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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
F04C18/02 311K
F04C18/02 311B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019060976
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159314
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小池 慎治
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 友哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓巳
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-080376(JP,A)
【文献】特開2010-096059(JP,A)
【文献】特開2007-211702(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106401952(CN,A)
【文献】特開2004-144045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに対して回転可能に支持される回転軸と、
固定基板、及び前記固定基板から立設された固定渦巻壁を有するとともに前記ハウジングに固定される固定スクロールと、
前記固定基板と対向する可動基板、及び前記可動基板から前記固定基板に向けて立設されるとともに前記固定渦巻壁と噛み合う可動渦巻壁を有し、前記固定スクロールに対して公転運動可能な可動スクロールと、
前記回転軸の回転軸線に対して偏心した位置から前記可動スクロールに向けて突出するとともに前記可動スクロールを支持する偏心軸と、
前記可動基板に対して前記固定基板とは反対側に対向配置される対向壁と、
前記可動基板と前記対向壁との間に介在されるとともに前記可動スクロールを前記固定スクロールに向けて付勢する環状の弾性プレートと、
前記対向壁における前記弾性プレートと対向する対向面に形成されるとともに前記弾性プレートを支持する環状の支持部と、
前記対向面における前記支持部よりも前記回転軸の径方向外側に形成される環状の環溝と、
前記可動基板における前記環溝と前記回転軸の軸線方向で重なる部位から突出するとともに前記弾性プレートに当接する円環状の突条と、
前記ハウジング内における前記支持部よりも前記回転軸の径方向内側に位置する第1背圧空間、及び前記可動基板と前記弾性プレートとの間における前記突条よりも前記回転軸の径方向内側に位置するとともに前記第1背圧空間に連通する第2背圧空間を有し、前記可動スクロールを前記固定スクロールに向けて付勢するための流体が導入される背圧室と、
前記対向面における前記回転軸の周方向の一部分に形成されるとともに前記支持部を乗り越えて前記第1背圧空間と前記環溝とを連通し、前記第1背圧空間内の流体を前記環溝に供給する背圧供給溝と、を備えたスクロール型圧縮機であって、
前記回転軸の回転軸線から前記背圧供給溝における前記回転軸の径方向外側の端部までの前記回転軸の径方向での距離は、前記偏心軸の軸線から前記突条における前記弾性プレートとの当接部位までの前記回転軸の径方向での距離から前記回転軸の径方向における前記回転軸の回転軸線と前記偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離以下であることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記対向面には、前記背圧供給溝が複数形成されており、
前記複数の背圧供給溝は、前記回転軸の周方向で等間隔置きに配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記可動スクロールには、前記可動基板及び前記可動渦巻壁を貫通し、一端が前記背圧室に開口する背圧導入通路が形成されており、
前記背圧導入通路は、流体を圧縮する圧縮室と前記背圧室とを連通し、前記圧縮室内で圧縮された流体を前記圧縮室から前記背圧室に導入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記対向壁には、前記対向面から突出するとともに前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構を構成するピンが複数設けられており、
前記複数のピンは、前記回転軸の周方向で等間隔置きに配置されており、
前記背圧供給溝は、前記回転軸の周方向で隣り合うピン同士の間であって、前記隣り合うピンそれぞれに対して前記回転軸の周方向で同じ距離となる位置に配置されていることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記回転軸の回転軸線から前記背圧供給溝における前記回転軸の径方向外側の端部までの前記回転軸の径方向での距離は、前記偏心軸の軸線から前記突条における前記弾性プレートとの当接部位までの前記回転軸の径方向での距離から前記回転軸の径方向における前記回転軸の回転軸線と前記偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離と同じであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、特許文献1のスクロール型圧縮機100のハウジング101内には、回転軸102が収容されている。回転軸102は、ハウジング101に対して回転可能に支持されている。また、スクロール型圧縮機100は、ハウジング101に固定される固定スクロール103と、固定スクロール103に対して公転運動可能な可動スクロール104と、を備えている。
【0003】
固定スクロール103は、固定基板103a、及び固定基板103aから立設された固定渦巻壁103bを有している。可動スクロール104は、固定基板103aと対向する可動基板104a、及び可動基板104aから固定基板103aに向けて立設されるとともに固定渦巻壁103bと噛み合う可動渦巻壁104bを有している。そして、固定基板103a及び固定渦巻壁103bと可動基板104a及び可動渦巻壁104bとによって圧縮室105が区画されている。可動スクロール104は、回転軸102の回転軸線L100に対して偏心した位置から可動スクロール104に向けて突出する偏心軸106に支持されている。
【0004】
スクロール型圧縮機100では、回転軸102が回転することによって偏心軸106が回転軸102の回転軸線L100を回動中心として回動し、可動スクロール104は、自転が阻止された状態で回転軸102の回転軸線L100周りで公転運動する。そして、可動スクロール104における固定スクロール103に対する公転運動に基づいて圧縮室105の容積が減少することで、圧縮室105に吸入された流体が圧縮される。
