IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電工株式会社の特許一覧

特許7061734透明導電フィルム積層体及びその加工方法
<>
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図1
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図2
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図3
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図4
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図5
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図6
  • 特許-透明導電フィルム積層体及びその加工方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】透明導電フィルム積層体及びその加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20220421BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220421BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
B32B27/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021552394
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038615
(87)【国際公開番号】W WO2021075424
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019190881
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
(72)【発明者】
【氏名】米田 周平
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107503(JP,A)
【文献】特開2019-149012(JP,A)
【文献】特開2013-20120(JP,A)
【文献】特開2015-184410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
H01B 13/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電フィルムと、前記透明導電フィルムに積層されたキャリアフィルムと、を含む透明導電フィルム積層体であって、
前記キャリアフィルムが粘着剤層を有さないポリカーボネートフィルムであり、
前記透明導電フィルムが、透明樹脂フィルムの一方又は両方の主面に、金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序に積層されて構成され、
前記透明樹脂フィルムが、非晶性シクロオレフィン系樹脂からなり、
前記透明導電フィルム積層体は、前記オーバーコート層が最外層となるように、前記キャリアフィルムが前記透明導電フィルムに剥離可能に積層されていることを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序で、前記透明樹脂フィルムの一方の主面に積層されている、請求項1に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項3】
前記金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序で、前記透明樹脂フィルムの両方の主面にそれぞれ積層されている、請求項1に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項4】
前記キャリアフィルムの厚みTが、50~125μmである請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項5】
前記透明樹脂フィルムの厚みTが、5~150μmである請求項1~4のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項6】
前記透明導電層に含まれる金属ナノワイヤが、銀ナノワイヤである請求項1~5のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体を加熱加工する工程と、前記透明導電フィルム積層体の透明導電フィルムとキャリアフィルムとを剥離する工程と、を含む透明導電フィルム積層体の加工方法。
【請求項8】
前記加熱加工する工程が、オーバーコート層の上に導電ペーストにより形成した導電ペーストパターンを乾燥及び/又は熱硬化し導電パターンを形成する工程である、請求項7に記載の透明導電フィルム積層体の加工方法。
【請求項9】
前記透明樹脂フィルムに前記キャリアフィルムを剥離可能に積層する工程と、
前記透明樹脂フィルムの、前記キャリアフィルムが積層されている側とは反対側の主面上に前記透明導電層と前記オーバーコート層とを順次形成する工程と、
前記オーバーコート層に前記キャリアフィルムを剥離可能に積層する工程と、
前記透明樹脂フィルムに積層されたキャリアフィルムを剥離する工程と、
前記透明樹脂フィルムの、前記透明導電層が積層された主面とは反対側の主面に前記透明導電層と前記オーバーコート層とを順次形成する工程と、
を備える、請求項3に記載の透明導電フィルム積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電フィルム積層体及びその加工方法に関し、特に加熱工程中に発生するカールの抑制に有用な透明導電フィルム積層体及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電容量タイプのタッチパネルを構成する透明導電フィルムの基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが広く用いられている。しかし、PETフィルムは二軸延伸することにより製膜されることに伴い高い複屈折性を有するため、入射した直線偏光が通過する際に位相差を生じる。そのため、偏光板のもとで使用することは困難である。そこで、低位相差用基材フィルムとしてシクロオレフィン系樹脂を用いた透明導電フィルムが使用されている。
【0003】
また、近年、スマートフォンやカーナビゲーションシステム、自動販売機などにもタッチパネルが採用されている。特に、折り曲げ可能なスマートフォンが注目を集めていることから、タッチパネルにも折り曲げ可能なものが求められている。そのため、非常に薄い基材フィルムを用いた透明導電フィルムが望ましい。
【0004】
一般に、基材フィルム上に導電層や保護層(オーバーコート層)を形成して透明導電フィルムを作製する場合、搬送時の基材の傷つき防止のため、裏面にキャリアフィルムを貼り合わせ、積層体とする必要がある。
【0005】
特許文献1には、透明導電性フィルムの基板フィルムおよび表面保護フィルム(離型フィルム)が、ともにPETフィルムである積層体が開示されている。アモルファス透明導電性薄膜(ITO膜)を備えた透明導電性フィルムおよび保護フィルム(離型フィルム)の熱収縮率を調整してカールの低減を実現しているが、基板フィルムにシクロオレフィン系樹脂を用いることについては記載も示唆もされていない。
【0006】
特許文献2には、保護フィルムの少なくとも一方の面側に粘着剤層を有するキャリアフィルムと、前記粘着剤層を介して剥離可能に積層された、透明樹脂フィルムと透明導電膜を有する透明導電性フィルムと、を含み、前記透明樹脂フィルムは非晶性シクロオレフィン系樹脂からなり、前記保護フィルムは、前記透明樹脂フィルムとは異なる、130℃以上のガラス転移温度を有する非晶性樹脂で形成されている透明導電性フィルム積層体が開示されている。透明樹脂フィルムと保護フィルムのガラス転移温度および厚みを調整して加熱時のカールの低減を実現しているが、透明樹脂フィルムと自己粘着性を有する(別途粘着剤層を設ける必要がない)保護フィルムを用いることについては記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-251529号公報
【文献】特開2016-107503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
透明導電フィルムの基材フィルムとしてシクロオレフィン系樹脂フィルムを用い、保護フィルムとしてPETフィルムを用いた場合、両者の熱収縮率や線膨張係数等の違いから、加熱工程中や加熱・放冷後に透明導電フィルム積層体にカール(反り)が発生し易い。その結果、透明導電フィルム積層体を加工搬送する際に、反った透明導電フィルム積層体が乾燥炉の上部または下部に接触するなどの不具合が発生し、安定かつ連続して生産を行うことが困難となる。
【0009】
また、透明導電フィルム積層体を用いてタッチパネルを作製する工程では、銀ペースト等により配線部分をスクリーン印刷等で印刷し、印刷された銀ペーストを乾燥及び/又は熱硬化するために加熱する工程がある。この加熱中に透明導電フィルム積層体にカール(反り)が発生すると、銀ペーストが均一に焼成できなくなる恐れがある。また、パターン精度が不安定となり、タッチパネル製造の歩留まりが悪化する懸念もある。
【0010】
また、加熱後もカール(反り)が有ると、カバーガラスや他の電極フィルムへの貼り合わせの位置ずれが発生し、タッチパネルの製造が困難となる。
【0011】
前記特許文献1、特許文献2のいずれにおいても、課題として提示されているのは、加熱して放冷した後に残留しているカールであり、加熱中に生じるカールの抑制については言及されていない。
【0012】
前記特許文献1,2において保護フィルムと透明導電性フィルムの積層に用いられているアクリル系粘着剤は、加熱によって粘着強度が増大する。このため、特許文献1,2で開示されている保護フィルムを用いてタッチパネルを製造した場合、銀ペーストの熱乾燥及び/又は硬化後に粘着剤の粘着強度が過剰となり、保護フィルムが透明導電フィルムの基材フィルムから剥離できなくなる恐れがある。また、粘着層の一部が透明導電フィルムの基材側に付着したまま残留(糊残り)し、タッチパネルの製造が困難となる懸念もある。
【0013】
本発明の目的は、透明導電フィルムの基材に薄膜のシクロオレフィン系樹脂を用いた場合において、加熱工程中及び加熱工程後の透明導電フィルム積層体のカールを抑制し、その後の工程歩留まりを確保可能な透明導電フィルム積層体及びその加工方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の実施態様を含む。
【0015】
