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特許7059285ムコ多糖症の治療のためのアデノ随伴ウイルスベクター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】ムコ多糖症の治療のためのアデノ随伴ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20220418BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220418BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220418BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220418BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220418BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220418BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
A61K31/713
A61K35/76
A61K48/00
A61P25/00
A61P43/00 105
C12N9/16 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019538714
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017074081
(87)【国際公開番号】W WO2018060097
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】16382450.1
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 32345
(73)【特許権者】
【識別番号】519114720
【氏名又は名称】エステベ プアルマセウティカルス, エッセ.ア.
【氏名又は名称原語表記】ESTEVE PHARMACEUTICALS, S.A.
【住所又は居所原語表記】Passeig de la Zona Franca,109,4a Planta,08038 Barcelona, ES
(73)【特許権者】
【識別番号】519114731
【氏名又は名称】ウニベルシタト アウトノマ, デ バルセロナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT AUTONOMA DE BARCELONA
【住所又は居所原語表記】Edifici A,Campus de la UAB s/n,08193 Cerdanyola del Valles, ES
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロカ レチャ,カルレス
(72)【発明者】
【氏名】アウリゴト-メンドンカ,ビルヒニア ア.
(72)【発明者】
【氏名】ボスチ トゥベルト,ファティマ
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060722(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/130591(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/173308(WO,A1)
【文献】特表2015-513528(JP,A)
【文献】特表2013-531490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現カセットを含むポリヌクレオチドであって、
前記発現カセットが、GNSタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作用的に連結された転写調節領域を含み、
前記ヌクレオチド配列が配列番号4であることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記転写調節領域がプロモーターを含むことを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記プロモーターが恒常的なプロモーターであることを特徴とする請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記プロモーターがCAGプロモーターであることを特徴とする請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記発現カセットがアデノ随伴ウイルスITRによって隣接されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド配列を含むことを特徴とするベクター。
【請求項7】
前記ベクターはプラスミドまたはアデノ随伴ウイルスベクターであり、前記アデノ随伴ウイルスベクターが請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む組換えウイルスゲノムを含むことを特徴とする請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターが、配列番号8に記載される受託番号DSM 32345を有するプラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version3であることを特徴とする請求項6又は7に記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターが、血清型9のアデノ随伴ウイルスベクター、AAV9であることを特徴とする請求項7に記載のベクター。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項6乃至9のいずれか1項に記載のベクターの治療有効量を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項11】
薬物の製造のための、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項6乃至9のいずれか1項に記載のベクター、又は請求項10に記載の医薬組成物の使用
【請求項12】
ムコ多糖症III-D型の治療ための薬物の製造のための、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項6乃至9のいずれか1項に記載のベクター、又は請求項10に記載の医薬組成物の使用
【請求項13】
請求項7又は9に記載のベクターを取得する方法であって、
(i)請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドと、AAVcapタンパク質と、AAV repタンパク質と、を含む細胞を提供するステップと、
(ii)前記AAVの集合に適した条件下で前記細胞を維持するステップと、
(iii)前記細胞によって産生された前記アデノ随伴ウイルスベクターを精製するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的のタンパク質の発現と遺伝子治療におけるこれらの利用のために有用なポリヌクレオチドとベクターに関する。本発明はまた、ムコ多糖症(MPS)の治療、特にムコ多糖症III-D型すなわちサンフィリッポD症候群の治療に役立つ、ベクターおよび核酸配列に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソームは動物細胞の細胞質に見出される細胞小器官であり、使い古された細胞成分のリサイクル中またはウイルスやバクテリアの貪食後に、生体分子を分解する50以上の加水分解酵素を含む。この細胞小器官は、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファターゼおよびスルファターゼなどの何種類かの加水分解酵素を含む。すべての酵素は酸性加水分解酵素である。
【0003】
リソソーム蓄積症(LSD)は、1つまたは複数のリソソーム酵素に影響を与える遺伝的欠陥によって引き起こされる。これらの遺伝病は、一般的にはリソソームに存在する特定の酵素活性の不足から生じる。より少ない場合においてであるが、これらの疾患は、リソソーム生合成に関与するタンパク質の不足によるものであり得る。
【0004】
LSDは個々人レベルではまれであるが、集団としてはこれらの疾患は、一般の人口集団において比較的に一般的である。LSDの合計有病率は、生児出生5,000人あたり約1人である。しかしながら、一般の人口集団内で、LSDの高発症に特に悩まされる集団がいくつか存在する。例えば、中央ヨーロッパおよび東ヨーロッパのユダヤ人(アシュケナジ)の子孫におけるゴーシェ病およびテイ-サックス病の有病率は、それぞれ、出生600人に1人、出生3,900人に1人である。
【0005】
ムコ多糖症(MPS)は、グルコサミノグリカン(GAG)の代謝に関与する特定のリソソーム酵素の欠如または不足により特徴づけられる7つの型(I~VII)のLSD疾患のグループである。すべてのMPSは、X染色体に関連した遺伝形質を有するMPSII(ハンター症候群)を除いて、常染色体劣性遺伝の様式を有する。
【0006】
7つのMPSのうち、ムコ多糖症III型(MPSIII型すなわちサンフィリッポ症候群)が最も一般的であり、その報告された出生時有病率は100,000人あたり0.28人から4.1人の範囲である。この症候群は、GAGヘパラン硫酸(HS)の分解に関与する酵素の1つが不足することによって引き起こされる。サンフィリッポの4つの亜型、A型(MPSIII-A)、B型(MPSIII-B)、C型(MPSIII-C)、D型(MPSIII-D)が定義されており、それぞれは異なる酵素の不足によって引き起こされる。これらの酵素をコードする遺伝子は同定されており、種々の突然変異が報告されている。
【0007】
MPSIII型は、酵素N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ(GNS、EC 3.1.6.14)の活性の不足によって引き起こされる。GNSは、HSのN-アセチル-D-グルコサミン6-硫酸単位の6-硫酸基の加水分解を触媒する。非分解性HSの継続的蓄積の結果として、進行性の細胞損傷が起こり、多系統性疾患を生じさせる。MPSIII-D型は、既知のMPSで最も稀な形態で、これまでのところ31人の患者が文献に記載されているだけである。GNS酵素の活性の不足へと導く、22の異なる突然変異がヒトGNS遺伝子において同定されている。
【0008】
MPSIII-D型の患者は、進行性の中枢神経系(CNS)変性および比較的軽度の身体的疾患を特徴とする、サンフィリッポ症候群の臨床症状の一般的なパターンに従っているようである。初期の正常な発達の期間の後、病気の最初の徴候は通常、発話と発育の遅延という形態で現れる。これに続いて、精神運動スキルの進行的な喪失、言語障害、落ち着きのない行動、多動性、睡眠障害、環境との接触喪失、および精神遅滞などを含む、乳児期におけるその他の症状が出現する。神経学的症状に加えて、上気道感染症、多毛症、大頭症、肝肥大、関節可動性の低下、粗野な顔貌などの他の非神経学的併存疾患もMPSIII-D型患者に共通している。最終的には、MPSIII-D型は寝たきりの段階に到る。疾患の進行速度および存在する表現型の特徴は患者間で大きく異なり、報告された平均余命は14年という短い期間から30代までの範囲にわたる。こうした変動の大きさは、突然変異の性質、民族性、または患者が受け取る健康管理サービスの違いなど、複数の要因に関連している可能性がある。
【0009】
これまでのところ、MPSIII-D型に対する具体的な治療法はなく、この疾患の管理は対症的であり、患者とその家族の生活の質の向上を目指すものとなっている。その他のMPSに関しては、ここ数年で2つの主要な治療の選択肢が利用可能となった。それは酵素補充療法(ERT)と造血幹細胞移植(HSCT)である。両方の治療戦略の設計は通過矯正(cross-correction)の可能性に依存しており、すなわち正常細胞がGNSのようなマンノース-6-リン酸(M6P)タグ付き可溶性リソソーム酵素を有意な量分泌し、この酵素が細胞膜上のM6P受容体を介して他の細胞による細胞外区画から次いで取り入れられ、リソソームを標的とするという事実に基づいている。さらに、残留酵素活性の閾値が存在し、それは一般的には非常に低く、それを超えると、細胞は基質流入に対応することができ、そして対象は疾患によって影響されず、このことは正常な活性の回復が臨床経過を変更するための必須条件ではないことを示唆する。
【0010】
MPSIII-D型のために、ERTが、この疾患のヤギモデルにおいて試験された。非特許文献1:Thompson,et al.,J Inheritary Metab Dis 1992;15(5):760-8.を参照されたい。 この研究では、投与量1mg/kgの組換えヤギGNS(rcGNS)を、2、3および4週齢のMPSIII-D型ヤギに静脈内投与した。最後の投与から5日後、リソソーム貯蔵液胞とウロン酸(GAG HSの構成成分)量の顕著な減少が肝臓において観察され、rcGNSの注入による体細胞の矯正を証明した。形態学的研究およびウロン酸の定量化は、CNSにおける改善を示さなかった。この研究とは別に、MPSIII-D型に対するERTの効力についての他の研究は今日まで行われていない。
【0011】
ヒト組換え酵素を有するERTは、MPS I型、II型およびVI型について市販されている。報告されているERTの恩恵には、酵素を静脈内に注入したときの、尿中GAG排泄の減少に伴う関節運動性、歩行能力、肺および呼吸機能の改善、ならびに肝臓および脾臓の体積の改善が含まれる。しかしながら、注入されたタンパク質に対する過敏症のため、静脈内製剤投与中において、医療上のサポートが利用可能でなければならないこれらの患者の生活を、危険にさらす可能性があるアナフィラキシー反応には、呼吸困難、低酸素、低血圧、じんま疹、および/または喉または舌の血管浮腫が含まれ、蘇生または緊急気管切開などの介入、そして吸入β-アドレナリンア作用薬、エピネフリンまたは静脈内コルチコステロイドによる治療を必要とすることがある。ERTの他の欠点としては、以下の3点が挙げられる。1)小児患者において1-3時間長の静脈内注入を行うことが困難であり、その多くは精神疾患に罹患していること。2)未だ臨床的に重要性が不明の酵素に対する抗体について患者が陽性となり得るが、それは長期における製品の有効性を制限する可能性があるという事実。3)在宅ケアのコストも含まれた治療コストの高さ。安全性の懸念または費用に関わりなく、推奨用量では、酵素が血液脳関門(BBB)を効率的に通過しないので、静脈内ERTはMPS神経疾患を改善することができない。
【0012】
ERTの静脈内送達の代替案として、CNSに直接到達するために、脳脊髄液(CSF)に外因性酵素を供給することがある。MPSIII-A型の動物モデルにおける実験は、髄腔内への組換え酵素の投与が脳組織を貫通し、リソソーム貯蔵物質のクリアランスを促進し、そして行動を改善し得ることを示した。髄腔内酵素送達を試験するための臨床試験が、MPSIII-A型(NCT01155778)およびMPSII型(NCT00920647)について実施されている。髄腔内ERTの潜在的な利点にもかかわらず、治療するのに必要な永久的な髄腔内薬物送達装置の移植は、相当なリスクと欠点に関連しており、治療自体は、患者/年あたりで、経済的コストが非常に高い。
【0013】
骨髄由来幹細胞を用いた造血幹細胞移植(HSCT)(骨髄移植、BMT)は、他のMPS型患者の体性および神経性の両方の病状の治療に有効であることが証明されている。HSCTによる矯正(correction)の根底にある原理は、ドナー単球がBBBにおいても毛細血管壁を通過する(cross)ことができ、その後それらは組織マクロファージ、CNSの場合はミクログリアに分化し、そして様々な細胞への送達のために欠乏酵素を分泌することである。しかしながら、骨髄移植は、MPSIII型患者において、症状が出る前の段階で治療されたとしても不成功であることが証明されており、この疾患に対する治療選択肢とはみなされていない。臍帯血由来幹細胞移植に関しては、このアプローチがMPSIII患者における変性からCNSの保護をもたらすかどうかはまだ不明である。
【0014】
基質枯渇療法(SDT)は、GAG合成速度を低下させることを目的としているので、残留活性が残っている場合、これは、GAGの過剰蓄積を防ぐために、または少なくとも蓄積速度を遅くするために、十分であり得る。大豆イソフラボンであるゲニステインは、上皮成長因子受容体(EGFR)のキナーゼ活性を低下させることにより、HS産生の阻害剤として作用することが示唆されている。非特許文献2;Piotrowska E,et al.,Eur J Hum Genet. 2006;14(7):846-52.を参照されたい。最近の研究は、ゲニステインが種々のムコ多糖症(I型、II型、III-A型およびIII-B型)に罹患している患者の線維芽細胞におけるGAGの合成を阻害することを示している。Piotrowska ,et al.、前出(非特許文献2)を参照されたい。静脈内に投与される場合、ゲニステインはBBBを通過する(cross)ことが可能であり、CNS病態の治療を可能にすることが期待される。この概念を支持して、ゲニステイン強化大豆抽出物を5人のMPSIII-A型患者と5人のMPSIII-B型患者に12ヶ月間投与した非盲検パイロット試験は、体性と神経学的パラメータの両方の著しい改善をもたらした。しかしながら、その後の研究では、MPSIII-A型患者、MPSIII-B型患者、およびMPSIII-C患者に12ヶ月間ゲニステインを投与した後の、障害スケールや行動スコアの改善は示されていない。
【0015】
MPSIII-D型患者に対する現在の治療選択肢の限界を考慮すると、別のアプローチが必要とされる。インビボ遺伝子治療は、MPSIII-D型および他の遺伝性疾患に対するワンタイムでの治療の可能性を提供し、生涯にわたる有益な効果の見込みを有する。
【0016】
特にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを介した遺伝子導入は、これらベクターの高い形質導入効率と病原性の欠如のために、多くのインビボ遺伝子治療応用のために選択されるアプローチとして急速に浮上している。AAVベクターは有糸分裂後細胞を形質導入することができ、いくつかの前臨床的研究および臨床研究は、様々な疾患について、治療用導入遺伝子の持続的発現を効率的に推進するためのAAVベクター媒介遺伝子導入の可能性を実証した。
【0017】
AAVの使用に基づくいくつかの遺伝子治療アプローチは、MPSIII型のマウスモデルにおいて、疾患を改善するのに有効であることが証明されている。これらの症候群の強力な神経変性成分を考慮すると、最も関連性のある研究は、CNSに治療ベクターを送達することに焦点を当てている。マンニトールでBBBを透過させるための前処理の後、MPSIII-B型のマウスモデルへのN-アセチルグルコサミニダーゼアルファ(NAGLU)をコードするAAV2ベクターの単回静脈内注入は、有意に延長された生存、改善された行動成績、および脳リソソーム病理の減少をもたらしたが、体性病理の部分的な矯正が達成されたにすぎなかった。非特許文献3:McCarty,et al.,Gene Ther.2009;16(11):1340-52.を参照されたい。BBBを通過することができる静脈内投与されたAAV9ベクターは、最近、酵素活性の増加と、CNSおよび体器官におけるリソソーム蓄積病理の矯正を促進することに効果があり、MPSIII-A型およびMPSIII-B型マウスモデルにおいて改善された行動成績および寿命の延長をもたらすことが証明された。CNSの矯正を達成するのに必要な用量は一般に非常に高いにもかかわらず、末梢肢静脈に投与されたAAV9を用いたMPSIII-A型についての第I/II相臨床試験が現在進行中である(NCT02716246)。
【0018】
CNSに到達するための代替法は、脳実質へのAAVの直接投与である。脳へのAAVベクターの定位固定投与は、MPSIII型のマウスモデルおよびイヌモデルにおいて試験されている。注射部位からのAAVの拡散が制限されるため、このアプローチではベクターの生体内分布を改善するために複数回の注射を必要とする。NAGLUをコードするAAV5ベクターの4回の注射で処置したMPSIII-B型イヌの脳全体に酵素活性が検出されたにもかかわらず、リソソーム病変は改善されたが完全に矯正されなかったことから、このアプローチで達成された酵素活性のレベルはGAG保存に対処するには不十分であることが示された。スルファミダーゼおよびスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)をコードするAAVrh10ベクターで処置したMPSIII-A型マウスは、改善されたヘパラン硫酸異化作用および減少した炎症の徴候を示したが、それは注入点に制限された領域、または注入点の近傍領域のみにおいてであった。非特許文献4:Tardieu M,et al. Hum Gene Ther 2014;25(6):506-16.を参照されたい。これらの制限にもかかわらず、2つの臨床試験が、それぞれAAVrh10ベクターとAAV5ベクターを使用してMPSIII-A型(NCT02053064)とMPSIII-B型(ISRCTN19853672)のために行われている。脳が大きくなればなるほど、実質内注射で器官の全容積をカバーすることがより困難になり、ヒトへの送達はいくつかの部位でのベクター投与を必要とし、これにより送達が技術的に困難になり、特定の外科処置の開発が必要となる。
【0019】
MPSIII型の他の形態のためにはいくつかの治療戦略が開発されているにもかかわらず、MPSIII-D型には上記のアプローチはいずれも適用されていない。従って、MPSIII-D型を治療するための新規なアプローチが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【文献】トンプソン(Thompson)ら、J Inheritary Metab Dis 1992;15(5):760-8.
