(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ロッカアーム
(51)【国際特許分類】
F01L 1/18 20060101AFI20220419BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220419BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
F01L1/18 N
F16C17/04 Z
F16C19/46
(21)【出願番号】P 2019004244
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 琢麻
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016219702(DE,A1)
【文献】特開2006-138373(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00- 1/32
F01L 1/36- 1/46
F16C 35/00-39/06
F16C 43/00-43/08
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの対向配置された一対の軸孔に貫通して回転自在に支持され、カムフォロワとなるローラを支持する回転軸を備え、
該回転軸は、前記軸孔から前記ハウジング外に突出する両端部に、前記回転軸の前記軸孔に対するスラスト方向への移動を拘束するフランジ部をそれぞれ備えるロッカアームであって、
該フランジ部の前記軸孔に面する側は、前記ハウジングの外側面に対して面接触可能な面を備え、
前記フランジ部を含む前記回転軸は、互いに結合された複数の部品により構成されており、
前記複数の部品の結合は、
前記回転軸の前記軸孔を貫通する部位を除く部位であり、前記回転軸の前記ローラを支持する部位で行われている
ロッカアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動弁系に用いられるロッカアームに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ロッカアームは、カムフォロワとなるローラをハウジングにより支持している。その支持構造は、例えば、ハウジングの一対の軸孔に支持された回転軸上にローラを回転自在に支持し、回転軸のスラスト方向への移動を拘束するように回転軸の両端に掛止部を備えている(特許文献1参照)。
図10のように、掛止部Fは、回転軸SのハウジングHから突出した両端をスラスト方向から圧迫して両端を軸方向と交差する径方向外側に張り出すように変形させて形成されている。掛止部Fは、回転軸Sの回転軸線に対して傾斜した面にて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転軸Sは、ローラの回転に伴って回転する。そのとき、掛止部Fの傾斜面がハウジングHの軸孔端縁部H1に接触すると、その接触は線接触となる。そのため、接触圧は高くなり、接触部分での焼き付きや摩耗が発生する恐れがある。
【0005】
本発明の課題は、カムフォロワとなるローラをハウジングに支持したロッカアームにおいて、ローラの回転軸とハウジングとの接触を面接触とすることにより、接触部分での焼き付きや摩耗の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、ハウジングの対向配置された一対の軸孔に貫通して回転自在に支持され、カムフォロワとなるローラを支持する回転軸を備え、該回転軸は、前記軸孔から前記ハウジング外に突出する両端部に、前記回転軸の前記軸孔に対するスラスト方向への移動を拘束するフランジ部をそれぞれ備えるロッカアームである。該フランジ部の前記軸孔に面する側は、前記ハウジングの外側面に対して面接触可能な面を備え、前記フランジ部を含む前記回転軸は、互いに結合された複数の部品により構成されており、前記複数の部品の結合は、前記回転軸の前記軸孔を貫通する部位を除く部位で行われている。
【0007】
第1発明において、ロッカアームは、支点を中心として両外側に力点と作用点を備えた内支点タイプと、力点を中心として両外側に支点と作用点を備えた外支点タイプの両方を含む。複数の部品を結合して回転軸を形成する際の結合は、圧入、ねじ締結、接着、溶接などを用いることができる。
【0008】
第1発明によれば、フランジ部を含む回転軸を、複数の部品を結合して構成するため、ハウジングの外側面に対して面接触可能なフランジ部を持った回転軸をハウジングの軸孔に貫通させることができる。また、フランジ部の軸孔に面する側は、ハウジングの外側面に対して面接触可能な面を備えるものとしたため、回転軸とハウジングとの接触を面接触とすることができ、接触部分での焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。更に、複数の部品の結合を、回転軸の軸孔を貫通する部位を除く部位で行うため、回転軸の軸孔を貫通する部位を一部品のみで構成することができ、当該部位における摩擦熱による熱膨張量の管理を容易にすることができる。
【0009】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記回転軸は、前記一対の軸孔に対して遊びを持って貫通されて浮動支持されている。
【0010】