【0005】
また、特許文献1のスクロール型圧縮機100は、可動スクロール104を固定スクロール103に向けて付勢する環状の弾性プレート107を備えている。スクロール型圧縮機100は、可動基板104aに対して固定基板103aとは反対側に対向配置されるとともに回転軸102が挿通される対向壁108を備えている。そして、弾性プレート107は、可動基板104aと対向壁108との間に介在されている。
【0006】
図5及び図6に示すように、対向壁108における弾性プレート107と対向する対向面108aには、弾性プレート107を支持する環状の支持部109が形成されている。また、対向面108aにおける支持部109よりも回転軸102の径方向外側には、環状の環溝110が形成されている。さらに、可動基板104aにおける環溝110と回転軸102の軸線方向で重なる部位には、弾性プレート107に当接する円環状の突条111が突出している。
【0007】
図5に示すように、ハウジング101内には、可動スクロール104を固定スクロール103に向けて付勢するための流体が導入される背圧室112が形成されている。背圧室112は、ハウジング101内における支持部109よりも回転軸102の径方向内側に位置する第1背圧空間112a、及び可動基板104aと弾性プレート107との間における突条111よりも回転軸102の径方向内側に位置するとともに第1背圧空間112aに連通する第2背圧空間112bを有している。そして、第1背圧空間112a内に供給される流体の圧力、及び第2背圧空間112b内に供給される流体の圧力によって可動スクロール104が固定スクロール103に向けて付勢される。これにより、可動渦巻壁104bの先端が固定基板103aに当接するとともに、固定渦巻壁103bの先端が可動基板104aに当接し、圧縮室105の密閉性が確保される。
【0008】
また、突条111が弾性プレート107に当接しながら、可動スクロール104が固定スクロール103に対して公転運動すると、弾性プレート107における可動基板104aとは反対側に向けて膨らむ弾性変形が環溝110によって許容される。そして、弾性プレート107が原形状に復帰しようとする復帰力が可動スクロール104の突条111に作用することで、可動スクロール104が固定スクロール103に向けて付勢される。これによれば、例えば、スクロール型圧縮機100の起動時のように、背圧室112内に導入される流体の圧力がまだ高まっていないときであっても、可動スクロール104が固定スクロール103に付勢されるため、圧縮室105の密閉性が高められる。
【0009】
図5及び図6に示すように、対向面108aにおける回転軸102の周方向の一部分には、支持部109を乗り越えて第1背圧空間112aと環溝110とを連通し、第1背圧空間112a内の流体を環溝110に供給する背圧供給溝114が形成されている。そして、第1背圧空間112a内の流体が背圧供給溝114を介して環溝110内の全周に亘って供給される。これにより、第2背圧空間112b内の圧力によって、弾性プレート107が環溝110内に向けて弾性変形することが、背圧供給溝114内の流体の圧力、及び環溝110内の流体の圧力によって抑制されている。そして、背圧供給溝114内の流体、及び環溝110内の全周に亘って供給された圧力によっても、弾性プレート107及び第2背圧空間112b内の圧力を介して可動スクロール104が固定スクロール103に向けて付勢される。その結果、可動スクロール104における固定スクロール103に対する付勢が安定し、圧縮室105の密閉性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-34506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、背圧供給溝114には、第1背圧空間112a内の流体が背圧供給溝114を介して環溝110内に供給される際に、第1背圧空間112a内からの流体が集中するため、背圧供給溝114内の圧力は、環溝110内の圧力に対して局所的に高くなっている。したがって、可動スクロール104が公転運動しているときの背圧供給溝114と可動スクロール104との位置関係によっては、背圧供給溝114内の流体の圧力によって弾性プレート107が局所的に変形してしまう虞がある。特に、例えば、流体としての冷媒を圧縮するスクロール型圧縮機100の起動時においては、液化した冷媒が背圧供給溝114内に流れ込む場合がある。このような場合は特に弾性プレート107が局所的に変形してしまう可能性が高い。弾性プレート107が局所的に変形すると、可動スクロール104が固定スクロール103に均一に付勢されず、圧縮室105の密閉性を損なったり、可動スクロール104と固定スクロール103との間に大きな摩擦力が生じ、効率を損なったりする問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、可動スクロールを固定スクロールに向けて付勢する弾性プレートが局所的に変形してしまうことを抑制することができるスクロール型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するスクロール型圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに対して回転可能に支持される回転軸と、固定基板、及び前記固定基板から立設された固定渦巻壁を有するとともに前記ハウジングに固定される固定スクロールと、前記固定基板と対向する可動基板、及び前記可動基板から前記固定基板に向けて立設されるとともに前記固定渦巻壁と噛み合う可動渦巻壁を有し、前記固定スクロールに対して公転運動可能な可動スクロールと、前記回転軸の回転軸線に対して偏心した位置から前記可動スクロールに向けて突出するとともに前記可動スクロールを支持する偏心軸と、前記可動基板に対して前記固定基板とは反対側に対向配置される対向壁と、前記可動基板と前記対向壁との間に介在されるとともに前記可動スクロールを前記固定スクロールに向けて付勢する環状の弾性プレートと、前記対向壁における前記弾性プレートと対向する対向面に形成されるとともに前記弾性プレートを支持する環状の支持部と、前記対向面における前記支持部よりも前記回転軸の径方向外側に形成される環状の環溝と、前記可動基板における前記環溝と前記回転軸の軸線方向で重なる部位から突出するとともに前記弾性プレートに当接する円環状の突条と、前記ハウジング内における前記支持部よりも前記回転軸の径方向内側に位置する第1背圧空間、及び前記可動基板と前記弾性プレートとの間における前記突条よりも前記回転軸の径方向内側に位置するとともに前記第1背圧空間に連通する第2背圧空間を有し、前記可動スクロールを前記固定スクロールに向けて付勢するための流体が導入される背圧室と、前記対向面における前記回転軸の周方向の一部分に形成されるとともに前記支持部を乗り越えて前記第1背圧空間と前記環溝とを連通し、前記第1背圧空間内の流体を前記環溝に供給する背圧供給溝と、を備えたスクロール型圧縮機であって、前記回転軸の回転軸線から前記背圧供給溝における前記回転軸の径方向外側の端部までの前記回転軸の径方向での距離は、前記偏心軸の軸線から前記突条における前記弾性プレートとの当接部位までの前記回転軸の径方向での距離から前記回転軸の径方向における前記回転軸の回転軸線と前記偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離以下である。
