減、または排除すること、を含む、癌を処置するための方法を提供する。
【0055】
幾つかの実施形態において、該対象は、癌に罹患したヒトを有する。幾つかの実施形態において、該癌は、膀胱癌、骨癌、脳腫瘍、乳癌、食道癌、胃腸癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、前立腺癌、肉腫、胃癌、または甲状腺癌である。
【0056】
幾つかの実施形態において、該保護剤の投与前に、該対象は、心臓病を有するか、または心臓病の病歴を有する。幾つかの実施形態において、該保護剤の投与は、対象が該化学療法剤または該生物製剤による心毒性に見舞われるリスクを低減する。幾つかの実施形態において、該保護剤の投与は、対象が該化学療法剤または該生物製剤による心毒性に見舞われるリスクを少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%低減する。幾つかの実施形態において、該心毒性は、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスを含み得る。幾つかの実施形態において、該心毒性は、心組織損傷である。幾つかの実施形態において、該心毒性は、電気生理学的機能不全である。
【0057】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載された方法において用いられる化学療法剤は、アントラサイクリンまたはその塩を含み得る。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、またはバルルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、ドキソルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、エピルビシンである。幾つかの実施形態において、該アントラサイクリンは、イダルビシンである。
【0058】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載された方法において用いられる化学療法剤は、プロテインキナーゼ阻害剤である。幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、アファチニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、カルフィルゾミブ、セリチニブ、コビメタニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イブルチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、オシメルチニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、トファシチニブ、テムシロリムス、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、またはビスモデギブである。
【0059】
幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤である。幾つかの実施形態において、該プロテインキナーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤である。幾つかの実施形態において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブ、スニチニブ、ボスチニブ、ゲフィチニブ、ダサチニブ、ダブラフェニブ、ベムラフェニブ、イマチニブ、ラパチニブ、メシラートおよびニロチニブからなる群から選択される。特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、ソラフェニブである。別の特別な例において、該チロシンキナーゼ阻害剤は、スニチニブである。
【0060】
幾つかの態様において、該化学療法剤は、プロテアソーム阻害剤である。1つの特別な例において、該プロテアソーム阻害剤は、ボルテゾミブである。
【0061】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載された方法において用いられる生物製剤は、抗体であり得る。幾つかの実施形態において、該抗体は、アドトラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・チウキセタン、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、トシツモマブ-I131、またはトラスツズマブである。1つの特別な例において、該抗体は、トラスツズマブである。
【0062】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載された方法に従う対象は、該保護剤を投与した後に減少したQTc時間を有する。幾つかの態様において、該保護剤は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンおよびミリシトリンなどからなる群から選択される。1つの特別な例において、該保護剤は、ミリセチンである。
【0063】
幾つかの実施形態において、化学療法剤、および式1または式2で示される保護剤は、対象に同時に投与される。幾つかの実施形態において、該化学療法剤および保護剤は、対象に連続で投与される。幾つかの実施形態において、該保護剤は、化学療法剤の投与前に対象に投与される。幾つかの実施形態において、該保護剤は、該化学療法剤の投与後に対象に投与される。
【0064】
幾つかの実施形態において、式1または式2で示される少なくとも2種の保護剤が、投与され得る。例えば該少なくとも2種の保護剤は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチンおよびミリシトリンなどからなる群から選択され得る。
【0065】
幾つかの実施形態において、1種または複数の保護剤(複数可)は、デクスラゾキサンをさらに含み得る。
【0066】
本開示は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、およびミリシトリンなどからなる群から選択される1種または複数の保護剤を、臓器損傷を有する対象に投与し、それにより該対象における臓器損傷を処置または予防することを含む、対象における臓器損傷を処置または予防するための方法を提供する。
【0067】
本開示はまた、キットを提供する。幾つかの態様において、本開示は、(a)ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、およびミリシトリンからなる群から選択される保護剤と;(b)化学療法剤または生物製剤と、を含むキットを提供する。
【0068】
幾つかの態様において、本開示は、(a)ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、およびミリシトリンからなる群から選択される保護剤と;(b)化学療法剤または生物製剤と、(c)デクスラゾキサンと、を含むキットを提供する。幾つかの実施形態において、該保護剤は、ミリセチンである。
【0069】
詳細な説明
特定の抗癌剤(例えば、アントラサイクリン薬、プロテインキナーゼ阻害剤)および他の治療薬は、患者において心毒性を誘発し得る。例えばアントラサイクリンによる心毒性は、ドキソルビシンなどの薬物がトポイソメラーゼII酵素によるDNA断裂の際にDNAに挿入され、それによりTOPOIIαまたはTOPOIIβが断裂された鎖を互いに再度ライゲートするのを効果的に防止する時に生じる。
【0070】
本開示は、そのような心毒性を予防、低減、または排除し得る、そして心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスにより誘発される臓器損傷も予防、低減または排除し得る、医薬組成物および方法を提供する。本明細書で提供される組成物および方法の多くは、1種または複数の癌処置と併せて特異的保護剤を投与し、それにより癌処置が患者において心毒性イベントを誘発または悪化させるリスクを低減することに関する。本明細書に記載された保護剤としては、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩などが挙げられる。幾つかの例において、該保護剤は、フラボノイドであり得る。幾つかの例において、該保護剤は、異なる保護剤と併用で投与され得る。幾つかの例において、該保護剤は、デクスラゾキサンおよび他の保護剤を含む併用など、併用で投与され得る。
【0071】
本開示は、心毒性のリスクによって投与レジメンを有意に改変させることなく、癌患者(心臓が健常な患者および心臓の既往症を有する患者を含む)に、所望の投与量の治療薬(例えば、アントラサイクリンまたはその塩)を受けさせることができる。本開示の別の利点は、心臓の既往症を有する、または年齢制限のある特定の患者など、より大きな患者人口に所与の治療薬を受けさせ得ることである。加えて、心毒性の低減または予防は、癌患者に、心臓病を処置する薬剤の投薬の必要を回避させることができる。まとめると、本明細書で提示される利点は、患者にとってより良好な治療転帰の促進を支援することができる。
【0072】
本明細書で提供された医薬組成物および方法(使用方法など)は概して、化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤により誘発される心毒性を低減、排除または予防することに関し、それらは、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスにより誘発された臓器損傷を低減または排除するために用いることもできる。
図1は、本明細書で提供された方法の幾つかの実施形態の一般的な図を示す。上図は、患者[120]に投与される化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤などの癌処置剤[110]を示し、該患者は、心毒性を発症し、その後、癌処置剤の用量が経時的に徐々に低減される[130]。それゆえ、保護剤[140]の非存在下での癌処置剤[110]の投与に関連する心毒性は、処置に適合する患者人口を限定し得る。下図において、癌処置剤[110]は、患者にミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチンおよびミリシトリンなどの保護剤[140]と共投与(co-administratered)され、例えば患者[151]は、低い心毒性に見舞われるか、または心毒性に全く見舞われず[160]、それにより患者に投与レジメンを耐容させることができる。癌処置剤および保護剤用に別個のビヒクルが示されているが、幾つかの例において、該癌処置および保護剤は、一緒に共配合される。癌処置剤[110]と保護剤[140]の共投与は、健常な患者および心臓の既往症を有する患者[152、153]などより大きな患者人口[150]に所与の癌処置剤を受けさせることができる。
【0073】
図2もまた、本明細書で提供された実施形態の一般的な図を示す。上図は、癌処置剤[210](例えば、化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤)と、後に経時的に何らかの心毒性に見舞われる[240]患者[230]に共投与されるデクスラゾキサン[220]と、を示す。保護剤[250]の非存在下での癌処置剤[210]とデクスラゾキサン[220]との共投与は、処置に適合する患者人口を限定し得る。下図において、癌処置剤[210]、デクスラゾキサン[220]および保護剤[250](ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチンおよびミリシトリンなど)が患者[261]に投与されると、該患者は、低い心毒性に見舞われるか、または心毒性に全く見舞われない[270]。この実施形態において、保護剤[250]と癌処置剤[210]およびデクスラゾキサン[220]との共投与は、デクスラゾキサンの活性を増強して、患者[261]における心毒性を予防、緩和、または排除し、それにより、心臓の既往症を有さない患者および有する患者[262、263]など、より大きな患者人口[260]に所与の治療薬を受けさせることができる。幾つかの例において、該保護剤、デクスラゾキサンおよび/または癌処置剤は、別個に投与され;幾つかの例において、それらは、同時に、または共配合剤として投与される。一般に、本明細書で提供される共配合剤および方法は、化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤により患者に誘導される心毒性を低減することができる。
【0074】
本明細書で提供される組成物は、2種以上の保護剤の共配合を含み得る。例えば該共配合剤は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、およびデクスラゾキサンなどを含み得る。幾つかの例において、該組成物は、保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリンなど)と特定の癌処置剤(例えば、化学療法剤または生物製剤)との共配合剤を含み得る。幾つかの例において、本明細書で提供されるのは、多くの場合は使用説明書と共に、少なくとも2種の保護剤(または保護剤および癌処置剤)を別個の成分として含むキットである。
【0075】
方法
本明細書で提供されるのは、癌処置剤(例えば、化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤)により誘導される心毒性を低減、排除、または予防し得る医薬組成物を、患者、特に癌患者に投与するための方法である。本明細書で提供される方法はまた、本明細書で提供される組成物の少なくとも1種を用いて、患者の癌を処置することを含む。幾つかの例において、該患者は、心臓が健常であり得、幾つかの例において、該患者は、心臓病のリスクがある。
【0076】
一般に本明細書で提供される方法は、本明細書に記載された少なくとも1種の保護剤を含む、または少なくとも1種の保護剤と癌処置剤(例えば、アントラサイクリン薬、プロテインキナーゼ阻害剤、生物製剤、または放射線療法剤)を含む医薬組成物を、患者に投与することを含む。該保護剤および癌処置剤はまた、異なる心保護剤(例えば、デクスラゾキサン)と併用され得る。幾つかの例において、該保護剤および癌処置剤は、同じ医薬組成物(例えば、錠剤、カプセル、リポソーム、液体、または蒸気)中で混合されて共配合され得、幾つかの例においてそれらは、別個の物体として存在する。
【0077】
対象
本明細書に開示された方法および組成物は一般に、対象において癌処置による心毒性を予防、低減、処置、または排除するために用いられる。該対象は、任意のヒト患者、特に癌患者、癌のリスクがある患者、または癌の家族歴もしくは個人の癌病歴を有する患者であり得る。幾つかの例において、該患者は、癌処置の特定のステージにいる。例えば、本明細書に記載された医薬組成物は、癌処置により誘発される心毒性を低減するために、早期または後期癌を有するヒト患者に投与され得る。
【0078】
該癌患者は、任意のタイプの癌を有し得る。癌の例としては、副腎癌、肛門癌、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、血液の癌、骨癌、脳癌、乳癌、気管支癌、心血管系の癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、消化器系の癌、内分泌系の癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、胆嚢癌、胃腸腫瘍、腎臓癌、造血系悪性腫瘍、喉頭癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、筋肉系の癌、骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄腫、鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経系の癌、リンパ系の癌、口腔癌、口咽頭癌、骨肉腫、カポジ肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、脳下垂体癌、前立腺癌、直腸癌、腎盂癌、生殖系の癌、呼吸器系の癌、肉腫、唾液腺癌、骨格系の癌、皮膚癌、小腸癌、胃癌、精巣癌、咽頭癌、胸腺癌、甲状腺癌、腫瘍、泌尿器系の癌、子宮癌、膣癌、または外陰癌を挙げることができるが、これらに限定されない。用語「リンパ腫」は、B細胞リンパ腫(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、ヘアリーセル白血病、または原発性中枢神経系リンパ腫)またはT細胞リンパ腫(例えば、前駆T細胞リンパ芽球性リンパ腫または末梢性T細胞リンパ腫)をはじめとする任意のタイプのリンパ腫を指し得る。用語「白血病」は、急性白血病または慢性白血病をはじめとする任意のタイプの白血病を指し得る。白血病のタイプとしては、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、急性未分化白血病、または慢性リンパ球性白血病が挙げられる。幾つかの例において、癌患者は、特定のタイプの癌を有さない。例えば幾つかの例において、該患者は、乳癌でない癌を有し得る。
【0079】
癌の例としては、固形腫瘍を誘発する癌、および固形腫瘍を誘発しない癌が挙げられる。さらに、本明細書で挙げられた癌のいずれも、原発癌(例えば、癌が最初に成長し始めた身体部分に由来して命名された癌)または続発もしくは転移癌(例えば、別の身体部分から発生した癌)であり得る。
【0080】
癌のリスクがある患者は、前癌状態などの特定の状態のためリスクがあり得る。前癌状態としては、日光角化症、バレット食道、萎縮性胃炎、非浸潤性乳管癌、先天性角化異常症、鉄欠乏性嚥下困難症、扁平苔癬、口腔粘膜下線維症、光線性弾力線維症、子宮頸部異形成、白板症、および紅板症が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの例において、患者は、細胞または組織異形成(例えば、細胞数の異常な変化、細胞形状の異常な変化、細胞サイズの異常な変化、または細胞色素の異常な変化)のため癌のリスクがあり得る。
【0081】
癌のリスクがある患者は、発癌性物質に暴露された患者であり得る。そのような患者としては、公知のもしくは予想される発癌物質(例えば、アセチルアルデヒド、アスベスト、またはタバコ製品)に暴露された患者、または電離放射線(例えば、γ放射線、β放射線、X線、または紫外線)に暴露された患者を挙げることができる。幾つかの例において、癌のリスクがある患者は、癌の家族歴のためリスクがある。
【0082】
本明細書に開示された方法および組成物はまた、癌の病歴を有する患者、特に心毒性作用を有する癌処置剤(例えば、アントラサイクリン薬、プロテインキナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、または生物製剤)を投与されたことのある患者における心毒性を予防、低減、または排除するために用いられ得る。癌の病歴を有する患者の例としては、寛解状態の患者、完全寛解した患者、癌が再燃した患者、または癌が再発した患者が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
本明細書に開示された方法および組成物は一般に、心毒性誘導剤(例えば、癌処置剤)を投与された、または現在投与されている患者で用いられる。心毒性誘導剤の非限定的例は、本明細書の他の箇所に記載されており、癌処置剤、化学療法剤、アントラサイクリン系(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、およびイダルビシン)、プロテインキナーゼ阻害剤(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤)、生物製剤(例えば、トラスツズマブ)、または放射線療法剤、および他の方法で心毒性を誘発することで知られる任意の癌処置剤を挙げることができる。幾つかの例において、本明細書に開示された医薬組成物は、患者の現在の癌処置レジメンに関連した心毒性のリスクを低減するために、心毒性作用を有することで知られる癌処置剤に過去に暴露された癌患者に投与される。幾つかの例において、該医薬組成物は、癌処置剤もしくは薬物、または心毒性を誘発する他の物質への過去の暴露の累積効果を低減または相殺するために癌患者に投与される。幾つかの例において、ミリセチンおよびアントラサイクリンを含む医薬共配合剤が、過去の癌処置剤により誘発された拡張型心筋症も有する前立腺癌患者に投与され得る。別の例において、ビテキシンを含む医薬共配合剤が、アントラサイクリンで同時に処置されている肺癌患者に投与され得る。さらに別の例において、ロビネチンを含む医薬共配合剤が、乳癌患者に投与され得る。さらに別の例において、トリセチンを含む医薬共配合剤が、カポジ肉腫癌患者に投与され得る。さらに別の例において、フィセチンを含む医薬共配合剤が、乳癌患者に投与され得る。さらに別の例において、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンを含む医薬共配合剤が、乳癌患者に投与され得る。さらに別の例において、ミリシトリンを含む医薬共配合剤が、乳癌患者に投与され得る。さらに別の例において、ミリセチンおよびアントラサイクリンを含む医薬共配合剤が、過去の癌処置剤により誘発された拡張型心筋症も有する肝臓癌患者に投与され得る。さらに別の例において、ミリセチンおよびドキソルビシンを含む医薬共配合剤が、肉腫癌患者に投与され得る。
【0084】
幾つかの例において、本明細書の方法および組成物は、癌処置剤により誘発されていない心毒性を緩和するために用いられる。そのため該患者は、プロテインキナーゼ阻害剤などの癌に特異的でない薬物により誘導された心毒性を有し得、または該心毒性を有するリスクがあり得る。そのような患者は、神経障害または心臓傷害などの状態を有し得る。幾つかの例において、該状態は、プロテインキナーゼ阻害剤により処置可能な状態であり得る。
【0085】
幾つかの例において、該患者は、臓器損傷を有し得るか、または臓器損傷を有するリスクがあり得る。例えば該患者は、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスの結果、臓器損傷を有し得る(または臓器損傷のリスクがあり得る)。そのような患者の場合、本明細書で提供される方法および組成物は、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスにより誘発された臓器損傷を低減または排除し得る。