[1] 透明導電フィルムと、前記透明導電フィルムに積層されたキャリアフィルムと、を含む透明導電フィルム積層体であって、前記キャリアフィルムが粘着剤層を有さないポリカーボネートフィルムであり、前記透明導電フィルムが、透明樹脂フィルムの一方又は両方の主面に、金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序に積層されて構成され、前記透明樹脂フィルムが、非晶性シクロオレフィン系樹脂からなり、前記透明導電フィルム積層体は、前記オーバーコート層が最外層となるように、前記キャリアフィルムが前記透明導電フィルムに剥離可能に積層されていることを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【0016】
[2] 前記金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序で、前記透明樹脂フィルムの一方の主面に積層されている、[1]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0017】
[3] 前記金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、オーバーコート層と、がこの順序で、前記透明樹脂フィルムの両方の主面にそれぞれ積層されている、[1]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0018】
[4] 前記キャリアフィルムの厚みTが、50~125μmである[1]~[3]のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【0019】
[5] 前記透明樹脂フィルムの厚みTが、5~150μmである[1]~[4]のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【0020】
[6] 前記透明導電層に含まれる金属ナノワイヤが、銀ナノワイヤである[1]~[5]のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【0021】
[7] [1]~[6]のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体を加熱加工する工程と、前記透明導電フィルム積層体の透明導電フィルムとキャリアフィルムとを剥離する工程と、を含む透明導電フィルム積層体の加工方法。
【0022】
[8] 前記加熱加工する工程が、オーバーコート層の上に導電ペーストにより形成した導電ペーストパターンを乾燥及び/又は熱硬化し導電パターンを形成する工程である、[7]に記載の透明導電フィルム積層体の加工方法。
【0023】
[9] 前記透明樹脂フィルムに前記キャリアフィルムを剥離可能に積層する工程と、前記透明樹脂フィルムの、前記キャリアフィルムが積層されている側とは反対側の主面上に前記透明導電層と前記オーバーコート層とを順次形成する工程と、前記オーバーコート層に前記キャリアフィルムを剥離可能に積層する工程と、前記透明樹脂フィルムに積層されたキャリアフィルムを剥離する工程と、前記透明樹脂フィルムの、前記透明導電層が積層された主面とは反対側の主面に前記透明導電層と前記オーバーコート層とを順次形成する工程と、を備える、[3]に記載の透明導電フィルム積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、透明導電フィルムの基材に薄膜のシクロオレフィン系樹脂を用いた場合において、加熱工程中及び加熱工程後も透明導電フィルム積層体のカールを抑制し、その後の工程歩留まりを確保可能な透明導電フィルム積層体及びその加工方法を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第一の実施形態に係る透明導電フィルム積層体の模式的断面図である。
図2】本発明の第二の実施形態に係る透明導電フィルム積層体の模式的断面図である。
図3】第一の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の工程図である。
図4】第一の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の変形例の工程図である。
図5】第二の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の工程図である。
図6】第二の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の変形例の工程図である。
図7】実施例に係るカール値の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を図面に従って説明する。
【0027】
本発明の透明導電フィルム積層体は、透明導電フィルム10または20と、前記透明導電フィルム10または20に積層されたキャリアフィルム1と、を含む透明導電フィルム積層体である。上記キャリアフィルム1は、ポリカーボネートフィルムからなり、その主面に粘着剤層を備えていない。上記透明導電フィルム10は、透明樹脂フィルム2の一方の主面に金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層3と、オーバーコート層4と、がこの順序に積層されて構成され、上記透明導電フィルム20は、透明樹脂フィルム2の両方の主面に金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層3と、オーバーコート層4と、がこの順序に積層されて構成されている。上記透明樹脂フィルム2は、非晶性シクロオレフィン系樹脂からなる。上記透明導電フィルム積層体は、上記オーバーコート層(透明導電フィルム20のように2つのオーバーコート層を有する両面構成の場合は一方のオーバーコート層)4が最外層となるように、上記キャリアフィルム1が上記透明導電フィルム10または20に剥離可能に積層されている。図1、2には、実施形態に係る透明導電フィルム積層体の模式的断面図が示される。
【0028】
図1には、第一の実施形態に係る透明導電フィルム積層体の模式的断面図が示される。図1において、透明導電フィルム積層体は、透明導電フィルム10と、透明導電フィルム10に積層されたポリカーボネートフィルムからなるキャリアフィルム1と、を含み、上記透明導電フィルム10は、透明樹脂フィルム2の一方の主面に、金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層3と、オーバーコート層4と、がこの順序に積層されて構成されており、キャリアフィルム1は透明樹脂フィルム2の透明導電層3とは他方側の主面に剥離可能に積層されている。透明樹脂フィルム2と積層されるキャリアフィルム1の主面には粘着剤層を有さない。
【0029】
図2には、第二の実施形態に係る透明導電フィルム積層体の模式的断面図が示される。図2において、透明導電フィルム積層体は、透明導電フィルム20と、透明導電フィルム20に積層されたポリカーボネートフィルムからなるキャリアフィルム1と、を含み、上記透明導電フィルム20は、透明樹脂フィルム2の両方の主面に金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層3と、オーバーコート層4と、がこの順序にそれぞれ積層されて構成されており、キャリアフィルム1は、透明導電フィルム20の一方のオーバーコート層4の表面に剥離可能に積層されている。オーバーコート層4と積層されるキャリアフィルム1の主面には粘着剤層を有さない。
【0030】
<透明樹脂フィルム2>
透明樹脂フィルム2は、非晶性シクロオレフィン系樹脂により形成されており、高透明性及び低吸水性の特性を有する。透明樹脂フィルム2として非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルムを採用することにより、良好な光学特性を有する透明導電フィルムを備えた透明導電フィルム積層体が得られる。
【0031】
非晶性シクロオレフィン系樹脂は、ノルボルネン等のシクロオレフィンを50モル%以上含有する(共)重合体であり、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ARTON(登録商標、JSR株式会社製)等)やノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学株式会社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス株式会社製))を用いることができる。
【0032】
具体的には、ZEONOR ZF-14、ZF-16、ARTON RX4500、RH4900、R5000が挙げられる。本明細書において「透明」とは、全光線透過率が70%以上であることを意味する。
【0033】
透明樹脂フィルム2には、表面に予めプラズマ処理、コロナ処理などの処理を施して、透明樹脂フィルム2上に形成される透明導電層3等の密着性を向上させるようにしてもよい。また、透明導電層3を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、透明樹脂フィルム2の表面を除塵、清浄化してもよい。
【0034】
透明樹脂フィルム2の厚みTは、5~150μmの範囲内であることが好ましく、10~125μmの範囲内であることがより好ましく、13~100μmの範囲内であることがさらに好ましい。透明樹脂フィルム2の厚みTが上記範囲の上限値を超えると、長尺で作製した透明樹脂フィルムをロール状に巻き取る際にクラック等が発生しやすい。一方、厚みが上記範囲の下限値未満であると、平滑性と均一な厚みのフィルム作製が困難である。
【0035】
上記透明樹脂フィルム2の非晶性シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが130~170℃の範囲内が好ましい。これにより、乾燥等の加熱工程後におけるカールの発生量や向きが制御できるため、透明導電フィルム積層体の加工搬送が容易となる。
【0036】
<透明導電層3>
透明樹脂フィルム2上に形成される透明導電層3を構成する導電材料としては、金属ナノワイヤを好適に使用することができる。金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。なお、本実施形態では、金属ナノワイヤと混合して、または金属ナノワイヤに代えて、ポーラスあるいはノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、以下、本願明細書において、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブとを包括する意味で用いる。狭義の金属ナノワイヤ、狭義の金属ナノチューブは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0037】
本明細書において「透明導電層」とは、上記金属ナノワイヤと後述のバインダー樹脂を含む薄膜状の層であり、厚みが必ずしも均一であるものに限定されない。厚みは20~200nmの範囲であることが好ましい。