【0014】
ここで、偏心軸の軸線から突条における弾性プレートとの当接部位までの回転軸の径方向での距離から回転軸の径方向における回転軸の回転軸線と偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離を半径とした回転軸の回転軸線を中心とする仮想円を考える。この仮想円は、可動スクロールが回転軸の回転軸線周りで公転運動する際に、可動スクロールの突条における弾性プレートとの当接部位のうち、回転軸の回転軸線に対して最も近くに位置する部位が描く軌跡である。そこで、回転軸の回転軸線から背圧供給溝における回転軸の径方向外側の端部までの回転軸の径方向での距離を、偏心軸の軸線から突条における弾性プレートとの当接部位までの回転軸の径方向での距離から回転軸の径方向における回転軸の回転軸線と偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離以下に設定した。
【0015】
これによれば、背圧供給溝における回転軸の径方向外側の端部が、偏心軸の軸線から突条における弾性プレートとの当接部位までの回転軸の径方向での距離から回転軸の径方向における回転軸の回転軸線と偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離を半径とした回転軸の回転軸線を中心とする仮想円の内側に位置する。したがって、可動スクロールが公転運動している際に、背圧供給溝が、回転軸の軸線方向から見て、可動スクロールの突条における弾性プレートとの当接部位よりも回転軸の径方向外側にはみ出してしまうことが無く、第2背圧空間の内側に常に位置している。
【0016】
背圧供給溝には、第1背圧空間内の流体が背圧供給溝を介して環溝内に供給される際に、第1背圧空間内からの流体が集中するため、背圧供給溝内の圧力は、環溝内の圧力に対して局所的に高くなっているが、背圧供給溝内の圧力が弾性プレートに作用しても、第2背圧空間内の圧力によって弾性プレートの変形を抑制することができる。その結果、背圧供給溝の圧力によって、可動スクロールを固定スクロールに向けて付勢する弾性プレートが局所的に変形してしまうことを抑制することができる。
【0017】
上記スクロール型圧縮機において、前記対向面には、前記背圧供給溝が複数形成されており、前記複数の背圧供給溝は、前記回転軸の周方向で等間隔置きに配置されているとよい。
【0018】
これによれば、第1背圧空間内の流体が各背圧供給溝を介して環溝内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間内の圧力によって、弾性プレートが環溝内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができ、さらには、可動スクロールにおける固定スクロールに対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【0019】
上記スクロール型圧縮機において、前記可動スクロールには、前記可動基板及び前記可動渦巻壁を貫通し、一端が前記背圧室に開口する背圧導入通路が形成されており、前記背圧導入通路は、流体を圧縮する圧縮室と前記背圧室とを連通し、前記圧縮室内で圧縮された流体を前記圧縮室から前記背圧室に導入するとよい。
【0020】
圧縮室内で圧縮された流体は高圧であるため、圧縮室から背圧導入通路を介して背圧室内に導入された流体は高圧である。よって、第1背圧空間内から背圧供給溝内に流れる流体の圧力も高圧である。この場合において、背圧供給溝内の圧力が弾性プレートに作用しても、第2背圧空間内の圧力によって弾性プレートの変形を抑制することができる。
【0021】
上記スクロール型圧縮機において、前記対向壁には、前記対向面から突出するとともに前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構を構成するピンが複数設けられており、前記複数のピンは、前記回転軸の周方向で等間隔置きに配置されており、前記背圧供給溝は、前記回転軸の周方向で隣り合うピン同士の間であって、前記隣り合うピンそれぞれに対して前記回転軸の周方向で同じ距離となる位置に配置されているとよい。
【0022】
これによれば、例えば、背圧供給溝が、回転軸の周方向で隣り合うピンの一方に近い位置に配置されている場合に比べると、背圧供給溝から環溝内に供給される流体の流れがピンによって阻害されることが抑制される。したがって、第1背圧空間内の流体が背圧供給溝を介して環溝内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間内の圧力によって、弾性プレートが環溝内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができ、さらには、可動スクロールにおける固定スクロールに対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【0023】
上記スクロール型圧縮機において、前記回転軸の回転軸線から前記背圧供給溝における前記回転軸の径方向外側の端部までの前記回転軸の径方向での距離は、前記偏心軸の軸線から前記突条における前記弾性プレートとの当接部位までの前記回転軸の径方向での距離から前記回転軸の径方向における前記回転軸の回転軸線と前記偏心軸の軸線との間の距離を差し引いた距離と同じであるとよい。
【0024】
これによれば、背圧供給溝における回転軸の径方向での長さを極力長く確保することができる。したがって、第1背圧空間内の流体が背圧供給溝を介して環溝内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間内の圧力によって、弾性プレートが環溝内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができ、さらには、可動スクロールにおける固定スクロールに対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、可動スクロールを固定スクロールに向けて付勢する弾性プレートが局所的に変形してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態におけるスクロール型圧縮機を示す側断面図。
