(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220419BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220419BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020089794
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2021-10-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516054106
【氏名又は名称】BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】升國 広明
(72)【発明者】
【氏名】今橋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中西 孝博
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一路
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098183(JP,A)
【文献】特開2020-064799(JP,A)
【文献】特開2017-139128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、少なくとも、
正極活物質の前駆体化合物と
粉状のリチウム化合物とを混合して混合物の粉末を調製すると同時に、少なくとも1種の元素を含む噴霧用剤を該混合物の粉末に噴霧する噴霧/混合工程
を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記噴霧/混合工程において、混合物
の粉末及び該混合物
の粉末に前記噴霧用剤が噴霧された被噴霧物の少なくとも1種が存在する容器内部の圧力が、大気圧よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記噴霧/混合工程の後に、前記混合物
の粉末に前記噴霧用剤が噴霧された被噴霧物を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記噴霧/混合工程及び前記乾燥工程の少なくとも1つの工程において、前記被噴霧物の最高温度が40℃~150℃となるように加熱することを特徴とする、請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記元素が、該元素の化合物として前記噴霧用剤に含まれており、
前記噴霧用剤における前記元素の化合物の量が、8wt%~35wt%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体化合物が、少なくともニッケル(Ni)を含有しており、かつ、5.5μm以下の平均二次粒子径を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記噴霧用剤が、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ホウ素(B)、リン(P)、及びモリブデン(Mo)から選ばれた少なくとも1種の元素を含む水溶液又は懸濁液であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記噴霧用剤が、タングステン(W)を含む水溶液であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の電池特性の向上を図ることが可能な正極活物質を、生産効率を低下させることなく製造することができる、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブル化、コードレス化した携帯電話やノートパソコン等の電子機器の普及が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として、小型、軽量で高エネルギー密度を有する非水二次電池がある。その中でも、正極にニッケル酸リチウムといった材料を用いた、充放電容量が大きいという長所を有するリチウムイオン二次電池が多用されている。
【0003】
そこで、汎用性に優れたニッケル(Ni)及びその他の遷移金属Mの固溶体である層状岩塩酸化物系のリチウムイオン二次電池用正極活物質(基本組成:Li(NiM)O2)の研究が盛んに行われてきている。
【0004】
このような層状岩塩酸化物系の正極活物質の中でも、遷移金属として、従来多用されてきたコバルト(Co)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)等の他に、例えばタングステン(W)を含むものが着目されており、このタングステンを、正極活物質の粒子表面や粒子界面に存在させることで、電子伝導性が向上すること等から、この正極活物質を用いることでより高性能であるリチウムイオン二次電池を製造することが試みられている。
【0005】
特に、タングステンのような金属元素を添加する際に、正極活物質の粒子表層により微小であり、かつ、均一に配置させることが重要となっている。
【0006】
例えば、特許文献1及び2には、正極活物質得るための焼成工程の前に、他の遷移金属化合物からなる複合酸化物や複合水酸化物とリチウム化合物との混合時、又は、他の遷移金属化合物とリチウム化合物との混合時に、タングステン化合物を添加することにより、層状岩塩酸化物系の正極活物質を製造する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献3及び4には、焼成工程前に、リチウム及びタングステンを含む化合物の溶液(以下、Li-W溶液ともいう)を、正極活物質の前駆体に噴霧することにより、層状岩塩酸化物系の正極活物質を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-197556号公報
【文献】特開2011-228292号公報
【文献】特開2019-040675号公報
【文献】国際公開2018/105481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、タングステン化合物を添加した際にタングステン濃度にムラが生じてしまい、これにより、得られる正極活物質にタングステン由来の異物が発生したり、正極活物質の粒子成長抑制効果において、タングステンの局在化によるバラツキが生じることで、電池特性が悪影響を受けるという課題がある。
【0010】
また、特許文献3及び4に記載の方法では、前駆体の製造後、リチウム化合物との混合前に、Li-W溶液を正極活物質の前駆体に噴霧する工程が別途追加されるため、生産効率が大きく低下するという課題がある。
【0011】
本発明は、前記のごとき従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池特性に悪影響を与えることがない正極活物質を、生産効率を低下させることなく製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の正極活物質の製造方法を、正極活物質の前駆体とリチウム化合物とを混合する際に、これら前駆体及びリチウム化合物に、例えばタングステンやジルコニウムといった元素を含む用剤を噴霧しながら均一に混合することにより構成した。
【0013】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、少なくとも、
正極活物質の前駆体化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製すると同時に、少なくとも1種の元素を含む噴霧用剤を該混合物に噴霧する噴霧/混合工程
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法では、前駆体化合物とリチウム化合物との混合と、少なくとも1種の元素を含む噴霧用剤の噴霧による添加とを同時に行うことから、該製造方法により得られた正極活物質は、その粒子表層に添加した微小な粒子でより均一に被覆されており、これを用いた非水電解質二次電池は、電池特性に悪影響を与えるどころか、その向上を図ることが可能である。加えて本発明の製造方法によれば、このような正極活物質を、生産効率を低下させることなく容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一実施態様を示すフローチャート図(フローα)である。
【
図2】本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一実施態様を示すフローチャート図(フローβ)である。
【
図3】本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一実施態様を示すフローチャート図(フローγ)である。
【
図4】従来の正極活物質の製造方法の一例を示すフローチャート図(フローδ)である。
【
図5】従来の正極活物質の製造方法の一例を示すフローチャート図(フローε)である。
【
図6】従来の正極活物質の製造方法の一例を示すフローチャート図(フローζ)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、少なくとも、次の工程を含んでいる。すなわち、正極活物質の前駆体化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製すると同時に、少なくとも1種の元素を含む噴霧用剤を該混合物に噴霧する噴霧/混合工程を含んでいる。
【0018】
本発明の製造方法では、前記噴霧/混合工程に用いる正極活物質の前駆体化合物として、通常の方法にて合成した前駆体化合物を用いることができる。
【0019】