【文献】ピオトロウスカ E(Piotrowska E)ら、Eur J Hum Genet. 2006;14(7):846-52.
【文献】マッカーティ(McCarty)ら、Gene Ther.2009;16(11):1340-52.
【文献】ターディユ M(Tardieu M)ら、Hum Gene Ther 2014;25(6):506-16.
【発明の概要】
【0021】
本発明は、ムコ多糖症、特にムコ多糖症III-D型(MPSIID)、すなわちサンフィリッポD症候群の治療のための新規ポリヌクレオチドおよびベクターを提供する。
【0022】
第1の態様では、本発明は、発現カセットを含むポリヌクレオチドに関し、ここで前記発現カセットは、GNSタンパク質またはその機能的に等価な変異体をコードするヌクレオチド配列に作用的に連結された転写調節領域を含む。
【0023】
第2の態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチドを含有する新規ベクターを提供する。特定の実施形態では、前記ベクターは、ムコ多糖症III-D型を治療するための新規の組換えベクターである。前記組換えベクターは、特にアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)である。
【0024】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたはベクターの治療有効量を含む医薬組成物に関する。
【0025】
さらに、本発明のさらなる態様は、薬剤として使用するための、特にムコ多糖症III-D型の治療のための、本発明のポリヌクレオチドもしくは本明細書に記載のベクター、または本明細書に記載の医薬組成物に関する。
【0026】
本発明はまた、本発明によるアデノ随伴ウイルスベクターの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】pAAV CAG hGNSおよびAAV9CAG hGNSの生成を示す。(A)は、プラスミドpAAV CAG hGNSおよびその成分の概略図である。(B)は、hGNSコード配列を含むアデノ随伴ベクターのゲノムの概略図である。
図2】pAAV-CAG-ohGNS-バージョン1(version1)およびAAV9-CAG-ohGNS-version1の生成を示す。(A)は、プラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version1およびその成分の概略図である。(B)は、ohGNS-version1コード配列を含むアデノ随伴ベクターのゲノムの概略図である。
図3】pAAV-CAG-ohGNS-version2およびAAV9-CAG-ohGNS-version2の生成を示す。(A)は、プラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version2およびその成分の概略図である。(B)は、ohGNS-version2コード配列を含むアデノ随伴ベクターのゲノムの概略図である。
図4】pAAV-CAG-ohGNS-version3およびAAV9-CAG-ohGNS-version3の生成を示す。(A)は、プラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version3およびその成分の概略図である。(B)は、ohGNS-version3コード配列を含むアデノ随伴ベクターのゲノムの概略図である。
図5】pAAV-CAG-omGNSおよびAAV9-CAG-omGNSの生成を示す。(A)は、プラスミド pAAV-CAG-omGNSおよびその成分の概略図である。(B)は、omGNS コード配列を含むアデノ随伴ベクターのゲノムの概略図である。
図6】pAAV-CAG-hGNS、pAAV-CAG-ohGNS-version1、pAAV-CAG-ohGNS-version2、およびpAAV-CAG-ohGNS-version3のインビトロ試験を示す。4μgのpAAV-CAG-hGNS、pAAV-CAG-ohGNS-v1、pAAV-CAG-ohGNS-v2またはpAAV-CAG-ohGNS-v3によるHEK293細胞の一過性トランスフェクションを示す。(A)は、異なる構築物からのGNSの発現の定量的RT-PCR定量化を示す。(B)および(C)は、異なる発現カセットによって媒介された培地または細胞抽出物中のGNS活性のレベルの比較を示す。値は、条件当たり3ウェルの平均値±SEM(標準誤差)である。pAAV-CAG-hGNSによりトランスフェクトした細胞に対して* P<0.05、*** P<0.001。「NT」はトランスフェクトされていないことを示す。
図7】MPSIII-D型マウスへのAAV-CAG-hGNS、AAV-CAG-ohGNS-version1、AAV-CAG-ohGNS-version2、またはAAV-CAG-ohGNS-version3の静脈内注射を示す。(A)および(B)は、野生型(健康)マウス(WT)、無処置Gns-/-マウス、およびAAV9-CAG hGNS、AAV-CAG-ohGNS-version1、AAV-CAG-ohGNS-version2、またはAAV-CAG-ohGNS-version3ベクターの1x1010個のベクターゲノムを、尾静脈注射を介して投与されたGns-/-マウスの肝臓および血清におけるGNS活性を示す。(C)は、(A)におけるのと同じコホート(cohorts)の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。値は、1群あたり2~5匹の動物の平均値±SEMである。血清については、AAV-CAG-ohGNS-version1に対してn=1。AAV-CAG-hGNSで処置したGns-/-マウスに対して* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001。
図8】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。野生型(健康な)マウス(WT)、無処置Gns-/-マウスおよび5x1010vgの対照ベクター(AAV9Null)またはAAV9CAG omGNSを、槽内(IC)注射を介して、CSF中に投与されたGns-/-マウスの脳におけるGNS活性を示す。WT GNS活性は100%に設定された。値は、1群あたり4~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGnsマウスに対して* P<0.05である。
図9】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターの雄マウスへのCSF内送達を示す。(A)は、野生型(健康)マウス(WT)および、未処置のGns-/-雄マウスおよび、5×1010vgの対照ベクター(AAV9-ヌル(Null))または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSのいずれかを大槽に投与されたGns-/-雄マウスにおける脳の異なる部分(切片I-V)におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。(B)は、(A)と同じ動物のコホートにおけるリソソームマーカーLAMP-2についての染色後の脳の異なる領域において得られたシグナル強度の定量化を示す。(C)は、(A)と同じ動物のコホートから得られた脳抽出物中の他のリソソーム酵素の活性を示す。IDUA、イズロニダーゼ、α-L-、GALNSガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、GUSB、グルクロニダーゼ、β、B-HEXO、ヘキソサミニダーゼB。値は1群あたり4~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns 雄マウスに対して** P<0.01、*** P<0.001。
図10】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターの雄へのCSF内送達を示す。短期研究。6ヶ月齢の健康な野生型(WT)雄性マウスおよびAAV9-ヌル(Null)またはAAV9-Gnsベクターのいずれかの5x1010vgを2ヶ月齢で注射されたGns-/-同腹仔の大脳皮質の超微細構造分析を示す。治療用ベクターの送達は、拡大されたリソソーム(白矢印で示される)の神経周囲グリア細胞(星印で示される)を完全に除去した。スケールバー:10μm。
図11】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターの雄へのCSF内送達を示す。短期研究。(A、B)ヒストグラムは、野生型(健康な)および、5×1010vgの対照ベクター(AAV-null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSを大槽内に投与したGns-/-雄マウスからの前頭皮質、頭頂葉皮質、後頭皮質、上丘、および視床の切片における、星状細胞マーカーGFAP(A)およびミクログリアマーカーBSI-B4(B)についての、免疫染色後に測定されたシグナル強度を表す。結果は1群あたり5匹のマウスの平均値±SEMとして示す。AAV9-Nullで処置したGns雄マウスに対して** P<0.01、**** P<0.0001。
図12】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。野生型(健康な)マウス、無処置Gns-/-マウスおよび5x1010vgの対照ベクター(AAV9-Null)またはAAV9CAG omGNSを、槽内(IC)注射を介して、CSF中に投与されたGns-/-マウス肝臓におけるGNS活性を示す。WT GNS活性は100%に設定された。値は、1群あたり4~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns マウスに対して*** P<0.001である。
図13】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。6ヶ月齢の雄マウス、すなわちGNS欠乏動物のCSFへのAAV9CAG omGNSまたはAAV9Nullのいずれかの5x1010vgの送達の4ヶ月後、におけるWT活性の%として表される循環中のGNS活性を示す。年齢を合わせた未処置Gns-/-マウスも対照として使用した。WT GNS活性は100%に設定された。値は、1群あたり4~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns マウスに対して*** P<0.001である。値は1群あたり5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns-/- 雄マウスに対して*** P<0.001。
図14】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。(A)は、野生型(健康)マウス(WT)および、未処置のGns-/- 雄マウスおよび、5×1010vgの対照ベクター(AAV9-null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSのいずれかを大槽に投与されたGns-/-雄マウスからの体器官におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。(B)は、(A)と同じ動物のコホートから得られた肝臓抽出物中の他のリソソーム酵素の活性を示す。IDUA、イズロニダーゼ、α-L-、SGSH、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、NAGLU、N-アセチルグルコサミニダーゼ、α、HGSNAT、ヘパラン-α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、GALNSガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、GUSB、グルクロニダーゼ、ベータ、B-HEXO、ヘキソサミニダーゼB。WT酵素活性は100%に設定された。値は、1群あたり4~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns 雄マウスに対して* P<0.05,** P<0.01,*** P<0.001,**** P<0.0001である。
図15】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。野生型(健康な)、無処置Gns-/-雄マウス、および5×1010vgの対照ベクター(AAV9-Null)または5x1010vgのAAV9CAG omGNSベクターを2ヶ月齢でCSF中に投与し4ヶ月後に分析した場合のGns-/-雄マウス、における全体重に対する肝臓(A)および脾臓(B)の湿潤重量を示す。値は、n=8~13動物(匹)/群の平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns-/- 雄マウスに対して*** P<0.001。
図16】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。6ヶ月齢の健康なWTおよび5×1010vgの対照ベクター(AAV9Null)または等量の最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするベクターのいずれかをCSF投与したGns-/-雄から採取した臓器の肝細胞(肝臓)および繊毛気管支細胞(肺)の微細構造の透過型電子顕微鏡による分析を示す。拡大されたリソソームは矢印で示されている。スケールバー:肝臓、10μm。肺、5μm。
図17】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。短期研究。素朴な野生型(健康な)、無処置Gns-/-雄マウス、および5×1010vgの対照ベクター(AAV9-Null)または5x1010vgのAAV9CAG omGNSベクターを2ヶ月齢でCSF中に投与し4ヶ月後に分析した場合のGns-/-雄マウス、において、オープンフィールド試験による一般的な自発運動および探索的活動の評価を示す。移動した総距離および休止した時間結果は平均±SEM、群あたりn=15~18動物(匹)として示される。
図18】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。(A)は、野生型(健康な)マウス(WT)および、未処置のGns-/- 雄マウス、および5×1010vgの対照ベクター(AAV9-null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSのいずれかを大槽に投与されたGns-/-雄マウスにおける脳の異なる部分(切片I-IV)におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。マウスを2ヶ月齢で処置し、10ヶ月後に分析した。値は、1群当たり5匹のマウスの平均値±SEMである。(B)は、ヒストグラムは、リソソームマーカーLAMP-2を認識する抗体で脳切片を染色した後の脳の異なる領域で得られたシグナル強度を表す。値は、1群あたり3~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns 雄マウスに対して* P<0.05,** P<0.01,*** P<0.001である。
図19】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。(A、B)は、野生型(健康な)および、5×1010vgの対照ベクター(AAV-null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSを2ヵ月齢で大槽内に投与し、10ヵ月後に分析したGns-/-雄マウスからの前頭皮質、頭頂葉皮質、後頭皮質、上丘、および視床の切片における、星状細胞マーカーGFAP(A)およびミクログリアマーカーBSI-B4(B)についての免疫染色後に測定されたシグナル強度の定量化を示す。結果は、1群あたり3~5匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns 雄マウスに対して* P<0.05,** P<0.01,*** P<0.001。
図20】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。(A)は、野生型(健康)マウス(WT)および、未処置のGns-/- 雄マウスおよび、5×10vgの対照ベクター(AAV9-null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSのいずれかを大槽に投与されたGns-/-雄マウスからの体器官におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。マウスを2ヶ月齢で処置し、10ヶ月後に分析した。(B)は、(A)と同じ動物のコホートから得られた肝臓抽出物中の突然変異によって影響されないリソソーム酵素の活性を示す。IDUA、イズロニダーゼ、α-L-、SGSH、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、NAGLU、N-アセチルグルコサミニダーゼ、α、HGSNAT、ヘパラン-α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、GALNSガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、GUSB、グルクロニダーゼ、ベータ、B-HEXO、ヘキソサミニダーゼB。WT 酵素活性は100%に設定された。値は、1群あたり4~8匹のマウスの平均値±SEMである。AAV9-Nullで処置したGns 雄マウスに対して* P<0.05,** P<0.01,*** P<0.001である。
図21】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。素朴な野生型(健康な)、無処置Gns-/-雄マウス、および5×1010vgの対照ベクター(AAV9Null)または5x1010vgのAAV9CAG omGNSベクターを2ヶ月齢でCSF中に投与し10ヶ月後に分析した場合のGns-/-雄マウスの、自発運動および探索的活動のオープンフィールド評価を示す。移動した総距離、休止時間および後ろ足立ち回数。結果は、1群あたり5~15動物(匹)の平均値±SEMである。Gns-/- 雄マウスに対して* P<0.05。