図2】スクロール型圧縮機の一部分を拡大して示す断面図。
図3】軸支ハウジングの平面図。
図4】別の実施形態における軸支ハウジングの平面図。
図5】従来例におけるスクロール型圧縮機の一部分を拡大して示す断面図。
図6】従来例における対向壁の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、スクロール型圧縮機を具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。なお、本実施形態のスクロール型圧縮機は、車両に搭載されるとともに車両空調装置に用いられる。
【0028】
図1に示すように、スクロール型圧縮機10は、筒状のハウジング11と、ハウジング11内に収容される回転軸12と、回転軸12が回転することにより流体である冷媒を圧縮する圧縮部13と、圧縮部13を駆動させる電動モータ14と、を備えている。
【0029】
ハウジング11は、有底筒状の吐出ハウジング15と、吐出ハウジング15に連結される有底筒状の軸支ハウジング20と、軸支ハウジング20に連結される有底筒状のモータハウジング40と、を有している。吐出ハウジング15、軸支ハウジング20、及びモータハウジング40は金属材料製であり、例えば、アルミニウム製である。
【0030】
吐出ハウジング15は、板状の底壁15aと、底壁15aの外周部から筒状に延びる周壁15bと、を有している。周壁15bの軸心が延びる方向は、回転軸12の回転軸線L1が延びる方向(軸線方向)に一致している。圧縮部13は、吐出ハウジング15内に収容されている。
【0031】
モータハウジング40は、板状の底壁40aと、底壁40aの外周部から筒状に延びる周壁40bと、を有している。モータハウジング40の周壁40bにおける底壁40aとは反対側の開口端縁40eと、吐出ハウジング15の周壁15bにおける底壁15aとは反対側の開口端縁15eとは回転軸12の軸線方向で向き合っている。吐出ハウジング15の周壁15bの軸心が延びる方向と、モータハウジング40の周壁40bの軸心が延びる方向とは一致している。
【0032】
モータハウジング40には、図示しない吸入口が形成されている。また、吐出ハウジング15には、図示しない吐出口が形成されている。吸入口には、図示しない外部冷媒回路の一端が接続されるとともに、吐出口には、外部冷媒回路の他端が接続されている。
【0033】
電動モータ14は、モータハウジング40内に収容されている。電動モータ14及び圧縮部13は、回転軸12の軸線方向に並んで配置されている。電動モータ14は、回転軸12と一体的に回転するロータ14aと、ロータ14aを取り囲む筒状のステータ14bと、を有している。ステータ14bは、モータハウジング40の周壁40bの内周面に固定される筒状のステータコア141bと、ステータコア141bに巻回されるコイル142bと、を有している。そして、図示しない駆動回路によって制御された電力がコイル142bに供給されることにより電動モータ14が駆動して、回転軸12がロータ14aと一体的に回転する。
【0034】
モータハウジング40の底壁40aの内面には、円筒状のボス部40cが突設されている。回転軸12における圧縮部13とは反対側の端部は、ボス部40c内に挿入されている。ボス部40cの内周面と回転軸12における圧縮部13とは反対側の端部の外周面との間には、転がり軸受40dが設けられている。そして、回転軸12における圧縮部13とは反対側の端部は、転がり軸受40dを介してモータハウジング40に回転可能に支持されている。
【0035】
圧縮部13は、固定スクロール16と、固定スクロール16に対向配置された可動スクロール17とを有している。固定スクロール16は、回転軸12の軸線方向において、可動スクロール17よりも吐出ハウジング15の底壁15a側に位置している。
【0036】
固定スクロール16は、円板状の固定基板16a、及び固定基板16aから底壁15aとは反対側に向けて立設された固定渦巻壁16bを有している。また、固定スクロール16は、固定基板16aの外周部から筒状に延びる固定外周壁16cを有している。固定外周壁16cは、固定渦巻壁16bを取り囲んでいる。さらに、固定スクロール16は、固定外周壁16cの端面の外周部から円筒状に延在する延在部16fを有している。固定スクロール16は、吐出ハウジング15に固定されている。
【0037】
可動スクロール17は、固定基板16aと対向する円板状の可動基板17a、及び可動基板17aから固定基板16aに向けて立設される可動渦巻壁17bを有している。可動基板17aは、固定スクロール16の延在部16fに内側に配置されている。可動基板17aの外径は、延在部16fの内径よりも小さい。可動渦巻壁17bは、固定スクロール16の固定外周壁16cの内側に配置されている。固定渦巻壁16bと可動渦巻壁17bとは、固定外周壁16cの内側で互いに噛み合わされている。固定渦巻壁16bの先端面は可動基板17aに接触しているとともに、可動渦巻壁17bの先端面は固定基板16aに接触している。そして、固定基板16a及び固定渦巻壁16bと、可動基板17a及び可動渦巻壁17bとによって圧縮室18が区画されている。圧縮室18は、冷媒を圧縮する。
【0038】
固定基板16aにおける可動スクロール17とは反対側の端面16eは、吐出ハウジング15の底壁15aの内底面15cに当接している。吐出ハウジング15の底壁15aの内底面15cには、第1吐出室形成凹部15dが形成されている。また、固定基板16aの端面16eには、第2吐出室形成凹部16dが形成されている。そして、第1吐出室形成凹部15d及び第2吐出室形成凹部16dにより吐出室19が形成されている。
【0039】
第2吐出室形成凹部16dの底面の中央部には、吐出ポート16hが形成されている。また、第2吐出室形成凹部16dの底面には、吐出ポート16hを開閉する弁機構16vが取り付けられている。そして、吐出室19には、圧縮部13により圧縮室18で圧縮された冷媒が、吐出ポート16hを介して吐出される。
【0040】
図2に示すように、可動基板17aにおける固定スクロール16とは反対側の端面17eには、円筒状のボス部17cが突設されている。ボス部17cの軸心が延びる方向は、回転軸12の軸線方向に一致している。また、可動基板17aの端面17eにおけるボス部17cの周囲には、円孔状の自転阻止凹部17hが複数形成されている。複数の自転阻止凹部17hは、回転軸12の周方向に所定の間隔をあけて配置されている。各自転阻止凹部17h内には円環状のリング部材17dが嵌着されている。また、可動基板17aは、円環状の突条17fを有している。突条17fは、可動基板17aの端面17eにおける複数の自転阻止凹部17hよりも回転軸12の径方向外側の部分から突出している。突条17fは、可動基板17aの端面17eの外周部から円筒状に突出している。突条17fは、ボス部17cの周囲を取り囲んでいる。