前記前駆体化合物は、目的とする正極活物質の組成に応じて、リチウム(Li)以外の少なくとも1種の元素を含む複合水酸化物や複合酸化物であることが好ましい。該Li以外の少なくとも1種の元素には特に限定がなく、正極活物質を構成し得る元素であればよいが、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ルテニウム(Ru)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、ビスマス(Bi)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、リン(P)等が挙げられる。好ましくは、少なくともNiを含有した複合水酸化物や複合酸化物であり、さらに好ましくは、NiとCoとMnとによる、いわゆる三元系と呼ばれる組成の複合水酸化物や複合酸化物であり、特に好ましくは、Niの含有量がNiとCoとMnとの総量に対して30mol%~70mol%である複合水酸化物や複合酸化物である。
【0020】
前記複合水酸化物や複合酸化物の製造方法には特に限定がなく、例えば、Li以外の少なくとも1種の元素又はその化合物の水溶液を、目的とする正極活物質の組成に応じて少なくとも1種準備し、必要に応じて配合割合を調整して、これを、例えば水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア溶液等のアルカリ水溶液の1種以上を母液として攪拌させている反応槽内に滴下し、pHが例えば11程度~13程度の適切な範囲となるように水酸化ナトリウム等も同時に滴下しながら制御する晶析反応により、共沈させて凝集した一次粒子が凝集してなる二次粒子の形状を有する水酸化物や酸化物を得る方法等を採用することができる。
【0021】
なお、前記のごとき湿式反応により得られた前駆体化合物ついては、洗浄処理を行い、脱水後に乾燥処理を行ってもよい。該洗浄処理を行うことで、反応の際に凝集粒子中に取り込まれたり、表層に付着している硫酸根や炭酸根、Na分といった不純物を洗い流すことができる。また、該乾燥処理は、酸化性雰囲気等にて、例えば50℃程度~250℃程度で行うことができる。
【0022】
また、酸化性雰囲気下にて、例えば300℃程度~800℃程度で、前駆体化合物に酸化処理を行うこともできる。該酸化処理を行うことで、前記前駆体化合物を酸化させるとともに、前記不純物を前駆体化合物から離脱させることにより、前駆体化合物の純度を向上させることもできる。また、嵩密度を増加させることもでき、生産効率を向上させることができる。
【0023】
本発明の製造方法の大きな特徴は、焼成(以下、本焼成ともいう)前に、例えば前記のごとく合成した前駆体化合物とリチウム化合物とを混合すると同時に、噴霧用剤を噴霧することである。
【0024】
従来より、正極活物質粒子表面を、例えばタングステン(W)、ジルコニウム(Zr)等によって、島状で粒子表面の少なくとも一部により均一に存在させるように被覆させると、二次電池としたときに入出力特性やサイクル特性といった電池としての特性が向上する可能性のあることが着目されており、様々な手法でこのような元素を正極活物質の二次粒子表面や界面を含む一次粒子表層に存在させることが試みられてきた。しかしながら、このような元素の化合物をそのまま粉末にて添加したところで、これらの元素が存在する粒子表層により均一に被覆させた正極活物質を得ることは困難であった。また、仮にそのような正極活物質の粒子を得られたとしても、特許文献1~4に記載の技術のように、その製造方法はコストが大きくなったり、生産効率を損ねるものであった。
【0025】
ところが、本発明の製造方法のように、正極活物質の粒子表面や粒子界面に存在させようとする元素を噴霧用剤とし、この噴霧用剤を、前駆体化合物とリチウム化合物との混合と同時に噴霧することにより、目的とする元素で均一に被覆された正極活物質の粒子を容易に得ることができる。加えて混合における時間を大きく損失することがないため、生産効率を低下させることなく、非常に効率よく容易に正極活物質を製造することができる。
【0026】
<噴霧/混合工程の運転条件>
以下、噴霧/混合工程の運転条件について詳細に説明する。
【0027】
前駆体化合物と混合するリチウム化合物として、特に限定されることなく各種のリチウム塩を用いることができる。該リチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム・一水和物、無水水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、乳酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、ピルビン酸リチウム、硫酸リチウム、及び酸化リチウム等が挙げられる。本発明において、好ましくは、炭酸リチウム、水酸化リチウム・一水和物、無水水酸化リチウムである。
【0028】
前記リチウム化合物の中でも、被噴霧物を低温で焼成する場合は、水酸化リチウムを用いることが好ましいが、水分が多量に発生するので、生産性の向上の観点から、無水水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0029】
なお、本明細書において、前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧用剤が噴霧された状態のものを、被噴霧物という。
【0030】
前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧する噴霧用剤は、正極活物質中の結晶構造中に存在させようとしたり、正極活物質の粒子表面や粒子界面に存在させようとする少なくとも1種の元素を含んでいればよい。
【0031】
噴霧用剤に含まれる元素には特に限定がなく、正極活物質を構成し得る元素であればよいが、例えば、Ni、Co、Mn、Mg、Al、Mo、Nb、W、Zr、B、P、V、Ti、Cr、Ca、Zn、Fe、Ga、Sr、Y、Ru、In、Sn、Ta、Bi等が挙げられる。
【0032】
前記元素の中でも、例えば、Mn、Al、Mg、及びTiから選ばれた少なくとも1種を含む噴霧用剤を用いた場合、焼成工程を経ることで該元素を特に粒子表層部の結晶構造内により均一に存在させることができ、結晶構造が安定化する。その結果、得られる正極活物質は、非水電解質二次電池としたときにサイクル特性や高温保存性を向上させることが可能である。
【0033】
また、前記元素の中でも、例えば、W、Zr、Nb、B、P、及びMoから選ばれた少なくとも1種を含む噴霧用剤を用いた場合、該元素を主に粒子表層により均一に島状若しくは被覆した状態で存在させることができ、粒子表層部を低抵抗にさせることができる。その結果、得られる正極活物質は、非水電解質二次電池としたときに入出力特性、サイクル特性といった電池特性をより向上させることが可能である。
【0034】
噴霧用剤は、前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧できる形態であればよく、特に限定がないが、例えば、水溶液、有機溶媒からなる溶液といった溶液、水及び/又は有機溶媒からなる懸濁液等があげられる。また、噴霧用剤の形態は、含まれる少なくとも1種の元素の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
例えば、元素が少なくともW、B、P等の場合は、噴霧用剤が、少なくともW、B、P等を含む水溶液であることが好ましく、元素が少なくともZr、Nb、Mo等の場合には、噴霧用剤が、少なくともZr、Nb、Mo等を含む懸濁液であることが好ましい。
【0036】
また、例えば、元素が少なくともMn、Al、Mg、Ti等の場合は、噴霧用剤が、少なくともMn、Al、Mg、Ti等を含む溶液であってもよく、少なくともMn、Al、Mg、Ti等を含む懸濁液であってもよい。該溶液としては、硫酸塩水溶液、炭酸塩水溶液等が挙げられ、該懸濁液としては、体積基準の粒度分布における平均二次粒子径が少なくともサブミクロンで、5nm程度~800nm程度である化合物粉末の懸濁液等が挙げられる。
【0037】
なお、本明細書において、平均二次粒子径(D50)は、レーザー式粒度分布測定装置[マイクロトラックHRA、日機装(株)製]を用い、湿式レーザー法にて、測定する化合物粉末に合わせた所定の屈折率として設定したうえで測定し、体積基準にて算出した値である。
【0038】
噴霧用剤に含まれる元素がWの場合、その化合物としては、特に限定がないが、例えば、酸化タングステン、タングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸アンモニウム、ヘキサカルボニルタングステン、硫化タングステン等が挙げられ、これらの中でも、酸化タングステンが好ましい。また、噴霧用剤におけるWの量は、前駆体化合物中の金属元素全量(例えば実施例のような、NiとCoとMnとからなる三元系前駆体化合物のNiとCoとMnとの総量)に対して、好ましくは0.3mol%~1.5mol%であり、さらに好ましくは0.3mol%~1.3mol%である。用いる噴霧用剤は、好ましくは水溶液である。
【0039】
噴霧用剤に含まれる元素がZrの場合、その化合物としては、特に限定がないが、例えば、酸化ジルコニウム、安定化ジルコニウム(イットリウム安定化ジルコニウム、YSZ)、ジルコニウム酸リチウム、塩化ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム等が挙げられ、これらの中でも、酸化ジルコニウムが好ましい。また、噴霧用剤におけるZrの量は、前駆体化合物中の金属元素全量(例えば実施例のような、NiとCoとMnとからなる三元系前駆体化合物のNiとCoとMnとの総量)に対して、好ましくは0.3mol%~1.5mol%である。用いる噴霧用剤は、好ましくは純水による懸濁液である。
【0040】
噴霧用剤に含まれる元素がNbの場合、その化合物としては、特に限定がないが、例えば、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム等が挙げられ、これらの中でも、酸化ニオブが好ましい。また、噴霧用剤におけるNbの量は、前駆体化合物中の金属元素全量(例えば実施例のような、NiとCoとMnとからなる三元系前駆体化合物のNiとCoとMnとの総量)に対して、好ましくは0.3mol%~1.5mol%である。用いる噴霧用剤は、好ましくは純水による懸濁液である。