【0038】
金属ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリ-N-ビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリ-N-ビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤおよび金ナノワイヤの大規模な合成および精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細な記述がある。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。ここで、鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブができる(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892-3901参照)。
【0039】
金属ナノワイヤの径の太さの平均(平均直径)は、1~500nmが好ましく、5~200nmがより好ましく、5~100nmがさらに好ましく、10~50nmが特に好ましい。また、金属ナノワイヤの長軸の長さの平均(平均長さ)は、1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、2~70μmがさらに好ましく、5~50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の太さの平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤの平均直径をb、長軸の平均長さをaとした場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、b(平均直径)は電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの直径を測定し、その算術平均値として求めることができる。また、a(平均長さ)の算出には、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの長さを測定し、その算術平均値として求めることができる。
【0040】
このような金属ナノワイヤの材料としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種及びこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低い表面抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀及び銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定の表面抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。これらの金属の中でも、金または銀の少なくとも1種を含むことがより好ましい。最適な態様としては、銀のナノワイヤが挙げられる。
【0041】
透明導電層3は、金属ナノワイヤ以外にバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂としては、透明性を有するものであれば制限なく適用できるが、導電材料としてポリオール法を用いた金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコールまたは水に可溶なバインダー樹脂を使用することが好ましい。具体的には、ポリ-N-ビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースといった水溶性セルロース系樹脂、ブチラール樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))を用いることができる。上記樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。ポリ-N-ビニルアセトアミドは、N-ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーであるが、N-ビニルアセトアミド(NVA)が70モル%以上である共重合体を使用することもできる。NVAと共重合できるモノマーとしては、例えばN-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電パターンのシート抵抗が高くなり、銀ナノワイヤ(金属ナノワイヤ)と基材フィルムとの密着性が低下する傾向があり、また、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるので、N-ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。N-ビニルアセトアミドをモノマー単位として含む重合体(ホモポリマーおよび共重合体)は絶対分子量による重量平均分子量が3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることがさらに好ましい。絶対分子量による重量平均分子量は以下の方法により測定したものである。
【0042】
<分子量測定>
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置した。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出した。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaHPO水溶液+0.1mol/L NaHPO水溶液
流速:0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0043】
上記透明導電層3は、上記金属ナノワイヤ、バインダー樹脂および溶媒を含む導電性インク(金属ナノワイヤインク)を塗布液として透明樹脂フィルム2の一方の主面上に印刷し、溶媒を乾燥除去することによって形成する。
【0044】
溶媒としては、金属ナノワイヤが良好な分散性を示し、かつバインダー樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定されないが、導電材料としてポリオール法で合成した金属ナノワイヤを用いる場合には、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒が好ましい。前述の通りバインダー樹脂もアルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を用いることが好ましい。バインダー樹脂の乾燥速度を容易に制御する事が出来る点でアルコールと水との混合溶媒を用いることがより好ましい。アルコールとしては、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノールおよびイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール」と表記]を少なくとも1種含む。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことが好ましい。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを用いると乾燥が容易となるため工程上都合が良い。
【0045】
アルコールとして、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することもできる。併用できる炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらを上記C2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用する事で乾燥速度を調整する事が出来る。また、混合溶媒における全アルコールの含有率は、5~90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であるとコーテイングした際に縞模様(塗布斑)が発生し不適切となることがある。
【0046】
上記導電性インクは、上記金属ナノワイヤ、バインダー樹脂および溶媒を自転公転攪拌機等で攪拌して混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される金属ナノワイヤの含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0から99.98質量%の範囲であることが好ましい。上記組成とすることにより1~50mPa・sの粘度の導電性インクが得られ、これを透明樹脂フィルム2の主面上に印刷し、溶媒を乾燥除去することによって膜厚20~200nmの透明導電層3が得られる。導電性インクのより好ましい粘度は1~20mPa・sであり、さらに好ましい粘度は1~10mPa・sである。粘度は25℃でブルックフィールド社製デジタル粘度計DV-E(スピンドル:SC4-18)により測定した値である。
【0047】
透明導電フィルム10の製造方法(導電性インクの印刷方法)には、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法などの印刷法が適用できる。その中でバーコート印刷法は低粘度のインクの塗布性が良好で、且つ、薄膜の形成に優れている。また、インクジェット法と異なり、バーコート印刷法は金属粒子などの無機粒子等を含有した低粘度インクも目詰まりなく印刷できる。
【0048】
<オーバーコート層4>
透明導電層3を保護するオーバーコート層4は、硬化性樹脂組成物の硬化膜であることが好ましい。硬化性樹脂組成物としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒と、を含むものが好ましい。硬化性樹脂組成物を上記透明導電層3上に印刷、塗布等により形成し、硬化させてオーバーコート層4を形成する。硬化性樹脂組成物の硬化は、熱硬化性樹脂組成物を加熱・乾燥させることにより行うことができる。
【0049】
上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、その重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、2,000~70,000であることがより好ましく、3,000~50,000であると更に好ましい。ここで、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリスチレン換算の値である。分子量が1,000未満では、印刷後の塗膜の伸度、可撓性、並びに強度を損なうことがあり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなることがある。
【0050】