【0086】
幾つかの例において、本明細書に記載された方法または組成物のいずれかにより処置される患者は、心臓疾患を有し得るか、または心臓疾患の家族歴を有し得る。心臓疾患の例としては、不整脈原性心筋症、動脈疾患、ブルガダ症候群、先天性心疾患、拡張型心筋症、動悸、心臓弁疾患、高血圧性心臓疾患、肥大型心筋症、QT延長症候群、リウマチ性心臓疾患、または血管疾患が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの例において、該心臓疾患は、心毒性剤(例えば、アントラサイクリン)により誘発される。例えば該心臓疾患は、本明細書で挙げられた心毒性剤のいずれかにより誘発され得る。1つの特別な例において、ミリセチンおよびドキソルビシンを含む医薬共配合剤が、肥大型心筋症も有する乳癌患者に投与され得る。別の例において、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリンからなる群から選択される化合物の1種または複数の共配合剤が、過去に投与された化学療法剤から心毒性に見舞われた癌患者に投与され得る。
【0087】
本明細書に記載された方法または組成物のいずれかにより処置される患者は、任意の年齢であり得、成人、幼児または小児であり得る。幾つかの例において、該患者は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99歳、またはその範囲内(例えば、2~20歳の間、20~40歳の間、または40~90歳の間)である。利益を受け得る患者の特定の分類は、40歳より高齢の患者である。利益を受け得る患者の別の特定の分類は、慢性心臓症状による人命危機を有し得る小児科患者である。さらに、本明細書に記載された方法または組成物のいずれかにより処置される患者は、男性または女性であり得る。
【0088】
本明細書に開示された組成物のいずれかは、実験動物または畜産動物などの非ヒト対象にも投与され得る。非ヒト対象の非限定的例としては、犬、山羊、モルモット、ハムスター、マウス、豚、非ヒト霊長類(例えば、ゴリラ、サル、オランウータン、キツネザル、またはヒヒ)、ラット、羊、牛、またはゼブラフィッシュが挙げられる。
【0089】
薬物投与
本明細書で提供される開示は、式1、式2またはそれらの誘導体もしくは塩の1種または複数の保護剤を患者に投与することにより、患者の癌処置剤による心毒性を予防、低減、または排除する方法を記載する。本明細書の開示は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリン(またはその誘導体もしくは塩)からなる群から選択される1種または複数の保護剤を患者に投与することにより、患者の癌処置剤による心毒性を予防、低減、または排除する方法も記載する。本明細書で提供された開示は、癌処置が対象において心毒性および臓器損傷を誘発する可能性がある、癌を有する対象に投与すること、およびミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリンからなる群から選択される1種または複数の保護剤(またはその誘導体もしくは塩)を投与すること、の方法であって、該保護剤が該対象における心毒性を予防、低減または排除する、方法も記載する。
【0090】
本明細書に開示された方法は、デクスラゾキサン(またはその誘導体もしくは塩)と、式1、式2に従う保護剤またはその誘導体もしくは塩と、の組み合わせを該患者に投与することをさらに含み得、該組み合わせられた薬剤は、共配合剤として、または別個に投与され得る。幾つかの態様において、該方法は、デクスラゾキサン(またはその誘導体もしくは塩)と、ミリセトリン(またはその誘導体もしくは塩)と、の組み合わせを該患者に投与することを含み、該組み合わせられた薬剤は、共配合剤として、または別個に投与され得る。
【0091】
本明細書に開示された方法は、デクスラゾキサン(またはその誘導体もしくは塩)と、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリンからなる群から選択される保護剤(またはその誘導体もしくは塩)と、の組み合わせを含む組み合わせられた薬剤を患者に投与することをさらに含み得、該組み合わせられた薬剤は、共配合剤として、または別個に投与され得る。
【0092】
該保護剤は、式1または式2で示される化合物の任意の組み合わせで該対象または患者に投与され得る。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、ミリセチンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、ミリシトリンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、ビテキシンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、ロビネチンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、トリセチンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。幾つかの例において、1種のみの保護剤(例えば、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンまたはその誘導体もしくは塩)が、対象または患者に投与される。特定の例において、本明細書に記載された対象または患者は、ミリセチン(またはその誘導体もしくは塩)の治療有効用量を投与され得る。別の例において、本明細書に記載された対象または患者は、ロビネチン(またはその誘導体もしくは塩)の治療有効用量を投与され得る。さらに別の例において、本明細書に記載された対象または患者は、ビテキシン(またはその誘導体もしくは塩)の治療有効用量を投与され得る。
【0093】
幾つかの例において、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリンおよびデクスラゾキサンからなる群から選択される2種の保護剤(またはその誘導体もしくは塩)が、対象に投与される。2種以上の保護剤が患者に投与される場合、該保護剤は、別個の物体として、または共配合剤中で投与され得る。例えば心毒性に見舞われた患者が、ミリセチンとロビネチンの;ミリセチンとデクスラゾキサンの治療有効性共配合剤;または本明細書に記載された他の共配合剤を投与され得る。該2種以上の保護剤は、同時に、または連続して投与され得る。幾つかの例において、該2種以上の保護剤は、連続で特定の順序で投与され得る。例えば、患者は最初、ミリセチンを投与され得、次にデクスラゾキサンを投与され得るか、または最初にデクスラキソザン(dexraxozane)を与えられ、その後、ミリセチンを与えられ得る。
【0094】
幾つかの例において、抗癌剤(例えば、化学療法剤、生物製剤、プロテインキナーゼ阻害剤、放射線療法剤)(または他の処置剤)および式1または式2で示される1種または複数の保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、およびミリシトリン)が、患者に投与され得る。癌処置剤(または他の処置剤)および少なくとも2種の保護剤が患者に投与される場合、該癌処置剤(または他の処置剤)および該少なくとも2種の保護剤(またはその誘導体もしくは塩)は、共配合剤として任意の組み合わせで投与され得る。例えば患者は、保護剤と化学療法剤の共配合剤、または1種または複数の化学療法剤と少なくとも2種の保護剤を含有する共配合剤を投与され得る。
【0095】
幾つかの例において、患者または対象は、1種または複数の保護剤(またはその誘導体もしくは塩)、および1種または複数の癌処置剤(または他の処置剤)を同時に投与され得る。例えば該方法は、保護剤および化学療法剤を別個の物体として、しかし同時に患者に投与することを含み得る。
【0096】
幾つかの例において、患者または対象が、式1または式2で示される1種または複数の保護剤(またはその誘導体もしくは塩)、および1種または複数の癌処置剤(または他の処置剤)を連続で投与され得る。例えば該保護剤は、癌処置剤(または他の処置剤)の投与の前に投与され得る。例えば癌患者が、心毒性を予防するためにミリセチンの治療有効用量を投与され、次に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を投与され得る。別の例において、癌患者が、心毒性を予防するためにミリシトリンの治療有効用量を投与され、次に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を投与され得る。さらに別の例において、癌患者が、心毒性を予防するためにビテキシンの治療有効用量を投与され、次に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を投与され得る。別の例において、癌患者が、心毒性を予防するためにロビネチンの治療有効用量を投与され、次に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を投与され得る。別の例において、癌患者が、心毒性を予防するためにトリセチンの治療有効用量を投与され、次に化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を投与され得る。別の例において、該癌処置剤(または他の処置剤)は、式1または式2で示される保護剤(複数可)の投与の前に患者または対象に投与される。幾つかの例において、該患者は、癌処置剤(または他の処置剤)を受ける前に1種または複数の保護剤を投与され、その後、癌処置に続いて1種または複数の保護剤を投与される。
【0097】
連続投与の場合、該1種または複数の保護剤の投与と、該1種または複数の癌処置剤(または他の処置剤)の投与の間に遅延期間が存在し得る。例えば該保護剤は、癌処置剤または他の処置剤の投与の数分前、数時間前、数日前、または数週間前(例えば、癌処置剤の投与の少なくとも5分前、少なくとも10分前、少なくとも30分前、少なくとも1時間前、少なくとも2時間前、少なくとも3時間前、少なくとも4時間前、少なくとも5時間前、少なくとも6時間前、少なくとも7時間前、少なくとも8時間前、少なくとも9時間前、少なくとも10時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも5日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前、少なくとも2ヶ月前、最長でも2ヶ月前、最長でも1ヶ月前、最長でも3週間前、最長でも2週間前、最長でも1週間前、最長でも6日前、最長でも5日前、最長でも4日前、最長でも3日前、最長でも2日前、最長でも1日前、最長でも12時間前、最長でも6時間前、最長でも4時間前、最長でも3時間前、最長でも2時間前または最長でも1時間前)に投与され得る。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置の少なくとも1日前に患者に投与されている。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置の最長でも1日前に投与されている。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも2時間以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも4時間以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも6時間以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも12時間以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも1日以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも2日以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも3日以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも4日以内に投与される。幾つかの例において、該保護剤は、癌処置後最長でも5日以内に投与される。
【0098】
本開示の化合物(例えば、式1で示される保護剤)は、患者が抗癌剤を本明細書に記載された投与レジメンで投与される際に毎回、該患者に投与され得る。例えば、該保護剤は、患者が抗癌剤を投与されるように計画された時間より前の24時間以内に毎回、該患者に投与され得る。幾つかの例において、該保護剤は、患者が抗癌剤を投与されるように計画された時間より前の48時間以内に毎回、該患者に投与され得る。幾つかの例において、該保護剤は、患者が抗癌剤を投与される際に毎回同時に、該患者に投与され得る。幾つかの例において、該保護剤は、患者が癌処置後少なくとも24時間以内に抗癌剤を投与されたら毎回、該患者に投与され得る。
【0099】
本開示の化合物は、類似の用途を有する薬剤の許容された投与様式のいずれかにより、例えば皮膚、経口、局所、皮内、髄腔内、静脈内、皮下、筋肉内、動脈内、脊髄内もしくは脊髄、鼻腔、硬膜外、直腸、膣、または経皮/経粘膜経路により、投与され得る。最も適した経路は、処置される病気の性質および重症度に依存するであろう。皮下、皮内および経皮注射は、本開示の化合物の経路になり得る。舌下投与は、本開示の化合物の投与経路になり得る。静脈内投与は、本開示の化合物の投与経路になり得る。特別な例において、本明細書で提供された医薬組成物は、患者に経口投与され得る。別の特別な例において、本明細書で提供された保護剤を含む医薬組成物は、患者に静脈内投与(例えば注射または輸液を介して)され得る。別の特別な例において、本明細書で提供された保護剤を含む医薬組成物は、患者に筋肉内投与され得る。別の特別な例において、本明細書で提供された保護剤を含む医薬組成物は、患者に鼻腔投与され得る。
【0100】
医薬組成物(例えば、経口投与用、または注射、輸液、皮下送達、筋肉内送達、腹腔内送達、舌下送達、もしくは他の方法のため)は、液体の形態であり得る。液体医薬組成物は、例えば以下のものの1つまたは複数を含み得る:滅菌希釈剤、例えば水、生理食塩液、好ましくは生理学的生理食塩水(physiological saline)、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム、溶媒もしくは懸濁媒体として作用し得る不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒;抗菌剤;抗酸化剤;キレート剤;塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度の調整のための緩衝液および薬剤。非経口組成物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、ディスポーザブルシリンジまたは反復投与用バイアル中に封止され得る。生理学的生理食塩水の使用が好ましく、注射可能な医薬組成物は、好ましくは滅菌されている。別の実施形態において、眼科の病気または疾患の処置では、液体医薬組成物が、点眼薬の形態で目に適用され得る。液体医薬組成物は、経口送達され得る。
【0101】
経口配合剤の場合、本明細書に記載された化合物または薬剤の少なくとも1種が、単独で、または錠剤、粉末、顆粒もしくはカプセルを作製するのに適した添加剤と併せて、そして所望なら希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、着色剤および香味剤と併せて、用いられえる。該化合物は、胃環境の低pHから化合物を保護するために提供された緩衝剤と共に、および/または腸溶性コーティングと共に、配合され得る。医薬組成物中に含まれる化合物は、例えば液体、固形もしくは半固形配合剤中で、香味剤と共に、そして/または腸溶性コーティングと共に経口送達用に配合され得る。幾つかの例において、本開示の化合物は、可溶化されて封入され得るか(例えば、リポソームまたは生分解性ポリマー中に)、または適当な非毒性脂質でコーティングされた微結晶の形態で用いられ得る。幾つかの例において、本開示の化合物は、可溶化されて、リポソーム、ミセルまたはその両方に封入され得る。
【0102】
本明細書に記載された化合物または薬剤の任意の1種を含む医薬組成物が、持続放出性または徐放性(持効性または制御放出性とも呼ばれる)になるように配合され得る。そのような組成物は一般に、周知の技術を利用して調製されて、例えば経口、直腸、皮内、もしくは皮下移植により、または所望の標的部位での移植により投与され得る。持続放出性配合剤は、担体マトリックス中に分散された該化合物、および/または速度制御膜に取り囲まれたリザーバ内に含まれた該化合物を含有し得る。そのような配合剤中で使用される賦形剤は、生体適合性であり、生分解性でもあり得、好ましくは該配合剤は、比較的一定レベルの活性成分放出を提供する。賦形剤の非限定的例としては、水、アルコール、グリセロール、キトサン、アルギナート、コンドロイチン、ビタミンE、鉱物油、およびジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。持続放出性配合剤中に含まれる化合物の量は、移植部位、放出速度および予測される放出期間、ならびに処置または予防される病気、疾患または障害の性質に依存する。
【0103】
本明細書で提供される開示はまた、式1または式2で示される1種または複数の保護剤を患者に投与することにより対象における臓器損傷を予防、低減または排除するための方法を記載する。対象における臓器損傷を予防、低減または排除するための式1または式2で示される保護剤としては、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、またはミリシトリン(またはその誘導体もしくは塩)を挙げることができるが、これらに限定されない。特に該臓器損傷は、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスにより誘発されて、心不全に導き得る。例えば式1で示される化合物(即ち、保護剤)を含む医薬組成物は、癌処置剤による心不全に見舞われている患者に投与され、さらなる心不全が該医薬組成物の投与により予防され得る。
【0104】
本明細書に記載された医薬方法および組成物は、患者の癌処置剤による心毒性を予防、低減、または排除する。したがって本明細書で提供された方法および組成物は、心毒性のリスクによって投与レジメンを有意に改変させることなく、患者(例えば、心臓が健常な患者、心臓疾患を有する患者)に、より高用量の治療薬を受けさせることができる。幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg/m2、1mg/m2、2mg/m2、3mg/m2、4mg/m2、5mg/m2、6mg/m2、7mg/m2、8mg/m2、9mg/m2、10mg/m2、11mg/m2、12mg/m2、13mg/m2、14mg/m2、15mg/m2、16mg/m2、17mg/m2、18mg/m2、19mg/m2、20mg/m2、21mg/m2、22mg/m2、23mg/m2、24mg/m2、25mg/m2、26mg/m2、27mg/m2、28mg/m2、29mg/m2、30mg/m2、31mg/m2、32mg/m2、33mg/m2、34mg/m2、35mg/m2、36mg/m2、37mg/m2、38mg/m2、39mg/m2、40mg/m2、41mg/m2、42mg/m2、43mg/m2、44mg/m2、45mg/m2、46mg/m2、47mg/m2、48mg/m2、49mg/m2、50mg/m2、100mg/m2、150mg/m2、200mg/m2、300mg/m2、350mg/m2、400mg/m2、450mg/m2、500mg/m2、750mg/m2、1000mg/m2、1250mg/m2、1500mg/m2、1750mg/m2、または2000mg/m2よりも多い日用量の化学療法剤(例えば、アントラサイクリン、ドキソルビシン、またはそれらの誘導体もしくは塩)を患者に投与することを含み得る。
【0105】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、約0.1mg/m2、0.2mg/m2、0.3mg/m2、0.4mg/m2、0.5mg/m2、0.6mg/m2、0.7mg/m2、0.8mg/m2、0.9mg/m2、1mg/m2、1.1mg/m2、1.2mg/m2、1.3mg/m2、1.4mg/m2、1.5mg/m2、1.6mg/m2、1.7mg/m2、1.8mg/m2、1.9mg/m2、2mg/m2、2.1mg/m2、2.2mg/m2、2.3mg/m2、2.4mg/m2、2.5mg/m2、2.6mg/m2、2.7mg/m2、2.8mg/m2、2.9mg/m2、3mg/m2、3.1mg/m2、3.2mg/m2、3.3mg/m2、3.4mg/m2、3.5mg/m2、3.6mg/m2、3.7mg/m2、3.8mg/m2、3.9mg/m2、4mg/m2、4.1mg/m2、4.2mg/m2、4.3mg/m2、4.4mg/m2、4.5mg/m2、4.6mg/m2、4.7mg/m2、4.8mg/m2、4.9mg/m2、5mg/m2、5.1mg/m2、5.2mg/m2、5.3mg/m2、5.4mg/m2、5.5mg/m2、5.6mg/m2、5.7mg/m2、5.8mg/m2、5.9mg/m2、6mg/m2、6.1mg/m2、6.2mg/m2、6.3mg/m2、6.4mg/m2、6.5mg/m2、6.6mg/m2、6.7mg/m2、6.8mg/m2、6.9mg/m2、7mg/m2、7.1mg/m2、7.2mg/m2、7.3mg/m2、7.4mg/m2、7.5mg/m2、7.6mg/m2、7.7mg/m2、7.8mg/m2、7.9mg/m2、8mg/m2、8.1mg/m2、8.2mg/m2、8.3mg/m2、8.4mg/m2、8.5mg/m2、8.6mg/m2、8.7mg/m2、8.8mg/m2、8.9mg/m2、9mg/m2、9.1mg/m2、9.2mg/m2、9.3mg/m2、9.4mg/m2、9.5mg/m2、9.6mg/m2、9.7mg/m2、9.8mg/m2、9.9mg/m2、10mg/m2、11mg/m2、12mg/m2、13mg/m2、14mg/m2、15mg/m2、16mg/m2、17mg/m2、18mg/m2、19mg/m2、20mg/m2、21mg/m2、22mg/m2、23mg/m2、24mg/m2、25mg/m2、26mg/m2、27mg/m2、28mg/m2、29mg/m2、30mg/m2、31mg/m2、32mg/m2、33mg/m2、34mg/m2、35mg/m2、36mg/m2、37mg/m2、38mg/m2、39mg/m2、40mg/m2、41mg/m2、42mg/m2、43mg/m2、44mg/m2、45mg/m2、46mg/m2、47mg/m2、48mg/m2、49mg/m2、50mg/m2、51mg/m2、52mg/m2、53mg/m2、54mg/m2、55mg/m2、56mg/m2、57mg/m2、58mg/m2、59mg/m2、60mg/m2、61mg/m2、62mg/m2、63mg/m2、64mg/m2、65mg/m2、66mg/m2、67mg/m2、68mg/m2、69mg/m2、70mg/m2、71mg/m2、72mg/m2、73mg/m2、74mg/m2、75mg/m2、76mg/m2、77mg/m2、78mg/m2、79mg/m2、80mg/m2、81mg/m2、82mg/m2、83mg/m2、84mg/m2、85mg/m2、86mg/m2、87mg/m2、88mg/m2、89mg/m2、90mg/m2、91mg/m2、92mg/m2、93mg/m2、94mg/m2、95mg/m2、96mg/m2、97mg/m2、98mg/m2、99mg/m2、または100mg/m2の日用量の生物製剤を患者に投与することを含み得る。