【0041】
噴霧用剤に含まれる元素がBの場合、その化合物としては、特に限定がないが、例えば、酸化ホウ素、ホウ酸、四ホウ酸リチウム等が挙げられ、これらの中でも、ホウ酸が好ましい。また、噴霧用剤におけるBの量は、前駆体化合物中の金属元素全量(例えば実施例のような、NiとCoとMnとからなる三元系前駆体化合物のNiとCoとMnとの総量)に対して、好ましくは0.3mol%~1.5mol%である。用いる噴霧用剤は、好ましくは水溶液である。
【0042】
噴霧用剤の調製方法には特に限定がなく、目的とする正極活物質の組成に応じて、少なくとも1種の元素を選定し、各々の量を適宜調整することができ、例えばこれらの元素又は元素の化合物(以下、元素化合物ともいう)と、適量の水等の溶媒とを混合する方法を採用することができる。加えて、例えばシュウ酸等の適量の酸性化合物や、水酸化ナトリウム、リチウム化合物等の適量のアルカリ性化合物と、適量の水等の溶媒とを混合する方法を採用することもできる。
【0043】
特に、前記アルカリ性化合物がリチウム化合物の場合、例えば、前記前駆体化合物と混合するリチウム化合物として例示したリチウム化合物を用いることができる。この場合、最終的に得られる正極活物質において、添加する元素の状態や、該リチウム化合物中のLiと添加する元素とが反応すること等を考慮して、リチウム化合物の量を決定することが好ましい。例えば、後述する本発明に係る実施例1によれば、噴霧用剤中のLiと添加するWとのモル比が4:1となるように調整することで、正極活物質としたときに、組成がLi4WO5の化合物で被覆され得る。
【0044】
噴霧用剤のpHは、混合中の前駆体化合物及びリチウム化合物を変質させないという観点や、例えば噴霧/混合機等の、混合物及び/又は被噴霧物が存在する容器への腐食の抑制という観点から、4程度~12程度、さらには5程度~11程度となるように調整することが好ましい。
【0045】
また、噴霧用剤に含まれる少なくとも1種の元素がZrやNb等である場合、前記のとおり、噴霧用剤としては、該硫酸塩溶液である硫酸ジルコニウムといった水溶液、ZrやNbを有機溶媒に溶解させた有機系溶液等の、ZrやNbの溶液を用いることができるが、例えば、少なくともZrやNbを含む懸濁液を用いることもできる。噴霧用剤として懸濁液を用いて正極活物質を得た場合には、該正極活物質から、より充分な初期放電容量を有し、かつ、より高出力になり得る優れた非水電解質二次電池を製造することができるという利点がある。
【0046】
前記Zrを含む懸濁液を用いる場合、そのZrの種類としては、ZrO2、YSZといった無機化合物が好ましく、特にZrO2が好ましい。また、懸濁液中のZr化合物の粒子径は、噴霧用剤として噴霧時に目詰まりしない大きさであればよいが、例えば、体積基準の粒度分布測定における平均二次粒子径が数μm以下で、サブミクロンであることが好ましく、より好ましくは5nm~800nmである。該平均二次粒子径が小さいと、通常は流動性の関係により粉末での混合が困難であるが、本発明における噴霧/混合工程を適用すると、ZrO2といったZr化合物を、より均一に正極活物質の粒子に被覆させることができる。その結果、微小粒子であるZr化合物の効果をより充分に得ることができ、非水電解質二次電池としたときに、出力特性や寿命特性がより向上する。
【0047】
噴霧用剤の調製において、添加する元素化合物の量は、噴霧用剤全量の5wt%程度~40wt%程度となるようにする。添加する元素化合物の量が多いほど、例えば少量の噴霧用剤を噴霧することで、より多くの元素を噴霧することができる。また、前駆体化合物の組成、平均二次粒子径、BET法による比表面積(以下、BET比表面積という)等との関連性を考慮することが好ましく、これらを考慮したうえで添加する元素化合物の量を最適な範囲に設定することで、より少量の噴霧用剤の噴霧で、必要量の元素をより均一に混合物に噴霧することができる。添加する元素化合物の量が余りにも多いと、噴霧用剤の調製時に元素化合物が溶解され得ない恐れがあるほか、噴霧時に局所的な析出が発生する恐れがある。添加する元素化合物の量が余りにも少ないと、被噴霧物で偏析が発生し、均一性を損ねる恐れがある。本発明において、噴霧用剤における元素化合物の量は、好ましくは8wt%~35wt%であり、より好ましくは8wt%~33wt%である。なお、特に用いる前駆体化合物が、例えば実施例のような、NiとCoとMnとからなる三元系前駆体化合物といった少なくともNiを含有する前駆体化合物であり、かつ、後述するような、平均二次粒子径が5.5μm以下、さらには2μm~5μmといった小粒径の前駆体化合物である場合には、該噴霧用剤における元素化合物の量をこのような範囲に設定することが好ましい。
【0048】
本発明における噴霧用剤の量と噴霧時間との関係(1分間当たりに噴霧される噴霧用剤の量)の最適幅は、例えば、前駆体化合物の組成、平均二次粒子径、BET比表面積等によっても影響を受けると考えられる。特に、平均二次粒子径が5.5μm以下、さらには2μm~5μmといった小粒径の前駆体化合物を用いる場合や、BET比表面積が10m2/g以上の前駆体化合物を用いる場合には、前記最適幅は、通常は大きな影響を受けると考えられ、本条件を制御することで、混合物に対して噴霧用剤を均一に噴霧することが可能となり、かつ、流動性を損ねることがないので、正極活物質の生産性が向上する。
【0049】
前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧用剤を噴霧する際の噴霧圧は、特に限定されるものではなく、例えば、噴霧用剤を噴霧し、全量が混合物中に添加できる範囲であればよい。ただし、噴霧用剤の噴霧圧が低過ぎる場合、想定された混合時間で噴霧が完了しない恐れがある。また、噴霧時の液滴径が大きくなり過ぎて、混合物に均一に被覆させることができない恐れがある。逆に噴霧用剤の噴霧圧が高過ぎる場合、噴霧時の液滴径が小さくなり過ぎて、噴霧用剤の全量を混合物に被覆させることができない恐れがある。また、噴霧ノズルが目詰まりしてしまう恐れがある。
【0050】
前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧用剤を噴霧する際の噴霧手段には特に限定がなく、例えば噴霧/混合機等の、混合物に噴霧用剤を均一かつ充分に噴霧することができる手段であればよい。また、噴霧に用いる噴霧装置としては、各種アトマイザー、スプレーノズル等を挙げることができる。
【0051】
前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧用剤を噴霧する際の噴霧時間は、前駆体化合物とリチウム化合物との混合物を得る時間に対して、ほぼ同等であることが好ましく、より好ましくは混合物を得る時間よりも短い時間である。混合物を得る時間よりも短い時間で噴霧を完了させることで、噴霧した噴霧用剤を充分に攪拌させることができ、より均一性を高めることができる。
【0052】
なお、噴霧用剤の噴霧時間は、正極活物質の粒子表面に被覆させようとする元素を噴霧用剤として噴霧せずに添加する従来の方法と比較して大差がなく、生産効率を低下させることがない時間であればよい。また、該噴霧時間は、噴霧用剤を、均一かつ充分に噴霧することができるように、噴霧用剤の噴霧量や噴霧圧等を適宜調整することで調整が可能である。
【0053】
本発明の製造方法では、前記噴霧/混合工程において、混合物及び被噴霧物の少なくとも1種(以下、混合物及び/又は被噴霧物ともいう)が存在する容器内部の圧力が大気圧よりも低いこと、すなわち、噴霧/混合工程を減圧下にて行うことが好ましい。このように、噴霧/混合工程を、例えば噴霧/混合機等の混合物及び/又は被噴霧物が存在する容器内を減圧した状態で進めることにより、例えば後述する乾燥工程を別途設けなくとも、目的とする正極活物質の粒子の粒子径に応じて、混合物及び/又は被噴霧物の流動性を損ねない程度に、噴霧用剤に含まれていた溶媒を容易に除去することができ、生産性をさらに向上させることができる。
【0054】
さらに、本発明の製造方法では、前記噴霧/混合工程を攪拌減圧下にて行うことにより、噴霧用剤に含まれていた溶媒の除去を促進させることができる。
【0055】
従来は、リチウム化合物のような比較的重量が軽く嵩高い原料を用いて減圧下で混合工程を行う場合、減圧するためのポンプ部へのリチウム化合物の飛散が発生し、目的とする前駆体化合物とリチウム化合物との混合比からズレが生じる懸念があった。ところが、本発明では、混合開始時の条件設定や減圧下での操作に加え、噴霧用剤の噴霧の制御を行うことで、このような懸念の排除が可能であることが見出された。
【0056】
前記のごとく減圧又は攪拌減圧を行う際には、混合物及び/又は被噴霧物が存在する容器内部の真空度(ゲージ圧)が、-95kPa以上、かつ0kPa未満、さらには-95kPa~-20kPa、特には-95kPa~-30kPaであることが好ましい。混合物及び/又は被噴霧物が存在する容器内部の真空度が前記下限値未満の場合、噴霧した液滴が減圧ポンプに引き込まれてしまう恐れがある。混合物及び/又は被噴霧物が存在する容器内部の真空度を0kPa未満、さらには前記上限値以下とすることにより、減圧又は攪拌減圧を行うことによる効果が得られ、乾燥時間を容易に短縮させることができ、生産性を向上させることができる。
【0057】
なお、減圧又は攪拌減圧を行う際の時間は、噴霧用剤に含まれていた溶媒の除去が促進され、かつ、生産効率が低下しない程度であることが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法では、前記噴霧/混合工程において加熱を行うことができ、該加熱は、被噴霧物の最高温度が40℃~150℃、さらには50℃~140℃、特には60℃~130℃となるように行うことが好ましい。被噴霧物の最高温度が前記下限値よりも低い場合、噴霧された噴霧用剤によって被噴霧物中の含有用剤率が高くなり、被噴霧物の流動性が著しく低下し、被噴霧物中の各化合物の偏在化による品質の低下や、混合機内への付着が発生する恐れがある。加えて、焼成工程における焼成時に、用剤の揮発を促すために、より多量の熱量を与える必要が生じ、適切な焼成の制御が困難となり、生産効率が低下する恐れがある。逆に被噴霧物の温度が前記上限値よりも高い場合、三次凝集粒子が増加し過ぎる可能性がある。