図22】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。野生型(健康な)マウス(WT)および5x1010vgのAAV9CAG omGNSを、槽内(IC)注射を介して、CSF中に投与されたGns-/-マウスの脳におけるGNS活性を示す。WT GNS活性は100%に設定された。活性は22ヶ月齢で、すなわちベクター投与後20ヶ月で分析した。値は、1群当たり4匹のマウスの平均値±SEMである。
図23】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。(A)は、野生型(健康な)マウス(WT)およびAAV9CAG omGNSベクターの5x1010個のベクターゲノムを大槽内に投与されたGns-/-雄マウスの、脳中のグリコサミノグリカン(GAG)含有量を示す。ベクター送達の20ヶ月後に分析を実施した。(B)は、(A)と同じ動物のコホートにおけるリソソームマーカーLAMP-2についての染色後の脳の異なる領域におけるシグナル強度の定量化を示す。(C)は、(A)と同じ動物のコホートから得られた脳抽出物中の他のリソソーム酵素の活性を示す。GALNSガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、GUSB、グルクロニダーゼ、ベータ、B-HEXO、ヘキソサミニダーゼB値は、1群当たり4匹のマウスの平均値±SEMである。
図24】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。野生型(健康)およびAAV9-CAG-omGNSベクターの5×1010ベクターゲノムを大槽に投与され、20ヶ月後に分析されたGns-/- 雄マウスからの脳切片における神経炎症の評価を示す。ヒストグラムは、前頭皮質、頭頂葉皮質、後頭皮質、上丘、および視床の切片における、星状細胞マーカーGFAP(A)およびミクログリアマーカーBSI-B4(B)のシグナル強度を表す。結果は、1群当たり4匹のマウスの平均値±SEMである。
図25】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。長期研究。野生型(健康)マウスおよびAAV9-CAG-omGNSベクターの5×1010個のベクターゲノムを2ヶ月齢で大槽に投与されたGns-/- 雄マウスからの体器官におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化を示す。結果は、1群当たり4匹のマウスの平均値±SEMである。
図26】最適化されたマウスGNS(AAV9-CAG-omGNS)をコードするAAV9ベクターのCSF内送達を示す。野生型(健康な)、無処置Gns-/-雄マウス、および5×1010vgの対照ベクター(AAV9-Null)または5×1010vgのAAV9-CAG-omGNSベクターを2ヶ月齢で投与したGns-/-雄マウスにおける、WTについてはn=20、無処置Gns-/- マウスについてはn=19、AAV9-ヌル注入Gns-/- マウスについてはn=19、およびAAV9-CAG-omGNS-注入Gns-/- マウスについてはn=20での、生存率のカプラン-マイヤー分析を示す。
【0028】
〔微生物の寄託〕
プラスミドpAAV-CAG-hGNS(配列番号5)、pAAV-CAG-ohGNS-version1(配列番号6)、pAAV-CAG-ohGNS-version2(配列番号7)およびpAAV-CAG-ohGNS-version3(配列番号8)は、2016年7月21日にそれぞれアクセス番号DSM 32342、DSM 32343、DSM 32344、およびDSM 32345で、それぞれ、DSMZ(ドイツ連邦共和国ブラウンシュヴァイクD-38124インホフェンシュトラーセ7 Bドイツの微生物と細胞培養のコレクション)に寄託された。
【0029】
[DSM 32342寄受託証の写し]
【0030】
[DSM 32343寄受託証の写し]
【0031】
[DSM 32344寄受託証の写し]
【0032】
[DSM 32345寄受託証の写し]
【0033】
〔定義〕
「ヌクレオチド配列」または「単離されたヌクレオチド配列」または「ポリヌクレオチド配列」または「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において互換的に使用され、それぞれデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む核酸分子、DNAまたはRNAのいずれか、をいう。核酸は、二本鎖もしくは一本鎖であり得るし、または二本鎖配列もしくは一本鎖配列の両方の部分を含むものであり得る。
【0034】
「配列同一性%」、「同一性%」または「配列相同性%」という用語は、配列を整列させて最大配列同一性%を達成した後、参照配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸と同一である候補配列のヌクレオチドまたはアミノ酸の百分率を指す。好ましい実施形態では、配列同一性は、2つの与えられた配列番号の全長に基づいて、またはその一部に基づいて計算される。配列同一性%は、ALIGN、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムなどの当技術分野において確立されている任意の方法またはアルゴリズムによって決定することができる。Altschul S, et al.,Nuc Acids Res. 1977;25:3389-3402 and Altschul S,et al.,J Mol Biol. 1990;215:403-410.を参照されたい。
【0035】
任意選択的に、アミノ酸類似性の程度を決定する際に、これは当業者に明らかであるように、当業者は、いわゆる「保存的」アミノ酸置換を考慮に入れることもできる。保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の互換性に基づいている。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンが含まれる。脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群には、セリンおよびトレオニンが含まれる。アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群には、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。芳香族側鎖を有するアミノ酸の群には、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが含まれる。塩基性側鎖を有するアミノ酸の群には、リジン、アルギニンおよびヒスチジンが含まれる。硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群には、システインおよびメチオニンが含まれる。本明細書に開示されたアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列中の少なくとも1つの残基が除去され、そしてその場所に異なる残基が挿入されたものである。好ましくは、アミノ酸変化は保存的である。天然に存在するアミノ酸のそれぞれについての好ましい保存的置換は以下の通りである。AlaからSer;ArgからLys;AsnからGinまたはHis;AspからGlu;CysからSerまたはAla;GinからAsn;GluからAsp;GlyからPro;HisからAsnまたはGin;He から Leu または Val;Leu から He または Val;LysからArg;GinからGlu;MetからLeuまたはHe;PheからMetまたはLeuまたはTyr;SerからThr;Thr から Ser;TrpからTyr;Tyr から Trp または Phe;Val から He または Leu。
【0036】
「コード化する」(codify)または「コードする」(coding)という用語は、ヌクレオチド配列がポリペプチドまたはタンパク質にどのように翻訳されるかを決定する遺伝暗号を指す。配列中のヌクレオチドの順序は、ポリペプチドまたはタンパク質に沿ったアミノ酸の順序を決定する。
【0037】
「タンパク質」という用語は、アミノ酸またはポリペプチドの1つまたは複数の直鎖から構成される巨大分子を意味する。タンパク質は、システイン残基の3-oxoalanineへの変換、グリコシル化または金属結合のような翻訳後修飾を受けることができる。タンパク質のグリコシル化とは、アミノ酸鎖に共有結合的に連結されるさまざまな炭水化物を付加することである。
【0038】
「転写調節領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の発現を調節することができる核酸断片を指す。本発明のポリヌクレオチドの調節領域は、RNAポリメラーゼ結合を補助し、発現を促進する転写因子の結合のためのプロモーター、加えて応答エレメント、アクチベーターおよびエンハンサー配列を、ならびに、RNAポリメラーゼ付着をブロックし、発現を防止するためにリプレッサータンパク質が結合するオペレーターまたはサイレンサー配列を含み得る。
【0039】
「プロモーター」という用語は、1つまたは複数のポリヌクレオチドの転写を制御するように機能する核酸断片として理解されなければならず、それは例えばポリヌクレオチド配列の5’上流に配置され、DNA依存性RNAポリメラーゼに対する結合部位、転写開始部位、ならびに以下に限られないが転写因子、リプレッサーおよびプロモーターからの転写の量を調節するために直接または間接的に作用する当該分野で公知の任意の他のヌクレオチド配列、に対する結合部位の存在によって構造的に同定されるコード配列である。
【0040】
RT-qPCRまたはノーザンブロッティング(転写物の検出)のような適切なアッセイを用いて目的のヌクレオチド配列に作用的に連結されたプロモーターを含む遺伝子構築物を用いて発現系においてヌクレオチド配列の転写を開始することができる場合、前記プロモーターは活性であると言われるかまたは前記プロモーターはそれに作用可能に連結された前記ヌクレオチド配列の発現を駆動すると言われる。前記プロモーターの活性はまた、ウエスタンブロッティングまたはELISAなどの、コードされたタンパク質についての適切なアッセイを用いてタンパク質レベルで評価され得る。転写物を検出することができる場合、または構築物が前記プロモーターを含まないという点でのみ異なる構築物を使用する転写と比較して、転写物もしくはタンパク質レベルの増加が少なくとも5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、500%、1000%、1500%または2000%であることが見出される場合、プロモーターは転写を開始することができると言われる。
【0041】
「構成的」プロモーターという用語は、ほとんどの生理学的および発生的条件下で活性であるプロモーターを指す。「誘導性」プロモーターは、生理学的条件または発生条件に応じて調節されることが好ましいプロモーターである。誘導性プロモーターは、薬物送達後または光曝露後に活性であり得る。したがって、「構成的」プロモーターは、「誘導性」プロモーターの意味においては調節されない。「組織特異的」プロモーターは、特定の種類の細胞/組織において活性であることが好ましい。「組織特異的」プロモーターとは対照的に、本発明の文脈において使用されるプロモーターは「遍在的」プロモーターである。遍在的プロモーターは、多くのまたは任意の異なる組織において活性であるプロモーターとして定義され得る。通常、この文脈で「多くの」とは、組織が、5より多い、もしくは少なくとも6、10、15、20の、または5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20の異なる組織においてであることを意味する。
【0042】
「CAG」プロモーターという用語は、ニワトリβ-アクチンプロモーターおよびサイトメガロウイルスエンハンサーを含むプロモーターをいう(Alexopoulou A.et al.BMC Cell Biology 2008; 9(2):1-11)。より正確には、上記CAGプロモーターは、以下を含む。(i)サイトメガロウィルス(CMV)初期エンハンサー要素、(ii)ニワトリβ-アクチンプロモーター、(iii)ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロン、(iv)ウサギβ-グロビン遺伝子のイントロン2/エクソン3。
【0043】
「作用可能に連結された」という用語は、目的の遺伝子に対するプロモーター配列の機能的関係および位置を指す(例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合には、コード配列に作用可能に連結されている)。一般に、作用可能に連結されたプロモーターは、目的の配列に隣接している。しかしながら、エンハンサーは、発現を制御するために、目的の配列に隣接している必要はない。
【0044】
「転写後調節領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、カセットまたは得られる遺伝子産物に含まれる配列の発現、安定化、または局在化を促進する任意のポリヌクレオチドを指す。
【0045】
「ベクター」という用語は、本明細書中で使用される場合、目的の1つまたは複数のポリヌクレオチドを宿主細胞に送達することができ、任意選択で発現させることができる構築物を指す。ベクターの例としては、これらに限定されないが、ウイルスベクター、裸のDNAまたはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、カチオン性縮合剤と関連するDNAまたはRNA発現ベクター、リポソーム中に封入されたDNAまたはRNA発現ベクター、およびプロデューサー細胞などの特定の真核細胞、が挙げられる。ベクターは安定であり得、そして自己複製的であり得る。使用することができるベクターの種類に関しては、限定されない。ベクターは、増殖に、そしていくつかの異種生物に組み込まれたポリヌクレオチド、遺伝子構築物または発現ベクターを得るのに適したクローニングベクターであり得る。適切なベクターとしては、原核生物発現ベクター(例えば、pUC18、pUC19、Bluescriptおよびそれらの誘導体)、mpl8、mpl9、pBR322、pMB9、ColEL、pCRl、RP4、ファージおよびシャトルベクター(例えば、pSA3およびpAT28)、およびウイルスベクターに基づく真核生物発現ベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ならびにレトロウイルスおよびレンチウイルス)、ならびに非ウイルスベクターとしてpサイレンサー4.1-CMV(Ambion(登録商標)、Life Technologies Corp.,カリフォルニア州カールズバッド)、pcDNA3、pcDNA3.1/hyg pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、plND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER-HCMV、pUB6/V5-His、pVAXl、pZeoSV2、pCl、pSVLとpKSV-10、pBPV-l、pML2dとpTDTlなどが挙げられる。
【0046】
「組換えプラスミド」または「プラスミド」という用語は、目的の遺伝物質を細胞に移入することができる遺伝子工学技術を介して得られる小型、円形、二本鎖、自己複製DNA分子をいい、これは、標的細胞中の前記遺伝物質(例えば、タンパク質ポリペプチド、ペプチドまたは機能性RNA)によってコードされる産物の産生をもたらす。さらに、「組換えプラスミド」または「プラスミド」という用語はまた、組換えベクターゲノムの担体としてのウイルスベクターの製造中に使用される遺伝子工学技術を介して得られる、小型、環状、二本鎖、自己複製DNA分子を指す。
【0047】
「組換えウイルスベクター」または「ウイルスベクター」という用語は、目的の遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)を細胞に移入することができる遺伝子工学技術を介して天然に存在するウイルスから得られる作用物質を指し、これは、標的細胞中の上記遺伝物質(例えば、タンパク質ポリペプチド、ペプチドまたは機能性RNA)によってコードされる産物の産生をもたらす。
【0048】
本明細書中で同義語として使用される「アデノ随伴ウイルス」、「AAVウイルス」、「AAVビリオン」、「AAVウイルス粒子」および「AAV粒子」という用語は、AAVの少なくとも1つのキャプシドタンパク質(好ましくは、特定のAAV血清型の全てのキャプシドタンパク質から構成される)と、AAVゲノムに対応するカプセル化ポリヌクレオチドとから構成されるウイルス粒子をいう。野生型AAVは、デペンドウイルス属、パルボウイルス科に属するウイルスを指す。野生型AAVゲノムは長さが約4.7Kbであり、ポジティブセンスまたはネガティブセンスであり得る一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)からなる。野生型ゲノムは、DNA鎖の両端に逆方向末端反復(ITR)を含み、3つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。ORF repは、AAVライフサイクルに必要な4つのRepタンパク質をコードする。ORF capは、キャプシドタンパク質:VP1、VP2およびVP3をコードするヌクレオチド配列を含み、これらは相互作用して正二十面体対称性のキャプシドを形成する。最後に、Cap ORFとオーバーラップするAAP ORFは、キャプシド集合を促進すると思われるAAPタンパク質をコードする。粒子が、AAV ITRによって隣接される異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノムとは異なるポリヌクレオチド)を含む場合、それは、一般的には、「AAVベクター粒子」または「AAVウイルスベクター」または「AAVベクター」として知られる。本発明はまた、dsAAVまたはscAAVとも呼ばれる二本鎖AAVの使用を包含する。
【0049】