本明細書においては、特に断りのない限り、GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:ShodexカラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル-プ 100μL
試料濃度:約0.1質量%に調製
【0051】
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~140mg-KOH/gであることが好ましく、15~130mg-KOH/gであると更に好ましい。酸価が10mg-KOH/g以上であれば、硬化性、耐溶剤性とも良好である。140mg-KOH/g以下であるとポリウレタンとしての溶媒への溶解性が良好であり、所望の粘度に調整し易い。また、硬化物が硬くなりすぎることによる基材フィルムの反り等の問題を起こし難くなる。
【0052】
また、本明細書において、樹脂の酸価は以下の方法により測定した値である。
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを、中和の終点とする。その結果から下記の計算式を用いて得た値を、樹脂の酸価とする。
酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(ml)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0053】
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐候性・耐光性の観点では(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0054】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0055】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエ-テルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
脂環式ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-または1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
ここで、(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、実施の形態に係るポリウレタン樹脂から形成される保護膜は、特に高温高湿時の信頼性に高く、電子機器部品の部材に向いている。上記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)が好ましい。
【0058】
耐候性・耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。ただし、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートは、(a1)ポリイソシアネート化合物の中に、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、50mol%以下、好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下含まれていてもよい。
【0059】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。この分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0060】
(a2)ポリオール化合物は、両末端にヒドロキシ基を有するジオールが好ましい。たとえば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ-テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、および植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸およびその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18~72であるポリオール化合物である。これらの中でも保護膜としての耐水性、絶縁信頼性、基材との密着性のバランスを考慮するとポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0061】
上記ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3~18のジオールを原料として、炭酸エステルまたはホスゲンと反応させることにより得ることができ、たとえば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0062】
式(1)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルキレン基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。
【0063】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコールまたは1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造できる。
【0064】
上記ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。また、溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0065】
上記ポリエ-テルポリオールは、炭素原子数2~12のジオールを脱水縮合、または炭素原子数2~12のオキシラン化合物、オキセタン化合物、もしくはテトラヒドロフラン化合物を開環重合して得られたものであり、たとえば以下の構造式(2)で表される。
【化2】
【0066】
式(2)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数2~12のアルキレン基であり、nは正の整数、好ましくは4~50である。上記炭素原子数2~12のジオールは一種を単独で用いて単独重合体とすることもできるし、2種以上を併用することにより共重合体とすることもできる。
【0067】
上記式(2)で表されるポリエ-テルポリオールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ-1,2-ブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(ポリ1,4-ブタンジオール)、ポリ-3-メチルテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。また、ポリエ-テルポリオールの疎水性を向上させる目的で、これらの共重合体、たとえば1,4-ブタンジオールとネオペンチルグリコールとの共重合体等も用いることができる。
【0068】
上記ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸及びジオールを脱水縮合またはジカルボン酸の低級アルコールのエステル化物とジオールとのエステル交換反応をして得られるものであり、たとえば以下の構造式(3)で表される。
【化3】
【0069】
式(3)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であって、炭素原子数2~10のアルキレン基または有機基であり、Rは対応するジカルボン酸(HOCO-R-COOH)から2つのカルボキシ基を除いた残基であって炭素原子数2~12のアルキレン基または有機基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。
【0070】
上記ジオール(HO-R-OH)としては、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコールまたは1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0071】
また、上記ジカルボン酸(HOCO-R-COOH)としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ブラシル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、が挙げられる。
【0072】
上記ポリラクトンポリオールは、ラクトンの開環重合物とジオールとの縮合反応、またはジオールとヒドロキシアルカン酸との縮合反応により得られるものであり、たとえば以下の構造式(4)で表される。
【化4】
【0073】
式(4)において、Rは対応するヒドロキシアルカン酸(HO-R-COOH)から水酸基およびカルボキシ基を除いた残基であって炭素原子数4~8のアルキレン基であり、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数2~10のアルキレン基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。
【0074】
上記ヒドロキシアルカン酸(HO-R-COOH)としては、具体的には、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシペンタン酸、5-ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、ε―カプロラクトンが挙げられる。
【0075】
上記両末端水酸基化ポリシリコーンは、たとえば以下の構造式(5)で表される。
【化5】
【0076】
式(5)において、Rは独立に炭素原子数2~50の脂肪族炭化水素二価残基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。Rはエ-テル基を含んでいてもよい。また、複数個あるR10は、それぞれ独立に、炭素原子数1~12の脂肪族炭化水素基である。
【0077】
また、上記両末端水酸基化ポリシリコーンの市販品としては、たとえば信越化学工業株式会社製「X-22-160AS、KF6001、KF6002、KF-6003」などが挙げられる。
【0078】
また、上記「植物系油脂を原料とするC18不飽和脂肪酸およびその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18~72であるポリオール化合物」としては、具体的にはダイマー酸を水素化した骨格を有するジオール化合物が挙げられ、その市販品としては、たとえば、コグニス社製「Sovermol(登録商標)908」などが挙げられる。
【0079】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、(a2)ポリオール化合物として通常ポリエステルやポリカーボネートを合成する際のジオール成分として用いられる分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、またはジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0080】