第2発明によれば、回転軸のフランジ部とハウジングの外側面との接触を面接触とし、且つ回転軸を軸孔に対して浮動支持させているため、回転軸は円滑に回転可能となり、ローラの回転抵抗を抑制することができる。
【0011】
本発明の第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記ローラは、前記回転軸に対して複数のニードルベアリングを介して支持されている。
【0012】
第3発明によれば、回転軸のフランジ部とハウジングの外側面との接触を面接触とし、且つローラを回転軸に対してニードルベアリングを介して支持されるものとしたため、ローラは、回転軸に対して円滑に回転可能で、ローラの回転抵抗を抑制することができる。即ち、カムシャフトの回転に伴う動力損失を抑制することができる。また、回転軸が回転するため、回転軸外周面と個々のニードルベアリングとの接触位置を回転軸の回転と共に変化させることができ、その接触位置が変化しない場合に生じる接触圧による回転軸外周面の圧痕の形成を抑制することができる。
【0013】
本発明の第4発明は、上記第1~3発明のいずれかにおいて、前記複数の部品の結合は、前記フランジ部と前記回転軸の端部との境界部で行われている。
【0014】
第4発明において、フランジ部と回転軸の端部との境界部は、例えば、フランジ部と回転軸の結合が環状のフランジ部の中空部に回転軸の端部が嵌合して行われる場合、中空部と端部との境界部である。また、フランジ部と回転軸の結合が板状のフランジ部の板面に回転軸の端面が当接して行われる場合、板面と端面との境界部である。
【0015】
第4発明によれば、フランジ部を備えた回転軸を形成するための部品の結合を、フランジ部と回転軸の端部との境界部で行うため、回転軸の軸孔を貫通する部位を一部品のみで構成することができ、当該部位における摩擦熱による熱膨張量の管理を容易にすることができる。
【0016】
本発明の第5発明は、上記第1~3発明のいずれかにおいて、前記複数の部品の結合は、前記回転軸の前記ローラを支持する部位で行われている。
【0017】
第5発明によれば、フランジ部を備えた回転軸を形成するための部品の結合を回転軸のローラを支持する部位で行うため、回転軸の軸孔を貫通する部位を一部品のみで構成することができ、当該部位における摩擦熱による熱膨張量の管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態としてのロッカアームが適用された内燃機関の動弁機構部分の縦断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態を示す
図5に対応する断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態を示す
図5に対応する断面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態を示す
図4に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態としてのロッカアームが適用された内燃機関の動弁系を示す。周知のように、ロッカアーム1は、カムシャフト(図示略)により回転されるカム4によるカム動作を吸気バルブ3に伝達して吸気バルブ3を開閉動作させるように構成されている。そのため、ロッカアーム1は、ハウジング10の中心にカムフォロワとなるローラ30を備え、一方の端部である揺動支点部11がピボット2の先端に被せられて揺動自在に支持され、他方の端部であるバルブ当接部12が吸気バルブ3の基端部に当接されている。これらはシリンダヘッド5上に構成されている。ここでは、吸気バルブ3を開閉動作させる機構を示しているが、排気バルブ(図示略)に対する機構も同様に構成されている。
【0020】
図2、3は、ロッカアーム1を拡大して示す。また、
図4、5に
図2、3の各断面を示す。ハウジング10の両端間には、ローラ30を収容するための空洞15が形成されており、空洞15を画定する両側の側壁13には、ローラ30の軸心となる回転軸20を支持する軸孔14が対を成して形成されている。回転軸20の軸本体(本発明の回転軸に相当)21は、軸孔14に対して遊びを持って貫通されて浮動支持されている。そのため、回転軸20は側壁13に対して回転自在とされている。
【0021】
図4のように、ローラ30は、外輪31と回転軸20との間に複数のニードルベアリング32を備えた構成とされている。そのため、ローラ30の外輪31は、カム4の回転に影響されて連れ回りすることになる。それによりカム4との摺動抵抗を抑制するようにされている。即ち、ローラ30の回転抵抗を抑制することができ、カムシャフトの回転に伴う動力損失を抑制することができる。
【0022】
ところで、ローラ30は、
図6の矢印で示すように、カム4による押圧力を常時受けている。そのため、仮に回転軸20が回転せず、ニードルベアリング32と回転軸20との位置関係が変わらないとすると、
図6に黒点で示すように回転軸20の表面にニードルベアリング32の当接による圧痕21aが出来て、ニードルベアリング32が転がり難くなる問題が生じる。しかし、本実施形態の場合、上述のように回転軸20はハウジング10の側壁13に対して回転自在とされているため、上記圧痕が出来ることはない。
【0023】
上述のように、回転軸20の軸本体21は、側壁13の軸孔14に対して浮動支持されている。軸本体21の軸孔14による支持状態を維持するため、軸本体21の両端には、軸本体21のスラスト方向への移動を拘束するためのフランジ部22、23が設けられている。