「アデノ随伴ウイルスITR」または「AAV ITR」という用語は、本明細書で使用される場合、AAVのゲノムのDNA鎖の両端に存在する、逆方向末端反復を指す。ITR配列は、AAVゲノムの効率的な増殖のために必要とされる。これらの配列の他の特性は、ヘアピンを形成するそれらの能力である。この特徴はそれらの自己プライミングに寄与し、これは第2のDNA鎖のプライマーゼ非依存的合成を可能にする。ITRはまた、野生型AAV DNAの宿主細胞ゲノムへの組み込み(例えば、血清型2AAVのためのヒト19番染色体)とそれからのレスキューの両方に必要であることが示されており、また、完全に集合されたデオキシリボヌクレアーゼ耐性AAV粒子へのAAV DNAの効率的なキャプシド形成にもまた、必要であることが示されている。ITR配列は、長さが約145bpである。好ましくは、ITRの全配列がAAVウイルスベクターのゲノムにおいて使用されるが、これらの配列のある程度のわずかな改変は許容される。野生型ITR配列は、ITRが所望の機能、例えば複製、ニッキング、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/またはプロウイルスレスキューなどを媒介する限り、挿入、欠失または切断によって改変することができる。これらのITR配列を修飾するための手順は、当該技術分野において周知である。ITRは、任意の野生型AAV由来であってもよく、これには、限定されないが、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12、または既知のもしくは後で発見される任意の他のAAVが含まれる。AAVは、2つのITRを含み、これらは、同一であっても異なっていてもよい。さらに、2つのAAV ITRは、AAVキャプシドと同じAAV血清型由来であり得るか、または異なり得る。好ましい実施形態において、5’および3’AAV ITRは、AAV 1、AAV 2、AAV 4、AAV 5、AAV 7、AAV 8および/またはAAV 9に由来する。好ましくは、ITRはAAV2、AAV8および/またはAAV2に由来し、最も好ましいのはAAV2である。一実施形態では、AAV2 ITRは、偽型AAV(すなわち、異なる血清型から誘導されるキャプシドおよびITRを有するAAV)を生成するように選択される。
【0050】
「組換えウイルスゲノム」という表現は、本明細書で使用される場合、少なくとも1つの外来ポリヌクレオチドが天然に存在するAAVゲノムに挿入されているAAVゲノムを指す。本発明によるAAVのゲノムは、通常は、シス作用性5’および3’逆方向末端反復配列(ITR)ならびに発現カセットを含む。
【0051】
「遺伝子治療」という用語は、遺伝的または後天性の疾患または病態を治療または予防するために、目的の遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)を細胞内に移入することを指す。目的の遺伝物質は、インビボでの産生が所望される産物(例えば、タンパク質ポリペプチド、ペプチドまたは機能性RNA)をコードする。例えば、目的の遺伝物質は、治療的価値のある酵素、ホルモン、受容体、またはポリペプチドをコードし得る。
【0052】
「形質導入する」(transduce)または「形質導入」(transduction)という用語は、本明細書中で使用される場合、外来ヌクレオチド配列がウイルスベクターを介して細胞内に導入されるプロセスを指す。
【0053】
「トランスフェクション」という用語は、本明細書で使用される場合、非ウイルス法により精製された核酸を真核細胞中に意図的に導入するプロセスを指す。
【0054】
「治療する」(treat)または「治療」(treatment)という用語は、本明細書で使用される場合、疾患の進行を制御するための本発明の化合物または組成物の投与を指す。疾患進行の制御は、これらに限定されないが、症状の減少、疾患の持続期間の減少、病理学的状態の安定化(特にさらなる悪化を回避するため)、疾患の進行の遅延、病理学的状態の改善、および寛解(部分的および全体的)を含む、有益なまたは所望の臨床結果の達成として理解される。疾患の進行の制御はまた、治療が適用されない場合の予想生存期間と比較しての、生存期間の延長も含む。
【0055】
「有効量」という用語は、意図された目的を達成するのに十分な物質の量を指す。例えば、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ(GNS)活性を増加させるためのAAV9ベクターの有効量は、グリコサミノグリカンの蓄積を減少させるのに十分な量である。疾患または障害を治療するための発現ベクターの「治療有効量」は、疾患または障害の徴候および症状を減少または根絶するのに十分な発現ベクターの量である。所与の物質の有効量は、物質の性質、投与経路、その物質を受容する動物のサイズおよび種、ならびにその物質を与える目的などの因子によって変化する。個々の場合における有効量は、当技術分野で確立された方法に従って当業者によって経験的に決定され得る。
【0056】
「個体」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトまたは非ヒト哺乳動物、より好ましくはマウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマまたは霊長類、さらにより好ましくはヒトを指す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、ムコ多糖症、特にムコ多糖症III型(MPSIII-D型)すなわちサンフィリッポ D症候群を治療するための新規ポリヌクレオチドおよびベクターを提供する。
【0058】
したがって、第1の態様において、本発明は、発現カセットを含むポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」と称する)に関するものであり、上記発現カセットは、GNSタンパク質またはこれについて機能的に等価な変異体をコードするヌクレオチド配列に作用的に連結された転写調節領域を含む。
【0059】
上述したように、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ(GNS)はすべての細胞において見出されるリソソーム酵素である。それは、グリコサミノグリカン(GAG)ヘパラン硫酸(HS)の異化に関与する。この酵素は、ヘパラン硫酸のN-アセチル-D-グルコサミン6-硫酸単位の6-硫酸基の加水分解を触媒する。この酵素の欠乏は、劣化した基質の蓄積と、リソソーム蓄積障害ムコ多糖症III-D型(サンフィリッポD症候群)をもたらす。
【0060】
本発明はまた、当該分野で公知のGNS変異体および断片をコードするポリヌクレオチド配列を意図する。したがって、本発明は、GNSの機能的に等価な変異体をコードするDNAを含むように解釈されるべきである。
【0061】
「機能的に等価な変異体」という用語は、本明細書で使用される場合、上記で定義されたGNSの配列と実質的に相同であり、かつGNSの生物学的活性を保持する任意のポリペプチドに関する。このような機能的に等価な変異体の配列は、1つまたは複数のアミノ酸の挿入、置換または欠失によって、そしてGNSの生物学的活性を実質的に保存することにより、上記で定義されたGNSの配列から得ることができる。変異体が天然GNSの生物学的活性を保存しているかどうかを決定するための方法は当業者に広く知られており、この出願の実験部分で使用されるアッセイのいずれかを含む。特に、本発明に包含されるGNSの機能的に等価な変異体は、例えば、グリコサミノグリカン(GAG)レベル、特にHSレベルを正常化するか、または低下させるなどの、GNSの機能の少なくとも1つを有する。
【0062】
本発明に付随する実施例に示されるように、GNSの最適化されたコード配列または最適化されていないコード配列は、MPSIII-D型の動物を治療するために使用されてきた。結果は、ベクター投与後のGNS活性の回復を示し、これは、動物モデルで分析された全ての中枢神経系領域における疾患に特徴的な基質蓄積(GAG)のほぼ完全な正常化をもたらした。
【0063】
GAGレベルを低下または正常化する能力を決定するのに適した方法は、本発明の実施例のセクションで詳述される。
【0064】
好ましい実施形態では、ポリペプチドは、それが、上記のような機能において能力を示す場合、特にそれがヘパラン硫酸のN-アセチル-D-グルコサミン6-硫酸単位の6-硫酸基を、GNS野生型ポリペプチドの能力の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%で、加水分解することが可能である場合に、GNSの機能的に等価な変異体であると考えられる。
【0065】
GNSの機能的に等価な変異体は、天然のGNSと実質的に相同なポリペプチドである。「実質的に相同な」という表現は、上記タンパク質配列が、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のGNS野生型配列に関して同一性の程度を有する場合のタンパク質配列に関する。2つのポリペプチド間の同一性の程度は、当業者に広く知られているコンピューターアルゴリズムと方法を使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくはBLASTPアルゴリズム[BLAST Manual,Altschul,S.,et al.,NCBI NLM NIH Bethesda,Md.20894,Altschul,S.,et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)]を使用することによって決定されるが、他の類似のアルゴリズムも使用することができる。
【0066】
GNSの機能的に等価な変異体は、GNSを産生するために使用される宿主細胞におけるコドン優先性を考慮して、そのコードポリヌクレオチド内のヌクレオチドを置換することによって得ることができる。
【0067】
GNSの機能的に等価な変異体は、保存的アミノ酸変化を行い、得られた変異体を上記の機能的アッセイの1つまたは当技術分野において公知の他の機能的アッセイで試験することによって作製することができる。保存的アミノ酸置換とは、類似の側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群はグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群はセリンおよびトレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群はアスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群はフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リジン、アルギニン、およびヒスチジンであり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群はシステインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0068】
本発明の特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドに含まれるGNSタンパク質またはその機能的に等価な変異体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号1と70%から85%の間の同一性を有する。より特定の実施形態では、上記ヌクレオチド配列は、配列番号1と75%から85%の間の同一性を有する。さらにより好ましい実施形態では、上記配列は、配列番号1と75%から80%の間の同一性を有する。好ましい実施形態では、上記GNSヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号3、および配列番号4からなる群から選択される。
【0069】
本発明の別の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるGNSタンパク質は、ヒトGNSおよびマウスGNSからなる群から選択される。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドの一部を形成する発現カセットは、発現制御配列をさらに含んでもよく、この配列は、これらに限定されないが、適切な転写調節配列(すなわち、開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー)、効率的なRNAプロセシングシグナル(例えば、スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナル)、細胞質mRNAを安定化する配列、翻訳効率を高める配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列)、タンパク質安定性を高める配列、および所望される場合、コードされた産物の分泌を高める配列を含む。多数の発現制御配列が当該分野で公知であり、そして本発明に従って利用され得る。
【0071】
本発明によれば、本発明のポリヌクレオチドは、発現カセットを含み、ここで、上記発現カセットは、GNSをコードするヌクレオチド配列に作用的に連結された転写調節領域を含む。本発明の特定の実施形態では、上記転写調節領域はプロモーターを含む。本発明の別の特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドの転写調節領域は、プロモーターに作用的に連結されたエンハンサーをさらに含む。より特定の実施形態では、上記プロモーターは、構成的プロモーターである。好ましい実施形態では、上記プロモーターは、配列番号15に記載のCAGプロモーターである。
【0072】
別の実施形態では、発現カセットは、AAV ITRによって隣接される。より特定の実施形態では、上記AAV ITRは、AAV2ITRである。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドの発現カセットは、GNSまたはその機能的に等価な変異体をコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、上記ヌクレオチド配列は、受託番号NM_002076.3を有するNCBIデータベースの配列に対応するヒトGNSをコードするヌクレオチド配列であり、より具体的には、それは、配列番号1である。好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、ヒトGNSをコードするヌクレオチド配列の変異体であり、好ましくは、配列番号2、配列番号3、および配列番号4からなる群から選択される配列である。
【0074】
別の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドの一部を形成する発現カセットは、転写後調節領域をさらに含む。「転写後調節領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、カセットまたは得られる遺伝子産物に含まれる配列の発現、安定化、または局在化を促進する任意のポリヌクレオチドを指す。転写後調節領域は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後領域(WPRE)であり得るが、これに限定されない。「ウッドチャックB型肝炎ウイルス後調節エレメント」または「WPRE」という用語は、本明細書で使用される場合は、転写されると、遺伝子の発現を増強することができる三次構造を作り出すDNA配列を指す。
【0075】
別の実施形態では、発現カセットは、ポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0076】
「ポリアデニル化シグナル」という用語は、本明細書で使用される場合、mRNAの3’末端へのポリアデニンテイルの付着を媒介する核酸配列に関する。適切なポリアデニル化シグナルには、これらに限定されるものではないが、SV40初期ポリアデニル化シグナル、SV40後期ポリアデニル化シグナル、HSVチミジンキナーゼポリアデニル化シグナル、プロタミン遺伝子ポリアデニル化シグナル、アデノウイルス5Elbポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル、ヒト変異成長ホルモンポリアデニル化シグナル、ウサギβ-グロビンポリAシグナルなどが含まれる。特定の実施形態において、ポリアデニル化シグナルは、ウサギβ-グロビンポリAシグナルまたはその機能的変異体およびその断片である。
【0077】
本発明のポリヌクレオチドは、ベクターに組み込まれ得る。したがって、別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む、本明細書で「本発明のベクター」と呼ばれるベクターに関する。特定の実施形態では、上記ベクターはプラスミドである。別の特定の実施形態では、上記ベクターはAAVベクターであり、上記AAVベクターは、本発明によるポリヌクレオチドを含む組換えウイルスゲノムを含む。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドに関連して開示される全ての実施形態は、本発明のベクターにも適用可能である。
【0079】
より特定の実施形態において、上記ベクターは、配列番号5に記載される、受託番号DSM 32342を有するプラスミドpAAV-CAG-hGNS、配列番号6に記載される受託番号DSM 32343を有するプラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version1、配列番号7に記載される受託番号DSM 32344を有するプラスミドpAAV-CAG-ohGNS-version2、配列番号8に記載される受託番号DSM 32345を有するpAAV-CAG-ohGNS-version3、からなる群から選択される。
【0080】
別の特定の実施形態において、本発明は、アデノ随伴ウイルスベクター、AAVベクターに関し、上記AAVベクターは、組換えウイルスゲノムを含み、上記組換えウイルスゲノムは、GNSまたはその機能的等価変異体をコードするヌクレオチド配列に作用的に連結された転写調節領域を含む発現カセットを含むポリヌクレオチドを含む。
【0081】
本発明によるAAVは、AAVの既知の血清型の任意の血清型を含む。一般的に、AAVの異なる血清型は、有意な相同性を有するゲノム配列を有し、同一の一連の遺伝機能を提供し、物理的および機能的関係において本質的に等価なビリオン(virions)を産生し、そして実質的に同一の機構により複製し集合する。特に、本発明のAAVは、AAV(AAV1)、AAV2、AAV3(3A型および3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および任意の他のAAVの血清型1に属し得る。異なるAAV血清型のゲノムの配列の例は、文献またはGenBankなどの公的データベースに見出され得る。GenBank受託番号 AF028704.1(AAV6)、NC006260(AAV7)、NC006261(AAV8)、およびAX753250.1(AAV9)を参照されたい。好ましい実施形態では、本発明の上記AAVベクターは、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAVrh10血清型からなる群から選択される血清型のものである。好ましい実施形態では、本発明の前記AAVベクターは、血清型9、AAV9のものである。