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、炭素数が1または2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する分子量が200以下のカルボン酸またはアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。具体的には2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン等が挙げられ、この中でも、溶媒への溶解度から、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸が特に好ましい。これらの(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
前述の(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、上記の3成分((a1)、(a2)および(a3))のみから合成が可能である。なお、さらに(a4)モノヒドロキシ化合物および/または(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐候性・耐光性の観点から分子内に芳香環や炭素-炭素二重結合を含まない化合物を用いることが好ましい。
【0082】
(a4)モノヒドロキシ化合物
(a4)モノヒドロキシ化合物として、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸等カルボン酸を有する化合物が挙げられる。
【0083】
(a4)モノヒドロキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
この他、(a4)モノヒドロキシ化合物として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。
【0085】
(a5)モノイソシアネート化合物
(a5)モノイソシアネート化合物としては、ヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート等が挙げられる。
【0086】
上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下または非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成ができるが、無触媒で反応させた方が、最終的にスズ等の混入を考慮する必要がなく好適である。
【0087】
上記有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されないがアミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ-テル、エチレングリコールジエチルエ-テル、エチレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0088】
なお、生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、および電子材料用途においてポリウレタンをオーバーコート層4用の硬化性樹脂組成物の原料にすることを考えると、これらの中でも、特に、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、γ-ブチロラクトン等が好ましい。
【0089】
原料の仕込みを行う順番については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に仕込み、溶媒に溶解または分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
【0090】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量および酸価に応じて調節するが、ポリウレタンに(a4)モノヒドロキシ化合物を導入する場合には、ポリウレタン分子の末端がイソシアナト基になるように、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物よりも(a1)ポリイソシアネート化合物を過剰に(水酸基の合計よりもイソシアナト基が過剰になるように)用いる必要がある。ポリウレタンに(a5)モノイソシアネート化合物を導入する場合には、ポリウレタン分子の末端がヒドロキシ基になるように、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物よりも(a1)ポリイソシアネート化合物を少なく(水酸基の合計よりもイソシアナト基が少なくなるように)用いる必要がある。
【0091】
具体的には、これらの仕込みモル比は、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)が、0.5~1.5:1、好ましくは0.8~1.2:1より好ましくは0.95~1.05:1である。
【0092】
また、(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基が、1:0.1~30、好ましくは1:0.3~10である。
【0093】
(a4)モノヒドロキシ化合物を用いる場合には、((a2)ポリオール化合物+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物)のモル数よりも(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数を過剰とし、(a4)モノヒドロキシ化合物を、イソシアナト基の過剰モル数に対して、0.5~1.5倍モル量、好ましくは0.8~1.2倍モル量で用いることが好ましい。
【0094】
(a5)モノイソシアネート化合物を用いる場合には、(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数よりも((a2)ポリオール化合物+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物)のモル数を過剰とし、(a5)モノイソシアネート化合物を、水酸基の過剰モル数に対して、0.5~1.5倍モル量、好ましくは0.8~1.2倍モル量で用いることが好ましい。
【0095】
(a4)モノヒドロキシ化合物を(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンに導入するためには、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの両末端に残存しているイソシアナト基と(a4)モノヒドロキシ化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a4)モノヒドロキシ化合物を20~150℃、より好ましくは70~120℃で滴下し、その後、同温度で保持して反応を完結させる。
【0096】
(a5)モノイソシアネート化合物を(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンに導入するためには、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの両末端に残存している水酸基と(a5)モノイソシアネート化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a5)モノイソシアネート化合物を20~150℃、より好ましくは50~120℃で滴下し、その後同温度で保持して反応を完結させる。
【0097】
上記(B)エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を挙げることができる。
【0098】
特に、一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物がより好適に使用できる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER(登録商標)604(三菱化学株式会社製)、EPICLON(登録商標)EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON(登録商標)HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、TEPIC(登録商標)-S(日産化学株式会社製)などが挙げられる。
【0099】
上記(B)エポキシ化合物としては、分子内に芳香環を有していても良く、その場合、上記(A)と(B)の合計質量に対して(B)の質量は20質量%以下が好ましい。
【0100】
上記(B)エポキシ化合物に対する(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの配合割合は、(B)エポキシ化合物のエポキシ基に対するポリウレタン中のカルボキシ基の当量比で0.5~1.5であることが好ましく、0.7~1.3であることがより好ましく、0.9~1.1であることがさらに好ましい。
【0101】
上記(C)硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、Irgacure(登録商標)184等が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると電気絶縁性が低下するので、(A)と(B)の合計100質量部に対して0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部、特に好ましくは0.5~3質量部使用される。
【0102】
また、硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、多官能チオール化合物やオキセタン化合物などが挙げられる。多官能チオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)などが挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亞合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産株式会社製)が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると硬化速度が速くなり過ぎ、ハンドリング性が低下するので、(B)の質量に対して0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量%使用される。
【0103】