図2、3、5のように、フランジ部22、23は、軸本体21とは別部品の環状部品とされている。軸本体21とフランジ部22、23は、
図5のように環状のフランジ部22、23の中空部に軸本体21の端部を嵌合可能に形成されている。即ち、軸本体21とフランジ部22、23との結合は、両者の境界部で行われている。そのため、ハウジング10の空洞15内に挿入された状態のローラ30の中心に軸本体21を挿入して、軸本体21の両端にフランジ部22、23を、軸本体21の両端外側から圧入して一体化する。このようにしてローラ30がハウジング10に対して回転自在に支持される。
【0024】
図5のように、ハウジング10の側壁13の外側面13aとフランジ部22、23の内側面22a、23aは、互いに平面同士で対向配置されている。そのため、回転軸20が回転されている状態で、側壁13の外側面13aとフランジ部22、23の内側面22a、23aとが当接しても、両者は面接触となり、従来技術における線接触のように接触圧が高くなることはなく、接触部分での焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0025】
また、軸本体21とフランジ部22、23との結合を、軸本体21の両端部で行い、軸本体21の軸孔14を貫通する部位は、一部品のみで構成している。そのため、軸本体21の当該部位が回転に伴う摩擦熱により膨張しても、複数部品が係わっている場合に比べて熱膨張量の管理は容易であり、熱膨張量の管理がうまくいかないため軸本体21の外周面が軸孔14の内周面に当接するようなことはなく、軸本体21の回転抵抗が増大する問題を回避することができる。
【0026】
図7は、本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、第1実施形態では、回転軸20を3部品で構成したのに対し、第2実施形態では、回転軸20を2部品で構成した点である。その他の構成は、両者間で違いはなく、同一部分についての再度の説明は省略する。
【0027】
第2実施形態では、軸本体21の両端に設けられるフランジ部のうち、一方のフランジ部24は軸本体21と一体に形成されている。他方のフランジ部22は、第1実施形態の場合と同様、圧入にて軸本体21の端部に結合されている。そのため、第2実施形態によれば、回転軸20を構成する部品点数を少なくすることができ、生産性を高めることができる。
【0028】
図8は、本発明の第3実施形態を示す。第3実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、第1実施形態では、回転軸20を3部品で構成したのに対し、第3実施形態では、回転軸20を2部品で構成した点である。また、2部品の結合を、ローラ30を支持する部位とした点である。その他の構成は、両者間で違いはなく、同一部分についての再度の説明は省略する。
【0029】
第3実施形態では、回転軸20を、軸本体雌部25と軸本体雄部26の2部品により構成している。軸本体雌部25と軸本体雄部26は、それぞれフランジ部27、28を一体に備えており、ローラ30を支持する部位で、軸本体雌部25の軸心部に形成された凹陥部25aに軸本体雄部26の軸心部に形成された凸部26aを嵌合して結合されている。第3実施形態によれば、ローラ30を挟んだ状態にある側壁13の軸孔14に、両外側から軸本体雌部25及び軸本体雄部26を挿入して、凹陥部25aに凸部26aを圧入することにより、ローラ30をハウジング10に対して支持することができる。しかも、軸本体雌部25と軸本体雄部26の2部品を結合するのみの作業で生産性を高めることができる。なお、軸本体雌部25と軸本体雄部26の結合構造は、各種構造が採用可能である。
【0030】
図9は、本発明の第4実施形態を示す。第4実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、ローラ30を、ニードルベアリングを使用したものではなく、ダブルローラタイプとした点である。その他の構成は、両者間で違いはなく、同一部分についての再度の説明は省略する。
【0031】
第4実施形態では、ローラ30が、外輪33と内輪34とにより構成されている。外輪33の内周面と内輪34の外周面との間、並びに内輪34の内周面と軸本体21の外周面との間には、グリースが塗付されており、外輪33がカム4の回転に追随して円滑に回転されるようにされている。本発明の特徴的な機能については第1実施形態と同一であり、再度の説明は省略する。
【0032】
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、回転軸をハウジングの軸孔に対して回転自在に支持する構造は、浮動支持に代えて、回転軸と軸孔との間に両者間の摩擦抵抗を低減する部材を挟んで、回転軸を軸孔に対して回転し易くする構造としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ロッカアーム
2 ピボット
3 吸気バルブ
4 カム
5 シリンダヘッド
10 ハウジング
11 揺動支点部
12 バルブ当接部
13 側壁
13a 外側面
14 軸孔
15 空洞
20 回転軸
21 軸本体(回転軸)
21a 圧痕
22、23、24、27、28 フランジ部
22a、23a 内側面
25 軸本体雌部
26 軸本体雄部
30 ローラ
31、33 外輪
32 ニードルベアリング
34 内輪