【0082】
特定の実施形態では、上記AAVベクターは、ヒトGNSまたはマウスGNS配列を含む。より特定の実施形態では、本発明によるAAVベクターは、配列番号1と70%から85%の同一性を有するGNSコードヌクレオチド配列を含む。より特定の実施形態では、上記GNSコードヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号3、および配列番号4からなる群から選択される。
【0083】
特定の実施形態では、発現カセット内の転写調節領域はプロモーターを含む。より特定の実施形態では、上記プロモーターは、構成的プロモーターである。より特定の実施形態では、上記プロモーターは、配列番号15に記載されるCAGプロモーターである。
【0084】
本発明の別の特定の実施形態では、AAVベクターは、CAGプロモーターに連結された配列番号1のヌクレオチド配列を含む配列番号9のAAV9-CAG-hGNSである。別の実施形態において、AAVベクターは、CAGプロモーターに連結された配列番号2のヌクレオチド配列を含む配列番号10のAAV9-CAG-ohGNS-バージョン1(version1)である。別の実施形態では、AAVは、CAGプロモーターに連結された配列番号3のヌクレオチド配列を含む、配列番号11のAAV9-CAG-ohGNS-version2である。別の実施形態では、AAVベクターは、CAGプロモーターに連結された配列番号4のヌクレオチド配列を含む配列番号12のAAV9-CAG-ohGNS-version3である。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明のAAVは、5’から3’方向に、(i)5’AAV2 ITR、(ii)CMV即時初期(Iimediate-early)エンハンサー、(iii)ニワトリB-アクチンプロモーター、(iv)ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロン、(v)ウサギβ-グロビン遺伝子由来のイントロン2/エクソン3、(vi)GNS cDNAまたはその機能的に等価な変異体、(vii)ウサギβ-グロビンポリAシグナルなどのポリAシグナル、(viii)3’AAV2 ITR、を含む発現カセットを含むヌクレオチド配列を含む組換えウイルスゲノムを含む。当業者は、ベクターゲノムが、他の配列(例えば、具体的に上記に記載の配列間の介在配列)を含み得ることを理解するであろう。成分(i)~(v)は、当業者によって通常に理解される意味を有する。
【0086】
好ましい実施形態では、組換えウイルスゲノムは、配列番号9のヌクレオチド配列を含む。特に、5’AAV ITRはヌクレオチド1~120を含み、CMVエンハンサーはヌクレオチド194~557を含み、B-アクチンプロモーターはヌクレオチド558~839を含み、ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロンはヌクレオチド840~1804を含み、ウサギβ-グロビン遺伝子由来のイントロン2/エクソン3はヌクレオチド1805~1906を含み、ヒトGNS cDNAはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギβ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギベータ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド3619~4147を含み、そして3’AAV2 ITRは配列番号5のヌクレオチド4206~4313を含む。
【0087】
好ましい実施形態では、組換えウイルスゲノムは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む。特に、5’AAV ITRはヌクレオチド1~120を含み、CMVエンハンサーはヌクレオチド194~557を含み、B-アクチンプロモーターはヌクレオチド558~839を含み、ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロンはヌクレオチド840~1804を含み、ウサギβ-グロビン遺伝子由来のイントロン2/エクソン3はヌクレオチド1805~1906を含み、ヒトGNS cDNAはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギβ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギベータ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド3619~4147を含み、3’AAV2ITRは配列番号6のヌクレオチド4206~4313を含む。
【0088】
好ましい実施形態では、組換えウイルスゲノムは、配列番号11のヌクレオチド配列を含む。特に、5’AAV ITRはヌクレオチド1~120を含み、CMVエンハンサーはヌクレオチド194~557を含み、B-アクチンプロモーターはヌクレオチド558~839を含み、ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロンはヌクレオチド840~1804を含み、ウサギβ-グロビン遺伝子由来のイントロン2/エクソン3はヌクレオチド1805~1906を含み、ヒトGNS cDNAはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギβ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド3619~4147を含み、3’AAV2 ITRは配列番号7のヌクレオチド4206~4313を含む。
【0089】
好ましい実施形態では、組換えウイルスゲノムは、配列番号12のヌクレオチド配列を含む。特に、5’AAV ITRはヌクレオチド1~120を含み、CMVエンハンサーはヌクレオチド194~557を含み、B-アクチンプロモーターはヌクレオチド558~839を含み、ニワトリβ-アクチン遺伝子の第1イントロンはヌクレオチド840~1804を含み、ウサギβ-グロビン遺伝子由来のイントロン2/エクソン3はヌクレオチド1805~1906を含み、ヒトGNS cDNAはヌクレオチド1934~3592を含み、ウサギβ-グロビンポリAシグナルはヌクレオチド3619~4147を含み、3’AAV2 ITRは配列番号8のヌクレオチド4206~4313を含む。
【0090】
修飾されたAAV配列もまた、本発明の文脈において使用することができる。このような修飾された配列は、例えば、既知の血清型のいずれかのAAV ITRまたはVPに対して、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列の同一性(例えば、約75~99%ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の同一性を有する配列)を有し、前記成分の機能を維持する配列を含む。AAV ITRまたはVPの機能を決定するためのアッセイは、当該分野において公知である。上記の修飾された配列は、野生型のAAV ITRまたはVP配列の代わりに使用することができる。
【0091】
本発明のAAVベクターは、任意の血清型由来のキャプシドを含む。一般的に、異なるAAV血清型は、アミノ酸および核酸レベルで有意な相同性を有するゲノム配列を有して、同一の遺伝子機能のセットを提供し、物理的および機能的関係において実質的に等価なビリオンを産生し、実質的に同一の機構を通して複製し構築する。特に、本発明のAAVは、AAV(AAV1)、AAV2、AAV3(3A型および3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および任意の他のAAVの血清型1に属し得る。異なるAAV血清型のゲノムの配列の例は、文献またはGenBankなどの公的データベースに見出され得る。GenBank受託番号 AF028704.1(AAV6)、NC006260(AAV7)、NC006261(AAV8)、およびAX753250.1(AAV9)を参照されたい。好ましい実施形態では、本発明のアデノ随伴ウイルスベクターは、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAVrh10血清型からなる群から選択される血清型のものである。より好ましい実施形態では、前記AAVは、AAV血清型9、AAV9である。
【0092】
本発明のAAVベクターのゲノムは、repおよびcapオープンリーディングフレームを欠く。このようなAAVベクターは、repおよびcap遺伝子産物(すなわち、AAV RepおよびCapタンパク質)をコードし発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中でのみ複製されて感染性ウイルス粒子にパッケージングされ得、ここにおいて、宿主細胞は、アデノウイルス由来のタンパク質をコードし発現するベクターでトランスフェクトされている。
【0093】
〔本発明の医薬組成物〕
本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクターは、医薬組成物においてその処方を必要とする従来の方法によって、ヒトまたは動物の体に投与することができる。したがって、第2の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターまたは本発明のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの治療上有効量を含む医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と称する)に関する。医薬組成物は、薬学的に許容される担体(carrier)をさらに含み得る。
【0094】
本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクター、または本発明のAAVベクターの文脈(context)において開示される全ての実施形態はまた、本発明の医薬組成物にも適用可能である。
【0095】
「治療有効量」という用語は、所望の効果を生じるように計算された本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクターの量を指し、他の理由の中でも、一般的には、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクター、および得られる治療効果の、独自の特徴によって決定される。したがって、疾患の治療に有効であろう上記量は、本明細書に記載されているかまたはそうでなければ当該分野で知られている標準的な臨床技術によって決定することができる。処方において使用される正確な用量は、投与経路に依存するであろう。初期用量は、当技術分野で周知の技術を用いてインビボデータ(例えば動物モデル)から推定することができる。技術水準において通常の経験を有する者は、動物におけるデータに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができる。
【0096】
特定の実施形態では、この処方の用量は、ウイルス粒子数またはゲノムコピー数(“GC”)/ウイルスゲノム数(“vg”)として測定または計算することができる。
【0097】
当技術分野で知られている任意の方法を使用して、本発明のウイルス組成物の1ミリリットル当たりのゲノムコピー(GC)数を決定することができる。AAV GC数のタイトレーションを実施するための1つの方法は、以下のとおりである。精製されたAAVベクターサンプルを、最初にDNA分解酵素(DNase)で処理して、キャプシド化されていないAAVゲノムDNAまたは汚染プラスミドDNAを製造プロセスから除去する。次いで、DNA分解酵素耐性粒子は、熱処理を受けて、キャプシドからゲノムを放出する。次いで、放出されたゲノムを、ウイルスゲノムの特定の領域を標的とするプライマー/プローブセットを用いてリアルタイムPCRにより定量する。
【0098】
本明細書において互換的に使用される「薬学的に許容される担体」、「薬学的に許容される賦形剤」、または「薬学的に許容される溶剤」という用語は、任意の従来型の、非毒性固体、もしくは半固体、または液体充填剤、希釈剤、もしくはカプセル化材料、または製剤補助剤を指す。薬学的に許容される担体は、使用される投薬量および濃度でレシピエントに対して本質的に非毒性であり、製剤の他の成分と適合性がある。薬学的に許容される担体の数および性質は、所望の投与形態に依存する。薬学的に許容される担体は公知であり、当技術分野で周知の方法によって調製され得る。
【0099】
医薬組成物は、静脈内、皮下、筋肉内、脳脊髄液(CSF)、例えば、槽内または脳室内など、ヒトへの投与に適合させた医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化することができる。好ましい実施形態では、医薬組成物は静脈内または脳脊髄液(CSF)投与用である。
【0100】
AAVベクターは、注射による(例えば、ボーラス注射または連続注入による)非経口投与のために処方することができる。注射用製剤は、保存剤を添加した単位剤形(例えば、アンプルまたは単一用量または複数用量の容器)で提供されてもよい。ウイルス組成物は、油性または水性溶媒中の懸濁液、液剤または乳剤のような形態をとることができ、懸濁化剤、安定化剤または分散剤のような製剤化剤を含むことができる。AAV製剤の液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は水素化食用脂肪)、乳化剤(例えば、レシチン又はアラビアゴム)、非水性溶媒(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分別植物油)、及び保存剤(例えば、メチル又はプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート又はソルビン酸)などの製薬上許容される添加剤を用いた従来の手段によって調製され得る。製剤は緩衝塩を含んでもよい。あるいは、組成物は、使用前に、適切な溶媒(例えば、無菌の発熱物質を含まない水)で構成するための粉末形態であってもよい。必要に応じて、組成物は、注射部位での疼痛を緩和するために、リドカインなどの局所麻酔薬を含んでもよい。組成物が浸潤によって投与されようとする場合、それは、医薬品品質の水または生理食塩水溶液を含有する浸潤瓶を用いて投薬することができる。組成物が注射により投与される場合、投与の前に成分を混合することができるように、注射用または滅菌生理食塩水溶液用にバイアル瓶を提供することができる。好ましくは、薬学的に許容される担体は、生理食塩水溶液およびポリエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、Pluronic F68(登録商標)などの界面活性剤である。
【0101】
本発明の組成物は、獣医学的目的のための動物(例えば家畜(ウシ、ブタ、その他))、および他の非ヒト哺乳動物対象、ならびにヒト対象者への送達のために処方され得る。本発明の医薬組成物は、遺伝子導入および遺伝子治療用途で使用するための生理学的に許容される担体とともに製剤化することができる。
【0102】
本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクターと組み合わせて、またはそれらと混合してアジュバントを使用することも包含される。企図されるアジュバントとしては、無機塩アジュバントもしくは無機塩ゲルアジュバント、粒状アジュバント、微粒子アジュバント、粘膜アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
アジュバントは、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクターとの混合物として対象に投与され得るか、または組み合わせて使用され得る。
【0104】
本発明の医薬組成物は、局所的または全身的に投与することができる。一実施形態では、医薬組成物は、細胞が形質導入されるべき組織または器官の近くに投与される。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、側脳室中で局所的に投与される。別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、全身的に投与される。
【0105】
「全身に投与される」(systemically administered)および「全身投与」(systemic administration)という用語は、本明細書で使用される場合、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、AAVベクターまたは組成物が、局所的ではない方法で対象に投与され得ることを意味する。全身投与は、対象の体中のいくつかの器官または組織に到達することができ、または対象の特定の器官または組織に到達することができる。例えば、静脈内投与は、対象における2つ以上の組織または器官の形質導入をもたらし得る。本発明の医薬組成物は、単回投与で投与することができ、または本発明の特定の実施形態では、治療効果を達成するために複数回投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)を用いることができる。
【0106】
したがって、別の態様において、本発明は、医療における使用のための、本発明によるポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクター、または本発明による医薬組成物に関する。
【0107】
さらなる態様において、本発明は、ムコ多糖症III-D型の治療に使用するための、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクター、または本発明の第2の態様による医薬組成物に関する。
【0108】
したがって、別の態様において、本発明は、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ活性を増加させるための、本発明によるポリヌクレオチド、ベクターもしくはAAVベクター、または本発明による医薬組成物に関する。
【0109】
別の態様では、本発明は、必要とされる対象におけるムコ多糖症III-D型の治療および/または予防のための方法であって、その方法は、上記対象への、本発明によるポリヌクレオチド、または本発明によるベクター、または本発明による組換えベクター、または本発明による医薬組成物の投与を含む。
【0110】