【0106】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、約0.1mg/m2、1mg/m2、2mg/m2、3mg/m2、4mg/m2、5mg/m2、6mg/m2、7mg/m2、8mg/m2、9mg/m2、10mg/m2、11mg/m2、12mg/m2、13mg/m2、14mg/m2、15mg/m2、16mg/m2、17mg/m2、18mg/m2、19mg/m2、20mg/m2、21mg/m2、22mg/m2、23mg/m2、24mg/m2、25mg/m2、26mg/m2、27mg/m2、28mg/m2、29mg/m2、30mg/m2、31mg/m2、32mg/m2、33mg/m2、34mg/m2、35mg/m2、36mg/m2、37mg/m2、38mg/m2、39mg/m2、40mg/m2、41mg/m2、42mg/m2、43mg/m2、44mg/m2、45mg/m2、46mg/m2、47mg/m2、48mg/m2、49mg/m2、50mg/m2、51mg/m2、52mg/m2、53mg/m2、54mg/m2、55mg/m2、56mg/m2、57mg/m2、58mg/m2、59mg/m2、60mg/m2、61mg/m2、62mg/m2、63mg/m2、64mg/m2、65mg/m2、66mg/m2、67mg/m2、68mg/m2、69mg/m2、70mg/m2、71mg/m2、72mg/m2、73mg/m2、74mg/m2、75mg/m2、76mg/m2、77mg/m2、78mg/m2、79mg/m2、80mg/m2、81mg/m2、82mg/m2、83mg/m2、84mg/m2、85mg/m2、86mg/m2、87mg/m2、88mg/m2、89mg/m2、90mg/m2、90mg/m2、95mg/m2、100mg/m2、110mg/m2、120mg/m2、130mg/m2、140mg/m2、150mg/m2、160mg/m2、170mg/m2、180mg/m2、190mg/m2、200mg/m2、300mg/m2、400mg/m2、500mg/m2の日用量の式1または式2で示される保護剤薬物(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与することを含み得る。
【0107】
本明細書に記載された保護剤の固定日用量、または保護剤の併用の集合的用量は、0.1mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、150mg、200mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、750mgを超える保護剤(またはそれらの誘導体もしくは塩)であり得る。幾つかの例において、該保護剤または複数の該保護剤は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩からなる群から選択される。特別な例において、医薬組成物を患者に投与することは、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)と少なくとも10mgのミリセチンとの共配合剤を投与することを含み得る。幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のミリセチン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を患者に投与することを含み得る。
【0108】
別の例において、医薬組成物を患者に投与することは、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)と少なくとも10mgのミリセトリンとの共配合剤を投与することを含み得る。幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のミリセトリン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を患者に投与することを含み得る。
【0109】
さらに別の例において、医薬組成物を患者に投与することは、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)と少なくとも10mgのビテキシンとの共配合剤を投与することを含み得る。幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のビテキシン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を患者に投与することを含み得る。
【0110】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のロビネチン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与することを含み得る。
【0111】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のトリセチン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与することを含み得る。
【0112】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量の7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与することを含み得る。
【0113】
幾つかの例において、本明細書の医薬組成物を患者に投与することは、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg、5mg、5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg、8mg、8.1mg、8.2mg、8.3mg、8.4mg、8.5mg、8.6mg、8.7mg、8.8mg、8.9mg、9mg、9.1mg、9.2mg、9.3mg、9.4mg、9.5mg、9.6mg、9.7mg、9.8mg、9.9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、15mg、16mg、17mg、18mg、19mg、20mg、21mg、22mg、23mg、24mg、25mg、26mg、27mg、28mg、29mg、30mg、31mg、32mg、33mg、34mg、35mg、36mg、37mg、38mg、39mg、40mg、41mg、42mg、43mg、44mg、45mg、46mg、47mg、48mg、49mg、50mg、100mg、500mg、750mg、または1gの日用量のフィセチン(またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与することを含み得る。
【0114】
本明細書に記載された医薬方法および組成物は、患者の癌処置剤による心毒性を予防、低減、または排除する。したがって本明細書で提供された方法および組成物は、心毒性のリスクによって投与レジメンを有意に改変させることなく、患者に治療をより多い頻度で受けさせることができる。本明細書で提供された医薬組成物中の化学療法剤、生物製剤、または保護剤の日用量は、1日あたり1回または複数の用量で患者に投与され得る。幾つかの例において、該化学療法剤の日用量は、一用量で投与され得る。幾つかの例において、該化学療法剤の日用量は、1日あたり1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10用量に分割され得る。例えば該化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)の日用量は、1日あたり3用量に分割され得る。幾つかの例において、該化学療法剤の日用量は、1時間あたり少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60の輸液に分割され得る。幾つかの例において、化学療法剤を含む組成物の各輸液は、少なくとも5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、または6時間、継続し得る。幾つかの例において、該生物製剤の日用量は、一用量で投与され得る。幾つかの例において、該生物製剤の日用量は、1日あたり1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24用量に分割され得る。例えば生物製剤(例えば、ベバシズマブ)の日用量は、1日あたり3用量に分割され得る。幾つかの例において、該生物製剤の日用量は、1時間あたり少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60の輸液に分割され得る。幾つかの例において、生物製剤を含む組成物の各輸液は、少なくとも5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、または6時間、継続し得る。幾つかの例において、該保護剤の日用量は、一用量で投与され得る。幾つかの例において、該保護剤の日用量は、1日あたり1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24用量に分割され得る。例えば保護剤(例えば、ミリセチン)の日用量は、1日あたり3用量に分割され得る。幾つかの例において、該保護剤の日用量は、1時間あたり少なくとも1、2、3、4、5、または6の輸液に分割され得る。幾つかの例において、1種または複数の保護剤(複数可)を含む組成物の各輸液は、少なくとも5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、または6時間、継続し得る。
【0115】
本明細書に記載された医薬組成物は、1日あたり1回または複数回、患者に投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、1日あたり1回、患者に投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、1日あたり少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、21回、22回、23回、または24回、患者に投与され得る。例えば医薬組成物は、1日あたり3回、患者に投与され得る。
【0116】
本明細書に記載された医薬組成物は、1日または数日の間、患者に投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、1日間、患者に投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、少なくとも2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年、20年、30年、40年、または50年の間、患者に投与され得る。例えば癌患者は、ドキソルビシンとミリセチンとの医薬共配合剤を、少なくとも1年間投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、2日以上の連続日の間、患者に投与され得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、2日以上の非連続日の間、患者に投与され得る。例えば患者は、医薬組成物を4日間、毎日連続で投与され得る。別の例において、患者は、医薬組成物を1日、3日目、7日目、および15日目に投与され得る。幾つかの例において、患者が、医薬組成物を一定期間にわたり投与される場合、1日目に患者に投与される投与量は、次の日に患者に投与される投与量と異なり得る。例えば患者は、初日に医薬組成物5mgを投与され得、次の日に医薬組成物10mgを投与され得る。
【0117】
本明細書に記載された医薬組成物は、時間を経ても効果的であり得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、1日または数日間、効果的であり得る。幾つかの例において、医薬組成物の有効性の持続期間は、長期間にわたる。幾つかの例において、該医薬組成物の有効性は、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、または1ヶ月を超え得る。
【0118】
本明細書で提供される方法は、デクスラゾキサン(またはその誘導体もしくは塩)を、本明細書に記載された医薬組成物のいずれかの一部として患者に投与することをさらに含み得る。そのような方法は、少なくとも1種の保護剤およびデクスラゾキサンを含む医薬組成物を患者に投与することを可能にし、少なくとも1種の保護剤およびデクスラゾキサンの共配合剤は、デクスラゾキサンのみの投与に比較してより大きな保護効果を提供し得る。幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物のいずれかの投与は、患者集団全体の心毒性の可能性を1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%も低減し得る。例えば、デクスラゾキサンを投与された患者集団における患者が心毒性に見舞われる可能性80%が存在する場合、ミリセチンおよびデクスラゾキサンの共配合剤を患者に投与することは、該患者が心毒性に見舞われる可能性を75%低減することができ、患者が心毒性に見舞われる可能性を20%にする。このより大きな保護効果により、心臓の既往症を有する患者などのより大きな患者人口に、他の方法では不可能である癌処置剤(例えば、ドキソルビシン)を受けさせることもできる。幾つかの例において、デクスラゾキサンは、医薬組成物中で混合されて、または別個の物体として存在して、該医薬組成物中で共配合され得る。幾つかの例において、該癌処置剤、保護剤、およびデクスラゾキサンは、同時に投与され得る。幾つかの例において、該癌処置、保護剤およびデクスラゾキサンは、連続で投与され得る。一例において、癌患者は、化学療法剤、デクスラゾキサンおよびミリセチンの共配合剤を一用量で1日あたり少なくとも1回、投与され得る。別の例において、癌患者は、デクスラゾキサンを投与され、次にミリセチンを投与され得る。
【0119】
該医薬組成物中で投与されるデクスラゾキサン(またはその誘導体もしくは塩)の用量は、0.1mg/m2、1mg/m2、2mg/m2、3mg/m2、4mg/m2、5mg/m2、6mg/m2、7mg/m2、8mg/m2、9mg/m2、10mg/m2、11mg/m2、12mg/m2、13mg/m2、14mg/m2、15mg/m2、16mg/m2、17mg/m2、18mg/m2、19mg/m2、20mg/m2、21mg/m2、22mg/m2、23mg/m2、24mg/m2、25mg/m2、26mg/m2、27mg/m2、28mg/m2、29mg/m2、30mg/m2、31mg/m2、32mg/m2、33mg/m2、34mg/m2、35mg/m2、36mg/m2、37mg/m2、38mg/m2、39mg/m2、40mg/m2、41mg/m2、42mg/m2、43mg/m2、44mg/m2、45mg/m2、46mg/m2、47mg/m2、48mg/m2、49mg/m2、50mg/m2、51mg/m2、52mg/m2、53mg/m2、54mg/m2、55mg/m2、56mg/m2、57mg/m2、58mg/m2、59mg/m2、60mg/m2、61mg/m2、62mg/m2、63mg/m2、64mg/m2、65mg/m2、66mg/m2、67mg/m2、68mg/m2、69mg/m2、70mg/m2、71mg/m2、72mg/m2、73mg/m2、74mg/m2、75mg/m2、76mg/m2、77mg/m2、78mg/m2、79mg/m2、80mg/m2、81mg/m2、82mg/m2、83mg/m2、84mg/m2、85mg/m2、86mg/m2、87mg/m2、88mg/m2、89mg/m2、90mg/m2、91mg/m2、92mg/m2、93mg/m2、94mg/m2、95mg/m2、96mg/m2、97mg/m2、98mg/m2、99mg/m2、100mg/m2、150mg/m2、200mg/m2、300mg/m2、350mg/m2、400mg/m2、450mg/m2、500mg/m2、750mg/m2、1g/m2、5g/m2、10g/m2よりも多くなり得る。特定の例において、医薬組成物を患者に投与することは、式1または式2で示される保護剤(例えば、ミリセチン)と50mg/m2のデクスラゾキサンの共配合剤を投与することを含み得る。
【0120】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物を患者に投与することは、約0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、1.5mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、3.5mg/kg、4mg/kg、4.5mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、21mg/kg、22mg/kg、23mg/kg、24mg/kg、25mg/kg、26mg/kg、27mg/kg、28mg/kg、29mg/kg、30mg/kg、31mg/kg、32mg/kg、33mg/kg、34mg/kg、35mg/kg、36mg/kg、37mg/kg、38mg/kg、39mg/kg、40mg/kg、41mg/kg、42mg/kg、43mg/kg、44mg/kg、45mg/kg、46mg/kg、47mg/kg、48mg/kg、49mg/kg、50mg/kg、51mg/kg、52mg/kg、53mg/kg、54mg/kg、55mg/kg、56mg/kg、57mg/kg、58mg/kg、59mg/kg、60mg/kg、61mg/kg、62mg/kg、63mg/kg、64mg/kg、65mg/kg、66mg/kg、67mg/kg、68mg/kg、69mg/kg、70mg/kg、71mg/kg、72mg/kg、73mg/kg、74mg/kg、75mg/kg、76mg/kg、77mg/kg、78mg/kg、79mg/kg、80mg/kg、81mg/kg、82mg/kg、83mg/kg、84mg/kg、85mg/kg、86mg/kg、87mg/kg、88mg/kg、89mg/kg、90mg/kg、90mg/kg、95mg/kg、100mg/kg、110mg/kg、120mg/kg、130mg/kg、140mg/kg、150mg/kg、160mg/kg、170mg/kg、180mg/kg、190mg/kg、200mg/kg、300mg/kg、400mg/kg、500mg/kgの用量の式1または式2で示される保護剤を投与することを含み得る。幾つかの態様において、該保護剤は、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、およびそれらの誘導体もしくは塩からなる群から選択され得る。一実施形態において、該患者は、0.5mg/kg、1mg/kg、1.5mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、3.5mg/kg、4mg/kg、4.5mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、21mg/kg、22mg/kg、23mg/kg、24mg/kg、25mg/kg、26mg/kg、27mg/kg、28mg/kg、29mg/kg、30mg/kg、31mg/kg、32mg/kg、33mg/kg、34mg/kg、35mg/kg、36mg/kg、37mg/kg、38mg/kg、39mg/kg、40mg/kg、41mg/kg、42mg/kg、43mg/kg、44mg/kg、45mg/kg、46mg/kg、47mg/kg、48mg/kg、49mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、または100mg/kg、150mg/kg、または200mg/kgの保護剤を静脈内投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも10分前に約0.5mg/kg~約50mg/kgの間の用量のミリセチンを投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも10分前に約0.5mg/kg~約100mg/kgの間の用量のミリセチンを投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも30分前に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチンを静脈内投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも1時間前に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチンを静脈内投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも2時間前に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチンを静脈内投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも4時間前に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチン静脈内を投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも6時間前に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチン静脈内を投与される。一実施形態において、該患者は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与後6時間以内に約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量のミリセチン静脈内を投与される。一実施形態において、ミリセチンは、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の投与の少なくとも0.5、1、2、3、4、5、または6時間前に0.5mg/kg~200mg/kgの間の用量で経口投与される。