【0059】
前記のごとく加熱を行う場合の方法には特に限定がなく、前記被噴霧物の最高温度が前記温度範囲となるように、例えば噴霧/混合機等の被噴霧物が存在する容器の外縁を、例えばジャケット等で囲み、例えば90℃程度の温水を循環させる方法や、120℃程度に熱したオイルを循環させる方法、120℃~160℃程度に温度調節を行ったスチームを循環させる方法等を採用することができる。
【0060】
本発明の製造方法では、前駆体化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製すると同時に、この混合物に噴霧用剤を噴霧するという、非常に簡易な操作、すなわち、噴霧/混合工程が行われるが、目的とする正極活物質の平均二次粒子径に関係する前駆体化合物の平均二次粒子径によっては、該噴霧/混合工程の後に、被噴霧物を乾燥する乾燥工程も行うことが好ましい。
【0061】
例えば、前駆体化合物における平均二次粒子径が12μm程度~30μm程度といった比較的大きい粒子径を有する正極活物質を目的とする場合には、前記のとおり、混合物を調製すると同時に噴霧用剤を噴霧することで、該混合物を乾燥しなくとも良好な流動性が維持された混合物を得ることもできる。また、焼成時の含有溶剤の揮発を考慮した場合は、該噴霧/混合工程の後に、被噴霧物を乾燥する乾燥工程を行うこともできる。これを焼成することで所望の正極活物質の粒子を得ることができる。
【0062】
一方、例えば、前記平均二次粒子径が1μm程度~12μm程度、特に2μm~7μmといった比較的小さい平均二次粒子径を有する正極活物質を目的とする場合には、噴霧用剤の噴霧により含有用剤量が増加した被噴霧物の流動性が大きく低下する恐れがあるため、噴霧用剤を噴霧しながら混合物を調製すると同時に、被噴霧物の乾燥も行うことができる。その結果、前記被噴霧物中に存在していた噴霧用剤に含まれていた溶媒が、より短時間で適度に除去され、生産効率を低下させることなく、良好な流動性を前記被害噴霧物粒子に付与することができる。
【0063】
上述に加えて、前駆体化合物のBET比表面積が大きい場合は特に、乾燥工程を行うことが重要である。例えば、平均二次粒子径が1μm程度~6μm程度の小さい平均二次粒子径を有する正極活物質を目的とし、前駆体化合物が水酸化物又は酸化物であり、そのBET比表面積が5m2/g程度~80m2/g程度の場合は、例えば後述のとおり、より高い温度で乾燥を行いつつ、制御することにより、生産性を向上させることができる。
【0064】
前記のごとき乾燥工程においても、前記噴霧/混合工程と同様に、被噴霧物が存在する容器内部の圧力が大気圧よりも低いこと、すなわち、乾燥工程を減圧下にて行うことができる。このように、乾燥工程を、例えば噴霧/混合機等の被噴霧物が存在する容器内を減圧した状態で進めることにより、目的とする正極活物質の粒子の粒子径に応じて、被噴霧物の流動性を損ねない程度に、噴霧用剤に含まれていた溶媒をさらに容易に除去することができ、生産性をさらに向上させることができる。
【0065】
さらに、本発明の製造方法では、前記乾燥工程を攪拌減圧下にて行うことにより、噴霧用剤に含まれていた溶媒の除去をさらに促進させることができる。
【0066】
前記のごとく減圧又は攪拌減圧を行う際には、被噴霧物が存在する容器内部の真空度(ゲージ圧)が、-95kPa以上、かつ0kPa未満、さらには-95kPa~-20kPa、特には-95kPa~-30kPaであることが好ましい。被噴霧物が存在する容器内部の真空度が前記下限値未満の場合、噴霧した液滴が減圧ポンプに引き込まれてしまう恐れがある。被噴霧物が存在する容器内部の真空度を0kPa未満、さらには前記上限値以下とすることにより、減圧又は攪拌減圧を行うことによる効果が得られ、乾燥時間をさらに容易に短縮させることができ、生産性をさらに向上させることができる。
【0067】
なお、減圧又は攪拌減圧を行う際の時間は、噴霧用剤に含まれていた溶媒の除去が促進され、かつ、生産効率が低下しない程度であることが好ましい。
【0068】
前記のごとき乾燥工程においても、前記噴霧/混合工程と同様に加熱を行うことができ、該加熱は、被噴霧物の最高温度が40℃~150℃、さらには50℃~140℃、特には60℃~130℃となるように行うことが好ましい。被噴霧物の最高温度が前記下限値よりも低い場合、噴霧用剤の乾燥速度が遅すぎて、生産効率が低下する恐れがある。逆に被噴霧物の温度が前記上限値よりも高い場合、被噴霧物中の前駆体化合物において不均一な脱水反応が発生し、異相が生じる恐れがある。
【0069】
前記のごとく乾燥工程において加熱を行う場合の方法にも特に限定がなく、前記噴霧/混合工程において加熱を行う場合と同様の方法を採用することができる。
【0070】
また、前記乾燥工程の時間は、噴霧工程を行わずに前駆体化合物とリチウム化合物との混合物を得る時間とほぼ同等であることが好ましく、より好ましくは、前記混合物を得る時間よりも短い時間である。乾燥することによる、噴霧用剤に含まれていた溶媒を除去する時間が長過ぎると、混合物が分離し始めて均一性が低下するだけでなく、生産効率も低下する恐れがある。
【0071】
なお、本発明の製造方法では、前記のごとき被噴霧物の加熱を、前記噴霧/混合工程及び前記乾燥工程の少なくとも1つの工程において行うことが好ましい。
【0072】
本発明の製造方法の大きな特徴は、前記のとおり、本焼成前に、前駆体化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製すると同時に、噴霧用剤を噴霧する噴霧/混合工程を行うことであるが、次いで、所定の温度にて焼成を行うことにより、目的とする正極活物質を得ることができる。
【0073】
例えば、焼成を行う際に、低温から高温へと温度を変化させて2回以上の焼成を行うことによっても、目的とする正極活物質を得ることができる。この際、先の低温での焼成を予備の焼成(以下、予備焼成という)とし、後の高温での焼成を本焼成とすると、該予備焼成を、前記噴霧/混合工程において行うこともでき、前記のごとく必要に応じて該噴霧/混合工程の後に行われる乾燥工程において行うことも可能であり、加えて、乾燥工程の後に行うことも可能である。
【0074】
このような予備焼成を行うことにより、前駆体化合物のリチウム化合物との反応性が高まって、リチウム化合物が前駆体化合物に対して分解溶融し、合成反応がより確実に均一に進行する。その結果、後の本焼成にて結晶成長及び粒子成長を促すことができ、所望とする正極活物質の粒子形状や組成を容易に得ることができる。
【0075】
前記予備焼成の焼成温度には特に限定がないが、750℃未満、さらには350℃~750℃、特には350℃~700℃であることが好ましい。予備焼成の焼成温度が低すぎる場合、前駆体化合物のリチウム化合物との反応性が充分に高まらない恐れがある。逆に予備焼成の焼成温度が前記上限値よりも高い場合、本焼成での結晶成長が進み過ぎて、得られる正極活物質の電池特性が低下する恐れがある。また、予備焼成における高温状態を維持する時間は、前駆体化合物のリチウム化合物との反応性を充分に高めることができる限り特に限定がなく、通常1時間程度~10時間程度であることが好ましい。
【0076】
前記噴霧/混合工程又は必要に応じて乾燥工程に次ぐ本焼成は、例えば酸化性雰囲気下で行うことができる。該酸化性雰囲気は、前駆体化合物を本焼成した後の正極活物質の価数状態を想定した酸素濃度を設定することによって得ることができ、例えば、18vol%程度~99vol%程度の酸素濃度であることが好ましい。
【0077】
本焼成の最高温度となる焼成温度には特に限定がなく、目的とする正極活物質の組成に応じて適宜調整すればよい。また、該本焼成の焼成温度は、前記予備焼成の焼成温度よりも高い温度であればよいが、例えば、650℃~1100℃、さらには700℃~1000℃であることが好ましい。本焼成の焼成温度が前記下限値よりも低い場合、所望の結晶構造や粒子状態を有する正極活物質が得られない恐れがある。逆に本焼成の焼成温度が前記上限値よりも高い場合、結晶成長が進み過ぎて、得られる正極活物質の電池特性が低下する恐れがある。加えて、所望の正極活物質の組成における価数バランスが良好でなくなり、非水電解質二次電池としたときに、その電池特性が低下する恐れがある。また、本焼成の最高温度に達した後の焼成時間は、所望の結晶構造を有する正極活物質が得られる限り特に限定がなく、通常1時間程度~10時間程度であることが好ましい。
【0078】
なお、本発明の製造方法において、前記のごとく予備焼成が行われている場合には、本焼成によって結晶成長及び粒子成長が促され、焼成効率も上昇する。その結果、組成状態、粒子サイズ、結晶性等の観点で、より均一性が高い、所望の結晶構造を有する正極活物質を得ることができる。
【0079】
正極活物質の体積基準による平均二次粒子径は、例えば1μm~20μmであることが好ましい。該平均二次粒子径が前記下限値未満の場合、正極活物質を正極としたときに電解液との反応性が高くなり、電池特性が低下する恐れがある。逆に該平均二次粒子径が前記上限値を超える場合、正極活物質を正極としたときに電解液との接触性が悪化してしまい、必要な出力が維持できないといった、電池特性が低下する恐れがある。
【0080】
かくして本発明の製造方法により得られる正極活物質を用いて正極とすることにより、所望の非水電解質二次電池を製造することができる。
【0081】
前記非水電解質二次電池は、通常、前記正極、負極、及び電解質を含む電解液から構成される。
【0082】
前記正極を製造する際には、常法に従って、本発明の製造方法により得られる正極活物質に、導電剤及び結着剤を添加混合する。導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましい。結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0083】