「予防する」(prevent)、「予防すること」(preventing)、および「予防」(prevention)という用語は、本明細書で使用される場合、対象における疾患の開始を阻害することまたは疾患の発生を減少させることをいう。予防は、完全であり得る(例えば、対象における病理学的細胞の完全な不存在)か、または部分的であり得る。予防はまた、臨床症状に対する感受性の低下を指す。「処置する」(treat)または「処置」(treatment)という用語は、本明細書で使用される場合、その臨床的徴候が現れた後に、疾患の進行を制御するための本発明のポリヌクレオチド、またはベクターもしくはAAVベクターもしくは医薬組成物の投与を指す。疾患進行の制御とは、これらに限定されるものではないが、症状の軽減、疾患の期間の短縮、病的状態の安定化(特に、さらなる悪化を回避するため)、疾患の進行の遅延、病理学的状態の改善、及び寛解(部分的及び全体的)を含む、有益又は所望の臨床結果の達成を意味するものと理解される。疾患の進行の制御はまた、治療が適用されない場合の予想生存期間と比較しての、生存期間の延長も含む。
【0111】
「対象」(subject)という用語は、本明細書中で使用される場合、ヒト、非ヒト霊長類(例えばチンパンジー及び他の類人猿及びサル種)、家畜(例えば鳥類、魚類、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ)、家畜(例えばイヌ及びネコ)、又は実験動物(例えばマウス、ラット及びモルモットなどのげっ歯類)などの個体又は動物を指す。この用語には、任意の年齢または性別の対象が含まれる。好ましい実施形態では、対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0112】
〔本発明のAAVを得るための方法〕
本発明はまた、本発明のAAVベクターを得るための方法に関する。上記AAVベクターは、本発明のポリヌクレオチドを、RepおよびCapタンパク質を構成的に発現する細胞中に導入することによって、またはRepおよびCapコード配列がプラスミドまたはベクター中に提供されることによって得ることができる。
【0113】
したがって、別の態様において、本発明は、以下のステップを含むAAVベクターを得るための方法に関する。
(i)本発明のポリヌクレオチド、AAVcapタンパク質、AAV repタンパク質、および任意選択で、AAVが複製のために依存するウイルスタンパク質を含む細胞、を提供するステップ。
(ii)AAVの集合に適した条件下で細胞を維持するステップ。
(iii)細胞によって産生されたアデノ随伴ウイルスベクターを精製するステップ。
【0114】
AAVベクターを産生することができる任意の細胞を、本発明において使用することができる。
【0115】
この方法で使用される本発明のポリヌクレオチドは、前述したとおりである。本発明のポリヌクレオチドの文脈において開示された実施形態のいずれも、本発明のAAVを得るための方法の文脈において適用可能である。
【0116】
「capタンパク質」という用語は、本明細書中で使用される場合、天然のAAV capタンパク質(例えば、VP1、VP2、VP3)の少なくとも1つの機能的活性を有するポリペプチドを指す。capタンパク質の機能的活性の例としては、キャプシドの形成を誘導し、一本鎖DNAの蓄積を促進し、キャプシドへのAAV DNAパッケージングを促進し(すなわちキャプシド形成)、細胞受容体に結合し、そして宿主細胞へのビリオンの進入を促進するという能力がある。原則として、任意のcapタンパク質を本発明の文脈において使用することができる。
【0117】
好ましい態様において、capタンパク質はAAV9に由来する。
【0118】
「キャプシド」という用語は、本明細書で使用される場合、ウイルスゲノムがパッケージングされる構造を指す。キャプシドは、タンパク質から作製されたいくつかのオリゴマー構造サブユニットからなる。例えば、AAVは、3つのキャプシドタンパク質、VP1、VP2およびVP3の相互作用によって形成される正二十面体キャプシドを有する。
【0119】
「repタンパク質」という用語は、本明細書中で使用される場合、天然のAAVrepタンパク質の少なくとも1つの機能的活性を有するポリペプチドを指す。repタンパク質の「機能的活性」は、DNA複製のAAV起源の認識、結合およびニック形成、ならびにDNAヘリカーゼ活性を介するDNA複製の促進を含む、タンパク質の生理学的機能に関連する任意の活性である。さらなる機能には、AAV(または他の異種)プロモーターからの転写の調節、および宿主染色体へのAAV DNAの部位特異的組み込みが含まれる。特定の実施形態では、AAV rep遺伝子は血清型AAV2に由来する。
【0120】
「AAVが複製に依存するウイルスタンパク質」という表現は、本明細書で使用される場合、AAVが複製のために依存する機能(すなわち、「ヘルパー機能」)を果たすポリペプチドを指す。ヘルパー機能には、AAV遺伝子転写、ステージ特異的AAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、capタンパク質の合成、およびAAVキャプシド集積、の活性化に必要な機能が含まれるが、これらに限定されない。ウイルスをベースにしたアクセサリー機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)、およびワクシニアウイルスなどの任意の公知のヘルパーウイルスに由来し得る。ヘルパー機能としては、アデノウイルスE1、E2a、VAおよびE4、またはヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52、およびUL29、ならびにヘルペスウイルスポリメラーゼが含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
本発明のポリヌクレオチド、または遺伝子AAVrep、AAV capおよびヘルパー機能を提供する遺伝子は、例えばプラスミドなどのベクターに上記遺伝子を組み込み、上記ベクターを細胞に導入することによって、上記細胞内に導入することができる。遺伝子は、同じプラスミド中に、または異なるプラスミド中に、組み込むことができる。好ましい実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは1つのプラスミド中に組み込まれ、AAV repおよびcap遺伝子は別のプラスミド中に組み込まれ、そしてヘルパー機能を提供する遺伝子は、それらのプラスミド中に組み込まれる。
【0122】
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはAAV repおよびcap遺伝子もしくはヘルパー機能を提供する遺伝子を含有するプラスミドは、当該分野で周知の任意の適切な方法を使用することによって、細胞内に導入され得る。トランスフェクションの方法の例としては、リン酸カルシウムとの共沈、DEAE-デキストラン、ポリブレン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム媒介融合、リポフェクション、レトロウイルス感染およびバイオリスティックトランスフェクションが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、トランスフェクションはリン酸カルシウムとの共沈によって行われる。細胞が、AAV repおよびcap遺伝子のいずれか、ならびにアデノウイルスヘルパー機能を提供する遺伝子のいずれかの発現を欠く場合、当該遺伝子は、本発明のポリヌクレオチドと同時に細胞内に導入され得る。あるいは、当該遺伝子は、本発明のポリヌクレオチドを導入する前または後に、細胞中に導入することができる。
【0123】
特定の実施形態において、細胞は、3つのプラスミド、すなわちi)本発明のポリヌクレオチドを含むプラスミド、ii)AAV repおよびcap遺伝子を含むプラスミド、ならびにiii)ヘルパー機能を提供する遺伝子を含むプラスミドで、同時にトランスフェクトされる。
【0124】
本発明の方法のステップ(ii)は、AAVの集合に適切な条件下で細胞を維持するステップを含む。
【0125】
細胞を培養する方法およびAAVベクター粒子の放出を促進する例示的な条件(例えば、細胞の溶解)は、本明細書中の実施例に記載されるように実施され得る。プロデューサー細胞は、AAVの集合および培地中へのウイルスベクターの放出を促進するために、適切な期間増殖される。一般的に、培養の時間は、ウイルス産生の時点から測定される。例えば、AAVの場合、ウイルス産生は一般に、本明細書中に記載されるように、適切なプロデューサー細胞においてヘルパーウイルス機能を供給することによって開始される。
【0126】
本発明の方法のステップ(iii)は、細胞によって産生されたAAVベクターを精製するステップを含む。
【0127】
上記細胞または上記培養培地からAAVを精製するための任意の方法は、本発明のAAVを得るために使用することができる。特定の実施形態において、本発明のAAVは、ポリエチレングリコール沈殿工程および2つの連続した塩化セシウム(CsCl)勾配に基づく最適化された方法に従って精製される。
【0128】
AAVの産生における使用に適した、種々の天然に存在する、および操作されたAAV、それらをコードする核酸、AAV capおよびrepタンパク質、ならびにこのようなAAV、そして特にそれらのキャプシドを、単離または生成、増殖、および精製する方法は、当該分野において公知である。
【0129】
本発明はさらに、GNSタンパク質またはその機能的に等価な変異体をコードする本発明のポリヌクレオチド配列を含む単離された細胞を提供する。
【0130】
本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたはAAVベクターおよび本発明の医薬組成物の文脈で開示される全ての実施形態は、本発明の治療方法に適用され得る。
【0131】
〔一般的な手順〕
[1.組換えAAVベクター]
本明細書中に記載されるAAVベクターは、三重トランスフェクションによって得られた。ベクターを作製するために必要な材料は以下のとおりであった。HEK293細胞(アデノウイルスE1遺伝子を発現する)、アデノウイルス機能を提供するヘルパープラスミド、血清型2由来のAAV rep遺伝子および血清型9(AAV9)由来のcap遺伝子を提供するプラスミド、そして最後にAAV2 ITRおよび目的の構築物を有する骨格プラスミド。
【0132】
グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ-発現AAVベクターを生成するために、ヒト又はマウスのグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼの最適化された又は最適化されていないコード配列が、遍在性ハイブリッドCAGプロモーターの制御下でAAV骨格プラスミド中にクローニングされた。プラスミドの大規模生産は、EndoFree Plasmid Megaprep Kit(Qiagen)を使用して行った。
【0133】
ベクターは、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita T,et al.,Gene Ther.1998;5:938-945.及びWright J,et al.,Mol. Ther.2005;12:171-178.を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。1)血清型2AAVのウイルスITRによって隣接された発現カセットを担持するプラスミド(上述)。2)AAV rep2およびcap9遺伝子を担持するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso E, et al., Gene Ther. 2010;17:503-510.を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。
【0134】
本発明のベクターは、当技術分野において周知の分子生物学的技術に従って構築された。
【0135】
[2.インビトロトランスフェクション研究]
HEK293細胞を、Lipofectamine(登録商標)2000(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific、CA、USA)を使用して、製造業者の指示に従って、4μgのpAAV-CAG-hGNS、pAAV-CAG-ohGNS-v1、pAAV-CAG-ohGNS-v2、またはpAAV-CAG-ohGNS-v3を用いてトランスフェクトした。48時間後、細胞および培養培地を回収し、RNAおよびタンパク質抽出のために処理した。
【0136】
全RNAは、RNeasy Mini Kit(Quiagen、Hilden、Germany)を使用して、製造業者の指示に従って得られ、そしてTranscriptor First Strand cDNA Synthesis Kit (Roche)を用いて逆転写された。ヒトGNS遺伝子の異なるバージョンの発現は、hGNS(配列番号19:Fw:5’ AAA CTG GTC AAG AGG CTG GA 3’、配列番号20:Rv:5’ TGG TTT GAT CCC AGG TCC TC 3’)、ohGNS-v1(配列番号21 Fw:5’ CCA ACA GCA GCA TCC AGT TT 3’、配列番号22:Rv:5’ CGT TGT CGC TGG TGT AGA AG 3’)、ohGNS-v2(配列番号23:Fw:5’ CTG AAG AAA ACC AAG GCG CT 3’、配列番号24:Rv:5’ AGT TCC CCT CGA GAG TGT TG 3’)および ohGNS-v3(配列番号25:Fw:5’ AAC TTC AAC ATC CAC GGC AC 3’、配列番号26:Rv: ACT CCA GTC TCT TCA CCA GC 3’)に対して特異的なプライマーを使用する定量リアルタイムPCRにより評価された。値は、ヒトRPLPP0(配列番号27:Fw:5’ CTC TGG AGA AAC TGC TGC CT 3’,配列番号28:Rv:5’ CTG CAC ATC ACT CAG GAT TTC AA 3’)の発現対して標準化された。Light Cycler(登録商標)480SYBRgreen I Master(Roche,Mannheim,Germany)を使用して、Light Cycler(登録商標)480(Roche,Manheim,Germany)中でリアルタイムPCRが実施された。
【0137】
タンパク質抽出物を250μLのMili-Q水中で細胞を超音波処理することにより得、タンパク質含有量をBradfordタンパク質アッセイ(Bio-Rad、Hercules、CA、US)を使用して定量した。N-アセチルグルコサミン 6-スルファターゼ活性は、5μgの細胞タンパク質抽出物および5μlの培養培地中で決定され、そして、前述のように、4-メチルウンベリフェロン由来の蛍光発生基質(Moscerdam Substrates, Oegstgeest, NL)を用いて、タンパク質の総量および体積によって標準化された。Wang He et al.,J Inher Metab Diss 1993;16:935-941.を参照されたい。
【0138】
[3.動物]
国際マウスフェノタイピング・コンソーシアム(IMPC,www.mousephenotype.org)を通して入手可能なGns遺伝子へのタグ挿入を有するレポーター(lacZ)遺伝子を保有するC57BL/6NA/a胚性幹細胞を得た。Universitat Autonoma de Barcelona(UAB)のthe Center of Animal Biotechnology and Gene Therapy(CBATEG)のthe Transgenic Animal UnitのC57BL/6J未分化胚芽細胞にクローンを微量注入し、得られた雄キメラをC57BL/B雌と交配させ、Gnsノックアウト子孫を生成した。遺伝子型は、標的変異を包含する配列を増幅するPCR分析を用いて、切り取ったしっぽのサンプル由来のゲノムDNAについて決定された。それぞれのセンスおよびアンチセンスプライマーの配列は以下のとおりであった:センスプライマー:5’-CCACACAGGGCAGTTCTCTT-3’(配列番号13)。アンチセンスプライマー:5’-GTGGGACCCAAGTCGATGTT-3’(配列番号14)。マウスは、標準的な食餌(Harlan、Teklad)を自由に摂取させ、12時間の明暗サイクル下(午前9:00時に点灯)に維持した。
【0139】
GNS活性の欠如のため、これらの動物は、生後2ヶ月という早い時期に、MPSIII-D型疾患に特徴的ないくつかの病理学的特徴を示し、これには脳および、肝臓、心臓、脾臓、肺および腎臓のような末梢器官の、異なる領域におけるGAGの蓄積およびリソソーム区画の拡大が含まれる。小膠細胞症およびアストログリオーシスの存在によって明らかにされるように、神経炎症は脳の異なる領域で検出される。さらに、これらの病理学的所見の多くは、動物が6ヶ月齢である場合に悪化し、動物が加齢するにつれて病態の悪化を示唆する。したがって、Gns-/-マウスは2ヶ月齢で正常に行動するが、6ヶ月齢で低活動行動を示す。最後に、MPSIII-D型マウスは寿命が短くなった。
【0140】
[4.マウスへのベクター投与]
静脈内ベクター送達のために、ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼコード配列の異なるバージョンを除いたAAV9ベクターの1×1010のベクターゲノムを、尾静脈注射を介して総容量200μLをマウスに送達した。WTおよび無処置Gns-/-動物を対照として使用したマウスへのAAV9-CAG-omGNSベクターのCSF内送達のために、総投与量5×1010vgを2ヶ月齢のGns-/- 動物の大槽内に注射した。動物の類似コホートに、5×1010vgの対照非コード(AAV9-null)ベクターを注射した。6、12および22ヶ月齢で、すなわちベクター投与後4、10および20ヶ月で、マウスを屠殺し、そして組織を回収した。
【0141】
[5.サンプル収集]
屠殺時に、動物を深く麻酔し、次いで12mLのPBSで経心臓的に灌流して組織から血液を完全に除去した。脳全体および複数の体細胞組織(肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓および脂肪組織を含む)を収集し、液体窒素中で凍結させ、-80℃で保存するか、またはその後の組織学的分析のためにホルマリン中に浸漬した。
【0142】
[6.N-アセチルグルコサミン 6-スルファターゼ活性およびグリコサミノグリカンの定量化]
肝臓および脳のサンプルを、Mile-Q水中で超音波処理した。N-アセチルグルコサミン 6-スルファターゼ活性は、前述のように、4-メチルウンベリフェロン由来の蛍光発生基質(Moscerdam Substrates, Oegstgeest,NL)を用いて、決定された。Wang He et al.,J Inher Metab Diss 1993;16:935-941.を参照されたい。脳および肝臓の活性レベルは、Bradfordタンパク質アッセイ(Bio-Rad、Hercules、CA、US)を用いて定量化されたタンパク質の総量に対して標準化された。