上記硬化性樹脂組成物には(D)溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。(D)溶媒としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、ポリウレタンの溶解性や印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後に反応溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。ただし、操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。硬化性樹脂組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、ムラが出来やすい。沸点が300℃より高いと、乾燥、硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するために、工業的な生産には向かなくなる。
【0104】
このような溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒や、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒、メチルエチルケトン(沸点80℃)、酢酸エチル(沸点77℃)を用いることができる。これらの溶媒は、1種単独でもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合には、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮し、凝集や沈殿などが起きない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒や、インクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。
【0105】
上記硬化性樹脂組成物は、上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒とを、(D)溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように配合し、均一になるように攪拌して製造することができる。
【0106】
このような硬化性樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.5質量%~3.0質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~5.0質量%の範囲であると、透明導電膜上に塗布した場合に膜厚が厚くなり過ぎることによる銀ペースト等からの電気的なコンタクトがとれない不具合が発生せず、かつ十分な耐候性・耐光性を有する膜厚が50~500nmの保護膜が得られる。
【0107】
なお、耐候性・耐光性の観点から、オーバーコート層4(硬化性樹脂組成物中の固形分である(A)カルボキシ基を含有するポリウレタン、(B)エポキシ化合物および、(C)硬化促進剤における硬化残基)中に含有する下式で定義される芳香環含有化合物の割合は15質量%以下に抑えることが好ましい。ここでいう「(C)硬化促進剤における硬化残基」とは、硬化条件により(C)硬化促進剤の全てまたは一部が消失(分解、揮発など)するものがあるので、硬化条件でオーバーコート層4中に残留する(C)硬化促進剤を意味する。ただし、厳密な残留量の定量が困難である場合には、配合量が少量であることから、(C)硬化促進剤が芳香環含有化合物である場合、下式において「(C)硬化促進剤における硬化残基」量を、配合した(C)硬化促進剤量で代用しても差し支えない。また、(C)硬化促進剤が芳香環含有化合物でない場合、下式において、「+(C)硬化促進剤における硬化残基」を無視した算出値が15質量%以下であることがより好ましい。なお、「芳香環含有化合物」とは、分子内に芳香環を少なくとも1つ有する化合物を意味する。
[(芳香環含有化合物使用量)/(オーバーコート層4の質量((A)カルボキシ基を含有するポリウレタン質量+(B)エポキシ化合物質量+(C)硬化促進剤における硬化残基)]×100(%)
【0108】
以上に述べた硬化性樹脂組成物を使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法などの印刷法により、透明導電層3が形成された透明樹脂フィルム2上に硬化性樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥、除去後に、必要に応じて加熱処理、光照射を行うことにより硬化性樹脂を硬化してオーバーコート層4を形成する。
【0109】
<キャリアフィルム1>
本実施形態においてキャリアフィルム1を形成する材料としては、優れた光透過性、耐傷性、耐水性を持ち、良好な機械的性質の観点から、ポリカーボネートフィルムを用いる。ポリカーボネートとしては、例えば、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネート、脂肪族―芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。具体的には、例えば、ビスフェノールAポリカーボネート、分岐ビスフェノールAポリカーボネート、コポリカーボネート、ブロックコポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリホスホネートカーボネートなどが挙げられる。ポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノールAポリカーボネートブレンド、ポリエステルブレンド、ABSブレンド、ポリオレフィンブレンド、スチレンー無水マレイン酸共重合体ブレンドのような他成分とブレンドしたものも含まれる。ポリカーボネート樹脂の市販品としては恵和株式会社製「オプコン(登録商標)」、帝人株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。キャリアフィルム1の厚みTは、50~125μmの範囲であることが好ましい。この範囲であると、ハンドリングがし易い。キャリアフィルム1のより好ましい厚みは55~120μmであり、60~115μmであるとさらに好ましい。
【0110】
透明樹脂フィルム(非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルム)2と積層されるキャリアフィルム(ポリカーボネートフィルム)1の一方の主面には粘着剤層を有さない。非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルムが表面の平滑性に優れるため、粘着剤層を介することなくキャリアフィルム(ポリカーボネートフィルム)1と密着する。また、粘着剤層を介さないため、透明樹脂フィルム(非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルム)2の表面に粘着剤層が残存するような不具合を生じることなく剥離することができる。
【0111】
透明樹脂フィルム2と積層されるキャリアフィルム(ポリカーボネートフィルム)1の一方の主面とは反対の主面は、表面粗化処理(マット処理)されているものを用いることが好ましい。透明樹脂フィルム(非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルム)2と積層されるキャリアフィルム(ポリカーボネートフィルム)1の一方の主面とは反対の主面が粗化されていることにより、ロール状に巻き取る際に透明樹脂フィルム(非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルム)2とキャリアフィルム(ポリカーボネートフィルム)1との密着(ブロッキング)が抑制されるとともに、ロール搬送する際に巻き取られたフィルムのずれ等の発生を防止できる。
【0112】
<透明導電フィルム積層体>
透明導電フィルム積層体は、透明導電フィルム10または20と、その少なくとも一方の主面にて剥離可能に積層されたキャリアフィルム1と、を含む。
【0113】
透明導電フィルム積層体は、透明導電フィルム10または20と、透明導電フィルム10または20に積層されたキャリアフィルム1と、を含む透明導電フィルム積層体であって、キャリアフィルム1は、ポリカーボネートフィルムからなり、その主面に粘着剤層を備えていない。透明導電フィルム10では、透明樹脂フィルム2の一方の主面に、透明導電フィルム20では、透明樹脂フィルム2の両方の主面に、金属ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層3と、オーバーコート層4と、がこの順序に積層されて構成されており、キャリアフィルム1は、透明導電フィルム10では、透明導電フィルム10の透明樹脂フィルム2に、また、透明導電フィルム20では、透明導電フィルム20の一方のオーバーコート層4に、剥離可能に積層されている。
【0114】
前述の構成である透明導電フィルム積層体を15cm×21cmの大きさにカットし、100℃で30分間加熱した直後のカール値は0~25mmであり、30分放冷後のカール値は0~10mmであることが好ましい。これにより、乾燥等の加熱工程後におけるカールの発生量や向きが制御できるため、透明導電フィルム積層体の搬送が容易となる。
【0115】
<透明導電フィルム積層体の製造方法及び加工方法>
第一の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法は、透明樹脂フィルム2の一方の主面に透明導電層3とオーバーコート層4とがこの順序で積層された透明導電フィルム10を準備する工程と、上記透明導電フィルム10を構成する透明樹脂フィルム2の透明導電層3が積層されている側とは反対(他方)側の主面にキャリアフィルム1を積層する工程と、を含む。
【0116】
第二の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法は、透明樹脂フィルム2の両方の主面に透明導電層3とオーバーコート層4とがこの順序で積層された透明導電フィルム20を準備する工程と、上記透明導電フィルム20の一方の主面(オーバーコート層4)にキャリアフィルム1を積層する工程と、を含む。
【0117】
また、本実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の加工方法は、上記透明導電フィルム積層体を加熱加工する工程と、透明導電フィルム積層体の透明導電フィルム10または20とキャリアフィルム1とを剥離する工程と、を含む。加熱加工する工程としては、銀ペースト等の導電ペーストにより透明導電フィルム10または20のオーバーコート層4の上に、透明導電フィルム10を構成する透明導電層3と電気的に接続されるように印刷した導電ペーストパターン(配線、電極等のパターン)を乾燥及び/又は熱硬化し導電パターン(配線、電極等)を形成する工程等が挙げられる。
【0118】
図3(a)~(d)には、第一の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の工程図が示され、図4(a)~(d)には、第一の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の変形例の工程図が示される。