【0121】
幾つかの態様において、該患者は、例えば、患者が癌と診断された後のアントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)の初回投与の少なくとも4時間前に、約0.5mg/kg~約200mg/kgの間の用量の保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、またはミリシトリン)を静脈内または経口投与される。
【0122】
患者の応答
本明細書で提供される方法および組成物は、化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤により誘発された患者の心毒性を予防、低減、または排除する。さらに、本明細書に開示された医薬組成物を患者に投与することはまた、癌処置による臓器損傷(例えば、心組織損傷、電気生理学的機能不全、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、または酸化ストレスにより誘発された臓器損傷)を予防、低減または排除し得る。
【0123】
本明細書で開示された方法および組成物は一般に、患者において心毒性を低減し得る。心毒性の例としては、ミトコンドリア毒性、アポトーシス、電気生理学的機能不全(例えば、QT延長)、機械的機能不全(例えば、心駆出率の低下)、酸化ストレス、心組織損傷(例えば、酸化ストレスにより誘発された損傷、ミトコンドリア損傷、または活性酸素種の流動の増加により誘発された損傷)、および心臓でない任意の臓器(例えば、肝臓、腎臓、または膵臓)の細胞障害性傷害を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0124】
ミトコンドリア毒性は、所与の細胞、組織、臓器、または生物体の活性ミトコンドリアの数を減少させる任意の損傷を指し得る。幾つかの例において、ミトコンドリア毒性は、インビトロアッセイを利用して測定され得る。ミトコンドリア毒性を測定するために用いられ得る1つのそのような方法は、細胞を(1)細胞核を示す細胞透過性蛍光色素、および(2)活性ミトコンドリアにより封鎖される細胞透過性蛍光色素であるテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)、に同時暴露することによる。ミトコンドリア毒性は、細胞核の総数に対するTMRM陽性細胞の分率として計算され得る。インビトロアッセイにより測定される通り、癌処置によるミトコンドリア毒性は、非処置対照に比較して、心筋細胞が1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%より多くなり得る。例えば、少なくとも48時間のドキソルビシン1μMへの心筋細胞の暴露は、非処置対照に比較して、100%のミトコンドリア毒性を誘発し得る。本明細書に記載された医薬方法および組成物は一般に、癌処置剤によるミトコンドリア毒性を低減する。インビトロアッセイでの測定で、本明細書に記載された医薬組成物のいずれかへの心筋細胞の暴露は、保護剤の非存在下で癌処置剤に暴露された心筋細胞に比較して、ミトコンドリア毒性を100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、53%、52%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%も低減し得る。例えば、少なくとも48時間のドキソルビシン1μMとミリセチン115μMの共配合剤への心筋細胞の暴露は、ドキソルビシン1μMに暴露された心筋細胞に比較して、ミトコンドリア毒性を30%低減し得る。
【0125】
アポトーシスは、細胞がプログラム細胞死を受ける工程を指し得る。アポトーシスを受けている細胞内の検出可能な変化としては、ミトコンドリアからのチトクロームCのトランスロケーション、ミトコンドリア機能の減少、膜構造の変化、タンパク質分解活性の上昇、およびDNA断片化が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの例において、アポトーシスは、インビトロアッセイを利用して測定され得る。アポトーシスを測定するために用いられ得る1つのそのような方法は、細胞を、(1)細胞核を示す細胞透過性蛍光色素、および(2)アポトーシス細胞中に特有に存在する活性化カスパーゼ3のための蛍光発生基質であるCellEvent Caspase 3/7 Detection Reagent、に同時暴露することによる。アポトーシス率%は、細胞核の総数に対するCellEvent陽性細胞の分率として計算され得る。インビトロアッセイによる測定で、癌処置剤によるアポトーシスは、非処置対照に比較して、心筋細胞の1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%より多くになり得る。例えば少なくとも48時間のドキソルビシン1μMへの心筋細胞の暴露は、非処置対照に比較して100%のアポトーシスを誘発し得る。
【0126】
本明細書に記載された医薬方法および組成物は一般に、癌処置剤によるアポトーシスを低減し得る。インビトロアッセイによる測定で、本明細書に記載された医薬組成物のいずれかへの心筋細胞の暴露は、保護剤の非存在下で癌処置剤に暴露された心筋細胞に比較して、アポトーシスを100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、53%、52%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%も低減し得る。例えば、少なくとも48時間のドキソルビシン1μMとミリセチン115μMの共配合剤への心筋細胞の暴露は、ドキソルビシン1μMに暴露された心筋細胞に比較して、ミトコンドリア毒性を30%低減し得る。
【0127】
電気生理学的機能不全は、生体組織を通したイオンの流れを破壊する任意の損傷を指し得る。例えば、癌患者への化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)の投与は、急性心筋梗塞を起こして、イオンが損傷した心組織にもはや流れなくなり、伝導ブロックを生じ得る。幾つかの例において、電気生理学的機能不全は、QT時間の延長を含み得、インビボアッセイを利用して測定され得る。QT時間は、心電図におけるQ波の開始とT波の終了の間の時間を記載するために用いられ得る。QT延長は、心室再分極の遅延を示し得、心臓を早期後脱分極(EAD)に仕向けて、リエントリー性不整脈(例えば、トルサード・ド・ポアンツ)に導き得る。QT時間はまた、1つのQRS群の開始と次のQRS群の開始の間の時間量である心周期(RR)の長さに依存し得る。補正QT(QTc)時間は、周期長を説明するために補正されたQT時間を表すために用いられ得る。バゼットの式(QTc=QT/√RR)、フリデリシアの式(QTc=QT/3√RR)、または回帰分析法(QTc=QT+0.154(1-RR))は全て、QT時間からQTc時間を算出するために用いられ得る。
【0128】
患者への化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤の投与は、保護剤の非存在下での患者のベースラインQTc時間を超えるQTc延長を誘発し得る。患者のベースラインQTc時間は、任意の薬物の投与前に、患者で測定されたQTc時間である。例えば、保護剤の非存在下での患者への化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)の投与は、患者でのベースラインQTc時間を超える40ミリ秒(ms)のQTc延長を誘発し得る。幾つかの例において、特に保護剤の非存在下での、患者への化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤の投与は、患者のベースラインQTc時間を超える少なくとも1ms、2ms、3ms、4ms、5ms、6ms、7ms、8ms、9ms、10ms、15ms、20ms、25ms、30ms、35ms、40ms、45ms、50ms、55ms、60ms、65ms、70ms、75ms、80ms、85ms、90ms、95ms、または100msのQTc延長を誘発し得る。
【0129】
本明細書に記載された医薬組成物のいずれかの投与は、患者のベースラインQTc時間を超える患者に見舞われた癌処置剤によるQTc延長を限定し得る。例えば患者への化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)と保護剤(例えば、ミリセチン)の共配合剤の投与は、5ms未満のQTC延長を誘発し得る。幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、患者のベースラインQTc時間を超えるQTc延長の100ms、95ms、90ms、85ms、80ms、75ms、70ms、65ms、60ms、55ms、50ms、45ms、40ms、35ms、30ms、25ms、20ms、15ms、10ms、9ms、8ms、7ms、6ms、5ms、4ms、3ms、2ms、または1ms未満の増加を誘発し得る。
【0130】
幾つかの例において、電気生理学的機能不全ははまた、減少した電気活性を含み得、インビトロアッセイを利用して測定し得る。マルチ電極アレイ(MEA)は、細胞(例えば、心筋細胞)が接触し得る多平面導電性電極(multiple planar conductive electrodes)を含む機器である。MEAから測定された電気記録のサイズおよび形状は、複数の因子(例えば、細胞の均質性、細胞と電極の間の接触、MEAの幾何学的構造)に依存し得るが、時間的変化を電極により測定して、接触する細胞の電気的活性に関する情報(例えば、活性電極の割合%、フィールド電位間隔、および心拍数)を提供することができる。
【0131】
保護剤の非存在下での化学療法剤、生物製剤、または放射線療法剤への心筋細胞の暴露は、インビトロアッセイによる測定で、活性電極(例えば、接触する細胞からの幾つかの電気的活性を測定することが可能な電極)の割合%の一時的減少を誘発し得る。例えば少なくとも24時間のドキソルビシン1μMへの心筋細胞の暴露は、0時間目に比較して、活性電極の数の50%減少を誘発し得る。幾つかの例において、保護剤(例えば、ミリセチン)の非存在下での癌処置剤(例えば、ドキソルビシン)への心筋細胞の暴露は、インビトロアッセイによる測定で、活性電極数の100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、53%、52%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%もの減少を誘発し得る。特定の例において、少なくとも24時間のドキソルビシン1μMへの心筋細胞の暴露は、活性電極数の50%もの減少を誘発し得る。
【0132】
本明細書に記載された医薬方法および組成物は一般に、癌処置剤による電気生理学的機能不全(例えば、活性電極数の減少)を低減する。インビトロアッセイによる測定では、本明細書に記載された医薬組成物のいずれかへの心筋細胞の暴露は、保護剤の非存在下で癌処置剤に暴露された心筋細胞に比較して、活性電極数の1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%未満の減少を誘導し得る。例えば少なくとも24時間のドキソルビシン1μMとミリセチン100μMの共配合剤への心筋細胞の暴露は、活性電極数の5%未満の減少を誘導し得る。
【0133】
本明細書に記載された医薬方法および組成物は一般に、患者が癌処置剤の投与による心毒性に見舞われるリスクを低減する。幾つかの例において、本明細書に記載された医薬方法および組成物は、患者における心毒性のリスクを100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、53%、52%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%低減し得る。幾つかの例において、本明細書に記載された医薬方法および組成物は、患者における心毒性のリスクを10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%より多く低減し得る。例えば、患者が、保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)の非存在下で化学療法剤(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)を投与された時にQT延長に見舞われることに90%のリスクがある場合、該患者は、保護剤が化学療法剤と別個で、または共配合剤として投与された場合にQT延長のリスクの50%低減を受けて、結果的に患者のQT延長のリスクが45%になり得る。例えば、1つの特別な実施形態において、該患者は、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、またはイダルビシン)投与の少なくとも30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、または6時間前に、約0.5mg/kg~約100mg/kgの間の用量で保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)を静脈内投与され、その場合のQT延長のリスクが、保護剤を受けなかった対照に比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低減する。
【0134】
収縮性に及ぼすアントラサイクリンによる心毒性の影響はまた、収縮機能の指数である短縮率(FS)および駆出率(EF)を測定することによっても評定することができる。ドキソルビシンなどのアントラサイクリンは、収縮特性に顕著な影響を有し得る。しかし、式1または式2で示される保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)を投与された患者は、有意に低減された、例えばFSおよびEFの著しい改善により観察されたドキソルビシンによる心毒性に見舞われ得る。例えば、ミリセチンは、アントラサイクリンで処置されたが保護剤を投与されていない対照群に比較して、患者においてアントラサイクリンによるFSおよびEF機能不全を少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%救済し得る。
【0135】
数または数値範囲を参照する場合の用語「約」は、参照された数または数値範囲が実験変動性以内(または統計学的実験誤差以内)の近似値であり、したがってその数または数値範囲が、例えば挙げられた数または数値範囲の1%~10%の間で、変動し得ることを意味する。
【0136】
用語「治療有効量」は一般に、化合物または他の治療薬を必要とする対象に投与する場合、病気またはそのリスクを予防、低減、処置または排除するのに最小限に十分となる該化合物または他の治療薬の量(または用量)を指し得る。幾つかの例において、用語「治療有効量」は、対象に投与されると、防御的効果を有するのに十分な化合物または他の治療薬の量を指し得る。治療有効量は、変動し得、例えばそれは、対象の状態、対象の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与の手法などに応じて変動し得、それらは全て、当業者により決定され得る。
【0137】
組成物
本明細書に開示された医薬組成物は、式1または式2に開示された保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)を含み得る。該医薬組成物は、任意の組み合わせで1種または複数の保護剤を、任意の組み合わせで2種以上の薬剤を、任意の組み合わせで3種以上の保護剤を、または任意の組み合わせで4種以上の保護剤を含み得る。幾つかの例において、該医薬組成物は、少なくとも2種の保護剤(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリセチン(ミリシトリン)、デクスラゾキサン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)の共配合剤、または少なくとも1種の保護剤と癌処置剤(例えば、化学療法剤、生物製剤、プロテインキナーゼ阻害剤または放射線療法剤)との共配合剤であり得る。該医薬組成物中の該保護剤は、癌処置剤により誘導される心毒性を低減、排除または予防し得る。加えて該医薬組成物中の該保護剤はまた、癌処置剤による臓器損傷を低減、排除または予防し得る。一例において、本開示は、ミリセチンおよびデクスラゾキサンを含む共配合剤を提供する。別の例において、本開示は、化学療法剤ドキソルビシンおよびミリセチンを含む共配合剤を提供する。
【0138】
幾つかの例において、該組成物中の該保護剤の少なくとも1種は、フラボノイドまたはその誘導体であり得る。一般にフラボノイドは、2つのフェニル環および1つの複素環からなる15炭素骨格バックボーンの任意の化合物であり得る。フラボノイドは、非限定的にアントロキサンチン、フラバノン、フラボノール、フラバノノール、フラバン、アントシアナジン(anthocyanadins)、ビオフラボノイド、イソフラボノイド、イソフラボン、イソフラバン、イソフラバンジオール、イソフラベン、またはネオフラボノイドをはじめとする、以下の化合物類のいずれかに属し得る。フラボノイドの非限定的例としては、アヤニン、カルリノシド、ジヒドロダイドゼイン、ジヒドロオババチン(dihydroobavatin)、イリゲニン、イソアンヒドロイカリチン、イソクラリノン、イソキサントフモール、ガルデニン、ルピワイテオン、メトキシプエラリン、ミリフィシン、ミリセチン、ミリセトリン(ミリシトリン)、ジヒドロミリセチン、ピルロシド、ケンペロール、ケルセチン、スウェルチシン、シザルテリン、トリセチン、フィセチン、ロビネチン、ジヒドロロビネチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシル(hydoxyl)フラボン、5,7,3’,4’5’-ペンタヒドロキシ(hydoxy)フラボンまたはテベチアフラボンが挙げられる。一例において、本明細書に開示された医薬組成物は、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシル(hyodxy)フラボンおよびトリセチンなどのフラボンを含み得る。別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、ミリセチン、フィセチン、ロビネチン、ケルセチンおよびケンペロールなどのフラボノールを含み得る。別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、ミリセトリンを含み得る。追加の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、ジヒドロミリセチンおよびジヒドロロビネチンなどのフラバノロールを含み得る。さらに別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、デクスラゾキサンとフラボノイドミリセチンとの共配合剤を含み得る。特に該フラボノイドミリセチンは、心組織中の酵素活性を調節し得るタンパク質:ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(PDK4)の活性を改変することにより心臓のミトコンドリア毒性を調節し得る。
【0139】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、式1
【化10】
(式中、
X
1は、CR
5R
6、NR
5、O、S、C=O、またはC=Sであり;
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
9、およびR
10のそれぞれは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボン酸、エステル、アミン、アミド、カルボナート、カルバマート、ニトロ、チオエーテル、チオエステル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクリル、単糖、アリール、またはヘテロアリールであり、それらのいずれも置換または非置換であり、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり;
R
4、R
7およびR
8は、アルコキシ、ヒドロキシル、またはHであり;
W
1は、OまたはSである)に従う化合物、またはその塩を含み得る。
【0140】
幾つかの態様において、X1は、OまたはSであり得;R1、R2、R3、R9、およびR10のそれぞれは、独立して、アルコキシ、シクロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり得;R4、R7およびR8のそれぞれは、アルコキシ、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0141】
幾つかの態様において、X1は、Oであり得;R1、R2、R3、R9、およびR10のそれぞれは、独立して、アルコキシ、シクロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり得;R4、R7およびR8のそれぞれは、アルコキシ、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0142】
さらに別の態様において、X1は、Oであり得;R1およびR2のそれぞれは、独立して、ヒドロキシルまたはHであり得;R3、R9、およびR10のそれぞれは、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヒドロキシルまたはHであり得;R4は、ヒドロキシルであり得、R7およびR8は、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0143】