【0143】
グリコサミノグリカン(GAG)定量化のために、組織サンプルを秤量し、次いでプロテイナーゼKで消化し、そして抽出物を遠心分離および濾過によって清澄化した。GAGレベルは、標準としてコンドロイチン4-硫酸塩を使用して、Blyscan硫酸化グリコサミノグリカンキット(Biocolor、Carrickfergus、County Antrim、GB)を用いて組織抽出物中で決定された。GAGのレベルは組織湿重量に対して標準化された。
【0144】
[7.他のリソソーム酵素の活性]
脳および肝臓のサンプルを500μLのMili-Q水中で超音波処理し、酵素活性を4-メチルウンベリフェロン由来の蛍光発生基質を用いて上清中で測定した。IDUA活性は、4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロナイド(iduronide)(Glycosynth)とともに、37℃で1時間インキュベートした15μgのタンパク質中でアッセイした Bacter et al.,Blood 2002;99(5)1857-9.を参照されたい。SGSH活性は前述のように測定された。Karpova et al.,J Inherit Metab Dis. 1996;19(3):278-285.,Haurigot V,et al,.J Clin Invest. 2013;1;pii:66778.を参照されたい。簡単に言えば、30μgのタンパク質を、最初に4-MU-αGIcNSとともに、47℃で17時間インキュベートした。第2のインキュベーションは、0.2%BSA中の10U/mLのα-グルコシダーゼ(Sigma-Aldrich)の存在下、37℃で24時間実施した。NAGLU活性については、以前に記載のように、30μgの組織タンパク質抽出物を、4-メチルウンベリフェリル-α-N-アセチル-D-グルコサミニド(Moscerdam Substrates)とともに、37℃で3時間インキュベートした。Marsh et al.,Clin Genet. 1985;27(3):258-62,Ribera A,et al,.Hum Mol Genet. 2015;24(7):2078-95.を参照されたい。
【0145】
HGSNAT活性は、アセチル補酵素Aおよび4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコサミン(MU-βGlcNH,Moscerdam Substrates)とともに37℃で17時間インキュベートしたタンパク質抽出物30μgから決定した。Voznyi et al.,J Inh Metab Dis 1993;16:465-72.を参照されたい。GALNS活性は、37℃で17時間の最初のインキュベーション中に、10μgのタンパク質抽出物および4-メチルウンベリフェリル β-D-ガラクトピラノシド-6-硫酸ナトリウム塩(MU-βGal-6S)を使用する2段階プロトコルにより、アッセイした。第二段階は、Pi緩衝液(0.9M NaHPO/0.9M NaHPO緩衝液、pH4.3+0.02%(w/v)アジ化ナトリウム)およびβ-ガラクトシダーゼ(β-Gal-Ao,Sigma)を添加し、その混合物を37℃で2時間インキュベートすることによって実施した。van Diggelen et al.,Clin Chim Acta 1990;187:131-40.を参照されたい。GUSB酵素の活性は、4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルクロニド(Sigma)と共に37℃で1時間インキュベートしたタンパク質抽出物10μgから決定した。HEXB活性は、0.1μgのタンパク質抽出物を4-メチルウンベリフェリルN-アセチル-β-D-グルコサミニド(Sigma)とともに37℃で1時間インキュベートすることによってアッセイした。pHを上げて反応を停止させた後、放出された蛍光をFLx800蛍光光度計(BioTek Instruments)で測定した。すべての脳および肝臓の活性レベルは、Bradfordタンパク質アッセイ(Bio-Rad、Hercules、CA、US)を用いて定量化されたタンパク質の総量に対して標準化された。
【0146】
[8.組織学的分析]
組織をホルマリン中で12~24時間固定し、パラフィンに包埋して切片にした。脳内のLAMP2の免疫組織化学的検出のために、パラフィン切片をクエン酸緩衝液、pH6中で熱誘導エピトープ回収に供し、次いで1:500に希釈したラット抗-LAMP2抗体(Ab13524;Abcam,Cambridge,UK)とともに4℃で一晩インキュベートし、続いて1:300に希釈したビオチン化ウサギ抗-ラット抗体(Dako,Glostrup,DK)とともにインキュベートした。脳サンプル中のGFAP免疫染色については、パラフィン切片を、1:1000に希釈したウサギ抗-GFAP抗体(Ab6673;Abcam、Cambridge,UK)とともに4℃で一晩インキュベートし、続いて1:300に希釈したビオチン化ヤギ抗-ウサギ抗体(31820;Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)ととともにインキュベートした。LAMP2およびGFAPシグナルは、1:100に希釈されたABC-ペルオキシダーゼ染色キット(Thermo Scientific,Waltham,MA,US)とともに切片をインキュベートすることによって増幅され、クロモゲンとして3,3-ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, US)を使用して可視化された。
【0147】
脳サンプル中のミクログリア細胞を染色するために、パラフィン切片を、1:100に希釈したBSI-B4レクチン(L5391; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)とともに、4℃で一晩インキュベートした。色原体として3,3-ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, US)を用いてBSI-B4シグナルを可視化した。明視野画像は、光学顕微鏡(Eclipse90I;Nikon,Tokyo,JP)を用いて得られた。
【0148】
NIS Elements Advanced Research 2.20ソフトウェアを使用して、すべての動物について同じシグナル閾値設定を用いて、動物あたり各脳領域の3~5画像(オリジナル倍率、×20)におけるLAMP2、GFAP、およびBSI-B4シグナルを定量した。次いで、画像中の全組織領域にわたる陽性シグナルを用いて、面積をピクセルで、陽性面積のパーセンテージを計算した。
【0149】
[9.透過型電子顕微鏡分析]
マウスを過剰量のイソフルラン(Isofluo、Labs。Esteve、Barcelona、ES)で屠殺し、下大静脈を介して1mlの2.5%グルタルアルデヒドおよび2%パラホルムアルデヒドで灌流した。大脳皮質の小部分(約1mm)、肝臓の左外側葉、または肺を切片化し、同じ固定剤中で4℃で2時間インキュベートした。冷カコジル酸緩衝液中で洗浄した後、標本を1%四酸化オスミウム中で後固定し、酢酸ウラニル水溶液中で染色し、次いでエタノールで段階的に脱水し、そしてエポキシ樹脂中に包埋した。樹脂ブロックからの超薄切片(600~800Å)をクエン酸鉛を用いて染色し、透過型電子顕微鏡(H-7000;Hitachi,TOKYO,JP)で検査した。
【0150】
[10.オープンフィールドテスト]
6ヶ月齢および22ヶ月齢のマウスの行動は、午前9時から午後1時の間に行われたオープンフィールド試験によって分析された。マウスの水平方向および垂直方向の動きを検出する2束のフォトビーム(SedaCom32; Panlab)が交差した明るく照らされたチャンバー(41×41×30cm)の左下隅に動物を置いた。面積表面は、中心(14×14cm)(center)、周辺(27×27cm)(periphery)及び境界(41×41cm)(border)の3つの四角形の同一中心の領域に分割された。予備的な自発運動が、ビデオ追跡システム(SmartJunior、Panlab)を使用して、試験の最初の3分間において記録された。
【0151】
[11.統計的分析]
全ての結果は平均±標準誤差で表す。統計的比較は、一元配置分散分析を用いて行った。対照群および処置群間の多重比較は、Dunnettのポストテストを用いて行い、すべての群間の多重比較は、Tukeyのポストテストを用いて行った。P<0.05であれば、統計的有意性が認められたと考慮した。
【実施例
【0152】
〔実施例1:pAAV-CAG-hGNSの構築〕
ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(NCBI参照配列:NM_002076.3)のためのCDSが出発物質として使用され、この目的のために化学的に合成された(GeneArt;Life Technologies)。CDSは、5’および3’においてそれぞれMluIおよびEcoRI制限部位が隣接するプラスミドpMA-RQ(AmpR)の内部にクローニングされて受け取られた。
【0153】
MluI/EcoRIヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼCDS断片をpMA-RQプラスミドから切り出し、続いてAAV骨格プラスミドpAAV-CAGのMluI制限部位とEcoRI制限部位との間にクローニングした。得られたプラスミドをpAAV-CAG-hGNS(受託番号DSM32342)と命名した。図1A及び配列番号5を参照されたい。
【0154】
本明細書中で使用されるAAV骨格プラスミドpAAV-CAGは以前に生成されており、AAV2ゲノム由来のITR、CAGプロモーター、およびウサギβ-グロビン由来のポリAシグナル、ならびに目的のCDSをクローニングするためのマルチクローニング部位を含んでいた。CAGプロモーターは、CMV初期/中間エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターからなるハイブリッドプロモーターである。このプロモーターは、普遍的に強力な発現を推進することができる。
【0155】
〔実施例2:pAAV-CAG-ohGNS-version1の構築〕
グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼcDNA配列(ohGNS)の最適化されたバージョンを含む発現カセットが設計され、得られた配列最適化は、RNA安定性を高めるための潜在的スプライス部位およびRNA不安定化配列要素の除去、RNA安定化配列要素の付加、コドン最適化およびG/C含量適合化、中でも安定したRNA二次構造の回避により、ヒトにおけるN-アセチルグルコサミン 6-スルファターゼタンパク質産生の効率を最大化するために行った。ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼのCDS(NCBI参照配列:NM_002076.3)を、配列最適化の開始点として使用した。
【0156】
最初に最適化されたCDS(GeneArt; Life Technologies)は、5’および3’においてそれぞれ、MluIおよびEcoRI制限部位が隣接したプラスミドpMA-T(AmpR)内にクローニングされて受け取られた。
【0157】
MluI/EcoRI最適化ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼCDS断片を、pMA-Tプラスミドから切り出し、続いて、AAV骨格プラスミドpAAV CAGのMluIおよびEcoRI制限部位の間にクローニングした。得られたプラスミドをpAAV-CAG-hGNS-version1(受託番号DSM32343)と命名した。図2A及び配列番号6を参照されたい。
【0158】
〔実施例3:pAAV-CAG-ohGNS-version2の構築〕
ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(NCBI参照配列:NM_002076.3)のためのCDSを、配列最適化(DNA2.0Inc)に供した。最適化されたCDSは、5’および3’においてそれぞれMluIおよびEcoRI制限部位が隣接するプラスミドpJ204(AmpR)の内部にクローニングされて受け取られた。
【0159】
MluI/EcoRI最適化ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼCDS断片を、pJ204プラスミドから切り出し、続いて、AAV骨格プラスミドpAAV CAGのMluIおよびEcoRI制限部位の間にクローニングした。得られたプラスミドをpAAV-CAG-hGNS-version2(受託番号DSM32344)と命名した。図3A及び配列番号7を参照されたい。
【0160】
〔実施例4:pAAV-CAG-ohGNS-version3の構築〕
ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(NCBI参照配列:NM_002076.3)のためのCDSを、配列最適化(Genescript Inc)に供した。最適化されたCDSは、5’および3’においてそれぞれMluIおよびEcoRI制限部位が隣接するプラスミドpUC57(AmpR)の内部にクローニングされて受け取られた。
【0161】
MluI/EcoRI最適化ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼCDS断片を、pUC57プラスミドから切り出し、続いて、AAV骨格プラスミドpAAV-CAGのMluIおよびEcoRI制限部位の間にクローニングした。得られたプラスミドをpAAV-CAG-hGNS-version3(受託番号DSM32345)と命名した。図4A及び配列番号8を参照されたい。
【0162】
〔実施例5:pAAV-CAG-omGNSの構築〕
マウスグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(NCBI参照配列:NM_029364.3)のためのCDSを、配列最適化(GeneArt;Life Technologies)に供した。最適化されたCDS、配列番号16は、5’および3’においてそれぞれMluIおよびEcoRI制限部位が隣接するプラスミド pMA-RQ(AmpR)の内部にクローニングされて受け取られた。
【0163】
MluI/EcoRI最適化マウスグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼCDS断片を、pMA-RQプラスミドから切り出し、続いて、AAV骨格プラスミドpAAV-CAGのMluIおよびEcoRI制限部位の間にクローニングした。得られたプラスミドをpAAV-CAG-omGNSと命名した。図5A及び配列番号17を参照されたい。
【0164】
〔実施例6:AAV9-CAG-hGNSの産生〕
ベクターAAV9-CAG-hGNS(配列番号9)は、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita et al.,Gene Ther.1998;5(7):938-45.,Wright et al.,Mol Ther.2005;12(1)171-8.を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。 1)AAV2 ITR (pAAV-CAG-hGNS;配列番号5によって隣接された発現カセットを担持するプラスミド。2)AAV rep2およびcap9遺伝子(pREP2CAP9)を有するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso E, et al.,Gene Ther.2010;17(4):503-10.を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。図1Bを参照されたい。
【0165】
〔実施例7:AAV9-CAG-ohGNS-version1の産生〕
ベクターAAV9-CAG-ohGNS-version1(配列番号10)は、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita et al.,及びWright et al.,上記を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。1)AAV2 ITR(pAAV-CAG-hGNS-version1;配列番号6)によって隣接された発現カセットを有するプラスミド。2)AAV2 repおよびAAV9 cap遺伝子(pREP2CAP9)を有するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso et al.,上記を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。図2Bを参照されたい。
【0166】
〔実施例8:AAV9-CAG-ohGNS-version2の産生〕
ベクターAAV9-CAG-ohGNS-version2(配列番号11)は、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita et al.,及びWright et al.,上記を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。1)AAV2 ITR (pAAV-CAG-hGNS-version2; 配列番号7)によって隣接された発現カセットを有するプラスミド。2)AAV2 repおよびAAV9 cap遺伝子(pREP2CAP9)を有するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso et al.,上記を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。図3Bを参照されたい。
【0167】
〔実施例9:AAV9-CAG-ohGNS-version3の産生〕
ベクターAAV9-CAG-ohGNS-version3(配列番号12)は、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita et al.,及びWright et al.,上記を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。1)AAV2 ITR (pAAV-CAG-hGNS-version3;配列番号8)によって隣接された発現カセットを有するプラスミド。2)AAV2 repおよびAAV9 cap遺伝子(pREP2CAP9)を有するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso et al.,上記を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。図4Bを参照されたい。