【0041】
軸支ハウジング20は、板状の底壁21と、底壁21の外周部から筒状に延びる周壁22と、を有している。周壁22の軸心が延びる方向は、回転軸12の軸線方向に一致している。また、軸支ハウジング20は、周壁22の外周面における底壁21とは反対側の端部から回転軸12の径方向外側に向けて延びる円環状のフランジ壁23を有している。
【0042】
フランジ壁23における底壁21側の端面23aは、回転軸12の径方向に延びる環状の第1面231a及び第2面232aを有している。第1面231aは、周壁22の外周面に連続するとともに周壁22の外周面における底壁21とは反対側の端部から回転軸12の径方向に延びている。第2面232aは、第1面231aよりも回転軸12の径方向外側であって、且つ第1面231aよりも底壁21から回転軸12の軸線方向で離間した位置に配置されている。第1面231aにおける回転軸12の径方向外側の外周縁と、第2面232aにおける回転軸12の径方向内側の内周縁とは、回転軸12の軸線方向に延びる環状の段差面233aによって連結されている。
【0043】
吐出ハウジング15の周壁15bの開口端縁15eは、軸支ハウジング20における底壁21とは反対側に位置する端面20aの外周部に接触しているとともに、モータハウジング40の周壁40bの開口端縁40eは、軸支ハウジング20のフランジ壁23の第2面232aに接触している。そして、軸支ハウジング20、モータハウジング40の底壁40a及び周壁40bによって、電動モータ14が収容されるモータ室40sが区画されている。モータ室40s内には、外部冷媒回路から吸入口を介して冷媒が吸入される。よって、モータ室40sは、吸入口から冷媒が吸入される吸入室であり、吸入圧領域である。
【0044】
周壁22は、大径凹部24及びベアリング収容凹部25を有している。また、底壁21は、シール部材収容凹部26及び挿通孔27を有している。大径凹部24の軸心、ベアリング収容凹部25の軸心、シール部材収容凹部26の軸心、及び挿通孔27の軸心は、回転軸12の回転軸線L1に一致している。大径凹部24は、軸支ハウジング20の端面20aに開口している。ベアリング収容凹部25は、大径凹部24の底面24aに形成されている。よって、大径凹部24とベアリング収容凹部25とは連通している。シール部材収容凹部26は、ベアリング収容凹部25の底面25aに形成されている。よって、ベアリング収容凹部25とシール部材収容凹部26とは連通している。挿通孔27は、シール部材収容凹部26の底面26aに形成されるとともに底壁21を貫通している。よって、シール部材収容凹部26と挿通孔27とは連通している。
【0045】
回転軸12における圧縮部13側の端部は、挿通孔27に挿通されるとともにシール部材収容凹部26及びベアリング収容凹部25を通過して大径凹部24内に突出している。回転軸12における圧縮部13側の端面12aは、大径凹部24内に位置している。ベアリング収容凹部25内には、ベアリング28が収容されている。ベアリング28は、回転軸12の外周面とベアリング収容凹部25の内周面との間に設けられている。ベアリング28は、転がり軸受である。そして、回転軸12における圧縮部13側の端部は、ベアリング28を介して軸支ハウジング20に回転可能に支持されている。したがって、回転軸12は、ハウジング11に対して回転可能に支持されている。
【0046】
回転軸12の端面12aには、回転軸12の回転軸線L1に対して偏心した位置から可動スクロール17に向けて突出する偏心軸29が一体形成されている。偏心軸29の軸線L2が延びる方向(軸線方向)は、回転軸12の軸線方向に一致している。偏心軸29は、ボス部17c内に挿入されている。
【0047】
偏心軸29の外周面には、バランスウェイト30が一体化されたブッシュ31が嵌合されている。バランスウェイト30は、ブッシュ31に一体形成されている。バランスウェイト30は、大径凹部24内に収容されている。可動スクロール17は、ブッシュ31及び転がり軸受32を介して偏心軸29と相対回転可能に偏心軸29に支持されている。したがって、偏心軸29は、可動スクロール17を支持する。
【0048】
軸支ハウジング20は、可動基板17aに対して固定基板16aとは反対側に対向配置される対向壁である。よって、本実施形態において、対向壁は、ハウジング11の一部である。
【0049】
可動基板17aの端面17eと軸支ハウジング20の端面20aとの間には、円環薄板状の弾性プレート50が介在されている。したがって、軸支ハウジング20の端面20aは、対向壁における弾性プレート50と対向する対向面として機能している。弾性プレート50は、ハウジング11内における可動スクロール17に対して固定スクロール16とは反対側に配置されている。弾性プレート50は、例えば、金属等の弾性変形可能な材料で形成されている。
【0050】
弾性プレート50の中央部には、円孔状の貫通孔50aが形成されている。また、弾性プレート50における貫通孔50aの周囲には、円孔状のピン挿入孔50bが複数形成されている。複数のピン挿入孔50bは、回転軸12の周方向で等間隔置きに配置されている。弾性プレート50は、弾性プレート50の外周縁50eが、固定スクロール16の延在部16fの端面と軸支ハウジング20の端面20aにおける外周部20eとによって挟み込まれることにより、可動基板17aの端面17eと軸支ハウジング20の端面20aとの間で位置決めされた状態で固定且つ支持されている。
【0051】
貫通孔50aの孔径は、可動スクロール17のボス部17cの外径よりも大きい。また、貫通孔50aの孔径は、大径凹部24の孔径と同じである。弾性プレート50は、貫通孔50aの軸心が大径凹部24の軸心と一致するように可動基板17aの端面17eと軸支ハウジング20の端面20aとの間に配置されている。貫通孔50aの内周縁は、大径凹部24の内周面と回転軸12の軸線方向で重なっている。
【0052】
図2及び図3に示すように、軸支ハウジング20の端面20aには、弾性プレート50を支持する円環状の支持部20fが形成されている。また、軸支ハウジング20の端面20aにおける支持部20fよりも回転軸12の径方向外側には、円環状の環溝20hが形成されている。環溝20hの内周側は支持部20fに連続している。
【0053】
軸支ハウジング20には、軸支ハウジング20の端面20aから突出するピン33が複数設けられている。複数のピン33は、回転軸12の周方向で等間隔置きに配置されている。本実施形態において、軸支ハウジング20の端面20aからは、6つのピン33が突出している。したがって、複数のピン33は、回転軸12の周方向に60度間隔置きに配置されている。各ピン33は、支持部20fと環溝20hとの境界部分を跨ぐように軸支ハウジング20に対して設けられている。各ピン33は、弾性プレート50の各ピン挿入孔50bを通過して各リング部材17d内にそれぞれ挿入されている。