さらに別の態様において、X1は、Oであり得、R1は、ヒドロキシルであり得;R2およびR3のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R9およびR10は、Hであり得;R4は、ヒドロキシルであり得;R7およびR8は、ヒドロキシルまたはHであり得る。
【0144】
さらに別の態様において、X1は、Oであり、R1は、ヒドロキシルであり;R2およびR3のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R9は、ヘテロシクリルまたはHであり得;R10は、Hであり;R4は、独立して、ヒドロキシルまたはHであり得;R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。
【0145】
さらに別の態様において、X1は、Oであり、R1は、ヒドロキシルであり;R2およびR9のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得;R3は、シクロアルキル、ヒドロキシルまたはHであり得;R10は、Hであり;R4は、ヒドロキシルであり;R7およびR8のそれぞれは、独立してヒドロキシルまたはHであり得る。一実施形態において、R3のシクロアルキルは、単糖であり得る。
【0146】
特定の例において、該化合物は、以下の式のものであり得る:
【化11】
【0147】
特定の例において、該化合物は、ミリセチンであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、ロビネチンであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、トリセチンであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、フィセチンであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、ケンペロールであり得る。1つの特別な例において、該化合物は、ケルセチンであり得る。
【0148】
特定の例において、該医薬組成物中の保護剤は、以下の構造の化合物であり得る:
【化12】
【0149】
特別な例において、該医薬組成物中の保護剤は、以下の構造を有するビテキシンであり得る:
【化13】
【0150】
特定の実施例において、該化合物は、R
1がヒドロキシルであり、R
2がヒドロキシルであり、R
3が単糖であり、R
4がヒドロキシルであり、R
7がヒドロキシルであり、R
8がヒドロキシルであり、R
9がHであり、R
10がHであり、X
1がOであり、W
1がOである、式1に従う化合物、またはその塩であり得る。特定の例において、該化合物は、以下の式のものであり得る:
【化14】
【0151】
特定の例において、該化合物は、ミリセトリン/ミリシトリンであり得る。
【0152】
幾つかの例において、該単糖は、天然または非天然糖分子であり得る。単糖の非限定的例としては、グルコース、デキストロース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、デオキシリボース、D-アロース、L-アロース、D-アルトロース、L-アルトロース、D-フコース、L-フコース、D-グロース、L-グロース、D-ソルボース、D-タガトース、D-アラビノース、L-アラビノース、D-リキソース、L-リキソース、ラムノース、D-リボース、リブロース、スクロリブロース、D-キシロース、D-エリトロース、L-エリトロース、エリトルロース、D-トレオース、およびL-トレオースが挙げられる。
【0153】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、式2:
【化15】
(式中、
X
1は、CR
5R
6、NR
5、O、S、C=O、またはC=Sであり;
【化16】
は、単結合または二重結合を表し;
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
9、およびR
10のそれぞれは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボン酸、エステル、アミン、アミド、カルボナート、カルバマート、ニトロ、チオエーテル、チオエステル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクリル、単糖、アリール、またはヘテロアリールであり、それらのいずれも置換または非置換であり、ハロゲン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アジドまたはHであり;
R
4、R
7およびR
8は、ヒドロキシルであり;
W
1は、OまたはSである)に従う化合物またはその塩を含み得る。
【0154】
1つの特別な例において、式2の医薬組成物は、ジヒドロロビネチンを含み得る。
【0155】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物中の癌処置剤は、化学療法剤(例えば、アントラサイクリン系、プロテインキナーゼ阻害剤、およびプロテアソーム阻害剤)であり得る。一般に該化学療法剤は、患者または対象において心毒性を誘導する可能性がある薬物であり得る。アントラサイクリンの非限定的例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、またはバルルビシンを挙げることができる。プロテインキナーゼ阻害剤の非限定的例としては、チロシンキナーゼ阻害剤、アファチニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、カルフィルゾミブ、セリチニブ、コビメタニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イブルチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、オシメルチニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、トファシチニブ、テムシロリムス、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、またはビスモデギブを挙げることができる。心毒性を誘発するチロシンキナーゼ阻害剤の非限定的例としては、ダサチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、メシラート、ニロチニブ、ソラフェニブおよびスニチニブが挙げられる。プロテアソーム阻害剤の非限定的例としては、ボルテゾミブが挙げられる。
【0156】
幾つかの例において、本明細書に開示された医薬組成物は、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン)と、式1または式2で示される化合物(例えば、ミリセチン、ビテキシン、ロビネチン、トリセチン、フィセチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ジヒドロロビネチン、ミリシトリン、および/またはそれらの誘導体もしくは塩)との共配合剤を含み得る。例えば、該医薬組成物は、ドキソルビシンとミリセチンの共配合剤を含む。別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、プロテインキナーゼ阻害剤またはプロテアソーム阻害剤(例えば、アファチニブまたはボルテゾミブ)とミリセチンの共配合剤を含み得る。別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、チロシンキナーゼ阻害剤と保護剤の共配合剤を含み得る。一実施形態において、本明細書に開示された医薬組成物は、スニチニブとミリセチンの共配合剤を含み得る。別の例において、本明細書に開示された医薬組成物は、ソラフェニブとミリセチンの共配合剤を含み得る。
【0157】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物中の癌処置剤は、生物製剤(例えば、抗体)であり得る。生物製剤の非限定的例としては、アドトラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・チウキセタン、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、トシツモマブ-I131、またはトラスツズマブが挙げられる。例えば、本明細書に開示された医薬組成物は、ベバシズマブとミリセチンの共配合剤を含み得る。例えば、本明細書に開示された医薬組成物は、トラスツズマブとミリセチンの共配合剤を含み得る。
【0158】
本開示の化合物、またはその医薬的に許容できる塩は、1種または複数の不斉中心を含み得、したがって絶対立体化学に関して、アミノ酸の(R)-もしくは(S)-として、または(D)-もしくは(L)-として定義される鏡像異性体、ジアステレオマー、および他の立体異性体形態を生じ得る。本発明は、そのような可能な異性体の全て、およびそれらのラセミ体および光学的に純粋な形態を含むことを意味する。「立体異性体」は、同じ結合により結合された、同じ原子で構成されているが、互換性がない異なる三次元構造を有する、化合物を指す。本開示は、様々な立体異性体およびそれらの混合物を企図し、分子が互いの重ね合わせられない鏡像となる2つの立体異性体を指す「鏡像異性体」を包含する。光学活性の(+)および(-)、(R)-および(S)-、または(D)-および(L)-異性体は、キラルシントンもしくはキラル試薬を用いて調製され得る、または従来の技術、例えばクロマトグラフィーおよび分別結晶を利用して分解され得る。個々の鏡像異性体の調製/単離のための従来の技術としては、適切で光学的に純粋な前駆体からのキラル合成、または例えばキラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたラセミ体(または塩もしくは誘導体のラセミ体)の分解が挙げられる。本明細書に記載された化合物が、オレフィン性二重結合、または幾何学的不斉の他の中心を含む場合、そして他に断りがなければ、該化合物はEおよびZの両方の幾何異性体を含むものとする。
【0159】
所望なら、本開示の化合物の(R)-および(S)-異性体が存在する場合、それらは、当業者に公知の方法により、例えば結晶化により、例えば分離され得るジアステレオ異性体塩もしくは複合体の形成により;例えば結晶化、ガス-液体もしくは液体クロマトグラフィーにより、分離され得るジアステレオ異性体誘導体の形成を介して;例えば酵素酸化もしくは還元と、それに続く修飾および非修飾鏡像異性体の分離による、1種の鏡像異性体と鏡像異性体特異性試薬との選択的反応により;またはキラル環境、例えば結合されたキラルリガンドを有するシリカなどのキラル支持体上での、もしくはキラル溶媒の存在下での、ガス-液体または液体クロマトグラフィーにより、分解され得る。あるいは特異的鏡像異性体が、光学活性のある試薬、基質、触媒もしくは溶媒を用いた不斉合成により、または不斉転換で1つの鏡像異性体を他に変換することにより、合成され得る。
【0160】
化合物は、鏡像異性的に純粋な形態で投与され得る。幾つかの例において、該化合物は、約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%よりも大きな鏡像異性体過剰を有する。化合物は、ジアステレオマーとして純粋な形態で投与され得る。幾つかの例において、該化合物は、約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%よりも大きなジアステレオマー過剰を有する。
【0161】
立体中心は、カーン・インゴルド・プレローグ順位則を用いて定義され得る。化合物は、R-配置の立体中心を有し得る。化合物は、S-配置の立体中心を有し得る。
【0162】
幾つかの化合物は、多形を示し得る。本開示が本明細書に記載された有用な特性を有する、本開示の化合物の任意のラセミ体、光学活性体、多形もしくは立体異性形態、またはそれらの混合物を包含し、光学活性形態を調製する方法(例えば、ラセミ形態の分解による、再結晶化技術による、光学活性の出発原料からの合成による、キラル合成による、またはキラル固定相を用いたクロマトグラフィー分離による)が当該技術分野で周知であることが、理解されなければならない。
【0163】
特定の特別な実施形態において、本開示の1種を超える化合物が、対象に一度に投与され得る。幾つかの実施形態において、併用される本開示の2種の化合物が、相乗的または相加的に作用され得、一方の化合物が、単独で投与された場合よりも少量で使用され得る。
【0164】
特定の実施形態において、本明細書に開示された化合物および/またはその医薬組成物は、他の治療薬との併用療法で用いられ得る。本明細書に開示された化合物および/またはその医薬組成物と、該治療薬とは、相加的に、またはより好ましくは相乗的に作用し得る。幾つかの実施形態において、本明細書に開示された化合物および/またはその医薬組成物は、別の治療薬の投与と同時に投与される。例えば本明細書に開示された化合物および/またはその医薬組成物は、別の治療薬と一緒に投与され得る。別の実施形態において、本明細書に開示された化合物および/またはその医薬組成物は、別の治療薬の投与の前、または後に投与される。
【0165】
本開示の化合物、またはその医薬的に許容できる塩は一般に、治療有効量で投与される。実際に投与される該化合物の量は、処置される病気、選択された投与経路、投与された化合物およびその相対的活性、個々の患者の年齢、体重、応答、患者の症状の重症度などの関連の状況に照らして、医師または看護者により決定され得る。
【0166】
本開示はさらに、本明細書に記載された任意の化合物の塩を提供する。用語「塩」は、当該技術分野で周知の多種の有機および無機対イオンから得られる塩を指す。塩としては、例えば酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩を形成するために化合物に添加される酸は、有機酸または無機酸であり得る。塩を得ることができる無機酸としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。塩を得ることができる有機酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などが挙げられる。塩基付加塩を形成する化合物に付加される塩基は、有機塩基または無機塩基であり得る。幾つかの例において、塩は、金属塩であり得る。幾つかの例において、塩は、アンモニウム塩であり得る。塩を得ることができる無機塩基としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウムなどが挙げられる。塩を得ることができる有機塩基としては、例えば第一級、第二級および第三級アミン、天然由来の置換アミンをはじめとする置換アミン、環状アミン、塩基性イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0167】
酸付加塩は、本明細書に記載された化合物への酸の付加から生じ得る。幾つかの例において、該酸は、有機性であり得る。幾つかの例において、該酸は、無機性であり得る。適切な酸の非限定的例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、乳酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、酒石酸、アスコルビン酸、ゲンチジン酸、グルコン酸、グルカロン酸、サッカリン酸(saccaric acid)、ギ酸、安息香酸、グルタミン酸、パントテン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、グリコール酸、リンゴ酸、桂皮酸、マンデル酸、2-フェノキシ安息香酸、2-アセトキシ安息香酸、エンボン酸、フェニル酢酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、2-ホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸、グルコース-6-リン酸、およびアミノ酸が挙げられる。適切な酸付加塩の非限定的例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、炭酸塩、重炭酸塩、ニコチン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、ゲンチジン酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、サッカリン酸塩(saccarate salt)、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、パントテン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、メチルマレイン酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、2-フェノキシ安息香酸塩、2-アセトキシ安息香酸塩、エンボン酸塩、フェニル酢酸塩、N-シクロヘキシルスルファミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、エタン-1,2-ジスルホン酸塩、4-メチルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩、2-ホスホグリセリン酸塩、3-ホスホグリセリン酸塩、グルコース-6-リン酸塩、およびアミノ酸塩が挙げられる。
【0168】
金属塩は、本明細書に記載された化合物への無機塩基の付加から生じ得る。無機塩基は、例えば水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、またはリン酸イオンなどの塩基性対イオンと対合した金属陽イオンからなる。該金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、または典型元素金属であり得る。適切な金属の非限定的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、セリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、カルシウム、ストロンチウム、コバルト、チタン、アルミニウム、銅、カドミウムおよび亜鉛が挙げられる。適切な金属塩の非限定的例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、セリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、鉄塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、コバルト塩、チタン塩、アルミニウム塩、銅塩、カドミウム塩および亜鉛塩が挙げられる。アンモニウム塩は、本明細書に記載された化合物へのアンモニアまたは有機アミンの付加から生じ得る。適切な有機アミンの非限定的例としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ピペリジン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン、ジベンジルアミン、ピペラジン、ピリジン、ピラゾール、ピピラゾール(pipyrrazole)、イミダゾール、ピラジン、ピピラジン(pipyrazine)、エチレンジアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、プロカイン、クロロプロカイン、コリン、ジシクロヘキシルアミン、およびN-メチルグルカミンが挙げられる。適切なアンモニウム塩の非限定的例は、トリエチルアミン塩、ジイソプロピルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、N-メチルモルホリン塩、ピペリジン塩、N-メチルピペリジン塩、N-エチルピペリジン塩、ジベンジルアミン塩、ピペラジン塩、ピリジン塩、ピラゾール塩、ピピラゾール塩(pipyrrazole salt)、イミダゾール塩、ピラジン塩、ピピラジン塩(pipyrazine salt)、エチレンジアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、プロカイン塩、クロロプロカイン塩、コリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、およびN-メチルグルカミン塩であり得る。
【0169】
用語「医薬的に許容できる担体」または「医薬的に許容できる賦形剤」は、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。医薬活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。任意の従来の媒体または薬剤は、有効成分と不適合である場合を除き、本開示の医薬組成物中での使用が企図される。補助的有効成分もまた、該組成物に組み込まれ得る。
【0170】
用語「医薬的に許容できる賦形剤」は、意図する機能の性能を促進する化合物と共投与され得るビヒクルおよび担体を包含するものとする。医薬活性物質のためのそのような媒体の使用は、当該技術分野で周知である。そのようなビヒクルおよび担体の例としては、溶液、溶媒、分散媒、遅延剤、エマルジョンなどが挙げられる。多重結合化合物との使用に適した任意の他の従来の担体もまた、本開示の範囲に含まれる。
【0171】
本開示の組成物を作製する際、有効成分を賦形剤により希釈することができる。適切な賦形剤の幾つかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、PEG、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、滅菌生理食塩水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。該配合剤は、追加的に滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油;湿潤剤、乳化および懸濁剤;防腐剤、例えばメチル-およびプロピルヒドロキシ安息香酸塩;甘味剤;ならびに香味剤を含み得る。本開示の組成物は、当該技術分野で公知の手順を利用することにより患者への投与後の有効成分の急速放出、持続放出または遅延放出を提供するように配合することができる。