【0168】
〔実施例10:AAV9-CAG-omGNSの産生〕
ベクターAAV9-CAG-omGNS(配列番号18)は、修飾を有する3つのプラスミドを使用して、HEK293細胞のヘルパーウイルスフリートランスフェクションによって生成された。Matsushita et al.,及びWright et al.,上記を参照されたい。細胞を、10%FBSを補充したDMEM中で、ローラーボトル(RB)(Corning,Corning,NY,米国)中で、70%コンフルエントまで培養し、次に、以下のもので同時トランスフェクトした。1)AAV2 ITR (pAAV-CAG-omGNS;配列番号17)によって隣接された発現カセットを有するプラスミド。2)AAV2 repおよびAAV9 cap遺伝子(pREP2CAP9)を有するプラスミド。3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミド。ベクターは、前述のように、最適化されたプロトコルを使用して、2つの連続する塩化セシウム勾配により精製された。Ayuso et al.,上記を参照されたい。ベクターをPBS+0.001%Pluronic(登録商標)F68に対して透析し、濾過し、qPCRにより滴定し、そして使用するまで-80℃で保存した。図5B及び配列番号18を参照されたい。
【0169】
〔実施例11:pAAV-CAG-hGNS、pAAV-CAG-ohGNS-version1、pAAV-CAG-ohGNS-version2、およびpAAV-CAG-ohGNS-version3のインビトロ試験〕
HEK293細胞に、異なるバージョンのヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼを含むプラスミドpAAV-CAG-hGNS、pAAV-CAG-ohGNS-version1、pAAV-CAG-ohGNS-version2およびpAAV-CAG-ohGNS-version3を4μgトランスフェクトした。
【0170】
トランスフェクションの48時間後に、細胞を回収し、全RNAを抽出し、そしてグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼの発現を、各配列に特異的なプライマーを使用して定量的RT-PCRによって測定した。4つのグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ含有プラスミドすべてによるトランスフェクションは、グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼmRNAの検出をもたらした。図6Aを参照されたい。さらにグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ活性は、治療用構築物でトランスフェクトされたウェルの培地および細胞抽出物の両方において増加した。図6B及び6Cを参照されたい。両方の場合において、タンパク質(pAAV ohGNS version1~3)のコドン最適化バージョンをコードするプラスミドは、野生型配列を含有するプラスミドよりも、統計的に有意に高いレベルのグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼの産生をもたらした。図6B及び6Cを参照されたい。
【0171】
〔実施例12:MPSIII-D型マウスへのAAV-CAG-hGNS、AAV-CAG-ohGNS-version1、AAV-CAG-ohGNS-version2、またはAAV-CAG-ohGNS-version3の静脈内注射〕
ヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ発現カセットの異なるバージョンを含有するAAV-CAG-hGNS、AAV-CAG-ohGNS-version1、AAV-CAG-ohGNS-version2またはAAV-CAG-ohGNS-version3の1×1010ベクターゲノムの総用量を、2ヶ月齢のMPSIII-D型罹患マウスに尾静脈注射により静脈内投与した。
【0172】
ベクター送達の2週間後に分析を実施した。4つすべてのグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ含有ベクターによる形質導入は、MPSIII-D型動物において測定されたレベルを超えた、グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ活性の実質的な増加をもたらした。グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ活性レベルは、肝臓におけるWTレベルの1300%から2700%、および血清におけるWTレベルの900%から3300%の範囲であった。図7A及び7Bを参照されたい。肝臓では、最適化されたヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼのversion3を含む発現カセットで達成された活性レベルは、野生型配列を含むベクターによって媒介されるレベルよりも統計的に高かった。図7Aを参照されたい。血清では、最適化されたヒトグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼのversion2およびversion3の両方が、酵素活性において統計的に有意な増加をもたらした。図7Bを参照されたい。
【0173】
肝臓および血清中に記録された高レベルのグルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ活性と整合して、GAG含有量は全てのベクター構築物を注射された動物の肝臓において完全に正常化された。図7Cを参照されたい。
【0174】
〔実施例13:AAV9-CAG-omGNSの槽内送達-短期試験〕
AAV9-CAG-omGNSベクターの5×1010ベクターゲノムの総用量を、5μLの総容量で2ヶ月齢のMPSIII-D型動物の大槽内に注射した。ベクター投与の4ヶ月後、MPSIII-D型処置動物の脳におけるGNSの酵素活性は正常化され、健康な動物において観察されたものと同様の値に達した。図8を参照されたい。GNS活性の回復は、野生型対照群および処置したGns-/-マウスにおける同様のレベルのGAG蓄積によって示されるように、分析した全てのCNS領域において、疾患に特徴的な基質蓄積の完全な正常化をもたらした。図9Aを参照されたい。同様に、リソソーム区画のサイズの指標として使用されるリソソームマーカー、リソソーム関連膜タンパク質2(LAMP2)に反応する抗体で染色された脳切片のシグナル強度の定量化は、オスのGns-/-処置マウスにおいて、対照「Null」ベクターを投与したGNS欠乏マウスで記録された値を上回って、約90%のLAMP2+面積の減少を示した。図9Bを参照されたい。
【0175】
非分解基質蓄積による正常なリソソームホメオスタシスの破壊は、突然変異によって直接影響を受けるリソソーム酵素とは異なる他のリソソーム酵素の活性を変える可能性がある。Ribera et al.,Hum Mol Genet.2014;doi:10.1093/hmg/ddu727を参照されたい。IDUA(イズロニダーゼ、アルファ-L-)、GALNS(ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ)、GUSB(グルクロニダーゼ、ベータ)、およびHEXB(ヘキソサミニダーゼB)の活性は、無処置のGns-/-雄マウスまたは対照「Null」ベクターで処置されたGns-/-雄マウスの脳で変化したが、AAV9-CAG-omGNSで処置したところ、これらの活性は健康な野生型マウスで観察されたレベルに戻り、このことはリソソームホメオスタシスが、Gnsのベクター由来発現により回復されたことを証明する。図9Cを参照されたい。
【0176】
6ヶ月齢の雄マウスの大脳皮質の透過型電子顕微鏡による超微細構造分析は、神経周囲グリア細胞として同定された細胞の細胞質中に、電子顕微鏡で明るく見える物質を含有する大きな液胞が、Null注入GNS欠乏マウスにおいて存在することを明らかにした。これらの小胞は、貯蔵材料で満たされたリソソームであると思われるが、健康な野生型またはAAV9-Gns処置Gns-/-動物からのサンプル中には完全に欠けており、これにより遺伝子導入の後にリソソーム区画が正常サイズに回復したことを確認した。図10を参照されたい。
【0177】
中枢神経系のグリア細胞の活性化を特徴とする神経炎症は、サンフィリッポ症候群の証明である。星状細胞増加症(GFAP)および小膠細胞症(BSIB4)を検出するために使用される染色のシグナル強度は、健常対照群と比較して、Nullベクターで処置されたGns-/-マウスにおいて増加した。AAV9-CAG-omGNSを用いたGns-/-マウスの処置は、研究した全ての脳領域において両方の炎症マーカーの陽性面積の%を減少させた。図11A及び11Bを参照されたい。
【0178】
CSFに投与されたAAV9ベクターは周縁部に漏出し、肝臓に形質導入を生じさせる。Haurigot et al.,Clin Invest.2013;123(8):3254-3271.を参照されたい。したがって、AAV9-CAG-omGNSで処置したGns-/-雄マウスの肝臓におけるGNSの活性は、健康な動物において観察されたものより約20倍高かった。図12を参照されたい。肝臓において過剰発現されると、可溶性のリソソームタンパク質は血流に効率的に分泌され、この器官が循環酵素の供給源となる。Ruzo et al.,Mol Ther 2012;20(2):254-6.を参照されたい。AAV9-CAG-omGNSベクターで処置したGNS欠乏マウスの血清では、GNS活性は野生型同腹仔におけるよりも20倍高かった。図13を参照されたい。治療の体細胞有効性を、異なる器官におけるGAG含有量の定量化により評価すると、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓および脂肪組織を含むほとんどの組織において、完全な正常化が観察された。図14Aを参照されたい。
【0179】
Gns-/-マウスにおけるリソソーム病理を緩和するためのCSF内AAV9-CAG-omGNS処置の可能性のさらなる実証は、肝臓抽出物中の他のリソソーム酵素の活性を測定することによってなされた。SGSH(スルファミダーゼ)、NAGLU(N-アセチルグルコサミニダーゼアルファ)、HGSNAT(ヘパランアルファグルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ)、IDUA、GUSB、GALNS、HEXBは、無処置Gns-/-マウスにおけるWTレベル、または対照「Null」ベクターで処置されたGns-/-マウスにおけるWTレベルに関して、大きく変化した。AAV9-CAG-omGNSによる処置は、これらすべての酵素の活性を完全に正常化した。図14Bを参照されたい。GAG含有量データに従って、肝臓の重量を、AAV9-CAG-omGNSで処置したGns-/-マウスにおいて標準化した。図15Aを参照されたい。脾臓の重量もまた、AAV9-CAG-omGNS処置動物において標準化した。図15Bを参照されたい。最後に、透過電子顕微鏡分析によって、6ヶ月齢のAAV9Null注入GNS欠乏マウスが、肝細胞および肺の気管支繊毛上皮細胞内に多数の電子顕微鏡で明るく見える液胞を呈するが、健康なWTおよびAAV9CAG omGNS処置マウスにおいてはそうではない、ということを明らかにした。図16を参照されたい。
【0180】
行動に対するAAV9-CAG-omGNSのCSF内投与の影響を、オープンフィールド試験で評価したが、これは、未知の環境におけるマウスの一般的な自発運動および探索的活動を評価するものである。無処置およびAAV9null処置Gns-/-マウスは、健康なマウスと比較して、試験中に移動した総距離および休止した時間量に関して、自発運動量の減少を示した。AAV9-CAG-omGNSの槽内投与は、Gns-/-雄マウスにおける行動障害を完全に矯正した。図17を参照されたい。
【0181】
〔実施例14:AAV9-CAG-omGNSの槽内送達-長期試験〕
MPSIII-D型の長期的矯正を媒介することにおけるAAV9-CAG-omGNSの単回投与の治療効果を評価するために、GNS欠乏動物のコホートに、2ヶ月齢で、AAV9-CAG-omGNSベクターの5×1010個のベクターゲノムを大槽に注射し、ベクター投与の10ヶ月後、すなわちマウスが1歳の時に、分析した。GNS遺伝子導入は脳全体のGAG含有量を減少させた。12ヶ月齢までに、AAV9-CAG-omGNS処置動物は健康な動物と同じGAGレベルを示し、これは長期の治療効果の証拠を提供している。図18Aを参照されたい。
【0182】
持続的に疾患矯正を提供する治療の能力をさらに評価するために、LAMP2の免疫組織化学的検出を12ヶ月齢の動物の脳切片に対して行った。リソソームGAGの病理学的貯蔵を反映して、無処置またはヌル注入Gns-/-オスは、分析した脳のすべての領域においてLAMP2シグナルの強度における有意な増加を示した。図18Bを参照されたい。AAV9-CAG-omGNSで処理したマウスでは、遺伝子導入後に観察されるGAGの蓄積における減少は、異なる領域でのほぼWTレベルまでのLAMP2陽性シグナルの顕著な低下に翻訳され、このことはGAGレベルの常態化故のリソソーム区画の縮小を示す。図18Bを参照されたい。
【0183】
アストログリオーシスおよび小膠細胞症を単回AAV9-CAG-omGNSベクター投与の10ヵ月後に分析した場合、AAV9-CAG-omGNSベクターを投与されたGNS欠乏雄マウスは、形態学的分析により実証されるように、研究したすべての脳領域においてGFAPシグナル強度の顕著な減少を示した。図19Aを参照されたい。同様に、GNSをコードするベクターによる処置は、BSI-B4陽性シグナルを、野生型の健康な動物において定量されたレベルとほぼ同じレベルまで低下させた。図19Bを参照されたい。
【0184】
AAV9-CAG-omGNSの送達の10ヶ月後、処置されたGNS欠乏マウスは、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓および脂肪組織などの末梢器官において正常またはほぼ正常なGAG含有量を示した。図20Aを参照されたい。
【0185】
病理学的HS蓄積のこの完全なクリアランスと一致して、AAV9-CAG-omGNSベクターで処置したGNS欠乏動物の肝臓は、突然変異によって影響されずかつHS(例えば、IDUA、SGSH、NAGLUおよびHGSNAT)の異化に関与し、またはHS経路(例えば、GALNS、GUSBおよびβ-HEXO)とは無関係の、他のリソソーム酵素の正常レベルの活性を示した。図20Bを参照されたい。これらの酵素の活性は、処置の年齢、即ち2ヶ月齢の若い動物において既に撹乱されており、このことは、疾患の発症の早い段階でリソソームホメオスタシスが破壊されることを実証するものである。Roca et al.,Hum Mol Genet 2017;26(8):1535-51.を参照されたい。したがって、結果は、遺伝子治療の処置によるリソソーム生理機能の変更という持続的な逆転を示唆している。
【0186】
最後に、AAV9-CAG-omGNSベクターの単回投与から10ヶ月後の治療効果の持続性も、動物を行動試験に供した場合に明らかであった。1歳の処置されたGns-/-雄マウスは、年齢を合わせた未処置のMPSIII-D型マウスにおいて観察された自発運動量の減少とは対照的に、健康な同腹仔と同じ挙動を示した。図21を参照されたい。
【0187】
サンフィリッポ病の動物モデルはかなり短縮された寿命を有する。Haurigot V,et al,.J Clin Invest.2013;1;pii:66778.;Ribera A,et al,.Hum Mol Genet.2015;24(7):2078-95.を参照されたい。疾患の非常に進行した段階であるはずの治療効果を評価するために、AAV9-CAG-omGNSの5×1010個のベクターゲノムを用いて、2ヶ月齢で処置した動物の別のコホートを、ベクター投与の20ヶ月後に、すなわちマウスがほぼ2歳であり、そしてほとんどの未処置のMPSIII-D型動物がもはや生存していない場合において、分析した。22ヶ月齢の処置されたMPSIII-D型動物では、脳GNS活性は非常に高いレベルで維持された。図22を参照されたい。GNS活性の治療レベルがこのように維持されることは、処置されたMPSIII-D型マウスの脳におけるGAGの正常なレベルを説明しており、このことは、健康な野生型同腹仔の脳と同様のGAG含有量を示している。図23Aを参照されたい。したがって、リソソームマーカーLAMP2のシグナル強度の定量化により形態計測的に評価されたリソソーム区画のサイズは、分析されたCNS領域のいずれにおいても統計的に有意に増加することはなかった。図23Bを参照されたい。同様に、突然変異によって影響されない他のリソソーム酵素の活性は、健康な野生型同腹仔において記録されたものと類似しており、このことは老齢の処置されたMPSIII-D型マウスにおける正常なリソソームホメオスタシスを確認するものである。図23Cを参照されたい。22ヶ月齢の処置MPSIII-D型マウスの脳もまた非常に低いGFAPおよびBSI-B4シグナルを示し、このことは、神経炎症に対する治療の著しい効果が、治療用AAV9-CAG-omGNSベクターの単回投与後20ヶ月持続したことを示している。図24AおよびBを参照されたい。最後に、GNSの持続的産生は、処置されたMPSIII-D型マウスの末梢器官において正常レベルのGAG含有量をもたらし、ここで、肝臓、心臓、脾臓、肺および脂肪組織は、健康な、年齢を合わせた動物の末梢器官と同じGAG含有量を有した。図25を参照されたい。
【0188】
〔実施例15:AAV9-CAG-omGNSの槽内送達-生存研究〕
最後に、生存に対するAAV9-CAG-omGNSベクターのCSF内投与の効果を評価した。18ヶ月の時点で、すべての野生型対照マウスは生存していたが、無処置のGns-/-マウスの100%と、AAV9-null処置Gns-/-マウスの80%が死亡し、このことは、GNS欠乏が寿命を相当程度短縮することを示す。AAV9-CAG-omGnsを投与した20匹のGns-/-マウスの群のうちの2匹のみが同じ期間において死亡し、このことは治療の有効性をさらに証明するものである。図26を参照されたい。
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