【0054】
図2に示すように、回転軸12の回転は、偏心軸29、ブッシュ31、及び転がり軸受32を介して可動スクロール17に伝達され、可動スクロール17は自転する。そして、各ピン33と各リング部材17dの内周面とが接触することにより、可動スクロール17の自転が阻止されて、可動スクロール17の公転運動のみが許容される。よって、各ピン33及び各リング部材17dは、可動スクロール17の自転を阻止する自転阻止機構34を構成している。
【0055】
可動スクロール17は、可動渦巻壁17bが固定渦巻壁16bに接触しながら、自転が阻止された状態で回転軸12の回転軸線L1周りで公転運動する。よって、可動スクロール17は、固定スクロール16に対して公転運動可能である。そして、可動スクロール17における固定スクロール16に対する公転運動に基づいて圧縮室18の容積が減少することで、圧縮室18に吸入された冷媒が圧縮される。バランスウェイト30は、可動スクロール17が公転運動する際に可動スクロール17に作用する遠心力を相殺して、可動スクロール17のアンバランス量を低減する。
【0056】
ハウジング11内には、背圧室60が形成されている。背圧室60は、ハウジング11内における支持部20fよりも回転軸12の径方向内側に位置する第1背圧空間61、及び可動基板17aと弾性プレート50との間における突条17fよりも回転軸12の径方向内側に位置する第2背圧空間62を有している。第1背圧空間61は、可動基板17aの端面17eと、軸支ハウジング20の大径凹部24とによって区画されている。第2背圧空間62は、弾性プレート50の貫通孔50aを介して第1背圧空間61に連通している。背圧室60は、ハウジング11内における可動基板17aに対して固定基板16a側とは反対側の位置に形成されている。軸支ハウジング20は、可動基板17aと協働して背圧室60を区画している。また、軸支ハウジング20は、背圧室60とモータ室40sとを区画している。なお、第2背圧空間62は、自転阻止凹部17hの内部のみに留まらず突条17fの内周面にまで及んでいる。
【0057】
可動スクロール17には、可動基板17a及び可動渦巻壁17bの双方を貫通し、一端が背圧室60に開口する背圧導入通路63が形成されている。背圧導入通路63は、圧縮室18と背圧室60とを連通し、圧縮室18内で圧縮された冷媒を圧縮室18から背圧室60に導入する。背圧室60は、圧縮室18内の冷媒が背圧導入通路63を介して導入されるため、モータ室40sよりも高圧となっている。
【0058】
そして、背圧室60の第1背圧空間61内に供給される冷媒の圧力、及び第2背圧空間62内に供給される冷媒の圧力によって、可動渦巻壁17bの先端面が固定基板16aに押し付けられるように可動スクロール17が固定スクロール16に向けて付勢される。よって、背圧室60には、可動スクロール17を固定スクロール16に向けて付勢するための流体である冷媒が導入される。
【0059】
回転軸12には、背圧室60の第1背圧空間61と転がり軸受40dとを連通させる軸内通路12hが形成されている。軸内通路12hの一端は、回転軸12の端面12aに開口している。軸内通路12hの他端は、回転軸12の外周面のうち、転がり軸受40dに支持されている部分に開口している。軸内通路12hは、第1背圧空間61とモータ室40sとを連通している。
【0060】
シール部材収容凹部26内には、シール部材35が収容されている。シール部材35は、回転軸12の外周面とシール部材収容凹部26の内周面との間に設けられている。シール部材35は、回転軸12の外周面とシール部材収容凹部26の内周面との間をシールしている。よって、シール部材35は、シール部材収容凹部26及び挿通孔27を介した第1背圧空間61とモータ室40sとの間の冷媒の流れを抑制する。
【0061】
突条17fは、可動基板17aにおける環溝20hと回転軸12の軸線方向で重なる部位から突出するとともに、先端が弾性プレート50に当接している。弾性プレート50は、可動スクロール17の突条17fの先端が当接することにより可動スクロール17に押圧されて厚み方向に弾性変形する。可動スクロール17は、可動スクロール17の突条17fの先端が弾性プレート50に当接した状態を維持しながら、固定スクロール16に対して公転運動する。
【0062】
弾性プレート50は、突条17fが弾性プレート50に当接することにより、可動基板17aとは反対側に向けて膨らむように弾性変形する。環溝20hは、弾性プレート50の弾性変形を許容する。そして、弾性プレート50が原形状に復帰しようとする復帰力が可動スクロール17の突条17fに作用することで、可動スクロール17が固定スクロール16に向けて付勢される。したがって、弾性プレート50は、可動スクロール17を固定スクロール16に向けて付勢する。
【0063】
モータハウジング40の周壁40bの内周面の一部には、第1溝36が形成されている。第1溝36は、周壁40bの開口端に開口している。また、軸支ハウジング20のフランジ壁23の外周部には、第1溝36に連通する第1孔37が形成されている。第1孔37は、フランジ壁23を厚み方向に貫通する。さらに、吐出ハウジング15の周壁15bの内周面の一部には、第1孔37に連通する第2溝38が形成されている。また、固定スクロール16の固定外周壁16cには、固定外周壁16cを厚み方向に貫通する第2孔39が形成されている。第2孔39は、第2溝38に連通している。第2孔39は、圧縮室18における最外周部分に連通している。
【0064】
そして、モータ室40s内の冷媒は、第1溝36、第1孔37、第2溝38、及び第2孔39を通過して、圧縮室18における最外周部分に吸入される。圧縮室18における最外周部分に吸入された冷媒は、可動スクロール17の公転運動により圧縮室18で圧縮される。
【0065】
また、固定スクロール16の延在部16fの内側であって、且つ可動スクロール17の突条17fにおける弾性プレート50との当接部位よりも回転軸12の径方向外側の空間K1は、第2孔39からの冷媒が流れ込む吸入圧領域である。そして、可動スクロール17の突条17fの先端と弾性プレート50との当接によって、第2背圧空間62からの冷媒が、可動スクロール17の突条17fと弾性プレート50との間を介して空間K1へ流れ出ることが抑制されている。
【0066】
第2背圧空間62の一部分は、弾性プレート50を介して環溝20hと回転軸12の軸線方向で重なっている。空間K1の一部分は、弾性プレート50を介して環溝20hと回転軸12の軸線方向で重なっている。
【0067】