【0172】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、該医薬組成物の長期保存を提供すること、強力な有効成分を含有する配合剤をひとまとめにすること、薬物吸収を促進すること、粘度を低減すること、香味を添加すること、または溶解度を上昇させることを可能とする賦形剤を含み得る。賦形剤の非限定的例としては、抗接着剤、結合剤(例えば、スクロース、ラクトース、デンプン、セルロース、ゼラチン、またはポリエチレングリコール)、コーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはゼラチン)、崩壊剤、色素、香味(例えば、ミント、ピーチ、ラズベリー、またはバニラ)、滑剤、滑沢剤、防腐剤(例えば、酸、エステル、フェノール類、水銀含有化合物、またはアンモニウム化合物)、吸着剤、またはビヒクル(例えば、石油または鉱物油)を挙げることができる。
【0173】
配合剤
本明細書に開示された医薬組成物は、式1または式2で示される化合物を含む固体配合剤をはじめとする任意のタイプの配合剤であり得る。
【0174】
幾つかの例において、該固体配合剤は、単独で配合された、または化学療法剤もしくは生物製剤と組み合わせて配合された少なくとも0.01mg、0.1mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、または1000mgの式1または式2で示される1種または複数の保護剤を含む。
【0175】
幾つかの例において、該固体配合剤は、少なくとも0.1mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1g、5g、10g、25g、50gまたは100gの1種または複数の保護剤(例えば、ミリセチン、および/またはその誘導体もしくは塩)を含み得る。例えば、本明細書に記載された医薬組成物は、ミリセチン(100mg用量のうちの75g)とドキソルビシン(100mg用量のうちの25mg)の固体共配合剤100mgであり得る。
【0176】
幾つかの例において、該固体配合剤(または他のタイプの配合剤)は、少なくとも0.1mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、または1000mgのデクスラゾキサンを含み得る。例えば、本明細書に記載された医薬組成物は、ミリセチン(100mg用量のうちの75mg)とデクスラゾキサン(100mg用量のうちの25mg)の固体共配合剤100mgを含み得る。
【0177】
本明細書に開示された医薬組成物は、液体配合剤であり得る。幾つかの例において、該液体配合剤は、単独で配合された、または化学療法剤もしくは生物製剤と組み合わせて配合された少なくとも0.1mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、300mg/ml、350mg/ml、400mg/ml、450mg/ml、500mg/ml、550mg/ml、600mg/ml、650mg/ml、700mg/ml、750mg/ml、800mg/ml、850mg/ml、900mg/ml、950mg/ml、または1000mg/mlの濃度の式1または式2で示される1種または複数の保護剤(複数可)を含み得る。例えば、本明細書に記載された医薬組成物は、100mg/mL濃度の保護剤ミリセチンと、50mg/mL濃度のドキソルビシンと、を含み得る。
【0178】
幾つかの例において、該液体配合剤は、少なくとも0.1mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、300mg/ml、350mg/ml、400mg/ml、450mg/ml、500mg/ml、550mg/ml、600mg/ml、650mg/ml、700mg/ml、750mg/ml、800mg/ml、850mg/ml、900mg/ml、950mg/ml、または1000mg/mlの濃度のミリセチン、またはその誘導体もしくは塩を含み得る。例えば、本明細書に記載された医薬組成物は、100mg/mLの濃度のミリセチンを含み得る。
【0179】
幾つかの例において、該液体配合剤は、少なくとも0.1mg/ml、1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、300mg/ml、350mg/ml、400mg/ml、450mg/ml、500mg/ml、550mg/ml、600mg/ml、650mg/ml、700mg/ml、750mg/ml、800mg/ml、850mg/ml、900mg/ml、950mg/ml、または1000mg/mlの濃度の、1種または複数の保護剤と共配合されたデクスラゾキサンを含み得る。
【0180】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、少なくとも2種の保護剤を含み得る。1種の保護剤と少なくとも1種の他の保護剤とのモル比は、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:20、約1:30、約1:40、約1:50、約1:60、約1:70、約1:80、約1:90、約1:100、約1:1,000、約1:10,000、または約1:>10,000であり得る。
【0181】
幾つかの例において、本明細書に記載された医薬組成物は、癌処置剤(例えば、化学療法剤または生物製剤)および少なくとも1種の保護剤を含み得る。癌処置剤と少なくとも1種の他の保護剤とのモル比は、約>10,000:1、約10,000:1、約1,000:1、約100:1、約90:1、約80:1、約70:1、約60:1、約50:1、約40:1、約30:1、約20:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:20、約1:30、約1:40、約1:50、約1:60、約1:70、約1:80、約1:90、約1:100、約1:1,000、約1:10,000、または約1:>10,000であり得る。
【0182】
キット
幾つかの例において、本明細書に開示された医薬組成物は、キットに構成させられ得る。幾つかの例において、該キットは、キット内の別の物体として、または共配合剤として存在し得る保護剤を含み得る。例えば該キットは、ミリセチン、トリセチン、ロビネチン、フィセチン、ビテキシン、ジヒドロロビネチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびデクスロゾキサン(dexrozoxane)からなる群から選択される1種または複数の保護剤を含み得る。幾つかの例において、該キットは、キット内の別の物体として、または共配合剤として存在し得る少なくとも2種の保護剤を含み得る。例えば該キットは、ミリセチン、トリセチン、ロビネチン、フィセチン、ビテキシン、ジヒドロロビネチン、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボン、ミリシトリン、およびデクスロゾキサンからなる群から選択される少なくとも2種の保護剤を含み得る。特別な例において、該キットは、ミリセチンとデクスラゾキサンの共配合剤を含み得る。幾つかの例において、該キットは、キット内の別の物体として、または共配合剤として存在し得る、癌処置剤および少なくとも1種の保護剤を含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、ミリセチンおよび/またはその誘導体とを含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、ロビネチンおよび/またはその誘導体とを含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、ジヒドロロビネチンおよび/またはその誘導体とを含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、トリセチンおよび/またはその誘導体とを含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、フィセチンおよび/またはその誘導体とを含み得る。例えば該キットは、癌処置剤と、7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンおよび/またはその誘導体とを含み得る。
【0183】
一実施形態において、該キットは、ドキソルビシンとミリセチンの共配合剤を含み得る。
【0184】
幾つかの例において、該キットはまた、使用説明書を含み得る。該キットはまた、バイアル、試験管、針、包装、または他の材料を含み得る。
【0185】
通常は経口または注射用用量での、本明細書に記載された化合物の1種または複数の単位用量を含むキットが、提供される。そのようなキットは、単位用量を含むコンテナ、疾患を処置する際の薬物の使用および付帯利益を説明した情報の包装挿入物、および場合により該組成物の送達のための器具または機器を含み得る。
【0186】
該キットは、該組成物の投与に適した任意の機器をさらに含み得る。例えば、医薬組成物の注射可能な配合剤を含むキットは、皮下投与に適した針、および注射部位の滅菌のためのアルコールワイプを含み得る。
【0187】
幾つかの例において、キットは、説明書と共に提供され得る。該説明書は、キット内に提供され得るか、またはそれは、電子的にアクセスされ得る。該説明書は、本開示の組成物を使用する方法についての情報を提供し得る。該説明書はさらに、本開示の機器を使用する方法についての情報を提供し得る。該説明書は、本開示の方法を実施する方法についての情報を提供し得る。幾つかの例において、該説明書は、投与情報を提供し得る。該説明書は、作用機序、薬物の配合、有害なリスク、禁忌などの薬物情報を提供し得る。幾つかの例において、該キットは、医院または病院での投与のための医師または医療提供者により購入される。幾つかの例において、該キットは、研究所により購入され、候補化合物をスクリーニングするために用いられる。
【0188】
実施例
実施例1.ミリセチンは長期心保護を提供する(細胞生存率)
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を72時間、偽処置するか、1.25μMドキソルビシンで処置するか、ミリセチンで処置するか、または1.25μMドキソルビシンとミリセチンで同時処置した。処置後に、試料を、細胞核を示すHoeschst 33342と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像し、画像を分析して細胞総数を定量し、対照に対して正規化された細胞総数に対する割合としてプロットした(各データポイントは、3つの生物学的反復測定から得た)(左)。代表的画像(
図3の右)を各試料で示しているが、Hoechst 33342シグナルの上昇は、イオン細胞生存率の上昇を表している。
【0189】
心筋細胞を72時間、偽処置されるか、1.25μMドキソルビシンで処置されるか、ミリセチンで処置されるか、または1.25μMドキソルビシンおよびミリセチンで同時処置し、次に染色して細胞総数を検出した(
図3)。ミリセチンは、細胞生存性の強力な保護剤であった。ミリセチンの非存在下で1.25μMドキソルビシンにより処置された心筋細胞は、偽処置対照に比較して、細胞総数の62.6%減少を示したが、ミリセチンと1.25μMドキソルビシンで同時処置された心筋細胞は、細胞総数の27.57%減少を示した。ドキソルビシンの非存在下でミリセチンにより処置された心筋細胞は、偽処置対照に比較して細胞総数の有意差を示さなかった。エラーバーは、標準偏差を表す。代表的画像を、各試料で示しているが、Hoechst 33342シグナルの上昇は、細胞生存率の上昇を表している。ミリセチンの非存在下で1.25μMドキソルビシンにより処置された心筋細胞(
図3の右:下左図)は、偽処置対照(
図3右:上左図)に比較して、Hoechst 33342シグナルの低下を示したが、79μMミリセチンと1.25μMドキソルビシンで同時処置された心筋細胞(
図3右:下右図)は、Hoechst 33342シグナルのより少ない低下を示した。ドキソルビシンの非存在下でミリセチンにより処置された心筋細胞(
図3右:上右図)は、偽処置対照に比較して、Hoechst 33342シグナルの有意差を示さなかった。
【0190】
実施例2.処置後2日間のドキソルビシンによる心毒性に及ぼすミリセチンの影響(ミトコンドリア毒性)
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、ヒトiPSC由来心筋細胞を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。心筋細胞を2日間、1.25μMドキソルビシンで処置するか(
図4A)、または1.25μMドキソルビシンと79μMミリセチンで同時処置した(
図4B)。処置後に、試料を、ミトコンドリア健常性を示すテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)色素、および細胞核を同定するHoechst 33342と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像した。代表的な画像を各試料で示しているが、TMRMシグナルの低下は、ミトコンドリア毒性の増加を示す。ミリセチンの非存在下で1.25μMドキソルビシンにより処置された細胞(
図4A)に比較して、1.25μMドキソルビシンと79μMミリセチンで同時処置された細胞(
図4B)でTMRMシグナルがより大きかったことに示される通り、ミリセチンは、ドキソルビシンによるミトコンドリア毒性に対して強力な保護剤となった。
【0191】
実施例3.処置後3日間のドキソルビシンによる心毒性に及ぼすミリセチンの影響(収縮性)
ヒトiPSC由来心筋細胞を、上記の通り調製した。試料を72時間、偽処置するか、1.25μMドキソルビシンで処置するか、79μMミリセチンで処置するか、または1.25μMドキソルビシンと79μMミリセチンで同時処置した。処置後に、Pulseを用いて拍動する心筋細胞のビデオを撮影し、分析して細胞収縮のプロットから心拍数を定量した(
図5左)(各データポイントは、3つの生物学的反復測定から得た)。細胞収縮の代表的なプロット(
図5右)を、各試料で示している。ミリセチンは、細胞収縮性の強力な保護剤であった。偽処置心筋細胞は、1分あたり33.33回収縮したが、ミリセチンの非存在下での1.25μMドキソルビシンによる処置は、収縮を完全に阻害した。ミリセチンで処置された、またはミリセチンと1.25μMドキソルビシンで同時処置された心筋細胞は、それぞれ1分あたり39.33または37.33回収縮した。
図6A~Cは、
図3に示された実験の生データ(6A)もしくは正規化データ(6B)、または
図5に示された実験の生データ(6C)を提供するチャートを示す。
【0192】
実施例4.処置後3日間のドキソルビシンによる心毒性に及ぼす様々なフラボノールおよびフラボンの影響(アポトーシス)
心筋細胞を、上記の通り調製した。細胞を3日間、1μMのドキソルビシンと、ミリセチン(
図7A)、ミリセトリン(
図7B)またはジヒドロミリセチン(
図7C)のいずれかと、で同時処置した。処置後に、試料を、アポトーシス陽性細胞を示すCellEvent色素、および細胞核を同定する第二の色素と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像し、画像を分析して、アポトーシス細胞の割合%を定量した。データは、2つの独立したスクリーニングセットから示され、各データポイントは、三重測定から得られた。
【0193】
ドキソルビシンと、ミリセチン(
図7A)、ミリシトリン(
図7B)またはジヒドロミリセチン(
図7C)のいずれかと、で同時処置された心筋細胞は、アポトーシスに対して保護効果を示し、最小半数阻害濃度(half minimal inhibitory concentrations)(IC50;例えば、50%アポトーシスを誘導する薬物濃度)はそれぞれ20.46μM、38.48μM、40.48μMであった。
【0194】
実施例5.ミリセチンは心筋細胞のDOX細胞障害性を低減する
DOXによる細胞障害性に対するMYRの影響を評定するために、ヒトiPSC由来心筋細胞を72時間、偽処置するか(三角形)、または100μMミリセチン(MYR;円形)および上昇濃度のドキソルビシン(DOX)で処置し、その後、ミトコンドリア健常性を示す色素(TMRM、Life Technologies)および細胞核を示す色素(Hoechst33342、Life Technologies)と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200(GE)を用いて、細胞を撮像した。健常細胞の総数を計数し、偽処置対照に対する割合%としてプロットした。ドキソルビシンにより細胞の50%が死滅された致死濃度(LC50)は、iPSC心筋細胞で偽処置の0.41μMからMYR処置状態の1.29μMにシフトした(
図8)。データは、複数の独立したスクリーニングセットから示され、各データポイントは、三重測定(n=3)から得られた。Y軸:細胞生存率の割合%;X軸:上昇濃度のDOX(
図8)。
【0195】
実施例6.ミリセチンは心筋細胞のDOXによる細胞死に対して保護する
心筋細胞のDOXによる細胞死からの救済率を測定するために、ミリセチンの保護効果を、デクスラキソザン(DEX;標準治療)と直接比較した。ヒトiPSC由来心筋細胞を、0.5μMドキソルビシンと、上昇濃度のミリセチン(MYR、円形)またはデクスラキソザン(DEX、正方形)で処置した。処置の72時間後に、細胞を、ミトコンドリア健常性を示す色素(TMRM、Life Technologies)および細胞核を示す色素(Hoechst33342、Life Technologies)と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200(GE)を用いて、細胞を撮像した。健常細胞の総数を計数し、ドキソルビシン処置対照に対する割合%としてプロットした。MYRの半数効果濃度(EC50)は、7.50μMであった(
図9)。これに対してDEXは、DOXによる細胞障害性からの任意の有意な救済を示さなかった(n=3)。
【0196】
実施例7.ミリセチンは心筋細胞のDOXによる収縮不全およびDNA二本鎖切断に対して保護する
心臓細胞の収縮性に及ぼすミリセチンの保護効果を評定するために、人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養して、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。ヒトiPSC由来心筋細胞をその後、DMSO、DOX(0.5μM)、DOX+DEX(100μM)、またはDOX+MYR(100μM)で処置した。処置の48時間後に、拍動する心筋細胞のビデオを、Pulse(Cellogy)で撮影した。拍動、持続時間、およびピーク高の減少により示される通り、DOX処置は、心筋細胞収縮の機能不全を誘導した。この収縮機能不全は、DEXに比較して、MYRにより有意に修正された(
図10)。データは、複数の独立した実験セットから示され、各データポイントは、6つの試料(n=6)から得られた。スチューデントT検定(対応のない両側検体)を利用して、差の有意性を決定した。
【0197】
MYRが細胞においてDOXによるDNA二本鎖切断に対して保護するか否かを決定するために、ヒトiPSC由来心筋細胞をその後、DMSO、DOX(0.5μM)、DOX+DEX(100μM)、またはDOX+MYR(100μM)で処置した。処置の48時間後に、細胞をγH2AXに対する抗体(EMD Millipore)で免疫染色して、二本鎖切断を検出した。その後、INCell Analyzer2200(GE)を用いて細胞を撮像し、γH2AX陽性細胞の割合%を、各条件について定量した。DEXは、テストされた心臓細胞においてDOXによる二本鎖切断への保護をほとんど、または全く示さなかったが、MYRは、DOX関連DNA損傷からの有意な保護を付与した(
図11)。スチューデントT検定(対応のない両側検定;n=6)。
【0198】
実施例8.MYRはDOXによるサルコメア破壊に対して保護する
DOXによる細胞死は多くの場合、心筋細胞組織化(例えば、サルコメア)の構造破壊の重症度により発現される。DOXによるサルコメア破壊に対するMYRの保護効果を評定するために、ヒトiPSC由来心筋細胞を、DMSO、DOX(0.5μM)、またはDOX+MYR(100μM)で処置した。処置の72時間後に、心臓細胞のサルコメア組織化を示すCardiac Troponin Tに対する抗体(Abcam)で、細胞を免疫染色した。
図12に示される通り、MYRは、心筋細胞のDOXによるサルコメア破壊に対して有意な保護を付与しており、DOXによる細胞死に対するMYRの保護効果が、心筋細胞の構造的完全性により十分に発現されることが示唆された。
【0199】
実施例9.ミリセチンはTOPOIIαおよびβの強力な阻害剤である
心保護に及ぼすミリセチン(MYR)の分子機構およびデクスラキソザン(DEX)の分子機構への見識を高めるために、DOXの明白な標的であるトポイソメラーゼII(即ち、TOPOIIαおよびβ)に及ぼすこれらの2種の化合物の影響を評定した。
【0200】
キネトプラストDNA(kDNA)200ngを、1酵素単位のTOPOIIαまたはTOPOIIβ酵素(Inspirals)、および様々な濃度のMYRまたはDEXと共に37℃で30分間インキュベートした。その後、脱連環されたDNA(下のバンド)の視覚化のために、この反応物を1%アガロースゲルで分離した。バンドの相対強度を測定することにより、触媒阻害の効率を定量した。
【0201】
MYRおよびDEXは、それぞれ1.18μMおよび52.70μMの濃度でTOPOIIα酵素活性の50%阻害(IC50)を示した(
図13;n=3)。MYRおよびDEXでのTOPOIIβ酵素活性のIC50は、それぞれ2.07μMおよび34.43μMであった(
図13;n=3)。データから、MYRがトポイソメラーゼIIαおよびβの両方でDEXよりも有意に強力な阻害剤であることが示唆される。
【0202】
実施例10.MYRは、DEXとは異なり、TOPOIIタンパク質分解を誘導しない
MYRの分子機構とDEXの分子機構をさらに識別するため、そして先の脱連環アッセイで観察されたTOPOIIに及ぼすMYRの阻害効果がTOPOIIタンパク質の分解によるものか否かを決定するためにも、ヒトiPSC由来心筋細胞を、DMSO、DEX(100μM)、またはMYR(100μM)で24時間処置し、トポイソメラーゼIIβに対する抗体(BD Biosciences)で免疫染色した。
【0203】
INCell Analyzer2200(GE)を用いて細胞を撮像し、トポイソメラーゼIIβタンパク質レベルを定量した。スチューデントT検定(対応のない両側検定)を利用して、差の有意性を決定した。
【0204】