前記負極には、例えば、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、及びCdからなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属又は金属元素、それを含む合金もしくはそれを含むカルコゲン化合物、並びにリチウム金属、グラファイト、低結晶性炭素材料等の負極活物質を用いることができる。
【0084】
前記電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの組み合わせ以外に、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種を含む有機溶媒を用いることができる。
【0085】
前記電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種を前記溶媒に溶解して用いることができる。
【0086】
<作用>
本発明に係る製造方法では、前駆体化合物とリチウム化合物との混合と、少なくとも1種の元素を含む噴霧用剤の噴霧とが同時に行われる。したがって、本発明に係る製造方法により、非水電解質二次電池の電池特性に悪影響を与えるどころか、その向上を図ることが可能な正極活物質を、生産効率を低下させることなく容易に製造することができる。
【実施例】
【0087】
以下に、本発明の代表的な実施例と比較例とを挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
<前駆体化合物及び正極活物質の組成>
本明細書において、前駆体化合物及び正極活物質の組成は、次の方法にて決定した。
前駆体化合物又は正極活物質0.2gの試料を25mLの20%塩酸溶液中で加熱溶解させ、冷却後100mLメスフラスコに移して、純水を入れ調整液を調製した。該調整液について、ICP-AES[Optima8300、(株)パーキンエルマー製]を用いて各元素を定量した。
【0089】
<正極活物質のXRD回折>
X線回折装置[SmartLab、(株)リガク製]を用い、以下のX線回折条件にてXRD回折データを得た。得られたXRD回折データを用い、異相の有無を確認した。
(X線回折条件)
線源:Cu-Kα
加速電圧及び電流:45kV及び200mA
サンプリング幅:0.02deg.
走査幅:15deg~122deg.
スキャンスピード:0.4°/minステップ
発散スリット幅:0.65deg.
受光スリット幅:0.2mm
散乱スリット:0.65deg.
【0090】
<前駆体化合物Aの製造>
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液を、NiとCoとMnとの割合(モル比)がNi:Co:Mn=1:1:1となるように混合して、混合水溶液を得た。反応槽内には事前に、水酸化ナトリウム水溶液300g及びアンモニア水500gを添加した純水10Lを母液として準備し、0.7L/minの流量のN2ガスにより反応槽内をN2雰囲気とした。なお、反応中もN2雰囲気とした。
【0091】
その後、攪拌羽を1000rpmで回転させながら、前記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア水とを、所定の速度で同時に滴下させ、pHが12.0となるようにアルカリ溶液の滴下量を調整した晶析反応により、NiとCoとMnとが晶析して凝集粒子を形成するように共沈させ、共沈物を得た。
【0092】
その後、反応器内のスラリーを固液分離し、さらに純水にて洗浄することで残留不純物を低減させてから、ケーキ状態となった共沈物を大気環境下にて110℃で12時間乾燥することで、平均二次粒子径が4.9μmである前駆体化合物Aを得た。
【0093】
<前駆体化合物Bの製造>
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液を、NiとCoとMnとの割合(モル比)がNi:Co:Mn=1:1:1となるように混合して、混合水溶液を得た。反応槽内には事前に、水酸化ナトリウム水溶液360g及びアンモニア水500gを添加した純水10Lを母液として準備し、0.7L/minの流量のN2ガスにより反応槽内をN2雰囲気とした。なお、反応中もN2雰囲気とした。
【0094】
その後、攪拌羽を1000rpmで回転させながら、前記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア水とを、所定の速度で同時に滴下させ、pHが12.5となるようにアルカリ溶液の滴下量を調整した晶析反応により、NiとCoとMnとが晶析して凝集粒子を形成するように共沈させ、共沈物を得た。
【0095】
その後、反応器内のスラリーを固液分離し、さらに純水にて洗浄することで残留不純物を低減させてから、ケーキ状態となった共沈物を大気環境下にて110℃で12時間乾燥することで、平均二次粒子径が3.0μmである前駆体化合物Bを得た。
【0096】
[乾燥終点Aの設定]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウムとを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入して混合することで、前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの混合物を得た。次いで、前記混合物の水分量を測定したところ、0.48wt%であった。この水分量から、実施例1~14及び比較例1~2の乾燥工程における乾燥終点Aを、0.50wt%以下と設定した。
【0097】
[乾燥終点Bの設定]
前記前駆体化合物Bと炭酸リチウムとを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入して混合することで、前駆体化合物Bと炭酸リチウムとの混合物を得た。次いで、前記混合物の水分量を測定したところ、0.96wt%であった。この水分量から、実施例15の乾燥工程における乾燥終点Bを、1.00wt%以下と設定した。
【0098】
なお、本明細書における混合物又は被噴霧物の水分量は、ハロゲン水分計[型式:MB120、オーハウス社製]を用いて測定したものであり、120℃加熱時の重量減少量を水分量とした。
【0099】
<実施例1>
図1に示すフローチャート図(フローα)に準拠して正極活物質を製造した。
【0100】
[噴霧用剤の調製工程]
粉末状の水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O)43.6gを純水660.9g中に溶解して水酸化リチウム水溶液を調製した。次いで、粉末状の酸化タングステン(WO3)60.9gを前記水酸化リチウム水溶液に投入、攪拌し、酸化タングステンを全量溶解させて、Li4WO5としての重量濃度(噴霧用剤における元素化合物の量)が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0101】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。
【0102】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、被噴霧物の加熱を開始し、同時に混合処理も開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.47wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は8分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は18分であった。ここで、被噴霧物の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0103】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質A1~A5を得た。
【0104】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質A1~A5について、Wと(Ni+Co+Mn)とのmol比である[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を以下の方法にて測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。なお、本実施例1並びに、後の実施例2~11、13、15、及び比較例1~3では、噴霧化合物はWであり、Me=(Ni+Co+Mn)である。
【0105】
[[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)の測定]
正極活物質0.2gの試料を25mLの20%塩酸溶液中で加熱溶解させ、冷却後100mLメスフラスコに移し、純水を入れて調整液を調製した。該調整液について、ICP-AES[Optima8300、(株)パーキンエルマー製]を用いて各元素を定量した。
【0106】
<実施例2>
図2に示すフローチャート図(フローβ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0107】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0108】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0109】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.45wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は6分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は16分であった。
【0110】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質B1~B5を得た。