【0119】
透明導電フィルム10を準備する工程は、図3(a)~(c)に示されるように、透明樹脂フィルム2の一方の主面上に、透明導電層3を形成し(図3(a)、(b))、次いで透明導電層3上にオーバーコート層4を形成する(図3(c))工程である。次に、図3(d)に示されるように、透明導電フィルム10の透明導電層3が積層されている側とは反対(他方)側の主面にキャリアフィルム1を剥離可能に積層する工程が実施され、透明導電フィルム積層体が製造される。
【0120】
また、透明導電フィルム積層体は、図4(a)~(d)に示される変形例のように、透明樹脂フィルム2の一方の主面上にキャリアフィルム1が剥離可能に積層された透明樹脂積層体を形成し(図4(a)、(b))、透明樹脂フィルム2のキャリアフィルム1が積層された主面とは反対(他方)側の主面に透明導電層3を形成し(図4(c))、次いで透明導電層3上にオーバーコート層4を形成する(図4(d))工程でも製造できる。
【0121】
図5(a)~(g)には、第二の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の工程図が示され、図6(a)~(i)には、第二の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法の変形例の工程図が示される。
【0122】
透明導電フィルム20を準備する工程は、図5(a)~(f)に示されるように、透明樹脂フィルム2の一方の主面上に透明導電層3とオーバーコート層4を順次形成し(図5(a)~(c))、続いて、透明樹脂フィルム2のもう一方(他方)の主面上に透明導電層3とオーバーコート層4を順次形成する(図5(d)~(f))工程である。次に、図5(g)に示されるように、透明導電フィルム20の一方のオーバーコート層4の表面にキャリアフィルム1を剥離可能に積層する工程が実施され、透明導電フィルム積層体が製造される。
【0123】
また、透明導電フィルム積層体は、図6(a)~(i)に示される変形例のように、キャリアフィルム1が剥離可能に積層された透明樹脂フィルム2の、上記キャリアフィルム1が積層されている側とは反対(他方)側の主面上に透明導電層3とオーバーコート層4を順次形成した(図6(a)~(d))のち、オーバーコート層4にキャリアフィルム1を剥離可能に積層し(図6(e))、次に透明樹脂フィルム2に積層されたキャリアフィルム1を剥離し(図6(f)、(g))、透明樹脂フィルム2の、透明導電層3が積層された主面とは反対(他方)側の主面に透明導電層3、オーバーコート層4を順次形成する(図6(h)、(i))工程でも製造できる。
【0124】
また、上記導電パターンは、例えば、透明導電層3がエッチング等によりパターン化された後に、上記導電ペーストを上記パターン化された透明導電層3上のオーバーコート層4上にスクリーン印刷等で印刷した導電ペーストパターン(配線、電極等のパターン)を乾燥及び/又は熱硬化して得ることができる。銀ナノワイヤを用いた透明導電パターン(パターン化された透明導電層3)と導電ペーストパターンとを電気的に接続するためには、銀ナノワイヤの一部(ワイヤの端点や、ワイヤ同士が交差し高さ方向に盛り上がっている部分)がオーバーコート層表面から露出している必要があり、露出している箇所が多いほど、銀ナノワイヤを用いた透明導電パターンと導電ペーストパターンとの電気的接続が容易となる。銀ナノワイヤの形状(径・長さ)や、基材上に塗布されている銀ナノワイヤの本数によっても影響を受けるため一概には言えないが、オーバーコート層の厚みが500nm以下と薄い場合、電気的接続を取るために十分な数の露出箇所が存在する。オーバーコート層の厚みは30nm超300nm以下であることが好ましく、50nm超250nm以下であることがより好ましく、100nm超200nm以下であることがさらに好ましい。厚みが300nm以下であると後工程での上記電気的接続が容易となる。厚みが30nm超であると、金属ナノワイヤ層を保護する効果が十分発揮される。オーバーコート層の厚みが500nmを超え銀ナノワイヤの露出箇所が少なく、電気的接続を取ることが困難な場合、オーバーコート層を公知のエッチング技術を用いて除去し銀ナノワイヤを露出させることができる。
【0125】
導電ペーストパターンを乾燥及び/熱硬化する工程での加熱温度は100℃以下の温度で行うことが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。
【0126】
透明導電層3のパターン化後に導電ペーストを用いて導電パターンを形成するには、透明導電パターンへの導電ペーストパターン印刷の位置合わせ等が必要であるため、枚葉方式で行うことが好ましい。その際、透明導電フィルム10及び透明導電フィルム積層体を位置合わせの為に吸着板等に固定する工程が必要であるが、上記温度範囲で焼成してもカールの量や向きを制御する事が出来る為、吸着板等に固定する工程での不具合発生を抑制する事が可能となる。
【実施例
【0127】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0128】
実施例1
<透明樹脂フィルム2の一方の主面に透明導電層3を有する透明導電フィルム10の作製>
<銀ナノワイヤの作製>
ポリ-N-ビニルピロリドンK-90(株式会社日本触媒製)(0.98g)、AgNO(1.04g)及びFeCl(0.8mg)を、エチレングリコール(250ml)に溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた銀ナノワイヤ粗分散液をメタノール2000mlに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施し不純物を除去した後、全体量が100gになるまで濃縮し、銀ナノワイヤ(平均直径:26nm、平均長さ:20μm)のメタノール分散液を得た。得られた銀ナノワイヤの平均径の算出には、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの直径を測定し、その算術平均値を求めた。また、得られた銀ナノワイヤの平均長の算出には、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの長さを測定し、その算術平均値を求めた。また、上記メタノール、エチレングリコール、AgNO、FeClは富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0129】
<銀ナノワイヤインクの作製>
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤのメタノール分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.62質量%)、水3.5g、エタノール10.8g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フイルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、固形分濃度10質量%、重量平均分子量90万)0.7gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して導電性インクとしての銀ナノワイヤインク40gを作製した。
【0130】
得られた銀ナノワイヤインクの銀濃度は、バリアン社製AA280Zゼーマン原子吸光分光光度計により測定した。その結果0.17質量%であった。
【0131】
<透明導電層(銀ナノワイヤ層)3の形成>
プラズマ処理装置(積水化学工業株式会社製AP-T03)を用いてプラズマ処理(使用ガス:窒素、搬送速度:50mm/sec、処理時間:6sec、設定電圧:400V)した、透明樹脂フィルム2としてのA4サイズのシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-013(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが13μm)上に、TQC自動フィルムアプリケータースタンダード(コーテック株式会社製)とワイヤレスバーOSP-CN-22L(コーテック株式会社製、バー形状/P(溝のピッチ):500μm、H(溝の深さ):42m、材質:SUS304)とを用いて銀ナノワイヤインクを全面に塗布した(塗工速度500mm/sec)。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、1分間、大気雰囲気下で熱風乾燥し、透明導電層3としての厚み90nmの銀ナノワイヤ層を形成した。
【0132】
<オーバーコート樹脂の作製>
攪拌装置、温度計、コンデンサーを備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)42.32g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(湖州長盛化工製)27.32g、および溶媒としてジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(株式会社ダイセル製)158gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0133】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)59.69gを30分かけて滴下した。滴下終了後、120℃に昇温し、120℃で6時間反応を行い、イソシアナト基が殆ど消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に120℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシ基含有ポリウレタン(オーバーコート樹脂)のGPCにより求められた重量平均分子量は32300、その樹脂溶液の酸価は35.8mgKOH/gであった。
【0134】
<オーバーコートインクの作製>
上記得られた(A)カルボキシ基含有ポリウレタンの溶液(カルボキシ基含有ポリウレタン含有率:45質量%)10.0gをポリ容器に量り取り、(D)溶媒として1-ヘキサノール85.3gと酢酸エチル85.2gを加え、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で12時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)した。均一であることを目視で確認したのち、(B)エポキシ化合物としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.63g、(C)硬化促進剤として、U-CAT5003(サンアプロ株式会社製)0.31gを加え、再度ミックスローターを用いて1時間撹拌し、オーバーコートインクを得た。オーバーコートインクの固形分中の芳香環含有化合物である硬化促進剤の割合は5.7質量%である。