図14に示される通り、DEXでの処置は、iPSC-CMにおいてTOPOIIβの著しい消失をもたらしたが、MYRは、トポイソメラーゼIIβタンパク質レベルに及ぼす影響を発揮しなかった(
図14)(n=3)。結果から、DEXがトポイソメラーゼIIβ(TOPOIIβ)の安定性にマイナス効果を示す可能性があり、それが心臓細胞からのこれらの酵素の欠損を導いて、アントラサイクリンによるこれらの酵素への有毒作用により生じるDNA損傷の予防を効果的にもたらし得るという仮説が確認された。これらの結果から、MYRがアントラサイクリンによる毒性からの保護を付与する機構が、全体として独立しており、DEXの機構と識別され得ることも確認された。さらに、トポイソメラーゼ阻害で観察されたMYRの影響は、心臓細胞に及ぼすDOXの脆弱化効果からのTOPOIIβタンパク質分解または該酵素の欠損によるものではない。特にTOPOII酵素の安定性に影響を及ぼすことのない、トポイソメラーゼII活性の阻害が、心保護を付与するMYRの能力にとって重要な要因であると結論づけることができる。
【0205】
実施例11.DHMまたはDHRのいずれもTOPOIIαまたはTOPOIIβを阻害しない
DOXによる毒性に対する心保護を付与するMYRの能力は、DEXと独立しているため、他のフラボノイド化合物がMYRのようなトポイソメラーゼII活性に類似の影響を有するか否かを決定するためにさらに調査した。
【0206】
最初に、MYR(フラボノール)およびジヒドロミリセチン(フラバノノール)を、トポイソメラーゼII酵素機能に及ぼす阻害効果についてテストした。ジヒドロミリセチン(DHM)は、フラボノイド骨格の主なC環の中の単結合の存在以外は、類似の化学構造を共有する。
【0207】
キネトプラストDNA(kDNA)200ngを、1酵素単位のTOPOIIβおよび異なる濃度のMYR(円形)またはDHM(三角形)と共に37℃で30分間インキュベートした(
図15)。その後、脱連環されたDNA(下のバンド)の視覚化のために、この反応物を1%アガロースゲルで分離して、バンドの相対強度を測定することにより、触媒阻害の効率を定量した。驚くべきことに、DHMは、極度に高い濃度(>200μM)であっても、TOPOIIβ(n=3)(
図15)またはTOPOIIα酵素活性を阻害しなかった。
【0208】
さらにDHMについてのこの結果は、ジヒドロロビネチン(DHR)およびロビネチン(ROB)での別個の実験で確認され、その中でDHRはDHMと同様に、これらのトポイソメラーゼに対する阻害活性を示さず、ロビネチンはMYRと同様に、TOPOIIβおよびTOPOIIαの両方に対して高レベルの阻害を示した。これらのデータから、フラボン/フラボノイド骨格のC環における構造的差異がTOPOII阻害において重要な役割を担うことが示される。
【0209】
実施例12.MYRはDOXによる細胞死の保護がDHMの2倍強力である
次に、MYRおよびDHMは、これらの構造およびTOPOII阻害活性において特有の性質を示すため、心保護を付与するMYRの能力を、DHMの能力と直接比較した。人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。ヒトiPSC由来心筋細胞を、0.5μMドキソルビシンと、上昇濃度のミリセチン(MYR、円形)またはジヒドロミリセチン(DHM、三角形)で処置した。処置の72時間後に、細胞を、ミトコンドリア健常性および細胞核を示す色素と共にインキュベートした。その後、細胞を撮像し、健常細胞の総数を計数し、先に記載された通りドキソルビシン処置対照に対する割合%としてプロットした。
【0210】
図16に示される通り、MYRおよびDHMの半数効果濃度(EC50)は、それぞれ7.50μMおよび13.96μMであったため(n=3)、MYRは、DOXによる細胞死の保護においてDHMの2倍大きな能力を示した。これらの結果に基づき、フラボン/フラボノイド骨格のC環における二重結合が、トポイソメラーゼIIへの阻害効果を付与することにより、心保護特性の能力を増強すると結論づけられた。
【0211】
これらの観察を、DOXによるDNA二本鎖切断アッセイによって追跡調査した。ヒト心筋細胞を、0.5μMドキソルビシンと、上昇濃度のMYR(円形)またはDHM(三角形)で処置した。処置の48時間後に、細胞をγH2AXに対する抗体(EMD Millipore)で免疫染色し、DNA二本鎖切断を検出した。INCell Analyzer2200(GE)を用いて細胞を撮像し、γH2AX陽性細胞の割合%を、各条件について定量した。MYRは、細胞死救済率と一致して、DOXによる二本鎖切断の保護がDHMの2倍強力であった。DOXによる二本鎖切断をMYRおよびDHMで50%に低下させる濃度(IC50)は、それぞれ5.28μMおよび11.30μMであった(
図17)(n=3)。
【0212】
ドキソルビシンに暴露された心筋細胞に及ぼすミリセチンの影響を調査するために、mRNA発現レベルを、DOXのみ、ミリセチンのみ、およびDOX+ミリセチンで処置された細胞において計測した。驚くべきことに、ミリセチンは、それ自体はTOPOIIβ mRNA発現にいずれの影響も有さなかったが、DOXは、24および48時間目にTOPOIIβ発現を有意に抑制した(
図18)。しかし、ミリセチンの存在下では、TOPOIIβ発現は、ミリセチンにより正常に近いレベルまで回復され、DOXによる任意の転写改変が効果的に予防された(
図18)。このデータから、TOPOIIβ発現に及ぼすDOXとミリセチンとの相乗効果が存在し得ることが示唆された。TOPOIIαの発現に関しては、DOXは、経時的にTOPOIIαの発現を緩徐に抑制した。しかしDOXの存在下では、ミリセチンは、TOPOIIαをさらに抑制しており、分子および細胞レベルでのこれらのトポイソメラーゼIIに及ぼすミリセチンの差示的影響が示唆された。TOPOIIαにおけるミリセチンとDOXの併用での下方制御効果は、DOXのみで観察されたものよりも大きい。
【0213】
実施例13.MYR類似体の心保護特性
構造(例えば、フラボン/フラボノール骨格)と生物活性(例えば、心保護、TOPOII阻害など)の関連性をさらに調査するために、ミリセチンに関係する追加的フラボノイド化合物の群を同定して、それらの活性をテストした。
【0214】
I.TOPOII阻害を介した心保護特性を有するフラボノイドの同定
アントラサイクリンによる心毒性は、ドキソルビシンなどの薬物が、トポイソメラーゼII酵素によるDNAの断裂の際にDNAに挿入され、それによりTOPOIIαまたはβが断裂されたDNA鎖を互いに再度ライゲートするのを効果的に防止する時に生じる。それゆえ、トポイソメラーゼIIαおよびβ(TOPOIIαおよびTOPOIIβ)阻害を介するフラボノイドの心保護特性に基づいて、作業仮説が提案された。
【0215】
MYR骨格のヒドロキシル置換基についての系統的研究を、生物活性のために実施した。その目的は、どの置換基(例えば、ヒドロキシル、アルコキシルまたは複素環)が様々な位置に必要となるかを同定するために、そしてどの化学構造(複数可)が心保護剤に必須の成分であるかを決定するために、MYR周辺の化学的空間を探索することであった。
【0216】
生物活性に関連して、生化学的脱連環アッセイを先に記載された通り用いて、TOPOIIαおよびTOPOIIβ阻害を評定した。ドキソルビシン処置ヒトiPSC由来心筋細胞を利用して、心筋細胞上のこれらの類似体の保護効果を測定した。
【化17】
【0217】
改変されていないフラボンから出発して、3、5、7、3’、4’、または5’位に存在する、またはそこから欠失したヒドロキシル置換基を備えた48種のミリセチン類似体化合物を同定した(ミリセチンは、6つのヒドロキシル置換基全てが存在する化合物である)。48種のミリセチン類似体に加えて、クロモンは、フラボンのB環が欠如し、ジヒドロミリセチンおよびジヒドロロビネチン(DHR)は、両者ともC環の二重結合が不足している。
【0218】
置換基は、ビテキシンと同様にA環上の8位および/または6位で、そしてC環上の2’位および/または6’位でもフラボン骨格に組み込まれ得るため、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキルおよび複素環、ハロゲン化物が、分析用に企図された。この研究には、3、5、7、3’、4’、および/または5’位のアルコキシ(特にメトキシ)、アルキル(メチル)、複素環、またはハロゲン化物など、MYR骨格(式1)中に存在するヒドロキシル置換基以外の化学的部分も含まれた。
【0219】
この研究により、エンドポイント活性に必要なMYR骨格に基づく最小構造の同定を導いた。心保護の生物活性(例えば、TOPOIIβ阻害、およびDNA二本鎖切断)のために選択された3、5、7、3’、4’、5’位のヒドロキシル基の特異的組み合わせを有する化合物のうち、3、5、7、3’、4’、5’位に存在する、またはそこから欠失した置換基の特異的組み合わせを有する特定の化合物群が、細胞障害性の低い心保護剤としての生物学的性質に不可欠であることが見出された。
【表1】
+ 各生物学的特性に対してプラス効果を示した化合物
- 各生物学的特性に対してマイナス効果を示した化合物
† 最初のスクリーニングで10μMまたは100μMで最大保護効果の30%を超えることができなかった化合物
* 100μMで細胞障害性を示した化合物
N/A 化合物が細胞障害性を示し、心保護活性を示さなかったため、実験を実施しなかった
【0220】
TOPOIIβ阻害および心保護効果のためのヒドロキシル置換基の最小要件
先の表1に示された通り、TOPOIIβ阻害剤(1~5)の共通の特徴により、フラボノイド化合物がTOPOIIβを阻害するために3、7、3’、および4’位でヒドロキシル置換基が必要となるという推論が可能になった。唯一の例外が、3-ヒドロキシル置換基を有さないトリセチン(3)であり、他の4種のTOPOIIβ阻害剤は全て、3、7、3’、および4’位にヒドロキシル置換基を有する。さらに、先の表1の心保護化合物(1~12)の共通の特徴により、心保護活性のためにB環の4’ヒドロキシル置換基が、3、7、および3’位の他の3つのヒドロキシル置換基のうちの2つと共に本質的特徴であり得、7位のヒドロキシルが好ましい、という推論が可能になったが、唯一の例外が、3および7位にヒドロキシルを有さないが、B環の3’、4’、および5’位の3つのヒドロキシル置換基全てを有する化合物8である。さらに、被験化合物の毒性を考慮すると(表1参照)、B環の3つの3’、4’、および5’ヒドロキシル置換基の全てを有する心保護化合物(1~12)は、100μM未満の濃度で毒性作用を示さないが、3’および4’位のみにヒドロキシル置換基を有するそれらの心保護化合物は、100μM未満の濃度で実際に毒性作用を示す、という傾向を推測することができる。再び、この傾向の1つの例外が、B環の3つのヒドロキシル置換基全てを含みながら100μM未満の濃度で若干の毒性作用を示すトリセチン(3)であった。B環に4’ヒドロキシル置換基を有するのみの2種の心保護化合物(ケンペロール7およびレソケンペロール10)のうち、ケンペロールは、100μM未満で毒性作用を示さなかったが、レソケンペロールは、100μM未満の濃度で毒性作用を示した。この分析に基づき、以下のように結論づけられた:
(1)心保護については、B環の4’ヒドロキシル置換基が、以下のもの(a)3、7、および3’位の3つのヒドロキシル置換基のうちの2つであり、7位が好ましい、または(b)B環の3’、4’、および5’位の3つのヒドロキシル置換基全て、のうちの一方と共に必要となる;
(2)心毒性については、100μM未満の濃度で毒性作用を緩和するために、B環の3’、4’および5’ヒドロキシル置換基がB環の3’および4’ヒドロキシル置換基よりも、またはA/C環系の3つの3、5、および7ヒドロキシル置換基全てとB環の4’ヒドロキシルのみよりも好ましい;そして
(3)TOPOIIβ阻害については、3、7、3’および4’位の4つのヒドロキシル置換基全てが必要である。トリセチン(3)は、これらの要件に従わず、アウトライヤである。
【0221】
B環での分析
B環の4’位が心保護のためにヒドロキシル置換基を必要とすることが、表1に列挙された化合物から即座に明白となる。初期スクリーニングを通過した12種の化合物(1~12)のうち、それらの全てが、4’-ヒドロキシル置換基を有する。その上、初期スクリーニングを通過しなかった16種の化合物(13~28)のうち11種(18~28)は、4’-ヒドロキシル置換基が存在しない。初期スクリーニングを通過しなかった残りの5種の4’-ヒドロキシル化合物(13~17)は、最小置換、例えば化合物17のように唯一の4’-ヒドロキシル、または化合物14、15および16のように4’-ヒドロキシルと唯一の他のヒドロキシル置換基、を有する。化合物13は、先に記載された3、7、および3’の組み合わせのうち必要となるヒドロキシル置換基の1つを有するのみで、それゆえ化合物13もまた、心保護活性のための最小要件を満たさない。要約すると、B環の4’位のヒドロキシル置換基の存在は、フラボノイド化合物が心保護性になるための必要条件ではあるが、十分条件ではない。この構造要件は、生物学的ターゲットとの複合体における保護剤のB環の4’-ヒドロキシル間の水素結合の存在を強く暗示している。
【0222】
【0223】
クロモン(29)および7-ヒドロキシ-4-クロモン(38)は、それぞれが全体としてフラボン骨格のB環が欠如しているが、それらは両者とも、心保護においてプラス効果を示さなかった。どちらの化合物も、TOPOIIβまたはα阻害を付与しなかった(表1)。さらに、7-ヒドロキシ-4-クロモンは、100μMで高レベルの細胞障害性を示した。これら2種のB環不含化合物を対応する三置換B環フラボン化合物(それぞれ8および6)と比較して、B環の存在が心保護に必要であると結論づけられた。
【0224】
次に、7-ヒドロキシ-4-クロモンから得られた観察を、B環を有するが全てのB環置換基が欠如する3,5,7-トリヒドロキシフラボンにおいてさらに探求した。3,5,7-トリヒドロキシフラボンは、心保護およびTOPOII阻害を示さず、全般的な(generalized)細胞障害性を示しており、心保護活性のためには1つまたは複数の部分がB環で必要となることが示された。
【化19】
【0225】
2.B環のメトキシ置換基
【化20】
【化21】
【化22】
【0226】
B環が生物活性に必須の成分と思われたため、ヒドロキシル基および/またはメトキシ基のどちらかとの様々な位置的組み合わせを含むB環を有する化合物を、それらの活性についてテストした。
【0227】
3’位にメトキシを有する3’-O-メチルミリセチンは、TOPOII酵素を阻害することができなかったが、全般的な細胞障害性を示さずに心保護を付与した。しかし、心保護の能力の有意な損失を示した(EC50、約59μM)。同様に、4’位にメトキシを有する4’-O-メチルミリセチンは、TOPOII阻害を含まない心保護を付与した。この化合物は、MYRと比較して、心保護の能力の損失を示した(EC50、約48.7μM)。このことは、B環の3’または4’位の1つのメトキシ置換基の存在が心保護の重要な因子であることを示唆している。この観察を確認すると、B環の4’位のメトキシ置換基が欠如するが、3’および5’位にメトキシを有する3’,5’-O-ジメチルミリセチンは、心保護、ならびにTOPOIIαおよびTOPOIIβ阻害のどちらも示さなかった。この化合物はまた、有意な細胞障害性を示した。3’、4’および5’位に複数のメトキシ置換を有する他の化合物も、心保護およびTOPOII阻害についてテストした。例えば3’,4’,5’-O-トリメチルミリセチン、3’,4’,5’-O-トリメチルロビネチン、3,7,3’,4’,5’-O-ペンタメチルロビネチン、7,3’,4’,5’-O-テトラメチルロビネチンの全てが、全体として心保護およびTOPOII阻害を示すことができなかった。全てが、100μMで高レベルの細胞障害性を示した。
【0228】
したがって4’または3’ヒドロキシルをメトキシと置換すると、能力が有意に低減し、TOPOII阻害の完全な損失をもたらす。さらに、メトキシ置換は、該化合物をB環からわずかに拡大および伸長するため、B環から伸長したより大きな置換基を有すると、限界レベルであっても、TOPOII酵素と該化合物との相互作用への立体障害を有し得ると推測された。したがってB環のヒドロキシル基(3’、4’、5’)は、心保護に導き、TOPOII酵素阻害において重要な役割を担い得る、不可欠な成分と思われる。
【0229】
【0230】
ケルセチンは、心保護を付与し、TOPOII阻害を示した。しかし心筋細胞への高レベルの全般的細胞障害性が、100μMの濃度で観察された。
【化24】
【0231】
ケンペロールは、100μMで若干の細胞障害性も有さず中等度の心保護を示したが、TOPOIIαまたはTOPOIIβへの阻害作用を示さなかった。しかしケンペロールは、低い能力を示し、最大で50%の救済率を実現することができなかった。
【0232】
3’(または5’)ヒドロキシルを除去すると、必ずしもTOPOII阻害の損失をもたらし得ないが、ケルセチンで観察された通り細胞障害性が上昇し、能力が低減することが、データから推論された。しかしこれらのデータは、B環から3’、4’、または5’ヒドロキシル基を除去すると、特に4’位で、能力の著しい低減および/またはTOPOII阻害の損失をもたらす、という結論を導いた。
【0233】
要するに、1つまたは2つの3’、4’、または5’ヒドロキシルをアルコキシ(例えば、メトキシ)基で置換すると、該化合物が細胞障害性になる。ケンペロールにおいて観察されたMYR骨格からの3’および5’ヒドロキシル基の除去、またはケルセチンのような3’または5’ヒドロキシルのどちらかの除去は、心保護の能力を低減して該化合物を細胞障害性にする可能性がある。しかし、B環のヒドロキシルを全て除去すると、3,5,7-トリヒドロキシフラボンで観察された通り、心保護およびTOPOII阻害が完全に損失し、重度の細胞障害性が誘発される。さらに、B環の4’ヒドロキシルは、高い心保護能力およびTOPOII阻害、そして最小限の細胞障害性を導く物理的属性の強化に必要と思われる。
【0234】
したがって、ミリセチンおよびロビネチンにより実証された通り、能力および最小限の毒性を確保するためのB環の好ましい置換基は、3’、4’および5’位全ての-OHである。
【0235】
AおよびC環の分析
フラボン-フラボノール骨格の複素二環式A/C環系の置換基を、心保護活性について評定した。B環で行われた観察に基づき、A-C環の3、5、7位の-OHと様々に組み合わせたB環のヒドロキシルを有する化合物のサブセットをテストした。
【0236】
1.ミリセチン、ロビネチンおよびトリセチン
【化25】
【0237】
MYR(3,5,7,3’,4’,5’-ヘキサヒドロキシフラボン)およびROB(3,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボン)は、EC50約10~20μMで同等レベルの心保護、ならびに10μM未満でTOPOIIβおよびTOPOIIα阻害を示した。同様に、3位の-OHが欠如したトリセチン(5,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボン)もまた、心保護およびTOPOII阻害を示し、100μMで低レベルの細胞障害性を有した。さらに、A/C環系の3および5位の両方の-OHが欠如した7,3’,4’,5’-テトラヒドロキシフラボンは、心保護を示したが、TOPOII酵素を阻害しなかった。
【化26】
【0238】
しかし、3’,4’,5’-トリヒドロキシフラボンおよび7位の-OHを有さない他の化合物は、心保護またはTOPOII阻害について30μM未満で能力を示すことができなかった。これらのデータから、3および/または5位の少なくとも1つの-OH基は、心保護のためのこれらの化合物の活性(例えば、能力および/またはTOPOII阻害)を大きく増強し得るため、A環の7位のヒドロキシル(-OH)は、心保護に必要になり得るが、十分になり得ないことが示唆された。したがって、3’,4’,5’ヒドロキシルがB環に存在することを条件に、A/C環(3,7)系のヒドロキシルは、心保護およびTOPOII阻害にとって重要な役割を担う。特に、A環の7位の-OHは、該活性にとって不可欠と思われる。
【0239】
実施例14.抗癌剤に及ぼすMYRの保護効果
1.アントラサイクリン系
MYRはエピルビシンによる細胞死およびイダルビシンによる細胞死から保護する
エピルビシンおよびイダルビシンは、患者の心不全に関連するアントラサイクリン系である。先に記載されたドキソルビシンに加えて、MYRの効果を、エピルビシンおよびイダルビシンによる心臓傷害についてテストした。
図19に示される通り、ヒトiPSC由来心筋細胞を72時間、偽処置するか(三角形)、またはMYR100μMおよび上昇濃度のエピルビシンもしくはイダルビシンで処置し(円形)、その後、先に記載された通りミトコンドリア健常性および細胞核を示す色素と共にインキュベートした。細胞を撮像し、健常細胞の総数を計数して、偽処置対照に対する割合%としてプロットした。
【0240】
細胞の50%がエピルビシンにより死滅される致死濃度(LC50)は、偽処置の0.49μMからMYR処置状態の1.28μMへシフトし、MYRが心筋細胞をエピルビシンによる細胞死から効果的に保護することが示された(
図19左)(n=3)。
【0241】
同様に、イダルビシンのLC50は、偽処置の0.59μMからMYR処置状態の1.04μMへシフトし、MYRがイダルビシンによる細胞死からも保護することが示された(
図19右)(n=3)。
【0242】
2.プロテインキナーゼおよびプロテアソーム阻害剤
MYRは、ボルテゾミブ、スニチニブおよびソラフェニブによる細胞死から保護する
心毒性は、様々な抗癌剤により誘発されるレドックスサイクルを通して毒性活性酸素種(ROS)の形成から起こり得る。活性酸素種(ROS)は、アポトーシス経路を活性化して、癌細胞および正常細胞の両方の細胞死に導き得る。心筋細胞は、酸化ストレスに対して特に感受性があり、心臓ミトコンドリアは、アントラサイクリン、TKIまたはプロテアソーム阻害剤のような抗癌剤によって容易に破壊され得る。先に提示されたデータにより、心臓細胞を保護する本明細書に記載されたMYRおよびその類似体の可能性が(1)アントラサイクリン系と同様に心臓細胞内でTOPOII酵素と相互作用することによる保護;および(2)TOPOIIの分子機構と独立して発揮される効果(例えば、ROSキレート化、ミトコンドリアの完全性促進)、と多面的であり得ると仮定した。MYRが非アントラサイクリン薬で心保護を付与するか否かを決定するために、該化合物を、プロテインキナーゼ阻害剤による細胞障害性に対して心臓細胞を保護する能力についてテストした。
【0243】