【0111】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質B1~B5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0112】
<実施例3>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0113】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0114】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0115】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.46wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は4分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は14分であった。
【0116】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質C1~C5を得た。
【0117】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質C1~C5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0118】
<実施例4>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0119】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0120】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を120℃のスチームで循環させることで調整した。
【0121】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が115℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.45wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は4分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は14分であった。
【0122】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質D1~D5を得た。
【0123】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質D1~D5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0124】
<実施例5>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0125】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0126】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を83℃の温水で循環させることで調整した。
【0127】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が80℃になった後、被噴霧物の温度を80℃に2分間保持し、その後、噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.47wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は6分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は16分であった。
【0128】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質E1~E5を得た。
【0129】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質E1~E5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0130】
<実施例6>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0131】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0132】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を73℃の温水で循環させることで調整した。
【0133】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が70℃になった後、被噴霧物の温度を70℃に4分間保持し、その後、噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.47wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は8分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は18分であった。
【0134】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質F1~F5を得た。
【0135】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質F1~F5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0136】
<実施例7>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0137】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0138】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を62℃の温水で循環させることで調整した。
【0139】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が60℃になった後、被噴霧物の温度を60℃に7分間保持し、その後、噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.48wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は13分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は23分であった。
【0140】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質G1~G5を得た。
【0141】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質G1~G5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0142】
<実施例8>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0143】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0144】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-90kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0145】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-90kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.46wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は3分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は13分であった。
【0146】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質H1~H5を得た。
【0147】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質H1~H5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0148】
<実施例9>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0149】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0150】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-40kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0151】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-40kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.45wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は6分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は16分であった。
【0152】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質I1~I5を得た。