図2及び図3に示すように、軸支ハウジング20の端面20aにおける回転軸12の周方向の一部分には、支持部20fを乗り越えて第1背圧空間61と環溝20hとを連通する背圧供給溝64が複数形成されている。複数の背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で等間隔置きに配置されている。本実施形態において、軸支ハウジング20の端面20aには、3つの背圧供給溝64が形成されている。したがって、複数の背圧供給溝64は、回転軸12の周方向に120度間隔置きに配置されている。各背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で隣り合うピン33同士の間であって、隣り合うピン33それぞれに対して回転軸12の周方向で同じ距離となる位置に配置されている。各背圧供給溝64は、第1背圧空間61内の冷媒を環溝20hに供給する。
【0068】
回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64における回転軸12の径方向外側の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1は、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4以下である。具体的には、回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1は、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4よりも小さい。
【0069】
次に、本実施形態の作用について説明する。
圧縮室18内の冷媒が背圧導入通路63を介して背圧室60に導入され、第1背圧空間61内の冷媒の圧力、及び第2背圧空間62内の冷媒の圧力によって可動スクロール17が固定スクロール16に向けて付勢される。これにより、可動渦巻壁17bの先端面が固定基板16aに当接するとともに、固定渦巻壁16bの先端面が可動基板17aに当接し、圧縮室18の密閉性が確保される。
【0070】
また、突条17fが弾性プレート50に当接しながら、可動スクロール17が固定スクロール16に対して公転運動すると、弾性プレート50における可動基板17aとは反対側に向けて膨らむ弾性変形が環溝20hによって許容される。そして、弾性プレート50が原形状に復帰しようとする復帰力が可動スクロール17の突条17fに作用することで、可動スクロール17が固定スクロール16に向けて付勢される。よって、例えば、スクロール型圧縮機10の起動時のように、背圧室60内に導入される冷媒の圧力がまだ高まっていないときであっても、可動スクロール17が固定スクロール16に付勢されるため、圧縮室18の密閉性が高められる。
【0071】
第1背圧空間61内の流体は、各背圧供給溝64を介して環溝20h内の全周に亘って供給される。これにより、第2背圧空間62内の圧力によって、弾性プレート50が環溝20h内に向けて弾性変形することが、各背圧供給溝64内の冷媒の圧力、及び環溝20h内の冷媒の圧力によって抑制されている。そして、各背圧供給溝64内の冷媒、及び環溝20h内の全周に亘って供給された圧力によっても、弾性プレート50及び第2背圧空間62内の圧力を介して可動スクロール17が固定スクロール16に向けて付勢される。その結果、可動スクロール17における固定スクロール16に対する付勢が安定し、圧縮室18の密閉性が向上する。
【0072】
ここで、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4を半径とした回転軸12の回転軸線L1を中心とする仮想円C1を考える。この仮想円C1は、可動スクロール17が回転軸12の回転軸線L1周りで公転運動する際に、可動スクロール17の突条17fにおける弾性プレート50との当接部位のうち、回転軸12の回転軸線L1に対して最も近くに位置する部位が描く軌跡である。
【0073】
例えば、回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1が、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4よりも大きい場合を考える。この場合、各背圧供給溝64の端部64eは、仮想円C1の外側に位置する。したがって、可動スクロール17が公転運動している際に、各背圧供給溝64の端部64eが、回転軸12の軸線方向から見て、可動スクロール17の突条17fにおける弾性プレート50との当接部位よりも回転軸12の径方向外側にはみ出して、第2背圧空間62の外側に位置することになる。よって、各背圧供給溝64の端部64eは、可動スクロール17が公転運動している際に、弾性プレート50を介して空間K1と回転軸12の軸線方向で重なる。
【0074】
空間K1内の圧力は、吸入圧であるため、空間K1内の圧力は、各背圧供給溝64内の圧力よりも小さい。そして、各背圧供給溝64には、第1背圧空間61内の冷媒が各背圧供給溝64を介して環溝20h内に供給される際に、第1背圧空間61内からの冷媒が集中するため、各背圧供給溝64内の圧力は、環溝20h内の圧力に対して局所的に高くなっている。特に、スクロール型圧縮機10の起動時においては、冷媒が液化している場合があり、この液冷媒が、圧縮室18から背圧導入通路63を介して背圧室60内に導入されて、第1背圧空間61から各背圧供給溝64内に流れ込む場合がある。このような場合、空間K1内の圧力と各背圧供給溝64内の圧力との差が大きいため、弾性プレート50は、各背圧供給溝64内の圧力が弾性プレート50に作用することにより空間K1に向けて局所的に変形してしまう虞がある。
【0075】
そこで、回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1を、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4よりも小さくした。これによれば、各背圧供給溝64の端部64eは、仮想円C1の内側に位置する。したがって、可動スクロール17が公転運動している際に、各背圧供給溝64が、回転軸12の軸線方向から見て、可動スクロール17の突条17fにおける弾性プレート50との当接部位よりも回転軸12の径方向外側にはみ出してしまうことが無く、第2背圧空間62の内側に常に位置している。よって、各背圧供給溝64内の圧力が弾性プレート50に作用しても、第2背圧空間62内の圧力によって弾性プレート50の変形が抑制される。その結果、各背圧供給溝64の圧力によって、弾性プレート50が局所的に変形してしまうことが抑制されている。
【0076】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64における回転軸12の径方向外側の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1は、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4以下である。これによれば、可動スクロール17が公転運動している際に、各背圧供給溝64が、回転軸12の軸線方向から見て、可動スクロール17の突条17fにおける弾性プレート50との当接部位よりも回転軸12の径方向外側にはみ出してしまうことが無く、第2背圧空間62の内側に常に位置している。よって、各背圧供給溝64内の圧力が弾性プレート50に作用しても、第2背圧空間62内の圧力によって弾性プレート50の変形を抑制することができる。その結果、各背圧供給溝64の圧力によって、可動スクロール17を固定スクロール16に向けて付勢する弾性プレート50が局所的に変形してしまうことを抑制することができる。