スニチニブおよびソラフェニブは、白血病および肉腫をはじめとする広範囲の癌を処置するのに用いられるチロシンキナーゼアンタゴニストである。しかし、スニチニブおよびソラフェニブは、患者において心不全のような有害事象を引き起こすことが報告された。チロシンキナーゼは、シグナル伝達経路に関与する多くのタンパク質の活性化を担う酵素である。これらのタンパク質は、TKIが阻害のターゲットとすることが知られているステップであるリン酸化を介して活性化される。
【0244】
ボルテゾミブは、多発性骨髄腫およびリンパ腫を処置するのに用いられるプロテアソーム阻害剤である。幾つかの癌において、癌細胞を正常に破滅するタンパク質は、早期に分解される。ボルテゾミブは、この工程を阻害して、このタンパク質に分裂癌細胞を破壊させる。
【0245】
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養して、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。ヒト幹細胞由来心筋細胞をその後、DMSO、スニチニブ(10μM)、またはスニチニブ+上昇濃度のMYR(1~100μM)で72時間処置し、その後、ミトコンドリア健常性および細胞核を示す色素と共にインキュベートした。細胞を撮像し、健常細胞の総数を計数し、スニチニブ処置対照に対する割合%としてプロットした。MYRは、心筋細胞におけるスニチニブによる細胞死に対する保護を示した(
図20)(n=3)。同様にMYRは、5μMソラフェニブ処置心筋細胞における心機能不全の80%より多くの修正に成功した(
図21)。100μMミリセチンでの処置もまた、ボルテゾミブによる心毒性を救済した(
図22)。これらのデータは、MYRがプロテインキナーゼ阻害剤による心筋細胞死に対して保護することを示唆している。
【0246】
実施例15.ドキソルビシンの抗癌活性との相互作用がない
ビスジオキソピペラジンのデクスラゾキサン(DEX)は、抗癌剤を受ける癌患者の心不全の発症率を低減するために利用可能な唯一の薬物である。その臨床効果にもかかわらず、DEXは、アントラサイクリン系の抗腫瘍効力を妨害すること、続発性悪性腫瘍を誘導すること、ならびに血液および骨髄障害を誘発すること、など複数の副作用に関連する。これらの限定は、特定の癌患者での使用を大きく限定する。
【0247】
MYRの効果を、該化合物がDEXにおいて観察されたものと類似の欠点を有するか否かを決定するために調査した。乳癌細胞(MDA-MB-231)を72時間、偽処置するか、または100μM MYRで、そして上昇濃度のドキソルビシンで処置した(
図23)。細胞生存率アッセイを、実施した(CellTiter-Glo、Promega)。発光をSynergy HT(Biotek)マイクロプレートリーダーを介して記録し、偽処置対照に対する割合%としてプロットした。偽処置(0.53μM)とMYR処置(0.48μM)の間に、細胞生存率(LC50)の差は本質的に観察されず、MYRがドキソルビシンの抗癌活性を妨害しないことが示された(
図23)(n=3)。
【0248】
実施例16.DOXによる毒性に対する心保護のインビボ検証
急性のアントラサイクリンによる心毒性モデルを、The Jackson Laboratoryから得られた9~10週齢C57BL/6マウスで樹立した。動物を、生理食塩水処置(n=8)、ドキソルビシン処置(n=16)またはドキソルビシン+MYR処置(n=17)の3群に分割した。ドキソルビシン(20mg/kg)、MYR(40mg/kg)および生理食塩水を、単一の腹腔内注射を介して投与した。MYRを、ドキソルビシン処置の30分前に投与した。動物の一般的健康状態を、試験経過中に1日1回ベースでモニタリングした。マウスにイソフルラン(約1.0%)を用いて麻酔をかけ、経胸壁心エコー法を、VevoLAZR Imaging System(VisualSonics Inc.、カナダ トロント所在)を用いて、ベースライン測定を得るために-4日目に、そして処置後5日目に実施した。左心室(LV)M-モード画像を、乳頭筋付近の二次元短軸像で得た。収縮期および拡張期の心内膜組織のトレーシングを、オフラインに設定した。その後、これらのデータを、収縮機能の総合指数である短縮率(FS)および駆出率(EF)を計算するために用いた。
【0249】
収縮特性は、試験期間中、生理食塩水群では不変であった。これに対して、ドキソルビシン処置は、収縮特性に著しい影響を有した。この群では、FSおよびEFは、時間と共にそれぞれ15%および19%、有意に(P<0.001)減少した。MYR処置は、それぞれFSおよびEFの7%および10%の改善により観察された通り、ドキソルビシンによる心毒性を有意に低減した(P<0.05)(
図24)。ドキソルビシンよりも2倍高い濃度で、MYRは、ドキソルビシンにより誘発されたFSの52%救済、およびEF機能不全の49%救済を誘起した(
図24)。
【0250】
実施例17.ミトコンドリア毒性に関するドキソルビシンによる心毒性に及ぼす様々な保護剤(ビテキシンなど)の影響
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を48時間、偽処置するか、1μMドキソルビシンで処置するか、または1μMドキソルビシンと示された薬物で処置した。処置後に、試料を、ミトコンドリア健常性を示すテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)色素、および細胞核を同定する第二の色素と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像し、TMRM陰性細胞の割合%を定量するために画像をCellProfilerにより分析した。代表的なデータを、2つの独立したスクリーニングセットから保護剤について示し、各データポイントは、3つの生物学的反復測定から得た。データの正規化を、偽処置試料(0%ミトコンドリア毒性)および1μMドキソルビシン処置試料(100%ミトコンドリア毒性)に基づいてデータを再較正することにより実施した。
【0251】
心筋細胞を、偽処置するか(「処置なし」)、1μMドキソルビシンで処置するか(「Dox 1μM」)、または1μMドキソルビシンと示された薬物で処置して、次に染色して、ミトコンドリア健常性を検出した(
図25)。17μMケンペロールに暴露された心筋細胞(「KAE 17μM」)は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも60%のミトコンドリア毒性低下を示した。0.76μMアンブロキソール(「AMB 0.76μM」)、10μMメサラミン(「MES 10μM」)、または50μM N-アセチルシステイン(「NAC 50μM」)のいずれかに暴露された心筋細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも40%のミトコンドリア毒性低下を示した。160μMデクスラゾキサン(「Dex 160μM」)または115μMビテキシン(「VIT 115μM」)のどちらかに暴露された心筋細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも30%のミトコンドリア毒性低下を示した。
【0252】
実施例18.ドキソルビシンによる心毒性に及ぼす様々な保護剤(ビテキシンなど)の影響(アポトーシス)
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を48時間、偽処置するか、1μMドキソルビシンで処置するか、または1μMドキソルビシンと示された薬物で処置した。処置後に、試料を、アポトーシス陽性細胞を示すTUNEL色素、および細胞核を同定する第二の色素と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像し、アポトーシス陽性細胞の割合%を定量するために画像をCellProfilerにより分析した。代表的なデータを、2つの独立したスクリーニングセットから保護剤について示し、各データポイントは、3つの生物学的反復測定から得た。データの正規化を、偽処置試料(0%アポトーシス)および1μMドキソルビシン処置試料(100%アポトーシス)に基づいてデータを再較正することにより実施した。
【0253】
心筋細胞を、偽処置するか(「処置なし」)、1μMドキソルビシンで処置するか(「Dox 1μM」)、または1μMドキソルビシンと示された薬物で同時処置し、次に染色して、アポトーシスを検出した(
図26)。115μMビテキシンで処置された心筋細胞(「VIT 115μM」)は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも60%のアポトーシス減少を示した。160μMデクスラゾキサン(「Dex 160μM」)、0.76μMアンブロキソール(「AMB 0.76μM」)、または50μM N-アセチルシステイン(「NAC 50μM」)のいずれかに暴露された心筋細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも50%のアポトーシス減少を示した。17μMケンペロール(「KAE 17μM」)または10μMメサラミン(「MES 10μM」)のいずれかに暴露された心筋細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された心筋細胞(「Dox 1μM」)に比較して、少なくとも40%のアポトーシス減少を示した。
【0254】
実施例19.ビテキシンは長期心保護を提供する(ミトコンドリア健常性)
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を7日間、偽処置するか(
図27A)、1μMドキソルビシンで処置するか(
図27B)、1μMドキソルビシンと16μMデクスラゾキサンで同時処置するか(
図27C)、または1μMドキソルビシンと116μMデクスラゾキサンで同時処置した(
図27D)。処置後に、試料を、ミトコンドリア健常性を示すテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)色素と共にインキュベートした。INCell Analyzer2200を用いて細胞を撮像し、TMRM陰性細胞の割合%を定量するために画像をCellProfilerにより分析した。代表的な画像を、各試料について示すが、TMRMシグナルの損失は、ミトコンドリア毒性を表す。
【0255】
ドキソルビシンに暴露された(
図27B)、またはドキソルビシンとデクスラゾキサンで同時処置された(
図27C)心筋細胞は、偽処置心筋細胞(
図27A)と比較して、TMRM陽性細胞の顕著な減少により示される通りミトコンドリア毒性の増加を示した。ドキソルビシンおよびビテキシンでの心筋細胞の処置(
図27D)は、ドキソルビシン(
図27B)またはドキソルビシンとデクスラゾキサン(
図27C)のどちらかに暴露された心筋細胞に比較して、長期ミトコンドリア保護の改善を実証した。
【0256】
実施例20.ビテキシンは用量依存性心保護を提供する(電気生理学的活性)
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を、0.1%DMSOで偽処置するか、1μMドキソルビシンで処置するか、または1μMドキソルビシンと様々な濃度のビテキシン(例えば、11.6μM、37μM、または116μM)で同時処置した。処置後に、各試料の活性電極の割合%を、72時間測定した。活性電極の割合%を、タイムコースで定量してグラフ化した(
図28A)。ウェルあたりの活性電極の平均数を、処置後30時間目に定量してグラフ化した(
図28B、n=6、標準偏差をエラーバーとして示す)。
【0257】
ビテキシンの非存在下で1μMドキソルビシンに暴露された心筋細胞は、薬物処置後24時間で(0時間目)活性電極数の約50%の減少を示し、薬物処置後30時間目の活性電極数では、0時間目に比較して約95%の減少を示した(
図28A)。ドキソルビシンとビテキシンに同時暴露された心筋細胞は、活性電極の割合%の用量依存性の上昇を示した(
図28A)。薬物処置後24時間目に、1μMドキソルビシンと、11.6μM、37μM、または116μMのいずれかのビテキシンに同時暴露された心筋細胞は、それぞれ活性電極数の約50%、約25%、または約0%の減少を示した。処置後30時間目に、1μMドキソルビシンと116μMビテキシンに同時暴露された試料は、ビテキシンの非存在下で1μMドキソルビシンに暴露された試料(約2の活性電極)に比較して、統計学的に有意に高い平均活性電極数(約10の活性電極)を示した(
図28B)。
【0258】
実施例21.保護剤はドキソルビシンを介した乳癌細胞死を阻害しない
MDA-MB-231細胞(転移乳癌)を1日間培養した後、実験を実施した。試料を72時間、上昇濃度のドキソルビシン(例えば、0μM、0.016μM、0.05μM、0.16μM、0.5μM、1.6μM、5μM、16μM、または50μM)で処置するか、または上昇濃度のドキソルビシンと示された保護剤で同時処置した。次に細胞を、CellTiter-Glo試薬で溶解して、代謝活性(例えば、生存性)細胞を同定した(溶解された細胞懸濁液から測定された発光は、培養物中に存在する生存性細胞の数と正比例する)。%細胞死を、発光の減少を測定することにより定量した。XLFitを、カーブフィッティングに用いた。三重測定の平均をグラフ化し、標準偏差をエラーバーで示す。
【0259】
上昇濃度のドキソルビシンと、デクスラゾキサン、アンブロキソール、ケンペロール(
図29A)、メサラミン、N-アセチルシステイン、またはビテキシン(
図29B)のいずれかで同時処置されたMDA-MB-231細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された細胞に比較して、細胞死の割合%に有意差を示さなかった。これらの結果は、本明細書に記載された医薬組成物が、インビトロアッセイによる測定で、MDA-MB-231乳癌細胞に保護的利益を付与しないことを示している。
【0260】
実施例22.保護剤はドキソルビシンを介した肺癌細胞死を阻害しない
A549細胞(肺癌)を、1日間培養した後、実験を実施した。試料を72時間、上昇濃度のドキソルビシン(例えば、0μM、0.016μM、0.05μM、0.16μM、0.5μM、1.6μM、5μM、16μM、または50μM)で処置するか、または上昇濃度のドキソルビシンと示された保護剤で同時処置した。次に細胞を、CellTiter-Glo試薬で溶解して、代謝活性(例えば、生存性)細胞を同定した(溶解された細胞懸濁液から測定された発光は、培養物中に存在する生存性細胞の数と正比例する)。%細胞死を、発光の減少を測定することにより定量した。XLFitを、カーブフィッティングに用いた。三重測定の平均をグラフ化し、標準偏差をエラーバーで示す。
【0261】
上昇濃度のドキソルビシンと、デクスラゾキサン、アンブロキソール、ケンペロール、メサラミン、N-アセチルシステイン、またはビテキシンのいずれかで同時処置されたA549細胞は、保護剤の非存在下でドキソルビシンにより処置された細胞に比較して、細胞死の割合%に有意差を示さなかった。これらの結果は、本明細書に記載された医薬組成物が、インビトロアッセイによる測定で、A549肺癌細胞に保護的利益を付与しないことを示している。
【0262】
実施例23.電気生理学的検査に及ぼす様々な保護剤(ビテキシンなど)の急性毒性
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を少なくとも20分間、0.1%DMSOで偽処置するか、または上昇濃度の示された薬物で処置した。対照として、心筋細胞をhERGカリウムチャネルブロッカーE4031で処置した。処置後に、MEAを用いて、心拍周期およびフィールド電位間隔(FPD)を各試料で測定した。
【0263】
低濃度の薬物では、デクスラゾキサン、アンブロキソール、ケノデオキシコール酸、デフェロキサミン、N-アセチルシステイン、ナリンゲニン、またはビテキシンのいずれかに暴露された心筋細胞は、対照試料に比較して、心拍周期またはフィールド電位間隔に明らかな差を示さなかった。高濃度では、ケノデオキシコール酸またはナリンゲニンのどちらかに暴露された心筋細胞が、急性薬物毒性からの拍動停止を示した。
【0264】
実施例24.電気生理学的検査における様々な保護剤(ビテキシンなど)の長期毒性
人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させることにより、細胞試料を調製した。細胞を分化後4日間培養し、3日目に培地を交換した後、実験を実施した。試料を、0.1%DMSOで偽処置するか、または様々な濃度の示された薬物で処置した。処置後に、各試料の活性電極の割合%を、少なくとも5日間測定した。活性電極の割合%を、タイムコースで定量してグラフ化した。
【0265】
アンブロキソール、ケンペロール、メサラミン、またはビテキシンのいずれかに暴露された心筋細胞は、偽処置試料に比較して、活性電極数の観察可能な減少を示さなかった。臨床で認可された心保護剤デクスラゾキサンに暴露された心筋細胞は、長期の用量依存性心毒性作用を示した。167μMまたは500μMのいずれかのデクスラゾキサンに暴露された心筋細胞は、処置後約2日目にそれぞれ約25%または50%の活性電極数減少を示した。処置後約3日目に、167μMまたは500μMのいずれかのデクスラゾキサンに暴露された心筋細胞は、それぞれ約50%または100%の活性電極数減少を示した。
【0266】
実施例25.ドキソルビシンおよびビテキシンを含有する丸薬の経口投与による心臓疾患患者における乳癌の処置
心臓疾患の病歴を有する患者が、乳癌と診断される。心不全のリスク増大のため、患者は、心毒性を誘導することが知られるドキソルビシンの標準処置レジメンを受けることができない。代わりに介護者が、ドキソルビシン(10mg)およびビテキシン(100mg)の共配合剤を投与する。心エコーを実施し、血流速度を測定して、該治療が患者において心毒性作用を有するか否かを決定する。患者は、心機能不全の指標を示さない。心毒性の兆候を示さないため、患者は次の数週間、高用量の処置を受けることができる。次に患者は、組織生検を受けるが、乳癌の指標を示していない。
【0267】
実施例26.ドキソルビシン、デクスラゾキサンおよびビテキシンの静脈内投与による患者における肝臓癌の処置
患者は、肝臓癌と診断される。介護者が、ドキソルビシン(5mg/mL)およびデクスラゾキサン(50mg/mL)の共配合剤を患者に投与する。心電図検査を実施して、デクスラゾキサンが患者における心毒性作用の鎮静に成功するか否かを決定する。患者は、20msのQT延長を示す。デクスラゾキサンの活性を増強するために、介護者は、ドキソルビシン(5mg/mL)およびビテキシン(100mg/mL)の共配合剤を患者に投与する。処置後に、心電図検査を実施し、患者はQT延長の兆候を示さない。患者は、数週間にわたり処置を受け続けることができ、その後、組織生検を実施し、肝臓癌が根絶されたことを確認する。
【0268】
実施例27.ドキソルビシンおよびミリセチンを含有する丸薬の経口投与による徐脈患者における肺癌の処置
患者は、ステージIIの肺癌と診断され、徐脈を有する。心不全のリスク増大のため、患者は、心収縮に影響を及ぼし、徐脈を誘導することで知られるドキソルビシンの標準処置レジメンを受けることができない。代わりに介護者が、ドキソルビシン(10mg)およびミリセチン(100mg)の共配合剤を投与する。心電図を利用して、患者の心拍数をモニタリングする。患者は、心機能不全の指標を示さない。心毒性の兆候を示さないため、患者は次の数週間、高用量の処置を受けることができる。肺癌は、ステージ1にダウンステージし、癌の手術による除去に成功する。経過観察時に、組織生検を実施し、癌の兆候を示していない。
【0269】
実施例28.ドキソルビシン、デクスラゾキサンおよびミリセチンを含有する溶液の静脈内投与による患者の肝臓癌の処置
患者は、肝臓癌と診断される。介護者が、ドキソルビシン(5mg/mL)およびデクスラゾキサン(50mg/mL)の共配合剤を患者に投与する。処置後に、心電図検査を実施し、デクスラゾキサンが患者における心毒性作用の鎮静に成功するか否かを決定する。患者は、20msのQT延長を示す。デクスラゾキサンの活性を増強するために、介護者は、ドキソルビシン(5mg/mL)およびミリセチン(50mg/mL)の共配合剤を患者に投与する。処置後に、心電図検査を実施し、患者はQT延長の兆候を示さない。患者は、数週間にわたり処置を受け続けることができ、その後、組織生検を実施して、肝臓癌が根絶されたことを確認している。
【0270】
実施例29.ミリセチンを含有する丸薬の経口投与による徐脈患者における肺癌の処置
患者は、ステージIIの肺癌と診断され、徐脈を有する。心不全のリスク増大のため、患者は、心収縮に影響を及ぼし、徐脈を誘導することで知られるドキソルビシンの標準処置レジメンを受けることができない。代わりに介護者が、ドキソルビシン(10mg)投与の24時間前に、ミリセチン(100mg)を投与する。心電図を利用して、患者の心拍数をモニタリングする。患者は、心機能不全の指標を示さない。心毒性の兆候を示さないため、患者は次の数週間、高用量の処置を受けることができる。肺癌は、ステージ1にダウンステージし、癌の手術による除去に成功する。経過観察時に、組織生検を実施し、癌の兆候を示していない。
【0271】
実施例30.ドキソルビシン、デクスラゾキサンおよびミリセチンを含有する溶液の静脈内投与による患者の肝臓癌の処置
患者は、肝臓癌と診断される。介護者が、ドキソルビシン(5mg/mL)およびデクスラゾキサン(50mg/mL)の共配合剤を患者に投与する。心電図検査を実施して、デクスラゾキサンが患者における心毒性作用の鎮静に成功するか否かを決定する。患者は、20msのQT延長を示す。デクスラゾキサンの活性を増強するために、介護者は、ドキソルビシン(5mg/mL)および(100mg/mL)の静脈内投与前に24時間、ミリセチン(100mg)を患者に投与する。処置後に、心電図検査を実施し、患者はQT延長の兆候を示していない。患者は、数週間にわたり処置を受け続けることができ、その後、組織生検を実施して、肝臓癌が根絶されたことを確認している。
【0272】
当業者に明白であろうが、本発明の主旨および範囲を逸脱することなく、本発明の多くの修正および改変が施され得る。本明細書に記載された特定の実施形態は、例を提示するに過ぎず、本発明は添付の特許請求の範囲およびそのような特許請求の範囲に権利を与えられた均等物の全範囲によってのみ限定されるべきである。そのような修正は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0273】
本明細書に引用された全ての参考資料、特許および非特許は、個々の出版物、または特許もしくは特許出願が、全ての目的で全体として参照により具体的かつ個別に組み入れられることが示されているのと同程度に、全体として、そして全ての目的で、参照により本明細書に組み入れられる。