【0153】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質I1~I5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0154】
<実施例10>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0155】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0156】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0157】
[乾燥工程]
次いで、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.47wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は11分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は21分であった。
【0158】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質J1~J5を得た。
【0159】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質J1~J5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0160】
<実施例11>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0161】
[噴霧用剤の調製工程]
粉末状の水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O)21.8gを純水604.3g中に溶解して水酸化リチウム水溶液を調製した。次いで、粉末状の酸化タングステン(WO3)60.9gを前記水酸化リチウム水溶液に投入、攪拌し、酸化タングステンを全量溶解させて、Li2WO4としての重量濃度(噴霧用剤における元素化合物の量)が10wt%であるLi2WO4水溶液687gを調製した。
【0162】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li2WO4水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0163】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.49wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は5分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は15分であった。
【0164】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質K1~K5を得た。
【0165】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質K1~K5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0166】
<実施例12>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0167】
[噴霧用剤の調製工程]
粉末状で平均二次粒子径が114nmである酸化ジルコニウム(ZrO2)82gを、純水943g中に投入して攪拌機にて攪拌し、重量濃度(噴霧用剤における元素化合物の量)が8wt%であるZrO2懸濁液1025gを調製した。
【0168】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記ZrO2懸濁液205.3gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0169】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.49wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は5分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は15分であった。
【0170】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質L1~L5を得た。
【0171】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質L1~L5について、[Zr/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。なお、本実施例12及び後の実施例14では、噴霧化合物はZrであり、Me=(Ni+Co+Mn)である。
【0172】
<実施例13>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0173】
[噴霧用剤の調製工程]
粉末状の水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O)43.6gを純水243.4g中に溶解して水酸化リチウム水溶液を調製した。次いで、粉末状の酸化タングステン(WO3)60.9gを前記水酸化リチウム水溶液に投入、攪拌し、酸化タングステンを全量溶解させて、Li4WO5としての重量濃度(噴霧用剤における元素化合物の量)が22wt%であるLi4WO5水溶液347.9gを調製した。
【0174】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、前記Li4WO5水溶液146.7gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。
【0175】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、被噴霧物の加熱を開始し、同時に混合処理も開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.45wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は2分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は12分であった。ここで、被噴霧物の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0176】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質M1~M5を得た。
【0177】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質M1~M5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0178】
<実施例14>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0179】
[噴霧用剤の調製工程]
粉末状で平均二次粒子径が114nmである酸化ジルコニウム(ZrO2)82gを、純水159.2g中に投入して攪拌機にて攪拌し、重量濃度(噴霧用剤における元素化合物の量)が34wt%であるZrO2懸濁液241.2gを調製した。
【0180】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記ZrO2懸濁液48.3gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0181】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.48wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は1分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は11分であった。
【0182】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質N1~N5を得た。
【0183】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質N1~N5について、[Zr/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0184】
<実施例15>
図3に示すフローチャート図(フローγ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0185】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0186】
[噴霧/混合工程]
前記前駆体化合物Bと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Bと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、噴霧/混合機でこれらを混合すると同時に、混合中の粉末の加熱も開始し、さらに同時に、前記Li4WO5水溶液383gを混合中の粉末に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合中の粉末の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0187】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに維持し、かつ、被噴霧物の加熱を維持したまま、混合処理を開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.97wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は4分であった。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程に要した処理合計時間は14分であった。