【0077】
(2)複数の背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で等間隔置きに配置されている。これによれば、第1背圧空間61内の冷媒が各背圧供給溝64を介して環溝20h内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間62内の圧力によって、弾性プレート50が環溝20h内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができる。さらには、可動スクロール17における固定スクロール16に対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【0078】
(3)圧縮室18内で圧縮された冷媒は高圧であるため、圧縮室18から背圧導入通路63を介して背圧室60内に導入された冷媒は高圧である。よって、第1背圧空間61内から各背圧供給溝64内に流れる冷媒の圧力も高圧である。この場合において、各背圧供給溝64内の圧力が弾性プレート50に作用しても、第2背圧空間62内の圧力によって弾性プレート50の変形を抑制することができる。
【0079】
(4)各背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で隣り合うピン33同士の間であって、隣り合うピン33それぞれに対して回転軸12の周方向で同じ距離となる位置に配置されている。これによれば、例えば、各背圧供給溝64が、回転軸12の周方向で隣り合うピン33の一方に近い位置に配置されている場合に比べると、各背圧供給溝64から環溝20h内に供給される冷媒の流れがピン33によって阻害されることが抑制される。したがって、第1背圧空間61内の冷媒が各背圧供給溝64を介して環溝20h内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間62内の圧力によって、弾性プレート50が環溝20h内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができる。さらには、可動スクロール17における固定スクロール16に対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【0080】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0081】
図4に示すように、回転軸12の回転軸線L1から各背圧供給溝64における回転軸12の径方向外側の端部64eまでの回転軸12の径方向での距離R1が、偏心軸29の軸線L2から突条17fにおける弾性プレート50との当接部位までの回転軸12の径方向での距離R2から回転軸12の径方向における回転軸12の回転軸線L1と偏心軸29の軸線L2との間の距離R3を差し引いた距離R4と同じであってもよい。これによれば、各背圧供給溝64における回転軸12の径方向での長さを極力長く確保することができる。したがって、第1背圧空間61内の冷媒が各背圧供給溝64を介して環溝20h内の全周に亘ってスムーズに供給されるため、第2背圧空間62内の圧力によって、弾性プレート50が環溝20h内に向けて弾性変形することを抑制し易くすることができる。さらには、可動スクロール17における固定スクロール16に対する付勢をさらに安定させ易くすることができる。
【0082】
○ 実施形態において、複数の背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で等間隔置きに配置されていなくてもよい。
○ 実施形態において、背圧供給溝64の数は、一つであってもよい。また、背圧供給溝64の数は、二つであってもよいし、4つ以上であってもよい。要は、背圧供給溝64の数は特に限定されるものではない。
【0083】
○ 実施形態において、各背圧供給溝64は、回転軸12の周方向で隣り合うピン33同士の間であって、回転軸12の周方向で隣り合うピン33の一方に近い位置に配置されていてもよい。
【0084】
○ 実施形態において、スクロール型圧縮機10は、例えば、吐出室19に吐出された冷媒を、背圧室60内に導入する構成としてもよい。
○ 実施形態において、ピン33の数は、特に限定されるものではない。そして、ピン33の数に合わせて、ピン挿入孔50b及び自転阻止凹部17hの数を適宜変更してもよい。
【0085】
○ 実施形態において、可動基板17aに対して固定基板16aとは反対側に対向配置される対向壁が、ハウジング11の一部でなくてもよく、ハウジング11内に収容される部材であってもよい。
【0086】
○ 実施形態において、固定基板16aは、円板状でなくてもよく、固定基板16aの形状は特に限定されるものではない。
○ 実施形態において、可動基板17aは、円板状でなくてもよく、可動基板17aの形状は特に限定されるものではない。
【0087】
○ 実施形態において、弾性プレート50は、円環状でなくてもよく、弾性プレート50の形状は特に限定されるものではない。
○ 実施形態において、弾性プレート50は、弾性変形可能な材料であれば、その材質は特に限定されるものではない。
【0088】
○ 実施形態において、スクロール型圧縮機10は、電動モータ14によって駆動されるタイプでなくてもよく、例えば、車両のエンジンによって駆動されるタイプであってもよい。
【0089】
○ 実施形態において、スクロール型圧縮機10は、車両空調装置に用いられなくてもよく、その他の空調装置に用いられてもよい。例えば、スクロール型圧縮機10は、燃料電池車に搭載されており、燃料電池に供給される流体としての空気を圧縮部13により圧縮するものであってもよい。
【符号の説明】
【0090】
10…スクロール型圧縮機、11…ハウジング、12…回転軸、16…固定スクロール、16a…固定基板、16b…固定渦巻壁、17…可動スクロール、17a…可動基板、17b…可動渦巻壁、17f…突条、18…圧縮室、20…対向壁である軸支ハウジング、20a…対向面として機能する端面、20f…支持部、20h…環溝、29…偏心軸、33…ピン、34…自転阻止機構、50…弾性プレート、60…背圧室、61…第1背圧空間、62…第2背圧空間、63…背圧導入通路、64…背圧供給溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6