【0135】
<オーバーコート層4の形成>
透明樹脂フィルム2上に形成した透明導電層(銀ナノワイヤ層)3の上に、TQC自動フィルムアプリケータースタンダード(コーテック株式会社製)により、以下のようにオーバーコートインクを塗布した(塗工速度500mm/sec)。ワイヤレスバーOSP-CN-05Mを用いてウェット膜厚が5μmになるように塗布した。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、1分間、大気雰囲気下で熱風乾燥及び熱硬化し、オーバーコート層4(90nm)を形成した。
【0136】
<透明樹脂フィルム2の一方の主面に透明導電層(銀ナノワイヤ層)3を有する透明導電フィルム積層体の形成>
透明導電フィルム10を構成する透明樹脂フィルム2の銀ナノワイヤ層が形成されていない面に、キャリアフィルム1としてA4サイズのポリカーボネートフィルム(恵和株式会社製、PC#75KM65、ガラス転移温度147℃[カタログ値]、厚みTが75μm、一方の主面にマット加工を施したもの)のマット加工処理されていない主面を圧着、積層し、透明導電フィルム積層体を形成した。
【0137】
実施例2
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムRX4500(ARTON(登録商標)、JSR株式会社製、ガラス転移温度132℃[カタログ値]、厚みTが15μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0138】
実施例3
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-023(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが23μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0139】
実施例4
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-050(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが50μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0140】
実施例5
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-100(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが100μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0141】
実施例6
キャリアフィルム1にポリカーボネートフィルム(恵和株式会社製、HRPC#100KM40、ガラス転移温度175℃[カタログ値]、厚みTが100μm、接着面の裏面にマット加工を施したもの)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0142】
実施例7
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムRX4500(ARTON(登録商標)、JSR株式会社製、ガラス転移温度132℃[カタログ値]、厚みTが15μm)を用いた以外は実施例6と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0143】
実施例8
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-023(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが23μm)を用いた以外は実施例6と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0144】
実施例9
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-050(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが50μm)を用いた以外は実施例6と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0145】
実施例10
透明導電フィルム10の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-100(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが100μm)を用いた以外は実施例6と同条件で検討した。その結果を表1に示す。
【0146】
<透明樹脂フィルム2の両方の主面に透明導電層(銀ナノワイヤ層)3を有する透明導電フィルム20の作製>
実施例11
透明樹脂フィルム2としてのシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-013の一方の主面(第一面)に、実施例1と同条件で透明導電層(銀ナノワイヤ層)3とオーバーコート層4を作製した。続いて、透明導電層3が形成されていないもう一方の主面(第二面)に、実施例1と同条件で透明導電層(銀ナノワイヤ層)3とオーバーコート層4を形成し、透明樹脂フィルム2の両方の主面に透明導電層(銀ナノワイヤ層)4を有する透明導電フィルム20を得た。
【0147】
<透明樹脂フィルム2の両方の主面に透明導電層(銀ナノワイヤ層)3を有する透明導電フィルム積層体の作製>
透明導電フィルム20の第一面のオーバーコート層4に、キャリアフィルム1のマット加工されていない主面を圧着、積層し、透明導電フィルム積層体を形成した。その結果を表1に示す。
【0148】
実施例12
透明導電フィルム20の作製に、透明樹脂フィルム2としてシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-100(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚みTが100μm)を用いた以外は実施例11と同条件で検討した。その結果を表1に記す。
【0149】
比較例1
キャリアフィルム1として粘着剤層付きポリカーボネートフィルム(恵和株式会社製、PC#75KM65/H915、ガラス転移温度147℃[カタログ値]、厚みTが75μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。粘着剤層を介して貼りあわせた。その結果を表1に示す。
【0150】
比較例2
キャリアフィルム1として粘着剤層付きポリカーボネートフィルム(恵和株式会社製、HRPC#100KM40/H915、ガラス転移温度175℃[カタログ値]、厚みTが100μm)を用いた以外は実施例1と同条件で検討した。粘着剤層を介して貼りあわせた。その結果を表1に示す。
比較例3
キャリアフィルム1として粘着剤層付きポリカーボネートフィルム(恵和株式会社製、PC#75KM65/H915、ガラス転移温度147℃[カタログ値]、厚みTが75μm)を用いた以外は実施例11と同条件で検討した。粘着剤層を介して貼りあわせた。その結果を表1に示す。
【0151】
<評価>
(1)厚みの測定
厚みは1μm以上の厚みを有するものに関してはマイクロゲージ式厚み計にて測定を行った。また1μm未満の金属ナノワイヤを含む透明導電層3およびオーバーコート層4の厚みは光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。
【0152】
(2)カール値の測定
実施例及び比較例で得られたA4サイズの透明導電フィルム積層体を長手方向の略中央で裁断して15cm(元のA4サイズの長手方向)×21cm(A4サイズの短手方向)のA5サイズの試験片を作製した。この試験片を、前面扉にガラス窓のついた乾燥機VO-420(Advantec製)に入れ、オーバーコート層4が上になる状態で100℃、30分加熱した。
【0153】
加熱途中、ガラス窓から透明導電フィルム積層体の凹凸形状を観察した。加熱終了後、オーバーコート層4が上になる状態で水平な面上に試験片を置き、素早くカール値を定規で計測した。これを加熱中のカール値とした。さらに室温で30分放冷し、カール値を定規で計測した。これを放冷後のカール値とした。
【0154】
図7(a)、(b)には、カール値の測定方法の説明図が示される。図7(a)が、透明導電フィルム積層体が凸にカールする場合であり、図7(b)が、透明導電フィルム積層体が凹にカールする場合である。いずれの場合にも、透明導電フィルム積層体を置いた水平面Hsから最も高い透明導電フィルム積層体の点の高さhmaxを測定し、カール値とした。
【0155】
その結果を表1に示す。表中「フラット」とはカール値が5mm以下であることを意味し、「凸」または「凹」はカール値が5mm超であることを意味する。また、「凸」は透明導電フィルム積層体の中央部が端部に対してオーバーコート層4側に突出した状態であり、「凹」は透明導電フィルム積層体の中央部が端部に対してキャリアフィルム1側に突出した状態である。
【0156】
【表1】
【0157】
実施例1~3、実施例6~8、実施例10~12の透明導電フィルム積層体では加熱中に生じるカール値および放冷後のカール値がともに5mm以下であり(評価◎)、また、実施例4、5、9では、加熱中のカール値は10~20mmであったが、放冷後は5mmより小さく(1mm未満)なった(評価○)。従って、実施例1~12のいずれの場合も、ロール搬送や後工程に障害とならない程度まで変形を抑制することができた。加えて、実施例11、12に示されるとおり、透明樹脂フィルムの両方の主面に透明導電層3を有する場合でも、変形を抑制可能であることが示された。
【0158】
一方、比較例1~3の透明導電フィルム積層体では加熱中に30mm以上の凹方向のカールが発生し、ロール搬送や後工程が不可能なほどの変形が生じた(評価×)。さらに、放冷後も15mmと大きな凹方向のカールが残存した。粘着剤層が加熱により硬化収縮し凹方向に変形したと考えられる。
【0159】
本発明ではキャリアフィルムとしてポリカーボネートフィルムが表面の平坦性が高い非晶性シクロオレフィン系樹脂フィルムに対して自己粘着性を有するため、表面にマット加工等の自己粘着性を阻害する表面処理がされていない限り粘着剤層なしで剥離可能に積層できることを見出し、この特性を利用している。表1中の評価の「◎」「〇」「×」の判断基準は、加熱中のカール値が5mm以下かつ放冷後のカール値が1mm以下を「◎」、加熱中のカール値が25mm以下かつ放冷後のカール値が10mm以下を「〇」、加熱中のカール値が25mm超および/または放冷後のカール値が10mm超の場合を「×」とした。
【符号の説明】
【0160】
1 キャリアフィルム、2 透明樹脂フィルム、3 透明導電層、4 オーバーコート層、10 透明導電フィルム、20 透明導電フィルム。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7