【0188】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質O1~O5を得た。
【0189】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質O1~O5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0190】
<比較例1>
図4に示すフローチャート図(フローδ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0191】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0192】
[混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機で10分間かけて混合し、混合物を得た。
【0193】
[噴霧工程]
次いで、前記混合物を攪拌させながら、前記Li4WO5水溶液383gを混合物に対して10分間かけて噴霧した。
【0194】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、被噴霧物の加熱を開始し、同時に混合処理も開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.46wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は7分であった。また、混合工程、噴霧工程、及び乾燥工程に要した処理合計時間は27分であった。
【0195】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質P1~P5を得た。
【0196】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質P1~P5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0197】
<比較例2>
図5に示すフローチャート図(フローε)に準拠して正極活物質を製造した。
【0198】
[噴霧用剤の調製工程]
実施例1と同様にして、Li4WO5としての重量濃度が10wt%であるLi4WO5水溶液765.4gを調製した。
【0199】
[混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとの合計重量は3525gであった。次いで、噴霧/混合機で10分間かけて混合し、混合物を得た。
【0200】
[噴霧工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、前記混合物の加熱を開始し、混合物を攪拌させながら、同時に前記Li4WO5水溶液383gを混合物に対して10分間かけて噴霧した。ここで、混合物の加熱は、噴霧/混合機を95℃の温水で循環させることで調整した。
【0201】
[乾燥工程]
次いで、噴霧/混合機内部の真空度を-70kPaに調整した後、被噴霧物の加熱を開始し、同時に混合処理も開始した。被噴霧物の温度が90℃になった時点で噴霧/混合機内部の圧力を大気圧に調整し、被噴霧物の加熱及び混合処理を終了した。その後、被噴霧物の水分量を測定したところ、0.47wt%であったので、乾燥完了と判断した。乾燥工程に要した時間は4分であった。また、混合工程、噴霧工程、及び乾燥工程に要した処理合計時間は24分であった。
【0202】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の被噴霧物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質Q1~Q5を得た。
【0203】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質Q1~Q5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。
【0204】
<比較例3>
図6に示すフローチャート図(フローζ)に準拠して正極活物質を製造した。
【0205】
[混合用粉末の調製工程]
粉末状の水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O)25.1gと粉末状の酸化タングステン(WO3)60.9gとを混合し、脱炭酸大気雰囲気中で200℃、5時間焼成して、Li4WO5粉末を調製した。
【0206】
[混合工程]
前記前駆体化合物Aと炭酸リチウム(Li2CO3)とLi4WO5粉末とを、LiとNi、Co、及びMnの合計量との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となり、かつ、W/(Ni+Co+Mn)(モル比)が0.005となるように秤量し、これらを噴霧/混合機に投入した。前駆体化合物Aと炭酸リチウムとLi4WO5粉末との合計重量は3584gであった。次いで、噴霧/混合機で10分間かけて混合し、混合物を得た。なお、混合物の水分量を測定したところ、0.48wt%であった。
【0207】
[焼成工程]
次いで、噴霧/混合機内部の混合物を無作為に5点採取し、それぞれ大気雰囲気にて、最高温度を950℃として5時間焼成することで、正極活物質R1~R5を得た。
【0208】
[噴霧化合物の均一性評価]
得られた正極活物質R1~R5について、[W/(Ni+Co+Mn)](mol比)を実施例1と同様にして測定し、これに100を乗じた値を、噴霧化合物/Me(mol%)1~5として評価した。また、これら噴霧化合物/Me(mol%)1~5を用い、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差を算出した。なお、本比較例3では、「混合化合物の均一性」「混合化合物/Me(mol%)」であるが、便宜上、「噴霧化合物の均一性」「噴霧化合物/Me(mol%)」と表す。
【0209】
実施例1~15及び比較例1~3における正極活物質の製造条件と、前駆体化合物の平均二次粒子径(μm)、被噴霧物(実施例1~15及び比較例1~2)又は混合物(比較例3)の水分量(wt%)、噴霧化合物/Me(mol%)1~5、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差、並びに、噴霧化合物の均一性評価結果とを、以下の表1及び表2に併せて示す。
【0210】
なお、噴霧化合物の均一性評価の評価基準は以下のとおりである。
〇:標準偏差が0.02(mol%)未満である。
×:標準偏差が0.02(mol%)以上である。
【0211】
また、前記方法にしたがって実施例1~15及び比較例1~3で得られた正極活物質における異相の有無を確認したところ、いずれの正極活物質においても、異相は認められなかった。
【0212】
【0213】
【0214】
表1、表2に示すように、本発明の製造方法に基づく、噴霧/混合工程を行うフローα、β、又はγを採用した実施例1~15では、従来の製造方法に基づく、混合工程と噴霧工程とが別々のフローδ又はεを採用した比較例1~2よりも、処理合計時間が短く、生産効率よく正極活物質を製造することができた。
【0215】
噴霧/混合工程において加熱を行うフローβを採用した実施例2では、噴霧/混合工程において加熱を行わないフローαを採用した実施例1よりも、処理合計時間が短く、より生産効率よく正極活物質を製造することができた。また、噴霧/混合工程及び乾燥工程を減圧下でかつ加熱して行うフローγを採用した実施例3~4では、実施例2よりも、さらに生産効率よく正極活物質を製造することができた。
【0216】
フローγにおいて、被噴霧物が存在する噴霧/混合機内部の真空度を0kPa未満に設定した実施例3、8、及び9では、該噴霧/混合機内部の真空度を0kPaに設定した実施例10よりも、乾燥時間が短いことから処理合計時間が短く、さらに生産効率よく正極活物質を製造することができた。また、該真空度が高い実施例8、3、9の順に、より短い乾燥時間で処理することができた。
【0217】
ZrO2の懸濁液を噴霧用剤として用い、フローγを採用した実施例12でも、Li4WO5の水溶液やLi2WO4の水溶液を噴霧用剤として用い、フローγを採用した実施例3及び11と同等の優れた生産効率であった。
【0218】
噴霧用剤中の元素化合物の量を22wt%とした実施例13、及び34wt%とした実施例14においても、実施例3、12と同様に噴霧化合物の均一性に優れると共に、実施例1よりも処理合計時間がより短く、さらに生産効率のよい正極活物質の製造が可能であることが確認された。
【0219】
前駆体化合物の平均二次粒子径を3.0μmとした実施例15においても、前駆体化合物の平均二次粒子径が4.9μmである実施例3と同様に噴霧化合物の均一性に優れること、実施例1よりも処理合計時間がより短く、さらに生産効率のよい正極活物質の製造が可能であることが確認された。
【0220】
また、表1、表2に示すように、従来の製造方法に基づく、前駆体化合物及びリチウム化合物とW化合物とを混合するフローζを採用した比較例3では、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差が非常に大きく、噴霧化合物の均一性に劣るが、本発明の製造方法に基づく、W化合物やZr化合物を含む噴霧用剤を前駆体化合物とリチウム化合物との混合物に噴霧する噴霧/混合工程を行うフローα、β、又はγを採用した実施例1~15では、噴霧化合物/Me(mol%)の標準偏差が小さく、噴霧化合物の均一性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明の製造方法で製造される正極活物質は、非水電解質二次電池の電池特性に悪影響を与えるどころか、その向上を図ることができるので、非水電解質二次電池用正極活物質として好適である。